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特開2024-19964分子検知装置、分子検知システムおよび分子検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019964
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】分子検知装置、分子検知システムおよび分子検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240206BHJP
   G08B 27/00 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G08B27/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122768
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000202361
【氏名又は名称】綜合警備保障株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加沢 徹
【テーマコード(参考)】
2G043
5C087
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043AA04
2G043BA13
2G043BA16
2G043CA01
2G043CA09
2G043DA02
2G043EA01
2G043FA01
2G043FA06
2G043LA02
2G043NA01
5C087AA09
5C087AA10
5C087AA17
5C087AA21
5C087BB18
5C087BB73
5C087BB74
5C087DD03
5C087DD08
5C087DD14
5C087DD17
5C087FF01
5C087FF02
5C087FF04
5C087GG02
5C087GG08
5C087GG31
5C087GG35
5C087GG59
5C087GG65
5C087GG66
5C087GG68
5C087GG70
5C087GG82
(57)【要約】
【課題】公共空間において検知対象分子が微量な濃度で漂っている場合においても、高精度な検知対象分子の検知結果を端末に通知できる分子検知装置、分子検知システムおよび分子検知方法を提供する。
【解決手段】検知対象分子と結合し、電子状態の変化で蛍光を発する第1のラベリング分子を溶質とする溶液を、測定対象空間へ噴霧してミストを形成する噴霧部と、ミストに対して検知対象分子が結合した第1のラベリング分子について第1の電子状態から第2の電子状態に励起させる第1の波長の励起光を含む照射光を照射する照射部と、検知対象分子が結合した第1のラベリング分子で第2の電子状態から第1の電子状態への遷移で発する第1の蛍光を受光して光強度を測定する検出部と、第1の蛍光の光強度に基づき、測定対象空間において検知対象分子を検知したか否かを判定する判定部と、検知対象分子の検知結果を監視サーバへ送信する通信部と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の検知対象分子と結合し、エネルギー準位の状態である電子状態の変化によって蛍光を発する第1のラベリング分子を溶質として、所定の溶媒に溶かして生成された溶液を、測定対象空間に向けて噴霧してミストを形成する噴霧部と、
前記測定対象空間の前記ミストに対して、前記検知対象分子が結合した前記第1のラベリング分子について第1の電子状態から該第1の電子状態よりもエネルギー準位の高い第2の電子状態に励起させる第1の波長の励起光を含む照射光を照射する照射部と、
前記検知対象分子が結合した前記第1のラベリング分子において前記第2の電子状態から前記第1の電子状態に遷移することにより発する第1の蛍光を受光し、該第1の蛍光の光強度を測定する検出部と、
前記検出部により測定された前記第1の蛍光の光強度に基づいて、前記測定対象空間において検知対象分子を検知したか否かを判定する判定部と、
前記判定部により判定された検知対象分子の検知結果を、該検知結果が検知対象分子を検知したことを示す場合にその旨のメッセージを1以上の端末へ送信することができる監視サーバへ送信する通信部と、
を備えた分子検知装置。
【請求項2】
前記溶液は、前記検知対象分子とは異なる非検知対象分子と結合し、エネルギー準位の状態である電子状態の変化によって蛍光を発する第2のラベリング分子を溶質として含み、
前記照射部は、前記測定対象空間の前記ミストに対して、前記非検知対象分子が結合した前記第2のラベリング分子について第3の電子状態から該第3の電子状態よりもエネルギー準位の高い第4の電子状態に励起させる第2の波長の励起光をさらに含む前記照射光を照射し、
前記検出部は、前記非検知対象分子が結合した前記第2のラベリング分子において前記第4の電子状態から前記第3の電子状態に遷移することにより発する第2の蛍光を受光し、該第2の蛍光の光強度を測定し、
前記判定部は、前記検出部により測定された前記第2の蛍光の光強度が第1の閾値以上であるか否かを判定し、
前記検出部は、前記判定部により前記第2の蛍光の光強度が前記第1の閾値以上であると判定された場合、前記第1の蛍光の光強度を測定する請求項1に記載の分子検知装置。
【請求項3】
前記噴霧部は、前記検知対象分子を含む前記測定対象空間において前記第1の蛍光および前記第2の蛍光の双方の光強度を適切に測定できるという要件を満たすような、少なくとも前記溶液における前記第1のラベリング分子の濃度と、前記第2のラベリング分子の濃度と、前記溶液の噴霧時間との相関データに基づく前記溶液を噴霧する請求項2に記載の分子検知装置。
【請求項4】
前記分子検知装置を路面上で移動させる第1の移動機構を、さらに備え、
前記判定部により前記第2の蛍光の光強度が前記第1の閾値以上であると判定されない時間が所定時間経過した場合、
前記照射部は、前記照射光の照射を停止し、
前記第1の移動機構は、別の地点に前記分子検知装置を移動させる請求項2または3に記載の分子検知装置。
【請求項5】
前記検出部の検出方向を変える第2の移動機構を、さらに備え、
前記検出部は、背景光の光強度を測定し、
前記第2の移動機構は、前記検出部の検出方向を変えながら、該検出部により測定された前記背景光の光強度が少なくとも第3の閾値以下と判定された検出方向で該検出部を固定し、
前記検出部は、前記第2の移動機構によって該検出部の検出方向が固定された後、前記第2の蛍光の光強度の測定を開始する請求項2または3に記載の分子検知装置。
【請求項6】
前記第1の蛍光の波長と、前記検知対象分子が結合していない前記第1のラベリング分子から発する蛍光の波長とは異なる請求項1~3のいずれか一項に記載の分子検知装置。
【請求項7】
前記溶液は、複数種類の検知対象分子とそれぞれ結合する複数種類の前記第1のラベリング分子を溶質として含み、
前記照射部は、前記測定対象空間の前記ミストに対して、複数種類の前記検知対象分子がそれぞれ結合した複数種類の前記第1のラベリング分子について、それぞれの電子状態を励起させる励起光をそれぞれ含む前記照射光を照射する請求項1~3のいずれか一項に記載の分子検知装置。
【請求項8】
前記第1のラベリング分子は、前記照射光を受けたときにだけ前記検知対象分子と結合する請求項1~3のいずれか一項に記載の分子検知装置。
【請求項9】
前記第1のラベリング分子は、前記検知対象分子と結合する第1の分子と、エネルギー準位の状態である電子状態の変化によって蛍光を発する第2の分子とが結合した分子である請求項1~3のいずれか一項に記載の分子検知装置。
【請求項10】
前記第2のラベリング分子は、前記非検知対象分子と結合する第3の分子と、エネルギー準位の状態である電子状態の変化によって蛍光を発する第4の分子とが結合した分子である請求項2または3に記載の分子検知装置。
【請求項11】
所定の検知対象分子と結合する第1の分子と、エネルギー準位の状態である電子状態の変化によって蛍光を発する第2の分子とが結合した第1のラベリング分子を溶質として、所定の溶媒に溶かして生成された溶液を、測定対象空間に向けて噴霧してミストを形成する噴霧装置と、
前記測定対象空間を飛行することにより、前記ミストを収集する測定箱を備えた飛行体と、
を含み、
前記測定箱は、
収集した前記ミストに対して、前記検知対象分子が結合した前記第1のラベリング分子について第1の電子状態から該第1の電子状態よりもエネルギー準位の高い第2の電子状態に励起させる第1の波長の励起光を含む照射光を照射する照射部と、
前記検知対象分子が結合した前記第1のラベリング分子において前記第2の電子状態から前記第1の電子状態に遷移することにより発する第1の蛍光を受光し、該第1の蛍光の光強度を測定する検出部と、
前記検出部により測定された前記第1の蛍光の光強度に基づいて、収集した前記ミストにおいて検知対象分子を検知したか否かを判定する判定部と、
前記判定部により判定された検知対象分子の検知結果を、該検知結果が検知対象分子を検知したことを示す場合にその旨のメッセージを1以上の端末へ送信することができる監視サーバで受信されるように、送信する第1の通信部と、
を備えた分子検知システム。
【請求項12】
前記噴霧装置は、前記監視サーバと通信可能な第2の通信部を備え、
