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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019817
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】ペロブスカイト酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20240206BHJP
   B01J 23/02 20060101ALI20240206BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20240206BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240206BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20240206BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240206BHJP
【FI】
C01G23/00 C
B01J23/02 Z
B01J37/04 102
B01J37/08
C07F7/18 A
C07F7/18 P
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122525
(22)【出願日】2022-08-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)産学共同(育成型) 「ペロブスカイト酸化物ナノ粒子の実用的合成手法の開発と触媒応用」 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】原 亨和
(72)【発明者】
【氏名】相原 健司
【テーマコード(参考)】
4G047
4G169
4H039
4H049
【Fターム(参考)】
4G047CA07
4G047CB05
4G047CD08
4G169AA02
4G169AA08
4G169BA21C
4G169BC09B
4G169BC10B
4G169BC12B
4G169BC13B
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BC51A
4G169BC55A
4G169BE06C
4G169BE08C
4G169CB25
4G169DA05
4G169EC02X
4G169EC03X
4G169EC04X
4G169EC05X
4G169EC23
4G169EC25
4G169FB04
4G169FB30
4H039CA70
4H039CF30
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ20
4H049VQ42
4H049VR23
4H049VR41
4H049VT05
4H049VT09
4H049VT22
4H049VW02
4H049VW31
(57)【要約】
【課題】 d0金属を含むペロブスカイト酸化物を製造する手段を提供する。
【解決手段】 ABO3型のペロブスカイト酸化物の製造方法であって、Bサイトを構成する元素がd0金属であること、及び以下の工程(1)~(3)を含むことを特徴とする製造方法、
(1)Aサイトを構成する元素を含む化合物及びBサイトを構成する元素を含む化合物を水に溶解させ、水溶液を得る工程、
(2)工程(1)で得られた水溶液からペロブスカイト酸化物の前駆体を得る工程、
(3)工程(2)で得られた前駆体を焼成する工程。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABO3型のペロブスカイト酸化物の製造方法であって、Bサイトを構成する元素がd0金属であること、及び以下の工程(1)~(3)を含むことを特徴とする製造方法、
(1)Aサイトを構成する元素を含む化合物及びBサイトを構成する元素を含む化合物を水に溶解させ、水溶液を得る工程、
(2)工程(1)で得られた水溶液からペロブスカイト酸化物の前駆体を得る工程、
(3)工程(2)で得られた前駆体を焼成する工程。
【請求項2】
カルボン酸及び/又は過酸化水素の存在下で、Aサイトを構成する元素を含む化合物及びBサイトを構成する元素を含む化合物を水に溶解させることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
Bサイトを構成する元素を含む化合物が、チタンテトラアルコキシド、ニオブペンタアルコキシド、又はオキシジルコニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
Bサイトを構成する元素を含む化合物が、チタンテトライソプロポキシド、ニオブペンタエトキシド、又はオキシ酢酸ジルコニウムであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
Aサイトを構成する元素を含む化合物が、第1族元素又は第2族元素の有機酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前駆体を焼成する工程が、以下の工程(3-1)及び工程(3-2)を含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法、
(3-1)前駆体を窒素雰囲気下で焼成する工程、
