(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019699
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】免疫媒介性がん治療のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/53 20060101AFI20240202BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240202BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240202BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240202BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240202BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240202BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240202BHJP
A61K 31/09 20060101ALI20240202BHJP
A61K 31/661 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
A61K31/53
A61P1/00
A61P35/00
A61P11/00
A61P1/16
A61P37/04
A61K39/395 U
A61K39/395 T
A61K39/395 D
A61K39/395 E
A61K31/09
A61K31/661
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023219148
(22)【出願日】2023-12-26
(62)【分割の表示】P 2022012813の分割
【原出願日】2016-10-21
(31)【優先権主張番号】62/244,457
(32)【優先日】2015-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518138217
【氏名又は名称】テクリソン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ルエイ-ミン リー
(57)【要約】
【課題】免疫媒介性がん治療のための組成物及び方法の提供。
【解決手段】本明細書で開示されるのは、被験体における固形腫瘍への免疫応答を強化するための方法および組成物である。一部の実施形態では、方法は、(a)低酸素活性化生体還元剤(HABA)を被験体に投与すること、(b)(i)低酸素誘導剤を被験体に投与すること、または(ii)固形腫瘍を供給している1つまたは複数の血管に塞栓形成することによって、低酸素を誘導すること、および(c)ステップ(b)の前に、ステップ(b)と同時にまたはステップ(b)に続いて、免疫チェックポイント阻害剤を、免疫チェックポイント阻害剤の不在下での免疫応答に比べて、固形腫瘍への免疫応答を強化するのに有効な量で投与することを含む。開示される方法における使用のためのキットもまた提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における固形腫瘍への免疫反応を強化する方法における使用のための、(a)チラパザミン;および(b)抗PD-1抗体を含む組合せ物であって、前記方法は、(c)前記固形腫瘍を供給する1つまたは複数の血管の動脈塞栓術(TAE)と併用して前記組合せ物を投与することを含み、
前記使用が、(b)のみの使用と比較して、少なくとも80%の改善された治療有効性を提供し、
前記改善された治療有効性が、無疾患生存の期間または全生存の期間によって測定される、組合せ物。
【請求項2】
前記方法が、(d)コンブレタスタチンA4ホスフェートの使用をさらに含む、請求項1に記載の組合せ物。
【請求項3】
前記抗PD-1抗体が、モノクローナル抗体を含む、請求項1に記載の組合せ物。
【請求項4】
前記モノクローナル抗体が、ニボルマブまたはペンブロリズマブを含む、請求項3に記載の組合せ物。
【請求項5】
前記固形腫瘍が、肝細胞癌(HCC)、胆管癌、肺がん、乳がん、結腸直腸がん、膀胱がん、頭頚部がん、卵巣がん、胃がん、または膵がんを含む、請求項1に記載の組合せ物。
【請求項6】
前記固形腫瘍が、肝細胞癌、肺がん、または結腸直腸がんを含む、請求項1に記載の組合せ物。
【請求項7】
(a)および(c)の使用が、前記固形腫瘍の少なくとも約75%の壊死を誘導する、請求項1に記載の組合せ物。
【請求項8】
(a)および(c)の使用が、前記固形腫瘍の少なくとも約85%の壊死を誘導する、請求項1に記載の組合せ物。
【請求項9】
前記改善された治療有効性が、(b)のみの使用と比較して少なくとも2倍である、請求項1に記載の組合せ物。
【請求項10】
(a)、(b)、および(c)が、順番に、任意の順序で、または同時に使用される、請求項1に記載の組合せ物。
【請求項11】
(b)の使用が、前記固形腫瘍の大きさを、処置前の大きさの約50%未満である大きさに少なくとも約6か月間維持する、請求項1に記載の組合せ物。
【請求項12】
前記使用が、(a)と(c)との組み合わせがない場合に達成される対応する大きさの縮小よりも大きな第2腫瘍の大きさの縮小を誘導する、請求項1に記載の組合せ物。
【請求項13】
被験体における固形腫瘍への免疫反応を強化する方法における使用のための、(a)チラパザミンを含む組成物であって、前記方法は、(b)抗PD-1抗体および(c)前記固形腫瘍を供給する1つまたは複数の血管の動脈塞栓術(TAE)と併用して前記組成物を投与することを含み、
前記使用が、(b)のみの使用と比較して、少なくとも80%の改善された治療有効性を提供し、
前記改善された治療有効性が、無疾患生存の期間または全生存の期間によって測定される、組成物。
【請求項14】
被験体における固形腫瘍への免疫反応を強化する方法における使用のための、(a)抗PD-1抗体を含む組成物であって、前記方法は、(b)チラパザミンおよび(c)前記固形腫瘍を供給する1つまたは複数の血管の動脈塞栓術(TAE)と併用して前記組成物を投与することを含み、
前記使用が、(a)のみの使用と比較して、少なくとも80%の改善された治療有効性を提供し、
前記改善された治療有効性が、無疾患生存の期間または全生存の期間によって測定される、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本PCT出願は、2015年10月21日に出願した米国仮特許出願第62/244,457号に対する優先権を主張する。この出願は、すべての目的のために、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
一部の患者が、腫瘍特異性細胞傷害性T細胞の検出に基づき、がんに対して免疫を呈することが示されてきたが、これらのT細胞は、何らかの治療的利益または予防的利益があったとしても、多くをもたらすことなく腫瘍から遮蔽されているようであった。この不整合を、腫瘍はさまざまな機序を進化させて免疫攻撃を回避するという理論で説明する人もいる。正常な免疫反応が起きるためには、APCは腫瘍由来の抗原を取り込み、抗原を保有する腫瘍細胞に対する細胞傷害性を発現すべくT細胞をプライムする処理後に、それらの抗原をT細胞に提示する。APCとT細胞との間の相互作用は、腫瘍関連抗原を認識し、MHC分子と複合体を形成するT細胞受容体(TCR)を含むさまざまなリガンド-受容体の相互作用、および共活性化剤CD28によって調節される。CTLA4は、T細胞の陰性調節因子として機能し、CD40は、APCのための陽性調節因子として機能する。PD-1は、細胞傷害性T細胞の別の陰性調節因子であり、免疫チェックポイントとして役立つ。腫瘍細胞は、PD-L1と呼ばれるPD-1リガンドを発現することができ、これはPD-1を活性化し、そのためT細胞の抗腫瘍活性を抑制する。腫瘍はまた、調節性T細胞をリクルートすることがあり、これは、細胞傷害性T細胞活性を抑制して腫瘍を免疫攻撃から防ぐことができる。がんを処置するために免疫シグナリング応答を操作するよう努力がなされてきたが、奏効率および無増悪生存率への効果は、多くの改善の余地を残している。さらに、免疫抑制を弱める化合物への過度な依存は、免疫系のバランスを、自己免疫障害のほうに傾けるおそれがあった。例えば、ニボルマブおよびペンブロリズマブの観察される有害作用には、さまざまな免疫関連の、肝炎、肺炎、下垂体炎、大腸炎などが挙げられ、このことは、全身免疫のさらなる強化が潜在的リスクを保有しうることを示している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
上記を考慮して、がんの処置のための、詳細には被験体における免疫応答を利用するがんの処置のための、改善された組成物および戦略への必要性がある。本開示は、この必要性に対処し、同様に他の利点も提供する。本明細書で開示の実施形態のうちの一部では、腫瘍中の壊死の誘導(免疫系の、腫瘍抗原への曝露を増やす)を免疫チェックポイント阻害剤の投与と組み合わせることによって固形腫瘍に対する免疫応答を強化する方法が提供される。
【0004】
一態様では、本開示は、被験体における固形腫瘍への免疫応答を強化する方法であって、(a)低酸素活性化生体還元剤(HABA)を該被験体に投与すること、(b)(i)低酸素誘導剤を該被験体に投与すること、または(ii)該固形腫瘍を供給している1つまたは複数の血管に塞栓形成することによって、低酸素を誘導すること、および(c)ステップ(b)の前に、ステップ(b)と同時にまたはステップ(b)に続いて、免疫チェックポイント阻害剤を、該免疫チェックポイント阻害剤の不在下での免疫応答に比べて、固形腫瘍への免疫応答を強化するのに有効な量で投与することを含む方法を提供する。一部の実施形態では、前記低酸素活性化生体還元剤が、チラパザミンである。一部の実施形態では、ステップ(b)が、血管破壊剤である低酸素誘導剤を投与することを含む。一部の実施形態では、前記血管破壊剤が、DMXAA、スチルベンまたはスチルベン誘導体である。一部の実施形態では、前記スチルベン誘導体が、コンブレタスタチン、コンブレタスタチン誘導体、cis-3,4’,5-トリメトキシ-3’-アミノスチルベン(スチルベン5c)、cis-3,4’,5-トリメトキシ-3’-ヒドロキシスチルベン(スチルベン6c)、およびスチルベン5cのプロドラッグであるモルホリノ-カルバメート誘導体からなる群から選択される。一部の実施形態では、ステップ(b)が、抗血管新生剤である低酸素誘導剤を投与することを含む。一部の実施形態では、前記低酸素活性化剤および前記低酸素誘導剤が、前記固形腫瘍のうちの少なくとも75%の壊死を誘導するのに有効な量で投与される。一部の実施形態では、ステップ(b)が、塞栓剤を投与することによって前記1つまたは複数の血管に塞栓形成することを含む。一部の実施形態では、前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1、PD-L1またはCTLA-4の阻害剤である。一部の実施形態では、前記免疫チェックポイント阻害剤が、モノクローナル抗体である。一部の実施形態では、前記モノクローナル抗体が、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、MEDI4736およびイピリムマブからなる群から選択される。一部の実施形態では、前記固形腫瘍が、肝細胞癌、胆管癌、肝臓の転移性結腸直腸がん、肺がん、乳がん、結腸直腸がん、膀胱がん、頭頚部がん、卵巣がんおよび膵がんからなる群から選択される腫瘍である。一部の実施形態では、ステップ(b)が、動脈塞栓術を含む。一部の実施形態では、ステップ(b)が、ステップ(a)の後に実施される。一部の実施形態では、ステップ(b)が、低酸素誘導剤を投与することを含む。一部の実施形態では、ステップ(c)が、前記免疫チェックポイント阻害剤を、ステップ(b)の後に、2回またはそれよりも多い回数で投与することを含む。一部の実施形態では、前記免疫チェックポイント調節剤を投与することが、前記固形腫瘍を、処置前の大きさの50%未満である大きさに少なくとも6か月間維持するのに有効である。一部の実施形態では、前記HABAの投与、低酸素の誘導と、前記免疫チェックポイント阻害剤の投与との組合せが、前記被験体における増殖障害を処置するのに相乗効果を呈する。
【0005】
一態様では、本開示は、被験体における固形腫瘍への免疫応答の強化に使用するためのキットを提供する。一部の実施形態では、このキットは、(a)低酸素活性化生体還元剤(HABA)、(b)低酸素誘導剤または塞栓剤、および(c)免疫チェックポイント阻害剤を含む。一部の実施形態では、前記HABAが、チラパザミンである。一部の実施形態では、パート(b)が、血管破壊剤である低酸素誘導剤である。一部の実施形態では、前記血管破壊剤が、DMXAA、スチルベンまたはスチルベン誘導体である。一部の実施形態では、前記スチルベン誘導体が、コンブレタスタチン、コンブレタスタチン誘導体、cis-3,4’,5-トリメトキシ-3’-アミノスチルベン(スチルベン5c)、cis-3,4’,5-トリメトキシ-3’-ヒドロキシスチルベン(スチルベン6c)、およびスチルベン5cのプロドラッグであるモルホリノ-カルバメート誘導体からなる群から選択される。一部の実施形態では、パート(b)が、抗血管新生剤である低酸素誘導剤である。一部の実施形態では、前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1、PD-L1またはCTLA-4の阻害剤である。一部の実施形態では、前記免疫チェックポイント阻害剤が、モノクローナル抗体である。一部の実施形態では、前記モノクローナル抗体が、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、MEDI4736およびイピリムマブからなる群から選択される。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