前記第1の通信部は、前記検知対象分子の検知結果を、前記第2の通信部を介して前記監視サーバへ送信する請求項11に記載の分子検知システム。
【請求項13】
前記測定箱は、
前記ミストを前記測定箱の内部に吸気するための吸気部と、前記ミストを前記測定箱の内部から排気するための排気部と、をさらに備え、
前記吸気部および前記排気部を開状態にした状態で、前記測定対象空間を飛行した後、該吸気部および該排気部を閉状態にすることによって、前記測定箱の内部に前記ミストを収集する請求項11または12に記載の分子検知システム。
【請求項14】
分子検知装置の分子検知方法であって、
所定の検知対象分子と結合し、エネルギー準位の状態である電子状態の変化によって蛍光を発する第1のラベリング分子を溶質として、所定の溶媒に溶かして生成された溶液を、測定対象空間に向けて噴霧してミストを形成する工程と、
前記測定対象空間の前記ミストに対して、前記検知対象分子が結合した前記第1のラベリング分子について第1の電子状態から該第1の電子状態よりもエネルギー準位の高い第2の電子状態に励起させる第1の波長の励起光を含む照射光を照射する工程と、
前記検知対象分子が結合した前記第1のラベリング分子において前記第2の電子状態から前記第1の電子状態に遷移することにより発する第1の蛍光を受光し、該第1の蛍光の光強度を測定する工程と、
測定した前記第1の蛍光の光強度に基づいて、前記測定対象空間において検知対象分子を検知したか否かを判定する工程と、
判定した検知対象分子の検知結果を、該検知結果が検知対象分子を検知したことを示す場合にその旨のメッセージを1以上の端末へ送信することができる監視サーバへ送信する工程と、
を含む分子検知方法。
【請求項15】
分子検知装置の分子検知方法であって、
所定の検知対象分子と結合し、エネルギー準位の状態である電子状態の変化によって蛍光を発する第1のラベリング分子を溶質として、所定の溶媒に溶かして生成された溶液を、測定対象空間に向けて噴霧してミストを形成する工程と、
前記ミストの滞留する前記測定対象空間の空間点毎に検知対象分子を検知したか否かを判定する工程と、
判定した検知対象分子の検知結果に基づいて1以上の端末のカメラ機能によって表示された周囲画像に検知対象分子の濃度分布を多段階で異なるマーキングを用いて重畳して表示する工程と、
を含む分子検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子検知装置、分子検知システムおよび分子検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気汚染、自然災害、事故、事件または戦争等により、屋内、半屋内または屋外の公共空間において、空気中を漂う目で見えないCO(一酸化炭素)、サリン、VXガス、ウィルスまたは細菌等の危険物が浮遊し、充満し、または散布される等により危険な状態となる場面がある。このような、危険物が存在する公共空間においては、当該危険物を適切に検知する技術が必要となる。
【0003】
何らかの害を及ぼす危険物を検知するための技術として、ガス吸着により磁気特性変化が引き起こされる多孔性配位高分子を用いて、大気中のガス濃度を測定するガス検出装置が開示されている(例えば特許文献1)。また、エアロゾル成分元素分析箱に、ガス導入配管と、他方の面に排出する機構とを備え、浮遊するエアロゾル中の含有元素を検知する機器構成が開示されている(例えば特許文献2)。
【0004】
また、公共空間において、所持が禁止されている違法物質を所持している人がいないか、あるいは輸出入が禁止されている違法物質が含まれている貨物がないか等を、早期に検出する技術が必要とされる。このような違法物質等の特定物質を検知するための技術として、検知対象となる対象物に付着している特定物質を対象物から解離させる解離部と、解離させた特定物質を対象物の周囲に存在する気体とともに吸気する吸気部と、吸気された気体に特定物質が含まれるか否かを分析する分析部と、を備えた特定物質検知システムが開示されている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-223945号公報
【特許文献2】特開2011-153862号公報
【特許文献3】特開2018-194524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では、検知対象の危険物または違法物質等の特定の物質に関する電気信号の強弱にて当該特定の物質を検知するセンサが容器内に格納されている場合、または、容器内の気体に当該特定の物質が含まれるか否か分析機能を有するような場合、例えば特許文献3のような当該特定の物質を含む空気を当該容器内に収集する機構を備えるか、または、当該特定の物質が自然に当該容器内に到達する場合にしか使えないという問題がある。また、特定の物質を含む空気を容器内に収集する機構を備えた装置では、容器内のセンサが十分な確度で特定の物質を検知することができるための特定の物質の濃度を得るためには、当該収集する機構を大規模にする必要があり、大気中に薄く広がった微量な特定の物質の検知には実用的ではないという問題がある。さらに、広範囲にわたる公共空間で局在する特定の物質を検知する場合には、検知距離が制限されるセンサで、空間の広範囲をカバーできるようにするために、多数のセンサを設置しなければならないという問題がある。このような従来技術では、公共空間において特定の物質が微量な濃度で漂っている場合に、特定の物質を精度よく検知して、周辺の端末に検知結果を通知することが困難である。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、公共空間において検知対象分子が微量な濃度で漂っている場合においても、高精度な検知対象分子の検知結果を端末に通知できる分子検知装置、分子検知システムおよび分子検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、所定の検知対象分子と結合し、エネルギー準位の状態である電子状態の変化によって蛍光を発する第1のラベリング分子を溶質として、所定の溶媒に溶かして生成された溶液を、測定対象空間に向けて噴霧してミストを形成する噴霧部と、前記測定対象空間の前記ミストに対して、前記検知対象分子が結合した前記第1のラベリング分子について第1の電子状態から該第1の電子状態よりもエネルギー準位の高い第2の電子状態に励起させる第1の波長の励起光を含む照射光を照射する照射部と、前記検知対象分子が結合した前記第1のラベリング分子において前記第2の電子状態から前記第1の電子状態に遷移することにより発する第1の蛍光を受光し、該第1の蛍光の光強度を測定する検出部と、前記検出部により測定された前記第1の蛍光の光強度に基づいて、前記測定対象空間において検知対象分子を検知したか否かを判定する判定部と、前記判定部により判定された検知対象分子の検知結果を、該検知結果が検知対象分子を検知したことを示す場合にその旨のメッセージを1以上の端末へ送信することができる監視サーバへ送信する通信部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、公共空間において検知対象分子が微量な濃度で漂っている場合においても、高精度な検知対象分子の検知結果を端末に通知できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1の実施形態に係る分子検知システムの動作の概要を説明する図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る端末におけるメッセージの表示動作の一例を示す図である。
図3図3は、第1の実施形態に係る端末におけるメッセージの表示動作の別の例を示す図である。
図4図4は、第1の実施形態に係る端末におけるメッセージの表示動作の別の例を示す図である。
図5図5は、第1の実施形態に係る分子検知ロボットの構成の一例を示す図である。
図6図6は、第1の実施形態に係る分子検知システムの検知対象分子検知処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7図7は、第1の実施形態に係る分子検知システムの参照波長の蛍光の光強度の測定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図8図8は、第2の実施形態に係る分子検知システムの動作の概要を説明する図である。
図9図9は、第2の実施形態に係る噴霧ロボットの構成の一例を示す図である。
図10図10は、第2の実施形態に係る検知ドローンの構成の一例、および検知対象分子の検知動作を説明する図である。
図11図11は、第2の実施形態に係る分子検知システムの検知対象分子検知処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図12図12は、第2の実施形態に係る分子検知システムの参照波長の蛍光の光強度の測定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照しながら、本発明に係る分子検知装置、分子検知システムおよび分子検知方法の実施形態を詳細に説明する。また、以下の実施形態によって本発明が限定されるものではなく、以下の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想到できるもの、実質的に同一のもの、およびいわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下の実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換、変更および組み合わせを行うことができる。
