(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020028
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】繊維強化複合材
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20240206BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20240206BHJP
【FI】
B29B11/16
B29K105:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122883
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 晋大
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB28
4F072AC02
4F072AC04
4F072AD46
4F072AF06
4F072AG03
4F072AH06
4F072AH49
4F072AK05
4F072AK14
4F072AL02
4F072AL11
4F072AL17
(57)【要約】
【課題】圧縮強度を高めることができる繊維強化複合材を提供する。
【解決手段】本発明に係る繊維強化複合材は、第1の方向に配向した第1の繊維を含む繊維束と、マトリックス樹脂とを含み、前記第1の方向とは直交する第2の方向に沿う繊維強化複合材の断面の電子顕微鏡写真において、前記第1の繊維の繊維径及び前記第1の繊維間の距離をそれぞれ算出したときに、前記第1の繊維の繊維径の平均値Aに対する、前記第1の繊維間の距離の平均値Bの比が、0.09以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に配向した第1の繊維を含む繊維束と、
マトリックス樹脂とを含み、
前記第1の方向とは直交する第2の方向に沿う繊維強化複合材の断面の電子顕微鏡写真において、前記第1の繊維の繊維径及び前記第1の繊維間の距離をそれぞれ算出したときに、前記第1の繊維の繊維径の平均値Aに対する、前記第1の繊維間の距離の平均値Bの比が、0.09以上である、繊維強化複合材。
【請求項2】
前記第2の方向に沿う繊維強化複合材の断面の電子顕微鏡写真において、前記第1の繊維の全本数に対する、前記第1の繊維間の距離が0.5μm以上である前記第1の繊維の本数割合Nが、40.0%以上である、請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項3】
フィラーを含む、請求項1又は2に記載の繊維強化複合材。
【請求項4】
前記フィラーが、無機粒子である、請求項3に記載の繊維強化複合材。
【請求項5】
前記第2の方向に沿う繊維強化複合材の断面の電子顕微鏡写真において、前記フィラーの分散度Pが0.004以上である、請求項3又は4に記載の繊維強化複合材。
【請求項6】
前記繊維束が、前記第2の方向に配向した第2の繊維を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維強化複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維とマトリックス樹脂とを含む繊維強化複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1,2に記載のように、マトリックス樹脂が、炭素繊維等の強化繊維によって強化された繊維強化複合材が知られている。繊維強化複合材は、軽量でありながら、強度、剛性及び寸法安定性に優れるという利点を有する。そのため、繊維強化複合材は、自動車及び航空機等の車両、事務機器、ICトレイ、ノートパソコンの筐体、止水板、並びに風車翼等の様々な用途に用いられており、その需要は年々増加しつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08-225701号公報
【特許文献2】特開2011-246595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維強化複合材は、繊維間部分にマトリックス樹脂を含浸させることにより製造されている。
【0005】
しかしながら、繊維強化複合材の製造時には、繊維間部分にマトリックス樹脂を良好に含浸させることができないことがある。繊維間部分にマトリックス樹脂が含浸していない部分が存在すると、その部分に起因して、繊維強化複合材の圧縮強度が低下する。繊維強化複合材の圧縮強度が低いと、使用時にひび又は割れが生じることがある。
【0006】
本発明の目的は、圧縮強度を高めることができる繊維強化複合材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の広い局面によれば、第1の方向に配向した第1の繊維を含む繊維束と、マトリックス樹脂とを含み、前記第1の方向とは直交する第2の方向に沿う繊維強化複合材の断面の電子顕微鏡写真において、前記第1の繊維の繊維径及び前記第1の繊維間の距離をそれぞれ算出したときに、前記第1の繊維の繊維径の平均値Aに対する、前記第1の繊維間の距離の平均値Bの比が、0.09以上である、繊維強化複合材が提供される。
【0008】
本発明に係る繊維強化複合材のある特定の局面では、前記第2の方向に沿う繊維強化複合材の断面の電子顕微鏡写真において、前記第1の繊維の全本数に対する、前記第1の繊維間の距離が0.5μm以上である前記第1の繊維の本数割合Nが、40.0%以上である。
【0009】
本発明に係る繊維強化複合材のある特定の局面では、前記繊維強化複合材は、フィラーを含む。
【0010】
本発明に係る繊維強化複合材のある特定の局面では、前記フィラーが、無機粒子である。
【0011】
本発明に係る繊維強化複合材のある特定の局面では、前記第2の方向に沿う繊維強化複合材の断面の電子顕微鏡写真において、前記フィラーの分散度Pが0.004以上である。
【0012】
