(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001993
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】動植物エキスの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/42 20060101AFI20231228BHJP
A23F 3/16 20060101ALI20231228BHJP
A23L 2/56 20060101ALI20231228BHJP
A23F 5/48 20060101ALI20231228BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20231228BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20231228BHJP
【FI】
A23F3/42
A23F3/16
A23L2/56
A23F5/48
A23L2/00 B
A23L27/10 B
A23L27/10 C
A23L27/10 A
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100894
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋田 紋佳
(72)【発明者】
【氏名】三澤 尚己
(72)【発明者】
【氏名】中西 啓
(72)【発明者】
【氏名】馬場 信輔
(72)【発明者】
【氏名】村井 弘二
【テーマコード(参考)】
4B027
4B047
4B117
【Fターム(参考)】
4B027FB13
4B027FB17
4B027FB28
4B027FC01
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4B117LP01
4B117LP14
4B117LP16
4B117LP17
(57)【要約】
【課題】従来の水蒸気蒸留法を利用した天然動植物エキスでは、飲食品に天然感をもたらすことができるものの、ユニークな香気の付与、微量の添加で力価のある香気をもたらすには不十分であった。
【解決手段】
以下の工程(A)~(D)を含む動植物エキスの製造方法。
工程(A):動植物原料を水蒸気蒸留し、留出液を得る工程、
工程(B):前記工程(A)で得られた留出液のpHを8.0以上とする工程、
工程(C):前記工程(B)で得られたpH8.0以上の留出液を凍結する工程、
工程(D):前記工程(C)で凍結された留出液を解凍する工程
本発明の製造方法により得られた動植物エキスを飲食品に配合することにより、飲食品にユニークな香味を付与することができる。特に、本発明の製造方法により得られた緑茶エキスを緑茶飲料に微量添加することにより、淹れたての茶類が持つ柔らかくふくよかなグリーン香を持った茶飲料を提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(A)~(D)を含む緑茶エキスの製造方法。
工程(A):緑茶を水蒸気蒸留し、留出液を得る工程、
工程(B):前記工程(A)で得られた留出液のpHを8.0以上とする工程、
工程(C):前記工程(B)で得られたpH8.0以上の留出液を凍結する工程、
工程(D):前記工程(C)で凍結された留出液を解凍する工程
【請求項2】
4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンが添加されていない緑茶エキスであって、緑茶エキス中の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンを測定したとき、下記式を満たす緑茶エキス。
((緑茶エキスの収量(質量))/(抽出原料として用いた緑茶葉量(質量)))×緑茶エキス中の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの含有割合(質量基準)=1×10-8~5×10-5
【請求項3】
4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンが添加されていない緑茶エキスであって、緑茶エキスの香気成分をGC/MSにて分析し、GC/MSの分析結果からクロマトグラムを描画したとき、下記式を満たす緑茶エキス。
(検出された4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンのピーク(m/z=132)の面積値)/(検出されたリナロールのピーク(トータルイオン)の面積値)=1×10-5~5×10-2
【請求項4】
請求項2または3に記載の緑茶エキスを含有する容器詰緑茶飲料。
【請求項5】
請求項2または3に記載の緑茶エキスを含有する緑茶風味飲食品。
【請求項6】
以下の工程(A)~(D)を含む動植物エキスの製造方法。
工程(A):動植物原料を水蒸気蒸留し、留出液を得る工程、
工程(B):前記工程(A)で得られた留出液のpHを8.0以上とする工程、
工程(C):前記工程(B)で得られたpH8.0以上の留出液を凍結する工程、
工程(D):前記工程(C)で凍結された留出液を解凍する工程
【請求項7】
前記工程(C)の凍結において、留出液全体の99%以上が凍結状態となるまで凍結する、請求項6に記載の動植物エキスの製造方法。
【請求項8】
前記工程(C)の凍結において、留出液全体の99%以上が凍結状態となるまでに要する時間が30分以上である、請求項6に記載の動植物エキスの製造方法。
【請求項9】
前記工程(C)において、前記工程(B)で得られた凍結前の留出液中の、前記工程(A)で得られた留出液以外に由来する可溶性固形分濃度が1.0質量%以下である、請求項6に記載の動植物エキスの製造方法。
【請求項10】
前記工程(A)の水蒸気蒸留が、常圧水蒸気蒸留、減圧水蒸気蒸留、加圧水蒸気蒸留および回転薄膜式水蒸気蒸留(SCC)から選ばれる1種または2種以上である、請求項6に記載の動植物エキスの製造方法。
【請求項11】
工程(D)の後に、さらに以下の工程(E)を含む請求項6に記載の動植物エキスの製造方法。
工程(E):前記工程(D)で得られる解凍液に、前記工程(A)で使用したものと同一種類の動植物原料の溶媒抽出エキス分を添加する工程
【請求項12】
前記動植物原料の溶媒抽出エキス分が、水蒸気蒸留留出液を得た後および/または得る前の動植物原料を水系溶媒で抽出して得られたエキス分である、請求項11に記載の動植物エキスの製造方法。
【請求項13】
加熱殺菌工程を含む、請求項12に記載の動植物原料エキスの製造方法。
【請求項14】
前記動植物原料がコーヒーまたは茶類である、請求項6~13のいずれか1項に記載の動植物エキスの製造方法。
【請求項15】
請求項6~13のいずれか1項に記載の製造方法で得られた動植物エキスを飲食品に添加する工程を含む、飲食品の製造方法。
【請求項16】
請求項6~13のいずれか1項に記載の製造方法で得られた動植物エキスを香料組成物に添加する工程を含む、香料組成物の製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の製造方法で得られた香料組成物を飲食品に添加する工程を含む、飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動植物エキスの製造方法および前記製造方法により得られる動植物エキスならびに前記製造方法で得られた動植物エキスを添加する飲食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水蒸気蒸留法は、天然動植物の香気成分を得る方法として古くから知られており、精油の採取、天然物の香気分析などに用いられるほか、香気の優れた動植物エキスの製造方法に応用されている。
【0003】
水蒸気蒸留法を用いた動植物エキスの製法としては、例えば、以下のようなものが知られている。
【0004】
例えば、コーヒーフレーバーを水蒸気蒸留する方法において、フレーバーを含む凝縮水を分画採取し、香気成分に富んだ酸味の少ないフラクションを利用することを特徴とする水蒸気蒸留コーヒーフレーバーの調製方法(特許文献1)、茶類を水蒸気蒸留して得られる留出液を茶葉と接触させ、該留出液中の加熱蒸留臭を除去することを特徴とする茶類フレーバーの製造方法(特許文献2)、嗜好飲料原料を温水抽出して抽出液を回収した後、抽出残渣を水蒸気抽出して溜出液を回収し、前記抽出液と溜出液を混合することを特徴とする嗜好飲料用エキスの製造方法(特許文献3)、嗜好飲料用原料を水蒸気蒸留して得られるフレーバー(A)と、嗜好飲料用原料を気-液向流接触装置に供して得られるフレーバー(B)とを含有し、かつフレーバー(A)の1質量部あたりフレーバー(B)を0.01~100質量部の範囲内で含有する新規フレーバー(特許文献4)、ツバキ科の常緑樹であるチャ(学名:Camellia sinensis(L)O.Kuntze)の生の葉を摘採後凍結処理し、凍結した茶葉を水蒸気蒸留して得られる留出液が配合されていることを特徴とする密封容器入り緑茶飲料(特許文献5)、以下の(1)~(5)の工程により製造することを特徴とするコーヒーエキスの製造方法、(1)焙煎コーヒー豆を0~30℃の温度範囲で低温抽出し、低温抽出液を得る工程、(2)(1)の工程で得られた低温抽出液を0~30℃の温度範囲で保存する工程、(3)(1)の抽出残渣を水蒸気蒸留抽出し、水蒸気蒸留抽出液を得る工程、(4)(2)の工程により0~30℃の温度範囲で保存された低温抽出液と(3)の工程で得られた水蒸気蒸留抽出液を混合し、コーヒーエキスを得る工程(特許文献6)、焙煎かつ粉砕されたコーヒー豆に水蒸気蒸留法又は気-液向流接触抽出法を適用して、焙煎コーヒー豆の香気成分を含む水溶液を回収する工程、前記香気成分を含む水溶液に、アルカリ性物質を添加してそのpHを6.6~10に調整して二酸化炭素ガスをイオン化する工程、pH調整された香気成分を含む水溶液を容器に収容する工程、及び、前記水溶液が収容された容器を-10~-50℃温度で冷凍保存する工程を含む、香気成分の保存方法(特許文献7)。
