(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019919
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】車両出力特性推定装置
(51)【国際特許分類】
G01M 17/007 20060101AFI20240206BHJP
【FI】
G01M17/007 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122697
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】518075967
【氏名又は名称】学校法人永守学園
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】堂前 伸一
(57)【要約】
【課題】車両試験設備がなくても、実路走行時の車両の出力特性を推定できる車両出力特性推定装置を提供する。
【解決手段】車両5の出力特性を推定する車両出力特性推定装置1は、車両5の重量を取得する車両重量取得部34と、車両5の車両速度を取得する車両速度取得部32と、車両5の走行位置を取得する車両位置取得部31と、車両5の走行位置に対応した勾配情報としての標高が格納された標高データベース71を参照して、車両位置取得部31によって取得された走行位置に応じた勾配情報を取得する勾配情報取得部33と、車両5の重量、車両速度、走行位置及び勾配情報に基づいて、走行位置における車両5の出力特性を出力する出力特性算出部40と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の出力特性を推定する車両出力特性推定装置であって、
前記車両の重量を取得する車両重量取得部と、
前記車両の車両速度を取得する車両速度取得部と、
前記車両の走行位置を取得する車両位置取得部と、
前記車両の走行位置に対応した勾配情報が格納された勾配情報データベースを参照して、前記車両位置取得部によって取得された前記走行位置に応じた勾配情報を取得する勾配情報取得部と、
前記車両の重量、前記車両速度、前記走行位置及び前記勾配情報に基づいて、前記走行位置における前記車両の出力特性を出力する出力特性算出部と、
を有する、
車両出力特性推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両出力特性推定装置において、
前記車両は、動力源としてのモータと、前記モータを駆動するためのバッテリとを有する電動車であり、
前記バッテリの出力電力を取得するバッテリ出力電力取得部と、
前記出力電力を入力とし、前記出力特性を出力としたエネルギー変換効率を算出するモータシステム効率算出部と、をさらに有する、
車両出力特性推定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両出力特性推定装置において、
前記モータシステム効率算出部は、
前記バッテリ出力電力取得部が前記出力電力を取得するタイミングと、前記出力特性算出部が前記出力特性を算出するタイミングとを同期して、前記エネルギー変換効率を算出する、
車両出力特性推定装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の車両出力特性推定装置において、
前記モータシステム効率算出部は、前記エネルギー変換効率の統計的な外れ値を除いて、前記エネルギー変換効率を算出する、
車両出力特性推定装置。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の車両出力特性推定装置において、
前記モータシステム効率算出部は、前記車両においてアクセル操作が行われている間の前記出力特性を用いて、前記エネルギー変換効率を算出する、
車両出力特性推定装置。
【請求項6】
請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の車両出力特性推定装置において、
前記モータの回転速度、前記モータのトルク及び前記エネルギー変換効率を対応付けたマップを作成するマップ作成部をさらに有する、
車両出力特性推定装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の車両動力特性推定装置において、
前記出力特性算出部は、登坂抵抗、転がり抵抗、空気抵抗及び加速抵抗の合計から得られる走行抵抗を計算し、計算した前記走行抵抗を前記走行位置における前記車両の出力特性を出力する、
車両出力特性推定装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の車両出力特性推定装置において、
前記車両は、動力源としてのモータと、前記モータを駆動するためのバッテリと、エネルギー回生システムとを有する電動車であり、
前記車両の惰性走行時、前記走行抵抗のうち負の加速抵抗として現れる制動力に基づいて、制動力の仕事率を推定する車両出力推定部と、
前記エネルギー回生システムが出力する回生電力を取得する回生電力取得部と、
前記回生電力と、前記制動力の単位時間当たりの仕事率とに基づいて、前記車両の惰性走行時における回生エネルギー変換効率を算出するエネルギー回生システム効率算出部と、をさらに有する、
車両出力特性推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の出力特性を推定する車両出力特性推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
温暖化対策に向け、世界的に自動車等の高効率化が求められている。このため車両全体の効率を様々な負荷状況で計測する手法が求められている。従来の自動車等の出力特性の測定方法として、例えば、非特許文献1に開示されているように、シャシダイナモメータ上で試験車が実路走行したときと同等の走行抵抗及び加減速時の慣性抵抗を、試験車の駆動輪に加えて測定する技術が知られている。シャシダイナモメータ上で再現される走行抵抗としては、例えば、転がり抵抗及び空気抵抗が挙げられる。
【0003】
