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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019797
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】半導体レーザおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/10 20210101AFI20240206BHJP
【FI】
H01S5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122479
(22)【出願日】2022-08-01
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「NEDO先導研究プログラム/新産業創出新技術先導研究プログラム/ワットクラス深紫外半導体レーザーの研究開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 竜弥
(72)【発明者】
【氏名】寅丸 雅光
(72)【発明者】
【氏名】神 好人
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 素顕
(72)【発明者】
【氏名】岩山 章
(72)【発明者】
【氏名】薮谷 歩武
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA21
5F173AH22
5F173AK22
5F173AL03
5F173AL05
5F173AL13
5F173AP76
5F173AP78
5F173AR68
(57)【要約】      (修正有)
【課題】UV-B半導体レーザの性能を向上する端面反射膜とその製造方法を提案する。
【解決手段】UV-B半導体レーザに使用される反射膜は、高屈折率部材の酸化タンタルと、低屈折率部材の酸化シリコンによる誘電体多層膜から構成され、酸化タンタル膜は、300nmの波長の光に対する消衰係数が0.0001よりも小く形成されている。また反射膜の製造方法は半導体レーザーの端面へのダメージが低減されるECRスパッタリング法を使用する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外領域に含まれる波長域の光を射出する半導体レーザであって、
前記光の射出面とは反対側の端面に設けられた反射膜を備え、
前記反射膜は、酸化タンタル膜を含み、
前記酸化タンタル膜は、300nmの波長の光に対する消衰係数が0.0001よりも小さい、半導体レーザ。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体レーザにおいて、
前記反射膜は、第1屈折率を有する第1膜と、前記第1屈折率よりも高い第2屈折率を有する前記酸化タンタル膜との積層膜から構成されている、半導体レーザ。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体レーザにおいて、
前記反射膜は、前記第1膜と前記酸化タンタル膜からなる前記積層膜を複数有する多層膜から構成されている、半導体レーザ。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体レーザにおいて、
前記第1膜は、酸化シリコン膜である、半導体レーザ。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体レーザにおいて、
前記波長域は、298nmより大きく380nm以下である、半導体レーザ。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体レーザにおいて、
前記波長域は、298nmよりも大きく315nm以下である、半導体レーザ。
【請求項7】
紫外領域に含まれる波長域の光を射出する半導体レーザであって、
前記光の射出面に設けられた反射防止膜を備え、
前記反射防止膜は、酸化タンタル膜を含み、
前記酸化タンタル膜は、300nmの波長の光に対する消衰係数が0.0001よりも小さい、半導体レーザ。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体レーザにおいて、
前記反射防止膜は、第1屈折率を有する第1膜と、前記第1屈折率よりも高い第2屈折率を有する前記酸化タンタル膜との積層膜から構成されている、半導体レーザ。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体レーザにおいて、
前記反射防止膜は、前記第1膜と前記酸化タンタル膜からなる前記積層膜を複数有する多層膜から構成されている、半導体レーザ。
【請求項10】
請求項9に記載の半導体レーザにおいて、
前記第1膜は、酸化シリコン膜である、半導体レーザ。
【請求項11】
請求項7に記載の半導体レーザにおいて、
前記波長域は、298nmより大きく380nm以下である、半導体レーザ。
【請求項12】
請求項11に記載の半導体レーザにおいて、
前記波長域は、298nmよりも大きく315nm以下である、半導体レーザ。
【請求項13】
紫外領域に含まれる波長域の光を射出する半導体レーザの製造方法であって、
(a)前記光の射出面とは反対側の面に反射膜を形成する工程を備え、
前記(a)工程では、ECRスパッタリング法を使用することにより、前記反射膜を形成する、半導体レーザの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の半導体レーザの製造方法において、
前記反射膜は、酸化タンタル膜を含む、半導体レーザの製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載の半導体レーザの製造方法において、
前記波長域は、298nmより大きく380nm以下である、半導体レーザの製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の半導体レーザの製造方法において、
前記波長域は、298nmより大きく315nm以下である、半導体レーザの製造方法。
【請求項17】
請求項13に記載の半導体レーザの製造方法において、
前記(a)工程は、
(a1)第1屈折率を有する第1膜を形成する工程、
(a2)前記第1屈折率よりも高い第2屈折率を有する第2膜を形成する工程、
を含む、半導体レーザの製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の半導体レーザの製造方法において、
前記(a1)工程と前記(a2)工程を交互に繰り返すことにより、前記第1膜と前記第2膜との多層膜を形成する、半導体レーザの製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の半導体レーザの製造方法において、
前記第1膜は、酸化シリコン膜であり、
前記第2膜は、酸化タンタル膜である、半導体レーザの製造方法。
【請求項20】
紫外領域に含まれる波長域の光を射出する半導体レーザの製造方法であって、
(a)前記光の射出面に反射防止膜を形成する工程を備え、
前記(a)工程では、ECRスパッタリング法を使用することにより、前記反射防止膜を形成する、半導体レーザの製造方法。
