(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020010
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】電力システム、および、制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/01 20060101AFI20240206BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
H02J3/01
H02J13/00 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122854
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 廉
(72)【発明者】
【氏名】関口 慧
(72)【発明者】
【氏名】水谷 麻美
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 宏次
(72)【発明者】
【氏名】三ッ本 憲史
(72)【発明者】
【氏名】小林 武則
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AC05
5G064AC08
5G064CB08
5G064CB10
5G064DA01
5G066CA09
5G066EA03
5G066HA15
5G066HB03
(57)【要約】
【課題】電力システムの電力変換装置における高調波共振を効果的に抑制する。
【解決手段】実施形態の電力システムにおいて、電力変換装置は、電力系統側の交流電源との電気的な接続の切り替えを行う開閉器と、直流電力で動作する装置である直流装置との接続を切り替えるスイッチング素子を含む電力変換器と、スイッチング素子に動作指令を与える変換器制御部と、を備える。電力システムは、電力システムにおける高調波を検知する高調波検知部と、複数の電力変換装置に接続され、電力変換装置に対して運転状態指令を出力するとともに、高調波が所定基準を超過したことを検知した場合に、複数の電力変換装置に、運転状態を高調波抑制用の所定の運転状態に変更させる運転状態変更指令を出力し、その後に高調波が所定基準以下なったことを検知した後に、運転状態変更指令を出力する対象の電力変換装置の数を徐々に減少させる指令機能部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力と直流電力を相互に変換する複数の電力変換装置を備える電力システムであって、
前記電力変換装置は、
電力系統側の交流電源との電気的な接続の切り替えを行う開閉器と、
直流電力で動作する装置である直流装置との接続を切り替えるスイッチング素子を含む電力変換器と、
前記スイッチング素子に動作指令を与える変換器制御部と、を備え、
前記電力システムは、
前記電力システムにおける高調波を検知する高調波検知部と、
前記複数の電力変換装置に接続され、前記電力変換装置に対して運転状態指令を出力するとともに、
高調波が所定基準を超過したことを前記高調波検知部によって検知した場合に、複数の前記電力変換装置に、運転状態を高調波抑制用の所定の運転状態に変更させる運転状態変更指令を出力し、
その後に高調波が前記所定基準以下になったことを前記高調波検知部によって検知した後に、前記運転状態変更指令を出力する対象の前記電力変換装置の数を徐々に減少させる指令機能部と、を備える電力システム。
【請求項2】
前記高調波検知部、および、前記指令機能部は、複数の前記電力変換装置を制御する制御システムに設けられている、請求項1に記載の電力システム。
【請求項3】
前記電力変換装置間の配線インピーダンスが所定基準値よりも小さい複数の前記電力変換装置を一つの電力ユニットとして構成し、
前記指令機能部は、前記電力ユニットを単位として、前記運転状態変更指令を出力する、請求項1に記載の電力システム。
【請求項4】
前記高調波検知部は、すべての前記電力変換装置よりも前記電力系統側の位置に1つ配置される、請求項1に記載の電力システム。
【請求項5】
前記高調波検知部は、前記電力変換装置ごとに配置される、請求項1に記載の電力システム。
【請求項6】
前記高調波検知部は、前記電力ユニットごとに接続される中間制御システムに配置される、請求項3に記載の電力システム。
【請求項7】
前記高調波検知部は、複数の前記電力変換装置に接続され、交流電圧および/または交流電流の所定の周波数範囲の高調波成分が前記所定基準を超過した状態である高調波基準超過状態、および、前記高調波成分が前記所定基準以下である高調波通常状態のいずれであるかを検知し、
前記指令機能部は、
前記高調波基準超過状態の場合に、複数の前記電力変換装置に、運転状態を前記所定の運転状態に変更させる運転状態変更指令を出力し、
その後に前記高調波通常状態になった後に、前記運転状態変更指令を出力する対象の前記電力変換装置の数を徐々に減少させる、請求項1に記載の電力システム。
【請求項8】
前記高調波検知部は、複数の前記電力変換装置に接続され、交流電圧および/または交流電流の所定の周波数範囲の高調波成分が上限基準値を超過した状態である高調波基準超過状態、前記高調波成分が下限基準値以下である高調波通常状態、および、前記高調波成分が前記上限基準値以下で前記下限基準値を超過した状態である高調波維持状態のいずれであるかを検知し、
前記指令機能部は、
前記高調波基準超過状態の場合に、複数の前記電力変換装置に、前記所定の運転状態に変更させる運転状態変更指令を出力し、
前記高調波通常状態の場合に、前記運転状態変更指令を出力する対象の前記電力変換装置の数を徐々に減少させる、請求項1に記載の電力システム。
【請求項9】
前記指令機能部は、前記高調波基準超過状態のときに、前記開閉器が導通状態で、かつ、前記スイッチング素子がスイッチング停止状態である待機状態の前記電力変換装置に対して、前記運転状態変更指令として、前記スイッチング素子をスイッチングさせるスイッチング運転指令を出力する、請求項7または請求項8に記載の電力システム。
