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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019761
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】カップシール
(51)【国際特許分類】
   B60T 11/16 20060101AFI20240206BHJP
   F16J 15/3236 20160101ALI20240206BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
B60T11/16 Z
F16J15/3236
F16J15/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122413
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000158840
【氏名又は名称】鬼怒川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】須川 一太
【テーマコード(参考)】
3D047
3J006
3J043
【Fターム(参考)】
3D047BB27
3D047CC13
3D047KK03
3J006AB02
3J006AE26
3J006CA01
3J043AA12
3J043BA05
3J043CA02
3J043CB13
3J043FB12
(57)【要約】
【課題】カップシールの特定部位の破損に発生を抑制しつつピストンやシール溝の内底面との摺動摩擦抵抗の低減化が図れると共に、シール性能への影響を回避し得るカップシールを提供する。
【解決手段】ベース部16の中央側端部に設けられ、インナシールリップ17とアウタシールリップ18と同方向に延出した環状の回転力付与部材19を有し、回転力付与部材は、周方向のほぼ等間隔位置で分割形成された複数の翼状部22からなり、各翼状部は、各先端面に第1突起部24と第2突起部25がそれぞれ設けられ、第1突起部の内側面に、カップシールの軸方向に対して捻じれ角をもって一方向へ傾斜状に形成された第1受圧面24aが設けられ、第2突起部の外側面に、カップシールの軸方向に対して捻じれ角をもって他方向へ傾斜状に形成された前記第2受圧面25aが設けられている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のベース部と、該ベース部の内周側端部から軸方向に延設され、ピストンの外周面に摺動可能な環状のインナシールリップと、前記ベース部の外周側端部から前記インナシールリップと同方向に延設された環状のアウタシールリップと、を備え、前記ピストンが摺動するシリンダ本体の内周面に形成された環状のシール溝内に収容保持されたカップシールであって、
前記ベース部の前記内周側端部と外周側端部との間の中央側端部に設けられ、前記インナシールリップとアウタシールリップと同方向に延出した環状の回転力付与部材を有し、
前記回転力付与部材は、前記カップシールの軸方向に対して捻じれ角をもって一方向へ傾斜状に形成された第1受圧面を有し、前記第1受圧面に作用する液圧によって前記カップシールに一方向の回転力を付与することを特徴とするカップシール。
【請求項2】
請求項1に記載のカップシールであって、
前記回転力付与部材は、周方向のほぼ等間隔位置で分割形成された複数の翼状部からなり、
前記各翼状部は、各先端部に第1突起部と、該第1突起部と周方向で離間した第2突起部がそれぞれ設けられ、
前記第1突起部の内側面に前記第1受圧面が設けられていると共に、第2突起部の外側面に第2受圧面が設けられ、
前記第2受圧面は、前記カップシールの軸方向に対して捻じれ角をもって他方向へ傾斜状に形成されており、前記第2受圧面に作用する液圧によって前記カップシールに他方向の回転力を付与することを特徴とするカップシール。
【請求項3】
請求項1に記載のカップシールであって、
前記回転力付与部材は、周方向のほぼ等間隔位置で分割形成された複数の翼状部からなり、該各翼状部のそれぞれの内側面に前記第1受圧面が設けられていることを特徴とするカップシール。
【請求項4】
請求項3に記載のカップシールであって、