被験体における固形腫瘍への免疫応答を強化する方法であって、
(a)低酸素活性化生体還元剤(HABA)を該被験体に投与すること、
(b)(i)低酸素誘導剤を該被験体に投与すること、または(ii)該固形腫瘍を供給している1つまたは複数の血管に塞栓形成することによって、低酸素を誘導すること、および
(c)ステップ(b)の前に、ステップ(b)と同時にまたはステップ(b)に続いて、免疫チェックポイント阻害剤を、該免疫チェックポイント阻害剤の不在下での免疫応答に比べて、固形腫瘍への免疫応答を強化するのに有効な量で投与すること
を含む方法。
(項目2)
前記低酸素活性化生体還元剤が、チラパザミンである、項目1に記載の方法。
(項目3)
ステップ(b)が、血管破壊剤である低酸素誘導剤を投与することを含む、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記血管破壊剤が、DMXAA、スチルベンまたはスチルベン誘導体である、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記スチルベン誘導体が、コンブレタスタチン、コンブレタスタチン誘導体、cis-3,4’,5-トリメトキシ-3’-アミノスチルベン(スチルベン5c)、cis-3,4’,5-トリメトキシ-3’-ヒドロキシスチルベン(スチルベン6c)、およびスチルベン5cのプロドラッグであるモルホリノ-カルバメート誘導体からなる群から選択される、項目4に記載の方法。
(項目6)
ステップ(b)が、抗血管新生剤である低酸素誘導剤を投与することを含む、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記低酸素活性化剤および前記低酸素誘導剤が、前記固形腫瘍のうちの少なくとも75%の壊死を誘導するのに有効な量で投与される、項目1に記載の方法。
(項目8)
ステップ(b)が、塞栓剤を投与することによって前記1つまたは複数の血管に塞栓形成することを含む、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1、PD-L1またはCTLA-4の阻害剤である、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記免疫チェックポイント阻害剤が、モノクローナル抗体である、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記モノクローナル抗体が、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、MEDI4736およびイピリムマブからなる群から選択される、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記固形腫瘍が、肝細胞癌、胆管癌、肝臓の転移性結腸直腸がん、肺がん、乳がん、結腸直腸がん、膀胱がん、頭頚部がん、卵巣がんおよび膵がんからなる群から選択される腫瘍である、項目1に記載の方法。
(項目13)
ステップ(b)が、動脈塞栓術を含む、項目12に記載の方法。
(項目14)
ステップ(b)が、ステップ(a)の後に実施される、項目1に記載の方法。
(項目15)
ステップ(b)が、低酸素誘導剤を投与することを含む、項目14に記載の方法。
(項目16)
ステップ(c)が、前記免疫チェックポイント阻害剤を、ステップ(b)の後に、2回またはそれよりも多い回数で投与することを含む、項目1に記載の方法。
(項目17)
前記免疫チェックポイント調節剤を投与することが、前記固形腫瘍を、処置前の大きさの50%未満である大きさに少なくとも6か月間維持するのに有効である、項目1に記載の方法。
(項目18)
前記HABAの投与、低酸素の誘導と、前記免疫チェックポイント阻害剤の投与との組合せが、前記被験体における増殖障害を処置するのに相乗効果を呈する、項目1に記載の方法。
(項目19)
被験体における固形腫瘍への免疫応答の強化に使用するためのキットであって、
(a)低酸素活性化生体還元剤(HABA)、
(b)低酸素誘導剤または塞栓剤、および
(c)免疫チェックポイント阻害剤
を含むキット。
(項目20)
前記HABAが、チラパザミンである、項目19に記載のキット。
(項目21)
パート(b)が、血管破壊剤である低酸素誘導剤である、項目19に記載のキット。
(項目22)
前記血管破壊剤が、DMXAA、スチルベンまたはスチルベン誘導体である、項目21に記載のキット。
(項目23)
前記スチルベン誘導体が、コンブレタスタチン、コンブレタスタチン誘導体、cis-3,4’,5-トリメトキシ-3’-アミノスチルベン(スチルベン5c)、cis-3,4’,5-トリメトキシ-3’-ヒドロキシスチルベン(スチルベン6c)、およびスチルベン5cのプロドラッグであるモルホリノ-カルバメート誘導体からなる群から選択される、項目22に記載のキット。
(項目24)
パート(b)が、抗血管新生剤である低酸素誘導剤である、項目19に記載のキット。(項目25)
前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1、PD-L1またはCTLA-4の阻害剤である、項目19に記載のキット。
(項目26)
前記免疫チェックポイント阻害剤が、モノクローナル抗体である、項目25に記載のキット。
(項目27)
前記モノクローナル抗体が、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、MEDI4736およびイピリムマブからなる群から選択される、項目26に記載のキット。
【0006】
参照による組込み
本明細書で挙げるすべての刊行物、特許および特許出願は、それぞれの刊行物、特許または特許出願が、あたかも具体的にかつ個別に参照により組み込まれていると示されたかのように、同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本発明の新規の特徴は、添付の特許請求の範囲において詳細に示される。本発明の特徴および利点のより良好な理解は、本発明の原則が活用される、例示的な実施形態を示す以下の詳細な記載および添付の図面を参照することによって得られる。
【0008】
【
図1】
図1は、腫瘍細胞、細胞傷害性T細胞、抗原提示細胞(APC)および調節性T細胞の間の、相互作用および調節を例示する例のダイアグラムを示す。ダイアグラムは、ブロッキングチェックポイントPD-1、PD-L1またはCTLA4が、腫瘍内でいかに免疫抑制効果をモジュレートできるかを図示している。
【0009】
【
図2】
図2は、HBxトランスジェニックマウスモデルにおける、左肝動脈結紮(HAL)と、食塩水、ドキソルビシンまたはチラパザミンとの組合せの比較についての例の結果を例示している。腫瘍を保持しているHBxトランスジェニックマウスを、ノーマルセーライン、チラパザミン(尾静脈からの3mg/kgのIV注射)またはドキソルビシン(10mg/kg)で処置し、続いて左肝動脈結紮を40分行った。マウスの体重、ビリルビンおよびALTを、処置後のさまざまな日に測定した。肝細胞癌(HCC)腫瘍の組織学的分析のために、7日目にマウスを屠殺した。
【0010】
【
図3】
図3は、チラパザミンと肝動脈結紮とによるHCC処置後の、腫瘍壊死を誘導する効果および炎症反応を誘発させる効果を例示する、組織の画像を示す。腫瘍を保持しているHBxトランスジェニックマウスを、チラパザミン(尾静脈からの3mg/kgのIV注射)で処置し、続いて左肝動脈結紮を40分行った。HCC腫瘍の組織学的分析のために、7日目にマウスを屠殺した。示しているのは、ほぼ完全な(99%)腫瘍壊死を有する複数の組織切片から組み立てた、腫瘍全体の合成写真である。さらに留意すべきは、壊死性腫瘍の縁が、高い程度の炎症性細胞浸潤を有することである(すべては拡大された倍率の挿入画像である)。
【0011】
【
図4】
図4は、完全奏効(CR)を達成した2名の患者の、コントラスト強化MRIスキャンの代表的な写真を示す。これらの患者は、それぞれ5mg/m
2および10mg/m
2のチラパザミンを受け、その後に動脈塞栓術を受けた。追跡MRIスキャンを、塞栓形成手技後第6週に行った。矢印で強調している暗い領域は腫瘍であり、これはコントラスト強化の証拠を有さず、完全な腫瘍壊死またはCRであると評価される。
【0012】
【
図5】
図5は、チラパザミンおよび血管破壊剤による、腫瘍壊死を誘導する効果、および炎症反応を誘発する効果を例示する、組織の画像を示す。NCI-H460細胞をBALB/cヌードマウスに皮下注射して、腫瘍異種移植片を形成させた。腫瘍が直径10mmの大きさに成長したら、マウスを、チラパザミン(30mg/kgのIP)プラス(A)コンブレタスタチンA4(10mg/kgのIV)または(B)DMXAA(20mg/kgのIV)で処置した(Chaplin DJ、2006年)。マウスは、初回処置3週後に屠殺し、腫瘍をH&E染色のために離断した。示しているのは、組織像の代表的な写真である。腫瘍壊死の領域および近傍の炎症性浸潤を示している。
【0013】
【
図6】
図6は、C57BL/6マウスでの皮下3LL同系肺がんモデルの処置における、抗mPD-1、チラパザミン(TPZ)、コンブレタスタチンA4ホスフェート、5,6-ジメチルキサンテノン(Dimethylxantheonone)-4-酢酸(DMXAA)、およびそれらのさまざまな組合せの投与の、病理学および免疫組織化学を評価する研究の実験設計を記載する表を示す。
【0014】
【
図7】
図7は、C57BL/6マウスでの皮下3LL同系肺がんモデルの処置における、抗mPD-1、チラパザミン(TPZ)、コンブレタスタチンA4ホスフェート、5,6-ジメチルキサンテノン-4-酢酸(DMXAA)、およびそれらのさまざまな組合せの投与に続く、ホルマリン固定パラフィン包埋組織のヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色に基づく腫瘍壊死の百分率の結果を示す。アステリスク(*)は、マン-ホイットニー検定によって決定する、ビヒクル群と比べた統計的有意性(P<0.05)を表す。
【0015】
【
図8】
図8は、
図7に描示した、H&E染色した3LL腫瘍組織切片中の腫瘍壊死の百分率を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
用語「約」または「およそ」は、当業者により決定された特定の値について許容できる誤差範囲内であることを意味し、これは、いかにその値が測定されたかまたは決定されたか、すなわち測定系の限界に、部分的に依存する。例えば「約」は、当技術分野における実践当たり1以内または1超の標準偏差を意味することができる。あるいは「約」は、所与の値の、20%まで、10%まで、5%まで、または1%までの範囲を意味することができる。あるいは、特に生物系または生物学的プロセスに関して、用語は、値の、1桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味することができる。特定の値が本出願および特許請求の範囲において記載されるところでは、別段指定されない限り、用語「約」は特定の値についての許容される誤差範囲内を意味すると推定されるべきである。
【0017】
用語「被験体」、「個人」および「患者」は、本明細書では、置き替え可能に使用されて、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指す。哺乳動物には、ネズミ、サル、ヒト、農場動物、スポーツ用動物およびペットが挙げられるがこれらに限定されない。組織、細胞、およびin vivoで得られるまたはin vitroで培養されるそれらの生物学的実体の後代もまた包含される。
【0018】
用語「治療剤」、「治療可能な薬剤」または「処置剤」は、置き替え可能に使用され、被験体への投与の際にいくらかの有益な効果を付与する分子または化合物を指す。有益な効果には、診断決定の実施可能性;疾患、症状、障害または病態の改善;疾患、症状、障害または状態の、発症の低減または防止;および疾患、症状、障害または病態への全般的な対抗が挙げられる。
【0019】
本明細書で使用される場合、「処置」または「処置すること」または「緩和すること」または「改善すること」は、置き替え可能に使用される。これらの用語は、治療的利益および/または予防的利益が挙げられるがこれらに限定されない有益な結果または所望の結果を獲得するためのアプローチを指す。治療的利益は、処置中の1つまたは複数の疾患、状態または症状における任意の治療上関連する改善または効果を意味する。予防的利益では、特定の疾患、状態または症状がまだ顕在していないことがあっても、組成物は、該疾患、状態もしくは症状を発現する危険性のある被験体へ、または疾患の生理的症状のうちの1つまたは複数を報告している被験体に投与されうる。典型的には、予防的利益には、処置中の1種または複数の疾患、状態または症状の発生率を下げることおよび/または悪化を減らすことが挙げられる(例えば、処置された集団と未処置の集団との間の、または被験体の処置された状態と未処置の状態との間のような)。