【請求項10】
前記指令機能部は、前記高調波維持状態のときに、前記運転状態変更指令を出力した対象の前記電力変換装置に関して、
前記運転状態指令に変更がない場合、現状の前記運転状態変更指令の出力を継続し、
前記運転状態指令に変更があった場合、前記運転状態変更指令を出力する対象の前記電力変換装置の数を徐々に減少させる、
請求項8に記載の電力システム。
【請求項11】
前記スイッチング運転指令を受信した前記電力変換装置は実質的に零電力で運転する、請求項9に記載の電力システム。
【請求項12】
前記指令機能部は、
前記高調波基準超過状態の場合に、すべての前記電力変換装置に、前記所定の運転状態に変更させる運転状態変更指令を出力する、請求項7または請求項8に記載の電力システム。
【請求項13】
前記指令機能部は、
前記高調波基準超過状態の場合に、複数の前記電力変換装置に、前記運転状態変更指令を出力し、そのときに、前記運転状態変更指令を出力する対象の前記電力変換装置の数を徐々に増加させる、請求項7または請求項8に記載の電力システム。
【請求項14】
前記指令機能部は、高調波が前記所定基準を超過したことを前記高調波検知部によって検知した場合に、すべての前記電力ユニットに、前記運転状態変更指令を出力する、請求項3に記載の電力システム。
【請求項15】
前記指令機能部は、高調波が前記所定基準を超過したことを前記高調波検知部によって検知した場合に、複数の前記電力ユニットに、前記運転状態変更指令を出力し、そのときに、前記運転状態変更指令を出力する対象の前記電力ユニットの数を徐々に増加させる、請求項3に記載の電力システム。
【請求項16】
前記指令機能部は、前記高調波基準超過状態のときに、前記開閉器が導通状態で、かつ、前記スイッチング素子がスイッチング停止状態である待機状態の前記電力変換装置のうち、接続された前記直流装置の状態に応じた優先度に基づいて選択した前記電力変換装置に対して、前記スイッチング運転指令を出力する、請求項9に記載の電力システム。
【請求項17】
前記直流装置は、蓄電池であり、
前記指令機能部は、接続された前記蓄電池の現在の充電状態と、充電状態に関する劣化特性と、に基づいて充放電ニーズを算出し、前記充放電ニーズが高いほど前記優先度が高いとして前記電力変換装置を選択し、選択した前記電力変換装置に対して、前記スイッチング運転指令を出力する、請求項16に記載の電力システム。
【請求項18】
前記直流装置は、発電機であり、
前記指令機能部は、前記発電機の現在の運転状態から発電効率を算出し、前記発電効率が高いほど前記優先度が高いとして前記電力変換装置を選択し、選択した前記電力変換装置に対して、前記スイッチング運転指令を出力する、請求項16に記載の電力システム。
【請求項19】
前記直流装置は、電力の負荷であり、
前記指令機能部は、前記負荷の現在の運転状態から電力供給ニーズを算出し、前記電力供給ニーズが高いほど前記優先度が高いとして前記電力変換装置を選択し、選択した前記電力変換装置に対して、前記スイッチング運転指令を出力する、請求項16に記載の電力システム。
【請求項20】
前記指令機能部は、高調波の検出場所から前記電力変換装置までの配線インピーダンスが小さいほど前記優先度が高いとして前記電力変換装置を選択し、選択した前記電力変換装置に対して、前記スイッチング運転指令を出力する、請求項16に記載の電力システム。
【請求項21】
前記運転状態変更指令が出力されている前記電力変換装置に対する前記運転状態指令が待機状態から変化したとき、
前記指令機能部は、当該電力変換装置に対する前記運転状態変更指令の出力を中止する、請求項1に記載の電力システム。
【請求項22】
前記高調波検知部は、前記指令機能部と無線通信で情報を送受信する、請求項1に記載の電力システム。
【請求項23】
前記指令機能部は、前記高調波基準超過状態のときに、前記開閉器が導通状態で、かつ、前記スイッチング素子がスイッチング停止状態である待機状態の前記電力変換装置に対して前記スイッチング運転指令を出力するときに、予め過去運用データを用いて機械学習によって作成された学習モデルに基づいて、高調波を抑制するために前記スイッチング運転指令を出力する前記電力変換装置の数の最小値を算出し、その最小値の数の前記電力変換装置に前記スイッチング運転指令を出力する、請求項9に記載の電力システム。
【請求項24】
前記指令機能部は、
前記高調波基準超過状態によって前記運転状態変更指令を出力する対象の前記電力変換装置の数が所定閾値以上であり、かつ、所定期間内に前記高調波基準超過状態から前記高調波通常状態に移行しない場合に、前記運転状態変更指令を出力した対象の前記電力変換装置における前記開閉器を開放する、請求項7または請求項8に記載の電力システム。
【請求項25】
交流電力と直流電力を相互に変換する複数の電力変換装置を備える電力システムによる制御方法であって、
前記電力変換装置は、
電力系統側の交流電源との電気的な接続の切り替えを行う開閉器と、
直流電力で動作する装置である直流装置との接続を切り替えるスイッチング素子を含む電力変換器と、
前記スイッチング素子に動作指令を与える変換器制御部と、を備え、
前記制御方法は、
複数の前記電力変換装置に対して運転状態指令を出力する運転指令ステップと、
複数の前記電力変換装置における高調波を検知する高調波検知ステップと、
高調波が所定基準を超過したことを前記高調波検知ステップによって検知した場合に、複数の前記電力変換装置に、運転状態を高調波抑制用の所定の運転状態に変更させる運転状態変更指令を出力し、
その後に高調波が前記所定基準以下になったことを前記高調波検知ステップによって検知した後に、前記運転状態変更指令を出力する対象の前記電力変換装置の数を徐々に減少させる指令機能ステップと、を含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力システム、および、制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電力システムは、例えば、交流電力と直流電力を変換する複数の電力変換装置を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
