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特開2024-19980系統管理装置、系統管理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019980
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】系統管理装置、系統管理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/06 20060101AFI20240206BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240206BHJP
【FI】
H02J3/06
H02M7/48 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122798
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東野 正和
(72)【発明者】
【氏名】河内 駿介
(72)【発明者】
【氏名】秋山 雪菜
(72)【発明者】
【氏名】木村 操
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 廣次
【テーマコード(参考)】
5G066
5H770
【Fターム(参考)】
5G066AD07
5G066HA13
5G066HB01
5G066HB03
5H770BA11
5H770CA04
5H770CA05
5H770CA06
5H770DA11
5H770DA22
5H770HA03Z
5H770HA05Z
5H770JA17Y
(57)【要約】
【課題】想定される系統擾乱ごとに、系統安定性の向上に効果的なインバータ電源を選定して制御することで、制御量及び疑似慣性を提供するGFMの確保容量を最小化し、かつ、制御候補のインバータ電源を絞り込むための計算負荷の削減も行う。
【解決手段】実施形態の系統管理装置は、潮流情報に基づいて、擾乱の発生点から見て電力系統を潮流の流出側である供給エリアと、潮流の流入側である消費エリアと、に識別する識別部と、前記擾乱の発生時あるいは発生前に前記供給エリアにおけるGFMインバータ電源の全体の容量を実効的に増加させるように制御を行う制御部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潮流情報に基づいて、擾乱の発生点から見て電力系統を潮流の流出側である供給エリアと、潮流の流入側である消費エリアと、に識別する識別部と、
前記擾乱の発生時に前記供給エリアにおけるGrid-Forming(GFM)インバータ電源の全体の容量を実効的に増加させるように制御を行う制御部と、
を備える系統管理装置。
【請求項2】
前記電力系統は、Grid-Following(GFL)制御とGFM制御の両制御機能を持ちその切替が可能な切替可能インバータ電源を有し、
前記制御部は、前記擾乱の発生時に、前記供給エリア側に位置しGFL制御で動作している前記切替可能インバータ電源をGFM制御に切り替える、
請求項1記載の系統管理装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記擾乱の発生時に、GFM制御のインバータ電源を系統に並列させる、
請求項1記載の系統管理装置。
【請求項4】
前記識別部は、前記潮流情報として、あらかじめ系統全体を複数のエリアに分割し、各エリア間の潮流を代表するブランチの潮流計測値を用いる、
請求項1記載の系統管理装置。
【請求項5】
前記識別部は、前記潮流情報として、基幹系統の潮流計測値を用いる、
請求項1記載の系統管理装置。
【請求項6】
前記識別部は、前記潮流情報として、系統情報と電力需要や発電出力の予測値あるいは過去の実績値を入力し算出した潮流計算結果を用いる、
請求項1記載の系統管理装置。
【請求項7】
前記識別部は、前記潮流情報として、季節や時刻、天候といった潮流に関連する要因ごとに予め作成した複数の潮流パターンを用いる、
請求項1記載の系統管理装置。
【請求項8】
前記制御部は、同期発電機の相差角、電圧、周波数等の系統値について、許容可能閾値を予め設定し、動特性をシミュレートした結果から前記許容可能閾値を逸脱する前記擾乱が発見された場合に、前記擾乱の発生時として扱う、
請求項1記載の系統管理装置。
【請求項9】
