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特開2024-19850洗浄装置、洗浄システムおよび洗浄方法
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  • 特開-洗浄装置、洗浄システムおよび洗浄方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019850
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】洗浄装置、洗浄システムおよび洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   D06F 35/00 20060101AFI20240206BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20240206BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20240206BHJP
   B08B 3/10 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
D06F35/00 Z
B08B3/08 Z
B08B3/02 D
B08B3/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122581
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤森 正成
(72)【発明者】
【氏名】林 正二
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 功一
(72)【発明者】
【氏名】京谷 浩平
【テーマコード(参考)】
3B168
3B201
【Fターム(参考)】
3B168AA22
3B168AB01
3B168AE05
3B168BA23
3B168BA26
3B168BA42
3B168BA43
3B168BA47
3B168FA01
3B168FA12
3B201AA46
3B201AB03
3B201BB02
3B201BB22
3B201BB44
3B201BB96
3B201BC01
3B201CD42
3B201CD43
(57)【要約】
【課題】
機械力を使用せず、洗浄対象物の一部に付着した汚れを目標にして洗浄が可能な洗浄装置、洗浄システムおよび洗浄方法を提供する。
【解決手段】
本発明の洗浄装置10aは、洗浄対象物15および洗浄液14を収容する洗浄槽11と、光源12とを備え、洗浄対象物15を洗浄液14に浸漬した状態で、光源12から洗浄対象物15に光を照射することを特徴とする。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄対象物および洗浄液を収容する洗浄槽と、光源とを備え、
前記洗浄対象物を前記洗浄液に浸漬した状態で、前記光源から前記洗浄対象物に光を照射することを特徴とする洗浄装置。
【請求項2】
前記洗浄液は、前記光源から照射された光によってラジカルを発生することを特徴とする請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
前記光は波長が350nmより長く、450nm未満であることを特徴とする請求項2に記載の洗浄装置。
【請求項4】
前記洗浄液が過酸化水素を含む液であり、前記ラジカルがヒドロキシラジカルであることを特徴とする請求項2に記載の洗浄装置。
【請求項5】
前記洗浄液が過酸化水素を含む溶液であり、濃度が1w/w%以上15w/w%以下であることを特徴とする請求項2に記載の洗浄装置。
【請求項6】
前記光源を前記洗浄槽内で移動させる移動機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項7】
前記洗浄液を前記洗浄対象物の任意の箇所に噴射する洗浄液噴射装置を有することを特徴とする請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の洗浄装置と、
前記洗浄装置の各構成の動作を制御する制御部を備える洗浄システム。
【請求項9】
前記洗浄対象物の画像を取得し、前記洗浄対象物における汚れ箇所を特定する汚れ箇所特定手段と、
前記汚れ箇所における少なくとも汚れ量を含む前記洗浄対象物の汚れ情報を推定する汚れ情報推定手段と、前記汚れ情報に基づいて前記汚れ箇所に向けて洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、
前記汚れ情報に基づいて前記汚れ箇所に照射する前記光のパラメータを決定する光照射手段と、を備え、
前記光照射手段は前記汚れ情報に基づいて少なくとも前記洗浄対象物に照射する前記光の強度、前記光の照射時間、前記洗浄液の濃度のいずれか、もしくはそれらの任意の組合せを調整する請求項8に記載の洗浄システム。
【請求項10】
洗浄槽の内部に洗浄対象物を設置する工程と、
