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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019776
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】電力合成・分配器
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/12 20060101AFI20240206BHJP
【FI】
H01P5/12 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122445
(22)【出願日】2022-08-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】391020986
【氏名又は名称】日本高周波株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【弁理士】
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】有住 豊
(72)【発明者】
【氏名】角野 智士
(57)【要約】
【課題】高周波数帯、高電力での使用が可能であり、且つ省スペースで設置可能な電力合成・分配器を提供する。
【解決手段】電力合成・分配器W1であって、内部に空隙が形成された本体部1と、本体部1の内部の空隙に形成されたラジアル線路2と、ラジアル線路2の外周部にラジアル線路2の中心に対して同心円状に並べられ且つ本体部1の外周部側に設置される複数の同軸端子3と、一端が同軸端子3に接続され且つ他端がラジアル線路2の外周部に接続された同軸線路4と、本体部1の中央部に垂直に設けられたTM01モードの円形導波管5とを備え、ラジアル線路2にインピーダンス変換部が設けられ、ラジアル線路2の中央部にモード変換部6が設置され、モード変換部6により、円形導波管にTM01モードが励振され且つラジアル線路2と円形導波管5とのインピーダンス整合が行われるようになっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空隙が形成された本体部と、
前記本体部の内部の空隙に形成されたラジアル線路と、
前記ラジアル線路の外周部に該ラジアル線路の中心に対して同心円状に並べられ且つ前記本体部の外周部側に設置される複数の同軸端子と、
一端が前記同軸端子に接続され且つ他端が前記ラジアル線路の外周部に接続された同軸線路と、
前記本体部の中央部に垂直に設けられ且つ前記ラジアル線路と連通しているTM01モードの円形導波管とを備え、
前記同軸線路は、前記同軸端子毎に設けられており、
前記円形導波管を出力端子とし且つ前記同軸端子を入力端子とした場合に電力合成器として機能し、
前記円形導波管を入力端子とし且つ前記同軸端子を出力端子とした場合に電力分配器として機能するようになっている電力合成・分配器であって、
前記ラジアル線路に1又は複数段のインピーダンス変換部が設けられ、
前記ラジアル線路の中央部にモード変換部が設置され、
前記モード変換部により、前記円形導波管にTM01モードが励振され且つ前記ラジアル線路と該円形導波管とのインピーダンス整合が行われるようになっていることを特徴とする電力合成・分配器。
【請求項2】
内部に空隙が形成された本体部と、
前記本体部の内部の空隙に形成されたラジアル線路と、
前記ラジアル線路の外周部に該ラジアル線路の中心に対して同心円状に並べられ且つ前記本体部の外周部側に設置される複数の同軸端子と、
一端が前記同軸端子に接続され且つ他端が前記ラジアル線路の外周部に接続された同軸線路と、
前記本体部の中央部に垂直に設けられ且つ前記ラジアル線路と連通しているTM01モードの円形導波管とを備え、
前記同軸線路は、前記同軸端子毎に設けられており、
前記円形導波管を出力端子とし且つ前記同軸端子を入力端子とした場合に電力合成器として機能し、
前記円形導波管を入力端子とし且つ前記同軸端子を出力端子とした場合に電力分配器として機能するようになっている電力合成・分配器であって、
前記ラジアル線路に1又は複数段のインピーダンス変換部が設けられ、
前記ラジアル線路の中央部にモード変換部が設置され、
前記円形導波管の他端部に、円形導波管モードであるTM01モードから矩形導波管モードであるTE10モードに変換する変換器が接続され、
