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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019768
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】ポリオレフィン樹脂水性分散体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20240206BHJP
   C08J 3/05 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C08L23/00
C08J3/05 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122429
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大藤 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】志波 智子
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AB03
4F070AB09
4F070AB13
4F070AC12
4F070AC36
4F070AC46
4F070AE14
4F070AE28
4F070BA02
4F070CA03
4F070CB02
4F070CB12
4J002BB071
4J002BB081
4J002BB091
4J002BB141
4J002BB161
4J002BB211
4J002GH00
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】せん断が負荷された場合においても凝集物が析出せず、安定性に優れたポリオレフィン樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】酸変性ポリオレフィン樹脂と水性媒体とを含有する水性分散体であって、せん断速度1000/sで60秒間せん断を負荷した直後の動的粘弾性測定の周波数分散において、角周波数が10rad/sから100rad/sにおける損失弾性率が0.1Pa以上であるポリオレフィン樹脂水性分散体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン樹脂と水性媒体とを含有する水性分散体であって、
せん断速度1000/sで60秒間せん断を負荷した直後の動的粘弾性測定の周波数分散において、角周波数が10rad/sから100rad/sにおける損失弾性率が0.1Pa以上であるポリオレフィン樹脂水性分散体。
【請求項2】
せん断速度1000/sで60秒間せん断を負荷した直後の動的粘弾性測定の周波数分散と、せん断を負荷した後60分後の動的粘弾性測定の周波数分散との、角周波数が10rad/sにおける損失弾性率の比(60分後の損失弾性率/直後の損失弾性率)が10000未満である請求項1記載のポリオレフィン樹脂水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン樹脂水性分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂水性分散体は、様々な基材に対して優れた耐溶剤性や密着性を有する塗膜が得られることから、幅広い用途で使用されている。
しかしながら、安定に分散したポリオレフィン樹脂水性分散体は、静置下では異物は析出しないが、取り扱い中に、スカムと呼ばれる凝集物が析出する場合がある。
すなわち、ポリオレフィン樹脂水性分散体は、静置下では、分散液を構成する分散媒と分散質は安定な構造を保つが、せん断がかかると構造が崩壊する。一度崩壊した構造は、静置しておくと経時的に回復する。しかしながら、ポリオレフィン樹脂水性分散体は、例えば、混ぜたり、揺らしたり、細いチューブなどで吸い上げたり、ノズルから吐出されたりするような、せん断がかかる状況が多発すると、構造の崩壊と回復が繰り返しおこり、このような変化が特定の条件下で起こることで、凝集物が析出する。
したがって、ポリオレフィン樹脂水性分散体は、基材に塗工して塗膜を形成する塗工工程においてせん断がかかることから、凝集物が析出し、経時的な安定性に劣る問題がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6883539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、せん断が負荷された場合においても凝集物が析出せず、安定性に優れたポリオレフィン樹脂水性分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ポリオレフィン樹脂水性分散体における、せん断がかかった場合の構造の崩壊が、特定の条件で測定した損失弾性率で評価できること、また、特定の損失弾性率を有する水性分散体は、分散体にせん断がかかった場合の構造の崩壊が不完全で、部分的に構造が残存し、構造の再構築時に凝集物を生じることなく元の構造に回復することを見出した。さらに、壊れた時と回復したときの構造の差異が小さければ、構造の変化は小さくなり、凝集物を生じることなく元の構造に回復することを見出し、上記の課題を解決し得る水性分散体が得られることを見出し、本発明に到達した。
本発明の要旨は下記のとおりである。
【0006】
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂と水性媒体とを含有する水性分散体であって、
せん断速度1000/sで60秒間せん断を負荷した直後の動的粘弾性測定の周波数分散において、角周波数が10rad/sから100rad/sにおける損失弾性率が0.1Pa以上であるポリオレフィン樹脂水性分散体。
(2)せん断速度1000/sで60秒間せん断を負荷した直後の動的粘弾性測定の周波数分散と、せん断を負荷した後60分後の動的粘弾性測定の周波数分散との、角周波数が10rad/sにおける損失弾性率の比(60分後の損失弾性率/直後の損失弾性率)が10000未満である(1)記載のポリオレフィン樹脂水性分散体。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体は、損失弾性率が制御されたものであることから、せん断が負荷された場合においても凝集物が析出せず、安定性に優れた分散体となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体は、酸変性ポリオレフィン樹脂と水性媒体とを含有する。
【0009】
<酸変性ポリオレフィン樹脂>
本発明の水性分散体を構成する酸変性ポリオレフィン樹脂は、オレフィン成分と酸成分とを含有する共重合体である。
【0010】
オレフィン成分は特に限定されないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2-ブテン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のアルケンが好ましく、これらの混合物でもよい。中でも、得られる塗膜と基材との密着性を良好とするために、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2~4のアルケンがより好ましく、エチレン、プロピレンがさらに好ましく、エチレンが最も好ましい。
酸変性ポリオレフィン樹脂におけるオレフィン成分の含有量は、オレフィン由来の特性を十分に発現させるために、70質量%以上であることが好ましい。
