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特開2024-19824副作用発症リスク推定システム、副作用発症リスク推定システム用クライアント装置、及び、副作用発症リスク推定プログラム
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  • 特開-副作用発症リスク推定システム、副作用発症リスク推定システム用クライアント装置、及び、副作用発症リスク推定プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019824
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】副作用発症リスク推定システム、副作用発症リスク推定システム用クライアント装置、及び、副作用発症リスク推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 70/40 20180101AFI20240206BHJP
【FI】
G16H70/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122534
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】503362784
【氏名又は名称】栢 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100166372
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 博明
(72)【発明者】
【氏名】栢 孝文
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】統計的に推測される人体に対して作用する成分を含む物品についての副作用の発症リスクに関する情報を提示する。
【解決手段】物品の副作用発症リスク推定システムは、人体に対して作用する成分を含む物品の製造条件特定情報と物品の提供先となるユーザのユーザ特定情報とを紐付けて格納するDB400と、ユーザが操作するクライアント装置に対して物品の取入後の健康に関する質問を送信してクライアント装置からユーザ特定情報とともに送信される物品の取入後のユーザによる回答を受信するサーバ装置200と、サーバ装置が受信した回答とユーザ特定情報に対応して格納されている製造条件特定情報との複数のセットによって統計的に製造条件特定情報に係る物品についての副作用の発症リスクを推測する推定装置300と、推定装置によって推測された発症リスクに関する情報を提示する提示手段を有するクライアント装置100A~Nと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体に対して作用する成分を含む物品の製造条件特定情報と当該物品の提供先となるユーザのユーザ特定情報とが紐付けて格納される格納媒体と、
前記ユーザが操作するクライアント装置に対して当該物品の取入後の健康に関する一組の質問を送信して前記クライアント装置から前記ユーザ特定情報とともに送信される当該物品の取入後のユーザによる一組の回答を受信するサーバ装置と、
前記サーバ装置によって受信された前記一組の回答と前記ユーザ特定情報に対応して前記格納媒体に格納されている製造条件特定情報との複数のセットによって統計的に当該製造条件特定情報に係る物品についての副作用の発症リスクを推測する推定装置と、
前記推定装置によって推測された発症リスクに関する情報を提示する提示手段を有する前記クライアント装置と、
を備える、副作用発症リスク推定システム。
【請求項2】
サーバ装置から送信される人体に対して作用する成分を含む物品の取入後の健康に関する一組の質問を受信し、当該一組の質問に対する当該物品の取入後のユーザによる一組の回答をそのユーザ特定情報とともに前記サーバ装置に送信し、前記一組の回答と前記ユーザ特定情報に対応して格納されている前記物品の製造条件特定情報との複数のセットによって統計的に推測される当該製造条件特定情報に係る物品についての副作用の発症リスクの推定結果に関する情報を受信する通信手段と、
前記通信手段によって受信された前記推定結果に関する情報を提示する提示手段と、
を有する、副作用発症リスク推定システム用クライアント装置。
【請求項3】
サーバ装置から送信される人体に対して作用する成分を含む物品の取入後の健康に関する一組の質問を受信するステップと、
当該一組の質問に対する当該物品の取入後のユーザによる一組の回答をそのユーザ特定情報とともに前記サーバ装置に送信するステップと、
前記ユーザ特定情報に対応して格納されている物品の製造条件特定情報と前記一組の回答との複数のセットによって統計的に推測される当該製造条件特定情報に係る物品についての副作用の発症リスクの推定結果に関する情報を受信するステップと、
