(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019940
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】工作機械、チャックの把持力の検知方法、及びチャックの締付量の設定方法。
(51)【国際特許分類】
B23B 31/00 20060101AFI20240206BHJP
B23B 31/10 20060101ALI20240206BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
B23B31/00 D
B23B31/10 Z
B23Q17/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122732
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000137856
【氏名又は名称】シチズンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏之
【テーマコード(参考)】
3C029
3C032
【Fターム(参考)】
3C029EE06
3C032GG34
(57)【要約】
【課題】チャック把持力の適切な制御を可能にする技術を提供する。
【解決手段】被加工物を把持するためのチャックを備えた主軸を備える工作機械において、開閉機構がチャックを開状態から閉状態となるように閉動作させた際における、制御部が開閉機構に閉動作の制御信号を発出してからチャックが開状態でなくなったことをセンサが検知するまでの第1の時間と、制御部が開閉期間に制御信号を発出してからチャックが閉状態になったことをセンサが検知するまでの第2の時間と、の差分の大きさに基づいて、閉状態におけるチャックの被加工物に対する把持力を取得する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を把持するためのチャックを備えた主軸と、
前記チャックに、被加工物を把持する閉状態と、被加工物を着脱可能にする開状態と、のいずれかの状態をとらせるように、前記チャックを動作させる開閉機構と、
前記チャックが前記閉状態にあるか否か、及び、前記チャックが前記開状態にあるか否か、をそれぞれ検知するセンサと、
前記開閉機構を制御する制御部と、
を備える工作機械において、
前記開閉機構が前記チャックを前記開状態から前記閉状態となるように閉動作させた際における、前記制御部が前記開閉機構に前記閉動作の制御信号を発出してから前記チャックが前記開状態でなくなったことを前記センサが検知するまでの第1の時間と、前記制御部が前記開閉期間に前記制御信号を発出してから前記チャックが前記閉状態になったことを前記センサが検知するまでの第2の時間と、の差分の大きさに基づいて、前記閉状態における前記チャックの被加工物に対する把持力を取得する取得手段を備えることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記閉状態における前記チャックの被加工物に対する締付量を調整可能な調整機構と、
前記差分の大きさと、前記締付量と、前記把持力と、の相関関係を記憶した記憶手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記開閉機構が前記チャックを前記閉状態から前記開状態となるように開動作させた際における、前記制御部が前記開閉機構に前記開動作の制御信号を発出してから前記チャックが前記閉状態でなくなったことを前記センサが検知するまでの第3の時間と、前記制御部が前記開閉期間に前記制御信号を発出してから前記チャックが前記開状態になったことを前記センサが検知するまでの第4の時間と、の第2の差分の大きさの経時的な変化に基づいて、前記相関関係を補正する補正手段をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記把持力を含む情報を外部に報知する報知手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項5】
前記開閉機構は、
前記チャックを前記閉状態にするように前記チャックに作用する閉姿勢と、前記チャックを前記開状態にするように前記チャックに作用する開姿勢と、を取り得るように、前記主軸に設けられる第1の作用部材と、
前記主軸の回転軸線方向における前記第1の作用部材との相対位置を変位可能な第2の作用部材であって、前記第1の作用部材を前記閉姿勢にするように前記第1の作用部材に作用する閉位置と、前記第1の作用部材を前記開姿勢にするように前記第1の作用部材に作用する開位置と、を取り得るように、前記主軸に設けられる第2の作用部材と、
エアシリンダを含み、前記第2の作用部材を前記閉位置と前記開位置との間で移動させる駆動手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の工作機械。
【請求項6】
前記調整機構は、前記回転軸線方向における前記主軸に対する前記第1の作用部材の位置を変化させることで、前記チャックの前記締付量を変化させることが可能であることを特徴とする請求項5に記載の工作機械。
【請求項7】
前記センサは、前記駆動手段が前記第2の作用部材を前記閉位置に位置させている状態
にあるか否か、及び、前記駆動手段が前記第2の作用部材を前記開位置に位置させている状態にあるか否か、をそれぞれ検知することを特徴とする請求項6に記載の工作機械。
【請求項8】
工作機械の主軸に備えられたチャックが被加工物を把持する際における前記チャックの被加工物に対する把持力を検知する方法であって、
開閉機構が、前記チャックを、被加工物を着脱可能にする開状態から、被加工物を把持する閉状態となるように閉動作させる第1の工程と、