【0005】
一方、天然抽出物や水蒸気蒸留法とは別に、飲食品に添加する香気化合物として特定の含硫化合物が有用であることは知られており、例えば緑茶飲料に、香料化合物として4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンを添加することにより、入れ立ての茶が持つ柔らかくふくよかなグリーン香を持った茶飲料を提供する方法(特許文献8)が提案されている。なお、4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンは、天然の緑茶にも微量含まれていることが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2-203750号公報
【特許文献2】特開平8-116882号公報
【特許文献3】特開2000-135059号公報
【特許文献4】特開2003-33137号公報
【特許文献5】特開2005-160416号公報
【特許文献6】特許第6146915号公報
【特許文献7】特許第5374020号公報
【特許文献8】特開2000-342179号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Influence of Manufacturing Conditions and Crop Season on the Formation of 4-Mercapto-4-methyl-2-pentanone in Japanese Green Tea (Sen-cha) (J. Agric. Food Chem. 2005, 53, 13, 5390-5396)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら前記従来の水蒸気蒸留法を利用した天然動植物エキスでは、飲食品に天然感をもたらすことができるものの、ユニークな香気の付与、微量の添加で力価のある香気をもたらすには不十分であった。
【0009】
本発明は、水蒸気蒸留法を利用した天然動植物エキスの製法でありながら、従来の水蒸気蒸留法で得られる香気とは質的に著しく異なるタイプの香味を有するエキスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、緑茶原料のからの水蒸気蒸留による留出液(天然香気回収物)を含む緑茶エキスについて、鋭意研究を行った。その結果、驚くべきことに、緑茶葉の水蒸気蒸留留出液を、いわゆるエキス分(緑茶葉または緑茶葉の水蒸気蒸留残渣からの水等の溶媒による水性抽出液)を含有させずに、留出液のみのまま凍結(凍結前のpH9.2)し、解凍したところ、著しく香気の質が変化し、これを飲料に添加したところ、入れ立ての緑茶が持つ柔らかくふくよかなグリーン香が再現できることを見出した。また、前記凍結・解凍操作により、解凍後の水蒸気蒸留留出液中の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンが凍結前に比べて著しく増加していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして、本発明は以下のものを提供する。
[1]以下の工程(A)~(D)を含む緑茶エキスの製造方法。
【0012】
工程(A):緑茶を水蒸気蒸留し、留出液を得る工程、
工程(B):前記工程(A)で得られた留出液のpHを8.0以上とする工程、
工程(C):前記工程(B)で得られたpH8.0以上の留出液を凍結する工程、
工程(D):前記工程(C)で凍結された留出液を解凍する工程
[2]4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンが添加されていない緑茶エキスであって、緑茶エキス中の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンを測定したとき、下記式を満たす緑茶エキス。
((緑茶エキスの収量(質量))/(抽出原料として用いた緑茶葉量(質量)))×緑茶エキス中の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの含有割合(質量基準)=1×10-8~5×10-5
[3]4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンが添加されていない緑茶エキスであって、緑茶エキスの香気成分をGC/MSにて分析し、GC/MSの分析結果からクロマトグラムを描画したとき、下記式を満たす緑茶エキス。
(検出された4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンのピーク(m/z=132)の面積値)/(検出されたリナロールのピーク(トータルイオン)の面積値)=1×10-5~5×10-2
[4][2]または[3]に記載の緑茶エキスを含有する容器詰緑茶飲料。
[5][2]または[3]に記載の緑茶エキスを含有する緑茶風味飲食品。
[6]以下の工程(A)~(D)を含む動植物エキスの製造方法。
工程(A):動植物原料を水蒸気蒸留し、留出液を得る工程、
工程(B):前記工程(A)で得られた留出液のpHを8.0以上とする工程、
工程(C):前記工程(B)で得られたpH8.0以上の留出液を凍結する工程、
工程(D):前記工程(C)で凍結された留出液を解凍する工程
[7]前記工程(C)の凍結において、留出液全体の99%以上が凍結状態となるまで凍結する、[6]に記載の動植物エキスの製造方法。
[8]前記工程(C)の凍結において、留出液全体の99%以上が凍結状態となるまでに要する時間が30分以上である、[6]に記載の動植物エキスの製造方法。
[9]前記工程(C)において、前記工程(B)で得られた凍結前の留出液中の、前記工程(A)で得られた留出液以外に由来する可溶性固形分濃度が1.0質量%以下である、[6]に記載の動植物エキスの製造方法。
[10]前記工程(A)の水蒸気蒸留が、常圧水蒸気蒸留、減圧水蒸気蒸留、加圧水蒸気蒸留および回転薄膜式水蒸気蒸留(SCC)から選ばれる1種または2種以上である、[6]に記載の動植物エキスの製造方法。
[11]工程(D)の後に、さらに以下の工程(E)を含む[6]に記載の動植物エキスの製造方法。
工程(E):前記工程(D)で得られる解凍液に、前記工程(A)で使用したものと同一種類の動植物原料の溶媒抽出エキス分を添加する工程
[12]前記動植物原料の溶媒抽出エキス分が、水蒸気蒸留留出液を得た後および/または得る前の動植物原料を水系溶媒で抽出して得られたエキス分である、[11]に記載の動植物エキスの製造方法。
[13]加熱殺菌工程を含む、[12]に記載の動植物原料エキスの製造方法。
[14]前記動植物原料がコーヒーまたは茶類である、[6]~[13]のいずれかに記載の動植物エキスの製造方法。
[15][6]~[13]のいずれかに記載の製造方法で得られた動植物エキスを飲食品に添加する工程を含む、飲食品の製造方法。
[16][6]~[13]のいずれかに記載の製造方法で得られた動植物エキスを香料組成物に添加する工程を含む、香料組成物の製造方法。
[17][16]に記載の製造方法で得られた香料組成物を飲食品に添加する工程を含む、飲食品の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の動植物エキスを飲食品に配合することにより、飲食品にユニークな香味を付与することができる。特に、本発明の緑茶エキスは、そのまま匂いを嗅いだ時はやや果実感を伴うような強いグリーン香を有するお茶の香りであるが、これを緑茶飲料、緑茶食品等に微量添加することにより、淹れたての茶類が持つ柔らかくふくよかなグリーン香を持った茶飲料、茶食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(動植物原料)
本発明で使用することのできる動植物原料は、水蒸気蒸留に供することができるものであればいかなる原料でも使用することができる。例えば、動物原料としては、畜肉類(牛、豚、鶏、羊、馬などの筋肉、脂肪、内臓など)、魚介類(海水魚、淡水魚、白身魚、赤身魚、イカ、タコ、貝類、エビ、カニなど)、及びこれらの加熱調理品などを挙げることができる。また、植物原料としては、例えば、茶類(緑茶、抹茶、碾茶、紅茶、ウーロン茶、後発酵茶、麦茶、玄米茶、ハブ茶など)、焙煎コーヒー豆、ハーブ・スパイス類(ラベンダー、シソ、ジャスミン、パセリ、セージ、オレガノ、ベルガモット、ホップ、レモンバーム、カモミール、ローズマリー、タイム、ミント、コリアンダー、ブラックペッパー、ホワイトペッパー、クミン、トウガラシ、サンショウなど)、果実(リンゴ、イチゴ、ブドウ、ミカン、オレンジ、レモン、パイナップル、キウイなど)、野菜(白菜、キャベツ、ダイコン、タマネギ、トマトなど)、ナッツ類(白胡麻、黒胡麻、クルミ、栗、カシューナッツ、マカデミアナッツ、ピーナッツなど)、を挙げることができる。これらの中では特に、コーヒー、茶類が特に好ましい。
【0015】
前記動植物原料は生のままで使用しても良いが、焙煎、焙焼などの加熱処理により、香気を増強あるいは改善して使用しても良い。
【0016】
前記動植物原料は必要に応じて0.1mm~10mm程度、好ましくは1mm~5mm程度の粒径となるように粉砕を行い、蒸留による香気回収率の改善を行っても良い。
【0017】
(工程(A):動植物原料を水蒸気蒸留し、留出液を得る工程)
