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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019793
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】陸生腹足類忌避シート
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/34 20060101AFI20240206BHJP
   A01N 35/06 20060101ALI20240206BHJP
   A01N 27/00 20060101ALI20240206BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20240206BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240206BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240206BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240206BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240206BHJP
   A01M 29/12 20110101ALI20240206BHJP
【FI】
A01N25/34 A
A01N35/06
A01N27/00
A01P17/00
C09D201/00
C09D7/63
C09J7/38
B32B27/18 F
A01M29/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122473
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】591100448
【氏名又は名称】パネフリ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 潤
(72)【発明者】
【氏名】永松 ゆきこ
【テーマコード(参考)】
2B121
4F100
4H011
4J004
4J038
【Fターム(参考)】
2B121AA16
2B121CA02
2B121CA52
2B121CA64
2B121CC22
2B121EA26
2B121FA01
2B121FA13
2B121FA15
4F100AH10B
4F100AH10H
4F100AK03A
4F100AK21A
4F100AK41B
4F100AK42A
4F100AK51B
4F100AT00
4F100BA02
4F100CA12B
4F100CA12H
4F100CC102
4F100CC10B
4F100EH462
4F100EH46B
4F100GB90
4F100JB04B
4F100JB06B
4F100JC00
4H011AE02
4H011BB05
4H011DA07
4H011DG05
4J004AB01
4J038JA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】天然物由来の忌避剤を使用して安全性が高く、ナメクジやカタツムリなどに対する忌避効果が良好で、植物への散水等による忌避剤の溶出が抑制された陸生腹足類忌避シートを提供すること。
【解決手段】シート状基材の片面に塗工層を設け、塗工層中に有効成分としてテルペン類を含有し、塗工層の水の接触角が80°以上であることを特徴とする陸生腹足類忌避シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基材の片面に塗工層を設け、塗工層中に有効成分としてテルペン類を含有し、塗工層の水の接触角が80°以上であることを特徴とする陸生腹足類忌避シート。
【請求項2】
テルペン類が、モノテルペン類及び/又はセスキテルペン類である請求項1記載の陸生腹足類忌避シート。
【請求項3】
テルペン類の塗工層中の含有量が0.05~10質量%である請求項1記載の陸生腹足類忌避シート。
【請求項4】
陸生腹足類が、ナメクジ又はカタツムリである請求項1記載の陸生腹足類忌避シート。
