(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019909
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】間仕切壁、建築物および間仕切壁施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20240206BHJP
E04B 2/74 20060101ALI20240206BHJP
E04B 1/61 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
E04B1/94 X
E04B1/94 L
E04B2/74 551A
E04B2/74 551Z
E04B1/61 502Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122677
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000105693
【氏名又は名称】コマニー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000844
【氏名又は名称】弁理士法人クレイア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 浩
【テーマコード(参考)】
2E001
2E125
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA07
2E001GA12
2E001HA11
2E001HB02
2E001HB04
2E001HD11
2E001HF02
2E001LA06
2E001MA02
2E001MA03
2E125AA29
2E125AA53
2E125AA66
2E125AB05
2E125AC13
2E125AC14
2E125AC19
2E125BD01
2E125BE02
2E125BE05
2E125BF03
2E125EA23
(57)【要約】
【課題】防火性能を備えながら、部屋全体の美観が損なわれず、意匠性に優れたガラス間仕切壁を提供すること。
【解決手段】本発明の間仕切壁10は、ガラスパネルと、ガラスパネルを保持する保持具100と、を備え、保持具100は、一対の対向壁110と底面112とを有し、ガラスパネル側に開口した断面コ字形状であり、ガラスパネルの小口面210と底面112との間に固定部300を備え、対向壁110とガラスパネルとの間に変形吸収空間111を有する。変形吸収空間111は、火災時の熱によるガラスパネルの膨張または変形を吸収することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスパネルと、前記ガラスパネルを保持する保持具と、を備える間仕切壁であって、
前記保持具は、一対の対向壁と底面とを有し、前記ガラスパネル側に開口した断面コ字形状であり、
前記ガラスパネルの小口面と前記底面との間に固定部を備え、
前記対向壁と前記ガラスパネルとの間に変形吸収空間を有する、間仕切壁。
【請求項2】
前記固定部は、引張接着強さが1.5N/mm2以上3.2N/mm2以下の塑性物である、請求項1記載の間仕切壁。
【請求項3】
前記固定部は、耐熱温度が-50℃以上150℃以下の樹脂である、請求項1記載の間仕切壁。
【請求項4】
前記変形吸収空間は、前記ガラスパネルの両面にそれぞれ備えられ、
前記ガラスパネルの小口面は、前記底面の中央部で固定される、請求項1記載の間仕切壁。
【請求項5】
前記変形吸収空間の厚みが、前記ガラスパネルの厚みの1.6倍以上である、請求項1記載の間仕切壁。
【請求項6】
前記保持具は、垂直柱と水平柱とを備える前記ガラスパネルの枠体であり、
前記変形吸収空間は、前記垂直柱にのみ備えられる、請求項1記載の間仕切壁。
【請求項7】
前記ガラスパネルは、連結された複数の板ガラスで構成され、
連結された前記板ガラスの小口面には連結部が設けられた、請求項1記載の間仕切壁。
【請求項8】
前記連結部は、透明かつ前記固定部より耐火性に優れたシーリング樹脂からなる、請求項7記載の間仕切壁。
【請求項9】
前記連結部は、透明かつ前記固定部より厚みが厚い、請求項7記載の間仕切壁。
【請求項10】
請求項1に記載の間仕切壁が設置された建築物。
【請求項11】
請求項7に記載の間仕切壁の施工方法であって、
前記板ガラスと前記保持具とを前記固定部で連結する連結工程と、
