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特開2024-19707光学的なオレンジの皮を有さない化学強化されたガラスおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019707
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】光学的なオレンジの皮を有さない化学強化されたガラスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20240202BHJP
【FI】
C03C21/00 101
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023220531
(22)【出願日】2023-12-27
(62)【分割の表示】P 2020538548の分割
【原出願日】2019-06-20
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2018/092167
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】512139847
【氏名又は名称】ショット グラス テクノロジーズ (スゾウ) カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT GLASS TECHNOLOGIES (SUZHOU) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】79 Huoju Road, Science & Technology Industrial Park, Suzhou New District, Suzhou, Jiangsu 215009, China
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ シャオ
(72)【発明者】
【氏名】ニン ダー
(72)【発明者】
【氏名】フオン ホー
(72)【発明者】
【氏名】ホセ ツィマー
(57)【要約】
【課題】ガラス物品が最大0.07mmの厚さを有し且つ反射光の下で検査される際に光学的なオレンジの皮を有さない化学強化されたガラス物品、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】前記の課題は、最大0.07mmの厚さを有する薄ガラス物品を化学強化するための方法であって、以下の段階: ガラス物品を、特定の強化温度を有する溶融塩の浴中に、特定の強化時間の間浸漬させる段階; 強化されたガラス物品を前記塩浴から持ち上げる段階; 強化されたガラス物品を特定の保持時間の間、強化後に保持する段階、ここで、保持温度は、塩浴の融点より高く且つ強化されたガラス物品の転移温度(Tg)よりも低くなるように選択される; 強化されたガラス物品を冷却して洗浄する段階を含む、前記方法によって解決される。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大0.07mmの厚さを有する薄ガラス物品を化学強化するための方法であって、以下の段階:
・ ガラス物品を、特定の強化温度を有する溶融塩の浴中に、特定の強化時間の間浸漬させる段階、
・ 強化されたガラス物品を前記塩浴から持ち上げる段階、
・ 強化されたガラス物品を特定の保持時間の間、強化後に保持する段階、ここで、保持温度は、塩浴の融点より高く且つ強化されたガラス物品の転移温度(Tg)よりも低くなるように選択される、
・ 強化されたガラス物品を冷却して洗浄する段階
を含む、前記方法。
【請求項2】
強化されたガラス物品の持ち上げを、<10m/分、好ましくは<5m/分、より好ましくは<1m/分、好ましくは<0.8m/分、より好ましくは<0.6m/分、また好ましくは<0.5m/分である持ち上げ速度で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
強化されたガラス物品の持ち上げを、>0.001m/分、好ましくは>0.005m/分、好ましくは>0.01m/分、好ましくは>0.03m/分、好ましくは>0.05m/分である持ち上げ速度で実施する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
強化後の保持温度と強化温度との間の差が、<200℃、好ましくは<100℃、好ましくは<70℃、好ましくは<55℃、好ましくは<40℃、好ましくは<20℃、または<10℃である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
強化後の保持温度が、>350℃、好ましくは>360℃、好ましくは>370℃、好ましくは>380℃、好ましくは>390℃、好ましくは>400℃、好ましくは>410℃、好ましくは>420℃である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
強化後の保持時間が、<120分、好ましくは<80分、好ましくは<40分、好ましくは<20分、好ましくは<10分、好ましくは≦5分である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
強化後の保持時間が、>0秒、好ましくは>5秒、好ましくは>15秒、好ましくは>30秒、好ましくは>1分、好ましくは≧2分である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
強化の設定、持ち上げの設定および/または強化後の保持の設定が、強化されたガラス物品の1つの表面に付着する塩残留物の厚さが<9/10×t、好ましくは<7/10×t、好ましくは<5/10×t、好ましくは<3/10×t、好ましくは<1/10×tであるように選択され、ここでtはガラス物品の厚さである、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
強化されたガラス物品の1つの表面に付着する塩残留物のTTV(全体の厚さばらつき)が、<9/10×t、好ましくは<7/10×t、好ましくは<5/10×t、好ましくは<3/10×t、好ましくは<1/10×tであり、ここでtはガラス物品の厚さである、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
塩浴中の不純物含有率(一価のイオンのモル濃度)を、<5000ppm、好ましくは<3000ppm、好ましくは<2000ppm、好ましくは<1000ppm、好ましくは<700ppm、好ましくは<500ppm、好ましくは<400ppm、好ましくは<300ppm、好ましくは<200ppm、好ましくは<100ppm、好ましくは<50ppm、好ましくは<20ppmであるように制御する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
最大0.07mmの厚さを有する薄ガラス物品を化学強化するための方法であって、以下の段階:
・ ガラス物品を、特定の強化温度を有する溶融塩の浴中に、特定の強化時間の間浸漬させる段階、
・ 強化されたガラス物品を前記塩浴から、0.5m/分未満の制御された持ち上げ速度で持ち上げる段階、
・ 強化されたガラス物品を冷却して洗浄する段階
を含む、前記方法。
【請求項12】
最大0.07mmの厚さを有する薄ガラス物品を化学強化するための方法であって、以下の段階:
・ ガラス物品を、特定の強化温度を有する溶融塩の浴中に、特定の強化時間の間浸漬させる段階、
・ 前記塩浴中の不純物の含有率(一価のイオンのモル濃度)を、<5000ppm、好ましくは<3000ppm、好ましくは<2000ppm、好ましくは<1000ppm、好ましくは<700ppm、好ましくは<500ppm、好ましくは<400ppm、好ましくは<300ppm、好ましくは<200ppm、好ましくは<100ppm、好ましくは<50ppm、好ましくは<20ppmであるように制御する段階、
・ 強化されたガラス物品を前記塩浴から持ち上げる段階、
・ 強化されたガラス物品を冷却して洗浄する段階
を含む、前記方法。
【請求項13】
最大0.07mmの厚さを有する薄ガラス物品を化学強化するための方法であって、以下の段階:
・ Tgを上回る温度にガラス物品を加熱することを含む、化学強化前のガラス物品のアニール段階、
・ ガラス物品を、特定の強化温度を有する溶融塩の浴中に、特定の強化時間の間浸漬させる段階、
・ 強化されたガラス物品を前記塩浴から持ち上げる段階、
・ 強化されたガラス物品を冷却して洗浄する段階
を含む、前記方法。
【請求項14】
最大0.07mmの厚さを有する化学強化されたガラス物品であって、前記ガラス物品が白色光源を使用した反射光下で検査される際に、光学的なオレンジの皮(OOS)を有さない、つまり、強化されたガラス物品のグレーレベルのばらつきが少ないかまたは明度のばらつきが少ない、前記化学強化された物品。
【請求項15】
標準偏差/平均×100%として定義されるグレーレベルのばらつきが、≦9%、好ましくは≦8%、好ましくは≦7%、好ましくは≦6%である、請求項14に記載の化学強化されたガラス物品。
【請求項16】
前記ガラス物品が厚さ<0.07mm、好ましくは≦0.06mm、また好ましくは≦0.05mm、好ましくは≦0.04mm、また好ましくは≦0.03mm、また好ましくは≦0.02mmおよび/または≧0.005mmを有する、請求項14または15に記載の化学強化されたガラス物品。
【請求項17】
前記ガラス物品が、1μm~t/3μm、好ましくは2μm~t/4μm、好ましくは3μm~t/5μmである層深さ(DoL)を有し、ここで、tは強化されたガラス物品の厚さをμmで示したものである、請求項16に記載の化学強化されたガラス物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品が最大0.07mmの厚さを有し且つ反射光の下で検査される際に、光学的なオレンジの皮を有さない化学強化されたガラス物品、およびそのような化学強化されたガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の組成を有する薄ガラスは、透明性、高い化学的耐性および耐熱性、および定義された化学的特性および物理的特性が重要である多くの用途のために適した基板材料である。例えば、無アルカリガラスは、ディスプレイパネルのために、およびウェハ形式における電子的なパッケージング材料として使用され得る。アルカリ含有シリケートガラスは、フィルタコーティング基板、タッチセンサ基板および指紋センサモジュールのカバーのために使用される。