前記洗浄対象物に洗浄液を供給する工程と、
前記洗浄対象物が前記洗浄液に浸漬した状態で、光源から前記洗浄対象物に光を照射することを特徴とする洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄装置、洗浄システムおよび洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衣類等の繊維製品の洗浄は、洗濯機を使って行われる。洗濯機は被洗浄物を水に浸漬し、水を回転・撹拌して付着した汚れを除去する。業務用の洗濯機であれば水の代わりに有機溶剤を用いることも一般的に行われる。こうした洗浄方法における汚れ除去効果の源泉は、機械力である。水や有機溶剤などの液体を機械的に動かすことにより繊維類に動きを伝達し、機械的な力で汚れを繊維から剥離させる。縦型洗濯機では繊維類を比較的多量の液体に浸漬し、液体の回転を利用して繊維類の運動と繊維類同士の接触により汚れを洗浄する。一方、ドラム型洗濯機では比較的少量の液体に繊維類を入れ、ドラムの回転に伴う液体を介した繊維類の運動に加え、繊維類をドラム上方から落下させることによる衝撃で汚れを落とす効果も加味される。両者の動きに多少の違いはあれ、何れにせよ機械力に起因する洗浄効果を利用している点は共通である。
【0003】
一般的に、洗濯機では機械力として回転力が用いられる。洗濯槽の下部に設置した攪拌翼や洗濯槽自体をモーターによって回転させ、洗濯槽内の液体を回転させ、繊維類に機械力を伝達させる。モーター技術の進展に伴いモーターの静音化が進んだとはいえ、モーター本体やインバーター駆動回路、周辺の可動部分からの騒音は大きく、人が寛ぐ部屋の中に設置されるほどには静音化できていない。また、装置の体積の大半を占める領域が可動部となり回転するため、装置の振動も避けられない。このため、設置場所が限定されたり、洗濯時間が制限されるなどの課題を抱えている。
【0004】
また、洗浄対象の繊維類は洗濯槽へ投入され、洗剤による洗濯、複数回の濯ぎを経て脱水し洗濯終了となる。この間、洗剤での洗濯後や濯ぎ後に脱水も行われる。このため繊維類は洗濯槽へ投入された状態と最後の脱水が終了した時点でその形態が大きく変化している。引き続いて自動乾燥を行い収納する際や、洗濯後に外干しするために絡まった衣類をほどいたり、ねじれた衣類を解きほぐす必要がある。現在、この作業は人為的に行うしかなく、脱水以降、もしくは自動乾燥以降の作業を自動化することは難しい。
【0005】
さらに、繊維には機械力による汚れ除去の過程で折れ、曲げ、引っ張り、擦れなど多様な機械力が印加され、繊維が損傷する原因となる。こうした損傷の発生と共に繊維の破片が洗濯液の中に拡散し、最終的に洗濯機から排出される。綿や絹などの動植物起因の蛋白質であれば微生物などにより分解可能であるが、ポリエステルなどの合成繊維は分解されない。これらは最終的にマイクロプラスチックとなって海洋に排出される。即ち、現状の洗濯では、汚れ除去に必要とされる以上の機械力が印加されるため、過剰に繊維排出物が生成され、結果としてマイクロプラスチックを環境に排出する原因となっている。
【0006】
一般に、機械力による洗濯では剥離効果を促進するため、洗濯液に洗剤を溶解させて洗濯を行う。洗剤の主成分は界面活性剤で、アルキル基などの高分子を主鎖とした有機分子で構成される。洗濯後、洗剤は液体と共に洗濯機から排出され、下水を通して処理場まで運ばれる。洗剤は石けん、合成洗剤共に主に生物分解処理により分解処理されるが、その過程で微生物に酸素を送り込む曝気処理を必要とする。下水処理過程において、曝気処理を含む水処理工程は最も電力を消費する過程であり、結果的に洗濯機からの洗剤の排水は電力消費の増大をもたらす。
【0007】
更に、一般的な洗濯機では洗濯対象の繊維類を洗濯槽に完全に入れて洗濯を行う必要がある。このため、繊維類全体が洗濯対象となり、例えば一部に汚れのついた衣類であっても全体を洗浄する必要がある。全体洗浄に伴い本来洗浄不要な部分も洗浄しなければならず、洗剤量の増加や機械力による繊維破片の発生がもたらされる。仮に汚れの付着した部位とその周辺のみを限定して洗浄することができれば、必要な洗剤量の低減、不要な繊維ダメージの防止、洗濯に係る水量の減少、洗濯や排水の処理に係る電力の低減が可能となる。
【0008】
上述したように、機械力を利用する洗浄装置では、様々な課題があった。機械力を使用しない洗浄装置の従来例として、下記特許文献1がある。特許文献1には、水の共存下における紫外線照射によってヒドロキシルラジカルを生成する物質が溶解した水溶液からなる洗浄液を貯留する、溶液タンクと、洗浄液を被洗浄体の表面に付着させる、適用手段と、被洗浄体の表面に付着する洗浄液に、発光波長250nm以下の紫外発光ダイオードから発せられた紫外線を照射する、紫外線光源と