【請求項5】
シート状基材が、PET、PP、PE、EVA、PC、PVC、PMMA、COP、PA及びPLAよりなる群から選ばれる合成樹脂のフィルム又はシートである請求項1記載の陸生腹足類忌避シート。
【請求項6】
塗工層が、基剤成分として、長鎖アルキレン基を分子内に有するポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂及びフッ素系樹脂よりなる群から選ばれる樹脂を含有するものである請求項1記載の陸生腹足類忌避シート。
【請求項7】
シート状基材の塗工層と反対の面に粘着層を設けた請求項1記載の陸生腹足類に対する忌避シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の新芽、花、葉、果実などを食害し、農園芸分野に多大な被害を与えるナメクジやカタツムリなどの陸生腹足類が、植物に近づくことを妨げる陸生腹足類忌避シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物の栽培では頻繁に散水が行われ、植物の周囲の土壌を湿潤した環境に維持している。このような湿潤した環境には、ナメクジやカタツムリなどの陸生腹足類が発生しやすい。これらのナメクジやカタツムリなどは、植物の新芽、花、葉、果実などを好んで食するため農園芸分野の被害が問題となる。
【0003】
従来からナメクジやカタツムリなどの防除のために、誘引性接触毒としてパラホルムアルデヒドやメタアルデヒドなどの合成薬剤を散布することが行われてきた。しかし、これらの合成薬剤においては、強い防除効果の反面、植物への損傷、散布時の人体、家畜、ペットへの接触毒性、あるいは、環境汚染などの問題が指摘され、天然物由来の忌避剤への転換が望まれている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、ツバキ科植物の種子から採取したサポニンが、ナメクジやカタツムリなどの忌避効果が良好で、合成樹脂材料などからなるテープあるいはシートにサポニンを付着させてなる忌避用テープ等が提案されている。これらの忌避用テープ等は、植木鉢に巻き付け或いは植木鉢の下に敷くなど使用上の利便性が良好である。この忌避用テープ等においては、サポニンを含有した合成樹脂材料でテープ等の基材を成形する、又は、テープ等の表面に単にサポニンを塗布するものである。
【0005】
ここで、サポニンは水溶性物質であり、合成樹脂材料中にサポニンを含有させてテープ等の基材を成形することは難しく、また、忌避効果を良好に発現させるために高濃度のサポニンを含有させることは非常に困難であるという問題がある。更に、テープ等の表面に単にサポニンを塗布するだけでは、水溶性のサポニンが植物への散水時又は降雨時に溶出してしまい効果の持続性に欠けるという問題がある。
【0006】
かかる問題点を解決するため、特許文献2においては、サポニンを水系樹脂に含侵させ、テープあるいはシートの表面に塗布する方法が提案されている。この方法によれば、特許文献1のテープないしシートのように、サポニンが散水時等に一気に流れ出すことはないものの、サポニンが水溶性物質である以上、散水等の度に徐々に流れ出し、効果が減少していくのは自明である。また、サポニン並びに水系樹脂は、水性物質とのなじみが高く、散水時等に表面にもたらされた砂塵や多くの親水性有機物が堆積しやすく、それらの堆積物の上を陸生腹足類が這行することで、忌避効果が減少してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-171892号公報
【特許文献2】特開2013-155116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、天然物由来の忌避剤を使用して安全性が高く、ナメクジやカタツムリなどに対する忌避効果が良好で、植物への散水等による忌避剤の溶出が抑制された陸生腹足類忌避シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意検討の結果、シート状基材の片面に、テルペン類を含み、かつ水の接触角が80°以上となる塗工層を設けることで、陸生腹足類に対し優れた忌避効果を示し、散水等によるテルペン類の溶出が生じにくく、忌避効果が維持されