(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019686
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】中空突起具の製造方法及び中空突起具
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20240202BHJP
【FI】
A61M37/00 505
A61M37/00 514
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217439
(22)【出願日】2023-12-22
(62)【分割の表示】P 2020042490の分割
【原出願日】2020-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 智史
(72)【発明者】
【氏名】浜本 伸二
(72)【発明者】
【氏名】新津 貴利
(57)【要約】
【課題】微細な中空突起部に形成された貫通孔の周囲部が脆弱化することを抑制して強度を維持した中空突起具を提供する。
【解決手段】微細な中空突起部3に貫通孔3hを形成する開孔形成工程を備えた中空突起具1の製造方法であって、中空突起部3に対して、1回の照射で該中空突起部3を貫通孔3hの開孔径よりも小さい開孔径で貫通する出力のレーザー光線を、該中空突起部3の同一面の相互に近接する部位に複数回照射することで、貫通孔3hを形成する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な中空突起部に貫通孔を形成する開孔形成工程を備えた中空突起具の製造方法であって、
前記中空突起部に対して、1回の照射で該中空突起部を前記貫通孔の開孔径よりも小さい開孔径で貫通する出力のレーザー光線を、該中空突起部の同一面の相互に近接する部位に複数回照射することで、前記貫通孔を形成する、中空突起具の製造方法。
【請求項2】
前記レーザー光線を、三角形の頂点の軌跡を描くように複数回照射することにより、前記貫通孔を形成する、請求項1に記載の中空突起具の製造方法。
【請求項3】
前記レーザー光線の波長は、180nm以上20μm以下である、請求項1又は2に記載の中空突起具の製造方法。
【請求項4】
前記レーザー光線のパルス幅は、1fs以上10ms以下である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の中空突起具の製造方法。
【請求項5】
前記中空突起部に対して該中空突起部の外側から前記レーザー光線を複数回照射することにより、該中空突起部の内側に形成される開孔径に対して該中空突起部の外側に形成される開孔径が大きい前記貫通孔を形成する、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の中空突起具の製造方法。
【請求項6】
前記中空突起部の開孔予定位置は、厚み0.01mm以上0.7mm以下に形成されている、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の中空突起具の製造方法。
【請求項7】
前記中空突起部は、紫外線透過度60%以上95%以下の材質で形成されている、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の中空突起具の製造方法。
【請求項8】
前記中空突起部は、熱可塑性樹脂を含んだ材質で形成されている、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の中空突起具の製造方法。
【請求項9】
基材シートの一面側から突起部形成用の凸型部を刺入することで、該基材シートの他面側から突出する前記中空突起部を形成する突起部加工工程の後に、前記開孔形成工程を行うことで、前記貫通孔を形成する、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の中空突起具の製造方法。
【請求項10】
貫通孔を有する微細な中空突起部を備えた中空突起具であって、
請求項1ないし9のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された、中空突起具。
【請求項11】
前記貫通孔は、前記中空突起部に複数形成されている、請求項10に記載の中空突起具。
【請求項12】
前記貫通孔は、前記中空突起部の中心線に対し、線対称に形成されている、請求項11に記載の中空突起具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空突起具の製造方法及び中空突起具に関する。
【背景技術】
【0002】
微細なサイズの針に相当する中空突起部を皮膚に穿刺することで、皮膚に剤を供給するものとしてマイクロニードルアレイと称する中空突起具が知られている。例えば特許文献1ないし3には、中空突起部に対して、非接触式の開孔手段であるレーザー照射装置からレーザー光線を照射することで、貫通孔を形成する中空突起具の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-50927号公報
【特許文献2】国際公開第2015/125475号
【特許文献3】特開2011-72695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1ないし3に記載の技術では、レーザー光線で中空突起部に貫通孔を形成する際に、レーザー光線の熱の影響で貫通孔の周囲部が脆弱化することが考慮されておらず、中空突起部の強度の面で課題がある。
【0005】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する課題を解消し得る中空突起具の製造方法及び中空突起具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、微細な中空突起部に貫通孔を形成する開孔形成工程を備えた中空突起具の製造方法であって、前記中空突起部に対して、非接触式の開孔手段であるレーザー照射装置から、1回の照射で該中空突起部の開孔予定位置を貫通しない出力のレーザー光線を複数回照射することで、前記貫通孔を形成する、中空突起具の製造方法を提供するものである。
本発明は、微細な中空突起部に貫通孔を形成する開孔形成工程を備えた中空突起具の製造方法であって、前記中空突起部に対して、1回の照射で該中空突起部を前記貫通孔の開孔径よりも小さい開孔径で貫通する出力のレーザー光線を、該中空突起部の同一面の相互に近接する部位に複数回照射することで、前記貫通孔を形成する、中空突起具の製造方法を提供するものである。
本発明は、貫通孔を有する微細な中空突起部を備えた中空突起具であって、前記いずれかの製造方法によって製造された中空突起具を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、中空突起部への貫通孔形成時のレーザー光線の照射による熱影響が小さくなるので、貫通孔の周囲部が脆弱化することを抑制でき、中空突起部の強度が維持できるため、皮膚に穿刺する際の中空突起部変形を抑制し、皮膚に穿刺し易い中空突起具の提供が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の中空突起具の製造方法で製造される、貫通孔を有する微細な中空突起部が配列された中空突起具の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す複数の中空突起部の内の1個の中空突起部に着目した中空突起具の拡大斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す中空突起具を製造する好ましい一実施形態に用いる製造装置の全体構成を示す図である。
【
図5】
図5(a)~(e)は、
図4に示す製造装置を用いて貫通孔を有する微細な中空突起部を備えた中空突起具を製造する製造方法を説明する図である。