【0020】
用語「共投与」、「と組み合わせて投与される」およびそれらの文法的等価物は、双方の薬剤および/またはそれらの代謝物が動物中に同時に存在するような、動物への2種またはそれよりも多い薬剤の投与を包含する。共投与には、別々の組成物の同時投与、別々の組成物の異なる時間での投与(例えば、別々の組成物の逐次的投与)、またはその中に双方の薬剤が存在している組成物の投与が挙げられる。
【0021】
用語「有効量」または「治療有効量」は、有益な結果または所望の結果の効果を上げるのに十分である薬剤の量を指す。治療有効量は、処置されている被験体および疾患状態、被験体の体重および年齢、疾患状態の重症度、投与方法などのうちの1つまたは複数に依存して多様であってもよく、これは、当業者によって容易に決定されうる。活性剤の有効量は、単回用量で、または複数回用量で投与されうる。成分は、本明細書では、少なくとも1つの有効量、または特定の目標もしくは目的と関連する量などの少なくとも1つの有効な量、例えば本明細書に記載の任意の量を有するものとして記載されうる。
【0022】
「相乗作用の」または「相乗作用する」効果は、組合せ組成物の1つもしくは複数の効果が、各成分単独の1つもしくは複数の効果よりも大きいか、またはそれらが各成分単独の1つまたは複数の効果の和よりも大きいものでありうる。相乗作用的効果は、約10%、20%、30%、50%、75%、100%、110%、120%、150%、200%、250%、350%または500%であってよく、または約10%、20%、30%、50%、75%、100%、110%、120%、150%、200%、250%、350%または500%よりも大きくてよく、あるいは成分のうちの1つ単独での被験体における効果よりもさらに大きく、または個別に投与されたときの成分のそれぞれの相加効果よりもさらに大きくてよい。効果は、本明細書に記載の測定可能な効果のうちの任意のものでありうる。
【0023】
一態様では、本開示は、被験体における固形腫瘍への免疫応答を強化する方法を提供する。一部の実施形態では、方法は、(a)低酸素活性化生体還元剤(HABA)を被験体に投与すること、ステップ(a)の後に、(i)低酸素誘導剤を被験体に投与すること、または(ii)固形腫瘍を供給している1つまたは複数の血管の塞栓形成によって、低酸素を誘導すること(ここで、HABAおよび低酸素は、固形腫瘍の壊死の誘導において有効である)、および(c)ステップ(b)の前に、ステップ(b)と同時にまたはステップ(b)に続いて、免疫チェックポイント阻害剤を、免疫チェックポイント阻害剤の不在下での免疫応答に比べて、固形腫瘍への免疫応答を強化するのに有効な量で投与すること、を含む。
【0024】
一般に、低酸素活性化生体還元剤(HABA)は化合物であって、酸素の存在下で不活性なプロドラッグであり、低酸素(low oxygen)環境[例えば低酸素(hypoxia)]下で、プロドラッグ形態と比較して増加した活性を有する活性形態に変換される化合物である。一部の実施形態では、低酸素環境下で増加した活性は、投与が本明細書に記載の方法に従って実施されるとき(例えば、低酸素の局所領域が、本明細書に記載の方法によって、腫瘍中、または腫瘍を含有する領域中で発生するとき)のほうが、同量の低酸素活性化生体還元剤が固形腫瘍にまたは固形腫瘍を含有する領域(ただし、低酸素の領域は本明細書に記載の方法によっては発生しない)に投与されるときよりも、固形腫瘍内の腫瘍細胞死のレベルが高いことによって証明される。一部の実施形態では、活性の増加は、少なくとも約10倍またはそれよりも大きく、その増加はきわめて大きいことがあり、例えば約20~200倍、または約50~200倍、または100~200倍、またはそれよりも大きいことがある。HABAの例には、チラパザミン、バノキサントロン(AQ4N)、ポルフィロマイシン、アパジコン(EO9)、1,2-ビス(メチルスルホニル)-1-(2-クロロエチル)-2-[[1-(4-ニトロフェニル)エトキシ]カルボニル]ヒドラジン(KS119)、ジニトロベンズアミドマスタード誘導体(例えばPR104)および4-[3-(2-ニトロ-1-イミダゾリル)-プロピルアミノ]-7-クロロキノリンヒドロクロリド(NLCQ-1、NSC709257)が挙げられるがこれらに限定されない。さらなる例には、ニトロイミダゾール、ミソニダゾール、エタニダゾールおよびニモラゾール、TG-302、SN30000、マイトマイシンC(MMC)、ポルフィロマイシン、RH1およびEO9(アパジコン)が挙げられるがこれらに限定されない。一部の実施形態では、HABAは、チラパザミンである。一部の実施形態では、チラパザミンは、構造
【化1】
を有する。
【0025】
一部の実施形態では、低酸素領域は、酸素のレベルが約10%未満、好ましくは約5%未満である領域である。一部の実施形態では、低酸素領域中の酸素のレベルは、約10、9、8、7、6、5、4、3、2または1%である。一部の実施形態では、約10%またはそれよりも低い、好ましくは約5%またはそれよりも低い酸素レベルが、チラパザミン等の低酸素活性化生体還元剤を、プロドラッグ形態よりも少なくとも10倍活性であるレベルまで活性化させるのに十分である。当業者であれば、生物系における酸素レベルの測定値に精通しており、酸素の測定値が「mmHg」(ここで、例えば、10%のO2は約76mmHgに等しく、1%のO2は約7.6mmHgに等しい)で表されうることもまた認識する。
【0026】
HABAは、低酸素を誘導することによって活性化することができ、これは、有利には、HABAの投与後に実施される。さまざまな戦略のうちの任意のものが、その内部で生体還元剤が活性化される、局所的な低酸素領域を誘導するために利用されうる。一部の実施形態では、これは、標的とする領域を供給する1つまたは複数の血管(one or more
blood vessels that supply the targeted region)の機械的塞栓形成によって
、例えば塞栓剤の投与、または血管を機械的に閉塞するために介入放射線医により置かれるカテーテルを通じたデバイスによって、達成される。一部の実施形態では、低酸素は、動脈塞栓術によって誘導される。一部の実施形態では、血管破壊剤(VDA)および/または抗血管新生剤(AAA)等の1種または複数の低酸素誘導剤が、その内部で先に投与された、または共投与されたHABAが活性化される局所的な低酸素領域を生じさせるために、局所的にまたは全身的に投与される。
【0027】
一部の実施形態では、血管破壊剤(VDA)は、DMXAA、スチルベンまたはスチルベン誘導体である。スチルベン誘導体の例には、コンブレタスタチン、コンブレタスタチン誘導体、cis-3,4’,5-トリメトキシ-3’-アミノスチルベン(スチルベン5c)、cis-3,4’,5-トリメトキシ-3’-ヒドロキシスチルベン(スチルベン6c)、およびスチルベン5cのプロドラッグであるモルホリノ-カルバメート誘導体が挙げられるがこれらに限定されない。さらなるVDAには、(5S)-5-(アセチルアミノ)-9,10,11-トリメトキシ-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c]シクロヘプテン-3-イルジヒドロゲンホスフェート(ZD6126)、(N-[2-[4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-3-ピリジニル]-4-メトキシベンゼンスルホンアミド)(E7010またはABT-751)が挙げられるがこれらに限定されない。これらの化合物は、全身的に投与された場合でさえ、腫瘍中で選択的に、深い低酸素を誘導する。VDAの投与は、化学的な塞栓形成のタイプと考えられてもよく、これは、標準的な塞栓形成における血管の直接的な閉塞とは対照的に、腫瘍を含有する領域において選択的に塞栓形成の同じゴールを達成するために化学的薬剤を使用するものである。VDAと、チラパザミン等の低酸素活性化生体還元剤との組合せは、驚くことに、悪性固形腫瘍の処置においていずれかの薬剤単独の活性に基づいて予想されるよりも有効である。それらの活性は、相乗作用的である。例えば、チラパザミンの後に投薬されるVDAは、チラパザミンの活性化を可能にし、続く腫瘍細胞の殺滅を、いずれかの薬剤単独による腫瘍細胞殺滅のレベルと比べて少なくとも10倍またはそれよりも大きく増加させる。この戦略はまた、以下に記載される塞栓形成と組み合わされて腫瘍低酸素の誘導およびチラパザミン活性化においてさらにより有効となりうる。
【0028】
一部の実施形態では、低酸素誘導剤は、抗血管新生剤(AAA)である。AAAの非限定的な例には、ベバシズマブ、イトラコナゾール、カルボキシアミドトリアゾール、TNP-470、CM101、IFNα、IL-12、血小板因子-4、スラミン、SU5416、トロンボスポンジン、VEGFRアンタゴニスト、アンジオスタチン、エンドスタチン、2-メトキシエストラジオール、テコガラン、テトラチオモリブデート、サリドマイド、トロンボスポンジン、プロラクチン、αvβ3阻害剤、リノマイド、タスキニモド、ラニビズマブ、ソラフェニブ、スニチニブ、パゾパニブおよびエベロリムスが挙げられる。さらなるAAAには、アフリベルセプト、IMC-1C11、バタラニブ(PTK-87)、N-(2,3-ジヒドロ-3,3-ジメチル-1H-インドール-6-イル)-2-[(4-ピリジニルメチル)アミノ]-3-ピリジンカルボキサミド(AMG706)、3-(4-ブロモ-2,6-ジフルオロ-ベンジルオキシ)-5-[3-(4-ピロリジン-1-イル-ブチル)-ウレイド]-イソチアゾール-4-カルボン酸アミド(CP-547,632)、N-(4-(3-アミノ-1H-インダゾール-4-イル)フェニル)-N’-(2-フルオロ-5-メチルフェニル)尿素(ABT-869)およびセジラニブ(AXD-2171)が挙げられるがこれらに限定されない。ベバシズマブ等のモノクローナル抗体は、7日を超える半減期を有し、血管新生因子VEGFの中和によって作用する。VEGFの欠乏は、腫瘍中の新しい血管形成を最終的に妨げ、腫瘍内の酸素の消費に起因して、腫瘍低酸素をもたらす。ソラフェニブおよびスニチニブ等の小分子化合物は、24時間未満の半減期を有し、VEGF受容体のキナーゼ活性を直接阻害することによって作用する。
【0029】
一部の実施形態では、VDAとAAAとの組合せが、腫瘍の低酸素を誘導するのに使用される。一部の実施形態では、VDAは、腫瘍の血流の即時の抑制を誘導して低酸素およびHABAの活性化を誘導する。腫瘍の低酸素の誘導を伴う一部の実施形態では、AAAは、腫瘍による補整的低酸素応答、例えばVEGFの産生、または骨髄から内皮前駆細胞を移動させて損傷した腫瘍血管系を修復する他の血管新生因子を阻害するために使用される。VDAと、ベバシズマブ等のAAAとの組合せは、VEGFの補整効果を妨げ、腫瘍血管における修復プロセスを阻害して腫瘍が低酸素状態のままにするうえでのVDAの効果を強化するのを助ける。
【0030】
一部の実施形態では、これらの方法のさまざまな組合せもまた企図され(例えば塞栓形成プラス1種または複数の低酸素誘導剤)、その全体的効果(活性化される生体還元剤の局所提供、および生体還元剤への全身的曝露により通常起きる副作用なしの、標的部位内のまたは標的部位での腫瘍細胞の有効な殺滅)が目標とされる。この強化はまた、腫瘍細胞殺滅の適切で有効なレベルを維持しながら低用量の薬剤を使用し、それにより毒性をさらに減少させることを可能にする。一部の実施形態では、本明細書に記載の組合せ腫瘍治療の成分には、1種または複数の抗血管新生剤(AAA)、および1種または複数の血管破壊剤(VDA)、および低酸素活性化生体還元剤(HABA)が挙げられる。AAAとVDAとの組合せは、一緒に投与されたとき、腫瘍細胞において、延長された低酸素を誘導し、それら自体で腫瘍を死滅させることにいくらかの有効性を示す。しかしながら、それらの活性は、それらが本明細書に記載のように低酸素活性化生体還元剤(HABA)との組合せで投与されるとき、相乗作用の様式で有意に強化される。一部の実施形態では、本明細書に記載の方法は、HABAを共投与することによってAAAおよび/またはVDAの抗がん活性を強化する方法である。一部の実施形態では、本明細書に記載の方法は、AAAおよび/またはVDAを共投与することによってHABAの抗がん活性を強化する方法である。一部の実施形態では、有効性は、免疫チェックポイント阻害剤の投与によってさらに強化される。
【0031】
塞栓形成手技の一例では、塞栓形成は、腫瘍において、または同定可能な動脈の分枝、例えば肝細胞癌を供給する肝動脈により供給されている腫瘍を含有する領域において、使用される局所治療を含み、これは、腫瘍を含有している領域を供給する動脈の分枝の閉塞を誘導して腫瘍細胞が適切な血流を得られず死滅するように、材料(例えばリピオドール、ゲルフォーム、血餅、特定のビーズなど)を注射することによる。その領域およびその周りの正常な器官または組織の血液供給体を解剖すると、その周りの器官/組織が、塞栓形成後の血液供給の不足に起因して有意な損傷を経験することがあるかどうかが決定される。例えば、正常な肝臓は、二重の血管、肝動脈および門脈によって供給されており、そのため、正常な肝臓への有意な損傷という結果なしで肝動脈またはその分枝の閉塞が可能である。この手技は、介入放射線医によって一般に実施され、介入放射線医は、X線透視装置のガイダンス下、鼠径部の大腿動脈からカテーテルを置いて、カテーテルの先端を、腫瘍を供給している肝動脈の分枝へと進める。腫瘍を供給している動脈の分枝が造影剤の注入によって同定されると、リピオドールまたはゲルフォーム等の塞栓剤が注射されて分枝を閉塞する。
