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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019948
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】シート状不織布
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/24 20060101AFI20240206BHJP
   D04H 1/435 20120101ALI20240206BHJP
【FI】
D21H13/24
D04H1/435
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122742
(22)【出願日】2022-08-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 大昭
(72)【発明者】
【氏名】豊田 純也
【テーマコード(参考)】
4L047
4L055
【Fターム(参考)】
4L047AA21
4L047AA27
4L047AB02
4L047AB07
4L047AB08
4L047BA21
4L047CA19
4L047CB01
4L047CB08
4L047CC08
4L055AF33
4L055AF47
4L055EA04
4L055EA07
4L055EA08
4L055EA12
4L055EA16
4L055FA11
4L055GA01
4L055GA42
(57)【要約】
【課題】坪量が低い傾向にありながら、二次加工性が良好なシート状不織布を有する工業用基材を提供する。
【解決手段】上記課題は、湿式不織布からなり、繊度が0.1d~3.3dで繊維長が3~10mmのポリエステル系短繊維の不織布であり、前記ポリエステル系短繊維が、芯鞘ポリエステル繊維と、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維のうち少なくとも一方とを含み、前記不織布の坪量が3~40g/m2、40枚重ねた状態での換算透気度が6.0秒以下、引張強度比[(MD方向の引張強度+CD方向の引張強度)/坪量]0.035kN/m/(g/m2)以上、であることで解決できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式不織布からなり、繊度が0.1d~3.3dで繊維長が3~10mmのポリエステル系短繊維の不織布であり、
前記ポリエステル系短繊維が、芯鞘ポリエステル繊維と、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維のうち少なくとも一方と、を含み、
前記不織布の坪量が3~40g/m2
40枚重ねた状態での換算透気度が6.0秒以下、
引張強度比[(MD方向の引張強度+CD方向の引張強度)/坪量]が0.035kN/m/(g/m2)以上、
であることを特徴とするシート状不織布を含む工業用基材。
【請求項2】
前記ポリエステル系短繊維が、芯鞘ポリエステル繊維と、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維を含む、請求項1記載のシート状不織布を含む工業用基材。
【請求項3】
前記芯鞘ポリエステル繊維の配合量が10質量%以上である、請求項1記載のシート状不織布を含む工業用基材。
【請求項4】
工業用基材の工業用途が電磁波シールド材である、請求項1~3のいずれか1項に記載のシート状不織布を含む工業用基材。
【請求項5】
工業用基材の工業用途が粘着シート材である、請求項1~3のいずれか1項に記載のシート状不織布を含む工業用基材。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状不織布を含む工業用基材に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波により電子機器が誤作動を起こさないようにするために、電磁波シールド材が使用されている。電磁波シールド材としては、ポリエステル系短繊維から形成される不織布を基材とし、これに金属めっき処理を施してなる電磁波シールド材用の基材が開示されている(特許文献1)。
【0003】
他方、ポリエステル系短繊維を抄造して、粘着用基材を得ることも知られている(特許文献2)。
【0004】
電子機器の高密度化、薄型化などに伴って、自動車分野などにおいても、電子制御化、安全性、コンパクト化などの要請によって、この種の工業用基材としても、薄いにもかかわらず、所要の強度を示し、また、めっき加工時のめっき高付着量、粘着加工時の粘着剤などの浸透性を含む二次加工適性及び以降の最終製品としての適性が良好であることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6669940号公報
【特許文献2】特許第6009843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって。本発明の主たる課題は、坪量が低い傾向にありながら、二次加工性が良好なシート状不織布を有する工業用基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決したシート状不織布を含む工業用基材は次の態様を有する。
湿式不織布からなり、繊度が0.1d~3.3dで繊維長が3~10mmのポリエステル系短繊維の不織布であり、
前記ポリエステル系短繊維が、芯鞘ポリエステル繊維と、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維のうち少なくとも一方と、を含み、
前記不織布の坪量が3~40g/m2
40枚重ねた状態での換算透気度が6.0秒以下、
引張強度比[(MD方向の引張強度+CD方向の引張強度)/坪量]が0.035kN/m/(g/m2)以上、
であることを特徴とするシート状不織布を含む工業用基材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、坪量が低い傾向にありながら、二次加工性が良好なシート状不織布を含む工業用基材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を実施の形態を説明しながら説明する。以下の実施の形態はあくまでも例示であり、本発明は請求項の記載によって明らかにされる。
【0010】