【0012】
[第1の実施形態]
(分子検知システムの動作概要)
図1は、第1の実施形態に係る分子検知システムの動作の概要を説明する図である。図2は、第1の実施形態に係る端末におけるメッセージの表示動作の一例を示す図である。図3および図4は、第1の実施形態に係る端末におけるメッセージの表示動作の別の例を示す図である。図1図4を参照しながら、本実施形態に係る分子検知システム1の動作の概要について説明する。
【0013】
図1に示すように、分子検知システム1は、分子検知ロボット10(分子検知装置の一例)と、監視サーバ40と、を含む。なお、分子検知システム1は、分子検知ロボット10であるとしてもよい。
【0014】
分子検知ロボット10は、複数の噴霧地点へ移動し、後述する合成分子SMの溶液を測定対象空間に向けて噴霧し、噴霧した溶液のミストMTに向かって、特定の物質の分子である検知対象分子HMと結合した合成分子SMの電子状態を励起させる照射光を照射し、励起状態となった合成分子SMが発光した蛍光を検出することによって検知対象分子(例えば危険物の分子または違法物質の分子等)を検知するロボットである。具体的な動作については以下で後述する。
【0015】
監視サーバ40は、分子検知ロボット10により検知対象分子HMに対する検知結果を受信し、当該検知結果から測定対象空間の周辺が危険であると判断した場合、避難指示等の警告を示すメッセージを、周囲の人間が所持している端末50に送信するサーバ装置である。なお、端末50は、例えば、スマートフォン、タブレット端末、PC(Personal Computer)またはウェアラブル端末等の情報処理装置である。また、監視サーバ40は、当該検知結果から測定対象空間に検知対象分子が存在すると判断した場合、現場確認を指示するメッセージを、周囲の警備員等が所持している端末50に送信する。
【0016】
図1に示すように、分子検知ロボット10は、まず、合成分子SMの溶液を測定対象空間に向けて噴霧してミストMTを形成させる(図1に示す「(1)溶液を噴霧」)。ここで、合成分子SM(第1のラベリング分子)は、図1に示すように、結合分子CM(第1の分子)と発光分子LM(第2の分子)とが結合した合成分子である。結合分子CMと発光分子LMとは、例えば水素結合、ファンデルワールス力、または電荷移動型結合等によって結合される。結合分子CMは、所定の検知対象分子(図1の例では検知対象分子HM)と結合する性質を有する分子である。結合分子CMとしては、例えばウィルスに対する免疫グロブリン等の抗体分子が挙げられる。発光分子LMは、エネルギー準位の状態である電子状態の変化によって蛍光を発する分子である。発光分子LMとしては、青色の光を吸収して緑色の蛍光を発するGFP(Green Fluorescent Protein:緑色蛍光タンパク質)等が挙げられる。なお、結合分子CMと発光分子LMとが結合して合成分子SMとなることで、合成分子SM全体としての電子状態が形成される。また、合成分子SMの溶液は、合成分子SMを溶質として水または有機溶媒に溶かして生成される。
【0017】
なお、合成分子SMがすべてアミノ酸の結合、すなわちタンパク質で構成されている場合、RNA(Ribonucleic Acid:リボ核酸)またはリボソームを介して合成が容易となる。
【0018】
次に、測定対象空間に所定の検知対象分子(図1の例では検知対象分子HM)が存在する場合、噴霧されたミストMT中に含まれる合成分子SMの結合分子CMの部分に検知対象分子HMが結合する(図1に示す「(2)結合」)。
【0019】
次に、分子検知ロボット10は、所定の波長の光(以下、照射光と称する場合がある)を、ミストMTが存在する測定対象空間に向けて照射する(図1に示す「(3)照射光」)。照射光は、例えば可視光または赤外光等の電磁波であればよく、検知対象分子HMが結合した合成分子SMの電子状態を基底状態(第1の電子状態の一例)から励起状態(第2の電子状態の一例)に遷移させる波長の輝線スペクトルを有する励起光を、少なくとも含む。これによって、検知対象分子HMが結合した合成分子SMの電子状態が励起状態となる。そして、照射光を吸収して励起状態になった合成分子SMは、基底状態および励起状態の安定度、ならびに基底状態と励起状態とのエネルギー準位の差等に基づく時間をかけて、励起状態から基底状態に戻ることにより蛍光(第1の蛍光)を発光する(図1に示す「(4)蛍光」)。
【0020】
また、合成分子SMは、検知対象分子HMが結合していなくても所定の波長を含む照射光が照射されることにより励起状態となり、当該励起状態から基底状態に戻ることにより蛍光を発する。この場合、検知対象分子HMが結合した合成分子SMが発する蛍光と、検知対象分子HMが結合していない合成分子SMが発する蛍光とは、波長が異なる。それぞれの蛍光の波長が異なる要因の1つ目としては、検知対象分子HMの結合の有無によって基底状態のエネルギー準位が変化し、その結果、励起状態と基底状態とのエネルギー準位の差が異なるものとなったことによる。要因の2つ目としては、検知対象分子HMの結合の有無によって励起状態のエネルギー準位が変化し、その結果、励起状態と基底状態とのエネルギー準位の差が異なるものとなったことによる。そして、要因の3つ目としては、検知対象分子HMの結合の有無によって基底状態および励起状態の双方のエネルギー準位が変化し、その結果、励起状態と基底状態とのエネルギー準位の差が異なるものとなったことによる。これらの要因のうち、検知対象分子HMが結合した合成分子SMが発する蛍光と、検知対象分子HMが結合していない合成分子SMが発する蛍光とは、波長が異なるのはいずれでの要因であってもよい。なお、上述では、照射光により励磁状態となった合成分子SMが、基底状態に戻ることによって蛍光を発するものとしていたが、これに限定されるものではない。例えば、合成分子SMが複数の励起状態(第1励起状態、第2励起状態等)が存在する場合、照射光により励起されたいずれかの励起状態(第2の電子状態の一例)から、当該励起状態のエネルギー準位よりも低いエネルギー準位の励起状態(第1の電子状態の一例)に遷移することによって蛍光が発するものとしてもよい。いずれにしても、2つの電子状態間での遷移に伴う蛍光の波長が、検知対象分子HMの結合の有無によって異なるということである。
【0021】
なお、検知対象分子HMが結合した合成分子SMに対して基底状態から励起状態に励起させるための照射光の波長と、励起された当該合成分子SMが励起状態から基底状態に戻るときに発する蛍光の波長とは、必ずしも一致するわけではない。例えば、照射光の吸収により合成分子SMの電子状態が第2励起状態に遷移した場合に、蛍光の発光を伴わず第1励起状態に遷移し、さらに当該第1励起状態から基底状態に戻るときに蛍光を発する場合、合成分子SMに吸収された照射光の波長と、蛍光の波長とは異なることになる。また、照射光の吸収により合成分子SMの電子状態が励起状態に遷移した場合、吸収された照射光のエネルギーの一部が合成分子SMの格子振動等のエネルギーに寄与し、残りのエネルギーが励起状態から基底状態へ戻るときに蛍光として発光する場合、合成分子SMに吸収された照射光の波長と、蛍光の波長とは異なることになる。いずれにしても、合成分子SMに対して基底状態から励起状態に励起させるための照射光の波長、および励起状態から基底状態に戻るときに合成分子SMから発する蛍光の波長は、いずれも予め認識されているものとする。
【0022】
また、合成分子SM中の結合分子CMは、照射光を受けたときにだけ検知対象分子HMと結合するように分子構造を設計してもよい。これによって、溶液タンク13に保存中の溶液SL中の合成分子SMが検知対象分子HMと結合してしまうことを防止することができるため、検知対象分子HMの検知精度を向上させることができる。
【0023】
次に、分子検知ロボット10は、ミストMT中の合成分子SMから発光した蛍光を検出(受光)することにより、当該蛍光の光強度を測定する(図1に示す「(5)検知対象分子検知」)。この場合、検出対象となるのは、検知対象分子HMが結合した合成分子SMが発する蛍光である。分子検知ロボット10は、測定した光強度が所定の閾値以上である場合、測定対象空間に検知対象分子HMに基づく検知対象分子を検知したものと判断する。
【0024】
そして、分子検知ロボット10は、検知対象分子の検知結果を監視サーバ40へ無線送信する(図1に示す「(6)検知結果」)。このとき、分子検知ロボット10は、自己の位置、向きおよび姿勢等に関する情報に基づいた、検知対象分子を検知した場所を表す位置情報を、当該検知結果と共に、監視サーバ40へ無線送信する。そして、監視サーバ40は、分子検知ロボット10から受信した検知対象分子の検知結果に基づいたメッセージを、検知対象分子を検知した場所に関する位置情報と共に、周囲の人間が所持している端末50に送信する(図1に示す「(7)メッセージ送信」)。例えば、分子検知ロボット10は、検知結果が、危険物の分子を検知したことを示すものである場合、周囲の人間が所持している端末50に、危険物の分子を検知した場所に関する位置情報と共に、避難指示等の警告を示すメッセージを送信する。また、分子検知ロボット10は、検知結果が、違法物質の分子を検知したことを示すものである場合、周囲の警備員等が所持する端末50に、違法物質の分子を検知した場所に関する位置情報と共に、現場確認等を指示するメッセージを送信する。