前記第1の工程において、制御部が前記開閉機構に前記閉動作の制御信号を発出してから前記チャックが前記開状態でなくなったことをセンサが検知するまでの第1の時間と、前記制御部が前記開閉機構に前記制御信号を発出してから前記チャックが前記閉状態になったことを前記センサが検知するまでの第2の時間と、を取得する第2の工程と、
前記第1の時間と前記第2の時間との差分の大きさと、調整機構によって調整された前記閉状態における前記チャックの被加工物に対する締付量と、前記把持力と、の相関関係に基づいて、前記把持力を取得する第3の工程と、
を含むことを特徴とするチャックの把持力の検知方法。
【請求項9】
前記開閉機構が、前記チャックを、前記閉状態から前記開状態となるように開動作させる第4の工程と、
前記第4の工程において、前記制御部が前記開閉機構に前記開動作の制御信号を発出してから前記チャックが前記閉状態でなくなったことを前記センサが検知するまでの第3の時間と、前記制御部が前記開閉期間に前記制御信号を発出してから前記チャックが前記開状態になったことを前記センサが検知するまでの第4の時間と、を取得する第5の工程と、
前記第4の工程と前記第5の工程とが繰り返された際の、前記第3の時間と前記第4の時間との差分の大きさの経時的な変化に基づいて、前記相関関係を補正する第6の工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載のチャックの把持力の検知方法。
【請求項10】
工作機械の主軸に備えられたチャックが被加工物を把持する際における前記チャックの被加工物に対する締付量の設定方法であって、
調整機構により、前記チャックが被加工物を把持する閉状態における前記チャックの被加工物に対する締付量を第1の締付量に調整した状態で、開閉機構が、前記チャックを、被加工物を着脱可能にする開状態から、前記閉状態となるように閉動作させる第1の工程と、
前記第1の工程において、制御部が前記開閉機構に前記閉動作の制御信号を発出してから前記チャックが前記開状態でなくなったことをセンサが検知するまでの第1の時間と、前記制御部が前記開閉機構に前記制御信号を発出してから前記チャックが前記閉状態になったことを前記センサが検知するまでの第2の時間と、を取得する第2の工程と、
前記第1の時間と前記第2の時間との差分の大きさと、調整機構によって調整された前記閉状態における前記チャックの被加工物に対する締付量と、前記閉状態における前記チャックの被加工物に対する把持力と、の相関関係に基づいて、所望の前記把持力を得られる第2の締付量を取得する第3の工程と、
前記調整機構により、前記締付量を、前記第3の工程において取得された前記第2の締付量に調整する第4の工程と、
を含むことを特徴とするチャックの締付量の設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械におけるチャックの把持力を検知する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークを把持した主軸を回転させ、回転するワークに対して加工工具を進退させて加工を施す工作機械では、チャック(把持爪)がワークを適切に把持することが、工作精度において重要な要素となる。特許文献1には、チャックをワークに当接させてから所定の把持力が発生するまでの主軸モータの回転による締込量と、チャックの把持力と、の関係を予め求めておき、主軸モータの回転角度を制御することで、チャックの把持力を制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、チャックの把持力は、直接的に計測することが容易ではなく、チャックを動作させる機構の制御量から把握する手法がとられる。しかしながら、制御量と把持力との関係は、例えば、チャックの摩耗の進行や潤滑状態の変化などの様々な要因により、必ずしも一定の関係とならない場合も少なくない。
【0005】
本発明の目的は、チャック把持力の適切な制御を可能にする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の工作機械は、
被加工物を把持するためのチャックを備えた主軸と、
前記チャックに、被加工物を把持する閉状態と、被加工物を着脱可能にする開状態と、のいずれかの状態をとらせるように、前記チャックを動作させる開閉機構と、
前記チャックが前記閉状態にあるか否か、及び、前記チャックが前記開状態にあるか否か、をそれぞれ検知するセンサと、
前記開閉機構を制御する制御部と、
を備える工作機械において、
前記開閉機構が前記チャックを前記開状態から前記閉状態となるように閉動作させた際における、前記制御部が前記開閉機構に前記閉動作の制御信号を発出してから前記チャックが前記開状態でなくなったことを前記センサが検知するまでの第1の時間と、前記制御部が前記開閉期間に前記制御信号を発出してから前記チャックが前記閉状態になったことを前記センサが検知するまでの第2の時間と、の差分の大きさに基づいて、前記閉状態における前記チャックの被加工物に対する把持力を取得する取得手段を備えることを特徴とする。
【0007】
また、上記目的を達成するため、本発明のチャックの把持力の検知方法は、
工作機械の主軸に備えられたチャックが被加工物を把持する際における前記チャックの被加工物に対する把持力を検知する方法であって、
開閉機構が、前記チャックを、被加工物を着脱可能にする開状態から、被加工物を把持
する閉状態となるように閉動作させる第1の工程と、
前記第1の工程において、制御部が前記開閉機構に前記閉動作の制御信号を発出してから前記チャックが前記開状態でなくなったことをセンサが検知するまでの第1の時間と、前記制御部が前記開閉機構に前記制御信号を発出してから前記チャックが前記閉状態になったことを前記センサが検知するまでの第2の時間と、を取得する第2の工程と、