本発明に係る繊維強化複合材のある特定の局面では、前記繊維束が、前記第2の方向に配向した第2の繊維を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る繊維強化複合材は、第1の方向に配向した第1の繊維を含む繊維束と、マトリックス樹脂とを含む。本発明に係る繊維強化複合材では、上記第1の方向とは直交する第2の方向に沿う繊維強化複合材の断面の電子顕微鏡写真において、上記第1の繊維の繊維径及び上記第1の繊維間の距離をそれぞれ算出したときに、上記第1の繊維の繊維径の平均値Aに対する、上記第1の繊維間の距離の平均値Bの比が、0.09以上である。本発明に係る繊維強化複合材では、上記の構成が備えられているので、圧縮強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る繊維強化複合材の第1の方向(第1の繊維の配向方向)に沿う断面を模式的に示す図であり、
図1(b)は、本発明の第1の実施形態に係る繊維強化複合材の第2の方向(第1の方向とは直交する方向)に沿う断面を模式的に示す図である。
【
図2】
図2(a)は、本発明の第2の実施形態に係る繊維強化複合材の第1の方向(第1の繊維の配向方向)に沿う断面を模式的に示す図であり、
図2(b)は、本発明の第2の実施形態に係る繊維強化複合材の第2の方向(第1の方向とは直交する方向)に沿う断面を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、第1の繊維の繊維径の平均値A、第1の繊維間の距離の平均値B、及び、第1の繊維の全本数に対する、第1の繊維間の距離が0.5μm以上である上記第1の繊維の本数割合Nの算出方法を説明するための図である。
【
図4】
図4は、フィラーの分散度Pの算出方法を説明するための図である。
【
図5】
図5は、実施例1で作製した繊維強化複合材の断面Xの電子顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、実施例2で作製した繊維強化複合材の断面Xの電子顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、実施例3で作製した繊維強化複合材の断面Xの電子顕微鏡写真である。
【
図8】
図8は、実施例4で作製した繊維強化複合材の断面Xの電子顕微鏡写真である。
【
図9】
図9は、実施例5で作製した繊維強化複合材の断面Xの電子顕微鏡写真である。
【
図10】
図10は、比較例1で作製した繊維強化複合材の断面Xの電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
(繊維強化複合材)
本発明に係る繊維強化複合材は、第1の方向に配向した第1の繊維を含む繊維束と、マトリックス樹脂とを含む。本発明に係る繊維強化複合材では、上記第1の方向とは直交する第2の方向に沿う繊維強化複合材の断面の電子顕微鏡写真において、上記第1の繊維の繊維径及び上記第1の繊維間の距離をそれぞれ算出したときに、上記第1の繊維の繊維径の平均値Aに対する、上記第1の繊維間の距離の平均値Bの比(平均値B/平均値A)が、0.09以上である。
【0017】
本発明に係る繊維強化複合材では、上記の構成が備えられているので、圧縮強度を高めることができる。
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明する。なお、以下の図において、図示の便宜上、各構成要素の大きさは、実際の大きさと異なる場合がある。
【0019】
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る繊維強化複合材の第1の方向(第1の繊維の配向方向)に沿う断面を模式的に示す図であり、
図1(b)は、本発明の第1の実施形態に係る繊維強化複合材の第2の方向(第1の方向とは直交する方向)に沿う断面を模式的に示す図である。
【0020】
繊維強化複合材5は、第1の繊維1を含む繊維束と、マトリックス樹脂2と、フィラー3とを含む。繊維束は、複数の第1の繊維1を含む。繊維強化複合材5は、複数のフィラー3を含む。繊維強化複合材5では、第1の繊維1の外表面上に、フィラー3が配置されている。
【0021】
上記繊維束に含まれる第1の繊維1は、第1の方向に配向している。上記第1の方向は、通常、第1の繊維1の長さ方向である。
図1(a)では、左右方向が上記第1の方向であり、
図1(b)では、手前-奥方向が上記第1の方向である。
【0022】
図1(b)では、上記第1の方向とは直交する第2の方向に沿う繊維強化複合材5の断面が示されている。上記第2の方向は、通常、第1の繊維1の径方向である。繊維強化複合材5では、上記第2の方向に沿う繊維強化複合材5の断面(
図1(b))から、上記平均値A、上記平均値B、後述の本数割合N及び後述の分散度Pが算出される。
【0023】
図2(a)は、本発明の第2の実施形態に係る繊維強化複合材の第1の方向(第1の繊維の配向方向)に沿う断面を模式的に示す図であり、
図2(b)は、本発明の第2の実施形態に係る繊維強化複合材の第2の方向(第1の方向とは直交する方向)に沿う断面を模式的に示す図である。
【0024】
図1に示す繊維強化複合材5と、
図2に示す繊維強化複合材5Aとでは、フィラーの有無が異なる。
【0025】
繊維強化複合材5Aは、第1の繊維1Aを含む繊維束と、マトリックス樹脂2Aとを含む。繊維束は、複数の第1の繊維1Aを含む。
【0026】
上記繊維束に含まれる第1の繊維1Aは、第1の方向に配向している。上記第1の方向は、通常、第1の繊維1Aの長さ方向である。
図2(a)では、左右方向が上記第1の方向であり、
図2(b)では、手前-奥方向が上記第1の方向である。
【0027】
図2(b)では、上記第1の方向とは直交する第2の方向に沿う繊維強化複合材5Aの断面が示されている。上記第2の方向は、通常、第1の繊維1Aの径方向である。繊維強化複合材5Aでは、上記第2の方向に沿う繊維強化複合材5Aの断面(
図2(b))から、上記平均値A、上記平均値B、及び後述の本数割合Nが算出される。
【0028】