【0025】
ここで、図2に、端末50において危険物の分子が検知され、避難指示の警告を示すメッセージが表示された例を示す。図2では、端末50のカメラ機能を利用して、危険物が検知された場所を示す情報を、AR(Augmented Reality)表示した例を示す。
【0026】
また、図3に、端末50において違法物質の分子が検知され、施設内の地図上において検知した場所を示す情報と共に、現場確認を指示するメッセージを表示した例を示す。
【0027】
なお、図2に示した例では、単に危険物が検知された場所を示す情報をAR表示しているが、例えば、図4に示すように、ミストの滞留する測定対象空間の空間点毎に検知対象分子を検知したか否かを判定し、端末50のカメラ機能によって表示された周囲画像に検知対象分子の濃度分布を多段階で異なるマーキングを用いて重畳した情報をAR表示してもよい。
【0028】
(分子検知ロボットの構成)
図5は、第1の実施形態に係る分子検知ロボットの構成の一例を示す図である。図5を参照しながら、本実施形態に係る分子検知ロボット10の構成について説明する。
【0029】
図5に示すように、分子検知ロボット10は、コンプレッサ11と、空気圧管12と、溶液タンク13と、溶液流管14と、噴霧装置15(噴霧部)と、照射器16(照射部)と、受光レンズ17と、受光フィルタ18と、検出器19(検出部)と、を備えている。
【0030】
コンプレッサ11は、圧縮空気を生成して、溶液タンク13に貯められている合成分子SMの溶液SLを、溶液流管14を介して噴霧装置15へ圧送する装置である。
【0031】
空気圧管12は、コンプレッサ11と溶液タンク13とを接続し、コンプレッサ11により生成された圧縮空気を溶液タンク13へ送り出すための管である。
【0032】
溶液タンク13は、合成分子SMの溶液SLを貯めておくためのタンクである。
【0033】
溶液流管14は、溶液タンク13と噴霧装置15とを接続し、コンプレッサ11により生成された圧縮空気によって、溶液タンク13内の溶液SLを噴霧装置15へ圧送するための管である。
【0034】
噴霧装置15は、後述する噴霧制御部31の制御に従って、溶液タンク13から溶液流管14を介して圧送された合成分子SMの溶液SLを、測定対象空間に噴霧する装置である。
【0035】
照射器16は、後述するON/OFF変調制御部32によるON/OFF変調に応じて、上述のように、検知対象分子HMが結合した合成分子SMの電子状態を基底状態から励起状態に遷移(励起)させる波長(第1の波長)の輝線スペクトルを有する励起光を少なくとも含む照射光を、測定対象空間のミストMTへ向けて照射する装置である。
【0036】
受光レンズ17は、ミストMTに含まれる合成分子SMが発する蛍光等を受光するためのレンズである。
【0037】
受光フィルタ18は、受光レンズ17に入射した光からノイズをカットするためのフィルタである。
【0038】
検出器19は、後述するON/OFF変調制御部32によるON/OFF変調に応じて、受光レンズ17により受光され、受光フィルタ18を透過した光(蛍光)の光強度を測定(検出)する検出装置である。すなわち、検出器19は、受光レンズ17および受光フィルタ18を介して受光した蛍光を検出して、その光強度を測定する。例えば、検出器19は、ロックインアンプ等の電子回路によって構成される。ロックインアンプを用いることによって、受光レンズ17に入射する光のうち、目的とする波長の光の光強度を検出することができる。
【0039】
図5に示すように、分子検知ロボット10は、さらに、角度移動機構21と、回転軸22と、水平移動機構23(第1の移動機構)と、を備えている。なお、角度移動機構21および回転軸22は、第2の移動機構に相当する。
【0040】
角度移動機構21は、後述する移動制御部33の制御に従って、噴霧装置15の溶液SLの噴霧方向について上下方向の角度を変える機構である。
【0041】
回転軸22は、後述する移動制御部33の制御に従って、噴霧装置15の溶液SLの噴霧方向について水平面方向の角度を変える回転機構である。
【0042】
なお、照射器16の照射光の照射方向、および検出器19の検出方向(受光レンズ17の受光方向)についても、噴霧装置15の噴霧方向に連動する。
【0043】
水平移動機構23は、後述する移動制御部33の制御に従って、分子検知ロボット10について路面上を移動させる移動機構である。
【0044】
図5に示すように、分子検知ロボット10は、さらに、噴霧制御部31と、ON/OFF変調制御部32と、移動制御部33と、検知判定部34(判定部)と、通信部35と、自己位置取得部36と、検知位置算出部37と、を備えている。
【0045】
噴霧制御部31は、噴霧装置15による合成分子SMの溶液SLの測定対象空間への噴霧動作を制御する制御回路である。
【0046】
ON/OFF変調制御部32は、照射器16による照射光の照射動作、および検出器19による蛍光の光強度の測定動作についてON/OFF変調により制御する制御回路である。
【0047】
移動制御部33は、角度移動機構21、回転軸22および水平移動機構23の動作を制御する制御回路である。
【0048】
検知判定部34は、検出器19により測定された、検知対象分子HMが結合した合成分子SMが発する蛍光の光強度に対して閾値判定を行うことにより、検知対象分子HMを検知したか否かを判定する処理回路である。検知判定部34は、検知対象分子の検知結果を通信部35へ出力する。
【0049】
自己位置取得部36は、GPS(Global Positioning System)の衛星電波を受信して自己の位置情報を取得する処理回路である。なお、GPSに限定されず、その他のGNSS(Global Navigation Satellite System)を採用するものとしてもよい。
【0050】
検知位置算出部37は、検知判定部34により検知対象分子HMを検知したと判定された場合に、自己位置取得部36により取得された自己の位置情報と、噴霧装置15の噴霧方向とに基づいて、検知対象分子HMを検知した場所に関する位置情報を算出し、当該位置情報を通信部35へ出力する処理回路である。
【0051】
通信部35は、検知判定部34から受信した検知対象分子の検知結果を、検知位置算出部37により算出された、検知対象分子HMが検知された場所に関する位置情報と共に、監視サーバ40へ無線送信する通信回路である。無線通信するための規格としては、3G、LTE(Long Term Evolution)、4G、5G、またはWi-Fi(登録商標)(Wireless Fidelity)等が挙げられる。また、監視サーバ40は、通信部35から受信した検知対象分子の検知結果が、検知対象分子を検知したことを示すものである場合、避難指示等の警告を示すメッセージを、周囲の人間が所持している端末50に送信する。なお、監視サーバ40から端末50への送信は、有線通信でも無線通信であってもよい。有線通信の場合、Ethernet(登録商標)およびTCP(Transmission Control Protocol)/IP(Internet Protocol)等の規格を用いればよく、無線通信の場合、上述のような規格を用いればよい。また、通信部35は、検知判定部34から受信した検知対象分子の検知結果が検知対象分子を検知したことを示す場合、監視サーバ40を介さず、直接、端末50へ避難指等の警告を示すメッセージを送信するものとしてもよい。
【0052】
なお、図5に示すように、受光レンズ17、受光フィルタ18および検出器19、照射器16、ならびに噴霧装置15は、1つの装置である分子検知ロボット10に備えられているものとしているが、これに限定されるものではない。例えば、これらのうち少なくともいずれかが分子検知ロボット10とは別体の装置に備えられるものとし、当該装置は、移動体であっても固定機であってもよい。
【0053】
(分子検知システムによる検知対象分子検知処理)
図6は、第1の実施形態に係る分子検知システムの検知対象分子検知処理の流れの一例を示すフローチャートである。図7は、第1の実施形態に係る分子検知システムの参照波長の蛍光の光強度の測定処理の流れの一例を示すフローチャートである。図6および図7を参照しながら、本実施形態に係る分子検知システム1の検知対象分子検知処理の流れについて説明する。
【0054】
<ステップS11>
分子検知ロボット10の移動制御部33は、水平移動機構23を制御することによって、事前に設定している最初の噴霧地点まで分子検知ロボット10を移動させる。そして、ステップS12へ移行する。
【0055】
<ステップS12>
移動制御部33は、分子検知ロボット10が目的の噴霧地点に到達すると移動を停止させる。そして、分子検知ロボット10の噴霧制御部31は、噴霧装置15に対して、測定対象空間へ溶液SLを、第1の所定時間だけ噴霧させる。さらに、分子検知ロボット10のON/OFF変調制御部32は、照射器16に対して照射光を照射させる。
【0056】