本発明のシート状不織布を含む工業用基材は、例えば、めっき加工後に粘着剤が塗布され、種々の形態で最終製品に貼付され組み込まれる実施態様(以下において「工業化形態」ということがある。)が見込まれる。その実施態様では、MD方向のみならず、それと対向するCD方向にもテンションがかかることが想定され、低坪量化にあたり、本発明者は単位坪量あたりのMD方向+CD方向の総合強度を一定以上値に高めることに着眼し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、不織布の製造法に基づく分類として、抄紙法に基づく湿式不織布を対象とする。
抄紙法の代表例としては、不織布の原材料となる短繊維を水中に均一に分散し、網上又はベルト間に注ぎ込み、ウェブを形成する。その後ロールで絞り、乾燥手段(ドライヤー)により乾燥して水分を蒸発させることで均一なシートを得る。その後に熱カレンダー処理により繊維間の定着性向上などを行う。この湿式法により湿式不織布は、薄膜化が容易であり、均一性、耐久性、強度、多孔性(空隙率)に優れた不織布である。
【0012】
湿式不織布は、その用途として、前述のように、電磁波シールド材の基材や、粘着テープの基材として用いられ、これらは共に薄い厚みでありながら高い(引張)強度が必要とされる場合が多いほか、前者においては、めっきが十分に定着すること、後者においては、粘着剤の浸透が十分になされることが必要となることが多い。また、電磁波シールド材ではめっき加工後に粘着剤を片面又は両面に塗布して使用されるため、電磁波シールド材用途でも粘着剤浸透性が求められる場合がある。
【0013】
一般的には使用する延伸繊維と未延伸のポリエステル繊維を組み合わせる。未延伸繊維のみを使用することで熱カレンダー処理時に繊維が潰れることで厚み調整し易く、延伸繊維の太さをコントロールすることで空隙率を調整することで薄い不織布を得る一般的でした。
しかし、未延伸のポリエステル繊維は高強度な不織布を得るために、熱カレンダー処理すると高い熱と圧力によって処理すると繊維が潰れてしまい、空隙率が低くなる傾向にあった。
【0014】
本発明に係る実施の形態においては、芯鞘ポリエステル繊維を必須成分としている。芯鞘ポリエステル繊維の芯部は融点(260℃程度)と高く、鞘部は融点(110~150℃程度)と低い。
その結果、通常は110℃を超える熱カレンダー処理によって、鞘部は融け、芯部は融けないため、繊維形状を担保でき、その結果として空隙率が高く、かつ強度の高い不織布を得ることができる。
【0015】
もって、実施の形態に係る湿式不織布は、電磁波シールド材や、粘着テープ又はシートなどの工業用基材として有用である。また、めっき加工を施した工業用基材に粘着加工した導電性シートの実施形態もとることができる。
【0016】
<ポリエステル系繊維>
本発明の態様において、ポリエステル系短繊維(以下、「ポリエステル繊維」ともいう。)が、芯鞘ポリエステル繊維と、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維のうち少なくとも一方とを含む。
したがって、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維のうち、一方を含む場合と、両者を含む場合とがある。これらは芯鞘構造との比較では単一構造の繊維ともいえる。なお、繊度のデシテックス(dtex)は、「d」という略称で示すこともある。
【0017】
実施の形態の材質に関し、ポリエステル系短繊維として、ポリエステル系である限り特に限定されるものではなく、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等のグリコール・ジカルボン酸重縮合系、ポリグリコール酸、ポリ乳酸等のポリラクチド類、ポリラクトン類等からなるポリエステル繊維を用いることができる。これらの中でも、耐熱性、耐候性等の諸機能面及び価格面のバランスが良好なポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0018】
延伸ポリエステル短繊維は、高い融点を持ち、0.06~8.0dと非常に太さのバリエーションが多い。延伸繊維を用いることで、湿式抄紙や熱カレンダー加工等の熱処理時に繊維が変形しないため、空隙率を高く維持することができ、繊維の組み合わせによって厚みをコントロールすることができる。
【0019】
未延伸ポリエステル繊維は、熱処理時に繊維が圧着されて繊維同士を結合させることができ、繊維が変形しやすいため厚みを下げるのには有利である。
逆に、未延伸ポリエステル繊維は熱処理時に潰れて隙間を詰めてしまうために、空隙率(通気性)が低くなる傾向があり、高強度を得るために未延伸繊維を高配合にする、あるいは高温・高圧で熱処理すると浸透性が損なわれ電磁波シールド材の基材や、粘着テープ用基材などの工業用基材での具体的な展開に限界がある。
【0020】
実施の形態に従って、芯部と熱可塑性の鞘部とを有する、芯鞘ポリエステル繊維をシート使用することの主たる利点を挙げると次のとおりである。
(1)芯鞘構造繊維は、熱によって外側の鞘部が融解して接着性を発揮する。このため芯鞘構造繊維は、抄紙工程において融着及び硬化することで繊維同士を強力に接着することができる。また、繊維の芯部が融けずに残るため、繊維形状、繊維間の空隙を保ちながら引張強度を向上させることができる。
【0021】
(2)シート厚が下がりにくく、比較的密度が低くなること。
隙間が多く存在するため、電磁波シールド材の基材とする場合においてめっきが内部まで浸透し易く、多量に塗膜できるため導電性能が向上する(特に無電解めっきでは隙間が大きくなり、浸透性が高くなり好まれる)。
【0022】
(3)強度について、芯鞘は融解して定着するため、軟化して圧着させる未延伸ポリエステル繊維よりも高い強度・繊維定着性が発現する。そのため、低米坪品種でも空隙率を維持した状態で抄紙が可能であり、高米坪品種でも熱処理温度を低く低密度な状態でも高強度を得ることが可能。
【0023】
(4)鞘部の融点が低いため、めっき後でも熱カレンダーで厚み調整が可能。
すなわち、めっき加工後に熱カレンダー加工を実施してユーザー希望の厚みに調整することが可能である。
【0024】
(5)芯鞘ポリエステル繊維は定着性が非常に良好であり、芯部の骨格となる部分があるため、延伸ポリエステル繊維が無くても抄紙可能である。
【0025】
(6)芯鞘繊維の鞘部融点が最低110℃と非常に低いため、熱カレンダー加工を行わなくても高強度シートを作ることが可能であり、繊維の脱毛も起こりにくい。熱カレンダー加工においても鞘部融点110℃以上から芯部融点以下260℃未満の非常に幅広い温度を選択して加工することが可能であり、密度や強度の調整をしやすいため、熱カレンダー加工することが好ましい。一般的に未延伸繊維は軟化温度150℃以上、融点は230~260℃であるため、150℃以上の温度が必要になり、圧着させて強度を上げるためにはより高い温度・圧力が必要になるため、空隙率が反比例して低下してしまう。また、熱カレンダー加工は、めっき加工した後に施すこともできる。