【請求項21】
請求項20に記載の半導体レーザの製造方法において、
前記反射防止膜は、酸化タンタル膜を含む、半導体レーザの製造方法。
【請求項22】
請求項20に記載の半導体レーザの製造方法において、
前記波長域は、298nmより大きく380nm以下である、半導体レーザの製造方法。
【請求項23】
請求項20に記載の半導体レーザの製造方法において、
前記波長域は、298nmより大きく315nm以下である、半導体レーザの製造方法。
【請求項24】
請求項20に記載の半導体レーザの製造方法において、
前記(a)工程は、
(a1)第1屈折率を有する第1膜を形成する工程、
(a2)前記第1屈折率よりも高い第2屈折率を有する第2膜を形成する工程、
を含む、半導体レーザの製造方法。
【請求項25】
請求項24に記載の半導体レーザの製造方法において、
前記(a1)工程と前記(a2)工程を交互に繰り返すことにより、前記第1膜と前記第2膜との多層膜を形成する、半導体レーザの製造方法。
【請求項26】
請求項25に記載の半導体レーザの製造方法において、
前記第1膜は、酸化シリコン膜であり、
前記第2膜は、酸化タンタル膜である、半導体レーザの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザおよびその製造技術に関し、例えば、紫外領域に含まれる波長域の光を射出する半導体レーザおよびその製造技術に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、紫外領域のうちのUV-B波長域の光を射出する半導体レーザに関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Kosuke Sato et al. “Room-temperature operation of AlGaN ultraviolet-B laser diode at 298 nm on lattice-relaxed Al0.6Ga0.4N/AlN/sapphire” 2020 Appl. Phys. Express 13 031004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
AlGaN系紫外線半導体レーザは、医療分野や加工分野などに幅広い応用分野があり、実用化が期待されている。紫外線は、長波長紫外線(UV-A:光の波長が315nmよりも大きく380nm以下)、中波長紫外線(UV-B:光の波長が280nmよりも大きく315nm以下)、短波長紫外線(UV-C:光の波長が200nmよりも大きく280nm以下)の3種類に分類され、それぞれの波長域で半導体レーザの室温発振が報告されている。ここで、最も実現が困難であった半導体レーザは、UV-B波長域の光を射出する半導体レーザ(以下、UV-B半導体レーザという場合がある)であり、本発明者は、UV-B半導体レーザの高性能化について鋭意検討している。この点に関し、一般的に半導体レーザの高性能化には、高性能な反射膜の開発が必要不可欠であり、この観点から、UV-B半導体レーザにおいても、高性能な反射膜の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施の形態における半導体レーザは、紫外領域に含まれる波長域の光を射出する半導体レーザであって、光の射出面とは反対側の端面に設けられた反射膜を備える。ここで、反射膜は、酸化タンタル膜を含み、酸化タンタル膜は、300nmの波長の光に対する消衰係数が0.0001よりも小さい。
【0006】
一実施の形態における半導体レーザは、紫外領域に含まれる波長域の光を射出する半導体レーザであって、光の射出面に設けられた反射防止膜を備える。ここで、反射防止膜は、酸化タンタル膜を含み、酸化タンタル膜は、300nmの波長の光に対する消衰係数が0.0001よりも小さい。
【0007】
一実施の形態における半導体レーザの製造方法は、紫外領域に含まれる波長域の光を射出する半導体レーザの製造方法であって、光の射出面とは反対側の面に反射膜を形成する反射膜形成工程を備える。反射膜形成工程では、ECRスパッタリング法を使用することにより、反射膜を形成する。
【0008】
一実施の形態における半導体レーザの製造方法は、紫外領域に含まれる波長域の光を射出する半導体レーザの製造方法であって、光の射出面に反射防止膜を形成する反射防止膜形成工程を備える。反射防止膜形成工程では、ECRスパッタリング法を使用することにより、反射防止膜を形成する。
【発明の効果】
【0009】
一実施の形態によれば、紫外領域に含まれる波長域の光を射出する半導体レーザの性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】UV-B半導体レーザのデバイス構造を示す図である。
図2】UV-B半導体レーザの製造工程を示すフローチャートである。
図3】半導体ウェハからレーザバーを取得し、取得されたレーザバーから半導体チップを取得する工程を模式的に示す図である。
図4】実施の形態における反射膜の構成例を示す模式図である。
図5】ECRスパッタリング装置の模式的な構成を示す図である。
図6】成膜動作の流れを説明するフローチャートである。
図7】RFスパッタリング法で形成された酸化ハフニウムの消衰係数の波長依存性を示すグラフである。
図8】ECRスパッタリング法で形成された様々な物質における消衰係数の波長依存性を示すグラフである。
図9】RFスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜とECRスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜のそれぞれにおける消衰係数の波長依存性と屈折率の波長依存性を示すグラフである。
図10図9の一部領域を拡大して示すグラフである。
図11】300nmの波長において、RFスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜とECRスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜のそれぞれの消衰係数の値と屈折率の値を示す表である。
図12】様々な物質の屈折率の波長依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0012】
<UV-B半導体レーザの開発経緯>
レーザ光は、コヒーレントで指向性と収束性に優れた光源である。その中で半導体レーザは、その他のレーザ光源に比べて、小型・高効率・長寿命・高生産性などに代表される優れた性能を有している。半導体レーザは、最初に光の波長の長い赤外線領域で実現され、その後、可視光領域(赤色、緑色、青色)で実現されている。これらの半導体レーザは、光ディスク、レーザプリンタ、光通信、レーザ加工機、計測器などの多くの分野で使用されている。一方、紫外線は、光の波長が200nmよりも大きく380nm以下という可視光よりも短い波長域の光である。この紫外線波長域の光源は、医療、環境、バイオサイエンス、殺菌、金属などのレーザ加工や微細加工などに代表される多くの応用分野があることから、紫外線波長域の半導体レーザの実現が望まれている。
【0013】