を有することを特徴とする、洗浄装置が開示されている。特許文献1によれば、被洗浄体1の表面に洗浄液を適用手段(ノズル)21によって噴霧し、被洗浄体1の表面に付着した洗浄液14に紫外線光源(紫外発光ダイオード)31によって波長250nm以下の紫外線が照射し、洗浄液14中でOHラジカルが発生し、OHラジカルの作用により被洗浄体1表面の有機物汚れが分解されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-109146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した特許文献1は、被洗浄体1として空気清浄機、エアコン、トイレの便器、浴槽、洗面用或いは流し台用のシンク、排水管、換気扇等の、表面に有機汚れが付着しやすい各種物品を想定しているが、洗浄対象として繊維からなる衣類等は想定していない。また、洗浄対象が衣類である場合は、衣類に付着した一部の汚れを落としたい場合があるが、特許文献1では被洗浄体1の一部を洗浄することは検討されていない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み、機械力を使用せず、あるいは機械力の使用を極力抑え、洗浄対象物の一部に付着した汚れを目標にして洗浄が可能な洗浄装置、洗浄システムおよび洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、洗浄対象物および洗浄液を収容する洗浄槽と、光源とを備え、洗浄対象物を洗浄液に浸漬した状態で、光源から洗浄対象物に光を照射することを特徴とする洗浄装置である。
【0013】
また、上記目的を達成するための本発明の他の態様は、上記本発明の洗浄装置と、洗浄装置の各構成の動作を制御する制御部を備える洗浄システムである。
【0014】
また、上記目的を達成するための本発明の他の態様は、洗浄槽の内部に洗浄対象物を設置する工程と、洗浄対象物に洗浄液を供給する工程と、洗浄対象物が洗浄液に浸漬した状態で、光源から洗浄対象物に光を照射することを特徴とする洗浄方法である。
【0015】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、機械力を使用せず、洗浄対象物の一部に付着した汚れを目標にして洗浄が可能な洗浄装置、洗浄システムおよび洗浄方法を提供できる。
【0017】
上記に記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】実施例1の洗浄装置を示す模式図
図1B】実施例1の洗浄装置を示す模式図
図2】実施例1の洗浄システムの一例を示すブロック図
図3】実施例2の洗浄装置の模式図
図4】実施例2の洗浄システムのブロック図
図5】実施例4の洗浄装置を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
【実施例0020】
[洗浄装置および洗浄システム]
(1)洗浄装置の構成
図1Aおよび図1Bは実施例1の洗浄装置を示す模式図である。図1Aに示すように、本発明の洗浄装置10aは、洗浄対象物15および洗浄液14を収容する洗浄槽11と、洗浄槽11に供給される洗浄液14と、光源12とを備える。洗浄対象物15を洗浄液14に浸漬した状態で、光源12から洗浄対象物15に光13を照射する構成を有している。
【0021】
洗浄槽11には開閉扉17が設けられており、開閉扉17より洗浄対象物15の洗浄槽11への投入・取り出しを行う。洗浄液14は、図1Bに示すように、洗浄槽11に接続された液体供給管18によって洗浄槽11に供給される。また、洗浄槽11に接続された液体排出管19によって洗浄槽11から排出される。
【0022】
光源12は、図示しないが、移動機構を備えており、図1Aに示す矢印方向に移動可能な構成を有している。図1Aに示す例では、洗浄対象物15を静置する面(長方形)の短辺軸方向全てに一次元形状の光源(線光源)が配置されているため、矢印16で示す長方形の長辺軸に沿って移動できれば洗浄対象物15の表面(洗浄対象物15の洗浄槽11の底面に接触している面と反対側の面)のどのような箇所にも光13を照射することができる。光源12は、選択条件に合わせて所定の領域を走査し、洗浄対象物15の所定の箇所に光13を照射する。
【0023】
ここでは線光源を用いたが、点光源や面光源を用いてもよい。点光源の場合、洗浄対象物15の任意の表面に光照射するために、光源の移動に二軸方向の自由度が必要となる。また、単位面積当たりの光強度エネルギーが同一の光源を使用する場合、広範囲に光照射を行うためにはより長い時間を必要とする。一方、狭い領域への光照射の場合、点光源が必要な領域に限定して光照射が可能であるのに対し、線光源が一本の放電ランプの様な一つの光源から構成される場合、無駄な光照射を行わなければならず、エネルギー消費が増えてしまう。線光源をLEDの様な点光源の集合で構成する場合、無駄なエネルギー消費を避けるためには各光源の点灯と消灯を個別に制御する必要がある。このため、光源駆動回路が複雑になるデメリットが生じる。面光源との比較も同様で、広範囲に光照射を行う場合は面光源に処理時間のメリットがあり、一方で局所的な光照射の場合、点光源の方が消費エネルギーを低減できる、もしくは光源点灯の制御回路をシンプルに構成できるメリットがある。したがって、光源12は、用途に応じて点光源、線光源または面光源を選択することが望ましい。
