IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サンデン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-加熱装置 図1
  • 特開-加熱装置 図2
  • 特開-加熱装置 図3
  • 特開-加熱装置 図4
  • 特開-加熱装置 図5
  • 特開-加熱装置 図6
  • 特開-加熱装置 図7
  • 特開-加熱装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001970
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】加熱装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20231228BHJP
   B60H 1/03 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B60H1/22 611D
B60H1/03 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100862
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100166833
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 直子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 瑞季
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211AA10
3L211AA11
3L211BA02
3L211DA42
3L211DA50
3L211EA87
3L211FB05
3L211GA42
3L211GA49
3L211GA93
(57)【要約】
【課題】 加熱装置に印加される電圧範囲が広帯域であっても、ヒータ出力や目標消費電力に到達するまでの時間のばらつきを抑え、安定した動作が可能な加熱装置を提供する。
【解決手段】 加熱装置10は、車両からの電力消費要求に応じて発熱可能な電気抵抗素子11と、電気抵抗素子11による消費電力を少なくとも制御可能な制御手段13と、と備え、制御手段13は、電気抵抗素子11への印加電圧に応じて、所定の基準時間における前記消費電力の上昇量を調整可能である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両からの電力消費要求に応じて発熱可能な電気抵抗素子と、
前記電気抵抗素子による消費電力を少なくとも制御可能な制御手段と、
を備えた加熱装置であって、
前記制御手段は、
前記電気抵抗素子への印加電圧に応じて、所定の基準時間における前記消費電力の上昇量を調整可能である、
ことを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記所定の基準時間は、前記制御手段による所定の制御周期である、
ことを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記電気抵抗素子を介して直列に接続された上層スイッチング素子および下層スイッチング素子を有し、
前記制御手段は、前記上層スイッチング素子及び前記下層スイッチング素子の開閉制御を実行可能であり、
前記所定の基準時間は、少なくとも前記開閉制御を含む所定の制御周期である、
ことを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記所定の制御周期毎に、現在の制御周期における目標消費電力と前記電気抵抗素子の消費電力との差分に応じて、次回の制御周期における前記開閉制御の操作量を算出し、前記上昇量を調整する、
ことを特徴とする請求項3に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記印加電圧が閾値電圧よりも低い場合の低電圧用パラメータと、該閾値電圧よりも高い場合の高電圧用パラメータを少なくとも有し、
前記印加電圧に応じて前記低電圧用パラメータと前記高電圧用パラメータを切り替えて前記所定の制御周期毎の前記開閉制御の操作量を算出するパラメータ切り替え制御を実行可能である、
ことを特徴とする請求項4に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記制御手段は、
前記開閉制御において、相対的に高速に目標消費電力に到達するように前記上層スイッチング素子及び前記下層スイッチング素子を制御する高速スタート処理部と、
前記開閉制御において前記高速スタート処理部よりも低速に前記目標消費電力に到達するように前記上層スイッチング素子及び前記下層スイッチング素子を制御する低速スタート処理部と、を有し、
少なくとも前記高速スタート処理部において、前記パラメータ切り替え制御を実行可能である、
ことを特徴とする請求項5に記載の加熱装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記電気抵抗素子に対する導通をPWM制御するようになっており、
前記制御手段は、
前記電力消費要求に対応する目標デューティ比に短時間で到達する制御を実行する高速スタート処理部と、
前記電力消費要求に対応する目標デューティ比に、前記高速スタート処理部よりも長時間で到達する制御を実行する低速スタート処理部を有し、
少なくとも前記高速スタート処理部において、前記パラメータ切り替え制御を実行可能であり、
前記高電圧用パラメータおよび前記低電圧用パラメータは、PI制御における比例ゲインおよび積分ゲインに基づく値である、
ことを特徴とする請求項5に記載の加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用の空気調和装置として、空調用熱交換器(ヒーターコア)を経由して循環する熱媒体を加熱する加熱装置(熱媒体加熱装置)が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、特にEV車やハイブリッド車において、加熱装置のヒータを、空調装置における加熱器として機能させる空調用途と、回生により発生した回生電力を消費する負荷として機能させる回生用途として使用する車両用空調システムも知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
EV車やハイブリッド車等に採用される加熱装置の場合、当該加熱装置に電力を供給するための直流電源は、一般的にはその車両に搭載される蓄電装置(バッテリ)である。この場合、次世代の車両において蓄電装置の高電圧化が進むと、それに伴い加熱装置に印加される電圧範囲も広帯域に及ぶことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-54145号公報
【特許文献2】特開2018-114943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、加熱装置に印加される電圧範囲が広帯域に及ぶようになると、ヒータ出力や目標消費電力に到達するまでの時間を安定させることが困難になる問題があった。
【0007】
具体的に、加熱装置への印加電圧が相対的に低電圧の帯域(例えば、120V~450V程度)の場合には、ヒータの駆動制御(オフからオンへの制御をはじめ、消費電力を上昇させる制御)において、或る一つの制御パラメータによって汎用的な制御が可能であった。
【0008】
ところが、次世代の車両において加熱装置への印加電圧が上記低電圧の帯域を超える高電圧までの広帯域(例えば、120V~800V程度)となった場合に、従来の低電圧(120V~450V程度)の帯域において使用していた制御パラメータを高電圧(例えば500V超の高電圧)の帯域において使用すると、目標とする消費電力(設定値)を挟んでヒータ出力が上下するハンチングが生じ、収束しなくなる問題がある。
【0009】
また、高電圧での使用に適した別の制御パラメータを用いる場合、低電圧印加時において目標消費電力に到達するまでの時間(目標消費電力到達時間)のばらつきが多くなり、また、印加電圧によっては(例えば、低電圧の場合に)目標消費電力到達時間が非常に長くなる場合もある。特に、例えば回生電力の消費目的や寒冷時における空調(暖房)目的など、短時間で目標消費電力に到達させたい場合も多いところ、目標消費電力到達時間の遅延を防ぐとともに、印加電圧による目標消費電力到達時間のばらつきを低減することが望まれる。
【0010】