この点に関し、紫外線は、波長の長い方から長波長紫外線(UV-A)、中波長紫外線(UV-B)、短波長紫外線(UV-C)の3種類に分類され、それぞれの波長域で半導体レーザの室温発振が報告されている。ここで、最も実現が困難であった半導体レーザは、UV-B半導体レーザである。中波長紫外線は、紫外線硬化および紫外線接着・乾燥(UVキュアリング)、アトピー治療などの医療分野、DNAシーケンスなどに代表される様々な応用分野があることから、UV-B半導体レーザの実現には大きな技術的意義がある。
【0014】
UV-B半導体レーザは、(1)中波長紫外線波長域でレーザ発振する高品質なAlGaN結晶を作製することが困難であったこと、(2)レーザ発振に必要な電流注入が難しいことなどの理由で実現することが困難であった。この点に関し、(1)サファイア基板上にスパッタリング法でAlNテンプレートを作製し、このAlNテンプレート上に高品質なAlGaN結晶を実現する手法と、(2)電流注入手法として、「分極ドーピング法」を適用することによって、実現困難であったUV-B半導体レーザが実現されている。
【0015】
ここで、「分極ドーピング法」とは、結晶の対称性が低い窒化物半導体に発現する自発分極を活用することによって、電気伝導に寄与する電荷担体(正孔)を発生させる方法であり、具体的には、組成傾斜させたAlGaN層によって分極固定電荷(負電荷)を生成し、この分極固定電荷の存在によって正孔を誘起させる手法である。
【0016】
以下では、UV-B半導体レーザの構成例について説明する。
【0017】
<UV-B半導体レーザの構成>
図1は、UV-B半導体レーザLDのデバイス構造を示す図である。
【0018】
図1において、UV-B半導体レーザLDは、サファイア基板100と、サファイア基板100上に形成された窒化アルミニウム層(AlN層)101と、窒化アルミニウム層101上に形成された窒化アルミニウム層(AlN層)102を有している。
【0019】
このとき、窒化アルミニウム層101は、スパッタリング法を使用することにより形成されている。一方、窒化アルミニウム層102は、MOVPE法を使用することにより形成されている。サファイア基板100と窒化アルミニウム層101によって、AlNテンプレート基板が形成されることになり、このAlNテンプレート基板上に窒化アルミニウム層102が形成されていることになる。ここで、窒化アルミニウム層102の厚さは、例えば、1550nmである。
【0020】
次に、図1に示すように、UV-B半導体レーザLDは、窒化アルミニウム層102上に形成されたナノパターン103を有している。このナノパターン103は、例えば、ピッチが1000nm、径が300nm、深さが1000nmである。
【0021】
そして、UV-B半導体レーザLDは、ナノパターン103を埋め込むように形成されたAl0.68Ga0.32N層104を有している。このとき、Al0.68Ga0.32N層104の厚さは、約5μmであり、Al0.68Ga0.32N層104の表面は平坦化している。このように本実施の形態では、予め形成されているナノパターン103を埋め込むようにAl0.68Ga0.32N層104を形成する。この結果、結晶欠陥の少ない高品質なAl0.68Ga0.32N層104を形成することができる。なお、Al0.68Ga0.32N層104は、導電型不純物が導入されていないノンドープの層である。
【0022】
続いて、UV-B半導体レーザLDは、Al0.68Ga0.32N層104上に形成されたAl0.62Ga0.38N層105を有している。このAl0.62Ga0.38N層105は、n型不純物であるシリコン(Si)が導入されたn型半導体層であり、シリコンの不純物濃度は、例えば、6×1018/cmである。このAl0.62Ga0.38N層105の厚さは、例えば、4μm程度である。Al0.62Ga0.38N層105は、レーザ光を閉じ込めるためのクラッド層として機能するとともに、n電極116とのコンタクト層としても機能する。
【0023】
そして、UV-B半導体レーザLDは、Al0.62Ga0.38N層105上に形成されたAl0.45Ga0.55N層106と、Al0.45Ga0.55N層106上に形成された活性層107と、活性層107上に形成されたAl0.5Ga0.5N層108を有している。
【0024】
ここで、Al0.45Ga0.55N層106は、レーザ光の光導波路となる下部ガイド層として機能し、その厚さは、例えば、50nmである。また、活性層107は、レーザ光を発する発光層であり、例えば、厚さが4nmのAl0.3Ga0.7Nからなる井戸層と、厚さが8nmのAl0.45Ga0.55Nからなる障壁層を有している。特に、本実施の形態において、活性層107は、2周期分の井戸層と障壁層との組み合わせから構成されている。井戸層は、障壁層よりもバンドギャップが小さくなっている層であり、AlGaNにおけるAlの組成比を小さくすることにより形成される。一方、障壁層は、井戸層よりもバンドギャップが大きくなっている層であり、AlGaNにおけるAlの組成比を大きくすることにより形成される。
【0025】
さらに、活性層107上に形成されているAl0.5Ga0.5N層108は、レーザ光の光導波路を構成する上部ガイド層として機能し、その厚さは、例えば、50nmである。
【0026】
次に、図1に示すように、UV-B半導体レーザLDは、Al0.5Ga0.5N層108上に形成された電子ブロック層(EBL層)109を有するとともに、電子ブロック層109上に形成された2段階組成傾斜層を有している。ここで、2段階組成傾斜層は、「分極ドーピング」を実現するための層であり、p型AlGaN層110とp型AlGaN層111から構成されている。本実施の形態では、2段階組成傾斜層による「分極ドーピング」が採用されており、これによって、レーザ発振に必要な正孔電流の注入が実現される。
【0027】
続いて、図1に示すように、UV-B半導体レーザLDは、p型AlGaN層111上に形成されたp型GaN層112を有している。このp型GaN層112は、p電極114とのコンタクト層として機能する。
【0028】
そして、UV-B半導体レーザLDは、図1に示すように、Al0.62Ga0.38N層105と接触するn電極116を有するとともに、p型GaN層112と接触するp電極114を有している。また、n電極形成部およびp電極形成部を除く表面領域には、例えば、酸化シリコン膜からなる表面保護膜113が形成されている。さらに、n電極116上には、パッド電極117が形成されている。一方、p電極114上には、パッド電極115が形成されている。このとき、n電極116は、V/Al/Ti/Au(20nm/80nm/40nm/100nm)の積層膜から構成されている。一方、p電極114は、Ni/Pt/Au(10nm/10nm/40nm)の積層膜から構成されている。また、パッド電極115およびパッド電極117は、Ti/Au(50nm/800nm)の積層膜から構成されている。
【0029】
続いて、図1において、UV-B半導体レーザLDは、共振器構造を有しており、レーザ光が射出される射出面200A(一端面)と、射出面200Aとは反対側に位置する反射面200B(ドットを付している領域:他端面)を有している。射出面200Aには、反射防止膜が形成されている一方、反射面200Bには、反射膜が形成されている。
【0030】
