(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020014
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】溶射装置およびそれを用いた被膜付き基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/00 20160101AFI20240206BHJP
C23C 4/129 20160101ALI20240206BHJP
C23C 4/134 20160101ALI20240206BHJP
C23C 4/08 20160101ALI20240206BHJP
B05B 7/20 20060101ALI20240206BHJP
B05B 7/22 20060101ALI20240206BHJP
B05D 1/10 20060101ALI20240206BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C23C4/00
C23C4/129
C23C4/134
C23C4/08
B05B7/20
B05B7/22
B05D1/10
B05D7/24 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122860
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】307048550
【氏名又は名称】リバストン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】石川 哲也
(72)【発明者】
【氏名】橘 良真
(72)【発明者】
【氏名】山本 亮一
【テーマコード(参考)】
4D075
4F033
4K031
【Fターム(参考)】
4D075AA02
4D075AA71
4D075BB34Y
4D075EA02
4D075EB05
4F033QA01
4F033QB02Y
4F033QB05
4F033QB12Y
4F033QB13Y
4F033QB19
4F033QG07
4F033QG11
4F033QG14
4F033QG20
4F033QG21
4K031AA01
4K031CB27
4K031DA01
4K031DA04
(57)【要約】
【課題】耐電圧が高い溶射被膜を形成することができる溶射装置の提供。
【解決手段】粉体搬送用気体を排出する気体排出部と、粉体原料および粉体搬送用気体を受け入れ、粉体原料が粉体搬送用気体に分散してなる原料分散気体を原料気体排出部から排出する分散部と、原料受入部から原料分散気体を受け入れ、これを用いてフレーム溶射法またはプラズマ溶射法によって溶射して被膜付き基材を形成する溶射部と、分散部における原料気体排出部と溶射部における前記原料受入部とをつなぎ、内部を前記原料分散気体が流れる搬送路と、を有し、搬送路における断面直径の最大値Xが溶射部の原料受入部における断面直径Yよりも大きく、それによって原料受入部の内部における原料分散気体の流速が高められて、溶射部において噴射されるフレームまたはプラズマジェットの中へ原料分散気体を供給可能となる、溶射装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体搬送用気体を排出する気体排出部と、
粉体原料および前記粉体搬送用気体を受け入れ、前記粉体原料が前記粉体搬送用気体に分散してなる原料分散気体を原料気体排出部から排出する分散部と、
原料受入部から前記原料分散気体を受け入れ、これを用いてフレーム溶射法またはプラズマ溶射法によって溶射して被膜付き基材を形成する溶射部と、
前記分散部における前記原料気体排出部と前記溶射部における前記原料受入部とをつなぎ、内部を前記原料分散気体が流れる搬送路と、
を有し、
前記搬送路における断面直径の最大値Xが、前記溶射部の前記原料受入部における断面直径Yよりも大きく、それによって前記原料受入部の内部における前記原料分散気体の流速が高められて、前記溶射部において噴射されるフレームまたはプラズマジェットの中へ前記原料分散気体を供給可能となる、溶射装置。
【請求項2】
前記搬送路における断面直径の最大値Xが、前記分散部の前記原料気体排出部における断面直径Zよりも大きく、それによって前記搬送路の内部における前記原料分散気体の流速が下がり、前記原料分散気体内における前記粉体原料の分散の程度が高まる、請求項1に記載の溶射装置。
【請求項3】
前記搬送路における断面直径の最大値Xは、前記溶射部の前記原料受入部における断面直径Yに対して1.25~10倍である、請求項1または2に記載の溶射装置。
【請求項4】
前記搬送路における断面直径の最大値Xは、前記分散部の前記原料気体排出部における断面直径Zに対して1.25~10倍である、請求項2に記載の溶射装置。
【請求項5】
前記搬送路を鉛直方向上側から見た場合に、前記搬送路の中心軸がなす曲線の曲率半径が120~250mmとなるように前記搬送路を配置した、請求項1または2に記載の溶射装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の溶射装置を用いて溶射して被膜付き基材を得る、被膜付き基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶射装置およびそれを用いた被膜付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乾燥状態の粉末を溶射装置に供給して溶射する方法が提案されている。