【
図6】
図6(a)~(d)は、本発明の第1の実施形態に斯かる貫通孔の形成工程を示す図である。
【
図7】
図7(a)は、第1の実施形態に斯かる製造方法で貫通孔が形成された中空突起部を照射側から見た拡大図、
図7(b)は貫通孔及び貫通孔の形成時に熱の影響を受けた周囲部の範囲を示す拡大図である。
【
図8】
図8(a)~(d)は、本発明の第2の実施形態に斯かる貫通孔の形成工程を示す図である。
【
図9】
図9(a)は、第2の実施形態に斯かる製造方法により貫通孔の開孔径よりも小径の開孔が複数形成された状態を照射側から見た拡大図、
図9(b)はレーザー光線の照射位置を三角形の頂点位置に移動して貫通孔を形成する工程を示す部分拡大図、
図9(c)は複数の貫通する開孔をオーバーラップさせて貫通孔を形成する工程を示す部分拡大図である。
【
図10】
図10(a)は、中空突起部の突出方向に複数の貫通孔が隣接配置された形態を説明する拡大図、
図10(b)は、複数の貫通孔が、線対称に形成された形態を示す拡大図である。
【
図11】
図11は、
図1に示す中空突起具を製造する他の実施形態の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を、その好ましい実施態様に基づき図面を参照しながら説明する。
本発明の製造方法は、内部が中空の中空突起具の製造方法である。
図1には、実施形態の微細な中空突起具の製造方法で製造される一実施形態の微細な中空突起具1の斜視図が示されている。中空突起具1は、平坦なシート状の基材である基底部2と、微細な複数の中空突起部3とを有している。中空突起部3の数、中空突起部3の配置及び中空突起部3の形状には、特に制限はないが、本実施形態の中空突起具1は、好適には、シート状の基底部2の上面に、9個の円錐台状の中空突起部3をアレイ(行列)状に有している。アレイ(行列)状に配された9個の中空突起部3は、後述する基材シート2Aを搬送する方向(基材シート2Aの縦方向)であるY方向に3行、搬送する方向と直交する方向及び搬送される基材シート2Aの横方向であるX方向に3列に配されている。
【0010】
図2は、中空突起具1の有する配列された中空突起部3の内の1個の中空突起部3に着目した中空突起具1の斜視図であり、
図3は、
図2に示すIII-III線断面図である。中空突起具1は、所謂マイクロニードルアレイであって、中空突起部3を例えば、皮膚に押し付けて穿刺することで、中空突起部3の内部に封入された剤を、貫通孔3hを介して皮膚の内部に供給するものである。マイクロニードルアレイは中空突起具1としての一例であり、中空突起具1がマイクロニードルアレイに限定されるものではない。
【0011】
中空突起具1は、
図2に示すように、中空突起部3に貫通孔3hを有している。中空突起具1は、
図3に示すように、基底部2における各中空突起部3に対応する位置に基底側開孔2hを有している。中空突起具1には、基底部2の基底側開孔2hから各中空突起部3の内部を通って先端側の貫通孔3hまで至る空間3kが形成されている。従って、貫通孔3hは、中空突起部3の外側から内部の空間3kまで貫通して形成されている。各中空突起部3の内部の空間3kは、中空突起部3の外形形状に対応した形状に形成されており、
図1に示す中空突起具1では、円錐状の中空突起部3の外形形状に対応した円錐状に形成されている。中空突起部3は、その外形形状が円錐状であるが、円錐状の形状以外に、円錐台状、円柱状、角柱状、角錐状、角錐台状等であってもよい。
【0012】
貫通孔3hは、
図2に示すように、中空突起部3の先端部の中心からずれた開孔予定位置に形成された開孔部である。このように貫通孔3hが中空突起部3の先端部の中心からずれた位置に形成されていると、中空突起部3を皮膚に穿刺する際に貫通孔3hが潰れ難く、貫通孔3hを通して皮膚の内部に中空突起具1から剤を安定的に供給することができる。
【0013】
各中空突起部3は、マイクロニードルとして使用するときに、中空突起部3の先端を最も浅いところでは皮膚の角層まで、該先端を深くは真皮まで刺入するため、その突出高さH1(
図3参照)を次のように本実施形態では規定している。突出高さH1は、好ましくは0.01mm以上、更に好ましくは0.02mm以上であり、そして、好ましくは10mm以下であり、更に好ましくは5mm以下であり、具体的には、好ましくは0.01mm以上10mm以下であり、更に好ましくは0.02mm以上5mm以下である。
【0014】
貫通孔3hは、
図7(b)に示すように、中空突起部3の内面31に内側に形成される開孔径r3の開孔面積S2よりも中空突起部3の外面32側に形成される開孔径r1の開孔面積S1の方が大きく形成されている。すなわち、貫通孔3hは、中空突起部3の内面31側の内径(開孔径)よりも中空突起部3の外面32側の内径(開孔径)の方が大きく形成されている。内面31側の内径(開孔径)とは、内面31に形成された貫通孔3hにおける最も広い位置での直径であり、該外面32側の内径とは外面32に形成された貫通孔3hにおける最も広い位置での直径である。
中空突起部3の貫通孔3hを通して皮膚の内部に剤を安定的に供給する観点から、貫通孔3hの内面31側の内径は、好ましくは1μm以上、更に好ましくは5μm以上であり、そして、好ましくは500μm以下であり、更に好ましくは300μm以下であり、具体的には、好ましくは1μm以上500μm以下であり、更に好ましくは5μm以上300μm以下である。
【0015】
中空突起部3の貫通孔3hを通して皮膚の内部に剤を安定的に供給する観点から、貫通孔3hの外面32側の内径は内面31側の内径と比べて、好ましくは1.1倍以上、更に好ましくは1.2倍以上であり、そして、好ましくは15倍以下であり、更に好ましくは10倍以下であり、具体的には、好ましくは1.1倍以上15倍以下であり、更に好ましくは1.2倍以上10倍以下である。中空突起部3の貫通孔3hを通して皮膚の内部に剤をより一層安定的に供給する観点から、貫通孔3hは、その内径が、中空突起部3の内面31側から外面32側に向かって漸次増大していることが好ましい。つまり、中空突起部3には、中空突起部3の外側からレーザー光線4Lを照射することにより、該中空突起部の内側に形成される開孔径に対して該中空突起部の外側に形成される開孔径が大きい貫通孔3hが形成されている。貫通孔3hの形状は、切頭円錐形状に形成されている。
【0016】
次に、本発明の中空突起具の製造方法を、前述した中空突起具1の製造方法を例にとり
図4、
図5を参照して説明する。
図4には、中空突起具1の製造方法の実施に用いる一実施形態の製造装置100の全体構成が示されている。上述したように、中空突起具1の各中空突起部3は非常に小さなものであるが、説明の便宜上、
図4においては中空突起具1の各中空突起部3が誇張して描かれている。
【0017】
製造装置100は、
図4に示すように、基材シート2Aに中空突起部3を形成するための凸型部11を備える突起部形成部10と、中空突起部3に貫通孔3hを形成するための非接触式の開孔手段を有する開孔形成部40とを備えている。本実施形態において、製造装置100は冷却部20を備えている。製造装置100は、基材シート2Aの一面2D側から凸型部11を刺入して、基材シート2Aの他面2U側から突出する非貫通の中空突起部3を形成し、その後、基材シート2Aの他面2U側から非貫通の中空突起部3に開孔手段により貫通孔3hを形成するようになっている。基底部2は、基材シート2Aから形成された中空突起具1における中空突起部3が形成されていない部位を示す。
【0018】
製造装置100を用いる中空突起具1の製造方法を詳述する。以下の説明では、基材シート2Aを搬送する方向をY方向、搬送する方向と直交する方向及び搬送される基材シート2Aの第2方向をX方向、搬送される基材シート2Aの厚み方向をZ方向として説明する。
製造装置100を用いる中空突起具1の製造方法では、先ず、