また、特許文献1には、エネルギー効率の良いルートを計算するための方法およびシステムが開示されている。特許文献1では、まず、出発地から目的地までの1つまたは複数のルートを計算する。また、ルートごとに、ルート内の各道路セグメントに関連付けられたセグメントコストを計算する。セグメントコストは、関連付けられた道路セグメントを走行するときの車両の予想燃料又はエネルギー消費量に関連する値である。また、セグメントコストは、既知の勾配に基づき計算される。特許文献1の方法では、このようにして計算した各ルートのコストを比較することで、エネルギー効率の良いルートを特定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0179362号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Martin Hermann、「シャシダイナモメータによる車両試験」、Readout、株式会社堀場製作所、2009年1月31日、第34号、pp.24-27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、非特許文献1に開示されているようなシャシダイナモメータによる車両試験設備は、高額であり、且つ、専用の設置施設が必要となる。このため、シャシダイナモメータは、例えば、自動車メーカによって、車両の開発段階及び認定段階の特定の車両を評価するのに用いられる。従って、個人が所有する車両を気軽に評価することは困難である。
【0007】
また、特許文献1に開示されている方法も、飽くまでカーナビゲーションシステムにおけるルーティングのための技術であって、実路走行時の車両の出力特性は測定していない。
【0008】
車両の出力特性は、実際に走行している道路環境に応じて変動する可能性がある。例えば、平地を走行しているか、山岳路を走行しているかの違いにより、あるいは、車両周囲の天候条件等の違いによって、車両の出力特性は変動する可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、車両試験設備がなくても、実路走行時の車両の出力特性を推定できる車両出力特性推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の例示的な一実施形態に係る車両出力特性推定装置は、車両の出力特性を推定する車両出力特性推定装置であって、前記車両の重量を取得する車両重量取得部と、前記車両の車両速度を取得する車両速度取得部と、前記車両の走行位置を取得する車両位置取得部と、前記車両の走行位置に対応した勾配情報が格納された勾配情報データベースを参照して、前記車両位置取得部によって取得された前記走行位置に応じた勾配情報を取得する勾配情報取得部と、前記車両の重量、前記車両速度、前記走行位置及び前記勾配情報に基づいて、前記走行位置における前記車両の出力特性を出力する出力特性算出部と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の例示的な一実施形態に係る車両出力特性推定装置によれば、車両試験設備がなくても、実路走行時の車両の出力特性を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る車両出力特性推定装置の概略的構成を示す機能ブロック図である。
【
図2A】
図2Aは、道路傾斜角の算出方法を説明する図である。
【
図3】
図3は、時刻と駆動力及び負荷との対応関係の一例を示したグラフである。
【
図4】
図4は、時刻と出力との対応関係の一例を示したグラフである。
【
図5】
図5は、実施形態2に係る車両出力特性推定装置の概略的構成を示す機能ブロック図である。
【
図7A】
図7Aは、タイミング同期を行わない場合を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、タイミング同期を行う場合を示す図である。
【
図8】
図8は、四分位範囲で定義される外れ値について説明するグラフである。
【
図9】
図9は、マップ作成部が作成するマップを説明する図である。
【
図10】
図10は、実施形態3に係る車両出力特性推定装置の概略的構成を示す機能ブロック図である。
【
図11】
図11は、実施例のモータシステム効率の計測を行った3種類の試験ルートを示す図である。
【
図13】
図13は、実施例の3種類の試験ルートにおけるモータシステム効率のマップを示す図である。
【
図14】
図14は、実施例の試験ルートにおけるモータの回転速度-モータシステム効率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照し、本発明の例示的な実施の形態を詳しく説明する。なお、図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。また、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0014】
[実施形態1]
(全体構成)
図1を用いて、実施形態1に係る車両出力特性推定装置1について説明する。
【0015】
図1は、実施形態1に係る車両出力特性推定装置1の概略的構成を示す機能ブロック図である。
【0016】
図1に示すように、車両出力特性推定装置1は、車両5に内蔵又は周辺機器として接続される。車両出力特性推定装置1は、車両5とネットワーク接続されていると共にサーバ装置7とネットワーク接続されている。車両5は、動力源としてのモータと、前記モータを駆動するためのバッテリと、エネルギー回生システムとを有する電動車である。
【0017】
車両出力特性推定装置1は、例えば、スマートフォン、タブレット端末、ウェアラブル端末又はノートPC等のモバイル端末等の情報処理装置によって実現できる。また、車両出力特性推定装置1は、例えば、自動車の運転席及び助手席の前方を含む内装前面部分に配置されるインストルメントパネルを制御するVCU(Vehicle Control Unit)又は後付けのカーナビゲーションシステム等の車載インフォテインメント装置によって実現できる。
【0018】
車両出力特性推定装置1は、記憶部20、制御部11、有線通信部12、無線通信部13、測位システム14、表示部15及び測定部16を有する。
【0019】
記憶部20は、制御部11において実行されるプログラム及びプログラムで使用されるデータ等の各種のデータを格納している。記憶部20は、例えば、揮発性又は不揮発性の記憶装置により実現できる。記憶部20は、例えば、内蔵、外付けの記憶装置又はリムーバブルメディアにより実現できる。記憶部20は、具体的に例示すると、キャッシュメモリ及び主記憶装置である。また、記憶部20は、具体的に例示すると、SSD(Solid State Drive)又はHDD(ハードディスク)等の補助記憶装置である。
【0020】