以下、本明細書において、「第1の方向とは直交する第2の方向に沿う繊維強化複合材の断面」を「断面X」と記載することがある。
【0029】
上記第1の方向とは直交する第2の方向に沿う繊維強化複合材の断面(断面X)の電子顕微鏡写真において、上記第1の繊維の繊維径及び上記第1の繊維間の距離をそれぞれ算出する。上記繊維強化複合材では、上記断面Xの電子顕微鏡写真において、上記第1の繊維の繊維径の平均値Aに対する、上記第1の繊維間の距離の平均値Bの比(平均値B/平均値A)が、0.09以上である。上記比(平均値B/平均値A)が0.09以上であると、繊維間部分にマトリックス樹脂が良好に含浸された繊維強化複合材が得られており、従って、繊維強化複合材の圧縮強度を高めることができる。
【0030】
上記第1の繊維の繊維径の平均値Aに対する、上記第1の繊維間の距離の平均値Bの比(平均値B/平均値A)は、好ましくは0.12以上、より好ましくは0.15以上である。上記比(平均値B/平均値A)が上記下限以上であると、繊維強化複合材の圧縮強度をより一層高めることができる。なお、上記比(平均値B/平均値A)は、1.0以下であってもよく、0.70以下であってもよく、0.30以下であってもよい。
【0031】
上記比(平均値B/平均値A)を上記の好ましい範囲に制御する方法としては、例えば、開繊液中のフィラーの濃度を高くしたり、粒子径の大きいフィラーを用いたり、繊維強化複合材の製造時において、含浸圧力を大きくしたりする方法が挙げられる。これらの方法を適宜組み合わせることで、上記比(平均値B/平均値A)を上記の好ましい範囲に制御することができる。
【0032】
上記第1の繊維間の距離の平均値Bは、好ましくは0.80μm以上、より好ましくは1.00μm以上である。上記平均値Bが上記下限以上であると、繊維強化複合材の圧縮強度をより一層高めることができる。なお、上記平均値Bは、5.00μm以下であってもよく、4.00μm以下であってもよく、3.00μm以下であってもよい。
【0033】
上記第2の方向に沿う繊維強化複合材の断面(断面X)の電子顕微鏡写真において、上記第1の繊維の全本数に対する、上記第1の繊維間の距離が0.5μm以上である上記第1の繊維の本数割合を、本数割合Nとする。上記本数割合Nは、好ましくは40.0%以上、より好ましくは60.0%以上である。上記本数割合Nが上記下限以上であると、繊維強化複合材の圧縮強度をより一層高めることができる。なお、上記本数割合Nは、100%以下であってもよく、95.0%以下であってもよく、90.0%以下であってもよい。
【0034】
上記本数割合Nを上記の好ましい範囲に制御する方法としては、例えば、開繊液中のフィラーの濃度を高くしたり、開繊液中に含ませるフィラーとして、粒子径の大きいフィラーを用いたりする方法が挙げられる。また、フィラーを用いずに上記本数割合Nを上記の好ましい範囲に制御する方法としては、以下の方法が挙げられる。繊維束の走行方向と直交方向から空気噴射し繊維間隔を広げる空気開繊を行う方法。ロール等で繊維束を擦過する機械開繊を行う方法。超音波で繊維束を振動させることで繊維を解きほぐす超音波開繊処理を行う方法。繊維束に付着しているバインダ剤を溶剤で除去した後、ひとまとまりになった繊維束を解きほぐす処理を行う方法。さらにフィラーを用いずに上記本数割合Nを上記の好ましい範囲に制御する方法の代表例として、W02009/022609A1に記載のように、保護フィルムを介して当接体を斜めに相対移動させることで開繊する方法が挙げられる。上述の方法を1つのみ採用してもよく、2つ以上採用してもよい。これらの方法を適宜組み合わせることで、上記本数割合Nを上記の好ましい範囲に制御することができる。
【0035】
上記繊維強化複合材はフィラーを含むことが好ましい。上記繊維強化複合材が上記フィラーを含む場合に、上記第2の方向に沿う繊維強化複合材の断面(断面X)の電子顕微鏡写真において、上記フィラーの分散度を、分散度Pとする。上記分散度Pは、好ましくは0.004以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上である。上記分散度Pが上記下限以上であると、繊維間部分にマトリックス樹脂が良好に含浸された繊維強化複合材が得られており、従って、繊維強化複合材の圧縮強度を高めることができる。なお、上記分散度Pは、1.0以下であってもよく、0.9以下であってもよく、0.8以下であってもよく、0.7以下であってもよい。
【0036】
上記分散度Pを上記の好ましい範囲に制御する方法としては、例えば、開繊液中のフィラーの濃度を高くしたり、繊維束を開繊液に浸漬する時間を長くしたりする方法が挙げられる。
【0037】
上記平均値A、上記平均値B、上記比(平均値B/平均値A)、上記本数割合N、及び上記分散度Pは、具体的には、以下のようにして測定される。
【0038】
(1)電子顕微鏡による撮影:
繊維強化複合材を切削し、上記第2の方向(上記第1の繊維の配向方向である第1の方向とは直交する方向)に沿う上記繊維強化複合材の断面Xを露出させたサンプルXを作製する。繊維強化複合材を切削せずに、断面が露出するように、繊維強化複合材を切断してもよい。なお、サンプルXの断面Xは、表面研磨されていてもよい。
【0039】
上記繊維束の形態が綾織である場合など、上記繊維束が、例えば、第1の方向に配向した第1の繊維と第2の方向に配向した第2の繊維とを含む場合には、上記断面Xとして、上記第2の繊維が存在しない位置の断面又は上記第2の繊維の本数が少ない位置の断面を選択することが好ましい。この場合には、画像解析を容易にすることができる。画像解析を容易にする観点から、上記断面Xにおける上記第1の繊維以外の繊維の本数は少ないほど好ましい。
【0040】
なお、繊維強化複合材は、マトリックス樹脂と繊維束とが複合化された領域(A)と、マトリックス樹脂が存在しかつ繊維束が存在しない領域(B)とを有することがある。例えば、繊維強化複合材の表面付近では、上記領域(B)が存在し得る。この場合、上記領域(A)を電子顕微鏡での撮影対象とする。
【0041】
上記断面Xは、繊維強化複合材の厚み方向の中央の位置における断面であることが好ましい。この場合には、上記領域(A)のみを電子顕微鏡での撮影対象としやすい。