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち本発明は、シート状基材の片面に塗工層を設け、塗工層中に有効成分としてテルペン類を含有し、塗工層の水の接触角が80°以上であることを特徴とする陸生腹足類忌避シートである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の忌避シートは、従来使用されてきたパラホルムアルデヒドやメタアルデヒドと比べ安全性が高いテルペン類を有効成分として用いるものであり、テルペン類がナメクジやカタツムリ等の陸生腹足類に対し忌避効果を示すとともに、塗工層の水の接触角が80°以上となるように調整することで、粘液を出して這行する陸生腹足類の這行を阻害するものであり、これらが相俟って陸生腹足類に対し優れた忌避効果を発揮する。また散水や降雨によるテルペン類の溶出が生じにくく、表面への有機物の堆積物も少なく、常に表面が更新されるため、陸生腹足類に対する忌避効果が長期間に渡り持続される。
加えて、シート状であることにより、植木鉢や植物の幹に巻き付けたり、植木鉢やプランターの下に敷いたりできるなど、利便性が良好であり、さらにシート状基材の塗工層と反対の面に粘着層を設けることにより、所望の場所に固定し易くなり、利便性をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、シート状基材の片面に塗工層を設け、塗工層中に有効成分としてテルペン類を含有し、塗工層の水の接触角が80°以上である陸生腹足類忌避シートである。
【0013】
シート状基材とは、フィルム、シート、テープ、板、紙、不織布、織物、編物、網などの平面状の製品をいい、シート状であればその材料、構造、その他どのようなものであってもよい。好ましい材質としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体)、PC(ポリカーボネート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、COP(シクロオレフィンポリマー)、PA(ポリアミド)、PLA(ポリ乳酸)等の工業的に入手容易で、特性・コストのバランスの取れたプラスチックシートが例示される。特に好適な材料として、強度、弾性率、コスト、対候性、塗工時の耐溶剤性の点から、PET、PP、PE等が挙げられる。厚みは、基材の弾性率にも依存するが、例えば、PETであれば15~80μm、PPであれば25~100μm、PEであれば50~200μmの範囲が、加工しやすく実用上扱いやすい。
【0014】
本発明においては、上記シート状基材の片面上に塗工層を設け、当該塗工層には1種類以上のテルペン類を含有させる。
テルペン類としては特に制限されないが、好適なテルペン類として炭素数10のモノテルペン類、炭素数15のセスキテルペン類が挙げられる。
【0015】
モノテルペン類としては、α-ピネン、ミルセン、リモネン、β-ピネン、カンファー、サピネン、フィランドレン、パラジメン、オシメン、テルピネン等のモノテルペン炭化水素類や、リナロール、ゲラニオール、メントール、テルピネン4オール、ピサポロール、フェニルエタノール、シトロネロール、ネロール、テルピネオール、ボルネオロール、ヒノキチオール等のモノテルペンアルコール、シトロネラール、ゲラニアール、ネラール等のテルペンアルデヒド等が例示される。
これらの中でも、炭素数10の直鎖イソプレノイドであるゲラニル二リン酸(GPP)は多くのモノテルペン類の前駆物質であるところ、その異性体であるリナリル二リン酸(LPP)から生じたカチオンが環化したメンタンを経て生合成される一群のモノテルペン類が好適であり、具体的には、カンファー、ボルネオロール、α-ピネン、リモネン、l-メントール等が挙げられる。
【0016】
セスキテルペン類としては、β-エレメン、γ-ムウロレン、α-セリネン、ジンギベレン、ベチボン、カズマレン、β-カリオフィレン、β-フェルネセン、バレンセン、ビサオレン、セドレン、カジネン等のセスキテルペン炭化水素類や、ネロリドール、セドロール、ベルガモテン、キャロドール、ファルネソール、ナルドール、サンタロール、パチュリアルコール、フェニルエチルアルコール、エモロール、カジノール、ムウロロール等のセスキテルペンアルコール類が例示される。