前記連結工程で固定された前記板ガラスの小口面と他の板ガラスの小口面とをシーリング樹脂で連結するシーリング工程と、を含む、間仕切壁施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火性を備えたガラス間仕切壁及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、オフィスまたは住居等の空間を間仕切る方法として、複数枚のガラスパネルを横方向に隣接してなるガラス間仕切壁が開発されている。空間に解放感をもたらすガラス間仕切は、オフィス等の空間におけるインテリア性を高め、優れた意匠性を発揮する。
また、建物火災等の避難安全設計では、出火室から炎や煙が避難経路となる廊下等へ多量に漏れでることを防ぎ、避難時における安全性を確保するために、防火性能が求められ、このような防火性能はガラス間仕切壁にも求められる。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2002-194835号公報)には、充分な耐火性のある、簡便な構造の間仕切りが開示されている。
特許文献1に記載の部屋の間仕切りに用いる板状体の取り付け構造は、断面形がT字形のT字型金具を2個用い、該T字型金具を床もしくは天井面で固定し、バックアップ材を介して、該板状体の端部を両側から該T字型金具で挟持することを特徴とする板状体の取り付け構造が開示されている。
【0004】
また、特許文献1に記載の板状体の取り付け構造は、板状体が透明な防耐火パネルであって、バックアップ材が難燃性あるいは不燃性であり、T字型金具が、空気層あるいは不燃性の断熱材を介して隔てられ、また、T字型金具の防耐火パネルと平行になる室内側部分が、中空構造あるいは中央部を厚くしていることを特徴とする板状体の取り付け構造である。
【0005】
特許文献2(特開2021-120523号公報)には、両ガラス板の端部同士を位置決めし保持する不透明な連結部材が目立って透明領域が不当に狭められ、ガラスパーティションとしての視覚的な基本性能が減殺される不具合を解消するガラスパーティション及びその施工方法、並びに矯正具が開示されている。
【0006】
特許文献2に記載のガラスパーティションは、複数枚のガラス板を幅方向に隣設してなるガラスパーティションにおいて、隣り合うガラス板の突合せ領域における特定箇所にガラス板の反りを抑制するための矯正具を部分的に設けるものである。
【0007】
また、特許文献3(特表2017-525641号公報)には、隣接している板の間の完全に捕らえられている縁の存在なしに燃焼試験規格に達することができるため、より簡素であり、観察者の気を散らさず、かつより見た目が美しい耐火性ガラススクリーン及び該耐火性ガラススクリーンの使用について開示されている。
【0008】
特許文献3に記載の耐火性ガラススクリーンは、少なくとも2枚の一枚板ソーダ石灰石英ガラス板を備え、該板が、ある程度に強化され、該板の各々が、隣接している縁にて該板のうちの少なくとも別の1枚に当接し、封止剤が、該当接している板の隣接している縁の間に位置するものである。
【0009】
さらに、特許文献4(特開2021-167264号公報)には、火炎の遮断性能を向上可能にしたガラス板接合構造、およびガラス板接合方法について開示されている。
【0010】
特許文献4に記載のガラス板接合構造は、端面が相互に向き合うように配置されたガラス板の端面間の隙間である目地部空間が充填材によって充填されているガラス板接合構造であって、充填材の少なくとも一部が遮蔽対象であり、遮蔽対象の外側で端面間を繋ぐように位置し、遮蔽対象の外部からの熱を遮蔽対象に対して遮蔽する遮蔽部材を備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002-194835号公報
【特許文献2】特開2021-120523号公報
【特許文献3】特表2017-525641号公報
【特許文献4】特開2021-167264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
オフィスまたは住居等に設置されるガラス間仕切壁は、火災発生時に人が避難できるように所定の防火性能を備えることが求められる。また、室内で火災が発生した場合も、ガラス間仕切壁が一定期間強度を保持することにより、火災により発生した煙の降下時間を遅らせる事で避難時間を確保する事ができ、避難階段の数を増やす等の対策をする費用を抑えることができる。
例えば、特許文献1に記載の板状体の取り付け構造のように防耐火ガラスパネルは、2個のT字型金具をH字になるように向い合せ、形成される溝にバックアップ材を介してガラスパネル端部が挟持されている。これにより、2個のT字型金具が防耐火ガラスパネル端部に沿って天井から床面まで連続して設置されており、曲げ剛性が大きくなり防耐火ガラスパネルがたわむことを防ぎ、十分な強度を確保しようとするものである。
