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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019657
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】超伝導回路用ダイポール素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/10 20230101AFI20240202BHJP
   G06F 7/38 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
H10N60/10 K ZAA
G06F7/38 610
G06F7/38 510
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023215450
(22)【出願日】2023-12-21
(62)【分割の表示】P 2020022932の分割
【原出願日】2020-02-14
(31)【優先権主張番号】16/751,982
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2019年3月3日 https://meetings.aps.org/Meeting/MAR19/Session/H62.4 〔刊行物等〕 2019年3月5日 アメリカ物理学会の発表スライド 〔刊行物等〕 2019年7月26日 http://cas.ensmp.fr/▲~▼leghtas/papers/Lescanne-al-arXiv_2019b.pdf
(71)【出願人】
【識別番号】509025832
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】520053751
【氏名又は名称】エコール ナシオナル シュペリウール デ ミネス ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ECOLE NATIONALE SUPERIEURE DES MINES DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】516114422
【氏名又は名称】アソシアシオン・プール・ラ・ルシェルシェ・エ・ル・デヴロップマン・デ・メトード・エ・プロセシュス・アンデュストリエル・(ア・エル・エム・イ・エヌ・ウ・エス)
(71)【出願人】
【識別番号】509098124
【氏名又は名称】エコール ノーマル シュペリウール
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】レスカンヌ,ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】レグタス,ザキ
(57)【要約】
【課題】超伝導マイクロ波量子回路で使用するための超伝導ダイポール素子を提供する。
【解決手段】本発明は、超伝導マイクロ波量子回路用の誘導性ダイポール素子に関する。ダイポール素子は、インダクタンスによってシャントされた一対のジョセフソン接合によって形成されたDC-SQUIDを含み、ジョセフソン接合は等しいエネルギーを有し、ジョセフソン接合およびインダクタンスは、接合の各々がインダクタンスとループを形成するように配置される。2つのループは、φext1=πかつφext2=0となるように、外部DC磁束φext1およびφext2によりそれぞれ非対称的に貫かれ、パラメトリックポンピングは、ダイポール素子を貫く全磁束φΣ=φext,1+φext,2を変調することにより可能になり、これにより、カーのような相互作用のないダイポール素子に関与するモード間での偶数波混合を可能にする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導マイクロ波量子回路用の誘導性ダイポール素子であって、前記ダイポール素子は、インダクタンスによってシャントされた一対のジョセフソン接合によって形成されたDC-SQUIDを含み、前記ジョセフソン接合は等しいエネルギーを有し、前記ジョセフソン接合および前記インダクタンスは、前記接合の各々が前記インダクタンスとループを形成するように配置され、前記2つのループは、φext1=πかつφext2=0となるように、外部DC磁束φext1およびφext2によりそれぞれ非対称的に貫かれ、パラメトリックポンピングは、前記ダイポール素子を貫く全磁束φΣ=φext,1+φext,2を変調することにより可能になり、これにより、カーのような相互作用のない前記ダイポール素子に関与するモード間での偶数波混合を可能にする、ダイポール素子。