図4に示すように、基材シート2Aの原料ロールから帯状の基材シート2Aを繰り出し、搬送方向Yに搬送する。そして、基材シート2Aが所定位置まで送られたところで、基材シート2Aの搬送を止める。このように、中空突起具1の製造方法では、帯状の基材シート2Aの搬送を間欠的に行うようになっている。
【0019】
基材シート2Aは、製造される中空突起具1の有する基材となるシートであり、熱可塑性樹脂を含んでいる。基材シート2Aとしては、熱可塑性樹脂を主体とする、即ち熱可塑性樹脂を50質量%以上含むものであることが好ましく、熱可塑性樹脂を90質量%以上含むものであることが更に好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィンコポリマー、エチレン-プロピレンコポリマー等のポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸及び乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマー等のポリ乳酸系樹脂等のポリエステル樹脂;ナイロン6及びナイロン66等のポリアミド樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニル-エチレン共重合体及びポリスチレン等のビニル系ポリマー;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸及びポリメタクリル酸エステル等のアクリル系ポリマー;ポリカーボネート;ポリアミドイミド;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエテーテルエーテルケトンケトン等の芳香族ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルイミド;セルロース分子を化学修飾した変性セルロース等が挙げられる。尚、基材シート2Aは、熱可塑性樹脂以外に、ヒアルロン酸、コラーゲン、でんぷん、セルロース等を含んだ混合物で形成されていても良い。基材シート2Aの厚みは、中空突起具1の有する基底部2の厚みT2(
図3参照)と同等である。すなわち、前記中空突起部3は、熱可塑性樹脂を含んだ材質で形成されているのが好ましい。
【0020】
次いで、中空突起具1の製造方法では、
図4に示すように、帯状の基材シート2Aの一面2D側から突起部形成部10の備える凸型部11を刺入して、基材シート2Aの他面2U側から突出する微細な中空突起部3を形成する突起部形成工程を行う。
【0021】
突起部形成部10は、
図4に示すように、突起部形成用の凸型部11を備えている。凸型部11は、加熱手段(不図示)を設けていても設けていなくてもよいが、製造装置100では、加熱手段(不図示)を設けている。また製造装置100では、凸型部11の加熱手段以外に他の加熱手段を設けていなくともよい。本明細書で「凸型部11の加熱手段以外に他の加熱手段を設けていない」とは、他の加熱手段を一切排除する場合を指すだけではなく、基材シート2Aの軟化温度未満、又はガラス転移温度未満に加熱する手段を備える場合も含む意味である。但し、他の加熱手段を一切含まないことが好ましい。
【0022】
凸型部11とは、基材シート2Aに刺さる部分である凸型110を備えた部材のことであり、凸型部11は、製造装置100では、円盤状の土台部分の上に配された構造となっている。ただし、これに限られず凸型110のみからなる凸型部であってもよいし、複数の凸型110を台状支持体の上に配した凸型部11であってもよい。凸型部11は、製造する中空突起具1の中空突起部3の個数、配置、各中空突起部3の略外形形状に対応した凸型110を有しており、製造装置100では、9個の円錐状の中空突起部3に対応して、9個の円錐状の凸型110を有している。
【0023】
凸型110は、
図4に破線で示すように、9個の尖鋭な先端の円錐状に形成されており、その先端を厚み方向Zの上方に向けて配されている。凸型部11は、基材シート2Aの一面2D側(下面側)に該一面2Dから厚み方向Zの下方に一定の間隔を空けて配置されている。凸型部11は、電動アクチュエータ(不図示)によって、厚み方向Zの上下に移動可能となっている。凸型110は、凸型部11の凸型110の先端を基材シート2Aの一面2D側から当接可能に構成されている。
【0024】
凸型部11の加熱手段は、本実施形態では、超音波振動装置である。凸型部11の超音波振動の作動は、基材シート2Aに凸型部11が当接する直前から、次工程である後述する冷却工程に至る直前まで行われることが好ましい。凸型部11の動作、凸型部11の加熱手段の作動等の凸型部11の備える加熱手段の加熱条件の制御は、製造装置100に備えられた制御手段(不図示)により行われる。
【0025】
凸型部11の先端側の形状は、製造する中空突起具1の有する中空突起部3の外形形状に対応した形状となっていればよい。凸型部11の凸型110は、その高さが、製造される中空突起具1が有する中空突起部3の突出高さH1(
図3参照)と同じか或いは若干高く形成されている。
【0026】
突起部形成部10は、
図4に示すように、基材シート2Aの他面2U側(上面側)に撓み抑制手段としての第1開口プレート12Uを有し、基材シート2Aの一面2D側(下面側)に撓み抑制手段としての第2開口プレート12Dを有している。第1及び第2開口プレート12U,12Dは、搬送方向Yに平行に延在する板状部材から形成されている。第1及び第2開口プレート12U,12Dは、開口部12a以外の領域で基材シート2Aを挟持している。
【0027】
第1及び第2開口プレート12U,12Dは、1個の開口部12aに対して凸型部11における各凸型110が複数個挿通できるように、各凸型110の断面積よりも大きな開口面積で形成されていてもよいが、本実施形態では、
図4及び
図5に示すように、1個の開口部12aに対して1個の凸型110が挿通されるように形成されている。第1開口プレート12Uの開口部12aは、製造装置100では、第2開口プレート12Dの開口部12aと同心円上に配置されている。従って、基材シート2Aを挟持する一対の第1開口プレート12Uの開口部12a及び第2開口プレート12Dの開口部12aが厚み方向において重なっている。
【0028】
第1及び第2開口プレート12U,12Dは、基材シート2Aに当接する方向と離間する方向に移動可能となっている。製造装置100では、第1及び第2開口プレート12U,12Dは、電動アクチュエータ(不図示)によって、厚み方向Zの上下に移動可能となっている。第1及び第2開口プレート12U,12Dの動作の制御は、製造装置100に備えられた、制御手段(不図示)により行われる。
なお、本実施形態においては、第1開口プレート12U及び第2開口プレート12Dは、基材シート2Aに当接する方向と離間する方向に移動可能となっている。これらの内、第2開口プレート12Dは、基材シート2Aに当接する方向と離間する方向に移動可能となっていなくても良い。
【0029】
中空突起具1の製造方法では、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、第1開口プレート12Uと第2開口プレート12Dとで、基材シート2Aを挟持した状態で突起部形成工程を行うようになっている。突起部形成工程では、基材シート2Aの一面2D側から、第2開口プレート12Dの開口部12aに凸型110を通過させ、
図5(a)に示すように、超音波振動装置により各凸型110に超音波振動を予め発現させながら、次いで凸型部11を基材シート2Aの一面2Dに当接させる。これにより当接部分TPを軟化させる。そして、
図5(b)に示すように、当接部分TPを軟化させながら、基材シート2Aの一面2D側から他面2U側に向かって凸型110を上昇させて、基材シート2Aの他面2U側に配された第1開口プレート12Uで基材シート2Aの撓みを抑制しつつ、凸型110を基材シート2Aに刺入する。そして、基材シート2Aの他面2U側から突出する微細な非貫通の中空突起部3を形成する。
【0030】