【0011】
酸成分は、不飽和カルボン酸成分であることが好ましく、不飽和カルボン酸、または、その無水物により導入される。不飽和カルボン酸成分としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でも、塗膜にした際の、基材との密着性に優れる観点から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。
【0012】
酸変性ポリオレフィン樹脂における酸成分の含有量は、特に限定されるものではないが、水性分散体としての安定性を向上させる理由から、0.1~40質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましく、2~5質量%であることがさらに好ましく、2~4質量%であることが最も好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂における酸成分の含有量が0.1質量%未満であると、安定性に優れた水性分散体を得ることが困難となることがある。また、酸変性ポリオレフィン樹脂における酸成分の含有量が40質量%を超えると、得られる塗膜は、オレフィン樹脂の有する低吸水性、耐水性・耐溶剤性、密着性が失われる場合がある。
【0013】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、水性媒体における分散性を向上させるために、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有してもよい。
(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1~30のアルコールとのエステル化物が挙げられる。中でも、入手し易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1~20のアルコールとのエステル化物が好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル成分の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物でもよい。中でも、入手の容易さと密着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがさらに好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~またはメタクリル酸~」を意味する。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステル成分は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等が挙げられる。
【0015】
酸変性ポリオレフィン樹脂における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、0.1~22質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましく、3~18質量%であることがさらに好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が0.1質量%未満であると、得られる塗膜は、基材との密着性が低下する場合があり、含有量が22質量%を超えると、得られる塗膜は、耐溶剤性、密着性や耐熱性が低下する場合がある。
【0016】
酸変性ポリオレフィン樹脂の具体例としては、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-(無水)マレイン酸共重合体等が挙げられる。
中でも、基材との密着性に優れる塗膜が得られることから、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-(無水)マレイン酸共重合体が好ましい。
【0017】
<水性媒体>
本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体を構成する水性媒体は、水を主成分とするものである。「水を主成分とする」とは、水性媒体中の水の含有量が50質量%以上であるものをいい、中でも、70質量%以上であることが好ましい。水性媒体中の水の含有量が50質量%未満であると、水性分散体は、安定性や分散性が低下してしまう。
水性媒体には、本発明の効果を阻害しない範囲で、後述する塩基性化合物や有機溶剤を含有してもよい。
【0018】
<損失弾性率>
本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体は、せん断速度1000/sで60秒間せん断を負荷した直後の動的粘弾性測定の周波数分散において、角周波数が10rad/sから100rad/sにおける損失弾性率が0.1Pa以上である。
また、せん断速度1000/sで60秒間せん断を負荷した直後の動的粘弾性測定の周波数分散と、せん断を負荷した後60分後の動的粘弾性測定の周波数分散との、角周波数が10rad/sにおける損失弾性率の比(60分後の損失弾性率/直後の損失弾性率)が10000未満であることが好ましい。
【0019】
静置しているポリオレフィン樹脂水性分散体においては、水性媒体中の樹脂粒子は、つながって存在するような構造をもつ。水性分散体を揺らして、分散体にせん断が負荷されると、つながっていた樹脂粒子がバラバラになり、構造は壊れる。静置して時間が経過すると、構造は元にもどる。
ポリオレフィン樹脂水性分散体は、せん断が負荷された直後に、構造が完全に壊れてしまう場合や、また、壊れた構造と再構築された時の構造との差異が大きい場合のような、極端な構造の変化が繰り返されると、凝集物が発生する。凝集物を析出させないためには、水性媒体中の樹脂粒子は、せん断が負荷されても完全に構造を失わないこと、また、壊れた構造と、再構築された時の構造との差異が小さいことが必要である。
【0020】
ポリオレフィン樹脂水性分散体にせん断がかかった場合の構造の崩壊の程度は、せん断速度1000/sで60秒間せん断を負荷した直後と、負荷した60分後において、それぞれ、動的粘弾性測定による周波数分散測定で損失弾性率を測定することによって評価することができる。
すなわち、ポリオレフィン樹脂水性分散体は、せん断負荷直後の動的粘弾性測定の周波数分散において、角周波数が10rad/sから100rad/sにおける損失弾性率が0.1Pa以上であれば、なんらかの構造が残り、凝集物を生じることなく、元の構造に回復する。しかし、損失弾性率が0.1Pa未満の場合には、せん断を負荷することで構造がほぼ崩壊してしまうため、再構築の初期に構築される構造が、部分的には元の構造と異なるなど、分散体の構造が不均一になることで、凝集物を生じやすくなる。
また、せん断負荷直後の動的粘弾性測定の周波数分散と、60分後の動的粘弾性測定の周波数分散における10rad/sでの損失弾性率の比(60分後の損失弾性率/直後の損失弾性率)が10000未満であれば、構造が崩壊した時と回復した時の差異が比較的小さくなり、凝集物を生じることなく元の構造に回復する。損失弾性率の比が10000以上の場合には、構造の差異が比較的大きくなり、構造の変化を繰り返すことで凝集物を生じやすくなる。
【0021】
<ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法>