【0042】
電子顕微鏡(好ましくは走査型電子顕微鏡)を用いて、上記断面Xを撮影する。上記電子顕微鏡の倍率は、例えば、500倍とすることができる。電子顕微鏡の倍率を500倍とすることにより、断面Xの電子顕微鏡写真の短辺方向に存在する第1の繊維の本数を30本~40本程度、かつ、断面Xの電子顕微鏡写真に存在する第1の繊維の本数を400本~700本程度とすることができ、画像解析を容易にすることができる。したがって、電子顕微鏡の撮影箇所は、断面Xの電子顕微鏡写真の短辺方向に存在する第1の繊維の本数が30本~40本程度、かつ、断面Xの電子顕微鏡写真に存在する第1の繊維の本数が400本~700本程度となる箇所であることが好ましい。なお、上記電子顕微鏡の倍率は、500倍以上であってもよい。電子顕微鏡の撮影箇所は、断面Xの上記領域(B)が存在しない箇所(上記領域(A)の箇所)であることが好ましい。
【0043】
また、電子顕微鏡の撮影時には、繊維の輪郭(外周)が明瞭になるように焦点を合わせることが好ましい。電子顕微鏡写真において、繊維の輪郭が正確に判別できない場合は、電子顕微鏡画像から認識できる繊維断面の中心と、用いられた繊維の繊維径とから、繊維の輪郭を得ることができる。この場合の繊維の繊維径は、繊維強化複合材から繊維を分離して、分離した繊維の繊維径を測定したときの最頻値とする。
【0044】
なお、電子顕微鏡での撮影時には、断面Xにおいて、ボイドが存在するか否か、及び樹脂が含浸していない部分である樹脂未含浸部分が存在するか否かを確認することが好ましい。なお、ボイドとは、立体空洞のことであり、断面Xにおける開口面積が1μm2以下の空隙部である。樹脂未含浸部分とは、ボイドの集合体であり、断面Xにおける開口面積が1μm2を超える空隙部である。したがって、ボイドと樹脂未含浸部分とは、開口面積の大小によって区別することができる。
【0045】
断面Xにおいて、ボイド及び樹脂未含浸部分の双方が確認されない場合、1箇所以上を電子顕微鏡で撮影する。断面Xにおいて、ボイド又は樹脂未含浸部分が確認される場合、ボイド又は樹脂未含浸部分が確認される部分を含む10箇所~20箇所を電子顕微鏡で撮影する。
【0046】
なお、電子顕微鏡での断面Xの観察において、ボイドが繊維間部分に存在する場合、第1の繊維間の距離の算出時には、繊維間距離を0μmとみなすこととする。また、電子顕微鏡での断面Xの観察において、樹脂未含浸部分が繊維間部分に存在する場合、第1の繊維間の距離の算出時には、繊維間距離を0μmとみなすこととする。繊維強化複合材は繊維間部分にマトリックス樹脂が含浸されることにより強度が高められているが、上記の繊維間距離を0μmとみなす処理を行うことにより、ボイド及び樹脂未含浸部分を、強度に寄与しない部分又は強度への寄与度が低い部分として処理することができ、第1の繊維間の距離の平均値Bを適切に算出することができる。
【0047】
上記断面Xの電子顕微鏡写真において観察された第1の繊維及びフィラーについて、下記の(2)~(6)を行う。
【0048】
(2)第1の繊維の繊維径の平均値A:
上記断面Xの電子顕微鏡写真から、画像解析ソフト(例えば、三谷商事社製「WinROOF」)を用いて、第1の繊維の繊維径をそれぞれ算出する。算出された第1の繊維の繊維径の平均値を求め、平均値Aとする。
【0049】
上記第1の繊維の繊維径の平均値Aは、数平均繊維径であり、上記断面Xで観察される第1の繊維の繊維径の相加平均値である。上記繊維径とは、上記断面Xで観察される第1の繊維の形状が円の場合は、該円の直径を意味し、上記断面Xで観察される第1の繊維の形状が楕円の場合は、該楕円の長径を意味する。また、上記断面Xで観察される第1の繊維の形状が円及び楕円以外の形状の場合は、上記繊維径とは、円相当径の直径を意味する。
【0050】
上記第1の繊維の繊維径の平均値Aは、400本以上の第1の繊維から求められることが好ましい。得られた電子顕微鏡写真に400本以上の第1の繊維が存在しない場合には、第1の繊維の本数が400本以上となるまで、新たな領域を電子顕微鏡で撮影することが好ましい。
【0051】
図3を参照しつつ、上記平均値Aの算出方法についてより詳細に説明する。
図3では、上記断面Xで観察される第1の繊維及びフィラーのうち、4本の第1の繊維11,12,13,14及び1個のフィラー3が示されている。また、
図3では、マトリックス樹脂は図示されていない。
図3では、第1の繊維11の繊維径がA
1、第1の繊維12の繊維径がA
2、第1の繊維13の繊維径がA
3、第1の繊維14の繊維径がA
4として示されている。実際の電子顕微鏡写真では多数の第1の繊維が観察されるが、
図3の4本の第1の繊維から上記平均値Aを算出すると仮定すると、該平均値Aは、式:(A
1+A
2+A
3+A
4)/4で求められる。
【0052】
(3)第1の繊維間の距離の平均値B:
第1の繊維間の距離は、上記断面Xの電子顕微鏡写真において、第1の繊維の表面から、該第1の繊維に最も近い第1の繊維の表面までの最短距離である。上記最短距離は、通常、これら2本の第1の繊維の中心同士を結ぶ線上の、一方の第1の繊維の表面から他方の第1の繊維の表面までの距離である。上記断面Xの電子顕微鏡写真から、画像解析ソフト(例えば、三谷商事社製「WinROOF」)を用いて、第1の繊維間の距離それぞれを算出する。算出された第1の繊維間の距離の平均値を求め、平均値Bとする。
【0053】
上記第1の繊維間の距離の平均値Bは、上記断面Xで観察される第1の繊維間の距離の相加平均値である。
【0054】
上記第1の繊維間の距離の平均値Bは、400本以上の第1の繊維から求められることが好ましい。得られた電子顕微鏡写真に400本以上の第1の繊維が存在しない場合には、第1の繊維の本数が400本以上となるまで、新たな領域を電子顕微鏡で撮影することが好ましい。
【0055】
図3を参照しつつ、上記平均値Bの算出方法についてより詳細に説明する。
図3では、第1の繊維11の表面から、該第1の繊維11に最も近い第1の繊維12の表面までの距離がB
1、第1の繊維12の表面から、該第1の繊維12に最も近い第1の繊維13の表面までの距離がB