例えば特許文献1には、セラミック粉末とされる溶射用粉末を乾燥状態でキャリアガスにより溶射機へと供給し、溶射機により被溶射基材表面に溶射し、前記被溶射基材表面に溶射皮膜を成膜する溶射方法において、前記溶射用粉末は、特定の粒子径のセラミック粉末と、特定の粒子径のセラミック粉末とを混合して得られる粉末混合物であることを特徴とする溶射方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、基材上に耐電圧、特に被膜の厚さ当たりの耐電圧(すなわち、絶縁破壊の強さ)が高い溶射被膜を形成することができる溶射装置およびそれを用いた被膜付き基材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)~(6)である。
(1)粉体搬送用気体を排出する気体排出部と、
粉体原料および前記粉体搬送用気体を受け入れ、前記粉体原料が前記粉体搬送用気体に分散してなる原料分散気体を原料気体排出部から排出する分散部と、
原料受入部から前記原料分散気体を受け入れ、これを用いてフレーム溶射法またはプラズマ溶射法によって溶射して被膜付き基材を形成する溶射部と、
前記分散部における前記原料気体排出部と前記溶射部における前記原料受入部とをつなぎ、内部を前記原料分散気体が流れる搬送路と、
を有し、
前記搬送路における断面直径の最大値Xが、前記溶射部の前記原料受入部における断面直径Yよりも大きく、それによって前記原料受入部の内部における前記原料分散気体の流速が高められて、前記溶射部において噴射されるフレームまたはプラズマジェットの中へ前記原料分散気体を供給可能となる、溶射装置。
(2)前記搬送路における断面直径の最大値Xが、前記分散部の前記原料気体排出部における断面直径Zよりも大きく、それによって前記搬送路の内部における前記原料分散気体の流速が下がり、前記原料分散気体内における前記粉体原料の分散の程度が高まる、上記(1)に記載の溶射装置。
(3)前記搬送路における断面直径の最大値Xは、前記溶射部の前記原料受入部における断面直径Yに対して1.25~10倍である、上記(1)または(2)に記載の溶射装置。
(4)前記搬送路における断面直径の最大値Xは、前記分散部の前記原料気体排出部における断面直径Zに対して1.25~10倍である、上記(2)または(3)に記載の溶射装置。
(5)前記搬送路を鉛直方向上側から見た場合に、前記搬送路の中心軸がなす曲線の曲率半径が120~250mmとなるように前記搬送路を配置した、上記(1)~(4)のいずれかに記載の溶射装置。
(6)上記(1)~(5)のいずれかに記載の溶射装置を用いて溶射して被膜付き基材を得る、被膜付き基材の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、基材上に耐電圧、特に被膜の厚さ当たりの耐電圧(すなわち、絶縁破壊の強さ)が高い溶射被膜を形成することができる溶射装置およびそれを用いた被膜付き基材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の溶射装置の好適態様に該当する溶射装置1を示す図(概略図)である。
【
図2】溶射部10における、主に
図1において記載を省略した部分を示す図(概略図)である。
【
図3】本発明の溶射装置における溶射部であって、プラズマ溶射法によって溶射する態様を示す概略図である。
【
図4】実施例1において得られた被膜付き基材[1]の断面写真(SEM像)である。
【
図5】比較例1において得られた被膜付き基材[2]の断面写真(SEM像)である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明について説明する。
本発明は、粉体搬送用気体を排出する気体排出部と、粉体原料および前記粉体搬送用気体を受け入れ、前記粉体原料が前記粉体搬送用気体に分散してなる原料分散気体を原料気体排出部から排出する分散部と、原料受入部から前記原料分散気体を受け入れ、これを用いてフレーム溶射法またはプラズマ溶射法によって溶射して被膜付き基材を形成する溶射部と、前記分散部における前記原料気体排出部と前記溶射部における前記原料受入部とをつなぎ、内部を前記原料分散気体が流れる搬送路と、を有し、前記搬送路における断面直径の最大値Xが、前記溶射部の前記原料受入部における断面直径Yよりも大きく、それによって前記原料受入部の内部における前記原料分散気体の流速が高められて、前記溶射部において噴射されるフレームまたはプラズマジェットの中へ前記原料分散気体を供給可能となる、溶射装置である。
このような溶射装置を、以下では「本発明の溶射装置」ともいう。
【0009】
また、本発明は、本発明の溶射装置を用いて溶射して被膜付き基材を得る、被膜付き基材の製造方法である。
このような製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0010】