系統(電力系統)連系する電力変換装置では、系統側の配線や電力負荷等による系統インピーダンスと電力変換装置制御の相互作用で高調波共振が発生し、運転が不安定化して、場合によっては保護停止に至る問題がある。例えば、多数の電力変換装置が連係するマイクログリッドや洋上風力発電システムなどの系統では、それらの相互作用によって深刻な共振トラブルに至るリスクが高い。
【0005】
さらに、電力変換装置は、高調波フィルタを備えているが、運転状態が変化すると高調波フィルタの系統作用が変化し、高調波共振を発生させてしまう恐れがある。
【0006】
そこで、本実施形態の課題は、電力変換装置における高調波共振を効果的に抑制することができる電力システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の電力システムは、交流電力と直流電力を相互に変換する複数の電力変換装置を備える電力システムである。前記電力変換装置は、電力系統側の交流電源との電気的な接続の切り替えを行う開閉器と、直流電力で動作する装置である直流装置との接続を切り替えるスイッチング素子を含む電力変換器と、前記スイッチング素子に動作指令を与える変換器制御部と、を備える。前記電力システムは、前記電力システムにおける高調波を検知する高調波検知部と、前記複数の電力変換装置に接続され、前記電力変換装置に対して運転状態指令を出力するとともに、高調波が所定基準を超過したことを前記高調波検知部によって検知した場合に、複数の前記電力変換装置に、運転状態を高調波抑制用の所定の運転状態に変更させる運転状態変更指令を出力し、その後に高調波が前記所定基準以下になったことを前記高調波検知部によって検知した後に、前記運転状態変更指令を出力する対象の前記電力変換装置の数を徐々に減少させる指令機能部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態の電力システムの全体構成図である。
【
図2】
図2は、実施形態における各構成の配置場所の組み合わせパターンを示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態において、スイッチング運転台数の増加と高調波の抑制の関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施形態の電力システムによる動作を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、変形例1の電力システムの全体構成図である。
【
図6】
図6は、変形例2の電力システムの全体構成図である。
【
図7】
図7は、変形例3の電力システムによる動作を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、変形例4の電力変換装置による動作を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、変形例6の電力システムによる動作を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、変形例10の電力システムによる動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を用いて、本発明の電力システム、および、制御方法の実施形態および変形例について説明する。なお、以下では、電力負荷のことを単に負荷と称する。また、電力系統のことを単に系統と称する場合がある。また、変形例1以降の説明において、それまでの説明と同様の事項については重複する説明を適宜省略する。
【0010】
(実施形態)
図1は、実施形態の電力システムSの全体構成図である。電力システムSは、例えば、数十[MW]級の入力や出力を持つ大規模な蓄電池システム、太陽光発電システム、風力発電システム、負荷システムなどである。電力システムSは、交流電源1と、系統構成2と、複数の電力変換装置3(PCS:Power Conditioning System)と、電力変換装置3ごとに設けられる直流装置4と、制御システム5と、を備える。なお、各構成間の情報通信は、例えば有線で行う。
【0011】
交流電源1は、交流電力を発生させる。
【0012】
系統構成2は、系統側の配線や負荷等であり、系統インピーダンスを発生させる。
【0013】
電力変換装置3は、交流系統と直流装置4(蓄電池、発電機、負荷など)の連系点に設けられ、交流系統が供給する交流電力と、直流装置4が供給する直流電力とを相互に変換する。電力変換装置3は、計器用変圧器VTと、開閉器CBと、連系インダクタIと、高調波フィルタFと、計器用変流器CTと、変換器制御部31と、電力変換器32と、を備える。
【0014】
開閉器CBは、電力系統側の交流電源1との電気的な接続(導通の有無)の切り替えを行う。開閉器CBは、半導体式や機械式であり、制御システム5からの運転状態指令を基に開閉することで、電力変換装置3と電力系統との電気的な接続を切り替える。
【0015】
変換器制御部31は、電力変換器32のスイッチング素子に動作指令を与えるなどの各種制御を実行する。変換器制御部31は、系統インピーダンスを発生する系統構成2と連系インダクタIの間の系統連系点Pに接続された計器用変圧器VTによって得た交流電圧や、連系インダクタIと電力変換器32の間に設けられた計器用変流器CTによって得た交流電流や、制御システム5の指令機能部52からの指令信号などを用いて、電力変換器32のスイッチング動作を制御するためのゲート指令などを生成する。
【0016】
