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特開2024-198カムアウト検知システム、ビット摩耗検知システム、およびコンピュータプログラム
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  • 特開-カムアウト検知システム、ビット摩耗検知システム、およびコンピュータプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000198
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】カムアウト検知システム、ビット摩耗検知システム、およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23P 19/06 20060101AFI20231225BHJP
   B25B 23/14 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
B23P19/06 P
B25B23/14 620G
B25B23/14 610K
B25B23/14 610B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098835
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】500285923
【氏名又は名称】株式会社エスティック
(74)【代理人】
【識別番号】100125117
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100086933
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】土田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大高 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 豊之
【テーマコード(参考)】
3C038
【Fターム(参考)】
3C038AA02
3C038BC02
3C038CA06
3C038CA07
3C038CB02
3C038EA02
(57)【要約】
【課題】ビットの摩耗を使用者へ従来よりも容易に知らせられるように支援する。
【解決手段】ネジ締付装置の出力軸に装着されるビットのカムアウトを検知するコントローラ4に、出力軸がビットを介して締付対象のネジを締め付ける締付期間における締付トルクおよびそのトルクレートをトルク検出信号61および角度検出信号62に基づいて取得するトルクレート等算出部401と、トルクレートが0以下の第一のレート閾値以下になってから出力軸が所定の角度回転するまでの監視期間にトルクレートが0以上の第二のレート閾値を上回りかつ締付トルクがトルク閾値以上であるタイミングがなかった場合にカムアウトが発生したと判別するカムアウト判別部404と、を設ける。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジ締付装置の出力軸に装着されるビットのカムアウトを検知するカムアウト検知システムであって、
前記出力軸が前記ビットを介して締付対象のネジを締め付ける締付期間における締付トルクを取得するトルク取得手段と、
前記締付期間における前記締付トルクのトルクレートを取得するトルクレート取得手段と、
前記トルクレートが0以下の第一のレート閾値以下になってから前記出力軸が所定の角度回転するまでの監視期間に前記トルクレートが0以上の第二のレート閾値を上回りかつ前記締付トルクがトルク閾値以上であるタイミングがなかった場合に前記カムアウトが発生したと判別するカムアウト判別手段と、
を有することを特徴とするカムアウト検知システム。
【請求項2】
前記トルクレートが前記第一のレート閾値以下になった際に疑カムアウトを検知する疑カムアウト検知手段、
を有し、
前記カムアウト判別手段は、前記疑カムアウト検知手段によって前記疑カムアウトが検知されたら前記締付トルクおよび前記トルクレートの監視を開始し、前記監視期間に前記タイミングがなかった場合に前記カムアウトが発生したと判別して前記監視を終了し、前記監視期間に前記タイミングがあった場合に前記監視を終了し、
前記疑カムアウト検知手段は、前記カムアウト判別手段によって前記締付トルクおよび前記トルクレートが監視されている間、前記疑カムアウトを検知するのを停止する、
請求項1に記載のカムアウト検知システム。
【請求項3】
