(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019847
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】加熱調理器
(51)【国際特許分類】
H05B 6/68 20060101AFI20240206BHJP
F24C 7/02 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
H05B6/68 320B
H05B6/68 320D
H05B6/68 320P
H05B6/68 330A
F24C7/02 325L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122578
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】沢畑 直紀
(72)【発明者】
【氏名】大都 紀之
(72)【発明者】
【氏名】栗原 誠
【テーマコード(参考)】
3K086
3L086
【Fターム(参考)】
3K086AA01
3K086AA05
3K086BB08
3K086CA11
3K086CC02
3K086DA02
3L086AA01
3L086DA18
(57)【要約】
【課題】部品点数を増やすことなく、かつ高精度にアンテナ回転を検知可能な加熱調理器を提供する。
【解決手段】加熱室と、前記加熱室内の被加熱物を加熱するためのマイクロ波を発生するマグネトロンと、前記マグネトロンに電力供給するインバータと、前記加熱室内へ前記マグネトロンで発生したマイクロ波を放射するためのアンテナと、前記アンテナの回転に伴って変動する物理量のばらつきを閾値と比較して、前記マグネトロンに供給する電力を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする加熱調理器。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱室と、前記加熱室内の被加熱物を加熱するためのマイクロ波を発生するマグネトロンと、前記マグネトロンに電力供給するインバータと、前記加熱室内へ前記マグネトロンで発生したマイクロ波を放射するためのアンテナと、前記アンテナの回転に伴って変動する物理量のばらつきを閾値と比較して、前記マグネトロンに供給する電力を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする加熱調理器。
【請求項2】
請求項1に記載の加熱調理器であって、
前記制御手段は、前記物理量のばらつきが閾値を複数回下回った場合に、前記マグネトロンの動作を停止させることを特徴とする加熱調理器。
【請求項3】
請求項1に記載の加熱調理器であって、
前記物理量は、前記インバータの電流または前記加熱室内の蒸気を検知する蒸気センサの検出値のいずれか一方、または双方であることを特徴とする加熱調理器。
【請求項4】
請求項1に記載の加熱調理器であって、
前記閾値は、前記マグネトロンに電力を供給するため該電力を変換するインバータの電流のばらつきと前記加熱室内の蒸気を検知する蒸気センサの検出値のばらつきとの合計値に対して設定されていることを特徴とする加熱調理器。
【請求項5】
請求項1に記載の加熱調理器であって、
前記アンテナの回転に伴って変動する物理量のばらつきは、前記マグネトロンによるマイクロ波の照射開始から、一定時間経過後に計測されることを特徴とする加熱調理器。
【請求項6】
請求項1に記載の加熱調理器であって、
加熱調理器は、レンジ機能とオーブン機能を有しており、レンジ機能での調理が指示されたときに、前記アンテナの回転に伴って変動する物理量のばらつきを用いた前記マグネトロンに供給する電力の制御を行うことを特徴とする加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱室内にマイクロ波を供給して被加熱物を加熱する従来の加熱調理器では、加熱効率を改善し加熱ムラを抑制するため、アンテナの回転を検知して加熱制御に利用する場合があった。
【0003】
アンテナの回転を検知する点に関して、特許文献1では、アンテナの回転を検知する回転検知手段によってアンテナの回転角度を正確に検知し、被加熱物の加熱ムラを抑制する加熱調理器が開示されている。また特許文献2では、検温手段と重量検出手段からアンテナの回転を制御する加熱調理器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-190683号公報