凸型部11の加熱による基材シート2Aの加熱温度は、中空突起部3の形成の観点から、使用される基材シート2Aのガラス転移温度以上溶融温度未満であることが好ましく、特に軟化温度以上溶融温度未満であることが好ましい。なお、超音波振動装置を用いて基材シート2Aを加熱する場合においては、凸型110と接触した基材シート2Aの部分の温度範囲として適用される。一方、超音波振動装置の代わりに加熱ヒーター装置を用いて基材シート2Aを加熱する場合には、凸型部11の加熱温度を上述した範囲で調整すればよい。なお、ガラス転移温度(Tg)の測定方法は、公知の軟化温度の測定方法は、JIS K-7196「熱可塑性プラスチックフィルム及びシートの熱機械分析による軟化温度試験方法」に従って行えばよい。
【0031】
次いで、中空突起具1の製造方法では、
図4及び
図5(c)に示すように、冷却部20の備える冷風送風装置21を用いて、中空突起部3を冷却する冷却工程を行う。冷風送風装置21は、
図4に示すように、冷風送風する送風口22が基材シート2Aの他面2U側(上面側)に配されており、送風口22から冷風を吹き付けて非貫通の中空突起部3を冷却するようになっている。冷風送風装置は、搬送される帯状の基材シート2Aの他面2U側(上面側)及び一面2D側(下面側)の全体を中空状に覆い、冷風送風装置の内部を帯状の基材シート2Aが搬送方向(Y方向)に搬送されるようにし、中空内に、例えば、冷風送風する送風口22を設けるようにしてもよい。冷風送風装置21の冷却温度、冷却時間の制御は、製造装置100に備えられた、制御手段(不図示)により制御されている。
【0032】
中空突起具1の製造方法では、非貫通の中空突起部3の内部に凸型部11を刺入した状態で該非貫通の中空突起部3を冷却する冷却工程を行うようになっている。冷却工程では、電動アクチュエータ(不図示)による凸型部11の厚み方向(Z方向)の移動を停止し、凸型部11の凸型110を非貫通の中空突起部3の内部に刺し込んだ状態で、基材シート2Aの他面2U側(上面側)に配された送風口22から冷風を吹き付けて、非貫通の中空突起部3の内部に凸型110を刺入した状態のまま冷却する。
【0033】
製造装置100のように、凸型部11の加熱手段が超音波振動である場合には、冷風送風装置21を必ず備える必要はなく、超音波振動装置の振動を切ることにより、冷却することもできる。この点で、超音波振動を加熱手段として用いると、装置の簡便化とともに、高速での中空突起具1の製造が容易となるので好ましい。また、基材シート2Aの凸型部11と当接していない部分では、より熱が伝わりにくく、また、超音波振動付与のオフによって冷却が効率的に行われるので、成形部分以外の変形が生じにくいという長所がある。
【0034】
中空突起具1の製造方法では、冷却工程で非貫通の中空突起部3を冷却しながら、又は冷却工程終了後に、中空突起部3の開孔予定位置に貫通孔3hを形成する開孔形成工程を行うようになっているところ、
図4及び
図5に示す製造方法では、非貫通の中空突起部3を冷却しながら、開孔形成部40の備える非接触式の開孔手段を用いて、非貫通の中空突起部3の開孔予定位置にレーザーを照射し、該非貫通の中空突起部3に貫通孔である貫通孔3hを形成している。このように非貫通の中空突起部3を冷却しながら中空突起部3に貫通孔3hを形成すると、冷却工程と開孔形成工程が同時に行えるため製造時間を短縮することが可能となる。本実施形態において、開孔予定位置とは、レーザーが照射されて貫通孔3hが形成される中空突起部3の部位である。
【0035】
開孔形成部40は、基材シート2Aの他面2U側に非接触式の開孔手段を備えている。非接触式の開孔手段としては、レーザー照射装置4が用いられている。レーザー照射装置4は、
図4に示すように、レーザー光線4Lを自在に走査するガルバノスキャナである照射ヘッド41を有している。照射ヘッド41は、基材シート2Aの他面2U側(上面側)に該他面2Uから厚み方向Zの上方に一定の間隔を空けて配置されている。
このように基材シート2Aの他面2U側(上面側)に配された照射ヘッド41からレーザー光線4Lを非貫通の中空突起部3の開孔予定位置に照射して、中空突起部3に貫通孔3hを形成すると、中空突起部3の外面32における貫通孔3hの周囲にバリが形成され難い。また、中空突起部3の任意の位置に貫通孔3hを形成し易いため、液剤等を供給したい皮膚表面に対する位置を任意に制御し易い。
【0036】
照射ヘッド41は、
図4に示すように、照射されたレーザー光線4Lを集光するレンズ43及び集光した該レーザー光線4Lを自在に走査する2枚のミラー42及び保護レンズ44を有している。保護レンズ44は設けていても設けていなくても良いが、光学系への塵やほこりの進入を防止するため、設けている方が好ましい。ミラー42は、モータ軸に取り付けられている。ミラー42は、レーザー光線4Lが基材シート2A上の中空突起部3に当たる照射点を、基材シート2Aの搬送方向Yに移動させる機構、基材シート2Aの搬送する方向と直交する方向Xに移動させる機構を備え、レーザー光線4Lを自在に走査できるようになっている。レンズ43は、光軸方向に移動可能となっており、レーザー光線4Lを集光して、中空突起部3に当たるレーザー光線4Lの照射点のスポット径を一定にする機構、該レーザー光線4Lの照射点を基材シート2Aの厚み方向Z方向に移動させる機構等を備えている。ミラー42及びレンズ43を有する照射ヘッド41は、レーザー光線4Lの照射点をX方向、Y方向及びZ方向からなる3次元に調整できるようになっている。その為、9個の中空突起部3それぞれの照射したい位置(近接部位)を3次元に座標化することで、レーザー光線4Lを各中空突起部3の照射したい位置に所定のスポット径で照射することができる。
【0037】
中空突起具1の製造方法では、
図5(c)に示すように、非貫通の中空突起部3の内部に凸型部11を刺入した状態で、該中空突起部3を冷却しながら、該非貫通の中空突起部3に照射ヘッド41からレーザー光線4Lを照射して貫通孔3hを形成する。このように非貫通の中空突起部3の内部に凸型部11を刺入した状態でレーザー光線4Lを照射して貫通孔3hを形成すると、中空突起部3の内面31における貫通孔3hの周囲にばりが形成され難く、皮膚の内部に剤を安定的に供給できる。また、非貫通の中空突起部3の内部に凸型部11を刺入した状態でレーザー光線4Lを照射して貫通孔3hを形成すると、中空突起部3におけるレーザー光線4Lが照射された側の側壁とは反対側の側壁の内面31にダメージを与え難く、皮膚の内部に剤を安定的に供給できる。
【0038】
中空突起具1の製造方法では、
図5(d)に示すように、非貫通の中空突起部3の内部に凸型部11を刺した状態で、非貫通の中空突起部3に貫通孔3hを形成し、且つ中空突起部3の冷却を停止する。次いで、
図5(e)に示すように、貫通孔3hが形成された中空突起部3の内部から凸型部11を抜いて内部が中空の中空突起部3を形成するリリース工程を行う。冷却工程において凸型部11の超音波振動装置による超音波振動を継続している場合には、リリース工程において、超音波振動を停止することが好ましい。リリース工程では、電動アクチュエータ(不図示)によって、凸型部11を厚み方向(Z方向)の下方に移動させ、各中空突起部3の内部に凸型110を刺し込んだ状態から、凸型110を抜いて、内部が中空の中空突起部3を形成する。リリース工程では、中空突起部3の内部から凸型部11を抜く際に基材シート2Aの撓みを抑制する撓み抑制手段として第2開口プレート12Dを用いているので、凸型110を中空突起部3の内部から抜き易い。
【0039】
中空突起具1の製造方法では、9個の中空突起部3が基材シート2Aの他面2U(上面)に配列された中空突起具1の前駆体1Aが製造できる。中空突起具1の前駆体1Aが製造された後に、第1開口プレート12U及び第2開口プレート12Dを、基材シート2Aから離間させ、基材シート2Aを挟持状態から解放する。
【0040】
以上のように形成された中空突起具1の前駆体1Aは、その後、搬送方向Y下流側に搬送される。その後、カット工程にて、所定の範囲でカットされ、
