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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019851
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】鍛造方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 5/12 20060101AFI20240206BHJP
   B21K 1/12 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
B21J5/12 Z
B21K1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122582
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有馬 達男
(72)【発明者】
【氏名】高井 直
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA04
4E087BA02
4E087BA14
4E087CA35
4E087CB01
4E087CB04
4E087CC03
4E087DA03
4E087EA11
4E087EC37
4E087EE02
4E087HA36
(57)【要約】
【課題】軸穴を有する円筒状部品を鍛造加工することができる鍛造方法を提供する。
【解決手段】中央に膨出部P11、少なくとも一端に軸部P12を有し、前記軸部の軸方向に穴P13を有する部品P1を棒状の素材Mから鍛造加工する鍛造方法において、前記膨出部に相当する素材の部位の温度が、前記軸部に相当する素材の部位の温度より高くなるように前記素材を局部加熱し、前記局部加熱された状態の素材を、一対のダイス11,12と、前記一対のダイス内に配置される一対のスリーブ13,14と、少なくとも一方の前記スリーブを貫通するマンドレル15,16とで形成される閉空間にセットし、前記素材を前記一対のスリーブ及び前記マンドレルにより加圧しながら前記膨出部を据え込み加工するとともに、前記素材を前記マンドレルにより加圧しながら前記軸部に穴開け加工する。
【選択図】 図1D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に膨出部、少なくとも一端に軸部を有し、前記軸部の軸方向に穴を有する部品を棒状の素材から鍛造加工する鍛造方法において、
前記膨出部に相当する素材の部位の温度が、前記軸部に相当する素材の部位の温度より高くなるように前記素材を局部加熱し、
前記局部加熱された状態の素材を、一対のダイスと、前記一対のダイス内に配置される一対のスリーブと、少なくとも一方の前記スリーブを貫通するマンドレルとで形成される閉空間にセットし、
前記素材を前記一対のスリーブ及び前記マンドレルにより加圧しながら前記膨出部を据え込み加工するとともに、前記素材を前記マンドレルにより加圧しながら前記軸部に穴開け加工する鍛造方法。
【請求項2】
前記素材が鋼材からなり、前記膨出部に相当する素材の部位の温度が900℃以下になるように前記素材を局部加熱する請求項1に記載の鍛造方法。
【請求項3】
前記素材が鋼材からなり、前記素材のうち局部加熱しない部位の温度が200℃以上になるように前記素材を局部加熱する請求項2に記載の鍛造方法。
【請求項4】
前記素材を前記閉空間にセットしてから前記据え込み加工と前記穴開け加工とをワンショットで成形する請求項1~3のいずれか一項に記載の鍛造方法。
【請求項5】
前記部品がアンダーカット部をさらに有し、
前記アンダーカット部に対応した内面を有し、半径方向に分割された割型を前記ダイスにセットすることにより、前記閉空間を形成する請求項1~3のいずれか一項に記載の鍛造方法。
【請求項6】
前記部品は、両端に前記軸部を有し、
前記閉空間は、前記一対のダイスと、前記一対のスリーブと、前記一対のスリーブのそれぞれを貫通する一対のマンドレルとで形成され、