セスキテルペンの前駆体であるファルネシリル二リン酸(FPP)は、炭素数15で、3個のイソプレン単位からなり、多様な閉環反応により、数多くの環式構造を生成するが、本発明において特に好ましいセスキテルペンは、単環式と二環式のものである。単環式セスキテルペンの代表的なものとしては、ショウガ精油の成分であるジンギベレンが挙げられ、二環式セスキテルペンの代表的なものとしては、マツやスギを始めとする精油を生成する広範な植物に含まれるカジネン、グローブの精油に含まれるカリフォレン、不和飽和結合を含むベチバズレンやグアイアズレンが挙げられる。
【0017】
テルペン類は植物に広く含まれるが、植物によって含まれるテルペン類の種類は異なる。精油として抽出した場合、精油には複数のテルペン類の混合物が含まれるが、特定の植物に特定のテルペン類が特徴的に含まれていることが多い。例えば、マツにはピネンが、ヒノキやヒバにはヒノキチオールが、ハッカにはメントールが、クスノキにはカンファーが、柑橘類にはD-リモネンが、コパイバにはカロフィレンが、山椒にはβ-フェランドレンが、セロリにはβ-セリネンが、セージにはシネールが、タイムにはp-シメンが、ナツメグにはβ-ピネンが、バニラにはバニリンが、それぞれ特徴的に含まれる。精油から所望のテルペン類を単離して使用することが望ましいが、コスト的に不利になるので、所望のテルペン類を比較的多く含む精油をそのまま使用することもできる。
【0018】
上記テルペン類の塗工層中の含有量は特に制限されないが、乾燥・硬化後の塗工層全体の重量を基準として、0.05~10質量%が好ましく、0.1~8質量%がより好ましい。塗工層中のテルペン類の含有量が少ないと、陸生腹足類に対し十分な忌避効果が得られない場合があり、含有量が多い場合には、ブリードや表面のべた付きが発生したり、塗工層の強度が十分でなく、クラックや強度不足の不具合が発生する場合がある。
【0019】
また乾燥・硬化後の塗工層は、表面の物性として水の接触角が80°以上であることが必要であり、好ましくは90°以上、より好ましくは100°以上になるように塗工層が形成される。水の接触角は実施例に記載の方法によって測定することができる。
塗工層に用いる基剤としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、フッ素系樹脂、アイオノマー等が挙げられる。
上記基剤を必要に応じ希釈させる溶剤は、通常の塗工で用いられる溶剤を広く用いることができ、基剤や添加剤の溶解度、シート状基材への溶剤アタック、乾燥時間やポットライフ等を考慮して選択される。一般的には、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ジメチルエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルエーテル、テトラハイドロフラン、トルエン、キシレン、エタノール、プロパノール、メチルセロソルブ等が好適に用いられる。
これらの基剤、溶剤、テルペン類等を混合して塗工液を調製するが、塗工液中の基剤の含有量は、基剤と溶剤の種類にも依るが、一般的に5~70質量%、好ましくは10~60質量%である。
【0020】
塗工液をシート状基材に塗工した後、溶剤を揮発、硬化等させることで塗工層を形成するが、硬化剤を用いて架橋反応を行ってより強固な塗工層を形成することもできるし、同様の目的でUVや電子線硬化型の基剤を用いることもできる。
本発明においては、乾燥・硬化後の塗工層の表面のぬれ性として、水の接触角が80°以上であり、好ましくは90°以上、より好ましくは100°以上になるように基剤や添加剤、テルペン類等を選択する。
【0021】
基剤については、疎水性の高いものを選択することにより、硬化後の塗工層の水の接触角を高くすることができる。例えば、1,8オクタンジオール、1,9ノナンジオール、1,10デカンジオール、1,12ドデカンジオール等の炭素数8~12の長鎖アルキレン基を分子内に有するポリエステル樹脂、同じく長鎖アルキレン基を分子内に有するポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、フッ素系樹脂等を用いることにより、通常水の接触角を80°以上とすることができる。