水蒸気蒸留は、原料に水蒸気を吹き込んだ際、原料中に含まれる揮発性物質の蒸気圧(分圧)と外部から加えた水蒸気の蒸気圧(分圧)の和が周囲の圧力(常圧水蒸気蒸留の場合は大気圧)と同等以上になったときに、揮発性成分が水蒸気とともに蒸留されて留出してくる現象で、水蒸気とともに留出してくる揮発性成分を冷却することにより、揮発性成分(一般的にはいわゆる香気成分である)を含んだ水溶液を留出液として得ることができる。
【0018】
水蒸気蒸留法としては、例えば常圧水蒸気蒸留法、加圧水蒸気蒸留法、減圧水蒸気蒸留法などが採用でき、また、動植物原料をカラムに充填して直接蒸気を吹き込む方法、動植物原料をカラムに充填した後、動植物原料を少量の水で湿らせてから蒸気を吹き込む方法、動植物原料と水を混合して懸濁液とし、これを充填した釜に水蒸気を吹き込む方法、SCC(「スピニングコーンカラム」、「気-液向流接触蒸留」ともいう)装置を使用した水蒸気蒸留などが採用できる。
【0019】
例えば、カラムによる水蒸気蒸留を用いる方法では、原料を仕込んだ水蒸気蒸留釜の底部から水蒸気を吹き込み、上部の留出側に接続した冷却器で留出蒸気を冷却することにより、凝縮物として香気を含む留出液を捕集することができる。必要に応じて、この香気捕集装置の先に冷媒(ドライアイス-エタノール、ドライアイス-アセトン、液体窒素など)を用いたコールドトラップを接続することにより、より低沸点の香気成分をも確実に捕集することができる。また、水蒸気蒸留の際に、窒素ガスなどの不活性ガスおよび/またはビタミンCなどの抗酸化剤の存在下で蒸留すると、原料および/または香気成分の加熱による劣化を効果的に防止することができる。水蒸気蒸留では蒸留の初期に香気が多く留出し、その後、徐々に香気の留出が少なくなる。どこで蒸留を終了するかは、何回かの結果を参考に経済性等も考慮して決める。留出液の採取量は原料1質量部に対して、0.1質量部~10質量部、好ましくは、0.2質量部~5質量部程度、より好ましくは0.5質量部~2質量部であり、Bx0~5°程度の留出液が得られる。
【0020】
SCC装置を用いる方法では、例えば、原料粉砕物(1~3mm程度)を水と混合しスラリーとして、例えば、特公平7-22646号公報に記載の装置を用いて蒸留する方法を採用することができる。この装置を用いて香気を回収する手段を具体的に説明すると、回転円錐と固定円錐が交互に組み合わせられた構造を有する気-液向流接触抽出装置の回転円錐上に、液状またはペースト状の嗜好性飲料用原料を上部から流下させると共に、下部から蒸気を上昇させ、該原料に本来的に存在している香気成分を回収する方法を例示することができる。この気-液向流接触抽出装置の操作条件としては、該装置の処理能力、原料の種類および濃度、香気の強度その他によって任意に選択することができる。原料スラリーにおける原料と水の比率は、原料が流動性をもつ状態となる量であればいかなる比率も採用することができるがおおよそ、原料1質量部に対し水5倍量~30倍量を例示することができる。
【0021】
留出液の採取量は動植物原料1質量部に対して、0.1質量部~10質量部、好ましくは、0.2質量部~5質量部程度、より好ましくは0.5質量部~2質量部であり、Bx0~5°程度の留出液が得られる。
【0022】
(工程(B):前記工程(A)で得られた留出液のpHを8.0以上とする工程)
次いで、前記工程(A)で得られた留出液はpHを8.0以上とする。このことにより、その後の凍結および解凍する工程での、留出液中に含まれる各成分の反応性が高まる。
【0023】
留出液のpHとしては、pHを8.0以上であれば特に限定はないが、下限としては8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、9.6、9.8、10.0などを例示することができ、また上限としても特に限定はないが、14.0、13.5、13.0、12.5、12.0などを例示できる。また、これらの留出液のpHの範囲は、通常は8.0~14.0、好ましくは8.4~13.0、より好ましくは8.8~12.0、さらに好ましくは9.2~11.0を例示できる。
【0024】
留出液のpHは、可食性のアルカリ性物質により調整することができるが、前記工程(A)で得られた留出液がすでにpH8.0以上である場合には、アルカリ性物質の添加により調整する必要はない。そのため工程(B)には前記工程(A)で得られた留出液のpHが8.0以上であることを確認し、何も添加しない場合も含む。可食性のアルカリ性物質としては、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが例示できる。例えば、炭酸水素ナトリウムを使用する場合は、前記留出液への炭酸水素ナトリウムの添加量は、留出液1質量部に対して0.001質量部~0.05質量部、好ましくは0.002質量部~0.01質量部を挙げることができる。
【0025】
また、例えば、動植物原料がコーヒーである場合のように、焙煎中に生じた二酸化炭素が原料中に含まれていることがある。このような原料では、その二酸化炭素が水蒸気蒸留により留出して留出液に含まれ、その結果、炭酸水素イオンと水素イオンが留出液に存在し、その水素イオンによりpHが低下することもある。このような場合は、留出液を脱気や窒素ガスバブリングなどの処理により、留出液中の二酸化炭素を炭酸ガスとして追い出してから、そのまま、または必要に応じて前記pH調整を行ってpHを8.0以上としてもよい。
【0026】
(工程(C):前記工程(B)で得られたpH8.0以上の留出液を凍結する工程)
本発明では、前記工程(B)で得られたpH8.0以上の留出液を凍結する。この凍結は前記留出液のほぼ全体が凍結状態になるまで行い、通常は留出液全体の99%以上、好ましくは99.5%以上、より好ましくは99.8%以上、さらに好ましくは99.9%以上が凍結状態となるまで行う。また、この凍結は冷媒と接触している部分から、徐々に、冷媒と接触していない部分に凍結状態が進行していくような凍結方法が好ましい。このような凍結方法を採用することにより、不純物としての揮発性成分を含まない水(氷)の結晶化が進み、未凍結の部分においては揮発性化合物の濃縮が進み、その濃縮された、反応前の基質の高濃度部分で生じる化学反応により本発明の効果が達成されると考えられる。
【0027】
本発明におけるこのような現象は、いかなる理論にも拘泥されるものではないが、塩基性条件下、留出液中の硫化水素、メタンチオール、エタンチオールなどの揮発性含硫化合物が、他の揮発性成分と反応することにより生じると推定される。
【0028】
このような現象を生じさせるための凍結方法としては、容器に所定量の前記留出液を充填して容器単位で凍結する方法と、連続的に凍結する方法が例示できる。
【0029】
容器単位で凍結する場合、時間的な条件が重要な要素となり、留出液のほぼ全体が凍結に至るまでの時間として30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、さらに好ましくは5時間以上を要して行う。短時間で凍結が完了してしまう場合、前記の未凍結の部分における揮発性化合物の濃縮が進みにくい。容器への前記留出液の充填量としては、特に限定されるものではないが、30g程度(オンス瓶充填)~200kg(ドラム缶充填)が想定され、これらの容器のサイズに適した凍結の温度を適宜選択すればよい。
【0030】
このような凍結の温度は、容器への前記留出液の充填量にもよるが、0℃未満であれば凍結し、通常は-5℃以下、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-15℃以下、さらに好ましくは-20℃以下を例示できる。一方、前記のような部分的凍結濃縮が生じることを考慮すると、凍結温度が低すぎる場合、全体または一部であっても、多量が一瞬にして凍結する条件では反応が十分進行しない可能性がある。そのため、おおむね-100℃以上、好ましくは-80℃以上、より好ましくは-60℃、さらに好ましくは-45℃以上、特に好ましくは-30℃以上を例示することができる。
【0031】
一方、留出液を流動させながら連続的に凍結するような場合においては、冷却された部分に、部分的な氷の純粋な結晶を生じさせながら、最終的に留出液全体の99%以上が凍結まで行う条件が好ましい。このような条件であれば、時間にこだわらずに本発明の目的を達成できる。
【0032】
また、前記(C)の凍結工程において、本発明の目的を達成するためには、凍結前の留出液が、当該動植物原料の溶媒抽出エキス分や、その他の可溶性(主に水溶性)固形分などの、留出液由来成分以外の溶質を含まないものであることが好ましい。また、含有させる場合は、できるだけ少量であることが好ましい。前述の通り、本発明における香気変化の現象は、凍結濃縮された濃縮部分において、塩基性条件下、留出液中の硫化水素、メタンチオール、エタンチオールなどの揮発性含硫化合物が、他の揮発性成分と反応することにより生じると推定されるが、留出液中に当該動植物原料の溶媒抽出エキス分や、その他の可溶性(水溶性)固形分が含まれていると、その分、留出液中の硫化水素、メタンチオール、エタンチオールなどの揮発性含硫化合物や、他の揮発性成分の濃度が十分高まらなくなり、化学反応が進行し難くなる。また、当該動植物原料の溶媒抽出エキス分も、前記化学反応を阻害する。
【0033】
留出液中の、当該動植物原料の溶媒抽出エキス分や、その他の可溶性(水溶性)固形分は、留出液中、通常1.0%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。
【0034】