前記各翼状部のそれぞれの外側面に第2受圧面が設けられ、
前記第2受圧面は、前記カップシールの軸方向に対して捻じれ角をもって他方向へ傾斜状に形成されて、前記第2受圧面に作用する液圧によって前記カップシールに他方向の回転力を付与することを特徴とするカップシール。
【請求項5】
請求項3に記載のカップシールであって、
前記各翼状部は、前記ベース部側の各基部が円周方向に沿って連結されていることを特徴とするカップシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等のブレーキシステムにおけるマスタシリンダに組み込まれるカップシールの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、マスタシリンダにおけるカップシールは、一般的に断面ほぼコ字形状をなすシール部材であって、シリンダ本体とこのシリンダ本体に内挿されたピストンとの間に介在しつつ摺動して、液圧室を隔離形成するためのシール機能とチェック機能とを発揮するものであることからして、いわゆる食われという現象が問題となっていた。この現象は、カップシールの一部がシリンダ本体とピストンとの間に噛み込まれて、摺動動作を繰り返すうちにその部分が引きちぎられて局部的に欠損してしまう現象をいう。特に、ホイールシリンダ側の液圧がマスタシリンダ側にキックバックされるアンチロックブレーキシステムの作動時にその発生が顕著になっている。
【0003】
そこで、本出願人が先に出願した以下の特許文献1に記載されたカップシールのように、シリンダ本体内でのピストンの移動に伴う液圧の変化を利用してカップシールに回転力を発生させるようにしたものがある。
【0004】
図12は従来のカップシールが適用されたマスタシリンダの要部拡大断面図、図13は同カップシールの内径摺動タイプのプライマリカップシールの斜視図である。
【0005】
この従来のカップシール30は、図12及び図13に示すように、マスタシリンダ1のシリンダ本体2の内周面に形成された環状のシール溝2a内に収容保持されており、断面ほぼコ字形状のいわゆる内径摺動タイプである。このカップシール30は、環状のベース部31と、プライマリピストン3と摺動するインナシールリップ32と、アウタシールリップ33と、を備えている。これら、ベース部31とインナシールリップ32及びアウタシールリップ33の三者によって断面ほぼコ字形状に形成されている。
【0006】
インナシールリップ32は、根元部内周面にカップシール30の軸心方向に対して捻じれ角をもって傾斜した翼状面を有する複数の突起部34が設けられていると共に、該各突起部34の翼状面34a側の根元部に誘導溝部35が隣接して形成されている。
【0007】
そして、液圧室への作動液補給時の液圧Mを、図外のリザーバタンクから補給孔36を通って前記各突起部34の誘導溝部35を介して翼状面34aに動圧として直接的に作用させる。これによって、カップシール30を周方向の一方向に積極的に回転させる。これによって、カップシール30の特定の部位が繰り返し噛み込まれることがなくなり、食われの現象が少なくなることから耐久性の向上が図れるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-99516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記公報記載の従来のカップシール30にあっては、インナシールリップ32の根元部内周面に、プライマリピストン3の外周面3aに摺動する複数の突起部34が設けられていることから、プライマリピストン3の外周面3aとの間の摺動摩擦抵抗が大きくなるおそれがある。
【0010】
また、カップシール30におけるインナシールリップ32は、プライマリピストン3の外周面3aとの間での重要なシール面であり、各突起部34の存在によって円周上の面圧バランスが崩れてシール性能に影響を与えるおそれがある。
【0011】
また、他例として、前記各突起部34を、アウタシールリップ33の根元部に設けたものもあるが、この場合にも、同じくシール溝2aの内底面2bとの間の摺動摩擦抵抗が大きくなると共に、面圧バランスが崩れてシール溝2aの内底面2bとのシール性能に影響を与えるおそれがある。