【0003】
アルミノシリケート(AS)ガラス、リチウムアルミノシリケート(LAS)ガラス、ホウケイ酸ガラスおよびソーダライムガラスは、指紋センサ(FPS)用のカバー、保護カバーおよびディスプレイカバーなどの用途のために幅広く使用されている。それらの用途において、前記ガラスは通常、特別な試験、例えば2点曲げ(2PB)、球の落下、ペンの落下、鋭利物衝撃耐性、鋭利物接触耐性、引掻耐性およびその他によって測定される高い機械的強度を達成するために化学強化される。
【0004】
現在、製品の新たな機能性およびより広い用途分野についての継続的な要請により、高い強度と柔軟性とを有するさらにより薄く且つ軽いガラス基板およびカバーガラスが必要とされている。適したガラスは超薄ガラス(UTG)である。超薄ガラス(UTG)が典型的に適用される分野は、精密電子機器の保護カバーであり、例えばUTGを、消費者用電子機器のためのフレキシブル且つ折りたたみ可能なディスプレイガラスなどとして使用できる。現在、製品の新たな機能性に対する高まる要請、および新規且つ広範な用途の探索により、新たな特性、例えば柔軟性を有するより薄く且つ軽いガラス基板が必要とされている。UTGの柔軟性に起因して、そのようなガラスは、例えばスマートホン、タブレット、時計および他のウェアラブル機器などの機器のためのカバーガラスおよびディスプレイとして調査および開発されてきた。そのようなガラスは、指紋センサモジュールのカバーガラスとして、およびカメラのレンズカバーとしても使用され得る。
【0005】
しかしながら、純粋なガラスの機械的特性および性能のいくつか(例えば衝撃耐性および曲げ性)は、UTGの非常に薄い厚さゆえに十分ではない。機械的性能を高めるための1つの有効な手段は、化学強化、つまり、イオン交換による表面の変性である。
【0006】
化学強化は、例えばディスプレイ用途のためのカバーガラスとして使用されるソーダライムガラスまたはアルミノシリケート(AS)ガラスまたはリチウムアルミノシリケート(LAS)ガラスまたはホウケイ酸ガラスなどのガラスの強度を高めるための、ガラスについての周知の方法である。この状況下で、表面圧縮応力(CS)は典型的には100~1000MPaであり、且つイオン交換層の深さはガラスの厚さに依存する。
【0007】
しかしながら、ガラスシートが0.5mmより薄くなってくると、主に、破壊をもたらす欠陥、例えばクラックおよびガラス端部での欠けに起因して、取り扱いがどんどん困難になる。また、全体の機械的強度、つまり曲げ強度または衝撃強度に反映される強度は、著しく低下する。従って、薄いガラスについてガラスの強化は極めて重要である。しかしながら、超薄ガラスの強化は、ガラスの高い内部引張応力に起因して、自己破壊のリスクを常に伴う。
【0008】
典型的には、0.4mm未満の厚さの超薄板ガラスは、直接的な熱間成型法、例えばダウンドロー、オーバーフローフュージョンまたは特別なフロート法によって製造できる。リドロー法も可能である。化学的な方法または物理的な方法によって後処理された(例えば研削および研磨によって製造された)薄いガラスと比較して、直接的に熱間成型された薄いガラスは、遙かに良好な表面均一性および表面粗さを有し、なぜなら、表面が高温溶融状態から室温へと冷却されるからである。ダウンドロー法を使用して、0.3mmより薄い、またはさらには0.07mmより薄いガラス、例えばアルミノシリケートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、アルカリホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラスまたは無アルカリアルミノホウケイ酸ガラスを製造できる。
【0009】
UTGの化学強化は説明されている(例えば国際公開第2014/139147号(WO2014/139147A1))。
【0010】
化学強化するために、ガラス物品を、予め決められた温度を有する少なくとも1つの溶融塩の特別な浴中に、定義された時間の間入れる。強化の間、ガラス物品の表面でイオン交換が生じ、そこでは、より小さなカチオン(特に一価のカチオン)がより大きな半径を有するカチオンによって置き換えられる。強化工程後、ガラス物品は塩浴から持ち上げられ、引き続き冷却および洗浄される。
【0011】
意外なことに、標準的なイオン交換手順が、強化されたガラス物品の表面で見られる、「光学的なオレンジの皮」(optical orange skin; OOS)の形での望ましくない光学的な特徴をもたらすことがあることが判明した。この作用は、ガラス物品が0.07mm以下の厚さを有し、且つ反射光の下で検査される際に観察され得る。
【0012】
そのような反射条件下、または場合により裸眼での検査下であっても、ガラス物品の表面は、果物のオレンジの皮のように、小さな不規則性(ドットやバンプ)を有するように見える。
【0013】
OOSは、そのような表面作用を有するガラス物品を使用する電子素子の光学的な外観を乱すので望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2014/139147号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、ガラス物品が最大0.07mmの厚さを有し且つ反射光の下で検査される際に光学的なオレンジの皮を有さない化学強化されたガラス物品、およびガラス物品が最大0.07mmの厚さを有し且つ反射光の下で検査される際に可視の光学的なオレンジの皮を有さない化学強化されたガラス物品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
技術用語の説明
ガラス物品: ガラス物品は、任意の大きさのものであってよい。例えばそれは、巻かれた長い超薄ガラスリボン(ガラスロール)、またはガラスロールから切り出された単独のより小さいガラス部材、または別個のガラスシート、または単独の小さいガラス物品(例えばFPSまたはディスプレイのカバーガラス)等であってよい。
【0017】
超薄ガラス: 本発明について、超薄ガラスは、フレキシブルな、好ましくは折りたたみ可能なガラスであり、厚さ0.4mm以下、好ましくは0.14mm以下、特により好ましくは0.1mm以下、好ましくは0.07mm以下、好ましくは0.05mm以下、好ましくは0.03mm以下を有する。
【0018】
厚さ(t): ガラス物品の厚さは、測定される試料の厚さの算術平均である。
【0019】
圧縮応力(CS): ガラスの表面層上でイオン交換後にガラスの網目間で誘導される圧縮。そのような圧縮は、ガラスの変形によって緩和され得ず、応力として維持される。市販の試験機、例えばFSM6000(株式会社ルケオ、日本/東京)は、導波管の機構によってCSを測定できる。
【0020】
層深さ(DoL): CSが存在するガラスの領域のイオン交換層の厚さ。市販の試験機、例えばFSM6000(株式会社ルケオ、日本/東京)は、導波管の機構によってDoLを測定できる。
【0021】
内部引張応力(CT): CSが1枚のガラスシートの片側または両側上で誘導される場合、ニュートンの法則の第三原理に従って応力を均衡させるために、ガラスの中心領域では引張応力が誘導されなければならず、それが内部引張応力と称される。CTは、測定されたCSとDoLとから計算できる。
【0022】
表面粗さ(Ra): 表面組織の尺度。これは実際の表面の理想的な形態からの垂直方向のずれによって定量化される。慣例的に、振幅パラメータが、粗さプロファイルの中心線からの垂直方向のずれに基づいて表面を特徴付ける。Raは、それらの垂直方向のずれの絶対値の算術平均である。
【0023】
全体の厚さばらつき(TTV): 基材、被覆または塩残留物層の厚さにおける最大のばらつき。全体の厚さばらつきは一般に、ガラス物品、シートまたは層を、十字のパターンにおける約20~200の点で(前記物品の端部に近すぎないように)測定し、測定された厚さの最大の差を計算することによって決定され、つまり、TTV=Tmax-Tminである。
【0024】
本発明の詳細な説明
本発明によれば、ガラス物品が最大0.07mmの厚さを有し且つ反射光の下で検査される際に可視の光学的なオレンジの皮(OOS)を有さない化学強化されたガラス物品の製造方法は、ガラス表面上で塩残留物の制御された厚さおよび分布をもたらすことによって、より均質なイオン交換工程を提供する。
【0025】
先行技術においては、強化時間、温度、塩浴の種類のみが、強化されたガラス物品の性能に主たる影響/作用を及ぼすと考えられてきた。しかしながら、UTG物品の化学強化はもっと困難である。意外なことに、本発明者らは、超薄ガラス物品に対処する場合、強化されたガラスが塩浴から持ち上げられる際、塩残留物が固体になる前に、後のイオン交換後の工程をそれぞれ制御し且つ正確に設定することが重要であることを見出した。
【0026】
前記のOOS作用(図1aと比較して図1bを参照)は、反射光検査下で0.07mm未満の厚さを有する化学強化されたガラス物品上で見られることがある。この試験方法では、強い白色光源、例えば脈理検査システムの白色光源が使用される。本発明に関しては、500Wのキセノンランプ(CHF-XM-500W)を使用した。検査されるガラス物品の試料は、光源に対してそれが鏡として作用するように方向付けられ、且つガラス物品によって反射される光は検査表面(例えばスクリーン、水平且つ平面の壁など)上に投影される。ガラス物品と検査表面との間の距離は約10cmであるべきである。ガラス物品の光学的および幾何学的な歪み(例えば反り、変形、光学的な作用、例えばOOS)は、この試験方法によって大きく拡大されて見えるようになる。本発明に関して、投影された像が視覚的に検査され、且つ反射像の写真を撮ることにより文書化される。さらに、反射像の写真を、コンピュータに基づく画像評価システムを使用してさらに評価することができる(例えば、異なるグレーレベルおよび/または明度のばらつきを評価)。適した画像評価プログラムは「ImageJ」である。
【0027】
厚さ70μm以下を有する強化された薄ガラス物品の反射像を見ると、小さな表面の不規則性が見られ(図1b、3b、4b、5b)、それが光学的なオレンジの皮(OOS)と称される。OOSは様々な現れ方をし得る: 表面が波状またはしわの寄った構造を有するように見えることもあれば(図1b、3b)、表面がバンプまたは凹みの形態の(局所的な)構造を有するように見えることもある(図4b、5b)。ガラスの薄い厚さにより、いくつかの強化されたガラス物品についてはOOS作用が裸眼でも可視になることがある。