【0032】
リピオドールに加えて、他の塞栓剤には、ゲルフォーム、血餅、ナノ粒子、または血管閉塞の目的を達成できる臨床的に証明された任意の機械的作用物質(mechanical agent
)が挙げられるがこれらに限定されない。塞栓剤および低酸素活性化生体還元剤(HABA)の投与は、任意の好適な方法で実行されうる。例えばHABAが、塞栓剤の投与の前に(例えば約1~120分前に)投与され得、続く塞栓剤の投与が、領域中でHABAを「捕捉」する。あるいは、2種の薬剤が一緒に投与されてもよい(例えば混合物中に2種の薬剤を含む調製物を使用して)。一部の実施形態では、投与されるHABAの投与量は、この方法で処置される患者について、(例えばチパラジンの)約1mg~約200mg、好ましくは約5mg~約80mgの範囲にあり、投与される塞栓剤の用量は、例えばリピオドールの約5~40ml、好ましくは約20~30mlの範囲にある。塞栓形成範囲における低酸素領域または状態の創製を確実にするために、十分な塞栓剤が、X線透視装置検査下、意図される血管の分枝の完全な閉塞を達成するために投与される。塞栓剤の投与は、通常、動脈内注射によって実施される。あるいは、塞栓形成は、閉塞を誘導するための特定のビーズ等の他の手段によって実施されうる。
【0033】
一部の実施形態では、HABAと、低酸素の誘導との組合せが、固形腫瘍の壊死を誘導する。一部の実施形態では、組合せは、1つまたは複数の腫瘍の、少なくとも50%、75%、80%、85%、95%またはそれよりも多い壊死を誘導する。誘導される壊死の程度は、処置に続く所定時間後に到達する程度でありうる。例えば、少なくとも50%の腫瘍壊死は、処置後1、2、3、4週以内もしくはそれよりも多い週以内に、または処置後1、2、3、4、5か月以内もしくはそれよりも多い月以内に達成されうる。一部の実施形態では、処置により誘導される腫瘍壊死の程度は、開始時の腫瘍の大きさと比べ、処置後に観察される壊死の最大レベルである。
【0034】
一部の実施形態では、腫瘍の壊死は、腫瘍が発現する1種または複数の抗原に対する、被験体における免疫応答を誘導する。例えば、腫瘍抗原には、アルファフェトプロテイン(AFP)、癌胎児抗原(CEA)、CA-125、MUC-1、上皮腫瘍抗原(ETA)、チロシナーゼ、黒色腫関連抗原(MAGE)、BCR-abl、p53、未成熟ラミニン受容体、TAG-72、HPV E6、HPV E7、BING-4、カルシウム活性化クロリドチャネル2、サイクリン-B1、9D7、Ep-CAM、EphA3、Her2/neu、テロメラーゼ、メソテリン、SAP-1、サバイビン、BAGE、CAGE、GAGE、SAGE、XAGE、NY-ESO-1/LAGE、PRAME、SSX-2、Melan-A/MART-1、Gp100/pmel17、TRP-1、TRP-2、P.ポリペプチド、MC1R、前立腺特異抗原(PSA)、b-カテニン、BRCA1、BRCA2、CDK4、CML66、フィブロネクチン、MART-2またはTGRbRIIが挙げられるがこれらに限定されない。
【0035】
HABAの投与、低酸素の誘導、および免疫チェックポイント阻害剤の投与は、逐次的であってもよく同時であってもよい。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤が、HABAおよび/または低酸素の誘導に続いて投与されてもよい。例としては、免疫チェックポイント阻害剤が、HABAの投与もしくは低酸素の誘導のいずれか、またはその両方の前に、単独で投与されてもよい。一部の実施形態では、チェックポイント阻害剤が投与され、続いてHABAが投与され、後で低酸素を誘導してもよい。免疫チェックポイント阻害剤が、HABAの投与後および/または低酸素の誘導後に、単独で投与されてもよい。あるいは、免疫チェックポイント阻害剤が、HABAおよび/または低酸素の誘導との組合せで投与されてもよい。
【0036】
一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、低酸素を誘導する前に、それと同時にまたはそれに続いて投与される。低酸素を誘導する前に投与されるとき、免疫チェックポイント阻害剤は、低酸素を誘導する約5分~約24時間前またはそれよりも前に投与されてもよい。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、低酸素を誘導する約5、10、15、20、25、30、45または60分前に投与される。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、低酸素を誘導する約1、2、3、4、5、6、7、8、12、18、24時間前に投与される。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、低酸素を誘導する1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、21、28日前またはそれよりも前に投与される。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、低酸素を誘導する前に、1回投与される。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、低酸素を誘導する前に、複数回投与される(例えば2、3、4、5、10、15、25回またはそれよりも多い回数)。同時に投与されるとき、2種の薬剤は、組合せ組成物として(例えば単一の液体懸濁液で)、または、ほぼ同じ時間に投与される別々の組成物として、同一もしくは異なる投与経路を通じて、投与されうる。低酸素の誘導に続いて投与されるとき、免疫チェックポイント阻害剤は、低酸素を誘導した約5~24時間後またはそれよりも後に投与されうる。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、低酸素を誘導した約5、10、15、20、25、30、45または60分後に投与される。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、低酸素を誘導した約1、2、3、4、5、6、7、8、12、18、24時間後に投与される。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、低酸素を誘導した1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、21、28日後またはそれよりも後に投与される。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、低酸素を誘導した後に、1回投与される。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、低酸素を誘導した後に、複数回投与される(例えば2、3、4、5、10、15、25回またはそれよりも多い回数)。
【0037】
免疫チェックポイント阻害剤の投与は、目標治療成果などの指定されたエンドポイントが得られるまで、設定した投薬スケジュールに従ってもよい。投薬スケジュールの例には、1日当たり1回もしくは複数回(例えば1、2、3回もしくはそれよりも多い回数);1、2、3、4、5、6、7日もしくはそれよりも多い日ごとに1回もしくは複数回;1、2、3、4週もしくはそれよりも多い週ごとに1回もしくは複数回;1、2、3、4、5、6か月もしくはそれよりも多い月ごとに1回もしくは複数回;またはこれらの組合せ(例えば漸減される投薬スケジュールにおいて)で免疫チェックポイント阻害剤を投与することが挙げられる。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、低酸素を誘導した後に数週間にわたり複数回、例えば低酸素を誘導した後に1、2、3、4、5、6、8、12、16、20、24週または52週にわたり1日当たり1、2、3、4回またはそれよりも多い回数で投与される。
【0038】
一般に、免疫チェックポイント阻害剤は、1種または複数の免疫チェックポイントタンパク質を、完全にまたは部分的に、減少させる、阻害する、干渉するまたはモジュレートする薬剤である。免疫チェックポイントタンパク質は、T細胞の活性化または機能を調節する。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、ヘルパーT細胞および細胞傷害性T細胞が挙げられるがこれらに限定されないT細胞の活性または機能を増加させる。一部の実施形態では、ヘルパーT細胞には、Th1細胞、Th2細胞およびTh17細胞が挙げられるがこれらに限定されない。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、抗原に対する免疫応答を増加させるために、調節性T細胞の活性を低下させる一方で、細胞傷害性T細胞およびヘルパーT細胞の活性を増加させる。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、腫瘍抗原に応答してT細胞の増殖を増加させる。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-21、IL22、CCL1、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL9、CCL17、CCL19、CCL22、CXCL9、CXCL10、CXCL12、CXCL13、CXCL16、G-CSF、GM-CSF、IFNb、IFNg、IL-1a、IL-1b、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-23、IL-27、MIF、TGFb、TNFa、VEGFまたはオンコスタチンMが挙げられるがこれらに限定されない、腫瘍抗原に応答してT細胞によるサイトカインの分泌を増加させる。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、パーフォリン、グランザイムおよびグラウリシンが挙げられるがこれらに限定されない細胞毒の放出によって、細胞傷害性T細胞の活性、または腫瘍細胞の殺滅を増加させる。免疫チェックポイントタンパク質の標的の例には、アデノシンA2A受容体(A2AR)、B7-H3(CD276としても知られる)、B7-H4(VTCN1としても知られる)、BおよびTリンパ球アテニュエーター(BTLA、CD272としても知られる)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4、CD152としても知られる)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG3)、プログラム死-1(PD-1)、プログラム死-1リガンド(PD-L1およびPD-L2)、T細胞免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン3(TIM-3)、T細胞活性化のV-ドメインIgサプレッサー(VISTA)、IL-10またはTGF-ベータが挙げられるがこれらに限定されない。
【0039】
図1は、腫瘍細胞と細胞傷害性T細胞と抗原提示細胞(APC)と調節性T細胞との間の相互作用、ならびにさまざまな抗体を使用する免疫チェックポイントの調節を例示する例のダイアグラムを提供している。例えば、
図1で図示しているのは、CTLA4、PD-1およびPD-L1を含む免疫チェックポイント受容体を対象とする抗体である。抗PD-1抗体および抗-PD-L1抗体は、PD-1とPD-L1との間の相互作用をブロ
ックすることによって細胞傷害性T細胞の活性を強化し得る。抗-PD-L1または抗PD-1の、腫瘍細胞への投与は、免疫回避を妨げ、免疫介在性抗腫瘍活性を増加させ得る。抗CTLA4抗体は、これもまた描示されており、CTLA4関与の免疫抑制効果をブロックして潜在的にT細胞の増殖を強化することによって、活性な細胞傷害性T細胞の免疫媒介性細胞傷害性を強化し得る。こうした抗体は、調節性T細胞の活性を低下させ得る。
【0040】
さまざまな免疫チェックポイント阻害剤のうちの任意のものが、有利には利用されうる。阻害剤は、小分子、阻害性ポリペプチド(例えば天然のもしくはトランケートされたリガンドまたは受容体にあるもの)、アプタマーまたは抗体とすることができる。一部の実施形態では、阻害剤は、抗体、または免疫チェックポイントタンパク質に結合するその抗原結合性断片である。一部の実施形態では、抗体は、2つの重鎖配列および2つの軽鎖配列を含む全長抗体である。一部の実施形態では、抗体は、IgM、IgG、IgE、IgAまたはIgDアイソタイプである。一部の実施形態では、抗体は、IgGサブタイプ、例えばIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4サブタイプのものである。一部の実施形態では、抗体は、重鎖、軽鎖、または少なくとも1つの重鎖および少なくとも1つの軽鎖である。一部の実施形態では、抗体は、抗体断片、例えばFab、Fab’もしくはFab’2、Fv、Fd、単鎖Fv(scFv)、ジスルフィド連結Fvs(ddFv)、VL、VH、Camel Ig、V-NAR、VHH、三重特異性(Fab3)、二重特異性(Fab2)、ダイアボディ((VL-VH)2または(VH-VL)2)、トリボディ(三価)、テトラボディ(四価)、ミニボディ((scFv-CH3)2)、二重特異性単鎖Fv(Bis-scFv)、IgGデルタCH2、scFV-Fcまたは(scFV)2-Fc、断片または単鎖抗体である。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、MEDI4736、ランブロリズマブ、MPDL3280A、BMS-936559、BMS-936558/MDX-1106、CT-011、ピジリズマブ、ガリキシマブ、AMP-514、MEDI4736、MK-3475、MPDL3280A、IMP321、BMS-986016、IPH2101、MSB0010718C、AUNP12、トレメリムマブおよびイピリムマブから選択される。
