(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019792
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】水の製造方法、吸着材の再生方法、及び水の製造装置
(51)【国際特許分類】
B01D 59/26 20060101AFI20240206BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20240206BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20240206BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20240206BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
B01D59/26
B01J20/34 B
B01J20/34 F
B01J20/26 D
B01J20/20 B
B01J20/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122472
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】592243553
【氏名又は名称】株式会社タカギ
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】江口 晃哉
(72)【発明者】
【氏名】小野 勇次
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA05B
4G066AA61B
4G066AC11B
4G066CA18
4G066CA43
4G066DA07
4G066GA06
4G066GA31
4G066GA32
4G066GA35
(57)【要約】
【課題】原料水から、水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子の含有量が低減された水を安価に製造することが可能な製造方法を提供すること。
【解決手段】本開示は、吸着材に原料水の蒸気を吸着させ、上記吸着材から優先的に脱離する蒸気を回収する第一工程と、上記吸着材に水蒸気を含むガスを供給し、上記吸着材に吸着された上記分子を上記ガス中に拡散させることで、上記吸着材の分離性能を回復させる第二工程と、を含む、一部の水素原子が水素の同位体で置換された水分子の含有量が低減された水を製造する方法を提供する。上記製法では、上記第二工程で上記吸着材に供給する上記ガスの相対湿度が、上記吸着材に供給する際の温度で所定範囲内となるように調整されており、上記吸着材に供給する上記ガスは、同位体元素で置換された上記分子の含有量が、上記原料蒸気における上記分子の含有量よりも小さいものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された前記分子の含有量が低減された水を得る製造方法であって、
吸着材に原料水の原料蒸気を供給し、前記原料蒸気の少なくとも一部を前記吸着材に吸着させ、前記吸着材との間で形成される水素結合の強さの違いによって、前記吸着材から優先的に脱離する水分子を含む蒸気を回収する第一工程と、
前記第一工程の後に、前記吸着材に、水蒸気を含むガスを供給し、前記吸着材に吸着された前記分子の少なくとも一部を前記ガス中に拡散させることで、前記吸着材の分離性能を回復させる第二工程と、を含み、
前記第二工程において、
前記吸着材に供給する前記ガスの相対湿度は、前記吸着材に供給する際の前記ガスの温度において0.0005~2.5%RHとなるように調整されており、
前記吸着材に供給する前記ガスにおける同位体元素で置換された前記分子の含有量は、前記原料蒸気における前記分子の含有量よりも小さい、製造方法。
【請求項2】
前記第二工程において前記吸着材に供給する前記ガスにおける前記分子の含有量が140原子ppm以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第二工程において前記吸着材に供給する前記ガスの温度が60℃以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第一工程において回収した前記蒸気の一部を凝縮させることによって、前記分子の含有量が低減された水を調製する第三工程を更に含み、
前記第三工程において、凝縮されなかった前記蒸気の一部を前記第二工程において前記吸着材に供給する前記ガスとして使用する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第一工程と、前記第二工程とを交互に繰り返すことによって、前記分子の含有量が低減された水を連続的に製造する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記吸着材は、高分子収着剤、活性炭、及びゼオライトからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記吸着材は、筒体の表面の少なくとも一部に設けられた吸着層に含まれる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記吸着材は、筒体に充填されている、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された前記分子の含有量を低減するために用いられた吸着材の再生方法であって、
前記吸着材に、水蒸気を含むガスを供給し、前記吸着材に吸着された前記分子の少なくとも一部を前記ガス中に拡散させることで、前記吸着材の分離性能を回復させることを含み、
前記吸着材に供給する前記ガスの相対湿度は、前記吸着材に供給する際の前記ガスの温度において0.0005~2.5%RHとなるように調整されており、
前記吸着材に供給する前記ガスにおける同位体元素で置換された前記分子の含有量は、前記原料水から生成された原料蒸気における前記分子の含有量よりも小さい、再生方法。
【請求項10】
前記吸着材に供給する前記ガスにおける前記分子の含有量が140原子ppm以下である、請求項9に記載の再生方法。
【請求項11】
前記吸着材に供給する前記ガスの温度が60℃以上である、請求項9又は10に記載の再生方法。
【請求項12】
水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された前記分子の含有量が低減された水を製造する製造装置であって、
吸着材を有する、前記原料水から生成される原料蒸気の吸脱着部と、
前記吸脱着部に対して、前記原料蒸気を供給する原料供給部と、
前記吸着材との間で形成される水素結合の強さの違いによって前記吸着材から優先的に脱離した水分子を含む蒸気を回収する回収部と、
前記吸脱着部に対して、前記分子の含有量及び湿度が調整されたガスを供給するガス供給部と、を備え、
前記ガス供給部から、前記吸着材に供給する際の温度における相対湿度が0.0005~2.5%RHとなるように湿度が調整され、前記ガスにおける同位体元素で置換された前記分子の含有量が前記原料蒸気における前記分子の含有量よりも小さいガスを前記吸脱着部に供給することによって、前記吸着材に吸着された同位体元素で置換された前記分子の少なくとも一部を前記ガス中に拡散させ、前記吸着材の分離性能を回復させる、製造装置。
【請求項13】
前記回収部が、回収した蒸気を凝縮させる手段を有し、
前記ガス供給部は、前記回収部において凝縮されなかった蒸気を前記ガスとして、前記吸脱着部に供給する、請求項12に記載の製造装置。