【0012】
本発明は、前記従来のカップシールの技術的課題に鑑みて案出されたもので、カップシールの特定部位の破損に発生を抑制しつつピストンやシール溝の内底面との摺動摩擦抵抗の低減化が図れると共に、シール性能への影響を回避し得るカップシールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願請求項1に係る発明は、環状のベース部と、該ベース部の内周側端部から軸方向に延設され、ピストンの外周面に摺動可能な環状のインナシールリップと、前記ベース部の外周側端部から前記インナシールリップと同方向に延設された環状のアウタシールリップと、を備え、前記ピストンが摺動するシリンダ本体の内周面に形成された環状のシール溝内に収容保持されたカップシールであって、
前記ベース部の前記内周側端部と外周側端部との間の中央側端部に設けられ、前記インナシールリップとアウタシールリップと同方向に延出した環状の回転力付与部材を有し、
前記回転力付与部材は、前記カップシールの軸方向に対して捻じれ角をもって一方向へ傾斜状に形成された第1受圧面を有し、前記第1受圧面に作用する液圧によって前記カップシールに一方向の回転力を付与することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カップシールの特定部位の欠損よるシール機能の低下を抑制すると共に、摺動摩擦抵抗の低減化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るカップシールが適用されるマスタシリンダの概略構造を示す断面図である。
図2】本発明に係るカップシールの第1実施形態を示す斜視図である。
図3図2に示すカップシールを部分的拡大して示す斜視図である。
図4】同第1実施形態のカップシールの正面図である。
図5図4に示すカップシールを部分的に拡大して示す正面図である。
図6】本実施形態に供される液圧室からカップシールに液圧が作用する状態を示す図1のA部拡大図である。
図7図6に示すカップシールに液圧が作用する方向を示す概略図である。
図8】本実施形態のマスタシリンダから供給された液圧がカップシールに作用する状態を示す図1のA部拡大図である。
図9図8に示すカップシールに液圧が作用する方向を示す概略図である。
図10】本発明に係るカップシールの第2実施形態を示す斜視図である。
図11】本発明に係るカップシールの第3実施形態を示す斜視図である。
図12】従来のカップシールが適用されたマスタシリンダの要部断面図である。
図13図12に示した内径摺動タイプのプライマリカップシールの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るカップシールの実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は本実施形態のカップシールが適用される自動車のブレーキ装置のマスタシリンダ1の概略を示す断面図であって、それぞれのピストン3,4が進出方向に移動した状態を示している。また、図2図5はカップシールの詳細を示す図である。
【0018】
マスタシリンダ1は、図1に示すように、有底円筒状のシリンダ本体2と、該シリンダ本体2内に直列かつ摺動可能に設けられたプライマリピストン3及びセカンダリピストン4と、を備えている。シリンダ本体2は、内部に作動液(ブレーキ液)が貯留されたリザーバタンク5を有している。
【0019】
プライマリピストン3は、ブレーキペダルの踏み込み時に、図外のプッシュロッドなどによって図1の左方向へ押圧操作される。
【0020】
前記両ピストン3,4の間には、第1液圧室6が形成され、シリンダ本体2の内底部とセカンダリピストン4の間には、第2液圧室7が形成されている。この第1、第2液圧室6,7は、スプリング収容部を兼ねており、第1液圧室6には、圧縮コイルスプリングである第1リターンスプリング8が、第2液圧室7には、同じく第2リターンスプリング9がそれぞれ収納されていて、プライマリピストン3とセカンダリピストン4はこれら第1、第2リターンスプリング8,9によって図1の右方向に付勢されている。
【0021】