前記推定結果に関する情報を提示するステップと、
をクライアント装置に実行させる、副作用発症リスク推定プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副作用発症リスク推定システム、副作用発症リスク推定システム用クライアント装置、及び、副作用発症リスク推定プログラムに関し、特に、人体に対して作用する物品を取入した後のユーザの健康状況の変化の有無に基づいて、物品に対する副作用の有無を統計的に推定する、副作用発症リスク推定システム、副作用発症リスク推定システム用クライアント装置、及び、副作用発症リスク推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、主としてがん治療のための薬剤の作用・副作用などの予測目的に応じて、関連すると考えられる遺伝子型を組合せることにより予測のための判別式を自動生成し、高い信頼性で予測することが可能な薬剤の作用・副作用予測システムについて開示されている。この薬剤の作用・副作用予測システムは、薬剤の作用又は副作用に関与する可能性のある遺伝子について生ずる遺伝子型の組合せ毎に、作用又は副作用の有無に関する症例を対応させる解析テーブルを生成する症例解析テーブル生成部と、解析テーブルにおける遺伝子とそれに対する遺伝子型の組合せ(遺伝子条件)のうち少なくとも1つを選択して、作用・副作用の有・無の症例数についての占有率を演算する信頼度解析部と、占有率の演算を行った遺伝子条件から該当するもの抽出して判別式を生成する判別式生成部と、判別式を用いて予測を行う予測部を有する、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5436446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている薬剤の作用・副作用予測システムは、それを摂取した場合に深刻な副作用の発症率が相当高い、主として抗がん剤という特殊な薬剤を前提としたものであるため、その利用場面は限定的である。
【0005】
ここで、病院で頻繁に処方される医療用医薬品、ドラッグストアなどで市販されている一般用医薬品、サプリメントとも称される栄養補助食品や健康補助食品を含む各種加工食品、化粧品などの物品については、それをユーザの体内に取り入れたとしても、深刻な副作用の発症率は相当低い、ということが当業者の理解である。このように、深刻な副作用の発症率が相当低い物品に対しては、特許文献1に開示されている薬剤の作用・副作用予測システムの利用は、いわばオーバースペックであり、不向きである。
【0006】
もっとも、非常に稀ではあるが、病院で頻繁に処方される医療用医薬品等の物品であっても、ユーザによっては何らかの軽度の副作用が発症することがあることも、これまた事実である。例えば、当該物品原材料の一つが自然物である場合には、当該原材料の品質が安定しないことがあるから、それが原因で当該サプリメントの副作用の発症率が結果的に特定ロットのものについてのみ高くなることもあり得る。
【0007】
本発明は、このような事態に鑑みてなされたものであり、統計的に推測される人体に対して作用する成分を含む物品についての副作用の発症リスクに関する情報を提示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の物品の副作用発症リスク推定システムは、
人体に対して作用する成分を含む物品の製造条件特定情報と当該物品の提供先となるユーザのユーザ特定情報とが紐付けて格納される格納媒体(例えば、図1の「DB400」)と、
前記ユーザが操作するクライアント装置に対して当該物品の取入後の健康に関する一組の質問を送信して前記クライアント装置から前記ユーザ特定情報とともに送信される当該物品の取入後のユーザによる一組の回答を受信するサーバ装置(例えば、図1の「サーバ装置200」)と、
前記サーバ装置によって受信された前記一組の回答と前記ユーザ特定情報に対応して前記格納媒体に格納されている製造条件特定情報との複数のセットによって統計的に当該製造条件特定情報に係る物品についての副作用の発症リスクを推測する推定装置(例えば、図1の「推定装置300」)と、
前記推定装置によって推測された発症リスクに関する情報を提示する提示手段を有する前記クライアント装置(例えば、図1の「クライアント装置100」)と、
を備える。
【0009】
また、本発明の物品の副作用発症リスク推定システム用クライアント装置(例えば、図2の「クライアント装置100」)は、