前記円形導波管の内壁に、TM01モードからTE10モードに円滑にモード変換するためのモード抑制器が配置され、移相歪み及び伝送損失が抑えられるようになっていることを特徴とする電力・合成分配器。
【請求項3】
前記同軸線路と前記ラジアル線路との接続部には、該同軸線路と並列に高インピーダンス部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電力合成・分配器。
【請求項4】
前記ラジアル線路に設けられたインピーダンス変換部が、1/4波長型のインピーダンス変換部であることを特徴とする請求項1又は2に又は3に記載の電力合成・分配器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力合成・分配器に関し、例えば、マイクロ波帯或いはミリ波帯において、高電力の合成或いは分配に用いられる電力合成・分配器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高電力の出力を得るための手段の一つとして、複数の入力電力を合成し、高出力電力を得る電力合成器が知られている。この電力合成器は、電力を入力するための複数の入力端と、合成した電力を出力するための出力端とを備えている。また、電力合成器は、入力端を出力端とし且つ出力端を入力端として用いれば、電力分配器として機能する。そのため、本明細書中では、「電力合成器」及び「電力分配器」の両者を「電力合成・分配器」という。
【0003】
上記の電力合成・分配器は、様々な構成のものが提案されている。
例えば、特許文献1には、合成した電力を出力するための出力端(或いは、分配させる電力を入力するための入力端)への接続線路に中央同軸線路を採用した構成の電力合成・分配器が提案されている。特許文献1に開示された電力合成・分配器は、内部に空隙が形成された本体部と、本体部の略中央に設けられた中央同軸接栓と、中央同軸接栓を中心にした同心円上に並べられ、本体部に設置される複数の周辺同軸接栓と、本体部の内部の空隙に形成されたラジアル線路と、一端が中央同軸接栓に接続され且つ他端がラジアル線路の中央部に接続された中央同軸線路と、一端が周辺同軸接栓に接続され且つ他端がラジアル線路の外周部に接続された周辺同軸線路とを備えている。この電力合成・分配器は、中央同軸接栓を出力端子とし且つ周辺同軸接栓を入力端子とした場合に電力合成器として機能し、中央同軸接栓を入力端子とし且つ周辺同軸接栓を出力端子とした場合に電力分配器として機能するようになっている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、同軸線路に比べて伝送損失が小さい導波管線路を用いた導波管型電力合成・分配器の構成が提案されている。
特許文献2に開示された導波管型電力合成・分配器は、複数のTE10モードの矩形導波管が、その軸方向が放射状になるように配置され、その放射状の中心にTM01モードの円形導波管が当該放射状面に対して垂直に配置されている。また、この導波管型電力合成・分配器では、複数の矩形導波管は、それぞれ、一端部が円形導波管の一端側の外周側面に接続され、矩形導波管の軸方向と、円形導波管の軸方向とが垂直になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許5630916号公報
【特許文献2】特許5816768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来技術は、以下に示す課題を有している。
特許文献1に記載の電力合成・分配器は、合成した電力を出力するための出力端子(或いは、分配させる電力を入力するための入力端子)への接続線路に中央同軸線路を用いた構成を採用しているため、対応できる「周波数、電力」が制限され、高周波数帯、高電力の使用に限度があるという課題を有している。
【0007】
一方、特許文献2に記載の導波管型電力合成・分配器は、合成した電力を出力するための出力端子(或いは、分配させる電力を入力するための入力端子)への接続線路に円形導波管を用いた構成が採用されているため、特許文献1に記載のものと比べ、高周波数帯、高電力の使用に適している。
しかし、特許文献2に記載の導波管型電力合成・分配器は、例えば電力合成器として用いた場合、複数の矩形導波管と、電力増幅器の導波管出力端とを接続用導波管でそれぞれ接続しなければならず、その引き回しが複雑となり、広い設置スペースが必要になるという課題を有している。