前記制御部は、擾乱発生点から見て電源の供給側にある一又は複数の前記切替可能インバータ電源を選定し、選定した前記切替可能インバータ電源の中からGFM制御への切替制御対象の組み合わせを選択し、前記組み合わせごとに制御後の動特性をシミュレートして、実際にGFM制御に切り替える前記切替可能インバータ電源を選択する、
請求項2記載の系統管理装置。
【請求項10】
前記制御部は、擾乱発生点から見て電源の供給側にある一又は複数の解列状態にあるGFMインバータ電源を選定し、選定した前記GFMインバータ電源の中から並列対象の組み合わせを選択し、前記組合せごとに制御後の動特性をシミュレートして、実際に並列させる前記GFMインバータ電源を選択する、
請求項3記載の系統管理装置。
【請求項11】
GFMインバータ電源あるいはGFL制御とGFM制御の両制御機能を持ちその切替が可能な切替可能インバータ電源を有する電源系統における系統管理方法であって、
潮流情報に基づいて、擾乱の発生点から見て電力系統を潮流の流出側である供給エリアと、潮流の流入側である消費エリアと、に識別する過程と、
前記擾乱の発生時に前記供給エリアにおけるGFMインバータ電源の全体の容量を実効的に増加させるように制御する過程と、
を備えた系統管理方法。
【請求項12】
GFMインバータ電源の全体の容量を実効的に増加させるように制御する過程は、新たに並列させるGFMインバータ電源あるいはGFM制御に切り替える前記切替可能インバータ電源の組み合わせを選択し、前記組合せごとに制御後の動特性をシミュレートして、実際に並列させる前記GFMインバータ電源あるいはGFM制御に切り替える前記切替可能インバータ電源を選択する過程を含む、
請求項11記載の系統管理方法。
【請求項13】
同期発電機の相差角、電圧、周波数等の系統値について、許容可能閾値を予め設定する過程を備え、
前記制御する過程は、動特性をシミュレートした結果から前記許容可能閾値を逸脱する前記擾乱が発見された場合に、前記擾乱の発生時として扱う、
請求項11又は請求項12記載の系統管理方法。
【請求項14】
GFMインバータ電源あるいはGFL制御とGFM制御の両制御機能を持ちその切替が可能な切替可能インバータ電源を有する電源系統の制御を行う系統管理装置をコンピュータにより制御するためのプログラムであって、
前記コンピュータを、潮流情報に基づいて、擾乱の発生点から見て電力系統を潮流の流出側である供給エリアと、潮流の流入側である消費エリアと、に識別する手段と、
前記擾乱の発生時に前記供給エリアにおけるGFMインバータ電源の全体の容量を実効的に増加させるように制御する手段と、
して機能させるプログラム。
【請求項15】
同期発電機の相差角、電圧、周波数等の系統値について、許容可能閾値を予め設定する手段を備え、
前記制御する手段は、動特性をシミュレートした結果から前記許容可能閾値を逸脱する前記擾乱が発見された場合に、前記擾乱の発生時として扱う、
請求項14記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、系統管理装置、系統管理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電装置や蓄電池等の電力変換装置(インバータ変換器)を介して電力系統に接続するインバータ電源の導入が進んでいる。
【0003】
従来のインバータ電源としてのGrid-Following(GFL)インバータ電源は、同期発電機を主体とした系統に追従するように制御され、慣性や同期化力を有さない。そのため、インバータ電源が主力化した系統で、系統事故等に対する安定性の低下が懸念される。
【0004】
この対策として、主体となって系統を構成するGrid-Forming(GFM)インバータ電源が期待されている。
さらには、同一のインバータ電源でGFLとGFMの切替制御が可能になるよう技術開発が行われている。
【0005】
一方で、GFMが慣性を供出するためには、蓄電池では充放電容量の確保、再生可能エネルギー電源では出力抑制が必要になる。これらは充放電・発電出力機会の損失につながり、インバータ電源の運用者にとって負担になる。
GFMに切り替える容量を最小限に抑えるよう、系統安定性の観点から効果的に制御対象を選定し、上記の運用者への負担を最小化することが望ましい。
【0006】
特許文献1記載の技術においては、電力系統の安定度を判定し必要な慣性・同期化力を算出し、疑似慣性機能付きPCSに割り当てる手法が提案されている。これを電力系統の各ブランチを対象に実施し全ての事故が安定に収束するまで疑似慣性が割り当てられる。安定度計算と組み合わせることで必要最低限の疑似慣性をPCS(Power Conditioning Subsystem)に出力させることができるとしている。