【0026】
実施の形態におけるポリエステル系短繊維として、繊度が0.1d~3.3d(d=dtex)で繊維長が3~10mmが好ましい。
ポリエステル系短繊維のうち同種のポリエステル繊維について、繊度及び繊維長のうち少なくとも一方について2種、又は3種以上異なるものを配合することができる。
【0027】
そのなかでも、未延伸ポリエステル繊維は、繊度が0.2d~1.4dで繊維長が3~5mmが特に好ましい。
延伸ポリエステル繊維は、繊度が0.1d~3.3dで繊維長が3~10mmが特に好ましい。
【0028】
これらに対し、芯鞘ポリエステル繊維は、繊度が0.2d~3.3dで繊維長が3~10mmが特に好ましい。さらに好ましいのは、繊度が1.1d~1.7dで繊維長が3~5mmの範囲内である。
芯鞘ポリエステル繊維が不織布の繊維構造、特に空隙率、通気性を支配的に定める傾向にある。
【0029】
芯鞘ポリエステル繊維、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維の配合割合は、次の範囲とすることができる。
[芯鞘ポリエステル繊維:延伸及び/又は未延伸ポリエステル繊維]=10:90~90:10が好ましく、特に30:70~60:40が望ましい。
未延伸ポリエステル繊維は0%~50%未満が好ましい。配合が高くなり過ぎると熱処理時に隙間を潰れて空隙率が下がる。ただ、未延伸ポリエステル繊維を配合することで、繊維シートの伸びや耐熱性が向上し、二次加工での加熱加工時に切れにくくなる。
【0030】
実施の形態の不織布の坪量は3.0~40.0g/m2、特に5.0~15.0g/m2が好ましい。低坪量の3.0~10.0g/m2のもののほか、高坪量の12.0~40.0g/m2のものも容易に製造できる。
厚みとしては、用途及び上記坪量との関係で適宜のものを使用できるが、例えば7~120μmのものを得ることができる。
【0031】
40枚重ねた状態での換算透気度としては、6.0秒以下が、特に2.0秒以下が好ましい。前記透気度の下限としては、0.10秒が好ましい。
【0032】
芯鞘ポリエステル繊維に関してさらに説明する。
前述のように、芯鞘ポリエステル繊維は、繊度が0.2d~3.3dで繊維長が3~10mmが特に好ましい。さらに好ましいのは、繊度が1.1d~1.7dで繊維長が3~5mmの範囲内である。
鞘構造繊維の繊度が上記範囲未満の場合、繊維間の空隙率が低くなり、めっき、又は粘着剤の浸透性が低下するおそれがある。逆に、芯鞘構造繊維の繊度が上記範囲を超える場合、繊維同士の絡みが少なくなり強度が低下する、あるいは抄紙性が悪くなり抄紙ができないおそれがある。
【0033】
芯鞘構造繊維の長さとしては、3mm以上10mm以下が好ましく、3mm以上5mm以下がさらに好ましい。芯鞘構造繊維の長さが上記範囲未満の場合、繊維が短くなることで引張強度が低下する。逆に、芯鞘構造繊維の長さが上記範囲を超える場合、水中での芯鞘構造繊維の分散が低下し、結束や地合不良による強度低下を起こす可能性がある。
【0034】
芯鞘構造繊維の鞘部の融点としては、110℃以上150℃以下が好ましい。鞘部の融点が上記範囲未満の場合、当該基材の抄紙時にドライヤーに繊維が貼付き、生産性が低下するおそれがある。逆に、鞘部の融点が上記範囲を超える場合、当該基材の抄紙時のドライヤー工程において鞘部が融解せず、繊維が接着されないため、基材が十分な引張強度を有さないおそれがある。
【0035】
また、芯鞘構造繊維の芯部は延伸繊維と同様の材質が用いられ、融点は230~260℃程度である。芯部の融点が上記範囲未満の場合、当該基材の熱処理工程で、芯鞘構造繊維全体が融解し、当該基材の引張強度が低下したり、基材がフィルム状になり繊維間の空隙が少なくなって粘着剤の浸透性が悪化するおそれがある。
【0036】
実施の形態において、湿式抄紙熱又はカレンダー処理によって熱融着することができる。熱乾燥又は熱カレンダー処理により、バインダー成分が熱溶融し、熱融着が生じる。
熱カレンダーの条件は以下に例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
熱カレンダー処理における熱ロールの温度は、110℃以上260℃以下が好ましい。熱ロールの温度が110℃未満の場合、繊維同士の接着が十分でなく強度が発現しないという問題が発生する場合がある。また、逆に、熱ロールの温度が260℃超である場合、熱カレンダーロールに湿式不織布が貼り付いてしまい、シートにならないという問題が発生する場合がある。
熱カレンダーの温度は、より好ましくは120℃以上230℃以下である。
【0038】
熱カレンダー処理を採用した場合の製造方法においては、熱カレンダー処理の加熱温度は、芯鞘ポリエステル繊維の鞘部の融点以上の温度~延伸・未延伸繊維の融点以下の条件でカレンダーを行う。
【0039】
強度を発現するために、熱カレンダー処理における圧力(線圧)は、好ましくは0~250kg/cmであり、さらに好ましくは80~200kg/cmである。圧力が250kg/cm超の場合、シートが潰れ過ぎてしまい、空隙率が低下してします。処理速度が5m/min以上であることで、作業効率が良好となる。処理速度が200m/min以下とすることで、湿式不織布に熱を伝導させ、熱融着の実効を得やすくなる。熱カレンダーのニップ回数は湿式不織布に熱を伝導することができれば特に限定するものではないが、金属製熱ロール/弾性ロールの組み合わせでは、湿式不織布の表裏から熱を伝導させるために2回以上ニップしても良い。
【0040】
実施の形態における基材は、原料の繊維として、芯鞘ポリエステル繊維と、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維のうち少なくとも一方とを含むものであるが、これら以外の繊維を原料として含有していてもよい。この繊維としては、ポリエステルの他に、例えばレーヨン、ポリビニルアルコール(ビニロン)、ナイロン、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル等の合成繊維や木材パルプ等の天然パルプ繊維を用いることができる。ポリエステル繊維以外の繊維の含有量としては、例えば40質量%以下、特に30質量%以下が好ましい。
【0041】
本明細書における定義は次のとおりである。
・「坪量(単位:g/m2)」とは、JIS-P8124に準拠して測定される値である。
・「繊度(単位:dtex)」とは、JIS-L1095に準拠して測定される値である。
・「厚み(単位:μm)」とは、JIS-P8118に準拠して測定される値である。