【請求項2】
前記パラメトリックポンピングは、適切な変調位相および振幅でφΔ=φext,1-φext,2も変調することによってさらに可能になる、請求項1に記載のダイポール素子。
【請求項3】
前記外部DC磁束φext,1およびφext,2は、DC電流およびAC電流の両方が循環する超伝導ループに隣接する超伝導線を介して印加される、請求項1に記載のダイポール素子。
【請求項4】
前記超伝導線は前記ループのワイヤに直接接続される、請求項3に記載のダイポール素子。
【請求項5】
前記超伝導線は、1つの入力電流IΣが前記ダイポール素子の全磁束φΣ=φext,1+φext,2にバイアスをかけ、別の入力電流IΔが前記ダイポール素子の差分磁束φΔ=φext,1-φext,2にバイアスをかけるように配置され、前記パラメトリックポンピングは、IΣの振動成分によって生成される振動磁束によって送達される、請求項3に記載のダイポール素子。
【請求項6】
前記インダクタンスは、平坦なまたは粒状の超伝導材料で作られた超伝導ワイヤを含む、請求項1に記載のダイポール素子。
【請求項7】
前記インダクタンスは、互いに直列に接続されたジョセフソン接合のチェーンを含む、請求項1に記載のダイポール素子。
【請求項8】
前記接合エネルギーの自然な非対称性を説明するために、前記接合のうちの1つがDC-SQUIDに置き換えられる、請求項1に記載のダイポール素子。
【請求項9】
請求項1に記載のダイポール素子を含む超伝導マイクロ波量子回路であって、前記ダイポール素子は容量的にシャントされ、線形共振器に結合された非線形共振器を形成し、前記パラメトリックにポンピングされたダイポール素子によって提供される非線形相互作用は、前記線形共振器と前記非線形共振器との間で2対1の光子交換を生じさせる、超伝導マイクロ波量子回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、超伝導マイクロ波量子回路用の非線形混合素子に関する。より詳細には、本発明は、超伝導マイクロ波量子回路で使用するための超伝導ダイポール素子に関する。
【0002】
本発明の分野は、より詳細には、しかし非限定的には、超伝導回路ベースの量子技術の分野である。
【背景技術】
【0003】
電磁放射波は、真空や空気などの単純な媒体を伝わるので、通常は互いに相互作用しない。2つ以上の波を相互作用させるには、それらが何らかの非線形性に遭遇する必要がある。
【0004】
例えば、非線形光学の分野では、特定の結晶を使用して、2次高調波生成と呼ばれるプロセスにより入射する放射の周波数を2倍にする。この変換は、レーザーの大きな電磁場によって影響を及ぼされた結晶内で電子が受けるわずかに非線形のポテンシャルエネルギーから生じる。
【0005】
マイクロ波領域では、このような相互作用も可能である。例えば、周波数ミキサーは2つの入力周波数を取得し、それらの和と差を出力する。この変換を実行するために、それらは非線形電子部品であるダイオードとトランジスタを含む慎重に設計された回路に依存している。
【0006】
量子の世界では、電磁放射は個々の光子によって運ばれる。波動混合は、全体のエネルギーを保存する必要があるという制約のもとで、多数の入射光子を破壊していくつかの新しい光子を生成するプロセスである。例えば、2次高調波生成では、変換メカニズムは周波数ωの2つの光子を破壊し、周波数2ωの1つの光子を生成する。この変換は3つの光子を含むため、3波混合プロセスと呼ばれる。また、入力エネルギーが
【数1】
であり、出力エネルギーが
【数2】
であるので、エネルギーが保存される。
【0007】