前記第1の時間と前記第2の時間との差分の大きさと、調整機構によって調整された前記閉状態における前記チャックの被加工物に対する締付量と、前記把持力と、の相関関係に基づいて、前記把持力を取得する第3の工程と、
を含むことを特徴とする。
【0008】
また、上記目的を達成するため、本発明のチャックの締付量の設定方法は、
工作機械の主軸に備えられたチャックが被加工物を把持する際における前記チャックの被加工物に対する締付量の設定方法であって、
調整機構により、前記チャックが被加工物を把持する閉状態における前記チャックの被加工物に対する締付量を第1の締付量に調整した状態で、開閉機構が、前記チャックを、被加工物を着脱可能にする開状態から、前記閉状態となるように閉動作させる第1の工程と、
前記第1の工程において、制御部が前記開閉機構に前記閉動作の制御信号を発出してから前記チャックが前記開状態でなくなったことをセンサが検知するまでの第1の時間と、前記制御部が前記開閉機構に前記制御信号を発出してから前記チャックが前記閉状態になったことを前記センサが検知するまでの第2の時間と、を取得する第2の工程と、
前記第1の時間と前記第2の時間との差分の大きさと、調整機構によって調整された前記閉状態における前記チャックの被加工物に対する締付量と、前記閉状態における前記チャックの被加工物に対する把持力と、の相関関係に基づいて、所望の前記把持力を得られる第2の締付量を取得する第3の工程と、
前記調整機構により、前記締付量を、前記第3の工程において取得された前記第2の締付量に調整する第4の工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、チャック把持力の適切な制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例に係るワーク回収装置を備えた工作機械の模式図である。
【
図4】チャック爪、ボビン、チャックホルダ周辺構成の模式的断面図である。
【
図5】チャック爪、ボビン、チャックホルダ周辺構成の模式的断面図である。
【
図6】チャック閉信号とセンサ反応タイミングのタイミングチャートである。
【
図7】調整ナットの締付量(ナット角度)とB-A期間の関係図である。
【
図8】本実施例に係る工作機械の構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【
図10】把持力相関データ作成のフローチャートである。
【
図12】チャック開信号とセンサ反応タイミングのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施例を説明する。ただし、以下で説明する実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成
に限定するものではない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、製造条件、構成部品の機能、材質、形状、その相対配置などは、特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、繰り返しの説明を省略する。
【0012】
(実施例)
図1は、本発明の実施例に係る工作機械1の構成を概略的に示す模式図である。
図1に示す工作機械1は、いわゆる自動旋盤装置であり、被加工物として例えば長尺棒材であるワークWを回転させ、これに切削工具(加工工具)を接触させて、切削加工(旋削加工)を施す装置である。
【0013】
工作機械1は、概略、基台2上に配置された主軸機構100と、刃物台300と、を備える。主軸機構100は、主軸101を有する。主軸101の回転軸線方向をZ軸方向とし、軸線方向と直交する方向のうち、鉛直方向と平行な方向をX軸方向、水平方向と平行な方向をY軸方向とする。
図1は、Y軸方向に工作機械1の構成を見た概略図である。
【0014】
主軸機構100は、主軸101を回転可能に支持する主軸台102と、主軸台102を基台2上でZ軸方向に移動させるための駆動機構103と、を備える。駆動機構としては、例えば、駆動源としてのモータ、ボールねじ、ガイドレール等により構成されたボールねじ駆動機構を採用してよい。また、主軸機構100は、主軸台102を、Z軸方向だけでなく、Y軸方向やX軸方向に移動させる駆動機構を備えてもよい。主軸台102は、例えば、不図示のビルトインモータを備えており、その回転駆動力により、主軸101を回転駆動することができるように構成されている。
【0015】
主軸101は、ワークWを保持又は把持するためのワーク保持孔を備えた中空構造を有しており、ワークWを把持状態(軸心を合わせ、かつ軸方向の移動を規制する状態)とするためのチャックやチャックスリーブ、ガイドブッシュ等を備える。ワークWは、ワーク保持孔の主軸後端開口からワーク保持孔に軸線方向に挿入、給送され、所定の挿入位置において、チャックにより把持される。ワークWのうちワーク保持孔の主軸先端開口から露出した部分が、刃物台300に支持された切削工具301により旋削加工が施される部分となる。上述した不図示のガイドブッシュは、例えば、ワーク保持孔の主軸先端開口に設けられ、ワーク保持孔の開口付近においてワークWの姿勢を保持する。なお、ガイドブッシュによるワークWの支持構造は、主軸機構100とは別構造としてもよい。
【0016】
詳細は後述するが、
図1において不図示のチャックやチャックスリーブは、軸線方向の移動が規制されたチャックに対して、後方からチャックスリーブがテーパ面を介して軸線方向に接合する構成となっている。チャックスリーブは、