本発明の溶射装置について、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明の溶射装置の好適態様に該当する溶射装置1を示す図(概略図)である。本発明の溶射装置は
図1に示す態様に限定されない。
【0011】
図1に示す溶射装置1は、気体排出部3と、分散部4と、溶射部10と、搬送路7と、を有する。
【0012】
<気体排出部>
気体排出部3について説明する。
気体排出部3は粉体搬送用気体31を排出する。
気体排出部3は空気等の気体を受け入れ、粉体搬送用気体31を排出することができれば、その他については特に限定されない。
【0013】
気体排出部3として、例えば従来公知のコンプレッサーを用いることができる。
気体排出部3は受け入れた空気等の気体を除湿する機能を備えることが好ましい。
【0014】
粉体搬送用気体31は、例えば空気であってよく、乾燥された空気であることが好ましい。
【0015】
気体排出部3から排出された粉体搬送用気体31は、管などの流路を通り、分散部4へ導入される。
【0016】
<分散部>
分散部4について説明する。
分散部4は粉体原料41を受け入れる。また、前述の気体排出部3から排出された粉体搬送用気体31を受け入れる。
【0017】
粉体原料41は、希土類元素(Ln)のフッ化物を含むことが好ましい。
ここで希土類元素(Ln)のフッ化物は、希土類元素(Ln)とフッ素(F)とからなる化合物であれば特に限定されない。希土類元素(Ln)のフッ化物の具体例としてYF3が挙げられる。
【0018】
粉体原料41は、希土類元素(Ln)のフッ化物を20質量%以上含むことが好ましい。この含有率は40質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0019】
粉体原料41は希土類元素(Ln)のフッ化物の他に、希土類のオキシフッ化物(Ln、O、Fを含む化合物、例えばYOF)や希土類の酸化物(例えばY2O3)を含んでもよい。
【0020】
粉体原料41は、アルカリ土類金属のフッ化物を含むことが好ましい。
アルカリ土類金属のフッ化物は、アルカリ土類金属とフッ素(F)とからなる化合物であれば特に限定されない。
【0021】
粉体原料41は、セラミックス粒子を主成分として含むことが好ましい。
ここで「主成分」とは70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは実質的に100質量%(すなわち、原料や製造工程から混入し得る不可避的不純物以外はセラミックス粒子以外を含まないこと)であることを意味する。
以下において特に断りがない限り「主成分」の文言は、このような意味で用いるものとする。
【0022】
セラミックス粒子を構成するセラミックスとしては、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、炭化物セラミックス、ホウ化物セラミックスが挙げられる。
【0023】
酸化物セラミックスとして、BeO、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、CdO、Al2O3、Ga2O3、In2O3、Sc2O3、Y2O3、La2O3、SiO2、GeO2、SnO2、TiO2、ZrO2、HfO2、ThO2、V2O3、Nb2O3、Ta2O3、Cr2O3、MoO3、WO3、UO3、Fe2O3、Fe3O4、NiO、CeO2、Ce2O3、Nd2O3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Dy2O3、Yb2O3、Ta2O5、Hf2O3が挙げられる。
【0024】
窒化物セラミックスとして、BN、AlN、GaN、InN、ScN、YN、LaN、Si3N4、Ge3N4、Sn3N4、TiN、ZrN、HfN、Th3N4、VN、NbN、TaN、CrN、Mo2N、WN、Fe4N、CeN、GdNが挙げられる。
【0025】
炭化物セラミックスとして、B4C、SiC、TiC、ZrC、HfC、ThC、VC、NbC、TaC、Cr3C2、MoC、WC、UC、Fe3C、YCが挙げられる。
【0026】
ホウ化物セラミックスとして、TiB2、ZrB2、HfB2、ThB6、TaB2、MoB2、WB2、CrB2、NbB2、UB2、NiB、FeB、CoBが挙げられる。
【0027】
粉体原料41は、粒子径が0.01~30μmであることが好ましく、0.1~15μmであることがより好ましく、0.5~8μmであることがさらに好ましい。
ここで粉体原料41の粒子径は、従来公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定して求める値とする。
【0028】
粉体原料41は、平均粒子径(メジアン径)が0.01~30μmであることが好ましく、0.5~3μmであることがより好ましい。
ここで粉体原料41の平均粒子径は、従来公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて積算粒度分布(体積基準)を測定して求める値とする。
【0029】
分散部4では、粉体原料41および粉体搬送用気体31を受け入れ、粉体原料41が粉体搬送用気体31に分散してなる原料分散気体42を原料気体排出部43から排出する。