制御部11は、プログラムを実行することで車両出力特性推定装置1における各種機能を統合的に実行する。制御部11は、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等の演算装置がプログラムを実行することにより各種機能を実現できる。なお、制御部11の詳細については後述する。
【0021】
有線通信部12は、有線ネットワークに接続して通信を行うためのネットワークインターフェイスである。有線通信部12は、車両5のCAN(Controller Area Network)にアクセスして、各種の通信を行うことができる。
【0022】
無線通信部13は、携帯電話通信網又は無線通信規格等による無線ネットワークに接続して通信を行うためのネットワークインターフェイスである。
【0023】
測位システム14は、GNSS(Global Navigation Satellite System)と総称される測位衛星システムを用いて、車両出力特性推定装置1が搭載されている車両5の位置情報を取得する。測位システム14は、1つ又は複数の測位衛星システムを用いて、緯度及び経度を含む位置情報を取得できる。測位システム14は、例えば、GPS(Global Positioning System)及びその他の測位衛星システムにアクセスできる。複数の測位衛星システムを用いて位置情報の精度が向上できる。また、測位システム14は、1秒間の位置情報の変位に基づいて車両の速度を算出する。
【0024】
表示部15は、ユーザに対して車両出力特性推定装置1における各種データを提示する。表示部15は、液晶又は有機EL等の表示装置により実現できる。
【0025】
測定部16は、車両5の運転中における外気温度、外気相対湿度及び大気圧を測定するセンサである。
【0026】
(制御部の詳細)
図1に加えて、
図2A及び
図2Bを用いて制御部の詳細について説明する。
【0027】
図2Aは、道路傾斜角の算出方法を説明する図であり、
図2Bは、駆動力の算出方法を説明する図である。
【0028】
図1に示すように、制御部11は、車両位置取得部31、車両速度取得部32、勾配情報取得部33、車両重量取得部34、空気密度取得部35及び出力特性算出部40を有する。
【0029】
(車両位置取得部)
車両位置取得部31は、測位システム14から車両の位置情報を取得する。車両位置取得部31は、位置情報を、勾配情報取得部33及び出力特性算出部40に送信する。
【0030】
(車両速度取得部)
車両速度取得部32は、測位システム14から取得した車速を含む速度情報を取得する。車両速度取得部32は、取得した速度情報を、勾配情報取得部33及び出力特性算出部40に送信する。
【0031】
(勾配情報取得部)
勾配情報取得部33は、車両の位置に対応する勾配情報を取得する。まず、勾配情報取得部33は、標高をサーバ装置7から取得する。サーバ装置7の標高データベース71には、国土地理院が提供する高精度な標高データに基づくデータが格納されている。勾配情報取得部33は、例えば、無線通信部13を介して、毎秒、サーバ装置7にアクセスし、位置情報に含まれる緯度及び経度に対応する標高情報を、サーバ装置7から取得する。例えば、勾配情報取得部33は、
図2Aに示すようにA地点の標高情報及びその1秒後のB地点の標高情報を取得する。勾配情報取得部33は、2つの地点の標高情報に基づいて1秒間の標高の変化ΔHを計算する。また、勾配情報取得部33は、車両速度取得部32から速度情報を取得する。勾配情報取得部33は、A地点及びB地点における速度情報に基づいて1秒間の水平移動距離を計算する。すなわち、1秒間の水平移動距離は、車速v(m/s)に等しい。勾配情報取得部33は、計算した1秒間の標高の変化ΔH及び1秒間の水平移動距離に基づいて、車両の位置における道路傾斜角θを計算する。なお、1秒間の水平移動距離は、車速vから求められる。このため、例えば、勾配情報取得部33は、以下の式(1)に基づいて道路傾斜角θを求めることができる。
【0032】
tanθ=ΔH/v ・・・ (1)
勾配情報取得部33は、計算した道路傾斜角を勾配情報として、出力特性算出部40に送信する。
【0033】
(車両重量取得部)
車両重量取得部34は、有線通信部12を介して、車両5から車両重量情報を取得する。車両重量情報には、乾燥車両重量に加え、乗員全員の体重及び積載物重量が含まれる。車両重量取得部34は、取得した車両重量情報を、出力特性算出部40に送信する。
【0034】
(空気密度取得部)
空気密度取得部35は、測定部16から取得した外気温度、外気相対湿度及び大気圧を用いて、公知の公式を用いて空気密度を算出する。空気密度取得部35は、算出した空気密度を空気密度情報として、出力特性算出部40に送信する。
【0035】
(出力特性算出部)
出力特性算出部40は、車両5の出力特性を算出する。車両5に作用する外力には、例えば、
図2Bに示すように転がり抵抗F
roll、空気抵抗F
aero、登坂抵抗F
grad、加速抵抗F
accelの4つの走行抵抗と車両の駆動力F
tractとがあり、駆動力F
tractは、4つの走行抵抗の合計として、以下の式(2)で得られる。
【0036】
Ftract = Fgrad + Froll + Faero + Faccel ・・・ (2)
ここで、Frollは、転がり抵抗、Faeroは、空気抵抗、Fgradは、登坂抵抗、Faccelは、加速抵抗である。すなわち、出力特性算出部40は、上記式(2)に従って、車両5の駆動力Ftractを算出する。
【0037】
また、出力特性算出部40は、転がり抵抗Froll、空気抵抗Faero、登坂抵抗Fgrad、加速抵抗Faccelのそれぞれを、以下の式(3)~(6)に従って算出する。
【0038】
Fgrad = mg・sinθ ・・・ (3)
Froll = μmg・cosθ ・・・ (4)
Faero = 1/2ρCdAv2 ・・・ (5)
Faccel = m・dv/dt ・・・ (6)
ここで、mは車両重量、μは転がり抵抗係数、gは重力加速度、θは道路勾配、ρは、空気密度、Cdは、空力抵抗係数、Aは車両前面投影面積、vは車速、dv/dtは、車両の加速度である。
【0039】
出力特性算出部40は、車両重量情報に含まれる車両重量を式(3)、(4)及び(6)のmとして用いる。
【0040】
出力特性算出部40は、勾配情報に含まれる道路傾斜角を式(3)及び(4)のθとして用いる。出力特性算出部40は、車両速度を、式(5)のvとして用いる。出力特性算出部40は、2点間の車両速度の変化から式(6)のdv/dtを求める。出力特性算出部40は、空気密度情報に含まれる空気密度を、式(5)のρとして用いる。
【0041】