【0028】
本発明者らは、OOSと称される、反射光の下で可視である強化されたUTGの表面の不規則性が、表面トポロジーにおける変化には相応しないことを見出した。表面トポロジー分析は、OOSの特徴の大きさとしての周波数における高さの変化を示さない(図2aおよび2b参照)。
【0029】
OOSは、特定の屈折率の傾きの不均質性をもたらし得るイオン交換における不均質性によって引き起こされるように思われる光学的な作用であると考えられる。本発明に関して、本発明者らは、可視のOOSは、ガラス物品を塩浴から持ち上げている間および持ち上げた後、塩残留物が固体になる前の、ガラスと、該ガラス表面に付着している塩残留物との間の不均一なイオン交換工程に相関し得ることを見出した。溶融塩の重力とレオロジーに起因して、ガラス表面に付着した塩残留物の厚さは均一ではない。同じ塩浴中で強化される場合、残留塩が厚くなるほど、OOSと称される光学的な表面の外観は悪くなる(図3a、3bおよび図4a、4b参照)。
【0030】
さらに、本発明者らは、70μmを上回る厚さを有し、同じ組成を有し且つ同じ強化条件下で強化された、強化薄ガラス物品が、以下の図面の説明において説明されるとおり、相応の反射光検査下でOOSを示さないことを見出した(図6参照)。
【0031】
OOSを回避または最小化するために、記載される方法のみを使用して、または他の記載される手段と組み合わせて、以下の手順が提案される:
本発明の1つの態様によれば、最大0.07mmの厚さを有する薄ガラス物品を化学強化するための方法は、以下の段階を含む:
・ ガラス物品を、特定の強化温度を有する溶融塩の浴中に、特定の強化時間の間浸漬させる段階、
・ 強化されたガラス物品を前記塩浴から持ち上げる段階、
・ 強化されたガラス物品を特定の保持時間の間、強化後に保持する段階、ここで、保持温度は、塩浴の融点より高く且つ強化されたガラス物品の転移温度(Tg)よりも低くなるように選択される、
・ 強化されたガラス物品を冷却して洗浄する段階。
【0032】
強化されたガラス物品を塩浴から持ち上げる間、塩浴の上の空間の温度を、塩浴の融点よりも高い高温に保つ。好ましくは、前記空間の温度は、引き続く強化後の保持段階の保持温度に相応するか、またはその付近である。本発明の有利な態様において、持ち上げる工程の間に塩浴から出る強化されたガラスの部分は、定義された保持温度未満には冷却されない。好ましい実施態様において、強化後の保持工程は、塩浴の直上で行われる。選択的に、持ち上げられた強化されたガラス物品を、保持位置に輸送し、そこで、持ち上げられたガラス物品を、好ましくは定義された保持温度に相応するか、またはその温度付近の高温で保つ。
【0033】
強化後の保持段階を、好ましくは、保持温度を設定できる加熱炉を使用して実施する。本発明によれば、塩浴を離れた直後に、ガラス物品を、特定の保持時間の間、保持温度で保ち、その後、それを冷却して洗浄する。(強化されたガラス物品が塩浴を離れた後に直接的に冷却され得る手順に比して)より高い保持温度に起因して、強化されたガラス物品の表面に付着している塩残留物の粘度は低いレベルに保たれるので、該塩残留物は重力の影響下で動き、且つ、薄く、好ましくは均質な残留塩の層が、強化されたガラス物品の表面上に形成される。反射光の検査下で、70μm以下の厚さを有するそのような強化されたガラス物品はOOSを有さない。
【0034】
本発明に関して、持ち上げ時間とは、ガラス物品を完全に塩浴から持ち上げるために必要とされる時間である。持ち上げ時間は、ガラス物品の上端が塩浴から出てくる際に開始し、且つ下端が塩浴をちょうど離れた際に終了する。
【0035】
強化後の保持時間は、持ち上げ時間の後、つまりガラス物品の下端が塩浴から出てきた際に開始する。保持工程は、強化塩浴を離れた後のガラス物品全体に影響する処理段階である。保持時間(ホールド時間とも称する)の間、好ましくはガラス物品全体を、塩浴の融点よりも高い温度で保つ。
【0036】
好ましくは、保持時間は>0秒、好ましくは>5秒、好ましくは>15秒、好ましくは>30秒、好ましくは>1分、好ましくは≧2分である。好ましくは、保持時間は持ち上げ時間よりも長い。
【0037】
保持時間は、ガラス物品を最終的に塩浴の融点に相応する温度未満に冷却させた際に終了する。
【0038】
化学強化のために最も使用される塩は、Na+含有溶融塩またはK+含有溶融塩、またはそれらの混合物である。慣例的に使用される塩は、NaNO3、KNO3、NaCl、KCl、K2SO4、Na2SO4、Na2CO3およびK2CO3である。添加剤、例えばNaOH、KOHおよび他のナトリウム塩またはカリウム塩を使用して、化学強化の間のイオン交換の速度、CSおよびDoLをより良好に制御することもできる。
【0039】
強化浴の好ましい強化温度は、340℃~460℃の範囲である。さらに好ましくは、強化時間は1分~600分の範囲である。強化時間、強化温度および使用される溶融塩浴の種類は、強化されるべき物品のガラスの種類および意図される強化結果を考慮して選択されるべきである。好ましくは、強化されたガラス物品は100MPa~2000MPaの範囲のCSを有する。好ましくは、強化されたガラス物品は1μm~t/3μm、好ましくは2μm~t/4μm、好ましくは3μm~t/5μmであるDoLを有し、ここで、tは強化されたガラス物品の厚さをμmで示したものである。
【0040】
前記方法の有利な態様において、強化されたガラス物品は<10m/分、好ましくは<5m/分、より好ましくは<1m/分、好ましくは<0.8m/分、より好ましくは<0.6m/分、さらに好ましくは<0.5m/分である持ち上げ速度で塩浴から持ち上げられる。低下された持ち上げ速度が適用される場合、強化されたガラス物品の表面に付着している残留塩が、重力、および塩浴およびガラスの表面張力の影響下で表面から流れ落ちるために十分な時間がある。持ち上げ速度が小さいことは、強化されたガラス物品の表面上でより薄い残留塩の層を形成する助けとなる。塩浴中の不純物(例えば、ガラス組成に由来する交換されたイオン)の増加が塩浴のレオロジー(例えば粘度)を変えるので、使用される塩浴の寿命の間、持ち上げの設定を修正することが推奨され得る。粘度が上昇する場合、より小さな持ち上げ速度を適用して、強化されたガラス物品の表面上の望ましくない残留塩を減らすべきである。
【0041】
本発明に関して、持ち上げ速度は平均速度として示される。ガラス物品が本質的に一定の持ち上げ速度で持ち上げられる、つまり、持ち上げ工程の間、持ち上げ速度が本質的に変化しないことが有利であり得る。
【0042】
有利な態様において、持ち上げ速度は>0.001m/分、好ましくは>0.005m/分、好ましくは>0.01m/分、好ましくは>0.03m/分、好ましくは>0.05m/分である。
【0043】
可視のOOSを有さない強化されたガラス物品をもたらすために、強化後の保持温度と強化温度との間の差が<200℃、好ましくは<100℃である場合が有利である。前記の差は、<70℃または<55℃または<40℃または<20℃または<10℃であるように選択してもよく、その際、示された差の値は絶対値である、つまり、保持温度は強化温度よりも高いかまたは低くてよい。塩浴中の不純物(例えば、ガラス組成に由来する交換されたイオン)が塩浴のレオロジー(例えば粘度)を変えるので、使用される塩浴の寿命の間、適用される温度差を修正することが推奨され得る。粘度が上昇する場合、より高い温度差(絶対値)を適用して、強化されたガラス物品の表面上の望ましくない残留塩を減らすことができる。
【0044】
本発明の有利な態様において、強化後の保持温度は>350℃、好ましくは>360℃、好ましくは>370℃、好ましくは>380℃、好ましくは>390℃、好ましくは>400℃、好ましくは>410℃、好ましくは>420℃である。保持温度は、塩の融点よりも著しく高くなるように選択される。本発明者らは、強化浴の使用される塩の融点に近い保持温度は、可視のOOSを有する強化されたガラス物品をもたらし得ることを見出した。次の説明の試みに束縛されるものではないが、この理由は、塩の融点に近い、より低い保持温度は、イオン移動度のより大きなばらつきをもたらし得るので、保持の間のイオン交換がより不均一になるためかもしれない。
【0045】
可視のOOSを有さない強化されたガラス物品をもたらすために、強化後の保持時間が<120分、好ましくは<80分、好ましくは<40分、好ましくは<20分、好ましくは<10分、好ましくは≦5分である場合がさらに有利である。保持時間が長すぎると、これは緩和に起因するCSの低下をもたらすことがある。塩浴中の不純物(例えば、ガラス組成に由来する交換されたイオン)が塩浴のレオロジー(例えば粘度)を変えるので、使用される塩浴の寿命の間、適用される保持時間を修正することが推奨され得る。粘度が上昇する場合、より長い保持時間を適用して、強化されたガラス物品の表面上の望ましくない残留塩を減らすことができる。
【0046】
さらに有利な態様において、強化の設定、持ち上げの設定および/または強化後の保持の設定は、強化されたガラス物品の1つの表面に付着する塩残留物の厚さが<9/10×t(つまり<9/10にtを掛ける)、好ましくは<7/10×t、好ましくは<5/10×t、好ましくは<3/10×t、好ましくは<1/10×tであるように選択され、ここでtはガラス物品の厚さである。従って、板状のガラス物品の両側(表面)についての塩残留物の合計は、<18/10×t、好ましくは<14/10×t、好ましくは<10/10×t、好ましくは<6/10×t、好ましくは<2/10×tである。
【0047】
他の有利な実施態様において、ガラス表面上の塩残留物の均質性が設定される。好ましくは、強化されたガラス物品の1つの表面に付着する塩残留物のTTV(全体の厚さばらつき)が<9/10×t(つまり<9/10にtを掛ける)、好ましくは<7/10×t、好ましくは<5/10×t、好ましくは<3/10×t、好ましくは<1/10×tであり、ここでtは板状のガラス物品の厚さである。ガラス物品の1つの表面、好ましくは両方の表面上の塩残留物の層の均質な厚さ(小さなTTV)が、OOSを有さない強化されたガラス物品をもたらすために有利である。
【0048】
他の有利な態様において、前記方法は、塩浴中の不純物含有率(一価のイオンのモル濃度)が<5000ppm、好ましくは<3000ppm、好ましくは<2000ppm、好ましくは<1000ppm、好ましくは<700ppm、好ましくは<500ppm、好ましくは<400ppm、好ましくは<300ppm、好ましくは<200ppm、好ましくは<100ppm、好ましくは<50ppm、好ましくは<20ppmであるように制御する段階を含む。この手段によって、以下により詳細に説明するとおり、溶融塩浴のレオロジーを改善できる。