前記所定の角度は、前記締付トルクが前記カムアウト以外の事象が原因で減少してから当該締付トルクが所定の値を超えるという条件および前記トルクレートが正であるという条件を同時に満たすまでに前記出力軸が回転する第一の角度よりも大きくかつ前記カムアウトが発生してから解消されるまでに前記出力軸が回転する第二の角度以下の角度である、
請求項1または請求項2に記載のカムアウト検知システム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のカムアウト検知システムと、
前記カムアウトが発生したと前記カムアウト判別手段によって判別された回数または頻度が所定の回数または頻度に達した場合に前記ビットの摩耗が一定に達したと判別する摩耗判別手段と、
を有する、
ビット摩耗検知システム。
【請求項5】
ネジ締付装置の出力軸に装着されるビットのカムアウトを検知するカムアウト検知システムであって、
前記出力軸が前記ビットを介して締付対象のネジを締め付ける締付期間における締付トルクを取得するトルク取得手段と、
前記締付トルクが第一の閾値以下になってから前記出力軸が所定の角度回転するまでの監視期間に前記締付トルクが第二の閾値以上にならなかった場合に前記カムアウトが発生したと判別するカムアウト判別手段と、
を有することを特徴とするカムアウト検知システム。
【請求項6】
ネジ締付装置の出力軸に装着されるビットのカムアウトを検知するカムアウト検知システムであって、
前記出力軸が前記ビットを介して締付対象のネジを締め付ける締付期間における締付トルクを取得するトルク取得手段と、
前記締付期間における前記締付トルクのトルクレートを取得するトルクレート取得手段と、
前記トルクレートが0以下のレート閾値以下になってから前記出力軸が所定の角度回転するまでの監視期間に前記締付トルクがトルク閾値以上にならなかった場合に前記カムアウトが発生したと判別するカムアウト判別手段と、
を有することを特徴とするカムアウト検知システム。
【請求項7】
ネジ締付装置の出力軸に装着されるビットのカムアウトを検知するコンピュータに用いられるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記出力軸が前記ビットを介して締付対象のネジを締め付ける締付期間における締付トルクを取得するトルク取得処理を実行させ、
前記締付期間における前記締付トルクのトルクレートを取得するトルクレート取得処理を実行させ、
前記トルクレートが0以下の第一のレート閾値以下になってから前記出力軸が所定の角度回転するまでの監視期間に前記トルクレートが0以上の第二のレート閾値を上回りかつ前記締付トルクがトルク閾値以上であるタイミングがなかった場合に前記カムアウトが発生したと判別するカムアウト判別処理を実行させる、
ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジ締付装置のビットの状態の検知に関する。
【背景技術】
【0002】
工場の生産ラインにおけるワークのネジ締めのためにネジ締付装置が用いられている。ネジ締付装置には、様々な先端形状のビットが用意されており、ネジの規格に応じたビットが選択的に装着される。
【0003】
ビットは、ネジ頭との摩擦によって先端の摩耗が徐々に進行する。そして、摩耗が相当進むと、ビットとネジとの嵌合が甘くなり、ビットの先端がネジ頭から離れてネジ頭の外へ逃げやすくなる。つまり、ネジ頭にカムアウトが発生しやすくなる。
【0004】
したがって、摩耗が相当進んだビットを使用すると、締付け不良またはビットの交換による生産ラインの一時的な停止(いわゆるチョコ停)が発生しやすくなり、生産効率の悪化の原因となる。
【0005】
また、カムアウトは、ネジ頭の穴を損傷することがあり、ネジとしての機能を低下させ規定の締付けをできなくする原因になり得る。
【0006】
さらに、カムアウトが発生すると、ネジ頭が削れて金属粉になることがある。金属粉は、電装取付け部品および精密機器などにおいて、いわゆるコンタミ問題を生じる。例えば、金属粉は、電子回路のショートの原因になり得る。特に年々、回路の集積率が向上し、金属粉の及ぼす影響が大きくなっている。または、製品を傷つけることがある。
【0007】