転がり抵抗係数μ及び空力抵抗係数Cdは、予め車両5において公知の惰行試験を行うことで導出し、記憶部20に記憶しておくことができる。また、例えば、重力加速度g及び車両前面投影面積Aは、予め計測又は定数値として記憶部20に記憶しておくことができる。出力特性算出部40は、記憶部20から、μ、g、Cd及びAを読み出して、式(3)~(6)の計算に用いる。
【0042】
出力特性算出部40は、駆動力の1秒当たりの仕事量、つまり出力Wtractを、以下の式(7)に従って算出する。
【0043】
Wtract=Ftract・v ・・・ (7)
すなわち、出力Wtractは、駆動力と車速との積として計算できる。
【0044】
出力特性算出部40は、算出した出力Wtractを表示部15に表示させる。このように、出力特性算出部40は、車両の重量、車両速度、走行位置及び勾配情報を用いて、走行抵抗に含まれる各種抵抗のパラメータを算出して出力特性としての出力Wtractを算出する。よって、各種抵抗に基づく出力特性を精度良く算出できる。
【0045】
図3及び
図4を用いて、出力特性算出部40が、表示部15に表示させる画面の一例について説明する。
図3は、時刻と駆動力及び負荷との対応関係の一例を示したグラフである。
図4は、時刻と出力との対応関係の一例を示したグラフである。
【0046】
図3では、転がり抵抗F
roll、空気抵抗F
aero、登坂抵抗F
grad、加速抵抗F
accelのそれぞれを、積み上げ縦棒グラフで示している。また、駆動力F
tractを折れ線グラフで示している。
【0047】
また、転がり抵抗Froll、空気抵抗Faero、登坂抵抗Fgrad、加速抵抗Faccelのそれぞれに、車速vを乗じると、それぞれに関する仕事量が得られる。
【0048】
転がり抵抗Froll及び空気抵抗Faeroに車速vを乗じると、それぞれ、転がり抵抗に抗する仕事量及び空力抵抗に抗する仕事量が得られる。また、登坂抵抗Fgradに車速vを乗じると登坂抵抗に抗する仕事量、つまり位置エネルギーの変化量が得られる。また、加速抵抗Faccelに車速vを乗じると加速抵抗に抗する仕事量、つまり運動エネルギーの変化量が得られる。これら4つの仕事量の合計は、上記式(7)の出力Wtractに一致する。
【0049】
図4では、上記4つの仕事量を積み上げ縦棒グラフで示している。また、出力W
tractを折れ線グラフで示している。
【0050】
出力特性算出部40は、
図4のグラフに示される出力W
tractの経時的変化を表示部15に表示させる。また、出力特性算出部40は、
図3のグラフを表示部15に表示させてもよい。
【0051】
以上で説明したように、車両出力特性推定装置1は、車両5の出力特性を推定する。また、車両出力特性推定装置1は、車両重量取得部34と、車両速度取得部32と、車両位置取得部31と、勾配情報取得部33と、出力特性算出部40とを有する。
【0052】
車両重量取得部34は、車両5の重量を取得する。車両速度取得部32は、車両5の車両速度を取得する。車両位置取得部31は、車両5の走行位置を取得する。勾配情報取得部33は、車両5の走行位置に対応した勾配情報が格納された標高データベース71を参照して、車両位置取得部31によって取得された前記走行位置に応じた勾配情報を取得する。すなわち、本書において、勾配情報とは、勾配そのものに加え、勾配を導出するための標高又は高度情報も含む情報である。出力特性算出部40は、車両5の重量、車両速度、走行位置及び勾配情報に基づいて、前記走行位置における車両5の出力特性を出力する。
【0053】
これにより、車両試験設備や特別なセンサがなくても、実路走行時の車両5の出力特性を推定できる。
【0054】
[実施形態2]
図5~
図9を用いて、本発明の実施形態2に係る車両出力特性推定装置1について説明する。
図5は、実施形態2に係る車両出力特性推定装置1の概略的構成を示す機能ブロック図である。
図6は、車両5の模式的な電源回路図である。
【0055】
実施形態2に係る車両出力特性推定装置1は、さらにモータシステム効率をセグメント化したマップを作成する点で、実施形態1に係る車両出力特性推定装置1と異なる。本明細書において、モータシステム効率は、バッテリから供給される電気エネルギーと、実際に車両の駆動に使われる運動エネルギーの比率のことを意味する。例えば、電動車両には、バッテリ、インバータ、モータ及びギア等の構成部品があり、それぞれの構成部品の間で損失が生じ得る。なお、実施形態2の説明では、実施形態1に係る車両出力特性推定装置1と共通する部分については、詳細な説明を繰り返さない。
【0056】
図5に示すように、実施形態2に係る車両出力特性推定装置1の制御部11は、実施形態1に係る車両出力特性推定装置1の構成において、バッテリ出力電力取得部36、モータシステム効率算出部41及びマップ作成部42を、さらに有する。
【0057】
(バッテリ出力電力取得部)
バッテリ出力電力取得部36は、車両5の駆動力のためにバッテリから供給される出力電力を取得する。
図6に示すように、車両5には、モータに電気を供給する駆動用バッテリ51と補機用バッテリ52との2種類のバッテリが搭載されている。バッテリ出力電力取得部36は、有線通信部12を介して、車両5のCANにアクセスして、直流電圧計53で計測された駆動用バッテリ出力電圧V
batと直流電流計54で計測された駆動用バッテリ出力電流I
bat、直流電流計55で計測された補機用バッテリ供給電流I
auxを取得する。
【0058】
バッテリ出力電力取得部36は、バッテリから車両の駆動力のために供給される出力電力Ptractを、以下の式(8)に従って算出する。
【0059】
Ptract=Vbat(Ibat-Iaux) ・・・ (8)
バッテリ出力電力取得部36は、算出した出力電力Ptractを、モータシステム効率算出部41に送信する。
【0060】
(モータシステム効率算出部)
モータシステム効率算出部41は、出力電力Ptractを入力とし、出力特性としての出力Wtractを出力としたエネルギー変換効率を算出する。
【0061】
図7A、
図7B及び
図8を用いて、具体的に説明すると以下のとおりである。
図7Aは、タイミング同期を行わない場合を示す図である。
図7Bは、タイミング同期を行う場合を示す図である。
図8は、四分位範囲で定義される外れ値について説明するグラフである。
【0062】
まず、モータシステム効率算出部41は、バッテリ出力電力取得部36が出力電力Ptractを取得するタイミングと、出力特性算出部40が出力特性としての出力Wtractを算出するタイミングとを同期する。
【0063】
インバータ及びモータに供給される出力電力P
tractは、