図1において不図示のエアシリンダから付与される力を受けて軸線方向に移動しようとすることで、チャックに対し、軸心に向かう方向の分力を含む力を作用させ、チャックに設けられたスリットが閉じるような締め付け力をチャックに発生させる。これにより、ワークWを把持する状態が形成される。
【0017】
刃物台300は、目的とする加工の種類に応じて選択可能に用意された複数の切削工具301を備えている。刃物台300は、不図示の駆動機構により、ワークWに対してX軸方向に進退移動可能に構成されており、選択された一の切削工具301をワークWに接触させることで所望の切削加工(旋削加工)をワークWに対して施す。
【0018】
工作機械1は、例えばCPU(中央演算処理装置)等のプロセッサとメモリとを有するコンピュータで構成された制御部200を備える。制御部200は、主軸機構100や刃物台300、不図示のワーク供給部や、後述するアクチュエータ60、表示部70などの
工作機械1を構成する各部の各種動作を制御する。
【0019】
図2、
図3は、それぞれ、主軸101周辺の主要構成を拡大して示す模式的断面図である。
図2は、コレットチャック41が閉じた状態、すなわち、ワークWを把持した状態における各部の構成を示している。
図3は、コレットチャック41が開いた状態、すなわち、ワークWが主軸101に対して着脱可能になった状態における各部の構成を示している。
図4、
図5は、それぞれ、チャック爪47、ボビン48、チャックホルダ50周辺の構成を拡大して示す模式的断面図である。
図4は、チャック爪47が閉姿勢、すなわち、コレットチャック41がワークWを把持した閉状態における各部の構成を示している。
図5は、チャック爪47が開姿勢、すなわち、ワークWがコレットチャック41から着脱可能になった開状態における各部の構成を示している。
【0020】
図2、
図3に示すように、主軸101は、軸受装置121、122、123を介して、主軸台102に対して回転可能に組付けられている。コレットチャック41は、主軸101の軸線方向先端側に組付けられている。コレットチャック41は、ワークWを内部に受容可能な中空の筒状本体411と、筒状本体411の中心軸線L方向(長手方向)における先端側に設けられた把持部412と、を備える。
【0021】
把持部412は、いわゆるすり割り構造を有しており、中心軸線L1を基準とした内径寸法を弾性的に変更可能に構成されている。すなわち、把持部412は、その先端側の端面から後端側に向かって軸線方向に所定の長さで延びるスリット413が設けられている。スリット413は、中心軸線Lに関して放射状に把持部412を切り欠くように形成されるとともに、中心軸線L周りの周方向に、例えば、等間隔に複数設けられている。これら複数のスリット413の間には、中心軸線L1を中心とした径方向への変位が可能な縦割片414が形成される。各縦割片414は、その基端を支点として、上記径方向へ弾性変形可能な板ばね状に構成されている。
【0022】
各縦割片414の中心軸線L1に向く内面は、それぞれ凹状の曲面となっており、互いに協働することで、把持部412における実質的に円筒状のワーク把持面415を形成する。また、各縦割片414の外面は、軸線方向に対して傾斜した傾斜面を含み、各傾斜面が互いに協働することで、軸線方向先端に向かうにつれて徐々に拡径するテーパ状の力受け面416を形成する。また、各縦割片414の力受け面416よりも軸線方向先端側には、中心軸線L1に対して垂直に延びる肩面417が形成されている。
【0023】
複数の縦割片414は、力受け面416を介して、それぞれ径方向内向きの外力が加えられることで弾性的に撓み、ワーク把持面415をワークWに密接するまで縮径させることで、ワークWを強固に固定的に把持する。把持部412に対する径方向圧力が解除されると、各縦割片414は、それぞれ弾性的に復元し、ワーク把持面415を拡径し、ワークWが把持部412から解放される。
【0024】
主軸101のワーク保持孔の先端には、キャップナット42が取り付けられている。キャップナット42は、軸線方向後端側を向いた端面であり、コレットチャック41の肩面417と軸線方向に当接する係止面421を有する。また、主軸101のワーク保持孔には、キャップナット42との間にコレットチャック41を挟み込むように、第2の作用部材としてのチャックスリーブ43が組付けられている。
【0025】
チャックスリーブ43は、ワークW及びこれを囲むコレットチャック41を内部に受容可能な中空の筒状体である。チャックスリーブ43は、その内面に、コレットチャック41の力受け面416に作用する力付与面431を有するとともに、コレットチャック41に軸線方向の付勢力を付与する弾性部材としての圧縮コイルばね44が組付けられている
。チャックスリーブ43は、ばね受け面432を有し、ばね受け面432とコレットチャック41の軸線方向後端面との間で、圧縮コイルばね44を軸線方向に圧縮する。この圧縮コイルばね44の付勢力により、コレットチャック41は、肩面417が係止面421に当接し、キャップナット42に対して軸線方向に押し付けられる。
【0026】
力付与面431は、軸線方向先端に向かうにつれて徐々に拡径するテーパ面であり、力受け面416に対して、中心軸線L1に沿った軸線方向と、中心軸線L1を中心とした径方向のそれぞれに対向し当接する面である。力付与面431が力受け面416に対して径方向内向きの作動力を付与することで、上述したように、コレットチャック41の把持部412がワークWの把持する動作を行う。
【0027】
主軸101のワーク保持孔には、チャックスリーブ43の軸線方向後端側に、それぞれワークWを内部に受容可能な中空の筒状体である、チャック開閉スリーブ45とバランススリーブ46が組付けられている。チャックスリーブ43と、これらチャック開閉スリーブ45とバランススリーブ46は、この順番で軸線方向に直列に並ぶとともに、それぞれ軸線方向に係合し、第2の作用部材として、一体的に軸線方向に変位可能に構成されている。バランススリーブ46の軸線方向後端には、作動力を受ける被作用面461が設けられている。
