(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019799
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】イオン源及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/08 20060101AFI20240206BHJP
H01J 27/08 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
H01J37/08
H01J27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122482
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩波 悠太
(72)【発明者】
【氏名】平井 裕也
(72)【発明者】
【氏名】糸井 駿
(72)【発明者】
【氏名】趙 維江
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101BB03
5C101DD03
5C101DD20
5C101DD36
(57)【要約】
【課題】イオン種の切換えに要する時間を短縮する。
【解決手段】固体材料4が設けられた坩堝3に、第1ガス供給路14を通じて固体材料4と反応する反応性ガスを供給することで、反応生成物を生成し、坩堝3を加熱器5で加熱することで生成された反応生成物を蒸気化する気化器Sと、気化器Sから蒸気供給路12を通じて蒸気Vの供給が行われるプラズマ生成容器2と、蒸気供給路12とは別に、プラズマ生成容器2に接続された第2ガス供給路11とを有するイオン源ISで、第2ガス供給路11からプラズマ生成容器2へのガスの供給が行われている間、加熱器5で坩堝3を加熱し、第1ガス供給路11から坩堝3への反応性ガスの供給を停止する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体材料が設けられた坩堝に、第1ガス供給路を通じて前記固体材料と反応する反応性ガスを供給することで反応生成物を生成し、前記坩堝を加熱器で加熱することで前記反応生成物を蒸気化する気化器と、
前記気化器から蒸気供給路を通じて蒸気の供給が行われるプラズマ生成容器と、
前記蒸気供給路とは別に、前記プラズマ生成容器に接続された第2ガス供給路とを有するイオン源で、
前記第2ガス供給路から前記プラズマ生成容器へのガスの供給が行われている間、前記加熱器で前記坩堝を加熱し、前記第1ガス供給路から前記坩堝への前記反応性ガスの供給を停止する、イオン源の運転方法。
【請求項2】
前記第2ガス供給路から前記プラズマ生成容器へのガスの供給が行われている間、前記加熱器の出力は一定である、請求項1記載のイオン源の運転方法。
【請求項3】
前記第2ガス供給路から前記プラズマ生成容器へのガスの供給が行われている間、前記加熱器の出力を、前記プラズマ生成容器への蒸気供給が行われるときの出力に切換える、請求項1記載のイオン源の運転方法。
【請求項4】
固体材料が設けられた坩堝に、第1ガス供給路を通じて前記固体材料と反応する反応性ガスを供給することで反応生成物を生成し、坩堝を加熱器で加熱することで前記反応生成物を蒸気化する気化器と、
前記気化器から蒸気供給路を通じて蒸気の供給が行われるプラズマ生成容器と、
前記蒸気供給路とは別に、前記プラズマ生成容器に接続された第2ガス供給路と、
前記第2ガス供給路から前記プラズマ生成容器へのガスの供給が行われている間、前記加熱器で前記坩堝を加熱し、前記第1ガス供給路から前記坩堝への前記反応性ガスの供給を停止する制御装置とを具備する、イオン源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム照射装置で使用されるイオン源とその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入装置では、処理内容に応じてイオン種の切換えが行われている。イオン種の切換えにあたっては、プラズマ生成容器に導入するガスや蒸気の種類を切換え、切換えたガスや蒸気毎にプラズマを生成し、生成されたプラズマからイオンビームを引き出し、引き出したイオンビームが所望のビーム電流となるように調整が行われている。
【0003】