【0007】
この場合において、割り当て対象のPCSは、再生可能エネルギー電源の出力予測から慣性を出力できるか否かのみに基づき決定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-188595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、事故点ごとに過渡安定性の向上に効果的な疑似慣性の割り当て対象は異なり、事故点と対象PCSの配置によっては疑似慣性の割り当てにより同期発電機の相差角が増大し不安定化する。結果として、必要な疑似慣性が過大に算出されている虞があった。
【0010】
また、疑似慣性を割り当てるPCSを総当たりで検索し、安定化する制御対象のPCSを決定しようとすると、PCSの総数が増加して、計算負荷が増大する虞があった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、想定される系統擾乱ごとに、系統安定性の向上に効果的なインバータ電源を選定して制御することで、制御量及び疑似慣性を提供するGFMの確保容量を最小化し、かつ、制御候補のインバータ電源を絞り込むための計算負荷の削減も行える系統管理装置、系統管理方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態の系統管理装置は、潮流情報に基づいて、擾乱の発生点から見て電力系統を潮流の流出側である供給エリアと、潮流の流入側である消費エリアと、に識別する識別部と、前記擾乱の発生時に前記供給エリアにおけるGFMインバータ電源の全体の容量を実効的に増加させるように制御を行う制御部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、第1実施形態の系統管理装置の概要構成ブロック図である。
図2図2は、系統管理装置の管理対象となる系統の概要構成例の説明図である。
図3図3は、インバータ電源の第1構成例の説明図である。
図4図4は、インバータ電源の第2構成例の説明図である。
図5図5は、第1実施形態における運用処理フローチャートの一例の説明図である。
図6図6は、第2実施形態の系統管理装置の概要構成ブロック図である。
図7図7は、第2実施形態における制御対象リスト作成処理フローチャートである。
図8図8は、第2実施形態における運用処理フローチャートの一例の説明図である。
図9図9は第3実施形態の系統管理システムの概要構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1]第1実施形態
図1は、第1実施形態の系統管理装置の概要構成ブロック図である。
系統管理装置10は、系統安定性を判断する基準を設定する閾値設定部11と、潮流計算及び動特性解析を行う演算部12と、インバータ電源群16を構成しているインバータ電源の中から制御対象機を選定し記憶する制御対象選定部13と、選定された制御対象機に対し制御指令を出力する制御部14と、を備えている。
【0015】
上記構成において、系統管理装置10は、系統制御装置として機能している。
またインバータ電源群16を構成している各インバータ電源は、電源と電力変換装置から構成されている。ここで、電源は太陽光発電設備や風力発電設備等の再生可能エネルギー電源、あるいは、蓄電池やEV等の電力貯蔵設備により構成されている。
【0016】
そして、再生可能エネルギー電源は、直流電力を発電し電力変換装置に供給する。また、電力貯蔵設備は、蓄えた電力を電力変換装置に供給する。
さらに電力変換装置は、供給された電力を系統運用上許容される範囲で任意の電圧及び周波数を有する交流電力として系統に供給する。
【0017】
系統管理装置10は、1台の装置として構成したり、機能ごとに別装置で構成したりすることも可能である。また、基幹系統規模の監視制御システムとして構成したり、マイクログリッドにおけるEMS(エネルギーマネジメントシステム)のように一部の送配電系統を監視制御するシステムとして構成したりすることも可能である。
また、演算部12に代えて、外部装置で演算した結果を入力する演算結果入力部(演算結果入力インタフェース部)として構成することも可能である。
【0018】
図2は、系統管理装置の管理対象となる系統の概要構成例の説明図である。