具体的には、変換器制御部31は、電流制御部、変換器制御信号生成部、高調波検出器などを備える。変換器制御部31は、例えば、CPU等のハードウェアプロセッサの記憶部に記憶されるプログラムを実行することにより、制御システム5からの電力指令値やスイッチング指令を基に、電流制御部で系統連系点電圧や交流電流に一般的な比例積分などを施して、スイッチング信号を生成する。
【0017】
高調波検出器は、例えば、系統連系点電圧の検出値にフーリエ変換演算や、カウンタを用いて振動周期を観測する手段などを実施し、所定の周波数範囲高調波振幅の最大値を抽出する。抽出した高調波検出値は、制御システム5へ送信する。この送信は、例えば、有線通信によれば通信が安定するが、無線通信によればケーブルのメンテナンスなどの手間がなくて済む。なお、通信機能は電力変換装置3の制御装置に付属してもよいし、個別の基盤を設けてもよい。また、周波数範囲は、規格等で規定されている高調波規制の対象範囲や事前解析にて高調波の発生リスクが高いことが判明している範囲に設定する。また、例えば、高調波検出器は電力変換装置3の装置外に後付けしてもよい。
【0018】
変換器制御部31は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサが記憶部(不図示)に記憶されるプログラム(ソフトウェア)を実行することにより、各機能を実現する。また、各機能の一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0019】
電力変換器32は、直流装置4との接続を切り替えるスイッチング素子を含む。電力変換器32は、変換器制御部31による制御に基づいて、交流電力と直流電力とを相互に変換する。電力変換器32は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラートランジスター)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor:金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)などの自己消弧型スイッチング素子を用いて構成した回路である。
【0020】
直流装置4は、直流電力で動作する装置であり、例えば、蓄電池、発電機、負荷などである。
【0021】
制御システム5は、電力システムS全体の入出力電力、電力変換装置3の直流側に接続される直流装置4のニーズより算出された、開閉器CBの開閉信号、電力変換装置3の電力指令値やスイッチング指令である運転状態指令を送信する。制御システム5は、高調波検知部51と、指令機能部52と、を備える。
【0022】
高調波検知部51は、系統状態として、電圧、電流、電圧や電流に基づく値などの情報を入力する。これらの情報は、それぞれの電力変換装置3からの通信で得てもよいし、あるいは、別途の検出器から得てもよい。
【0023】
高調波検知部51は、電力システムSにおける高調波を検知する。高調波検知部51は、例えば、変換器制御部31などからの入力情報(高調波検出値など)に基づいて、複数の電力変換装置3について、交流電圧および/または交流電流の所定の周波数範囲の高調波成分が所定基準を超過した状態である高調波基準超過状態、および、高調波成分が所定基準以下である高調波通常状態のいずれであるかを検知する。なお、高調波基準超過状態になったことを判定するための閾値と、高調波通常状態になったことを判定するための閾値は、同じであってもよいし、異なっていてもよい(詳細は後述)。
【0024】
指令機能部52は、複数の電力変換装置3に接続され、電力変換装置3に対して運転状態指令(高調波抑制と関係のない本来の指令)を出力する。また、指令機能部52は、高調波検知部51によって高調波超過状態が検知された場合に、複数の電力変換装置3に、運転状態を高調波抑制用の所定の運転状態に変更させる運転状態変更指令を出力する。また、指令機能部52は、その後に高調波検知部51によって高調波通常状態が検知された後に、運転状態変更指令を出力する対象の電力変換装置3の数を徐々に減少させる。つまり、運転状態変更指令を出力する対象の電力変換装置3の数は、一度に減少させるのではなく、段階的に減少させる。これにより、高調波が再び増加することを抑制できる。
【0025】
また、例えば、指令機能部52は、高調波基準超過状態のときに、開閉器CBが導通状態で、かつ、スイッチング素子がスイッチング停止状態である待機状態の電力変換装置3に対して、運転状態変更指令として、スイッチング素子をスイッチングさせるスイッチング運転指令を出力する。スイッチング運転指令を受信した電力変換装置3は、例えば、実質的に零電力で運転される。これらについて、以下に詳述する。
【0026】
それぞれの電力変換装置3は、運用時の状態として、大きく、待機状態(開閉器CBが導通状態で、かつ、スイッチング素子がスイッチング停止状態)とスイッチング運転状態(電力変換のためにスイッチング運転を行っている状態)のいずれかとなっている。そして、高調波基準超過状態のときは、待機状態の電力変換装置3に対して運転状態変更指令としてスイッチング運転指令を出力することでスイッチング運転をさせる。これにより、高調波を抑制できる。ただし、電力変換装置3は、このスイッチング運転のときに、例えば運用時の通常の大きさの電流を用いると電力損失の点で不利益となるので、零電流や微小電力等の実質的な零電力運転での運転を行うようにすることが好ましい。
【0027】
また、電力システムSの本来の性能を悪化させないために、本来の運転状態指令(開閉器CB、GB(Gate Block:非スイッチング状態)、電力指令値、電源の劣化状況などに関する指令)を優先し、高調波抑制のためのスイッチング運転中の電力変換装置3の本来の運転状態指令が変化したときには、直ちに変化後の運転状態指令に従って電力変換装置3を制御する。
【0028】
また、指令機能部52は、高調波基準超過状態になると、待機状態の電力変換装置3を一斉に(1台以上でも可)スイッチング運転に切替える。その後、指令機能部52は、高調波通常状態になると、スイッチング運転に切り替えた電力変換装置3の数を徐々に減らしていく(例えば、一定期間毎に一台以上ずつ)。