本発明は、斯かる実情に鑑み、加熱装置に印加される電圧範囲が広帯域であっても、ヒータ出力や目標消費電力に到達するまでの時間のばらつきを抑え、安定した動作が可能な加熱装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、車両からの電力消費要求に応じて発熱可能な電気抵抗素子と、前記電気抵抗素子による消費電力を少なくとも制御可能な制御手段と、を備えた加熱装置であって、前記制御手段は、前記電気抵抗素子への印加電圧に応じて、所定の基準時間における前記消費電力の上昇量を調整可能である、ことを特徴とする加熱装置にかかるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の加熱装置によれば、加熱装置に印加される電圧範囲が広帯域であっても、ヒータ出力や目標消費電力に到達するまでの時間のばらつきを抑え、安定した動作が可能な加熱装置を提供することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の加熱装置の構成を示す図であり、(A)概要ブロック図、(B)装置の構成の概略を示す平面図、(C)装置の構成の概略を示す側面図である。
図2】本発明の加熱装置における制御手段および駆動手段を抜き出して示す回路図である。
図3】本発明の加熱装置を説明する機能ブロック図である。
図4】本発明の加熱装置における電圧制御について説明する図であり、(A)~(D)は、この順に沿って、低速スタート処理部において所定のプログラム処理を所定周期経た場合のデューティ比の変化を示す図、(E)は同低速スタート処理部による電気抵抗素子の出力(電力)の経時変化の一例を示す図、(F)、(G)は、この順に沿って、高速スタート処理部において所定のプログラム処理を所定周期経た場合のデューティ比の変化を示す図、(H)は同高速スタート処理部による電気抵抗素子の出力(電力)の経時変化の一例を示す図、(I)~(J)は低速スタート処理部と高速スタート処理部が重畳した際の電気抵抗素子の出力(電力)の経時変化の一例を示す図である。
図5】本発明の加熱装置におけるヒータ制御処理の流れを示すフロー図である。
図6】本発明の加熱装置におけるヒータ駆動制御処理の流れを示すフロー図である。
図7】本発明の加熱装置におけるデューティ比およびデューティ操作量の算出方法を説明する概念図である。
図8】本発明の加熱装置における目標消費電力到達時間と印加電圧の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1図8は本発明を実施する形態の一例であって、図中、同一の符号を付した部分は同一構成を表わす。また、各図において一部の構成を適宜省略して、図面を簡略化する。また、各図において一部の構成について形状や寸法を適宜誇張して表現する。
【0015】
<加熱装置の全体構成>
図1は、本実施形態の加熱装置10を説明する図であり、図1(A)は加熱装置10の概要を示すブロック図、同図(B)は加熱装置10の構成の概略を示す平面図、同図(C)は加熱装置10の構成の概略を示す側面図である。
【0016】
図1(A)に示すように本実施形態の加熱装置10は、例えば、車両用空調システムSの一部を構成する。加熱装置10は、車両用空調装置21における空調用熱交換器(ヒーターコア)を経由して循環する熱媒体Hmを加熱する熱媒体加熱装置である。本実施形態の加熱装置10が設置される車両は例えば、EV車やハイブリッド車であり、回生装置4を有し、回生装置4が制動時に発生する回生電力が蓄電装置6に蓄電されるように構成される。蓄電装置6は、加熱装置10に電力を供給するための直流電源となる。
【0017】
この車両空調システムにおいて、加熱装置10は、車両用空調装置21における車両内部の空気加熱として電力を消費する用途(空調用途)と、回生電力が蓄電装置6における蓄電量を超える場合の余剰電力を消費する用途(余剰電力消費用途)として使用される。
【0018】
つまり加熱装置10は、車両用空調装置21の制御に基づいて送信される、車両用空調装置21における空気加熱としての電力の消費要求(以下「空調電力消費要求」ともいう。)と、車両の回生装置4および/または蓄電装置6の制御に基づいて送信される要求であって、回生装置4が制動時に発生する回生電力が蓄電装置6における蓄電量を超える場合の余剰電力消費としての電力の消費要求(以下「余剰電力消費要求」ともいう。)を受け付け、これらの要求に基づき、熱媒体Hmを加熱する。以下、本実施形態の説明において、特に空調電力消費要求と余剰電力消費要求を区別する必要がない場合は、両者を含めて「電力消費要求」と総称する。電力消費要求は、消費する電力量に対応する情報(要求値)を少なくとも含む要求信号である。
【0019】
図1(A)に示す例では、空調電力消費要求の送信元は、車両用空調装置21の制御部(ECU:Electronic Control Unit)であり、余剰電力消費要求の送信元は、例えば、回生装置4および/または蓄電装置6の監視や制御を行う例えば充電制御装置22の制御部(ECU)であり、これらと加熱装置10は、有線あるいは無線の通信回線で接続される。
【0020】
車両用空調装置21のECU(以下、空調ECU1)および充電制御装置22のECU(以下、充電ECU2)の詳細な図示は省略するが、それぞれ、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などのメモリと、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの不揮発性の記憶部と、通信制御部を含んでいる。CPU、メモリ、記憶部、および通信制御部は内部バスを介して互いに通信可能に接続されている。通信制御部は、加熱装置10と通信回線で接続されており、電力消費要求などの情報(信号)を加熱装置10に対して送信できるようになっている。
【0021】
図1(A)~同図(C)に示すように、加熱装置10は、例えば、電気抵抗素子11(11A、11B)と、電気抵抗素子11の駆動手段12と、制御手段(制御部)13と、要求取得手段14と不図示の各種センサなどを有する。電気抵抗素子11は、車両に搭載される計算機から送信される複数の電力消費要求に応じて通電により発熱し、加熱装置10のヒータを構成する。以下の説明や図面において「ヒータ」と記載する場合もあるが、これは電気抵抗素子11を意味する。
【0022】
電気抵抗素子11の駆動手段12(ヒータ駆動手段12)と、制御手段13と、要求取得手段14は電子部品として制御基板1上に配置される。制御手段13は、演算装置(例えば、CPU)や記憶手段(揮発性メモリ(RAM、ROM)や不揮発性記憶手段(HDD、SDD))などから構成される。制御手段13は、記憶手段に各種プログラムを保持するとともに該プログラムまたは各種演算を実行して加熱装置10の各部(各構成)を統括的に制御する。制御手段13は加熱装置10のECUであってもよい。
【0023】
要求取得手段14は、この例では空調ECU1および充電ECU2と通信を行う通信手段19を含み、空調ECU1および充電ECU2からの電力消費要求、その他の各種要求を受け付ける手段である。
【0024】
詳細は後述するが、図1(B)、同図(C)に示すようにヒータ駆動手段12はスイッチング素子121,122と、そのドライバ(図1では不図示)などを含む。制御手段13は、スイッチング素子121,122の開閉を制御することで、電気抵抗素子11に対する導通・遮断制御を行う。
【0025】
電気抵抗素子11および制御基板1は、ケース2に収容され、ケース2にはその内部と外部を連通させるパイプ3が設けられる。パイプ3は、流入口3Aと流出口3Bを構成するように2本設けられ、その内部が熱媒体Hmの流通路となる。熱媒体Hmは、例えば水であるが、クーラントやオイルなどであってもよい。ケース2は、図1(C)に示すようにヒータ収容凹部21をそれぞれに有する上側ケース2Aおよび下側ケース2Bからなり、これらを合わせることで形成されるヒータ収容空間22に、電気抵抗素子11が収容される。
【0026】
電力供給部5は、給電端子5Aを有し、給電端子5Aと制御基板1は配線(不図示)により接続される。電力供給部5には蓄電装置6の電力が供給される。電力供給部5への印加電圧は例えば100V~1000V(好適には、例えば、120V~800V)である。
【0027】
このような構成により加熱装置10は、空調ECU1および充電ECU2からの電力消費要求に基づいて、蓄電装置6の電力を電気抵抗素子11に通電し、発熱させる。これにより当該発熱量分の電力が消費される。
【0028】
図2は、加熱装置10のヒータ駆動手段12および制御手段13の一例を抜き出して示す回路ブロック図である。
【0029】
ヒータ駆動手段(ヒータ駆動回路)12は例えば、上層スイッチング素子121と、下層スイッチング素子122と、上層ドライバ123と、下層ドライバ124と、上層コンデンサ125と下層コンデンサ126などを有する。
【0030】
上層スイッチング素子121および下層スイッチング素子122はいずれも例えば電圧駆動型のトランジスタである。より詳細には、低電位側の端子に対して正のゲート電圧を印加することでnチャネルが形成される絶縁ゲート型電界効果トランジスタであり、具体的には例えば、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)である。
【0031】