【0013】
しかしながら、近年では、防火性能および意匠性が高く、さらに施工が容易なガラス間仕切装置のニーズが増えてきた。特許文献1のように、T字型の連結金具がガラスパネルの端部において天井から床まで備えられているため、意匠性に問題が生じる。さらに、ガラスパネル同士を挟持するためのT字型金具はそれぞれの防耐火ガラスパネル間の両面に沿って設置されており、施工にあたり工数およびコストがかかるという問題がある。
【0014】
一方、特許文献2ないし4に記載のガラス間仕切壁は、隣り合うガラス板の突合せ領域における特定の箇所に、ガラス板の反りを抑制するための点固定具を用い、連結金具を小型化する工夫をしている。この場合も、連結金具が部屋の美観を損ねてしまい、依然として意匠性に問題がある。
さらに、ガラスパネル同士の固定方法については、点固定の連結金具をそれぞれのガラスパネル間の両側から設置する必要があり、施工性にも課題がある。
【0015】
本発明は上記の欠点を解消するためになされたもので、その目的は、防火性能を備えながら、部屋全体の美観が損なわれず、意匠性に優れたガラス間仕切壁を提供することにある。
本発明の他の目的は、ガラスパネル同士が容易に連結でき、施工性に優れたガラス間仕切壁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)
一局面に従う間仕切壁は、ガラスパネルと、ガラスパネルを保持する保持具と、を備える間仕切壁であって、保持具は、一対の対向壁と底面とを有し、ガラスパネル側に開口した断面コ字形状であり、ガラスパネルの小口面と底面との間に固定部を備え、対向壁とガラスパネルとの間に変形吸収空間を有していてもよい。
【0017】
この場合、保持具には変形吸収空間が設けられているので、火災時の熱によるガラスパネルの膨張または変形を吸収することができる。特に、間仕切壁の片側で火災が発生してガラスパネルの片面に炎があたる場合、ガラスパネルが片側方向に大きく熱変形するため、カラスパネルを保持具に固定する固定部が破断して、ガラスパネルの熱変形を変形吸収空間が吸収することができる。よって、ガラスパネルが熱膨張したとしてもガラスパネルの破損を防止することができる。
さらに、固定部の殆どが破断して、ガラスパネルが転倒しそうになった場合にも、保持具の対向壁によってガラスパネルが支持されるため、ガラスパネルは保持具により保持され続ける。
したがって、間仕切壁の片側で火災が発生した場合も、一定時間は火炎が間仕切壁を超えて噴出することを防止し、また可燃ガスの流出を防ぐので間仕切壁を超えた発炎を防止し、火炎が通るような亀裂等の損傷および隙間の発生を防止することができる。また、火災発生時もガラスの破損および転倒を防止するので、避難経路への火災室からの煙を一定時間保持する事ができるため、避難における安全性を確保することができる。
さらに、間仕切壁はガラスパネルで構成されているため意匠性に優れ、間仕切壁が設置された空間に解放感をもたらすことができる。
【0018】
(2)
第2の発明に係る間仕切壁は、一局面に従う間仕切壁において、固定部は、引張接着強さが1.5N/mm2以上3.2N/mm2以下の塑性物で構成されていてもよい。
【0019】
これにより、固定部においてガラスパネルと保持具が所定の強度で保持される。また、火災によりガラスパネルが片側方向に大きく熱変形した場合には、固定部の保持状態が解除され、熱によるガラスパネルの膨張および変形が保持具の変形吸収空間により吸収される。
また、ガラスパネルの変形が変形吸収空間で吸収されることにより、応力が解放されるため、ガラスパネルの破損を防止することができる。
【0020】
(3)
第3の発明に係る間仕切壁は、一局面または第2の発明に係る間仕切壁において、固定部は、耐熱温度が-50℃以上150℃以下の樹脂で構成されていてもよい。
【0021】
これにより、火災時に所定の温度に達すると、樹脂の強度が低下して、固定部の保持状態が解除されやすくなる。これにより、熱によるガラスパネルの変形が保持具の変形吸収空間により吸収される。
さらに、ガラスパネルの膨張が変形吸収空間で吸収されることにより、応力が解放され、ガラスパネルの破損を防止することができる。
【0022】
(4)
第4の発明に係る間仕切壁は、一局面から第3の発明のいずれかに係る間仕切壁において、変形吸収空間は、ガラスパネルの両面にそれぞれ備えられ、ガラスパネルの小口面は、底面の中央部で固定されていてもよい。
【0023】
これにより、ガラスパネルの両面いずれの側で火災が発生した場合も、ガラスパネルの熱変形を確実に吸収することができる。室内に設けられる間仕切壁は、ガラスパネルの両面いずれ側で発生する場合も想定される。火災時に固定部の保持状態が解除された際、熱によるガラスパネルの膨張および変形がガラスパネルの両側の変形吸収空間で吸収することができる。