また、特許文献2に記載の導波管型電力合成・分配器を組み込んだ装置の小型化にも不向きである。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高周波数帯、高電力での使用が可能であり、且つ省スペースで設置可能な電力合成・分配器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の第1態様は、内部に空隙が形成された本体部と、前記本体部の内部の空隙に形成されたラジアル線路と、前記ラジアル線路の外周部に該ラジアル線路の中心に対して同心円状に並べられ且つ前記本体部の外周部側に設置される複数の同軸端子と、一端が前記同軸端子に接続され且つ他端が前記ラジアル線路の外周部に接続された同軸線路と、前記本体部の中央部に垂直に設けられ且つ前記ラジアル線路と連通しているTM01モードの円形導波管とを備え、前記同軸線路は、前記同軸端子毎に設けられており、前記円形導波管を出力端子とし且つ前記同軸端子を入力端子とした場合に電力合成器として機能し、前記円形導波管を入力端子とし且つ前記同軸端子を出力端子とした場合に電力分配器として機能するようになっている電力合成・分配器であって、前記ラジアル線路に1又は複数段のインピーダンス変換部が設けられ、前記ラジアル線路の中央部にモード変換部が設置され、前記モード変換部により、前記円形導波管にTM01モードが励振され且つ前記ラジアル線路と該円形導波管とのインピーダンス整合が行われるようになっていることを特徴とする。
【0010】
このように、本発明の第1態様の電力合成・分配器は、ラジアル線路に接続される「合成した電力の出力側(或いは、分配させる電力の入力側)」がTM01モードの円形導波管により構成され、ラジアル線路の中央部にモード変換部が設置されている。このモード変換部により、円形導波管にTM01モードが励振され且つラジアル線路と円形導波管とのインピーダンス整合が行われるようになっている。
すなわち、本発明の第1態様の電力合成・分配器は、特許文献1に記載の電力・合成分配器のように、ラジアル線路に接続される「合成した電力の出力側(或いは、分配させる電力の入力側)」の接続線路に中央同軸線路ではなく、TM01モードの円形導波管が採用された構成になっている。
そのため、本発明の第1態様によれば、特許文献1に記載の電力合成・分配器の「周波数、電力が制限される」という課題が解消され、より高周波数帯、高電力での使用が可能な電力合成・分配器が提供される。
また、本発明の第1態様の電力合成・分配器は、合成する電力を入力するための入力端子(或いは、分配させる電力を出力するための出力端子)が同軸端子になっており、特許文献2に記載の導波管型電力合成・分配器のように、複数の矩形導波管を備えた構成になっていない。そのため、本発明によれば、同軸端子に対してフレキシブル性のある同軸ケーブルを接続することができ、引き回しが容易になるとともに、省スペースでの設置が可能になる。
【0011】
また、本発明の第2態様は、内部に空隙が形成された本体部と、前記本体部の内部の空隙に形成されたラジアル線路と、前記ラジアル線路の外周部に該ラジアル線路の中心に対して同心円状に並べられ且つ前記本体部の外周部側に設置される複数の同軸端子と、一端が前記同軸端子に接続され且つ他端が前記ラジアル線路の外周部に接続された同軸線路と、前記本体部の中央部に垂直に設けられ且つ前記ラジアル線路と連通しているTM01モードの円形導波管とを備え、前記同軸線路は、前記同軸端子毎に設けられており、前記円形導波管を出力端子とし且つ前記同軸端子を入力端子とした場合に電力合成器として機能し、前記円形導波管を入力端子とし且つ前記同軸端子を出力端子とした場合に電力分配器として機能するようになっている電力合成・分配器であって、前記ラジアル線路に1又は複数段のインピーダンス変換部が設けられ、前記ラジアル線路の中央部にモード変換部が設置され、前記円形導波管の他端部に、円形導波管モードであるTM01モードから矩形導波管モードであるTE10モードに変換する変換器が接続され、前記円形導波管の内壁に、TM01モードからTE10モードに円滑にモード変換するためのモード抑制器が配置され、移相歪み及び伝送損失が抑えられるようになっていることを特徴とする。
【0012】
本発明の第2態様の電力合成・分配器は、上述した第1態様と同様、ラジアル線路に接続される「合成した電力の出力側(或いは、分配させる電力の入力側)」の接続線路に中央同軸線路ではなく、TM01モードの円形導波管が採用された構成になっている。そのため、本発明の第2態様によれば、特許文献1に記載の電力合成・分配器の「周波数、電力が制限される」という課題が解消され、より高周波数帯、高電力での使用が可能な電力合成・分配器が提供される。