サーバ装置(例えば、図2の「サーバ装置200」)から送信される人体に対して作用する成分を含む物品の取入後の健康に関する一組の質問を受信し、当該一組の質問に対する当該物品の取入後のユーザによる一組の回答をそのユーザ特定情報とともに前記サーバ装置に送信し、前記一組の回答と前記ユーザ特定情報に対応して格納されている前記物品の製造条件特定情報との複数のセットによって統計的に推測される当該製造条件特定情報の物品についての副作用の発症リスクの推定結果を受信する通信手段(例えば、図2の「通信手段110」)と、
前記通信手段によって受信された推定結果に関する情報を提示する提示手段(例えば、図2の「提示手段120」)と、
を有する。
【0010】
さらに、本発明の物品の副作用発症リスク推定プログラムは、
サーバ装置(例えば、図2の「サーバ装置200」)から送信される物品の取入後の健康に関する一組の質問を受信するステップ(例えば、図2の「通信手段110」が実行するステップ)と、
当該一組の質問に対する当該物品の取入後のユーザによる一組の回答をそのユーザ特定情報とともに前記サーバ装置に送信するステップ(例えば、図2の「通信手段110」が実行するステップ)と、
前記ユーザ特定情報に対応して格納されている物品の製造条件特定情報と前記一組の回答との複数のセットによって統計的に推測される当該製造条件特定情報の物品についての副作用の発症リスクの推定結果に関する情報を受信するステップ(例えば、図2の「通信手段110」が実行するステップ)と、
前記推定結果に関する情報を提示するステップ(例えば、図2の「提示手段120」が実行するステップ)と、
をクライアント装置(例えば、図1の「クライアント装置100」)に実行させる。
【0011】
本発明によれば、統計的に推測される人体に対して作用する成分を含む物品についての副作用の発症リスクに関する情報を提示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態の副作用発症リスク推定システムの模式的な構成図である。
図2図1に示すクライアント装置100及びサーバ装置200における副作用発症リスク推定システムに固有の主な構成部分を示すブロック図である。
図3図1に示す副作用発症リスク推定システムの主な動作を示すフローチャートである。
図4図1に示す副作用発症リスク推定システムの主な動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0013】
100 クライアント装置
110 通信手段
120 提示手段
200 サーバ装置
210 通信手段
220 回答処理手段
300 推定装置
400 データベース(DB)
500 管理者端末
600 ネットワーク
【発明の実施の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の副作用発症リスク推定システム、副作用発症リスク推定システム用クライアント装置、及び、物品の副作用発症リスク推定プログラムについて、図面を参照して説明する。
【0015】
(原理の説明)
本実施形態の副作用発症リスク推定システムは、以下説明する物品の取入後の健康に関する一組の質問に対する当該物品の取入後のユーザによる一組の回答と当該物品の製造条件特定情報との複数のセットによって、当該製造条件特定情報の物品についての副作用の発症リスクの有無や程度を統計的に推測し、例えば、発症リスクがあるという推測結果となった場合に、少なくとも当該製造条件特定情報の物品の提供先となるユーザに対して、そのことを提示するものである。
【0016】
したがって、ここでいうユーザというのは、本実施形態の副作用発症リスク推定システムが提供するサービスを受けたいユーザ、すなわち、典型的には、定期的に供給されるサプリメントを摂取するとともに、サプリメントについての副作用の発症リスクがあると推定された場合に、その情報を取得したいユーザのことである。
【0017】
また、「物品」とは、人体に対して作用する成分を含む全てのものをいい、例えば、医療用医薬品、一般用医薬品、加工食品、化粧品などのように、主作用のみならず、非常に稀ではあるが、軽度の副作用を発症し得るものを含む。本実施形態では、「物品」が主としてサプリメントである場合を例に説明する。
【0018】
さらに、「製造条件特定情報」とは、当該サプリメントの製造条件を直接的に又は間接的に特定し得る全ての情報をいい、例えば、そのサプリメントの例えば製造年月、そのサプリメントの原材料の産地、加工条件など種々の情報を含むものである。本実施形態では、「製造条件特定情報」が主としてそのサプリメントの製造時に割り当てられるロット番号という、間接的に当該サプリメントの製造条件を特定し得るものである場合を例に説明する。
【0019】
さらに、「一組の質問」とは、当該サプリメントについての副作用の発症リスクの有無や程度について推測するための健康に関する2以上の質問事項を含むものをいう。当該質問事項には、例えば、頭痛・発熱・腹痛・吐気・眠気・喉の渇き・発疹・かゆみ・眩暈・痙攣・下痢・便秘・皮膚の内出血などの症状の発症の有無や程度が含まれる。