図2において、管理対象となる系統20は、同期発電機21a、21bと、インバータ電源群16を構成しているインバータ電源22a~22cと、昇圧トランス23a~23bと、昇圧トランス24a~24cと、ノード25a~25cと、ブランチ26a~26cと、を備えている。
【0019】
上記構成において、同期発電機21aは、昇圧トランス23aを介してノード25aに接続され、同期発電機21aの発電電力は、昇圧されてノード25aに供給される。
また、同期発電機21bは、昇圧トランス23bを介してノード25cに接続され、同期発電機21bの発電電力は、昇圧されてノード25cに供給される。
上記説明では、同期発電機が昇圧トランス1台でノードに接続するように記載しているが、複数の変圧器で段階的に電圧を変化させてもよい。
【0020】
ここで、インバータ電源の構成について説明する。
インバータ電源22aは、昇圧トランス24aを介してノード25aに接続され、インバータ電源22aの供給電力は、昇圧されてノード25aに供給される。
インバータ電源22bは、昇圧トランス24bを介してノード25bに接続され、インバータ電源22bの供給電力は、昇圧されてノード25bに供給される。
インバータ電源22cは、昇圧トランス24cを介してノード25cに接続され、インバータ電源22cの供給電力は、昇圧されてノード25cに供給される。
この場合においても、同期発電機と同様に、インバータ電源が昇圧トランス1台でノードに接続するように記載しているが、複数の変圧器で段階的に電圧を変化させてもよい。
【0021】
ここで、インバータ電源についてより詳細に説明する。
図3は、インバータ電源の第1構成例の説明図である。
図3においては、インバータ電源22aをGFL制御とGFM制御の両制御機能を持ちその切替が可能な切替可能インバータ電源として構成した場合を例としている。
系統管理装置10の制御対象選定部13は、擾乱の発生時に、各インバータ電源が擾乱発生点に対して潮流の流出側である供給エリア側に位置しているのか、あるいは、擾乱発生点に対して潮流の流入側である消費エリア側に位置しているのかを識別する。
【0022】
そして、識別結果に基づいて、供給エリア側に位置しGFL制御で動作している第1構成例のインバータ電源が制御対象となった場合には、当該切替可能インバータ電源をGFM制御に切り替えることとなる。
また、潮流の流入側である消費エリア側に位置するインバータ電源については、制御対象とはしない。
【0023】
図4は、インバータ電源の第2構成例の説明図である。
図4においては、インバータ電源22bが、第1インバータ電源22b-1、第2インバータ電源22b-2及びコンタクタ22b-3を備えて構成されている。
【0024】
この場合において、GFL制御あるいはGFM制御に制御が固定された第1インバータ電源22b-1に対し、コンタクタ22b-3により並列にGFM制御の第2インバータ電源22b-2が解列状態で設けられている。なお、第2インバータ電源22b-2の並解列は、コンタクタ22b-3に限らず、遮断器や電力変換装置のゲートの制御を使用する形態も考えられる。
【0025】
図4の例では、インバータ電源22bはGFL制御あるいはGFM制御の第1インバータ電源22b-1に対し、並列可能なGFM制御の第2インバータ電源22b-2が一台接続する構成であるが、第2インバータ電源22b-2を複数設けるように構成することも可能である。また、第1インバータ電源22b-1と第2インバータ電源22b-2が、それぞれノードに接続する構成も考えられる。
【0026】
第2構成例のインバータ電源が制御対象となった場合には、系統管理装置10の制御部14は、GFM制御の第2インバータ電源22b-2を系統に並列させる。
具体的には、図4の例の場合、インバータ電源22bが制御対象となった場合には、系統管理装置10の制御部14は、コンタクタ22b-3を閉状態とするように制御し、解列状態で設けられているGFM制御の第2インバータ電源22b-2を並列させるように制御を行う。
【0027】
再び、図2に戻って説明を行う。
ノード25aとノード25bとは、ブランチ26bにより接続され、さらにブランチ26aによりノード25aは他のブランチと接続されている。
ノード25bとノード25cとは、ブランチ26cにより接続されている。
【0028】
この場合において、潮流は、一例として、ノード25aからノード25b及びノード25cの方向に流れているものとする。
また、系統管理装置10は、各インバータ電源22a~22cを制御可能に接続されているものとする。