【0041】
一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、ヒトまたは非ヒト動物(例えばマウスもしくはラット)に由来するモノクローナル抗体であり、ここで、モノクローナル抗体は、特異的に免疫チェックポイントタンパク質に結合することが可能である。モノクローナル抗体を調製するためのさまざまな方法論が利用可能である。一般に、モノクローナル抗体は、任意の、真核生物クローン、原核生物クローンまたはファージクローンを含む単一のクローンから得られ、またはそれに由来する。一部の実施形態では、非ヒト抗体の源(例えばキメラ抗体またはヒト化抗体中の)に由来しない部分に加えて非ヒト抗体由来の1つまたは複数の重鎖および/または軽鎖を含む抗体は、(a)結合するために競合することが可能である、(b)機能的特性を保持する、(c)同一のエピトープに結合する、および/または(d)対応する親の非ヒト抗体と類似の結合親和性を有する。
【0042】
一部の態様では、ヒト抗体由来の1つまたは複数の重鎖および/または軽鎖を含むモノクローナル抗体が提供される。ヒト抗体は、完全なヒトアミノ酸配列、例えばヒト重鎖およびヒト軽鎖の可変部ならびにヒト定常部を有する抗体を含む。非ヒト抗体である抗体は、非ヒトアミノ酸残基を、ヒト抗体中に存在するアミノ酸残基で置き換えることによって完全にヒト抗体にすることができる。したがって、ヒト抗体は、1つまたは複数のヒトまたは非ヒトアミノ酸残基が、任意の他のヒト抗体中に存在する1つまたは複数のアミノ酸で置き換えられている抗体を含む。
【0043】
一部の実施形態では、非ヒト動物から得られた抗体は、ヒト化されうる。一部の実施形態では、ヒト化抗体は、1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)中に、非ヒト、例えばマウス、ラット、ヤギ、ウサギのアミノ酸残基を有し、これは、アクセプター免疫グロブリン分子中の所望の抗原、およびFvフレームワーク領域(FR)中の1つまたは複数のヒトアミノ酸残基に特異的に結合し、それらは、CDRに隣接するアミノ酸残基である。一部の実施形態では、ヒト化抗体は、非ヒト抗体からの適切なCDRセグメントを、ヒト抗体足場中へ挿入することによって創られ、ここで、ヒト化抗体は、免疫チェックポイント阻害剤に特異的に結合することが可能である。一部の実施形態では、ヒト化モノクローナル抗体は、第2のヒト抗体からの1つまたは複数の重鎖および/または軽鎖CDRドメインを置き換えるのに使用される、第1の非ヒト抗体からの1つまたは複数の重鎖および/または軽鎖CDRドメインを含む。一部の実施形態では、第1の抗体は、非ヒト動物から得られ、免疫チェックポイントタンパク質に特異的に結合することが可能である。第1の抗体からのCDRドメインは、第2のヒト抗体中のCDRドメインを置き換え、ここで、第2のヒト抗体は、免疫チェックポイントタンパク質に対する結合特異性を欠いている。このプロセスは、第1の抗体からのCDRドメインの付加に起因して免疫チェックポイントタンパク質に特異的に結合することが可能であるヒト化モノクローナル抗体を生成させ、残っている抗体ドメインがヒト抗体に由来するために免疫系によって異物(foreign)であると認識されない。一部の実施形態では、第1の抗体からの1つまたは複数の重
鎖および/または軽鎖CDRドメインを含むヒト化抗体は、(a)結合するために競うことが可能である、(b)機能的特性を保持する、(c)同一のエピトープと結合する、および/または(d)対応する第1の抗体と類似した結合親和性を有する。
【0044】
低酸素活性化生体還元剤、低酸素誘導剤、および免疫チェックポイント阻害剤は、任意の好適な投与経路によって被験体に投与するための医薬組成物として製剤化されうる。投与経路の例には、非経口(皮下、静脈内、動脈内、骨内、大脳内、脳室内、髄腔内(intrathecal)、髄内、関節内、筋肉内または腹腔内の注射を含む)、直腸、局所的、経皮的
または経口(例えば、カプセル剤、懸濁剤、または錠剤で)が挙げられるがこれらに限定されない。医薬組成物は、一般に、医薬的投与またはin vivoの接触もしくは送達と適合性のある、1種または複数の活性剤、および1種または複数の薬学的に許容される賦形剤(溶媒(水性もしくは非水性)、溶液(水性もしくは非水性)、エマルション(例えば水中油型もしくは油中水型)、懸濁液、シロップ、エリキシル、ディスパーションおよび懸濁液媒体、コーティング剤、等張剤および吸収促進剤または遅延剤が挙げられるがこれらに限定されない)を含む。水性または非水性の、溶媒、溶液および懸濁液は、懸濁剤および増粘剤を含んでもよい。こうした薬学的に許容される担体としては、錠剤(コーティングされているまたはコーティングされていない)、カプセル(硬または軟)、マイクロビーズ、粉末、顆粒および結晶が挙げられる。補助的活性化合物(例えば保存剤、抗菌剤、抗ウイルス剤および抗真菌剤)もまた、組成物中に組み込まれうる。
【0045】
共溶媒の非限定的な例は、ヒドロキシル基または他の極性基、例えばアルコール、例えばイソプロピルアルコール;グリコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリコールエーテル;グリセロール;ポリオキシエチレンアルコールおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含む。共溶媒の非限定的な例は、ヒドロキシル基または他の極性基、例えばアルコール、例えばイソプロピルアルコール;グリコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリコールエーテル;グリセロール;ポリオキシエチレンアルコールおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含む。
【0046】
補助的化合物(例えば、保存剤、抗酸化剤;抗菌剤、抗ウイルス剤および抗真菌剤等の殺生物剤およびバイオスタットを含む抗微生物剤)もまた、組成物中に組み込まれうる。したがって、医薬組成物は、保存剤、抗酸化剤および抗微生物剤を含んでもよい。保存剤は、微生物の成長を阻害し、または成分の安定性を増加させ、それによって医薬製剤の貯蔵寿命を延長させるために使用されうる。好適な保存剤は、当技術分野で公知であり、例えば、EDTA、EGTA、塩化ベンザルコニウムまたは安息香酸またはベンゾエート、例えば安息香酸ナトリウムが挙げられる。抗酸化剤には、例えば、アスコルビン酸、ビタミンA、ビタミンE、トコフェロール、および類似のビタミンまたはプロビタミンが挙げられる。抗微生物剤または抗微生物化合物は、直接的にまたは間接的に、病原性もしくは非病原性の微生物有機体による汚染、または病原性もしくは非病原性の微生物有機体の成長、感染性、複製、増殖、再生を阻害する、減少させる、遅延させる、止める、除去する、停止する、抑制するもしくは防止する。抗微生物剤のクラスには、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤および駆虫薬が挙げられる。抗微生物剤には、微生物有機体を死滅させるもしくは破壊する(殺-(- cidal))、または微生物有機体による汚染もしくは微生物有機体の成長、感染性、複製、増殖、再生を阻害する(静-(-static))薬剤および化合物が挙げられる。
【0047】
一部の実施形態では、処置ステップのうちの1つまたは複数が、繰り返されうる。例えば、HABAを投与するステップ、低酸素を誘導するステップ、および免疫チェックポイント阻害剤を投与するステップが、処置のコースにわたり、1つのコースで1回または複数回、一緒に繰り返されうる。一部の実施形態では、1つのステップが、他のステップの不在下で繰り返される。例えば、HABAを投与し、低酸素を誘導した後に、免疫チェックポイント阻害剤が、処置のコースにわたる投薬スケジュールに従って、2回またはそれよりも多い回数投与されてもよい。一部の実施形態では、HABAを投与し、低酸素を誘導した後に、免疫チェックポイント阻害剤が、処置のコースにわたる投薬スケジュールに従って、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20回またはそれよりも多い回数投与される。一部の実施形態では、HABAを投与し、低酸素を誘導する前に、免疫チェックポイント阻害剤が、処置のコースにわたる投薬スケジュールに従って、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20回またはそれよりも多い回数投与される。一部の実施形態では、HABAを投与し、低酸素を誘導した後に、免疫チェックポイント阻害剤が、処置のコースにわたる投薬スケジュールに従って、1時間ごと、1日ごと、1週ごと、または1か月ごとに投与される。
【0048】
一部の実施形態では、本開示の、方法、組成物およびキットは、被験体の増殖障害、特に1つまたは複数の固形腫瘍を含むものの処置において有用である。増殖障害の例には、棘細胞腫、腺房細胞癌、聴神経腫、末端黒子型黒色腫、先端汗腺腫、急性好酸球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、急性巨核芽球性白血病、急性単球性白血病、成熟した急性骨髄芽球性白血病、急性骨髄性樹状細胞白血病、急性骨髄性白血病、急性前骨髄球性白血病、アダマンチノーマ、腺癌、アデノイド嚢胞癌、アデノーマ、腺様歯原性腫瘍、副腎皮質癌、成人T細胞白血病、侵攻性NK細胞白血病、AIDS関連がん、AIDS関連リンパ腫、胞状軟部肉腫、エナメル上皮線維腫、肛門がん、未分化大細胞型リンパ腫、未分化甲状腺がん、血管免疫芽細胞性T細胞リンパ腫、血管筋脂肪腫、血管肉腫、虫垂がん、星状細胞腫、非定型奇形腫様横紋筋肉腫様腫瘍、基底細胞癌、基底様癌、B細胞白血病、B細胞リンパ腫、ベッリーニ腺管癌、胆道がん、膀胱がん、芽細胞腫、骨がん、骨腫瘍、脳幹神経膠腫、脳腫瘍、乳がん、ブレンナー腫瘍、気管支腫瘍、細気管支肺胞癌、ブラウン腫瘍、バーキットリンパ腫、原発部位不明のがん、カルチノイド腫瘍、癌腫、上皮内癌、陰茎の癌、原発部位不明の癌腫、癌肉腫、キャッスルマン病、中枢神経系胚芽腫、小脳星状細胞腫、大脳星状細胞腫、子宮頸がん、胆管癌、軟骨腫、軟骨肉腫、脊索腫、絨毛癌、脈絡叢乳頭腫、慢性リンパ性白血病、慢性単球性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性骨髄増殖性疾患、慢性好中球性白血病、明細胞腫瘍、結腸がん、結腸直腸がん、頭蓋咽頭腫、皮膚T細胞リンパ腫、デゴス病、隆起性皮膚線維肉腫、皮様嚢腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、胚芽異形成性神経上皮腫瘍、胎児性癌、内胚葉洞腫瘍、子宮内膜がん、子宮内膜子宮がん、子宮内膜性腫瘍、腸症関連T細胞リンパ腫、上衣芽腫、上衣腫、類上皮肉腫、赤白血病、食道がん、感覚神経芽腫、ユーイングファミリー腫瘍、ユーイングファミリー肉腫(Ewing Family Sarcoma)、ユーイング肉腫(Ewing’s Sarcoma)、頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管がん、乳房外ページェット病、卵管がん、胎児内胎児、線維腫、線維肉腫、濾胞性リンパ腫、濾胞性甲状腺がん、胆嚢がん、胆嚢がん、神経節膠腫、神経節細胞腫、胃がん、胃リンパ腫、胃腸がん、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍、消化管間質腫瘍、胚細胞腫瘍、胚細胞腫、妊娠性絨毛癌、妊娠性絨毛性腫瘍、骨巨細胞腫瘍、多形神経膠芽腫、グリオーマ、大脳神経膠腫症、グロームス腫瘍、グルカゴノーマ、性腺芽腫、顆粒膜細胞腫瘍、有毛細胞白血病、有毛細胞白血病、頭頚部がん、頭頚部がん、心臓がん、血管芽腫、血管外皮細胞腫、血管肉腫、血液系腫瘍、肝細胞癌、肝脾T細胞リンパ腫、遺伝性乳がん-卵巣がん症候群、ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、視床下部グリオーマ、炎症性乳がん、眼球内黒色腫、膵島細胞癌、膵島細胞腫瘍、若年性骨髄単球性白血病、カポジ肉腫、カポジ肉腫、腎がん、クラツキン腫瘍、クルーケンベルグ腫瘍、喉頭がん、喉頭がん、悪性黒子黒色腫、白血病、白血病、口唇口腔がん、脂肪肉腫、肺がん、黄体腫、リンパ管腫、リンパ管肉腫、リンパ上皮腫、リンパ性白血病、リンパ腫、マクログロブリン血症、悪性線維性組織球腫、悪性線維性組織球腫、骨の悪性線維性組織球腫、悪性グリオーマ、悪性中皮腫、悪性末梢神経鞘腫瘍、悪性ラブドイド腫瘍、悪性トリトン腫瘍、MALTリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、マスト細胞白血病、縦隔胚細胞腫瘍、縦隔腫瘍、甲状腺髄様がん、髄芽腫、髄芽腫、髄上皮腫、黒色腫、黒色腫、髄膜腫、メルケル細胞癌、中皮腫、中皮腫、原発不明の転移性扁平上皮頚部がん(Metastatic