【0029】
また、指令機能部52は、高調波基準超過状態のときに、開閉器CBが導通状態で、かつ、待機状態の電力変換装置3のうち、接続された直流装置4の状態に応じた優先度に基づいて選択した電力変換装置3に対して、スイッチング運転指令を出力するようにしてもよい。
【0030】
例えば、直流装置4は、蓄電池である。その場合、指令機能部52は、接続された蓄電池の現在の充電状態と、充電状態に関する劣化特性と、に基づいて充放電ニーズを算出し、充放電ニーズが高いほど優先度が高いとして電力変換装置3を選択し、選択した電力変換装置3に対して、スイッチング運転指令を出力する。例えば、蓄電池において、充電率80%にて劣化が少ないとすると、充電率が80%より小さいほど充電ニーズ(優先度)が高く、充電率が80%より大きいほど放電ニーズ(優先度)が高い。
【0031】
また、例えば、直流装置4は、発電機である。その場合、指令機能部52は、発電機の現在の運転状態から発電効率を算出し、発電効率が高いほど優先度が高いとして電力変換装置3を選択し、選択した電力変換装置3に対して、スイッチング運転指令を出力する。例えば、PV(Photovoltaic:太陽光発電)や風力発電機の場合、最大効率運転点に近いほど優先度が高い。
【0032】
また、例えば、直流装置4は、電力の負荷である。その場合、指令機能部52は、負荷の現在の運転状態から電力供給ニーズを算出し、電力供給ニーズが高いほど優先度が高いとして電力変換装置3を選択し、選択した電力変換装置3に対して、スイッチング運転指令を出力する。例えば、負荷が温度調整装置の場合、現在温度と設定温度との乖離が大きいほど電力供給ニーズ(優先度)が高い。
【0033】
また、例えば、指令機能部52は、高調波を検知した高調波検出器が接続される場所から電力変換装置3までの配線インピーダンスが小さいほど優先度が高いとして電力変換装置3を選択し、選択した電力変換装置3に対して、スイッチング運転指令を出力する。
【0034】
以上、運転状態変更指令がスイッチング運転指令の場合について説明した。ただし、運転状態変更指令は、これに限定されず、ほかに、例えば、電流制御モードから電圧制御モードへの変更指令であってもよい。電流制御モードでは、交流電源1の電流をフィードバック制御する。電圧制御モードでは、交流電源1の電流を直接フィードバック制御せずに交流電源1の電圧に同期して交流電源側に出力する電圧位相を調整する。
【0035】
その場合、指令機能部52は、高調波基準超過状態の場合に、電流制御モードで運転中の電力変換装置3に対して、運転状態変更指令として、電流制御モードから電圧制御モードへの変更指令を出力する。これによっても、高調波を抑制できる。
【0036】
また、指令機能部52は、非常用の手段として、高調波基準超過状態によって運転状態変更指令を出力する対象の電力変換装置3の数が所定閾値以上であり、かつ、所定期間内に高調波基準超過状態から高調波通常状態に移行しない場合に、運転状態変更指令を出力した対象の電力変換装置3における開閉器CBを開放するようにしてもよい。つまり、ある程度の数の電力変換装置3の運転状態を変化させても高調波共振が継続する場合は、不安定状態の継続を防止するため、複数の開閉器CBの一部または全部を開放する。これによって、例えば高調波フィルタFが系統側に作用しなくなり、系統の高調波安定性を回復できる。
【0037】
なお、高調波検出器、高調波検知部51、指令機能部52の配置場所の組み合わせは、
図1や上述の説明内容のものに限定されない。例えば、
図2に示す組み合わせが可能である。
【0038】
図2は、実施形態における各構成の配置場所の組み合わせパターンを示す図である。例えば、パターン1は、すべてを電力変換装置3に設ける場合である。また、パターン2は、指令機能部52を中間制御システムに設ける場合である。
【0039】
なお、中間制御システムは、別途設けられる構成で、例えば、電力変換装置3と制御システム5の中継ぎの役割を兼ねてもよい。また、中間制御システムを電力変換装置3の近くに設けると、両者間でローカルな通信が可能となり、高通信速度、短通信周期、高安定性、低消費電力などの効果が期待できる。
【0040】
また、制御システム5と中間制御システムの間や、電力変換装置3間で、距離が長くて無線通信を使う場合は、例えば、低速通信(モバイル系の電波)を利用する。
【0041】
また、後述する変形例1のように、電力ユニットを設ける場合は、例えば、電力ユニット単位で中間制御システムと高調波検出器を設け、電力ユニット内で運転切替の判定や実行を完結させてもよい。
【0042】
次に、
図3を参照して、スイッチング運転台数の増加と高調波の抑制の関係について説明する。
図3は、実施形態において、スイッチング運転台数の増加と高調波の抑制の関係を示すグラフである。
図3のグラフにおいて、縦軸は高調波の検出値(以下、単に「検出値」ともいう。)である。例えば、検出した電流値や電圧値をフーリエ変換などを使って解析し、高調波の程度を示すデータを検出値として取得する。また、横軸は、時間経過を示し、上部の数値は待機状態からスイッチング運転への切替割合を示す。
【0043】
切替割合0.0%の部分の検出値は、高調波共振の発生しやすい過酷条件において解析した、系統連系点電圧の高調波成分の最大値を示している。そして、運転の切替割合が増加するにつれて、高調波共振の発生(程度)が抑制されていることがわかる。
【0044】
次に、
図4を参照して、電力システムSによる動作について説明する。
図4は、実施形態の電力システムSによる動作を示すフローチャートである。ステップS1~S4において、制御システム5は、電力変換装置3ごとにステップS2、S3の処理を実行する。
【0045】
ステップS2において、指令機能部52は、電力変換装置3が待機状態か否かを判定し、Yesの場合はステップS3をスキップし、Noの場合はステップS3に進む。
【0046】