イオン源の中には、特許文献1に記載の固体試料用のオーブンを備えたものがある。このイオン源では、イオン種としてガス源からのガスとオーブンからの蒸気とを選択的にプラズマ生成部に供給しているが、イオン種を蒸気からガスに切換える場合、オーブンのヒータへの通電を切っているにもかかわらず、プラズマ生成部からの輻射熱により、オーブンが加熱されて温度上昇し、プラズマ生成部に蒸気が放出されて、ガス源から供給されるガスに混入してしまうことが問題とされていた。
【0004】
この対策として、ガス源からのガスに基づいて、イオンビームを生成する際、プラズマ生成部からの熱がオーブンに伝達されて、オーブンから不要な蒸気の供給がなされないように、冷却機構を用いてオーブンの温度を低温に保つことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構成では、イオン種の切換えにあたり、オーブンの温度が所定温度になるように、オーブンの温度を低温から高温へ、もしくは高温から低温へ切換える操作が行われている。このオーブンの温度制御には時間を要し、このことが、イオン種の切換えが長期化する原因とされている。
イオン種の切換え回数に応じて、オーブンの温度制御に要する時間が積算されるため、イオン種の切換えが頻繁に行われる場合には、イオン注入装置の生産性を向上させる上で大きな障害となる。
【0007】
本発明では、イオン種の切換えに要する時間を短縮することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
イオン源の運転方法は、
固体材料が設けられた坩堝に、第1ガス供給路を通じて前記固体材料と反応する反応性ガスを供給することで反応生成物を生成し、前記坩堝を加熱器で加熱することで前記反応生成物を蒸気化する気化器と、
前記気化器から蒸気供給路を通じて蒸気の供給が行われるプラズマ生成容器と、
前記蒸気供給路とは別に、前記プラズマ生成容器に接続された第2ガス供給路とを有するイオン源で、
前記第2ガス供給路から前記プラズマ生成容器へのガスの供給が行われている間、前記加熱器で前記坩堝を加熱し、前記第1ガス供給路から前記坩堝への前記反応性ガスの供給を停止する。
【0009】
反応性ガスの供給を停止することで反応生成物が生成されなくなる。反応生成物がなければ、坩堝を加熱しても、その蒸気がプラズマ生成容器に供給されることはない。
第2ガス供給路からプラズマ生成容器へのガスの供給が行われている間、加熱器で坩堝を加熱し、第1ガス供給路から坩堝への反応性ガスの供給を停止する構成とすることで、ガスから蒸気へのイオン種の切換え前に、坩堝温度を予め高い温度に設定しておくことが可能となる。これより、坩堝温度が設定温度になるまでに要する時間が短縮できる。
また、蒸気からガスへのイオン種の切換えにあたっては、第1ガス供給路からの反応性ガスの供給を停止し、第2ガス供給路からのガス供給を実施するだけで済むので、坩堝温度を下げる必要がない分、イオン種の切換えに要する時間が短縮できる。
これより、ガスから蒸気、あるいは蒸気からガスへのイオン種の切換えに要する時間が短縮できる。
【0010】
前記第2ガス供給路から前記プラズマ生成容器へのガスの供給が行われている間、前記加熱器の出力は一定であることが望ましい。
【0011】
上記構成であれば、イオン種の切換えに応じた加熱器の温度制御が不要となる。
【0012】
前記第2ガス供給路から前記プラズマ生成容器へのガスの供給が行われている間、前記加熱器による出力を、前記プラズマ生成容器への蒸気供給が行われるときの出力に切換えることが望ましい。
【0013】
上記構成であれば、加熱器の消費電力を低減し、加熱器を高出力で長期間使用することによる劣化を軽減することが可能となる。
【0014】
イオン源は、
固体材料が設けられた坩堝に、第1ガス供給路を通じて前記固体材料と反応する反応性ガスを供給することで反応生成物を生成し、坩堝を加熱器で加熱することで前記反応生成物を蒸気化する気化器と、
前記気化器から蒸気供給路を通じて蒸気の供給が行われるプラズマ生成容器と、
前記蒸気供給路とは別に、前記プラズマ生成容器に接続された第2ガス供給路と、
前記第2ガス供給路から前記プラズマ生成容器へのガスの供給が行われている間、前記加熱器で前記坩堝を加熱し、前記第1ガス供給路から前記坩堝への前記反応性ガスの供給を停止する制御装置とを具備する。
【発明の効果】
【0015】
ガスから蒸気へのイオン種の切換え前に、坩堝温度を予め高い温度に設定しておくことが可能となる。これより、坩堝温度が設定温度になるまでに要する時間が短縮できる。