ここで、溶液SLには、上述の結合分子CMと発光分子LMとの合成分子SMのほか、検知対象分子HMとは異なる分子(例えば無害物の分子)(以下、非検知対象分子と称する場合がある)と結合する結合分子(第3の分子)(以下、無害結合分子と称する場合がある)と、電子状態の変化によって蛍光を発する分子であって、上述の発光分子LMとは異なる発光分子(第4の分子)(以下、無害発光分子と称する場合がある)とが結合した合成分子(第2のラベリング分子)(以下、参照用合成分子と称する場合がある)が溶質として溶け込んでいる。この参照用合成分子についても、所定の波長(第2の波長)の照射光を吸収することによって電子状態が基底状態(第3の電子状態の一例)から励起状態(第4の電子状態の一例)に励起し、そして、当該励起状態から当該基底状態に戻ることによって合成分子SMが発する蛍光の波長(以下、検知対象分子検知波長と称する場合がある)とは異なる波長(以下、参照波長と称する場合がある)の蛍光(第2の蛍光)を発する。この場合、非検知対象分子が結合した参照用合成分子が発する蛍光と、非検知対象分子が結合していない参照用合成分子が発する蛍光とは、波長が異なる。なお、上述の検知対象分子HMとは異なる分子としては、例えば、測定対象空間である大気中に通常存在するような分子であればよい。
【0057】
また、照射器16から照射される照射光には、検知対象分子HMが結合した合成分子SMの電子状態を基底状態から励起状態に遷移させる波長の輝線スペクトルを有する励起光(第1の励起光)と、非検知対象分子が結合した参照用合成分子の電子状態を基底状態から励起状態に遷移させる波長の輝線スペクトルを有する励起光(第2の励起光)とが含まれる。なお、照射器16は、第1の励起光を照射する光源と、第2の励起光を照射する光源とを別々に備えているものとしてもよい。
【0058】
次に、溶液SLに含まれる合成分子SMおよび参照用合成分子それぞれの濃度と、溶液SLの噴霧時間との関係について説明する。検知対象分子HMが結合した合成分子SMが発する蛍光(検知対象分子検知波長の蛍光)の光強度を適切に測定できるか否か、非検知対象分子が結合した参照用合成分子が発する蛍光(参照波長の蛍光)の光強度を適切に測定できるか否かについては、合成分子SMの種類、参照用合成分子の種類、溶液SLの噴霧時間および風向き等の外乱等によって変わってくる。そこで、検知対象分子HMを含む測定対象空間において、検知対象分子検知波長の蛍光、および参照波長の蛍光の双方の光強度が適切に測定できるという要件を満たすような、溶液SLにおける合成分子SMの濃度と、参照用合成分子の濃度と、および溶液SLの噴霧時間との相関データを予め取っておくものとする。ここで、「光強度が適切に測定できる」とは、例えば、所定の閾値以上の光強度が測定できること、または照射器16から照射された照射光の光強度に対して所定割合以上の光強度が測定できること等を意味する。当該相関データには、上記の要件を満たすような、少なくとも1組以上の合成分子SMの濃度、参照用合成分子の濃度、および溶液SLの噴霧時間の組み合わせを含むものとする。したがって、当該相関データに基づく合成分子SMおよび参照用合成分子の溶液SLを用いた場合に、参照波長の蛍光の光強度が適切に測定できる場合には、検知対象分子検知波長の蛍光の光強度も適切に測定できるものと判断できる。なお、当該相関データには、上記の3つのデータのほか、例えば検出器19による測定時間等を、上記要件を満たすためのデータとして含まれるものとしてもよい。
【0059】
したがって、ステップS12において、噴霧装置15から噴霧される溶液SLは、上記の相関データに応じた濃度の合成分子SMおよび参照用合成分子を溶質として含み、第1の所定時間は、当該相関データに応じた噴霧時間とする。そして、ステップS13へ移行する。
【0060】
<ステップS13>
分子検知ロボット10の検出器19は、まず、ON/OFF変調制御部32の制御に従って、非検知対象分子が結合した参照用合成分子が発する蛍光、すなわち参照波長の蛍光の光強度を測定する。検出器19による参照波長の蛍光の光強度の測定処理は、具体的には、図7に示すステップS131~S138の流れで実行される。以下、図7を参照しながら、当該測定処理の流れについて説明する。
【0061】
<<ステップS131>>
図6に示すステップS12の処理の後、検出器19は、ON/OFF変調制御部32の制御に従って、測定対象空間から受光レンズ17に入射し、受光フィルタ18を透過した背景光の光強度を測定する。そして、ステップS132へ移行する。
【0062】
<<ステップS132>>
分子検知ロボット10の検知判定部34は、検出器19により測定された背景光の光強度が第3の閾値以下であるか否かを判定する。検出器19により測定された背景光の光強度が第3の閾値以下である場合(ステップS132:Yes)、測定対象空間が参照波長の蛍光および検知対象分子検知波長の蛍光の測定に適しているものとして、ステップS133へ移行する。一方、第3の閾値を超える場合(ステップS132:No)、測定対象空間が参照波長の蛍光および検知対象分子検知波長の蛍光の測定に適さないものとして、ステップS134へ移行する。
【0063】
<<ステップS133>>
照射器16により照射光が照射された状態において、検出器19は、ON/OFF変調制御部32の制御に従って、測定対象空間から受光レンズ17に入射し、受光フィルタ18を透過した参照波長の蛍光(非検知対象分子が結合した参照用合成分子が発する蛍光)の光強度を測定する。以上で、参照波長の蛍光の光強度の測定処理を終了し、図6のステップS14へ移行する。
【0064】
<<ステップS134>>
移動制御部33により、回転軸22に対して検出器19の検出方向を水平面上で360度回転させ(1回転させ)、かつ、角度移動機構21に対して当該検出方向の上下方向の角度を変えながら、検出器19は、ON/OFF変調制御部32の制御に従って、測定対象空間から受光レンズ17に入射し、受光フィルタ18を透過した背景光の光強度を測定する。なお、移動制御部33による検出器19の検出方向の変更方法は、上記の態様に限定されない。
【0065】
<<ステップS135>>
移動制御部33は、検知判定部34によって検出器19で測定された背景光の光強度が第3の閾値以下と判定され、かつ当該光強度が最も弱いと判定された検出器19の検出方向を選定する。なお、移動制御部33は、少なくとも検知判定部34により検出器19で測定された背景光の光強度が第3の閾値以下と判定された検出器19の検出方向を選定してもよい。そして、ステップS136へ移行する。
【0066】
<<ステップS136>>
ステップS135の条件を満たす検出器19の検出方向が選定された(存在する)場合(ステップS136:Yes)、ステップS137へ移行し、当該検出方向が選定されなかった(存在しない)場合(ステップS136:No)、ステップS138へ移行する。
【0067】
<<ステップS137>>
移動制御部33は、ステップS135で選定した検出方向となるように、検出器19の検出方向を固定する。そして、ステップS133へ移行する。
【0068】
<<ステップS138>>
分子検知ロボット10は、その噴霧地点での測定を断念し、通信部35を介して監視サーバ40へその旨を送信する。そして、参照波長の蛍光の光強度の測定処理を終了し、図6のステップS13aに移行する。
【0069】
図6に戻り、説明を続ける。
【0070】
<ステップS13a>
ステップS13において、分子検知ロボット10が通信部35を介して監視サーバ40へ、その噴霧地点での測定を断念する旨を送信した場合(ステップS13a:Yes)、ステップS22へ移行し、送信していない場合(ステップS13a:No)、ステップS14へ移行する。
【0071】
<ステップS14>
検知判定部34は、検出器19により測定された参照波長の蛍光の光強度が第1の閾値以上であるか否かを判定する。検出器19により測定された参照波長の蛍光の光強度が第1の閾値以上である場合(ステップS14:Yes)、測定対象空間において検知対象分子検知波長の蛍光が適切に測定できるものと判断され、ステップS15へ移行する。一方、第1の閾値未満である場合(ステップS14:No)、測定対象空間において検知対象分子検知波長の蛍光が適切に測定できないものと判断され、ステップS20へ移行する。
【0072】
<ステップS15>
検知判定部34により参照波長の蛍光の光強度が第1の閾値以上であると判定された場合には、参照波長の蛍光の光強度が適切に測定できるものと判断でき、これにより、検知対象分子検知波長の蛍光の光強度の測定も適切に行うことができると判断される。したがって、検出器19は、ON/OFF変調制御部32の制御に従って、測定対象空間から受光レンズ17に入射し、受光フィルタ18を透過した検知対象分子検知波長の蛍光(検知対象分子HMが結合した合成分子SMが発する蛍光)の光強度を測定する。そして、ステップS16へ移行する。
【0073】
<ステップS16>
検知判定部34は、検出器19により測定された検知対象分子検知波長の蛍光の光強度が第2の閾値以上であるか否かを判定する。検出器19により測定された検知対象分子検知波長の蛍光の光強度が第2の閾値以上である場合(ステップS16:Yes)、ステップS17へ移行し、第2の閾値未満である場合(ステップS16:No)、ステップS18へ移行する。
【0074】
<ステップS17>