【0029】
次に第1実施形態の動作を説明する。
図5は、第1実施形態における運用処理フローチャートの一例の説明図である。
まず系統管理装置10の閾値設定部11は、各同期発電機21a、21bあるいはノード25a~25c、ブランチ26a~26cに対し、同期発電機の相差角や電圧、周波数等の系統値の許容可能閾値を設定する(ステップS11)。
【0030】
系統管理装置10の演算部12は、潮流計算を実施し、各ブランチの潮流や電圧位相角を算出・記憶する(ステップS12)。
演算部12は、系統事故などの想定する各擾乱での動特性解析を行う(ステップS13)。
【0031】
続いて演算部12は、閾値設定部11で設定した許容可能閾値を逸脱する、あるいは同期発電機が脱調するなどの不安定な応答があったか否かを判断する(ステップS14)。
この場合において、許容可能閾値を逸脱する擾乱が解析により発見された場合に、擾乱の発生時として扱う。
【0032】
ステップS14の判断において、閾値設定部11で設定した許容可能閾値を逸脱しておらず、かつ、同期発電機が脱調するなどの不安定な応答が発生していない場合には(ステップS14;No)、次の擾乱での動特性解析を行う。
【0033】
ステップS14の判断において、閾値設定部11で設定した許容可能閾値を逸脱する、あるいは同期発電機が脱調するなどの不安定な応答が生じる擾乱があった場合(ステップS14;Yes)、対策イベントに設定し、対策イベントに設定された擾乱において、演算部12における潮流算出の結果から潮流方向あるいは電圧位相角を参照し、制御対象選定部13で擾乱発生点から見て潮流の供給側にあるインバータ電源を制御候補機に設定する(ステップS15)。
【0034】
例えば、擾乱発生点がブランチ26bであった場合には、擾乱発生点から見て潮流の供給側にあるインバータ電源22aを制御候補機に設定することとなる。
次に、制御候補機の中から実際に制御指令を出力する対象機を選定する(ステップS16)。
【0035】
この場合において、選定基準としては、系統値が許容可能閾値から最も大きく逸脱しているノード近傍のインバータ電源としているが、その他にも擾乱発生点の直近や末端のインバータ電源としてもよい。
【0036】
選定されたインバータ電源の制御が行われたものとして(例えば、切替可能インバータ電源をGFM制御に切り替えられたものとして)系統をシミュレートし、再度対策イベントでの動特性解析を行う(ステップS17)。
【0037】
続いて演算部12は、閾値設定部11で設定した許容可能閾値を逸脱する、あるいは同期発電機が脱調するなどの不安定な応答が生じるか否かを判断する(ステップS18)。
【0038】
ステップS18の判断において、閾値設定部11で設定した許容可能閾値を逸脱する、あるいは同期発電機が脱調するなどの不安定な応答があった場合(ステップS18;Yes)、すなわち、依然として対策イベント時に安定に収束しない場合には、処理を再びステップS16に移行し、制御候補機の中から次の対象機を選定し、以下、再び上述した処理を行う。
【0039】
ステップS18の判断において、安定に収束した場合には、シミュレートしたインバータ電源の制御後の状態を保持したまま再度各擾乱での動特性解析を実施し、以下、上述した処理を行う。全ての擾乱で許容可能閾値を逸脱せず、かつ、同期発電機が脱調するなどの不安定な応答が発生しない場合には、制御部14から制御対象機に設定されたインバータ電源に対し制御指令が出力されて(ステップS19)、処理を一旦終了する。
上述した処理は、周期的に実施され、常時系統の安定運転がなされるように動作する。
【0040】
ここで、より具体的な動作を説明する。
上述したように、潮流がノード25aからノード25b、25cの方向に流れている。
例えば、ステップS13でブランチ26cでの短絡事故に対して動特性解析を行った結果、ノード25aやノード25bにおける周波数や電圧がステップS11で設定した許容可能閾値を逸脱したとする。
【0041】
これにより、系統管理装置10の制御対象選定部は、識別部として機能し、擾乱の発生時に、各インバータ電源が擾乱発生点に対して潮流の流出側である供給エリア側に位置しているのか、あるいは、擾乱発生点に対して潮流の流入側である消費エリア側に位置しているのかを識別する。
そして、供給エリア側に位置するインバータ電源であって、上述した第1構成例のインバータ電源あるいは第2構成例のインバータ電源を制御候補機に設定する。
【0042】