2として示されている。また、
図3では、第1の繊維13の表面から、該第1の繊維13に最も近い第1の繊維12の表面までの距離がB
3、第1の繊維14の表面から、該第1の繊維14に最も近い第1の繊維13の表面までの距離がB
4として示されている。実際の電子顕微鏡写真では多数の第1の繊維が観察されるが、
図3の4本の第1の繊維から上記平均値Bを算出すると仮定すると、該平均値Bは、式:(B
1+B
2+B
3+B
4)/4で求められる。
【0056】
なお、
図3における距離B
4のように第1の繊維間にフィラーが観察される場合でも、該フィラーが観察されない場合と同様にして、第1の繊維間の距離が求められる。
【0057】
(4)上記比(平均値B/平均値A):
上記第1の繊維の繊維径の平均値Aと上記第1の繊維間の距離の平均値Bとから、上記平均値Aに対する、上記平均値Bの比(平均値B/平均値A)を算出する。
【0058】
(5)上記本数割合Nの算出:
上記第1の繊維の全本数に対する、上記第1の繊維間の距離が0.5μm以上である上記第1の繊維の本数割合Nは、下記式(N)にて算出される。
【0059】
本数割合N(%)=N1/N2×100 ・・・(N)
【0060】
N1:断面Xの電子顕微鏡写真において観察される第1の繊維間の距離が0.5μm以上である第1の繊維の本数
N2:断面Xの電子顕微鏡写真において観察される第1の繊維の全本数
【0061】
上記本数割合Nは、400本以上の第1の繊維から求められることが好ましい。得られた電子顕微鏡写真に400本以上の第1の繊維が存在しない場合には、第1の繊維の本数が400本以上となるまで、新たな領域を電子顕微鏡で撮影することが好ましい。
【0062】
図3を参照しつつ、上記本数割合Nの算出方法についてより詳細に説明する。実際の電子顕微鏡写真では多数の第1の繊維が観察されるが、
図3の4本の第1の繊維から上記本数割合Nを算出すると仮定すると、また、
図3の距離B
1、距離B
2及び距離B
3がそれぞれ0.5μm以上、距離B
4が0.5μm未満であると仮定すると、該本数割合Nは75%(=3/4×100)として求められる。
【0063】
(6)上記分散度Pの算出:
フィラーの分散度Pは、画像解析ソフト(例えば、三谷商事社製「WinROOF」)を用いて、上記断面Xの電子顕微鏡写真を、1辺の長さが上記第1の繊維の繊維径の平均値Aの1.4倍である複数の正方形の領域(U)に分割したときに、下記式(P)にて算出される。電子顕微鏡写真の1つの角を起点に、電子顕微鏡写真の縦方向及び横方向に上記正方形の領域(U)を順に付与する。例えば、上記平均値Aが10μmである場合には、上記断面Xの電子顕微鏡写真を、縦14μm×横14μmの正方形の領域に分割する。電子顕微鏡写真に上記正方形の領域(U)を付与可能な位置まで、該領域を付与する。
【0064】
分散度P=P1/P2 ・・・(P)
【0065】
P1:フィラーが含まれる正方形の領域(U)の数
P2:正方形の領域(U)の総数
【0066】
上記分散度Pは、400本以上の第1の繊維が存在する断面Xの電子顕微鏡写真から求められることが好ましい。得られた電子顕微鏡写真に400本以上の第1の繊維が存在しない場合には、第1の繊維の本数が400本以上となるまで、新たな領域を電子顕微鏡で撮影することが好ましい。
【0067】
図4を参照しつつ、上記分散度Pの算出方法についてより詳細に説明する。なお、図示の都合上、
図4では、上記断面Xの電子顕微鏡写真中の9個の正方形の領域(U)が示されており、また、上記断面Xの電子顕微鏡写真で観察されるフィラーのうち、4個のフィラー31,32,33,34が示されている。また、
図4では、マトリックス樹脂及び繊維は図示されていない。
【0068】
図4では、上記正方形の領域(U)(1辺の長さが上記平均値Aの1.4倍である正方形の領域)として、領域U1~U9が示されている。フィラー31は領域U2に存在する。フィラー32は領域U4に存在する。フィラー33は領域U9に存在する。フィラー34は領域U8,U9をまたいで存在する。なお、フィラー34のように1つのフィラーが複数の領域をまたいで存在する場合には、該フィラーがまたいで存在するそれぞれの領域に、該フィラーが存在するものとする。したがって、フィラー34は、領域U8と領域U9とに存在するとみなす。
【0069】
実際の電子顕微鏡写真では多数の上記正方形の領域(U)に分割することができるが、
図4の9個の正方形の領域(U)及び4個のフィラーから上記分散度Pを算出すると仮定すると、P1は、領域U2,U4,U8,U9の数である「4」であり、P2は、領域U1~U9の数である「9」である。したがって、
図4の場合には、上記分散度Pは、0.444(=4/9)として求められる。
【0070】
以下、本発明に係る繊維強化複合材について更に説明する。
【0071】
<繊維束>
上記繊維強化複合材は、繊維束を含む。上記繊維束は、複数の繊維により形成されている。上記繊維束は、第1の方向に配向した第1の繊維を含む。上記繊維束の繊維は、第1の繊維を含む。上記第1の繊維は、上記第1の方向に引き揃えられていることが好ましい。上記繊維束は、上記第1の方向とは異なる方向に配向した繊維を含んでいてもよい。上記繊維束は、上記第1の繊維と、上記第2の方向(上記第1の方向とは直交する方向)に配向した第2の繊維とを含んでいてもよい。上記第1の繊維と上記第2の繊維とを含む上記繊維束は、例えば、綾織の繊維束である。上記繊維束の繊維は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記繊維束は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0072】
上記繊維束の繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、及びアラミド繊維等が挙げられる。上記第1の繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、及びアラミド繊維等が挙げられる。上記第2の繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、及びアラミド繊維等が挙げられる。