ステップS3において、指令機能部52は、すでに高調波抑制用の運転状態変更指令(スイッチング運転指令)を出力している対象の電力変換装置3であれば、運転状態変更指令の出力を中止する。つまり、本来の運転状態指令を優先する。例えば、運転状態変更指令の出力中に、本来、待機状態であった運転状態指令が開閉器CBの開放などの待機状態以外の状態に変化した場合には、該当の運転状態変更指令の出力を中止する。
【0047】
次に、高調波検知部51は、ステップS5において、高調波検出器からの高調波検出値を集約し、ステップS6において、所定の基準値と比較する。所定の基準値は、規格等で規定されている高調波規制などに基づいて、規制を満足する値で設定する。高調波検出値が基準値を超過した場合は高調波基準超過状態とし、基準値以下であった場合は高調波通常状態とする。高調波基準超過状態の場合はステップS7に進み、高調波通常状態の場合はステップS8に進む。
【0048】
次に、指令機能部52は、運転状態指令や、高調波検知部51で判定された高調波状態や、電源や負荷の状態などに応じた優先度などに基づき、スイッチング素子をスイッチング運転状態に切り替える運転状態変更指令を設定する。
【0049】
そして、ステップS7において、指令機能部52は、開閉器CBが導通状態、かつ、待機状態となっているすべての電力変換装置3に対して、運転状態変更指令を出力する。
【0050】
また、ステップS8において、指令機能部52は、すでに運転状態変更指令が出力されることによりスイッチング運転となっている電力変換装置3の台数を徐々に減少させる。このとき、スイッチング運転を停止に変更する電力変換装置3の選択は、その直流側に接続される電源や負荷の状態などに応じた優先度などにより決定される。
【0051】
このように、本実施形態の電力システムSによれば、高調波超過状態が検知されたときに待機状態の電力変換装置3をスイッチング運転させ、その後に、高調波通常状態が検知さたときに待機状態に戻す電力変換装置3の数を徐々に増やすことで、高調波共振を効果的に抑制することができる。具体的には、以下の通りである。
【0052】
待機状態の電力変換装置3をスイッチング運転に切り替えることにより、等価的に高調波フィルタFの特性に抵抗成分が加算されるため、高調波共振の抑制効果が得られる。
【0053】
また、待機状態の電力変換装置3を一斉にスイッチング運転に切り替えるようにすれば、高調波共振の抑制効果が最大となるため、素早く高調波共振を抑制することができる。
【0054】
また、待機状態にある一部の電力変換装置3をスイッチング運転に切り替えることで高調波を規定値未満まで抑制することが可能である。そして、高調波通常状態時に、運転状態変更指令によってスイッチング運転で動作する電力変換装置3の台数を徐々に減少させることで、余分なスイッチング運転をさらに控えることが可能となり、電力変換装置3の電力消費や故障率の増加を抑制できる。
【0055】
また、電力変換器32の運転切替によって高調波共振の抑制を実現するため、開閉器CBでの機械的な切り離しと比較して、より早い切替動作が可能であり、高調波の抑制が早くなる。
【0056】
また、高調波検出器の外部設置も可能であるため、既存のシステムへの後付けが容易である。
【0057】
また、余剰分の電力変換装置3を活用し、高調波共振を抑制するので、運転台数等の制約が必要でないため、電力システムSのパフォーマンスを低下させることがない。例えば、特許文献1のように所定の運転状態を回避するような運転制約を必要としない。詳細は以下の通りである。
【0058】
特許文献1の技術では、高調波共振の発生する可能性が高まる特定の運転条件を回避するため、該当する運転条件下では開閉器を開放し電力変換装置を系統から切り離すといった、システムの運用上の制約が設けられている。このような運用上の制約を設ける方法では、システムの能力を最大限に発揮することができない。また、時々刻々と変化する系統状態では、制約で回避されている運転条件以外での高調波の発生に対応できないといった問題がある。
【0059】
一方、本実施形態の手法によれば、特許文献1の技術のような運用上の制約を設ける必要がなく、システムの能力を最大限に発揮することができる。また、時々刻々と変化する系統状態であっても、制約で回避されている運転条件以外での高調波の発生にも対応できる。
【0060】
(変形例1)
次に、変形例1について説明する。
図5は、変形例1の電力システムSの全体構成図である。電力ユニットUは、電力変換装置3間の配線インピーダンスが所定基準値よりも小さい複数の電力変換装置3を備える。そして、電力ユニットUは、制御システム5による電力ユニット単位での運転と、指令機能部によるユニット単位での運転切替を可能とする。つまり、指令機能部は、電力ユニット単位で、運転状態変更指令を出力する。具体的には、以下の通りである。
【0061】
例えば、指令機能部と高調波検出器を備えた中間制御システム(不図示)を電力ユニットUと一対で設ける。指令機能部は、高調波検知部で判定された高調波状態を基に、同一の電力ユニットUに属する電力変換装置3に対応した運転状態変更指令の出力を切り替える。例えば、指令機能部は、高調波基準超過状態の場合、電力ユニット単位で個別に、待機状態となっているすべての運転状態指令に対して、運転状態変更指令を出力する。また、運転状態変更指令を出力する対象の電力変換装置3の数は徐々に増加させてもよい。また、指令機能部は、その後に高調波通常状態になった場合、電力ユニット単位で個別に、運転状態変更指令の出力台数を徐々に減少させる。
【0062】
このように、変形例1によれば、高調波共振を抑制するための運転切替を電力ユニットU内で完結させることにより、電力ユニット単位での設置やメンテナンスが可能となり、汎用性が高くなる。
【0063】
また、一つの電力ユニットUを構成する各機器や装置が比較的近距離で完結されるため、電力ユニットU内の情報通信として、高速で信頼性の高いローカルな無線通信を導入しやすくなる。
【0064】
また、電力ユニット単位での運転切替が可能となり、システムとしての制御性や運転切替の自由度が高くなる。
【0065】