【0049】
上述のとおり、OOSを有さない強化された薄いガラス物品を製造するためには、強化後に高温で保持することが重要且つ好ましい手段である。しかしながら、OOSを有さないかまたはOOSが低減されたガラス物品を、ここで説明するとおり、強化後の保持段階を用いずに製造することもできる。もちろん、以下に記載される方法を単独または組み合わせて使用できる。さらに、以下に記載される方法を、既に上述された有利な手段(保持段階、持ち上げ速度、残留塩の厚さ等)に組み合わせ且つ改善することもできる。
【0050】
ガラス物品を強化塩浴から持ち上げる際に適用される速度を制御することが重要である。第1の有利な手段によれば、強化の間にガラス物品を支えているホルダを持ち上げる速度は0.5m/分以下である。本発明者らは、強化されたガラス物品の表面での塩残留物のモフォロジーおよび厚さが、持ち上げ速度によって著しく影響され得ることを見出した。より遅い持ち上げ速度は、表面張力が変化するので、ずり減粘によって、ガラス表面に付着した塩残留物の量を著しく低下させる(図7aおよび7b参照)。従って、不均質なイオン交換工程を制限するための有効な方法は、持ち上げの間のガラスに付着する塩残留物の量を減らすことである。
【0051】
さらに、溶融塩浴のレオロジーを制御することが推奨される。第2の有利な手段によれば、溶融塩浴のレオロジーは、塩浴中の不純物の含有率(モル濃度で計算)を限定することによって制御される。特に、一価の金属イオンの不純物の含有率は、5000ppm未満、好ましくは3000ppm未満、好ましくは2000ppm未満、好ましくは1000ppm未満、好ましくは700ppm未満、好ましくは500ppm未満、好ましくは400ppm未満、好ましくは300ppm未満、好ましくは200ppm未満、好ましくは100ppm未満、好ましくは50ppm未満、好ましくは20ppm未満であるように制御されるべきである。本発明者らは、強化塩浴中の不純物、例えばナトリウムが、溶融塩のレオロジーを変えることがあり、ひいては、塩浴から持ち上げた後のガラス表面に付着する塩残留物のモフォロジーに影響し得ることを見出した(図7bと比較して図7cを参照)。例えばナトリウムは塩の融点を下げることがあり、なぜなら、硝酸ナトリウム/硝酸カリウムの系は共晶点を有するからである。ガラス物品の化学強化の間のNaイオン対Kイオンのイオン交換に起因するKNO3塩浴中のNaイオンの含有率の増加は、溶融塩浴のレオロジーを修正し、ひいてはガラス表面上に生じる塩残留物のモフォロジーを修正すると考えられる。塩浴中のNaイオン含有率の増加は、強化されたガラス物品の可視のOOSの増加をもたらす(図8a~8d参照)。
【0052】
従って、OOSを低減するための有利な手段は、量産におけるKNO3塩浴中のナトリウム含有率を低減することである。
【0053】
KNO3を含有する強化浴中のナトリウム含有率を制御し且つ低減するために、好ましくは、製造の間の塩浴中のナトリウムイオンについての選択的な吸収材として、特別なゼオライトを適用できる。
【0054】
さらに有利な手段によれば、化学強化の前のアニール段階を実施して、OOSを低減することができる。この手段は、図11a、11bおよび11cと関連付けて後に詳細に説明する。
【0055】
さらに有利な手段によれば、反射光検査およびさらなる手順の前に、強化されたガラス物品の保管を実施して、可視のOOSを低減することができる。この手段は、図12a、12b、12cおよび図13a、13b、13cと関連付けて後に詳細に説明する。
【0056】
さらに有利な手段によれば、強化されたガラス物品と透明な媒体との貼り合わせを実施して、可視のOOSを低減することができる。この手段は、図14aおよび14bと関連付けて後に詳細に説明する。
【0057】
OOSを有さないかまたはOOSが低減された、強化されたガラス物品を達成するために、溶融塩は低い粘度を有するべきである(つまり、より高い塩浴温度を選択すること、より高い強化後の保持温度を選択すること、および不純物濃度を低下させることからなる群から選択される少なくとも1つの手段を採用すべきである)。さらに、溶融塩は、ガラス上の、好ましくは均一である薄層を形成するために、重力下で流れるために十分な時間を与えられるべきである(つまり、より遅い持ち上げ速度および/またはより長い強化後の保持時間を使用すべきである)。上述のとおり、強化および持ち上げの設定は、より高い不純物含有率を有する塩浴については、より限定される。
【0058】
本発明の他の態様によれば、上記で示された問題は、最大0.07mmの厚さを有し、ガラス物品が強い白色光源を使用した反射光下で検査される際に光学的なオレンジの皮(OOS)を有さない化学強化された物品によって解決される。その測定手順は既に上述されている。OOSを有さないとは、強化されたガラス物品の反射像のグレーレベルのばらつきが少ないか、または明度のばらつきが少ないことを意味する。
【0059】
本発明の有利な実施態様において、強化されたガラス物品は、標準偏差/平均(StdDev/Mean)×100%として定義される、≦9%、好ましくは≦8%、好ましくは≦7%、好ましくは≦6%、好ましくは≦5%のグレーレベルのばらつきを有する。グレーレベルのばらつきは、光学的なオレンジの皮(OOS)の程度の尺度である。
【0060】
標準偏差/平均×100%は、画像処理プログラム、例えば「ImageJ」を使用して決定できる。
【0061】
評価のために、例えば「ImageJ」を介して、上述の方法を使用してガラス物品の反射像を創り出す。反射像の写真を撮り、ここで、その写真は、試料1インチあたり少なくとも500ピクセルの解像度を有するべきである。写真は、ガラスからの反射のみが該当の領域内であるように切り取られ、つまり、端部領域、指紋、他の物体からの反射は除外されるべきである。さらには、測定は、平坦であり且つ認識可能な反りおよび/または変形を有さない領域で行われる。さらなる調整をすることなく、写真は、平均のグレー値80~100を有するべきである(InageJで測定)。
【0062】
次に、写真のグレー値の標準偏差(StdDev)を決定する。標準偏差は写真内の全ての個々のピクセルから計算される。グレーレベルのばらつきは、標準偏差/平均に100%を掛けたものとして計算される。
【0063】
強化されたガラス物品上の様々な表面の位置で光学的なオレンジの皮の程度を測定することが有利である。好ましくは、強化されたガラス物品は、光学的なオレンジの皮の程度に関して高い均質性を有する。好ましくは、全体の測定可能な表面(つまり、端部領域、指紋および/または他の物品からの反射を有する領域、認識可能な反りおよび/または変形を有する領域等を有さない)は、<9%、好ましくは<8%、好ましくは<7%、好ましくは<6%、好ましくは<5%であるグレーレベルのばらつきを有する。
【0064】
本発明による超薄ガラス物品は、70μm以下、より好ましくは65μm以下、より好ましくは60μm以下、より好ましくは55μm以下、さらに好ましくは50μm以下、より好ましくは45μm以下、より好ましくは40μm以下、より好ましくは35μm以下、さらに好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下の厚さを有する。そのような特に薄いガラス物品が、上記の様々な用途のために望ましい。特に、厚さが薄いとガラスの柔軟性が与えられる。厚さは少なくとも5μmであってよい。
【0065】
本発明によるガラス物品の表面圧縮応力(CS)は、少なくとも100MPaである。好ましくは、CSは200MPaを上回り、より好ましくは300MPaを上回り、より好ましくは400MPaを上回り、より好ましくは500MPaを上回り、より好ましくは600MPaを上回る。本発明の好ましい実施態様によれば、CSは、700MPaであるかまたはより好ましくは700MPaを上回り、より好ましくは800MPaを上回り、より好ましくは900MPaを上回り、さらに好ましくは1000MPaを上回る。しかしながら、CSは、非常に高くてはならず、なぜなら、そうでなければガラスが自己破壊しやすいことがあるからである。好ましくは、CSは2000MPa以下、好ましくは1600MPa以下、有利には1500MPa以下、より好ましくは1400MPa以下である。いくつかの有利な態様は、1300MPa以下、または1200MPa以下のCSすら有する。
【0066】
好ましくは、強化されたガラス物品は1μm~t/3μm、好ましくは2μm~t/4μm、好ましくは3μm~t/5μmである層深さ(DoL)を有し、ここで、tは強化されたガラス物品の厚さをμmで示したものである。
【0067】
良好な化学強化性能を達成するために、前記ガラスはかなりの量のアルカリ金属イオン、好ましくはNa2Oを含有すべきであり、さらには、より少ない量のK2Oをガラス組成物に添加することも、化学強化速度を改善できる。さらには、Al23をガラス組成物に添加すると、ガラスの強化性能を著しく改善できることが判明している。
【0068】
SiO2は、本発明のガラスにおける主たるガラスの網目形成成分である。さらには、Al23、B23およびP25もガラスの網目形成成分として使用され得る。SiO2、B23およびP25の合計の含有率は、慣例的な製造方法のためには40%未満であってはならない。そうでなければ、ガラスシートは成型が困難になることがあり、且つ、脆くなり且つ透明性を失うことがある。高いSiO2含有率は、ガラスの製造の高い溶融温度および作業温度を必要とし、それは通常、90%未満であるべきである。好ましい実施態様において、ガラス中のSiO2含有率は、40~75質量%、より好ましくは50~70質量%、さらにより好ましくは55~68質量%である。他の好ましい実施態様において、ガラス中のSiO2含有率は、55~69質量%、より好ましくは57~66質量%、さらにより好ましくは57~63質量%である。さらなる好ましい実施態様において、ガラス中のSiO2含有率は、60~85質量%、より好ましくは63~84質量%、さらにより好ましくは63~83質量%である。他のさらなる好ましい実施態様において、ガラス中のSiO2含有率は、40~81質量%、より好ましくは50~81質量%、さらにより好ましくは55~76質量%である。B23およびP25をSiO2に添加すると、網目特性を修飾でき且つガラスの溶融温度および作業温度を低下させることができる。ガラスの網目形成成分も、ガラスのCTEに大きな影響を及ぼす。
【0069】
