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特開2024-19894ガレクチン-4陽性胃がん治療用医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019894
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】ガレクチン-4陽性胃がん治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240206BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240206BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240206BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240206BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240206BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240206BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240206BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240206BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20240206BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P1/00 ZNA
A61P35/00
A61K31/713
A61K48/00
C12N15/09 Z
C12N15/12
C12N15/113 Z
C07K14/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122649
(22)【出願日】2022-08-01
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000173924
【氏名又は名称】公益財団法人野口研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】井手尾 浩子
(72)【発明者】
【氏名】土肥 明子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 美生
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZB261
4C084ZB262
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZB26
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA41
4H045DA80
4H045EA28
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、胃がんに有効な治療薬を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明のガレクチン-4阻害剤を有効成分として含む、ガレクチン-4陽性胃がん治療用医薬組成物によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガレクチン-4阻害剤を有効成分として含む、ガレクチン-4陽性胃がん治療用医薬組成物。
【請求項2】
前記ガレクチン-4阻害剤が、遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖核酸である、請求項1に記載の胃がん治療用医薬組成物。
【請求項3】
前記胃がんが、腹膜播種能を有する胃がんである、請求項1又は2に記載の胃がん治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガレクチン-4陽性胃がん治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
日本において、胃がんは年間罹患数が約13万人、そして年間死亡者数が約5万人であり、癌の中で第3位と頻度が高い。特に、転移や再発をきたし切除することができない場合は、非常に予後が悪い癌である。胃がんの予後に大きく関わる転移として、腹膜播種、リンパ節転移、血行性転移という3つの経路が存在する。現在、転移を有する胃がんは癌診療ガイドライン上でも「ステージIV胃がん」として扱われている。例えば腹膜播種を起こす胃がんにおいて、ガレクチン-4との関連が報告されている(非特許文献1~3)。しかしながら、それぞれの転移経路に特異的な診断マーカーや分子標的治療薬は存在しない。従って、化学療法と外科的な癌組織切除とを組み合わせた治療が行われている。転移が無い限局性の癌では5年生存率が95%あるが、活発に転移し全身に拡散する遠隔転移性の胃がんでは5年生存率は3%と言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「キャンサー・リサーチ(Cancer research)」(米国)2001年、第61巻、p.889-895
【非特許文献2】町田尚子「胃癌腹膜播種関連遺伝子galectin-4に関する機能解析」博士論文(授与年月日:平成15年3月28日、東京大学)国立国会図書館オンライン
【非特許文献3】浅野秀斗「スキルス胃癌の腹膜転移においてGalectin 4が果たす役割の解明」第139回薬学会年会、2019年、22PO-am369