所望のダイナミクスでエネルギーが保存されない場合(これらの相互作用は非共振とも呼ばれる)、パラメトリックポンピングの技法が使用される。例として、周波数ωの光子を破壊し、周波数ωの光子を生成するプロセスでは、2つの周波数ωとωとの間の変換(ω<ω)を考慮することができる。これは2波混合プロセスであるが、共振しない。このダイナミクスのエネルギーを保存するには、代わりに、失われるエネルギーを提供する周波数ω=ω-ωのポンプと呼ばれる第3の電磁トーンを追加することにより、3波混合プロセスを使用する必要がある。これらの種類の関係は、周波数一致条件とも呼ばれる。この新しいプロセスは、周波数ωの1つの光子とポンプの1つの光子を破壊して、周波数ωの1つの光子を生成し、全体として望ましい変換ダイナミクスを導く。さらに、ポンプトーンの振幅を大きくすることにより、変換率が向上する。
【0008】
超伝導回路は、マイクロ波光子を操作し、量子レベルでこのような混合ダイナミクスを実験するための優れた物理的プラットフォームである。超伝導により、回路に非常に小さな散逸がもたらされ、その結果、マイクロ波光子をトラップして相互作用を強化するために使用される長寿命の電磁モードが得られる。混合能力は、損失のない非線形素子であるジョセフソン接合によって提供される。それは2つの超伝導リードを分離する薄い絶縁層で構成されている。
【0009】
従来の電気回路と同じように、超伝導回路は、キャパシタ、インダクタ、およびジョセフソン接合を配置して、信号の増幅や周波数変換などの特定のダイナミクスを調整することにより設計される。超伝導回路の別の焦点は、エネルギーレベル構造が原子のそれに似ている高度に非調和的なモードを実現することである。したがって、量子情報は、量子ビットを形成する2つの特定のアドレス指定可能なエネルギーレベルに符号化することができる。
【0010】
より定量的にするために、システムの混合能力は、ハミルトニアンの共振非線形項によって与えられる。例えば、前述の変換プロセスは、
【数3】
を書き込み、これは、1つの光子がそれぞれ消滅演算子pとaによりポンプモードと「a」モードの両方で破壊され、1つの光子がレートgで生成演算子bにより「b」モードで生成されることを示す。3つの演算子が使用されるため、これは3波混合ハミルトニアンである。すべてのプロセスはハミルトニアンレベルで可逆であるため、逆プロセス項
【数4】
も存在する。
【0011】
超伝導回路では、これらの項はジョセフソン接合エネルギーEcos(φ)から生じ、ここで、Eは製造中に調整できる接合のジョセフソンエネルギーであり、φはその電圧差の時間積分である接合間の位相差である。ジョセフソン接合はφの1次では誘導素子とみなすことができ、そのエネルギーはインダクタEφ/2のエネルギーに似ており、ここでEはインダクタのエネルギーである。
【0012】
消滅演算子a,・・・,aで表されるn個のモードをホストする回路では、位相φは
と分解でき、ここで、係数φはモードiが接合間の位相差にどの程度影響するかに関連する。φが大きいほど、接合に関与するモードiが多くなると言われる。テイラー展開Ecos(φ)により、偶数波混合のみが生じる。
【0013】
そのため、
【数5】
という形式の項はハミルトニアンには現れない。しかし、接合のエネルギーは、磁束が貫くループ内に接合を配置することで調整可能である。このように、接合によってもたらされる一般的なエネルギーは、
【数6】
を書き込み、ここで、
【数7】
は回路のループを貫く外部磁束に関連する。ここで、テイラー展開には偶数と奇数の混合項が含まれる場合がある。
【0014】
超伝導回路による波動混合の課題は、特定のアプリケーションでは通常1つの混合項が望ましいのに対し、接合コサインポテンシャルの展開により過剰な項が生じることである。パラメトリックポンピングを使用する場合、ポンプ周波数を調整することにより、周波数一致条件を使用してこれらの項のいくつかを選択できる。それにもかかわらず、周波数一致条件が常に検証され、非共振にできない項が存在する。これらは、それぞれ形式a +2 およびa のカー項またはクロスカー項、あるいは同じ方法で生成されたすべてのより高い偶数次の項である。これらの項の第1の効果は、モードの周波数が移入されたときにシフトすることである。しかし、これらには、工学プロセスのダイナミックレンジの制限や量子状態の変形などの有害な効果もある。また、非線形相互作用を高めるためにポンプ出力を上げると、システムが不安定になる可能性がある。