分散部4は、所望の一定流量で原料分散気体42を原料気体排出部43から排出できるものであることが好ましい。
このような機能を備える従来公知の粉末供給装置を、分散部4として用いることができる。このような粉末供給装置として、日本電子株式会社製、品番:TP―Z18011VEFDRが挙げられる。
【0030】
原料気体排出部43は、分散部4と後述する溶射部10とをつなぐ流路の一部であって、分散部4と直接つながり、分散部4との境界αから延びる、その境界αにおける流路の径と同一の径を備える部分を意味するものとする。したがって、
図1に示す溶射装置1の場合であれば、分散部4との境界αから、後述する搬送路7との境界となる境界βまでの部分の流路が同一の径であり、この部分が原料気体排出部43に該当する。
原料気体排出部43における流路の内径(原料分散気体42が流れる方向に対して垂直方向の断面の直径)を「断面直径Z」とする。
ここで、原料分散気体42の流れる方向に沿って、境界αから流路の径が徐々に拡大する等、境界αにおける流路の径と同一の径を備える部分が存在しない場合、原料気体排出部43は、境界αの部分のみを意味するものとする。この場合、境界αにおける流路の断面直径が「断面直径Z」となる。
【0031】
<溶射部>
溶射部10について、
図1に加え、
図2も用いて説明する。
図2は溶射部10における、主に
図1において記載を省略した部分を示す図(概略図)である。
溶射部10は、原料受入部24から原料分散気体42を受け入れ、これを用いてフレーム溶射法またはプラズマ溶射法によって溶射して被膜付き基材を形成する。
【0032】
図1および
図2は、フレーム溶射法によって溶射する場合の溶射部10を示している。
ただし、
図1および
図2に示す溶射部10の他にも、フレーム溶射法によって溶射する態様は存在し、そのような態様であっても本発明に該当し得る。
【0033】
図1において溶射部10は、内部に燃焼室12を有し、この燃焼室12へ酸素含有気体を供給するための酸素流路14および主燃料を供給するための主燃料流路16と、これら酸素含有気体と主燃料との混合体に点火するためのバーナ18とを有する。
図2に示すように、酸素流路14は酸素ガスボンベ51と繋がり、酸素ガスボンベ51から酸素流路14へ酸素含有気体が供給される。また、主燃料流路16は燃料タンク52と繋がり、燃料タンク52から主燃料流路16へ主燃料が供給される。ここで溶射部10はこれらの流路の途中に制御ユニット53を有することが好ましい。制御ユニット53によって酸素ガスボンベ51から供給される酸素含有気体の圧力および流量、ならびに燃料タンク52から供給される燃料の圧力および流量が制御される。
【0034】
溶射部10における燃焼室12には、バーナ18と対向する側に、フレーム25を噴出させるための孔(ガンノズル20)が形成されており、さらにガンノズル20の外側には中心に孔を有する円筒状の先端筒22が設置されていて、ガンノズル20および先端筒22の孔から外側へ向かってフレーム25を噴出させることができる。先端筒22の孔の大きさを調整することで、フレーム25の速度を調整することができる。
【0035】
先端筒22には原料受入部24が形成されていて、ここからフレーム25内へ原料分散気体42を供給する。
【0036】
ここで原料受入部24は、溶射部10と分散部4とをつなぐ流路の一部であって、溶射部10と直接つながり、溶射部10との境界εから延びる、その境界εにおける流路の径と同一の径を備える部分を意味するものとする。したがって、
図1に示す溶射装置1の場合であれば、溶射部10との境界εから、後述する搬送路7との境界となる境界δまでの部分の流路が同一の径であり、この部分が原料受入部24に該当する。
原料受入部24における流路の内径(原料分散気体42が流れる方向に対して垂直方向の断面の直径)を「断面直径Y」とする。
ここで、原料分散気体42の流れる方向に沿って、境界δから流路の径が徐々に縮小する等、境界εにおける流路の径と同一の径を備える部分が存在しない場合、原料受入部24は、境界εの部分のみを意味するものとする。この場合、境界εにおける流路の断面直径が「断面直径Y」となる。
【0037】
また、
図1に示す態様の溶射部10は、原料受入部24を2つ有している。さらに、これらの原料受入部24は、互いに、先端筒22の中心に形成された孔の中心軸に対して対称の位置に形成されている。
溶射部10は、このように原料受入部24を偶数個有し、互いに、先端筒22の中心に形成された孔の中心軸に対して対称の位置に形成されていることが好ましい。すなわち、原料受入部24は先端筒22の外周部に周方向において均等間隔で形成されていることが好ましい。この場合、基材上に耐電圧、特に被膜の厚さ当たりの耐電圧(すなわち、絶縁破壊の強さ)がより高い溶射被膜を形成することができることを、本発明者は見出した。
【0038】
先端筒22には、さらに補助燃料供給流路26が形成されていて、ここからフレーム25へ補助燃料を供給することができる。
図2に示すように、補助燃料供給流路26は補助燃料ガスボンベ54と繋がり、補助燃料ガスボンベ54から補助燃料供給流路26へ補助燃料が供給される。ここで溶射部10はこの流路の途中にレギュレーター55を有することが好ましい。レギュレーター55によって補助燃料ガスボンベ54から供給される補助燃料の流量が制御される。