【0024】
洗浄槽11は、金属製であることが好ましい。洗浄槽11の内部表面を金属で構成すると、金属面で反射された光が洗浄対象物15に照射されるため、光源が直接照射されない部分も洗浄することができる。このため、金属表面は光沢のある表面としておくと良い。また、使用する光を十分に透過する材料、例えばガラスや透明樹脂を底面に用いると光源12を底面側に配置することができる。これにより、洗浄槽11の上面を開閉扉17とする場合の設計や操作性が容易になる。更に、開閉扉17側(洗浄対象物15の表面側)と底面側(洗浄対象物15の裏面側)の両側に光源12を配置することもできる。この場合、部品や制御機構のコストアップが発生するが、洗浄対象物15の表面側および裏面側の両側からの光照射により、片側からの光照射による透過光での裏面側洗浄に比べ、洗浄力を容易に上げることができる。また、光源12を両側に光源を配置することにより、片側照射に比べ、照射強度の低い光源で賄うことができる。光源12にLED(Light Emittinng Diode)を用いる場合、高出力の紫外線LEDは高価であるため、一定の洗浄力を保持しつつコストを抑えることができる。また、一つの光源12からの発熱の抑制、熱発生源の分散など、熱設計的にも利点がある。
【0025】
(2)洗浄対象物の出し入れと給排水
洗浄対象物15の繊維類の出し入れは、上述したように、図1Bに示す開閉扉17を介して行う。光源12の光照射を停止した状態で開閉扉17を開け、洗浄対象物15の洗浄面(表面)が光源12に露出するように洗浄対象物15を静置する。洗浄液14の供給は、供給管18を通して行い、排出は排出管19を通して行う。供給管18は洗浄液14を溜めておくタンク(図示せず)に接続され、ポンプ(図示せず)等により所定の量を洗浄槽11内へ供給する。経路の途中に流量計やバルブを設置し、洗浄液14の供給量を制御することにより、液量を精度よく調整できる。排出管19もバルブ(図示せず)に接続することで、洗浄槽への液体の貯留と排出を制御することができる。
【0026】
(3)洗浄対象物への洗浄液の供給
図1Aおよび図1Bに示す通り、本実施例では1つの配管(供給管18)を介して洗浄液を供給する例を示したが、他の方法で供給する方が良い場合もある。例えば、図1Aに示すような洗浄槽11上方に光源12を配置する構成の場合、光源12近傍にノズルを設置することができる。例えば、フレキシブル配管を用い、バルブを介してタンクに接続することで、洗浄対象物15の上部から洗浄液を供給できるようになる。この方法は、ノズルのヘッドを可動にすることにより、洗浄液14の供給場所も可変となるため、ノズルの選択による液の供給形態、例えば滴下や噴霧、噴射と組み合わせることにより、洗浄対象物15への洗浄液14の供給箇所と量を細かく管理することが容易となる。図1Bの様に、洗浄槽11の壁面から洗浄液14を供給する場合でも管の先端にノズルを取り付けて供給形態を変えることは可能である。しかし、管の取り付け場所が固定されているため、液供給場所を制御することは難しい。
【0027】
(4)洗浄の原理
本実施例では、洗浄液14として、光源12からの光の照射によってラジカルを発生する物質を使用する。本実施例の洗浄装置はこの酸化力の強いラジカルを用いて洗浄対象物15表面の汚れ(難分解性分子等)を酸化分解することができる。このようにラジカルを用いた分解は、促進酸化処理(Advanced Oxidation Process)と呼ばれる。ラジカルを発生する物質として、例えば過酸化水素水が挙げられ、これを含有する液体であってもよい。例えば、炭酸ナトリウム過酸化水素化物(過炭酸ナトリウム)等を用いることで、ヒドロキシラジカルを発生することができる。濃度は洗浄対象の汚れの程度及び洗浄に掛けられる時間に依存するが、過酸化水素水の場合、質量百分率(w/w%、以下単に%と表記)で1~3%程度の濃度から、高くても15%程度であればよい。濃度が15%よりも高いと、洗浄対象物15を構成する繊維と汚れの種類によって、繊維のダメージや衣類の色落ちが顕著になる場合がある。過酸化水素水を含有する液体の場合、液体中の過酸化水素濃度が、過酸化水素水濃度と同程度になるように調整する。
【0028】
光源12の波長は、洗浄液14の種類にもよるが、過酸化水素からヒドロキシラジカルを発生するためには、可視光から紫外線の範囲を選択する。ただし、長波長側の光はヒドロキシルラジカルの生成効率が悪いか、或いは生成することができないため、450nmよりも短波長の波長が望ましい。一方、短波長側はヒドロキシラジカルの生成効率は高くなるものの洗浄対象の繊維が受けるダメージも大きくなるため、350nmよりも長波長側が望ましい。汚れの種類によっては350nm近辺の波長であってもダメージが大きい場合があるため、360nmより長い波長がより望ましい。光源は機械的強度や大きさ、電力効率、寿命の観点から放電管式ランプではなくLEDやLD(レーザーダイオード)が適している。LEDの場合、この波長範囲では365nmから5nm刻みで405nmまでの光源が容易に入手できる。本実施例では365nmと405nmの光源を用いた。また、比較の為、ブラックライト蛍光ランプを使い352nmの光源も使用した。