検知判定部34は、検出器19により測定された検知対象分子検知波長の蛍光の光強度が第2の閾値以上である場合、測定対象空間において検知対象分子を検知したものと判断し、通信部35は、検知対象分子の検知結果として検知対象分子を検知した旨を、検知位置算出部37が算出した検知対象分子HMを検知した場所に関する位置情報と共に、監視サーバ40へ通知(無線送信)する。このとき、検知した検知対象分子HMが危険物の分子であれば、通信部35は、危険物の分子を検知したことを示す検知結果を監視サーバ40へ通知する。また、検知した検知対象分子HMが違法物質の分子であれば、通信部35は、違法物質の分子を検知したことを示す検知結果を監視サーバ40へ通知する。そして、ステップS19へ移行する。
【0075】
<ステップS18>
検知判定部34は、検出器19により測定された検知対象分子検知波長の蛍光の光強度が第2の閾値未満である場合、測定対象空間において検知対象分子は存在せず安全であると判断し、通信部35は、検知対象分子の検知結果として検知対象分子が存在しない旨を監視サーバ40へ通知(無線送信)する。そして、ステップS19へ移行する。
【0076】
<ステップS19>
分子検知システム1による検知対象分子検知処理について所定の終了条件を満たす場合(ステップS19:Yes)、検知対象分子検知処理を終了し、終了条件を満たさない場合(ステップS19:No)、ステップS22へ移行する。ここで、所定の終了条件とは、例えば、ステップS17により測定対象空間において検知対象分子が検知されたものと判断された場合、所定数の噴霧地点にて安全であると判断された場合、または分子検知ロボット10に故障が発生した場合等が挙げられる。
【0077】
<ステップS20>
検知判定部34は、分子検知ロボット10が位置する噴霧地点での参照波長の蛍光の光強度の測定を開始してから第2の所定時間が経過したか否かを判定する。第2の所定時間が経過した場合(ステップS20:Yes)、ステップS21へ移行し、第2の所定時間が経過していない場合(ステップS20:No)、ステップS12へ戻る。
【0078】
<ステップS21>
分子検知ロボット10は、その噴霧地点での測定を断念し、通信部35を介して監視サーバ40へその旨を送信する。そして、ステップS19へ移動する。
【0079】
<ステップS22>
ON/OFF変調制御部32は、照射器16に対して照射光の照射を停止させ、移動制御部33は、水平移動機構23に対して次の噴霧地点まで分子検知ロボット10を移動させる。そして、ステップS12へ戻る。
【0080】
以上のステップS11~S22の流れによって、分子検知システム1により検知対象分子検知処理が実行される。
【0081】
以上のように、本実施形態に係る分子検知システム1では、噴霧装置15は、所定の検知対象分子HMと結合する結合分子CMと、エネルギー準位の状態である電子状態の変化によって蛍光を発する発光分子LMとが結合した合成分子SMを溶質として、所定の溶媒に溶かして生成された溶液SLを、測定対象空間に向けて噴霧してミストMTを形成し、照射器16は、測定対象空間のミストMTに対して、検知対象分子HMが結合した合成分子SMについて基底状態から励起状態に励起させる波長の励起光を含む照射光を照射し、検出器19は、検知対象分子HMが結合した合成分子SMにおいて励起状態から基底状態に遷移することにより発する蛍光を受光し、当該蛍光の光強度を測定し、検知判定部34は、検出器19により測定された第光の光強度に基づいて、測定対象空間において検知対象分子を検知したか否かを判定し、通信部35は、検知判定部34により判定された検知対象分子の検知結果を、当該検知結果が検知対象分子を検知したことを示す場合に警告を示すメッセージを1以上の端末50へ送信することができる監視サーバ40へ送信するものとしている。これによって、公共空間において検知対象分子が微量な濃度で漂っている場合においても、高精度な検知対象分子の検知結果を端末に通知できる。
【0082】
また、本実施形態に係る分子検知システム1では、溶液SLは、検知対象分子HMとは異なる非検知対象分子と結合する結合分子と、エネルギー準位の状態である電子状態の変化によって蛍光を発する発光分子とが結合した参照用合成分子を溶質として含み、照射器16は、測定対象空間のミストMTに対して、非検知対象分子が結合した参照用合成分子について基底状態から励起状態に励起させる波長の励起光をさらに含む照射光を照射し、検出器19は、非検知対象分子が結合した参照用合成分子において励起状態から基底状態に遷移することにより発する蛍光を受光し、当該蛍光の光強度を測定し、検知判定部34は、検出器19により測定された、非検知対象分子が結合した参照用合成分子からの蛍光の光強度が第1の閾値以上であるか否かを判定し、検出器19は、検知判定部34により、非検知対象分子が結合した参照用合成分子からの蛍光の光強度が第1の閾値以上であると判定された場合、検知対象分子HMが結合した合成分子SMからの蛍光の光強度を測定するものとしている。これによって、合成分子SMおよび参照用合成分子の溶液SLを用いた場合に、参照波長の蛍光の光強度が適切に測定できる場合には、検知対象分子検知波長の蛍光の光強度も適切に測定できるものと判断できる。
【0083】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る分子検知システムについて、第1の実施形態に係る分子検知システム1と相違する点を中心に説明する。第1の実施形態では、分子検知ロボット10により照射光が照射され、合成分子SMから発した蛍光の光強度が測定される構成を説明した。本実施形態では、溶液SLを噴霧する装置とは別体として、検知ドローンによりミストMTが吸気され、照射光が照射され、そして、合成分子SMから発した蛍光の光強度が測定される構成について説明する。なお、溶液SLの溶質の構成については、上述の第1の実施形態で説明したものと同様である。
【0084】
(分子検知システムの動作概要)
図8は、第2の実施形態に係る分子検知システムの動作の概要を説明する図である。図8を参照しながら、本実施形態に係る分子検知システム1aの動作の概要について説明する。
【0085】
図8に示すように、分子検知システム1aは、噴霧ロボット10a(噴霧装置の一例)と、検知ドローン60と、監視サーバ40と、を含む。なお、分子検知システム1aは、噴霧ロボット10aおよび検知ドローン60であるとしてもよい。
【0086】
噴霧ロボット10aは、複数の噴霧地点へ移動し、合成分子SMの溶液を測定対象空間に向けて噴霧するロボットである。具体的な動作については以下で後述する。
【0087】
検知ドローン60は、測定対象空間内を飛行し、ミストMTを吸気し、当該ミストMTに対して検知対象分子HMと結合した合成分子SMの電子状態を励起させる照射光を照射し、励起状態となった合成分子SMが発光した蛍光を検出することによって検知対象分子を検知する飛行体である。具体的な動作については以下で後述する。なお、本実施形態では、検知対象分子を検知する飛行体として検知ドローン60を用いるものとしているが、これに限定されるものではなく、当該飛行体として、例えばヘリコプター型のラジコン機等を用いるものとしてもよい。
【0088】
監視サーバ40は、噴霧ロボット10aにより検知対象分子HMに対する検知結果を受信し、当該検知結果から測定対象空間の周辺が危険であると判断した場合、避難指示等の警告を示すメッセージを、周囲の人間が所持している端末50に送信するサーバ装置である。なお、端末50については、上述の第1の実施形態で説明した通りである。
【0089】
図8に示すように、噴霧ロボット10aは、まず、合成分子SMの溶液を測定対象空間に向けて噴霧してミストMTを形成させる(図8に示す「(1)溶液を噴霧」)。なお、合成分子SMについては、上述の第1の実施形態で説明した通りである。
【0090】
次に、測定対象空間に所定の検知対象分子(図8の例では検知対象分子HM)が存在する場合、噴霧されたミストMT中に含まれる合成分子SMの結合分子CMの部分に検知対象分子HMが結合する(図8に示す「(2)結合」)。
【0091】
次に、検知ドローン60は、測定対象空間内を飛行することによって、搭載している測定箱61内にミストMTを吸気し、当該ミストMTに対して所定の波長の照射光を照射する(図8に示す「(3)照射光」)。照射光は、例えば可視光または赤外光等の電磁波であればよく、検知対象分子HMが結合した合成分子SMの電子状態を基底状態から励起状態に遷移させる波長の輝線スペクトルを有する励起光を、少なくとも含む。これによって、検知対象分子HMが結合した合成分子SMの電子状態が励起状態となる。そして、照射光を吸収して励起状態になった合成分子SMは、基底状態および励起状態の安定度、ならびに基底状態と励起状態とのエネルギー準位の差等に基づく時間をかけて、励起状態から基底状態に戻ることにより蛍光を発光する(図8に示す「(4)蛍光」)。
【0092】
次に、検知ドローン60は、ミストMT中の合成分子SMから発光した蛍光を検出(受光)することにより、当該蛍光の光強度を測定する(図8に示す「(5)検知対象分子検知」)。この場合、検出対象となるのは、検知対象分子HMが結合した合成分子SMが発する蛍光である。検知ドローン60は、測定した光強度が所定の閾値以上である場合、測定対象空間に検知対象分子HMに基づく検知対象分子を検知したものと判断する。
【0093】
次に、検知ドローン60は、検知対象分子の検知結果を噴霧ロボット10aへ無線送信する(図8に示す「(6)検知結果」)。さらに、噴霧ロボット10aは、検知対象分子の検知結果を監視サーバ40へ無線送信する(図8に示す「(7)検知結果」)。そして、監視サーバ40は、噴霧ロボット10aから受信した検知対象分子の検知結果が、検知対象分子を検知したことを示すものである場合、避難指示等の警告を示すメッセージを、周囲の人間が所持している端末50に送信する(図8に示す「(8)メッセージ送信」)。