【0039】
また、
図1に示す態様の溶射部10は、補助燃料供給流路26を2つ有している。さらに、これらの補助燃料供給流路26は、互いに、先端筒22の中心に形成された孔の中心軸に対して対称の位置に形成されている。
溶射部10は、このように補助燃料供給流路26を偶数個有し、互いに、先端筒22の中心に形成された孔の中心軸に対して対称の位置に形成されていることが好ましい。すなわち、補助燃料供給流路26は先端筒22の外周部に均等間隔で形成されていることが好ましい。この場合、基材上に耐電圧、特に被膜の厚さ当たりの耐電圧(すなわち、絶縁破壊の強さ)がより高い溶射被膜を形成することができることを、本発明者は見出した。
【0040】
ガンノズル20には圧縮空気供給流路28が形成されていて、ここから供給された圧縮空気が先端筒22に形成された孔の内側側面に沿って流れるように供給される。これによって原料受入部24から供給された原料分散気体42が、先端筒22が有する孔の内側側面に付着しないように構成されている。
【0041】
また、
図1に示す態様の溶射部10は、圧縮空気供給流路28を2つ有している。さらに、これらの圧縮空気供給流路28は、互いに、先端筒22の中心に形成された孔の中心軸に対して対称の位置に形成されている。
溶射部10は、このように圧縮空気供給流路28を偶数個有し、互いに、先端筒22の中心に形成された孔の中心軸に対して対称の位置に形成されていることが好ましい。すなわち、圧縮空気供給流路28は先端筒22の外周部に均等間隔で形成されていることが好ましい。この場合、基材上に耐電圧、特に被膜の厚さ当たりの耐電圧(すなわち、絶縁破壊の強さ)がより高い溶射被膜を形成することができることを、本発明者は見出した。
【0042】
図2に示すように、圧縮空気は圧縮空気供給装置56によって、一定の圧力にて溶射部10へ供給される。
【0043】
このような
図1および
図2に例示した好適態様である溶射部1を用いて、基材2を溶射することで、溶射被膜を有する被膜付き基材を製造することができる。
【0044】
ここで酸素流路14から供給する酸素含有気体は酸素を含む気体、例えば空気であってよく、酸素と空気とを混合した気体であってもよい。酸素含有気体は酸素であることが好ましい。
【0045】
酸素含有気体は、供給圧力を10~300psiとして供給することが好ましい。
【0046】
酸素含有気体は、流量100~1500L/minで供給することが好ましく、200~1000L/minで供給することがより好ましく、350~600L/minで供給することがさらに好ましい。
【0047】
また、主燃料流路16から供給する主燃料は、供給圧力を10~300psiとして供給することが好ましい。
【0048】
主燃料は、流量50~600ml/minで供給することが好ましく、100~300ml/minで供給することがより好ましく、140~220ml/minで供給することがさらに好ましい。
【0049】
ここで主燃料としては、灯油、アセチレン、プロピレン、プロパン、エチレン、天然ガス等を用いることができる。主燃料は、これらの中でも、灯油であることが好ましい。
【0050】
このようにして酸素含有気体および主燃料を燃焼室12へ供給して混合し、得られた混合体に点火してフレーム25を発生させる。そして、フレーム25の内部へ原料分散気体42を供給する。
【0051】
原料分散気体42の供給量は20~100ml/minであることが好ましく、30~70ml/minであることがより好ましい。
なお、ここでの供給量は常温常圧下に換算した場合の値である。
【0052】
原料分散気体42に含まれる固形分濃度は10~60質量%であることが好ましく、15~50質量%であることがより好ましく、15~40質量%であることがより好ましく、20~38質量%であることがより好ましく、25~35質量%であることがさらに好ましい。
【0053】
圧縮空気は用いなくてよいが、用いる場合、圧縮空気の圧力を0.05~1.5MPaとして供給することが好ましく、0.3~0.8MPaとして供給することがより好ましい。また、圧縮空気は、流量を250~2000L/minとして供給することが好ましく、400~800L/minとして供給することがより好ましい。
なお、圧縮空気の代わりに、圧縮されていない気体(例えば大気)を利用することができる場合もある。
【0054】
補助燃料は用いなくてもよい。補助燃料を用いるとフレーム25の温度を調整することができる点で好ましい。
補助燃料をフレーム25に供給すると、補助燃料がフレーム25内へ供給されて気化する際に気化熱によってフレーム25の温度を低下させることもできる。この場合、粉末原料の少なくとも一部が未溶融状態のまま被膜を構成し易くなるので好ましい。
【0055】
補助燃料として、アセチレン、メタン、エタン、ブタン、プロパン、プロピレンを用いることができる。
【0056】
補助燃料は、供給圧力を0.05~1.0MPaとして供給することが好ましい。
また、補助燃料は、流量を5~100L/minとして供給することが好ましく、10~30L/minとして供給することがより好ましい。