また、本発明の第2態様の電力合成・分配器は、上述した第1態様と同様、合成する電力を入力するための入力端子(或いは、分配させる電力を出力するための出力端子)が同軸端子になっているため、同軸端子に対してフレキシブル性のある同軸ケーブルを接続することができ、引き回しが容易になるとともに、省スペースでの設置が可能になる。
【0013】
また、本発明の第2態様の電力合成・分配器では、円形導波管の他端部に、円形導波管モードであるTM01モードから矩形導波管モードであるTE10モードに変換する変換器が接続されている。
この構成を採用したのは、通常、電力の伝送路は矩形導波管により構成されているためである。
本発明の上記構成によれば、矩形導波管により構成されている伝送路に、本発明の電力合成・分波器を容易に組み込むことができる。
【0014】
また、前記同軸線路と前記ラジアル線路との接続部には、該同軸線路と並列に高インピーダンス部が設けられていることが望ましい。
このように、高インピーダンス部を設けることにより、不要なリアクタンスが生じることを防止することができ、その結果、製造誤差により生じる影響(性能のバラツキ等)を抑えることができる。
【0015】
また、前記ラジアル線路に設けられたインピーダンス変換部が、1/4波長型のインピーダンス変換部であることが望ましい。
この構成を採用したのは、1/4波長型のインピーダンス変換部の構成を採用することにより、必要とする周波数帯域幅内における整合条件が得られるように設計することができるためである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高周波数帯、高電力での使用が可能であり、且つ省スペースで設置可能な電力合成・分配器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態の電力合成・分配器の構成を説明するための断面を示した模式図である。
図2】本発明の第1実施形態の電力合成・分配器の構成を説明するための模式図である。
図3】本発明の第1実施形態の電力合成・分配器のラジアル線路と円形導波管との接続部におけるモードの状態を示した模式図である。
図4】本発明の第2実施形態の電力合成・分配器の断面を示した模式図である。
図5】本発明の第2実施形態のモード抑制器の構成を説明するための模式図である。
図6】本発明の第3実施形態の電力合成・分配器の断面を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
《第1実施形態》
先ず、本発明の第1実施形態の電力合成・分配器について、図1~3を用いて説明する。
ここで、図1は、第1実施形態の電力合成・分配器の構成を説明するための断面を示した模式図である。図2は、第1実施形態の電力合成・分配器の構成を説明するための模式図である。図3は、第1実施形態の電力合成・分配器のラジアル線路と円形導波管との接続部におけるモードの状態を示した模式図である。
【0019】
図1、2に示すように、第1実施形態の電力合成・分配器W1は、内部に空隙が形成された本体部1と、本体部1の内部の空隙により形成されたラジアル線路2と、ラジアル線路2の外周部にラジアル線路2の中心に対して同心円状に並べられ且つ本体部1の外周部側に等間隔で設置される複数の同軸端子3と、一端が同軸端子3に接続され且つ他端がラジアル線路2の外周部に接続された同軸線路4と、本体部1の中央部に垂直に設けられ且つラジアル線路2と連通しているTM01モードの円形導波管5とを備えている。
なお、同軸線路4は、同軸端子3毎に設けられている。また、本体部1の内部の空隙は、本体部1の中心部から外周部にかけて平面視円形に形成されている。
【0020】
なお、電力合成・分配器W1は、円形導波管5を出力端子とし且つ同軸端子3を入力端子とした場合に電力合成器として機能する。また、電力合成・分配器W1は、円形導波管5を入力端子とし且つ同軸端子4を出力端子とした場合に電力分配器として機能する。
【0021】
また、ラジアル線路2には、1又は複数段のインピーダンス変換部(図1、2に示す例では3段のインピーダンス変換部)が設けられている。
また、ラジアル線路2の中央部(円状中央部)には、モード変換部6が設けられている。このモード変換部6は、ラジアル線路2(或いは円形導波管5)から円形導波管5(或いはラジアル線路3)への伝送モードの変換を行う。