・「透気度(単位:秒)」とは、JIS-P8117に記載の方法で測定される値である。ただし、1枚での測定では測定時間が短くて測定不能であるため、40枚重ねで測定を実施する。
・「引張強度(単位:kN/m)」とは、JIS-P8113に準拠して測定される値である。
・「空隙率」とは、100-(密度/ポリエステル密度(=1.38))%で算出される値である。
【0042】
実施の形態における基材の前記透気度としては、6.0秒以下が好ましく、2.0秒以下がより好ましい。前記透気度の下限としては、0.10秒が好ましい。透気度が上記範囲以上の場合、通気性が悪く、めっきや粘着剤の浸透性が悪化するおそれがある。なお、透気度は、坪量の調整や、原料繊維の種類、繊度、配合量、カレンダー処理での温度、圧力などの調整により調節することができる。
【0043】
例えば既述の「工業化形態」への適用上、あるいは最終製品に至るまでのシート状不織布の製造工程での破断などを考えると、MD方向とCD方向の両方の引張強度が高く、引張強度比[(MD方向の引張強度+CD方向の引張強度)/坪量]0.035kN/m/(g/m2)以上が望ましく、特に0.040kN/m/(g/m2)以上、0.20kN/m/(g/m2)以下が望ましい。
例えば、引張強度比が0.035kN/m/(g/m2)未満である場合、加工適正が低下する。引張強度比が低いと、メッキ加工時のテンションで流れ方向だけでなく、幅方向にも収縮が発生して寸法変化を起こす可能性がある。また、既述の「工業化形態」におけるメッキ加工後に粘着剤と貼り合せて使用する際の寸法変化も抑える必要があり、縦、横の強度に加えて、所望の強度比が必要とされる。
【0044】
シート状不織布基材のMD方向(縦目方向)引張強度としては、0.15kN/m以上2.0kN/m以下が好ましく、0.20kN/m以上1.3kN/m以下がより好ましい。引張強度が上記範囲未満の場合、基材が伸びやすく、また断紙しやすくなり、加工性や取扱い性が低下する。逆に、基材の引張強度が上記範囲を超える場合、密度が高くなってしまい、めっき又は粘着剤の浸透性が低下するおそれがある。
【0045】
シート状不織布基材のCD方向(横目方向)引張強度としては、0.03kN/m以上1.8kN/m以下が好ましく、0.03kN/m以上1.8kN/m以下がより好ましい。引張強度が上記範囲未満の場合、メッキ加工や粘着剤の塗布工程中又は塗布後の使用時に寸法変化を起こす可能性がある。逆に、基材の引張強度が上記範囲を超える場合、基材が厚くなる、縦方向の強度が低下する恐れがある。横配向が想定強度以上の場合、米坪が過度に高くなり、紙厚が高くなる。また、繊維配向が横向きになっている原因も考えられ、縦方向の強度低下等が生じる可能性がある。
【0046】
なお、シート状不織布基材のMD方向(縦目方向)引張強度及びシート状不織布基材のCD方向(横目方向)引張強度は、坪量の調整や、原料繊維の種類、繊度、長さ、配合量の調整、カレンダー処理での温度、圧力などの調整により調節することができる。
【実施例0047】
以下、実施例によって本発明の効果をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
帝人フロンティア株式会社などから入手できるポリエステル繊維を、表1に示す配合の原材料を使用して湿式不織布を製造した。また、一部のものについて、表2に示す熱カレンダー温度での処理も行った。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例及び比較例において、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維の一方を使用しない例が含まれている。
比較例においては、芯鞘ポリエステル繊維を含まない例をもって本発明の効果を対比的に明らかにしている。
【0050】
各例について、表2に示す評価を行った。
電磁波シールド材用途を考慮して、無電解めっき法及び電気めっき法にNi/Cu系のめっきを実施し、そのめっきの浸透性に基づき電磁波シールド性を評価した。評価基準は次のとおりである。
(評価基準)
○:基材内部への浸透性や加工適正が高く、優れた電磁波シールド性能が得られると判断される。
△:基材内部への浸透性や加工適正がやや低く、電磁波シールド性が劣ると判断される。
×:基材内部への浸透性や加工適正が低く、電磁波シールド性能を満たさないと判断される。
【0051】
テープ用途以外に電磁波シールド材用途ではめっき液の浸透性と、粘着剤の浸透性についても求められる。電磁波シールド材の基材は湿式不織布基材にNi/Cu系のめっきを実施後、めっきした基材に粘着剤加工を行い、片面又は両面テープとして電子機器に貼り付けられ組み込まれる。粘着剤の浸透性評価によって相対的にめっきの浸透性評価にもなるため、下記の粘着剤による浸透性評価を実施した。
アクリル系粘着剤(日本合成化学工業株式会社製、品名:コーポニール5411)をフィルムに100μmの厚さで塗布し、このフィルムの粘着剤塗布面に上記めっき済基材を重ねて配設し、さらにこのめっき済基材の上記粘着剤塗布フィルムと反対側の面に粘着剤を塗布していないフィルムを重ねて配設し試験体を形成した。この試験体をガラス板で挟み、50kg/m2で圧着した後の試験体の厚みをマイクロメーターで測定し、粘着剤浸透性を以下の基準で評価した。
(評価基準)
浸透性=[加圧前試験体厚さ(上下2枚のフィルム厚さ+基材紙厚+粘着剤塗布厚さ)-加圧後試験体厚さ]/基材紙厚×100(%)
○:浸透性が40%以上。
△:浸透性が20%以上40%未満。
×:浸透性が20%未満。
【0052】
結果を表2に示す。なお、比較例6は抄紙ができなかった例を示している。
【表2】
【0053】
表2に結果によれば、実施例のものは、坪量が低い傾向にありながら、二次加工性が良好なシート状不織布を有する工業用基材となることが分かった。
【0054】
各実施例及び比較例は芯鞘PET繊維と、延伸PET・未延伸PET繊維の2又は3種類からなる繊維をパルパーに水中分散させ、濃度0.5~1.0%程度のスラリーに調整した。そのスラリーを湿式法(円網又は傾斜短網)で抄紙し、ヤンキードライヤー(約110~130℃)で乾燥させることで繊維同士を融着させた。そのシートを熱カレンダー加工で110~230℃、線圧80~200kg/cm、速度5~200m/分で処理し、工業用基材を得た。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の工業用基材は、シート状不織布を含むものであるが、通常は、シート状不織布を基本材料とし(すなわち主体とし)、これにめっき処理や粘着加工処理などを行い、必要によりさらに他の処理又は他の材料と組み合せて使用される。したがって、本発明の工業用基材は、シート状不織布そのもののほか、二次加工又は他の材料との組み合わせ品も含まれるものである。