そこで、カムアウトの発生を抑える技術が提案されている。特許文献1に記載される制御装置は、締め付けトルクパターンに関するデータとそれに対応する押圧力パターンを記憶する記憶手段と、締め付けトルク検出手段と、締め付けトルクを監視して所定値よりも大きなトルク変動を検出した場合にドライバビットのカムアウトの発生を検出する手段と、そのときの締め付けトルクパターンを記憶する手段と、カムアウト発生位置付近での押圧力を基準の押圧力よりも大きな値に補正した後、補正された押圧力パターンとして記憶する手段とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6-304827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、カムアウトの発生を完全に抑制することは、困難である。したがって、チョコ停やコンタミを低減するためには、ビットの摩耗を事前に使用者へ知らせることが重要である。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑み、ビットの摩耗を使用者へ従来よりも容易に知らせられるように支援することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一形態に係るカムアウト検知システムは、ネジ締付装置の出力軸に装着されるビットのカムアウトを検知するカムアウト検知システムであって、前記出力軸が前記ビットを介して締付対象のネジを締め付ける締付期間における締付トルクを取得するトルク取得手段と、前記締付期間における前記締付トルクのトルクレートを取得するトルクレート取得手段と、前記トルクレートが0以下の第一のレート閾値以下になってから前記出力軸が所定の角度回転するまでの監視期間に前記トルクレートが0以上の第二のレート閾値を上回りかつ前記締付トルクがトルク閾値以上であるタイミングがなかった場合に前記カムアウトが発生したと判別するカムアウト判別手段と、を有する。
【0012】
好ましくは、前記トルクレートが前記第一のレート閾値以下になった際に疑カムアウトを検知する疑カムアウト検知手段、を有し、前記カムアウト判別手段は、前記疑カムアウト検知手段によって前記疑カムアウトが検知されたら前記締付トルクおよび前記トルクレートの監視を開始し、前記監視期間に前記タイミングがなかった場合に前記カムアウトが発生したと判別して前記監視を終了し、前記監視期間に前記タイミングがあった場合に前記監視を終了し、前記疑カムアウト検知手段は、前記カムアウト判別手段によって前記締付トルクおよび前記トルクレートが監視されている間、前記疑カムアウトを検知するのを停止する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、従来よりも容易にビットのカムアウトを検知することができる。これにより、従来よりも容易にビットの摩耗を使用者に知らせられるよう支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ネジ締付システムの全体的な構成の例を示す図である。
図2】ネジ締付装置本体およびパーソナルコンピュータそれぞれのハードウェア構成の例を示す図である。
図3】コントローラおよびパーソナルコンピュータそれぞれの機能的構成の例を示す図である。
図4】締付トルクおよびトルクレートそれぞれの遷移の例を示す図である。
図5】コントローラおよびパーソナルコンピュータによる全体的な処理の流れの例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔全体の構成〕
図1は、ネジ締付システム1の全体的な構成の例を示す図である。図2は、ネジ締付装置本体3およびパーソナルコンピュータ5それぞれのハードウェア構成の例を示す図である。
【0016】
図1に示すネジ締付システム1は、ネジ締付装置2およびパーソナルコンピュータ5によって構成され、ワークのネジ締めを行う。例えば、製品28の所定の部位28aにプラスネジ291を締め付ける。
【0017】
ネジ締付装置2は、プラスネジ、トルクスネジ、ナット、またはボルトなどのネジを締め付けたり緩めたりする。主に自動でネジを締め付けたり緩めたりするために用いられるものは、一般に「ナットランナ」または「自動締結機」と呼ばれることがある。「トルクス」は、登録商標である。
【0018】
ネジ締付装置2は、ネジ締付装置本体3およびコントローラ4によって構成される。また、先端の形状およびサイズが異なる複数のビット39(391、392、393、…)が1組、用意されている。これらのビット39は、着脱可能であり、ネジ締めの対象のネジ頭のサイズおよび形状に応じて選択的に使用される。例えば、プラスネジ291の締付けの際は、ビット391がネジ締付装置本体3に装着されて使用される。
【0019】
ネジ締付装置本体3は、図2に示すように、モータ31、減速装置32、出力軸33、トルクセンサ34、および角度センサ35などによって構成される。
【0020】
モータ31は、コントローラ4から供給される電流によって減速装置32を介して出力軸33を回転させる回転駆動源である。
【0021】