【特許文献2】特開2004-28361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、アンテナを回転させて、加熱室内の電界強度分布を変化させ、被加熱物の加熱ムラを抑制している。しかし、特許文献1の加熱調理器では、アンテナの回転を検知するための装置を加熱調理器内に搭載させる必要があるため、加熱調理器の部品点数が増え、製造コストが上がる課題があった。
【0006】
この点、特許文献2では、アンテナ回転検知装置を設けずにアンテナ回転を検知する加熱調理器が記載されている。しかし、その回転の制御にはノイズの発生しやすいパラメータが用いられていることから、アンテナ回転の誤検知に伴う加熱制御不良を招く虞があった。
【0007】
以上のことから本発明においては、部品点数を増やすことなく、かつ高精度にアンテナ回転を検知可能な加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するものであり、「加熱室と、前記加熱室内の被加熱物を加熱するためのマイクロ波を発生するマグネトロンと、前記マグネトロンに電力供給するインバータと、前記加熱室内へ前記マグネトロンで発生したマイクロ波を放射するためのアンテナと、前記アンテナの回転に伴って変動する物理量のばらつきを閾値と比較して、前記マグネトロンに供給する電力を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする加熱調理器。」としたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、部品点数を増やすことなく、かつ高精度にアンテナ回転を検知可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】加熱調理機の本体のキャビネットを外した状態を前面側から見た傾斜図。
【
図3】加熱調理機のキャビネット、セイフウカバーを外し、本体を右側から見た図。
【
図4】加熱調理機のキャビネット、セイフウカバーを外し、本体を後方から見た図。
【
図5】加熱調理機の操作部、パネル基板、電源基板の展開図。
【
図6】加熱調理機の加熱室の下面の構造を示した図。
【
図7】加熱調理機のキャビネット、仕切り板を外し、正面傾斜図から見た図。
【
図9】回転アンテナ19の動作を反映する物理量であるインバータの電流の時間特性を示す図。
【
図10】回転アンテナ19の動作を反映する物理量である蒸気センサコードの時間特性を示す図。
【
図11】加熱調理機のレンジ動作時の回転アンテナの動作検知の制御フロー。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を添付図面に従って説明する。なお以下の説明は、本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではない。本明細書に開示される技術思想の範囲内において、当業者による様々な変更および修正が可能であり、下記の実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号をつけ、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【実施例0012】
以下、本発明を実施するにあたり、その前提とする典型的な加熱調理器の構成例について
図1から
図8を用いて説明する。なお、加熱調理器の立体的な構成の理解を容易にするために、本発明の各実施例では、加熱調理器に相対した使用者の視線を基準として、
図1等に示すように前後・上下・左右を定義する。
【0013】
図1は加熱調理機の本体を前面側から見た斜視図である。加熱調理機の本体1は、上面及び左右側面をキャビネット2で覆い、前面に被調理物を出し入れするためのドア3を供えている。また前面には、調理メニューを設定し、或は調理開始指示を与えるための操作部6を備えており、操作部6には操作キー5,液晶表示部4を備えている。
【0014】
図2は同加熱調理機の本体1のキャビネット2を外した状態を前面側から見た傾斜図である。ドア3の内部には加熱室7が形成されており、底面には仕切り板10が設けられている。側面のキャビネット2内にはマグネトロン9やセイフウカバー8が配置されている。
【0015】
図1と