前記素材を前記一対のスリーブ及び前記一対のマンドレルにより加圧しながら前記膨出部を据え込み加工するとともに、前記素材を前記一対のマンドレルにより加圧しながら前記軸部に穴開け加工する請求項1~3のいずれか一項に記載の鍛造方法。
【請求項7】
前記一対のマンドレルのそれぞれを加圧する一対のガススプリングのストロークが、前記軸部に形成される前記穴の深さに対応する請求項1~3のいずれか一項に記載の鍛造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造方法に関し、特に軸穴を有する円筒状部品を鍛造加工する鍛造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のプーリーシャフトのような軸の一部に円盤状部分を形成した部品を棒状素材から鍛造加工する場合、素材の円盤部となる部分を最も高温としたうえで、素材のうち軸部となる部分は冷間鍛造し、円盤部となる部分については温間又は熱間鍛造する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4067184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の鍛造方法を用い、軸部に軸方向の穴を鍛造加工により形成したい場合、軸部となる部分は冷間鍛造であるため、マンドレルにより軸方向の穴を鍛造加工することはできないという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、軸穴を有する円筒状部品を鍛造加工することができる鍛造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、中央に膨出部、少なくとも一端に軸部を有し、前記軸部の軸方向に穴を有する部品を棒状の素材から鍛造加工する鍛造方法において、前記膨出部の温度が前記軸部の温度より高くなるように前記素材を局部加熱し、前記局部加熱された状態の素材を、閉塞鍛造型の閉空間にセットし、前記素材を一対のスリーブ及びマンドレルにより加圧しながら前記膨出部を据え込み加工するとともに、前記素材を前記マンドレルにより加圧しながら前記軸部に穴開け加工することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、膨出部に相当する部位は相対的に高温に加熱されているので、鍛造初期から膨出部の据え込み加工が開始される一方、軸部に相当する部位は膨出部に比べて低温であるので、膨出部の据え込み加工の終期から軸部の穴開け加工が開始される。これにより、軸穴を有する円筒状部品を鍛造加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】本発明に係る鍛造方法を使用する鍛造装置の一例を示す縦断面図(その1)である。
図1B】本発明に係る鍛造方法を使用する鍛造装置の一例を示す縦断面図(その2)である。
図1C】本発明に係る鍛造方法を使用する鍛造装置の一例を示す縦断面図(その3)である。
図1D】本発明に係る鍛造方法を使用する鍛造装置の一例を示す縦断面図(その4)である。
図1E】本発明に係る鍛造方法を使用する鍛造装置の一例を示す縦断面図(その5)である。
図1F図1Aの1F-1F線に沿う断面図である。
図2A】本発明に係る鍛造方法が適用される部品の一例を示す断面図である。
図2B】本発明に係る鍛造方法が適用される部品の他例を示す断面図である。
図2C】本発明に係る鍛造方法が適用される部品のさらなる他例を示す断面図である。
図3A】本発明に係る鍛造方法の作用を説明する素材の加工過程を示す断面図(その1)である。
図3B】本発明に係る鍛造方法の作用を説明する素材の加工過程を示す断面図(その2)である。
図3C】本発明に係る鍛造方法の作用を説明する素材の加工過程を示す断面図(その3)である。
図4A】本発明に係る鍛造方法を使用する鍛造装置の他例を示す縦断面図(その1)である。
図4B】本発明に係る鍛造方法を使用する鍛造装置の他例を示す縦断面図(その2)である。
図5A図4AのVA-VA線に沿う断面図である。
図5B図4BのVB-VB線に沿う断面図である。