図6で示した通り、車両5に搭載された直流電圧計53及び直流電流計54の計測値に基づき計算されるため、遅延が少ない。これに対して、駆動力の1秒当たりの仕事量である出力W
tractは、モータの駆動に対する車両5の応答遅延又はGPS信号の計算遅延等が加算されるため遅延が出力電力P
tractよりも大きい。
【0064】
図7A及び
図7Bに示すグラフは、出力電力P
tractの推移と、出力W
tractの推移とを模式的に示している。なお、
図7A及び
図7Bに示すグラフでは、出力電力P
tractを実線により表し、出力W
tractを破線により表している。
【0065】
上述の理由から、出力電力P
tractの計算と出力W
tractの計算とで同期をとらない場合、
図7Aに示すように、遅延D1が発生し、出力電力P
tractの推移に対して、出力W
tractの推移が遅延する。
【0066】
そこで、モータシステム効率算出部41は、先行する出力電力P
tractのグラフを、
図7Bで白抜き矢印の向きに移動させる。具体的には、モータシステム効率算出部41は、出力電力P
tractのグラフの時刻を1秒遅らせる。これにより、出力電力P
tractの推移と、出力W
tractの推移との同期を図っている。なお、移動の大きさは、出力電力P
tract及び出力W
tractの同期が最適化されるように設定できる。
【0067】
このように、モータシステム効率算出部41は、出力電力Ptractを取得するタイミングと、出力特性としての出力Wtractを算出するタイミングとにズレがあったとしても、そのズレを補正できる。よって、精度よく走行時における車両のエネルギー変換効率を算出できる。
【0068】
モータシステム効率算出部41は、以下の式(9)に従って車両5のパワートレインのエネルギー変換効率、つまりモータシステム効率ηを算出する。
【0069】
η=Wtract/Ptract ・・・ (9)
Wtract及びPtractの値が等しい場合にモータシステム効率ηは1.0、すなわち、百分率表現で100%となる。しかし、実際にはエネルギー変換ロスがあるため、モータシステム効率ηは100%より小さい値になる。
【0070】
なお、モータシステム効率算出部41は、車両5においてアクセル操作が行われている間の出力Wtractを用いて、上記式(9)に示すエネルギー変換効率ηを算出する。
【0071】
車両の走行期間は、アクセルぺダルを踏んでおりアクセル操作が行われている期間、アクセルペダルから足を離して惰行している期間、ブレーキペダルを踏んで減速している期間の3種類の期間に分類できる。駆動力の1秒当たりの仕事量である出力Wtractは、3種類のすべての走行期間において計測可能である。一方、バッテリの出力電力Ptractは、アクセル操作が行われている期間のみで計測できる。そこで、モータシステム効率算出部41は、有線通信部12を介して、車両5から走行期間の種類を取得し、走行期間が3種類のいずれの期間かを判定する。モータシステム効率算出部41は、前記判定に基づいて、アクセルペダルから足を離して惰行している期間及びブレーキペダルを踏んで減速している期間を除外して、アクセル操作が行われている期間のみを、モータシステム効率ηの算出対象とする。これにより、より精度よくエネルギー変換効率を算出できる。
【0072】
また、モータシステム効率算出部41は、このようにして算出したエネルギー変換効率ηの統計的な外れ値を除いて、最終的にエネルギー変換効率ηを算出する。これにより、エネルギー変換効率ηの算出結果に外れ値がある場合でも、外れ値を取り除いて、車両5のエネルギー変換効率ηを精度良く算出できる。
図8を参照して、モータシステム効率算出部41が、具体的には、四分位範囲で定義される外れ値を用いて、エネルギー変換効率ηの異常値を取り除く具体例について説明する。
図8のグラフでは、横軸においてエネルギー変換効率ηのデータセットを1%刻みの区間で区切ってグルーピングし、縦軸においてそれぞれのグループの度数を示している。
【0073】
モータシステム効率算出部41は、エネルギー変換効率ηについて、25パーセンタイルの下位四分位Q1と75パーセンタイルの上位四分位Q3との差として定義される四分位範囲IQRを求める。また、モータシステム効率算出部41は、Q1及びQ3を用いて、下方外れ値境界=Q1-IQR×1.5と、上方外れ値境界=Q3+IQR×1.5とを求める。
【0074】
モータシステム効率算出部41は、下方外れ値境界未満のデータ及び上方外れ値境界を超えるデータを統計的な外れ値として除外する。これにより、統計的に外れ値と判定される異常値を排除してエネルギー変換効率の精度を向上できる。
【0075】
なお、上述の通り車両の走行期間には、アクセル操作が行われている期間、アクセルペダルから足を離して惰行している期間、ブレーキペダルを踏んで減速している期間の3種類がある。3種類の走行期間を含む全走行期間に対して、アクセル操作が行われている期間は仮に1/3程度だとすると、全走行期間が90分間の場合、アクセル操作が行われている期間は30分程度となる。1秒に1回の頻度でエネルギー交換効率を算出する場合、30分×60回/分=1800件のデータが算出される。1800件のデータは、統計的にみても、有意な分析が可能な件数である。
【0076】
モータシステム効率算出部41は、最終的に算出されたエネルギー変換効率ηをマップ作成部42に送信する。
【0077】
(マップ作成部)
マップ作成部42は、モータの回転速度、モータのトルク及びエネルギー変換効率ηを対応付けたマップを作成する。
図9を用いて具体的に説明すると以下の通りである。
図9は、マップ作成部42が作成するマップを説明する図である。
【0078】
マップ作成部42は、以下の式(10)と式(11)とに従って、モータのトルクTmとモータの回転速度Nmとを、それぞれ駆動力Ftractと車速vとを使用して、算出する。
【0079】
Tm=Ftract・Dp/2Ar ・・・(10)
Nm=60Arv/πDp ・・・(11)
ここで、Dpは、タイヤの直径、Arは、減速比である。マップ作成部42は、有線通信部12を介して、車両5からモータのトルクTm及びモータの回転速度Nmを取得する。マップ作成部42は、有線通信部12を介して、車両5からタイヤの直径Dp及び減速比Arを取得する。
【0080】
図9に示すように、マップ作成部42は、算出したモータのトルクT
m及びモータの回転速度N