【0029】
[洗浄システム]
図2は実施例1の洗浄システムのブロック図である。図2に示す洗浄システム20aは、先に説明した洗浄装置10aを備える洗浄システムである。具体的には、洗浄装置10aの各部の動作を制御する装置を示している。
【0030】
給排液配管はバルブに接続され、液体の供給と排出を制御できるようになっている。供給側は更に流量計を介してポンプにつながり、最終的に薬液タンクに接続される。タンク内の液体はポンプで加圧されて配管へ送り出され、流量計で流量をモニタしながらバルブで流量を制御する。配管の径が決まればポンプの圧力を制御することにより流量を制御できるため、その場合、流量計は不要である。また、流量をゼロに設定できるポンプであればバルブは不要である。
【0031】
給水ポンプや給水バルブは制御信号線21を介して洗浄機制御部と接続されており、洗浄機制御部は洗浄条件に応じて制御信号を出力して洗浄容器に所定の液量を供給したり、洗浄後の洗浄液の排出を制御する。流量計は洗浄機制御部が液体の流量を読み取れるよう計測値を信号線で伝達する。洗浄容器には薬液の洗い流しや洗浄対象の衣類を濯ぐために市水が供給できるようになっていてもよい。図2では給水バルブに市水を供給する市水給水管24が接続されている。この場合、バルブは三方向バルブを用いる。
【0032】
図2は電源線を省略しているが、洗浄機のコンセントを介して受電した電力を各部に供給する配線を備える。洗浄容器に付属する光源には電源配線22を介して光源用電源が接続される。光源用電源には光源駆動回路が接続され、光源を点灯するために必要な電流と電圧波形を作るよう光源用電源を制御する。光源駆動回路も洗浄機制御部と接続される。洗浄過程に応じて光源の点灯や消灯の制御指令を受け、その指令に応じて光源に適宜電力供給を行う。
【0033】
[実験]
汚れの種類、光源12から照射する光の波長、光の照射時間および過酸化水素の濃度を変えて、洗浄対象物15の洗浄効果を検証した。洗浄対象物15として、IEC(International Electrotechnical Commission)60456に規定されている5種類の人工汚染布(皮脂を模擬した油脂混合物と顔料からなる汚れ、煤と鉱物油を主成分とする汚れ、血液を経時変化させた汚れ、牛乳とココア油脂を主成分とした汚れ、赤ワインを経時変化させた汚れがそれぞれ付着した木綿布)を用い洗浄力を評価した。1種類の人工汚染布を洗浄容器に入れ、濃度3%に調整した過酸化水素水を薬液として洗浄容器に供給する。薬液は人工汚染布が完全に浸漬するまで供給した。その後、所定の光源で容器上部から光を照射する。波長405nmの光源は800mWで5分、365nmの光源は100mWで60分、352nmの光源は1.3mWで62時間それぞれ光照射を行った。光照射後、洗浄液14を排出し、市水を洗浄槽11に導入し、排出することによりすすぎを行った。すすぎは3回実施した。その後、人工汚染布を容器から取り出し、太陽光が当たらない様屋内で平置きして一晩乾燥させた。太陽光が当たらないようにしたのは後述する色測定による洗浄力の定量化で洗浄以外による色変化を避けるためである。尚、光照射の際もすすぎの間も人工汚染布を動かしたり薬液を撹拌したり、洗浄容器を揺するなどの機械的な力は加えていない。これを各人工汚染布に対して行った。
【0034】
洗浄力を比較した結果を表1にまとめた。洗浄力は洗浄前後での布の色によって比較した。まず各人工汚染布の洗浄前後の色を計測し、L色空間内の色座標を求める。それぞれの色座標から未使用木綿布の色空間座標との距離ΔEを計算し、それらの比を洗浄力の指標とした。洗浄により汚れが落ちて人工汚染布の色が未使用の木綿布に近づくほど未使用汚染布の色座標に近づくため、比もゼロに近い値となる。一方、洗浄で汚れがあまり落ちない場合、色空間での距離が元の人工汚染布と未使用木綿布の距離に近い値となるため、比は1に近い値となる。そこでこの比を汚れ残存率(%)と呼ぶ。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示す通り、汚れの種類によって多少ばらつきはあるものの、総合的に見て光源波長352nmでの汚れ残存率が優れており、以降365nm、405nmの順であった。ただし、352nmの光では、血液を経時変化させた汚れを付着した木綿布が損傷した。過酸化水素水の濃度を高めた場合や、過酸化水素水濃度は変えず光照射時間を長くした場合、血液を経時変化させた汚れや牛乳とココア油脂を主成分とした汚れが付着した人工汚染布に関しては、365nmや405nmの光源でも汚れ残存率は改善された。特に365nmについては352nmと同等の汚れ残存率を示した。
【0037】