(3-2)工程(3-1)の後、空気雰囲気下で焼成する工程。
【請求項7】
ABO3型のペロブスカイト酸化物であって、1)Bサイトを構成する元素がd0金属であること、2)比表面積が15m2g-1以上であること、3)ルイス酸性度が10~30μmolg-1であること、及び4)塩基性度が100~200μmolg-1であることを特徴とするペロブスカイト酸化物。
【請求項8】
Bサイトを構成する元素が、チタン、ニオブ、又はジルコニウムであることを特徴とする請求項7に記載のペロブスカイト酸化物。
【請求項9】
Aサイトを構成する元素が、第1族元素又は第2族元素であることを特徴とする請求項7に記載のペロブスカイト酸化物。
【請求項10】
請求項1に記載の製造方法によって製造されることを特徴とする請求項7に記載のペロブスカイト酸化物。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれか一項に記載のペロブスカイト酸化物の存在下、一般式(I)
【化1】
〔式中、R1は置換基で置換されていてもよいアリール基を表し、R2はアルキル基を表す。但し、R1及びR2は互いに結合して環を形成してもよい。〕
で表されるカルボニル化合物を一般式(II)
【化2】
〔式中、R3はヒドロキシ基の保護基を表す。〕
で表される化合物と反応させる工程を含むことを特徴とする一般式(III)
【化3】
〔式中、R1、R2、及びR3は上記と同じ意味である。〕
で表されるシアノヒドリン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト酸化物の製造方法、ペロブスカイト酸化物、及びペロブスカイト酸化物を触媒として用いたシアノヒドリン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト酸化物の中には、高い触媒活性、高誘電率、低誘電損失、超伝導特性など、非常に有用な特性を示すものがある。その上、ペロブスカイト酸化物は緻密な結晶構造を有し、耐熱性や伝導性などに優れるため、触媒、圧電体、強誘電体、磁性材料などの工業材料などとして有用である。
【0003】
ペロブスカイト酸化物はゾルゲル法によって合成されるが、従来のゾルゲル法は多段階プロセスであり、さらに炭素質な前駆体を高温で焼成する必要があった。このような従来法に代わる方法として、本発明者は、アスパラギン酸やリンゴ酸を金属分散剤として用いた方法を提案している(特許文献1)。この方法では、従来のゾルゲル法よりも簡便にペロブスカイト酸化物を合成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-95524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、ペロブスカイト酸化物を構成する金属元素を水に溶解させることが必要である。マンガンなどの3d金属は、有機酸塩などにすることにより容易に水に溶解させることができるが、(IV)価の酸化状態のチタン、(V)価の酸化状態のニオブ、(IV)価の酸化状態のジルコニウムのようなd0金属は水に可溶化することが困難であり、このため、この方法では、d0金属を含むペロブスカイト酸化物を製造することが難しかった。本発明は、このような背景の下になされたものであり、d0金属を含むペロブスカイト酸化物を製造する手段を提供することを目的とする。
【0006】
また、ペロブスカイト酸化物は触媒として使用されることが多いが、一般にペロブスカイト酸化物の表面積が大きいほど触媒活性が高くなる。従って、本発明は、表面積の大きいペロブスカイト酸化物を製造する手段を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、カルボン酸や過酸化水素の存在下で、d0金属を含む化合物が水に可溶化することを見出した。また、ペロブスカイト酸化物の前駆体を焼成する際、最初に窒素雰囲気下で焼成し、その後、空気雰囲気下で焼成するという二段階の焼成法を採用することにより、ペロブスカイト酸化物の表面積を大きくできることを見出した。本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔11〕を提供するものである。
【0008】
〔1〕ABO3型のペロブスカイト酸化物の製造方法であって、Bサイトを構成する元素がd0金属であること、及び以下の工程(1)~(3)を含むことを特徴とする製造方法、
(1)Aサイトを構成する元素を含む化合物及びBサイトを構成する元素を含む化合物を水に溶解させ、水溶液を得る工程、
(2)工程(1)で得られた水溶液からペロブスカイト酸化物の前駆体を得る工程、
(3)工程(2)で得られた前駆体を焼成する工程。
【0009】
〔2〕カルボン酸及び/又は過酸化水素の存在下で、Aサイトを構成する元素を含む化合物及びBサイトを構成する元素を含む化合物を水に溶解させることを特徴とする〔1〕に記載の製造方法。
【0010】
〔3〕Bサイトを構成する元素を含む化合物が、チタンテトラアルコキシド、ニオブペンタアルコキシド、又はオキシジルコニウム塩であることを特徴とする〔1〕に記載の製造方法。
【0011】
〔4〕Bサイトを構成する元素を含む化合物が、チタンテトライソプロポキシド、ニオブペンタエトキシド、又はオキシ酢酸ジルコニウムであることを特徴とする〔1〕に記載の製造方法。
【0012】
〔5〕Aサイトを構成する元素を含む化合物が、第1族元素又は第2族元素の有機酸塩であることを特徴とする〔1〕に記載の製造方法。
【0013】