以下、説明の便宜上、上層スイッチング素子121を上層IGBT121,下層スイッチング素子122を下層IGBT122と称する。上層IGBT121及び下層IGBT122は、電気抵抗素子11を介して直列に接続する。上層IGBT121の高電位側端子(コレクタ)は、高圧電源131の正極に接続し、低電位側端子(エミッタ)と電気抵抗素子11の高電位側端子が接続する。また、電気抵抗素子11の低電位側端子と下層IGBT122の高電位側端子(コレクタ)が接続し、下層IGBT122の低電位側端子(エミッタ)は高圧電源131の負極に接続する。この場合の高圧電源131は、図1(B)に示す電力供給部5である。つまり、蓄電装置6の蓄電状態により、高圧電源131は、100V~1000V(好適には、120V~800V)の広範囲(広帯域)の電圧を電気抵抗素子11に供給する。換言すると、電気抵抗素子11に対する印加電圧は、蓄電装置6の蓄電状態に依存して変動する。
【0032】
上層ドライバ123は、制御手段13から入力されるドライバ駆動信号に基づき、上層IGBT121のゲート端子に対してゲート-エミッタ間電圧を印加する回路である。また下層ドライバ124は、制御手段13から入力されるドライバ駆動信号に基づき、下層IGBT122のゲート端子に対してゲート-エミッタ間電圧を印加する回路である。
【0033】
上層ドライバ123の電源入力端子は、上層コンデンサ125を介してドライバ電源130に接続する。この上層コンデンサ125は、上層IGBT121を開状態(オン状態)にするための電荷を蓄積するブートストラップコンデンサである。下層ドライバ124の電源入力端子は下層コンデンサ126を介してドライバ電源130に接続する。
【0034】
制御手段13は、ヒータ駆動手段12の制御(ヒータ駆動制御)を実行可能である。具体的に、制御手段13は、上層IGBT121及び下層IGBT122の開(オン)/閉(オフ)の制御(開閉制御)を実行可能であり、当該開閉制御を実行することで、電気抵抗素子11に対する導通・遮断を行い、結果として、電気抵抗素子11による消費電力を少なくとも制御可能である。本実施形態では、例えば、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)方式により上層IGBT121及び下層IGBT122に印加する電圧を制御し、上層IGBT121及び下層IGBT122の開閉制御を行う。
【0035】
より詳細には、制御手段13は、上層ドライバ123と下層ドライバ124のそれぞれのドライバ駆動信号入力端子に、タイミングを異ならせたパルス波形のドライバ駆動信号を供給する。上層ドライバ123は、そのドライバ駆動信号に同期して、上層IGBT121のゲートに、該上層IGBT121自身のゲート-エミッタ間電圧に高圧電源131の電圧を加えた電圧と同等のパルス波形の電圧を出力する。下層ドライバ124は、制御手段13から供給されるドライバ駆動信号に同期して、下層IGBT122のゲートに、ドライバ電源130の電圧と同等のパルス波形の電圧を出力する。
【0036】
これにより、上層IGBT121と下層IGBT122のそれぞれのチャネルが所定のタイミングで開(オン)/閉(オフ)する。上層IGBT121と下層IGBT122のオンが重なる期間に電気抵抗素子11が通電され、発熱により発熱量分の電力が消費される。
【0037】
このように制御手段13は、車両からの電力消費要求に基づき、電気抵抗素子11で電力を消費させ、またその消費電力を上昇させる制御が可能である。また後に詳述するが、制御手段13は、電気抵抗素子11への印加電圧(蓄電装置6の状態に状態に応じた100V~1000Vの電圧)に応じて、所定の基準時間における、電気抵抗素子11の消費電力の上昇の程度(上昇量)を調整可能である。この場合の「所定の基準時間」は、例えば、制御手段13による或る所定の制御周期であり、例えば上層IGBT121と下層IGBT122の開閉制御を含む所定の制御周期である。より具体的に、本実施形態では、ヒータ駆動手段12により上層IGBT121と下層IGBT122の開閉制御(例えば、PWM制御)を含むヒータ駆動制御を実行可能であり、「所定の基準時間」とは当該ヒータ駆動制御の制御周期(例えば、パルス幅変調周期を決定する周波数(例えば、57Hz)に基づく周期)である。
【0038】
なお、ヒータ駆動手段12は、上層IGBT121および下層IGBT122のオン/オフにより電気抵抗素子11の駆動(通電、停止)を行う回路であればよく、図2に示す構成以外に、本実施形態の加熱装置10として電気抵抗素子11、上層IGBT121、下層IGBT122を正常に駆動する回路として既知の構成(例えば、ダイオードなど)を有している。
【0039】
<加熱装置の機能>
図3は、本実施形態の加熱装置10の機能の一例について説明するブロック図である。既に述べたように、加熱装置10は、少なくとも外部(車両)からの電力消費要求(空調電力消費要求および余剰電力消費要求)を受け付け、この要求に基づき、電気抵抗素子11を通電して熱媒体Hmを加熱する。
【0040】
この加熱装置10は、例えば、強制遮断機能、要求取得機能、要求判定機能、スタート処理判定機能、電力制御機能などを有する。これらの機能は図1および図2に示す加熱装置10の実体的な手段(制御基板1に設けられる電子部品(回路や素子)などのハードウェア)と、制御手段13が有するソフトウェア(プログラム)の実行により実現される。
【0041】
図3は、上記の機能を実現する手段の観点から加熱装置10を説明するブロック図であり、加熱装置10は例えば、強制遮断手段20と、要求取得手段14と、要求判定手段15と、スタート処理判定手段16と、電力制御手段17を有する。これらは例えば一または複数の制御基板1に配置される各種電子部品により実現され、制御手段13により統括的に制御される。すなわち、これらの手段の一部または全部には、制御手段13も含んでいる。
【0042】
<<強制遮断手段>>
強制遮断手段20は、強制遮断機能を実現するものであり、所定の条件(強制遮断条件)に基づき(これを判定し)、当該強制遮断条件が成立している場合には電気抵抗素子11による電力消費を強制的に禁止する手段である。強制遮断条件の成立とは、例えば、加熱装置10に異常が生じていることであり、具体的には、例えば、(1)保護・故障センサの検知があること、または(2)過電圧センサの故障検知が完了していないこと、である。加熱装置10は、制御基板1が電気抵抗素子11や上層IGBT121および下層IGBT122の許容温度以上になった場合には制御基板1において故障が発生していることを検知する保護・故障センサ(不図示)を有している。「保護・故障センサの検知」とは、電気抵抗素子11を安全に稼働できない状態を意味する。強制遮断手段20は上記(1)、(2)の少なくともいずれかに該当する場合には強制遮断条件が成立しているとして、電力消費要求の有無によらず、電気抵抗素子11による電力消費(ヒータ加熱)を強制的に禁止する。
【0043】
<<要求取得手段>>
要求取得手段14は、要求取得機能を実現するものであり、この例では空調ECU1および充電ECU2と通信を行う通信手段19を含み、空調ECU1からの空調電力消費要求および充電ECU2からの余剰電力消費要求をはじめ、その他の各種要求を受け付ける受信手段である。
【0044】
加熱装置10は、その動作中においては所定周期(例えば、2msec)で後述するヒータ制御処理を繰り返し実行しており、要求取得手段14は、ヒータ制御処理の1周期毎に通信手段19の受信結果を検知して、電力消費要求を取得する。
【0045】
あるいは、制御手段13は、例えば、所定のタイミング(割込み周期)で割込み処理(ハードウェア割込み、および/またはソフトウェア割込み、あるいは外部割込み、および/またはタイマ割込み)を実行し、割込み処理により電力消費要求を取得して所定の記憶領域に記憶する。そして要求取得手段14は、ヒータ制御処理の1周期毎に当該記憶領域の電力消費要求を取得する構成であってもよい。
【0046】
電力消費要求(空調電力消費要求および余剰電力消費要求)は、加熱装置10に対する制御命令であり、原則として加熱装置10の動作中(ヒータ制御処理の実行中)は常時取得される。つまり、それぞれの実体的な電力消費の要求がない場合も「要求値がない」という要求(命令)が取得される。ここで「要求値がない」とは、例えば要求値が「最小要求閾値未満」であることをいい、最小要求閾値は、一例として200Wである。なお要求値は、実際の電気抵抗素子11の発熱量(消費電力)を示す(それぞれに対応した)情報であるが、本実施形態では、説明の便宜上、発熱量と同一の数値として説明する。
【0047】
<<要求判定手段>>
要求判定手段15は、要求判定機能を実現するものであり、要求取得手段14が取得した電力消費要求に基づき、電力消費要求の実体的な有無を判定し、「電力消費要求がある」と判定された場合は、当該要求に含まれる要求値を実際の消費電力の目標値(目標消費電力G)として設定する。
【0048】
上記のとおり、実際の電力消費要求がない場合は、要求値が「0(W)」の電力消費要求が取得されて要求判定手段15により「電力消費要求がない」と判定される。また、要求値が最小要求閾値未満の場合も要求判定手段15により「電力消費要求がない」と判定される。
【0049】