また、留出液全体のほぼ全体が凍結後に次の解凍工程(D)を行うまでの温度と時間は留出液全体のほぼ全体が、凍結状態が維持され、化学反応が十分進行する条件を包含していれば、長時間を要する必要はなく、また、特に限定されるものではないが、保存温度としては一般的には0℃~-100℃、好ましくは-5℃~-80℃、より好ましくは-10℃~-60℃、さらに好ましくは-15℃~-45℃、最も好ましくは-20℃~-30℃を例示できる。また、保存時間としては、留出液全体のほぼ全体が凍結後、一般的には30分~168時間、好ましくは1時間~100時間、より好ましくは2時間~48時間を例示できる。
【0035】
(工程(D):前記工程(C)で凍結された留出液を解凍する工程)
前記工程(C)で凍結された留出液は次いで解凍を行う。解凍方法は特に限定されるものではなく、冷蔵庫内での解凍(例えば5℃~10℃程度)、常温解凍(例えば15~30℃)、加熱解凍(例えば40℃~100℃)のいずれも行うことができる。解凍時間は、容器サイズと解凍温度に左右されるが、一般的には1分~1週間、好ましくは5分~48時間、より好ましくは10分~3日、さらに好ましくは15分~24時間、最も好ましくは30分~12時間を例示することができる。解凍は容器内の溶液全体を完全に解凍することもできるが、氷の純粋な結晶が中心部に集中していることを考慮すると、全体の一部が解凍された状態で、溶液の一部を採取することもできる。
【0036】
このようにして、前記工程(A)~工程(D)を経て得られた解凍液は、凍結前の留出液とは著しく異なるユニークな香りを有する。例えば、動植物原料が緑茶である場合、凍結前の留出液は海苔香、磯香を伴った新鮮なやわらかい緑茶香であるのに対し、解凍後の留出液は、そのまま嗅いだ状態では、草いきれを想起させる強いグリーン香と、果実のような甘い香りが感じられる。しかしながら、解凍後の留出液を100~100000倍程度に希釈した場合に、淹れ立ての緑茶が持つ柔らかくふくよかで、やや果実香を伴うグリーン香を感じさせる香気となる。
【0037】
(工程(E):前記工程(D)で得られる解凍液に、当該動植物原料の溶媒抽出エキス分を添加する工程)
本発明では、前記解凍液をそのまま飲食品への、香味付与目的の配合用原料とすることもできるが、前記工程(A)~工程(D)を経た後であれば、前記解凍後の留出液に、当該動植物原料の溶媒抽出エキス分や、その他の可溶性(水溶性)固形分を添加することは、解凍後の留出液の香気特性に影響がなく、むしろこれらを添加することでその後の本発明品の安定性が高まるため、好ましい。
【0038】
添加するための好ましい成分は、一般的には、当該動植物原料の水性溶媒抽出エキスである。当該動植物原料の溶媒抽出エキスは以下のようにして得ることができる。
【0039】
水蒸気蒸留した後および/またはする前の動植物原料は、次いで、水、含水エタノール、グリセリン、グリセリン水溶液などの水性溶媒を用いて抽出を行う。好ましい溶媒は水である。この抽出時および/または抽出後に酵素処理を施すこともできる。すなわち、酵素処理は、抽出の際に同時に行っても良いし、一旦抽出を行った後に行っても良い。さらに、これらの方法を組み合わせて行うこともできる。
【0040】
カラムを用いた水蒸気蒸留後の残渣を一旦水抽出してから酵素処理する場合の抽出エキスの製造方法を具体的に示せば、例えば、上記の水蒸気蒸留後の動植物原料1重量部あたり1~100重量部の水を加え、静置もしくは撹拌条件下に、室温~約100℃にて、使用温度に応じて約2分~約5時間抽出を行い、冷却後、遠心分離、圧搾、濾過などのそれ自体既知の方法で固液分離することによって不溶物を除去することにより得ることができる。また、例えば、残渣原料をガラス又はステンレスなど適宜な材質のカラムに充填し、該カラムの上部もしくは下部より、室温~約100℃の熱水を、定量ポンプなどを用いて流し、カラム抽出することによって得ることができる。かかるカラム抽出は所望により複数のカラムを直列に接続して行うことができる。
【0041】
また、気-液向流接触抽出法により香気を回収した場合は、残渣がすでに抽出液を含むスラリー状となっているため、残渣中の固形分を、遠心分離、圧搾、濾過などのそれ自体既知の方法で固液分離することによって不溶物を除去することにより抽出液を得ることができる。
【0042】
以上述べたように酵素処理の前に抽出液を採取する方法も採用することができるが、本発明では、水蒸気蒸留後の動植物原料を含んだ状態で酵素処理を行うこともできる。水蒸気蒸留後の動植物原料を含んだ状態で酵素処理を行うことで、酵素分解により可溶性固形分が増加し、動植物原料からのエキス全体としての可溶性固形分収率を上げることも可能となる。
【0043】
使用する酵素は、動植物原料に応じたものを使用すればよく、例えば動植物原料が、動物原料であれば、プロテアーゼ、リパーゼなどが例示でき、植物原料であれば、セルラーゼ、ペクチナーゼ、へミセルラーゼ、アミラーゼ、タンナーゼ、プロテアーゼ、リパーゼなどが例示できる。また、原料がコーヒーの場合は特にマンナナーゼ、茶類であれば特にタンナーゼなどは好ましい酵素として例示できる。
【0044】
酵素処理液は加熱などにより酵素失活し、スラリーを含む場合は固液分離、濾過し、抽出液を得ることができる。
【0045】
前記水溶性溶媒の抽出液または酵素処理液は引き続き、必要に応じて濃縮を行っても良い。濃縮方法としては例えば、減圧濃縮、逆浸透膜(RO膜)濃縮、凍結濃縮など適宜な濃縮手段を採用して濃縮することにより、水溶性溶媒の抽出液または酵素処理抽出液の濃縮物を得ることができる。濃縮液の濃度は、一般には、Bx3°~50°、好ましくは10°~40°の範囲内が好適である。
【0046】
前記動植物原料の溶媒抽出エキス分(水溶性溶媒の抽出液または酵素処理液、もしくはこれらの濃縮液)は、前記工程(D)で解凍された留出液と混合することができる。混合の比率は特に限定はないが、前述した解凍後の留出液に対する動植物原料の溶媒抽出エキス分の配合量は、使用する原料などにより異なり、特に制限されないが、例えば、前記留出液1質量部あたり動植物原料の溶媒抽出エキス分を通常は0.005~100質量部、好ましくは、0.01~50質量部、より好ましくは0.1~20質量部、さらに好ましくは0.5~10質量部の範囲内とすることができる。
【0047】
(加熱殺菌)
本発明の動植物エキスは、前記工程のいずれかの段階で加熱殺菌を行うことで微生物的に安定なエキスとすることができる。加熱殺菌を行う段階は、本発明の目的である凍結による化学反応を妨げるものでなければ、いずれの段階で行っても良い。好ましい箇所としては、動植物原料の溶媒抽出エキス分を調製する工程の途中段階および最終段階、ならびに、前記動植物原料の溶媒抽出エキス分と、前記工程(D)で解凍された留出液とを混合した後が挙げられる。
【0048】
加熱殺菌は、バッチ式、プレート式いずれで行っても良く、バッチ式であれば温度としては通常80℃~110℃、好ましくは85℃~105℃、より好ましくは90℃~100℃で、時間は通常30秒~60分、好ましくは1分~30分、より好ましくは2分~15分を例示することができる。また、プレート式では温度としては通常80℃~140℃、好ましくは85℃~135℃、より好ましくは90℃~130℃で、時間は通常10秒~5分、好ましくは20秒~3分、より好ましくは30秒~2分を例示することができる。
【0049】
このようにして得られる本発明の動植物エキスは、冷却後容器に充填するか、熱いまま容器に充填し冷却し、さらに冷凍して保存することもできる。また、この段階での凍結による香気変化は少ない。この理由としては、前記工程(A)~(D)で化学反応が十分進行していること、工程(E)により添加した動植物原料の溶媒抽出エキス分が、前記化学反応を阻害すること、反応に関わる基質濃度が動植物原料の溶媒抽出エキス分により希釈されること、pHが低下すること、などが推定される。
【0050】
(動植物原料の具体例~緑茶)
本発明における前記動植物原料の好適な具体例を挙げると、茶類が例示でき、その中でも特に緑茶、さらには一番茶を挙げることができる。一番茶について工程(A)の水蒸気蒸留を行い、得られる留出液のpHは、pH調整を行わなくともほぼ9程度となる場合が多い。塩基性の揮発性成分が多いためと推定される。このようにして得られる、水蒸気蒸留留出液の香気は、磯の香りを伴うふわっとした香気を有する。
【0051】
このようにして得られた一番茶の前記留出液を、前記工程(C)で詳述した条件により凍結後解凍すると、香気は著しく変化し、やや果実感を伴うような強いグリーン香を有するお茶の香りとなる。この香りの成分を分析したところ、特徴的成分として4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンを主体とする含硫化合物が多量に含まれていることが判明した。一方、凍結前の留出液には4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンはごく微量しか含まれていなかった。非特許文献1によると、茶葉中の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンは多いもので0.14ppbであったことが報告されている。しかしながら、本発明の動植物エキスの製造方法による緑茶エキスは、外部から4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンを添加しなくても、緑茶、特に一番茶の水蒸気蒸留留出液を前記(A)~(D)の工程を行うことで、4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンが多量に生成し、その量は凍結前の留出液の数千~数万倍にも増加することが判明した。したがって、緑茶を原料とした場合に、緑茶に一般的に含まれる化合物であって、かつ、本発明の凍結・解凍工程において変動の少ない化合物を指標として、その指標化合物の含有量と、4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンとの比率の範囲を設定することで、緑茶を原料とした本発明品を特定することができる。このような設定に好適な前記指標化合物としては、リナロール、インドール、シス-3-ヘキセノール、ヘキサナール、リナロールオキシド、イソブチルアルデヒド、ゲラニオール、ヘキサノール、オクタノール、ベンジルアルコール、トランス-2-ノネナール、β-イオノンなどが例示できる。これらの中では、リナロールを好ましく例示することができる。