図1に示すような、シート状の基底部2と複数の中空突起部3とを有する中空突起具1が製造できる。以上の工程を繰り返すことによって、中空突起具1を連続的に効率良く製造できる。
上述したように製造された中空突起具1は、その後の工程において更に所定の形状に形成されても良いし、凸型部11を刺し込む工程の前に所望の形状に基材シート2Aを予め調整しておいても良い。
【0041】
次に、レーザー照射装置4による貫通孔3hの形成工程について詳細に説明する。
前述した特許文献1-3に記載の技術では、複数ある中空突起部の内の1つの中空突起部に対し、一度の照射で貫通孔が形成可能な出力に調整されたレーザー光線4Lを照射している。これにより、中空突起部3の開孔予定位置となる側壁の一部には、一度に照射されたレーザー光線4Lの熱エネルギーで溶融して外面32から内面31まで貫通する貫通孔3hが形成される。また、レーザー光線4Lの照射位置も1つの中空突起部に対して1か所である。このため、照射されたレーザー光線4Lのエネルギーが一箇所に集中することから部分的な温度上昇が大きく、温度上昇に伴い、照射範囲の周囲に伝わる熱も多く、照射範囲の周囲部で熱による影響が大きくなる傾向となる。熱による影響とは、想定外の溶融による中空突起部3の貫通孔の周囲の薄肉化や熱変性である。このように、微細な中空突起部3にレーザー照射(レーザー加工)によって貫通孔3hを成型する場合、強度不足が懸念されている。
【0042】
すなわち、レーザー光線4Lの照射により開孔される側壁の部位は孔をあけるので溶融してもよいが、開孔しない部位が温度上昇にともない軟化したり溶融すると、中空突起部の厚さが薄くなったり、熱変性により脆くなって脆弱化する場合がある。このように一度の照射で形成された貫通孔3hを備えた中空突起具を皮膚に穿刺した場合、脆弱化による強度不足から中空突起部が破損するおそれがあり、中空突起部の強度の維持という面では課題を残している。また、特許文献1-3の技術では、貫通孔の形成時にレーザー光線4Lの照射回数を工夫して照射による中空突起部の脆弱化を抑制しつつも熱加工して貫通孔を形成するという技術的思想の記載は見受けられない。
【0043】
そこで、本発明者は、微細な中空突起部3に貫通孔3hを形成するに際し、レーザー光線4Lの照射の仕方に着目した。そして、貫通孔3hを形成する形成工程(加工する加工工程)において、中空突起部3の側壁の外面32に対してレーザー光線4Lを照射して徐々にその深度を深めて最終的には内面31まで貫通した貫通孔3hを形成する手法と、貫通孔3hよりも小径で中空突起部3の外面32から内面31まで貫通する開孔部を貫通孔3hよりも小径に形成し、各開孔部がつながって一体化することで、1つの貫通孔3hを形成する手法に至った。本明細書では、前者を第1の実施形態として説明し、後者を第2の実施形態として説明する。
【0044】
〔第1の実施形態〕
図6(a)~(d)は、第1の実施形態による貫通孔の形成工程を示す。第1の実施形態では、中空突起部3に対して、レーザー照射装置4から、1回の照射で中空突起部3の開孔予定位置となる側壁を貫通しない出力のレーザー光線4Lを複数回にわたって照射することで、貫通孔3hを形成する。
この場合、レーザー照射装置4から照射されるレーザー光線4Lのスポット径は、外面32において、設計上の貫通孔3hの開孔径となる寸法よりも幾分小さくされている。これはレーザー光線4Lの照射による熱によってスポット径よりも幾分広く中空突起部3が溶融するためである。複数回に分けて照射するに際し、スポット径は同一の径で照射してもよいし、最初は設計上の貫通孔3hの開孔径よりも小径のスポット径で照射し、最終的には設計上の貫通孔の開孔径相当のスポット径まで徐々に〔段階的に〕大きくなるようにスポット径を変更して照射するようにしてもよい。
【0045】
貫通孔3hが形成されるまでのレーザー光線4Lの照射回数は、基材シート2Aの材質や厚さ、レーザー光線4Lの波長〔種類〕応じて試験的に決めるのが好ましい。照射時の熱による影響を最小限にするという観点からは、例えば2~5回照射して貫通孔3hが形成されるようにレーザー照射装置4からのレーザー光線4Lの出力やスポット径を調整するのが好ましい。レーザー光線4Lを10回以上で照射して貫通孔3hを形成してもよいが、照射回数が多くなるほど、貫通孔3hが形成された中空突起部3を備えた中空突起具1であるマイクロニードルアレイを1つ製造するのに時間を要してしまい、生産性の面で好ましくない。このため、照射回数は数回程度に留めるのが好ましい。本実施形態では、
図6に示すように3回のレーザー光線4Lの照射で、貫通孔3hが形成されるように、レーザー照射装置4からのレーザー光線の出力とスポット径を調整している。
【0046】
貫通孔3hの形成に複数回のレーザー光線4Lの照射を行う場合、照射位置を同一位置とする方が、照射のたびに同一箇所が熱溶融して孔の深度を効率的に深められて、貫通(開孔)までの時間短縮を図れるので好ましい。
貫通孔3hを形成するレーザー光線4Lの出力については、貫通孔3hを形成する開孔予定位置(側壁)の材質が、一度のレーザー照射により貫通はしないが、溶融する程度の出力に設定するのが好ましい。例えば、3回のレーザー光線4Lの照射で貫通孔3hを形成することを想定した場合、
図6(a)に示す、中空突起部3の形成直後から、
図6(b)に示す1回目のレーザー照射で中空突起部3の側壁の厚さの1/3程度を溶融し、
図6(b)に示す2回目のレーザー照射で中空突起部3の側壁の厚さのさらに1/3程度を溶融し、
図6(d)に示すように3回目のレーザー照射によって外面32から内面31まで貫通した貫通孔3hを形成することができる(
図3参照)。
図7(a)は、貫通孔3hが形成された中空突起部3の1つを照射側から見た図を示し、
図7(b)は、中空突起部3に形成された貫通孔3hと、影響を受けた周囲部3gの範囲を示す拡大図である。
【0047】
このように、1回の照射では貫通孔3hが開かない出力で複数回、レーザー光線4Lを照射対象となる中空突起部3の側壁の外面32に照射することで、側壁の外面32から内面31に向かって段階的に側壁が溶融して貫通孔3hが形成される。このため、従来のように1回の照射で貫通孔を形成する場合に比べて、一照射当たりの中空突起部3に与える熱量を低減することができる。このことにより、レーザー光線4Lが照射されて貫通孔3hの形成された周囲部3gにおける、熱が影響することによる熱変性や、想定外に薄肉化する等の熱影響範囲を小さくできる。つまり、中空突起部3への貫通孔形成時のレーザー光線4Lの照射による熱影響が小さくなるので、貫通孔3hの周囲部3gが脆弱化することを抑制でき、強度を維持した中空突起具1の提供が可能である。
実施形態において、貫通孔3hの開孔径r1とは、
図7(b)に示すように、中空突起部3の突出方向である厚さ方向Zに対して直交する幅方向(X方向)における貫通孔3hの幅である。また、熱の影響を受ける範囲である周囲部(熱影響部)3gの径r2とは、幅方向(X方向)における熱の影響を受ける範囲である周囲部3gの幅である。本実施形態のように、レーザー光線4Lの照射回数を複数回にすることで、周囲部3gの径r2を従来構成に比べて小さくすることができる。
なお、レーザー照射によって貫通孔3hの周囲に形成される熱の影響を受けた周囲部3gの幅の測定においては、中空突起部3の熱の影響を受けていない外面32と比較して、貫通孔3hの周囲に存在する変色した部分、あるいは貫通孔3hの形状を切頭円錐形状とみなした場合の傾斜側面部を熱の影響により薄肉化した部分と定義し、切頭円錐形状の底面周囲を熱の影響を受けた周囲部3gとし、マイクロスコープや走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて周囲部3gの横幅を測定し、周囲部3gの径r2の値を求めることができる。
【0048】
〔第2の実施形態〕
図8(a)~(d)は、第2の実施形態による貫通孔3hの形成工程を示す。第2の実施形態では、中空突起部3に対して、1回の照射で貫通孔3hの開孔径r1よりも小さい開孔径で貫通する出力のレーザー光線4Lを、中空突起部3の同一面となる外面32に複数回照射することで、貫通孔3hを形成する。