また、マスタシリンダ1によって操作されるブレーキ系統が2系統とするならば、第1液圧室6は図外の出力ポートを介して一方のブレーキ系統のホイールシリンダに、第2液圧室7は図外の出力ポートを介して他方のブレーキ系統のホイールシリンダにそれぞれ接続されている。
【0022】
シリンダ本体2の内周面には、第1補給孔10および第2補給孔11がそれぞれ開口形成され、これらの第1、第2補給孔10,11はリザーバタンク5に連通可能になっている。そして、図1の状態から各ピストン3,4が後退移動したブレーキの非制動状態、すなわち、各ピストン3,4の後退限の位置にある状態で、第1補給孔10が第1液圧室6に、第2補給孔11が第2液圧室7にそれぞれ連通するように設定されている。
【0023】
また、第1補給孔10および第2補給孔11のそれぞれの前後には、プライマリカップシール12または13と、セカンダリカップシール14または15が装着されている。各プライマリカップシール12,13と各セカンダリカップシール14,15は、それぞれ材質が例えばEPDMなどのソリッドゴムによって断面ほぼE字形状に形成されている。プライマリカップシール12とセカンダリカップシール14は、プライマリピストン3に圧接していると共に、プライマリカップシール13とセカンダリカップシール15は、セカンダリピストン4に圧接しており、これらのシール機能によって第1液圧室6および第2液圧室7が隔離形成されて、両者の独立性が確保されている。
【0024】
そして、図1に示すように、ブレーキペダルの踏み込み操作により、第1、第2リターンスプリング8,9の付勢力に対抗してプライマリピストン3が左方向へ押圧操作されると、第1液圧室6と第1補給孔10との連通が遮断されて、第1液圧室6が密閉空間となって内部圧力が上昇することから、該第1液圧室6の液圧が一方のブレーキ系統のホイールシリンダに供給されて制動力が発生する。
【0025】
同時に、第1液圧室6の圧力上昇によりセカンダリカップシール14も同図の左方向へ押圧されて、第2液圧室7と第2補給孔11との連通が遮断され、第2液圧室7が密閉空間となって内部圧力が上昇することから、該第2液圧室7の液圧が他方のブレーキ系統のホイールシリンダに供給されて制動力が発生することとなる。
【0026】
他方、ブレーキペダルの踏力が解除されると、マスタシリンダ1は、図1の制動状態から非制動状態へと復帰するべく、プライマリピストン3とセカンダリピストン4が第1、第2リターンスプリング8,9のばね力により図1の右方向へ移動する。このプライマリピストン3とセカンダリピストン4の戻り動作時に、プライマリピストン3によって隔離形成されている第1、第2液圧室6,7の圧力が一時的に大気圧(リザーバタンク5の圧力)よりも低くなって圧力差を生じると、プライマリカップシール12、13がプライマリピストン3とセカンダリピストン4から離れる方向に撓まされて、いわゆる開弁動作して、リザーバタンク5からの作動液が前記プライマリピストン3とセカンダリピストン4及びプライマリカップシール12,13との隙間を通して第1、第2液圧室6,7に補給されることになる。
【0027】
図2は本発明に係るカップシールの第1実施形態を示す斜視図、図3図2に示すカップシールを部分的拡大して示す斜視図、図4は同第1実施形態のカップシールの正面図、図5図4に示すカップシールを部分的に拡大して示す正面図、図6は本実施形態に供される液圧室からカップシールに液圧が作用する状態を示す図1のA部拡大図である。
【0028】
以下では、主としてプライマリピストン3側のプライマリカップシール12について説明する。
【0029】
プライマリカップシール12は、図2図6に示すように、比較的肉厚の環状のベース部16と、該ベース部16の内周側端部から軸方向へ延設されて、プライマリピストン3の外周面に摺動可能な環状のインナシールリップ17と、前記ベース部16の外周側端部からインナシールリップ17と同方向に延設された環状のアウタシールリップ18と、前記ベース部16の内周側端部と外周側端部との間の中央側端部からインナシールリップ17やアウタシールリップ18と同方向に延出した回転力付与部材19と、を備え、前記ベース部16と2つのシールリップ17,18及び回転力付与部材19と、によって断面ほぼE字形状に形成されている。
【0030】