【手続補正書】
【提出日】2022-10-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波により電子機器が誤作動を起こさないようにするために、電磁波シールド材が使用されている。電磁波シールド材としては、ポリエステル系短繊維から形成される不織布を基材とし、これに金属めっき処理を施してなる電磁波シールド材用の基材が開示されている(特許文献1)。
【0003】
他方、ポリエステル系短繊維を抄造して、粘着用基材を得ることも知られている(特許文献2)。
【0004】
電子機器の高密度化、薄型化などに伴って、自動車分野などにおいても、電子制御化、安全性、コンパクト化などの要請によって、この種の工業用基材としても、薄いにもかかわらず、所要の強度を示し、また、めっき加工時のめっき高付着量、粘着加工時の粘着剤などの浸透性を含む二次加工適性及び以降の最終製品としての適性が良好であることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6669940号公報
【特許文献2】特許第6009843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の主たる課題は、坪量が低い傾向にありながら、二次加工性が良好なシート状不織布を有する工業用基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決したシート状不織布は次の態様を有する。
湿式不織布からなり、繊度が0.1d~3.3dで繊維長が3~10mmのポリエステル系短繊維の不織布であり、
前記ポリエステル系短繊維が、芯鞘ポリエステル繊維と、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維と、を含み、
前記芯鞘ポリエステル繊維と、前記延伸ポリエステル繊維及び前記未延伸ポリエステル繊維と、の質量配合割合が、10:90~90:10であり、
前記不織布の坪量が3~40g/m
40枚重ねた状態での換算透気度が6.0秒以下、
引張強度比[(MD方向の引張強度+CD方向の引張強度)/坪量]が0.035kN/m/(g/m)以上、
であることを特徴とするシート状不織布
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、坪量が低い傾向にありながら、二次加工性が良好なシート状不織布を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を実施の形態を説明しながら説明する。以下の実施の形態はあくまでも例示であり、本発明は請求項の記載によって明らかにされる。
【0010】
本発明のシート状不織布は、例えば、めっき加工後に粘着剤が塗布され、種々の形態で最終製品に貼付され組み込まれる実施態様(以下において「工業化形態」ということがある。)が見込まれる。その実施態様では、MD方向のみならず、それと対向するCD方向にもテンションがかかることが想定され、低坪量化にあたり、本発明者は単位坪量あたりのMD方向+CD方向の総合強度を一定以上値に高めることに着眼し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、不織布の製造法に基づく分類として、抄紙法に基づく湿式不織布を対象とする。
抄紙法の代表例としては、不織布の原材料となる短繊維を水中に均一に分散し、網上又はベルト間に注ぎ込み、ウェブを形成する。その後ロールで絞り、乾燥手段(ドライヤー)により乾燥して水分を蒸発させることで均一なシートを得る。その後に熱カレンダー処理により繊維間の定着性向上などを行う。この湿式法により湿式不織布は、薄膜化が容易であり、均一性、耐久性、強度、多孔性(空隙率)に優れた不織布である。
【0012】
湿式不織布は、その用途として、前述のように、電磁波シールド材の基材や、粘着テープの基材として用いられ、これらは共に薄い厚みでありながら高い(引張)強度が必要とされる場合が多いほか、前者においては、めっきが十分に定着すること、後者においては、粘着剤の浸透が十分になされることが必要となることが多い。また、電磁波シールド材ではめっき加工後に粘着剤を片面又は両面に塗布して使用されるため、電磁波シールド材用途でも粘着剤浸透性が求められる場合がある。
【0013】
一般的には使用する延伸繊維と未延伸のポリエステル繊維を組み合わせる。未延伸繊維のみを使用することで熱カレンダー処理時に繊維が潰れることで厚み調整し易く、延伸繊維の太さをコントロールすることで空隙率を調整することで薄い不織布を得る一般的でした。
しかし、未延伸のポリエステル繊維は高強度な不織布を得るために、熱カレンダー処理すると高い熱と圧力によって処理すると繊維が潰れてしまい、空隙率が低くなる傾向にあった。
【0014】
本発明に係る実施の形態においては、芯鞘ポリエステル繊維を必須成分としている。芯鞘ポリエステル繊維の芯部は融点(260℃程度)と高く、鞘部は融点(110~150℃程度)と低い。
その結果、通常は110℃を超える熱カレンダー処理によって、鞘部は融け、芯部は融けないため、繊維形状を担保でき、その結果として空隙率が高く、かつ強度の高い不織布を得ることができる。
【0015】
もって、実施の形態に係る湿式不織布は、電磁波シールド材や、粘着テープ又はシートなどの工業用基材として有用である。また、めっき加工を施した工業用基材に粘着加工した導電性シートの実施形態もとることができる。
【0016】
<ポリエステル系繊維>
本発明の態様において、ポリエステル系短繊維(以下、「ポリエステル繊維」ともいう。)が、芯鞘ポリエステル繊維と、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維のうち少なくとも一方とを含む。
したがって、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維のうち、一方を含む場合と、両者を含む場合とがある。これらは芯鞘構造との比較では単一構造の繊維ともいえる。なお、繊度のデシテックス(dtex)は、「d」という略称で示すこともある。
【0017】
実施の形態の材質に関し、ポリエステル系短繊維として、ポリエステル系である限り特に限定されるものではなく、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等のグリコール・ジカルボン酸重縮合系、ポリグリコール酸、ポリ乳酸等のポリラクチド類、ポリラクトン類等からなるポリエステル繊維を用いることができる。これらの中でも、耐熱性、耐候性等の諸機能面及び価格面のバランスが良好なポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0018】