以上のようにして、UV-B半導体レーザLDが構成されている。
【0031】
<UV-B半導体レーザの動作>
本実施の形態におけるUV-B半導体レーザLDは上記のように構成されており、以下に、その動作について、図1を参照しながら説明する。まず、p電極114(パッド電極115)に正電圧を印加するとともに、n電極116(パッド電極117)に負電圧を印加する。これにより、UV-B半導体レーザLDにp電極114からn電極116に向かって順方向電流が流れる。これにより、p電極114からp型GaN層112に正孔が注入され、注入された正孔は、p型GaN層112から2段階組成傾斜層(p型AlGaN層110とp型AlGaN層111)に流れ込む。そして、2段階組成傾斜層に流れ込んだ正孔は、Al0.5Ga0.5N層108の内部を通り、活性層107に流れ込む。
【0032】
一方、n電極116からは、Al0.62Ga0.38N層105に電子が注入され、注入された電子は、Al0.45Ga0.55N層106を通って、活性層107に注入される。
【0033】
活性層107では、注入された正孔と電子によって反転分布が形成され、電子が伝導帯から価電子帯に誘導放出によって遷移することにより、位相の揃った光が発生する。そして、活性層107で発生した光は、活性層107よりも屈折率の低い2段階傾斜層(上部クラッド層)やAl0.62Ga0.38N層105(下部クラッド層)による光閉じ込め効果により、主に活性層107内に閉じ込められる。そして、活性層107内に閉じ込められている光は、UV-B半導体レーザLDのy軸方向に並行して形成されている射出面200Aと反射面200Bからなる共振器を往復することにより、さらなる誘導放出によって増幅される。その後、活性層107内でレーザ光が発振して、UV-B半導体レーザLDの射出面200Aからレーザ光が射出される。以上のように、本実施の形態におけるUV-B半導体レーザLDが動作することになる。
【0034】
<UV-B半導体レーザの製造方法>
次に、UV-B半導体レーザLDの製造方法について説明する。
【0035】
図2は、UV-B半導体レーザLDの製造工程を示すフローチャートである。
【0036】
<<結晶成長(S101)>>
まず、サファイア基板100上に窒化アルミニウム層101を形成する。窒化アルミニウム層101は、例えば、スパッタリング法により形成され、その厚さは、450nmである。その後、窒素雰囲気中で1700℃、3時間のアニール処理を行って、AlNテンプレート基板を作製する。そして、MOVPE法によって、窒化アルミニウム層101上に窒化アルミニウム層102を形成する。この窒化アルミニウム層102の厚さは、1550nmである。
【0037】
次に、窒化アルミニウム層102上にナノパターン103を形成する。具体的には、スパッタリング法を使用することにより、窒化アルミニウム層102上に酸化シリコン膜を形成する。この酸化シリコン膜の膜厚は、420nmである。その後、レジスト膜を塗布した後にナノインプリント装置を使用することにより、ピッチ1000nm、径450nmのナノパターンをレジスト膜に形成する。そして、露出している酸化シリコン膜をドライエッチングし、続いて、バッファードフッ酸で酸化シリコン残渣を除去する。そして、塩素ガスにて窒化シリコン層102を1000nmエッチングした後、マスクである酸化シリコン膜およびレジスト膜をバッファードフッ酸で除去する。これにより、窒化アルミニウム層102にピッチ1000nm、径300nm、深さ1000nmのナノパターン103を形成することができる。
【0038】
続いて、MOVPE法を使用することにより、ナノパターン103をAl0.68Ga0.32N層104で埋め込み平坦化する。このとき、完全に平坦化するまでの厚さは、約5μmである。その後、ドナーとなるSiの原料であるシランを供給して、シリコンの濃度が6×1018/cmのAl0.62Ga0.38N層105を形成する。このAl0.62Ga0.38N層105の厚さは、4μmである。
【0039】
次に、下部ガイド層としてのAl0.45Ga0.55N層106を形成した後、活性層107を形成する。具体的に、活性層107は、厚さが4nmのAl0.3Ga0.7Nからなる井戸層と、厚さが8nmのAl0.45Ga0.55Nからなる障壁層を有しており、2周期分の井戸層と障壁層との組み合わせから構成されるように、活性層107を形成する。そして、活性層107上に、上部ガイド層としてのAl0.5Ga0.5N層108を形成する。
【0040】
その後、Al0.5Ga0.5N層108上に、Al0.9Ga0.1N層からなる電子ブロック層109を形成する。最後に、電子ブロック層109上に、2段階組成傾斜層(p型AlGaN層110とp型AlGaN層111)を形成した後、この2段階組成傾斜層上にp型GaN層112を形成する。
【0041】
<<活性化アニール(S102)>>
上述したようにして結晶成長させたウェハに対して、空気雰囲気中で550℃、10分の熱処理を行うことにより、活性化アニールを実施する。
【0042】
<<n電極形成(S103)>>
その後、まず、レジスト膜によりパターニングし、ニッケル(Ni)を100nm蒸着してリフトオフすることにより、ドライエッチング用マスクを形成する。そして、このドライエッチング用マスクを使用してウェハをAl0.62Ga0.38N層105に達するまで塩素ガスでドライエッチングする。続いて、ニッケルからなるドライエッチング用マスクを薬品で除去する。次に、レジスト膜でn電極パターンを形成した後、V/Al/Ti/Au(20nm/80nm/40nm/100nm)を順次蒸着してリフトオフした後、窒素雰囲気中で900℃、3分の熱処理を施すことにより、n電極116を形成する。
【0043】
<<表面保護膜形成(S104)>>
次に、p電極形成領域およびn電極形成領域を除く領域に表面保護膜113を形成する。表面保護膜113は、例えば、酸化シリコン膜から形成されており、スパッタリング法を使用することにより形成することができる。
【0044】
<<p電極形成(S105)>>
その後、レジスト膜でp電極パターンを形成した後、Ni/Pt/Au(10nm/10nm/40nm)を順次蒸着してリフトオフした後、酸素雰囲気中で700℃、1分の熱処理を施すことにより、p電極114を形成する。
【0045】
<<パッド電極形成(S106)>>
そして、レジスト膜でパッド電極パターンを形成した後、Ti/Au(50nm/800nm)を順次蒸着してリフトオフすることにより、パッド電極115およびパッド電極117を形成する。
【0046】
<<端面形成(S107)>>
続いて、ドライエッチングおよびウェットエッチングを使用することにより、レーザ端面(一端面:射出面200Aおよび他端面:反射面200B)を形成する。具体的には、レジスト膜によりパターニングした後、ニッケル(Ni)を100nm蒸着してリフトオフすることにより、端面形成用マスクを形成する。そして、端面形成用マスクを使用してAl0.62Ga0.38N層105に達するまで塩素ガスでドライエッチングする。次に、25%のTMAH(Tetramethylammonium hydroxide)水溶液を使用して、85℃5分間のウェットエッチングを行うことにより、レーザ端面を形成する。
【0047】
<<レーザバー形成(S108)>>