また、電力ユニットU内の電力変換装置3間の配線インピーダンスは小さく、それぞれの電力変換装置3の連系点電圧が同じとして扱えるため、電力ユニット単位での高調波の一括検出も可能となる。つまり、電力変換装置3ごとに高調波検出器を設ける必要がない。
【0066】
(変形例2)
次に、変形例2について説明する。
図6は、変形例2の電力システムSの全体構成図である。高調波検出器6は制御システム5と一対で、交流側に接続され、同一の電力システムSに属する電力変換装置3の高調波を一括で検出する。
【0067】
このように、変形例2によれば、高調波検出器6が一台で済むため、導入コストを抑えることができる。また、制御システム5の近くに高調波検出器を設置することで、より高速で信頼性の高い情報通信が可能となる。
【0068】
(変形例3)
次に、変形例3について説明する。
図7は、変形例3の電力システムS(例えば
図1)による動作を示すフローチャートである。ステップS11において、高調波検知部51(
図1)は、高調波検出器からの高調波検出値を集約し、ヒステリシス幅を設けた所定の基準値(上限基準値と下限基準値)と比較する。
【0069】
上限基準値は、規格等で規定されている高調波規制に基づいて、規制を満足する値で設定する。また、下限基準値は、事前解析にて待機状態の電力変換装置3がすべてスイッチング運転している場合での高調波検出値より高い値で設定する。高調波検出値が上限基準値を超過した場合は高調波基準超過状態とする(ステップS11で「高調波基準超過状態」)。高調波検出値が上限基準値以下、かつ、下限基準値を超過した場合は高調波維持状態とする(ステップS11で「高調波維持状態」)。高調波検出値が下限基準値以下であった場合は高調波通常状態とする(ステップS11で「高調波通常状態」)。
【0070】
高調波基準超過状態の場合、ステップS13において、高調波検知部51は、待機状態となっている電力変換装置3のすべての運転状態指令に対して、運転状態変更指令を出力する。高調波維持状態の場合、高調波検知部51は、電力変換装置3への運転状態指令に変更がなければ(ステップS12でYes)、ステップS14において、現状の運転状態変更指令の出力を維持(継続)する。高調波維持状態で電力変換装置3への運転状態指令に変更があった場合(ステップS12でNo)や高調波通常状態の場合(ステップS11で「高調波通常状態」)、高調波検知部51は、ステップS15において、運転状態変更指令を出力する対象の電力変換装置3の数を徐々に減少させる。
【0071】
このように、変形例3によれば、高調波の基準値にヒステリシス幅を設けることで、電力変換装置3の運転状態について、短時間での過剰な切り替えを防ぐことができる。
【0072】
また、高調波維持状態を追加することで、電力変換装置3の運転状態の切替動作を減らすことができる。また、スイッチング運転にある電力変換装置3が減少した状態を維持することができるため、余分なスイッチング運転や切替動作を減らすことが可能となり、電力変換装置3の故障率や電力消費の増加を抑えられる。
【0073】
また、電力変換装置3の本来の運転状態指令が変化した場合、高調波抑制用のスイッチング運転がゼロ台であっても高調波基準超過状態に至らない場合があるため、スイッチング運転を減少させる。これにより、余分なスイッチング運転を回避することができる。
【0074】
(変形例4)
次に、変形例4について説明する。
図8は、変形例4の電力変換装置3(例えば
図1)による動作を示すフローチャートである。ステップS21において、電力変換装置3は、自身が、高調波基準超過状態、かつ、待機状態か否かを判定し、Yesの場合はステップS22に進み、Noの場合は処理を終了する。
【0075】
ステップS22において、電力変換装置3は、指令機能部52での判定によるスイッチング運転の指令を待つことなく、自律的にスイッチング運転へ切り替える。
【0076】
このように、変形例4によれば、高調波基準超過状態となった電力変換装置3が自律的に待機状態からスイッチング運転に切り替えることで、通信の周期や遅延による影響がないため、高調波共振の抑制動作が早くなり、高調波基準超過状態となる時間を短縮することができる。
【0077】
また、何らかの問題(通信障害等)で、電力変換装置3が制御システム5や中間制御システムからの信号を得られない場合であっても、高調波共振の抑制が可能となり、システムの信頼性が高くなる。
【0078】
(変形例5)
次に、変形例5について説明する。高調波基準超過状態によりスイッチング運転を行う電力変換装置3は、例えば、電力の総和が電力システムS全体で零となるよう、該当する電力指令を設定する。例えば、ある電力変換装置3が電力を消費し、別の電力変換装置3が同量の電力を出力する。なお、電力変換装置3単体の電力や電流が零や微小であって実質的に零となる零電力運転であればよい。
【0079】
このように、変形例5によれば、スイッチング運転時に零電力で運転することにより、電力損失の発生を抑えることができる。また、電力変換装置3の直流部に接続される各要素の劣化を防ぐことができる。
【0080】
(変形例6)
次に、変形例6について説明する。
図9は、変形例6の電力システムSによる動作を示すフローチャートである。高調波基準超過状態の場合(ステップS31で「高調波基準超過状態」)、ステップS32において、指令機能部52は、電力システムS全体または電力ユニットUの区分で、待機状態となっている電力変換装置3の運転状態指令に対して運転状態変更指令を一台以上ずつ徐々に増加させ、高調波共振の抑制を図る。例えば、電力ユニットU単位で、待機状態となっている運転状態指令に対して運転状態変更指令を一ユニット以上ずつ徐々に増加させ、高調波の抑制を図る。
【0081】
また、高調波通常状態の場合(ステップS31で「高調波通常状態」)、ステップS33において、指令機能部52は、運転状態変更指令を一台以上ずつ徐々に減少させる。
【0082】