【0020】
またさらに、「一組の回答」とは、「一組の質問」に対してユーザからなされる2以上の回答事項を含むものをいる。例えば、「頭痛」に関する質問事項に対していうと、頭痛の発症が「有」の場合には「1」・「無」の場合には「0」といった発症の有無についての2択の回答事項や、頭痛の発症が「非常に重い症状」の場合には「4」・「重い症状」の場合には「3」・「やや重い症状」の場合には「2」・「軽い症状」の場合には「1」・「無」の場合には「0」といった発症の程度についての例えば5択の回答事項が該当する。
【0021】
この場合、本実施形態に係る推定装置を用いると、サプリメントの副作用の発症率は軽度のものであっても一般的に相当低いから、既述の例でいえば、通常、「頭痛」の回答事項についても、「発熱」の回答事項についても、他の回答事項についても、「0」ばかりになるはずである。
【0022】
しかし、例えば、そのサプリメントの原材料の一つが自然物である場合には、当該原材料の品質が安定しないことがあるから、それが原因で当該サプリメントの副作用の発症率が結果的に高くなることもあり得る。その場合には、当該サプリメントの摂取後のユーザによる当該一組の回答には途端に「0以外」が含まれることが相対的に多くなる。
【0023】
本実施形態では、当該一組の回答に含まれる「0以外」の数が母集団に対して無視できず、統計上副作用が発症すると推測される場合に、そのサプリメントについては副作用の発症リスクが「有」という推定結果が出力されるようにする。このような学習モデルは、人工知能を教師あり学習することによっても作成できるし、教師なし学習することによっても作成できる。
【0024】
この学習モデルについて更に具体的に説明する。ここでは、説明の理解容易のため、その前提を、以下のように簡易なものとする。
【0025】
前提1:一組の質問は、「頭痛発症」及び「腹痛発症」の有無であるとする。この場合、サプリメントの摂取によって、例えば頭痛発症は「無」であったが腹痛発症が「有」であったユーザから、「01」という一組の回答がされることになる。
【0026】
前提2:サプリメントの摂取後のユーザによる一組の回答の母集団の特性値が、ロット番号「0001」~「0010」が割り当てられているサプリメントについては、例えば、「00」という一組の回答数の割合が98%であり、「01」という一組の回答数の割合が2%となると推測されるが、ロット番号「0011」が割り当てられているサプリメントについては、例えば、「01」という一組の回答数の割合が6%であり、「00」という一組の回答数の割合が94%である、と推測されるとする。そして、いずれにおいても、「10」、「11」という一組の回答数の割合はいずれも0%であるとする。
【0027】
「教師あり学習」の学習モデルを作成する場合には、推定装置に対する「入力値」は、各ユーザからの「一組の回答+ロット番号」という説明変数とする。また、推定装置からの「出力値」は、頭痛・腹痛のいずれの回答についても「1」の割合が例えば5%未満であると統計的に推測される場合には「0」、「1」の割合が例えば5%以上であると統計的に推測される場合には「1」という目的変数とする、というルールを設定することができる。
【0028】
この場合には、ロット番号「0001」~「0010」が割り当てられているサプリメントについての「出力値」は「00」となり、一方、ロット番号「0011」が割り当てられているサプリメントについての「出力値」は「01」となる。
【0029】
そうすると、ロット番号「0001」~「0010」が割り当てられているサプリメントについては、副作用の発症リスクなしと推定され、この場合には、ユーザに対して特段の提示をしないか、或いは、例えば「ロット番号「0001」が割り当てられているサプリメントを摂取しても、当該サプリメントについての副作用の発症リスクはないことがAIによって推定されています」という趣旨の情報を提示することが可能となる。
【0030】
一方、ロット番号「0011」が割り当てられているサプリメントについては、腹痛の副作用の発症リスクありと推定され、この場合には、少なくともロット番号「0011」が割り当てられている物品を提供したユーザに対して「ロット番号「0011」が割り当てられているサプリメントを摂取すると、腹痛の発症リスクがあることがAIによって推定されたため、摂取をお控えください」という趣旨の情報を提示することが可能となる。
【0031】
また、「教師なし学習」の「アソシエーション分析」の学習モデルを作成する場合には、ロット番号「0001」~「0010」が割り当てられているサプリメントを摂取したユーザの腹痛発症の信頼度は「0.02」であり、一方、ロット番号「0011」が割り当てられているサプリメントを摂取したユーザの腹痛発症の信頼度は「0.06」であるから、仮に信頼度が例えば「0.05以上」となる回答を含むということが統計的に推測されるロット番号があれば、そのロット番号が割り当てられているサプリメントには副作用の発症リスクありとする、というルールを設定すれば、「教師あり学習」と同様の情報の提示をすることが可能となる。