【0052】
(香気分析)
香気分析は、適当なGCカラムおよび装置、GC/MS装置を用いて、適当なSPMEなどを用いて行うことができる。
【0053】
定量は、GC/MSの分析結果からクロマトグラムを描画し、検出されたピークの面積値を用いて、あるいは、絶対検量線法、標準添加法または内部標準法にて行うことができる。
【0054】
(4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オン)
本発明の方法により緑茶を原料とした本発明品の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの量は、GC/MSの分析結果から、m/z=132で抽出したイオンクロマトグラムを描画し、検出されたピークの面積を用いて、標準添加法にて行った場合、以下の範囲となる。
【0055】
((緑茶エキスの収量(質量))/(抽出原料として用いた緑茶葉量(質量)))×緑茶エキス中の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの含有割合(質量基準)として、通常1×10-8以上、好ましくは5×10-8以上、より好ましくは2×10-7以上、さらに好ましくは5×10-7以上となる。また、上限としては、特に限定する必要はないが、おおよそ通常は5×10-5以下であり、3×10-5以下、2×10-5以下、1×10-5以下、5×10-4以下、4×10-4以下などが設定できる。上限と下限の範囲は、これらを任意に組み合わせることができるが、例えば1×10-8~5×10-5の範囲を例示することができる。
【0056】
また、動植物原料として緑茶を原料とした本発明品である動植物エキス(緑茶エキス)中の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの量は、原料茶葉からの本発明品の収率によっても変動するが、前記と同様の分析方法にて定量する場合、以下の範囲となる。
【0057】
((緑茶エキスの収量(質量))/(抽出原料として用いた緑茶葉量(質量)))×緑茶エキス中の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの含有割合(質量基準)として、通常1×10-8以上、好ましくは5×10-8以上、より好ましくは2×10-7以上、さらに好ましくは5×10-7以上となる。また、上限としては、特に限定する必要はないが、おおよそ通常は5×10-5以下であり、3×10-5以下、2×10-5以下、1×10-5以下、5×10-4以下、4×10-4以下などが設定できる。上限と下限の範囲は、これらを任意に組み合わせることができるが、例えば1×10-8~5×10-5の範囲を例示することができる。
【0058】
また、動植物原料として緑茶を原料とした本発明品中の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの含有量は、緑茶に一般的に含まれている揮発性化合物であるリナロールを指標とすることもできる。その場合の、GC/MSの分析結果から、m/z=132(4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オン)および、トータルイオン(リナロール)で抽出したイオンクロマトグラムを描画し、検出されたピークの面積を用いて、(検出された4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンのピーク(m/z=132)の面積値)/(検出されたリナロールのピーク(トータルイオン)の面積値)として、通常1×10-5以上、2×10-5以上、5×10-5以上、1×10-4以上などが設定できる。また、上限としては、特に限定する必要はないが、おおよそ通常は5×10-2以下であり、3×10-2以下、2×10-2以下、1×10-2以下、5×10-3以下、3×10-3以下などが設定できる。上限と下限の範囲は、これらを任意に組み合わせることができるが、例えば1×10-5~5×10-2の範囲を例示することができる。
【0059】
(香料組成物)
このようにして得られる本発明の動植物エキス(以下、本件動植物エキスという場合がある)は、飲食品に添加して独特の風味を付与することもできるが、香料組成物(以下、本件香料組成物という場合がある)の素材としても使用できる。本発明の一実施の形態に係る本件香料組成物は、本件動植物エキスを所定量含み、香味の付与を目的として、各種飲食品等に配合することができるものである。本件香料組成物によれば、例えば、香料組成物に対し天然感、果汁感、みずみずしさ、ボリューム感、熟成感、完熟感、華やかさ、フレッシュ感、香ばしさ、苦さ、スパイシー感、コク、またはボリューム感などの香味を付することができ、本件香料組成物が配合される各種飲食品の香味を改善することができる。
【0060】
本件香料組成物中の本件動植物エキスの濃度は、香料組成物の配合対象に応じて任意に決定できる。当該濃度の例として、本件香料組成物の全体質量に対して、0.1ppt~10%、好ましくは1ppb~1%、より好ましくは0.1ppm~0.1%の範囲内が挙げられる。
【0061】
また、本件香料組成物は、本件動植物エキスに加えて、さらに他の任意の化合物または成分を含有し得る。そのような化合物または成分の例として、各種類の香料化合物または香料組成物、油溶性色素類、ビタミン類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、植物エキス類、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物蛋白分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、溶剤などを例示することができる。例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている天然精油、天然香料、合成香料などを挙げることができる。
【0062】
合成香料化合物の具体例として、炭化水素化合物としては、α-ピネン、β-ピネン、γ-テルピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエンなどが挙げられる。
【0063】
アルコール化合物としては、ブタノール、ペンタノール、3-オクタノール、ヘキサノールなどの飽和アルコール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、プレノール、2,6-ノナジエノールなどの不飽和アルコール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロール、α-ターピネオール、テルピネン-4-オール、ボルネオールなどのテルペンアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールが挙げられる。
【0064】
アルデヒド化合物としては、アセトアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、デカナール、ヒドロキシシトロネラールなどの飽和アルデヒド、(E)-2-ヘキセナール、2,4-オクタジエナールなどの不飽和アルデヒド、シトロネラール、シトラール、ミルテナール、ペリルアルデヒドなどのテルペンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナミルアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピン、p-トリルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドが挙げられる。
【0065】
ケトン化合物としては、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オン、アセトイン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン(メチルヘプテノン)などの飽和および不飽和ケトン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、マルトール、エチルマルトール、シクロテン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンなどのジケトンおよびヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノンなどのテルペン分解物に由来するケトン、ラズベリーケトンなどの芳香族ケトンが挙げられる。
【0066】
フランまたはエーテル化合物としては、フルフリルアルコール、フルフラール、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピラン、エストラゴール、オイゲ
ノール、1,8-シネオールなどが挙げられる。
【0067】