【請求項14】
前記原料供給部は、前記吸脱着部の延在方向に対して、平行となる方向に前記原料水の蒸気を供給し、
前記ガス供給部は、前記原料水の蒸気とは逆方向に、前記ガスを供給する、請求項12又は13に記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水の製造方法、吸着材の再生方法、及び水の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水や天然水には、半重水及び重水等が含まれる場合があり、また原子炉冷却水等に使用された水にはトリチウム水等が含まれる場合がある。これらの半重水、重水及びトリチウム水は、軽水と比べて、例えば、物質の溶解度、電気伝導度及び電離度等の物性、反応速度などが異なる。そのため、半重水、重水及びトリチウム水を含む水を生物が多量に摂取すると、生体反応に悪影響を及ぼし得る。そこで、このような事態を回避するために、半重水、重水及びトリチウム水の含有量が低減された水を調製する方法が種々検討されている。
【0003】
例えば、軽水と、半重水及び重水とで、吸着材への吸脱着性能が僅かに異なることを利用し、細孔構造を有する吸着材へ原料水を吸着させ、その後、吸着された原料水の一部を脱着させることによって、半重水及び重水の含有量が低減された重水素低減水を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1,2等)。これらの技術は、半重水及び重水の含有量を低減する点で有用である。しかし、吸着材へ吸着した半重水及び重水の割合が上昇するに伴って、原料水に含まれる軽水と、半重水及び重水とを分離する性能が次第に低下していくため、得られる重水素低減水における半重水及び重水の含有量が次第に増加する等、製造される水の品質が安定しない懸念がある。そこで、一般には、吸着材の交換等が求められ、重水素低減水の製造コストが上昇する傾向にある。
【0004】
使用済み吸着材を再生して再利用しようとする検討もなされている。このような再生方法としては、主に、吸着材に吸着した分子を加熱によって揮発させて除去する方法が検討されている。その他に、例えば、特許文献3には、吸着法によって、各種水素同位体を含有する水中の水素同位体を分離濃縮するに際し、該濃縮分離に用いた吸着剤を加熱再生し、該加熱再生吸着剤中に残留する水素同位体のうち重い質量をもつ成分より軽い質量をもった水素同位体の水蒸気同伴気体と該加熱再生吸着剤とを賦活再生帯域で該吸着剤の再生温度付近下で向流的に接触させて該加熱再生吸着剤中に残留する水素同位体の重い質量成分を気体中に移行させることを特徴とする水素同位体濃縮分離に使用した吸着剤の賦活再生法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/209227号
【特許文献2】国際公開第2019/004102号
【特許文献3】特開昭53-093294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
吸着材を加熱再生する方法は有用であるが、吸着材の吸着性能が高い場合には、吸着分子の脱離に多くのエネルギーを要する。そのため、重水素低減水等の製造コストを低減する観点からは、改善の余地がある。また、重水素低減水等を長期に連続的に製造するためには、製造過程において吸着材の使用に伴う分離性能の低下を抑制する、又は低下した分離性能を回復する方法があれば有用である。
【0007】
本開示は、水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された上記分子の含有量が低減された水を安価に製造することが可能な製造方法を提供することを目的とする。本開示はまた、上記製造方法に使用可能な製造装置を提供することを目的とする。本開示はまた、水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された上記分子の含有量を低減するために用いられた吸着材の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の[1]~[14]を提供する。
【0009】
[1]
水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された前記分子の含有量が低減された水を得る製造方法であって、
吸着材に原料水の原料蒸気を供給し、前記原料蒸気の少なくとも一部を前記吸着材に吸着させ、前記吸着材との間で形成される水素結合の強さの違いによって、前記吸着材から優先的に脱離する水分子を含む蒸気を回収する第一工程と、
前記第一工程の後に、前記吸着材に、水蒸気を含むガスを供給し、前記吸着材に吸着された前記分子の少なくとも一部を前記ガス中に拡散させることで、前記吸着材の分離性能を回復させる第二工程と、を含み、
前記第二工程において、
前記吸着材に供給する前記ガスの相対湿度は、前記吸着材に供給する際の前記ガスの温度において0.0005~2.5%RHとなるように調整されており、
前記吸着材に供給する前記ガスにおける同位体元素で置換された前記分子の含有量は、前記原料蒸気における前記分子の含有量よりも小さい、製造方法。
[2]
前記第二工程において前記吸着材に供給する前記ガスにおける前記分子の含有量が140原子ppm以下である、[1]に記載の製造方法。
[3]
前記第二工程において前記吸着材に供給する前記ガスの温度が60℃以上である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記第一工程において回収した前記蒸気の一部を凝縮させることによって、前記分子の含有量が低減された水を調製する第三工程を更に含み、
前記第三工程において、凝縮されなかった前記蒸気の一部を前記第二工程において前記吸着材に供給する前記ガスとして使用する、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
前記第一工程と、前記第二工程とを交互に繰り返すことによって、前記分子の含有量が低減された水を連続的に製造する、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
前記吸着材は、高分子収着剤、活性炭、及びゼオライトからなる群より選択される少なくとも一種である、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
前記吸着材は、筒体の表面の少なくとも一部に設けられた吸着層に含まれる、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]
前記吸着材は、筒体に充填されている、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[9]
水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された前記分子の含有量を低減するために用いられた吸着材の再生方法であって、
前記吸着材に、水蒸気を含むガスを供給し、前記吸着材に吸着された前記分子の少なくとも一部を前記ガス中に拡散させることで、前記吸着材の分離性能を回復させることを含み、
前記吸着材に供給する前記ガスの相対湿度は、前記吸着材に供給する際の前記ガスの温度において0.0005~2.5%RHとなるように調整されており、
前記吸着材に供給する前記ガスにおける同位体元素で置換された前記分子の含有量は、前記原料水から生成された原料蒸気における前記分子の含有量よりも小さい、再生方法。