図2に示すように、加熱調理器の本体1は、加熱調理機の本体1の上面と左右側面を覆う外枠であるキャビネット2を有し、外枠の内部に形成された加熱室7に食品を入れ、マイクロ波やヒータの熱、過熱水蒸気を使用して被調理物である食品を加熱調理する。またドア3は、加熱室7の内部に被調理物を出し入れするために開閉するもので、ドア3を閉めることで加熱室7を密閉状態にし、被調理物を加熱する時に使用するマイクロ波の漏洩を防止し、ヒータの熱を封じ込め、効率良く加熱することを可能とする。
【0016】
図3はキャビネット2、セイフウカバー8を外し、本体を右側から見た図である。
図4はキャビネット2、セイフウカバー8を外し、本体を後方から見た図である。これらの図によれば、キャビネット2、セイフウカバー8のさらに内部には、電力変換ユニット11,冷却ファン12,電源基盤13などが収納されている。
【0017】
図5は操作部6、パネル基板14、電源基板13の展開図である。マイクロ波加熱やヒータ加熱等の加熱手段を選択し、加熱する時間等と加熱温度など加熱条件を入力するための操作部6は
図1に示したように操作キー5と液晶部4からなる。操作部6の裏側にはマイコン15を有したパネル基板14、さらにその裏には電源基板13が設けられている。また加熱室の右側面には、マグネトロン9、電力変換ユニット11といった電気部品が設けられており、前記の電気部品を冷却するための冷却ファン12を有している。
【0018】
図6は加熱室7の下面の構造を示した図である。
図7はキャビネット2、仕切り板10を外し、正面傾斜図から見た図である。
図8は
図7のAA断面図である。これらの図によれば、加熱室下面にはマグネトロン9に接続された導波管16、後述するアンテナを回すアンテナモータ17が取り付けられている。加熱室7の底面は、中央部が凹状に窪んでおり、その中に回転アンテナ19が設置され、マグネトロン9より放射されるマイクロ波エネルギーが導波管16、回転アンテナ19の出力軸20が貫通する開孔部21を通して回転アンテナ19の下面に流入し、該回転アンテナ19で拡散されて加熱室7内に放射される。加熱室7の上方の加熱室天面の右奥側にサーミスタによって加熱室7内の雰囲気室温度を検出する蒸気センサ19を設けている。
【0019】
図1から
図8により説明した一般的な加熱調理器は、ヒータ加熱によるオーブン機能とマイクロ波加熱によるレンジ機能を併せ持っているが、本発明はレンジ機能を用いるときに適用される。オーブン機能では、本発明において回転を検知対象とする回転アンテナ19を使用していないので、本発明の適用外である。
【0020】
係る加熱調理器によれば、外部電源からの電力を電力変換ユニット11内のインバータを介して適宜の電圧値、適宜の周波数値の電力に変換して、ヒータ(オーブン機能使用時)あるいはマグネトロン(レンジ機能使用時)及びこれらに付随する各種の機器に電力供給している。この場合の電力は、操作部6の操作キー5からの指示を受けたマイコン15(制御部)が、電力変換ユニット11内のインバータの点弧タイミングを調整することで所望の目的に合致した電圧、周波数のものとされる。
【0021】
レンジ動作時はマイクロ波を放射するために回転アンテナ19が回転するが、アンテナモータ17の故障等により停止する場合が想定される。回転アンテナ19が停止状態でレンジ動作を続けると、マイクロ波が一極集中し異常加熱や加熱むら等の不具合が発生する恐れがある。そのため、レンジ動作時は回転アンテナ19の動作検知を行い、アンテナ異常停止時にはレンジ動作を停止する制御を行う。
【0022】
本発明では、レンジ動作時における回転アンテナ19の動作検知を、機械的に行うのではなく、マイコン内のソフト処理により検知したものである。
図5のパネル基盤14に搭載されるマイコン15は、操作部6の操作キー5からの各種指示を受け付け、加熱調理器内の各種センサからの入力を得て、加熱調理器内の各部に各種指示(出力)を与えている。
【0023】
これら入力や出力はそれぞれ多数に亘るが、本発明の場合には、操作部6の操作キー5からの指示はレンジ機能を用いる調理であり、各種センサからの入力は回転アンテナ19の動作を反映する物理量を与えるセンサであり、出力は回転不良に伴う加熱停止または終了の指示、表示である。
【0024】
ここで、回転アンテナ19の動作を反映する物理量を与えるセンサとは、その一つ目はマグネトロン9や回転アンテナ19に電力を与えるインバータの電流であり、
図5の電源基盤13内の図示せぬ検出回路で検出したインバータの電流がマイコン15の入力とされたものである。
【0025】
またその2つ目は、