このプライマリカップシール12は、シリンダ本体2の内周面に第1補給孔10と近接して形成された環状の第1シール溝20に嵌合保持されている。なお、セカンダリカップシール14もシリンダ本体2の内周面に形成された環状の第2シール溝21に嵌合保持されている。
【0031】
インナシールリップ17は、図6に示すように、内側内周面17aの軸方向のほぼ中央位置に形成された突部17bが前記プライマリピストン3の外周面3aに当接してシール機能を発揮すると共に、先端部17cが第1シール溝20の軸方向一端面20aとは非接触状態になって前記軸方向一端面20aとの間に第1隙間C1が形成されている。前記内周面17aの突部17bよりベース部16側の位置には、インナシールリップ17の撓み変形時にプライマリピストン3の外周面3aに柔軟に当接してシール性を確保する波形状の当接部17dが設けられている。
【0032】
アウタシールリップ18は、わずかに外開き気味に突出形成されて、先端部18aの外周面が第1シール溝20の内底面20bに当接してチェック機能を発揮すると共に、先端縁18bが第1シール溝20の軸方向一端面20aとは非接触状態になって、軸方向一端面20aとの間に第2隙間C2が形成されている。
【0033】
回転力付与部材19は、図2図5に示すように、円周方向のほぼ等間隔位置で分割形成された複数(本実施形態では10個)の翼状部22から構成されて、周方向で隣接する両翼状部22,22の間にそれぞれ設けられた隙間23を介して円周方向へ連続的に配置されている。各翼状部22は、径方向の側面から視るとそれぞれがほぼ台形状に形成されており、ベース部16に一体に結合された末広がり状の基部22aと、該基部22aから立ち上がって第1シール溝20の軸方向一端面20aの方向に延びた先端部22bと、を有している。なお、各翼状部22の側面視の形状は台形状に限らず、長方形状その他の形状であっても良い。
【0034】
そして、各翼状部22の先端部22bの先端面には、第1シール溝20の軸方向一端面20a方向に向かって突出した第1突起部24と第2突起部25が設けられており、この両突起部24,25は、周方向に一定のピッチPをもって互いに周方向に離間配置されている。
【0035】
第1突起部24は、インナシールリップ17側の内側面にプライマリカップシール12の軸方向に対して捻じれ角をもって一方向へ傾斜した第1受圧面24aが形成されており、この第1受圧面24aに作動液の液圧Mが作用するようになっている。
【0036】
第2突起部25は、アウタシールリップ18側の外側面にプライマリカップシール12の軸方向に対して捻じれ角をもって他方向へ傾斜した第2受圧面25aが形成されている。つまり、この第2受圧面25aは、第1受圧面24aと同じ方向に傾斜して形成されており、受圧面としては第1受圧面24aと反対方向の液圧Mを受けるようになっている。
【0037】
すなわち、第1液圧室6内の液圧において、プライマリカップシール12のインナシールリップ17側から流入した液圧Mが第1突起部24の第1受圧面24aに作用するのに対して、アウタシールリップ18側から流入した液圧Mが第2突起部25の第2受圧面25aに作用するようになっている。
【0038】
このように、プライマリカップシール12は、各第1受圧面24aに液圧Mが作用することによって回転力が付与されて、図7の黒矢印で示すような右方向(正転方向)に回転し、また、各第2受圧面25aに液圧が作用することによって、図8の黒矢印で示すような左方向(逆転方向)に回転するようになっている。
【0039】
また、第1突起部24と第2突起部25は、図6に示すように、プライマリカップシール12が第1シール溝20に収容保持された状態で先端縁24b、25bが第1シール溝20の軸方向一端面20aに当接している。また、両突起部24,25は、図3に示すように、互いに対向する側の先端に傾斜状の第1、第2カット面24c、25cがそれぞれ形成されている。
【0040】
なお、前記第1、第2突起部24,25や第1、第2受圧面24a、25aのそれぞれの構造や形状は、図1におけるセカンダリピストン4側のプライマリカップシール13についても同様である。
【0041】
[本実施形態に係るプライマリカップシールの作用効果]
図7図6に示すカップシールに液圧が作用する方向を示す概略図、図8は本実施形態のマスタシリンダから供給された液圧がカップシールに作用する状態を示す図1のA部拡大図、図9図8に示すカップシールに液圧が作用する方向を示す概略図である。