【0094】
(噴霧ロボットの構成)
図9は、第2の実施形態に係る噴霧ロボットの構成の一例を示す図である。図9を参照しながら、本実施形態に係る噴霧ロボット10aの構成について説明する。
【0095】
図9に示すように、噴霧ロボット10aは、コンプレッサ11と、空気圧管12と、溶液タンク13と、溶液流管14と、噴霧装置15と、を備えている。なお、これらの動作については、上述の第1の実施形態で説明した通りである。
【0096】
図9に示すように、噴霧ロボット10aは、さらに、角度移動機構21と、回転軸22と、水平移動機構23と、を備えている。
【0097】
角度移動機構21は、移動制御部33の制御に従って、噴霧装置15の溶液SLの噴霧方向について上下方向の角度を変える機構である。
【0098】
回転軸22は、移動制御部33の制御に従って、噴霧装置15の溶液SLの噴霧方向について水平面方向の角度を変える回転機構である。
【0099】
水平移動機構23は、移動制御部33の制御に従って、噴霧ロボット10aについて路面上を移動させる移動機構である。
【0100】
図9に示すように、噴霧ロボット10aは、さらに、噴霧制御部31と、移動制御部33と、通信部35(第2の通信部)と、を備えている。なお、噴霧制御部31および移動制御部33の動作については、上述の第1の実施形態で説明した通りである。
【0101】
通信部35は、検知ドローン60から検知対象分子の検知結果を受信し、当該検知結果を監視サーバ40へ無線送信する通信回路である。また、監視サーバ40は、通信部35から受信した検知対象分子の検知結果が、検知対象分子を検知したことを示すものである場合、避難指示等の警告を示すメッセージを、周囲の人間が所持している端末50に送信する。
【0102】
(検知ドローンの構成および動作)
図10は、第2の実施形態に係る検知ドローンの構成の一例、および検知対象分子の検知動作を説明する図である。図10を参照しながら、本実施形態に係る検知ドローン60の構成および動作について説明する。
【0103】
図10に示すように、検知ドローン60は、測定箱61と、飛行部62とで構成されている。
【0104】
飛行部62は、複数のプロペラおよび当該プロペラを回転駆動させるモータ等を備え、検知ドローン60を飛行移動させる機構である。
【0105】
測定箱61は、測定対象空間からミストMTを内部に吸気し、当該ミストMTに対して検知対象分子HMと結合した合成分子SMの電子状態を励起させる照射光を照射し、励起状態となった合成分子SMが発光した蛍光を検出することによって検知対象分子を検知する箱状物体である。測定箱61の内壁面は、照射光および蛍光が繰り返し全反射するような鏡面加工面61aとなっている。
【0106】
測定箱61は、図10に示すように、吸気部71と、排気部72と、照射器86(照射部)と、受光レンズ87と、受光フィルタ88と、検出器89(検出部)と、ON/OFF変調制御部92と、検知判定部94(判定部)と、通信部95(第1の通信部)と、自己位置取得部96、を備えている。
【0107】
吸気部71は、図10に示すように、開閉自在な吸気用開閉シャッター71aを有し、当該吸気用開閉シャッター71aが開状態になることによって、測定箱61の内部にミストMTを吸気するための部分である。
【0108】
排気部72は、図10に示すように、開閉自在な排気用開閉シャッター72aを有し、当該排気用開閉シャッター72aが開状態になることによって、測定箱61の内部に存在するミストMTを外部に排気するための部分である。
【0109】
照射器86は、ON/OFF変調制御部92によるON/OFF変調に応じて、上述のように、検知対象分子HMが結合した合成分子SMの電子状態を基底状態から励起状態に遷移(励起)させる波長の輝線スペクトルを有する励起光を少なくとも含む照射光を、測定箱61内部のミストMTへ向けて照射する装置である。照射器86から照射された照射光は、測定箱61内で鏡面加工面61aにおいて全反射を繰り返し、検知対象分子HMが結合した合成分子SMに当たると吸収される。また、励起状態になった合成分子SMが基底状態に遷移することにより発した蛍光は、測定箱61内で鏡面加工面61aにおいて全反射を繰り返し、受光レンズ87により受光され、受光フィルタ88を透過して検出器89により検出される。
【0110】
受光レンズ87は、測定箱61内部のミストMTに含まれる合成分子SMが発する蛍光等を受光するためのレンズである。
【0111】
受光フィルタ88は、受光レンズ87に入射した光からノイズをカットするためのフィルタである。
【0112】
検出器89は、ON/OFF変調制御部92によるON/OFF変調に応じて、受光レンズ87により受光され、受光フィルタ88を透過した光(蛍光)の光強度を測定(検出)する検出装置である。すなわち、検出器89は、受光レンズ87および受光フィルタ88を介して受光した蛍光を検出して、その光強度を測定する。例えば、検出器89は、ロックインアンプ等の電子回路によって構成される。ロックインアンプを用いることによって、受光レンズ87に入射する光のうち、目的とする波長の光の光強度を検出することができる。
【0113】
ON/OFF変調制御部92は、照射器86による照射光の照射動作、および検出器89による蛍光の光強度の測定動作についてON/OFF変調により制御する制御回路である。
【0114】
検知判定部94は、検出器89により測定された、検知対象分子HMが結合した合成分子SMが発する蛍光の光強度に対して閾値判定を行うことにより、検知対象分子HMに基づく検知対象分子を検知したか否かを判定する処理回路である。検知判定部94は、検知対象分子の検知結果を通信部95へ出力する。
【0115】
自己位置取得部96は、GPSの衛星電波を受信して自己の位置情報を取得する処理回路である。なお、GPSに限定されず、その他のGNSSを採用するものとしてもよい。自己位置取得部96は、検知判定部94により検知対象分子HMを検知したと判定された場合に、取得した自己の位置情報を、検知対象分子HMを検知した場所として、通信部95へ出力する。
【0116】
通信部95は、検知判定部94から受信した検知対象分子の検知結果を、自己位置取得部96により取得された位置情報と共に、噴霧ロボット10aの通信部35へ無線送信する通信回路である。無線通信するための規格としては、3G、LTE、4G、5G、またはWi-Fi等が挙げられる。また、噴霧ロボット10aの通信部35は、受信した検知対象分子の検知結果を監視サーバ40へ無線送信する。なお、通信部95は、検知対象分子の検知結果を、監視サーバ40へ直接、無線送信してもよい。そして、監視サーバ40は、噴霧ロボット10aから受信した検知対象分子の検知結果が、検知対象分子を検知したことを示すものである場合、避難指示等の警告を示すメッセージを、周囲の人間が所持している端末50に送信する。
【0117】
(分子検知システムによる検知対象分子検知処理)
図11は、第2の実施形態に係る分子検知システムの検知対象分子検知処理の流れの一例を示すフローチャートである。図12は、第2の実施形態に係る分子検知システムの参照波長の蛍光の光強度の測定処理の流れの一例を示すフローチャートである。図11および図12を参照しながら、本実施形態に係る分子検知システム1aの検知対象分子検知処理の流れについて説明する。
【0118】
<ステップS31>
噴霧ロボット10aの移動制御部33は、水平移動機構23を制御することによって、事前に設定している最初の噴霧地点まで噴霧ロボット10aを移動させる。また、検知ドローン60は、移動制御部33の移動に合わせて、当該最初の噴霧地点に対応する測定対象空間まで飛行移動する。そして、ステップS32へ移行する。
【0119】
<ステップS32>
移動制御部33は、噴霧ロボット10aが目的の噴霧地点に到達すると移動を停止させる。そして、噴霧ロボット10aの噴霧制御部31は、噴霧装置15に対して、測定対象空間へ溶液SLを、第1の所定時間だけ噴霧させる。ここで、溶液SLには、結合分子CMと発光分子LMとの合成分子SMのほか、検知対象分子HMとは異なる非検知対象分子と結合する無害結合分子と、電子状態の変化によって蛍光を発する無害発光分子とが結合した参照用合成分子が溶質として溶け込んでいる。なお、この参照用合成分子については、上述の第1の実施形態で説明した通りである。そして、ステップS33へ移行する。
【0120】
<ステップS33>
検知ドローン60は、測定対象空間内を飛行して、ミストMTを測定箱61内に収集する。そして、ステップS34へ移行する。
【0121】
<ステップS34>
検知ドローン60のON/OFF変調制御部92は、照射器86に対して照射光を測定箱61内へ向けて照射させる。そして、検知ドローン60の測定箱61内で、非検知対象分子が結合した参照用合成分子が発する蛍光、すなわち参照波長の蛍光の光強度が測定される。
【0122】
上述のステップS33およびS34の詳細動作について、図12を参照しながら説明する。
【0123】
<<ステップS341>>
図11に示すステップS32の処理の後、検知ドローン60は、測定箱61の吸気部71および排気部72を開状態にする。そして、ステップS342へ移行する。
【0124】
<<ステップS342>>