【0073】
繊維強化複合材の曲げ強度及び圧縮強度をより一層高める観点からは、上記繊維束の繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、又はアラミド繊維を含むことが好ましく、上記第1の繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、又はアラミド繊維を含むことが好ましく、上記第2の繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、又はアラミド繊維を含むことが好ましい。
【0074】
繊維強化複合材の軽量化の観点及び繊維強化複合材の機械的強度をより一層高める観点からは、上記繊維束の繊維は、炭素繊維、又はアラミド繊維であることが好ましく、炭素繊維であることがより好ましい。繊維強化複合材の軽量化の観点及び繊維強化複合材の機械的強度をより一層高める観点からは、上記第1の繊維は、炭素繊維、又はアラミド繊維であることが好ましく、炭素繊維であることがより好ましい。繊維強化複合材の軽量化の観点及び繊維強化複合材の機械的強度をより一層高める観点からは、上記第2の繊維は、炭素繊維、又はアラミド繊維であることが好ましく、炭素繊維であることがより好ましい。
【0075】
繊維強化複合材の製造コストを抑える観点からは、上記繊維束の繊維は、ガラス繊維であることが好ましく、上記第1の繊維は、ガラス繊維であることが好ましく、上記第2の繊維は、ガラス繊維であることが好ましい。
【0076】
上記炭素繊維としては、PAN系炭素繊維、及びPITCH系炭素繊維等が挙げられる。
【0077】
上記第1の繊維は連続繊維であることが好ましい。上記第2の繊維は連続繊維であることが好ましい。上記連続繊維は、例えば、一方向連続繊維(UD;Uni Direction繊維)及び織物等に含まれる繊維であり、断面方向に連続的に存在する。なお、本発明における繊維形態は特に限定されず、例えば、上記繊維は長繊維として、チョップドマット及び不織布等に含まれていてもよい。
【0078】
上記第1の繊維の平均繊維長は、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上、更に好ましくは40mm以上、好ましくは200mm以下、より好ましくは150mm以下、更に好ましくは100mm以下である。上記平均繊維長が上記下限以上であると、繊維強化複合材の曲げ強度をより一層高めることができる。上記平均繊維長が上記上限以下であると、繊維強化複合材の曲げ強度のばらつきを抑えることができる。
【0079】
上記第2の繊維の平均繊維長は、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上、更に好ましくは40mm以上、好ましくは200mm以下、より好ましくは150mm以下、更に好ましくは100mm以下である。上記平均繊維長が上記下限以上であると、繊維強化複合材の曲げ強度及び圧縮強度をより一層高めることができる。上記平均繊維長が上記上限以下であると、繊維強化複合材の曲げ強度のばらつき及び圧縮強度のばらつきを抑えることができる。
【0080】
上記第1の繊維及び上記第2の繊維の平均繊維長は、数平均繊維長であり、ランダムに選択した100本の第1の繊維及び第2の繊維の繊維長の相加平均値である。上記繊維長とは、繊維の一方の端部から他方の端部までの長さである。
【0081】
上記繊維束の目付は、好ましくは20g/m2以上、より好ましくは100g/m2以上、更に好ましくは150g/m2以上、好ましくは1000g/m2以下、より好ましくは800g/m2以下、更に好ましくは500g/m2以下である。上記目付が上記下限以上であると、繊維強化複合材の機械的強度をより一層高めることができる。上記目付が上記上限以下であると、マトリックス樹脂の含浸性をより一層高めることができ、従って、繊維強化複合材の曲げ強度及び圧縮強度をより一層高めることができる。
【0082】
上記繊維束の形態としては、UD(Uni Direction)、織物、編物、及び不織布等が挙げられる。
【0083】
繊維強化複合材の強度をより一層高める観点からは、上記繊維束の形態は、一方向連続繊維又は織物であることが好ましく、織物であることがより好ましい。上記繊維束は、複数の繊維束が厚み方向に積層された繊維束であってもよい。
【0084】
上記繊維束は、繊維束本体と、繊維の外表面に配置されたバインダ剤部とを備えていてもよい。上記バインダ剤部は、バインダ剤により形成された部分である。上記バインダ剤を用いることにより、上記繊維束と上記マトリックス樹脂とを良好に接着させることができ、また、上記繊維束と上記フィラーとを良好に接着させることができる。
【0085】
上記バインダ剤としては、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、オレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。上記バインダ剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0086】
上記繊維束100重量%中、上記バインダ剤の含有量(繊維束本体に付着しているバインダ剤の量)は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、更に好ましくは1.0重量%以上、好ましくは7.0重量%以下、より好ましくは5.0重量%以下、更に好ましくは3.0重量%以下である。
【0087】
上記繊維束本体と上記バインダ剤部とを備える繊維束として、市販されているバインダ剤付きの繊維束をそのまま用いてもよい。また、バインダ剤が付着していない繊維束(繊維束本体)に別途バインダ剤を付与して、上記繊維束本体と上記バインダ剤部とを備える繊維束を得てもよい。
【0088】