Squamous Neck Cancer with Occult Primary)、転移性尿路上皮癌、転移性結腸
直腸がん、ミュラー管混合腫瘍、単球性白血病、口腔がん(Mouth Cancer)、粘液性腫瘍、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性骨髄腫、多発性骨髄腫、菌状息肉症、菌状息肉症、骨髄異形成疾患、骨髄異形成症候群、骨髄性白血病、骨髄肉腫、骨髄増殖性疾患、粘液腫、鼻腔がん、鼻咽頭がん、鼻咽頭癌、新生物、神経鞘腫、神経芽細胞腫、神経芽細胞腫、神経線維腫、神経腫、結節性黒色腫、非ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、非黒色腫皮膚がん、非小細胞肺がん、眼性腫瘍(Ocular oncology)、乏突起星細胞腫(Oligoastrocytoma)、乏突起神経膠腫、オンコサイトーマ、視神経鞘髄膜腫、口腔がん(Oral Cancer)、口腔がん(Oral cancer)、口咽頭がん、骨肉腫、骨肉腫、卵巣がん、卵巣がん、卵巣上皮がん、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、乳房ページェット病、パンコースト腫瘍、膵がん、膵がん、乳頭状甲状腺がん、乳頭腫症、傍神経節腫、副鼻腔がん、副甲状腺がん、陰茎がん、血管周囲類上皮細胞腫瘍、咽頭がん、褐色細胞腫、中分化の松果体実質腫瘍、松果体芽腫、下垂体細胞腫、下垂体腺種、下垂体腫瘍、形質細胞腫瘍、胸膜肺芽腫、多胚腫、前駆Tリンパ芽球性リンパ腫、原発性中枢神経系リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、原発性肝細胞がん、原発性肝がん、原発性腹膜がん、原始神経外胚葉性腫瘍、前立腺がん、腹膜偽性粘液腫、直腸がん、腎細胞癌、クロロソーム15上にNUT遺伝子を含む気道癌、網膜芽細胞腫、横紋筋腫、横紋筋肉腫、リヒタートランスフォーメーション、仙尾部奇形腫、唾液腺がん、肉腫、神経鞘腫症、脂腺癌、続発性新生物、セミノーマ、漿液性腫瘍、セルトリ-ライディッヒ細胞腫、性索間質性腫瘍、セザリー症候群、印環細胞癌、皮膚がん、小型青細胞腫瘍(Small blue round cell tumor)、小細胞癌、小細胞肺がん、小細胞リンパ腫、小腸がん、軟部組織
肉腫、ソマトスタチン産生腫瘍、煤煙性疣、脊髄腫瘍、脊椎腫瘍(Spinal tumor)、脾
臓周辺帯リンパ腫、扁平上皮癌、胃がん、表在拡大型黒色腫、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、表面上皮間質腫瘍、滑膜肉腫、T細胞急性リンパ芽球性白血病、T細胞大型顆粒リンパ球白血病、T細胞白血病、T細胞性リンパ腫、T細胞性前リンパ性白血病、奇形腫、末期リンパ性がん(Terminal lymphatic cancer)、精巣がん、莢膜細胞腫、咽喉がん
、胸腺癌、胸腺腫、甲状腺がん、腎盂および尿管の移行上皮がん、移行上皮癌、尿膜管がん、尿道がん、泌尿生殖器新生物、子宮肉腫、ぶどう膜黒色腫、膣がん、ベルネル・モリソン症候群、疣状癌、視経路グリオーマ、外陰がん、ワルデンストレームマクログロブリン血症、ウォーシン腫瘍、ウィルムス腫瘍、またはこれらの任意の組合せが挙げられるがこれらに限定されない。一部の実施形態では、固形腫瘍が処置される。固形腫瘍の例には、肺がん、乳がん、結腸直腸がん、膀胱がん、頭頚部がん、卵巣がんおよび膵がんが挙げられるがこれらに限定されない。一部の実施形態では、HABAの投与と低酸素の誘導と免疫チェックポイント阻害剤の投与との組合せは、被験体における増殖障害の処置において相乗効果を呈する。
【0049】
がんの処置における有効性は、特に、任意の好適な測定基準によって測定されうる。一部の実施形態では、治療有効性は、がん等の増殖障害の処置の効果に基づいて測定される。一般に、増殖障害(例えばがん、良性であっても悪性であっても)の処置に関して、本発明の方法および組成物の治療有効性は、方法および組成物が、腫瘍細胞増殖の阻害、腫瘍血管化の阻害、腫瘍細胞の根絶、および/またはヒトが増殖障害のために処置されるような少なくとも1つの腫瘍の大きさの縮小を、促進する程度によって測定されうる。治療有効性の決定において考慮されるいくつかのパラメータが、本明細書で考察される。特定の状況についてのパラメータの適当な組合せが、臨床医によって確立されうる。がんの処置における本発明の方法の進捗(例えば腫瘍の大きさの縮小、またはがんの細胞の根絶)は、任意の好適な方法、例えばクリニックで現在使用されている、腫瘍の大きさおよびがんの進行を追跡する方法を使用して確かめられうる。一部の実施形態では、がんの処置を評価するのに使用される主要な有効性パラメータは、好ましくは、腫瘍の大きさの縮小である。腫瘍の大きさは、任意の好適な技術、例えば寸法の測定、または入手可能なコンピュータソフトウエア、例えば、腫瘍の体積の正確な概算を可能にする、ウェイクフォレスト大学で開発されたFreeFlightソフトウェアを使用する腫瘍の体積の概算を使用して決定されうる。腫瘍の大きさは、例えば、CT、超音波、SPECT、スパイラルCT、MRI、写真などを使用する腫瘍の可視化によって決定されうる。腫瘍が治療期間完了後に外科的に切除される実施形態では、腫瘍組織の存在および腫瘍の大きさは、切除される組織のグロス分析によって、および/または切除された組織の病理分析によって決定されうる。
【0050】
望ましくは、腫瘍の成長は、処置の結果として安定する(すなわち、1つまたは複数の腫瘍が、大きさにおいて、1%、5%、10%、15%または20%超で増加せず、および/または転移しない)。一部の実施形態では、腫瘍は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12週またはそれよりも多い週の間、安定する。一部の実施形態では、腫瘍は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12か月またはそれよりも多い月の間、安定する。一部の実施形態では、腫瘍は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10年またはそれよりも多い年の間、安定する。好ましくは、腫瘍の大きさは、少なくとも約5%(例えば少なくとも約10%、15%、20%または25%)縮小する。より好ましくは、腫瘍の大きさは、少なくとも約30%(例えば少なくとも約35%、40%、45%、50%、55%、60%または65%)縮小する。さらにより好ましくは、腫瘍の大きさは、少なくとも約70%(例えば少なくとも約75%、80%、85%、90%または95%)縮小する。最も好ましくは、腫瘍は、完全に除去される、または検出レベル未満に縮小する。一部の実施形態では、被験体は、処置に続く少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12週またはそれよりも多い週の間、腫瘍なしのままである(例えば寛解にある)。一部の実施形態では、被験体は、処置に続く少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12か月またはそれよりも多い月の間、腫瘍なしのままである。一部の実施形態では、被験体は、処置後、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10年またはそれよりも多い年の間、腫瘍なしのままである。
【0051】
腫瘍が治療期間の完了に続いて外科的切除に供されるとき、腫瘍の大きさの縮小における本発明の方法の有効性は、壊死している(すなわち死んだ)切除された組織の百分率の測定によって決定されうる。一部の実施形態では、処置は、切除された組織の壊死の百分率が約20%超(例えば少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%)、より好ましくは約90%またはそれよりも多い(例えば約90%、95%または100%)である場合に、治療上有効である。最も好ましくは、切除された組織の壊死の百分率は、約100%であり、すなわち腫瘍組織は存在しない、または検出可能でない。
【0052】
多くの二次的パラメータが、本発明の方法の有効性を決定するのに利用されうる。二次的パラメータの例には、新しい腫瘍の検出、腫瘍抗原または腫瘍マーカー(例えばCEA、PSAまたはCA-125)の検出、生検、外科的ダウンステージング(すなわち、切除不能から切除可能への、腫瘍の外科的ステージの変換)、PETスキャン、生存率、疾患無増悪生存率、疾患進行への時間、臨床的有用性応答評価等の生活の質の評価などが挙げられるがこれらに限定されず、これらのすべては、ヒトにおけるがんの全体的進行(または退行)を指し示すことができる。生検は、組織内の、がん性細胞の根絶を検出するのにとりわけ有用である。放射免疫検出法(RAID)は、腫瘍によって生成された、および/または腫瘍に関連する、マーカー(抗原)(「腫瘍マーカー」または「腫瘍関連抗原」)の血清レベルを使用して腫瘍の位置を突き止め、ステージ分類するのに使用され、処置前の診断的断定、処置後の再発の診断的指標、および処置後の治療有効性の指標として有用でありうる。治療有効性の指標として評価されうる腫瘍マーカーまたは腫瘍関連抗原の例には、癌胎児性抗原(carcinembryonic antigen)(CEA)、前立腺特異抗原(PSA)、CA-125、CA19-9、ガングリオシド分子(例えばGM2、GD2およびGD3)、MART-1、熱ショックタンパク質(例えばgp96)、シアリルTn(STn)、チロシナーゼ、MUC-1、HER-2/neu、c-erb-B2、KSA、PSMA、p53、RAS、EGF-R、VEGF、MAGEおよびgp100が挙げられるがこれらに限定されない。他の腫瘍関連抗原が、当技術分野で公知である。内視鏡検出システムと組み合わされたRAID技術もまた、小さい腫瘍を、その周りの組織から効率的に識別する(例えば米国特許第4932412号を参照されたい)。
【0053】
一部の実施形態では、ヒト患者におけるがんの処置は、以下の結果のうちの1つまたは複数によって証明される:(a)腫瘍の完全な消失(すなわち完全奏効)、(b)治療期間の完了後少なくとも4週間の間、腫瘍の大きさが、処置前の腫瘍の大きさと比べて約25%~約50%縮小、(c)治療期間の完了後少なくとも4週間の間、腫瘍の大きさが、治療期間前の腫瘍の大きさと比べて少なくとも約50%縮小、および(d)治療期間の完了後約4~12週に、特異的な腫瘍関連抗原レベルが、治療期間前の腫瘍関連抗原レベルと比べて少なくとも2%低下(例えば約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%低下)。腫瘍関連抗原レベルの少なくとも2%低下が好ましいが、腫瘍関連抗原レベルの任意の減少が、患者におけるがんの処置の証拠である。例えば、切除不能な、局所的に進行した膵がんに関して、処置は、治療期間の完了後第4~12週でのCA19-9腫瘍関連抗原レベルの、治療期間前のCA19-9レベルと比べての少なくとも10%低下によって証明されうる。同様に、局所的に進行した直腸がんに関して、処置は、治療期間の完了後第4~12週でのCEA腫瘍関連抗原レベルの、治療期間前のCEAレベルと比べての少なくとも10%低下によって証明されうる。
【0054】
生活の質の評価、例えば臨床的利益応答基準(Clinical Benefit Response Criteria)に関して、本発明による処置の治療的利益は、痛み強度、鎮痛剤消費および/または
カルノフスキーパフォーマンススケールスコアの点で証明されうる。カルノフスキーパフォーマンススケールは、患者を、彼らの機能的欠陥に従って分類することを可能にする。カルノフスキーパフォーマンススケールは、0~100でスコア付けされる。一般に、より低いカルノフスキースコアは、生存のための予後不良を予測する。そのため、ヒト患者におけるがんの処置は、代替的にまたは付加的に、(a)患者によって報告される痛み強度が、例えば処置の完了後12週間のうちの任意の連続する4週間の期間中に、処置前に患者により報告された痛み強度と比べて少なくとも50%低下(例えば少なくとも60%、70%、80%、90%もしくは100%低下)、(b)患者により報告される鎮痛剤消費が、例えば処置の完了後12週間のうちの任意の連続する4週間の期間中に、処置前に患者により報告された鎮痛剤消費と比べて少なくとも50%減少(例えば少なくとも60%、70%、80%、90%もしくは100%減少)、および/または(c)患者により報告されるカルノフスキーパフォーマンススケールスコアが、例えば治療期間の完了後12週間のうちの任意の連続する4週間の期間中に、治療期間前に患者により報告されたカルノフスキーパフォーマンススケールスコアと比べて少なくとも20ポイント増加(例えば少なくとも30ポイント、50ポイント、70ポイントもしくは90ポイント増加)によって証明される。
【0055】
ヒト患者における増殖障害(例えばがん、良性であっても悪性であっても)の処置は、望ましくは、前述の結果のうちの1つまたは複数(任意の組合せで)によって証明されるが、参照される試験および/または他の試験の、代替的なまたは付加的な結果が、処置の有効性を証明することができる。