【0022】
それ自体では水の接触角が80°を下回る基剤を用いる場合には、パラフィン、油脂、例えばHLB1.0~7.0程度の低HLB炭化水素系界面活性剤、フッ素系化合物、シリコーンオイル等の水の接触角改良剤を塗工層組成物中に添加することにより、水の接触角を高めることができる。
接触角改良剤の添加量としては、基剤の種類や水の接触角改良剤の種類にも依るが、乾燥・硬化後の塗工層に対して0.05~3質量%が好ましく、より好ましくは0.1~2質量%である。この範囲を下回ると、接触角改善の効果が得られない場合があり、上回ると塗工層がべたついたり、塗工層の最表面を過剰に覆って忌避効果を低下させることがある。
【0023】
基剤の種類別に、水の接触角添加剤の好適な添加量の範囲の一態様を示すと、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂等のある程度の親水性を持つ基剤の場合は、水の接触角改良剤の添加量は、乾燥・硬化後の塗工層に対し0.1~3質量%程度が好ましく、長鎖アルキレン基を分子内に有するポリエステル樹脂、長鎖アルキレン基を分子内に有するポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、フッ素系樹脂等の疎水性が高い基剤の場合は、0~0.5質量%が好ましい。
【0024】
テルペン類の種類や含有量によっても、水の接触角を高めることができ、例えば、分子内に極性を持つ官能基や酸素、窒素原子が少ないテルペン類を用いると接触角が高くなり、具体的には、モノテルペン類としては、ミルセン、ピネン、リモネンが挙げられ、セスキテルペン類としては、β-エレメン、δ-カジネン等が例示される。
【0025】
本発明の陸生腹足類忌避シートは例えば次のようにして製造することができる。
(1) 塗工液調製工程
基剤、溶剤、1種類以上のテルペン類及び必要に応じて添加される添加剤を混合して塗工液を調製する。乾燥工程で揮発してなくなる溶剤を除き、基剤および必要に応じて添加される不揮発性の添加剤、例えば、水の接触角改良剤、架橋剤、可塑剤、滑剤、安定剤、分散剤、顔料、フィラー等の総重量に対して、テルペン類を好ましくは0.05~20質量%、より好ましくは0.1~10質量になるように調整する。
【0026】
(2) 塗工・乾燥工程
上記工程(1)で調製した塗工液をシート状基材に塗工するには、公知の塗工法を採用することができる。塗工法は、シート状基材の材質と性状、及び、塗工液の粘度と性状によって適宜選定すればよく、例えば、ナイフコーター方式、バーコーター方式、グラビアコーター方式、リバースロールコーター方式、キスコーター方式、コンマコーター方式、ディップコーター方式などを挙げることができる。塗工精度、生産性を考えると工業的には、グラビアコーター方式が望ましい。
また、塗工ムラやハジキを防ぐために、シート状基材の材質によっては、コロナ処理、大気圧プラズマ処理、火炎処理、プレ易接着塗工を施してもよい。PETフィルムやOPPフィルムにおいては、インラインで易接着塗工された市販グレードを入手することも可能である。
このようにして塗工液を塗工したシート状基材を常法に従って、乾燥して溶媒を揮発させることにより、シート状基材上に塗工層が形成される。塗工量は、溶剤乾燥・硬化後の塗工層の厚みで管理することが望ましい。塗工層の厚みとしては、通常1~100μmの範囲で設定され、5~30μmが好適である。塗工層の厚みがこの範囲を下回ると、忌避剤であるテルペン類の含有量が少なく十分な忌避効果が得られなかったり、忌避持続時間を十分確保できない場合がある。一方、この範囲を上回ると、オーバースペックになってコスト上不利になったり、塗工層に脱落、ひび割れ、白化を生じたりする場合がある。
【0027】
(3) 粘着層塗工工程
本発明においては、必要に応じ、シート状基材のもう一方の面に粘着層を設けることもできる。接着剤としては、特に種類を限定しない。アクリル系、シリコーン系、ウレタン系、ゴム系等制限なく用いることができるが、加工性や実用特性のバランスがとれたアクリル系が好適に用いられる。
塗工法についても、粘着剤の性状との兼ね合いで、ホットメルト法、カレンダー法を含めて、特に方法を問わないが、溶剤で希釈した粘着剤をロールナイフコーター、グラビアコーター等で塗工する方法が工業上有利である。