図7に示した蒸気センサ18が与える蒸気センサコードの情報である。なお蒸気センサ18とは、管タイプのサーミスタの先端部がむき出しになったものであり、単にサーミスタとするよりも熱に対してより敏感に反応するものである。このため、蒸気センサ18は、広い意味ではサーミスタということができる。
【0026】
本発明では、これらの回転アンテナ19の動作を反映する物理量が、
図9、あるいは
図10のような特性を有していることを新たに発見したことに基づいて、なされたものである。なお、
図9、
図10の横軸は、レンジ動作開始後の時間を表している。
【0027】
図9によれば、回転アンテナ19の動作を反映する物理量であるインバータの電流(ここではインバータ入力電流)は、アンテナ回転時Aとアンテナ停止時Bのいずれにおいても変動しているが、アンテナ回転時Aのほうが、アンテナ停止時Bよりも変動幅が大きく表れている。また
図10の蒸気センサコードの情報についてみても、回転アンテナ19の動作を反映する物理量である蒸気センサコードの情報は、アンテナ回転時Aは大きく変動しているが、アンテナ停止時Bでは略0値を示し、変動幅が大きく表れることはない。
【0028】
回転アンテナ19の動作を反映する物理量は、
図9、
図10のような時間特性を呈することに鑑み、本発明ではマイコン15内において
図11のソフト的な処理を実行する。
図11はレンジ動作時の回転アンテナ19の動作検知の制御フローを示す。このフローは、処理ステップS11において、レンジ動作のメニューが選択され動作したことを前提条件として処理開始される。オーブン動作では開始されない。
【0029】
レンジ動作時の最初の処理ステップS12では、回転アンテナ19の動作を反映する物理量としてインバータの電流(図示では電力変換ユニットと表記)、または蒸気センサコードのいずれか又は双方を入力し、レンジ動作開始15秒から75秒時点までの約60秒間の電力変換ユニット11の入力電流値と蒸気センサ18のコード値を記録する。なお以下では、双方を使用する例について示す。ここで、このような時間帯を採用した点について、開始15秒間は電力変換ユニット11の立ち上がり時間となり、入力電流値が安定しないので開始15秒後からの値を使用するものである。
【0030】
そのうえで処理ステップS12では、測定後、マイコン15で前記記録値それぞれの分散を計算する。ここでは、分散は回転アンテナ19の動作を反映する物理量の時間経過におけるバラツキの度合いを数値化した指標であり、バラツキの度合いが数値化できれば分散に限定されるものではない。例えば、インバータ電流が第一の閾値を超過した回数を数値化した指標としてもよい。第一の閾値がアンテナ回転時Aとアンテナ停止時Bを識別可能な大きさの値に設定されていればよい。例えば、アンテナ回転時の判定精度と、アンテナ停止時の判定精度が各々100%、99%となるようなばらつきの度合いを数値化して得られる値であると望ましい。
【0031】
処理ステップS13では、電力変換ユニットと蒸気センサの「分散」の合計が設定した閾値より大きいことを確認する。電力変換ユニットと蒸気センサのどちらかにノイズが発生した場合であっても、どちらか一方の正常な分散によって値が補正され、誤検知の防止につながることから、閾値を分散の合計と比較することが望ましい。ここでは分散の合計を確認する判断処理としているが、これはインバータの電流と蒸気センサ2つのAND条件による判断としたものであるが、いずれかにおける超過を判断するOR条件とするものであってもよい。OR条件とした場合、閾値は、電力変換ユニットの入力電流値の「分散」と、蒸気センサの「分散」のそれぞれに設定される。
【0032】
処理ステップS13の判断により、計算した値が、閾値より大きければ処理ステップS14に移り通常動作を続ける。小さければ回転アンテナ19が異常停止していると判断し、処理ステップS17に移り加熱を停止(マグネトロンへの電力供給の停止)し、エラー表示を液晶部4に表示する。
【0033】
ただし、誤検知でのエラー停止を防止するため
図11では処理ステップS15において三回連続での停止判定でレンジ動作を停止する。一回目、二回目の停止判定では処理ステップS16においてレンジ出力を250Wに低下し、安全性を担保する。
【0034】
図11の処理内容によれば、アンテナモータの回転が機械構造的にではなく、ソフト処理により検知可能であることから部品点数低減に貢献可能であり、またバラツキの度合いを把握することから早期検知に貢献可能であり高精度に把握することが可能である。