ガラスパネルは火災が発生している面の方に凸型に湾曲するため、ガラスパネルの両面いずれの側で火災が起きた際も膨張および変形を吸収する必要がある。よって、火災がガラスパネルの両面いずれの側で発生した際も、ガラスパネルの湾曲に対応することができる。
【0024】
(5)
第5の発明に係る間仕切壁は、一局面から第4の発明のいずれかに係る間仕切壁において、変形吸収空間の厚みが、ガラスパネルの厚みの1.6倍以上であってもよい。
【0025】
これにより、火災の炎によりガラスの片面が高温に晒された場合にも、大きな熱変形を確実に吸収することができる。
なお、ここでいう変形吸収空間の厚みは、一対の対向壁の内面同士の距離からガラスパネルの厚みを引いた距離に相当する。変形吸収空間は、ガラスパネルの片側に設けられていてもよいし両側に設けられていてもよいが、ここでいう変形吸収空間の厚みは、両側に設ける場合は、その合計値となる。
【0026】
(6)
第6の発明に係る間仕切壁は、一局面から第5の発明のいずれかに係る間仕切壁において、保持具は、垂直柱と水平柱とを備えるガラスパネルの枠体であり、変形吸収空間は、垂直柱にのみ備えられていてもよい。
【0027】
これにより、火災時のガラスパネルの変形は保持具の垂直柱によって吸収され、水平柱はガラスの端部を固定し続ける。よって、火災時に炎や煙等が水平柱とガラスパネルとの隙間から漏れることを防止する。
特に、高温の煙とガスの多くは天井側から伝ってくるところ、水平柱の固定が維持されることによって、天井とガラスパネルとの仕切が維持され、避難経路となる廊下等へ多量に漏れ出ることを防止し、避難時における安全性を確保することができる。
【0028】
(7)
第7の発明に係る間仕切壁は、一局面から第6の発明のいずれかに係る間仕切壁において、ガラスパネルは、連結された複数の板ガラスで構成され、連結された板ガラスの小口面には連結部が設けられていてもよい。
【0029】
ガラスパネルが複数の板ガラスが連結するように巨大である場合、火災発生時のガラスパネルの変形量は大きくなる。このように、ガラスパネルの変形量が大きい場合には、保持具側の固定部が破断するため、ガラスパネルの熱変形を変形吸収空間が吸収して、ガラスパネル全体の破損および転倒を防止することができる。
また、ガラスパネルは複数の板ガラスから構成されるため、間仕切る空間のサイズを調整することができる。さらに、間仕切る空間を大きくする際、ガラスパネルの面積が増えたとしても空間に解放感をもたらすことができ、インテリア性も維持することができる。
【0030】
(8)
第8の発明に係る間仕切壁は、第7の発明に係る間仕切壁において、連結部は、透明かつ固定部より耐火性に優れたシーリング樹脂から構成されていてもよい。
【0031】
これにより、火災発生時に固定部のシーリング樹脂が積極的に破断するため、板ガラスの連結状態を確実に維持することができる。よって火災時に、連結された板ガラスの連結部分から火炎が噴出することを防止し、可燃ガスの流出による発炎を防止するとともに、火炎が通るような亀裂等の損傷および隙間の発生を防止することができる。それにより、出火室から炎や煙が廊下または別室等へ漏れ出ることを防ぎ、避難時における安全性を確保することができる。
また、連結部は透明なシーリング樹脂からなるため、複数の板ガラスを連結した際も空間に解放感をもたらすことができる。
【0032】
(9)
第9の発明に係る間仕切壁は、第7の発明に係る間仕切壁において、連結部は、透明かつ固定部より厚みが厚くてもよい。
【0033】
これにより、火災発生時に固定部のシーリング樹脂が積極的に破断するため、板ガラスの連結状態を確実に維持することができる。よって火災時に、連結された板ガラスの連結部分から火炎が噴出することを防止し、可燃ガスの流出による発炎を防止するとともに、火炎が通るような亀裂等の損傷および隙間の発生を防止することができる。それにより、出火室から炎や煙が廊下または別室等へ漏れ出ることを防ぎ、避難時における安全性を確保することができる。
また、連結部は透明なシーリング樹脂からなるため、複数の板ガラスを連結した際も空間に解放感をもたらすことができる。
【0034】
(10)
他の局面に係る建築物は、一局面から第9の発明のいずれかに係る間仕切壁が設置されていてもよい。
【0035】
これにより、ガラス間仕切壁を建築物内に設置した場合において、防火性能および意匠性に優れた内装を提供することができる。
【0036】
(11)
