IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋アルミニウム株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-隠蔽力評価方法 図1
  • 特開-隠蔽力評価方法 図2
  • 特開-隠蔽力評価方法 図3
  • 特開-隠蔽力評価方法 図4
  • 特開-隠蔽力評価方法 図5
  • 特開-隠蔽力評価方法 図6
  • 特開-隠蔽力評価方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019959
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】隠蔽力評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/59 20060101AFI20240206BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240206BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240206BHJP
【FI】
G01N21/59 M
C09D201/00
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122763
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】速見 一輝
【テーマコード(参考)】
2G059
4J038
【Fターム(参考)】
2G059AA02
2G059BB20
2G059DD01
2G059EE01
2G059FF08
2G059MM01
2G059MM05
4J038BA081
4J038HA066
4J038KA08
(57)【要約】
【課題】より簡易な隠蔽力の評価方法を提供する。
【解決手段】隠蔽力評価方法は、隠蔽力評価対象の粒子を含む粒子含有体の隠蔽力を評価する方法であって、粒子含有体と基材の電磁波の透過量(I)と、粒子を含まないことを除いて粒子含有体と同一の組成である非粒子含有体と基材との電磁波の透過量(I)とに基づいて、下記式(1)によって電磁波の吸収度(Abs)を算出する工程を含む。
式(1) Abs=-log(I/I
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隠蔽力評価対象の粒子を含む粒子含有体の隠蔽力を評価する方法であって、
前記粒子含有体と基材の電磁波の透過量(I)と、前記粒子を含まないことを除いて前記粒子含有体と同一の組成である非粒子含有体と基材との電磁波の透過量(I)とに基づいて、下記式(1)によって電磁波の吸収度(Abs)を算出する工程を含む、隠蔽力評価方法。
式(1) Abs=-log(I/I
【請求項2】
(前記吸収度(Abs))/(前記粒子含有体の前記粒子の濃度(C))の値を算出する工程を含む、請求項1に記載の隠蔽力評価方法。
【請求項3】
下記式(2)によって、前記粒子含有体の電磁波の前記吸収度(Abs)、前記粒子の濃度(C)および前記粒子の電磁波の吸収係数(ε)に基づいて、所望の隠蔽力を有する前記粒子含有体の厚み(L)を算出する工程を含む、請求項1に記載の隠蔽力評価方法。
式(2) L=Abs/(ε×C)
【請求項4】
下記式(3)によって、前記粒子含有体の電磁波の吸収度(Abs)、前記粒子含有体の厚み(L)および前記粒子の電磁波の吸収係数(ε)に基づいて、所望の隠蔽力を有する前記粒子含有体の前記粒子の濃度(C)を算出する工程を含む、請求項1に記載の隠蔽力評価方法。
式(3) C=Abs/(ε×L)
【請求項5】
所望の隠蔽力を有する前記粒子含有体の電磁波の吸収度(Abs)と、粒子として第1の粒子のみを含む第1の粒子含有体の電磁波の吸収度(Abs)と、粒子として第2の粒子のみを含む第2の粒子含有体の電磁波の吸収度(Abs)とに基づいて、下記式(4)によって、前記所望の隠蔽力を有する前記第1の粒子と前記第2の粒子を含む混合粒子含有体中の前記第1の粒子の重量割合(X)と前記第2の粒子の重量割合(1-X)を算出する工程を含む、請求項1に記載の隠蔽力評価方法。
式(4) Abs×X+Abs×(1-X)=Abs (0≦X≦1)
【請求項6】