その後、レーザスクライブおよびブレーキングを実施することにより、ウェハを複数のレーザバーに割断する。
【0048】
<<反射膜および反射防止膜の形成(S109)>>
そして、取得したレーザバーの一端面に、例えば、スパッタリング法を使用することにより反射防止膜を形成する一方、取得したレーザバーの他端面に、例えば、スパッタリング法を使用することにより反射膜を形成する。その後、レーザバーを複数の半導体チップに切断することにより、UV-B半導体レーザを製造することができる。
【0049】
さらに、レーザバー形成工程以後の製造工程について説明する。
【0050】
図3に示すように、複数の半導体レーザのデバイス構造が形成された半導体ウェハWFに対して、レーザスクライブおよびブレーキングを実施することにより、短冊形状からなる複数のレーザバーLBが形成される。複数のレーザバーLBのそれぞれは、略直方体形状をしており、一列状に並んだ複数のチップ領域CRを有している。この複数のチップ領域CRのそれぞれには、半導体レーザのデバイス構造が形成されている。そして、このように構成されているレーザバーLBは、互いに対向する端面を有することから、まず、レーザバーLBの一方の端面に反射膜を形成した後、レーザバーLBの他方の端面に反射防止膜を形成する。その後、このレーザバーLBに形成されている複数のチップ領域CRを個片化して複数の半導体チップCHPを取得する。このようにして得られた複数の半導体チップCHPのそれぞれには、互いに対向する一対の端面のうちの一方の端面に反射膜HRが形成されている一方、他方の端面に反射防止膜ARが形成されている。以上のようにして、半導体レーザが形成された半導体チップCHPを製造することができる。
【0051】
<<反射膜の構成例>>
以下では、端面に形成される反射膜の構成例について説明する。
【0052】
図4は、本実施の形態における反射膜300の構成例を示す模式図である。
【0053】
図4において、反射膜300は、誘電体多層膜から構成されている。具体的に、反射膜300は、第1屈折率を有する低屈折率膜310と、第1屈折率よりも屈折率の高い高屈折率膜320とからなるペア膜を有し、例えば、反射膜300は、8つの積層されたペア膜から構成されている。このように構成されている反射膜300は、例えば、以下に示す工程により形成することができる。すなわち、光の射出面とは反対側の端面に反射膜300を形成する工程は、(1)端面上に第1屈折率を有する低屈折率膜310を形成する工程と、(2)この低屈折率膜310上に第1屈折率よりも屈折率の大きい第2屈折率を有する高屈折率膜を形成する工程とを有し、上述した(1)工程と(2)工程とが交互に繰り返して実施される。これにより、低屈折率膜310と高屈折率膜320とからなるペア膜を複数有する反射膜300(誘電体多層膜)を形成することができる。
【0054】
<端面における成膜技術の重要性>
例えば、半導体レーザに形成される一対の端面は、共振器として機能する。すなわち、レーザ発振を容易に実現するために、反射膜が形成された一方の端面(反射面)からのレーザ光の損失をできるだけ低減する必要があることから、この反射膜には、レーザ光に対して高反射率である高品質な膜であることが要求される。一方、他方の端面から効率良くレーザ光を射出する観点から、レーザ光を射出する側の端面(射出面)に形成される反射防止膜にも、反射損失を小さくできる高品質な膜であることが要求される。具体的に、反射膜や反射防止膜には、光の吸収を低減できる性質が望まれている。言い換えれば、反射膜や反射防止膜には、極めて小さい消衰係数を有する膜であることが望まれている。
【0055】
さらには、反射膜が形成される端面(反射面)や反射防止膜が形成される端面(射出面)は共振器として機能することから、端面への反射膜や反射防止膜の成膜技術として、端面に与えるダメージを低減できる成膜技術を採用することが望まれている。すなわち、半導体レーザの高性能化には、共振器を構成する端面の特性が良好であることが重要であり、端面の特性を良好にする観点から、端面にダメージを与える成膜技術を回避する必要がある。そこで、本実施の形態では、端面に与えるダメージを低減できる成膜技術を採用することを検討している。以下では、端面に与えるダメージを低減できる本実施の形態における技術的思想について説明する。
【0056】
<実施の形態における基本思想>
本実施の形態における基本思想は、UV-B半導体レーザに使用される反射膜や反射防止膜を端面に形成する方法として、ECRスパッタリング法を使用する思想である。すなわち、基本思想は、共振面に反射膜あるいは反射防止膜を形成する方法として、RFスパッタリング法を使用するのではなく、ECRスパッタリング法を使用する思想である。この基本思想によれば、UV-B半導体レーザの端面に与えるダメージを低減できる。
【0057】
以下では、まず、ECRスパッタリング装置について説明し、その後、ECRスパッタリング装置によれば、端面に与えるダメージを低減できるメカニズムを説明する。
【0058】
<ECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタリング装置の構成>
図5は、ECRスパッタリング装置1の模式的な構成を示す図である。
【0059】
図5において、ECRスパッタリング装置1は、成膜室であるチャンバ10を有する。このチャンバ10には、保持部11が配置されており、この保持部11によって、例えば、基板に代表される成膜対象物SUBが保持されている。保持部11は、チャンバ10に近接配置された機構部12と接続されており、機構部12によって動作可能に構成されている。このチャンバ10には、ガス導入口10aとガス排気口10bとが設けられている。
【0060】
次に、チャンバ10には、保持部11に保持された成膜対象物SUBと対向する位置にプラズマ生成部13が設けられている。このプラズマ生成部13は、プラズマを生成するように構成されており、プラズマ生成部13の周囲には、例えば、コイルから構成される磁場発生部14が配置されている。また、プラズマ生成部13には、導波管15が接続されており、導波管15を伝搬するマイクロ波がプラズマ生成部13に導入されるようになっている。さらに、保持部11とプラズマ生成部13の間であって、プラズマ生成部13に近接する位置に、例えば、円筒形状からなるターゲットTAが配置されており、このターゲットTAは、高周波電源16と電気的に接続されている。これにより、ターゲットTAは、高周波電源16からの高周波電圧が印加されるように構成されている。このターゲットTAは、固定部17によって固定されている。
【0061】
以上のようにして、ECRスパッタリング装置1が構成されている。
【0062】
<ECRスパッタリング装置における成膜動作>
続いて、ECRスパッタリング装置1における成膜動作について説明する。
【0063】
図6は、成膜動作の流れを説明するフローチャートである。
【0064】