より具体的には、擾乱発生点(事故点)のブランチ26cの潮流は、ノード25bからノード25cに向けて流れるため、ステップS15において、擾乱発生点から見て潮流の供給側にあるインバータ電源22a、22bが制御候補機に設定される。
【0043】
ステップS16で、周波数変動が最も大きくシミュレートされたノードがノード25aであった場合、ノード25aに接続するインバータ電源22aを制御対象に設定する。
【0044】
ステップS17で、制御回路をGFMに切り替えた、あるいはGFM電源を系統に並列させた場合の動特性を再度シミュレートし、全てのブランチで周波数や電圧等の系統値が許容可能閾値内に収まると、再度ステップS13で全ての擾乱に対する動特性解析を実施する。
【0045】
そして、全ての擾乱に対し系統値が許容可能閾値内に収まると、制御対象機に設定されたインバータ電源22aに対し、制御指令が出力される。ここでは、制御指令が出力される条件として、全ての擾乱が安定に収束することを条件としているが、擾乱数に閾値を設けて、一定数以上の擾乱で安定に収束すると、制御指令を出力し残りの擾乱は別対策で安定化制御を検討するとしても良い。
【0046】
ところで、インバータ電源が主力化した系統では、系統事故等の擾乱に対する安定性が低下し、対策として疑似慣性を有するインバータ電源が開発されているが、系統慣性の総量のみに注視し慣性を有するインバータ電源を整備すると、かえって系統安定性が悪化したり、過大な慣性の確保につながる可能性がある。
【0047】
これに対し、第1実施形態と同様の適用を行うことにより、慣性の配置が最適化され最低限の制御量及び慣性量の確保量で系統安定性を向上することができる。
【0048】
[2]第2実施形態
図6は、第2実施形態の系統管理装置の概要構成ブロック図である。
図6において、図1の第1実施形態と同様の部分には、同一の符号を付すものとする。
【0049】
系統管理装置10Aは、系統安定性を判断する基準を設定する閾値設定部11と、潮流計算及び動特性解析を行う演算部12Aと、インバータ電源群16を構成しているインバータ電源の中から制御対象機を選定し記憶する制御対象選定部13と、選定された制御対象機に対し制御指令を出力する制御部14と、を備えている。
【0050】
そして、第2実施形態においては、基本的な構成は第1実施形態と同様であるが、潮流を監視する潮流監視端末17-1~17-n(nは、2以上の自然数)と、擾乱位置や擾乱内容を検知する擾乱検出端末18-1~18-m(mは、2以上の自然数)と、が複数の変電所や開閉所に設置されている。
【0051】
そして、潮流監視端末17-1~17-nは、制御対象選定部13と通信を行い、擾乱検出端末18-1~18-mは、制御部14と通信を行っている。
【0052】
この場合において、潮流監視端末17-1~17-nと、擾乱検出端末18-1~18-mとは1つの装置に両機能を有してもよいし、系統管理装置10Aに記載の機能も端末側で有してもよい。
【0053】
図7は、第2実施形態における制御対象リスト作成処理フローチャートである。
また、図8は、第2実施形態における運用処理フローチャートの一例の説明図である。
【0054】
まず系統管理装置10Aの閾値設定部11は、各同期発電機21a、21bあるいはノード25a~25c、ブランチ26a~26cに対し、同期発電機の相差角や電圧、周波数等の系統値の許容可能閾値を設定する(ステップS11)。
【0055】
潮流監視端末17-1~17-nは、各ブランチの潮流や電圧位相角を計測し、系統管理装置10Aに定期的に送信する(ステップS12A)。
演算部12Aは、系統事故などの想定する各擾乱での動特性解析を行う(ステップS13)。
【0056】
続いて演算部12Aは、閾値設定部11で設定した許容可能閾値を逸脱する、あるいは同期発電機が脱調するなどの不安定な応答があったか否かを判断する(ステップS14)。
【0057】
ステップS14の判断において、閾値設定部11で設定した許容可能閾値を逸脱しておらず、かつ、同期発電機が脱調するなどの不安定な応答が発生していない場合には(ステップS14;No)、次の擾乱での動特性解析を行う。
【0058】
ステップS14の判断において、閾値設定部11で設定した許容可能閾値を逸脱する、あるいは同期発電機が脱調するなどの不安定な応答が生じる場合(ステップS14;Yes)、対策イベントに設定し、対策イベントに設定された擾乱において、潮流監視端末17-1~17-nで計測した潮流情報から潮流方向あるいは電圧位相角を参照し、制御対象選定部13で擾乱発生点から見て潮流の供給側にあるインバータ電源を制御候補機に設定する(ステップS15)。