エステル化合物としては、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸オクチル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸イソアミル、2-メチル酪酸エチル、イソ吉草酸エチル、イソ酪酸2-メチルブチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、ノナン酸エチルなどの脂肪族エステル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ラバンジュリル、酢酸テルピニル、酢酸ネリルなどのテルペンアルコールエステル、酢酸ベンジル、サリチル酸メチル、ケイ皮酸メチル、プロピオン酸シンナミル、安息香酸エチル、イソ吉草酸シンナミル、3-メチル-2-フェニルグリシド酸エチルなどの芳香族エステルが挙げられる。
【0068】
ラクトン化合物としては、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトンなどの飽和ラクトン、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリドなどの不飽和ラクトンが挙げられる。
【0069】
酸化合物としては、酢酸、酪酸、イソ吉草酸、ヘキサン酸、オクタン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和・不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0070】
含窒素化合物としては、インドール、スカトール、ピリジン、アルキル置換ピラジン、アントラニル酸メチル、トリメチルピラジンなどが挙げられる。
【0071】
含硫化合物としては、メタンチオール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、アリルイソチオシアネート、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、3-メチル-2-ブタンチオール、3-メチル-1-ブタンチオール、2-メチル-1-ブタンチオール、3-メルカプトヘキサノール、4-メルカプト-4-メチル-2-ペンタノン、酢酸3-メルカプトヘキシル、p-メンタ-8-チオール-3-オンおよびフルフリルメルカプタンなどが挙げられる。
【0072】
天然精油としては、スイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、ベルガモット、マンダリン、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ヒヤシンス、ライラック、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナムなどが挙げられる。
【0073】
各種動植物エキスとしては、ハーブまたはスパイスの抽出物、コーヒー、緑茶、紅茶、またはウーロン茶の抽出物や、乳または乳加工品およびこれらのリパーゼまたはプロテアーゼなどの各種酵素分解物などが挙げられる。
【0074】
本件香料組成物は、本件動植物エキスを公知の方法によって適切な溶媒や分散媒に配合して調製することができる。
【0075】
本件香料組成物の形態としては、本件動植物エキス、またはその他成分を水溶性または油溶性の溶媒に溶解した溶液、乳化製剤、粉末製剤、またはその他固体製剤(固形脂など)などが好ましい。
【0076】
水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-プロパノール、メチルエチルケトン、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどを例示することができる。これらのうち、飲食品への使用の観点から、エタノールまたはグリセリンが特に好ましい。油溶性溶媒としては、植物性油脂、動物性油脂、精製油脂類(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの加工油脂や、トリアセチン、トリプロピオニンなどの短鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる。)、各種精油、トリエチルシトレートなどを例示することができる。
【0077】
また、乳化製剤とするためには、本件動植物エキスまたは本件香料組成物を水溶性溶媒および乳化剤と共に乳化して得ることができる。本件動植物エキスまたは本件香料組成物の乳化方法としては特に制限されるものではなく、従来から飲食品などに用いられている各種類の乳化剤、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、加工でん粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸およびその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼインキラヤサポニン、またはカゼインナトリウムなどの乳化剤を使用してホモミキサー、コロイドミル、回転円盤型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化処理することにより安定性の優れた乳化液を得ることができる。これら乳化剤の使用量は厳密に制限されるものではなく、使用する乳化剤の種類などに応じて広い範囲にわたり変えることができるが、通常、本件動植物エキス1質量部に対し、約0.01~約100質量部、好ましくは約0.1~約50質量部の範囲内が適当である。また、乳化を安定させるため、係る乳化液には水の他に、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖、グルコース、トレハロース、糖液、還元水飴などの多価アルコール類の1種類または2種類以上の混合物を配合することができる。
【0078】
また、このようにして得られた乳化液は、所望ならば乾燥することにより粉末製剤とすることができる。粉末化に際して、さらに必要に応じて、アラビアガム、トレハロース、デキストリン、砂糖、乳糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴などの糖類を適宜配合することもできる。これらの使用量は粉末製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0079】
このようにして得られた本件動植物エキスまたは本件香料組成物は、飲食品に有効量配合することで、例えば、飲食品の天然感、果汁感、みずみずしさ、ボリューム感、熟成感、完熟感、華やかさ、フレッシュ感、香ばしさ、苦さ、スパイシー感、コク、またはボリューム感などの香味を改善することができる。
【0080】
特に、前記動植物原料が緑茶の場合、本件緑茶エキスまたは本件緑茶エキスを配合した香料組成物を緑茶飲料、緑茶食品等に微量添加することにより、淹れたての茶類が持つ柔らかくふくよかなグリーン香を持った茶飲料、茶食品を提供することができる。
【0081】
(飲食品)
本件動植物エキスまたは本件香料組成物を配合可能な飲食品は特に限定されないが、例として、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、みかん、カボス、スダチ、ハッサク、イヨカン、ユズ、シークワーサー、金柑などの各種柑橘風味;ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、アップル、チェリー、プラム、アプリコット、ピーチ、パイナップル、バナナ、メロン、マンゴー、パパイヤ、キウイ、ペアー、グレープ、マスカット、巨峰などの各種フルーツ風味;ミルク、ヨーグルト、バターなどの乳風味;バニラ風味;緑茶、紅茶、ウーロン茶、ハーブティーなどの各種茶風味;コーヒー風味;コーラ風味;カカオ風味;ココア風味;スペアミント、ペパーミントなどの各種ミント風味;シナモン、カモミール、カルダモン、キャラウェイ、クミン、クローブ、コショウ、コリアンダー、サンショウ、シソ、ショウガ、スターアニス、タイム、トウガラシ、ナツメグ、バジル、マジョラム、ローズマリー、ローレル、ガーリック、ワサビなどの各種スパイスまたはハーブ風味;アーモンド、カシューナッツ、クルミなどの各種ナッツ風味;ワイン、ブランデー、ウイスキー、ラム、ジン、リキュール、日本酒、焼酎、ビールなどの各種酒類風味;タマネギ、セロリ、ニンジン、トマト、キュウリなどの野菜風味;鶏肉、鴨肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの各種畜肉風味;マグロなどの赤身魚、サバ、タイ、サケ、アジなどの白身魚、アユ、マス、コイなどの淡水魚、サザエ、ハマグリ、アサリ、シジミなどの貝類、エビ、カニなどの各種甲殻類、ワカメ、昆布などの各種海藻類、などの各種魚介や海藻風味;米、大麦、小麦、麦芽などの麦類などの各種穀物風味;牛脂、鶏油、ラードなどの畜肉の油脂や各種魚類の油などの各種油脂風味;などの風味の1以上を有する飲食品が挙げられる。
【0082】