[10]
前記吸着材に供給する前記ガスにおける前記分子の含有量が140原子ppm以下である、[9]に記載の再生方法。
[11]
前記吸着材に供給する前記ガスの温度が60℃以上である、[9]又は[10]に記載の再生方法。
[12]
水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された前記分子の含有量が低減された水を製造する製造装置であって、
吸着材を有する、前記原料水から生成される原料蒸気の吸脱着部と、
前記吸脱着部に対して、前記原料蒸気を供給する原料供給部と、
前記吸着材との間で形成される水素結合の強さの違いによって前記吸着材から優先的に脱離した水分子を含む蒸気を回収する回収部と、
前記吸脱着部に対して、前記分子の含有量及び湿度が調整されたガスを供給するガス供給部と、を備え、
前記ガス供給部から、前記吸着材に供給する際の温度における相対湿度が0.0005~2.5%RHとなるように湿度が調整され、前記ガスにおける同位体元素で置換された前記分子の含有量が前記原料蒸気における前記分子の含有量よりも小さいガスを前記吸脱着部に供給することによって、前記吸着材に吸着された同位体元素で置換された前記分子の少なくとも一部を前記ガス中に拡散させ、前記吸着材の分離性能を回復させる、製造装置。
[13]
前記回収部が、回収した蒸気を凝縮させる手段を有し、
前記ガス供給部は、前記回収部において凝縮されなかった蒸気を前記ガスとして、前記吸脱着部に供給する、[12]に記載の製造装置。
[14]
前記原料供給部は、前記吸脱着部の延在方向に対して、平行となる方向に前記原料水の蒸気を供給し、
前記ガス供給部は、前記原料水の蒸気とは逆方向に、前記ガスを供給する、[12]又は[13]に記載の製造装置。
【0010】
本開示の一側面は、水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された上記分子の含有量が低減された水を得る製造方法であって、吸着材に原料水の原料蒸気を供給し、上記原料蒸気の少なくとも一部を上記吸着材に吸着させ、上記吸着材との間で形成される水素結合の強さの違いによって、上記吸着材から優先的に脱離する水分子を含む蒸気を回収する第一工程と、上記第一工程の後に、上記吸着材に、水蒸気を含むガスを供給し、上記吸着材に吸着された上記分子の少なくとも一部を上記ガス中に拡散させることで、上記吸着材の分離性能を回復させる第二工程と、を含み、上記第二工程において、上記吸着材に供給する上記ガスの相対湿度は、上記吸着材に供給する際の上記ガスの温度において0.0005~2.5%RHとなるように調整されており、上記吸着材に供給する上記ガスにおける同位体元素で置換された上記分子の含有量は、上記原料蒸気における上記分子の含有量よりも小さい、製造方法を提供する。
【0011】
上記製造方法は、第一工程において、水素の同位体元素で置換された分子と、水分子(H2O、軽水)とを含む原料水の蒸気を吸着材に一旦吸着させ、水素の同位体元素で置換された分子(例えば、D2O、T2O等)と、水分子(H2O、軽水)とで、吸着材との間に形成される水素結合の強さが異なることに着目し、この違いに基づく吸脱着性能の違いを利用して、吸着材に吸着された原料蒸気の中から優先的に脱離する軽水分を多く含む蒸気を回収することによって、水素の同位体元素で置換された分子の含有量が低減された水を製造することが可能となっている。
【0012】
上記製造方法はまた、第一工程に加えて、第二工程を有する。第二工程では、水素の同位体元素で置換された分子の含有量が原料水から生成された原料蒸気よりも低い水蒸気を含むガスを、所定の湿度で吸着材に供給する。これによって、吸着材が接する環境における上述の分子(例えば、D2O等)の割合を小さなものにできる。そのため、環境との濃度平衡を利用し、第一工程において吸着材に吸着され、吸着材上に残存した水素の同位体元素で置換された分子の少なくとも一部を上記ガス中に拡散させて、吸着材から除去することを可能としている。
【0013】
上記製造方法は第二工程を有し、吸着材の使用に伴う分離性能の低下を抑制、あるいは低下した分離性能を回復させる上述のような作用によって、従来の吸着材を用いた場合のように吸着材を交換することは必ずしも必要なく、少なくとも従来並みの頻度で交換することを要さずに目的の水の製造が可能であり、より安価に目的の水を製造することができる。上記製造方法によれば、吸着材に対する吸着及び脱離を経ることで得られる蒸気の組成を安定化させることが可能であることから、上記分子(例えば、D2O等)の含有量が低減された水を、品質の安定した状態で製造し得る。
【0014】
上記第二工程において上記吸着材に供給する上記ガスにおける上記分子の含有量は140原子ppm以下であってよい。上記ガスにおける水素の同位体元素で置換された分子の含有量が上記範囲内であれば、吸着材からの上記分子(例えば、D2O等)の拡散がより効率的なものとなる。なお、平地で入手可能な天然水における水素の同位体元素で置換された分子の含有量は、一般的には、150原子ppm程度である。原料水として使用される水の多くがそれ以上の割合で水素の同位体元素で置換された分子を含むことから、第一工程において吸着材に付着し、濃縮される上記分子(例えば、D2O等)の割合は少なくとも150原子ppmを超えるものとなる。
【0015】
上記第二工程において上記吸着材に供給する上記ガスの温度は60℃以上であってよい。第二工程において吸着材に供給されるガスの温度が上記範囲内であることで、吸着材の置かれる環境温度を高め、吸着材に吸着した上記分子(例えば、D2O等)の上記ガス中への拡散がより効率的なものとなる。
【0016】
上記第一工程において回収した上記蒸気の一部を凝縮させることによって、上記分子の含有量が低減された水を調製する第三工程を更に含み、上記第三工程において、凝縮されなかった上記蒸気の一部を上記第二工程において上記吸着材に供給する上記ガスとして使用してもよい。第三工程によって回収される蒸気における上記分子(例えば、D2O等)の含有量は、第一工程によって十分に低減されていることから、吸着材に吸着された上記分子(例えば、D2O等)を拡散させるためのガスとして好適である。また、回収しきれなかった蒸気を利用することで、上記ガスを別途用意するコストを低減できるため、上記分子(例えば、D2O等)の含有量が低減された水の製造コストを更に低減し得る。
【0017】
上記第一工程と、上記第二工程とを交互に繰り返すことによって、上記分子の含有量が低減された水を連続的に製造してもよい。本開示に係る製法であれば、連続的な使用に伴う吸着材の分離性能の低下が抑制され、あるいは低下した分離性能を回復させることができる。そのため、従来の吸着材を用いた場合のように吸着材を交換することは必ずしも必要なく、少なくとも従来並みの頻度で交換することを要せずに、連続して目的となる水の製造を継続させ得る。
【0018】
上記吸着材は、高分子収着剤、活性炭、及びゼオライトからなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0019】
上記吸着材は、筒体の表面の少なくとも一部に設けられた吸着層に含まれていてよい。
【0020】
上記吸着材は、筒体に充填されていてよい。
【0021】