【0057】
図1に示した溶射部10において、先端筒22の先端から基材2の主面までの距離を10~250mmとすることが好ましく、70~150mmとすることがより好ましい。
【0058】
基材2について説明する。
基材2は特に限定されず、アルミニウム、ステンレス、ガラス(石英ガラスや無アルカリガラスなど)、セラミック(Y2O3、AlN、Al2O3などからなる焼結体など)、カーボン等が挙げられる。
【0059】
基材2の大きさや形状は特に限定されないが、板状のものであることが好ましい。本発明の製造方法では、このような板状の基材(基板ともいう)の主面上に被膜を形成することが好ましい。
【0060】
本発明の溶射装置における溶射部は、前述の
図1および
図2を用いて説明した態様のように、フレーム溶射法によって溶射する態様であってよいが、プラズマ溶射法によって溶射する態様であってもよい。
以下では本発明の溶射装置における溶射部であって、プラズマ溶射法によって溶射する態様について、
図3を用いて説明する。
なお、
図3は好適態様を示しており、本発明の溶射装置における溶射部は、これに限定されない。
【0061】
また、
図3に示す溶射装置1´において、溶射部60以外の構成については、
図1に示した態様と同様であってよい。
【0062】
図3において溶射部60は、ノズル状のアノード61とその中心に配置されたカソード62の1対の電極を有する。プラズマは、ガス導入部63からアノード・カソード間のドーナツ状の間隙に不活性ガス(アルゴン、窒素、水素等)を流し、アーク放電によりガスを電離して発生することができる。プラズマガスは、ノズル状のアノード61から溶射部60の外側へプラズマジェット65となって噴出する。
【0063】
原料分散気体42は、ノズル状のアノード61の出口近傍に接続されたパイプ状の原料受入部66を通してプラズマジェット65に供給される。プラズマジェットに供給された原料分散気体42は、プラズマ中で加熱され、溶融状態となり、プラズマジェット65に乗ってアノード61から外部へ噴出し、基材67の表面に被膜68を形成する。
【0064】
なお、原料受入部66は、溶射部60と分散部4とをつなぐ流路の一部であって、溶射部60と直接つながり、溶射部60との境界εから延びる、その境界εにおける流路の径と同一の径を備える部分を意味するものとする。したがって、
図3に示す溶射装置1´の場合であれば、溶射部60との境界εから、後述する搬送路7との境界となる境界δまでの部分の流路が同一の径であり、この部分が原料受入部66に該当する。
原料受入部66における流路の内径(原料分散気体42が流れる方向に対して垂直方向の断面の直径)が「断面直径Y」となる。
ここで、原料分散気体42の流れる方向に沿って、境界δから流路の径が徐々に縮小する等、境界εにおける流路の径と同一の径を備える部分が存在しない場合、原料受入部66は、境界εの部分のみを意味するものとする。
【0065】
原料分散気体42のプラズマジェット65への供給量は5~100ml/minであることが好ましく、10~50ml/minであることがより好ましい。
原料分散気体42に含まれる固形分濃度は10~60質量%であることが好ましく、15~50質量%であることがより好ましく、15~40質量%であることがより好ましく、20~38質量%であることがより好ましく、25~35質量%であることがさらに好ましい。
【0066】
プラズマ溶射は、従来公知の方法で行うことができる。また、原料分散気体42に含まれる粉末原料を完全溶融する処理条件においてプラズマ溶射して、基材の表面に粉末原料からなる被膜を形成することが好ましい。
【0067】
プラズマ溶射はプラズマ温度を10,000度以上として行うことが好ましく、15,000度以上として行うことがより好ましい。耐プラズマ性により優れる被膜を形成することができるからである。
【0068】
<搬送路>
搬送路7について説明する。
搬送路7は内部を原料分散気体42が流れる流路である。搬送路7は分散部4における原料気体排出部43と、溶射部10における原料受入部24、66とをつなぐ。
【0069】
搬送路7は内部を原料分散気体42が流れるホースまたはパイプであってよい。
搬送路7は樹脂からなることが好ましく、導電性を備える樹脂からなることがより好ましい。具体的にはポリウレタンをベースとする導電性樹脂からなることが好ましい。また、ホース状の搬送路7は、その内部に蓄電しないように、内部の電気が外部へ移動(導電)するように構成されていることが好ましい。
【0070】
搬送路7は体積抵抗率が5.0×103Ω・cm以下の材料からなることが好ましく、2.0×103Ω・cm以下の材料からなることがより好ましい。
この場合、基材上に耐電圧、特に被膜の厚さ当たりの耐電圧(すなわち、絶縁破壊の強さ)がより高い溶射被膜を形成することができることを、本発明者は見出した。
【0071】
搬送路7は均一な断面直径を有する態様であってよいが、例えば端部等の断面直径が徐々に広がる態様や、逆に、徐々に狭まる態様であってもよい。
【0072】