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、胃がんに有効な治療薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、胃がんに有効な治療薬について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、ガレクチン-4の阻害剤によって、胃がんを効率的に治療できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]ガレクチン-4阻害剤を有効成分として含む、ガレクチン-4陽性胃がん治療用医薬組成物、
[2]前記ガレクチン-4阻害剤が、遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖核酸である、[1]に記載の胃がん治療用医薬組成物、及び
[3]前記胃がんが、腹膜播種能を有する胃がんである、[1]又は[2]に記載の胃がん治療用医薬組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の医薬組成物によれば、ガレクチン-4陽性胃がんを効率的に治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ノックアウト細胞株、KO-1a、KO-1b、及びKO-2におけるガレクチン-4遺伝子の欠失領域を示した図(a)である。ノックアウト細胞株の各クローンにおいてガレクチン-4タンパク質の発現の欠失をウェスタンブロット法によって示した図(b)である。
図2】ノックアウト細胞株(KO-2株)及び親株(Wild)の増殖カーブを示したグラフである。
図3】ノックアウト細胞株の接着非依存性増殖能をGILAアッセイで測定し、超低吸着プレートで培養した細胞のATP量(Low)を、細胞培養用プレートで培養した細胞のATP量(High)で割って、比を示した図である。
図4】免疫不全マウスに、NUGC4細胞の親株、対照株C1、ノックアウト株KO-1a及びKO-2を腹腔内に移植して39日後の腫瘍重量(a)、及び親株ならびにノックアウト株KO-2の腸間膜の写真(b)である。
図5】親株、ノックアウト細胞株(KO-1a、KO-1b、及びKO-2)、再発現株R3におけるcMETの発現をウェスタンブロット法で調べ、β-アクチンで補正したグラフである。
図6】HGFの存在有無の条件で、親株、ノックアウト細胞株(KO-1a、及びKO-2)、再発現株R3でのpMETの発現をウェスタンブロット法で調べ、ガレクチン-4の染色と共に示した図である。
図7】親株、ノックアウト細胞株(KO-1a、及びKO-2)、再発現株R3でのCD44の発現をウェスタンブロット法で調べた結果である。
図8】NUGC4細胞の親株及びノックアウト株KO-2に対し、ガレクチン-4とpMETのPLAを行った図である。
図9】MKN45細胞でNGI-1の添加の有無でガレクチン-4とpMETのPLAを行った図と、ガレクチン-4とCD44のPLAを行った図である。
図10】MKN45細胞及びNUGC4細胞に抗ガレクチン-4抗体HRPを用いてSPPLAT法による標識を行い、ビオチン標識物及びpMET、CD44の検出を行った図である。
図11】siRNAによるガレクチン-4のノックダウンを行ったMKN45細胞及びNUGC4細胞に対して、ウェスタンブロット法でガレクチン-4、cMET、pMETの検出を行った図である。
図12】siRNAによるガレクチン-4のノックダウンを行ったMKN45細胞及びNUGC4細胞の増殖能を調べたグラフである。
図13】siRNAによるガレクチン-4のノックダウンを行ったMKN45細胞に対して、ガレクチン-4とpMETのPLAを行った図である。
図14】免疫不全マウスにMKN45細胞を腹腔内に投与した後siRNAを投与して、28日後に剖検し測定した腫瘍重量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
《医薬組成物》
本発明のガレクチン-4陽性胃がん治療用医薬組成物は、ガレクチン-4阻害剤を有効成分として含む。ガレクチン-4阻害剤としては、特に限定されるものではないが、ガレクチン-4タンパク質の機能を抑制する成分、又はガレクチン-4遺伝子の機能を抑制する成分が挙げられる。
【0009】
(ガレクチン-4)
ガレクチンは、β-ガラクトシドを認識するレクチンであり、15種類のガレクチンファミリーが知られている。ガレクチン-4は、2つの糖結合領域を有するタンデムリピート型のガレクチンである。ガレクチン-4は、小腸及び大腸で強く発現していることが報告されているが、大腸がんにおいて、ガレクチン-4の発現が低下することが報告されている。
【0010】
本発明の医薬組成物の対象となる胃がんは、ガレクチン-4陽性の胃がんである。ガレクチン-4が陽性であることによって、ガレクチン-4阻害剤によって、癌細胞の増殖を抑制することができる。ガレクチン-4陽性の胃がん細胞は、胃に限局した胃がん細胞、リンパ節転移を示す胃がん細胞、又は血行性転移を示す胃がん細胞、が挙げられる。限定されるものではないが、ガレクチン-4陽性の胃がんとしては、腹膜播種能を有する胃がんが多い。
【0011】
(ガレクチン-4タンパク質の機能を抑制する成分)
ガレクチン-4タンパク質の機能を抑制する成分としては、例えばガレクチン-4タンパク質と結合して、ガレクチン-4タンパク質の機能を抑制する成分が挙げられる。このような成分としては、限定されるものではないが、硫酸デキストラン、ヘパリン、硫酸化糖脂質、又はコレステロール硫酸が挙げられる。
【0012】
(ガレクチン-4遺伝子の機能を抑制する成分)