【0056】
一部の実施形態では、腫瘍の大きさは、好ましくは、被験体における有意な有害事象なしで縮小される。有害事象は、米国国立がん研究所(NCI)のがん治療評価プログラム(CTEP)によって分類され、または「グレード付け」され、グレード0は最小の有害な副作用を表し、グレード4は最も重篤な有害事象を表す。NCIの毒性スケール(1999年4月に刊行)および一般毒性基準マニュアル(Common Toxicity Criteria Manual)(1999年8月に更新)が、NCIを通じて、例えばNCIインターネットウェブサイトwww.ctep.info.nih.govを通じて、またはNCIがん治療診断部門が後援している
、治験薬の臨床試験における参加者用の、治験責任医師のハンドブック(1998年3月に更新)中で入手可能である。望ましくは、本明細書に記載の方法は、CTEP/NCIによるグレード付けで、最小の有害事象、例えばグレード0、グレード1またはグレード2の有害事象に関連する。しかしながら、腫瘍の大きさの縮小は、好ましくはあるが、腫瘍細胞の根絶(例えば壊死で)にもかかわらず腫瘍の実際の大きさが縮まないことがあるが故に、求められてはいない。がん性細胞の根絶が、治療効果を明確に理解するのに十分である。同様に、腫瘍の大きさにおける任意の縮小も、治療効果を明確に理解するのに十分である。
【0057】
ヒトにおけるさまざまながんの、検出、モニタリングおよびレーティングは、Cancer Facts and Figures 2001、American Cancer Society、New York、N.Y.、および国
際特許出願WO01/24684にさらに記載されている。したがって、臨床医は、標準的な試験を使用して、がんの処置における本発明の方法のさまざまな実施形態の有効性を決定することができる。しかしながら、腫瘍の大きさおよび広がりに加えて、臨床医はまた、処置の有効性の評価において、生活の質および患者の生存も考慮することがある。
【0058】
一部の実施形態では、HABAの投与、低酸素の誘導、および免疫チェックポイント阻害剤の投与は、いずれかの薬剤単独による処置、双方の薬剤を同時に送達する処置、および/または双方の薬剤の逆の順による処置によって、改善された治療有効性を提供する。改善された有効性は、本明細書に記載のものが挙げられるがこれらに限定されない任意の好適な方法を使用して測定されうる。一部の実施形態では、改善された治療有効性とは、適切な尺度(例えば腫瘍の大きさの縮小、腫瘍の大きさが安定な期間、転移事象のない期間、無疾患生存の期間)を使用して、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、95%、100%、110%、120%、150%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、1000%、10000%またはそれよりも多い改善である。改善された有効性はまた、適切な尺度(例えば腫瘍の大きさの縮小、腫瘍の大きさが安定な期間、転移事象のない期間、無疾患生存の期間)を使用して、少なくとも約2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、1000倍、10000倍またはそれより多い倍数などの倍数改善(fold improvement)として表されうる。
【0059】
一態様では、本開示は、本明細書に記載の任意の使用によるなど、被験体における固形腫瘍への免疫応答を強化するためのキットを提供する。キットは、本明細書に記載の1種または複数の組成物を、任意の組合せで含むことができる。一部の実施形態では、キットは、(a)低酸素活性化生体還元剤(HABA)、(b)低酸素誘導剤または塞栓剤、および(c)免疫チェックポイント阻害剤を含む。HABA、低酸素誘導剤、塞栓剤および免疫チェックポイント阻害剤の非限定的な例は、例えば本開示のさまざまな方法に関して、上に提供されている。一部の実施形態では、キットは、臨床医、保健医療提供者または患者による使用のための指示、例えば印刷物または包装物をさらに含む。キット中の医薬組成物および他の材料は、任意の好適な容器中に含有されてもよく、即座に使用可能な形態であってもよく、またはキット中の他の試薬、もしくは使用者により供給される試薬との組合せ(例えば濃縮組成物の希釈、または凍結乾燥組成物の再形成)を要件としてもよい。
【実施例0060】
以下の実施例は、本発明のさまざまな実施形態を例示する目的で付与され、いかなる方法であれ本発明を限定することを意味しない。本実施例は、本明細書に記載の方法と共に、好ましい実施形態を現在代表するものであり、例示であり、本発明の範囲の限定であるとは意図されない。特許請求の範囲の範囲により定義される本発明の精神内に包含される、そこにおける変更および他の使用は、当業者ならば想起される。
【0061】
(実施例1)
肝細胞癌モデルにおけるチラパザミンと肝動脈結紮との組合せ。
【0062】
材料および方法:すべてのHBxトランスジェニックマウスを、特定の病原体のない施設で育て、追跡した。続いて、個々のマウスの尾を、3週齢での離乳において、遺伝子型判定プロセスのために収集した。肝細胞癌(HCC)は、17~18月齢で、雄のHBxトランスジェニックマウスのうちの>95%で自然に発生した。直径0.5~2cmの腫瘍を有するトランスジェニックマウスを本研究で使用した。
【0063】
チラパザミンと肝動脈結紮での、腫瘍を保持するHBxマウスの処置:HBxトランスジェニックマウスを40分間、左肝動脈結紮に供し、その後、絹結紮をほどいた。薬物の効果についての研究の間、0.9%の食塩水、ドキソルビシン(10mg/kg)またはTPZ(3mg/kg)を、肝動脈結紮の前に7分間、各マウスの尾静脈に注射した。注射の完了後、正中線開腹を,肝臓の左葉および肝臓門を露出させるために実施して、一時的な結紮のために,左肝動脈または総肝動脈を解剖した。すべてのマウスを、実験の間、400mg/kgのavertin(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO、USA)の腹腔内注射で麻酔した。一連の血清試料を、第1週以内に、ARKRA
Y Spotchem EZ Chemistry Analyzer SP-4430(Arkray,Inc.、京都、日本)を使用することによって、ALTおよび総ビリルビンを評価するために収集した。1日または7日後に、肝臓組織を、HE染色のために収集した。
【0064】
腫瘍壊死の組織像および形態計測分析:各マウスについて、全腫瘍および隣接した非腫瘍状領域を含有する肝臓組織を、10%のホルムアルデヒド中に一晩固定し、パラフィン中に包埋した。全腫瘍を横断する肝臓組織切片(厚さ3μm)を、組織学的分析のために、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色に供した。各腫瘍における壊死の百分率を、ImageJソフトウェア(バージョン1.46r、National Institutes of Health、Bethesda、MD、USA)を使用することによって、全腫瘍をカバーする5つの横断片において、壊死の面積を総腫瘍面積で割って定量した。詳細な結果を、以下でさらに考察する。
【0065】
(実施例2)
肺がんモデルにおけるチラパザミンとコンブレタスタチンA4とDMXAAとの組合せ。
【0066】
材料および方法:ヒト肺がんNCI-H460細胞をATCCから購入し、本研究で使用した。細胞を、マウスに植え付ける前に、5継代以内で継代培養した。動物の順化期間の後、無血清媒体/マトリゲル(50:50のv/v)200μL中およそ1.5×106個のNCI-H460細胞を、各マウスへ、3~4%のイソフルランでの麻酔下、皮下注射した。BALB/cヌードマウス、雄、約4~5週齢、体重18~20gをShanghai SLAC Laboratory Animal Co.Ltd.、中国から購入し、動物施設に、処置群ごとにマウス3~5匹/ケージで収容した。マウスは、食物(放射線照射されたもの、Shanghai SLAC Laboratory Animal Co.Ltd.、中国)および水(Mol Ultrapure Water Systemにより濾過した自治体の水道水)を自由に摂取させた。
【0067】
各群からのマウスを、最初の投薬後18日目に、CO2窒息、続いて頚椎脱臼で安楽死させ、腫瘍を収集し、秤量し、その写真を撮影した。ホルマリン固定した腫瘍を、組織病理学作業のために使用した。ホルマリン固定後、腫瘍をパラフィン包埋してFFPEブロックを得た。1匹のマウスからの各腫瘍塊について1つのブロックを作製した。FFPEブロックを、厚さ約4μmで切開し、H&E染色、組織病理学検査、および腫瘍壊死の定量のために処理した。詳細な結果を、以下でさらに考察する。
【0068】
(実施例3)
in vivoでの、腫瘍壊死の誘導、および腫瘍の、がんワクチンへの変換。
【0069】
腫瘍不均質性およびゲノム不安定性の問題を解決するための、理想的ながんワクチンは、各患者の自己腫瘍である。しかしながら、腫瘍自体は、典型的にはきわめて免疫原性というわけではなく、抗腫瘍免疫の程度は、一般に、免疫チェックポイント阻害剤単独の存在下でさえ十分でない。免疫応答は、T細胞への腫瘍関連抗原の提示をもたらし腫瘍特異性T細胞の集団を増加させる強力な炎症反応と関連する腫瘍壊死を誘導することによって強化されうる。腫瘍壊死の誘導の1つのアプローチは、例えば、正常な肝臓への有意な損傷なしに、腫瘍を供給している肝動脈の塞栓形成を可能にする、門脈と肝動脈とからの二重の血液供給を伴う器官である肝臓内のがんにおいて適用可能である。腫瘍壊死を誘導する戦略は、チラパザミンと低酸素活性化剤と動脈塞栓術(TAE)とを組み合わせて、腫瘍壊死を誘導するようにチラパザミンを活性化させる腫瘍低酸素を生み出すことである。組合せの有効性は、HBxトランスジェニックマウスモデルで確認した。
【0070】
本研究で使用する動物モデルは、肝細胞の、腫瘍への変換を誘導することが可能であると示された、B型肝炎ウイルスのがん遺伝子であるHBxを発現しているトランスジェニックマウスである。HBxトランスジェニックマウスは、およそ18か月で肝細胞癌を自然に発生する。腫瘍病変は、ベースラインの腫瘍壊死を有さず、チラパザミンと肝動脈結紮(HAL)との組合せにより誘導された腫瘍壊死の程度の調査のために使用することは、理想的である。HBxトランスジェニックマウスモデルにおいて、一時的なHALと組み合わせるチラパザミンの有効用量は、最初の滴定検査で3mg/kgであると最初に確立された。次に、HALとの組合せにおけるチラパザミンの有効性を調べ、TACEで通常使用される化学療法剤、ドキソルビシンと比較した。小群を最初に試験して、一時的な左HALとともに蝕知可能なHCCを有するHBxトランスジェニックマウスを処置するのに、食塩水(n=1)、ドキソルビチン(10mg/kg、n=1)および、チラパザミン(3mg/kg、n=1)の効果とを比較した。マウスを、チラパザミンと一過性左HALとによる処置の1日後に屠殺した。ALTレベルは、チラパザミンで処置したマウスにおいて、ドキソルビシンで処置したマウスにおけるよりもはるかに大きく上昇した。処置後1日目での組織病理学検査は、チラパザミンが、HALの領域内でHCCにおいて99%超の壊死を誘導し、対照的にドキソルビシンで処置したHCCではわずか約5%の壊死を誘導したことを示した。この結果は、HALと組み合わせたときに、チラパザミンがドキソルビシンよりもはるかに、腫瘍壊死を誘導するのに効果的であることを示ししていた。
【0071】
同じ研究を、処置後7日目の組織病理学的変化を調べるために行った。各群で使用したマウスの数は、食塩水(n=2)、ドキソルビシン(10mg/kg、n=2)およびチラパザミン(3mg/kg、n=3)であった。腫瘍血流を、oxyFloセンサーでモニタリングし、チラパザミンまたはドキソルビシンのいずれかで処置したHCCでは、血流がHALで30%下がったことを示し、これは腫瘍低酸素を誘導するのに十分であった。
【0072】
マウス体重の分析は統計的に有意な変化を示さなかったが、ドキソルビシンで処置したマウスにおける平均体重はわずかに少ないようであった(
図2A)。血清中の総ビリルビンのレベルは、7日間を通じて3つの群の間ですべてが正常範囲内であった(
図2B)。血清ALTレベルは、チラパザミンと一時的な左HALとで処置した群で1日目にピークに達した(
図2C)。その後、ALTレベルは低下し、3日目ごろに正常に戻った。ドキソルビシンと一時的なHALもまた、1日目にALT上昇を誘導したが、チラパザミンと左HALよりも低く、双方の群におけるALTは、2日目に正常のレベルに戻った。7日目の解剖の間、チラパザミンと一時的なHALとで処置したHCCで腫瘍壊死が起きたことがその薄い色によって明らかであったが、食塩水またはドキソルビシンで処置したマウスからのHCCでは明らかでなかった(
図2D)。H&E染色による組織病理学的分析により、左HALの領域のHCCが、チラパザミンと左HALとの組合せ処置後に90~99%の壊死を有したことを確認した。左HALと組み合わせた、食塩水またはドキソルビシンで処置したHCCにおいて、病理学的変化は、ほとんどまたは全く検出されなかった(
図2E)。これらのマウスが複数のHCCを頻繁に有したので、内部対照として役立った、右葉に存在する腫瘍小結節があった。腫瘍壊死は、いずれの動物でも右葉のいずれでも起きなかった。肝臓の左葉の腫瘍のない部分では壊死の証拠は見られず、これは、チラパザミンと左HALとの組合せが、7日目までに、同じ葉の正常な肝臓においていかなる有意な損傷も生じなかったことを示している。ALTの上昇により示唆されるように1日目に一時的な損傷がありえたにもかかわらず、それは、7日目に完全に回復した。