また、蒸気からガスへのイオン種の切換えにあたっては、第1ガス供給路からの反応性ガスの供給を停止し、第2ガス供給路からのガス供給を実施するだけで済むので、坩堝温度を下げる必要がない分、イオン種の切換えに要する時間が短縮できる。
これより、ガスから蒸気、あるいは蒸気からガスへのイオン種の切換えに要する時間が短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図1のイオン源を他の平面から視たときの模式的断面図
【
図3】イオン種の切換え時の各部の制御例についての説明図
【
図4】イオン種の切換え時の各部の別の制御例についての説明図
【
図5】イオン種の切換え時の各部の他の制御例についての説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、イオン源ISの模式的断面図である。
図2は、
図1のイオン源ISを他の平面から視たときの模式的断面図である。これらの図をもとに、本発明のイオン源ISの構成を説明する。
【0018】
イオン源ISは、主に内部でプラズマPを生成するプラズマ生成容器2と、プラズマ生成容器2のイオン引出し口6を通じて、容器内で生成されたプラズマPからイオンビームIBを引き出す引出電極Eと、プラズマ生成容器2へプラズマのもとになるガスを供給する第2ガス供給路11と、プラズマ生成容器2へプラズマのもとになる蒸気Vを供給する気化器Sとを有している。
【0019】
プラズマ生成容器2の周囲には、容器内に供給されたガスまたは蒸気を電離するための電子を放出するカソードやカソードから放出された電子をカソード側へ反射する反射電極、カソードと反射電極との対向方向に磁場を生成する電磁石等が設けられているが、図を簡略化するため、これらの図示は省略している。
また、引出電極Eは、プラズマ生成容器2への電子の流入を防止するための抑制電極7と、接地電位を固定するための接地電極8からなる。プラズマ生成容器2と抑制電極7との間には、プラズマ生成容器2側を正とした図示されない直流電源が接続されており、部材間の電位差により、プラズマ生成容器2のイオン引出し口6を通じて、プラズマPから正の電荷を有するイオンビームIBの引出しが行われる。
【0020】
気化器Sは、固体材料4(ペレット、粉末、ブロック等の種々の形状を含む)が設けられた坩堝3に、第1ガス供給路13を通じて固体材料4と化学的に反応する反応性ガスを供給することで、固体材料4の表面に反応生成物を生成して、加熱器5で坩堝3を加熱することで生成された反応生成物を蒸気化するものである。
【0021】
具体例を挙げると、固体材料4は、純アルミニウムやフッ化アルミニウム等のアルミニウム含有材料であり、反応性ガスは、塩素ガスやフッ素ガス等のハロゲンガスである。
第1開閉弁14が開いているとき(開状態のとき)、第1ガス供給ボトル16より、第1ガス供給路13を通じて、反応性ガスが坩堝3に供給される。坩堝3に反応性ガスが供給されると、固体材料4との間で化学反応が生じ、反応生成物が固体材料4の表層部分に生成される。例えば、反応性ガスが塩素ガスで、固体材料4が純アルミニウムであれば、塩化アルミニウムが反応生成物として、純アルミニウムの表層部分に生成される。また、反応性ガスがフッ素ガスで、固体材料4が純アルミニウムであれば、フッ化アルミニウムが反応生成物として、純アルミニウムの表層部分に生成される。
【0022】
坩堝3の周囲には、坩堝3を加熱するための加熱器5(例えば、コイルヒータ)と、坩堝3の温度を測定するための熱電対TCが配置されている。加熱器5によって坩堝3を所定温度以上に加熱すると、固体材料4の表層部分に生成されている反応生成物が蒸気化される。その後、反応生成物の蒸気Vは、蒸気供給路12を通じてプラズマ生成容器2へ供給される。
【0023】
坩堝3の温度を所定温度以上に加熱する場合での所定温度とは、反応生成物の蒸気化を可能とする温度であり、かつ、固体材料4の融点未満の温度である。
具体的には、反応生成物が塩化アルミニウムであれば、坩堝3内の真空度により多少の違いはあるが、これを蒸気化するための温度は180℃程度である。一方、固体材料4が純アルミニウムであれば、純アルミニウムの融解温度は660℃程度である。これより、所定温度は、200℃から500℃程度の任意の温度と言えるが、特定の温度に定める必要はなく、ある範囲内に収まる温度であればよい。
【0024】