また、要求取得手段14において複数の電力消費要求(例えば、空調電力消費要求と余剰電力消費要求)が略同時に取得されてもよく、その場合は、要求判定手段15により、複数の電力消費要求に含まれる要求値のうち最大値を実際の消費電力の目標値(目標消費電力G)に設定される。これにより、例えば大きい要求値が小さい要求値に上書きされるなどして要求値(目標消費電力G)の不足が生じることを回避できる。
【0050】
ここで、「電力消費要求がある」場合であっても、上述の強制遮断条件が成立している場合には、強制遮断手段20により、電力消費は強制的に禁止される。つまり、本実施形態における「ヒータオフ」、すなわち電気抵抗素子11に通電がない状態とは、「要求値が最小要求閾値未満である」ことによりヒータオフになる場合と、強制遮断条件が成立していることによりヒータオフになる場合とがある。
【0051】
<<スタート処理判定手段>>
スタート処理判定手段16は、例えば、ヒータ駆動手段12の一部として、スタート処理判定機能を実現するものである。具体的に、スタート処理判定手段16は、取得した電力消費要求に応じて、電気抵抗素子11への通電を増加(遮断状態からの場合は開始(通電されていない状態からの増加))させる場合の速さ(の程度)を判定・決定する手段である。
【0052】
後述する電力制御手段17(制御手段13)は、高速スタート処理部171と、低速スタート処理部172とを有している。高速スタート処理部171は、電気抵抗素子11への通電を増加させる場合に、相対的に高速に(短時間で)目標消費電力G(決定された要求値)に到達するように、上層IGBT121及び下層IGBTを開閉制御する手段である。
【0053】
また、低速スタート処理部172は、電気抵抗素子11への通電を増加させる場合に、高速スタート処理部171よりも低速に(長時間で)目標消費電力G(決定された要求値)に到達するように、上層IGBT121子及び下層IGBT122を開閉制御する手段である。
【0054】
スタート処理判定手段16は、所定の判定条件に基づき、取得した電力消費要求に対し、高速スタート処理部171と低速スタート処理部172のいずれで処理をするかを判定する。所定の判定条件は一例として、電力消費要求に含まれる所定のスタート処理判定フラグである。例えば、電力消費要求には、高速スタート処理を実行することを示す「高速フラグ」を設定可能とし、スタート処理判定手段16によって高速フラグが有効(オン、設定あり、「1」など)の場合には高速スタート処理部171による処理を行い、高速フラグが無効(オフ、設定なし、「0」など)の場合には低速スタート処理部172による処理を行う。
【0055】
例えば、一般的に早期の電力消費が望まれる余剰電力消費要求の場合には高速フラグを有効とし、空調電力消費要求の場合には高速フラグを無効とする。また、空調電力消費要求であっても、高速フラグを有効としてもよい。このような構成によれば、例えば外気温が低温になるなどして早期に車内の空気を加熱したい場合に、出力電力の傾きを急峻に立ち上げることができ、車室内の温度上昇を早めることができる。
【0056】
このように高速スタート処理部171による制御と低速スタート処理部172による制御を選択可能とする(高速スタート処理部171による制御のみにしない)ことで、加熱装置10に過大な負荷が係ることを防止できる。
【0057】
<<電力制御手段>>
電力制御手段17は、例えばヒータ駆動手段12の一部として電力制御機能を実現するものであり、上層IGBT121及び下層IGBT122に印加する電圧の制御を行い、電気抵抗素子11に対する導通を制御する手段である。電力制御手段17は例えば、PWM方式により電圧を制御する。つまり要求される電力に応じて、PWM制御により、上層IGBT121および下層IGBT122のそれぞれのゲートに印加する電圧を制御し、上層IGBT121および下層IGBT122の開閉制御を行う。
【0058】
また、電力制御手段17には、例えば、高速スタート処理部171と低速スタート処理部172が含まれる。電力制御手段17は、スタート処理判定手段16の判定結果に基づき、受け付けた電力消費要求を、高速スタート処理部171あるいは低速スタート処理部172に振り分ける。
【0059】
高速スタート処理部171は、電気抵抗素子11への通電(消費電力)を増加させる場合、増加開始(PWM制御の開始)から短時間で目標消費電力Gに到達するか、又は、消費電力の増加速度(の平均値)が高速となるようにPWM制御パラメータを設定し、上層IGBT121及び下層IGBTを開閉制御する。また、低速スタート処理部172は、電気抵抗素子11への通電を増加させる場合に、増加開始から、高速スタート処理部171よりも長時間で目標消費電力Gに到達するか、又は、消費電力の増加速度(の平均値)が高速スタート処理部171よりも低速となるように、PWM制御パラメータを設定し、上層IGBT121子及び下層IGBT122を開閉制御する。
【0060】
また、電力制御手段17は、少なくとも高速スタート処理部171において、上層IGBT121子及び下層IGBT122を開閉制御する際の制御パラメータ(PWM制御パラメータ)の切り替え手段(パラメータ切り替え手段、パラメータ切り替え機能)を有し、PWM制御パラメータの切り替え制御を実行可能である。パラメータ切り替え手段については後述する。
【0061】
図4は、例えば、制御手段13において或る目標消費電力Gに到達するまでの、低速スタート処理部172における制御の経時変遷と、高速スタート処理部171における制御の経時変遷とを概念的に比較して示す図である。図4(A)~同図(E)が低速スタート処理部172における制御を示し、図4(F)~同図(H)が高速スタート処理部における制御を示す。また、同図(A)~同図(D),同図(F)、同図(G)はそれぞれ、ヒータ駆動手段12における1回のヒータ駆動の制御(以下、「ヒータ駆動制御」という。)を所定回数(例えば、50回、50周期)経たタイミングにおけるデューティ比の変遷を示している。
【0062】
ここで「1回のヒータ駆動制御」とは、目標消費電力Gに対応する目標デューティ比Dmに到達させるためにデューティ比を1回(1段階)増加させて、PWM制御(開閉制御)を実行し、或る消費電力を出力するまでの一連の制御をいう。つまりヒータ駆動制御の周期は、デューティ比の増加タイミングの間隔を意味する。
【0063】
同図(D)、同図(G)における「G´」は、上層IGBT121と下層IGBT122のオン時間の重なり量であり、これらの面積の合計が設定された目標消費電力G(要求値)となる。そして同図(D)における重なり量G´の面積の合計が同図(E)に示す高さであ(目標消費電力G)であり、同図(G)における重なり量G´の面積の合計が同図(H)に示す高さ(目標消費電力G)である。また図4におけるIGBT1は上層IGBT121を示し、IGBT2は下層IGBT122を示す。
【0064】
図4(A)~同図(D)、同図(F),同図(G)に示すように、本実施形態の電力制御手段17は、例えばPWM制御により上層IGBT121および下層IGBT122のそれぞれのゲートに印加する電圧を制御し、それぞれの開(オン)/閉(オフ)の比率(デューティ比)を経時的に変化させ、電気抵抗素子11への通電状態(流れる電流量)を制御する。電気抵抗素子11に流れる電流量が変化すると、電気抵抗素子11の発熱量が変化し、消費電力が変化する。
【0065】
図4(A)~図4(D)では、低速スタート処理部172において、処理の開始(同図(A))から、50周期経過する毎に徐々にデューティ比が増加し(同図(B)~同図(D))、200周期(50周期×4)で目標デューティ比Dmに到達する(同図(D))状態を示している。
【0066】
図4(F)、同図(G)では、高速スタート処理部171において、処理の開始(同図(F))から例えば、50周で目標デューティ比Dmに到達する(同図(G))状態を示している。
【0067】
すなわち、低速スタート処理部172では、ヒータ駆動制御の1周期あたりのデューティ比の増加量(上昇量)、即ち、時間軸で考えた場合のデューティ比の平均増加速度を、高速スタート処理部171よりも小さく設定すると言える。結果、同図(A)~同図(D)に示すように、低速スタート処理部172は、高速スタート処理部171よりもデューティ比が少しずつ増加するように上層IGBT121及び下層IGBTをPWM制御し、電気抵抗素子11に対する導通を制御する。これにより、電気抵抗素子11の消費電力の平均増加速度が小さくなり(低速になり)、消費電力の増加開始(PWM制御の開始)から、受け付けた電力消費要求の要求値(重なり量G´、目標消費電力G)に対応する目標デューティ比Dmに到達するまでの時間が長時間となる。以下、この低速スタート処理部172における制御を「低速スタート処理」という。この場合の電気抵抗素子11の出力(消費電力)は、同図(E)に示すように、低速スタート処理の開始SSから(PWM制御開始信号がオン(「H」)になってから)、デューティ比の変化量(上昇量)に応じてある角度(この角度は消費電力の平均増加速度を意味する)で傾斜しながら上昇し、目標消費電力Gに到達する。
【0068】