図6】S35C鋼材のひずみ-変形抵抗特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態例を説明する。図2A図2Cは、本発明に係る鍛造方法が適用される部品P1,P2,P3の例を示す断面図であり、図2A及び図2Bには、鍛造加工に供される素材Mの正面図も併せて示す。本発明に係る鍛造方法は、図2Aの右図に示すように、中央に膨出部P11、両端に軸部P12,P12を有し、軸部P12の軸方向に穴P13を有する部品P1を、同図の左図に示す棒状の素材Mから鍛造加工するものである。この種の部品としては、自動車の減速機の歯車などを例示することができ、膨出部P11は、鍛造加工後の機械加工により歯車の歯が形成され、軸部P12の穴P13には、同じく鍛造後の機械加工によりネジが形成される。
【0010】
図2Bに示す部品P2は、図2Aに示す部品P1と外形形状が多少異なるが、部品P1と同様に、中央に膨出部P21、両端に軸部P22,P22を有し、軸部P22の軸方向に穴P23を有し、同図の左図に示す棒状の素材Mから鍛造加工される。また、図2Cに示す部品P3も、部品P1,P2と同様に、中央に膨出部P31、両端に軸部P32,P32を有し、軸部P32の軸方向に穴P33を有し、同じく棒状の素材M(図示を省略)から鍛造加工されるが、さらに下側の軸部P32にアンダーカット部P34を有する。アンダーカット部P34とは、鍛造加工してダイスから鍛造品を取り出す際にそのままの状態では離型できない形状のことを言い、本例の場合は、軸部P32から環状に膨出する形状とされている。このようなアンダーカット部P34を有する部品P3も本発明に係る鍛造方法を用いて鍛造できるが、後述する割型を用いると円滑に離型することができる。詳細は後述する。
【0011】
なお、図2A図2Cに示す部品P1~P3は、両端に軸部P12,P22,P32を有するものであるが、本発明に係る鍛造方法は、いずれか一方の端部に軸部P12,P22,P32を有する部品であっても適用することができる。また、図2A図2Cに示す部品P1~P3は、両端の軸部P12,P22,P32のそれぞれに穴P13,P23,P33を有するものであるが、本発明に係る鍛造方法は、いずれか一方の軸部P12,P22,P32に穴P13,P23,P33を有する部品であっても適用することができる。
【0012】
次に、本発明に係る鍛造方法を使用する鍛造装置の一例を説明する。図1Aは、本発明に係る鍛造方法を使用する鍛造装置の一例を示す縦断面図であり、鍛造加工前の型開きした状態を示す。なお、図1B図1Eは、鍛造加工の過程を示す断面図であり、図1Dが上ダイス11及び下ダイス12の下死点の状態を示す断面図である。また、図1Fは、図1Aの1F-1F線に沿う断面図である。
【0013】
図1Aに示す鍛造装置1は、床面にダイホルダ17が設けられる一方、ダイホルダ17の鉛直方向上側に、ラム18が、図示しない動力によりダイホルダ17に対して上下移動が可能に設けられている。ダイホルダ17には、下型としての下ダイス12を支持するダイセット19が固定される一方、ラム18には、上型としての上ダイス11を支持するダイセット20が固定されている。また、ラム18には、後述する上スリーブ13と上マンドレル15の荷重を受ける第1スペーサ24が固定され、ダイホルダ17には、後述する下スリーブ14と下マンドレル16の荷重を受ける第2スペーサ25が固定されている。
【0014】
上型としての上ダイス11は、ガススプリング21,21を介してダイセット20に対して上下移動が可能に設けられ、ガススプリング21は上ダイス11に下向きの弾性力を付勢する。そして、上ダイス11は、ラム18の上下移動にともなって上下移動するが、下方向に移動して下ダイス12に当接した後にラム18の下降が継続すると、ガススプリング21が自己の弾性力に抗して収縮し、この弾性力により上ダイス11が下ダイス12を押圧することになる。これにより、上ダイス11と下ダイス12との閉塞性が確保される。
【0015】