出力軸33の先端には、複数のビット39のうち締付け対象に対応するビット39が取り付けられる。そして、ビット39にネジが嵌合し、モータ31により出力軸33がビット39とともに回転することによってネジを回転させる。図1の例においては、プラスネジ291に対応するビット391が取り付けられ、プラスネジ291が回転する。
【0022】
トルクセンサ34は、モータ31の動作中、モータ31によるネジの締付トルクTQを常時検出し、検出した締付トルクTQを示すトルク検出信号61をコントローラ4へ送信する。本実施形態では、モータ31の出力するトルクのうち、出力軸33に発生するトルクつまり負荷であるネジを締め付けるトルクを直接的に締付トルクTQとして検出する。
【0023】
角度センサ35は、モータ31の動作中、出力軸33が回転した回転角度θを常時検出し、検出した回転角度θを示す角度検出信号62をコントローラ4へ送信する。なお、トルク検出信号61および角度検出信号62は、同期されてコントローラ4へ送信される。または、コントローラ4において同期される。
【0024】
図1に戻って、コントローラ4は、ネジ締付装置本体3へ電流を供給し、パーソナルコンピュータ5から与えられたデータまたはネジ締付装置本体3からのフィードバックなどに基づいてネジ締付装置本体3を制御するための装置である。さらに、トルク検出信号61および角度検出信号62に基づいてカムアウトを判別し、パーソナルコンピュータ5へ通知する。カムアウトの判別方法については、後述する。
【0025】
パーソナルコンピュータ5は、使用者がコントローラ4に対してネジ締付装置本体3の設定用の値を与えたりネジ締付装置本体3の現在または過去の状態を確認したりするための装置である。本実施形態では、さらに、ビット39の摩耗を検知し使用者へ報知するために用いられる。
【0026】
パーソナルコンピュータ5は、図2に示すように、メイン演算部51、メインメモリ52、補助記憶装置53、入出力インタフェース54、ディスプレイ55、キーボード56、およびポインティングデバイス57などによって構成される。
【0027】
メインメモリ52は、パーソナルコンピュータ5のメインのRAM(Random Access Memory)である。補助記憶装置53は、オペレーティングシステムおよび各種の値を設定する設定プログラムのほかビット摩耗検知プログラム50などのコンピュータプログラムがインストールされている。ビット摩耗検知プログラム50は、ビット39の摩耗を検知し報知するためのプログラムである。これらのコンピュータプログラムは、適宜、RAM52へロードされる。
【0028】
メイン演算部51は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサであって、メインメモリ52にロードされたコンピュータプログラムを実行する。
【0029】
入出力インタフェース54は、コントローラ4の入出力インタフェースと同じ規格の通信ボードであって、コントローラ4との間で通信を行う。ディスプレイ55は、後述する種々の画面を表示する。キーボード56およびポインティングデバイス57は、使用者が設定値およびコマンドなどを入力するために用いられる。
【0030】
〔摩耗検知処理〕
図3は、コントローラ4およびパーソナルコンピュータ5それぞれの機能的構成の例を示す図である。図4は、締付トルクTQおよびトルクレートTRそれぞれの遷移の例を示す図である。
【0031】
次に、コントローラ4およびパーソナルコンピュータ5によるビット39の摩耗の検知処理について、説明する。
【0032】
ビット摩耗検知プログラム50によると、図3に示すカウント部501、摩耗検知部502、摩耗報知部503、および締付完了報知部504などの機能がパーソナルコンピュータ5に実現される。また、コントローラ4は、トルクレート等算出部401、着座検知部402、疑カムアウト検知部403、カムアウト判別部404、および締付完了検知部405などの機能を有する。これらの機能は、プログラムによって実現されてもよいし、回路によって実現されてもよい。以下、図3に示す各部による処理を、プラスネジ291(図1参照)を製品28の部位28aへ締め付ける場合を例に、ネジ締付装置本体3の動作とともに説明する。
【0033】
ネジ締付装置本体3において、プラスネジ291に対応するビット39すなわちビット391が出力軸33に装着される(図1参照)。プラスネジ291がビット391に嵌合され、締付け開始の指令が入力されると、モータ31(図2参照)が出力軸33を高速回転させ、プラスネジ291が着座するまで仮締めを行う。着座後、本締めを開始する。インパクトモードによる締付けが本締めに相当する。仮締めから本締めへの切替えの際に、出力軸33の出力を一時停止してもよい。
【0034】
上述の通り、コントローラ4には、トルク検出信号61および角度検出信号62が入力される。