ガレクチン-4遺伝子(配列番号1)の機能を抑制する成分としては、限定されるものではないが、ガレクチン-4遺伝子に対してRNAi効果を有する阻害性核酸としてdsRNA、siRNA、shRNA、mi-RNA、および人工miRNA等の干渉RNAが挙げられる。
前記二本鎖核酸は、ガレクチン-4遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖核酸であり、所望のセンス鎖とアンチセンス鎖とがハイブリダイズしてなる二本鎖核酸領域を含む核酸分子を意味し、siRNA(small interfering RNA)であることが好ましい。
【0013】
(センス鎖及びアンチセンス鎖)
前記二本鎖核酸は、23塩基からなる配列番号1のいずれかの標的配列に対応する塩基配列を含むセンス鎖と、前記センス鎖に相補的な塩基配列を含むアンチセンス鎖とを含む。
ここで、「標的配列に対応する塩基配列」とは、標的配列と同一の塩基配列であるか、あるいは、前記標的配列において1若しくは数個(例えば、2~3個)の塩基が置換された塩基配列を意味する。二本鎖核酸がsiRNAである場合、1~数塩基のミスマッチを含んでいても、RNAi効果が得られることが知られている。本発明では、標的配列と同一の塩基配列だけでなく、RNAi効果が得られる限り、ミスマッチを含む塩基配列であってもよい。
【0014】
また、アンチセンス鎖における「センス鎖に相補的な塩基配列」とは、センス鎖とハイブリダイズすることができる程度に相補的な塩基配列であればよく、センス鎖に完全に相補的な塩基配列であるか、あるいは、前記センス鎖に完全に相補的な塩基配列において1若しくは数個(例えば、2~3個)の塩基が置換された塩基配列であることができる。
【0015】
(核酸の種類と修飾)
二本鎖核酸を構成する核酸の種類は、特に限定されるものではなく、適宜選択することができ、例えば、二本鎖RNA、DNA-RNAキメラ型二本鎖核酸を挙げることができる。キメラ型はRNAi効果を有する二本鎖RNAの一部をDNAに換えたものであり、血清中での安定性が高く、免疫応答誘導性が低いことが知られている。
また、二本鎖核酸は、例えば、2’-OH基の修飾、バックボーンのホスホロチオエートによる置換やボラノホスフェート基による修飾、リボースの2位と4位が架橋されたLNA(locked nucleic acid)の導入などによって、ヌクレアーゼに対する耐性や安定化を高めることもできる。あるいは、細胞への導入効率を高める等の目的から、二本鎖核酸のセンス鎖の5’端、或いは3’端に、例えば、ナノ粒子、コレステロール、細胞膜通過ペプチド等の修飾を施すこともできる。
【0016】
(siRNA)
二本鎖RNAは、siRNA(キメラ型を含む)であることが好ましい。ここで、「siRNA」とは、18塩基長~29塩基長の小分子二本鎖RNAであり、前記siRNAのアンチセンス鎖(ガイド鎖)と相補的な配列をもつ標的遺伝子のmRNAを切断し、標的遺伝子の発現を抑制する機能を有する。
前記siRNAは、先述したようなセンス鎖及びアンチセンス鎖を含み、かつ所望のRNAi効果を示すものであれば、その末端構造に特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、前記siRNAは、平滑末端を有するものであってもよいし、突出末端(オーバーハング)を有するものであってもよい。中でも、前記siRNAは、各鎖の3’末端が2塩基~6塩基突出した構造を有することが好ましく、各鎖の3’末端が2塩基突出した構造を有することがより好ましい。
【0017】
本発明のsiRNAとしては、例えば、配列番号1を標的配列とする配列番号3(5’-CCGGACAUUGCCAUCAACAGCUGAA-3’)のセンス鎖と配列番号4(5’-UUCAGCUGUUGAUGGCAAUGUCCGG-3’)のアンチセンス鎖とからなるsiRNAを挙げることができる。
【0018】
(製造方法)
前記二本鎖RNA(特にはsiRNA)は、従来公知の手法に基づき作製することができる。
例えば、所望のセンス鎖とアンチセンス鎖とに相当する18塩基長~29塩基長の一本鎖RNAを、それぞれ既存のDNA/RNA自動合成装置等を利用して化学的に合成し、それらをアニーリングすることにより作製することができる。また、後述する本発明のベクターのような、所望のsiRNA発現ベクターを構築し、前記発現ベクターを細胞内に導入することにより、細胞内の反応を利用してsiRNAを作製することもできる。
【0019】
(DNA、発現ベクター)
DNAは、先述した、前記二本鎖核酸(特にはsiRNA)をコードする塩基配列を含むことを特徴とするDNAであり、発現ベクターは、前記DNAを含むことを特徴とする発現ベクターである。
【0020】
(DNA)
前記DNAとしては、先述した、前記二本鎖核酸をコードする塩基配列を含むDNAであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記二本鎖核酸をコードする塩基配列の上流(5’側)に、前記二本鎖核酸の転写を制御するためのプロモーター配列が連結されていることが好ましい。前記プロモーター配列としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、CMVプロモーター等のpol II系プロモーター、H1プロモーター、U6プロモーター等のpol III系プロモーターなどが挙げられる。
【0021】
また、更に、前記二本鎖核酸をコードする塩基配列の下流(3’側)に、前記二本鎖核酸の転写を終結させるためのターミネーター配列が連結されていることがより好ましい。前記ターミネーター配列としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0022】