延伸ポリエステル短繊維は、高い融点を持ち、0.06~8.0dと非常に太さのバリエーションが多い。延伸繊維を用いることで、湿式抄紙や熱カレンダー加工等の熱処理時に繊維が変形しないため、空隙率を高く維持することができ、繊維の組み合わせによって厚みをコントロールすることができる。
【0019】
未延伸ポリエステル繊維は、熱処理時に繊維が圧着されて繊維同士を結合させることができ、繊維が変形しやすいため厚みを下げるのには有利である。
逆に、未延伸ポリエステル繊維は熱処理時に潰れて隙間を詰めてしまうために、空隙率(通気性)が低くなる傾向があり、高強度を得るために未延伸繊維を高配合にする、あるいは高温・高圧で熱処理すると浸透性が損なわれ電磁波シールド材の基材や、粘着テープ用基材などの工業用基材での具体的な展開に限界がある。
【0020】
実施の形態に従って、芯部と熱可塑性の鞘部とを有する、芯鞘ポリエステル繊維をシート使用することの主たる利点を挙げると次のとおりである。
(1)芯鞘構造繊維は、熱によって外側の鞘部が融解して接着性を発揮する。このため芯鞘構造繊維は、抄紙工程において融着及び硬化することで繊維同士を強力に接着することができる。また、繊維の芯部が融けずに残るため、繊維形状、繊維間の空隙を保ちながら引張強度を向上させることができる。
【0021】
(2)シート厚が下がりにくく、比較的密度が低くなること。
隙間が多く存在するため、電磁波シールド材の基材とする場合においてめっきが内部まで浸透し易く、多量に塗膜できるため導電性能が向上する(特に無電解めっきでは隙間が大きくなり、浸透性が高くなり好まれる)。
【0022】
(3)強度について、芯鞘は融解して定着するため、軟化して圧着させる未延伸ポリエステル繊維よりも高い強度・繊維定着性が発現する。そのため、低米坪品種でも空隙率を維持した状態で抄紙が可能であり、高米坪品種でも熱処理温度を低く低密度な状態でも高強度を得ることが可能。
【0023】
(4)鞘部の融点が低いため、めっき後でも熱カレンダーで厚み調整が可能。
すなわち、めっき加工後に熱カレンダー加工を実施してユーザー希望の厚みに調整することが可能である。
【0024】
(5)芯鞘ポリエステル繊維は定着性が非常に良好であり、芯部の骨格となる部分があるため、延伸ポリエステル繊維が無くても抄紙可能である。
【0025】
(6)芯鞘繊維の鞘部融点が最低110℃と非常に低いため、熱カレンダー加工を行わなくても高強度シートを作ることが可能であり、繊維の脱毛も起こりにくい。熱カレンダー加工においても鞘部融点110℃以上から芯部融点以下260℃未満の非常に幅広い温度を選択して加工することが可能であり、密度や強度の調整をしやすいため、熱カレンダー加工することが好ましい。一般的に未延伸繊維は軟化温度150℃以上、融点は230~260℃であるため、150℃以上の温度が必要になり、圧着させて強度を上げるためにはより高い温度・圧力が必要になるため、空隙率が反比例して低下してしまう。また、熱カレンダー加工は、めっき加工した後に施すこともできる。
【0026】
実施の形態におけるポリエステル系短繊維として、繊度が0.1d~3.3d(d=dtex)で繊維長が3~10mmが好ましい。
ポリエステル系短繊維のうち同種のポリエステル繊維について、繊度及び繊維長のうち少なくとも一方について2種、又は3種以上異なるものを配合することができる。
【0027】
そのなかでも、未延伸ポリエステル繊維は、繊度が0.2d~1.4dで繊維長が3~5mmが特に好ましい。
延伸ポリエステル繊維は、繊度が0.1d~3.3dで繊維長が3~10mmが特に好ましい。
【0028】
これらに対し、芯鞘ポリエステル繊維は、繊度が0.2d~3.3dで繊維長が3~10mmが特に好ましい。さらに好ましいのは、繊度が1.1d~1.7dで繊維長が3~5mmの範囲内である。
芯鞘ポリエステル繊維が不織布の繊維構造、特に空隙率、通気性を支配的に定める傾向にある。
【0029】
芯鞘ポリエステル繊維、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維の配合割合は、次の範囲とすることができる。
[芯鞘ポリエステル繊維:延伸及び/又は未延伸ポリエステル繊維]=10:90~90:10が好ましく、特に30:70~60:40が望ましい。
未延伸ポリエステル繊維は0%~50%未満が好ましい。配合が高くなり過ぎると熱処理時に隙間を潰れて空隙率が下がる。ただ、未延伸ポリエステル繊維を配合することで、繊維シートの伸びや耐熱性が向上し、二次加工での加熱加工時に切れにくくなる。
【0030】
実施の形態の不織布の坪量は3.0~40.0g/m、特に5.0~15.0g/mが好ましい。低坪量の3.0~10.0g/mのもののほか、高坪量の12.0~40.0g/mのものも容易に製造できる。
厚みとしては、用途及び上記坪量との関係で適宜のものを使用できるが、例えば7~120μmのものを得ることができる。
【0031】
40枚重ねた状態での換算透気度としては、6.0秒以下が、特に2.0秒以下が好ましい。前記透気度の下限としては、0.10秒が好ましい。
【0032】
芯鞘ポリエステル繊維に関してさらに説明する。
前述のように、芯鞘ポリエステル繊維は、繊度が0.2d~3.3dで繊維長が3~10mmが特に好ましい。さらに好ましいのは、繊度が1.1d~1.7dで繊維長が3~5mmの範囲内である。
鞘構造繊維の繊度が上記範囲未満の場合、繊維間の空隙率が低くなり、めっき、又は粘着剤の浸透性が低下するおそれがある。逆に、芯鞘構造繊維の繊度が上記範囲を超える場合、繊維同士の絡みが少なくなり強度が低下する、あるいは抄紙性が悪くなり抄紙ができないおそれがある。
【0033】
芯鞘構造繊維の長さとしては、3mm以上10mm以下が好ましく、3mm以上5mm以下がさらに好ましい。芯鞘構造繊維の長さが上記範囲未満の場合、繊維が短くなることで引張強度が低下する。逆に、芯鞘構造繊維の長さが上記範囲を超える場合、水中での芯鞘構造繊維の分散が低下し、結束や地合不良による強度低下を起こす可能性がある。
【0034】
芯鞘構造繊維の鞘部の融点としては、110℃以上150℃以下が好ましい。鞘部の融点が上記範囲未満の場合、当該基材の抄紙時にドライヤーに繊維が貼付き、生産性が低下するおそれがある。逆に、鞘部の融点が上記範囲を超える場合、当該基材の抄紙時のドライヤー工程において鞘部が融解せず、繊維が接着されないため、基材が十分な引張強度を有さないおそれがある。
【0035】