【0015】
超伝導回路による波動混合の特性の改善は、現在進行中の研究テーマである。例えば、Sivak et al.,Phys.Rev.Applied 11,054060(2019)は、カー項なしで3波混合(およびより一般的には奇数波混合)を可能にするSNAIL(超伝導非線形非対称誘導素子)と呼ばれる新しいダイポールを提案した。
【0016】
本発明の目的は、従来技術の欠点を克服する超伝導回路用のダイポール素子を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Sivak et al.,Phys.Rev.Applied 11,054060(2019)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一態様によれば、超伝導マイクロ波量子回路用の誘導性ダイポール素子が提供され、ダイポール素子は、インダクタンスによってシャントされた一対のジョセフソン接合によって形成されたDC-SQUID(超伝導量子干渉デバイス)を含み、ジョセフソン接合は等しいエネルギーを有し、ジョセフソン接合およびインダクタンスは、接合の各々がインダクタンスとループを形成するように配置される。ループは、φext1-φext2=φext1+φext2=πになるように、それぞれ外部静的(DC)磁束φext1およびφext2により非対称に貫かれて、φext1=πかつφext2=0になり、したがって、その名称は非対称に貫かれたSQUID(ATS)である。パラメトリックポンピングは、ATSを貫くグローバル磁束を変調することにより可能になる。このポンピングにより、カーのような項がなく、ダイポールに関与するモード間で偶数波混合が可能になる。これらの後者の項は、パラメトリックポンピングアプリケーションに寄生的であるが、ATS対称性のおかげで相殺される。
【0019】
一実施形態では、インダクタンスは、平坦なまたは粒状の超伝導材料で作られた超伝導ワイヤを含む。したがって、実施形態は、1つの代替的な構成のダイポール素子を提供する。
【0020】
別の実施形態では、インダクタンスは、互いに直列に接続されたジョセフソン接合のセットを含む。したがって、この実施形態は、別の代替的構成のダイポール素子を提供する。
【0021】
一実施形態では、外部DC磁束は、DC電流とAC電流の両方が循環する超伝導線によって印加され、Iはφext1を誘起し、Iはφext2を誘起し、超伝導線は超伝導ループに隣接する。
【0022】
別の実施形態では、超伝導線はループのワイヤに直接誘導的に接続される。したがって、超伝導バイアス線は、ループと相互インダクタンスを共有するだけでなく、直接接続されることでループワイヤと実インダクタンスを共有する。
【0023】
別の実施形態では、超伝導線は、1つの入力電流IΣがダイポール素子の全磁束φΣ=φext,1+φext,2にバイアスをかけ、別の入力電流IΔがダイポール素子の差分磁束φΔ=φext,1-φext,2にバイアスをかけるように配置される。
【0024】
一実施形態では、パラメトリックポンピングは、振動電流IΣによって生成される振動磁束によって送達される。したがって、実施形態は、ポンプをダイポール素子のグローバル磁束に結合するための実用的な方法を提供する。
【0025】
別の実施形態では、高次効果をキャンセルするように選択された適切な変調位相および振幅でφΔ=φext,1-φext,2も変調することにより、パラメトリックポンピング能力を改善することができる。
【0026】
一実施形態では、接合エネルギーの自然な非対称性を説明するために、接合のうちの1つがDC-SQUIDに置き換えられる。
【0027】
本発明の別の態様によれば、本明細書に開示する実施形態によるダイポール素子を含む超伝導マイクロ波量子回路が提供される。ダイポール素子は容量的にシャントされ、周波数ωで共振電磁モードを形成する。バッファと呼ばれるこの非線形モードは、ストレージと呼ばれる周波数ωの線形共振器に容量結合される。周波数ω=2ω-ωでポンピングされると、ATSは、形式