前記プロモーター配列、前記二本鎖核酸をコードするヌクレオチド配列、及び前記ターミネーター配列を含む転写ユニットは、前記DNAにおける好ましい一態様である。なお、前記転写ユニットは、従来公知の手法を用いて構築することができる。
【0023】
(発現ベクター)
前記ベクターとしては、前記DNAを含むものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターなどが挙げられる。前記ベクターは、前記二本鎖核酸(特にsiRNA)を発現可能な発現ベクターであることが好ましい。
前記二本鎖核酸の発現様式としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば二本鎖核酸としてsiRNAを発現させる方法として、短い一本鎖RNAを二本発現させる方法(タンデム型)、shRNA(short hairpin RNA)として一本鎖RNAを発現させる方法(ヘアピン型)等が挙げられる。ここで、shRNAとは、18塩基~29塩基程度のdsRNA領域と3塩基~9塩基程度のloop領域を含む一本鎖RNAであるが、shRNAは、生体内で発現されることにより、塩基対を形成してヘアピン状の二本鎖RNAとなる。その後、shRNAはDicer(RNase III酵素)により切断されてsiRNAとなり、標的遺伝子の発現抑制に機能することができる。
【0024】
前記タンデム型siRNA発現ベクターは、前記siRNAを構成するセンス鎖をコードするDNA配列と、アンチセンス鎖をコードするDNA配列とを含み、かつ、各鎖をコードするDNA配列の上流(5’側)にプロモーター配列がそれぞれ連結され、また、各鎖をコードするDNA配列の下流(3’側)にターミネーター配列がそれぞれ連結されたDNAを含む。
【0025】
また、前記ヘアピン型siRNA発現ベクターは、前記siRNAを構成するセンス鎖をコードするDNA配列と、アンチセンス鎖をコードするDNA配列とが逆向きに配置され、前記センス鎖DNA配列とアンチセンス鎖DNA配列とがループ配列を介して接続されており、かつ、それらの上流(5’側)にプロモーター配列が、また、下流(3’側)にターミネーター配列が連結されたDNAを含む。
前記各ベクターは、従来公知の手法を用いて構築することができ、例えば、前記DNAを、予め制限酵素で切断したベクターの切断部位に連結(ライゲーション)することにより構築することができる。
【0026】
前記DNA又は前記ベクターを細胞に導入(トランスフェクト)することにより、プロモーターが活性化され、前記二本鎖核酸を生成することができる。例えば、前記タンデム型ベクターにおいては、前記DNAが細胞内で転写されることにより、センス鎖及びアンチセンス鎖が生成され、それらがハイブリダイズすることによりsiRNAが生成される。前記ヘアピン型ベクターにおいては、前記DNAが細胞内で転写されることにより、まずヘアピン型RNA(shRNA)が生成され、次いで、ダイサーによるプロセシングにより、siRNAが生成される。
【0027】
(miRNA)
本発明の医薬組成物は、miRNAを含むことができる。miRNA(microRNA)は、20~25塩基長の1本鎖RNA(成熟miRNA)であり、遺伝子の転写後発現調節に関与する。miRNAの産生過程では、初めにRNAポリメラーゼIIによる転写産物(Primary-miRNA;Pri-miRNA)が生じ、次にPri-miRNAは切断されステムループ配列を有するmiRNA前駆体(Pre-miRNA)を生じ、さらにDicerで切断されることにより成熟miRNAが生じる。このmiRNAを補充する方法として、内在性microRNAの機能を効果的に模倣し機能増加するようにデザインされた化学合成したmiRNA mimicを使用する方法、miRNA発現プラスミドを使用する方法等を用いることができる。
【0028】
(アンチセンスオリゴ)
本発明の医薬組成物は、アンチセンスオリゴを含むことができる。アンチセンスオリゴは標的と相補的な配列を有する一本鎖DNAやRNAで、タンパク質への発現を抑制するはたらきを持つ。核酸に様々な化学修飾を導入することで、安定性や機能などを追加することができる。その一つの例としてモルフォリノアンチセンスオリゴは、モルフォリノ環を有するオリゴDNAであり、RNAに対する親和性が高く、そしてDNA分解酵素に対して抵抗性を有する。ガレクチン-4の5′非翻訳領域、またはエキソンとイントロンとの境界領域に相同性をもつように設計することによって、ガレクチン-4のmRNAからの翻訳やスプライシングを抑制することができる。
【0029】
本発明のガレクチン-4陽性胃がん治療用医薬組成物は、ガレクチン-4タンパク質の機能を抑制する成分(例えば、硫酸デキストラン、ヘパリン、硫酸化糖脂質、又はコレステロール硫酸)、又はガレクチン-4遺伝子の機能を抑制する成分(例えば、前記二本鎖核酸、DNA、又はベクター)を有効成分として含み、更に必要に応じてその他の成分を含むことができる。
【0030】
(剤形、投与方法)
前記医薬組成物の剤型としては、特に制限はなく、所望の投与方法に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤(錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等)、経口液剤(内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等)、注射剤(溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤等)、軟膏剤、貼付剤、ゲル剤、クリーム剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤などが挙げられる。
また、有効成分以外のその他の成分として、所望の医薬添加物、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等を含むことができる。