まず、図5において、プラズマ生成部13には、アルゴンガスが導入されている。そして、プラズマ生成部13の周囲に配置されている磁場発生部14から磁場を発生させると、プラズマ生成部13に導入されているアルゴンガスに含まれる電子がローレンツ力を受けることにより、円運動する。このとき、電子の円運動の周期(あるいは周波数)と同じ周期(あるいは周波数)を有するマイクロ波(電磁波)を導波管15からプラズマ生成部13に導入すると、円運動する電子とマイクロ波とが共鳴して、マイクロ波のエネルギーが円運動する電子に効率良く供給される(電子サイクロトロン共鳴現象)(図6のS201)。この結果、アルゴンガスに含まれる電子の運動エネルギーが大きくなって、アルゴンガスが、アルゴンイオン(Ar)と電子とに分離する。これにより、アルゴンイオン(Ar)と電子とからなるアルゴンプラズマが生成される(図6のS202)。
【0065】
次に、図5において、高周波電源16からターゲットTAに対して高周波電圧を供給する。この場合、高周波電圧が供給されたターゲットTAには、正電位と負電位とが交互に印加されることになる。ここで、アルゴンプラズマを構成するアルゴンイオンと電子のうち、ターゲットTAに印加される高周波電圧に追従することができるのは、質量の軽い電子である一方、質量の重いアルゴンイオンは、高周波電圧に追従することができない。この結果、追従する電子を引き付ける正電位が電子の有する負電荷によって相殺される一方、負電位が残存するため、高周波電力の平均値は、0Vから負電位にシフトする。このことは、ターゲットTAに対して高周波電圧が印加されているにも関わらず、あたかも、ターゲットTAに負電位が印加されているとみなすことができることを意味している。これにより、プラスイオンを有するアルゴンイオンは、平均的に負電位が印加されているとみなされるターゲットTAに引き付けられて、ターゲットTAに衝突する(図6のS203)。
【0066】
続いて、アルゴンイオンがターゲットTAに衝突すると、ターゲットTAを構成するターゲット粒子がアルゴンイオンの運動エネルギーの一部を受けとって、ターゲットTAかチャンバ10の内部空間に飛び出す(図6のS204)。その後、チャンバ10の内部空間に飛び出したターゲット粒子の一部は、保持部11で保持されている成膜対象物SUBの表面に付着する(図6のS205)。そして、このような現象が繰り返されることによって、成膜対象物SUBの表面に多数のターゲット粒子が付着する結果、成膜対象物SUBの表面上に膜が形成される(図6のS206)。
【0067】
以上のようにして、ECRスパッタリング装置1における成膜動作が実現される。
【0068】
例えば、ターゲットTAをシリコン(Si)から構成する場合、ターゲット粒子は、シリコン原子となり、成膜対象物SUBに形成される膜は、シリコン膜となる。ただし、図5に示すECRスパッタリング装置1のチャンバ10に設けられているガス導入口10aから酸素ガスを導入しながら、上述した成膜動作を実施すると、成膜対象物SUBの表面には、酸化シリコン膜を形成することができる。
【0069】
同様に、例えば、ターゲットTAをタンタル(Ta)から構成する場合、ターゲット粒子は、タンタル原子となり、成膜対象物SUBに形成される膜は、タンタル膜となる。ただし、図5に示すECRスパッタリング装置1のチャンバ10に設けられているガス導入口10aから酸素ガスを導入しながら、上述した成膜動作を実施すると、成膜対象物SUBの表面には、酸化タンタル膜を形成することができる。
【0070】
したがって、ターゲットTAを取り替えながら、酸化シリコン膜を形成する工程と、酸化タンタル膜を形成する工程を交互に繰り返して行うことにより、「酸化シリコン/酸化タンタル多層膜」からなる反射膜を形成することができる。
【0071】
<ECRスパッタリング装置の利点>
ECRスパッタリング装置1では、ターゲットTAにアルゴンイオンを衝突させることにより飛び出したターゲット粒子を成膜対象物SUBに付着させて、成膜対象物SUBにターゲット粒子を構成材料とする膜を形成している。このメカニズムは、RFスパッタリング装置でも同様である。ただし、RFスパッタリング法では、ECRスパッタリング法よりも、ターゲット粒子の運動エネルギーが大きい。この結果、例えば、半導体レーザの端面に反射膜や反射防止膜をRFスパッタリング法で形成するとターゲット粒子の運動エネルギーが大きいことに起因して、端面に与えるダメージが大きくなる。言い換えれば、ECRスパッタリング法では、RFスパッタリング法よりもターゲット粒子の運動エネルギーが小さいことから、端面に与えるダメージを低減できる利点が得られる。
【0072】
さらに、ECRスパッタリング装置1では、プラズマ生成部13の周囲にだけ磁場発生部14が設けられている。このため、ECRスパッタリング装置1では、磁場発生部14で囲まれたプラズマ生成部13の内部において磁場強度が大きい一方、成膜対象物SUBが置かれている領域近傍(磁場発生部14から離れた領域近傍)の磁場強度は弱くなる。すなわち、ECRスパッタリング装置1では、プラズマ生成部13から成膜対象物SUBが配置されている領域に向って磁場勾配が生じることになる。言い換えれば、ECRスパッタリング装置1では、発散磁場(不均一磁場)がチャンバ10の内部に形成される。
【0073】
そして、プラズマ生成部13に存在する電子は円運動をしていることから磁気モーメントを有している。したがって、円運動している電子は、磁気モーメントと磁場との相互作用によって、磁場勾配に沿って移動することになる。つまり、プラズマ生成部13に存在する電子は、プラズマ生成部13から緩やかに成膜対象物SUBに向って移動して付着することから、この電子による成膜対象物SUBへのダメージを抑制することができる。
【0074】
すなわち、ECRスパッタリング装置1では、円運動する電子によるサイクロトロン共鳴現象を利用してプラズマを生成しているからこそ、電子による成膜対象物SUBへのダメージを抑制することができるのである。なぜなら、円運動している電子は、磁気モーメントを有しているから、磁場勾配が存在すれば、磁場勾配に沿って電子が移動させることが可能となるからである。言い換えれば、ECRスパッタリング装置1では、電子を移動させるために、新たに電場を印加する必要がないことから、電場によって電子が加速されて、成膜対象物SUBへの電子の衝突によるダメージが大きくなってしまうことを抑制することができるのである。このように、ECRスパッタリング装置1によれば、例えば、成膜対象物SUBである半導体レーザの端面に反射膜や反射防止膜を成膜する際、上述したメカニズムによって端面に与えるダメージを低減することができる。この結果、本実施の形態では、共振面に反射膜あるいは反射防止膜を形成する方法として、RFスパッタリング法を使用するのではなく、ECRスパッタリング法を使用することにより半導体レーザの性能を向上することができる。
【0075】
<本発明者が見出した新規な知見>
上述したように、本実施の形態における基本思想は、UV-B半導体レーザに使用される反射膜を端面に形成する方法として、ECRスパッタリング法を使用する思想である。この基本思想によれば、上述したECRスパッタリング法の利点によって、UV-B半導体レーザの端面に反射膜を成膜する際、端面に与えるダメージを低減することができる。そして、本発明者は、反射膜を端面に形成する方法として、ECRスパッタリング法を使用することを前提として、反射膜を極めて小さい消衰係数を有する膜から構成することを検討した結果、以下に示す新規な知見を獲得したので、この知見について説明する。
【0076】