前記粒子は、前記基材上に形成された塗膜中に含まれている、または、前記基材中に練り込まれている、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の隠蔽力評価方法。
【請求項7】
前記粒子は顔料である、請求項6に記載の隠蔽力評価方法。
【請求項8】
前記電磁波は可視光である、請求項7に記載の隠蔽力評価方法。
【請求項9】
前記粒子は電磁波遮蔽性能を有する粒子であり、前記隠蔽力は電磁波遮蔽力である、請求項6に記載の隠蔽力評価方法。
【請求項10】
前記電磁波は、可視光以外の電磁波であり、前記隠蔽力は電磁波遮蔽力である、請求項9に記載の隠蔽力評価方法。
【請求項11】
請求項6に記載の隠蔽力評価方法によって絶対隠蔽力または相対隠蔽力を規定する工程と、前記絶対隠蔽力または前記相対隠蔽力に基づいて製品の品質管理を行う工程を含む、製品の品質管理方法。
【請求項12】
請求項6に記載の隠蔽力評価方法によって絶対隠蔽力または相対隠蔽力を規定する工程と、前記絶対隠蔽力または前記相対隠蔽力に基づいて製品の品質保証を行う工程を含む、製品の品質保証方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には粒子を含む粒子含有体の隠蔽力を評価する方法に関し、特定的には、粒子として顔料を用いた塗膜の隠蔽力の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、顔料など粒子を含む塗膜の隠蔽力の評価が行われている。例えば、塗料により下地の色が隠蔽される程度(隠蔽力)の測定は、JIS K 5600-4-1:1999K(ISO/FDIS 6504-3:1998)にあるように、白と黒の下地の上に塗料を塗布し、乾燥させた塗板の三刺激値を実測して求めることができる。
【0003】
また、金属効果顔料は光を透過させないため、隠蔽力は塗膜表面を金属効果顔料が覆う面積に依存すると考えられる。そのため、JIS K 5906:1998(非特許文献2)で定められている水面拡散面積(WCA)が、金属効果顔料を使用した塗膜の隠蔽力を表す指標として用いられている。
【0004】
塗膜の隠蔽力は、塗料中の顔料濃度または塗膜膜厚の調整と隠蔽力の目視評価を繰り返すことで調整される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JIS K 5600-4-1:1999K(ISO/FDIS 6504-3:1998)
【非特許文献2】JIS K 5906:1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1の方法では専用の隠蔽力試験紙を用いた塗紙が必要となる。
【0007】
非特許文献2の方法では、水に浮かない顔料には適用できない。また、手間がかかる。
【0008】
従来の隠蔽力調整の技術では、個々の顔料に対して塗料作成方法を準備しなければならず、効率が悪い。また、新規顔料に対しては、塗料作成方法の調査を行う必要がある。
【0009】
色調に関しては、Hunter 1948 (L、a、b)色空間やCIE 1976 (L、a、b)色空間、Glossといった各種測定方法があり、標準値との比較は可能であるものの、隠蔽力は依然として標準サンプルとの比較による相対評価が主流である。
【0010】
本発明は、白黒の隠蔽力試験紙を用いることなく、アート紙(塗工紙)やPETフィルムといった品質確認のための色調評価に供した塗板、塗紙の可視光透過強度を測定することで隠蔽力の絶対的評価および相対的評価を行うことができれば、評価に要する時間と使用する塗料量を削減できる。
【0011】
そこで、本発明の目的は、より簡易な隠蔽力の評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、実施例において詳述するように、本発明者らは、顔料を含む塗膜と顔料を含まない塗膜の光の透過量の比に基づいて求められる吸光度が水面拡散面積(WCA)と比例関係にあることを見出した。すなわち、本発明によれば、基材として特殊な試験紙を用いることなく、塗膜の吸光度を測定するだけで、塗膜の隠蔽力を評価することができる。また、本発明によれば、WCAを求めることができない水に浮かない顔料でも、WCAに比例する値を求めて隠蔽力を評価することができる。さらに本発明の評価方法は、顔料が基材上に形成された塗膜中に含まれる場合だけでなく、基材の中に練り込まれている場合にも隠蔽力を評価できることがわかった。さらにまた、可視光以外の電磁波の吸収度を測定することで、電磁波の遮蔽力を評価することができることも見出した。本発明者らの以上の見地に基づいて、本発明の隠蔽力評価方法、品質管理方法および品質保証方法は以下の構成を備える。