さらには、ガラスの網目中のB23は、2つの異なる多面体構造を形成し、そのことにより、外側からかかる力に対する適合性が増す。B23の添加は通常、より低い熱膨張およびより低いヤング率をもたらし、そのことが良好な熱衝撃耐性およびよりゆっくりとした化学強化速度をみちびき、それを通じて低いCSおよび低いDoLが容易に得られる。従って、B23の超薄ガラスへの添加は、化学強化処理のウィンドウおよび超薄ガラスを大々的に改善でき、且つ、化学強化された超薄ガラスの実用上の用途を広げることができる。好ましい実施態様において、本発明のガラス中のB23の量は、0~20質量%、より好ましくは0~18質量%、より好ましくは0~15質量%である。いくつかの実施態様において、B23の量は0~5質量%、好ましくは0~2質量%であってよい。他の実施態様において、B23の量は5~20質量%、好ましくは5~18質量%であってよい。B23の量が多すぎると、ガラスの融点が高くなりすぎることがある。さらには、化学強化性能は、B23の量が多すぎると低下する。B23不含の態様が好ましいことがある。
【0070】
Al23は、ガラスの網目形成成分とガラスの網目修飾成分との両方として作用する。[AlO4]四面体および[AlO6]六面体が、ガラスの網目中でAl23の量に依存して形成され、それらは、ガラスの網目内部のイオン交換のための空間のサイズを変化させることによってイオン交換速度を調節できる。一般に、この成分の含有率は、それぞれのガラスの種類に依存して変化する。従って、本発明のいくつかのガラスは好ましくは、Al23を少なくとも2質量%の量、より好ましくは少なくとも10質量%、さらには少なくとも15質量%の量で含む。しかしながら、Al23の含有率が高すぎると、ガラスの溶融温度および作業温度も非常に高くなり、且つ結晶が形成されやすくなり、ガラスが透明性および柔軟性をなくす。従って、本発明のいくつかのガラスは好ましくは、最大30質量%、より好ましくは最大27質量%、より好ましくは最大25質量%の量のAl23を含む。いくつかの有利な実施態様は、Al23を、最大20質量%、好ましくは最大15質量%または最大10質量%、またはさらに好ましくは最大8質量%、好ましくは最大7質量%、好ましくは最大6質量%、好ましくは最大5質量%の量で含んでよい。いくつかのガラスの態様は、Al23不含であってよい。他の有利なガラスの態様は、少なくとも15質量%、好ましくは少なくとも18質量%のAl23、および/または最大25質量%、好ましくは最大23質量%、より好ましくは最大22質量%のAl23を含んでよい。
【0071】
アルカリ酸化物、例えばK2O、Na2OおよびLi2Oは、ガラスの網目修飾成分として作用する。それらは、ガラスの網目を破壊し、ガラスの網目内部で非架橋酸化物を形成できる。アルカリを添加することは、ガラスの作業温度を低下させ且つガラスのCTEを高めることができる。Na+/Li+、Na+/K+、Li+/K+のイオン交換は強化のために必須の段階であるので、ナトリウムおよびリチウム含有率は、化学強化可能である超薄フレキシブルガラスにとって重要であり、アルカリ自体が含有されなければガラスは強化されない。しかしながら、ナトリウムはリチウムよりも好ましく、なぜなら、リチウムはガラスの拡散率を著しく低減しかねないからである。従って、本発明のいくつかのガラスは好ましくは、Li2Oを最大7質量%、好ましくは最大5質量%、より好ましくは最大4質量%、より好ましくは最大2質量%、より好ましくは最大1質量%、より好ましくは最大0.1質量%の量で含む。いくつかの好ましい実施態様はLi2O不含ですらある。ガラスの種類に依存して、Li2Oについての下限は3質量%、好ましくは3.5質量%であってよい。
【0072】
本発明のガラスは好ましくは、Na2Oを少なくとも4質量%、より好ましくは少なくとも5質量%、より好ましくは少なくとも6質量%、より好ましくは少なくとも8質量%、より好ましくは少なくとも10質量%の量で含む。ナトリウムは化学強化性能のために非常に重要であり、なぜなら、化学強化は好ましくは、ガラス中のナトリウムと、化学強化媒体中のカリウムとのイオン交換を含むからである。しかしながら、ナトリウム含有率も高すぎてはならず、なぜなら、ガラスの網目が酷く悪化することがあり、且つガラスが極めて形成されにくくなることがあるからである。他の重要な要因は、超薄ガラスが低いCTEを有するべきであることであり、そのような要請に合致するためにガラスは多すぎるNa2Oを含有すべきではない。従って、ガラスは好ましくは、Na2Oを最大30質量%、より好ましくは最大28質量%、より好ましくは最大27質量%、より好ましくは最大25質量%、より好ましくは最大20質量%の量で含む。
【0073】
本発明のガラスはK2Oを含み得る。しかしながら、ガラスは好ましくは、ガラス中のナトリウムイオンと化学強化媒体中のカリウムイオンとを交換することにより化学強化されるので、ガラス中の多すぎる量のK2Oは化学強化性能を損なうことがある。従って、本発明のガラスは好ましくは、K2Oを最大10質量%、より好ましくは最大8質量%の量で含む。いくつかの好ましい実施態様は、最大7質量%含み、他の好ましい実施態様は、最大4質量%、より好ましくは最大2質量%、より好ましくは最大1質量%、より好ましくは最大0.1質量%含む。いくつかの好ましい実施態様はK2O不含ですらある。
【0074】
しかし、ガラスの網目が酷く悪化することがあり且つガラスが極めて形成しにくくなることがあるので、アルカリ含有率の総量は、好ましくは35質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは28質量%以下、より好ましくは27質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下であるべきである。いくつかの態様は、最大16質量%、好ましくは最大14質量%のアルカリ含有率を有する。他の重要な要因は、超薄ガラスが低いCTEを有するべきであることであり、そのような要請に合致するためにガラスは多すぎるアルカリ元素を含有すべきではない。しかしながら、上述のとおり、化学強化を容易にするためには、ガラスはアルカリ元素を含有すべきである。従って、本発明のガラスは好ましくは、アルカリ金属酸化物を少なくとも2質量%、より好ましくは少なくとも3質量%、より好ましくは少なくとも4質量%、より好ましくは少なくとも5質量%、より好ましくは少なくとも6質量%の量で含む。
【0075】
アルカル土類酸化物、例えばMgO、CaO、SrO、BaOは網目修飾成分として作用し、且つガラスの形成温度を低下させる。それらの酸化物を添加して、ガラスのCTEおよびヤング率を調節できる。アルカリ土類酸化物は、特別な要請に合致させるためにガラスの屈折率を変えることができるという非常に重要な機能を有する。例えば、MgOはガラスの屈折率を低下させることができ、BaOは屈折率を高めることができる。アルカリ土類酸化物の質量含有率は、好ましくは40質量%以下、好ましくは30質量%以下、好ましくは25質量%以下、また好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、より好ましくは12質量%以下であるべきである。ガラスのいくつかの態様は、最大10質量%、好ましくは最大5質量%、より好ましくは最大4質量%のアルカリ土類酸化物を含んでよい。アルカリ土類酸化物の量が多すぎると、化学強化性能が悪化することがある。アルカリ土類酸化物についての下限は、1質量%または5質量%であってよい。さらには、アルカリ土類酸化物の量が多すぎると、結晶化傾向が高まることがある。いくつかの有利な態様は、アルカリ土類酸化物不含であることがある。
【0076】
ガラス内のいくつかの遷移金属酸化物、例えばZnOおよびZrO2は、アルカリ土類酸化物と類似した機能を有し、いくつかの実施態様において含まれることがある。他の遷移金属元素、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、TiO2、CuO、CeO2およびCr23は、特定の光学的機能またはフォトニック機能を有するガラス、例えばカラーフィルタまたは光変換器を製造するための着色剤として機能する。As23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として、0~2質量%の量で添加することもできる。希土類酸化物を0~5質量%の量で添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0077】
以下の有利な組成は、強化前の様々な種類のガラスに関する。
【0078】
1つの実施態様において、超薄フレキシブルガラスは、以下の成分を示された量(質量%)で含むアルカリ金属アルミノシリケートガラスである:
【表1】
【0079】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。As23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として、0~2質量%の量で添加することもできる。希土類酸化物を0~5質量%の量で添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0080】
本発明のアルカリ金属アルミノシリケートガラスは好ましくは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表2】
【0081】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0082】
最も好ましくは、本発明のアルカリ金属アルミノシリケートガラスは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表3】
【0083】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0084】
1つの実施態様において、超薄フレキシブルガラスは、以下の成分を示された量(質量%)で含むソーダライムガラスである:
【表4】
【0085】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0086】
この発明のソーダライムガラスは好ましくは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表5】
【0087】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0088】