【0032】
さらに、「教師なし学習」の「クラスタ分析」の学習モデルを作成する場合には、一組の回答の組み合わせとして「00」・「01」・「10」・「11」があるところ、ロット番号を基準としたクラスタは、
(1)「00」が非常に多く、「01」が非常に少なく、「10」・「11」が皆無であるという「0001」~「0010」という「大グループ」と、
(2)「00」が多く、「01」が少なく、「10」・「11」が皆無であるという「0011」という「小グループ」と、
に分類されるから、仮に[小グループの回答数/(大グループの回答数+小グループの回答数)]が例えば5%以上となると統計的に推測される小グループがあれば、そのロット番号が割り当てられているサプリメントには副作用の発症リスクありとする、というルールを設定すれば、「教師あり学習」と同様の情報の提示をすることが可能となる。
【0033】
なお、以上の説明で例示した閾値である「5%」・「0.05」という値は説明の理解容易ためのものに過ぎない点に留意されたい。例えば一般用医薬品の副作用の有無の判断をする際には、副作用シグナルを検出するデータマイニング手法のRORとPRRを用いる場合には、95%の信頼区間の下限値が1より大きいか否かを閾値とすることが少なくない。したがって、ここでの閾値は、このことを踏まえて物品の種別等に応じて適宜決定すればよい。
【0034】
また、本実施形態では、副作用発症リスク推定システムを利用する全てのユーザに対して、個々のユーザを特定するための情報として固有のユーザIDを割り当てるとよい。そうすると、ユーザにサプリメントを提供する際に、そのサプリメントに割り当てられているロット番号とユーザIDとを紐付ければ、ユーザIDを通じてロット番号の管理をすることができる。
【0035】
もっとも、ユーザ特定情報としてユーザIDを用いることは必須ではなく、これに代えて又はこれとともに、当該ユーザの氏名・住所・電話番号・メールアドレスなどのユーザ情報とすることもできる。また、ユーザIDは、例えば、副作用発症リスク推定システムにログインの際に用いるログインIDとしてもよい。
【0036】
(構成の説明)
図1は、本発明の実施形態の副作用発症リスク推定システムの模式的な構成図である。図1には、以下説明する、副作用発症リスク推定システム用クライアント装置100A~100N(以下、これらを区別しない場合には「クライアント装置100」と称する。)と、サーバ装置200と、推定装置300と、データベース(以下、「DB」と称する。)400と、管理者端末500と、ネットワーク600と、を示している。
【0037】
クライアント装置100は、ユーザによって操作される端末であり、主として、ネットワーク600を介して、サーバ装置200から送信される既述の一組の質問を受信し、当該一組の質問に対する当該サプリメントの接種後のユーザによる一組の回答をユーザIDとともにサーバ装置200に送信し、サーバ装置200から送信されるサプリメントについての副作用の発症リスクの推定結果に関する情報を受信して提示するものである。クライアント装置100としては、ネットワーク600を介してサーバ装置200との間で無線通信又は有線通信を行うことが可能な、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、携帯電話機、スマートフォン、PDA(Personal Digital Assistant)などを用いることができる。
【0038】
サーバ装置200は、本実施形態の副作用発症リスク推定システムの管理者等によって管理されるものであり、主として、ネットワーク600を介して、クライアント装置100に当該一組の質問を送信し、クライアント装置100からユーザIDとともに送信される当該サプリメントの接種後のユーザによる当該一組の回答を受信し、それらに基づく推定装置300によるサプリメントについての副作用の発症リスクの推定結果に関する情報をクライアント装置100に送信するものである。サーバ装置200としては、ネットワーク600を介してクライアント装置100との間で無線通信又は有線通信を行うことが可能な、例えば、業務用コンピュータなどを用いることができる。
【0039】
推定装置300は、人工ニューラルネットワークなどの人工知能といった数学モデルを活用して、サーバ装置200によって受信される一組の回答とユーザIDに対応してDB400に格納されているロット番号との複数のセットによって統計的に当該ロット番号が割り当てられているサプリメントについての副作用の発症リスクを推定するものである。
【0040】