【0013】
本発明に従った隠蔽力評価方法は、隠蔽力評価対象の粒子を含む粒子含有体の隠蔽力を評価する方法であって、粒子含有体と基材の電磁波の透過量(I)と、粒子を含まないことを除いて粒子含有体と同一の組成である非粒子含有体と基材との電磁波の透過量(I)とに基づいて、下記式(1)によって電磁波の吸収度(Abs)を算出する工程を含む。
式(1) Abs=-log(I/I
【0014】
このようにすることにより、基材として隠蔽力試験紙を用いる必要がなくなる。また、より簡易な隠蔽力の評価方法を提供することができる。
【0015】
なお、以下、電磁波の吸収度(Abs)は、電磁波が可視光である場合には吸光度(Abs)と称する場合もある。
【0016】
本発明に従った隠蔽力評価方法は、(吸収度(Abs))/(粒子含有体の粒子の濃度(C))の値を算出する工程を含むことが好ましい。
【0017】
本発明に従った隠蔽力評価方法は、下記式(2)によって、粒子含有体の電磁波の吸収度(Abs)、粒子の濃度(C)および粒子の電磁波の吸収係数(ε)に基づいて、所望の隠蔽力を有する粒子含有体の厚み(L)を算出する工程を含むことが好ましい。
式(2) L=Abs/(ε×C)
【0018】
本発明に従った隠蔽力評価方法は、下記式(3)によって、粒子含有体の電磁波の吸収度(Abs)、粒子含有体の厚み(L)および粒子の電磁波の吸収係数(ε)に基づいて、所望の隠蔽力を有する粒子含有体の粒子の濃度(C)を算出する工程を含むことが好ましい。
式(3) C=Abs/(ε×L)
【0019】
本発明に従った隠蔽力評価方法は、所望の隠蔽力を有する粒子含有体の電磁波の吸収度(Abs)と、粒子として第1の粒子のみを含む第1の粒子含有体の電磁波の吸収度(Abs)と、粒子として第2の粒子のみを含む第2の粒子含有体の電磁波の吸収度(Abs)とに基づいて、下記式(4)によって、所望の隠蔽力を有する第1の粒子と第2の粒子を含む混合粒子含有体中の第1の粒子の重量割合(X)と第2の粒子の重量割合(1-X)を算出する工程を含むことが好ましい。
式(4) Abs×X+Abs×(1-X)=Abs (0≦X≦1)
【0020】
本発明に従った隠蔽力評価方法においては、粒子は、基材上に形成された塗膜中に含まれている、または、基材中に練り込まれていることが好ましい。
【0021】
本発明に従った隠蔽力評価方法においては、粒子は顔料であることが好ましい。
【0022】
本発明に従った隠蔽力評価方法においては、電磁波は可視光であることが好ましい。
【0023】
本発明に従った隠蔽力評価方法においては、粒子は電磁波遮蔽性能を有する粒子であり、隠蔽力は電磁波遮蔽力であることが好ましい。
【0024】
本発明に従った隠蔽力評価方法においては、電磁波は、可視光以外の電磁波であり、隠蔽力は電磁波遮蔽力であることが好ましい。
【0025】
本発明に従った品質管理方法は、上記の隠蔽力評価方法によって絶対隠蔽力または相対隠蔽力を規定する工程と、絶対隠蔽力または相対隠蔽力に基づいて製品の品質管理を行う工程を含む。
【0026】
本発明に従った品質保証方法は、上記の隠蔽力評価方法によって絶対隠蔽力または相対隠蔽力を規定する工程と、絶対隠蔽力または相対隠蔽力に基づいて製品の品質保証を行う工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施例1~実施例7の顔料含有塗膜の吸光度(Abs)と顔料濃度(C)の関係を示す図である。
図2】実施例1~実施例7の顔料含有塗膜の吸光度(Abs)を顔料濃度(C)で割った値と、それぞれの顔料の水面拡散面積(WCA)の関係を示す図である。
図3】実施例8~実施例14の顔料含有塗膜の吸光度(Abs)と顔料濃度(C)の関係を示す図である。
図4】実施例8~実施例14の顔料含有塗膜の吸光度(Abs)を顔料濃度(C)で割った値と、それぞれの顔料の水面拡散面積(WCA)の関係を示す図である。
図5】実施例15~実施例21の顔料含有塗膜の吸光度(Abs)と顔料濃度(C)の関係を示す図である。
図6】実施例15~実施例21の顔料含有塗膜の吸光度(Abs)を顔料濃度(C)で割った値と、それぞれの顔料の水面拡散面積(WCA)の関係を示す図である。