【0028】
主軸101には、バランススリーブ46の被作用面461に作動力を付与するための第1の作用部材としてのチャック爪47が設けられている。チャック爪47は、中心軸線L1周りに、例えば等間隔で複数設けられている。各チャック爪47は、被作用面461に対して軸線方向に当接する作用部471を有し、主軸101に対して、中心軸線L1を中心とする仮想円の接線方向に沿った回転軸472を中心に回転可能に構成されている。複数のチャック爪47は、チャックホルダ50によって一体的に支持されており、チャックホルダ50を介して、主軸101に組付けられている。
【0029】
チャック爪47は、作用部471が軸線方向前方側に前進する閉姿勢と、作用部471が軸線方向後方側に退避した開姿勢と、を取り得るように回転する。チャック爪47は、上記の姿勢変化のための駆動力を受ける被作用部473を有する。主軸101には、被作用部473に駆動力を付与する直動作用部材としてのボビン48が、主軸101の筒状壁に軸線方向に変位可能に組付けられている。具体的には、ボビン48は、主軸101に対して軸線方向に変位可能な軸受装置123の一部として構成されている。軸受装置123は、駆動手段としてのアクチュエータ60からの駆動力によって、主軸101に対して軸線方向に変位する。軸受装置123の軸線方向の変位により、ボビン48は、チャック爪47に閉姿勢を取らせる作用位置と、チャック爪47に開姿勢を取らせる被作用位置と、に移動可能に構成されている。
【0030】
ボビン48は、軸線方向後端に向かって徐々に縮経するように延びる略円錐状の外周面である作用部481を有している。ボビン48が作用位置にあるとき、チャック爪47は、被作用部473が作用部481に接触し、ボビン48に乗り上げたような状態となり、乗り上げる過程での回動によって閉姿勢をとる。また、ボビン48が被作用位置にあるときは、被作用部473が作用部481から離間して主軸101の外周面に接触し、チャック爪47がボビン48とは非接触状態となり、ボビン48から降りる過程での回動によって開姿勢をとる。
【0031】
アクチュエータ60は、エアシリンダ61と、エアシリンダ61のロッド610と軸受装置123とを連結するアーム62と、を備える。アーム62は、主軸台102に対して回転軸622を中心に回動可能に組付けられるとともに、回転軸621を介してロッド610に対して回転可能に接続され、回転軸623を介して軸受装置123に対して回転可
能に接続されている。エアシリンダ61のロッド610は、中心軸線Lに沿った方向に往復動を行い、アーム62は、ロッド610の往復動によって回転軸622を中心に回動する。例えば、軸受装置123とアーム62とを連結する回転軸623は、アーム62の長手方向に変位可能に構成されており、アーム62の回動によって、アームの長手方向に変位しつつ中心軸線Lに沿った方向に変位する。これにより、軸受装置123は、主軸101上を軸線方向に変位することになり、ボビン48のチャック爪47に対する軸線方向の相対位置が変化することになる。
【0032】
チャック爪47が開姿勢から閉姿勢に変化すると、作用部471が被作用面461を軸線方向前方側に押圧し、バランススリーブ46、チャック開閉スリーブ45、チャックスリーブ43が順次、軸線方向前方に向かって押圧されることになる。これにより、チャックスリーブ43の力付与面431からコレットチャック41の力受け面416に対して径方向内向きの力が加わり、コレットチャック41のワークWに対する締付量が増大し、ワークWを強固に固定的に把持する閉状態となる。
【0033】
チャック爪47が閉姿勢から開姿勢に変化すると、作用部471が軸線方向後方に後退し、圧縮コイルばね44の付勢力によってチャックスリーブ43、チャック開閉スリーブ45、バランススリーブ46が順次、軸線方向後方に向かって押圧されることになる。これにより、チャックスリーブ43の力付与面431からコレットチャック41の力受け面416に対する径方向内向きの力が解除され、コレットチャック41のワークWに対する締付量が小さくなり、コレットチャック41に対してワークWの着脱が自在な開状態となる。
【0034】
エアシリンダ61には、チャック開位置センサ71とチャック閉位置センサ72が設けられている。チャック開位置センサ71は、ロッド610のストロークがボビン48を作用位置に移動させた収縮位置(
図2)にあるときに反応するように構成されている。また、チャック閉位置センサ72は、ロッド610のストロークがボビン48を非作用位置に移動させた伸長位置(
図3)にあるときに反応するように構成されている。センサ71、72の構成としては、例えば、ロッド610に設けたマークを検知する光学センサなどが挙げられるが、従来周知のセンサを適宜用いてよい。
【0035】
図4、
図5に示すように、チャックホルダ50の軸線方向後端側には、調整ナット51が主軸101の筒状壁に螺着されている。チャックホルダ50は、主軸101の筒状壁に設けられた不図示のガイド機構により、主軸101の外周面上を、軸線方向にスライド移動可能に設けられている。調整ナット51は、チャックスリーブ43、チャック開閉スリーブ45、バランススリーブ46、チャック爪47、チャックホルダ50を介して負荷される圧縮コイルばね44の付勢力に抗して、チャックホルダ50に対して軸線方向に当接する。調整ナット51は、主軸101に対して締め込んだり緩めたりすることにより、主軸101に対する軸線方向の位置を調整することができるように構成されている。したがって、調整ナット51の軸線方向の位置を調整することで、チャックホルダ50の軸線方向の位置、すなわち、チャック爪47の軸線方向の位置を調整することができる。このチャック爪47の軸線方向の位置調整(調整ナット51の締付量の調整)によって、閉状態におけるコレットチャック41のワークWに対する締付量を調整することが可能である。