〔6〕前駆体を焼成する工程が、以下の工程(3-1)及び工程(3-2)を含むことを特徴とする〔1〕に記載の製造方法、
(3-1)前駆体を窒素雰囲気下で焼成する工程、
(3-2)工程(3-1)の後、空気雰囲気下で焼成する工程。
【0014】
〔7〕ABO3型のペロブスカイト酸化物であって、1)Bサイトを構成する元素がd0金属であること、2)比表面積が15m2g-1以上であること、3)ルイス酸性度が10~30μmolg-1であること、及び4)塩基性度が100~200μmolg-1であることを特徴とするペロブスカイト酸化物。
【0015】
〔8〕Bサイトを構成する元素が、チタン、ニオブ、又はジルコニウムであることを特徴とする〔7〕に記載のペロブスカイト酸化物。
【0016】
〔9〕Aサイトを構成する元素が、第1族元素又は第2族元素であることを特徴とする〔7〕に記載のペロブスカイト酸化物。
【0017】
〔10〕〔1〕に記載の製造方法によって製造されることを特徴とする〔7〕に記載のペロブスカイト酸化物。
【0018】
〔11〕〔7〕乃至〔10〕のいずれかに記載のペロブスカイト酸化物の存在下、一般式(I)
【化1】
〔式中、R1は置換基で置換されていてもよいアリール基を表し、R2はアルキル基を表す。但し、R1及びR2は互いに結合して環を形成してもよい。〕
で表されるカルボニル化合物を一般式(II)
【化2】
〔式中、R3はヒドロキシ基の保護基を表す。〕
で表される化合物と反応させる工程を含むことを特徴とする一般式(III)
【化3】
〔式中、R1、R2、及びR3は上記と同じ意味である。〕
で表されるシアノヒドリン誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明はペロブスカイト酸化物の新規な製造方法を提供する。この方法によって製造されたペロブスカイト酸化物は、高活性な触媒として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】4種類のATiO3_Airの結晶構造の模式図(左)及びXRDパターン(右)を示す。
図2】4種類のATiO3_Airの走査電子顕微鏡像を示す。
図3】SrTiO3の前駆体を空気雰囲気下(左上)、窒素雰囲気下(右上)、又は窒素雰囲気下と空気雰囲気下(下)で焼成した場合における温度、Weight loss、及びDTAの経時的変化を示す。
図4】4種類のATiO3_N2-Airの結晶構造の模式図及びXRDパターンを示す。
図5】SrTiO3_N2-AirとSrTiO3_Airの走査電子顕微鏡像及び透過電子顕微鏡像を示す。
図6】SrTiO3_N2-Air又はSrTiO3_Airを触媒としたシアノシリル化反応の反応物の生成速度を示す。
図7】4種類のATiO3_N2-Airを触媒としたシアノシリル化反応の反応物の収率を示す。
図8】SrTiO3_N2-Airの使用回数と反応物の収率(左)及び反応前後のSrTiO3_N2-AirのXRDパターン(右)を示す。
図9】シアノシリル化反応の反応物の構造と収率を示す。
図10】SrTiO3_N2-Air、SrTiO3_Air、TiO2、及びMg(OH)2等のルイス酸性度及び塩基性度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
(A)ペロブスカイト酸化物の製造方法
本発明のABO3型のペロブスカイト酸化物の製造方法は、Bサイトを構成する元素がd0金属であること、及び下記の工程(1)~(3)を含むことを特徴とするものである。ここで、「ABO3型のペロブスカイト酸化物」とは、灰チタン石(ペロブスカイト、CaTiO3)と同様の結晶構造を有する酸化物をいう。
【0022】
工程(1)では、Aサイトを構成する元素を含む化合物及びBサイトを構成する元素を含む化合物を水に溶解させ、水溶液を得る。
【0023】
Aサイトを構成する元素としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)などの第2族元素、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)などの第1族元素、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)などのランタノイド元素、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)などのその他の希土類金属元素を挙げることができる。これらの中でも、第2族元素、又は第1族元素が好ましい。
【0024】
Aサイトを構成する元素を含む化合物は、水に溶解させ得るものであればどのようなものでもよく、例えば、上記元素を含む酸化物、アルコキシド、塩化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、オキシ炭酸塩、硫酸塩、オキシ硫酸塩、硝酸塩、オキシ硝酸塩、リン酸塩、オキシリン酸塩、有機酸塩(例えば、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩など)、オキシ有機酸塩(例えば、オキシギ酸塩、オキシ酢酸塩、オキシシュウ酸塩など)を挙げることができる。これらの中でも、上記元素を含む有機酸塩が好ましく、上記元素を含む酢酸塩が特に好ましい。
【0025】
水溶液中のAサイトを構成する元素を含む化合物の濃度は特に限定されないが、好ましくは、5~100mMであり、より好ましくは、10~50mMである。
【0026】