【0035】
トルクレート等算出部401は、トルク検出信号61および角度検出信号62に基づいて、回転角度θそれぞれにおける締付トルクTQを算出し、さらに、回転角度θの増分Δθに対する締付トルクTQの増分ΔTQの比をトルクレートTRとして算出する。以下、回転角度θごとの締付トルクTQおよびトルクレートTRとして、図4に示すF(θ)およびG(θ)が算出された場合を例に説明する。
【0036】
着座検知部402は、締付トルクTQが着座トルクTQsに達したら、プラスネジ291が着座し仮締めが完了したと検知する。図4の例においては、回転角度θ1の時点で着座を検知する。着座トルクTQsは、ビット39ごとに予め設定されている。したがって、本例では、ビット391の着座トルクTQsが用いられる。
【0037】
疑カムアウト検知部403は、プラスネジ291が着座したことが着座検知部402によって検知された後、トルクレートTRを監視し、トルクレートTRがトリガトルクレートTRg以下になったら、疑カムアウトを検知する。すなわち、カムアウトの疑いがあると判別する。図4の例においては、回転角度θ2の時点および回転角度θ4の時点それぞれで疑カムアウトが検知される。トリガトルクレートTRgは、ゼロでもよいが、誤検知を減らすために負の値であるのが望ましい。後者の場合、トリガトルクレートTRgは、ビット39ごとに実験的に予め求められ設定される。本例では、ビット391のトリガトルクレートTRgが用いられる。
【0038】
ただし、カムアウト判別部404によって後述の非カムアウト確定条件を満たすか否かの監視が行われている期間(以下、「監視期間」と記載する。)、疑カムアウト検知部403は、トルクレートTRの監視を停止する。つまり、監視期間中、トルクレートTRがトリガトルクレートTRg以下になっても無視する。そして、カムアウト判別部404による判別が完了すると、トルクレートTRの監視を再開する。
【0039】
カムアウト判別部404は、疑カムアウトが疑カムアウト検知部403によって検知されると、疑カムアウトが検知された原因すなわちトルクレートTRがトリガトルクレートTRg以下になった原因(以下、「疑カムアウト原因」と記載する。)がビット391のカムアウトであるか否かを次のように判別する。
【0040】
カムアウト判別部404は、非カムアウト確定条件を満たすか否かを監視することによって、疑カムアウト原因がビット391のカムアウトであるか否かを判別する。
【0041】
非カムアウト確定条件は、締付トルクTQが増加することによって監視有効トルクTQyを超える、という条件である。つまり、TR>0、TQ>TQy、の両方を同時に満たしている、という条件である。監視有効トルクTQyは、ビット39ごとに予め設定されており、本例ではビット391の監視有効トルクTQyが用いられる。また、監視有効トルクTQyは、正常に本締めが再開されたことを推定できる値が望ましい。したがって、着座トルクTQsと同じ値またはその前後の値が設定されている。なお、誤検知を減らすために、TR>0、の代わりに、TR>TRy、を用いてもよい。TRyは、本締めにおいて検出される正の値であって、任意に設定することができる。
【0042】
非カムアウト確定条件を満たすか否かの監視は、疑カムアウトが検知された時点から開始し、原則として、出力軸33がこの時点から監視区間角度θw回転するまで継続する。監視区間角度θwは、ビット39ごとに予め実験的に求められ設定される。または、ビット39と締付対象のネジとの組合せごとに予め実験的に求められ設定される。これら以外の環境(例えば、回転速度)などをさらに加味して予め実験的に求められ設定されてもよい。本例では、ビット391に応じた監視区間角度θwが用いられる。プラスネジ用のビット39つまり十字ビット(プラスビット)を使用する場合、監視区間角度θwは、45度に設定される。ただし、上述の通り締付対象など他の条件に応じて45度よりも大きい角度に設定されることもあれば、小さい角度に設定されることもある。監視区間角度θwの意義は、後に説明する。
【0043】
非カムアウト確定条件を満たすことなく出力軸33が監視区間角度θw回転したら、カムアウト判別部404は、疑カムアウト原因がビット391のカムアウトであると判別する。そして、監視を終了する。
【0044】
図4の例では、回転角度θ2の時点で疑カムアウトが検知された後、TR>0、TQ>TQy、の両方が満たされているタイミングが訪れることなく、出力軸33が監視区間角度θw回転する。したがって、カムアウト判別部404は、監視期間中、非カムアウト確定条件を満たすことを検知しないので、この疑カムアウトの原因がビット391のカムアウトであると判別する。
【0045】