DB400は、ユーザに対して割り当てられる固有のユーザ特定情報であるユーザIDと、サプリメントに対してその製造時に割り当てられる製造条件特定情報であるロット番号と、が紐付けて格納されるものである。また、DB400には、クライアント装置100から送信される、ユーザの氏名、性別、年齢、メールアドレス、希望するユーザID及びログインパスワードなどのユーザ情報が格納され、また、当該一組の質問や発症リスクに関する情報などの各種データが格納されているものである。
【0041】
管理者端末500は、本実施形態の副作用発症リスク推定システムの管理者によって操作される端末であり、ユーザIDとロット番号とを紐付けてDB400に格納したり、推定装置300に対して既述のルールを設定したり、クライアント装置100に対して送信する各種ウェブページ等を作成したりするものである。管理者端末500としては、これに限定されるものではないが、例えば、ノート型又はデスクトップ型のパーソナルコンピュータなどを用いることができる。
【0042】
ネットワーク600は、クライアント装置100と、サーバ装置200と、推定装置300と、DB400と、管理者端末500と、を相互に接続するものであり、インターネットはもとより、これらの幾つかを局所的に接続するイントラネット、或いは、携帯電話網も含む各種ネットワークの総称である。
【0043】
なお、例えば、図1には、推定装置300及びDB400をサーバ装置200とは別個に設けている例を示しているが、これらのうち少なくとも一方をサーバ装置200の内部に設けるようにしてもよい。
【0044】
また、本実施形態では、サーバ装置200は、ウェブサーバとしての機能を有するものとすることによって、クライアント装置100からの要求に応じて所望のウェブページを構成するデータを送信することによって、各種情報をユーザに提示できるようにしている。もちろん、図示しないウェブサーバをネットワーク600に接続して当該データの送信を当該ウェブサーバから行うようにしてもよいし、また、ウェブページを用いずに例えば電子メールというツールを用いてもよい。
【0045】
なお、本明細書では、副作用発症リスク推定プログラムがいわゆるスマホアプリと称されるプログラムである場合に、それを起動してスマートフォンのディスプレイに表示されるページもウェブページに含まれるものとする。
【0046】
図2(a)及び図2(b)は、図1に示すクライアント装置100及びサーバ装置200における副作用発症リスク推定システムに固有の主な構成部分を示すブロック図である。なお、図2(a)及び図2(b)に示す各手段による機能は、例えばCPUとメモリとの協働によって実現することができる。
【0047】
クライアント装置100は、図2(a)に示すように、以下説明する、通信手段110と、提示手段120と、を備えている。サーバ装置200は、図2(b)に示すように、以下説明する、通信手段210と、回答処理手段220と、を備えている。
【0048】
通信手段110は、サーバ装置200から送信される当該一組の質問を受信し、当該サプリメントの接種後のユーザによる当該一組の回答をサーバ装置200に対して送信し、サーバ装置200から送信される推定装置300による発症リスクに関する情報を受信するものである。
【0049】
提示手段120は、通信手段110によって受信される当該一組の質問や推定結果を、例えばクライアント装置100にインストールされているウェブブラウザを通じて、クライアント装置100に付帯するディスプレイに対して画像信号を出力し、或いは、これに代えて又はこれとともに、スピーカに対して音声信号を出力したりすることによって、ユーザに提示するものである。
【0050】
通信手段210は、DB400に格納されている当該一組の質問をクライアント装置100に対して送信し、クライアント装置100から送信される当該一組の回答を受信し、既述の推定結果をクライアント装置100に対して送信するものである。
【0051】
回答処理手段220は、通信手段210によって受信される当該一組の回答とユーザ特定情報に対応してDB400に格納されているロット番号との複数のセットを、例えばプログラミングAPIを通じて推定装置300に入力することによって、サプリメントについての副作用の発症リスクの有無の推定結果を取得するものである。
【0052】
なお、当該一組の質問の送信は、ユーザが購入した物品を配送の際に行えばよい。具体的には、例えばその物品配送日の当日、その日から数日前又は数日後、その日から1週間前又は1週間後とすることができる。さらに、当該一組の質問の送信は、これらに代えて又はこれらとともに、ユーザからの要求があったときとすることもでき、特に、何日か摂取していたところ徐々に何らかの症状が現れる場合もあるから、当該一組の質問の再送要求があったときとすることもできる。
【0053】