【0036】
ここで、本発明の発明者は、鋭意研究により、調整ナット51の締付量(ナット角度)の違いによって、上述した、チャック開位置センサ71が反応するタイミングと、チャック閉位置センサ72が反応するタイミングと、の差分に違いが生じることを見出した。
【0037】
チャック開位置センサ71は、ロッド610が収縮位置にあるとき(あるいは所定の収縮基準位置を超えたとき)にON信号を出力し、ストロークによりロッド610が収縮位
置から外れる(あるいは収縮基準位置に至らない)と、OFF信号を出力する。同様に、チャック閉位置センサ72は、ロッド610が伸長位置にあるとき(あるいは所定の伸長基準位置を超えたとき)にON信号を出力し、ストロークによりロッド610が伸長位置から外れる(あるいは伸長基準位置に至らない)と、OFF信号を出力する。したがって、ロッド610のストローク中において、チャック開位置センサ71とチャック閉位置センサ72のいずれもが反応しない(いずれもがOFF信号を出力する)過渡期間が存在する。この過渡期間の長さが、調整ナット51の締付量に応じて変化するということである。
【0038】
図6は、制御部200が、アクチュエータ60に対してチャック閉信号を発出したタイミングと、チャック開位置センサ71とチャック閉位置センサ72のそれぞれの反応タイミングと、を示すタイミングチャートである。アクチュエータ60が、コレットチャック41を開状態から閉状態に閉動作させた際において、制御部200がアクチュエータ60に閉動作の制御信号を発出してから、チャック開位置センサ71の出力がONからOFFに切り替わるまでの期間(第1の時間)をAとする。また、制御部200がアクチュエータ60に閉動作の制御信号を発出してから、チャック閉位置センサ72の出力がOFFからONに切り替わるまでの期間(第2の時間)をBとすると、過渡期間としてB-Aの期間(差分時間)が生じる。
【0039】
期間A、すなわち、チャック開位置センサ71の出力がONからOFFに切り替わるまでの期間は、チャック動作において負荷のかからない位置であるため、調整ナット51の締付量にかかわらず、検知タイミングは略一定のタイミングとなる。これに対し、期間B、すなわち、チャック閉位置センサ72の出力がOFFからONに切り替わるまでの期間は、チャック動作において負荷のかかる動作期間となるため、調整ナット51の締付量に応じて、検知タイミングにずれが生じることになる。よって、過渡期間としてB-Aの期間の大きさに変化が生じることになる。
【0040】
図7は、調整ナット51の締付量(ナット角度)を変化させたときの、B-A期間の変化の一例を示すグラフである。
図7に示すように、ナット角度を30°、60°、90°、120°、150°にそれぞれ変化させた際にB-A期間は、それぞれ0.068、0.075、0.082、0.088、0.102のようにプロットされた。これらの結果から、調整ナット51の締付量と、B-A期間とは、略線形の関係性を有することが分かる。
【0041】
把持力の調整は、通例、最初に、調整ナット51の角度(軸線方向の位置)の基準点を決め、その基準点からの締付角度を調整することで、所望の把持力に設定することが行われる。従来の基準点の決め方としては、例えば、チャック爪47がボビン48に乗り上げてない状態で、被作用部473の先端が作用部481に突き当たった状態となるように、調整ナット51の軸線方向の位置を調整し、このときのナット角度を基準角度とするやり方がある。しかしながら、このような基準点の設定は、一意的な、常に一定の設定が難しい。これに対し、本実施例のように、センサ検知タイミングの時間差と対応付けて調整ナット51の調整量(コレットチャック41の締付量)を設定することで、基準点の設定の如何によらず、把持力の把握が容易となる。
【0042】
図8は、本実施例に係る工作機械の構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【0043】
制御部200は、一般的なコンピュータの構成を有している。制御部200は、CPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、入出力インタフェース204を有する。また、制御部200は、入力部81、出力
部82を有する。これらは、バスにより相互に接続される。バスには、入出力インタフェース204を介して、チャック開位置センサ71やチャック閉位置センサ72等を含む各種センサ類が接続されており、これらのセンサ類からの信号が制御部200に入力される。一方、バスには、入出力インタフェース204を介して、主軸機構100や刃物台300を駆動するアクチュエータ、コレットチャック41の開閉動作を行うアクチュエータ60等が接続されており、制御部200からこれらの機器に制御信号が送られる。
【0044】
CPU201は、工作機械1を制御し、様々な情報処理の演算を行う。記憶手段としてのROM202やRAM203には、オペレーティングシステム(Operating System :OS)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。格納されたプ
ログラムの実行を通じて各構成部等が制御される。これにより、所定の目的に合致した機能を制御部200が実現する。なお、制御部200は、単一のコンピュータであってもよいし、複数台のコンピュータが連携したものであってもよい。
【0045】