【0059】
例えば、擾乱発生点がブランチ25bであった場合には、擾乱発生点から見て潮流の供給側にあるインバータ電源22aを制御候補機に設定することとなる。
次に、制御部14は、制御候補機の中から実際に制御指令を出力する対象機を選定し、制御対象リストに加えて、制御対象リストを更新する。さらに当該インバータ電源を制御候補機から除外する(ステップS16A)。
【0060】
この場合において、選定基準としては、系統値が許容可能閾値から最も大きく逸脱しているノード近傍のインバータ電源としているが、その他にも擾乱発生点の直近や末端のインバータ電源としてもよい。
【0061】
選定されたインバータ電源の制御が行われたものとして(例えば、切替可能インバータ電源をGFM制御に切り替えられたものとして)系統をシミュレートし、再度対策イベントでの動特性解析を行う(ステップS17)。
【0062】
続いて演算部12は、閾値設定部11で設定した許容可能閾値を逸脱する、あるいは同期発電機が脱調するなどの不安定な応答が生じるか否かを判断する(ステップS18)。
【0063】
ステップS18の判断において、閾値設定部11で設定した許容可能閾値を逸脱する、あるいは同期発電機が脱調するなどの不安定な応答が生じる場合(ステップS18;Yes)、すなわち、依然として対策イベント時に安定に収束しない場合には、処理を再びステップS16Aに移行し、制御候補機の中から次の対象機を選定し、以下、再び上述した処理を行う。
【0064】
ステップS18の判断において、安定に収束した場合には、シミュレートしたインバータ電源の制御後の状態を保持したまま再度各擾乱での動特性解析を実施し、以下、上述した処理を行う。全ての擾乱で許容可能閾値を逸脱せず、かつ、同期発電機が脱調するなどの不安定な応答が発生しない場合には、制御対象リストの更新処理を一旦終了する。
上述した処理は、周期的に実施され、制御対象リストが常に最新の状態に更新される。
【0065】
上記処理と並行して、制御部14は、擾乱検出端末18-1~18-mと通信を行って、系統のいずれかの箇所で系統擾乱イベントXが発生したことを擾乱検出端末18-1~18-mのいずれかが検出したか否かを判断する(ステップS21)。
ステップS21の判断において、擾乱検出端末18-1~18-mの全てが系統擾乱イベントXの検出をしていない場合には(ステップS21;No)、待機状態となる。
【0066】
ステップS21の判断において、系統擾乱イベントXが発生したことを擾乱検出端末18-1~18-mのいずれかが検出した場合には(ステップS21;Yes)、制御部14は、制御対象リストを参照して、系統擾乱イベントXに対応した制御対象のインバータ電源に対し制御指令が出力されて(ステップS22)、処理を一旦終了する。
【0067】
これらの処理が順次繰り返されて、常時系統の安定運転がなされるように動作する。
【0068】
以上の説明では、潮流監視端末17-1~17-nの計測データを収集して潮流を検出していたが、季節や時刻、天候ごとに潮流はパターン化していると考え、複数作成した潮流パターンを潮流情報として使用し、潮流監視端末を省略するようにしてもよい。
【0069】
この場合、あらかじめ潮流パターンごとにステップS11~S18の演算を実施し制御対象機リストを作成・記憶し、季節や時刻、天気予報等をもとに、当日の潮流を潮流パターンと紐づけ、擾乱が発生した場合に制御するインバータ電源をスケジューリングしておくようにすればよい。
【0070】
本第2実施形態によれば、系統事故に対して第1実施形態と同様に何れかのインバータ電源を制御対象に設定し、制御対象リストとして記憶する。
そして、ノード25a~25c等に設置された擾乱検出端末18-1~18-mでブランチの系統事故を検出すると、制御部14で記憶した制御対象リストを呼び出し、制御対象のインバータ電源に制御指令が出力される。
【0071】
したがって、第1実施形態と比較して、本第2実施形態によれば、擾乱が発生した際にのみ制御指令が出力されるため、より制御量や慣性の確保量を抑えることができる。
【0072】
[3]第3実施形態
図9は第3実施形態の系統管理システムの概要構成ブロック図である。
図9において図6と同様の部分には、同一の符号を付すものとする。
本第3実施形態の系統管理システムが、上記各実施形態と異なる点は、潮流情報のみを使用し動特性解析を使用しない点である。