以下、各構成部を順番に説明する。
【0022】
本体部1は、導体により形成された「蓋体部1a及び箱体部1b」により構成されている。また、蓋体部1aは、平面視円形状に形成され、上面側の中央部に、開口1a1が形成されている。
なお、開口部1a1の内径寸法は、円形導波管5の内径寸法と同じ寸法になっている。この開口部1a1の外縁部に円形導波管5が接続されている。
【0023】
また、箱体部1bは、平面視円形状になされており(蓋体部1aと同径の円形状になされており)、一方面(上面)が凹状に凹んで形成され、他方面(下面)が平坦に形成された底部となっている。この凹状の上面には、中心部から同心円状に段差部が形成されている。第1実施形態では、前記上面の中心部に円状中央部が形成され、その円状中央部の外周に同心円状に3段の段差部が形成されている。
【0024】
そして、箱体部1bの上面と、蓋体部1aの下面とを相対向させ、且つ箱体部1bの上面に蓋体1aを載置・固定することにより平面視円形の箱状の本体部1が形成され、蓋体部1aの下面と、箱体部1bの上面(段差部が形成された上面)とにより、本体部1の内部に段差部を有する空隙が形成されるようになっている。この段差部を有する空隙がラジアル線路2になると共に、インピーダンス変換部が形成され、このインピーダンス変換部が同軸端子3と円形導波管5のインピーダンス整合を行う。なお、図2の符号「R」がラジアル線路2の中心部からの距離を示している。また、図2の符号「L2」で示す範囲が、ラジアル線路2に設けられたインピーダンス変換部の径方向の範囲を示している。
【0025】
また、ラジアル線路2に設けられるインピーダンス変換部の構成について特に限定しないが、「チェビシェフ1/4波長多段型」、「マキシマリー・フラット1/4波長多段型」等の構成のものを用いることが望ましい。これは、1/4波長多段型のインピーダンス変換部の構成を採用することにより、必要とする周波数帯域幅内における整合条件が得られるように設計することができるためである。なお、第1実施形態では、1/4波長3段でインピーダンス変換部を構成している。
また、1/4波長多段型のインピーダンス変換部の原理は、周知技術であるため、詳細な説明を省略する。
【0026】
なお、ラジアル線路2のインピーダンス(Z)は、ラジアル線路2の中心部より外周部に向かって、ラジアル線路2の中心部からの距離Rに反比例して小さくなる。そのため、ラジアル線路2に複数段のインピーダンス変換部を設ける場合、インピーダンス変換部の各段共にその「1/4波長」の範囲内においてインピーダンスが一定にならず、インピーダンス変換部の設計が複雑になるという課題が生じる。
【0027】
そのため、第1実施形態では、各段のインピーダンスが「1/4波長」の範囲内において一定になるように、「ラジアル線路2の高さ(H)」を「ラジアル線路2の中心部からの距離R」に比例して大きくなるようにして、インピーダンス変換部の設計及び製作の簡素化を図り、上記課題を解消している。
【0028】
具体的には、図2に示すように、ラジアル線路2の中央部に隣接する一段目の段差部において、その高さ(H1)が、ラジアル線路2の中央部からの距離Rに比例して大きくなるようにしている。また、ラジアル線路2の中央部から2段目の段差部も、その高さ(H2)が、ラジアル線路2の中央部からの距離Rに比例して大きくなるように設計している。同様に、また、ラジアル線路2の中央部から3段目の段差部も、その高さ(H3)が、ラジアル線路2の中央部からの距離Rに比例して大きくなるように設計している。このように、第1実施形態では、段毎に、距離(R)に対応させて高さ(H(H1、H2、H3))を設定することにより、上記課題を解消している。
【0029】
また、モード変換部6は、半円球体又は半楕円球体の金属体により形成されており、その中心線が、ラジアル線路2の中心と一致するように、ラジアル線路2の円状中央部に設けられている。このモード変換部6により、円形導波管2にTM01モードが励振され且つラジアル線路2と円形導波管5とのインピーダンス整合が行われるようになっている。
また、このモード変換部6により、ラジアル線路2から円形導波管5への伝送モードの変換と、円形導波管5からラジアル線路2への伝送モードの変換が滑らかに行われる。
【0030】
また、円形導波管5は、両端が貫通している直管であり、両端にフランジが形成されている。