この場合、レーザー照射装置4から照射されるレーザー光線4Lのスポット径は、中空突起部3の外面32において、設計上の貫通孔3hの開孔径の寸法よりも小さく、レーザー光線4Lの出力は1回の照射で外面32から内面31まで(側壁を)貫通する出力に設定されている。また、本実施形態において、レーザー光線4Lのスポット径は、照射回数を重ねる毎に径大となるようになっている。スポット径を大きくした場合、レーザー出力がスポット径変更前の出力のままであると、単位面積当たりの照射エネルギー量が低下して中空突起部3を貫通しないことが想定される。このため、本実施形態では、スポット径の径大に伴いレーザー出力を高めて確実に1回の照射で設計上の径よりも小さい開孔径で貫通可能としている。
【0049】
例えば、3回のレーザー光線4Lの照射で貫通孔3hを形成することを想定した場合、
図8(a)に示す、中空突起部3の形成直後から、
図8(b)に示す1回目のレーザー照射で中空突起部3の側壁に貫通孔3hよりも小径で貫通する開孔部301を形成し、
図8(c)に示す2回目のレーザー照射で、1回目のスポット径よりも大きく、高出力のレーザー光線4Lを開孔部301上に照射して開孔部301よりも径大で貫通する開孔部302を形成する。
図8(d)に示すように3回目のレーザー照射では、2回目スポット径よりも大きく、高出力のレーザー光線4Lを開孔部302上に照射して開孔部302よりも径大で貫通する開孔部303を形成する。本実施形態では、この開孔部303が
図9(a)に示す貫通孔3hとなる。
【0050】
第2の実施形態のように、設計上の寸法となる貫通孔3hよりも小径の開孔径の開孔を形成するレーザー光線4Lを複数回照射して貫通孔3hを形成する場合、中空突起部3の同一面の相互に近接する部位に複数回照射して貫通孔3hを形成してもよい。この場合、照射毎のレーザー光線の出力とスポット径はそれぞれ同一とし、照射位置だけを変更する。
例えば、3回、レーザー光線4Lを照射して貫通孔3hを形成する場合、
図9(b)に示すように、外面32において三角形(
図9(b)では、正三角形を表示)の頂点の軌跡を描くようにレーザー光線4Lを3回照射する。この場合、1回目のレーザー照射によって形成された開孔部301と、2回目のレーザー照射によって形成された開孔部302と、3回目のレーザー照射によって形成された開孔部303とは、相互に隣接して形成されるように照射位置を調整されている。図中符号Pは、スポット径P1の中心間距離を示す。
【0051】
このように1回の照射で中空突起部3を貫通するが、その直径は貫通孔3hよりも小さいレーザー光線4Lを外面32の同一面の相互に近接する部位に照射すると、各レーザー光線4Lの照射によって形成された開孔部301~303が熱によって溶けてつながる。このため、
図9(b)に破線で示すように、レーザー光線4Lのスポット径P1よりも大きい貫通孔3hがより熱影響少なく形成でき、貫通孔3hの周囲部3gが脆弱化することを抑制でき、強度を維持した中空突起具1の提供が可能である。
【0052】
1回の照射で中空突起部3を貫通するが、その直径は貫通孔3hよりも小さいレーザー光線4Lを複数回照射して貫通孔3hを形成する場合、
図9(c)に示すように、開孔部301、開孔部302、開孔部303の少なくとも2つ以上が互いにオーバーラップするようにレーザー光線4Lを照射することで、それらがつながり一体化して1つの貫通孔3hを形成しても良い。このようにしても、レーザー光線4Lのスポット径P1よりも大きい貫通孔3hがより熱影響少なく形成することができ、上記と同様の作用効果を奏する。
【0053】
第1及び第2の実施形態では、1つの中空突起部3に対し、1つの貫通孔3hを形成したが、貫通孔3hの数は、
図10(a),(b)に示すように、1つの中空突起部3に対し複数の貫通孔3hを形成する形態であってもよい。
図10(a)は、貫通孔3hが中空突起部3の突出方向(厚み方向Z)に2つ並んで形成された形態を示し、
図10(b)は、貫通孔3hが中空突起部3の先端部の中心を通る中心線CLに対して線対称となるように複数形成された形態を示す。
図10(b)では、中空突起部3の幅方向(X方向)に位置する部位である外面32に貫通孔3hがそれぞれ形成されている。
図10(a)に示すように突出方向(厚み方向Z)に貫通孔3hを複数形成する場合、例えば照射ヘッド41によりレーザー光線4Lの照射位置を、例えば照射ヘッド41を制御して突出方向(厚み方向Z)において変更することで形成することができる。
図10(b)に示すように、幅方向(X方向)に対してそれぞれ1つの貫通孔3hを形成する場合、一旦、全ての中空突起部3の片側に貫通孔3hを形成した後、中空突起具1の向きを180度回転して、レーザー照射装置4によってもう一方の側に貫通孔3hを形成すればよい。
このように貫通孔3hを複数形成することで、中空突起部3の空間3k内に収容される剤の供給速度を調整することができる。また、厚さ方向Zに貫通孔3hが複数形成されている場合、皮膚にマイクロアレイ(中空突起具1)を穿刺した際に異なる皮膚層に剤を供給することができる。
【0054】
貫通孔3hを形成するレーザー光線4Lとしては、中空突起部3に吸収され得るものを用いることが好ましい。中空突起部3を形成する基材シート2Aが、熱可塑性樹脂を主体とするフィルム等のシートである場合、レーザー光線4Lとしては、CO2レーザー、エキシマレーザー、アルゴンレーザー、YAGレーザー、LDレーザー(半導体レーザー)、YVO4レーザー、ファイバーレーザー等、UVレーザーを用いることが好ましい。
つまり、熱影響を減少することができる観点から、また、レーザー設備導入や取り扱い並びに生産性の観点から、レーザー光線4Lの波長は、180nm以上、好ましくは300nm以上、更に好ましくは350nm以上であり、そして、好ましくは20μm以下であり、更に好ましくは12μm以下であり、好ましくは180nm以上20μm以下であり、より好ましくは350nm以上12μm以下である。
【0055】
同様の観点から、レーザー光線4Lのパルス幅は、1fs以上、好ましくは100fs以上、更に好ましくは1000fs以上であり、10ms以下、好ましくは5ms以下、より好ましくは1ms以下であり、好ましくは1fs以上10ms以下であり、より好ましくは100fs以上5ms以下であり、更に好ましくは1000fs以上1ms以下、であるのが好ましい。
【0056】
中空突起部3の先端に貫通孔3hを形成してもよいが、中空突起部3の先端の強度、並びに鋭利な形状を維持して皮膚に穿刺し易くする観点から、貫通孔3hの形成工程では、非貫通の中空突起部3の先端部の中心からずれた位置にレーザー光線4Lを照射して貫通孔3hを形成し、中空突起部3の先端部にレーザー照射の影響を与えないことが好ましい。少ない照射エネルギーで中空突起部3の傾斜した側壁にレーザー光線4Lを照射して貫通孔3hを形成する観点と、レーザー光線4Lが照射される面積を小さくし、照射エネルギーの影響を抑えて形成された貫通孔3h周辺の強度を維持する観点から、また、隣接する中空突起部へのレーザー照射の影響を少なくする観点から貫通孔の形成工程では、
図5(c)に示すように、レーザー照射装置4の照射ヘッド41からレーザー光線4Lを凸型部11の凸型110の刺入方向ILeに対して傾斜する方向ILfから非貫通の中空突起部3に照射して貫通孔3hを形成することが好ましい。
【0057】
同様の観点から、凸型110の刺入方向ILeと、レーザー光線4Lを照射する傾斜する方向ILfとのなす角θは、5度以上であることが好ましく、10度以上であることが更に好ましく、15度以上であることが特に好ましく、そして、85度以下であることが好ましく、80度以下であることが更に好ましく、75度以下であることが特に好ましい。具体的には、5度以上85度以下であることが好ましく、10度以上80度以下であることが更に好ましく、15度以上75度以下であることが特に好ましい。
【0058】