この発明のソーダライムガラスは好ましくは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表6】
【0089】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0090】
この発明のソーダライムガラスは好ましくは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表7】
【0091】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0092】
最も好ましくは、本発明のソーダライムガラスは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表8】
【0093】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0094】
最も好ましくは、本発明のソーダライムガラスは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表9】
【0095】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0096】
1つの実施態様において、超薄フレキシブルガラスは、以下の成分を示された量(質量%)で含むリチウムアルミノシリケートガラスである:
【表10】
【0097】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。As23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として、0~2質量%の量で添加することもできる。希土類酸化物を0~5質量%の量で添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0098】
本発明のリチウムアルミノシリケートガラスは好ましくは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表11】
【0099】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0100】
最も好ましくは、本発明のリチウムアルミノシリケートガラスは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表12】
【0101】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0102】
1つの実施態様において、超薄フレキシブルガラスは、以下の成分を示された量(質量%)で含むホウケイ酸ガラスである:
【表13】
【0103】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0104】
本発明のホウケイ酸ガラスは好ましくは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表14】
【0105】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0106】
本発明のホウケイ酸ガラスは好ましくは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表15】
【0107】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0108】
典型的には、本発明による超薄ガラスを、より厚いガラスから研磨により薄くするかまたはエッチングすることによって製造できる。それら2つの方法は経済的ではなく、且つ例えばRa粗さによって定量化される粗悪な表面品質をもたらす。
【0109】
直接的な熱間成型製造、例えばダウンドロー法、オーバーフローフュージョン法が量産には好ましい。リドロー法も有利である。これらの述べられた方法が経済的であり且つガラス表面の品質が高い。
【0110】
一般に、強くすることが強化と称され、カリウムイオンを有する溶融塩浴中にガラスを浸漬するか、またはカリウムイオンまたは他のアルカリ金属イオンを含有するペーストによってガラスを被覆し、高温で特定の時間加熱することによって行うことができる。塩浴またはペースト中のより大きなイオン半径を有するアルカリ金属イオンが、ガラス物品中のより小さな半径を有するアルカリ金属イオンと交換され、イオン交換に起因して表面圧縮応力が形成される。上述のとおり、ガラス物品を溶融塩の浴に浸漬することがここで適用される。強化されたガラスを塩浴から持ち上げ、およびさらに有利な段階の後、ガラス物品は公知の手順を使用して冷却されて洗浄される。
【0111】
本発明の化学強化されたガラス物品は、化学強化可能なガラス物品を化学的に強化することにより得られる。超薄ガラス物品を、一価のイオンを含有する塩浴中に浸漬して、ガラス内部のアルカリイオンと交換することによって、強化工程を行うことができる。塩浴中の一価のイオンは、ガラス内部のアルカリイオンよりも大きな半径を有する。ガラスへの圧縮応力は、より大きなイオンがガラスの網目中に割り込むことに起因して、イオン交換後に形成される。イオン交換後、超薄ガラスの強度および柔軟性は意外なことに、著しく改善される。さらに、化学強化によって誘導されるCSは、強化されたガラス物品の曲げ特性を改善し、ガラスの引っ掻き耐性および衝撃耐性を高め得るので、強化されたガラスは簡単には引っ掻き傷がつかず、且つDoLは引っ掻き許容度を高めることができ、ガラスが引っ掻かれたとしても破壊しにくい。
【0112】
化学強化のために最も使用される塩は、Na+含有溶融塩またはK+含有溶融塩、またはそれらの混合物である。慣例的に使用される塩は、NaNO3、KNO3、NaCl、KCl、K2SO4、Na2SO4、Na2CO3およびK2CO3である。添加剤、例えばNaOH、KOHおよび他のナトリウム塩またはカリウム塩を使用して、化学強化の間のイオン交換の速度、CSおよびDoLをより良好に制御することもできる。Ag+含有またはCu2+含有塩浴を使用して、超薄ガラスに抗菌機能を付加することができる。
【0113】
化学強化は一段階に限定されない。それは、より良好な強化性能を達成するための、様々な濃度のアルカリ金属イオンを有する塩浴中での多段階を含み得る。従って、本発明による化学強化されたガラス物品を、1段階、または複数の段階、例えば2段階の過程で強化することができる。
【0114】
本発明による化学強化されたガラス物品は、第1の表面からガラス物品内の第1の深さ(DoL)までに及ぶ圧縮応力領域が存在する1つだけの表面(第1の表面)を有することができ、前記領域は圧縮応力(CS)によって定義される。この場合、ガラス物品は強化された側を1つだけ含む。好ましくは本発明による化学強化されたガラス物品は、第2の表面からガラス物品内の第2の深さ(DoL)までに及ぶ圧縮応力領域が存在する、(前記第1の表面に対向する)第2の表面も含み、前記領域は圧縮応力(CS)によって定義される。この好ましいガラス物品は両側上で強化されている。
【0115】
CSは主にガラスの組成に依存する。より高いAl23の含有率は、より高いCSを達成するために役立ち得る。強化後、超薄ガラスは、高い強度を達成するために十分に高いCSを有するべきである。従って、CSは100MPa以上であり、好ましくは100MPaを上回り、好ましくは200MPaを上回り、より好ましくは300MPaを上回り、さらに好ましくは400MPaを上回り、さらに好ましくは500MPaを上回る。特に好ましい実施態様において、CSは、600MPaを上回り、さらに好ましくは700MPaを上回り、より好ましくは800MPaを上回る。
【0116】
一般に、DoLはガラスの組成に依存するが、それは強化時間および強化温度の増加に伴ってほぼ無限に増加し得る。強化されたガラスの安定な強度を確実にするためには定義されたDoLが必須であるが、高すぎるDoLは、超薄ガラス物品が圧縮応力下にある際の自己破壊率および強度性能を高めるので、DoLは好ましく制御されるべきである。
【0117】
いくつかの実施態様においては、ベアガラスの高い鋭利物接触耐性が必要とされ、低いDoLが好ましい。定義された低いDoLを達成するために、強化温度および/または強化時間を減少させる。場合により、より低い強化温度が推奨されることがあり、なぜなら、DoLは温度に対してより敏感であり、量産の間により長い強化時間を設定するのは容易であるからである。しかしながら、ガラス物品のDoLを低下させるために、強化時間を減らすことも可能である。
【0118】
DoLの有利な値は、各々の場合において、それぞれのガラス物品のガラス組成、厚さおよび適用されるCSに依存する。一般に、上述の有利な実施態様によるガラス物品は非常に低いDoLを有する。DoLを減少させることで、CTが減少する。そのような実施態様において鋭利な物体によって高い衝撃力および/または押付荷重がかけられると、生じる欠陥はガラス表面上だけにある。CTが著しく低下されているので、生じる欠陥はガラス物品の内部強度を乗り越えることができず、従ってガラス物品は2つまたは複数の破片へと破壊されない。低いDoLを有するそのようなガラス物品は、改善された鋭利物接触耐性を有する。
【0119】
上述のとおり、CS、DoLおよびCTは、ガラス組成(ガラスの種類)、ガラスの厚さおよび強化条件に依存する。
【0120】
化学強化されたガラス物品を、フレキシブルおよび折りたたみ可能な電子製品、例えばイメージセンサ、ディスプレイカバー、スクリーンプロテクタのためのカバーおよび基板の分野において使用できる。さらに、それを、例えば以下の用途分野: ディスプレイの基板または保護カバー、指紋センサカバー、一般的なセンサの基板またはカバー、消費者用電子機器のカバーガラス、ディスプレイおよび他の表面、特に曲げられた表面の保護カバーにおいて使用できる。さらには、前記ガラス物品を、ディスプレイの基板およびカバー、指紋センサモジュールの基板またはカバー、半導体のパッケージ、薄膜電池の基板およびカバー、折りたたみ可能なディスプレイの用途においても使用できる。特定の実施態様において、前記ガラス物品を、抵抗スクリーン用のカバーフィルム、およびディスプレイスクリーン、携帯電話、カメラ、ゲーム用ガジェット、タブレット、ラップトップ、TV、鏡、窓、航空機の窓、家具および白物家電用の使い捨て保護フィルムとして使用できる。
【0121】