これに対し、高速スタート処理部171は、ヒータ駆動制御の1周期あたりのデューティ比の増加量(上昇量)、即ち、時間軸で考えた場合のデューティ比の平均増加速度を、低速スタート処理部172よりも大きく設定すると言える。結果、同図(F)、同図(G)に示すように、高速スタート処理部171は、低速スタート処理部172よりもデューティ比が大きく増加するように上層IGBT121及び下層IGBTをPWM制御し、電気抵抗素子11に対する導通を制御する。これにより、電気抵抗素子11の消費電力の平均増加速度が大きくなり(高速になり)、消費電力の増加開始(PWM制御の開始)から、受け付けた電力消費要求の要求値(重なり量G´設定された目標消費電力G)に対応する目標デューティ比Dmが、上述の低速スタート処理部172と同じ目標デューティ比Dmであると仮定した場合、これに到達するまでの時間は、低速スタート処理の場合よりも短時間となる。以下、この高速スタート処理部171における制御を「高速スタート処理」という。この場合の電気抵抗素子11の出力は、同図(H)に示すように、高速スタート処理の開始時点FSから(PWM制御開始信号がオン(「H」)になってから)、デューティ比の変化量(上昇量)に応じて、低速スタート処理部172よりも急峻角(この角度は消費電力の平均増加速度を意味する)で上昇し、目標消費電力Gに到達する。
【0069】
より具体的に、高速スタート処理部171において、電気抵抗素子11への通電を増加させる場合(電気抵抗素子11をオフからオンに切り替える場合、または消費電力の要求値を増加させる場合)の、通電の増加開始から目標消費電力Gに到達するまでの時間(以下、「目標消費電力到達時間」という。)は、一例として、5sec未満、望ましくは2sec以下、より好適には1sec前後またはそれ以下、などである。
【0070】
制御手段13は、高速スタート処理および低速スタート処理のいずれの処理であっても目標消費電力Gに到達した後は、引き続き順次受け付けられる電力消費要求に基づき、電気抵抗素子11に印加する電圧をPWM制御し、電気抵抗素子11に対する通電を制御する。このようにして電気抵抗素子11は、発熱によって要求された電力を消費する。
【0071】
また、図4(I),同図(J)は、或る電力消費要求に基づく出力(出力の増加1)を行っている期間に目標消費電力Gが増加(増加2)する場合の、電気抵抗素子11における出力(電力)の経時変化の一例を示す図である。
【0072】
図4(I)は、低速スタート処理が実行され、その開始(消費電力の増加開始)時点SSからある電力消費要求(第1要求値(目標消費電力G1))に基づく出力が行われている期間中において、第1要求値よりも大きい第2要求値(目標消費電力G2)と、高速スタート処理の要求(高速フラグが例えばオン)を含む電力消費要求を受け付けた場合の例である。この場合制御手段13は、消費電力の増加開始時点FSから高速スタート処理を実行し第2要求値(目標消費電力G2)に基づく出力を行う。高速スタート処理の開始時点FSにおける要求値の増加量は、第2要求値(目標消費電力G2)と第1要求値(目標消費電力G1)の差分ΔGとなる。
【0073】
また図4(J)は、高速スタート処理が実行され、その開始(消費電力の増加開始)時点FSから電力消費要求(第2要求値(目標消費電力G2))に基づく出力が行われている期間中において、第2要求値よりも大きい第1要求値(目標消費電力G1)と低速スタート処理の要求(高速フラグが例えばオフ)を含む電力消費要求を受け付けた場合の例である。この場合制御手段13は、消費電力の増加開始時点SSから低速スタート処理を実行し第1要求値(目標消費電力G1)に基づく出力を行う。低速スタート処理の開始時点SSにおける要求値の増加量は、第1要求値(目標消費電力G1)と先の第2要求値(目標消費電力G2)の差分ΔGとなる。
【0074】
ここで説明した「デューティ比の平均増加速度」は、「消費電力の増加開始(PWM制御の開始)時点から、設定された目標消費電力Gに対応する目標デューティ比Dmに到達してデューティ比の上昇が終了するまでの期間におけるデューティ比の増加速度の平均値」である。
【0075】
つまり、ヒータ駆動制御では所定周期(1周期または複数の周期)毎にデューティ比を徐々に上昇させて目標デューティ比Dmに到達させる。ヒータ駆動制御の所定周期におけるデューティ比の増加量(デューティ比を増加させる操作量)としては、例えば或る所定量(固定値)を、1または複数回のヒータ駆動制御の周期毎に段階的に上昇させていく手法や、1または複数回のヒータ駆動制御の周期毎に当該操作量を算出する手法など様々な手法が適用できる。本実施形態では、一例として、所定の基準時間(例えば、ヒータ駆動制御の1周期)毎に、当該周期において上昇させるデューティ比の上昇量(操作量)を算出する。以下、このデューティ比の上昇量(上層IGBT121と下層IGBT122の開閉制御の操作量)を、「デューティ操作量」と称する。ヒータ駆動制御の或る周期においては、現在(それまで)のデューティ比に当該周期におけるデューティ操作量が追加されて当該周期のデューティ比が決定され、デューティ比に応じた電力が出力される。デューティ操作量の詳細は後述する。
【0076】
<ヒータ制御処理>
図5および図6を参照して、加熱装置10の制御手段13が実行する電気抵抗素子11(ヒータ)制御処理の一例について説明する。図5は、ヒータ制御処理の流れの一例を示すフロー図であり、図6は、ヒータ駆動制御処理の流れの一例を示すフロー図である。
【0077】
加熱装置10は動作の期間中、図5に示すヒータ制御処理(ステップS01~ステップS13)を繰り返し実行する。当該ヒータ制御処理は、例えば、(加熱装置10の処理を統括する主プログラムから呼び出されるなどして、)所定周期(具体的には例えば約2msec周期など)で実行される。
【0078】
まず、ステップS01において、例えば、強制遮断手段20が異常検知の有無(強制遮断条件の成否)を判定する。具体的には、例えば、(1)保護・故障センサ検知があるか、および(2)過電圧センサの故障検知が未完了であるか、を判定する。強制遮断手段20は、保護・故障センサの検知がある場合(Yes)にはステップS13に進む。また、強制遮断手段20は、過電圧センサの故障検知が未完了の場合(Yes)もステップS13に進む。一方、強制遮断手段20は、保護・故障センサの検知がなく、且つ、過電圧センサの故障検知が完了している場合(No)は、ステップS03に進む。
【0079】
ステップS03では、要求取得手段14が電力消費要求を取得する。つまり、電力消費要求は、ヒータ制御処理の周期(例えば、約2msec周期)で取得される。電力消費要求にはそれぞれ、要求値が含まれる。要求値は、目標消費電力Gに対応する値(情報)であり、実体的な電力の消費要求が無い場合であっても、消費要求が無いことを示す情報(例えば、「0」や、最小要求閾値未満の値など)が含まれる。
【0080】
また、後述するヒータ駆動制御の実行可否を判定するための判定タイマ(各種センサの一部)やその他のセンサの値をクリアするなど、所定の初期化処理が実行される。
【0081】
なお、ステップS01およびステップS03は、ほぼ同時に実行されてもよいし、ステップS01とステップS03の順番が入れ替わってもよい。
【0082】
ステップS05では、要求判定手段15が、電力消費要求を正常に取得できているか否か、およびこれらに基づく実体的な電力消費要求の有無を判定する。要求判定手段15は、要求値と、予め設定されている最小要求閾値(例えば、200W)との比較を行い、要求値が最小要求閾値未満の場合には「電力消費要求がない」ものと判定し、例えば要求値「0」とみなす。要求値が最小要求閾値以上の場合には、空調ECU1または充電ECU2からの実体的な「電力消費要求がある」と判定する。
【0083】
本ステップS05により「電力消費要求がある」と判定された場合はステップS07に進み、「電力消費要求がない」と判定された場合は、ステップS13に進む。
【0084】
ステップS07では、例えば要求判定手段15が、要求値(同時に複数の電力消費要求を取得している場合は最大の要求値)を目標消費電力Gに設定する。具体的には、要求値をPWM制御の目標消費電力パラメータとして設定する。
【0085】
ステップS09では、ステップS11のヒータ駆動制御を実行するか否かを判定する。具体的には、例えば、PWM制御のキャリア周波数(パルス幅変調周期を決定する周波数)に基づく期間が経過したか否かを判定する。すなわち、ヒータ駆動制御の実行可否を判定する判定タイマ(センサ)の値を取得し、キャリア周波数(例えば、57Hz)に基づいて予め設定されている判定期間(例えば、約18msなど所定の期間)と判定タイマの値を比較する。判定タイマの値が判定期間より短い場合(No)は、ステップS13に進み、判定タイマ(センサ)の値を更新する。具体的にはヒータ制御処理の1周期分の時間(約2msec)をインクリメントする。
【0086】