本開示の一側面は、水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された上記分子の含有量を低減するために用いられた吸着材の再生方法であって、上記吸着材に、水蒸気を含むガスを供給し、上記吸着材に吸着された上記分子の少なくとも一部を上記ガス中に拡散させることで、上記吸着材の分離性能を回復させることを含み、上記吸着材に供給する上記ガスの相対湿度は、上記吸着材に供給する際の上記ガスの温度において0.0005~2.5%RHとなるように調整されており、上記吸着材に供給する上記ガスにおける同位体元素で置換された上記分子の含有量が、上記原料水から生成された原料蒸気における上記分子の含有量よりも小さい、再生方法を提供する。
【0022】
上記再生方法は、使用済みの吸着材に対して、原料水よりも、同位体元素で置換された上記分子(例えば、D2O、T2O等)の含有量の小さな蒸気を含むガスを、所定の湿度で供給することによって、吸着材に付着した上記分子(例えば、D2O等)の少なくとも一部を上記ガス中に拡散させて吸着材から除去することを可能となっており、これによって、吸着材の分離性能を回復し、吸着材の再生が可能となる。
【0023】
上記吸着材に供給する上記ガスにおける上記分子の含有量が140原子ppm以下であってよい。
【0024】
上記吸着材に供給する上記ガスの温度が60℃以上であってよい。
【0025】
本開示の一側面は、水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された上記分子の含有量が低減された水を製造する製造装置であって、吸着材を有する、上記原料水から生成される原料蒸気の吸脱着部と、上記吸脱着部に対して、上記原料蒸気を供給する原料供給部と、上記吸着材との間で形成される水素結合の強さの違いによって上記吸着材から優先的に脱離した水分子を含む蒸気を回収する回収部と、上記吸脱着部に対して、上記分子の含有量及び湿度が調整されたガスを供給するガス供給部と、を備え、上記ガス供給部から、上記吸着材に供給する際の温度における相対湿度が0.0005~2.5%RHとなるように湿度が調整され、上記ガスにおける同位体元素で置換された上記分子の含有量が上記原料蒸気における上記分子の含有量よりも小さいガスを上記吸脱着部に供給することによって、上記吸着材に吸着された同位体元素で置換された上記分子の少なくとも一部を上記ガス中に拡散させ、上記吸着材の分離性能を回復させる、製造装置を提供する。
【0026】
上記製造装置は、原料水から生成される原料蒸気の吸脱着部、原料供給部、及び回収部を備えることで、同位体元素で置換された上記分子(例えば、D2O、T2O等)の含有量が低減された水を製造することが可能である。上記製造装置は更に、上記分子の含有量及び相対湿度の調整されたガスを、吸着材を有する吸脱着部に供給するガス供給部を備えることによって、水の製造と、吸着材の再生とを行うことが可能となっている。このため、上記製造装置は、上述の水の製造方法に有用である。
【0027】
上記回収部が、回収した蒸気を凝縮させる手段を有し、上記ガス供給部は、上記回収部において凝縮されなかった蒸気を上記ガスとして、上記吸脱着部に供給してもよい。
【0028】
上記原料供給部は、上記吸脱着部の延在方向に対して、平行となる方向に上記原料水の蒸気を供給し、上記ガス供給部は、上記原料水の蒸気とは逆方向に、上記ガスを供給してもよい。
【発明の効果】
【0029】
本開示によれば、水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された上記分子の含有量が低減された水を安価に製造することが可能な製造方法を提供できる。本開示によればまた、上記製造方法に使用可能な製造装置を提供できる。本開示によればまた、水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された上記分子の含有量を低減するために用いられた吸着材の再生方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、製造装置の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施例における評価に用いた評価装置の模式図である。
【
図3】
図3は、実施例において製造した重水素低減水における重水素濃度と、収率との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例における重水素低減水における重水素を含む成分の含有量と、吸着材の再生に用いた水蒸気中の重水素を含む成分の含有量との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例における重水素低減水における重水素を含む成分の含有量と、吸着材の再生に用いた水蒸気の相対湿度との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例における重水素低減水における重水素を含む成分の含有量と、吸着材の再生に用いた水蒸気の相対湿度との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例において製造した重水素低減水における重水素濃度と、収率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、場合によって図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。各要素の寸法比率は図面に図示された比率に限られるものではない。
【0032】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0033】
水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された上記分子の含有量が低減された水を得る製造方法の一実施形態は、吸着材に原料水の原料蒸気を供給し、上記原料蒸気の少なくとも一部を上記吸着材に吸着させ、上記吸着材との間で形成される水素結合の強さの違いによって、上記吸着材から優先的に脱離する水分子を含む蒸気を回収する第一工程と、上記第一工程の後に、上記吸着材に、水蒸気を含むガス(以下、場合によって、再生用ガスともいう。)を供給し、上記吸着材に吸着された上記分子の少なくとも一部を上記ガス中に拡散させることで、上記吸着材の分離性能を回復させる第二工程と、を含む。上記第二工程において、上記吸着材に供給する上記ガスの相対湿度は、上記吸着材に供給する際の上記ガスの温度において0.0005~2.5%RHとなるように調整されている。また上記第二工程において、上記吸着材に供給する上記ガスにおける同位体元素で置換された上記分子の含有量は、上記原料蒸気における上記分子の含有量よりも小さい。
【0034】
水素の同位体元素は、ジュウテリウム(D)及びトリチウム(T)である。つまり、本明細書における「水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子」(以下、場合によって、特定分子ともいう)とは、水分子中の水素がジュウテリウム(D)及びトリチウム(T)の少なくとも一方の元素で置換された分子であり、半重水(DHO)、重水(D2O)、及びトリチウム水(THO、T2O)からなる群より選択される少なくとも一種のことを意味する。これらの特定分子は、水(H2O、以下、場合によって軽水ともいう)よりも、吸着材との間で形成される水素結合の強さが強く、吸着材に対して優先的に吸着し、また吸着材から脱離しにくい。このため、これらの特定分子は、吸着材に一旦吸着された場合、吸着材から揮発する速度は、軽水に比べて低くなる。本開示に係る製造方法では、このような特性の差を利用して、原料水から、特定分子の含有割合が低減された水を製造できる。
【0035】