蒸気とは別の供給路を通じて、プラズマ生成容器2にガスの供給が行われる。このガスは、第2ガス供給ボトル17に封入されており、第2開閉弁15を開ける(開状態にする)と、第2ガス供給路11を通じて、プラズマ生成容器2へガスが供給される。この際、第1開閉弁14は閉状態であり、反応性ガスの供給は停止されている。
【0025】
第1開閉弁14及び第2開閉弁15の開閉操作と加熱器5の出力調整は、手動により実施してもいいが、図示される制御装置Cを設け、制御信号S1~S3を用いて各部の制御を実施してもよい。
【0026】
図3乃至
図5は、第1開閉弁14及び第2開閉弁15の開閉操作と加熱器5の出力調整についての説明図である。これらの図を用いて、以下にイオン種の切換え時における各部の制御について説明する。
【0027】
図3乃至
図5では、ガス由来のプラズマからイオンビームを引き出し、被照射物へのイオンビーム照射処理を実施することと、蒸気由来のプラズマからイオンビームを引き出し、被照射物へのイオンビーム照射処理を実施することが、交互に実施される例が描かれている。
【0028】
各図に描かれている各々のグラフの横軸は、経過時間であり、各々のグラフでの時間軸は一致している。各々のグラフの縦軸は各供給路を流れるガス量や蒸気量、加熱器の出力である。縦軸の横軸と交わる原点では、ガス量や蒸気量はゼロで、加熱器の出力は停止状態にある。
【0029】
第2ガス供給路11からガスの供給が停止された後、気化器Sから蒸気の供給が行われる。この点については、特許文献1で挙げた従来技術と同一であるが、蒸気供給方法の違いにより、本発明と従来技術とでは、加熱器5の出力制御が相違している。
【0030】
本発明の気化器Sでは、反応性ガスの供給を停止すれば、固体材料4との化学反応によって生成される反応生成物が生じない。反応生成物がなければ、加熱器5の出力を維持したままでも、反応生成物の蒸気が生成されることはない。よって、反応性ガスの供給を制御すれば、プラズマ生成容器2への蒸気供給の制御が可能となる。
【0031】
イオン種の切換えにあたり、坩堝3の温度調整に要する時間とガス供給の入り切りを制御する時間とを比較した場合、前者は後者に比べて長くなる。
本発明では、イオン種の切換えにあたり、第1ガス供給路13からの反応性ガスと第2ガス供給路11からのガスとの入り切りを制御するだけでよいため、従来の構成に比べ、イオン種の切換え時間を短縮することが可能となる。
【0032】
図3の実施形態では、加熱器5の出力を一定にしている。出力一定であれば、イオン種の切換えに応じた加熱器5の温度制御が不要となるため、制御が簡便となる。
【0033】
一方、加熱器5の消費電力や長期使用による消耗を考慮するなら、
図4に示す実施形態のように、第2ガス供給路11からプラズマ生成容器2へのガスの供給が行われている間、加熱器5の出力を低い状態にしておいて、イオン種の切換えが実施される少し前に加熱器5の出力を蒸気供給時の出力に切換えてもよい。この構成であれば、加熱器5の消費電力を低減し、加熱器を高出力で長期間使用することによる劣化を軽減することが可能となる。
【0034】
さらに、
図5に示す実施形態のように、第2ガス供給路11からプラズマ生成容器2へのガスの供給が長期に渡って行われている場合、一旦、加熱器5の出力をゼロにしておき、イオン種の切換えが実施される少し前に加熱器5の出力を蒸気供給時の出力に切換えてもよい。
【0035】
図4、
図5に示すいずれの実施形態であっても、第2ガス供給路11からプラズマ生成容器2へのガスの供給が行われている間に、加熱器5で坩堝3を加熱しているので、従来の構成に比べて、イオン種の切換えの時間を短縮することができる。
【0036】
図1に描かれる固体材料4は、坩堝3の半分ほどの大きさのものであったが、坩堝3の内部空間と同等の大きさのものであってもよい。
【0037】
本発明のイオン源ISは、イオン注入装置に限らず、イオンビームを用いて被照射物の処理を行う、イオンビーム照射装置であれば、種々の装置に用いることができる。イオン注入装置以外のイオンビーム照射装置の例としては、イオンビームエッチング装置やイオンビームを用いた表面改質装置などが挙げられる。
【0038】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0039】
2 プラズマ生成容器
3 気化器
4 固体材料
5 加熱器
11 第2ガス供給路
12 蒸気供給路
13 第1ガス供給路
C 制御装置
IS イオン源
S 気化器