次に、身の回りにある汚れで洗浄力を確かめた。汚れとして辣油、ソース、ドレッシング、チョコシロップ、口紅、カレー、ミートソースの7種類を選んだ。選んだ汚れのうち口紅を除き材料を木綿布の表裏に十分付着させてしばらく放置した後、乾燥した不織布で挟んで押さえ生地にしみ込まなかった残分を取り去った。それを一晩乾燥させ、汚染布とした。口紅は木綿布の片面に概ね3cm角の領域を塗りつぶすように塗った。口紅以外の材料も同程度の面積に塗布している。これは洗浄力を定量化する際に光の反射スペクトルから色を求めるため、一定の面積を持った領域が必要となるからである。その後、上述した方法と同様にして洗浄を行い、さらに洗浄力を定量化した。洗浄時に照射する光の波長を365nmとしてそれぞれ1時間、3時間、5時間照射した場合の汚れの残存率を表2に示す。表2に示す通り、口紅に対する効果は低いものの、その他の汚れに対しては概ね汚れ残存率が10%程度を得られる条件があり、本方法による洗浄力を確認できた。
【0038】
【表2】
【0039】
また、各汚れに対して、照射する光の波長を352nmとし、過酸化水素濃度を3%、10%、15%に変えて汚れの残存率を評価した結果を表3に示す。表3に示す通り、口紅に対する効果は低いものの、その他の汚れに対しては概ね汚れ残存率が10%程度を得られる条件があり、本方法による洗浄力を確認できた。
【0040】
【表3】
【実施例0041】
図3は実施例2の洗浄装置を示す模式図である。本実施例の洗浄装置10bは、洗浄対象の汚れを観察し、そこから得られた情報に基づいて衣類を洗浄する方法の一例である。図1の洗浄装置10aと異なる点は、光源の駆動機構をXYの2軸に変更した点にある。一方の移動軸を担うステージ51に、それと直交方向の移動を担うステージ52が接続されている。52にはヘッド53が接続されており、このヘッドが2軸方向に移動し洗浄槽50の床面の任意の位置を指し示すことができる。図3では省略しているが、ヘッド53には光照射の為の光源、薬液散布の為のノズルに加えヘッド下を観察するためのカメラがマウントされている。これらに必要な制御系や用役類はステージの移動に差し支えない様に洗浄容器外に導出する。
図4は実施例2の洗浄システムの構成を示すブロック図である。各制御線、電源線、配管は、XYステージを介して、それぞれ、カメラ、光源、ノズルに接続される。カメラの信号線は、カメラ制御だけでなく撮影した像を送信するデータ線も含まれる。尚、XYステージの代わりに多関節のアームを用いてもよい。
【0042】
洗浄槽50に洗浄対象の繊維類を入れた後、条件入力部で洗浄開始の指示を入力する。3方向バルブの入力を薬液タンクに切り替えた後、ポンプを駆動しヘッドのノズルから薬液を洗浄容器内に供給する。ノズルは液体の圧力だけで散布が可能な1流体ノズルを使うと構成や制御が容易である。その他に留意すべき点としては耐薬品性があること、単位時間当たりの液体供給量、供給時の液体散布パターンである。過酸化水素水を薬液として使用する場合は酸性の液体であり、一方過炭酸ナトリウムなどの過酸化水素化物では弱アルカリ性となる。
【0043】
後述する実施例3で述べる部分洗浄の様に、液体供給場所を限定する場合は単位時間当たりの液量が少なく散布領域も限定できる方がよいが、洗浄槽全体に液体を溜め被洗浄物を浸漬して洗浄する場合は噴霧パターンに無関係に供給量を重視した方が良い。ただし、供給量を増やすとその分ポンプの容量も大きくする必要があるため、コスト、フットプリント、動作音などとの兼ね合いとなる。
【0044】
洗浄液14は、ここでは3%の過酸化水素水を使用した。所定の薬液を容器内に注入した後、ポンプを停止し供給を止める。薬液の供給量は繊維類が充分浸漬した状態にあるかどうかをカメラで判定してもよいし、条件入力部で指示した条件から決定してもよい。次にステージで容器内をスキャンしカメラにて被洗浄物の像を取得し、洗浄対象の汚れを特定する。ここでは洗浄用に準備されているUV光源をカメラ用の光源としても使用し、可視光像を撮影する通常のカメラを使用した。洗浄対象物に無地の布地を用いたため、目視可能な汚れは容易に特定することができる。本実施例では木綿布に直径3cmのソースを用いた。汚れを認識したらその位置にステージヘッドを移動し、光照射を行う。本実施例では波長365nmのUV-LED4素子を集積した電球形状のUV光源を使用した。光源から被洗浄物までの距離6cmでの光強度が約40mW/cmで、光のスポット径が6cmであった。この光源を用い、汚れに1時間光照射を行った。その後、排水バルブを通して洗浄液を排水し、給水側のバルブを市水に切り替えノズルから給水してすすぎを行う。取り出して乾燥した後に既述した方法で汚れ残存率を定量化したところ10%であった。
【0045】
ここでは無地の綿の一部に目立つ汚れを付けたため、取得画像のコントラストから容易に汚れを認識でき、ステージのXY座標を記憶することにより洗浄場所の特定と保持が可能であった。汚れを特定するその他の方法として取得した画像を表示し使用者に場所を指定してもらう方法もある。例えば図4の条件入力部に表示装置を併設しておき、そこに取得画像を表示する。表示した画像にマス目状の格子を重ねて表示し、格子の位置を選択してもらう。もしくは表示装置にタッチパネルを使用し、直接場所を入力してもらう方法もある。こうした使用者に場所を特定してもらう方法は、無地以外の柄や色の付いた衣類に対しても汚れのついた場所の特定を誤る可能性が低いことや、汚れを認識する機構が不要となるなどの利点がある。