Bサイトを構成する元素は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)などのd0金属元素である。これらの中でも、チタンが好ましい。
【0027】
Bサイトを構成する元素を含む化合物は、水に溶解させ得るものであればどのようなものでもよく、例えば、d0金属元素を含む酸化物、アルコキシド、塩化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、オキシ炭酸塩、硫酸塩、オキシ硫酸塩、硝酸塩、オキシ硝酸塩、リン酸塩、オキシリン酸塩、有機酸塩(例えば、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩など)、オキシ有機酸塩(例えば、オキシギ酸塩、オキシ酢酸塩、オキシシュウ酸塩など)を挙げることができる。チタンを含む化合物としては、チタンアルコキシド、より具体的には、チタンテトラアルコキシドを挙げることができる。チタンテトラアルコキシドとしては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn-プロポキシド、チタンテトラn-ブトキシドなどを挙げることができる。これらの中でも、チタンテトライソプロポキシド((Ti(Oi-Pr)4)が好ましい。ニオブを含む化合物としては、ニオブアルコキシド、より具体的には、ニオブペンタアルコキシドを挙げることができる。ニオブペンタアルコキシドとしては、ニオブペンタメトキシド、ニオブペンタエトキシド、ニオブペンタイソプロポキシド、ニオブペンタn-プロポキシド、ニオブペンタn-ブトキシドなどを挙げることができる。これらの中でも、ニオブペンタエトキシド((Nb(C2H5O)5)が好ましい。ジルコニウムを含む化合物としては、オキシジルコニウム塩を挙げることができる。オキシジルコニウム塩としては、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、オキシ有機酸ジルコニウム(例えば、オキシギ酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、オキシシュウ酸ジルコニウム)、オキシ炭酸ジルコニウムなどを挙げることができる。これらの中でも、オキシ酢酸ジルコニウム(ZrO(CH3COO)2))が好ましい。
【0028】
水溶液中のBサイトを構成する元素を含む化合物の濃度は特に限定されないが、好ましくは、5~100mMであり、より好ましくは、10~50mMである。
【0029】
Aサイトを構成する元素とBサイトを構成する元素は、ABO3型のペロブスカイト酸化物を製造できるように、適切な組合せを選択する。例えば、Bサイトを構成する元素がチタンやジルコニウムである場合、Aサイトを構成する元素は第2族元素であることが好ましく、Bサイトを構成する元素がニオブである場合、Aサイトを構成する元素は第1族元素であることが好ましい。特に好ましい組合わせとしては、Aサイトを構成する元素がストロンチウムで、Bサイトを構成する元素がチタンである組合せを挙げることができる。
【0030】
工程(1)では、カルボン酸及び/又は過酸化水素の存在下で、Aサイトを構成する元素を含む化合物及びBサイトを構成する元素を含む化合物を水に溶解させてもよい。本発明において「カルボン酸」とは、一つ以上のカルボキシル基を持つ化合物をいい、カルボキシル基の他にアミノ基を有する「アミノ酸」やカルボキシル基の他にヒドロキシ基を含む「ヒドロキシ酸」も、本発明における「カルボン酸」に含まれる。
【0031】
カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのモノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸などのジカルボン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸などのヒドロキシ酸、アスパラギン酸などのアミノ酸などを挙げることができる。これらの中でも、リンゴ酸、アスパラギン酸が好ましい。
【0032】
水溶液中のカルボン酸の濃度は特に限定されないが、好ましくは、20~500mMであり、より好ましくは、50~200mMである。水溶液中の過酸化水素の濃度も特に限定されないが、好ましくは、20~500mMであり、より好ましくは、50~200mMである。
【0033】
どのような物質の存在下で行うかは、溶解させる化合物の種類、特にBサイトを構成する元素を含む化合物の種類に応じて決めることができる。例えば、チタンテトライソプロポキシドなどのチタンテトラアルコキシドを水に溶解させる場合はリンゴ酸及び過酸化水素の存在下で行うことが好ましく、ニオブペンタエトキシドなどのニオブペンタアルコキシドを水に溶解させる場合はリンゴ酸及び過酸化水素の存在下で行うことが好ましく、オキシ酢酸ジルコニウムなどのオキシジルコニウム塩を水に溶解させる場合はアスパラギン酸の存在下で行うことが好ましい。
【0034】
各化合物の溶解を促進するため、攪拌してもよく、40~60℃程度で加温してもよく、酸や塩基を添加してpHを調整してもよい。
【0035】
工程(2)では、工程(1)で得られた水溶液からペロブスカイト酸化物の前駆体を得る。
【0036】
ペロブスカイト酸化物の前駆体は、工程(1)で得られた水溶液を濃縮及び乾燥することによって得ることができる。水溶液の濃縮乾燥方法は特に限定されず、公知の方法に従って行うことができる。例えば、加熱により水を留去すればよく、その際、温度の抑制や効率化のために減圧してもよい。また、省エネルギーのために、噴霧乾燥法や薄膜乾燥法を用いてもよい。