他の局面に係る間仕切壁施工方法は、第7から第9の発明のいずれかに係る間仕切壁の施工方法であって、板ガラスと保持具とを固定部で連結する連結工程と、連結工程で固定された板ガラスの小口面と他の板ガラスの小口面とをシーリング樹脂で連結するシーリング工程と、を含んでいてもよい。
【0037】
これにより、隣接する板ガラス同士と、保持具と板ガラスと、をシーリング樹脂のみで固定することができる。よって、隣接する板ガラス同士の間に金属部材等を設置する必要がないため容易に施工することができ、さらに意匠性を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】間仕切壁を設置した状態の一例を示す模式的斜視図である。
【
図2】
図1の間仕切壁を天井と水平方向に切断した場合の模式的断面図である。
【
図3】
図1の間仕切壁を天井と垂直方向に切断した場合の模式的断面図である。
【
図4】
図2の部分拡大図および火災時の様子を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明においては、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0040】
[本実施の形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る間仕切壁の設置状態の一例を示す模式的斜視図である。また、
図2は
図1の間仕切り壁を天井と水平方向に切断した場合の模式的断面図である。
図3は、
図1の間仕切壁を天井と垂直方向に切断した場合の模式的断面図である。
図4(a)は
図2の部分拡大図であり、
図4(b)は火災時における固定部の様子を説明するための模式図である。
本実施形態の間仕切壁が設置された建築物は、
図1に例示するように、部屋全体の美観を有しつつ、優れた防火性能を備えているので、万一火災が発生した場合にも建築物内にいる人が避難する時間と間仕切空間を確保することができる。また、本間仕切壁はガラスパネルにより空間を間仕切るので、火災発生場所が把握できて避難を容易にすることができる。
【0041】
(間仕切壁10)
図1に示すように、本実施形態の間仕切壁10は、連結されたガラスパネルによってオフィスまたは居住等の内部空間を区画することができる。
本実施形態のガラスパネルの周縁には、天井500と水平方向に設置された水平柱100aと、天井500と垂直方向に設置された垂直柱100bと、からなる保持具100が備えられており、保持具100によってガラスパネルが保持されている。
水平柱100aは、天井500に設置されるものと床600に設置されるものとが対をなし、垂直柱100bは、壁700などに設置されている。なお、垂直柱100bは壁に固定されていてもよく、ドアを保持する角パイプ等に固定されていてもよい。
【0042】
(ガラスパネル)
保持具100に保持されるガラスパネルは、空間を区画するものであり、1枚または複数枚の板ガラス200から構成される。なお、板ガラス200を複数枚用いて連結する場合、後述の連結部400を用いて小口面210を連結する。
ガラスパネルに用いる板ガラス200の枚数は、1枚でもよいし、複数枚連結されていても良いが、例えば2枚以上10枚以下とすることができ、2枚上4枚以下が好ましい。これにより、防火性能と空間区画を好ましく両立することができる。
【0043】
板ガラス200のサイズは特に限定されないが、板ガラス200の幅は例えば0.5m以上1.5m以下とすることができ、0.8m以上1.2m以下とすることが好ましい。また、板ガラス200の高さは例えば2m以上3.4m以下とすることができ、2.7m以上3.4m以下とすることが好ましい。また、板ガラス200の厚みは例えば5mm以上30mm以下とすることができ、10mm以上20mm以下とすることが好ましい。
また、板ガラス200は、複層ガラスを用いることができるが、変形吸収空間111で熱変形を十分に吸収する観点では、単層ガラスを用いることが好ましい。
【0044】
(保持具100)
保持具100は、水平柱100aと垂直柱100bとから構成される。
このうち垂直柱100bは、壁面等に設置されて、ガラスパネルの上下方向の端部を保持するものであり、通常ガラスパネルの短辺側を対をなして保持するものである。
図2に示すように、本実施形態の垂直柱100bは、一対の対向壁110と、底面112とを有した断面コ字形状である。そして、断面コ字形状に内嵌するように板ガラス200の端部が配置され、板ガラス200の小口面210と底面112との間に固定部300(後述)が備えられることにより、板ガラス200が保持される。
また、垂直柱100bの対向壁110と板ガラス200との間には、後述の変形吸収空間111が備えられており、これにより板ガラス200の変形を吸収することができる。