本発明は、ディスプレイの基板およびカバー、壊れやすいセンサ、指紋センサモジュールの基板またはカバー、半導体のパッケージ、薄膜電池の基板およびカバー、折り曲げられるディスプレイの用途において使用するために特に適している。さらに、それを、薄く、軽量で且つフレキシブルな特性を備えたフレキシブル電子機器(例えば曲がったディスプレイ、ウェアラブル機器)において使用できる。そのようなフレキシブル機器はまた、例えば部品を保持または搭載するためにフレキシブル基板を必要とする。さらに、高い接触耐性および小さな曲げ半径を有するフレキシブルディスプレイが可能である。
【0122】
1つの実施態様において、前記ガラスはアルカリ含有ガラス、例えばアルカリアルミノシリケートガラス、アルカリシリケートガラス、アルカリホウケイ酸ガラス、アルカリアルミノホウケイ酸ガラス、アルカリホウ素ガラス、アルカリゲルマン酸ガラス、アルカリボロゲルマン酸ガラス、アルカリソーダライムガラスおよびそれらの組み合わせである。
【0123】
本発明のこの態様および他の態様は、以下の説明、添付の図および特許請求項の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
図1】50mm×50mmの大きさのアルミノシリケートガラスからなる板状の強化前の30μmのガラス物品の反射像(図1a)、50mm×50mmの大きさのアルミノシリケートガラスからなる強化された30μmのガラス物品の反射像(図1b)を示す図である。
図2】「スタイラスプロファイラー」を使用した表面トポロジーの分析結果(図2a)、「スタイラスプロファイラー」を使用した表面トポロジーの分析結果(図2b)を示す図である。
図3】KNO3を含有する強化塩浴から持ち上げられた後のASガラス片の写真(図3a)、反射光下で検査された洗浄後の後の同じ試料の反射像(図3b)を示す図である。
図4】KNO3を含有する強化塩浴から持ち上げられた後のASガラス片の写真(図4a)、反射光下で検査された洗浄後の後の同じ試料の反射像(図4b)を示す図である。
図5】KNO3を含有する強化塩浴から持ち上げられた後のASガラス片の写真(図5a)、反射光下で検査された洗浄後の後の同じ試料の反射像(図5b)を示す図である。
図6】10000ppmのナトリウムを有するKNO3塩浴中で強化された、75μmの強化されたASガラス物品の反射像を示す図である。
図7】純粋なKNO3からなる強化塩浴から素早く持ち上げられた強化されたガラス物品(図7a)、純粋なKNO3からなる強化塩浴からゆっくりと持ち上げられた、同じガラス組成の強化されたガラス物品(図7b)、300ppmのナトリウムを有するKNO3からなる強化塩浴からゆっくりと持ち上げられた強化されたガラス物品(図7c)を示す図である。
図8】KNO3浴中のNaイオン含有率の増加が、同じ組成の30μm厚の強化されたガラス物品の反射光検査下でのOOS作用に及ぼす影響を示す図である。
図9】300ppmのナトリウムを含むKNO3塩浴にK3PO4 塩を添加することにより、特定の水準(200ppm)下で塩浴のナトリウム不純物含有率を維持することについての実験の結果を示す図である。
図10】ダウンドローされた75μm厚のガラスから(酸でエッチングして)薄くされることによって製造された未強化の30μmのASガラス物品(図10a)、は、化学強化後の反射光検査下での図10aからのガラス物品(図10b)、同じ強化条件下で強化された、製造されたままの強化された30μmのASガラス物品(図10c)の反射像を示す図である。
図11】637℃に加熱された未強化の30μmのASガラス物品(図11a)、表面上の塩残留物を有する化学強化後の図11aの試料(図11b)、アニールされ且つ強化された図11aの30μmのASガラス物品(図11c)の反射像を示す図である。
図12】反射光下での化学強化直後の30μmのASガラス物品の3つの試料を示す図である。
図13】反射光下での7日後の図12と同じ試料を示す図である。
図14】強化された30μmのASガラス試料の反射像(図14a)、透明媒体上への貼り合わせの後の同じガラス物品(図14b)を示す図である。
図15】強化されたガラス物品の表面に付着した塩残留物の厚さがOOSの程度に及ぼす影響を示す図である。
図16】強化塩浴(KNO3)からの持ち上げ後に高温での保持処理に供された30μm厚のASガラス物品の反射像を示す図である。
【実施例0125】
以下は、添付の図面における図の説明である。
【0126】
特段示されない限り、以下に記載される試料は、同じ組成を有する、製造されたままの30μmのガラス物品である。「製造されたままの」とは、そのガラス物品がダウンドロー法を介して製造されたことを意味している。試験された試料の大きさは、主として50mm×50mmである。強化浴はKNO3に基づく。いくつかの実験については、引き続きNaNO3塩を塩浴に添加して、強化浴のエージング過程をシミュレートした。強化時間は10分であり、強化温度は420℃であった。生じたDoLは約10μmであった。生じたCSは600~800MPaの範囲であった。
【0127】
図1aは、50mm×50mmの大きさのアルミノシリケートガラスからなる板状の強化前の30μmのガラス物品の反射像(つまり、上述の反射光検査法を使用して投影された像)を示す。板状のガラス物品は、小さな端部によって接続された対向する側の2つの大きな主表面を有する。反射光検査下で、表面はいかなる不規則性もなく、滑らかに見える。
【0128】
図1bは、50mm×50mmの大きさのアルミノシリケートガラスからなる強化された30μmのガラス物品の反射像を示す。前記ガラス物品は、2500ppmのナトリウムを含むKNO3塩浴中で強化された。反射光検査を使用して、波状またはしわの寄った構造のように見える不規則性を有する表面を見ることができる(矢印参照)。この光学的な外観を「光学的なオレンジの皮(OOS)」と称する。曲がった上端は、強化された試料のわずかな反りに起因し、ガラスの破壊に起因するものではない。本発明者らは、強化されたUTGのOOSと称される可視の表面の不規則性が、表面のトポロジーにおける変化には相応せず、むしろ光学的な問題であることを見出した。
【0129】
図2aは、「スタイラスプロファイラー」を使用した表面トポロジーの分析結果を示す。種々の未強化のASガラス試料a、b、cと、強化されたASガラス試料d、eの表面トポロジーを測定した。スタイラスプロファイラーは、10mmの走査範囲における0.5μmの範囲の表面の高さばらつきを示す。
【0130】
図2bは、白色光干渉法(WLI)を使用する表面トポロジーの分析結果を示す。WLIは、数十ナノメートルから数センチメートルで変化する表面プロファイルを有する3D構造において表面の高さを測定するための非接触の光学的な方法である。それは、スペクトル的に広帯域の可視波長の光(白色光)に基づく面の表面トポロジー計測に関して、コヒーレンス走査干渉法についての代替的な名称として使用されることが多い。未強化のASガラス試料xおよび強化されたASガラス試料y(各々30μm厚)のWLI結果は、10mmの走査範囲において5μmの範囲の表面の高さばらつきを示す。
【0131】
図3a、4aおよび5aは、KNO3を含有する強化塩浴から持ち上げられた後の、強化された30μmのASガラス3つの片の写真を示す。その3つの試料は、同じガラス組成を有し且つ同じ強化条件下で強化された。塩残留物が試料の表面上で見られる。非常に薄く且つ均質な塩の膜を有するガラス表面上の領域がある一方で、より高い残留溶融塩を有する領域もあり、そこではイオン交換がより長い時間進行し得る。これは、ガラス表面領域にわたって不均一なイオン交換をもたらす。図3b、4bおよび5bは、反射光下で検査された洗浄後の後の同じ試料の反射像を示す。図3bは、図1bと同様のOOS構造を示す(波状/しわの寄った構造、矢印参照)。図4bおよび5bにおいて、表面は、OOSとも称される小さなバンプまたは凹みの形態の(局所的な)構造(矢印参照)を有するように見える。見られるとおり、反射光下で可視の表面の不規則性は、強化されたガラス物品の塩残留物のパターンと一致する。従って、OOS作用は、生ガラスの組成ではなく、試料表面上の残留塩の分布と相関する。
【0132】
図6は10000ppmのナトリウムを有するKNO3塩浴中で強化された、75μmの強化されたASガラス物品の反射像を示す。ここで、反射光検査下で、特徴的な表面の不規則性(OOS)は観察できない。
【0133】
図7aは、純粋なKNO3からなる強化塩浴から素早く持ち上げられた強化されたガラス物品を示す。持ち上げ速度は約5cm/秒であった。結果として、厚く且つ不均一に分布した塩残留物がガラス表面に付着している。対照的に、図7bは、純粋なKNO3からなる強化塩浴からゆっくりと持ち上げられた、同じガラス組成の強化されたガラス物品を示す。持ち上げ速度は約5mm/秒であった。ここで、塩残留物のより均一な分布が観察できる。反射光下で検査する場合、そのようにゆっくりと持ち上げられた試料はOOSを示さない。
【0134】
図7cは、300ppmのナトリウムを有するKNO3からなる強化塩浴からゆっくりと持ち上げられた強化されたガラス物品を示す。図7bと図7cとを比較すると、Naイオンなどの不純物が塩残留物のモフォロジーを変化させ得ることがわかる。
【0135】
図8a~8dは、KNO3浴中のNaイオン含有率の増加が、同じ組成の30μm厚の強化されたガラス物品の反射光検査下でのOOS作用に及ぼす影響を示す。塩浴の寿命の間の塩浴におけるNaイオン含有率の増加をシミュレートするために、Na含有塩(ここではNaNO3)を添加した。純粋な新しいKNO3塩浴を使用する場合、反射像においてOOSは見られない(図8a)。図8bは、100ppmのナトリウムを含有する新しいKNO3塩浴中で強化された試料についての反射像を示す。図8cは、200ppmのナトリウムを含有する新しいKNO3塩浴中で強化された試料についての反射像を示す。図8dは、300ppmのナトリウムを含有する新しいKNO3塩浴中で強化された試料についての反射像を示す。わかるとおり、OOSは強化浴中でのナトリウム含有率の増加に伴って悪化する。より多くのナトリウムがKNO3浴中に添加される場合、強化されたガラス物品上に生じる塩残留物は増加する(同じ持ち上げおよび保持の設定について)。従って、OOSは悪化する。
【0136】
図9a~9cは、OOSを制限するために、300ppmのナトリウムを含むKNO3塩浴にK3PO4 塩を添加することにより、特定の水準(200ppm)下で塩浴のナトリウム不純物含有率を維持することについての実験の結果を示す。図9aは300ppmを含有するKNO3塩浴中で強化された、30μm厚のASガラス物品の反射像を示す。図9b(反射像)においては、0.5質量%のK3PO4を強化浴に添加した。図9c(反射像)においては、1質量%のK3PO4を強化浴に添加した。全ての試料は同じ組成、厚さおよび適用される強化条件(強化温度420℃、強化時間約10分)を有する。見られるとおり、塩浴中へのK3PO4の添加はOOSを抑制できなかった。それどころか、この添加剤はOOSを促進するように見える。