mをそれぞれ所定の間隔で区切ってセグメント化し、各セグメントにモータシステム効率ηを割り付ける。マップ作成部42は、各セグメントに属するモータシステム効率ηの平均値又は中央値を代表値として決定し、決定した代表値を各セグメント内にマッピングしたマップ62を作成する。これにより、統計的なばらつきや誤差の影響を低減できる。マップ62では、モータシステム効率ηが高いほど、濃い色がセグメントの色として設定され、低いほど、薄い色がセグメントの色として設定されている。
【0081】
マップ作成部42は、このように作成したマップ62を表示部15に表示させる。
【0082】
以上で説明した通り、車両出力特性推定装置1は、電動車としての車両5が有するバッテリの出力電力Ptractを入力とし、出力特性としての出力Wtractを出力としたエネルギー変換効率ηを算出する。これにより、走行時における車両5のエネルギー変換効率ηを容易に算出できる。
【0083】
また、モータの回転速度、モータのトルク及びエネルギー変換効率を対応付けたマップ62によって、これらの対応関係を可視化できる。これにより、モータの回転速度、モータのトルク及びエネルギー変換効率の対応関係を一目で判断できる。なお、本実施形態ではエネルギー変換効率をマップ出力した場合を示したが、これに限られない。車両出力特性推定装置1は、ユーザにマップ中のあるセグメントを選択させて、ユーザが選択したセグメントにおいて、エネルギー変換効率が運転中どのように変化するのかをグラフ等の形式によって表示部15にトレンド表示してもよい。また、車両出力特性推定装置1は、運転開始から運転終了までのトリップ期間におけるモータの回転速度、モータのトルク及びエネルギー変換効率の対応関係を記憶部20に記憶しておいてもよい。また、車両出力特性推定装置1は、記憶部20に記憶されたトリップ期間ごとにエネルギー変換効率の時系列的推移をグラフ等の形式によって表示部15にトレンド表示してもよい。これらの場合には、トレンドの変化があると、モータなどの異常を検出できるという効果がある。
【0084】
[実施形態3]
図10を用いて、本発明の実施形態3に係る車両出力特性推定装置1について説明する。
図10は、実施形態3に係る車両出力特性推定装置1の概略的構成を示す機能ブロック図である。
【0085】
実施形態3に係る車両出力特性推定装置1は、実施形態2に係る車両出力特性推定装置1と部分的に共通した構成を有するが、制動力に基づいて回生エネルギー変換効率をセグメント化したマップを作成する点で、実施形態2に係る車両出力特性推定装置1と異なる。なお、実施形態3の説明では、実施形態2に係る車両出力特性推定装置1と共通する部分については、詳細な説明を繰り返さない。
【0086】
図10に示すように、実施形態2に係る車両出力特性推定装置1の制御部11は、実施形態1に係る車両出力特性推定装置1の構成において、出力特性算出部40、バッテリ出力電力取得部36、モータシステム効率算出部41及びマップ作成部42がなく、車両出力推定部としての出力特性算出部45と、回生電力取得部38と、エネルギー回生システム効率算出部としてのモータシステム効率算出部46と、マップ作成部47とを有する構成である。
【0087】
(出力特性算出部)
出力特性算出部45は、車両5の惰性走行時、登坂抵抗、転がり抵抗、空気抵抗及び加速抵抗の4つの走行抵抗のうち負の加速抵抗として現れる制動力に基づいて制動力の仕事率を推定する。
【0088】
すなわち、制動力は減速時の加速抵抗であるので、出力特性算出部45は、上記式(6)に従って、加速抵抗Faccelを算出する。なお、上記式(6)に用いる各情報の取得方法は、出力特性算出部40と同様である。
【0089】
出力特性算出部45は、惰行時に発生する制動力の1秒当たりの仕事量、つまり回生電力仕事率Paccelを、以下の式(12)に従って算出する。
【0090】
Paccel=Faccel・v ・・・ (12)
すなわち、回生電力仕事率Paccelは、制動力と車速との積として計算できる。
【0091】
出力特性算出部45は、算出した回生電力仕事率Paccelをモータシステム効率算出部46に送信する。
【0092】
(回生電力取得部)
回生電力取得部38は、車両5のエネルギー回生システムが出力する回生電力を取得する。具体的には、回生電力取得部38は、有線通信部12を介して、車両5から、惰行時における駆動用バッテリ出力電力Vbat及び駆動用バッテリ出力電流Ibatを取得し、以下の式(13)に従って駆動用バッテリへの充電電力Pregを算出する。
【0093】
Preg=Vbat・Ibat ・・・(13)
回生電力取得部38は、算出した充電電力Pregをモータシステム効率算出部46に送信する。
【0094】
(モータシステム効率算出部)
モータシステム効率算出部46は、回生電力としての充電電力Pregと、制動力の単位時間当たりの仕事率Paccelとに基づいて、車両5の惰性走行時における回生エネルギー変換効率を算出する。
【0095】
具体的には、モータシステム効率算出部46は、以下の式(14)に従って、回生エネルギー変換効率ηregを算出する。
【0096】
ηreg=Preg/(Paccel-Vbat・Iaux) ・・・ (14)
なお、モータシステム効率算出部46は、有線通信部12を介して、車両5から、惰行時における駆動用バッテリ出力電力Vbat及び補機用バッテリ供給電流Ibatを取得する。
【0097】
モータシステム効率算出部46は、算出した回生エネルギー変換効率ηregをマップ作成部47に送信する。
【0098】
マップ作成部47は、モータの回転速度、モータのトルク及び回生エネルギー変換効率ηregを対応付けたマップを作成する。マップ作成部47が作成するマップは、対象とする数値が、エネルギー変換効率ηから回生エネルギー変換効率ηregになる以外は、マップ作成部42が作成するマップと同じである。
【0099】
以上で説明したように、車両出力特性推定装置1は、車両の惰性走行時、走行抵抗のうち負の加速抵抗として現れる制動力に基づいて、制動力の単位時間当たりの仕事量を推定する。このため、車両の慣性走行時の回生電力と、制動力の単位時間当たりの仕事量とに基づいて回生エネルギー変換効率を算出できる。よって、車両の回生電力に対するモータシステム効率を推定できる。
【0100】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0101】
前記各実施形態では、車両出力特性推定装置1の制御部11において演算装置がプログラムを実行することにより各種機能をソフトウェア的に実現されている。これに限られず、制御部は、各種機能を実現するための集積回路等によってハードウェア的に実現されていてもよい。
【0102】
前記実施形態1では、車両出力特性推定装置1はモバイル端末及び車載インフォテインメント装置により実現できる。これに限られず、車両出力特性推定装置は、デスクトップPC又はサーバ装置により実現されていてもよい。