【0045】
また、水平柱100aは、天井面等に設置されて、ガラスパネルの左右方向の端部を保持するものであり、通常ガラスパネルの長辺側を対をなして保持するものである。
図3に示すように、本実施形態の水平柱100aは、一対の対向壁110と、底面112とを有した断面コ字形状である。そして、断面コ字形状に内嵌するように板ガラス200の端部が配置され、板ガラス200が固定される。
本実施形態の水平柱100aは、一対の対向壁110にシーリング材が設けられ、板ガラス200を両面から固定して動きを規制する。したがって、本実施形態の水平柱100aは、火災等があった場合も、板ガラス200を保持し続けて板ガラス200の転倒を防止し、炎の延焼を防止する。また、板ガラス200の動きを規制するので、板ガラス200の熱変形の応力は垂直柱100b側に伝わり、垂直柱100b側の固定部300の固定が解除されて熱変形が積極的に吸収される。
【0046】
本実施形態における保持具100は、垂直柱100bと100aとを備えるガラスパネルの枠体である。
図2に示される保持具100は、金属製の一枚板を変形することにより形成された例を示している。保持具100の材質は、例えばスチール製、アルミ製とすることができ、好ましくはスチール製である。
対向壁110の長さ(底面112からの突出長さ)は、5mm以上40mm以下とすることができ、8mm以上20mm以下とすることが好ましい。また、一対の対向壁110の離隔距離は、8.0mm以上150mm以下とすることができ、30mm以上80mm以下とすることが好ましい。火災の際、固定部300が解除され板ガラス200の小口面210が固定部300から離隔した場合、保持具100を構成する対向壁110がガラスパネルが転倒しないように支持する。
垂直柱100bは、壁等にネジ710と壁の裏側に配置してある側面視左向き略コ字状の係止部材720によって固定されている。
【0047】
水平柱100aは、天井500に固定されるものと、床600に固定されるものとがある。天井500に固定される水平柱100aは、ボルト510と天井500の裏側に配置してある側面視上向き略コ字状をなす係止部材520によって天井500に固定される。これにより、天井500を挟み込むようにして強固に固定されている。
床600に固定される水平柱100aは、底面112に設置されたアンカーボルト610によって床600に固定されている。
【0048】
水平柱100aには、変形吸収空間111はなく、ガラスパネルの前後両面と各対向壁110との間に、ガラスパネルの全長に亘って取り付けられた弾性部材220によりガラスパネルの前後方向への移動を抑制し保持している。弾性部材220はゴム製パッキン等を用いることができる。また、ガラスパネルの保持方法は、従来から周知のシーリング、ガスケット、グレイジングビードまたはグレイジングチャンネル等を採用してもよい。
【0049】
(固定部300)
図2および
図4に示すように、垂直柱100bに設けられる固定部300は、ガラスパネルの小口面210と底面112との空間を埋めると同時に、相互に対向する端面同士を接合する。固定部300の例としては、シーリング樹脂Aまたは両面テープにより固定することができる。
シーリング樹脂Aは、耐熱温度(JIS K5600-6-3)が例えば-50℃以上150℃とすることが好ましい。また、引張接着強さ(JIS A1439)が例えば1.5N/mm
2以上3.2N/mm
2以下とすることが好ましい。
これにより、
図4(a)のように、通常時はガラスパネルを固定しつつ、火災時には
図4(b)のように、板ガラス200の変形が端部に大きく伝わるため、固定部300の保持状態が解除される。よって、熱によって変形したガラスパネルの応力を開放することができ、ガラスパネルの破損または転倒等を防止できる。シーリング樹脂Aは耐火性を有しても有さなくても良い。
また、シーリング樹脂Aのガラスパネル厚さ方向の厚みは、ガラスパネル厚み以下とすることが好ましい。また、ガラス小口面210と底面112との間の幅は3mm以上20mm以下とすることができ、5mm以上15mm以下とすることが好ましい。これにより、施工性に優れるとともに、底面112とガラスパネルとを十分に固定しつつ、火災時には固定部300の保持状態が解除される。
【0050】
図2に示すように、垂直柱100bに一方端が固定された板ガラス200は、他方端が他の板ガラス200と連結することができ、他方端側の小口面210には連結部400が設けられる。
固定部300のシーリング樹脂Aと連結部400のシーリング樹脂Bとは同じでも良いし、異なっていても良い。シーリング樹脂AとBにおいて同じ樹脂を使用する場合は、固定部300に塗布する量または厚みを連結部400よりも少なくしてもよい。これにより、連結部400よりも固定部300が先に固定状態が好ましく解除される。