また、芯鞘構造繊維の芯部は延伸繊維と同様の材質が用いられ、融点は230~260℃程度である。芯部の融点が上記範囲未満の場合、当該基材の熱処理工程で、芯鞘構造繊維全体が融解し、当該基材の引張強度が低下したり、基材がフィルム状になり繊維間の空隙が少なくなって粘着剤の浸透性が悪化するおそれがある。
【0036】
実施の形態において、湿式抄紙熱又はカレンダー処理によって熱融着することができる。熱乾燥又は熱カレンダー処理により、バインダー成分が熱溶融し、熱融着が生じる。
熱カレンダーの条件は以下に例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
熱カレンダー処理における熱ロールの温度は、110℃以上260℃以下が好ましい。熱ロールの温度が110℃未満の場合、繊維同士の接着が十分でなく強度が発現しないという問題が発生する場合がある。また、逆に、熱ロールの温度が260℃超である場合、熱カレンダーロールに湿式不織布が貼り付いてしまい、シートにならないという問題が発生する場合がある。
熱カレンダーの温度は、より好ましくは120℃以上230℃以下である。
【0038】
熱カレンダー処理を採用した場合の製造方法においては、熱カレンダー処理の加熱温度は、芯鞘ポリエステル繊維の鞘部の融点以上の温度~延伸・未延伸繊維の融点以下の条件でカレンダーを行う。
【0039】
強度を発現するために、熱カレンダー処理における圧力(線圧)は、好ましくは0~250kg/cmであり、さらに好ましくは80~200kg/cmである。圧力が250kg/cm超の場合、シートが潰れ過ぎてしまい、空隙率が低下する。処理速度が5m/min以上であることで、作業効率が良好となる。処理速度が200m/min以下とすることで、湿式不織布に熱を伝導させ、熱融着の実効を得やすくなる。熱カレンダーのニップ回数は湿式不織布に熱を伝導することができれば特に限定するものではないが、金属製熱ロール/弾性ロールの組み合わせでは、湿式不織布の表裏から熱を伝導させるために2回以上ニップしても良い。
【0040】
実施の形態における基材は、原料の繊維として、芯鞘ポリエステル繊維と、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維のうち少なくとも一方とを含むものであるが、これら以外の繊維を原料として含有していてもよい。この繊維としては、ポリエステルの他に、例えばレーヨン、ポリビニルアルコール(ビニロン)、ナイロン、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル等の合成繊維や木材パルプ等の天然パルプ繊維を用いることができる。ポリエステル繊維以外の繊維の含有量としては、例えば40質量%以下、特に30質量%以下が好ましい。
【0041】
本明細書における定義は次のとおりである。
・「坪量(単位:g/m)」とは、JIS-P8124に準拠して測定される値である。
・「繊度(単位:dtex)」とは、JIS-L1095に準拠して測定される値である。
・「厚み(単位:μm)」とは、JIS-P8118に準拠して測定される値である。
・「透気度(単位:秒)」とは、JIS-P8117に記載の方法で測定される値である。ただし、1枚での測定では測定時間が短くて測定不能であるため、40枚重ねで測定を実施する。
・「引張強度(単位:kN/m)」とは、JIS-P8113に準拠して測定される値である。
・「空隙率」とは、100-(密度/ポリエステル密度(=1.38))%で算出される値である。
【0042】
実施の形態における基材の前記透気度としては、6.0秒以下が好ましく、2.0秒以下がより好ましい。前記透気度の下限としては、0.10秒が好ましい。透気度が上記範囲以上の場合、通気性が悪く、めっきや粘着剤の浸透性が悪化するおそれがある。なお、透気度は、坪量の調整や、原料繊維の種類、繊度、配合量、カレンダー処理での温度、圧力などの調整により調節することができる。
【0043】
例えば既述の「工業化形態」への適用上、あるいは最終製品に至るまでのシート状不織布の製造工程での破断などを考えると、MD方向とCD方向の両方の引張強度が高く、引張強度比[(MD方向の引張強度+CD方向の引張強度)/坪量]0.035kN/m/(g/m)以上が望ましく、特に0.040kN/m/(g/m)以上、0.20kN/m/(g/m)以下が望ましい。
例えば、引張強度比が0.035kN/m/(g/m)未満である場合、加工適正が低下する。引張強度比が低いと、メッキ加工時のテンションで流れ方向だけでなく、幅方向にも収縮が発生して寸法変化を起こす可能性がある。また、既述の「工業化形態」におけるメッキ加工後に粘着剤と貼り合せて使用する際の寸法変化も抑える必要があり、縦、横の強度に加えて、所望の強度比が必要とされる。
【0044】
シート状不織布基材のMD方向(縦目方向)引張強度としては、0.15kN/m以上2.0kN/m以下が好ましく、0.20kN/m以上1.3kN/m以下がより好ましい。引張強度が上記範囲未満の場合、基材が伸びやすく、また断紙しやすくなり、加工性や取扱い性が低下する。逆に、基材の引張強度が上記範囲を超える場合、密度が高くなってしまい、めっき又は粘着剤の浸透性が低下するおそれがある。
【0045】
シート状不織布基材のCD方向(横目方向)引張強度としては、0.03kN/m以上1.8kN/m以下が好ましく、0.03kN/m以上1.8kN/m以下がより好ましい。引張強度が上記範囲未満の場合、メッキ加工や粘着剤の塗布工程中又は塗布後の使用時に寸法変化を起こす可能性がある。逆に、基材の引張強度が上記範囲を超える場合、基材が厚くなる、縦方向の強度が低下する恐れがある。横配向が想定強度以上の場合、米坪が過度に高くなり、紙厚が高くなる。また、繊維配向が横向きになっている原因も考えられ、縦方向の強度低下等が生じる可能性がある。
【0046】
なお、シート状不織布基材のMD方向(縦目方向)引張強度及びシート状不織布基材のCD方向(横目方向)引張強度は、坪量の調整や、原料繊維の種類、繊度、長さ、配合量の調整、カレンダー処理での温度、圧力などの調整により調節することができる。
【実施例0047】
以下、実施例によって本発明の効果をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
帝人フロンティア株式会社などから入手できるポリエステル繊維を、表1に示す配合の原材料を使用して湿式不織布を製造した。また、一部のものについて、表2に示す熱カレンダー温度での処理も行った。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例及び比較例において、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維の一方を使用しない例が含まれている。