【0042】
以下、本実施形態に係るプライマリカップシール12の作用効果について説明する。
【0043】
まず、前述したように、プライマリピストン3が、図1の左方向に押圧操作されると、第1液圧室6の内部圧力が上昇することから、この第1液圧室6の液圧Mが一方のブレーキ系統のホイールシリンダに供給されて制動力が発生する。このとき、第1液圧室6の液圧Mは、図6の矢印で示すように、プライマリカップシール12のインナシールリップ17の先端部17cと第1シール溝20の軸方向一端面20aとの間の第1隙間C1を通って各翼状部22の先端部(各突起部24,25)方向へ流動する。
【0044】
各翼状部22の各突起部24,25方向に流入した液圧Mは、図6の矢印で示すように、各翼状部22間の隙間23を通って、アウタシールリップ18方向へ流動することから、該アウタシールリップ18が第1シール溝20の内底面20b方向、つまり、開く方向へ撓み変形してチェック機能を発揮する。
【0045】
一方、前記各翼状部22の各突起部24,25方向に流動した液圧Mは、図6及び図7の白抜き矢印で示すように、各第1突起部24の各第1受圧面24aに対して動圧として直接作用することになる。この各第1受圧面24aに動圧が作用すると、円周方向の分力が発生し、この分力を受けてプライマリカップシール12が図7の黒矢印で示すように、一方向である図中右方向へ回転する。
【0046】
このプライマリカップシール12の右方向への回転によって、シリンダ本体2やプライマリピストン3に対するプライマリカップシール12の円周方向の相対位置関係が変化して、結果的にプライマリカップシール12におけるベース部16やインナシールリップ17の特定の部位がシリンダ本体2とプライマリピストン3との間に繰り返し噛み込まれることがなくなる。これによって、インナシールリップ17に対する食われ現象の発生を低減して、耐久性(耐食われ性)を向上させることができる。
【0047】
次に、前記制動状態から非制動状態への戻り動作時、つまりプライマリピストン3が図1に示す位置から右方向へ移動すると、第1液圧室6の圧力が一時的に大気圧(リザーバタンク5の圧力)よりも低くなって圧力差を生じる。そうすると、リザーバタンク5の作動液は、その一部が図8の矢印で示すように、第1補給孔10を通ってプライマリピストン3の外周面3aとシリンダ本体2の内周面との間からプライマリカップシール12のインナシールリップ17を外側へ押し開いて第1液圧室6に補給される。
【0048】
一方、プライマリピストン3の外周面3aとシリンダ本体2の内周面との間を通った作動液の他の一部は、ベース部16の背面側に回り込んで第1シール溝20内に流入し、この第1シール溝20の軸方向他端面20cとベース部16の背面との間を通ってアウタシールリップ18を内方へ撓み変形させつつ各翼状部22の各突起部24,25の方向に流動しながらインナシールリップ17の先端部17cと軸方向一端面20aとの間を通って第1液圧室6に補給される。
【0049】
そして、前記アウタシールリップ18の先端部18a側から各翼状部22の各突起部24,25方向に流動した作動液(液圧M)は、図9に示すように、各第2突起部25の第2受圧面25aに動圧として直接作用することになる。この各第2受圧面25aに動圧が作用すると、円周方向の分力が発生し、この分力を受けてプライマリカップシール12が図9の黒矢印で示すように、他方向である図中左方向へ回転する。
【0050】
したがって、前述と同じく、プライマリカップシール12の他方向への回転によってシリンダ本体2やプライマリピストン3に対する前記プライマリカップシール12の円周方向の相対位置関係が変化して、結果的にプライマリカップシール12におけるベース部16やインナシールリップ17の特定の部位がシリンダ本体2とプライマリピストン3との間に繰り返し噛み込まれることがなくなる。これによって、インナシールリップ17の特定部位に対する食われ現象の発生を低減して、耐久性(耐食われ性)を向上させることができる。
【0051】
なお、このような機能は、セカンダリピストン4側のプライマリカップシール13においても同様に発揮されるようになっている。
【0052】