一方、出力軸33が監視区間角度θw回転するまでに非カムアウト確定条件を満たすことを検知したら、カムアウト判別部404は、疑カムアウト原因がビット391のカムアウトではないと判別し、監視を終了する。そして、疑カムアウトの監視が疑カムアウト検知部403によって再開される。
【0046】
例えば、回転角度θ4の直前は、監視期間ではない。そして、回転角度θ4の時点で、トルクレートTRがトリガトルクレートTRg以下になる。したがって、疑カムアウト検知部403は、回転角度θ4の時点で疑カムアウトを検知する。
【0047】
すると、カムアウト判別部404は、非カムアウト確定条件を満たすか否かの監視を開始する。回転角度θ5の時点、すなわち、回転角度θ4の時点から出力軸33が監視区間角度θw回転し終える前に非カムアウト確定条件を満たすので、カムアウト判別部404は、今回の疑カムアウト原因がビット391のカムアウトではないと判別し、監視を終了する。
【0048】
このように、カムアウト判別部404は、疑カムアウトが検知されると、その直後からの監視期間の締付トルクTQおよびトルクレートTRを監視することによって、ビット391のカムアウトを検知する。その原理は、次の通りである。
【0049】
トルクレートTRがトリガトルクレートTRg以下になると、その原因(疑カムアウト原因)がカムアウトでなければ、直ちに非カムアウト確定条件を満たすようになる。非カムアウト確定条件は、締付トルクTQが監視有効トルクTQyを超えていること、および、トルクレートTRが正であること、の2つを同時に満たすことである。つまり、例えば、出力軸33に生じる摩擦が静摩擦から動摩擦に変わる際に、一瞬、トルクレートTRがトリガトルクレートTRg以下(つまり、ゼロ未満)になることがあるが、直ちに締付トルクTQが上昇し非カムアウト確定条件を満たすようになる。疑カムアウト原因を検知してから非カムアウト確定条件を満たすまでの期間における出力軸33の回転角度(以下、「非カムアウト回転角度」と記載する。)は、例えば(θ5-θ4)のように僅かである。
【0050】
一方、その原因がカムアウトであれば、トルクレートTRがトリガトルクレートTRg以下になってからビット391がプラスネジ291に再び嵌合して非カムアウト確定条件を満たすようになるまでの期間、カムアウトでない場合よりも出力軸33が多く回転する。この期間における出力軸33の回転角度(以下、「カムアウト回転角度」と記載する。)は、非カムアウト回転角度よりも十分に大きい。
【0051】
以上の性質に鑑み、本実施形態では、カムアウト回転角度を予め実験的に求めておき、カムアウト回転角度を監視区間角度θwとして設定しておく。または、カムアウト回転角度よりも少し小さい角度(例えば、所定の値を引いた角度)を監視区間角度θwとして設定しておく。ただし、非カムアウト回転角度よりも大きい角度を設定する。非カムアウト回転も実験的に求められる。そして、カムアウト判別部404は、出力軸33が少なくとも監視区間角度θw回転し終えるまでの期間(つまり、監視期間)、非カムアウト確定条件を満たすことがなければ、疑カムアウトの原因がカムアウトであると判別し、満たせばカムアウトでないと判別する。
【0052】
カムアウト判別部404は、疑カムアウトの原因がカムアウトであると判別すると、カムアウトをパーソナルコンピュータ5へ通知する。
【0053】
パーソナルコンピュータ5において、カウント部501は、ビット39(391、392、393、…)ごとのカウンタCT(CT1、CT2、CT3、…)を備える。そして、コントローラ4のカムアウト判別部404からカムアウトが通知されるごとに、ネジ締付装置本体3に装着されているビット39のカウンタCTをカウントアップする。つまり、「1」を加算する。本例では、ビット391が装着されているので、カムアウトが通知されるごとに、カウンタCT1をカウントアップする。図4の例では、回転角度θ3の時点で1回、カウントアップする。
【0054】
なお、カウント部501は、どのビット39が出力軸33に装着されているのかを、使用者に予め(例えば、装着時に)入力させることによって認識すればよい。
【0055】
摩耗検知部502は、カウントアップされたカウンタCTの値が摩耗閾値α以上であれば、そのカウンタCTを有するビット39の摩耗が相当程度に達していると検知する。以下、この相当程度の摩耗を「許容限界摩耗」と記載する。本例では、カウンタCT1の値が摩耗閾値α以上であれば、ビット391の許容限界摩耗を検知する。
【0056】
摩耗報知部503は、ビット39の許容限界摩耗が摩耗検知部502によって検知された場合に、その旨を示す摩耗メッセージ65を報知する。例えば、「現在、使用しているビットの摩耗が進んでいます。新しいビットに交換してください。」のようなテキストを摩耗メッセージ65としてディスプレイ55(図2参照)に表示することによって報知する。