【数8】
のストレージとバッファとの間の2対1の光子変換相互作用を仲介する。この相互作用は、ストレージ共振器内の猫状態を安定化するために活用され、最終的に安定化された量子ビットを形成する。したがって、実施形態は、ダイポール素子を実装する特定の方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明の他の利点および特徴は、その例示的な実施形態の以下の詳細な説明を参照することにより、および添付の図面から明らかになるであろう。
図1a】ジョセフソン接合を含む誘導性ダイポールの例を模式的に示す図である。
図1b】ジョセフソン接合を含む誘導性ダイポールの例を模式的に示す図である。
図1c】ジョセフソン接合を含む誘導性ダイポールの例を模式的に示す図である。
図1d】ジョセフソン接合を含む誘導性ダイポールの例を模式的に示す図である。
図1e】本発明の例示的な実施形態によるダイポール素子を概略的に示す図である。
図2】本発明の例示的な実施形態による非対称に貫かれたDC-SQUIDの光学画像を示す図である。
図3】本発明の例示的な実施形態による実際の実装におけるATSダイポールの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に記載される実施形態は、決して限定的ではないことが十分に理解される。本発明の変形例は、この特性の選択が技術的利点を付与するかまたは先行技術の状態に関して本発明を差別化するのに十分である場合、以下に説明する特性の選択のみを含む他の特性から分離して考えることができる。この選択は、構造的詳細なしで、または構造的詳細の一部のみが、技術的利点を付与するか、または先行技術の状態に関して本発明を区別するのに十分な場合には、この構造的詳細の一部のみを含む、少なくとも1つの、好ましくは機能的な特徴を含む。
【0030】
特に、技術的な観点からこの組み合わせに異議がない場合、記載されたすべての変形例およびすべての実施形態を一緒に組み合わせることができる。
【0031】
図面では、いくつかの図面に共通する要素は同じ符号を保持している。
【0032】
図1aから図1eは、ジョセフソン接合を使用したいくつかの非線形誘導性ダイポールを表している。ダイポールの位相差はφで示され、電圧の時間積分に対応する。
【0033】
図1aは、エネルギーEcos(φ)を有する単純な接合を示しており、ここで、Eはジョセフソン接合エネルギー、φは接合間の位相差である。
【0034】
図1bは、エネルギー2Ecos(φext)cos(φ)を有するDC-SQUIDを表しており、外部磁束φextは、電流源から電力が供給されるコイルによって提供される。DC-SQUIDは、調整可能なエネルギーE⇔2Ecos(φext)を有する単一のジョセフソン接合としてみることができる。
【0035】
図1cはRF-SQUIDに対応し、図1dはSNAIL素子を表す。両方の素子には、外部磁束をループに通すための磁束バイアス回路(電流源とコイル)が必要である。
【0036】
図1eは、本発明の一実施形態によるダイポール素子の構成の概略図である。
【0037】
ダイポール素子、または図1eに示す非対称に貫かれたSQUID(ATS)は、並列に配置されループを形成する一対のジョセフソン接合2、3を含む。示された例によれば、ダイポールは対称的であり、これは、ジョセフソン接合2、3が同じジョセフソンエネルギーを有することを意味する。
【0038】
ダイポール素子のループ5は、インダクタンス4で中央がシャントされている(電気的に並列に結合されている)。したがって、インダクタンス4は、それぞれがジョセフソン接合2、3を含む2つのループの範囲を定める。したがって、本明細書に開示する実施形態によるダイポールは、ジョセフソン接合2、3およびインダクタンス4によって形成される2つのループ6、8を含む。
【0039】
別の実施形態によれば、インダクタンス4は、ジョセフソン接合のチェーン、平坦な超伝導線または粒状アルミニウムで作られたもの、または本発明のダイポールを用いた実装に適した他の誘導性デバイスによって構成されてもよい。
【0040】