図7】実施例23~実施例24の顔料含有塗膜の吸光度(Abs)と顔料濃度(C)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の隠蔽力評価方法を具体例を交えながら詳細に説明する。なお、本発明は以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【0029】
本発明に従った隠蔽力評価方法は、隠蔽力評価対象の粒子を含む粒子含有体の隠蔽力を評価する方法であって、粒子含有体と基材の電磁波の透過量(I)と、粒子を含まないことを除いて粒子含有体と同一の組成である非粒子含有体と基材との電磁波の透過量(I)とに基づいて、下記式(1)によって電磁波の吸収度(Abs)を算出する工程を含む。
式(1) Abs=-log(I/I
【0030】
1つの実施形態として、隠蔽力評価対象が顔料を含む塗膜であり、可視光の隠蔽力を評価する場合の隠蔽力評価方法について説明する。
【0031】
まず、顔料の粒子を含む塗料を、基材(以下、「下地」ともいう。)上に塗布して乾燥させ、顔料含有塗膜を形成する。次に、顔料の粒子を含まないことを除いて顔料含有塗膜と同一の組成である、顔料非含有塗膜(以下、「ブランク」または「対照」とも呼ぶことがある。)を基材または下地上に形成させる。なお、顔料含有塗膜は粒子含有体の一例であり、顔料非含有塗膜は非粒子含有体の一例である。
【0032】
顔料を含む塗料としては、例えば、アルミニウム顔料(ペースト)がニトロセルロース(硝化綿)ラッカー、アクリルラッカー、水性塗料に分散されたもの等、公知の塗料が用いられる。塗料中の樹脂成分と顔料の親和性によって、後述するAbsとWCAの相関係数が変動するため、広範な親和性を有するニトロセルロースラッカーを用いることが望ましい。
【0033】
基材としては、限定ではなく、アート紙(塗工紙)やPETフィルムといった品質確認のための色調評価に供した塗板、塗紙等を用いることができる。
【0034】
塗膜の作製方法については、顔料含有塗膜と顔料非含有塗膜で同じ方法にし、ラッカー、塗膜膜厚、塗板、塗布方法、乾燥温度、乾燥方法等の条件を揃える。
【0035】
塗装は、例えば、ドクターブレード法で塗料を基材上に塗布することによって行う。例えば、市販のニトロセルロース(硝化綿)ラッカーを用い、ドクターブレード法でPETフィルム又はアート紙(塗工紙)に塗布して粒子含有体と粒子非含有体を得ることができる。
【0036】
ドクターブレードに用いるフィルムアプリケータは、顔料の配向を一定にするため、例えば2mils(50.8μm)を用いることができるが、6mils、9mils等のフィルムアプリケータを用いてもよい。9milsで塗布して得られる塗膜は、2milsで塗布した塗膜と比べて厚みが4.5倍になるが、顔料の配向の乱れと副次反射の影響から、吸収度Absは4.5倍よりもやや小さくなる場合がある。
【0037】
このようにして得られた顔料含有塗膜には、顔料の粒子が含まれている。粒子含有体は、塗膜の他、基材中に顔料等の粒子が練り込まれて作製されてもよい。
【0038】
得られた粒子含有体(顔料含有塗膜)と粒子非含有体(顔料非含有塗膜)について、隠蔽力を評価する波長の光の透過量IおよびIを測定し、式(1)Abs=-log(I/I)に基づいて吸収度(Abs)を求める。光の透過量I,Iは、隠蔽力を評価する波長の光の透過量を測定できる公知の方法で測定されればよく、限定ではなく、一例として、分光測色計CM-5(コニカミノルタ)を用いることができる。透過率測定には光強度が十分に強いこと、あるいは塗膜を通過する光を検出する検出装置の検出能力が十分に高い必要がある。分光測色計を用いる場合、明度(L値)を光の透過量として扱うことができる。
【0039】
可視光線の隠蔽力を評価する場合、基材または下地が可視光線に対して不透明である場合、分光測色計CM-5では透過率測定ができない場合がある。そのような場合、白色LED光源と照度計を用いて透過率を測定してもよい。
【0040】
粒子として電磁波遮蔽性能を有する粒子を用いた場合など、可視光線以外の電磁波について隠蔽力を評価することもできる。隠蔽力を評価する電磁波の波長は限定されない。例えば、長波、中波、短波、超短波、マイクロ波、電波、赤外線、可視光線、紫外線、EUV、X線、ガンマ線にも応用可能である。可視光以外の電磁波の隠蔽力を評価する場合も式(1)Abs=-log(I/I)に基づいて、隠蔽力を評価する波長の電磁波の吸収度(Abs)を求める。電磁波の透過量の測定は、要求される波長の電磁波を照射できる光源とその波長に対応した電磁波検出器を選択すればよい。