そして、円形導波管5は、その内周側面が、蓋体部1の開口1a1の内周側面と略面一になるように、一端側(下端側)のフランジが、蓋体部1aの上面の中央部の開口1a1の外縁部に載置されて、蓋体部1aの上面に接続・固定されている。このように、円形導波管2の筒内は、ラジアル線路2と連通している。
【0031】
上記のように構成された電力合成・分配器W1は、ラジアル線路2に設けられたモード変換部6により、ラジアル線路2と、円形導波管5との接続部におけるモードの状態が、図3に示すようになる。
図示するように形状が半円球体又は半楕円球体の金属体のモード変換部6を配置することにより、その滑らかな表面に沿って電界の円滑な流れを生じ、円滑なモード変換が行われる。
また、形状を球体にすることにより、モード変換部6の耐電力が高くなり、高電力での使用を可能とする。
【0032】
このように、第1実施形態の電力合成・分配器W1は、ラジアル線路2に接続される「合成した電力の出力側(或いは、分配させる電力の入力側)」がTM01モードの円形導波管5により構成され、ラジアル線路2の中央部にモード変換部6が設置されている。また、このモード変換部6により、円形導波管5にTM01モードが励振され且つラジアル線路2と円形導波管5とのインピーダンス整合が行われるようになっている。
すなわち、第1実施形態の電力合成・分配器W1は、特許文献1に記載の電力・合成分配器のように、ラジアル線路2に接続される「合成した電力の出力側(或いは、分配させる電力の入力側)」の接続線路に中央同軸線路ではなく、TM01モードの円形導波管5が採用された構成になっている。そのため、第1実施形態によれば、特許文献1に記載の電力合成・分配器の「周波数、電力が制限される」という課題が解消され、より高周波数帯、高電力での使用が可能な電力合成・分配器W1が提供される。
【0033】
また、第1実施形態の電力合成・分配器W1は、合成する電力を入力するための入力端子(或いは、分配させる電力を出力するための出力端子)が同軸端子になっており、特許文献2に記載の導波管型電力合成・分配器のように、複数の矩形導波管を備えた構成になっていない。そのため、第1実施形態によれば、同軸端子3に対してフレキシブル性のある同軸ケーブルを接続することができ、引き回しが容易になるとともに、省スペースでの設置が可能になる。
【0034】
《第2実施形態》
次に、本発明の第2実施形態の電力合成・分配器について、図4、5を用いて説明する。
ここで、図4は、第2実施形態の電力合成・分配器の構成を説明するための模式図である。図5は、第2実施形態のモード抑制器の構成を説明するための模式図である。
【0035】
第2実施形態の電力合成・分配器W2は、第1実施形態の電力合成分配器W1の円形導波管5の上端部に、円形/矩形導波管変換器8を接続するとともに、円形導波管5の筒内に、モード抑制器7を付加したものであり、円形/矩形導波管変換器8及びモード抑制器7を付加している以外は、第1実施形態の構成と同じである。
そのため、第2実施形態の説明では、第1実施形態と同じ構成には同じ符号を付して、説明を省略或いは簡略化する。
【0036】
第2実施形態の電力合成・分配器W2は、図4に示すように、円形導波管5の上端部に、円形/矩形導波管変換器(以下、単に「変換器」)8が接続されているとともに、円形導波管5の筒内の内壁に、円形導波管5の内径寸法と略同じ長さの幅寸法に形成された平板状のモード抑制器7(図5参照)が取り付けられている。
このように、変換器8を設けたのは、通常、電力の伝送路は矩形導波管により構成されているためである。
【0037】
また、上記の変換器8は、円形導波管5と同じ径寸法の円形導波管部8aと、円形導波管部8aの上端の外周側面に接続される矩形導波管部8bとを備えた断面視・略L字状に形成されており、両端に開口が形成されて両端が貫通している。具体的には、変換器8は、円形導波管部8aにより構成された一端部(下端部)に開口が形成されているとともに、矩形導波管部8bにより構成された他端部(図中に向かって左端部)に開口が形成されている。また、変換器8は、円形導波管部8aの軸方向と、矩形導波管部8bの軸方向とが垂直になっている。なお、変換器8は、両端部にフランジが形成されている。
【0038】
また、変換器8は、円形導波管部8aにより構成された一端部(下端部)のフランジが、円形導波管5の上端部のフランジと位置合わせされ、円形導波管5の上端部に接続されている。なお、矩形導波管部8bにより構成された変換器8の他端部には、電力の伝送路である矩形導波管(図示せず)を接続できるようになっている。
【0039】