また、この送信は、副作用発症リスク推定システムの管理者が管理者端末500を操作して、或いは、当該管理者が操作をすることなくいわば自動的に行うことができる。なお、一組の質問の内容は、頻繁に変更する必要があるという性質のものではないから、サプリメントの提供をするたびにいわゆるプッシュ型で送信するのではなくて、一組の質問が記載されていて一組の回答を行うことができるウェブページにユーザがアクセスしたことに応じていわゆるプル型で送信してもよい。
【0054】
一例を挙げると、
(1)毎月1日~10日頃に、副作用発症リスク推定システムの管理者が、管理者端末500を操作して、そのサプリメントに割り当てられたロット番号を、当該ユーザのユーザIDと紐付けた状態でDB400に順次格納し、
(2)毎月11日~15日頃に、ユーザに対してサプリメントを供給するとともに、クライアント装置100に対して一組の質問を送信するように、サーバ装置200に対して順次指示をする、
とすることができる。
【0055】
なお、例えば、ある月にDB400に格納されるロット番号が「0001」及び「0002」というように複数となる場合もある。したがって、例えば、ユーザAにはロット番号「0001」が割り当てられているサプリメントが、ユーザBにはロット番号「0002」が割り当てられているサプリメントが、それぞれ供給されることもある点には留意されたい。
【0056】
また、推定装置300に対する当該一組の回答とロット番号とのセットを入力するタイミングは、通信手段210がそれらを受信する都度行えばよいが、数回分の受信がされたことを条件に行ってもよい。
【0057】
(動作の説明)
図3及び図4は、図1に示す副作用発症リスク推定システムの主な動作を示すフローチャートである。なお、図3及び図4には、クライアント装置100Aに関する処理を示しているが、他のクライアント装置100B~100Nに関しても同様の処理が実行される。
【0058】
<初期設定完了前の処理>
この処理については、図3に示している。まず、ユーザの操作に従って、クライアント装置100Aでは、通信手段110によって、ネットワーク600を介してサーバ装置200に対して初期設定事項の入力欄が記載されたウェブページの送信要求を行う(ステップS1)。
【0059】
上記送信要求は、例えば、副作用発症リスク推定システムに係るウェブページに、初期設定事項の入力欄が記載されたウェブページに割り当てられているURLを紐付けた「新規ユーザ登録」ボタンを設けておき、そのボタンをユーザがマウスでクリック等の操作をした場合に行えばよい。
【0060】
サーバ装置200では、通信手段210によって、上記送信要求を受信し、これに応じてネットワーク600を介してクライアント装置100Aに初期設定事項の入力欄が記載されたウェブページを構成するデータを送信する(ステップS2)。
【0061】
クライアント装置100Aでは、通信手段110によって、初期設定事項の入力欄が記載されたウェブページが記載されたウェブページを構成するデータを受信すると、提示手段120によって、ブラウザにレンダリングさせ、当該ウェブページをユーザ情報入力画面としてディスプレイに表示させる。これにより、ユーザは、そのウェブページを通じてユーザ情報を入力することができる。
【0062】
クライアント装置100Aでは、ユーザが実際にそれらのユーザ情報を入力して送信ボタンをタップするなどの操作をすると、通信手段110によって、ユーザ情報をネットワーク600を介してサーバ装置200に送信する(ステップS3)。
【0063】
サーバ装置200では、通信手段210によって、クライアント装置100Aから送信されたユーザ情報を受信すると、当該ユーザに対してユーザが希望するユーザIDが固有であることを条件に、当該ユーザに当該ユーザIDを割り当てるともに、当該ユーザIDと当該ユーザ情報とを紐付けてDB400に格納する(ステップS4)。
【0064】
以上の一連の処理が実行されると、初期設定が完了する。したがって、その後、ユーザにサプリメントを供給するとともに、以下に説明するような一組の質問と一組の回答とのやり取りをして、サプリメントについての副作用の発症リスクがあると推定された場合には、そのことをユーザに提示することが可能になる。
【0065】
<初期設定完了後の処理>
この処理については、図4に示している。例えば、毎月1日~10日頃になると、管理者端末500は、副作用発症リスク推定システムの管理者の操作に従って、そのサプリメントに割り当てられたロット番号を、当該ユーザのユーザIDと紐付けた状態でDB400に格納する(ステップS5)。
【0066】
また、管理者端末500は、例えばユーザに対するサプリメントの供給後における、副作用発症リスク推定システムの管理者の操作に従って、クライアント装置100Aに対して一組の質問を送信するように、サーバ装置200に対して指示をする(ステップS6)。
【0067】