上記繊維強化複合材100体積%中、上記繊維束の含有量は、好ましくは30体積%以上、より好ましくは40体積%以上、好ましくは70体積%以下、より好ましくは60体積%以下である。上記繊維束の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、繊維強化複合材の機械的強度をより一層高めることができる。
【0089】
<マトリックス樹脂>
上記繊維強化複合材は、マトリックス樹脂を含む。上記繊維強化複合材は、マトリックス樹脂により構成されたマトリックス樹脂部を含む。上記マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。上記マトリックス樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0090】
上記マトリックス樹脂としては、塩化ビニル系樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン樹脂(PAEK)、ポリエーテルサルフォン樹脂(PES)、ポリエーテルケトンケトン樹脂(PEKK)、熱可塑性ポリイミド樹脂(PI)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリフタルアミド樹脂(PPA)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、及びポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0091】
成形加工性、リサイクル性及び連続生産性を高める観点から、上記マトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましく、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂又はポリアリールエーテルケトン樹脂であることがより好ましく、ポリフェニレンサルファイド樹脂であることが更に好ましい。
【0092】
上記繊維強化複合材100体積%中、上記マトリックス樹脂の含有量は、好ましくは40体積%以上、より好ましくは50体積%以上、好ましくは65体積%以下、より好ましくは60体積%以下である。上記マトリックス樹脂の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、繊維強化複合材の機械的強度をより一層高めることができる。
【0093】
<フィラー>
上記繊維強化複合材は、フィラーを含むことが好ましい。上記フィラーは、上記繊維束の繊維の外周面上に配置されていることが好ましい。上記フィラーは、上記第1の繊維の外周面上に配置されていることが好ましい。上記フィラーを用いることにより、繊維強化複合材の製造時に繊維束を良好に開繊させることができ、上記比(平均値B/平均値A)を大きくすることができる。上記フィラーは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0094】
上記フィラーは、有機粒子(有機フィラー)であってもよく、無機粒子(無機フィラー)であってもよい。
【0095】
上記有機粒子としては、エポキシ系樹脂粒子、フェノール系樹脂粒子、メラミン系樹脂粒子、尿素樹脂粒子、不飽和ポリエステル樹脂粒子及びオキサジン樹脂粒子等の熱硬化性樹脂粒子;ジビニルベンゼン樹脂粒子;ポリオレフィン樹脂粒子;ポリブチレンテレフタレート樹脂粒子;ポリエチレンテレフタレート樹脂粒子;アクリル系樹脂粒子;ポリカーボネート系樹脂粒子等が挙げられる。
【0096】
上記無機粒子としては、シリカ粒子、金属粒子、炭素粒子、及び炭酸カルシウム粒子等が挙げられる。上記金属粒子としては、アルミナ粒子、酸化チタン粒子、フェライト粒子、鉄粒子、及び銅粒子等が挙げられる。上記炭素粒子としては、アモルファスカーボン粒子、及びグラファイト粒子等が挙げられる。
【0097】
上記フィラーは、無機粒子又はジビニルベンゼン樹脂粒子であることが好ましく、無機粒子であることがより好ましい。上記繊維強化複合材は、無機粒子又はジビニルベンゼン樹脂粒子を含むことが好ましく、無機粒子を含むことがより好ましい。この場合には、繊維束の開繊状態が良好に維持されるのでマトリックス樹脂の含浸性をより一層高めることができ、従って、繊維強化複合材の圧縮強度をより一層高めることができる。
【0098】
上記フィラーは、シリカ粒子、金属粒子、炭素粒子、炭酸カルシウム粒子、タルク粒子、又はジビニルベンゼン樹脂粒子を含むことがより好ましく、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子、炭素粒子、炭酸カルシウム粒子、タルク粒子、又はジビニルベンゼン樹脂粒子を含むことが更に好ましい。上記粒子は、シリカ粒子であることが特に好ましい。この場合には、繊維束の開繊状態が良好に維持されるのでマトリックス樹脂の含浸性をより一層高めることができ、従って、繊維強化複合材の圧縮強度をより一層高めることができる。
【0099】
上記フィラーの形状は特に限定されない。上記フィラーの形状は、球状であってもよく、扁平状、鱗片状及び立方体状等の球形状以外の形状であってもよい。上記フィラーの形状は、球状であることが好ましい。
【0100】
上記フィラーの粒子径の平均値は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは1.0μm以上、更に好ましくは2.0μm以上、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは7μm以下である。上記粒子径の平均値が上記下限以上及び上記上限以下であると、繊維束の開繊状態が良好に維持されるのでマトリックス樹脂の含浸性をより一層高めることができ、従って、繊維強化複合材の圧縮強度をより一層高めることができる。
【0101】
上記フィラーの粒子径の平均値は、上記断面Xの電子顕微鏡写真から、画像解析ソフト(例えば、三谷商事社製「WinROOF」)を用いて求められる。
【0102】
上記フィラーの粒子径の平均値は、数平均粒子径であり、上記断面Xで観察されるフィラーの粒子径の相加平均値である。上記粒子径とは、上記断面Xで観察されるフィラーの円相当径の直径を意味する。