【0057】
コントローラ4において、締付完了検知部405は、締付トルクTQが目標トルクTQpに達したら、締付が完了したと検知し、締付の完了をパーソナルコンピュータ5へ通知する。
【0058】
パーソナルコンピュータ5において、締付完了報知部504は、摩耗検知部502によって許容限界摩耗が検知されることなくコントローラ4から締付の完了が通知されたら、ビット391が良好であることを伝えるメッセージ66を報知する。または、カウンタCT1がカウントアップされることなく締付の完了が通知されたら、カムアウトが発生しなかったことを伝えるメッセージ67を報知してもよい。メッセージ66、67は、コントローラ4から報知されるようにしてもよい。
【0059】
なお、1回の締付においてカムアウト判別部404が多数のカムアウトを検知することがある。このような場合は、パーソナルコンピュータ5による処理を経ることなく、摩耗が相当程度に達していると推定できる。そこで、1回の締付においてカムアウト判別部404によって所定の回数(例えば、2以上である)カムアウトが検出された場合は、その時点で、摩耗が相当程度に達していると推定され、摩耗メッセージ65が出力されるようにしてもよい。または、摩耗以外の不具合、例えば、ビット391とプラスネジ291との位置関係の不具合が原因で、多数のカムアウトが検知されることもある。そこで、1回の締付において所定の回数のカムアウトが検出された場合に、エラーメッセージが出力されるようにしてもよい。
【0060】
図5は、コントローラ4およびパーソナルコンピュータ5による全体的な処理の流れの例を説明するフローチャートである。
【0061】
次に、コントローラ4およびパーソナルコンピュータ5によるビット39の許容限界摩耗の検知の全体的な処理の流れを、ビット391が使用される場合を例に、フローチャートを参照しながら説明する。
【0062】
コントローラ4は、ビット391の締付がネジ締付装置本体3によって開始されると、トルク検出信号61および角度検出信号62が順次、送信されてくるので、回転角度θごとの締付トルクTQおよびトルクレートTRの算出を開始する(図5の#101)。
【0063】
コントローラ4は、締付トルクTQが着座トルクTQsに達したか否かを監視することによって、ビット391の着座を監視する(#102)。ビット391の着座を検知すると(#103でYes)、トルクレートTRがトリガトルクレートTRg以下になるか否かを監視することによって、疑カムアウトの発生を監視する(#104)。疑カムアウトを検知することなく締付トルクTQが目標トルクTQpに達すると(#105でYes)、ビット摩耗検知プログラム50による処理を終了する。
【0064】
締付トルクTQが目標トルクTQpに達するまでに疑カムアウトを検知すると(#105でNo、#106でYes)、コントローラ4は、出力軸33が、検知した時点から監視区間角度θw回転するまでの期間中、すなわち、監視期間中(#107でNo)、非カムアウト確定条件を満たすか否かを監視する(#108)。つまり、TR>0、TQ>TQy、の両方を同時に満たすか否かを監視する。非カムアウト確定条件を満たすことを検知したら(#109でYes)、今回の疑カムアウト原因がカムアウトではないと判別する(#110)。
【0065】
一方、非カムアウト確定条件を満たすことを検知することなく(#109でNo)、監視期間が過ぎたら(#107でYes)、コントローラ4は、今回の疑カムアウト原因がカムアウトであると判別する(#111)。つまり、カムアウトを検知する。
【0066】
コントローラ4によってカムアウトが検知されると、パーソナルコンピュータ5は、ビット391のカウンタCTつまりカウンタCT1をカウントアップする(#112)。そして、カウンタCT1に基づいて許容限界摩耗の有無を判別し(#113)、許容限界摩耗を検知した場合(#114でYes)、つまり、その値が摩耗閾値α以上である場合に、摩耗メッセージ65を報知する(#115)。
【0067】
締付トルクTQが目標トルクTQpに達するまで(#116でNo)、コントローラ4は、ステップ#104~#111の各処理を適宜、実行し、パーソナルコンピュータ5は、ステップ#112~#115の各処理を適宜、実行する。そして、目標トルクTQpに達すると(#116でYes)、ビット摩耗の検知の一連の処理が終了する。
【0068】
本実施形態によると、ビット39のカムアウトを容易に検知するとともに、ビット39の摩耗が許容限界に達したことを検知することができる。
【0069】
〔変形例および応用例〕