入力部81は、ユーザが行った入力操作等を受け付ける手段であり、例えば、タッチパネル、マウス、キーボード、または、マイクロフォン等を含む。出力部82は、ユーザに対して情報を提示する手段であり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、EL(Electroluminescence)パネル、スピーカ、ランプ等を含むことができる。なお、入力部81及び出力部82は、1つのタッチパネルディスプレイとして構成してもよい。
【0046】
図9は、制御部200の機能構成の一例を示す図である。制御部200は、機能構成要素として、加工制御部211、把持力取得部212、把持力補正部213を含む。加工制御部211、把持力取得部212、把持力補正部213は、例えば、制御部200のCPU201が、ROM202やRAM203に記憶された各種プログラムを実行することで提供される機能構成要素である。
【0047】
加工制御部211は、ワークWの加工時に工作機械1を制御する。加工制御部211は、コレットチャック41によってワークWを締結させ、主軸101を回転させ、さらに、刃物台300の切削工具301の移動を制御することによってワークWを例えば切削する。この加工制御部211によるワークWの加工制御には、公知の技術を用いることができる。
【0048】
把持力取得部212は、上述したB-A期間の大きさに基づいて、コレットチャック41の閉状態時におけるワークWに対する把持力を取得する。把持力の取得は、上述したB-A期間とナット締付量との相関関係に基づく。すなわち、上述したB-A期間とナット締付量(調整ナット51による調整量)は、互いに線形的に相関し、ナット締付量は、閉状態時におけるコレットチャック41のワークWに対する締付量と線形的に相関する。ナット締付量に対応する把持力としては、例えば、重量キログラム(kgf)を単位とした具体的な数値を、例えば、実験等においてコレットチャック41にトルクセンサを取り付けて検出する等して予め複数取得しておき、複数の実測値を基に上記の線形関係から把持力を算出・取得するようにしてもよい。ユーザへの把持力の報知としては、具体的な数値を提示する場合のほか、ナット締付量を所定の数値範囲ごとに段階で区切り、段階ごとに把持力の強弱レベルを示すようなレベル表示としてもよい。
【0049】
図10は、把持力取得部による把持力相関データの作成のフローチャートである。把持力相関データの作成は、実際の製品加工を開始する前の準備、調整段階において行うことが好適である。すなわち、この工程において用いられるワークWとしては、実製品として加工させるワークWではなく予備のワークWを用いてよい。
【0050】
先ず、制御部200からアクチュエータ60へチャック閉動作信号を発出し、コレットチャック41に閉動作を行わせてワークWを掴ませる(S101)。そして、このとき閉動作制御信号の発出からコレットチャック41が開状態でなくなったことをチャック開位置センサ71が検知するまでの期間Aと、閉動作制御信号の発出からコレットチャック41が閉状態になったことをチャック閉位置センサ72が検知するまでの期間Bと、を取得する(S102、S103)。取得した期間A、B、及び、これらによって取得されたB-A期間を、制御部200は、記憶手段に記憶する。
【0051】
把持力取得に必要な、B-A期間とナット締付量(把持力)との相関関係の取得に必要な数の期間A、Bのデータが得られている場合には(S104、YES)、B-A期間と把持力との相関関係データを作成する(S107)。期間A、Bのデータの数が足りない場合(S104、NO)には、再度のデータ取得を行う。すなわち、コレットチャック41を開状態とし(S105)、調整ナット51の角度を変更し、チャック爪47の位置を変更する(S106)。調整ナット51の調整量の変更は、ユーザが手動で行うようにしてもよいし、自動調整が可能な場合には、装置側で変更するようにしてもよい。必要なデータが揃うまで、S101~S106を繰り返す。
【0052】
図11は、
図10によって取得した把持力データを用いた、チャック把持力検知のフローチャートである。この把持力検知は、
図10と同様、実製品の加工前の調整段階において行ってもよいし、実製品加工時に行ってもよい。
【0053】
制御部200からアクチュエータ60へチャック閉動作信号を発出し、コレットチャック41に閉動作を行わせてワークWを掴ませる(S201)。このとき予め調整される調整ナット51の角度は、実際の加工時の角度よりも所定のマージンを持たせた角度としてよい。すなわち、ここで調整ナット51によって調整されるコレットチャック41の締付量は、最適な締付量(第2の締付量)を得るための仮の締付量(第1の締付量)である。そして、閉動作制御信号の発出からコレットチャック41が開状態でなくなったことをチャック開位置センサ71が検知するまでの期間Aと、閉動作制御信号の発出からコレットチャック41が閉状態になったことをチャック閉位置センサ72が検知するまでの期間Bと、を取得する(S202、S203)。そして、取得した期間A、Bから取得されるB-A期間を、
図10で取得した把持力との相関関係(把持力データ)と照合し、あるいは、該相関関係に基づいて算出し、対応する把持力を取得する(S204)。そして、取得された把持力を、報知手段としての出力部82を介してユーザに報知する(S205)。
【0054】
以上の処理により、把持力が報知されたユーザは、報知された把持力を基に、必要な場合には所望の把持力となるように、調整ナット51の最調整を行うことができる。なお、S205におけるユーザへの報知においては、ナット調整量と把持力との相関関係を合わせて表示するようにしてもよい。あるいは、所望の把持力が予め入力部81を介して入力されているような場合には、S204において、所望の把持力を得るために必要なナット調整量(第2の締付量)を取得しておき、S205において、ユーザに提示するようにしてもよい。