【0031】
前記医薬組成物の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記医薬組成物の剤型、疾患の種類、患者の状態等に応じて、局所投与、全身投与のいずれかを選択することができる。例えば、局所投与においては、前記医薬を、所望の部位(例えば、腫瘍部位)に直接注入することにより投与することができる。前記注入には、注射等の従来公知の手法を適宜利用することができる。また、全身投与(例えば、経口投与、腹腔内投与、血液中への投与等)においては、前記医薬の有効成分が所望の部位(例えば、腫瘍部位)まで安定に、かつ効率良く送達されるよう、従来公知の薬剤送達技術を適宜応用することが好ましい。
【0032】
前記医薬組成物の投与量としては、特に制限はなく、投与対象である患者の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、成人への1日の投与あたり、例えば二本鎖核酸の量として、1mg~100mgが好ましい。
また、前記医薬組成物の投与回数としても、特に制限はなく、投与対象である患者の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて、適宜選択することができる。
【0033】
《ガレクチン-4陽性胃がんの治療方法》
本発明は、ガレクチン-4陽性胃がんの治療の必要がある対象に、その有効量でガレクチン-4タンパク質の機能を抑制する成分(例えば、硫酸デキストラン、ヘパリン、硫酸化糖脂質、又はコレステロール硫酸)、又はガレクチン-4遺伝子の機能を抑制する成分(例えば、前記二本鎖核酸、DNA、又はベクター)を投与することを含む、ガレクチン-4陽性胃がんの治療または予防方法を提供する。
【0034】
《ガレクチン-4陽性胃がん用医薬組成物の製造への使用》
本発明は、ガレクチン-4タンパク質の機能を抑制する成分(例えば、硫酸デキストラン、ヘパリン、硫酸化糖脂質、又はコレステロール硫酸)、又はガレクチン-4遺伝子の機能を抑制する成分(例えば、前記二本鎖核酸、DNA、又はベクター)の、ガレクチン-4陽性胃がんの治療用医薬組成物の製造に使用することができる。
【0035】
《ガレクチン-4陽性胃がん治療用のガレクチン-4阻害剤》
本発明は、ガレクチン-4陽性胃がん治療用のガレクチン-4阻害剤に関する。ガレクチン-4阻害剤としては、前記の通りガレクチン-4タンパク質の機能を抑制する成分(例えば、硫酸デキストラン、ヘパリン、硫酸化糖脂質、又はコレステロール硫酸)、又はガレクチン-4遺伝子の機能を抑制する成分(例えば、前記二本鎖核酸、DNA、又はベクター)が挙げられる。
【0036】
《作用》
本発明の医薬組成物が、ガレクチン-4陽性胃がんの治療、特に増殖を抑制できる理由は、詳細には検討されていない。しかしながら、以下のように推定することができる。但し、本発明は以下の推定によって、限定されるものではない。
ガレクチン-4遺伝子の機能を抑制する成分は、ガレクチン-4のmRNAの発現を抑制することによって、癌細胞の増殖を抑制すると考えられる。ガレクチン-4陽性胃がん細胞の増殖には、ガレクチン-4の発現が関与していると考えられ、ガレクチン-4の発現をmRNAのレベルで抑制することによって、ガレクチン-4陽性胃がん細胞の増殖を抑制できると推定される。
一方、ガレクチン-4タンパク質の機能を抑制する成分は、ガレクチン-4タンパク質に結合することによって、ガレクチン-4陽性胃がん細胞の増殖を抑制できると考えられる。ガレクチン-4は癌細胞の悪性度に関係する分子群(例えばcMET、CD44等)に糖結合ドメインを通じて結合することによって、細胞表面への局在を安定化し、ガレクチン-4が-複合糖鎖(糖タンパク質または糖脂質)格子を形成し、格子内に存在する受容体の側方拡散を拘束することにより、受容体の凝集や情報伝達を起こす閾値を高めることが推定される。ガレクチン-4タンパク質の機能を抑制する成分は、ガレクチン-4に結合することでガレクチン-4によって発現や局在が制御されている分子への結合を阻害することができる。具体的には、ガレクチン-4の結合阻害によってcMETの活性化を阻害する(すなわちpMETの抑制)ことにより増殖を抑制していると考えられる。
【実施例0037】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0038】
《実施例1》
本実施例では、ガレクチン-4陽性胃がん細胞(NUGC4細胞)のガレクチン-4をノックアウトした細胞を取得した。
ガレクチン-4遺伝子のノックアウトは、ホライゾンディスカバリー社のDharmacon Edit-R CRISPR-Cas9ゲノム編集試薬システムによるゲノム編集ツールを利用して行った。Puromycin耐性遺伝子を含んだEdit-R hCMV-PuroR-Cas9 Expression Plasmid、Edit-R Human LGALS4(3960) crRNA(CM-012232-05)とEdit-R CRISPR-Cas9 Synthetic tracrRNAをDharmaFECT Duo Transfection Reagentを用いてNUGC4細胞に共導入した。Puromycinを培地に添加することによりノックアウト細胞を濃縮し、さらにコロニーをピックアップして、ガレクチン-4の発現細胞が混入していないクローンを蛍光免疫染色法で選別した。ガレクチン-4の発現が認められないノックアウト株クローン、KO-1a、KO-1b、及びKO-2を選択した。ノンコーディング遺伝子に対してデザインされたEdit-R crRNA Non-targeting Control #1をガレクチン-4用にデザインされたcrRNAの代わりに用いて同様の操作を行い、対照株C1を樹立した。