例えば、図4に示す反射膜300では、波長が300nm程度の波長領域を含むUV-B領域において、低屈折率膜310は、例えば、酸化シリコン膜から構成されている。一方、波長が300nm程度の波長領域を含むUV-B領域において、高屈折率膜320は、酸化ハフニウム膜、あるいは、酸化タンタル膜から構成することが検討されている。
【0077】
この点に関し、図7は、RFスパッタリング法で形成された酸化ハフニウムの消衰係数の波長依存性を示すグラフである。図7において、酸化ハフニウム膜をRFスパッタリング法で形成すると、波長が300nmでの消衰係数は、極めて小さくすることができることがわかる。したがって、波長が300nm程度の波長領域において、RFスパッタリング法で形成された酸化ハフニウム膜は消衰係数が非常に小さいことから、波長が300nm程度の波長領域における高屈折率膜320として、RFスパッタリング法で形成された酸化ハフニウム膜を使用することが望ましいと考えることができる。特に、RFスパッタリング法では、ターゲット粒子の運動エネルギーが大きいことから、不純物を弾き飛ばしやすく、かつ、強固な結合を作りやすい傾向がある。このため、上述したように、RFスパッタリング法で酸化ハフニウム膜を形成すると、極めて小さな消衰係数を有する酸化ハフニウムを形成することができると推測される。
【0078】
ところが、上述したように、反射膜を形成する端面へのダメージを低減する観点からは、RFスパッタリング法よりもECRスパッタリング法の方が優れている。そこで、本発明者は、ECRスパッタリング法で酸化ハフニウム膜を形成する場合においても、極めて小さな消衰係数が得られるか否かについて検討した。すなわち、本発明者は、ECRスパッタリング法で形成された酸化ハフニウムの消衰係数を調べた。
【0079】
図8は、ECRスパッタリング法で形成された様々な物質における消衰係数の波長依存性を示すグラフである。具体的に、図8には、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムおよび酸窒化アルミニウムにおける消衰係数の波長依存性が示されている。
【0080】
ここで、図8において、酸化ハフニウムに着目すると、波長が300nm程度の波長領域において、ECRスパッタリング法で形成された酸化ハフニウムの消衰係数は、RFスパッタリング法で形成された酸化ハフニウムの消衰係数(図7参照)よりも大きく、この波長域において光の吸収が存在していることがわかる。つまり、波長が300nm程度の波長領域において、ECRスパッタリング法で形成された酸化ハフニウムの消衰係数は、RFスパッタリング法で形成された酸化ハフニウムの消衰係数よりも大きくなる。
【0081】
このことから、波長が300nm程度の波長領域を含むUV-B領域において、高屈折率膜320を酸化ハフニウム膜から構成する場合、反射膜を形成する端面へのダメージを低減しながらも、高屈折率膜320の消衰係数を極めて小さいすることは困難であることがわかる。つまり、ECRスパッタリング法による端面へのダメージ低減と、波長が300nm程度の波長領域を含むUV-B領域における消衰係数の低減とを両立させるためには、高屈折率膜320として酸化ハフニウムを採用することは最善とは言えない。
【0082】
この点に関し、図8に示すように、紫外領域(200nmよりも大きく380nm以下)のうち、波長が300nm程度から380nm以下の波長領域おいて、ECRスパッタリング法で形成された酸化タンタルの消衰係数は、ECRスパッタリング法で形成された酸化ハフニウムの消衰係数よりも非常に小さいことがわかる。したがって、波長が300nm程度から380nm以下の波長領域おいて、高屈折率膜320をECRスパッタリング法で形成した酸化タンタル膜から構成する場合、反射膜を形成する端面へのダメージを低減しながらも、高屈折率膜320の消衰係数を極めて小さくすることができることがわかる。つまり、ECRスパッタリング法による端面へのダメージ低減と、波長が300nm程度から380nm以下の波長領域における消衰係数の低減とを両立させるためには、高屈折率膜320として酸化タンタルを採用することが望ましいということができる。
【0083】
さらに詳細に説明する。図9は、分光エリプソメータを使用して、酸化タンタル膜の消衰係数の波長依存性および屈折率の波長依存性を測定した結果である。具体的に、図9には、RFスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜と、ECRスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜において、それぞれの消衰係数の波長依存性と屈折率の波長依存性が示されている。図9においては、RFスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜とECRスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜における消衰係数の波長依存性と屈折率依存性は、ほとんど同じに見える。すなわち、波長が298nmより大きく380nm以下の波長領域において、RFスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜とECRスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜における消衰係数が両方とも小さいことがわかる。
【0084】
この点に関し、図10では、波長が300nm程度の波長領域を拡大して示す。図10に示すように、波長が300nm程度の波長領域を拡大して示すと、RFスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜とECRスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜における消衰係数の波長依存性が相違することがわかる。具体的に、図10に示すように、RFスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜においては、波長が301nmよりも小さい波長領域で消衰係数が急峻に増加している。これに対し、ECRスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜は、波長が298nmよりも小さい波長領域で消衰係数が急峻に増加している。このことは、波長が298nmよりも大きく、かつ、波長が301nmよりも小さい波長領域では、RFスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜よりもECRスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜の方が、消衰係数が極めて低くなることを意味している。例えば、図11に示すように、RFスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜は、300nmの波長の光に対する消衰係数が0.0001であるのに対し、ECRスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜は、300nmの波長の光に対する消衰係数が0.0001よりも小さくなり、限りなく「0」に近いことがわかる。
【0085】