本発明の溶射装置(溶射装置1、1´)では、搬送路7における断面直径(原料分散気体42が流れる方向に対して垂直方向の断面の内径)の最大値Xが、溶射部10、60の原料受入部24、66における断面直径Yよりも大きい。それによって原料分散気体42の原料受入部24、66の内部における流速が、搬送路7の内部における流速よりも高まり、溶射部10、66において噴射されるフレーム25またはプラズマジェット65の中へ原料分散気体42を供給可能となる。その結果、基材上に耐電圧、特に被膜の厚さ当たりの耐電圧(すなわち、絶縁破壊の強さ)がより高い溶射被膜を形成することができることを、本発明者は見出した。
【0073】
ここで搬送路7における断面直径の最大値Xは、溶射部10、60の原料受入部24、66における断面直径Yに対して1.25~10倍であることが好ましく、1.5~6倍であることがより好ましく、1.5~5倍であることがより好ましく、1.5~4倍であることがさらに好ましい。その結果、基材上に耐電圧、特に被膜の厚さ当たりの耐電圧(すなわち、絶縁破壊の強さ)がより高い溶射被膜を形成することができることを本発明者は見出した。
【0074】
本発明の溶射装置では、搬送路7における断面直径(原料分散気体42が流れる方向に対して垂直方向の断面の直径)の最大値Xが、分散部4の原料気体排出部43における断面直径Zよりも大きいことが好ましい。この場合、原料分散気体42の搬送路7の内部における流速が、原料気体排出部43の内部における流速よりも低下し、搬送路7内における原料分散気体42内における粉体原料41の分散の程度が高まる。その結果、基材上に耐電圧、特に被膜の厚さ当たりの耐電圧(すなわち、絶縁破壊の強さ)がより高い溶射被膜を形成することができることを本発明者は見出した。
【0075】
搬送路7における断面直径の最大値Xは、分散部4の原料気体排出部43における断面直径Zに対して1.25~10倍であることが好ましく、1.25~6倍であることがより好ましく、1.25~5倍であることがより好ましく、1.25~4倍であることがさらに好ましい。その結果、基材上に耐電圧、特に被膜の厚さ当たりの耐電圧(すなわち、絶縁破壊の強さ)がより高い溶射被膜を形成することができることを本発明者は見出した。
【0076】
搬送路7における断面直径の最大値Xは0.75~10mmであることが好ましく、1.25~7mmであることがより好ましい。
【0077】
溶射部10、60の原料受入部24、66における断面直径Yは0.5~5mmであることが好ましく、1~3mmであることがより好ましい。
【0078】
分散部4の原料気体排出部43における断面直径Zは0.5~6mmであることが好ましく、1~4mmであることがより好ましい。
【0079】
搬送路7を鉛直方向上側から見た場合に、搬送路7の中心軸がなす曲線(
図1において点線で示すω)の曲率半径Rが120~250mmとなるように、搬送路7を配置することが好ましい。ここで曲率半径Rを150~230mmとすることがより好ましく、160~200mmとすることがさらに好ましい。この場合、基材上に耐電圧、特に被膜の厚さ当たりの耐電圧(すなわち、絶縁破壊の強さ)がより高い溶射被膜を形成することができることを本発明者は見出した。
【0080】
ここで搬送路7が2以上に分かれる場合、2以上に分かれる分岐点γから、原料気体排出部43と搬送路7との境界βまでにおける搬送路7の曲率半径Rが上記の範囲であることが好ましい。
【0081】
搬送路7を鉛直方向上側から見た場合に、搬送路7の中心軸がなす曲線ωの曲率半径Rが上記の範囲となるように、搬送路7を固定金具や支持具などを用いて固定することが好ましい。
【0082】
本発明の製造方法によって得られる被膜付き基材は、プラズマを用いる半導体製造装置部材として用いることができると考えられる。本発明の製造方法によって得られる被膜付き基材の被膜が緻密であるからである。
ここで半導体製造装置部材とは、半導体製造に用いる例えばイオン注入装置、エピタキシャル成長装置、CVD装置、真空蒸着装置、エッチング装置、スパッタリング装置、アッシング装置などにおいてプラズマ雰囲気に曝される部材のことを指す。この部材として、例えばチャンバー、ベルジャー、サセプター、クランプリング、フォーカスリング、シャドーリング、絶縁リング、ダミーウエハー、プラズマを発生させるためのチューブ、プラズマを発生させるためのドーム、透過窓、赤外線透過窓、監視窓、半導体ウエハーを支持するためのリフトピン、シャワー板、バッフル板、ベローズカバー、上部電極、下部電極、静電チャックなどが挙げられる。
【実施例0083】
以下に本発明の実施例について説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0084】
<実施例1>
前述の
図1および
図2に示した溶射装置を用い、イットリウム粒子(平均粒子径:2μm)を粉体原料としてフレーム溶射法によって溶射して、厚さ5mmのアルミ板の主面上へ約200μmの厚さの溶射被膜を形成し、被膜付き基板[1]を得た。
【0085】
具体的には、次の条件にて溶射を行った。
・粉体搬送用気体:ドライエアー
・粉体原料:イットリウム粒子(平均粒子径:2μm)
・搬送路における断面直径の最大値X:4mm
・溶射部の原料受入部における断面直径Y:1mm
・分散部の原料気体排出部における断面直径Z:1mm
・搬送路を鉛直方向上側から見た場合に搬送路の中心軸がなす曲線ωの曲率半径R:161mm