【0041】
以上のようにして得られた吸収度(Abs)の値は、実施例で詳細に説明するように、顔料など粒子の隠蔽力を反映している。
【0042】
このようにすることにより、基材として隠蔽力試験紙を用いる必要がなくなる。また
、より簡易な隠蔽力の評価方法を提供することができる。
【0043】
さらに、(吸収度(Abs))/(粒子含有体の粒子の濃度(C))の値を算出する工程を含むことが好ましい。本発明者らは、(吸収度(Abs))/(粒子含有体の粒子の濃度(C))の値がWCA(水面拡散面積)に比例することを見出した。したがって、(吸収度(Abs))/(粒子含有体の粒子の濃度(C))の値を算出することによって、水に浮かない粒子についても、WCAを測定しなくても、WCAを用いる場合と同様に粒子の隠蔽力を評価することができる。
【0044】
粒子含有体(顔料含有塗膜)の厚み(L)、粒子(顔料)の電磁波(可視光線)の吸収係数(ε)、粒子含有体(顔料含有塗膜)中の粒子(顔料)の濃度(C)の関係は、吸収度(Abs)=ε×L×C(ランベルト・ベールの法則)である。そこで、下記式(2)によって、粒子含有体の電磁波の吸収度(Abs)、粒子の濃度(C)および粒子の電磁波の吸収係数(ε)に基づいて、所望の隠蔽力を有する粒子含有体の厚み(L)を算出することができる。
式(2) L=Abs/(ε×C)
【0045】
また、下記式(3)によって、粒子含有体の電磁波の吸収度(Abs)、粒子含有体の厚み(L)および粒子の電磁波の吸収係数(ε)に基づいて、所望の隠蔽力を有する粒子含有体の粒子の濃度(C)を算出することができる。
式(3) C=Abs/(ε×L)
【0046】
本発明に従った隠蔽力評価方法では、2種類の粒子を混合させる混合粒子含有体について、所望の隠蔽力を得るために必要な、それぞれの粒子の重量割合を求めることができる。すなわち、所望の隠蔽力を有する粒子含有体の電磁波の吸収度(Abs)と、粒子として第1の粒子のみを含む第1の粒子含有体の電磁波の吸収度(Abs)と、粒子として第2の粒子のみを含む第2の粒子含有体の電磁波の吸収度(Abs)とに基づいて、下記式(4)によって、所望の隠蔽力を有する第1の粒子と第2の粒子を含む混合粒子含有体中の第1の粒子の重量割合(X)と第2の粒子の重量割合(1-X)を算出することができる。
式(4) Abs×X+Abs×(1-X)=Abs (0≦X≦1)
【0047】
本発明に従った品質管理方法は、上記の隠蔽力評価方法によって絶対隠蔽力または相対隠蔽力を規定する工程と、絶対隠蔽力または相対隠蔽力に基づいて製品の品質管理を行う工程を含む。
【0048】
本発明に従った品質保証方法は、上記の隠蔽力評価方法によって絶対隠蔽力または相対隠蔽力を規定する工程と、絶対隠蔽力または相対隠蔽力に基づいて製品の品質保証を行う工程を含む。
【実施例0049】
以下、本発明の隠蔽力評価方法について具体例を交えながら詳細に説明する。なお、本発明は以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【0050】
(実施例1~7)
顔料として表1に記載のアルミニウム顔料(ペースト)A~Gを使用し、表2のa~cに示すペースト重量を計り取り、それぞれに市販のニトロセルロースラッカーを全量50gになるように加えた。そして、プラネタリーミキサーで均一に撹拌し塗料を作製した。平均粒子径D50は粒子径分布測定装置MT3300EX II(マイクロトラック・ベル)により測定した。各顔料のWCAは非特許文献2に基づいて測定した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
得られた各塗料を2mils(50.8μm)のアプリケータを用いてPETフィルムに塗布し、室温で乾燥させて、各実施例の顔料含有塗膜を得た。ブランクとしてニトロセルロースラッカーを2milsのアプリケータで塗布し、室温で乾燥させて、顔料非含有塗膜を作製した。
【0054】