以上のことを考慮すると、ECRスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜は、紫外領域に含まれる波長領域のうち、298nmよりも大きく380nm以下の波長領域において、消衰係数を極めて小さくすることができる。
【0086】
さらに言えば、UV-B波長領域(光の波長が280nmよりも大きく315nm以下)に限定すると、ECRスパッタリング法を使用して形成された酸化タンタル膜は、UV-B波長領域のうち、298nmよりも大きく315nm以下の波長領域において、消衰係数を極めて小さくすることができることになる。
【0087】
本発明者が見出した上述した知見を考慮すると、端面におけるダメージの低減と、紫外領域に含まれる波長領域のうち、298nmよりも大きく380nm以下の波長領域において、消衰係数を極めて小さくすることとを両立する観点からは、高屈折率膜320として、ECRスパッタリング法で形成された酸化タンタル膜を採用することが望ましいことがわかる。さらに、紫外領域のうちUV-B領域に限定すると、端面におけるダメージの低減と、UV-B波長領域のうち、298nmよりも大きく315nm以下の波長領域において、消衰係数を極めて小さくすることとを両立する観点からは、高屈折率膜320として、ECRスパッタリング法で形成された酸化タンタル膜を採用することが望ましい。
【0088】
次に、図12は、様々な物質の屈折率の波長依存性を示すグラフである。具体的に、図12には、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムおよび酸窒化アルミニウムにおける屈折率の波長依存性が示されている。
【0089】
図12に示すように、波長が250nmから450nmという幅広い波長領域においては、酸化タンタルの屈折率が酸化ハフニウムの屈折率よりも大きいことがわかる。ここで、誘電体多層膜から構成される反射膜300においては、低屈折率膜310と高屈折率膜320との屈折率差が大きい方が反射率を向上する観点から有利である(屈折率差が大きいほど高反射率を実現するためのペア膜の積層枚数を少なくできる)こととストップバンド幅(反射率を高くすることができる波長領域の幅)を大きくできることを考慮すると、高屈折率膜320として、ECRスパッタリング法で形成された酸化タンタル膜を使用することがさらに望ましいことがわかる。
【0090】
<実施の形態における特徴>
以上のことから、本実施の形態における特徴点は、紫外領域に含まれる波長領域の光を射出する半導体レーザに使用される反射膜を端面に形成する方法として、ECRスパッタリング法を使用する基本思想を前提として、誘電体多層膜から構成される反射膜300の高屈折率膜320として、ECRスパッタリング法で形成された酸化タンタル膜を採用する点にある。物の発明として表現を変えると、本実施の形態における特徴点は、誘電体多層膜から構成される反射膜300の高屈折率膜320として酸化タンタル膜を採用し、この酸化タンタル膜は、300nmの波長の光に対する消衰係数が0.0001よりも小さいという特性を有しているということができる。すなわち、酸化タンタル膜をECRスパッタリング法で形成することにより、300nmの波長の光に対する消衰係数が0.0001よりも小さいという特性を有する酸化タンタル膜を実現することができる。
【0091】
これにより、ECRスパッタリング法によれば、端面へのダメージを低減できる点と、ECRスパッタリング法で形成された酸化タンタル膜によれば、紫外領域に含まれる波長領域のうちの298nmよりも大きく380nm以下の波長領域あるいはUV-B波長領域のうちの298nmよりも大きく315nm以下の波長領域における消衰係数を非常に小さくできる点との相乗効果によって、反射膜300を形成する端面における成膜ダメージの低減と消衰係数の低減とを両立することができる。この結果、本実施の形態によれば、紫外領域に含まれる波長領域の光を射出する半導体レーザの性能を向上できる。
【0092】
<変形例>
実施の形態における基本思想は、紫外領域に含まれる波長領域の光を射出する半導体レーザに使用される反射膜を半導体レーザの端面に形成する方法として、ECRスパッタリング法を使用する思想である。この基本思想は、反射防止膜を半導体レーザの射出面に形成する方法にも適用することができる。すなわち、半導体レーザの射出面に反射防止膜を形成する際のダメージを低減するために、反射防止膜をECRスパッタリング法で形成することができる。そして、反射防止膜は、第1屈折率を有する低屈折率膜と、第1屈折率よりも大きい第2屈折率を有する高屈折率膜からなるペア膜を複数形成した多層膜から形成されており、例えば、低屈折率膜は、酸化シリコン膜から構成されている。一方、高屈折率膜は、酸化タンタル膜から構成される。これにより、酸化タンタル膜をECRスパッタリング法で形成することにより、300nmの波長の光に対する消衰係数が0.0001よりも小さいという特性を有する酸化タンタル膜を含む反射防止膜を実現できる。
【0093】
以上のことから、反射防止膜を形成するレーザ光の射出面における成膜ダメージの低減と、ECRスパッタリング法で形成された酸化タンタル膜によれば、紫外領域に含まれる波長領域のうちの298nmよりも大きく380nm以下の波長領域あるいはUV-B波長領域のうちの298nmよりも大きく315nm以下の波長領域における消衰係数を非常に小さくできる点との相乗効果によって、紫外領域に含まれる波長領域の光を射出する半導体レーザの性能を向上することができる。
【0094】
なお、「反射膜」と「反射防止膜」とは、基本的に同様の膜である。「反射膜」が低屈折率膜と高屈折率膜との積層膜から構成される場合、反射対象とする光の波長をλとすると、低屈折率膜の膜厚がλ/4nに調整され、かつ、高屈折率膜の膜厚もλ/4nに調整される(nは屈折率)。一方、「反射防止膜」が低屈折率膜と高屈折率膜との積層膜から構成される場合、反射対象とする光の波長をλとすると、低屈折率膜の膜厚がλ/2nに調整され、かつ、高屈折率膜の膜厚もλ/2nに調整される(nは屈折率)。
【0095】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0096】
1 ECRスパッタリング装置
10 チャンバ
10a ガス導入口
10b ガス排気口
11 保持部
12 機構部
13 プラズマ生成部
14 磁場発生部
15 導波管
16 高周波電源
17 固定部
100 サファイア基板
101 窒化アルミニウム層
102 窒化アルミニウム層
103 ナノパターン
104 Al0.68Ga0.32N層
105 Al0.62Ga0.38N層
106 Al0.45Ga0.55N層
107 活性層
108 Al0.5Ga0.5N層
109 電子ブロック層
110 p型AlGaN層
111 p型AlGaN層
112 p型GaN層
113 表面保護膜
114 p電極
115 パッド電極
116 n電極
117 パッド電極
200A 射出面
200B 反射面
300 反射膜
310 低屈折率膜
320 高屈折率膜
AR 反射防止膜
CHP 半導体チップ
CR チップ領域
HR 反射膜
LB レーザバー
LD UV-B半導体レーザ
SUB 成膜対象物
TA ターゲット
WF 半導体ウェハ
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