【0055】
把持力補正部213は、取得したB-A期間と把持力との相関関係(把持力データ)を補正する。上述したように、期間Aは、基本的にチャック動作において負荷のかからない(負荷が大きく変わらない)位置であり、調整ナット51の締付量にかかわらず、検知タイミングは略一定のタイミングとなる。しかしながら、例えば、長期的に使用したような場合には、エアシリンダ61のエア供給圧の状態や、チャック爪47とボビン48との潤滑油状態等の変化の影響を受けて変動する場合がある。例えば、エアシリンダ61のエア供給圧が標準の0.5MPaから0.4MPaに下がった場合、時間Aは延びることになり、これに伴い期間Bも延びることになる。そのような、経時的な装置挙動の変化等に対
応すべく、把持力データを補正することが好ましい。そこで、本実施例では、開動作を行わせた際のセンサ検知タイミングのズレ時間(C-D期間)を経時変化から遅れ時間(係数)を取得し、閉動作におけるズレ時間(B-A期間)の補正を行う。
【0056】
図12は、制御部200が、アクチュエータ60に対してチャック開信号を発出したタイミングと、チャック開位置センサ71とチャック閉位置センサ72のそれぞれの反応タイミングと、を示すタイミングチャートである。アクチュエータ60が、コレットチャック41を閉状態から開状態に閉動作させた際において、制御部200がアクチュエータ60に開動作の制御信号を発出してから、チャック閉位置センサ72の出力がONからOFFに切り替わるまでの期間(第3の時間)をCとする。また、制御部200がアクチュエータ60に開動作の制御信号を発出してから、チャック開位置センサ71の出力がOFFからONに切り替わるまでの期間(第4の時間)をDとすると、過渡期間としてD-Cの期間(差分時間)が生じる。
【0057】
この過渡期間としてD-Cの期間は、上述したように、経時的な装置挙動の変化等により変動する場合がある。そこで、新品の状態での期間D-Cと、装置をある程度稼働した状態(すなわち、摩耗等が進行した状態)での期間D-Cと、を比較することで、把持力データの補正のための係数(遅れ時間)を取得することができる。その係数を用いて把持力データを補正することで、より最適な把持力の取得が可能となる。
【0058】
図13は、持力取得部による把持力相関データの補正のフローチャートである。この動作は、装置が新品の状態における基準の把持力相関データを作成した後、装置の稼働回数が所定回数に到達する度に、把持力相関データを再取得する際に行われる。
【0059】
先ず、制御部200からアクチュエータ60へチャック開動作信号を発出し、コレットチャック41に開動作を行わせてワークWを解放する(S301)。そして、このとき開動作制御信号の発出からコレットチャック41が閉状態でなくなったことをチャック閉位置センサ72が検知するまでの期間Cと、開動作制御信号の発出からコレットチャック41が開状態になったことをチャック開位置センサ71が検知するまでの期間Dと、を取得する(S302、S303)。取得した期間C、D、及び、これらによって取得されたD-C期間を、制御部200は、記憶手段に記憶する。
【0060】
把持力取得に必要な、D-C期間とナット締付量(把持力)との相関関係の取得に必要な数の期間C、Dのデータが得られている場合には(S304、YES)、D-C期間と把持力との相関関係データを作成する(S307)。期間C、Dのデータ数が足りない場合(S304、NO)には、再度のデータ取得を行う。すなわち、調整ナット51の角度を変更してチャック爪47の位置を変更してから(S305)、コレットチャック41を閉状態とし(S306)、ワークWを掴み直させる。調整ナット51の調整量の変更は、ユーザが手動で行うようにしてもよいし、自動調整が可能な場合には、装置側で変更するようにしてもよい。必要なデータが揃うまで、S301~S306を繰り返す。
【0061】
以上の処理によって得られた最新の把持力データ(C´、D´)と、使用初期に取得した基準の把持力データ(C、D)とを比較して遅れ時間(係数)を取得し、B-C期間に対応した把持力データを補正する(S308)。例えば、C´/C=αを係数として、最新の把持力データにおけるB-Aを補正する(α(B-A))。このように補正した把持力データを用いることで、装置の経時変化を反映した、より適切な把持力の設定が可能となる。
【0062】
以上、本実施例によれば、センサ検知タイミングの時間差と対応付けて調整ナット51の調整量(コレットチャック41の締付量)を設定することで、基準点の設定の如何によ
らず、最適な把持力の設定が可能となる。すなわち、チャックの把持力を適切に制御することが可能となり、加工精度の向上を図ることができる。
【0063】
また、本実施例によれば、直接的な取得(数値化)が困難なチャックの把持力を、別途の装置構成の追加を要することなく、工作機が従来から備える装置構成を用いて、より適切に取得することが可能となり、数値化することも可能となる。
【0064】
なお、本実施例で示した、主軸機構や、コレクトチャックやチャックスリーブ、チャック爪なのどのチャック開閉機構、該機構を動作させるアクチュエータ、開閉センサ等の具体構成は、あくまで一例である。すなわち、従来既知の他の構成を適宜採用してよい。
【符号の説明】
【0065】
1…工作機械、100…主軸機構、101…主軸、102…主軸台、103…駆動機構、2…基台、200…制御部、300…刃物台、301…切削工具、41…コレットチャック、43…チャックスリーブ、44…圧縮コイルばね、45…チャック開閉スリーブ、46…バランススリーブ、47…チャック爪、48…ボビン、60…アクチュエータ、W…ワーク