PETフィルム上に作製した顔料含有塗膜及び顔料非含有塗膜をPETフィルムごと概ね6cm角程度に切って試験片とした。分光測色計CM-5(コニカミノルタ社製)の透過光強度測定ユニットを用いて顔料含有塗膜の試験片のL*値及び顔料非含有塗膜の試験片のL*値を測定し、(顔料含有塗膜塗膜のL*値)/(顔料非含有塗膜のL*値)を透過率として扱うことで吸光度Absを求めた。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
この結果を基に吸光度Absを顔料濃度Cに対してプロットしたものを図1に示す。図1から、いずれの顔料も、吸光度Absと顔料濃度Cの関係は原点を通る直線で近似できることがわかる。また、これらの原点を通る直線を最小二乗法で求めた傾きAbs/Cの値を表3に示す。
【0057】
上記Abs/Cに対して、各顔料のWCAをプロットしたものを図2に示す。最小二乗法で求めた傾きは1538.8であった。この結果から式(5)を導くことができる。
【0058】
図2より、金属効果顔料において、Abs/Cの比はWCAに比例することから、吸光度Absが隠蔽力を反映するものであることがわかる。
【0059】
(実施例8~14)
実施例1と同様にして、各アルミニウム顔料(ペースト)A~Gを表4に示す顔料濃度Cとなる塗料を作製した。作製した塗料を2mils(50.8μm)のアプリケータを用いてアート紙に塗布し、室温で乾燥させて、各実施例の顔料含有塗膜を得た。また、別途アート紙に塗料作製に使用したニトロセルロースラッカーそのままを2milsのアプリケータで塗布し、室温で乾燥させて、顔料非含有塗膜を作製した。
【0060】
作製した各顔料含有塗膜及び顔料非含有塗膜に、正面の照度が345000ルクスの白色LEDを照射し、光の透過量を市販の照度計を用いて各試料塗膜の光の透過量I及び標準塗膜の光の透過量Iの値を測定した。光源から照度計までは、光の漏洩や外部光源の混入を避けるため、円筒状の黒色ABS樹脂を用いた。光源から塗膜まで概ね40mm、塗膜から照度計表面まで概ね15mmとなるような装置構造にした。測定結果から算出した各試料塗膜の吸光度Absを表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
この結果を基に吸光度Absを顔料濃度Cに対しプロットしたものを図3に示す。図3から、アート紙を用いた塗膜においても、いずれの顔料も、吸光度Absと顔料濃度Cの関係は原点を通る直線で近似できることがわかる。また、これらの原点を通る直線を最小二乗法で求めた傾きAbs/Cの値を表5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
上記Abs/Cに対して、各顔料のWCAをプロットしたものを図4に示す。図4から基材として不透明なアート紙を用いた場合でも、Abs/Cの比はWCAに比例し、隠蔽力の評価が可能であることがわかる。最小二乗法で求めた傾きは776.5であった。この結果から式(6)を導くことができる。
【0065】
(実施例15~21)
各顔料を表6に示す顔料濃度Cとなるように各塗料を調整した。得られた各塗料を用いて、9mils(228.6μm)のアプリケータを用いた点を除いて実施例8と同様にして、吸光度Absの測定を行った。結果を表6に示す。
【0066】
【表6】
【0067】
この結果を基に吸光度Absを顔料濃度Cに対しプロットしたものを図5に示す。図5から、アート紙を用いた塗膜においても、いずれの顔料も、吸光度Absと顔料濃度Cの関係は原点を通る直線で近似できることがわかる。また、これらの原点を通る直線を最小二乗法で求めた傾きAbs/Cの値を表7に示す。
【0068】
【表7】
【0069】
上記Abs/Cに対して、各顔料のWCAをプロットしたものを図6に示す。最小二乗法で求めた傾きは224.6であった。この結果から式(7)を導くことができる。
【0070】
図6から塗料の塗布量を変えた場合でも同一条件での測定であれば、隠蔽力の評価が可能であることがわかる。
【0071】
式(5) WCA=1538.8×Abs/C
(実施例1~7のように試験塗膜を作製し透過率を測定した場合)
【0072】
式(6) WCA=776.5×Abs/C
(実施例8~14のように試験塗膜を作製し透過率を測定した場合)
【0073】
式(7) WCA=224.6×Abs/C
(実施例15~21のように試験塗膜を作製し透過率を測定した場合)
【0074】