【0103】
前記各実施形態では、車両位置取得部31が、測位システム14から車両の位置情報を取得する。これに限られず、測位システムに加えて、加速度センサ及びジャイロセンサを併用し、カルマンフィルタを用いてそれぞれのセンサデータを合成してもよい。これにより位置情報の精度が向上できる。
【0104】
前記各実施形態では、勾配情報取得部33が、標高をサーバ装置7から取得する。これに限られず、勾配情報取得部は、車両出力特性推定装置が有する標高データベースから標高を取得してもよい。また、標高データベースとしては、国土地理院が提供する高精度な標高データだけでなく、世界各国の道路標高値のデータベースが利用可能である。例えば、日本では日本デジタル道路地図協会が提供するDRM-DB、海外では、オランダのHERE Technologiesが提供するHD map、また中国でも、HDマップを利用できる。また、勾配情報取得部は、車両又は車両出力特性推定装置が有するカーナビゲーションシステムから、標高を取得してもよい。
【0105】
前記各実施形態では、勾配情報取得部33が、2つの地点の標高情報に基づいて1秒間の標高の変化ΔHを計算する。これに限られず、勾配情報取得部33は、位置情報に対応する勾配や大気圧から算出する標高の変化△Hを取得してもよい。
【0106】
前記実施形態1では、車両5は、電動車であると説明したが、電動車でなくてもよい。また、前記各実施形態において、車両は、自動車であっても、バイクであってもよい。
【0107】
前記実施形態2では、車両5には、駆動用バッテリ51と補機用バッテリ52とが搭載されている。これに限られず、車両に補機用バッテリは搭載されていなくてもよい。車両に補機用バッテリが搭載されていない場合、前記実施形態2の式(8)及び前記実施形態3の式(14)の補機用バッテリ供給電流の項はなくてもよい。また、前記実施形態2及び3に係るバッテリ出力電力取得部は、車両に補機用バッテリが搭載されていても、式(8)及び式(14)における補機用バッテリ供給電流の項の計算を省略してもよい。
【0108】
前記各実施形態では、車両速度取得部32は、測位システム14から車速を取得する。これに限られず、車両速度取得部は、有線通信部を介して、車両のCANから車速を取得してもよい。また、車両速度取得部は、有線通信部を介して、車両のナビゲーションシステムから車速を取得してもよい。また、車両速度取得部は、2点における位置情報に基づき2点間の距離及び所要時間を求め、車速を導出してもよい。
【0109】
前記各実施形態では、出力特性算出部40は、記憶部20から、転がり抵抗係数μ、重力加速度g、空力抵抗係数Cd及び車両前面投影面積Aを読み出す。これに限られず、出力特性算出部は、車両出力特性推定装置に搭載されたセンサ、車両又は外部の情報端末から、上記転がり抵抗係数、重力加速度、空力抵抗係数及び車両前面投影面積を取得してもよい。また、これらの値は、車両出力特性推定装置のユーザの操作に応じて設定可能となっていてもよい。また、出力特性算出部40は、タイヤに取り付けたタイヤ圧センサのタイヤ圧情報及びタイヤ温度センサのタイヤ温度情報を、例えば、Bluetooth(登録商標)等の無線通信によって読み取り、転がり抵抗係数μを補正してもよい。
【0110】
前記実施形態2では、マップ作成部42が、有線通信部12を介して、車両5からタイヤの直径Dp及び減速比Arを取得する。ここで、マップ作成部は、予めタイヤの直径及び減速比を車両から取得しておき、取得したタイヤの直径及び減速比を記憶部20に記憶しておいてもよい。そして、マップ作成部は、記憶部からタイヤの直径及び減速比を読みだして、上記式(10)及び(11)の計算で用いてもよい。
【0111】
前記実施形態2では、モータシステム効率算出部41が、四分位範囲で定義される外れ値を用いて、エネルギー変換効率ηの異常値を取り除く。これに限られず、モータシステム効率算出部は、別の統計手法により、外れ値を除去してもよい。例えば、モータシステム効率算出部は、マハラノビス距離などの統計手法を用いて異常値を除去してもよい。また、モータシステム効率算出部は、以下に説明する一連のステップを実行することによってモータシステム効率を算出した時に外れ値の判定を行ってもよい。
【0112】
(1)仮の効率の外れ値の上下限を設定する。例えば、下限値=0%、上限値=100%と設定することができる。
【0113】
(2)計測点数が所定の設定値になるまでは上記(1)の上限値及び下限値を適用する。この所定の設定値は、例えば100点と設定できる。また、上記下限値より小さいまたは上記上限値より大きい値は外れ値として除外する。
【0114】
(3)計測点数が設定値を超えた段階で上記(2)の外れ値を除いた母集団について、新しい下限値として、Q1-IQR×1.5を計算すると共に、上限値として、Q3+IQR×1.5を計算する。
【0115】
(4)最新の計測点が上記(3)の下限値より小さい又は上限値より大きい場合は外れ値として除外する。下限値以上かつ上限値以下の場合は最新の計測点を母集団に加えて下限値Q1-IQR×1.5及び上限値Q3+IQR×1.5を更新する。
【0116】
(5)上記(4)を繰り返す。
【0117】
上記一連のステップを実行することによって外れ値の判定を行うことで、リアルタイムに外れ値を判定できる。
【0118】
また、前記実施形態2では、モータシステム効率算出部は、外れ値の判定を省略してもよい。
【0119】
前記実施形態3では、特に説明しなかったが、モータシステム効率算出部は、外れ値の判定を行ってもよい。
【0120】
[付記事項]
なお、本技術は以下のような構成をとることも可能である。
(1)車両の出力特性を推定する車両出力特性推定装置であって、前記車両の重量を取得する車両重量取得部と、前記車両の車両速度を取得する車両速度取得部と、前記車両の走行位置を取得する車両位置取得部と、前記車両の走行位置に対応した勾配情報が格納された勾配情報データベースを参照して、前記車両位置取得部によって取得された前記走行位置に応じた勾配情報を取得する勾配情報取得部と、前記車両の重量、前記車両速度、前記走行位置及び前記勾配情報に基づいて、前記走行位置における前記車両の出力特性を出力する出力特性算出部と、を有する。
【0121】
この構成によれば、前記車両の重量、前記車両速度、前記走行位置及び前記勾配情報に基づいて、前記走行位置における前記車両の出力特性を推定する。
【0122】
これにより、車両試験設備がなくても、実路走行時の車両の出力特性を推定できる。
【0123】