一方で、吸着材との間で形成される水素結合の強さが強いために、一旦吸着材に吸着した特定分子は、吸着材に熱を加える等といった乾燥させる手段によっても、吸着材から脱離させることは容易ではない。特定分子が吸着した吸着材を、そのまま継続して使用する場合、吸着材に残存する特定分子の存在量が増え、原料水から特定分子の含有量を低減させる効果が損なわれる傾向にある。そうすると、特定分子の含有量を低減した水を製造するためには、吸着材を交換する、又は、吸着材に複数回接触させるように操作を繰り返し行うことで、徐々に特定分子の含有量を目的値まで下げるような作業が必要になる。結果として、水の製造コストが上昇する傾向にある。一方で、本開示に係る製造方法では、後述する方法によって、吸着材に一旦継続した特定分子を環境との濃度平衡を利用した拡散によって、脱離させることによって、吸着材の分離性能を回復させ、あるいは一定の分離性能を維持させることによって、効率よく、目的とする特定分子の含有量が低減された水を製造することができる。
【0036】
特定分子が主に、ジュウテリウム(D)を構成元素として有する半重水、及び重水である場合、本開示の製造方法によって得られる水は、いわゆる重水素低減水と呼ばれる水であり、本開示の製造方法は、重水素低減水の製造方法ということもできる。本開示の製造方法によって得られる重水素低減水は、飲料用途にも適する。なお、重水及び半重水の含有量が小さい重水素低減水は、日本では認可されていないものの、例えば、ハンガリーにおいて動物用の抗がん剤として認可されており、がん患者等が飲用する場合もある。特定分子が主に、トリチウムを構成元素として有するトリチウム水である場合、本開示の製造方法は、トリチウム水の除染方法ということもできる。
【0037】
本開示の製造方法における原料水は、例えば、雨水、地下水、淡水、及び海水等の天然水、水道水、並びに、原子炉等の冷却として使用されていた汚染水等が挙げられる。原料水に含まれる特定分子の含有量は特に限定されず、使用することができる。特定分子の含有量の上限値は、原料水から生成される水蒸気全量を基準として、例えば、300ppm以下、250ppm以下、又は200ppm以下であってよい。特定分子の含有量の上限値の上記範囲内であると、吸着材への特定分子の吸着量が少ないことから、吸着材の寿命をより長期化することができる。特定分子の含有量の下限値は、原料水から生成される水蒸気全量を基準として、例えば、10ppm以上、30ppm以上、又は50ppm以上であってよい。本開示に係る製造方法の原料水としては、特定分子の含有量が上述の範囲となるものを使用することができ、例えば、上記含有量が10~300ppm、又は50~200ppmである原料水を使用することもできる。
【0038】
本明細書において、原料水等に含まれる上記特定分子の含有量(水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子の含有量)は、波長スキャン・キャビティリングダウン分光法によって決定される値を意味する。
【0039】
第一工程で用いる吸着材は、水分子を吸着する性能を有する吸着材であれば使用することができる。水分子を吸着する性能を有する吸着材は、例えば、水酸基及びカルボキシ基等の親水基を有する化合物、分子内に水分子に対応するサイズの細孔を有する化合物等が考えられる。吸着材は、例えば、高分子収着剤、活性炭、及びゼオライトからなる群より選択される少なくとも一種であってよい。高分子収着剤とは、親水性の官能基を有する複数の高分子鎖間に架橋構造を導入した高分子材料であり、高分子収着剤は、水又はそれに類する化合物を吸着及び脱離させることが可能である。高分子収着剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸重合体の架橋物等が挙げられる。活性炭としては、例えば、繊維状活性炭、及び粒状活性炭等が挙げられる。ゼオライトとしては、例えば、FAU型ゼオライト、及びLTA型ゼオライト等が挙げられる。なお、FAU及びLTAとは、ゼオライトの骨格トポロジーを分類するためのアルファベット大文字三文字からなる骨格コード(Framework Type Code)である。
【0040】
吸着材は、例えば、水蒸気を用いた場合の吸脱着等温線についてのIUPACの分類において、I型に分類される吸着材、IV型に分類される吸着材、及びV型に分類される吸着材からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。ここで、吸脱着等温線とは、縦軸に吸着材への水蒸気の吸着量、横軸に吸着材に供給する水蒸気の相対圧をとったグラフ上の水蒸気の吸脱着挙動を示すグラフである。IUPACはその挙動の違いによって、I~VIの6つに吸着材を分類している。これらのうち、I型、IV型及びV型はいずれも、細孔を有する吸着材であって、比較的小さな細孔径を有するものが示す挙動を呈する。なお、本開示における製造方法に用いる吸着材としては、上記I型、IV型又はV型に分類される吸着材と同様の吸脱着挙動を示すものであってよいことを示すものであって、必ずしも物理的に細孔を有する吸着材に限定することを意図するものではない。
【0041】
吸着材は、原料の蒸気、及び後述する第二工程におけるガスと接することができれば、どのような形態で用いられてもよい。吸着材は、例えば、粉体であってよく、膜状又は層状に成形されたものであってもよく、また他の材料に担持されていてもよい。吸着材は、例えば、筒体に充填されていてもよく、筒体の表面の少なくとも一部に設けられた吸着層に含まれてもよく、筒体の表面の少なくとも一部に設けられた吸着層を構成していてもよい。上記筒体の断面形状は特に限定されるものではなく、例えば、円形、楕円形、三角形及び四角形等の多角形であってよい。上記筒体は、単独のシリンダ等の部材であってもよく、他の構造物の一部であってもよい。上記筒体が他の構造物の一部である場合、例えば、ハニカム状の断面形状を有する構造物の一部であってもよい。筒体を構成する素材は、水蒸気及び熱に耐えるものであれば、特に制限されるものではなく、金属であってもよく、セラミック等の無機物であってもよく、紙等の有機物であってもよい。
【0042】
吸着材が筒体に充填されている又は構造物の表面上に設けられた吸着層を構成している場合、上記筒体及び上記構造物の延在方向は、原料水の蒸気の流路と並行であってよい。
【0043】
第一工程において、原料水から生成される原料蒸気を供給する際の流量は、吸着材と蒸気とが接する距離等によって調整してよい。単位時間あたりに吸着材体積の何倍の水蒸気を供給するように調整するかを示す空間速度を指標として、原料蒸気の流量を調整してよい。原料蒸気を供給する際の空間速度の上限値は、例えば、5.00s-1以下、3.00s-1以下、1.00s-1以下、又は0.50s-1以下であってよい。上記空間速度の上限値を上記範囲内とすることで、吸着材に原料蒸気をより十分に吸着させることができる。上記空間速度の下限値は、例えば、0.05s-1以上、0.10s-1以上、0.30s-1以上、又は0.40s-1以上であってよい。上記空間速度の下限値を上記範囲内とすることで、目的の水(例えば、重水素低減水等)の生産速度を大きくできるため、吸着材の使用量を削減することができる。本明細書における空間速度は、蒸気を供給する温度において、流量計(20℃、101.325kPa時の流量)によって測定される値を意味する。
【0044】
第一工程において、原料水から生成される原料蒸気を供給する温度は、室温付近であってよく、例えば、5~45℃、10~40℃、又は15~35℃であってよい。
【0045】