また、シーリング樹脂AとBにおいて異なる樹脂を用いる場合、固定部300の耐熱温度、破断強度、および/または引張接着強さが、連結部400よりも小さくすることが好ましい。これにより、連結部400よりも固定部300が先に固定状態がより好ましく解除される。
【0051】
図4(b)に示すように、火災の際はガラスパネル全体が熱変形するためガラスパネルの端部の位置が大きくずれるが、保持具100の変形量は小さい。したがって、火災時は連結部400の位置ずれよりも固定部300の位置ずれの方が大きくなるため、固定部300と連結部400とに同じシーリング樹脂を同じ厚みで塗布した場合であっても、連結部400よりも固定部300の方が先に保持状態が解除される。
そして、固定部300の固定状態が先に解除されて、変形吸収空間111により板ガラス200同士の変形による応力が解放されるため、連結部400は火災時も一定時間連結状態を保持することが可能となる。
【0052】
シーリング樹脂AまたはBに使用される樹脂としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、変成シリコン系樹脂等を用いることができる。このうち接着強度および意匠性の観点ではシリコン系樹脂を用いることが好ましい。
また、シーリング樹脂A、Bの塗布にあたっては、事前に、板ガラス200の小口面210および保持具100にプライマー液を塗布することができる。プライマー液としては、例えばシリコン等を用いることができる。これにより、シーリング樹脂A,Bと板ガラス200および保持具100との密着性を高めることができる。
【0053】
(変形吸収空間111)
図2に示される変形吸収空間111は、1つの対向壁110、底面112、固定部300およびガラスパネルに、コ字形状に囲われた空間である。
変形吸収空間111は、ガラスパネルおよび固定部300を隔てて両側に備えられ、2つの対向壁110のそれぞれ両側に設けられる。両側に備えられた変形吸収空間111は対称的に設けられていても良いし、左右非対称に設けられていても良い。
通常、火災が発生した際は、間仕切壁の片側で火災が発生してガラスパネルの片面に炎があたりガラスパネルが片側方向に大きく熱変形するが、どちら側で火災が発生するかは予測できないため、変形吸収空間111はガラスパネルの両側に左右対称に設けられていることが好ましい。
変形吸収空間111の厚み(一対の対向壁の内面同士の距離からガラスパネルの厚みを引いた距離)は、ガラスパネルの厚みの1.6倍以上5.0倍以下とすることが好ましく、3倍以上4倍以下とすることがより好ましい。また、変形吸収空間111はガラスパネルの一方側のみに設けられていても良く両側に設けられていてもよい。変形吸収空間111が両側に設けられる場合、変形吸収空間111の片側の厚みは、ガラスパネル厚みの0.8以上2.5倍以下とすることが好ましく、1.5倍以上2.0倍以下とすることが好ましい。
【0054】
変形吸収空間111は垂直柱100bにのみ備えられ、水平柱100aには備えられないことが好ましい。火災時は、垂直柱100bの固定部300が破断し不安定な状態のガラスパネルを水平柱100aが固定することにより転倒等を防止することができる。
【0055】
(連結部400)
図2に示されるように、連結部400は、隣接する板ガラス200同士の隙間を埋め、板ガラス200同士を接合する。連結部400は、固定部300よりも耐火性に優れている。
連結部400で使用されるシーリング樹脂Bは、耐火性に優れるため、火災の際に固定部300が破断したとしても、連結部400が破断することがない。したがって、連結部400は気体の通過も防止することができるため、火災時の煙が他の部屋に漏れ出ることを抑制することができる。
シーリング樹脂Bは、透明なコーキング材を用いることが好ましく、具体的にはシリコン樹脂等を使用してよい。また、コーキング材以外の耐火性を有する充填材、両面テープ、接着剤等を使用してもよい。シーリング樹脂Bが透明であることにより、またはテープ等のように厚みが薄い部材を用いることで、透光性が良いというガラス間仕切としての視覚的な基本性能を損なうことなく、優れた意匠性を発揮することができる。
【0056】
また、連結部400のシーリング樹脂Bとして透明のシリコン樹脂を用いる場合、板ガラスの厚さ方向の厚みおよび幅は、連結する板ガラスの厚みおよび幅と同じとすることが好ましい。
【0057】
(間仕切壁施工方法)
以上に説明した間仕切壁10の施工方法について
図2および3を参照して説明する。