ステップS09において、取得した判定タイマの値が判定期間を超えた場合(Yes)は、ステップS11においてヒータ駆動制御処理(図6参照)を実行する。またヒータ駆動制御処理と並行してステップS13に進む。この場合のステップS13では、判定タイマ(センサ)の値をクリアするとともに、他のセンサ値(例えば、ヒータ駆動制御処理における出力(消費電力値など)がある場合にはセンサ値を更新する。本実施形態では、ヒータ駆動制御処理の1回の制御周期は例えば、キャリア周波数に基づく期間(例えば、約18msec)であり、ヒータ制御処理の1周期(約2msec)よりも長い。ヒータ制御処理は、ヒータ駆動制御処理の実行中であってもその出力を待機することなく、ステップS01~S13(電力消費要求の取得や判定タイマのインクリメントなど)は所定周期(約2msec)で繰り返し実行される。
【0087】
<ヒータ駆動制御処理>
図6を参照してヒータ駆動制御処理について説明する。ヒータ制御処理(図5)のステップS09において、取得した判定タイマの値が判定期間よりを超えた場合(Yes)は、当該ヒータ駆動制御処理が実行される。ヒータ駆動制御処理の1周期は、図6に示すステップS111からステップS125までの期間であり、具体的には例えば、キャリア周波数に基づく期間(例えば、約18msec)である。
【0088】
ステップS111では、スタート処理判定手段16が所定の判定条件に基づき、取得した電力消費要求に対し、高速スタート処理部171/低速スタート処理部172のいずれで処理をするかを判定する。
【0089】
要求判定手段15により受け付けられた電力消費要求の高速フラグが「オン」の場合(Yes)は、高速スタート処理部171で処理を行うと判定し、ステップS113に進む。また、要求判定手段15により受け付けられた電力消費要求の高速フラグが「オフ」の場合(No)は、低速スタート処理部172で処理を行うと判定し、ステップS121に進む。
【0090】
ステップS113では、高速スタート処理部171において、デューティ操作量の算出パラメータを決定するパラメータ切り替え制御を実行する。デューティ操作量の算出パラメータはPWM制御パラメータの一部である。
【0091】
ここで本実施形態におけるデューティ操作量の算出パラメータとしては、例えば、高速スタート処理における高速高電圧用パラメータ、高速スタート処理における高速低電圧用パラメータと、低速スタート処理における低速パラメータの少なくとも3種のパラメータがある。
【0092】
高速高電圧用パラメータは、高速スタート処理において、その時の電気抵抗素子11の印加電圧が、閾値電圧を超える高電圧である場合に設定されるデューティ操作量の算出パラメータである。この場合の閾値電圧は例えば、200V~600Vの範囲のいずれか、好適には、250V~500Vのいずれかの電圧に設定される。
【0093】
高速低電圧用パラメータは、高速スタート処理において、その時の電気抵抗素子11の印加電圧が、閾値電圧以下の低電圧である場合に設定されるデューティ操作量の算出パラメータである。以下、高速高電圧用パラメータおよび高速低電圧用パラメータはいずれも、高速スタート処理におけるパラメータであるので、単に、高電圧用パラメータおよび低電圧用パラメータと称する。
【0094】
低速パラメータは、低速スタート処理を実行する場合に設定されるデューティ操作量の算出パラメータである。
【0095】
すなわち、ステップS113では、その時点の電気抵抗素子11の印加電圧(図2に示す高圧電源131の電圧)を取得し、その印加電圧が閾値電圧を超える場合(Yes)には、デューティ操作量の算出パラメータとして高電圧用パラメータを設定し(ステップS115)、電気抵抗素子11の印加電圧が閾値電以下の場合(No)には、デューティ操作量の算出パラメータとして低電圧用パラメータを設定する(ステップS117)。この制御がパラメータ切り替え制御である。
【0096】
ステップS115またはステップS117に続くステップS119では、ヒータ駆動制御の現在の制御周期において設定するデューティ比を決定(算出)する。以下ヒータ駆動制御の一周期を「ヒータ駆動制御周期」と称して説明する。現在のヒータ駆動制御周期におけるデューティ比は、前回のヒータ駆動制御周期において設定(実行)されたデューティ比に、消費電力を増加させるために前回のヒータ駆動制御周期から増加(上昇)させるデューティ比の増加量(デューティ操作量)を加算して決定される。
【0097】
そしてこのデューティ操作量は、前回のヒータ駆動制御周期において(次回分として)算出されている値を用いる。
【0098】
つまりステップS119では、現在(今回)のヒータ駆動制御周期で設定されるデューティ比と、次回のヒータ駆動制御周期で用いられるデューティ操作量を算出、決定する。
【0099】
次回のヒータ駆動制御周期で用いられるデューティ操作量は、具体的には、現在(今回)のヒータ駆動制御周期において設定されている目標消費電力と、現在(今回)のヒータ駆動制御周期における消費電力との差分(以下、この差分を「電力差分」という。)に応じて算出される。算出されたデューティ操作量は各種センサ値としてヒータ制御処理(図5)のセンサ値更新処理(ステップS13)において更新され、次回のヒータ駆動制御周期において取得・参照される。
【0100】
現在のヒータ駆動制御周期において設定されている目標消費電力は、ステップS119の実行段階で設定されている目標消費電力Gの値である。また、現在のヒータ駆動制御周期における消費電力は、現在のヒータ駆動制御周期において出力される(実際に出力された、あるいは出力が予定されている)電気抵抗素子11の電力量(発熱量)である。電気抵抗素子11は1回のPWM制御において、設定された或るデューティ比に応じて電力が消費される。つまり現在のヒータ駆動制御周期において設定されているデューティ比に応じて実際に消費された電力、あるいは、設定されているデューティ比に応じて現在のヒータ駆動制御周期で消費が予定されている電力が、現在のヒータ駆動制御周期における消費電力である。
【0101】
このように本実施形態では、ヒータ駆動制御周期毎(約18msの周期毎)に、現在のヒータ駆動制御周期における電力差分(目標消費電力Gと消費電力の差分)に応じて、次回のヒータ駆動制御周期におけるデューティ操作量を算出するフィードバック制御を行う。詳細には、このフィードバック制御は例えば、PI制御であり、電力差分に比例ゲインおよび積分ゲインを適用して(電力差分をPI制御によって補正して)次回周期のデューティ操作量を算出する。つまり、本実施形態におけるデューティ操作量の算出パラメータ(ステップS115で設定される高電圧用パラメータおよびステップS117で設定される低電圧用パラメータ)はいずれも、PI制御における比例ゲインに基づく値(以下これを「P値」という)と、積分ゲインに基づく値(以下これを「I値」という)によって(これらを含んで)設定される。高電圧用パラメータおよび低電圧用パラメータを設定する具体的な手法としては、例えば、まず所望の値が得られる(近づく)ようにP値を適宜設定する。このとき本実施形態では一例として、高電圧用パラメータのP値は、低電圧用パラメータのP値より大きい値を採用する。高電圧用パラメータのI値は、高電圧用パラメータのP値に応じた適宜の値が設定され、低電圧用パラメータのI値は、低電圧用パラメータのP値に応じた適宜の値が設定される。
【0102】
なお、デューティ操作量には上限値(操作量上限値)が設定されている。すなわち、ステップS119において、高電圧用パラメータあるいは低電圧用パラメータにより算出されたデューティ操作量が高速スタート処理における操作量上限値を超える場合は、操作量上限値をその周期において算出されたデューティ操作量とする。一例として、高速スタート処理部171におけるデューティ操作量の上限値は例えば20%である。
【0103】
そして、ステップS125において、ステップS119において設定されたデューティ比によってPWM制御が実行される。ステップ125では、電力制御手段17(高速スタート処理部171)が、設定されたPWM制御パラメータ(高電圧用パラメータ)に基づき、PWM制御開始信号のオン(「H」)を契機として電気抵抗素子11に印加する電圧のPWM制御を開始し、電気抵抗素子11に対する通電を制御する。このようにしてヒータ駆動制御周期毎に、電力差分に応じて(次回の)デューティ操作量が算出され、ヒータ駆動制御周期毎に、消費電力の上昇量が調整される。
【0104】
ひいては、ヒータ駆動制御周期毎にデューティ比が上昇し、電気抵抗素子11は、発熱によって要求された電力を消費し、最終的に高速に目標消費電力Gに到達する。
【0105】
ステップS111において低速スタート処理部172で処理を行うと判定した場合、ステップS121では、低速スタート処理部172において、デューティ操作量の算出パラメータとして低速パラメータを設定する。低速パラメータは例えば1種のパラメータであるが、高速高電圧用パラメータおよび高速低電圧用パラメータと同様に、PI制御におけるP値およびI値に基づいて(これらを含んで)設定される値である(値は異なる)。
【0106】
ステップS123は、ステップS119と同様の処理を行う。すなわち、現在のヒータ駆動制御周期において設定されている目標消費電力と、現在のヒータ駆動制御周期における消費電力との差分(電力差分)に応じて、ヒータ駆動制御の次回の制御周期におけるデューティ操作量を算出するとともに、現在のヒータ駆動制御周期におけるデューティ比を算出(決定)する。