(2)(1)において、前記車両は、動力源としてのモータと、前記モータを駆動するためのバッテリとを有する電動車であり、前記バッテリの出力電力を取得するバッテリ出力電力取得部と、前記出力電力を入力とし、前記出力特性を出力としたエネルギー変換効率を算出するモータシステム効率算出部と、をさらに有する。
【0124】
この構成によれば、電動車としての車両が有するバッテリの出力電力を入力とし、前記出力特性を出力としたエネルギー変換効率を算出する。これにより、走行時における車両のエネルギー変換効率を容易に算出できる。
【0125】
(3)(2)において、前記モータシステム効率算出部は、前記バッテリ出力電力取得部が前記出力電力を取得するタイミングと、前記出力特性算出部が前記出力特性を算出するタイミングとを同期して、前記エネルギー変換効率を算出する。
【0126】
出力電力のサンプリングのタイミングは、走行抵抗に基づいて出力特性を算出できるタイミングと比べて高頻度の場合がある。
【0127】
この構成によれば、出力電力を取得するタイミングと、出力特性を算出するタイミングとにズレがあったとしても、そのズレを補正できる。よって、精度よく走行時における車両のエネルギー変換効率を算出できる。
【0128】
(4)(2)又は(3)において、前記モータシステム効率算出部は、前記エネルギー変換効率の統計的な外れ値を除いて、前記エネルギー変換効率を算出する。
【0129】
この構成によれば、エネルギー変換効率の算出結果に外れ値がある場合でも、外れ値を取り除いて、車両のエネルギー変換効率を精度良く算出できる。
【0130】
(5)(2)から(4)のいずれか1つにおいて、前記モータシステム効率算出部は、前記車両においてアクセル操作が行われている間の前記出力特性を用いて、前記エネルギー変換効率を算出する。
【0131】
この構成によれば、車両においてアクセル操作が行われている期間は、バッテリの出力を受けてモータが稼働している期間である。
【0132】
したがって、前記車両においてアクセル操作が行われている間の前記出力特性を用いて、前記エネルギー変換効率を算出することで、より精度よくエネルギー変換効率を算出できる。
【0133】
(6)(2)から(5)のいずれか1つにおいて、前記モータの回転速度、前記モータのトルク及び前記エネルギー変換効率を対応付けたマップを作成するマップ作成部をさらに有する。
【0134】
この構成によれば、前記モータの回転速度、前記モータのトルク及び前記エネルギー変換効率を対応付けたマップによって、これらの対応関係を可視化できる。これにより、前記モータの回転速度、前記モータのトルク及び前記エネルギー変換効率の対応関係を一目で判断できる。
【0135】
(7)(1)から(6)のいずれか1つにおいて、前記出力特性算出部は、登坂抵抗、転がり抵抗、空気抵抗及び加速抵抗の合計から得られる走行抵抗を計算し、計算した前記走行抵抗を前記走行位置における前記車両の出力特性を出力する。
【0136】
この構成によれば、前記車両の重量、前記車両速度、前記走行位置及び前記勾配情報を用いて、走行抵抗に含まれる各種抵抗のパラメータを算出して出力特性を算出する。これにより、各種抵抗を考慮した出力特性を精度良く算出できる。
【0137】
(8)(1)から(7)のいずれか1つにおいて、前記車両は、動力源としてのモータと、前記モータを駆動するためのバッテリと、エネルギー回生システムとを有する電動車であり、前記車両の惰性走行時、前記走行抵抗のうち負の加速抵抗として現れる制動力に基づいて、制動力の仕事率を推定する車両出力推定部と、前記エネルギー回生システムが出力する回生電力を取得する回生電力取得部と、
前記回生電力と、前記制動力の単位時間当たりの仕事率とに基づいて、前記車両の惰性走行時における回生エネルギー変換効率を算出するエネルギー回生システム効率算出部と、をさらに有する。
【0138】
この構成によれば、前記車両の惰性走行時、前記走行抵抗のうち負の加速抵抗として現れる制動力に基づいて、制動力の単位時間当たりの仕事量を推定する。このため、車両の慣性走行時の回生電力と、制動力の単位時間当たりの仕事量とに基づいて回生エネルギー変換効率を算出できる。よって、車両の回生電力に対するモータシステム効率を推定できる。
【実施例0139】
【0140】
図11は、実施例のモータシステム効率の計測を行った3種類の試験ルートを示す図である。
図12は、
図11に示す実施例の3種類の試験ルートの高低差断面図である。
図13は、実施例の3種類の試験ルートにおけるモータシステム効率のマップを示す図である。
図14は、実施例の試験ルートにおけるモータの回転速度-モータシステム効率のグラフである。
【0141】
試験車両:超小型モビリティ・・・タジマジャイアン
【0142】
(参考URL)https://www.tajima-motor.com/nextmobility/product/pdf/TJP22071_tajima-jiayuan_A4fly_220715a.pdf
試験場所 :京都
試験ルート:ルート1:大原方面、ルート2:山科方面、ルート3:亀岡方面
試験概要 :上記実施形態2に係る車両出力特性推定装置1による試験車両のモータシステム効率の計測
試験詳細 :
図11に示すように、京都府内の3種類のルートでモータシステム効率を計測した。3種類の試験ルートは、それぞれ
図12に示すように道路勾配が異なる。
図12では、ルート1を実線、ルート2を破線、ルート3を二点鎖線で示している。
図12に示すように、ルート1の大原方面は、ほぼ山岳路を走行し、ルート2の山科方面は、ほぼ市街地を走行するコースになる。ルート3の亀岡方面は、ルート1及びルート2の中間のような特徴を有しており、京都市と亀岡市との市境の老ノ坂峠以外は概ね平坦路である。
【0143】
試験の評価:3種類の試験ルートにおけるモータシステム効率のマップの傾向を評価した。
【0144】
試験結果:
図13に示すように、3種類の試験ルートにおけるモータシステム効率のマップでは、それぞれ、3種類の試験ルートの勾配状況が異なるにもかかわらず、同じような数値が現れる傾向が読み取れる。また、
図14に示すように、モータトルクT
mが18Nmの場合における、モータの回転速度に対するモータシステム効率を表したグラフを比較すると、3種類の試験ルートにおけるグラフにおいてほぼ同じ傾向が現れた。すなわち、ルート1~ルート3のグラフにおいて、モータの回転速度が大きくなるにつれて、モータシステム効率が大きくなる傾向が現れた。
【0145】
このことからも、実施例におけるモータシステム効率の算出方法には十分な再現性及び普遍性が示されたと考えられる。