下型としての下ダイス12は、ガススプリング22,22を介してダイセット19に対して上下移動が可能に設けられ、ガススプリング22は下ダイス12に上向きの弾性力を付勢する。そして、上ダイス11が下降して下ダイス12に当接した後に上ダイス11の下降が継続すると、ガススプリング22が自己の弾性力に抗して収縮し、この弾性力により下ダイス12が上ダイス11を押圧することになる。これによっても、上ダイス11と下ダイス12との閉塞性が確保される。
【0016】
なお、上ダイス11に設けられるガススプリング21の有効ストロークは、部品P1の上側の軸部P12に形成される穴P13の深さに対応した寸法とされ、下ダイス12に設けられるガススプリング22の有効ストロークは、部品P1の下側の軸部P12に形成される穴P13の深さに対応した寸法とされている。そして、ラム18の下死点において、各ガススプリング21,22のストロークエンドになり、ここが各穴P12,P13の加工端に相当する。
【0017】
本実施形態の鍛造装置1は、いわゆる閉塞鍛造装置であり、上ダイス11及び下ダイス12と共に閉塞空間を形成するのが、上スリーブ13,下スリーブ14,上マンドレル15及び下マンドレル16である。
【0018】
上スリーブ13は、上ダイス11を貫通して上下移動が可能とされている。上スリーブ13は、第3スペーサ26の下端に当接し、第1スペーサ24を介してラム18の上下移動にしたがって上下移動し、素材Mを加圧することで鍛造加工する。下スリーブ14は、下ダイス12を貫通して相対的に上下移動が可能とされている。下スリーブ14は、鍛造加工時には上下移動せずに、上ダイス11の下降にともない素材Mを加圧するが、鍛造加工が終了して製品を脱型する際に、エジェクタピン28によって上下移動する。
【0019】
上マンドレル15は、先端が穴開け加工に適した形状とされた穴開け工具であり、第3スペーサ26と上スリーブ13を貫通して当該上スリーブ13に対して摺動可能とされた状態で、ダイセット20に固定されている。上マンドレル15の基端は第1スペーサ24に当接する。そして、ラム18が駆動してダイセット20が下降すると、これに伴って第1スペーサ24を介して上マンドレル15も下降するが、その先端が素材Mに当接するとともに上ダイス11と下ダイス12とが型締めした後は、ガススプリング21の弾性力が当該上マンドレル15に作用し、素材Mを上側から加圧することになる。
【0020】
下マンドレル16は、先端が穴開け加工に適した形状とされた穴開け工具であり、下スリーブ14を貫通して当該下スリーブ14に対して摺動可能とされた状態で、ダイセット19に固定されている。そして、上ダイス11に押圧されて下ダイス12が下降すると、下マンドレル16は相対的に上昇し、ガススプリング22の弾性力が当該下マンドレル16に作用し、素材Mを下側から加圧することになる。
【0021】
鍛造加工が終了して製品を脱型するために、上型には上エジェクタピン27とその駆動機構271が設けられ、下型には下エジェクタピン28とその駆動機構281が設けられている。上エジェクタピン27は、たとえば4本のピンからなり、図1Fに示すように第3スペーサ26を挿通し、先端が上スリーブ13に当接し、基端に駆動機構271が設けられている。また、下エジェクタピン28は、たとえば4本のピンからなり、第2スペーサ25を挿通し、先端が下スリーブ14に当接し、基端に駆動機構281が設けられている。なお、図1A~1Dに示す鍛造加工中においては、上型の駆動機構271は図示する位置よりさらに上側に位置し、各上エジェクタピン27は後退位置にある。同様に下型の駆動機構281は図示する位置よりさらに下側に位置し、各下エジェクタピン28は後退位置にある。
【0022】
次に、図1A図1Eを参照しながら、同図に示す鍛造装置1を用いた本実施形態の鍛造方法を説明する。図3A図3Cは、本実施形態の鍛造方法の作用を説明する素材Mの加工過程を示す断面図であり、図3A及び図3Bに示す素材Mが図1Cの素材Mに対応し、図3Cに示す素材Mが図1Dの素材Mに対応する。なお、図3A及び図3Bに示す素材Mは半製品(中間加工品)であるが、膨出部P11,軸部P12及び穴P13は完成品と同じ名称及び符号を用いるものとする。
【0023】