本実施形態では、コントローラ4は、トルクレートTRがトリガトルクレートTRg以下になったタイミングで疑カムアウトを検知したが、締付トルクTQが所定の値以下になったタイミングで疑カムアウトを検知してもよい。または、締付トルクTQが所定のトルク減少したタイミングで疑カムアウトを検知してもよい。さらに、監視期間において締付トルクTQが監視有効トルクTQyに達したら疑カムアウトの原因がカムアウトでないと判別し、達しなかったらカムアウトであると判別してもよい。
【0070】
本実施形態では、非カムアウト確定条件として、TR>0 かつ TQ>TQy という条件を用いたが、締付トルクTQのみに関する条件を用いてもよい。例えば、TQ>TQyのみを非カムアウト確定条件として用いてもよい。
【0071】
本実施形態では、疑カムアウトの原因がカムアウトであるか否かの判別(つまり、カムアウトの検知)をコントローラ4が実行し、カムアウト回数に基づく摩耗の検知をパーソナルコンピュータ5が行ったが、1台の装置が両方を実行してもよい。例えば、コントローラ4が両方を実行してもよいし。
【0072】
本実施形態では、パーソナルコンピュータ5は、ビット39の許容限界摩耗の有無を判別したが、ビット39の摩耗の進み具合を検出してもよい。例えば、摩耗の進み具合として、カウンタCTの値が閾値α1未満であれば「摩耗レベル1」を検出し、閾値α1以上α2未満であれば「摩耗レベル2」を検出し、閾値α2以上α3未満であれば「摩耗レベル3」を検出し、閾値α3以上であれば「摩耗レベル4」を検出してもよい。なお、α1<α2<α3<α4、である。
【0073】
本実施形態では、ビット39の許容限界摩耗の有無を、カウンタCTの値すなわちビット39のカムアウトの発生総数に基づいて判別したが、カムアウトの発生頻度に基づいて判別してもよい。
【0074】
この場合は、例えば、パーソナルコンピュータ5は、各カムアウトを何回目のネジ締めで検知したかを記録する。そして、所定の頻度で、すなわち、直近の所定の回数のネジ締め(例えば、直近の100回のネジ締め)で閾値(例えば、3回)以上のカムアウトが発生していれば、摩耗が相当程度に達していると検知する。なお、所定の頻度は、任意に設定することができる。
【0075】
ワークとビット39との組合せごとに、許容限界摩耗に達するまでの期間または締付けの回数を記録してもよい。または、単位期間または単位締付け回数当たりのビット39の交換回数を記録してもよい。そして、これらの情報に基づけば、カムアウトの検知を行うことなくビット39の交換時期を予測し、事前にビット39を交換することができ、予防保全を実施することができる。
【0076】
着座トルクTQs、監視有効トルクTQy、トリガトルクレートTRg、および監視区間角度θwなどビット摩耗検知プログラム50で使用する各閾値をワークとビット39との組合せごとに設定しておき使い分けてもよい。
【0077】
本実施形態では、ネジ締付装置本体3によるネジ締めと並行して、つまり、ほぼリアルタイムで、コントローラ4がカムアウトを検知し、パーソナルコンピュータ5がビット摩耗検知プログラム50による処理を行った。しかし、トルク検出信号61および角度検出信号62を一旦、ストレージに保存し、ネジ締めが完了した後、コントローラ4およびパーソナルコンピュータ5がそれぞれの処理を行ってもよい。
【0078】
本実施形態では、カウント部501、摩耗検知部502、摩耗報知部503、および締付完了報知部504をパーソナルコンピュータ5によって実現したが、PCL(Programmable Logic Controller)によって実現してもよい。または、図3に示したコントローラ4の各機能およびパーソナルコンピュータ5の各機能をプログラムによって1台のコンピュータに実行させてもよいし、1台のPCLによって実現してもよい。
【0079】
本実施形態では、監視区間角度θwなどの各種の設定値として、予め実験的に求められた値が用いられたが、シミュレータなどによって算出された値が用いられてもよい。
【0080】
その他、ネジ締付システム1、ネジ締付装置2、ネジ締付装置本体3、コントローラ4、パーソナルコンピュータ5それぞれの全体または各部の構成、処理の内容、処理の順序構成などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 ネジ締付システム(カムアウト検知システム)
3 ネジ締付装置本体
33 出力軸
34 トルクセンサ(トルク取得手段)
39 ビット
4 コントローラ
5 パーソナルコンピュータ
401 トルクレート等算出部(トルクレート取得手段)
403 疑カムアウト検知部(疑カムアウト検知手段)
404 カムアウト判別部(カムアウト判別手段)
502 摩耗検知部(摩耗判別手段)
図1
図2
図3
図4
図5