中空突起部3へ貫通孔を形成し、且つ熱影響を減少することができる観点から、レーザー光線4Lの照射時間は、0.1ms以上であることが好ましく、0.5ms以上であることが更に好ましく、そして、100ms以下であることが好ましく、70ms以下であることが更に好ましく、具体的には、0.1ms以上100ms以下であることが好ましく、0.5ms以上70ms以下であることが更に好ましい。
【0059】
また、同様の観点から、レーザー光線4Lのレーザー出力は、0.5W以上であることが好ましく、1W以上であることが更に好ましく、そして、100W以下であることが好ましく、50W以下であることが更に好ましく、具体的には、0.5W以上100W以下であることが好ましく、1W以上50W以下であることが更に好ましい。
【0060】
中空突起部3の開孔予定位置の厚みは、少なくとも0.01mm以上、好ましくは0.02mm以上であり、0.7mm以下、好ましくは0.5mm以下であると、基材シート2Aの熱可塑性樹脂に対して複数回照射することにより、より顕著に熱影響を減少させることができ、且つ中空突起部3を皮膚に穿刺するための強度が得られるので望ましい。
【0061】
中空突起部3を形成する基材シート2Aに対してレーザー光線を照射したときの紫外線透過度は、60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上であり、95%以下、好ましくは90%以下であり、具体的には、60%以上95%以下、より好ましくは65%以上90%以下、更に好ましくは70%以上90%以下であるのが好ましい。すなわち、中空突起部3は、紫外線透過度60%以上95%以下の材質で形成されているのが好ましい。紫外線透過度がこの範囲であると、レーザーのエネルギーが中空突起部3に過度に伝わることによる熱影響を抑制し、精度よく加工ができる。
【0062】
前記実施形態において、熱可塑性樹脂を含んで形成された基材となるシート状の基底部2の一面側から、突起部形成用の凸型部11を刺入して、該基底部2の他面側から突出する非貫通の中空突起部3を形成する突起部加工工程の後に、中空突起部3に対して、レーザー光線4Lを複数回照射することによって貫通孔3hを形成することで、突起部加工工程の後に、連続で貫通孔3hを有する中空突起具1を形成することができる。
さらに言えば、貫通孔3hを有する微細な中空突起部3を備えた中空突起具1を前記の製造方法を用いて製造することで、強度を維持することができる。
【0063】
以上説明したように、中空突起具1を製造する製造装置100を用いた本実施態様の製造方法によれば、基材シート2Aの一面2D側から凸型部11を刺入して基材シート2Aの他面2U側から突出する微細な非貫通の中空突起部3を突起部形成工程で形成し、非穿孔形成された中空突起部3に、レーザー照射装置4からレーザー光線4Lを複数回にわたって照射することで貫通孔3hを形成する形成工程を備えるので、熱影響の大きさを最小限に抑えられ、強度を確保した中空突起具1を製造することができる。
【0064】
以上、本発明を、その好ましい本実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されるものではなく、適宜変更可能である。
例えば、前記の中空突起具1の製造方法では、非貫通の中空突起部3の内部に凸型部11を刺入した状態で、冷却工程で中空突起部3を冷却しながら、レーザー照射装置4を用いて中空突起部3に貫通する貫通孔3hを形成しているが、非貫通の中空突起部3の内部から凸型部11を抜いた後に、レーザー照射装置4を用いて非貫通の中空突起部3に貫通する貫通孔3hを形成してもよい。具体的には、
図11(a)及び
図11(b)に示すように、第1開口プレート12Uと第2開口プレート12Dとで、基材シート2Aを挟持した状態で、基材シート2Aの一面2D側から、第2開口プレート12Dの開口部12aに凸型110を通過させ、超音波振動装置により各凸型110に超音波振動を予め発現させながら、凸型部11を基材シート2Aの一面2Dに当接させる。これにより当接部分TPを軟化させながら、基材シート2Aの一面2D側から他面2U側に向かって凸型110を上昇させて、基材シート2Aの他面2U側から突出する非貫通の中空突起部3を形成する。
【0065】
次いで、
図11(c)に示すように、基材シート2Aの他面2U側(上面側)に配された冷風送風装置21を用いて非貫通の中空突起部3を冷却する。そして、非貫通の中空突起部3の内部から凸型部11を抜いて内部が中空の中空突起部3を形成するリリース工程を行う。リリース工程では、凸型部11の超音波振動装置による超音波振動を停止し、電動アクチュエータ(不図示)によって、凸型部11を厚み方向(Z方向)の下方に移動させ、第2開口プレート12Dによって基材シート2Aの撓みを抑制しながら、中空突起部3の内部から凸型110を抜いて、非貫通の中空突起部3を形成する。
【0066】
次いで、
図11(d)に示すように、冷却後、基材シート2Aの他面2U側(上面側)に配されたレーザー照射装置4の照射ヘッド41からレーザー光線4Lを非貫通の中空突起部3に照射して貫通孔3hを形成し、
図11(e)に示すように、貫通孔3hが形成された中空突起部3を形成してもよい。
上述した中空突起具1の製造方法では、各凸型部11の加熱手段として超音波振動装置を用いて説明したが、凸型部11の加熱手段を加熱ヒーター装置としてもよい。
【実施例0067】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はかかる実施例に制限されない。
【0068】
1.製造装置が備えるレーザー装置の準備
貫通孔3hを形成するためのレーザー照射装置4としては、CO
2レーザー装置を用いて波長9.3μmのCO
2レーザー光線4Lを照射するものと、UVレーザー装置を用い、波長355nmのUVのレーザー光線4Lを照射するものを準備した。
2.基材シート2Aの準備
基材シート2Aとしては、ポリ乳酸(PLA;Tg55.8℃)の厚み0.4mmの帯状のシートを用意した。
3.非貫通の中空突起部の形成
図6(a)~
図6(c)に示す順序で、非貫通の中空突起部3を形成した。形成条件としては、凸型部11の超音波振動の振幅が70%であり。凸型部11の刺入高さが1.4mmであり、刺入速度が2mm/秒であった。また、軟化時間は0.3秒であり、冷却時間は1.0秒であった。形成された中空突起部3の突出高さH1は1mm(1000μm)であった。
【0069】
〔実施例1〕
表1は、実施例1と比較例1の計測条件と計測結果を示す。
非貫通の中空突起部3を形成した後、第1の実施形態の製造方法における形成工程により貫通孔3hを形成した。具体的には、中空突起部3の先端からの位置を600μm、CO2レーザー装置からレーザー光線4Lのレーザー出力を3.2W、刺入方向ILeと傾斜する方向ILfとのなす角θを30度に固定し、レーザー光線4Lを中空突起部3に9回照射して、開孔径(貫通孔径)r1が40μmの貫通孔3hを形成した。この時に、レーザー照射によって貫通孔3hの周囲に形成される熱の影響を受けた周囲部3gの径(熱影響径)r2は120μmで、熱影響径/貫通孔径の比率は3.00であった。
開孔径と熱影響径は、マイクロスコープ(キーエンス社製VHX-5000 レンズ倍率200倍)にて測定を行った。
なお、レーザー照射によって貫通孔3hの周囲に形成される熱の影響を受けた周囲部3gの測定においては、貫通孔3hの形状を切頭円錐形状とみなした場合の傾斜側面部を熱の影響により薄肉化した部分と定義し、切頭円錐形状の底面周囲を熱の影響を受けた周囲部3gとみなし、マイクロスコープを用いて周囲部3gの横幅を測定し、r2の値を求めた。
【0070】
〔比較例1〕
表1に示すように、非貫通の中空突起部3は、実施例1と同様に形成し、レーザー光線4Lのレーザー出力を9.7W、刺入方向ILeと傾斜する方向ILfとのなす角θを30度に固定し、レーザー光線4Lを中空突起部3に1回照射して、開孔径(貫通孔径)r1が40μmの貫通孔3hを形成した。この時に、レーザー照射によって貫通孔3hの周囲に形成される熱の影響を受けた周囲部3gの径(熱影響径)r2は、182μmで、熱影響径/貫通孔径の比率は4.55であった。