【0037】
工程(3)では、工程(2)で得られた前駆体を焼成する。
【0038】
焼成は、空気雰囲気下のみで行ってもよいが、窒素雰囲気下で焼成した後、空気雰囲気下で焼成する二段階の焼成が好ましい。このような二段階の焼成を行うことにより、高表面積のペロブスカイト酸化物を得ることできる。
【0039】
空気雰囲気下のみで焼成する場合、その焼成温度及び焼成時間は特に限定されないが、焼成温度は、好ましくは、400~700℃であり、より好ましくは、500~600℃であり、焼成時間は、好ましくは、3~10時間であり、より好ましくは、4~8時間である。
【0040】
二段階で焼成する場合、窒素雰囲気下及び空気雰囲気下における焼成温度及び焼成時間は特に限定されないが、窒素雰囲気下における焼成温度は、好ましくは、400~700℃であり、より好ましくは、500~600℃であり、窒素雰囲気下における焼成時間は、好ましくは、3~10時間であり、より好ましくは、4~8時間であり、空気雰囲気下における焼成温度は、好ましくは、400~700℃であり、より好ましくは、500~600℃であり、空気雰囲気下における焼成時間は、好ましくは、3~10時間であり、より好ましくは、4~8時間である。
【0041】
(B)ペロブスカイト酸化物
本発明のABO3型のペロブスカイト酸化物は、1)Bサイトを構成する元素がd0金属であること、2)比表面積が15m2g-1以上であること、3)ルイス酸性度が10~30μmolg-1であること、及び4)塩基性度が100~200μmolg-1であることを特徴とするものである。
【0042】
Aサイトを構成する元素としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムなどの第2族元素、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの第1族元素、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムなどのランタノイド元素、スカンジウム、イットリウムなどのその他の希土類金属元素を挙げることができる。これらの中でも、第2族元素、又は第1族元素が好ましい。
【0043】
Bサイトを構成する元素は、チタン、ニオブ、ジルコニウムなどのd0金属元素である。これらの中でも、チタンが好ましい。
【0044】
本発明のABO3型のペロブスカイト酸化物の比表面積は15m2g-1以上である。比表面積は15m2g-1以上であればよいが、好ましくは、25m2g-1以上であり、より好ましくは、35m2g-1以上であり、更に好ましくは、45m2g-1以上であり、特に好ましくは、55m2g-1以上である。比表面積の上限は特に限定されないが、比表面積が過剰に大きいと強度が十分でないおそれがあり得るため、100m2g-1以下であることが好ましい。なお、前記した比表面積の値は、窒素ガス吸脱着によるBET法で測定される値である。
【0045】
本発明のABO3型のペロブスカイト酸化物は、ルイス酸性度及び塩基性度がそれぞれ10~30μmolg-1及び100~200μmolg-1であり、中程度のルイス酸性度及び塩基性度を示す。このように中程度のルイス酸性度及び塩基性度を示すことにより、本発明のABO3型のペロブスカイト酸化物は高い触媒活性を示す。ルイス酸性度は10~30μmolg-1であればよいが、好ましくは、15~25μmolg-1である。塩基性度は100~200μmolg-1であればよいが、好ましくは、120~180μmolg-1である。なお、前記したルイス酸性度及び塩基性度の値は、アンモニア及び二酸化炭素をそれぞれプローブガスとした昇温脱離法によって測定される値である。
【0046】
本発明のABO3型のペロブスカイト酸化物は、上述した本発明のペロブスカイト酸化物の製造方法によって製造することができるが、それ以外の方法によって製造してもよい。
【0047】
本発明のABO3型のペロブスカイト酸化物は、公知のペロブスカイト酸化物と同様、電極触媒、光触媒、排ガス浄化触媒、圧電材料、電極材料、高温超電導材料、誘電体などとして利用することができる。本発明のABO3型のペロブスカイト酸化物の中でも、SrTiO3(Aサイトを構成する元素がストロンチウム、Bサイトを構成する元素がチタン)は、後述するように、合成中間体として有用なシアノヒドリン合成用触媒として有用である。
【0048】
(C)シアノヒドリン誘導体の製造方法
本発明のシアノヒドリン誘導体の製造方法は、上述した本発明のペロブスカイト酸化物の存在下、一般式(I)
【化4】
〔式中、R1は置換基で置換されていてもよいアリール基を表し、R2はアルキル基を表す。但し、R1及びR2は互いに結合して環を形成してもよい。〕
で表されるカルボニル化合物を一般式(II)
【化5】
〔式中、R3はヒドロキシ基の保護基を表す。〕
で表される化合物と反応させる工程を含むことを特徴とする一般式(III)
【化6】
〔式中、R1、R2、及びR3は上記と同じ意味である。〕
で表されるシアノヒドリン誘導体の製造方法である。
【0049】
本発明において「アリール基」とは、例えば、フェニル基、ナフタレン-1-イル基、ナフタレン-2-イル基、ピリジニル基(ピリジン-2-イル基、ピリジン-3-イル基、ピリジン-4-イル基)、ピリミジニル基(ピリミジン-2-イル基、ピリミジン-4-イル基、ピリミジン-5-イル基)、フラニル基(フラン-2-イル基、フラン-3-イル基)、チエニル基(チオフェン-2-イル基、チオフェン-3-イル基)、ピロリル基(ピロール-2-イル基、ピロール-3-イル基)などである。