【0039】
ノックアウト細胞各クローンからRNAを抽出し逆転写してcDNAを取得後、塩基配列を調べた結果を図1に示す。
ノックアウト細胞株ではターゲットとしたcrRNA部位近傍に塩基対の欠失が確認された。ノックアウト株KO-1a及びKO-1bは同じ遺伝子配列を持ち、ノックアウト株KO-2の欠失範囲はKO-1aやKO-1bよりも狭かった。
図1aのように遺伝子配列から推定されるアミノ酸配列の欠失はそれぞれ45アミノ酸及び12アミノ酸である。ウェスタンブロット法で、ガレクチン-4の発現を調べたところ、それぞれのクローンは、ガレクチン-4タンパク質の発現は認められなかった(図1b)。
【0040】
(ノックアウト細胞株の増殖能)
前記ノックアウト細胞株の増殖能を、細胞倍化時間によって測定した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示すように、ノックアウト株の細胞倍化時間は親株、対照株に比べ長く、増殖能が低下していた。また、親株(Wild)とKO-2株の増殖カーブを図2に示す。KO-2株の増殖カーブは、親株と比較して、有意に低下していた。図中の**はp<0.01を示し、**は2つのグループの間で統計学的に著しく有意な差があることを示している。
【0043】
(ノックアウト細胞株の接着非依存性増殖能)
ノックアウト細胞株の接着非依存性増殖能をGILAアッセイで測定した。接着非依存性増殖能とは細胞外基質に接着しなくても生存し増殖できる細胞の性質である。
GILAアッセイは、細胞培養用96ウェルプレート(No.3704、コーニング社)及び超低吸着96ウェルプレート(No.3474、コーニング社)に1000個/wellで細胞を播種し、5日間培養後、それぞれのプレートの生細胞に由来するATP量を測定した。ATP量は、CellTiter-Glo(登録商標)2.0試薬(プロメガ社)を100μL/wellで添加後、反応液を96ウェル白プレート(No.3362、コーニング社)に移し、発光量をTristar2 LB942プレートリーダー(ベルトールド社)で測定した。超低吸着プレート上の細胞のATP量と細胞培養用プレート上の細胞のATP量の比をLow/High比とした。
図3に示すように、対照株C1に比較して、ノックアウト細胞株ではLow/High比が低下し、接着非依存性増殖能が低下していることが示された。
【0044】
(マウス腹膜播種モデルを用いた解析)
ノックアウト細胞株で腹膜播種を、マウスモデルを用いて解析した。免疫不全マウス(BALBc nu/nu、オス、6週齢)に、1×10個のヒト胃癌細胞株NUGC4細胞を腹腔内に移植し、39日間飼育後開腹し腫瘍の数及び重量を計測した。
NUGC4細胞親株投与群は2匹、NUGC4対照株C1投与群は2匹、ノックアウト株KO-1a投与群は3匹、ノックアウト株KO-2投与群は3匹を使用し、各細胞を個体当たり1×10個/100~200μL RPMI1640 mediumで腹腔内に移植した。39日後に剖検を行った結果と、剖検時に腫瘍重量を測定した。
【0045】
【表2】
【0046】
表2及び図4に示すように、NUGC4胃癌細胞親株投与群及び対照株C1投与群はどちらも腹水の貯留が認められ、腹腔内に多数の腫瘍が観察されたが、ノックアウト株投与群のマウスにはどちらも腹腔内に腫瘍は認められなかった。図中の*はp<0.05を示し、*は2つのグループの間で腫瘍重量に統計学的に有意な差があることを示している。
【0047】
《実施例2》
本実施例では、ガレクチン-4の発現と相関する分子を探索した。具体的には、親株、ノックアウト細胞株(KO-1a株、KO-2株)、及び再発現株R3のcMETの発現をウェスタンブロット法で調べた。再発原株R3は、KO-2株にFLAGガレクチン-4発現プラスミドを導入し、ガレクチン-4を再発現させた細胞株である。
図5に示すように、cMETの発現はノックアウト株KO-1a及びKO-2両方で低下していた。一方、再発現株R3では、対照株及び親株とほぼ同じ程度まで回復しており、ガレクチン-4の発現がcMETの発現に影響を与えている可能性が示唆された。
【0048】
(ガレクチン-4の発現の変化とpMETの発現)
ガレクチン-4の発現に相関してcMETの発現が変化していることから、cMETと結合して活性化させる分子HGFの有無で、cMETの活性化体であるpMETの発現を調べた。
前日に12ウェルプレートに4×10個/wellで撒いた各細胞(対照株C1、ノックアウト株KO-1a及びKO-2)を、PBS洗浄後0.1%FCSを含むRPMI1640培地に置換し、4時間後HGFを含まない培地(-)あるいは50ng/mLの濃度でHGFを含む培地(+)を添加して30分反応させた。PBSで洗浄後、SDSサンプルバッファーを加えて回収した。12%SDS-PAGEゲルに添加、泳動後PVDF膜に転写し、実施例2で使用したガレクチン-4抗体、cMET抗体、β-アクチン抗体、pMET抗体(Y1234/1235)(D26)XP(登録商標) Rabbit mAb(Cell Signaling Technology社)で染色を行った。結果を図6に示す。
ノックアウト細胞株は、両クローン共にHGFの存在の有無に関わらず、親株や再発現株R3に比べてpMETのレベルは極めて低かった。このことから、ガレクチン-4の発現がcMETの活性化とも相関することが明らかになった。
【0049】
(ガレクチン-4の発現の変化とCD44の発現)
次に、親株、ノックアウト細胞株(KO-1a株、KO-2株)、再発現株R3でのCD44の発現をウェスタンブロット法で調べた。
図7に示すように、CD44の発現はノックアウト株KO-1a及びKO-2の両方で低下していた。一方、再発現株R3では、対照株及び親株とほぼ同じ程度まで回復しており、ガレクチン-4の発現がCD44の発現に影響を与えている可能性が示唆された。