水性分散体を製造する方法は特に限定されず、自己乳化法や強制乳化法等の公知の方法を用いることができる。公知の方法の中でも、不揮発性水性分散化助剤を実質的に使用しない方法を採用することが好ましい。不揮発性水性分散化助剤とは、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、または常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
【0022】
「不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有しない」とは、こうした助剤を製造時(ポリオレフィン樹脂の水性分散化時)に用いず、得られる水性分散体が結果的にこの助剤を含有しないことを意味する。不揮発性水性化助剤は、ポリオレフィン樹脂成分に対して5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%未満であることがさらに好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
【0023】
不揮発性水性分散化助剤としては、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子等が挙げられる。
【0024】
本発明では、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性化を促進し、分散粒子径を小さくするために、水性化の際に、塩基性化合物および/または親水性有機溶剤を配合することが好ましい。
【0025】
塩基性化合物は、酸成分を中和できるものであればよいが、本発明の効果を損なわないために、揮発性であることが好ましい。
塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、エチルアミン、ジエチルアミン、イソブチルアミン、ジプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、n-ブチルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2,2-ジメトキシエチルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ピロール、またはピリジン等が挙げられる。中でも、ポリオレフィン樹脂の分散性をよりいっそう向上させる点から、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミンが好ましい。
【0026】
塩基性化合物の配合量は、水性分散体中に、0.1~5質量%であることが好ましく、0.3~2質量%であることがより好ましく、0.5~1.5質量であることがさらに好ましい。0.1質量%未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、5質量%を超えると塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体の安定性が低下したりすることがある。
【0027】
親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、1,2-ジメチルグリセリン、1,3-ジメチルグリセリン、またはトリメチルグリセリン等が挙げられる。
【0028】
中でも、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルは、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性化促進に、より効果的であり好ましい。
本発明では、これらの親水性有機溶剤を複数混合して使用してもよい。
【実施例0029】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって限定されるものではない。
各種測定、評価方法は、以下の通りである。
【0030】
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂の構成
オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて、H-NMR分析(日本電子社製 、500MHz)を行って樹脂構成を分析した。
【0031】
(2)水性分散体中の酸変性ポリオレフィン樹脂粒子の粒子径
日機装社製、Nanotrac Wave-UZ152粒度分布測定装置を用いて、数平均粒子径を測定した。
【0032】
(3)安定性
50℃に加熱した水性分散体に、マーロン試験機を用いてせん断負荷(荷重5kg、回転数300rpm、60秒間)をかけ、1時間静置した後に水性分散体を目視で観察し、次の基準で安定性を評価した。
○:凝縮物の析出が確認されない
△:わずかな凝集物の析出を確認
×:凝集物の析出を確認
【0033】
(4)損失弾性率
TAインスツルメント社製ARESG2を用い、治具は直径50mm、コーン角1°のコーンプレートとし、ペルチェシステムとスプリットソルベントトラップカバーを使用して測定温度を30℃に保った。
測定試料をプレートにマウントした後、せん断速度1000/sで60秒間せん断を負荷し、その後、動的粘弾性測定による周波数分散測定を繰り返し30回実施することで、周波数分散の経時変化を測定した。周波数分散は、歪1%、角周波数範囲100~1rad/s(奇数回は100rad/sから1rad/sへ変化させ、偶数回は1rad/sから100rad/sへ変化させた)の条件で、100~10rad/sの範囲で11点、10~1rad/sの範囲で11点、それぞれlog表記で均等になる間隔で測定した。
せん断を負荷した直後の損失弾性率としては、1回目の角周波数100rad/sから10rad/sにおける測定結果を用いた。
また、せん断を負荷した60分後の損失弾性率としては、27回目の角周波数10rad/sにおける測定結果を用いて、1回目の10rad/sにおける損失弾性率と、27回目の10rad/sにおける損失弾性率との比を算出した。
【0034】
実施例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、100gの酸変性ポリオレフィン樹脂(樹脂組成:エチレン80質量%、アクリル酸エチル18質量%、無水マレイン酸2質量%、MFR63g/10分)、80gのイソプロパノール、4.0gのN,N-ジメチルエタノールアミン、および220gの水をガラス容器内に仕込み、120℃で60分間加熱撹拌をおこなった。その後、撹拌しつつ室温まで冷却したのち、150gの水を加え、エバポレータを用いて水およびイソプロパノールを減圧留去することによって、酸変性ポリオレフィン樹脂粒子の水性分散体を得た。
【0035】
実施例2
N,N-ジメチルエタノールアミンに代えてトリエチルアミンを用い、150gの水を加えた後に減圧留去する操作をおこなわなかった以外は、実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂粒子の水性分散体を得た。
【0036】
実施例3、比較例1
表1記載の酸変性ポリオレフィン樹脂を用いて、国際公開第2004/104090号記載の方法と同様にして、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を得た。
【0037】
実施例、比較例で得られた水性分散体の評価結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
実施例で得られた本発明の水性分散体は、所定範囲の損失弾性率を示し、安定性に優れるものであった。一方、比較例で得られた水性分散体は、損失弾性率が所定範囲を外れるため、安定性に劣るものであった。