本発明の忌避シートを、壁、コンクリート、アスファルト、砂礫等の粗面に粘着させたい場合は、粘着層を30~100μm以上に厚塗りする必要があるが、このようなケースは、ホットメルト粘着剤をダイコーターでフィルム上に直接塗工する方法が望ましい。粘着剤の分子内にUV架橋部位を入れておき、塗工後UV照射し硬化させる手法も採用できる。
粘着層の厚みとしては、通常10~50μmが望ましい。かかる範囲を下回ると、粘着性能が発現しにくく、上回る場合には、粘着層と共にシート状物を紙管に巻いた時に、厚み方向に巻きのズレが発生するいわゆる「テレスコープ」現象が発生することがある。上述したように、粗面粘着を目的とした場合は「テレスコープ」に注意しながら、100μm以上の厚みにすることもある。
粘着層を形成した後、シート状基材をそのまま巻き取るか、粘着面に剥離フィルムを貼ってしかる後にシートを紙管に巻き取り、所望の幅・長さに裁断する。
また、シート状基材に直接粘着層を塗工するのはなく、剥離フィルムの方に粘着剤を塗り、剥離フィルムとシート状基材の片面をラミネートして、シート状基材に粘着層を転写するという方法もしばしば採用される。
【実施例0028】
以下、本発明に係る陸生腹足類忌避シートを各実施例において具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例における%は質量%を意味する。
【0029】
実施例1
シート状基材として、厚み50μmの東レ社製ルミラーT-60(PETフィルム)、基剤及び溶剤として、ニッペ社製1液ファインウレタン100を準備した。塗工後の厚みから計算した基剤濃度は60%であった。
ファインウレタン100に、テルペン類としてキセイテック社製ヒノキチオールを乾燥後の塗工層換算で0.6%、水の接触角改良剤として信越化学社製シリコーンオイルKF96を同じく0.2%添加し、アプリケータを用い、A4サイズのPETフィルム上に、溶剤を含んだ厚みで20μmとなるように塗工を行った。その後、熱風乾燥機で60℃,1時間の乾燥を行い、溶剤を揮発させた。乾燥後の塗工層の厚みは12μmであった。得られたシートについて以下に記載する方法により、水の接触角、ナメクジの忌避率、散水後の忌避率の保持率を測定した。結果を表1に示す。
【0030】
<水の接触角の測定>
協和界面科学社製DMo-701型接触角計を用い、25℃、55%RHの雰囲気下、約1μLの蒸留水を塗膜表面に滴着させ、10秒後の液滴と塗膜表面がなす角度をθ/2法により算出した。
<忌避率の測定>
10cm角のプラスチックシート基材上に、オールグッド株式会社製小型卓上アプリケータを用いて塗工を行い、所定の条件で乾燥させた。このプラスチックシート20枚の塗工層上に、輪切りにした餌のキュウリを1つずつ乗せ、ナメクジ40匹が入る飼育ケースに入れた。20枚のシートは5日間連続して使用し、餌の毎日キュウリは取り替えた。
ナメクジが忌避剤の塗工されたシート面を這行してキュウリに到達し、5日間で延べ何個のキュウリを食べたかを観察した。ナメクジは輪切りにしたキュウリの断面中央部しか食べないため、中央部に穴が開いたかどうかで、容易に忌避の有無を判断することができる。延べ100個のキュウリに対し、食べられなかったキュウリの個数を忌避率(%)とした。
本測定の忌避率が70%以上となることが、実用上好ましいと評価される。
<散水による忌避率の保持率の測定>
上記の方法で、忌避率を測定したプラスチックシートを家庭用の散水シャワーを用い毎分1Lで10分間散水し、3ヶ月後に後にもう一度忌避率を測定し、以下の式にて忌避率の保持率を測定した。
散水による忌避率の保持率(%)=散水後の忌避率/散水前の忌避率×100
忌避率が70%以上あることを前提に、本測定の散水による忌避率の保持率が60%以上あることが実用上望ましいと評価される。
【0031】
実施例2
水の接触角改良剤として、信越化学社製シリコーンオイルKF96の代わりに、信越化学社製シリコーンオイルKP-341を乾燥後の塗工層換算で0.1%添加する以外は、実施例1と同様の方法で塗工を行って忌避シートを作成し、水の接触角、ナメクジの忌避率、散水後の忌避率の保持率を測定した。結果を表1に示す。
【0032】
実施例3