【0107】
なお、低速スタート処理においてもデューティ操作量には上限値(操作量上限値)が設定されている。すなわち、ステップS123において、低速パラメータにより算出されたデューティ操作量が低速スタート処理における操作量上限値を超える場合は、操作量上限値をその周期において算出されたデューティ操作量とする。一例として、低速スタート処理部172におけるデューティ操作量の上限値は例えば0.2%、望ましくは0.15%(好適には0.12%など)である。
【0108】
そして、ステップS125において、ステップS123において設定されたデューティ比によってPWM制御が実行される。ステップ125では、電力制御手段17(低速スタート処理部172)が、設定されたPWM制御パラメータ(低速パラメータ)に基づき、PWM制御開始信号のオン(「H」)を契機として電気抵抗素子11に印加する電圧のPWM制御を開始し、電気抵抗素子11に対する通電を制御する。このようにしてヒータ駆動制御周期毎に、電力差分に応じてデューティ比が上昇し、電気抵抗素子11は、発熱によって要求された電力を消費し、最終的に高速スタート処理部171よりも低速に目標消費電力Gに到達する。
【0109】
出力された電力(消費電力)や、算出されたデューティ操作量などは各種センサ値としてヒータ制御処理(図5)のセンサ値更新処理(ステップS13)において更新され、次回のヒータ駆動制御周期で参照される。
【0110】
ヒータ駆動制御処理では、PWM制御の1周期(パルス幅変調周期、例えば約18msec)で次回制御周期におけるデューティ操作量を算出する。つまり、上位のヒータ制御処理の8周期毎に1回のPWM制御を実行し、ヒータ駆動制御周期毎にデューティ操作量およびデューティ比を算出する。
【0111】
<デューティ比、およびデューティ操作量の算出方法>
図7を参照して、ヒータ駆動制御周期毎のデューティ比、およびデューティ操作量の算出方法について詳細に説明する。同図は、デューティ比、およびデューティ操作量の算出方法の一例を説明するための概念図である。
【0112】
図7においてヒータ駆動制御周期の各周期を列方向に、各周期における処理を行方向に示している。1列目((1)~(4))が、ヒータ駆動制御処理(ヒータの出力を増加(オフからオンも含む))の開始後1周期目の処理であり、2列目((5)~(10))がヒータ駆動制御処理開始後n-1周期目の処理、3列目((11)~(14))がヒータ駆動制御処理開始後n周期目の処理、4列目((15)~(18))がヒータ駆動制御処理開始後n+1周期目の処理、である。以下、図7の説明においてはヒータ駆動制御周期を単に「周期」と称する場合がある。
【0113】
また、1行目((1)、(5)、(11)、(15))が当該(現在)ヒータ駆動制御周期のデューティ比[%]を算出するステップであり、2行目((2)、(6)、(12)、(16))が当該周期のデューティ比で操作した場合のヒータ出力(消費電力Q[W])を取得するステップであり、3行目((3)、(7)、(13)、(17))が、当該周期における目標消費電力Gと当該周期の消費電力Qとの差分(電力差分Y[W])を算出するステップであり、4行目((4)、(8)、(14)、(18))が次回周期におけるデューティ操作量[%]を算出するステップである。
【0114】
ここで、「ヒータ駆動制御周期毎のデューティ比」とは、目標消費電力Gの最大値(例えば、10kw)を出力する目標デューティ比を100%とした場合の、ヒータ駆動制御周期毎のデューティ比の割合である。また、「目標消費電力Gを出力する目標デューティ比」とは、上層IGBT121と下層IGBT122のオン状態の重なり量が例えば、94%~96%となる場合である。
【0115】
まず、ヒータ駆動制御処理の開始後1周期目では、当該周期(今回)のデューティ比(Duty比)は、当該周期のデューティ操作量(Duty操作量)に等しく、これを例えば、高速スタート処理部171における上限値(例えば、20%)に設定する(1)。
【0116】
そして、Duty比(20%)となるように上層IGBT121と下層IGBT122を操作した結果としての当該周期(今回)の消費電力Qを取得し(2)、当該周期(今回)の電力差分Yを算出する(3)。電力差分Yは、目標消費電力Gと今回消費電力Qの差分である。
【0117】
そして、次回周期(2周期目)におけるデューティ操作量(Duty操作量)を算出する(4)。このととき、次回周期におけるデューティ操作量は、今回周期におけるデューティ比からの変化量であり、今回の電力差分Y(Y)を、PI制御により補正することで算出される。このPI制御における比例ゲイン(P値)、及び積分ゲイン(I値)は、高電圧用パラメータ、低電圧用パラメータ、および低速パラメータのいずれかとして設定された値である。
【0118】
つまり例えば、Duty操作量は、P値、I値をパラメータとする電力差分Yの関数として、以下の(式1)により算出される。
Duty操作量=Y(P,I) (式1)
【0119】
2周期目のデューティ比は、1周期目のデューティ比(Duty比)とDuty操作量の合計値となる。
【0120】
この処理を繰り返し、ヒータ駆動制御処理の開始後n-1周期目では、当該周期(今回)のデューティ比(Duty比n-1)を、その前回の周期のデューティ比(Duty比n-2)と、その前回の周期において(式1)により算出したDuty操作量n-1(前回の電力差分Yn-2に基づくデューティ操作量)と、を用いて、以下の(式2)により算出する(5)。
Duty比n-1=Duty比n-2+Duty操作量n-1 (式2)
【0121】
そして、Duty比n-1となるように上層IGBT121と下層IGBT122を操作した結果としての当該周期(今回)の消費電力Qn-1を取得し(6)、当該周期(今回)の電力差分Yn-1を算出する(6)。電力差分Yn-1は、目標消費電力Gと今回消費電力Qn-1の差分である。
【0122】
そして、電力差分Yn-1をPI制御により補正し、次回周期(n周期目)におけるデューティ操作量(Duty操作量)を(式1)と同様に算出する(8)。Duty操作量は、P値、I値をパラメータとする電力差分Yn-1の関数として、以下の(式3)により算出される。
Duty操作量=Yn-1(P,I) (式3)
【0123】
なお、Duty操作量の算出に際し、当該周期(今回)の電力差分Yn-1に加え、前回周期における電力差分Yn-2を用いてもよい。具体的には、以下の(式4)により、前回周期における電力差分Yn-2を算出する(9)。
前回電力差分Yn-2=前回目標電力G-前回消費電力Qn-2 (式4)
【0124】
そして、Duty操作量を、(式3)に替えて、P値、I値をパラメータとする電力差分Yn-1およびP値をパラメータとする前回電力差分Yn-2の関数として、以下の(式5)により算出する(10)。
Duty操作量=Yn-1(P,I)+Yn-2(P) (式5)
【0125】
この場合、図7に示す(14)、(18)のデューティ操作量の算出ステップにおいても、図7の(10)と同様に(式5)によりデューティ操作量を算出するが、以下の説明においては省略する。
【0126】
例えば、ノイズの影響が大きい、あるいは、目標消費電力Gと消費電力Qの乖離が大きいような場合には、前回周期における電力差分(Yn-2)も参照する(式5)により次回周期におけるデューティ操作量を算出すると望ましい。また、前回周期より以前の(前々回周期における電力差分Yn-3など)過去の複数の電力差分を参照してもよい。
【0127】
ヒータ駆動制御処理の開始後n周期目では、当該周期(今回)のデューティ比(Duty比)を、その前回周期のデューティ比(Duty比n-1)と、その前回周期において(式3)により算出したDuty操作量(前回の電力差分Yn-1に基づくデューティ操作量)と、を用いて、以下の(式6)により算出する(11)。
Duty比=Duty比n-1+Duty操作量 (式6)
【0128】
そして、Duty比となるように上層IGBT121と下層IGBT122を操作した結果としての当該周期(今回)の消費電力Qを取得し(12)、当該周期(今回)の電力差分Yを算出する(13)。電力差分Yは、目標消費電力Gと今回消費電力Qの差分である。
【0129】
そして、電力差分YnをPI制御により補正し、次回周期(n+1周期目)におけるデューティ操作量(Duty操作量n+1)を(式1)と同様に算出する(14)。Duty操作量は、P値、I値をパラメータとする電力差分Yの関数として、以下の(式7)により算出する。
Duty操作量n+1=Y(P,I) (式7)
【0130】
同様に、ヒータ駆動制御処理の開始後n+1周期目では、当該周期(今回)のデューティ比(Duty比n+1)を、その前回周期のデューティ比(Duty比)と、その前回周期において(式7)により算出したDuty操作量n+1(前回の電力差分Yに基づくデューティ操作量)と、を用いて、以下の(式8)により算出する(15)。
Duty比n+1=Duty比+Duty操作量n+1 (式8)
【0131】