【0086】
また、フレーム溶射における処理条件は以下の通りである。
・主燃料:灯油
・主燃料のフレームへの供給流量:218mL/min
・酸素含有気体:酸素
・酸素含有気体のフレームへの供給流量:580L/min
・圧縮空気の圧力:約0.5MPa
・補助燃料:アセチレン
・補助燃料のフレームへの供給流量:25L/min
・粉体原料のフレームへの供給量:95g/min
・粉体搬送用気体:ドライエアー
・原料分散気体のフレームへの供給圧力:0.55MPa
・先端筒の先端からアルミニウム基板の主面までの距離(溶射距離):120mm
【0087】
<比較例1>
厚さ5mmのアルミ基板を用意し、この基板の主面上へ、イットリウム粒子(平均粒子径:30μm)を粉末原料として用いてプラズマ(大気圧プラズマ溶射(APS))溶射して、200μm程度の厚さの被膜を有する被膜付き基板[2]を得た。
なお、ここでプラズマ溶射のために用いた溶射装置は従来公知のものであり、本発明の溶射装置には該当しない。
【0088】
プラズマ溶射における処理条件は以下の通りである。
(1)主プラズマ作動ガス
・ガス種:Ar
・流量[NLPM]:100
(2)複プラズマ作動ガス
・ガス種:H2
・流量[NLPM]:10
(3)雰囲気制御ガス
・ガス種:空気
・圧力[bar]:3.0
(4)粉末供給
・原料種:Y2O3
・平均粒径:30μm
・供給量[g/min]:45
(5)キャリアガス
・ガス種:Ar
・供給量[NLPM]:3.9
(6)溶射距離
・溶射距離[mm]:150
【0089】
次に、上記の実施例1において得られた被膜付き基板[1]と、比較例1において得られた被膜付き基板[2]とを、以下の試験に供した。
【0090】
<1.耐電圧測定>
<1-1 試験方法>
耐電圧測定装置(菊水電子工業社製、機種:TOS8750)を用い、商用周波数交流電圧印加による試験を行った。ここで、試験周波数は50Hzとした。また、測定環境は大気中とし、温度23±2℃、湿度50%で試験を行った。
【0091】
<1-2 測定手順>
被膜付き基板[1]および被膜付き基板[2]の各々を、溶射面が上となるように基台上に載置した。そして、被膜付き基板[1]および被膜付き基板[2]の各々を直径6mmの2つの電極を用いて厚さ方向において挟み、電極間に電圧を印加した。ここで電圧は0Vから、昇圧速度100V/secで増加させ、遮断電流1mAを超過した時の電圧値を測定し、これを耐電圧値とした。また、この耐電圧を膜厚で割ることにより絶縁破壊の強さを計算した。
なお、膜厚は渦電流式膜厚計を用いて測定した。
また、試験は被膜付き基板[1]および被膜付き基板[2]の各々について5回ずつ行った。
【0092】
<1-3 測定結果>
上記のようにして測定した耐電圧値および計算した絶縁破壊の強さを、以下の表1に示す。
【0093】
【0094】
<2.ビッカース硬さ試験>
<2.1 ビッカース硬さとは>
ビッカース硬さとは、対面角θが136°の正四角錐のダイヤモンド圧子で試料に試験力Fを加え、生じたくぼみの対角線長さd(2つの対角線長さの平均値)から求まるくぼみの表面積Sで試験力Fを割った値(F/S)で求められる。
【0095】
【0096】
ここで、
HV:ビッカース硬さ
K:定数、k=1/gn=1/9.80665≒0.102
F:試験力[N]
S:くぼみの表面積[mm2]
d:くぼみの対角線長さ2本の平均値[mm]
θ:ダイヤモンド圧子の対面角(136°)
gn:標準重力加速度
である(JIS Z 2204 ビッカース硬さ試験―試験方法 参考)。
【0097】
<2-2 測定手順>
溶射面にダイヤモンド圧子でくぼみを形成したときに、くぼみの対角線長さを正確に測定できるように、溶射面を研磨した。その後、ダイヤモンド圧子が押し付けられる方向が溶射面の法線方向となるように、被膜付き基板を治具で固定でした。
【0098】
以下にビッカース硬さ試験の試験条件を示す。
・試験力:2.942N(HV0.3)
・負荷時間:4秒
・保持時間:10秒
・除荷時間:4秒
以上の試験条件で試験を行い、計測顕微鏡(30倍)を用い対角線長さを測定し、ビッカース硬さを算出した。サンプル数は、1条件に付き5回測定した。
ビッカース硬さの測定結果を表2に示す。
【0099】
【0100】
ビッカース硬さは、粒子そのものの硬さを測定する値になり、基本的に粉体原料および溶射被膜の緻密さに依存する傾向がある。表2において被膜付き基材[2]の測定結果中、高い値と低い値とが混在しているのは、被膜内に気孔があるためと考えられる。また、被膜付き基材[1]の測定結果が安定しているのは、被膜付き基材[2]と比較して、溶射被膜が緻密であるためと考えられる。
【0101】
<3.断面観察>
溶射被膜の端面を研磨し、溶射被膜の断面を露出させた後、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、日立卓上顕微鏡 Miniscope TM3000)を用いて、その断面を観察し、写真を得た。
得られた被膜付き基材[1]および被膜付き基材[2]の断面写真を
図4および
図5に示す。
これらの図より、被膜付き基材[2]に比べて被膜付き基材[1]の方が緻密に成膜されていることが確認できる。