サーバ装置200では、管理者端末500からの送信指示があると、これに従ってDB400に格納されている当該一組の質問が記載されたウェブページを構成するデータを読み出し、DB400に格納されているユーザの氏名を当該ウェブページに表示されるようにして、通信手段210によって、ネットワーク600を介してクライアント装置100Aに対して送信する(ステップS7)。
【0068】
なお、ステップS7の処理を実行するためには、サーバ装置200は、管理者端末500からの送信指示があると、DB400に格納されているクライアント装置100Aを操作するユーザのユーザ情報から、そのメールアドレス宛へのメール、副作用発症リスク推定プログラムによるいわゆるプッシュ通知などによって、クライアント装置100Aに対して当該一組の質問が記載されたウェブページのURLを事前に送信して、副作用発症リスク推定システムにログインした状態でクライアント装置100Aから当該ウェブページの送信要求をさせればよい。
【0069】
クライアント装置100Aでは、通信手段110によって、サーバ装置200から送信される当該一組の質問が記載されたウェブページを構成するデータを受信すると、提示手段120によって、ブラウザにレンダリングさせた当該ウェブページを一組の回答入力画面としてディスプレイに表示させる。このため、ユーザは、そのウェブページを通じて一組の質問に対する一組の回答を入力することができる。
【0070】
クライアント装置100Aでは、ユーザが実際にそれらの一組の回答を入力して送信ボタンをタップするなどの操作をすると、通信手段110によって、当該一組の回答をネットワーク600を介してサーバ装置200に送信する(ステップS8)。
【0071】
サーバ装置200では、通信手段210によって、クライアント装置100Aから送信される当該一組の回答を受信すると、回答処理手段220によって、当該ユーザIDに基づいてDB400を参照して、当該ユーザIDに対応して格納されているロット番号を読み出す(ステップS9)。
【0072】
それから、サーバ装置200では、回答処理手段220によって、当該一組の回答と当該ロット番号とのセットを、推定装置300に入力する(ステップS10)。
【0073】
ステップS1~ステップS10の処理が、クライアント装置100Aのみならず、他のクライアント装置100B~100Nに対しても順次実行されていくと、やがて、クライアント装置100の総数(ユーザの総数)に対して、当該ロット番号が割り当てられているサプリメントの副作用の発症リスクの有無を統計的に推測できるに足る数の一組の回答が、推定装置300に入力されることになる。
【0074】
このため、既述の例に従えば、推定装置300では、人工知能によって、一組の回答とロット番号との複数のセットを入力値とした、ロット番号「0001」~「0010」に係る「00」という出力値、及び、ロット番号「0011」に係る「01」という出力値によって、副作用の発症リスクの有無等を統計的に推測できる。
【0075】
推定装置300は、このような推測に従う副作用の発症リスクの有無等の推定結果を、ネットワーク600を介してサーバ装置200に送信する(ステップS11)。
【0076】
サーバ装置200では、推定装置300からの副作用の発症リスクの有無等の推定結果を受信すると、回答処理手段220によって、DB400に格納されている副作用の発症リスクの有無等が記載されたウェブページのひな形を構成するデータを読み出し、DB400に格納されているロット番号を当該ウェブページに付記するなどしてから、通信手段210によって、副作用の発症リスクの有無等の推定結果をネットワーク600を介してクライアント装置100に送信する(ステップS12)。
【0077】
クライアント装置100Aでは、通信手段110によって、副作用の発症リスクの有無等の推定結果が記載されたウェブページを構成するデータを受信すると、提示手段120によって、ブラウザにレンダリングさせ、当該ウェブページをディスプレイに表示させる。このため、ユーザは、そのウェブページを通じて副作用の発症リスクがあると推定されたサプリメントの摂取を控えることが可能となる。
【0078】
以上、主として、本実施形態の副作用発症リスク推定システム及び副作用発症リスク推定システム用クライアント装置100について説明したが、通信手段110及び提示手段120が実行する処理は、副作用発症リスク推定プログラムによって実現してもよい。
【0079】
ただし、当該プログラムは、必ずしもクライアント装置100にインストールしなければならないものではない。ただし、このプログラムをクライアント装置100にインストールすれば、ユーザにとっては操作負担が少なくなるという利点があり、また、態々、当該プログラムをインストールするユーザであれば悪意のある恣意的な回答をしない蓋然性が高くなるという利点もある。

図1
図2
図3
図4