第一工程において原料水から生成される原料蒸気を供給する際の圧力を適度に高めることによって、吸着材への原料蒸気の吸着の程度を調整することができる。上記圧力は、例えば、0.0020~0.0025MPaであってよい。本明細書における圧力は、絶対圧を意味する。
【0046】
第一工程において、次に、上記吸着材との間で形成される水素結合の強さの違いによって、上記吸着材から優先的に脱離する水分子を含む蒸気を回収する。蒸気を回収する手段は特に限定されるものではないが、例えば、蒸気を冷却して凝縮させることによって、回収してもよい。
【0047】
第一工程の後に第二工程を行う。第二工程では、上記吸着材に、水蒸気を含むガスを供給し、上記吸着材に吸着された上記分子の少なくとも一部を上記ガス中に拡散させることで、上記吸着材の分離性能を回復させる。第二工程では、上記特定分子の含有量が低減された水を製造する過程で、吸着材に吸着した上記特定分子の少なくとも一部を吸着材から除去することができる。
【0048】
上記ガスは適度に湿度を帯びることによって、吸着材の表面において、環境との濃度平衡を利用して、吸着材に吸着された上記特定分子の脱離を促進できる。上記吸着材に供給する上記ガスの相対湿度は、上記吸着材に供給する際の上記ガスの温度において0.0005~2.5%RHとなるように調整されている。上記相対湿度は、上記吸着材に供給する際の上記ガスの温度において、例えば、0.1~2.3%RH、0.2~2.0%RH、又は0.3~1.8%RHであってよい。上記吸着材に供給する上記ガスの温度における相対湿度は、25℃で測定された相対湿度を上記ガスの温度における相対湿度に換算することによって得られる値を意味する。
【0049】
上記ガスの湿度は、100℃における相対湿度が2.5%RH以下となるように調整されていてもよい。吸着材が、例えば、高分子収着剤等の比較的低温で使用されるものである場合には、100℃における相対湿度に着目し調整してよい。上記ガスの100℃における相対湿度の上限値は、例えば、0.600%RH以下であってよい。上記相対湿度の上限値を上記範囲内とすることで、吸着材に吸着された特定分子と軽水との交換がより容易なものとなる。上記ガスの100℃における相対湿度の下限値は、例えば、0.300%RH以上であってよい。上記相対湿度の上限値を上記範囲内とすることで、吸着材に吸着された特定分子と軽水との交換がより容易なものとなる。上記ガスの100℃における相対湿度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.300~0.600%RHであってよい。
【0050】
本明細書における相対湿度は、静電容量式湿度計によって測定される値を意味する。
【0051】
上記ガスにおける同位体元素で置換された上記分子の含有量は、原料水として用いた水における上記分子の含有量よりも小さければよいが、より含有量の小さいものを用いることが望ましい。上記第二工程での上記ガスにおける上記分子の含有量の上限値は、例えば、140原子ppm以下、120原子ppm以下、100原子ppm以下、又は90原子ppm以下であってよい。上記ガスにおける特定分子の含有量の上限値を上記範囲内とすることで、吸着材に吸着された特定分子の脱離をより容易なものとすることができる。上記第二工程での上記ガスにおける上記分子の含有量の下限値は、特に限定されず、ゼロ(すなわち、特定分子を含まない)であってもよいが、例えば、20原子ppm以上、50原子ppm以上、60原子ppm以上、又は70原子ppm以上であってよい。特定分子の含有量の少ないガスは高価であるため、上記ガスにおける特定分子の含有量の下限値を上記範囲内とすることで、目的とする水(例えば、重水素低減水等)の製造コストを低減することができる。上記ガスにおける特定分子の含有量の下限値を上記範囲内とすることで、水の製造コストをより低減できる。上記第二工程での上記ガスにおける上記分子の含有量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、20~140原子ppm、50~100原子ppm、又は60~100原子ppmであってよい。
【0052】
上記第二工程において上記吸着材に供給する上記ガスの温度は、上記第一工程における原料蒸気の温度よりも高く設定してよい。上記第二工程における上記ガスの温度の下限値は、例えば、60℃以上、70℃以上、80℃以上、85℃以上、90℃以上、又は95℃以上であってよい。上記ガスの温度の下限値を上記範囲内とすることで、吸着材に吸着された特定分子の脱離をより容易なものとすることができる。上記第二工程における上記ガスの温度の上限値は、例えば、300℃以下、275℃以下、250℃以下、225℃以下、200℃以下、180℃以下、又は150℃以下であってよい。上記ガスの温度の上限値を上記範囲内とすることで、吸着材自体の劣化を抑制することができる。
【0053】
第二工程における上記ガスは、上述の水蒸気を含む混合ガスであってよく、上記水蒸気からなっていてもよい。混合ガスを使用する場合、例えば、空気、水素ガス、及びアルゴンガス等との混合ガスであってよい。
【0054】
第二工程で使用する上述のガスを調製する際に用いる水蒸気源としては、例えば、上記特定分子の含有量が少ない天然水、又は、上記特定分子の含有量を別途低減する処理を施した水等を使用することができる。上記特定分子の含有量を別途低減する処理を施した水としては、例えば、重水素低減水、及び軽水等が使用できる。重水素低減水は、市販のものを使用してもよく、第一工程において回収した重水素低減水を用いてもよく、第一工程において回収しきれなかった水蒸気(例えば、重水素低減水の蒸気)を使用してもよい。すなわち、本開示に係る製造方法は、上記第一工程において回収した上記蒸気の一部を凝縮させることによって、上記分子の含有量が低減された水を調製する第三工程を更に含んでもよい。また、上記第三工程において、凝縮されなかった上記蒸気の一部を上記第二工程における上記ガスとして使用することもできる。
【0055】
上述のガスの流路は、第一工程における原料蒸気の流路と、並行であってよく、逆平行であってもよい。上記ガスの流路が、上記原料蒸気の流路と逆平行である場合、吸着材の置かれる環境温度の制御が容易であり、また、吸着材の再生効率により優れる。吸着材が筒体充填されている又は構造物の表面上に設けられた吸着層を構成している場合、上記筒体及び上記構造物の延在方向は、上記ガスの流路と並行であってよい。
【0056】
以上の説明においては、第一工程と、第二工程とをそれぞれ一回行う例を示した。しかし、上記第一工程と、上記第二工程とを交互に複数回繰り返してもよく、また上記第一工程と、上記第二工程とを交互に繰り返すことによって、上記特定分子の含有量が低減された水を連続的に製造してもよい。第一工程及び第二工程を吸着材に対する処理と捉えると、吸着材に接触させる雰囲気の組成を順次変化させていくことによって、第一工程及び第二工程を行うことができる。
【0057】
上述の製造方法における第二工程は、吸着材に付着する特定分子を低減することができる。換言すれば、第二工程における操作と同様の操作は、吸着材の再生方法として使用できる。吸着材の再生方法の一実施形態は、水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された上記分子の含有量を低減するために用いられた吸着材の再生方法であって、上記吸着材に、水蒸気を含むガスを供給し、上記吸着材に吸着された上記分子の少なくとも一部を上記ガス中に拡散させることで、上記吸着材の分離性能を回復させることを含む。上記吸着材に供給する上記ガスの湿度は、上記吸着材に供給する際の温度における相対湿度が0.0005~2.5%RHとなるように調整されており、上記ガスにおける同位体元素で置換された上記分子の含有量が、上記原料水から生成された原料蒸気における上記分子の含有量よりも小さい。再生方法の各種条件は、上述の製造方法の説明の際に例示した条件等を使用できる。