【0046】
その他の方法として、事前に汚れの付いていない状態で洗浄対象物の像を取得しておき比較することにより汚れを特定する方法がある。汚れの付いていない状態の像は洗浄機制御部などに記憶装置を付設し保存しておく。この方法では人の目では見逃してしまうような僅かな汚れや、毎回の洗浄で落ち切らない汚れが一定以上蓄積されると検出できる利点がある。後者のような場合、これまでよりも洗浄力の高い条件で洗浄する必要があるため、画像の取得に合わせて洗浄の履歴を記憶しておくとよい。
【0047】
可視光カメラで得られる像をカラーで取得することにより、汚れの特徴を色で区別することができる。この情報を用いて汚れの種類を推定し、汚れに適した洗浄条件を選択する。可視光の像だけから汚れの種類を精度よく判定することは難しいが、像から得られる汚れの場所や色、濃度、それらのパターンなどを洗浄対象の繊維類と紐づけて情報を蓄積しておくことにより、その蓄積量が増えるほど判定の精度を上げることができる。例えば汚れの像をユーザーに示し、汚れの候補を提示して選択させたり、汚れの種類を入力させることにより、汚れの特徴と入力情報の組合せを学習データとして使用することができるため、統計的な判定や機械学習による判定を行うことが可能となる。また、光源としてUV光に加え白色LEDも準備しておきカメラで撮像する際に光源として使用すれば、目視でみる通りの像が得られる。UV光源とは異なる色の像が得られるため、汚れの推定に有益な情報を追加することができる。更にUV領域に感度のある撮像素子を使い光源にUV光を用いると、可視光で観察した場合とは異なる情報が得られるため、汚れの認識と特定に有用である。
【0048】
取得した像の解析やそこから得られた情報に基づいた汚れの推定や洗浄条件の決定を行う判定部が必要であるが、本実施例では洗浄機制御部内に設けた。判定部は主にカメラ制御部を介して取得した像を受け取り記憶ユニットに保管し、その解析を行う。解析は前述したように得られた像単体に対して画像処理を行い汚れと推定される場所やその特徴を抽出するアルゴリズムやすでに取得済みの像との比較から汚れの場所や種類を推定する画像処理や統計処理、機械学習処理などのアルゴリズムを実行する演算ユニットなどから構成される。汚れが推定できた場合は、事前に記憶しておいた汚れに対応する洗浄条件を選択して洗浄機制御部に引き渡す。洗浄対象の繊維種情報が得られれば汚れ情報と併せて適切な条件を事前に保存しておくことができ、洗浄力が高く繊維の損傷を低く抑える洗浄ができる。繊維情報は事前に衣類ごとに登録し画像から衣類を特定する方法や、使用者から条件として入力してもらう方法などが可能である。
【0049】
像の取得にハイパースペクトルカメラを用いると取得した像の画素ごとに分光スペクトルが得られるため、汚れの種類を特定するより精度の高い情報を得ることができる。主だった繊維に対し事前にスペクトルを取得しておき比較することにより汚れ部位の特定が容易になる。購入時の新品の像を取得しておくことで繊維の種類だけでなく染色の色素や顔料等の情報も得られるため、より高い確度で汚れを特定することができる。逆に汚れの原因となる物質のスペクトルを取得し記憶しておくことで汚れ部位の特定や種類の同定も可能となる。洗浄機を所謂コネクテッド家電化しておくことで、こうした繊維や汚れの情報を後から更新し汚れ種の特定精度を上げ、それに合わせた洗浄条件の追加が可能であるが、ハイパースペクトルカメラの様な情報量が多い場合は特にそうした情報更新による精度向上が有効である。ハイパースペクトルカメラは極めて高価であるという難点があるが、ここに述べたように汚れ特定の精度が非常に高いという大きなメリットがある。
【実施例0050】
本実施例では洗浄対象の一部を少量の洗浄液で洗浄する方法について、図4に示すシステムを用いて説明する。まず洗浄槽に洗浄対象物をセットする。本実施例では木綿製のTシャツに辣油を100μL滴下したものをモデル汚れとして使用した。次に、カメラで容器内をスキャンし、洗浄対象物の汚れを検出する。カメラによる検出の方法は、実施例2に示す通りである。その後、検出した汚れのある位置へヘッドを移動しノズルから少量の薬液(3%過酸化水素水)を供給する。本実施例では少量の薬液を狭い領域に供給したいため、小噴量形の充円錐ノズルを使用した。また、ポンプにはフローポンプを用いて0.15MPaの圧力でノズルに液体を供給し90mL/minの流量に設定した。この流量でポンプを1秒動作させることにより概ね3~4mLの薬液をφ8cmの領域に供給した。この状態で実施例2と同様に汚れの位置にヘッドから365nmの光を照射する。光照射前の汚れの大きさ概ねφ3cmに対し、光照射領域はφ6cmで全ての汚れ付着部位が光照射領域内に入っていた。この状態で1時間放置後、すすぎ工程なしで衣類を取り出したところ、目視で汚れの色は無くなっていた。放置して乾燥した後実施例1の方法で汚れ残存率を計算したところ2%であった。この方法では液だれなしで汚れを洗浄できるため、部分洗いを排水なしで実施できる特徴がある。