しかも、本実施形態では、第1、第2突起部24,25は、前記公報記載の従来のカップシールのように、インナシールリップ17の内周面やアウタシールリップ18の外周面に設けられているのではなく、回転力付与部材19(各翼状部22)に設けられていることから、プライマリカップシール12のインナシールリップ17によるシール機能に影響を与えることがないと共に、摺動摩擦抵抗の増加を抑制できる。
【0053】
すなわち、本実施形態では、インナシールリップ17やアウタシールリップ18に突起部を設けることなく、第1シール溝20の内底面20bやプライマリピストン3の外周面3aとは非接触状態にある回転力付与部材19(各翼状部22)の先端面に各突起部24,25を設けたことから、インナシールリップ17の内周面17aが摺動するプライマリピストン3の外周面3aとの面圧バランスが正常に保たれる。このため、インナシールリップ17によるシール性能への影響が回避される。この結果、プライマリカップシール12の良好なシール性能を確保できると共に、耐久性の向上が図れる。
【0054】
また、インナシールリップ17の内周面17aに形成された突部17bとプライマリピストン3の外周面3aとの間の摺動摩擦抵抗の低減化が図れる。
【0055】
さらに、本実施形態によれば、複数の翼状部22に第1突起部24と第2突起部25を設けて、流入方向の異なる液圧を複数の第1受圧面24aと複数の第2受圧面25aでそれぞれ受けることから、プライマリカップシール12に付与される全体の分力が大きくなって、該プライマリカップシール12に対する一方向や他方向への回転力を大きくすることができる。
【0056】
また、前述のように、シリンダ本体2内での各プライマリピストン3の進出、後退方向への摺動によって発生する液圧Mは、前記第1突起部24の第1受圧面24aか、あるいは第2突起部25の第2受圧面25aに作用することから、プライマリカップシール12には、プライマリピストン3の進出方向と後退方向のいずれの摺動時にも一方向(右方向)または他方向(左方向)の2方向の回転力が付与されることになる。したがって、プライマリカップシール12の特定部位の破損などの発生をさらに効果的に抑制することが可能になる。
【0057】
さらに、第1、第2突起部25は、一つの翼状部22に一緒に設けられていることから、別々の翼状部22に個々に設ける場合に比較して構造が簡素化される。
[第2実施形態]
図10は本発明の第2実施形態を示し、第1実施形態と異なるところは、プライマリカップシール12の回転力付与部材19の各翼状部26の構造を変更したものである。
【0058】
すなわち、各翼状部26は、円周方向に沿って間欠的に分割形成されて、本実施形態では20個に分割されており、それぞれの翼状部26が三角柱状に形成されている。また、この各翼状部26は、円周方向で隣接する翼状部26とは互いに一定の隙間23もって連続して配置されて全体が円環状に形成されていると共に、周方向の各先端部26aが同一方向へ指向している。
【0059】
そして、各翼状部26は、アウタシールリップ18側の各外側面26bが円周方向に沿った曲面状に形成されているが、インナシールリップ17側の内側面は前記プライマリカップシール12の軸方向に対して捻じれ角をもって一方向へ直線状に傾斜した第1受圧面26cとして形成されている。
【0060】
したがって、前述のように、プライマリピストン3が、図1の左方向に押圧操作されることによって、内部圧力が上昇した第1液圧室6の液圧は、プライマリカップシール12のインナシールリップ17の先端部17cと第1シール溝20の軸方向一端面20aとの間の第1隙間C1を通って各翼状部26方向へ流動する。そして、前記各翼状部26の方向へ流動した液圧は、各内側面の各受圧面26cに動圧として直接作用することになる。この各受圧面26cに動圧が作用すると、円周方向の分力が発生し、この分力を受けてプライマリカップシール12が円周方向の一方向(図中右方向)へ回転することになる。
【0061】
したがって、第1実施形態と同じく、結果的にプライマリカップシール12におけるベース部16やインナシールリップ17の特定の部位がシリンダ本体2とプライマリピストン3との間に繰り返し噛み込まれることがなくなる。これによって、インナシールリップ17に対する食われ現象の発生を低減して、耐久性(耐食われ性)を向上させることができる。