比較例においては、芯鞘ポリエステル繊維を含まない例をもって本発明の効果を対比的に明らかにしている。
【0050】
各例について、表2に示す評価を行った。
電磁波シールド材用途を考慮して、無電解めっき法及び電気めっき法にNi/Cu系のめっきを実施し、そのめっきの浸透性に基づき電磁波シールド性を評価した。評価基準は次のとおりである。
(評価基準)
○:基材内部への浸透性や加工適正が高く、優れた電磁波シールド性能が得られると判断される。
△:基材内部への浸透性や加工適正がやや低く、電磁波シールド性が劣ると判断される。
×:基材内部への浸透性や加工適正が低く、電磁波シールド性能を満たさないと判断される。
【0051】
テープ用途以外に電磁波シールド材用途ではめっき液の浸透性と、粘着剤の浸透性についても求められる。電磁波シールド材の基材は湿式不織布基材にNi/Cu系のめっきを実施後、めっきした基材に粘着剤加工を行い、片面又は両面テープとして電子機器に貼り付けられ組み込まれる。粘着剤の浸透性評価によって相対的にめっきの浸透性評価にもなるため、下記の粘着剤による浸透性評価を実施した。
アクリル系粘着剤(日本合成化学工業株式会社製、品名:コーポニール5411)をフィルムに100μmの厚さで塗布し、このフィルムの粘着剤塗布面に上記めっき済基材を重ねて配設し、さらにこのめっき済基材の上記粘着剤塗布フィルムと反対側の面に粘着剤を塗布していないフィルムを重ねて配設し試験体を形成した。この試験体をガラス板で挟み、50kg/mで圧着した後の試験体の厚みをマイクロメーターで測定し、粘着剤浸透性を以下の基準で評価した。
(評価基準)
浸透性=[加圧前試験体厚さ(上下2枚のフィルム厚さ+基材紙厚+粘着剤塗布厚さ)-加圧後試験体厚さ]/基材紙厚×100(%)
○:浸透性が40%以上。
△:浸透性が20%以上40%未満。
×:浸透性が20%未満。
【0052】
結果を表2に示す。なお、比較例6は抄紙ができなかった例を示している。
【表2】
【0053】
表2に結果によれば、実施例のものは、坪量が低い傾向にありながら、二次加工性が良好なシート状不織布を有する工業用基材となることが分かった。
【0054】
各実施例及び比較例は芯鞘PET繊維と、延伸PET・未延伸PET繊維の2又は3種類からなる繊維をパルパーに水中分散させ、濃度0.5~1.0%程度のスラリーに調整した。そのスラリーを湿式法(円網又は傾斜短網)で抄紙し、ヤンキードライヤー(約110~130℃)で乾燥させることで繊維同士を融着させた。そのシートを熱カレンダー加工で110~230℃、線圧80~200kg/cm、速度5~200m/分で処理し、工業用基材を得た。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明はシート状不織布を含むものであるが、通常は、シート状不織布を基本材料とし(すなわち主体とし)、これにめっき処理や粘着加工処理などを行い、必要によりさらに他の処理又は他の材料と組み合せて使用される。したがって、本発明は、シート状不織布そのもののほか、二次加工又は他の材料との組み合わせ品も含まれるものである。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式不織布からなり、繊度が0.1d~3.3dで繊維長が3~10mmのポリエステル系短繊維の不織布であり、
前記ポリエステル系短繊維が、芯鞘ポリエステル繊維と、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維と、から構成され
前記芯鞘ポリエステル繊維と、前記延伸ポリエステル繊維及び前記未延伸ポリエステル繊維と、の質量配合割合が、10:90~90:10であり、
前記不織布の坪量が3~40g/m
40枚重ねた状態での換算透気度が6.0秒以下、
引張強度比[(MD方向の引張強度+CD方向の引張強度)/坪量]が0.035kN/m/(g/m)以上、
であることを特徴とするシート状不織布
【請求項2】
前記芯鞘ポリエステル繊維の配合量が10質量%以上である、請求項1記載のシート状不織布
【請求項3】
シート状不織布が電磁波シールド材用途とされる、請求項1又は2記載のシート状不織布
【請求項4】
シート状不織布が粘着シート材用途とされる、請求項1又は2記載のシート状不織布


【手続補正書】
【提出日】2023-01-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0048
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0048】
【表1】
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0052
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0052】
結果を表2に示す。なお、比較例6は抄紙ができなかった例を示している。
【表2】
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式不織布からなり、繊度が0.1d~3.3dで繊維長が3~10mmのポリエステル系短繊維の不織布であり、
前記ポリエステル系短繊維が、芯鞘ポリエステル繊維と、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維と、から構成され、
前記芯鞘ポリエステル繊維と、前記延伸ポリエステル繊維及び前記未延伸ポリエステル繊維と、の質量配合割合が、10:90~90:10であり、
前記不織布の坪量が3~40g/m
40枚重ねた状態での換算透気度が6.0秒以下、
引張強度比[(MD方向の引張強度+CD方向の引張強度)/坪量]が0.035kN/m/(g/m)以上、
であり、
電磁波シールド材用途とされる、
ことを特徴とするシート状不織布。
【請求項2】
湿式不織布からなり、繊度が0.1d~3.3dで繊維長が3~10mmのポリエステル系短繊維の不織布であり、
前記ポリエステル系短繊維が、芯鞘ポリエステル繊維と、延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維と、から構成され、
前記芯鞘ポリエステル繊維と、前記延伸ポリエステル繊維及び前記未延伸ポリエステル繊維と、の質量配合割合が、10:90~90:10であり、
前記不織布の坪量が3~40g/m
40枚重ねた状態での換算透気度が6.0秒以下、
引張強度比[(MD方向の引張強度+CD方向の引張強度)/坪量]が0.035kN/m/(g/m)以上、
であり、
粘着シート材用途とされる、
ことを特徴とするシート状不織布。
【請求項3】
前記芯鞘ポリエステル繊維の配合量が10質量%以上である、請求項1又は2記載のシート状不織布。