【0050】
《実施例3》
本実施例では、pMETの発現とガレクチン-4の発現とを、近接ライゲーションアッセイ(PLA)によって解析した。
PLAはDuolink(登録商標) PLA試薬(シグマアルドリッチ社)の蛍光法のマニュアルに従って行った。NUGC4細胞の親株及びノックアウト株KO-2を室温で15分間4%パラホルムアルデヒドを用いて固定し、PBSを用いて洗浄し、浸透処理バッファー(0.5%Triton X-100、PBS)中で5分間浸透処理した後、37℃で30分間PLA用ブロッキングバッファーを用いてブロッキングした。1次抗体として抗pMET抗体及び抗ガレクチン-4抗体(AF1227、R&D Systems社)と4℃で終夜インキュベートした。
洗浄後、希釈PLA二次抗体-PLAプローブ溶液[抗ウサギ(+)および抗ヤギ(-)]を加え、37℃で1時間加湿チャンバー内にてスライドをインキュベートした。洗浄後、ライゲーション反応を実施し、グリーンキットを用いて増幅反応を実施した。反応後の細胞をDuolink(登録商標) In Situ Mounting Medium with DAPIを用いて封入し、透明なネイルポリッシュ硬化剤で周囲を密封し、蛍光顕微鏡で観察した。
PLAでは各抗体の結合する分子が40nm以内に近接して位置する時は、ライゲーション反応によって環状DNA鋳型が形成し、それに続く増幅反応によってハイブリダイズする蛍光オリゴプローブを使用して、局在増幅DNAを視覚化する。
図8で示されるように親株では細胞膜の近傍付近にPLAシグナルが観察され、ガレクチン-4とpMETとの近接が観察された。一方、ノックアウト細胞株KO-2ではPLAシグナルが観察されないことから、親株で認められたPLAシグナルが特異的であることが確かめられた。
【0051】
(MKN45細胞のPLA)
本実施例では、NUGC4細胞に代えて、MKN45細胞を用いて、近接ライゲーションアッセイ(PLA)を行った。MKN45細胞もガレクチン-4を発現している胃がん細胞である。
図9で示されるように無処理(-)の細胞では細胞膜の近傍付近にガレクチン-4とpMETとの近接を示すPLAシグナルが観察された。また、N-結合型糖鎖合成阻害剤(NGI-1)を10μMの濃度で培地に3日間添加した場合、PLAシグナルは大幅に減弱したことから、ガレクチン-4とpMETとの近接に糖鎖が関係している可能性が示唆された。抗pMETウサギ抗体の代わりに非免疫ウサギIgGを使用した場合では、極少量のPLAシグナルしか観察されなかった。
また、ガレクチン-4ウサギ抗体とCD44マウス抗体を使用し、PLA二次抗体-PLAプローブ溶液[抗ウサギ(+)および抗マウス(-)]を使用し同様の近接ライゲーションアッセイを行ったところ、膜近傍にPLAシグナルが観察された。このことから、CD44とガレクチン-4との近接も示唆された。
【0052】
《実施例4》
本実施例では、近接標識法の1つであるSPPLAT(Selective Proteomic Proximity Labeling Assay using Tyramide)法を用いて、MKN45及びNUGC4細胞表面のガレクチン-4の近接分子の同定を行った。
【0053】
(ビオチン-PEG4-チラミド調製]
チラミン塩酸塩(ナカライ社)を0.1Mホウ酸バッファー(pH8.8)で1.55mg/mLの濃度に調製し、2mgのEZLink NHS-PEG4-biotin No-Weigh(登録商標) Format(A39259、サーモフィッシャー社)を0.34mLのDMSOに溶解した。調製したチラミン塩酸溶液とNHS-PEG4-ビオチン溶液を0.34mLずつ混和し、遮光して16時間反応させた。その後、0.22μmフィルターでろ過した後、分注し、使用時まで-30℃フリーザーで凍結保存した。
【0054】
(SPPLAT法による細胞表面標識)
培養した細胞をPBSで3回洗浄し、HRP標識した抗体をPBSに溶解した1%BSA溶液に加え、細胞と4℃で1時間反応させた。反応後、細胞をPBSで3回洗浄し、6cm培養ディッシュの場合は1mLの50mMトリス塩酸あたり6.25μLのビオチン-PEG4-チラミド溶液、0.03%の過酸化水素を加えて調製した溶液と5分反応させた。反応後、1mLのカタラーゼ溶液(200U/mL)を加え反応を停止させた。細胞をPBSで3回洗浄し、cOmplete(登録商標) Protease Inhibitor Cocktail(ロシュ社)、PhosSTOP(登録商標)(ロシュ社)及び4mM 1,10-フェナントロリン(ナカライ社)を含む0.5mLのEzRipa buffer(Atto社)を添加しスクレーパーで回収し、-30℃で凍結保存した。
【0055】
(ビオチン標識分子の回収)
凍結保存した細胞溶解液を解凍後、超音波処理を行い、4000Gで5分遠心した。上清にHigh Capacity Magne(登録商標) ストレプトアビジンビーズ(V7820、プロメガ社)を添加し、4℃、16時間ローテーションしながら反応させた。遠心及び磁気ビーズ分離ラックでストレプトアビジンビーズを分離しRipa bufferで3回洗浄後、SDSサンプルバッファーでビーズから標識分子を回収した。
【0056】
(ガレクチン-4抗体による標識分子)
SPPLAT法でHRP標識ガレクチン-4抗体(aG4)及びHRP標識ウサギIgG(C)で細胞表面を標識した結果を図10aに示す。ガレクチン-4抗体(aG4)の代わりにウサギIgG(C)を反応させた細胞の溶解液にみられるいくつかのバンド(*)は細胞に存在するアビジン結合分子である。ガレクチン-4抗体(aG4)特異的に多くの分子がビオチン標識された。
ストレプトアビジンビーズで回収されたビオチン標識分子の中にpMET及びCD44が染色されたことから、これらの分子がガレクチン-4に近接して存在することがSPPLAT法でも明らかになった。