検知ドローン60は、測定対象空間を飛行しながら、吸気部71からミストMTを測定箱61内に収集する。そして、ステップS343へ移行する。
【0125】
<<ステップS343>>
検知ドローン60は、測定箱61内にミストMTを収集した後、吸気部71および排気部72を閉状態にする。これによって、測定箱61内にミストMTが収集された状態となる。そして、ステップS344へ移行する。
【0126】
<<ステップS344>>
検知ドローン60のON/OFF変調制御部92は、照射器86に対して照射光を測定箱61内へ向けて照射させる。照射器86により照射光が照射された状態において、検出器89は、ON/OFF変調制御部92の制御に従って、測定箱61の内部から受光レンズ87に入射し、受光フィルタ88を透過した参照波長の蛍光(非検知対象分子が結合した参照用合成分子が発する蛍光)の光強度を測定する。以上で、参照波長の蛍光の光強度の測定処理を終了し、図11のステップS35へ移行する。
【0127】
図11に戻り、説明を続ける。
【0128】
<ステップS35>
検知判定部94は、検出器89により測定された参照波長の蛍光の光強度が第1の閾値以上であるか否かを判定する。検出器89により測定された参照波長の蛍光の光強度が第1の閾値以上である場合(ステップS35:Yes)、測定箱61内において検知対象分子検知波長の蛍光が適切に測定できるものと判断され、ステップS36へ移行する。一方、第1の閾値未満である場合(ステップS35:No)、測定箱61内において検知対象分子検知波長の蛍光が適切に測定できないものと判断され、ステップS41へ移行する。
【0129】
<ステップS36>
検知判定部94により参照波長の蛍光の光強度が第1の閾値以上であると判定された場合には、参照波長の蛍光の光強度が適切に測定できるものと判断でき、これにより、検知対象分子検知波長の蛍光の光強度の測定も適切に行うことができると判断される。したがって、検出器89は、ON/OFF変調制御部92の制御に従って、測定箱61内から受光レンズ87に入射し、受光フィルタ88を透過した検知対象分子検知波長の蛍光(検知対象分子HMが結合した合成分子SMが発する蛍光)の光強度を測定する。そして、ステップS37へ移行する。
【0130】
<ステップS37>
検知判定部94は、検出器89により測定された検知対象分子検知波長の蛍光の光強度が第2の閾値以上であるか否かを判定する。検出器89により測定された検知対象分子検知波長の蛍光の光強度が第2の閾値以上である場合(ステップS37:Yes)、ステップS38へ移行し、第2の閾値未満である場合(ステップS37:No)、ステップS39へ移行する。
【0131】
<ステップS38>
検知判定部94は、検出器89により測定された検知対象分子検知波長の蛍光の光強度が第2の閾値以上である場合、測定対象空間において検知対象分子を検知したものと判断し、通信部95は、検知対象分子の検知結果として検知対象分子を検知した旨を噴霧ロボット10aの通信部35へ通知(無線送信)する。噴霧ロボット10aの通信部35は、受信した検知対象分子の検知結果を監視サーバ40へ無線送信する。そして、ステップS40へ移行する。
【0132】
<ステップS39>
検知判定部94は、検出器89により測定された検知対象分子検知波長の蛍光の光強度が第2の閾値未満である場合、測定対象空間において検知対象分子は存在せず安全であると判断し、通信部95は、検知対象分子の検知結果として検知対象分子が存在しない旨を噴霧ロボット10aの通信部35へ通知(無線送信)する。噴霧ロボット10aの通信部35は、受信した検知対象分子の検知結果を監視サーバ40へ無線送信する。そして、ステップS40へ移行する。
【0133】
<ステップS40>
分子検知システム1aによる検知対象分子検知処理について所定の終了条件を満たす場合(ステップS40:Yes)、検知対象分子検知処理を終了し、終了条件を満たさない場合(ステップS40:No)、ステップS43へ移行する。ここで、所定の終了条件とは、例えば、ステップS38により測定箱61内において検知対象分子が検知されたものと判断された場合、所定数の噴霧地点にて安全であると判断された場合、または噴霧ロボット10aもしくは検知ドローン60に故障が発生した場合等が挙げられる。
【0134】
<ステップS41>
検知判定部94は、噴霧ロボット10aが位置する噴霧地点で、検知ドローン60における参照波長の蛍光の光強度の測定が開始されてから第2の所定時間が経過したか否かを判定する。第2の所定時間が経過した場合(ステップS41:Yes)、ステップS42へ移行し、第2の所定時間が経過していない場合(ステップS41:No)、ステップS32へ戻る。
【0135】
<ステップS42>
分子検知システム1aは、その噴霧地点での測定を断念し、噴霧ロボット10aの通信部35を介して監視サーバ40へその旨を送信する。そして、ステップS40へ移動する。
【0136】
<ステップS43>
ON/OFF変調制御部92は、照射器86に対して照射光の照射を停止させる。移動制御部33は、水平移動機構23に対して次の噴霧地点まで噴霧ロボット10aを移動させる。検知ドローン60は、移動制御部33の移動に合わせて、当該次の噴霧地点に対応する測定対象空間まで飛行移動する。そして、ステップS32へ戻る。
【0137】
以上のステップS31~S43の流れによって、分子検知システム1aにより検知対象分子検知処理が実行される。
【0138】
以上のように、本実施形態に係る分子検知システム1aでは、噴霧ロボット10aは、所定の検知対象分子HMと結合する結合分子CMと、エネルギー準位の状態である電子状態の変化によって蛍光を発する発光分子LMとが結合した合成分子SMを溶質として、所定の溶媒に溶かして生成された溶液SLを、測定対象空間に向けて噴霧してミストMTを形成し、検知ドローン60は、測定対象空間を飛行することにより、ミストMTを収集する測定箱61を備え、測定箱61は、収集したミストMTに対して、検知対象分子HMが結合した合成分子SMについて基底状態から励起状態に励起させる波長の励起光を含む照射光を照射する照射器86と、検知対象分子HMが結合した合成分子SMにおいて励起状態から基底状態に遷移することにより発する蛍光を受光し、当該蛍光の光強度を測定する検出器89と、検出器89により測定された蛍光の光強度に基づいて、収集したミストMTにおいて検知対象分子を検知したか否かを判定する検知判定部94と、検知判定部94により判定された検知対象分子の検知結果を、当該検知結果が検知対象分子を検知したことを示す場合に警告を示すメッセージを1以上の端末へ送信することができる監視サーバ40で受信されるように、送信する通信部95と、を備える。これによって、公共空間において検知対象分子が微量な濃度で漂っている場合においても、高精度な検知対象分子の検知結果を端末に通知できる。
【0139】
なお、上述の各実施形態において、分子検知システム1、1aが用いる溶液SLには、1種類の検知対象分子(検知対象分子HM)を検知するために1種類の合成分子(合成分子SM)を含ませるものとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、溶液SLには、複数種類の検知対象分子を検知するために、それぞれ対応した複数種類の合成分子を含ませるものとして用いるものとしてもよい。この場合、それぞれの合成分子に対応した照射光を照射できる照射器を備え、それぞれの合成分子に、対応する検知対象分子が結合した場合に発するそれぞれの蛍光を検出できる検出器を備えればよい。これによって、それぞれの検知対象分子に対応した個別の分子検知ロボット10、または噴霧ロボット10aおよび検知ドローン60をそれぞれ準備する必要がなく、1つの分子検知ロボット10、または1組の噴霧ロボット10aおよび検知ドローン60によって、複数種類の検知対象分子を検知することができる。
【0140】
また、上述の各実施形態では、分子検知ロボット10、または噴霧ロボット10aおよび検知ドローン60のように、移動体であるものとして説明したがが、これに限定されるものではない。例えば、噴霧装置15、照射器16(86)、受光レンズ17(87)、受光フィルタ18(88)および検出器19(89)等を備えたユニットを、固定設置される空気調和機、加湿器または換気扇等の装置の空気循環機構部に装備させることも可能である。
【符号の説明】
【0141】
1、1a 分子検知システム
10 分子検知ロボット
10a 噴霧ロボット
11 コンプレッサ
12 空気圧管
13 溶液タンク
14 溶液流管
15 噴霧装置
16 照射器
17 受光レンズ
18 受光フィルタ
19 検出器
21 角度移動機構
22 回転軸
23 水平移動機構
31 噴霧制御部
32 ON/OFF変調制御部
33 移動制御部
34 検知判定部
35 通信部
36 自己位置取得部
37 検知位置算出部
40 監視サーバ
50 端末
60 検知ドローン
61 測定箱
61a 鏡面加工面
62 飛行部
71 吸気部
71a 吸気用開閉シャッター
72 排気部
72a 排気用開閉シャッター
86 照射器
87 受光レンズ
88 受光フィルタ
89 検出器
92 ON/OFF変調制御部
94 検知判定部
95 通信部
96 自己位置取得部
CM 結合分子
HM 検知対象分子
LM 発光分子
MT ミスト
SL 溶液
SM 合成分子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12