【0062】
また、回転力付与部材19の各翼状部26の内側面が受圧面26cとして形成されていることから、プライマリカップシール12のインナシールリップ17やアウタシールリップ18によるシール機能に影響を与えることがないと共に、摺動摩擦抵抗の増加を抑制できる。
【0063】
すなわち、本実施形態のプライマリカップシール12では、インナシールリップ17やアウタシールリップ18に受圧面を設けることなく、シリンダ本体2やプライマリピストン3とは非接触状態にある回転力付与部材19の各翼状部26に受圧面26cを設けたことから、インナシールリップ17が摺動するプライマリピストン3の外周面との面圧バランスが正常に保たれる。このため、インナシールリップ17によるシール性能への影響が回避される。この結果、プライマリカップシール12の良好なシール性能を確保できると共に、耐久性の向上が図れる。
【0064】
また、インナシールリップ17の突部17bとプライマリピストン3の外周面3aとの間の摺動摩擦抵抗の低減化が図れることは第1実施形態と同じである。
[第3実施形態]
図11は本発明のカップシールの第3実施形態を示し、基本構造は第2実施形態と同じであるが、異なるところは回転力付与部材19の各翼状部26の基部26d側を、隣接する各隙間23間に設けられた連結部27によって円周方向に沿って連結したものである。
【0065】
したがって、この実施形態によれば、隣接する各翼状部26の各基部26dがそれぞれ連結部27によって連結されていることから、各翼状部26のベース部16に対する結合力と互いの周方向の結合力が高くなって回転力付与部材19全体の剛性が高くなる。これによって、各翼状部26は、特に各受圧面26cに作用する液圧によって径方向への過度な撓み変形の発生が抑制されることから、回転力付与部材19からプライマリカップシール12に対する回転力の伝達効率が高くなると共に、回転力付与部材19の耐久性が向上する。
[第4実施形態]
第4実施形態としては、具体的に図示しないが、第2実施形態を基本構造として、さらに各翼状部26の外側面に第2受圧面を形成したものである。すなわち、前記第2実施形態では各翼状部26のそれぞれの内側面に第1受圧面26cが設けられているが、さらに各外側面に第2受圧面を形成した。この場合、第2受圧面は、カップシールの軸方向に対して捻じれ角をもって他方向へ傾斜状に形成されて、前記第2受圧面に作用する液圧によってプライマリカップシール12に他方向の回転力を付与するようになっている。
【0066】
したがって、この第4実施形態も第1~第3実施形態と同じ作用効果が得られるが、特に、第1、第2受圧面の面積が第1実施形態のものよりも大きく形成できることから、プライマリカップシール12に対する左右方向の回転付与力が大きくなる。
【0067】
本発明は前記実施形態の構成に限定されるものではなく、回転力付与部材19の各翼状部の構造をさらに変更することも可能である。また、カップシールの適用対象としては、前記自動車のブレーキ装置の他に、マスタシリンダを用いた他の装置や機器類に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0068】
1…マスタシリンダ
2…シリンダ本体
3…プライマリピストン
3a…外周面
4…セカンダリピストン
5…リザーバタンク
6…第1液圧室
7…第2液圧室
8…第1リターンスプリング
9…第2リターンスプリング
10・11…第1・第2補給孔
12・13…プライマリカップシール
14・15…セカンダリカップシール
16…ベース部
17…インナシールリップ
17a…内周面
18…アウタシールリップ
18a…先端部
19…回転力付与部材
20…第1シール溝
20a…軸方向一端面
20b…内底面
20b…軸方向他端面
21…第2シール溝
22…翼状部
23…隙間
24…第1突起部
24a…第1受圧面
24b…先端面
25…第2突起部
25a…第2受圧面
25b…先端面
26…翼状部
26c…受圧面
27…連結部
M…液圧
図1
図2
図3
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図10
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図13