HRP標識ガレクチン-4抗体の代わりにHRP標識ガレクチン-4を用い、標識時、50mMの濃度でスクロース(Suc)またはラクトース(Lac)、あるいは1mg/mLの濃度でアシアロフェチュイン(AF)を共存させてSPPLAT法で細胞表面を標識した結果を図10bに示す。ガレクチン-4でビオチン標識される分子は、ガレクチン-4の結合阻害活性の無いスクロースに比べ、ガレクチン-4の結合阻害活性を有するラクトースやアシアロフェチュインの共存で大幅に減少した。
ストレプトアビジンビーズで回収したビオチン標識分子の中にウェスタンブロットでpMET及びCD44が染色されたことから、これらの分子がガレクチン-4に近接して存在することが明らかになった。pMET及びCD44の染色も阻害糖の存在で大幅に減少したことから、これらの分子とガレクチン-4の近接に糖鎖が関与していることが明らかになった。
【0057】
《実施例5》
本実施例では、siRNAを用いて、ガレクチン-4陽性細胞のガレクチン-4の発現を阻害した。すなわち、ガレクチン-4高発現胃癌細胞株(NUGC4、MKN45)を用いてガレクチン-4遺伝子の発現阻害(ノックダウン)実験を行い、ノックアウトと同様のフェノタイプが見られ、腹膜播種が阻害されるか調べた。
ノックダウン実験には、インビトロジェン社のsiRNAを用いた。ガレクチン-4用のデザイン済みStealth RNAi(登録商標) siRNA(Stealth siRNA)#3(5’-CCGGACAUUGCCAUCAACAGCUGAA-3’)、及びコントロールとしてNegative control High GC(12935400)のStealth siRNAを用いた。
細胞へのsiRNAの導入にはLipofectamine RNAiMax(インビトロジェン社)を用い、同社のプロトコールに従って行った。前日に撒き替えた細胞に、一定の濃度になるようにOptiMEM培地で希釈したsiRNAとRNAiMaxのコンプレックスを加え数日間培養後に試験に用いた。
【0058】
(ガレクチン-4標的siRNAによる関連分子の発現への影響)
siRNAによって、cMET及びpMETタンパク質の発現が低下するか調べた。NUGC4細胞へは10nM、MKN45細胞へは25nMの濃度でsiRNAを導入し、SDSサンプルバッファーで回収し、両分子の発現をウェスタンブロットで調べた。
図11に示すように、48時間後に回収した細胞で、ガレクチン-4をノックダウンした細胞(Gi)ではコントロールsiRNAを導入した細胞(Ci)に比べ、NUGC4細胞及びMKN45細胞の両方でガレクチン-4タンパク質の発現低下が認められ、ノックアウトと同様にノックダウンでも特にpMETタンパク質の低下が認められた。
【0059】
(ガレクチン-4標的siRNA導入による増殖能への影響)
siRNAの導入によって、胃がん細胞の増殖能に与える影響を調べた。前日に細胞を96ウェルプレートに播種し、siRNA添加から72時間後の生細胞をWST-8法で調べ、コントロールsiRNAを導入した細胞と比較した。
図12に示すように、ガレクチン-4をノックダウンした細胞(Gi)では、無処理の細胞及びコントロールsiRNAを導入した細胞(Ci)に比べ、増殖能の低下が認められた。MKN45細胞の方が、増殖抑制効果が高いのは、MKN45細胞の方がよりその増殖にcMET経路の関与する割合が高い為と考えられた。
【0060】
(ガレクチン-4標的siRNA導入細胞のPLA)
ガレクチン-4標的siRNA導入細胞でpMETとガレクチン-4のPLAを行った。図13で示されるように無処理の細胞及びコントロールsiRNAを導入した細胞(Ci)で、膜の近傍付近にPLAシグナルが観察され、ガレクチン-4とpMETとの近接が観察された。一方、ガレクチン-4標的siRNA導入細胞(Gi)ではPLAが減弱し、膜の近傍でのシグナルが観察されなかった。このことから、ガレクチン-4のノックダウンによって、膜近傍でのガレクチン-4とpMETとの近接が大きく抑制されることが示唆された。
【0061】
《実施例6》
本実施例では、siRNAの投与によって腹膜播種が抑制されるかを、マウスモデルを用いて解析した。
免疫不全マウス(BALBc nu/nu、オス、6週齢)に、ヒト胃癌細胞株MKN45細胞3×10個を腹腔内に移植し、腹膜播種モデルとした。80μgのsiRNA溶解液、80μLのin vivo実験用トランスフェクション試薬(LEO-10、北海道システム・サイエンス株式会社)、5%ブドウ糖液の計250μLを腫瘍細胞投与後、1、4、7、11、14、18、21日目に計7回腹腔内に投与した。
動物試験に用いたガレクチン-4標的siRNA及びコントロールsiRNAは、実施例5と同じ配列で、かつin vivo用に調製されたもの(インビトロジェン社)を用いた。両siRNA腹腔内投与群とも、4匹ずつのマウスで実験を行った。また、2匹のマウスは腫瘍細胞のみを投与し、無処置群とした。
28日後に開腹、剖検し、腫瘍重量を測定した結果を図14に示す。無処置群+対照siRNA投与群(Ci)とガレクチン-4標的siRNA投与群(Gi)で統計処理を行うとp=0.017となり、有意水準5%でガレクチン-4標的siRNAによる腫瘍重量の抑制が認められ、ガレクチン-4標的siRNAによって腹膜播種を抑制できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の医薬組成物は、ガレクチン-4陽性胃がん細胞の増殖を抑制し、胃がんの抗がん剤として用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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