【実施例0051】
実施例1から3は、洗浄容器を水平にした状態で洗浄を実施した。次に図5を用い、被洗浄物を垂直にした状態で洗浄を行う実施例について説明する。衣類を収納するケース61の内側上部にハンガーをかけるジグ62を取り付けた。上記と同様に木綿製のTシャツを用い洗浄を行った。Tシャツ64はハンガー63にかけ、衣類ケース内のジグ62に引っ掛けて固定した。事前にソースでシミ68をつけモデル汚れとして用いる。ソースは3cm角に塗布し、不織布で余分な液体をふき取り乾燥させておく。衣類ケース内には汚れ部位を特定するカメラ及び薬液を塗布するノズルを搭載したヘッド53が、衣類ケース内の任意の位置に移動できるようそれぞれ異なる軸方向に移動する一軸移動機構65,66,67で構成されるXYZステージに固定されている。ここではヘッドの移動機構にXYZステージを用いたが、多軸可動型のアーム式移動機構などその他の方法を用いることも可能である。図5では薬液等の供給、排出に使用するポンプやタンク、チューブや配管類、バルブなどは省略した。
XYZステージとカメラを用いて汚れの位置を特定する部分は実施例2および実施例3と同様に行う。汚れ位置を特定したらその位置にヘッドを移動させ、汚れの位置とその周囲に薬液を噴射して湿らせる(図5中69)。薬液は3%の過酸化水素水である。供給する量を少量に抑えるため、ポンプを連続駆動ではなく入力したパルスに比例した運転モードで駆動した。供給量を1パルス当たり0.5mLに設定し、初期の薬液供給として5パルス分の薬液を吹きかけ、ヘッドに搭載された365nmの光源を照射した。供給した薬液が少なく、また、Tシャツを垂直に保持しているため、薬液は供給した場所を中心に周囲、特に下部に向かって染み込んで行く。そこで、10分間光照射していったん光照射を停止し、再度2パルス分薬液を吹きかけた後、光照射を再開した。この操作を5回繰り返した。その後、Tシャツを観察すると、生地にしみ込んでいた汚れの色は概ね除去されているものの、ソースに分散されているスパイス等の粒子状の混合物が生地表面に残っている状態であった。そこで、この状態で噴射する液体を市水に切り替え、汚れの付着していた位置を中心に水を吹きかけすすぎを行った。すすぎにより残存していた粒子を除去した後、水の噴射を停止した。水は生地を伝わってTシャツ下部から衣類ケース下部へ滴下したため、排水バルブから排出した。しばらく放置し水の滴下がほぼ起きない状態で取出し一晩乾燥させた。洗浄力を計測したところ、汚れ残存率は5%であった。尚、すすぎを行わずに粒子が残った状態で乾燥させた場合の汚れ残存率は23%であった。
【0052】
本実施例ではTシャツを例に一部に付着した汚れの洗浄方法を開示したが、一部を洗浄する方法を、洗浄対象物の洗浄箇所を変えて繰り返すことにより洗浄対象物全体が洗浄可能である。このように衣類を静止した状態で機械力を用いずに洗浄することにより従来の洗濯機に比べ大幅に静音で洗浄することができる。また、界面活性剤や有機物からなる洗剤が不要であるため、排出液の処理が容易になり環境負荷を大きく低減できる。また、洗剤を使用する場合に比べ使用する電力や水も少なくて済む利点もある。本実施例で開示したように衣類を垂直に保持したまま洗浄できるため、衣類ケース内に洗浄対象の衣類を吊り下げる機構を自動化した搬送システムに対応する構造とすることにより、従来の洗濯機に比べ洗濯作業の大幅な自動化が可能である。また、人手に依らない部分洗いも容易に実現でき、人に係る負荷を低減しつつ、洗浄面積の縮小による洗浄液や使用電力の低減が実現できる。即ち、洗浄処理時及び排水処理時の消費電力の低減、処理に伴う二酸化炭素排出量の低減を実現できる。
【0053】
以上、説明した通り、本発明によれば、機械力を使用せず、洗浄対象物の一部に付着した汚れを目標にして洗浄が可能な洗浄装置、洗浄システムおよび洗浄方法を提供できることが示された。
【0054】
上述した実施形態や実験例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実験例の構成の一部について、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0055】
10a、10b…洗浄装置、11、50…洗浄槽、12…光源、13…光源から放射された光、14…洗浄に用いる薬品を溶解した液体、15…洗浄対象物、16…光源の移動方向を示す矢印、17…開閉扉、18…液体供給管、19…液体排出管、20…洗浄機システム、21…制御信号線、22…光源用電源配線、23…被洗浄物の出し入れ操作、24…市水給水管。51…XYステージの一軸方向の移動機構、52…XYステージのもう一方の方向の移動機構、53…ヘッド、61…衣類収納ケース、62…衣類をぶら下げるジグ、63…ハンガー、64…衣類、65…XYZステージの一軸方向に対する移動機構、66…XYZステージの他の一軸方向に対する移動機構、67…XYZステージの残りの一軸方向への移動機構、68…汚れ、69…薬液
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5