ダイポール素子は、第1のループ6を貫く磁束φext,1と第2のループ8を貫く磁束φext,2のDC磁場によってバイアスされる。バイアスがφext,1=πかつφext,2=0のような場合、ダイポールはEφ/2+2EsinφΣsinφの形式のエネルギーを有し、ここで、φΣはATSを貫く全磁束の小さな偏差である。ポンプがφΣ=φ(p+p)となるようにφΣに結合すると、ダイポールエネルギーの展開には偶数項しかないが、カー形式の項はない。最終的に、ポンプ周波数を調整することで、所望の混合項を選択することができる。このダイポールにより、任意の偶数波混合プロセスを設計することができ、波の1つはポンプである。ATSのもう1つの利点は、無限の可能性があるため、パラメトリックポンピングに適していることである。
【0041】
中央のインダクタンス4、Eφ/2によって提供される無制限の電位により、システムが強力にポンピングされたときにシステムが高エネルギー状態に逃げることが防止される。この特性により、本明細書で開示される実施形態によるATSは、結合電磁モードの量子状態を安定化して長寿命量子ビットを形成するなど、敏感なパラメトリックポンピングタスクに使用できるようになる。
【0042】
したがって、本発明の実施形態によるATSダイポールは、対称性によってこれらの項を相殺することにより、カー非線形性の存在下で生じ得る問題を回避する。
【0043】
重要なことは、本発明によれば、ダイポール素子とパラメトリックポンピングがATS対称性を維持することである。特に、避けられない製造の不正確さから生じる接合のエネルギーの小さな非対称性は、寄生カー非線形性をもたらす。
【0044】
この非対称性を補償するために、接合2、3の少なくとも1つを、それ自体をSQUIDに置き換えることにより、磁束を調整可能にすることができる。
【0045】
一実施形態では、コイル7、9によって表される2つの隣接する超伝導線により、回路を磁束バイアスすることが可能になる。電流IおよびIがこれらの線を流れると、外部磁束φext,1およびφext,2がそれぞれATSの2つのループを貫く。電流源には、ATSの動作点を設定するDC成分と、所望の混合プロセスを共振させるポンプ周波数のAC成分の両方がある。変調の対称性は、電流IとIの2つのAC成分の相対的な振幅と位相を制御することで実現される。前の段落で書かれたダイポールのエネルギーを考慮すると、理想的な変調は、ATSの全磁束φΣ=φext,1+φext,2のみに対処する。実際には、差分磁束φΔ=φext,1-φext,2も変調することにより、いくつかの補正を行う必要がある。これらの補正は、ポンプトーンによるダイポールの直接駆動を補償するために必要である。
【0046】
代替的な実施形態では、超伝導バイアス線は、標準の相互インダクタンス等価回路の相互インダクタンスの代わりに、ループと実インダクタンスを共有する。
【0047】
別の実施形態では、実用性のために、バイアス線は、電流源IΣおよびIΔが全磁束φΣおよび差分磁束φΔに直接対処するように配置される(図2を参照)。全磁束に結合される超伝導線は、マイクロ波ポンプをATSに伝達するために使用され、ポンピングパラメータとして機能する振動する全磁束を生成する(補正にのみ必要なφΔとは反対)。
【0048】
この実施形態によれば、変調の対称性は、ポンプがφΣのみに対処することを可能にするオンチップハイブリッド(等分割伝送線)を有することにより達成される。
【0049】
図2は、本発明の例示的な実施形態による非対称に貫かれたDC-SQUIDの光学画像を示す。電磁ダイポールはオンチップで製造され、超伝導回路内に配置される(一部を表示)。図2の実施形態では、それぞれがジョセフソン接合2、3を含む2つのループを分離するシャントインダクタンス4は、5つのジョセフソン接合のチェーンまたはアレイで形成される(SQUIDを形成する同一のジョセフソン接合2、3のペア間の中央にある5つの十字で表される)。左右の磁束線10、11は、オンチップハイブリッド(図示せず)を介して同じ入力に接続されている。線にはマイクロ波周波数ポンプとDC電流IΣが流れており、両方のループに全磁束φΣが貫いている。画像の下部にある磁束線12は電流IΔを運び、各ループを磁束±φΔで貫く。これらの2つの制御を組み合わせると、ATSはπ/0非対称DC動作点でバイアスされ、これは、φext1-φext2=φext1+φext2=πであることを意味し、φext1,2はそれぞれ2つのループを貫く外部磁束である。ATSは、周波数ωの振動磁束で磁束φΣを変調することにより動作する。