【0137】
図10aに、ダウンドローされた75μm厚のガラスから(酸でエッチングして)薄くされることによって製造された未強化の30μmのASガラス物品の反射像を示す。OOSはない。図10bは、化学強化後の反射光検査下での図10aからのガラス物品を示す。その試料はいくつかのOOSを示す。該写真の端部の変形は、製造されたままのUTGに比して、薄くされたガラスのわずかに高い変形に起因する。比較のために、同じ強化条件下で強化された、製造されたままの強化された30μmのASガラス物品を図10cにおいて反射像として示す。図10bと図10cとを比較すると、薄くされた30μmの強化されたガラスのOOS作用は、同じ厚さの製造されたままの強化されたガラスのOOS作用よりも顕著ではなかった。これは以下のように説明できる: ドローされた新しいガラスリボンの外側部分は、内側部分よりも高い仮想温度を有する。従って、薄くされたガラスは、ダウンドローされたガラスよりも、表面でより密な構造を有するはずである(イオン交換のためのエネルギー障壁がより高い)。従って、良好に薄くされたガラスと、塩残留物との間のイオン交換は、ある程度抑制される。さらに、薄くされたガラスの表面粗さは、ガラス表面と溶融塩との間の異なる接触角に起因して、塩残留物の量を変化させ得る。より粗い表面はより厚い塩残留物を保持し得る。
【0138】
OOSを低減させるためのさらなる有利な手段は、化学強化前にアニール段階を実施することであり得る。好ましくは、アニールはガラスのTgより上である。図11aは、637℃に加熱された未強化の30μmのASガラス物品の反射像を示す。1時間の保持時間の後、1℃/分の速度を使用してガラス物品を>567℃の温度まで冷却した。図11bに、表面上の塩残留物を有する化学強化後の図11aの試料を示す。図11cは、アニールされ且つ強化された図11aの30μmのASガラス物品の反射像を示す。強化前にTgより上でアニールされる場合、強化された30μmのガラス上でさらなるOOS表面作用は観察できない。反射光または裸眼のいずれかによる検査では、化学強化工程に由来する新たな特徴はない。図11aおよび11cにおいては、アニールされた試料のわずかな変形によって、反射光の像における不均一な特徴がもたらされている。
【0139】
可視のOOSを低減するためのさらなる有利な手段は、反射光検査およびさらなる手順の前に強化されたガラス物品を保管することであり得る。図12a、12b、12cは、反射光下での化学強化直後の30μmのASガラス物品の3つの試料を示す。該試料は望ましくないOOS作用を示す。図13a、13b、13cは、反射光下での7日後の同じ試料を示す。1週間後、OOS作用は明らかにあまり顕著ではなくなった。従って、より長い保管時間は、望ましくないOOS作用をある程度低減させる。
【0140】
さらに有利な手段によれば、図14aおよび14bの反射像で見られるとおり、強化されたガラス物品と透明な媒体との貼り合わせを実施して、可視のOOSを除去することができる。図14aは、強化された30μmのASガラス試料の反射像を示す。OOSが可視である。図14bは、透明媒体(ここではシリコーングルー)上への貼り合わせの後の同じガラス物品を示す。ここでは可視のOOSはない。シリコーングルー上への貼り合わせは、強化されたガラス物品の下側からの反射光を除去する。これは、OOSが光学的な作用であることを示す。これは、この説明の試みに限定されることなく、以下のように説明できる: OOSは、残留塩のイオン交換によって引き起こされる特定の屈折率の傾きの不均質性、ガラス物品の上部と下部とからの反射光の間の短い光路差によってもたらされ得る。
【0141】
図15は、強化されたガラス物品の表面に付着した塩残留物の厚さがOOSの程度に及ぼす影響を示す。ここで、ガラスの厚さは各々32μmである。「ガラスの厚さ」と「塩の厚さ」との合計(ここで、後者は板状ガラス物品の第1の表面での塩の厚さ+第2の表面での塩の厚さの合計である)は、左の反射像(A)について50μm、中央の(B)における反射像について65μm、右の反射像(C)について80μmである。その合計は、強化されたガラスを洗浄する前に測定された。反射像AはOOSを示さない一方で、反射像CはOOSを有する。従って、化学強化後にガラス表面に付着している塩残留物の厚さの増加は、OOSの生成を促進する。
【0142】
図16は、強化塩浴(KNO3)からの持ち上げ後に高温での保持処理に供された30μm厚のASガラス物品の反射像を示す。強化温度は約420℃であり、保持温度は約380℃であり、保持時間は約12分であった。強化されたガラス物品上でOOSは見られなかった。本発明者らは、強化手順が強化後の保持段階を含む場合に、非常に長期間使用されている(つまり、イオン交換に起因して高い含有率の不純物を含有する)塩浴から、OOS不含の強化されたガラス物品を製造することが可能であることを見出した。さらに、本発明者らは、30μm厚のASガラス物品について、2~5分の範囲の保持時間が十分であり且つ有利であることを見出した。図16に示される物品に相応する、OOSを有さない強化されたガラス物品は、同じ保持条件(強化温度約420℃、保持温度約380℃)であるが約3分の保持時間で製造できる。
【0143】
上記で説明された実験および評価は、ASガラスの種類の試料において実施された。しかしながら、その観察および結果を、他の種類のガラス(例えばリチウムアルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス等、表1も参照)にも移すことができることは明らかである。
【0144】
標準偏差/平均×100%として定義されるグレーレベルのばらつきが、「ImageJ 1.52d」および上述の評価方法を使用した図1~16の試料についてのOOSの程度の尺度として決定された。決定された値をそれぞれの図に示す。各々、四角は試料上の該当の領域を模式的に示し、それらは測定された程度のOOSの位置を模式的に示す。しかしながら、個々の四角の大きさは、ImageJによって調べられ且つ測定された領域の正確な大きさを示すわけではなく、それとは相関しない。
【0145】
小さな、具体的には9質量%までのグレーレベルのばらつきは、OOSがない、または著しいOOSがないことを示す。より高いグレーレベルのばらつきは、可視のOOSを示す。
【0146】
例えば、図1b、3b、9c、10cは、非常に高い程度のOOSを有する強化されたガラス物品を示す。図4b、5bに示される強化されたガラス物品は、OOSの程度に関して低い均質性を有する。図6、8a、13b、13c、16は、OOSを有さないか、または著しいOOSを有さず、且つOOSの程度に関して非常に高い均質性を有する、強化されたガラス物品についての例である。
【0147】
【表16】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【手続補正書】
【提出日】2023-12-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大0.07mmの厚さを有する化学強化されたガラス物品であって、前記ガラス物品が白色光源を使用した反射光下で検査される際に、光学的なオレンジの皮(OOS)を有さない前記化学強化された物品。
【請求項2】
光学的なオレンジの皮(OOS)を有さないとは、前記ガラス物品が白色光源を使用した反射光下で検査される際に、前記ガラス物品のグレーレベルのばらつきが少ないことを意味し、標準偏差/平均×100%として定義される前記グレーレベルのばらつきが、≦9%である、請求項に記載の化学強化されたガラス物品。
【請求項3】
前記ガラス物品が厚さ<0.07mmおよび/または≧0.005mmを有する、請求項またはに記載の化学強化されたガラス物品。
【請求項4】
前記ガラス物品が、1μm~t/3μmである層深さ(DoL)を有し、ここで、tは強化されたガラス物品の厚さをμmで示したものである、請求項1から3までのいずれか1項に記載の化学強化されたガラス物品。
【請求項5】
前記ガラス物品の表面圧縮応力CSが、300MPaを上回る、請求項1から4までのいずれか1項に記載の化学強化されたガラス物品。
【請求項6】
前記ガラスが、以下の成分を質量%で示された量:
成分 (質量%)
SiO 2 40~75
Al 2 3 10~30
2 3 0~20
Li 2 O+Na 2 O+K 2 O 4~30
MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0~15
TiO 2 +ZrO 2 0~15
2 5 0~10
で含むアルカリ金属アルミノシリケートガラスである、請求項1から5までのいずれか1項に記載の化学強化されたガラス物品。
【請求項7】
前記化学強化されたガラス物品が、以下の段階:
・ 最大0.07mmの厚さを有するガラス物品を準備する段階、
・ 前記ガラス物品を、特定の強化温度を有する溶融塩の浴中に、特定の強化時間の間浸漬させる段階、
・ 強化されたガラス物品を前記溶融塩の浴から持ち上げる段階、
・ 強化されたガラス物品を特定の保持時間の間、強化後に保持する段階、ここで、保持時間は20分未満であり、保持温度は、前記溶融塩の浴の融点より高く且つ強化されたガラス物品の転移温度(T g )よりも低くなるように選択されて、前記溶融塩の塩残留物が重力の影響下で動き、且つ前記溶融塩の塩残留物の均質な層が強化されたガラス物品の表面上に形成される、
・ 強化されたガラス物品を冷却して洗浄する段階
を含む方法において製造される、請求項1から6までのいずれか1項に記載の化学強化されたガラス物品。
【請求項8】
前記化学強化されたガラス物品が、以下の段階:
・ 最大0.07mmの厚さを有するガラス物品を準備する段階、
・ 前記ガラス物品を、特定の強化温度を有する溶融塩の浴中に、特定の強化時間の間浸漬させる段階、
・ 強化されたガラス物品を前記溶融塩の浴から、0.5m/分未満の制御された持ち上げ速度で持ち上げて、前記溶融塩の塩残留物が重力および前記溶融塩の浴とガラス物品との間の表面張力の影響下で強化されたガラス物品の表面から流れ落ち、且つ前記溶融塩の塩残留物の均質な層が強化されたガラス物品の表面上に形成される段階、
・ 強化されたガラス物品を冷却して洗浄する段階
を含む方法において製造される、請求項1から7までのいずれか1項に記載の化学強化されたガラス物品。
【外国語明細書】