より具体的な飲食品例としては、せんべい、あられ、おこし、餅類、饅頭、ういろう、あん類、羊かん、水羊かん、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉、ビスケット、クラッカー、ポテトチップス、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディー、ピーナッツペーストなどのペースト類、などの菓子類;パン、うどん、ラーメン、中華麺、すし、五目飯、チャーハン、ピラフ、餃子の皮、シューマイの皮、お好み焼き、たこ焼き、などのパン類、麺類、ご飯類;糠漬け、梅干、福神漬け、べったら漬け、千枚漬け、らっきょう、味噌漬け、たくあん漬け、および、それらの漬物の素、などの漬物類;サバ、イワシ、サンマ、サケ、マグロ、カツオ、クジラ、カレイ、イカナゴ、アユなどの魚類、スルメイカ、ヤリイカ、紋甲イカ、ホタルイカなどのイカ類、マダコ、イイダコなどのタコ類、クルマエビ、ボタンエビ、イセエビ、ブラックタイガーなどのエビ類、タラバガニ、ズワイガニ、ワタリガニ、ケガニなどのカニ類、アサリ、ハマグリ、ホタテ、カキ、ムール貝などの貝類、などの魚介類;缶詰、煮魚、佃煮、すり身、水産練り製品(ちくわ、蒲鉾、あげ蒲鉾、カニ足蒲鉾など)、フライ、天ぷら、などの魚介類の加工飲食物類;鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの畜肉類;カレー、シチュー、ビーフシチュー、ハヤシライスソース、ミートソース、マーボ豆腐、ハンバーグ、餃子、釜飯の素、スープ類(コーンスープ、トマトスープ、コンソメスープなど)、肉団子、角煮、畜肉缶詰などの畜肉を用いた加工飲食物類;卓上塩、調味塩、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、お茶漬けの素、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、めんつゆ(昆布だしまたは鰹だしなど)、ソース(中濃ソース、トマトソースなど)、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素(昆布だしまたは鰹だしなど)、複合調味料、新みりん、唐揚げ粉・たこ焼き粉などのミックス粉、などの調味料類、これらの調味料類が添加された動物性または植物性だし風味飲食品;チーズ、ヨーグルト、バターなどの乳製品;ビール酵母、パン酵母などの各種酵母、乳酸菌など各種微生物発酵品;野菜の煮物、筑前煮、おでん、鍋物などの煮物類;持ち帰り弁当の具や惣菜類;リンゴ、ぶどう、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)などの果物の果汁飲料や果汁入り清涼飲料、果物の果肉飲料や果粒入り果実飲料;トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス、ワラビ、ゼンマイなどの野菜や、これら野菜類を含む野菜系飲料、野菜スープなどの野菜含有飲食品;コーヒー、ココア、緑茶、紅茶、烏龍茶、清涼飲料、コーラ飲料、炭酸飲料(柑橘香味など各種香味のサイダーなど)、乳酸菌飲料などの嗜好飲料品;生薬やハーブを含む飲料;コーラ飲料、果汁飲料、乳飲料、ノンアルコールビールやいわゆる「第三のビール」などを含むビールテイスト飲料、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料などの機能性飲料;各種酒類(ビール風味、梅酒風味、チューハイ風味など)風味のアルコールテースト飲料などのノンアルコール嗜好飲料類;ワイン、焼酎、泡盛、清酒、ビール、チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒、いわゆる「第三のビール」などのその他醸造酒(発泡性)またはリキュール(発泡性)など、またはこれらを含むアルコール飲料類;などを挙げることができる。
【0083】
飲食品に対する本件動植物エキスまたは本件香料組成物の添加量は、飲食品の香味や所望の効果の程度などに応じて任意に決定できる。
【0084】
当該添加量の濃度の例として、飲食品であれば、飲食品の全体質量に対して、本件動植物エキスまたは本件香料組成物の濃度として0.001ppt~0.1%、好ましくは1ppt~100ppm、より好ましくは1ppb~100ppmの範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を0.001ppt、0.01ppt、0.1ppt、1ppt、10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppmのいずれか、上限値を0.1%、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100ppt、10ppt、1ppt、0.1ppt、0.01pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、飲食品の全体質量に対して、本件動植物エキスまたは本件香料組成物の濃度として100ppt~100ppb、100ppt~1ppm、1ppb~100ppb、1ppb~1ppm、10ppb~1ppm、10ppb~100ppb、100ppb~10ppm、1ppm~100ppmから、飲食品の風味特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。
【0085】
以下、実施例により、本発明をより具体的に述べるが、本発明の本質は前記開示した技術的思想にあるのであり、実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例0086】
(実施例1)
静岡県産1番茶(やぶきた種、浅蒸し)600gを3Lカラムに充填し、カラム上部から、L-アスコルビン酸ナトリウム1.2gを軟水180gに溶解した水溶液を均一にふりかけ、茶葉を湿潤した。カラム内部を窒素ガス置換後、窒素を混合した水蒸気をカラム下部より吹き込み、カラム上部から得られる茶の揮発性成分を含んだ水蒸気を冷却管(水道水冷却、約20℃)により凝縮し、約20分かけて、茶の揮発性成分を含んだ留出液300g(対茶葉50%)を得た。得られた留出液のpHは9.2であった。
【0087】
留出液を半分(150g)ずつ300ml褐色瓶に小分けし、ヘッドスペースを窒素置換後、一方を冷蔵庫(5℃)保存し(比較品1)、もう一方を冷凍庫(-20℃)に保存した。冷凍庫に保存した方は冷凍庫保存後約30分から凍結が始まり、約3時間でほぼ完全凍結した。それぞれを保存開始時から約20時間前記状態で保存し、その後室温(23℃)に放置した。凍結品は約2時間で完全解凍し、凍結・解凍品(本発明品1:pH9.2)を得た。
【0088】
両者を、それぞれ水に0.1%希釈し、官能評価を行った。それぞれの香気の概要は以下の通りであった。
【0089】
比較品1(冷蔵保存品):海苔香、磯香を伴った新鮮なやわらかい緑茶香
本発明品1(凍結・解凍品):トロピカルな果実感を伴う、強いグリーン香を有する緑茶香
それぞれのサンプルについて、以下の方法により香気分析を行った。
【0090】
試料液(比較品1、本発明品1)1gそれぞれを、そのまま、あるいは、4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの標準品を各試料に1ppb、10ppb、100ppbまたは1000ppbそれぞれを添加し、分析を行った。
分析条件
・装置
ガスクロマトグラフィー装置: 7890B GC System Agilent Technologies社製
MSD装置: 5977B MSD Agilent Technologies社製
・カラム
InertCap WAX 0.25mmφ×30m(膜厚0.25μm)ジーエルサイエンス社製
・SPMEファイバー
50/30μm DVB/CAR/PDMS StableFlex/SS(2cm)
Merck社製(Supelco:登録商標)
・試料量:1g
・バイアル容量:20ml
・試料の平衡化条件:60℃で30分間撹拌
・SPMEの抽出条件:60℃で30分間静置
・inlet温度:250℃
・温度条件:40℃で8分間保持後、4℃/minにて180℃まで上昇、次いで3℃/minにて230℃まで上昇させ、230℃にて10分間保持
・キャリアガス:He(コンスタントプレッシャー)
・注入法:スプリットレス
・流量:1.2ml/min
なお、GC/MSの分析結果はクロマトグラムを描画し、4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンのピークはm/z=132を用い、リナロールのピークはトータルイオンを用い、それぞれ面積値を定量に用いた。
【0091】
(分析結果)
GC/MSにより、凍結・解凍品には、多量の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンが含まれていることが認められた。
【0092】
また、標準添加法による4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの前記試料中の含有量は以下の通りであった。
【0093】
比較品1 :0.25ppb
本発明品1:495.9ppb
また、本発明品1(標準品としての4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンを添加していないもの)の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンのピーク面積値は9.9×104であり、リナロールの面積値は3.9×108であり、比較品1の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンのピーク面積値は49.9であり、リナロールの面積値は3.9×108であった。
【0094】
以上の結果より、本発明品1は比較品1と比べ、約2千倍もの4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンが含まれている(生成している)ことが確認できた。
【0095】
また、本発明品1は、原料とした緑茶葉600gから300gの本発明品1が得られているため、((緑茶エキスの収量(質量))/(抽出原料として用いた緑茶葉量(質量)))×緑茶エキス中の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの含有割合(質量基準)は、2.5×10-7であった。
【0096】