本実施形態の鍛造方法は、素材Mを予備加熱するが、このとき部品P1の膨出部P11に相当する素材Mの部位の温度が、軸部P12に相当する素材Mの部位の温度より高くなるように、素材Mを局部加熱する。この局部加熱は、素材Mが鋼材である場合、膨出部P11に相当する素材Mの部位の温度が、900℃以下になるように素材Mを加熱することが好ましい。またこのとき、素材Mのうち局部加熱しない部位の温度が200℃以上になるように、素材Mを局部加熱することがより好ましい。
【0024】
図6は、S35C(機械構造用炭素鋼)のひずみに対する変形抵抗を温度別に示すグラフである。ひずみ速度はε=450/secである。同図に示すように、ひずみを0.2とする場合、200℃の変形抵抗は68kgf/mm、800℃の変形抵抗は44kgf/mmであるのに対し、ひずみを0.5とする場合、200℃の変形抵抗は80kgf/mm、800℃の変形抵抗は50kgf/mmである。したがって、ひずみが小さい(加工度が低い)部位を200℃に加熱すると同時に、ひずみが大きい(加工度が高い)部位を800℃に加熱すると、前者の変形抵抗は68kgf/mmであるのに対し後者の変形抵抗は50kgf/mmとなって、変形抵抗値を逆転させることができる。このように本実施形態の鍛造加工では、加工度が高い部位を相対的に高温で加熱することで、材料が有する温度依存性を利用して変形抵抗を下げ、成形し易い条件を作り出し、これにより材料の流れを制御するものである。
【0025】
このように鍛造加工前に予備加熱を施すと、素材Mの温度が高いほど鍛造による変形抵抗が小さくなるため、素材Mの最終部品P1に対する変形量が大きい部位ほど高温に加熱することが望ましい。本例の部品P1の場合、素材Mの最終部品P1に対する変形量が大きい部位は膨出部P11であり、相対的に変形量が小さい部位は軸部P12である。したがって、膨出部P11に相当する素材Mの部位の温度が、軸部P12に相当する素材Mの部位の温度より高くなるように膨出部P11を高温に加熱することが望ましいが、素材Mが鋼材の場合に900℃を超える温度に加熱すると、酸化スケールが発生し、加工代が大きくなる。このため、900℃以下に加熱することが好ましく、より好ましくは600~900℃の範囲に加熱する。
【0026】
図2A及び図2Bの左図に、素材Mの局部加熱の温度分布をグラデーションで示す。濃色の部位ほど高温に加熱されていることを示す。図2Bに示す素材Mの局部加熱は、図2Aに示す素材Mの局部加熱に比べ、高温の範囲が中央にあるが、これは最終品である部品P1,P2を比較すると、膨出部P11,P21の位置が、図2Bに示す部品P2の方が中央にあるからである。
【0027】
図2A及び図2Bに示すように、素材Mの中央域の温度が600~900℃になるように局部加熱する際、その両端の軸部P12に相当する素材Mの部位は、成り行きの温度でよいが、局部を600~900℃に加熱することで、加熱されていない部位が200℃以上になる条件で局部加熱することが好ましい。素材Mの局部加熱されていない部位でも200℃以上に予備加熱すると、素材Mが未焼鈍材であっても、常温の焼鈍材の変形抵抗と同程度の変形抵抗となるので、未焼鈍材を用いることができる。
【0028】
以上のように局部加熱したら、その素材Mを図1Aに示すように鍛造装置1の下ダイス12にセットし、ラム18を駆動してダイセット20及び上ダイス11を下降し、図1Bに示すように上ダイス11と下ダイス12とを型締めする。図1Bに示す状態は、上ダイス11、下ダイス、上スリーブ13、下スリーブ14、上マンドレル15及び下マンドレル16とで閉空間が形成され、素材Mがこの閉空間に収容された状態であり、素材Mの上端には上マンドレル15が当接し、素材Mの下端には下スリーブ14及び下マンドレル16が当接した状態となっている。また、上型のガススプリング21及び下型のガススプリング22のいずれも、ストロークの始端となっている。
【0029】
図2Bに示す状態からさらにラム18を駆動し、ダイセット20及び上ダイス11をさらに下降させる。これにより、第3スペーサ26を介して上スリーブ13の先端が素材Mの上端に当接してここを加圧するので、素材Mの下端に当接している下スリーブ14の先端と協働しして素材Mを上下両方から加圧する。またこれらと同時に、上マンドレル15の先端が素材Mの上端を加圧すると同時に、下マンドレル16の先端が素材Mの下端を加圧する。このときの鍛造装置1の様子を図1Cに示し、素材Mの様子を図3A及び図3Bに示す。