以上のように、非特許文献2の方法でWCAを得ることができない親水性の顔料でも、PETフィルムやアート紙上に塗膜を形成し、吸光度Absと顔料濃度Cとを実測すれば、上述の相関係数から、推定WCAを得ることができる。具体的には、非特許文献2の方法でWCAを得ることができない、シリカでコートされたアルミニウム顔料EMR-B5680(東洋アルミニウム製ペースト)の推定WCA値として24000cm
/g(アルミニウムの重量1gあたり)を得た。塗料・塗膜作製、吸光度Absの測定は実施例15~21と同様の方法で行い(得られた吸光度AbsとAbs/Cは表8の通り)、式(7)を用いて推定WCA値を算出した(推定WCA=224.6×106.7=24000cm/g)。
【0075】
【表8】
【0076】
(実施例22)
(顔料の隠蔽力調整)
顔料濃度Cにおける吸光度Absを持つ試料顔料を用い、所望の隠蔽力を有する目標顔料の顔料濃度Cにおける吸光度Absから、目標顔料の濃度Cにおける隠蔽力と同等の隠蔽力を与える顔料濃度C’=C×Abs/Absより試料顔料を用いて目標顔料と同等の隠蔽力を持つ塗料調製ができる(CとCは等しくても異なっていてもよい)。
【0077】
顔料として表9に記載のアルミニウム顔料(ペースト)A、H、Iを使用し、各顔料が0.7gとなるようにペーストを計り取り、それぞれに市販のニトロセルロースラッカーを全量50gになるように加えた。そして、プラネタリーミキサーで均一に撹拌し塗料を作製した。作製した塗料を9mils(228.6μm)のアプリケータを用いてアート紙に塗布し、室温で乾燥させて、各試料塗膜を得た。また、別途アート紙に塗料作製に使用したニトロセルロースラッカーそのままを9milsのアプリケータで塗布し、室温で乾燥させて、所望の隠蔽力を有する目標塗膜を作製した。実施例15と同様の測定方法により、アルミニウム顔料A、H、Iにおける吸光度Absを求め、目標顔料の吸光度Absに対する相対吸光度を算出した。その相対吸光度を表9に示す。
【0078】
【表9】
【0079】
アルミニウム顔料Hの重量割合をX、アルミニウム顔料Iの重量割合を(1-X)としたとき、次の式(8)を立てられる。
式(8) (顔料Hを含んだ塗膜の目標塗膜に対する相対吸光度)×X+(顔料Iを含んだ塗膜の目標塗膜に対する相対吸光度)×(1-X)=1(0≦x≦1)
【0080】
実施例22の場合は
1.34×X+0.69×(1-X)=1.00
X=0.48
となる。
【0081】
式(8)によって算出した顔料重量比に基づいて、アルミニウム顔料(ペースト)HとIを混合し混合顔料を調製した。塗料に配合する顔料総重量が0.7gとなるように得られた混合顔料を採取し、市販のニトロセルロースラッカーを全量50gになるように加えた。そして、プラネタリーミキサーで均一に撹拌し塗料を作製した。作製した塗料を9mils(228.6μm)のアプリケータを用いてアート紙に塗布し、室温で乾燥させて、試料塗膜を得た。
また、別途アート紙に塗料作製に使用したニトロセルロースラッカーそのままを9milsのアプリケータで塗布し、室温で乾燥させて、顔料非含有塗膜を作製した。
【0082】
実施例15と同様の測定方法により、混合顔料(ペースト)における吸光度Absを求め、目標顔料の吸光度Absに対する相対吸光度を算出した結果、目標顔料Aに対する相対吸光度の値が1.02となり、目標顔料と同等の隠蔽力を有することを確認できた。これにより、例えば、顔料の製造ロット間で生じる隠蔽力のバラつきを、抑えることが可能となる。
【0083】
(実施例23)
顔料として表10に示す青色顔料30.0kgとHAWS75.0kgと分散剤3.0kgをビーズミルで解砕し、顔料濃度27.8%のスラリーを得た。アルミニウム顔料に替えて得られたスラリーを用いて、実施例8と同様に表10に示す各塗料中の顔料濃度Cにおける吸光度Absの測定を行った。その結果を表10及び図7に示す。
【0084】
【表10】
【0085】
(実施例24)
顔料として表10に示す赤色顔料4.6kgとHAWS25.1kgと分散剤0.5kgをビーズミルで解砕して得られたスラリーを、実施例23と同様に吸光度Absの測定を行った。その結果を表10に及び図7に示す。
【0086】
図7から、有彩色顔料については、Abs/Cの値が一定にはならないものの、近似できる検量線を作成できることがわかる。
【0087】
得られた検量線はアルミニウム顔料を用いた検討と同様に隠蔽力調整などに用いることができる。
【0088】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7