【0058】
製造装置の一実施形態は、水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された上記分子の含有量が低減された水を製造する製造装置であって、吸着材を有する、上記原料水から生成される原料蒸気の吸脱着部と、上記吸脱着部に対して、上記原料蒸気を供給する原料供給部と、上記吸着材との間で形成される水素結合の強さの違いによって上記吸着材から優先的に脱離した水分子を含む蒸気を回収する回収部と、上記吸脱着部に対して、上記分子の含有量及び湿度が調整されたガスを供給するガス供給部と、を備える。
【0059】
図1は、製造装置の一例を示す模式図である。製造装置100は、吸着材を有する吸脱着部10と、原料水の水蒸気を吸脱着部10に供給する原料供給部20と、上記特定分子の含有量が低減された上記を回収する回収部30と、吸着材の分離性能を回復させるためのガスを吸脱着部10に供給するガス供給部40とを有する。
【0060】
原料供給部20は、吸脱着部10に供給する原料水から生成される原料蒸気の組成、温度、及び流量等を制御する制御部を有してもよい。
【0061】
吸脱着部10は、吸着材を有する。吸脱着部10は、吸着材が、原料供給部20から供給される原料水から生成される原料蒸気、又はガス供給部40から供給されるガスと接するように吸着材を有していれば、形状は限定されるものではない。例えば、粉体又は顆粒形状を有する吸着材が充填された容器であってよく、支持体と、支持体上に設けられた吸着層を有する構造体を収容した容器であってもよい。支持体及び吸着層によって構成される構造体は、例えば、複数の独立したガス流路が形成されたハニカム状の断面を有する構造物であってもよい。
【0062】
吸脱着部10は、上述の容器の中心軸を、原料供給部20から供給される原料蒸気、又はガス供給部40から供給されるガスの流路と平行に設定し、当該中心軸を中心として容器を回転させる手段を有してもよい。回転させる手段としては、例えば、デシカントローター等であってよい。上記のような回転させる手段を有する場合、特定分子の含有量が低減された水を連続的に製造することがより容易なものとなる。
【0063】
吸脱着部10が、例えば、複数の独立したガス流路で構成されるハニカム状の断面を有する構造物を含み、当該構造物を容器の内壁に接するように隙間なく収容した形状の場合、例えば、原料供給部20から供給される原料蒸気の流路に対して、上述のガス流路が並行となるように上記構造物の中心軸を配置し、上記構造物を当該中心軸周りに回転させてもよい。この場合、上記構造物の上記ガス流路に垂直な方向の断面において、断面の中心点を起点として断面を4等分した場合に、例えば、4分の3の面積を原料蒸気と接触させ、4分の1の面積を上記ガスと接触させるように制御してよい。このように設定した場合、上記4分の3の面積において上述の製造方法における第一工程が行われ、上記4分の1の面積において上述の第一の製造方法における第二工程が行われることになる。すなわち、上記構造物が一回転する間に、第一工程及び第二工程が行われ、吸着材を介した原料蒸気中の特定分子の低減と、吸着材に吸着した上記特定分子の脱離による分離性能の回復とが連続的に行われることとなる。
【0064】
ガス供給部40から、上記吸着材に供給する際の温度における相対湿度が0.0005~2.5%RHとなるように湿度が調整され、上記ガスにおける上記特定分子の含有量が上記原料蒸気における上記特定分子の含有量よりも小さいガスを上記吸脱着部10に供給する。これによって、上記吸着材に吸着された上記特定分子の少なくとも一部を上記ガス中に拡散させ、上記吸着材の分離性能を回復させることができる。
【0065】
吸着材が、例えば、高分子収着剤等の比較的低温で使用されるものである場合には、100℃における相対湿度に着目し調整してよい。つまり、ガス供給部40から、100℃における相対湿度が2.5%RH以下となるように湿度が調整され、上記ガスにおける上記特定分子の含有量が上記原料蒸気における上記特定分子の含有量よりも小さいガスを上記吸脱着部10に供給してもよい。これによって、上記吸着材に吸着された上記特定分子の少なくとも一部を上記ガス中に拡散させ、上記吸着材の分離性能を回復させることもできる。
【0066】
回収部30は、回収した蒸気を凝縮させる手段を更に有してもよい。蒸気を凝縮させる手段は特に限定されるものではないが、蒸気を冷却して凝縮させる手段であってよい。ガス供給部40は、回収部30において凝縮されなかった蒸気を上記ガスとして、吸脱着部10に供給してもよい。この場合、ガス供給部40は、回収部30から凝縮されなかった蒸気を取得する手段を有してよい。上記を取得する手段は特に限定されるものではないが、蒸気を搬送するラインなどであってよい。
【0067】
ガス供給部40は、回収部30において回収された蒸気中の上記特定分子の含有量に応じて、吸脱着部10に供給するガスにおける上記特定分子の含有量、相対湿度、温度等を調整する制御部を有してもよい。回収部30は回収された蒸気中の上記特定分子の含有量の情報を取得する検出器を備えてよく、ガス供給部40の上記制御部は、回収部30の検出器から情報を取得してよい。
【0068】
図1において原料供給部20は、上記吸脱着部10の延在方向に対して、平行となる方向に上記原料水の蒸気を供給し、上記ガス供給部40は、上記原料水の蒸気とは逆方向に、上記ガスを供給する例で示した。この場合、吸脱着部10内における吸着材の環境温度の制御が容易であり、また、吸着材の再生効率により優れる。しかし、原料蒸気の供給方向と、上記ガスの供給方向とは、必ずしも逆方向でなくてもよく、同じ方向に流すこともできる。
【0069】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例0070】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
まず、支持体上に吸着材が付与され、断面がハニカム構造を呈するデシカント材料(日本エクスラン工業株式会社製、製品名:エクスブロック)を用意し、上記デシカント材料のハニカム構造を構成する個々の筒状の経路が、シリンダの延在方向に平行になるようにして、シリンダ内に収容した。上記吸着材は、ポリアクリル酸重合体の架橋物である高分子収着剤を用いた。シリンダは、内径が2.3cm、長さが40cmの物を使用した。
【0072】
図2に示す評価用装置に上述のシリンダS1を設置した。まず、バルブV1及びバルブV2をとなるように開放し、原料水から生成される原料蒸気を含む混合ガスを、25℃における相対湿度が90%RHとなるように調湿し、バルブV1側から4.0L/分の流量で矢印の方向に導入した。バルブV2から排出され、回収される混合ガスは、-10℃となるように調整された冷却器において凝縮され、重水素低減水を得た(第一工程)。原料蒸気を含む混合ガスは60分間導入を継続し、その後、バルブV1、バルブV2の順に閉じた。この間、吸着材に供給される混合ガスの温度は25℃に設定した。次に、バルブV3及びバルブV4を開放し、重水及び半重水の含有量が上記原料水よりも低い水蒸気を含む混合ガス(再生用ガス)を、100℃における相対湿度が0.30%RHとなるように調湿し、バルブV3側から36L/分の流量で導入した(第二工程)。上記再生用ガスは30分間導入を継続し、その後、バルブV3、バルブV4の順に閉じた。この間、再生用ガスの温度は100℃に設定した。次に、第一の工程と同じ条件で、再度原料水を含む混合ガスの導入及び重水素低減水の回収を行った。