【0073】
本第3実施形態では、潮流監視端末17-1~17-nからの潮流情報に基づいて、制御対象選定部13で系統事故などの想定する擾乱に対応する制御対象のインバータ電源を選定し、擾乱検出端末18-1~18-mに定期的に送信する。擾乱検出端末18-1~18-mで制御対象リストを記憶する。
【0074】
現場に設置された擾乱検出端末18-1~18-mで対象の擾乱を検出すると、記憶していた制御対象リストに基づいてインバータ電源群16を構成する対応のインバータ電源に対し、制御指令を出力する。本第3実施形態では、第1実施形態あるいは第2実施形態における制御部14の機能を擾乱検出端末18-1~18-mが備える。
【0075】
この場合において、潮流監視端末17-1~17-nは、系統をいくつかのエリアに分離し、そのエリア間の潮流を監視するように代表設置とすることも可能である。
【0076】
また、第2実施形態と同様に擾乱検出端末18-1~18-mから擾乱内容と位置を系統管理装置10Bへ送信し、系統管理装置10Bに設けた制御部14からインバータ電源群16を構成する制御対象である対応するインバータ電源に対し、制御指令を出力する構成とすることも可能である。
【0077】
本第3実施形態においては、第1実施形態と同様に、系統擾乱に対して制御対象候補のインバータ電源を制御対象リストに登録し、記憶する。
【0078】
そして、ノード25a~25c等に設置された擾乱検出端末18-1~18-mにおいて、系統擾乱を検出すると、擾乱検出端末18-1~18-mにおいて記憶した制御対象リストに基づき、対応するインバータ電源に制御指令が出力される。
【0079】
本第3実施形態によれば、第2実施形態の効果に加えて、通信の上り下りが削減され、ローカルで対応が行えるので、より迅速な制御が可能である。また、動特性解析を使用しないため、計算負荷の削減が可能となる。
【0080】
本実施形態の系統管理装置は、CPUなどの制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶装置と、HDD、CDドライブ装置などの外部記憶装置と、ディスプレイ装置などの表示装置と、キーボードやマウスなどの入力装置を備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成とすることが可能である。
【0081】
本実施形態の系統管理装置で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルで、USBメモリ、SSD(Solid State Drive)などの半導体記憶装置、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0082】
また、本実施形態の系統管理装置で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、本実施形態の系統管理装置で実行される~プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。
【0083】
また、本実施形態の系統管理装置のプログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0084】
本実施形態の系統管理装置で実行されるプログラムは、上述した各部(閾値設定部、演算部、制御対象選定部、制御部)を含むモジュール構成となっており、実際のハードウェアとしてはCPU(プロセッサ)が上記記憶媒体から~プログラムを読み出して実行することにより上記各部が主記憶装置上にロードされ、閾値設定部、演算部、制御対象選定部、制御部が主記憶装置上に生成されるようになっている。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0086】
10、10A、10B 系統管理装置
11 閾値設定部
12、12A、12B 演算部
13 制御対象選定部
14 制御部
16 インバータ電源群
17-1~17-n 潮流監視端末
18-1~18-m 擾乱検出端末
20 系統
21a、21b 同期発電機
22a~22c インバータ電源
22b-1 第1インバータ電源
22b-2 第2インバータ電源
22b-3 コンタクタ
23a、23b 昇圧トランス
24a~24c 昇圧トランス
25a~25c ノード
26a~26c ブランチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9