【0050】
本明細書に開示する実施形態によるATSを実装する超伝導量子回路の構成例は、図3に示されている。ATSは、4波混合相互作用を実現する回路に実装されてもよく、波の1つはポンプトーンであり、その周波数は相互作用を共振させるように選択される。特に、ATSは、2つのマイクロ波共振器間の2対1の光子交換相互作用を設計するために実装することができる。
【0051】
図3を参照すると、ATSダイポールは容量性デバイス13でシャントされ、共振モード20を形成する。バッファと呼ばれるこの非線形共振器20は、LC回路(インダクタンス15、キャパシタ16)によってモデル化されるストレージモードと呼ばれる線形共振器30に容量結合14される。
【0052】
ATSは、周波数ω=2ω-ωでポンピングされ、ここで、ωは、それぞれストレージ共振器30とバッファ共振器20の周波数である。このパラメトリックポンピングは、2つのモード間の2対1の光子交換相互作用を仲介する。ストレージモードとバッファモードはGHz帯で共振する。
【0053】
このような交換相互作用は、量子コンピューティングおよび量子エラー訂正に向かうアプリケーションで非常に重要である。例えば、相互作用は、猫量子ビットと呼ばれる新しいタイプの量子ビットの安定化に使用できる。猫量子ビットは、量子情報の保護と安定化を可能にする、ハードウェア効率の高い量子エラー訂正の有望な候補である。
【0054】
本明細書に開示する実施形態によるダイポールは、マイクロ波光検出用途または量子ビット間の論理演算の実現のために実装されてもよい。
【0055】
本発明を多数の実施形態に関連して説明してきたが、適用可能な分野の当業者には多くの代替例、修正例、および変形例が明らかであることは明白である。したがって、本発明の趣旨および範囲内にあるそのようなすべての代替例、修正例、均等例、および変形例を包含することが意図されている。
【符号の説明】
【0056】
2 ジョセフソン接合
3 ジョセフソン接合
4 インダクタンス
5 ループ
6 第1のループ
7 コイル
8 第2のループ
9 コイル
10 磁束線
11 磁束線
12 磁束線
13 容量性デバイス
14 容量結合
15 インダクタンス
16 キャパシタ
20 バッファ共振器、非線形共振器
30 ストレージ共振器、線形共振器
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-01-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導性ダイポール素子を含む超伝導マイクロ波量子回路であって、前記ダイポール素子は、インダクタンスによってシャントされた一対のジョセフソン接合によって形成されたDC-SQUIDを含み、前記ジョセフソン接合および前記インダクタンスは、前記ジョセフソン接合の各々が前記インダクタンスとループを形成するように配置され、それにより前記インダクタンスが2つのループの範囲を定めている、前記超伝導マイクロ波量子回路。
【請求項2】
前記回路が、
前記ループに隣接する超伝導線と
前記超伝導線を通して電流を循環するように、そしてそれにより外部磁束φ ext,1 およびφ ext,2 を前記ループを通してそれぞれ非対称的に貫くように構成された電流源と
を含む、請求項1に記載の回路。
【請求項3】
前記電流源が、DCおよびAC成分の両方を有する超伝導線において電流を循環するように構成されている、請求項2に記載の回路。
【請求項4】
前記電流源および超伝導線が、前記ループを通して外部磁束φ ext,1 =πかつφ ext,2 =0を貫くことにより、DC成分によりATSの動作点を設定するように構成されている、請求項3に記載の回路。
【請求項5】