すなわち、レーザー光線4Lを用いて同一径の貫通孔3hを中空突起部3に形成する場合、レーザー照射装置4から、1回の照射で中空突起部3の近接部位を貫通する出力のレーザー光線4Lを照射して貫通孔3hを形成する場合よりも、レーザー照射装置4から、1回の照射で中空突起部3の近接部位を貫通しない出力のレーザー光線4Lを複数回照射することで貫通孔3hを形成する方が、明らかに周囲部3gの径r2を小さくすることができる。
【0071】
【0072】
〔実施例2〕
表2は、実施例2と比較例2の計測条件と計測結果を示す。
非貫通の中空突起部3を形成した後、第1の実施形態の製造方法における照射工程により貫通孔3hを形成した。具体的には、中空突起部3の先端からの位置を300μm、UVレーザー装置からレーザー光線4Lのレーザー出力を1.75W、刺入方向ILeと傾斜する方向ILfとのなす角θを30度に固定し、レーザー光線4Lを中空突起部3の近接部位となる外面32に対し、1回当たりの照射時間0.5msで、同一箇所に4回照射して貫通孔3hを形成した。この時、レーザー照射によって形成された貫通孔3hの開孔径(貫通孔径)r1は20μmであり、この貫通孔3hの周囲に形成される熱の影響を受けた周囲部3gの径(熱影響径)r2は50μmで、熱影響径/貫通孔径の比率は2.50であった。
【0073】
〔比較例2〕
非貫通の中空突起部3は実施例1と同様に形成し、UVレーザー装置からレーザー光線4Lのレーザー出力を1.75W、刺入方向ILeと傾斜する方向ILfとのなす角θを30度に固定し、1回の照射時間を30μmのレーザー光線4Lを中空突起部3の外面32に対し1回照射して貫通孔3hを形成した。この時に、レーザー照射によって形成された貫通孔3hの開孔径(貫通孔径)r1は30μmであり、この貫通孔3hの周囲に形成される熱の影響を受けた周囲部3gの径(熱影響径)r2は80μmで、熱影響径/貫通孔径の比率は2.67であった。
すなわち、レーザー光線4Lを用いて同一径の貫通孔3hを中空突起部3に形成する場合、レーザー照射装置4から、1回の照射で中空突起部3の近接部位を貫通する出力のレーザー光線4Lを照射して貫通孔3hを形成する場合よりも、レーザー照射装置4から、1回の照射で中空突起部3の近接部位を貫通しない出力のレーザー光線4Lを複数回照射することで貫通孔3hを形成する方が、明らかに周囲部3gの径r2を小さくすることができる。
なお、貫通孔3hの開孔径r1及びこれら熱影響を受けた周囲部3gの径r2の計測は、マイクロスコープ又は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて行うことができる。
【0074】
【0075】
表3は、実施例3、4の計測条件と計測結果を示す。
実施例3,4は、中空突起部3に対して、1回の照射で貫通孔3hの開孔径よりも小さい開孔径で貫通する出力のレーザー光線4Lを複数回、中空突起部3の同一面の近接部位に照射することで貫通孔3hを形成する第2の実施形態を用いて貫通孔3hを形成したものである。
〔実施例3〕
非貫通の中空突起部3を形成した後、第2の実施形態の製造方法における照射工程により貫通孔3hを形成した。具体的には、中空突起部3の先端からの位置を300μm、UVレーザー装置からレーザー光線4Lのレーザー出力を1.75W、刺入方向ILeと傾斜する方向ILfとのなす角θを30度に固定し、レーザー光線4Lを中空突起部3の同一面となる外面32の異なる箇所に1回の照射時間5msで3回射し、合計15ms照射時間で貫通孔3hを形成した。3回の照射時のレーザー光線4Lのスポット径は同一径で照射した。ここでは、貫通孔3hの開孔径(貫通孔径)r1を40μmとしているので1つのスポット径は40μmよりも小径の25μmとした。3つのスポット径は円形であって、各スポット径が互いに隣接するように照射した。この時に貫通孔3hの周囲に形成される熱の影響を受けた周囲部3gの径(熱影響径)r2を測定したところ、70μmで、熱影響径/貫通孔径の比率は1.75であった。
【0076】
〔実施例4〕
非貫通の中空突起部3を形成した後、第2の実施形態の製造方法における照射工程により貫通孔3hを形成した。具体的には、中空突起部3の先端からの位置を300μm、UVレーザー装置からレーザー光線4Lのレーザー出力を1.75W、刺入方向ILeと傾斜する方向ILfとのなす角θを30度に固定し、レーザー光線4Lを中空突起部3の同一面となる外面32の異なる箇所に1回の照射時間45msで2回照射し、合計90ms照射時間で貫通孔3hを形成した。2回の照射時のレーザー光線4Lのスポット径は同一径で照射した。ここでは、貫通孔3hの開孔径(貫通孔径)r1を40μmとしているので複数のスポット径の内の1つのスポット径は40μmよりも小径の25μmとした。2つのスポット径は円形であって、スポット径が互いに隣接するように照射した。この時に貫通孔3hの周囲に形成される熱の影響を受けた周囲部3gの径(熱影響径)r2を測定したところ102μmで、熱影響径/貫通孔径の比率は2.55であった。これら熱影響径、貫通孔径の計測は、実施例1、2と同様、マイクロスコープ(キーエンス社製VHX-5000 レンズ倍率200倍)を用いて行った。
【0077】
すなわち、レーザー光線4Lを用いて同一径の貫通孔3hを中空突起部3に形成する場合、レーザー照射装置4から、1回の照射で中空突起部3の近接部位を貫通する出力のレーザー光線4Lを照射して貫通孔3hを形成する場合よりも、レーザー照射装置4から、貫通孔3hの開孔径r1よりも小さい開孔径r3で貫通する出力のレーザー光線4Lを複数回、中空突起部3の外面32に照射して貫通孔3hを形成する方が、明らかに熱影響部の径r2が小さい計測結果となった。
また、実施例3と実施例4で形成される貫通孔3hの形状は異なっている。すなわち、実施例3の場合、レーザー光線4Lを正三角形の各頂点にスポット径の中心が位置するとともに、スポット径同士が隣接する、或いはオーバーラップするように照射することで、貫通孔3hよりも小径の開孔が形成され、それらがつながることで一体化して1つの貫通孔3hが形成される。実施例3の場合、略円形の貫通孔3hとなる。
これに対し、実施例4の場合、スポット径が中空突起部3の突出方向と交差する幅方向(X方向)に、互いに隣接して横並びになるようにレーザー光線4Lを照射することで、貫通孔3hよりも小径の開孔部が形成され、それらがつながることで一体化して1つの貫通孔3hが形成される。実施例4の場合、幅方向(X方向)に延在する横長の貫通孔3hとなる。
レーザー光線4Lの照射位置や数は、最終的に形成したい貫通孔3hの大きさや形状に合わせて定めるのが好ましい。
【0078】
【0079】
このように、熱可塑性プラスチックを基材シート2Aの材料として用いた場合、1回の照射で貫通孔3hを形成した場合に比べ、1回の照射の出力では溶融して貫通はしないが、複数回照射することで基材シート2Aの溶融が進んで貫通孔3hを形成する場合の方が、1回の照射によって基材シート2A(中空突起部3)に与える熱量を低減することができる。このため、照射による熱の影響を受ける周囲部3g(熱影響部)の範囲を小さくすることができ、中空突起部3の強度を維持できるといえる。
【0080】
一方、第2の実施形態のように、貫通孔3hよりも開孔径の小さい開孔径を同一面に複数形成し、各孔が溶けてつながることで一体化して貫通孔3hを形成する場合、スポット径を絞ることで単位面積当たりの出力を高めることができ、中空突起部3の近接部位を貫通する、貫通孔3hよりも開孔径が小さく貫通する開孔を形成することができる。
このように、微細な中空突起部3を貫通する開孔を形成するが、その開孔は、貫通孔3hよりも開孔径を小さくすることで、1回の照射によって基材シート2Aに与える熱量を低減することができる。このため、照射による熱の影響を受ける範囲を貫通孔3hより小さくすることができ、中空突起部3の強度を維持して製造することができる。