【0073】
研究結果は、腫瘍壊死の誘導において、チラパザミンとTAEとの組合せが、TAE単独、またはドキソルビシンとTAEとの組合せよりも良好であることを示している。ドキソルビシンは、中間ステージのHCCの処置のための、TACE(動脈化学塞栓術)の化学療法成分として現在使用されている。上に記載のデータは、HCCに対して免疫を引き起こすべく最大の腫瘍壊死を達成するためには、チラパザミンをTAEとの組合せで使用するのが、TACEをドキソルビシンとの組合せで使用するよりもはるかに良好であることを示している。
【0074】
次いで、同一のモデルを、処置後の腫瘍壊死の程度を調べるために、および、このアプローチによって誘導される腫瘍壊死が、抗原提示細胞として役立つマクロファージ/樹状細胞によって壊死性残屑の食作用を促進する有意な炎症応答を伴うかどうかを調べるために使用した。より高出力の図(
図3)では、腫瘍壊死の百分率を、組織学的切片の複数の片を集めてチラパザミンとHALとでの処置後の腫瘍壊死の全体の百分率を評価することによって決定した。全体の腫瘍のうちの99%超が壊死となったことを観察した。壊死性腫瘍の周辺領域を詳細に調べて炎症性細胞浸潤を探した。
図3の挿入画像は、壊死性腫瘍の周辺領域がきわめて強い炎症性浸潤を有していたことを示しており、壊死が炎症応答を引き起こすという理論と一致する。
【0075】
(実施例4)
肝細胞癌を有する、塞栓形成に好適である患者における、チラパザミンと動脈塞栓術(TAE)との組合せを使用する腫瘍壊死の誘導。
【0076】
ヒトにおいてTAEと組み合わせたチラパザミンの臨床的忍容性および有効性を試験するために、第I相用量確定研究(dose-defining study)を米国の主要な医療センターで開始して、忍容性、予備的有効性を調べ、TAEと組み合わせたときのチラパザミンの推奨される第2相の用量(RP2D)を決定した。登録したHCC患者は、Child-PughクラスAであり、外科候補ではなく、4つまでの腫瘍病変を有し、その大きさが10cmを超える腫瘍病変はなく、塞栓形成に好適であった。最初の12名の評価可能な患者の結果は、分析に利用可能であった。
【0077】
最初の2つのコホートで、チラパザミンを、5mg/m2および10mg/m2で全身IV注射により投与し、これは、先の第3相研究で使用した用量250~330mg/m2よりも有意に少ない。用量は、チラパザミンおよび左肝動脈結紮のマウス研究(実施例1)ならびに動物モデル研究で実証された有力な結果から推定される中毒量の1/10に相当する量に基づいて選択した。3名の患者は、いずれかのコホートに登録した。処置は、毒性または用量制限毒性(DLT)が観察されず、すべてで忍容された。その後、ラット毒物学研究において、投与経路を、動脈内(IA)投与で良好に忍容されているプロファイルに基づく肝動脈経由のIAに切り換え、続いて肝動脈結紮を行った。IA経路の開始臨床用量は5mg/m2とし、これは忍容されると示されたIV用量の50%である。次いで、IAコホートの用量を、おのおののコホートの3名の患者で10mg/m2まで上方用量設定した。処置は、毒性または用量制限毒性(DLT)が観察されないすべての患者で忍容された。
【0078】
最初の12名の患者の予備的有効性を分析し、
図4に例示した。有効性の成果は、生存腫瘍の大きさだけが測定されるように、改訂版「固形腫瘍における応答評価基準(Response Evaluation Criteria In Solid Tumors)」(RECIST)の基準に基づくコ
ントラストMRIによって読み取る。予備的有効性分析は、(
図4)にあるような、コントラストで強調された病変を有していない6/12の評価可能な患者で、ロバストな活性を示し、これは、すべての腫瘍組織が壊死になったことを示しており、すなわち、TAEとともにチラパザミンの単回処置後に、改訂版RECISTによって、完全奏効(CR)を達成した。追加の3名の患者は、30%を超える壊死または部分奏効(PR)を有していた。全体の奏効率(CR+PR)は83%であった。この結果は、過去に動脈化学塞栓術(TACE)を受けた10,000名を超える患者のメタ分析でCR+PRが50%と報告された歴史的対照と比べ、有意に良好である。
【0079】
(実施例5)
チラパザミンと動脈塞栓術とで処置した他の腫瘍病変を有していた患者における、未処置の病変についての腫瘍の縮小。
【0080】
第I相臨床研究で処置した12名の患者において、数人の患者は複数の腫瘍病変を有し、1つの単回手技で処置することができなかった。1名の患者は、最大直径がそれぞれ15mm、26mm、10mmの大きさである3つの病変を有していた。血管供給に起因して、介入放射線医は26mmおよび10mmの病変を処置することを選び、それは、それらが互いに近くに位置していたためであった。15mmである第3の病変は、第1の手技では未処置のままにした。第6週で追跡MRIを実施したとき、処置した2つの病変がCRを達成し、ベースラインが15mmだった第3の病変はその最大直径がわずか9mmまで縮小していたことを見出した。この知見と整合する1つの可能性のある説明は、2つの病変の処置が抗腫瘍免疫を誘導し、これが未処置の病変を小さくしたというものである。換言すれば、処置された2つの病変が、患者の免疫系を強化して、残っている腫瘍病変を制御するがんワクチンとして潜在的に役立った。
【0081】
(実施例6)
非肝臓組織における、チラパザミンと血管破壊剤とを使用する腫瘍壊死の誘導。
【0082】
腫瘍壊死を誘導する別のアプローチは、塞栓形成手技を受け入れにくいさまざまな固形腫瘍での適用のためのものである。この実施例において、固形腫瘍中で低酸素を誘導するアプローチは、血管破壊剤、例えばDMXAA(5,6-ジメチルキサンテノン-4-酢酸、ASA404もしくはバジメザンとも呼ばれる)、またはコンブレタスタチンA4、コンブレタスタチンA4ホスフェートを含むスチルベン誘導体、またはcis-3,4’,5-トリメトキシ-3’アミノスチルベン(スチルベン4a)の使用によるものである。これらの化合物は、腫瘍の血流を遮断して腫瘍低酸素を誘導することができることが実証されている(Chaplin DJ、2006年)(Tozar GM、2005年)。この実施例では、チラパザミンと、コンブレタスタチンA4またはDMXAAとの組合せを、例として肺がん異種移植モデルにおいて調べて、腫瘍壊死を誘導するそれらの能力を試験した。
【0083】
NCI-H460ヒト肺がん細胞をBALB/cヌードマウスに皮下注射して腫瘍異種移植を形成することにより肺がんマウスモデルを作製して、チラパザミンと、2種の血管破壊剤、コンブレタスタチンA4またはDMXAAとの組合せを試験した。腫瘍の平均体積が約480~550mm3(直径およそ1cm)に達し、腫瘍が固形であり大きさが増加しているとき、腫瘍を保持しているマウスに、チラパザミン(30mg/kgのi.p.)、およびコンブレタスタチンA4(10mg/kgのi.v.)またはDMXAA(20mg/kgのi.v.)のいずれかを、週に1回、2用量投薬して、組合せが腫瘍壊死を誘導することが可能であることを確実にした。チラパザミンを最初に与え、次いで3~5分後にコンブレタスタチンA4またはDMXAAを注射した。双方の血管破壊剤が、腫瘍血管系のほとんど即時の遮断を引き起こした。動物を、最初の投薬後3週間まで、任意の異常について観察した。
【0084】
処置したマウスを3週目の終わりに屠殺し、腫瘍を、H&E染色による組織学検査のために収集した。ほとんどの腫瘍が約50~70%の腫瘍壊死を呈し、その一方で、ノーマルセーラインで処置した対照の腫瘍は20%未満の壊死を有していた。代表的な組織病理写真を
図5に示す。鍵となる知見は、処置後の腫瘍壊死の領域が広大であること、および壊死性腫瘍の周囲に強い炎症性浸潤があることである。この結果は、腫瘍壊死は強い炎症反応と関連しそのため抗腫瘍免疫を高めることが可能であるという、HCCにおける先の知見と一致する。
【0085】
チラパザミンと、TAEまたは血管破壊剤のいずれかとの組合せにより誘導された壊死性腫瘍によって自己腫瘍「ワクチン化」が達成されると、誘導されたT細胞の集団は、腫瘍微小環境の免疫抑制効果に起因して、腫瘍の最終的な制御において依然として長期にわたり効果がないことがある。したがって、チェックポイント阻害剤を維持療法として組み合わせて使用して、腫瘍内での免疫抑制効果を除去することを提案する。
【0086】
(実施例7)
肺がんモデルにおいて投与される、HABAと低酸素誘導剤と免疫チェックポイント阻害剤との組合せ。
【0087】
低酸素活性化生体還元剤と低酸素誘導剤との組合せでの免疫チェックポイント阻害剤の投与の効果を調べる研究では、抗mPD-1、チラパザミン(TPZ)、コンブレタスタチンA4ホスフェート、5,6-ジメチルキサンテノン-4-酢酸(DMXAA)、およびそれらのさまざまな組合せを、C57BL/6マウスの皮下3LL同系肺がんモデルの処置において投与した。
【0088】
C57BL/6マウス、雄を、Shanghai Laboratory Animal Center(SLAC(上海、中国、SCXK 2012-0002)、週齢:6~8週、体重:18~22g)から購入した。マウスを、各ケージに4匹入れ、恒温恒湿度のSPF室内に保持した。温度を20.5~24.5℃とした。湿度を40%~75%に保った。光のサイクルは、12時間の明、12時間の暗からなるものであった。マウスを、ポリカーボネートのケージ(325mm×210mm×180mm)に保持した。ケージ床の材料は、コーンコブとし、週に2回取り換えた。マウスは、研究の全期間中、照射滅菌化ドライ顆粒食物を自由に摂取させ、滅菌飲料水を自由に摂取させた。
【0089】
3LL腫瘍細胞を、空気中5%CO2の雰囲気中、37℃にて、10%の熱不活化ウシ胎児血清およびL-グルタミン(2mM)を補充したDMEM媒体中の単層培養物としてin vitroで維持した。腫瘍細胞を、トリプシン-EDTA処理により、週2回、ルーチン的に継代培養した。指数増殖期において成長している3LL腫瘍細胞を収集し、植え付けのためにカウントした。
【0090】
C57BL/6マウスには、腫瘍の発達のために、リン酸緩衝食塩水(PBS)0.05mL中の3LL腫瘍細胞(細胞2×10
5個)を、右側腹部下に植え付けた。処置を、植え付け9日後に開始し、そのとき腫瘍の平均体積は約455.64mm
3に達していた。各研究群における処置投与を
図6に示す(「N」は動物の数を表し、「i.v.」は静脈内注射を表し、「i.p.」は腹腔内注射を表す)。投薬体積を、体重に基づいて調整した(0.1mg/10g)。3LL同系モデルの腫瘍の大きさが、試験品での処置11日後におよそ4000mm
3に達したとき、腫瘍を外科的に切除し、H&E染色およびF4/80での免疫マーカー染色のために10%ホルマリン中に固定した。
【0091】
全腫瘍組織を、可能な限り速やかにトリミング後、10%の中性緩衝ホルマリン中に置いた。固定した組織を、脱水、清浄、浸潤を介してブロック(複数可)へと処理した。手技は、自動化組織プロセッサでなされうる。ホルマリン固定パラフィン包埋試料を調製するため、続いて以下のステップを実施した。融解パラフィンを包埋型の中へ注入した。処理した組織を、適用可能な包埋面を下にして(泡の発生を避けるため)型の中へ置いた。組織を含むパラフィン型をクライオステージ上に置いた。次いで、パラフィンブロックを、ミクロトームを使用して、厚さ5μmの切片に切り分けた。適切な切片を45℃の蒸留水浴へ入れた。広げた切片を、スライドを介して水浴から引き抜き、次いでスライドを空気乾燥した。
【0092】
ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色のために、パラフィンスライドを60℃のオーブン中に約2時間置き、次いで室温に冷却した。次いで、パラフィンスライドを、脱ワックスし、H&E染色し、脱水し、クリアにし、標本にした。カバーガラスを、永久封入剤を使用して適用した。最後に、スライドを顕微鏡検査にかけ、写真を撮影した。腫瘍壊死の百分率(%)の算出を、腫瘍壊死の面積を腫瘍スライドの総面積で割って決定した。
【0093】
図7は、抗mPD-1、チラパザミン(TPZ)、コンブレタスタチンA4ホスフェート、5,6-ジメチルキサンテノン-4-酢酸(DMXAA)、およびそれらのさまざまな組合せを含む試験品での処置後の、H&E染色により示される腫瘍壊死率を示す。アステリスク(*)は、マン-ホイットニー検定によってビヒクル群と比較した統計的有意性(P<0.05)を表す。TPZとコンブレタスタチンA4ホスフェートと抗mPD-1との組合せは、ビヒクル群と比較して、腫瘍壊死率の有意な増加を示した。
図8は、
図7で描示したデータを提供している。
【0094】
本発明の好ましい実施形態が本明細書で示され記載されているが、当業者には、こうした実施形態が、例によってのみ提供されていることが明らかである。多くの変形、変更および置き換えが、今や、本発明から逸脱することなく当業者に想起される。本明細書に記載の本発明の実施形態へのさまざまな代替形態が、本発明を実行する際に利用されうることが理解されるべきである。以下の特許請求の範囲が、本発明の範囲を定義し、これらの特許請求の範囲の範囲内の方法および構造ならびにそれらの等価物が、それらによりカバーされることが意図される。