【0050】
本発明において「アルキル基」とは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基などである。
【0051】
本発明において「R1及びR2は互いに結合して環を形成してもよい」における「環」とは、例えば、フルオレン環、アダマンタン環などである。
【0052】
本発明において「ヒドロキシ基の保護基」とは、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基などである。
【0053】
本発明において「置換基で置換されていてもよいアリール基」における「置換基」とは、例えば、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基などである。
【0054】
一般式(I)及び一般式(III)におけるR1は、置換基で置換されていてもよいアリール基であればよいが、好ましくは、置換基で置換されていてもよいフェニル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、又はニトロ基で置換されていてもよいフェニル基であり、更に好ましくは、置換されていないフェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-クロロフェニル基、4-ブロモフェニル基、4-メトキシフェニル基、又は4-ニトロフェニル基である。
【0055】
一般式(I)及び一般式(III)におけるR2は、アルキル基であればよいが、好ましくは、炭素数1~3の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基である。
【0056】
一般式(I)及び一般式(III)におけるR1及びR2は、互いに結合して環を形成してもよく、この環は特に限定されないが、好ましくは、フルオレン環又はアダマンタン環である。
【0057】
一般式(II) 及び一般式(III)におけるR3は、ヒドロキシ基の保護基であればよいが、好ましくは、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、又はtert-ブチルジフェニルシリル基であり、より好ましくは、トリメチルシリル基である。
【0058】
使用するペロブスカイト酸化物の量は特に限定されないが、一般式(I)で表されるカルボニル化合物1molに対して、5~500g、好ましくは、10~100g、より好ましくは、30~80g使用することができる。
【0059】
一般式(I)で表されるカルボニル化合物と一般式(II)で表される化合物の混合比は特に限定されないが、一般式(I)で表されるカルボニル化合物1molに対して一般式(II)で表される化合物を0.5~5.0molとすることが好ましく、1.0~2.0molとすることがより好ましい。
【0060】
一般式(I)で表されるカルボニル化合物と一般式(II)で表される化合物の反応は、溶媒の存在下で行う。使用する溶媒は特に限定されないが、両化合物の反応を妨げないものが好ましく、両化合物に対する溶解性が高いものが好ましい。具体的には、実施例で使用しているトルエンの他、エタノールなどのアルコール溶媒、酢酸エチルなどのエステル溶媒、DMF、DMSO、NMPなどの非プロトン性極性溶媒、オクタンなどの非極性溶媒などを使用することができる。
【0061】
反応温度は特に限定されないが、好ましくは、250~300Kであり、より好ましくは、260~280Kである。
【0062】
反応時間も特に限定されないが、好ましくは、5~90分であり、より好ましくは、10~60分である。
【0063】
公知のシアノヒドリン合成用触媒(Mg(OH)2など)では、通常、合成反応の前に前処理(真空下での加熱)が行われる。本発明のペロブスカイト酸化物に対しても前処理を行ってもよいが、行わなくても十分な触媒活性を示すので、前処理は行わないことが好ましい。
【0064】
上記反応終了後、公知の手法(例えば、溶媒の留去、洗浄など)によって、目的物である一般式(III)で表されるシアノヒドリン誘導体を得ることができる。一般式(III)で表されるシアノヒドリン誘導体からシアノヒドリンは、R3のヒドロキシ基の保護基を除去することにより得られる。ヒドロキシ基の保護基の除去は、ヒドロキシ基の保護基の種類に応じて行うことができる。例えば、ヒドロキシ基の保護基がトリメチルシリル基である場合、酸や塩基によって除去することができる。
【実施例0065】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0066】
(A)実験方法
1.チタン酸塩の合成