それに対し、比較品1では((緑茶エキスの収量(質量))/(抽出原料として用いた緑茶葉量(質量)))×緑茶エキス中の4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの含有割合(質量基準)は、1.75×10-10であった。
【0097】
また、本発明品1の(検出された4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンのピーク(m/z=132)の面積値)/(検出されたリナロールのピーク(トータルイオン)の面積値)は、2.5×10-4であった。
【0098】
それに対し、比較品1では、(検出された4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンのピーク(m/z=132)の面積値)/(検出されたリナロールのピーク(トータルイオン)の面積値)は、1.25×10-7であった。
【0099】
(実施例2)
まず、前記実施例1と同じ操作により、本発明品1、比較品1を得た。次いで、カラム上部より40℃温水(アスコルビン酸ナトリウム0.05%水溶液)4800gを流速60ml/分で送り込み、カラム底部よりBx3°の抽出液3000gを抜き取った。抜き取った抽出液は20℃に冷却し、3000rpm、10分遠心分離し沈殿物を除去し、水抽出エキス(参考品1、Bx3.0°、pH5.6)を得た。
【0100】
本発明品1と参考品1を、それぞれ150gずつ混合し、90℃、10分間殺菌した後、20℃まで冷却、充填し、緑茶エキス(本発明品2)を得た(Bx1.6°、pH6.7)。また、比較品1と参考品1を、それぞれ150gずつ混合し、90℃、10分間殺菌した後、20℃まで冷却、充填し、緑茶エキス(比較品2)を得た(Bx1.6°、pH6.7)。
【0101】
比較品2および本発明品2についても、前記分析方法にて、4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの含有量を測定した。その結果を以下に示す。
比較品2 :0.11ppb
本発明品2:245.9ppb
上記の通り、比較品2および本発明品2それぞれに、比較品1および本発明品1から由来すると考えられる4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの計算量とほぼ同程度の含有量が確認され、留出液への緑茶の水抽出エキスの添加や加熱殺菌により、4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの含有量が影響を受けにくいことが示された。
【0102】
また、比較品2および本発明品2についても、前記分析方法にて、(検出された4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンのピーク(m/z=132)の面積値)/(検出されたリナロールのピーク(トータルイオン)の面積値)を測定した。その結果を以下に示す。
【0103】
比較品2の(検出された4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンのピーク(m/z=132)の面積値)/(検出されたリナロールのピーク(トータルイオン)の面積値)=5.5×10-8
本発明品2の(検出された4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンのピーク(m/z=132)の面積値)/(検出されたリナロールのピーク(トータルイオン)の面積値)=1.1×10-4
【0104】
上記の通り、比較品2および本発明品2それぞれに、比較品1および本発明品1から由来すると考えられる、(検出された4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンのピーク(m/z=132)の面積値)/(検出されたリナロールのピーク(トータルイオン)の面積値)とほぼ同程度の値が確認され、留出液への緑茶の水抽出エキスの添加や加熱殺菌により、リナロールや4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの含有量が影響を受けにくいことが示された。
【0105】
(比較例1)
比較品2(pH6.7)を再度300g調整し、150gずつ2つに分け、一方を1%水酸化カリウム水溶液を用いてpH9.5とした。それぞれを300ml褐色瓶に入れ、ヘッドスペースを窒素置換後、冷凍庫(-20℃)に保存した。冷凍庫に保存した方は冷凍庫保存後約30分から凍結が始まり、約3時間でほぼ完全凍結した。それぞれを保存開始時から約20時間前記状態で保存し、その後室温(23℃)に放置した。凍結品は約2時間で完全解凍した。pH6.7にて凍結・解凍を行ったものを比較品3、pH9.5にて凍結・解凍を行ったものを比較品4とした。
【0106】
これらの比較品3および比較品4を前記と同様に、4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンおよびリナロールについて分析を行った。その結果を表1に示す。
【0107】
【0108】
緑茶の水抽出エキス分を含有させた状態では、凍結・解凍しても、pH6.7、pH9.5のいずれの場合も、4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンの増加は見られなかった。
【0109】
(実施例3)
九州産1番茶(やぶきた種、普通蒸し)1000gを3Lカラムに充填し、実施例1と同様の操作を行った。カラム上部から、L-アスコルビン酸ナトリウム2.0gを軟水300gに溶解した水溶液を均一にふりかけ、茶葉を湿潤した。カラム内部を窒素ガス置換後、窒素を混合した水蒸気をカラム下部より吹き込み、カラム上部から得られる茶の揮発性成分を含んだ水蒸気を冷却管(水道水冷却、約20℃)により凝縮し、約20分かけて、茶の揮発性成分を含んだ留出液500g(対茶葉50%)を得た。得られた留出液のpHは7.6であった。
【0110】
留出液を100gずつ300ml褐色瓶に4つに小分けし、以下の区分の保存を行った。
比較品5:ヘッドスペースを窒素置換後、冷凍庫(-20℃)保存
比較品6:ヘッドスペースを窒素置換後、冷蔵庫(5℃)保存
比較品7:アスコルビン酸粉末を用いてpH6.5とし、ヘッドスペースを窒素置換後、冷凍庫(-20℃)保存
本発明品3:0.1%水酸化カリウム水溶液を用いて、pH9.5としヘッドスペースを窒素置換後、冷凍庫(-20℃)保存
【0111】
冷凍庫に保存したサンプルは冷凍庫保存後約30分から凍結が始まり、約3時間でほぼ完全凍結した。それぞれを保存開始時から約20時間前記状態で保存し、その後室温(23℃)に放置した。凍結品は約2時間で完全解凍し、凍結・解凍品(比較品6、比較品7および本発明品3)を得た。
【0112】
これらの本発明品3、比較品5~比較品7を前記と同様に、4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンおよびリナロールについて分析を行った。その結果を表2に示す。
【0113】
【0114】
表2に示した通り、pH7.6で凍結・解凍(比較品5)しても4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンは未凍結品に比べて増加する現象が見られたが、pH6.5では凍結・解凍しても4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンはほとんど増加しなかった(比較品7)。一方、pHを9.5として凍結した場合、pH7.6で凍結した場合と比べ、さらに40倍以上も4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンが増加するという結果であった。
【0115】
(実施例4)
80℃に加熱したイオン交換水20kgに静岡県産緑茶(一番茶、深蒸し)1kgを投入し、5分間ゆっくり攪拌した後、40メッシュ金網を用いて、茶葉を分離し、分離した液を20℃に冷却し、抽出液14kgを得、アスコルビン酸ナトリウム7.0g(500ppm)を加え、No.2濾紙(ADVANTEC社製:保留粒子径5μ)にて濾過し、緑茶飲料用原液を得た(緑茶飲料原液の分析値;Bx:2.22°、pH:6.4、タンニン含量(酒石酸鉄法):0.44%、アミノ酸含量:0.071%)。これを小分けし、イオン交換水にて10倍(質量比)に希釈し、その希釈液に本発明品2または比較品2をそれぞれ表2に記載の濃度添加したものを調製し、137℃、30秒間加熱殺菌後、88℃まで冷却して500mlペットボトルに充填し、2分間保持後、室温(25℃)まで冷却し、ペットボトル入り緑茶飲料とした。それぞれの緑茶飲料は茶類エキス無添加品をコントロールとして10名のパネラーにて評価した。評価基準は、無添加品を5点とした場合に、淹れたて感、グリーン感、ふくよかさ、甘さ、果実感、海苔香について、非常によい:10点、良い:8点、やや良い:6点、やや悪い:4点、悪い:2点、非常に悪い0点とした。その結果を表3に示す。
【0116】
【0117】
表3に示した通り、本発明品2は、緑茶飲料に対しわずか1ppm~10ppmという微量の添加量(4-メルカプト-4-メチルペンタン-2-オンとして0.00025ppb~0.0025ppb相当)で、緑茶に対し、やや果実感を伴った、淹れたて感、グリーン感、甘さ、ふくよかさを大きく増加させた。一方、比較品2は1ppmの添加量では、無添加とほとんど変わらず、10ppm程度の添加ではわずかの効果が見られ、100ppm程度の添加により効果が明確になってくるという結果であった。したがって、本発明品(本発明品2)は、従来のアロマエキス(比較品2)よりはるかに低濃度でも効果を発揮し、風味特性においてに特徴的であるとともに、コスト的にも有利であるといえる。