【0030】
ここで、上ダイス11と下ダイス12は型締めされているので、素材Mの上端と下端を加圧する力は、上マンドレル15に作用するガススプリング21の弾性力と、下マンドレル16に作用するガススプリング22の弾性力であり、これらは穴開け加工に供される。またこれに加えて、素材Mの上端と下端を加圧する力は、ラム18の駆動力による上スリーブ13と、下スリーブ14の加圧力である。
【0031】
図1Bに示す鍛造開始から図1Cに示す鍛造中までの鍛造初期の段階では、部品P1の膨出部P11に相当する素材Mの部位は、他の軸部P12に相当する素材Mの部位に比べて相対的に高温に加熱されているので、主として膨出部P11の据え込み加工が優位となった状態で鍛造加工が進む。この様子を図3A及び図3Bに示すが、局部加熱による温度が高い膨出部P11に相当する部位の変形抵抗が小さいことから、膨出部P11の鍛造加工が、軸部P12の穴開け加工より優先的に進んでいることが理解される。
【0032】
図3Bに示すように、膨出部P11の据え込み加工が終期に近づくと、上スリーブ13,下スリーブ14,上マンドレル15及び下マンドレル16の移動量に対する膨出部P11の変形量が徐々に減少するので、その減少したぶんは上マンドレル15と下マンドレル16による穴開け加工の促進に移行する。これにより、膨出部P11の据え込み加工の終期からは、図3Bに示すように軸部P12の穴開け加工が促進される。
【0033】
図1Dに示す上ダイス11と下ダイス12の下死点においては、図3Cに示すように膨出部P11の隅々に至る据え込み加工が終了するとともに、軸部P12に対し所定の深さまで穴開け加工が行われ、穴P13が形成される。
【0034】
図1Dに示す下死点において鍛造加工が終了したら、図1Eに示すようにラム1を駆動してダイセット20を上昇させ、上ダイス11と下ダイス12とを型開きすると同時に、上型の駆動機構271を作動して上エジェクタピン27を前進させ、上スリーブ13の後退を阻止する。これにより、鍛造加工を終了した部品P1を上ダイス11から脱型して下ダイス12に残す。下ダイス12に残った部品P1は、下型の駆動機構281を作動して下エジェクタピン28を前進させ、下スリーブ14を上昇させることで、下ダイス12から脱型する。図1Eは、上ダイス11及び下ダイス12から脱型した状態の部品P1を示し、この状態から搬送ロボットなどを用いて次の工程に搬送される。このように本実施形態の鍛造方法は、素材Mを鍛造装置1の閉空間にセットしてから、据え込み加工と穴開け加工を終了するまで、ワンショットで成形することができる。
【0035】
次に、対象とする部品P3が、図2Cに示すようにアンダーカット部P34を有する場合の鍛造装置1及び鍛造方法について説明する。上述したとおり、アンダーカット部P34は、ダイスから鍛造品を取り出す際にそのままの状態では離型できない形状のことを言い、本例の場合は、軸部P32から環状に膨出する形状とされている。このようなアンダーカット部P34を有する部品P3を鍛造加工する場合には、アンダーカット部P34に対応した内面を有し、半径方向に分割された割型23を下ダイス12にセットすることにより、閉空間を形成することが好ましい。
【0036】
図4A及び図4Bは、本発明に係る鍛造方法を使用する鍛造装置の他例を示す縦断面図、図5Aは、図4AのVA-VA線に沿う断面図、図5Bは、図4BのVB-VB線に沿う断面図である。
【0037】
本実施形態の鍛造方法の対象部品は、図2Cに示す下側の軸部P32にアンダーカット部P34を有する部品P3であるため、下ダイス12に割型23を設ける。本実施形態の割型23は、図5A及び図5Bに示すように、たとえば半径方向に4分割された4つの分割型からなり、その内面にアンダーカット部P34の環状に膨出する形状に対応する環状の凹部を有する。
【0038】