本実施形態における間仕切壁施工方法は、板ガラス200と保持具100とを固定部300で連結する連結工程と、連結工程で固定された板ガラス200の小口面210と他の板ガラスの小口面とをシーリング樹脂で連結するシーリング工程と、を含む。
【0058】
それぞれの工程を詳しく説明する。まず、床600に固定される水平柱100aをアンカーボルト610を用い固定する。水平柱100aの対向壁110間の隙間に弾性部材220を設置する。天井に固定される水平柱100aもボルト510を用い固定し、対向壁110間に弾性部材220を設置する。さらに、間仕切壁を設置したい部屋の2箇所の壁に垂直柱100bをネジ710で固定する。
次に連結工程では、底面112と板ガラス200の小口面210とが互いに向かい合うように、板ガラス200を配置する。板ガラス200の小口面210に接する表面、裏面と、底面112のシーリング樹脂を充填しない箇所にマスキングテープ等の後から綺麗に剥がせるテープを貼る。配置された底面112と板ガラス200との端面間の隙間にシーリング樹脂Aを充填する。この時、シーリング樹脂Aがガラスパネルからはみ出ることがないように、ガラスパネルの厚みよりも少し薄くシーリング樹脂Aを塗布する。シーリング樹脂Aが硬化する前に、均し用のヘラを2つ使用し、ガラスパネルの両側から同時にシーリング樹脂Aを均す。
【0059】
シーリング工程では、連結工程で固定されたガラスパネルの固定されていない方の小口面210と別の板ガラスの小口面とを互いに向き合うように配置する。連結工程と同じようにマスキングテープを貼り、ガラスパネルの小口面同士の隙間にシーリング樹脂Bを充填する。シーリング樹脂Bが硬化する前に、均し用のヘラを2つ使用し、ガラスパネルの両側から同時にシーリング樹脂Bを均す。
上記に例示した工程により、間仕切壁を正確に施工することができる。
【0060】
(遮炎性能試験)
本実施形態で得られた間仕切壁10の遮炎性能を試験した。遮炎性能試験の概要と試験結果について説明する。
本遮炎性能試験では、ガラスパネルとして、開口面のサイズが幅3,350mm×高さ3,200mm、厚み10mmの板ガラスを3枚用意し、板ガラス200同士をシリコン樹脂のシーリング材(信越化学社製KE420型番)により連結したものを用いた。
また、垂直柱100bとして、変形吸収空間111の距離(ガラスパネルの表面と対向壁110との離隔距離)を63mmとしたものを用いた。また、固定部300として、各板ガラスをシリコン樹脂のシーリング材(信越化学社製KE420型番)により固定した。
また、水平柱100aとして、対向壁110の長さ(底面112からの突出長さ)を22mmとしたものを用いた。また、弾性部材220としてシリコン樹脂のシーリング材(信越化学社製KE420型番)により固定した。
なお、保持具(水平柱100aおよび垂直柱100b)としては、1枚の板状の鋼製材を加工して形成した。
試験は、一般財団法人日本建築総合試験所にて日本建築総合試験所制定の「防耐火性能試験・評価業務方法書4.9遮炎・準遮炎性能試験方法」に従い実施し、加熱時間は10分とした。
【0061】
また、遮炎性能試験では、以下の項目(1)~(3)を計測または観察することにより評価した。
(1)非加熱側へ10秒を超える火炎の噴出がないこと
(2)非加熱面で10秒を超える発炎がないこと
(3)火炎が通る亀裂等の損傷や隙間を生じないこと
試験の結果、上記3項目について本実施の形態の間仕切壁10は全て満たすことができ、10分間遮炎性能を有することが確認された。
【0062】
本発明においては、間仕切壁10が「間仕切壁」に相当し、水平柱100a、垂直柱100b、保持具100が「保持具」に相当し、水平柱100aが「水平柱」に相当し、垂直柱100bが「垂直柱」に相当し、対向壁110が「対向壁」に相当し、変形吸収空間111が「変形吸収空間」に相当し、底面112が「底面」に相当し、1または複数枚の板ガラス200が「ガラスパネル」に相当し、小口面210が「小口面」に相当し、固定部300が「固定部」に相当し、連結部400が「連結部」に相当する。
【0063】
本発明の好ましい一実施の形態は上記の通りであるが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は、一例であり、本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0064】
10 間仕切壁
100 保持具
100a 水平柱
100b 垂直柱
110 対向壁
111 変形吸収空間
112 底面
200 板ガラス
210 小口面
220 弾性部材
300 固定部
400 連結部
500 天井
510 ボルト
600 床
610 アンカーボルト
700 壁
710 ネジ