このように、変形例6によれば、例えば、待機状態の電力変換装置3を一台ずつスイッチング運転に切り替えることで、全てをスイッチング運転に切り替えずとも高調波基準超過状態を回避できる条件下では、スイッチング運転に切り替わる台数を減らすことができる。これにより、余分なスイッチング運転を回避することができる。また、急な運転切替による系統への影響を軽減できる。
【0083】
(変形例7)
次に、変形例7について説明する。指令機能部52(例えば
図1)は、高調波を検出した高調波検出器の接続場所から電力変換装置3までの配線インピーダンスが小さいほど優先度が高いとして電力変換装置3を選択し、選択した電力変換装置3に対して、スイッチング運転指令を出力する。
【0084】
このように、変形例7によれば、スイッチング運転による高調波共振の抑制効果が高まる。これは、高調波の発生源からのインピーダンスが小さい電力変換装置3ほど、スイッチング運転による高調波共振の抑制効果が高いことによる。
【0085】
(変形例8)
次に、変形例8について説明する。各機器や装置間の情報通信は無線であってもよい。例えば、各機器や装置間の情報通信はすべて無線で行う。また、例えば、比較的近距離に設置される機器や装置間の情報通信は有線で行い、長距離に設置される機器や装置間の情報通信は無線で行うようにしてもよい。また、例えば、高速な通信を必要とする機器や装置間の情報通信は有線で行い、その他の機器や装置間の情報通信は無線で行うようにしてもよい。また、高調波検知部は指令機能部と無線通信で情報を送受信するようにしてもよい。
【0086】
無線は有線に比べて、通信速度や安定性に劣るが通信用のケーブル線が必要なく導入しやすい。また、無線の場合は自律切替と相性がよい。つまり、無線の場合、周囲の状況によって通信不能となる可能性が有線の場合よりも高いが、通信不能になっても自律切替の手法(変形例4)を採用していれば自律切替によって高調波の抑制が可能である。
【0087】
このように、変形例8によれば、無線を採用することで、情報通信用のケーブルを削減することが可能となり、設置容易性やメンテナンス性が高くなる。
【0088】
(変形例9)
次に、変形例9について説明する。変形例9では、機械学習の手法を用いる。運転条件学習部によって、予め過去運用データを用いて機械学習によって高調波抑制のためにスイッチング運転指令を出力する電力変換装置3の必要数を予測する学習モデルを作成する。学習時には、運転状態指令、運転状態変更指令、高調波検出器での検出値、高調波検知部での判定結果などの各種データを用いる。
【0089】
そして、指令機能部52は、運用時に、待機状態の電力変換装置3に対してスイッチング運転指令を出力するときに、学習モデルに基づいて、高調波を抑制するためにスイッチング運転指令を出力する電力変換装置3の数の最小値を算出し、その最小値の数の電力変換装置3にスイッチング運転指令を出力する。
【0090】
このように、変形例9によれば、例えば、高調波の検出を使用しない運転切替が可能となり、運転切替の判定が早くなる。
【0091】
また、一斉切替後にスイッチング運転台数を徐々に減少させる方法や、徐々にスイッチング運転台数を増加させる方法では、運転切替が過剰となる可能性や不足する可能性が高いが、学習結果に基づく運転切替では、これらを回避することができる。
【0092】
また、高調波共振の発生条件と抑制するためのスイッチング運転の条件を学習することで、高調波の発生を回避することができる。
【0093】
したがって、例えば、電力システムSの運用当初は、一斉切替後にスイッチング運転台数を徐々に減少させる方法を使用して高調波を抑制しながら、運用データを蓄積しつつ上述の学習を行って学習モデルを作成する。そして、学習モデルの完成後は、学習モデルを用いた方法に切り替えることで、効率よく高調波を抑制することができる。
【0094】
(変形例10)
次に、変形例10について説明する。高調波基準超過状態によって運転状態変更指令を出力する対象の電力変換装置3の数が所定閾値以上であり、かつ、所定期間内に高調波基準超過状態から高調波通常状態に移行しない場合に、運転状態変更指令を出力した対象の電力変換装置における開閉器を開放する。
【0095】
図10は、変形例10の電力システムS(例えば
図1)による動作を示すフローチャートである。例えば、待機状態にあるすべての電力変換装置3が運転状態変更指令によりスイッチング運転となり、なおも高調波基準超過状態であった場合(ステップS41でYes)、ステップS42において、運転状態変更指令の出力対象となっている電力変換装置3の開閉器CBを開放し、スイッチング運転を中止する。
【0096】
このように、変形例10によれば、電力変換装置3が備える高調波フィルタFの回路に起因する高調波共振の発生をスイッチング運転への切り替えで抑制できなかった場合であっても、高調波共振を確実に抑制することができる。そのため、保護動作による運転停止等の最悪の状態を回避できる。
【0097】
本発明の実施形態や変形例を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態や変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態や変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0098】
また、本実施形態の電力システムSで実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disc)-ROM(Read Only Memory)、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータ装置で読み取り可能な記録媒体に記録して提供することができる。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0099】
1…交流電源、2…系統構成、3…電力変換装置、4…直流装置、5…制御システム、31…変換器制御部、32…電力変換器、51…高調波検知部、52…指令機能部、S…電力システム