前記回路が、線形共振器を含み、前記ダイポール素子が、容量的にシャントされ、線形共振器に結合された非線形共振器を形成し、そして前記電流源が、ポンプ周波数において前記AC成分により前記ダイポール素子をパラメトリックにポンピングして、前記線形共振器と前記非線形共振器との間で非線形相互作用を生じさせるように構成されている、請求項3に記載の回路。
【請求項6】
前記線形共振器が第1共振周波数ω を有し、前記非線形共振器が第2共振周波数ω を有し、前記ポンプ周波数ω が、前記第1共振周波数の2倍から前記第2共振周波数を引いた差ω =2ω -ω に等しく、そして前記非線形相互作用が2対1の光子交換である、請求項5に記載の回路。
【請求項7】
前記電流源および超伝導線が、φ Δ が1つのループを貫き、そして-φ Δ が別のループを貫くように、1つの入力電流I Σ が両方のループに全磁束φ Σ でバイアスをかけ、そして別の入力電流I Δ が両方のループに差分磁束でバイアスをかけるように配置される、請求項2に記載の回路。
【請求項8】
前記超伝導線が、
オンチップ・ハイブリッドまたは分割伝送線を介して同じ電流源に接続された一対の超電導線であって、前記一対の超電導線は、入力電流I Σ を通電しそして全磁束φ Σ で両方のループにバイアスをかけるように構成されている、一対の超電導線路、および
φ Δ が1つのループを貫きそして-φ Δ が別のループを貫くように、入力電流I Δ を通電しそして差分磁束で両方のループにバイアスをかけるように構成された超電導線路
を含む、請求項7に記載の回路。
【請求項9】
前記電流源および超伝導線が、磁束φ ext,1 =πかつφ ext,2 =0がそれぞれ前記ループに貫かれるように、全磁束と差分磁束とを組み合わせることによりATSの動作点を設定するように構成されている、請求項7に記載の回路。
【請求項10】
前記回路が、線形共振器をさらに備え、前記ダイポール素子は、容量的にシャントされ、線形共振器に結合された非線形共振器を形成し、そして、前記電流源は、全磁束φ Σ を変調するように入力電流I Σ を発振することによって、ポンプ周波数で前記ダイポール素子をパラメトリックにポンピングするように、そしてそれによって、前記線形共振器と前記非線形共振器との間で非線形相互作用を生じさせるように構成されている、請求項7に記載の回路。
【請求項11】
前記線形共振器が第1共振周波数ω を有し、前記非線形共振器が第2共振周波数ω を有し、前記ポンプ周波数ω が、前記第1共振周波数の2倍から前記第2共振周波数を引いた差ω =2ω -ω に等しく、そして前記非線形相互作用が2対1の光子交換である、請求項10に記載の回路。
【請求項12】
前記電流源が、前記ダイポール素子をパラメトリックにポンピングしてカーのような相互作用のない前記ダイポール素子に関与するモード間での偶数波混合を可能にするように構成されている、請求項10に記載の回路。
【請求項13】
前記電流源はさらに、高次効果をキャンセルするように選択された適切な変調位相および振幅で差分磁束を変調することにより、前記ダイポール素子をパラメトリックにポンピングするように構成されている、請求項10に記載の回路。
【請求項14】
前記超伝導線は、前記ループのワイヤに直接接続される、請求項2に記載の回路。
【請求項15】
線形共振器をさらに備え、ダイポール素子が容量的にシャントされ、線形共振器に結合された非線形共振器を形成する、請求項1に記載の回路。
【請求項16】
前記線形共振器及び前記非線形共振器が、いずれもGHz帯で共振する、請求項15に記載の回路。
【請求項17】
前記インダクタンスは、平坦なまたは粒状の超伝導材料で作られた超伝導ワイヤを含む、請求項1に記載の回路。
【請求項18】
前記インダクタンスは、互いに直列に接続されたジョセフソン接合のチェーンを含む、請求項1に記載の回路。
【請求項19】
ジョセフソン接合の前記チェーンは、5つのジョセフソン接合を含む、請求項18に記載の回路。
【請求項20】
前記回路が、SQUIDをさらに含み、前記ジョセフソン接合の1つは、前記SQUIDによって含まれる、請求項1に記載の回路。
【請求項21】
前記回路が、猫量子ビットを安定化するように構成されている、請求項1に記載の回路。
【請求項22】
請求項1に記載の超伝導マイクロ波量子回路を含むマイクロ波光検出器。
【外国語明細書】