そして、Duty比n+1となるように上層IGBT121と下層IGBT122を操作した結果としての当該周期(今回)の消費電力Qn+1を取得し(16)、当該周期(今回)の電力差分Yn+1を算出する(17)。電力差分Yn+1は、目標消費電力Gと今回消費電力Qn+1の差分である。
【0132】
そして、電力差分Yn+1をPI制御により補正し、次回周期(n+2周期目)におけるデューティ操作量(Duty操作量n+2)を(式1)と同様に算出する(18)。Duty操作量n+2は、P値、I値をパラメータとする電力差分Yn+1の関数として、以下の(式9)により算出される。
Duty操作量n+2=Yn+1(P,I) (式9)
【0133】
以下目標消費電力Gに到達するまでこれらの処理を繰り返す。なお、図7の説明においては各周期の目標消費電力Gとしたが、目標消費電力Gの値は、各周期において一定値とは限らず、変動する場合もある。
【0134】
図8は、特に高速スタート処理部171における、電気抵抗素子11の印加電圧と、目標消費電力Gに到達するまでの時間との関係を示すグラフである。図8(A)がある範囲の印加電圧(120Vから820Vまで)について、全範囲を高電圧用パラメータ、低電圧用パラメータのそれぞれで制御した場合の、印加電圧と目標消費電力到達時間の関係を示すグラフである。また、図8(B)は、ある範囲の印加電圧(120Vから820Vまで)について、本実施形態のパラメータ切り替え制御を行った場合の、印加電圧と目標消費電力到達時間の関係を示すグラフである。またいずれも、横軸が電気抵抗素子11の印加電圧であり、縦軸が目標消費電力到達時間である。
【0135】
図8(A)において、実線が、印加電圧の全範囲(120Vから820Vまで)を高電圧用パラメータで制御した結果であり、破線が印加電圧の全範囲(120Vから420Vまで)を低電圧用パラメータで制御した結果である。なお、低電圧用パラメータの場合、420Vを超える電圧の範囲では収束せず、測定不可となっている。
【0136】
このように、印加電圧の全範囲を高電圧用パラメータで制御すると、印加電圧が例えば400V以下の場合に目標消費電力到達時間が1000msec~8000msedと長時間となり、そのばらつきも大きくなる。
【0137】
また、印加電圧の全範囲を低電圧用パラメータで制御すると、印加電圧が例えば400Vを超えると収束しなくなる。
【0138】
本実施形態のパラメータ切り替え制御では、閾値電圧を例えば200V~500Vの範囲のいずれかの電圧に設定し、閾値電圧より印加電圧が低ければ低電圧用パラメータを用い、閾値電圧を超える印加電圧の場合には高電圧用パラメータをPWM制御パラメータ(デューティ操作量の算出パラメータ)に設定する。その結果、図8(B)に示すように、変動する印加電圧の略全帯域(例えば200V~800V)において、高速スタート処理の場合の目標消費電力到達時間を、概ね1secに収めることができる。また例えば、印加電圧が120Vの場合であっても目標消費電力到達時間を2200msec程度にできるなど、印加電圧の全帯域に渡って目標消費電力到達時間のばらつきを抑制できる。
【0139】
なお、高電圧用パラメータおよび低電圧用パラメータは、変動する印加電圧の全帯域において、高速スタート処理の場合の目標消費電力到達時間が、概ね1sec前後に収まるようなP値(およびP値に応じたI値)が適宜選択される。
【0140】
このように、本実施形態では、ヒータ駆動制御周期毎に、目標消費電力と、当該周期における消費電力の差分(電力差分)を算出し、当該電力差分をPI制御により補正することで、次回のヒータ駆動制御周期におけるデューティ操作量を算出する。このようにすることで効率的に目標消費電力Gに到達させることができる。また、目標消費電力Gに到達までのデューティ比の操作回数が減るため、特に高速スタート処理部171においては、早期に目標消費電力Gに到達させることが可能となる。
【0141】
また、デューティ操作量を算出するパラメータ(PWM制御パラメータ)を、PI制御における比例ゲイン(および積分ゲイン)に基づく値とし、少なくとも高速スタート処理部171において、電気抵抗素子11への印加電圧に応じて低電圧用パラメータと高電圧用パラメータを切り替えて、所定の制御周期(ヒータ駆動制御周期)毎のデューティ操作量を算出するパラメータ切り替え制御を実行する。
【0142】
これにより、電気抵抗素子11の印加電圧が広帯域に及ぶ場合であっても、全帯域において、高速スタート処理の場合の目標消費電力到達時間を、例えば5sec未満(望ましくは2sec以内、より好適には1sec前後)に収めることができるとともに、目標消費電力到達時間のばらつきを抑制できる。
【0143】
なお、図示及び詳細な説明は省略したが、低速スタート処理部172においても、低速高電圧用パラメータと低速低電圧用パラメータを切り替えるパラメータ切り替え制御を実行してもよい。
【0144】
以上、本実施形態の加熱装置10の一例について説明したが、図3において説明した要求取得手段14と、要求判定手段15と、スタート処理判定手段16と、電力制御手段17は一例であり、上述の加熱装置10の要求取得機能、要求判定機能、スタート処理判定機能、電力制御機能を少なくとも実現可能な構成であればよい。例えば、これらのうち複数の手段(例えば、要求取得手段14と要求判定手段15や、スタート処理判定手段16と電力制御手段17など)が一の手段で構成されていてもよいし、一の手段(例えば、スタート処理判定手段16や、電力制御手段17など)が複数の手段に分割される構成などであってもよい。
【0145】
また、これらの手段のうちハードウェアの一部または全部がソフトウェアで構成されていてもよいし、その逆であってもよい。また、これらの手段は一の制御基板1上の電子部品等で実現される構成に限らず、複数の制御基板に設けられた電子部品等で構成されるものであってもよい。
【0146】
また、電力制御手段17における電圧制御がPWM制御である場合を例示したが、これに限らず、例えば、パルスのオン(またはオフ時間)を一定にしてオフ時間(またはオン時間)を変化させて制御する、PFM(Pulse Frequency Modulation:パルス周波数変調)方式であってもよい。
【0147】
また、上記の実施形態では、電力消費要求の送信元は、加熱装置10の外部装置となる空調ECU1、充電ECU2である場合を例示した。しかしこれに限らず、余剰電力消費要求の送信元および/または空調電力消費要求の送信元は、加熱装置10に含まれる手段であってもよい。
【0148】
例えば、加熱装置10は、外部装置となる車両用空調装置からの情報を取得し、加熱装置10内部の要求送信手段において空調電力消費要求を生成し、加熱装置10の要求取得手段14に送信する構成であってもよい。同様に、加熱装置10は、外部装置となる車両制御部からの情報を取得し、加熱装置10内部の要求送信手段において余剰電力消費要求を生成し、加熱装置10の要求取得手段14に送信する構成であってもよい。
【0149】
また、第1電力消費要求の送信元は車両用空調装置の制御部(空調ECU1)に限らず、他の装置の制御部(ECU)であってもよいし、第2電力消費要求の送信元は車両制御部(充電ECU2)に限らず他の装置の制御部(ECU)であってもよい。
【0150】
また、上層スイッチング素子121および下層スイッチング素子122は、IGBTに限らず、他の電圧駆動型のトランジスタであってもよい。例えば、電界効果トランジスタであってもよく、具体的には、エンハンスメント型のnチャネル絶縁ゲート型電界効果トランジスタ(例えば、MOSFET:metal-oxide-semiconductor field-effect transistor))であってもよい。
【0151】
また、電力制御手段17における電圧制御は、例えば、加熱装置10の使用開始時等に、両PWM制御とPFM制御を適宜選択し設定するようにしてもよいし、加熱装置10の動作中に両者を切り替えられる(都度選択)できるようにしてもよい。また、他の方式の電圧制御であってもよい。
【0152】
尚、本発明の加熱装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明の加熱装置10は、車両の補機の分野に利用できる。
【符号の説明】
【0154】
1 制御基板
2 ケース
2A 上側ケース
2B 下側ケース
3 パイプ
3A 流入口
3B 流出口
4 回生装置
5 電力供給部
5A 給電端子
6 蓄電装置
10 加熱装置
11 電気抵抗素子
12 ヒータ駆動手段(ヒータ駆動回路)
13 制御手段(制御部)
14 要求取得手段
15 要求判定手段
16 スタート処理判定手段
17 電力制御手段
19 通信手段
20 強制遮断手段
21 車両用空調装置
121 上層スイッチング素子
122 下層スイッチング素子
123 上層ドライバ
124 下層ドライバ
125 上層コンデンサ
126 下層コンデンサ
130 ドライバ電源
131 高圧電源
171 高速スタート処理部
172 低速スタート処理部
Dm 目標デューティ比
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8