Aサイトの異なる種々のチタン酸塩は、次の手順の示すゾル-ゲル法にて合成した。蒸留水200 mLに10 mol L-1 過酸化水素水溶液(H2O2 aq.、和光純薬製)を2 mL、2.68 gのDL-リンゴ酸(C4H6O5、関東化学製)を加え攪拌した。ここへ1.42 gのチタンテトライソプロポキシド(Ti(Oi-Pr)4、関東化学製)を滴下、沈殿が完全に溶解するまで室温にて攪拌し、赤橙色の透明溶液を得た。Aサイト金属の前駆体として、対応する金属の酢酸塩(1.07 gのMg(CH3COO)2・4H2O、0.88 gのCa(CH3COO)2・H2O、1.07 gのSr(CH3COO)2・0.5H2O、1.28 gのBa(CH3COO)2、いずれも関東化学製)を加え攪拌・溶解させ、薄い赤橙色の透明溶液を得た。得られた溶液をエバポレーターにて溶媒を蒸発・乾固した後、190 ℃にて1時間真空乾燥し、黄色の前駆体粉末を得た。この粉末について、電気炉を用いて所定の雰囲気下(窒素もしくは空気)にて室温から3 ℃ min-1で550 ℃まで昇温、同温度・空気下にて5時間焼成し、白色粉末を得た。以後、昇温時に窒素で処理した後に空気で焼成した試料は、試料名の後ろに“_N2-Air”を(例えばSrTiO3_N2-Air)、すべての過程を空気で焼成した試料は、試料名の後ろに“_Air”を(例えばSrTiO3_Air)付けて呼称する。
【0067】
ニオブ酸塩の合成は、リンゴ酸・過酸化水素水溶液にニオブ前駆体として1.59 gのニオブペンタエトキシド(Nb(C2H5O)5、高純度化学製)、Aサイト金属の前駆体として対応する金属の酢酸塩(0.51 gのLi(CH3COO)・2H2O、0.68 gのNaCH3COO・3H2O、0.49 gのKCH3COO、いずれも関東化学製)を加え、上記と同様の手順で合成した。
【0068】
ジルコン酸塩の合成は、2.00 gのL-アスパラギン酸(C4H7NO43、関東化学製)を溶解させた水溶液にジルコニウム前駆体として3.13 gのオキシ酢酸ジルコニウム水溶液(20% ZrO(CH3COO)2 aq.、東京化成製)、対応する金属の酢酸塩(0.88 gのCa(CH3COO)2・H2O、1.07 gのSr(CH3COO)2・0.5H2O、1.28 gのBa(CH3COO)2、いずれも関東化学製)を加え、チタン酸塩の合成手順と同様の手順で合成した。
【0069】
2.分析
X線回折(XRD)は、MiniFlex 600 (リガク製)を用いて測定した。X線源としてCu Kα線(管電圧 40 kV・管電流 15 mA)を用い、スキャン角度10-90°、スキャン速度20°min-1、ステップ幅 0.02°、積算4回の条件で測定、回折パターンを得た。試料の窒素吸着等温線は、TriStar II 3020 (Micromeritics製)を用いて測定した。試料は、測定前に150 ℃で3時間真空下で処理した。窒素の吸着は、-193 ℃にて行い、Brunauer-Emmett-Tellerの式に基づき比表面積を算出した。誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)は、ICPS-8100 (島津製作所製)を用いて測定した。固体試料は、王水・フッ化水素酸の混酸を加え超音波処理し、溶解させた後に測定した。走査電子顕微鏡(SEM)測定は、S-5500 (日立製)を用いた。透過型電子顕微鏡(TEM)測定は、JEM2100F (JEOL製)を用い、加速電圧200 kVにて測定した。熱重量示差熱分析(TG-DTA)は、DTG-60 (島津製作所製)を用いて測定した。昇温脱離法(TPD)による酸点・塩基点の評価は、オンラインの四重極質量分析計を接続したCAT-A (日本ベル製)を用いて行った。触媒は、測定前に500 ℃で1時間ヘリウム流通下にて処理した。プローブガスとして、5% アンモニア/ヘリウムガスならびに10% 二酸化炭素/ヘリウムを使用し、100 ℃で1時間目的のガスを流通、同温度で1時間ヘリウム流通下でパージを行った後に、TPDを行った。フーリエ変換赤外分光(FT-IR)測定は、FT/IR-6600 (日本分光製)にて閉鎖循環ラインを用いた透過法で測定した。すべてのスペクトルは、水銀・カドミウム・テルル化合物(MCT)検出器を使用、分解能 4 cm-1で積算回数を64回とし、室温で測定した。サンプルは、測定前に300 ℃で1.5時間真空排気を行った。プローブ分子としてピリジン(和光純薬製)を用いた際には、前処理後のサンプルに対して室温で15分間0.5 kPaのピリジン蒸気を暴露、150 ℃で15分間真空排気した後にIR測定を行った。プローブ分子としてクロロホルム(和光純薬製)を用いた際には、前処理後のサンプルに対して室温で15分間0.5 kPaのクロロホルムを暴露し、プローブ分子存在下でIR測定を行った。アセトフェノン(東京化成製)の吸着実験では、前処理後のサンプルに対して室温で15分間0.02 kPaのプローブ蒸気を暴露、室温で15分間真空排気した後にIR測定を行った。なおIR測定におけるすべてのプローブは、使用前に凍結脱気を行ってから使用した。触媒反応の生成物の定性・定量は、GC-2025 (島津製)を用いて行い、カラムとしてInertCap 5 (長さ60 m、内径0.25 mm、膜厚0.40 μm、GLサイエンス製)、ならびに検出器として水素炎イオン化検出器(FID)を使用した。この他、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)は、カラムとしてInertCap 17MS (長さ30 m、内径0.25 mm、膜厚0.25 μm、GLサイエンス製)を取り付けたGCMS-QP2010 SE (島津製)を用いた。核磁気共鳴(NMR)測定は、Biospin Avance III spectrometer (ブルカー製)を用い、重クロロホルム(CDCl3)溶媒中、プロトンNMRは400 MHzにて、カーボンNMRは100 MHzにて測定し、テトラメチルシラン(SiMe4)を基準とした。
【0070】
3.シアノシリル化反応