【0073】
第一工程における原料水としては、重水及び半重水の含有量が148原子ppmである水を用いた。搬送ガスは、乾燥空気を用いた。蒸気と乾燥空気とを体積比で9:1となるように混合した混合ガスを原料として吸着材に導入した。第二工程における水蒸気としては、重水及び半重水の含有量が130原子ppmである水蒸気を用いた。搬送ガスは、乾燥空気を用いた。水蒸気と乾燥空気とを体積比で9:1となるように混合し、100℃における相対湿度が0.15%RHとなるように調湿された混合ガス(微量の水蒸気含有ガス)を原料として吸着材に導入した。
【0074】
吸着材を通過するガスの量(通過水分量)を調整することで、重水素低減水の収量を変更し同様の実験を行った。
【0075】
<重水素低減水中における重水素を構成原子として有する分子の含有量(重水素濃度)の測定>
上述のようにして得られた重水素低減水のそれぞれについて、後述する方法によって、重水素濃度を測定した。得られた結果を用いて、収率(=[通過水分量(L)/供給する混合ガス中の水分量(L)]×100)に対する関係を調べ、
図3に示した。
図3は、実施例において製造した重水素低減水における重水素濃度と、収率との関係を示すグラフである。
【0076】
[重水素濃度の測定]
水同位体比アナライザー(PICARRO社製、商品名:L2130-i)を用い、波長スキャン・キャビティリングダウン分光法によって、重水素濃度を測定した。
【0077】
(比較例1)
第二工程において、バルブV3から導入する混合ガス(再生用ガス)を、搬送ガスである乾燥空気(乾燥ガス)のみに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によって、重水素低減水を製造した。得られたそれぞれの重水素低減水について、重水素濃度を測定した。結果を
図3に示す。
【0078】
図3に示されるとおり、実施例1においては、再生用ガスとして、重水及び半重水の含有量が上記原料水よりも低い水蒸気を含ませたガスを使用することによって、第二工程を搬送ガスのみとした比較例1よりも、得られる重水素低減水中の重水素濃度を低減できることが確認された。
【0079】
(実施例2)
再生用ガスに含まれる水蒸気における特定分子の含有量による影響を確認するために、特定分子の含有量を調整したガスを用いて、重水素低減水の製造を行った。具体的には、特定分子の含有量を136原子ppm、121原子ppm、84原子ppm、又は62原子ppmに変更したこと、及び、再生用ガスの100℃における相対湿度を0.30%RHに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、重水素低減水を製造した。得られた重水素低減水のそれぞれにおいて、重水素低減水における重水素を含む成分の含有量と、吸着材の再生に用いた水蒸気中の重水素を含む成分の含有量との関係を調査した。結果を
図4に示す。
図4は、実施例における重水素低減水における重水素を含む成分の含有量と、吸着材の再生に用いた水蒸気中の重水素を含む成分の含有量との関係を示すグラフである。
【0080】
図4に示されるとおり、水蒸気における特定分子の含有量がより少ない再生用ガスを使用して吸着材の処理を行った場合の方が、その後に得られる重水素低減水における特定分子の含有量をより低減できることが確認された。
【0081】
(実施例3)
再生用ガスの吸着材への供給温度(ここでは100℃に設定)における相対湿度による影響を確認するために、再生用ガスの相対湿度を調整したガスを用いて、重水素低減水の製造を行った。具体的には、再生用ガスの100℃における相対湿度を表1に示すとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にして、重水素低減水を製造した。得られた重水素低減水のそれぞれにおいて、重水素低減水における重水素を含む成分の含有量と、吸着材の再生に用いた水蒸気の相対湿度との関係を調査した。結果を
図5に示す。
図5は、実施例における重水素低減水における重水素を含む成分の含有量と、吸着材の再生に用いた水蒸気の相対湿度との関係を示すグラフである。
【0082】
(実施例4)
再生用ガスにおける特定分子の含有量を121原子ppmに変更したこと、及び再生用ガスの100℃における相対湿度を表1に示すとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にして、重水素低減水を製造した。得られた重水素低減水のそれぞれにおいて、重水素低減水における重水素を含む成分の含有量と、吸着材の再生に用いた水蒸気の相対湿度との関係を調査した。結果を
図6に示す。
図6は、実施例における重水素低減水における重水素を含む成分の含有量と、吸着材の再生に用いた水蒸気の相対湿度との関係を示すグラフである。
【0083】
【0084】
図5及び
図6に示されるように、吸着材への供給温度である100℃における相対湿度がより高い再生用ガスを用いることによって、その後に得られる重水素低減水における重水素濃度を低減できる傾向があることが確認された。一方で、再生用ガスに含まれる水蒸気中の特定分子の含有量がある程度高い場合には、再生用ガスの吸着材への供給温度(100℃)における相対湿度が上がるにつれて、その後に得られる重水素低減水における重水素濃度が上昇し得る。
【0085】
(実施例5)
ゼオライト(東ソー株式会社製、商品名:HSZ-320NAD1C)を用意し、シリンダ内部を満たすように充填し、収容した。シリンダは、内径が2.3cm、長さが6cmの物を使用した。デシカント材料を収容したシリンダに変えて、ゼオライトを充填した上述のシリンダを用いたこと、及び、第二工程における水蒸気として、重水及び半重水の含有量が120原子ppmである水蒸気を用い、100℃における相対湿度が0.63%RHとなるように調湿された混合ガスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、<重水素低減水中における重水素を構成元素として有する分子の含有量(重水素濃度)の測定>に示した条件で評価を行った。結果を
図7に示す。
【0086】
(比較例2)
第二工程において、バルブV3から導入する混合ガス(再生用ガス)を、搬送ガスである乾燥空気(乾燥ガス)のみに変更したこと以外は、実施例5と同様の操作によって、重水素低減水を製造した。得られたそれぞれの重水素低減水について、重水素濃度を測定した。結果を
図7に示す。
【0087】
図7に示されるとおり、実施例5においては、再生用ガスとして、重水及び半重水の含有量が上記原料水よりも低い水蒸気を含ませたガスを使用することによって、第二工程を搬送ガスのみとした比較例2よりも、得られる重水素低減水中の重水素濃度を低減できることが確認された。このように、吸着材としてゼオライトを用いた場合にも、高分収着剤を使用した実施例1と同様の傾向がみられることが確認された。
本開示によれば、水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された上記分子の含有量が低減された水を安価に製造することが可能な製造方法を提供できる。本開示によればまた、上記製造方法に使用可能な製造装置を提供できる。本開示によればまた、水分子、及び水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子を含む原料水から、同位体元素で置換された上記分子の含有量を低減するために用いられた吸着材の再生方法を提供できる。