また、図4Bに示すように下ダイス12を開くと、4つの分割型が半径方向に互いに離間する一方、図4Aに示すように下ダイス12を閉じると、4つの分割型が半径方向に互いに接近して密着するように、下ダイス12の内面と割型23の外面とが、上方に拡開する円錐テーパ面とされている。
【0039】
このように本実施形態の鍛造装置1は、対象とする部品P3がアンダーカット部P34を有する形状であっても、素材Mを鍛造装置1の閉空間にセットしてから、据え込み加工と穴開け加工を終了するまで、ワンショットで成形することができる。
【0040】
以上のとおり、本実施形態の鍛造方法によれば、中央に膨出部P11、少なくとも一端に軸部P12を有し、軸部P12の軸方向に穴P13を有する部品P1を棒状の素材Mから鍛造加工する鍛造方法において、膨出部P11に相当する素材Mの部位の温度が、軸部P12に相当する素材Mの部位の温度より高くなるように素材Mを局部加熱し、局部加熱された状態の素材Mを、上ダイス11及び下ダイス12と、上ダイス11及び下ダイス12内に配置される上スリーブ13及び下スリーブ14と、上スリーブ13及び下スリーブ14をそれぞれ貫通する上マンドレル15及び下マンドレル16とで形成される閉空間にセットし、素材Mを上スリーブ13及び下スリーブ14並びに上マンドレル15及び下マンドレル16により加圧しながら膨出部P11を据え込み加工するとともに、素材Mを上マンドレル15及び下マンドレル16により加圧しながら軸部P12に穴開け加工する。これにより、加工度の高い部位を加熱することで、材料が持つ温度依存性を利用して変形抵抗を下げ、成形し易い条件を作り、材料の流れを制御するので、軸部P12に穴P13を有する円筒状の部品P1を鍛造加工することができる。
【0041】
また、本実施形態の鍛造方法によれば、素材Mが鋼材からなり、膨出部P11に相当する素材Mの部位の温度が900℃以下になるように素材Mを局部加熱するので、酸化スケールの発生が抑制され、加工代を小さくすることができる。
【0042】
また、本実施形態の鍛造方法によれば、素材Mが鋼材からなり、素材Mのうち局部加熱しない部位の温度が200℃以上になるように素材Mを局部加熱する。素材Mを200℃以上に予備加熱すると、素材Mが未焼鈍材であっても、常温の焼鈍材の変形抵抗と同程度の変形抵抗となるので、未焼鈍材を用いることができる。
【0043】
また、本実施形態の鍛造方法によれば、素材Mを鍛造装置1の閉空間にセットしてから据え込み加工と穴開け加工とをワンショットで成形するので、生産性が高くなると同時にダイスの製作費を低減することができる。
【0044】
また、本実施形態の鍛造方法によれば、部品P3がアンダーカット部P34を有する場合、アンダーカット部P34に対応した内面を有し、半径方向に分割された割型23をダイスにセットすることにより、閉空間を形成するので、対象とする部品P3がアンダーカット部P34を有する形状であっても、素材Mを鍛造装置1の閉空間にセットしてから、据え込み加工と穴開け加工を終了するまで、ワンショットで成形することができる。
【0045】
また、本実施形態の鍛造方法によれば、上マンドレル15及び下マンドレル16のそれぞれを加圧する一対のガススプリング21,22のストロークが、部品P1~P3軸部P12~P32に形成される穴P13~P33の深さに対応するので、ガススプリング21,22のストローク長を代えることで、種々の深さの穴開け加工に対応することができる。
【符号の説明】
【0046】
1…鍛造装置
11…上ダイス
12…下ダイス
13…上スリーブ
14…下スリーブ
15…上マンドレル
16…下マンドレル
17…ダイホルダ
18…ラム
19,20…ダイセット
21,22…ガススプリング
23…割型
24…第1スペーサ
25…第2スペーサ
26…第3スペーサ
27…上エジェクタピン
271…駆動機構
28…下エジェクタピン
281…駆動機構
P1,P2,P3…部品
P11,P21,P31…膨出部
P12,P22,P32…軸部
P13,P23,P33…穴
P34…アンダーカット部
M…素材
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図6