そして、第2実施形態の電力合成・分配器W2が電力合成器として機能する場合には、この変換器8により、変換器8を通る電力が、円形導波管モードであるTM01モードから矩形導波管モードであるTE10モードに変換される。また、電力合成・分配器W2が電力分配器として機能する場合には、この変換器8により、変換器8を通る電力が、矩形導波管モードであるTE10モードから円形導波管モードであるTM01モードに変換される。
【0040】
また、円形導波管5の筒内に設けられたモード抑制器7は、TM01モードからTE10モード(或いは、TE10モードからTM01モード)に円滑にモード変換するためのものであり、移相歪み及び伝送損失を抑えられるようになっている。すなわち、モード抑制器7は、TM01モードとTE10モードとの間で円滑にモード変換を行わせるための構成部であり、移相歪み及び伝送損失を抑える機能を果たしている。
【0041】
なお、モード抑制器7は、金属板により形成されている。
また、モード抑制器7は、円形導波管5の伝送方向と矩形導波管部8bの伝送方向の両方に平行で、且つ円形導波管5の中心に設置されている(図5参照)。
【0042】
このように、第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の作用効果に加えて、さらに、矩形導波管により構成されている伝送路に、電力合成・分波器W2を容易に組み込むことができる。また、第2実施形態では、TM01モードからTE10モード(或いは、TE10モードからTM01モード)に変換する変換器8が設けられているが、モード抑制器7により円滑なモード変換が可能になり、移相歪み及び伝送損失を最小限に抑えることができる。
【0043】
《第3実施形態》
次に、本発明の第3実施形態の電力合成・分配器について、図6を用いて説明する。
ここで、図6は、第3実施形態の電力合成・分配器の構成を説明するための模式図である。
【0044】
第3実施形態の電力合成・分配器W3は、第2実施形態の電力合成・分配器W2の同軸線路4とラジアル線路2との接続部に、同軸線路4と並列に高インピーダンス部9を設けたものであり、高インピーダンス部9の構成が付加された以外は、第2実施形態のものと同じである。
そのため、第3実施形態の説明では、第2実施形態と同じ構成には同じ符号を付して、説明を省略或いは簡略化する。
【0045】
第3実施形態の電力合成・分配器W3は、図6に示すように、本体部1を構成する箱体部1bの上面の外周部近傍であって、同軸線路4とラジアル線路2との接続部に、上面から底部に向けて延びる間隙部(高インピーダンス部)9が形成されている。
【0046】
具体的には、第3実施形態の電力合成・分配器W3では、間隙部9の高さ寸法(h)が、マイクロ波又はミリ波の「1/4波長」の奇数倍になっている。また、間隙部(高インピーダンス部)9は、その開口部が電気的に開放状態になっている。このように間隙部9を構成することで、同軸線路4とラジアル線路2との接続部分において、接地部のインピーダンスが無視できるような高インピーダンス部が設けられ、その開口部が電気的に開放状態になっていることで、不要なリアクタンスが生じることを防止することができ、製造誤差により生じる影響(性能のバラツキ)を抑制することができる。
すなわち、第3実施形態によれば、上述した第1、2実施形態の作用効果に加えて、さらに、製造誤差により生じる「性能のバラツキ」を抑制することができる。
【0047】
以上、説明したように、本発明の実施形態(第1~3実施形態)によれば、高周波数帯、高電力での使用が可能であり、且つ省スペースで設置可能な電力合成・分配器を提供することができる。
【0048】
なお、本発明は、上述した実施形態(第1~3実施形態)に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変更が可能である。
【0049】
例えば、上述した第1実施形態の電力合成・分配器W1の構成に、第3実施形態の高インピーダンス部9を付加するようにしても良い。
【符号の説明】
【0050】
W1、W2、W3…電力合成・分配器
1…本体部
1a…蓋体部(本体部)
1b…箱体部(本体部)
2…ラジアル線路
3…同軸端子
4…同軸線路
5…円形導波管
6…モード変換部
7…モード抑制器
8…円形/矩形導波管変換器(変換器)
8a…円形導波管部(変換器)
8b…矩形導波管部(変換器)
9…間隙部(高インピーダンス部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6