ガラス試験管に触媒50 mg、カルボニル化合物1.0 mmol、トリメチルシリルシアニド(TMS-CN、C4H9NSi、東京化成製) 1.5 mmol、溶媒としてトルエン(C7H8、和光純薬製、使用前にモレキュラーシーブ4Åにて脱水したもの) 2 mL、内標準物質としてn-デカン(C10H22、関東化学製) 0.5 mmol、攪拌子を加え、アルゴン雰囲気下でマグネティックスターラーを用いて攪拌しながら所定の温度・時間反応を行った。なお触媒の前処理を行う場合は、300 ℃にて1時間真空下で処理し、空気に触れさせずに反応に用いた。使用したカルボニル化合物のうち、アセトフェノン、2’-メチルアセトフェノン、3’-メチルアセトフェノン、4’-メチルアセトフェノン、4’-メトキシアセトフェノン、4’-クロロアセトフェノン、4’-ブロモアセトフェノン、4’-ニトロアセトフェノン、シクロプロピルフェニルケトン、9-フルオレノン、2-アダマンタノン、2-オクタノン、4-メチル-2-ペンタノン、安息香酸メチルは、東京化成製の試薬を使用した。4’-トリフルオロアセトフェノンは、Aldorich製の試薬を使用した。ベンゾフェノンは、関東化学製の試薬を使用した。シクロヘキサノン、ベンズアルデヒドは、和光純薬から購入した。
【0071】
反応後、濾過にて触媒と反応物を分離した。回収した触媒は、トルエンおよびメタノールで洗浄、100 ℃で乾燥し550 ℃で1時間焼成した後に再利用実験へ使用した。回収した濾液について、ICP-AESにて分析することで金属の溶出量を検討、エバポレーターならびにクーゲルローにて濃縮・精製することで単離収率の算出を行った。
【0072】
(B)実験結果
1.ATiO3_Airの合成
4種類のATiO3_Airの結晶構造の模式図及びXRDパターンを図1に示す。また、各ATiO3_Airの結晶子径及び比表面積(SBET)も図1に示す。いずれのATiO3_Airも高い比表面積を示した。BaTiO3_Airでは、リンゴ酸を増量することにより(2当量から3当量に変更)、比表面積の向上がみられた。
【0073】
4種類のATiO3_Airの走査電子顕微鏡(SEM)像を図2に示す。いずれのATiO3_Airにおいても、ナノ粒子の集合体が観察された。SEM像から観察された結晶子サイズは図1に記載した結晶子径とよく一致していた。
【0074】
2.焼成条件の検討
SrTiO3の前駆体を空気雰囲気下(Air焼成)又は窒素雰囲気下(N2焼成)で焼成し、温度、Weight loss、及びDTAの経時的変化を測定した(図3)。空気雰囲気下で焼成した場合、大きな発熱ピークがみられ、このときの燃焼熱によって焼結が進んだと考えられる。一方、窒素雰囲気下で焼成した場合、大きな発熱ピークは見られず、空気雰囲気下で焼成した場合のような結晶化は進行しなかったと考えられる。急激な結晶化を避けるためには、窒素雰囲気下での焼成後、空気雰囲気下で焼成することが有効であると考えられる(図3)。
【0075】
3.ATiO3_N2-Airの合成
4種類のATiO3_N2-Airの結晶構造の模式図及びXRDパターンを図4に示す。また、各ATiO3_Airの結晶子径及び比表面積(SBET)も図4に示す。ATiO3_N2-Airは、ATiO3_Airよりも高い比表面積を示した。
【0076】
SrTiO3_N2-AirとSrTiO3_Airの走査電子顕微鏡(SEM)像及び透過電子顕微鏡(TEM)像を図5に示す。
【0077】
4.シアノシリル化反応
SrTiO3_N2-Air又はSrTiO3_Airを触媒として使用し、アセトフェノンを原料としたシアノシリル化反応を行い、反応物の生成速度を求めた(図6)。比較のため、TiO2又はMg(OH)2も触媒として使用した。前処理がある場合、SrTiO3_N2-Airの生成速度はMg(OH)2の生成速度と同程度であったが、前処理がない場合、SrTiO3_N2-Airの生成速度はMg(OH)2を含む他の触媒よりも著しく高かった。
【0078】
4種類のATiO3_N2-Airを触媒として使用し、アセトフェノンを原料としたシアノシリル化反応を行い、反応物の収率を求めた(図7)。SrTiO3_N2-Airが最も高活性であった。
【0079】
5.触媒の再使用
SrTiO3_N2-Airを触媒として繰り返し使用し、反応物の収率を求めた(図8)。使用回数によって収率にほとんど変化はなく、SrTiO3_N2-Airは再使用可能であった。また、反応前後のSrTiO3_N2-AirのXRDパターンを比較した(図8)。XRDパターンに変化はなく、反応前後で、SrTiO3_N2-Airの構造に変化がなかった。
【0080】
6.基質適応性
SrTiO3_N2-Airを触媒として使用し、様々なカルボニル化合物を原料としたシアノシリル化反応を行い、反応物の収率を求めた(図9)。いずれのカルボニル化合物を使用した場合も高い収率で反応物が得られ、SrTiO3_N2-Airは基質適応性の広い触媒であった。
【0081】
7.酸塩基特性
SrTiO3_N2-Air、SrTiO3_Air、TiO2、及びMg(OH)2等のルイス酸性度及び塩基性度を測定した(図10)。強い酸点のみを持つTiO2や強い塩基点のみを持つMg(OH)2は低活性であったのに対し、中程度の酸点と塩基点を併せ持つSrTiO3_N2-Airは高活性であった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のペロブスカイト酸化物は、触媒として有用なので、触媒に関連する産業において利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10