水の接触角改良剤として、信越化学社製シリコーンオイルKF96の代わりに、信越化学社製シリコーンオイルKF-351Aを乾燥後の塗工層換算で0.1%添加する以外は、実施例1と同様の方法で塗工を行って忌避シートを作成し、水の接触角、ナメクジの忌避率、散水後の忌避率の保持率を測定した。結果を表1に示す。
【0033】
比較例1
シリコーンオイルを添加しないこと以外は、実施例1と同様の方法で塗工を行って忌避シートを作成し、水の接触角、ナメクジの忌避率、散水後の忌避率の保持率を測定した。結果を表1に示す。
【0034】
比較例2
ヒノキチオールとシリコーンオイルを添加せずに、実施例1と同様の方法で塗工を行って忌避シートを作成し、水の接触角、ナメクジの忌避率、散水後の忌避率の保持率を測定した。結果を表1に示す。
【0035】
比較例3
塗工層を設けず、PETフィルムのみで、水の接触角、ナメクジの忌避率、散水後の忌避率の保持率を測定した。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すとおり、実施例1~3と比較例1~3を比べると、ナメクジの忌避率並びに散水後の忌避率の保持率が大きく異なり、テルペン類を所定の量添加し水の接触角を80°以上にして塗工層を設けることで陸生腹足類に対する優れた忌避効果及びその持続効果が得られることが明らかとなった。
【0038】
実施例4~5及び比較例4
シート状基材として、厚み50μmの東レ社製ルミラーT-60(PETフィルム)、基剤及び溶剤として東洋インキ社製シリコーン変性アクリル樹脂DYPC S-110と、硬化剤UR300Bワニスを100/20の比で用い(固形分濃度は28%)、テルペン類として、染織こだま社製カンファーを表2に示す量(乾燥後の塗工層換算)添加し混合して塗工液を調製した後、アプリケータを用い、A4サイズのPETフィルム上に、溶剤を含んだ厚みで20μmとなるように塗工を行った。その後、熱風乾燥機で80℃,30分間の乾燥を行い、溶剤を揮発させて忌避シートを調製した。乾燥後の塗工層の厚みは6μmであった。上記と同様にして、水の接触角、ナメクジの忌避率、散水後の忌避率の保持率を測定した。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2から、ナメクジに対する忌避効果は、塗工層中のテルペン類の含有量に依存して高まることが確認された。
【0041】
実施例6及び比較例5~6
シート状基材として、厚み25μmの三菱ケミカル社製サントニール(PAフィルム)、基剤及び溶剤として東洋インキ社製シリコーン変性アクリル樹脂DYPC S-110と、硬化剤UR300Bワニスを100/20の比で用い(固形分濃度は28%)、テルペン類として、セスキテルペン炭化水素である東京化成社製試薬δ-カジネン1.0%と、水の接触角改良剤として、AGC社製エスエフコート(フッ素系化合物)を0.5%添加して塗工液を調製し、アプリケータを用い、A4サイズのPAフィルム上に、溶剤を含んだ厚みで20μmとなるように塗工を行った。その後、熱風乾燥機で80℃、30分間の乾燥を行い、溶剤を揮発させて忌避シートを調製した。塗膜の厚みは12μmであった。塗工層に対するδ―カジネンの含有量は3.6%となる。
上記と同様にして、水の接触角、ナメクジの忌避率、散水後の忌避率の保持率を測定した。結果を表3に示す。
また、比較例5として塗工を行わないPAフィルムのみ、比較例6としてδカジネンを添加しない以外は実施例6と同様に塗工を行ったシートについても同様に測定した。その結果を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
実施例6の忌避シートは、カタツムリに対しても優れた忌避効果を示し、散水によってもその効果が低下しないことが確認された。
【0044】
以上より、本発明に係る陸生腹足類忌避シートは、ナメクジやカタツムリなどに対し優れた忌避効果を有し、その効果の持続性にも優れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、天然物由来の忌避剤を使用して安全性が高く、ナメクジやカタツムリなどに対する忌避効果が良好で、植物への散水時における忌避剤の溶出がなく、親水性の有機物の堆積が起きにくいため、忌避効果の持続性が高く、かつ、使用上の利便性が良好なシート状である陸生腹足類忌避シートを提供することができる。