【0103】
上記フィラーの粒子径の平均値は、100個以上のフィラーから求められることが好ましい。得られた電子顕微鏡写真に100個以上のフィラーが存在しない場合には、フィラーの個数が100個以上となるまで、新たな領域を電子顕微鏡で撮影することが好ましい。
【0104】
上記繊維束100重量部に対して、上記フィラーの含有量は、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.77重量部以上、好ましくは10.5重量部以下、より好ましくは1.7重量部以下である。上記フィラーの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、繊維束の開繊状態が良好に維持されるのでマトリックス樹脂の含浸性をより一層高めることができ、従って、繊維強化複合材の圧縮強度をより一層高めることができる。また、上記フィラーの含有量が上記上限以下であると、上記フィラーの分散度Pを適度に大きくすることができる。
【0105】
<他の成分>
上記繊維強化複合材は、上述した成分(繊維束、マトリックス樹脂及びフィラー)以外の他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、界面活性剤等が挙げられる。上記他の成分は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0106】
(繊維強化複合材の製造方法)
上記繊維強化複合材は、繊維束とマトリックス樹脂とを用いて製造することができる。上記繊維強化複合材の製造方法は、(1)フィラーによって開繊された繊維束である開繊繊維束を得る工程と、(2)上記開繊繊維束の繊維間部分に、マトリックス樹脂を含浸させる含浸工程とを備えることが好ましい。
【0107】
<開繊繊維束を得る工程>
上記開繊繊維束を得る方法としては、複数のフィラーを含む開繊液を、繊維束に接触させて、繊維束の繊維の外表面にフィラーを接着する方法等が挙げられる。
【0108】
なお、上記開繊液と繊維束との接触方法としては、スプレー、塗布、及び浸漬等の方法が挙げられる。
【0109】
フィラーと接触した繊維束を回転又は振動させたり、ローラー等で扱いたりすることにより、上記開繊液が繊維表面に濡れ拡がり、フィラーが繊維間部分に入り込み、開繊繊維束を得ることができる。
【0110】
上記開繊液の繊維表面への濡れ拡がり性を高める観点から、上記開繊液は、有機溶媒を含むことが好ましい。上記有機溶媒としては特に限定されない。作業性の観点からは、上記有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、テトラヒドロフラン、又はアセトンを含むことが好ましい。上記有機溶媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0111】
上記開繊液は、水を含んでいてもよい。また、上記開繊液は、フィラー、有機溶媒及び水のこれら3種以外の成分を含んでいてもよい。
【0112】
上記開繊液100重量%中、上記フィラーの含有量は、好ましくは0.11重量%以上、より好ましくは1.7重量%以上、好ましくは10.0重量%以下、より好ましくは2.6重量%以下である。上記フィラーの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、上記比(平均値B/平均値A)、上記本数割合N及び上記分散度Pを上記の好ましい範囲に制御しやすくなる。
【0113】
なお、溶媒(有機溶媒及び水等)を除去するために、上記開繊繊維束を得る工程では、上記開繊液と繊維束とを接触させた後、加熱又は乾燥して、上記開繊繊維束を得ることが好ましい。
【0114】
<含浸工程>
上記開繊繊維束の繊維間部分にマトリックス樹脂を含浸させる方法は特に限定されない。例えば、溶融したマトリックス樹脂を、シートダイ等を用いてフィルム状に押し出し、上記開繊繊維束上に積層した後、加熱しながら圧縮することによりマトリックス樹脂を開繊繊維束の繊維間部分に含浸させる方法等が挙げられる。上記含浸工程時には、加熱及び加圧しながら、マトリックス樹脂を繊維束の繊維間部分に含浸させることが好ましい。
【0115】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0116】
以下の材料を用意した。
【0117】
(繊維束)
炭素繊維束(帝人社製「HTS40-12K5HS」、第1の方向に配向した第1の繊維(炭素繊維)と、該第1の方向とは直交する第2の方向に配向した第2の繊維(炭素繊維)とを含む織物)
【0118】
(マトリックス樹脂)
ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS、東レ社製「トレリナ」)
【0119】
(フィラー)
シリカ粒子(AGCエスアイテック社製「L-31」)
【0120】
(実施例1)
開繊繊維束を得る工程:
エタノール60重量部と蒸留水40重量部とを混合し、60重量%エタノール水を調製した。12196重量部の60重量%エタノール水に対して、138重量部の1,5-ジヒドロキシナフタレン、54重量部の40重量%メチルアミン水溶液(和光純薬社製「132-01857」)、112重量部の37重量%ホルムアルデヒド水溶液(和光純薬社製「064-0046」)、及び405重量部のシリカ粒子を添加し、開繊液を得た。したがって、開繊液100重量%中のシリカ粒子の含有量は3.14重量%である。得られた開繊液中に炭素繊維束を浸漬した。次いで、炭素繊維束を取り出し、ローラーで余分な液を除去しながら、均一に押し拡げた。次いで、290℃で3分間加熱して揮発成分(エタノール及び水等)を除去し、開繊繊維束を得た。
【0121】
含浸工程:
溶融したマトリックス樹脂をフィルム状に押し出して、得られた開繊繊維束上に積層した。次いで、320℃(含浸温度)に加熱しながら4MPaの圧力で10分間圧縮することにより、マトリックス樹脂を開繊繊維束の繊維間部分に含浸させた。このようにして、縦230mm×横230mm×厚み5.1mmの板状の繊維強化複合材を作製した。
【0122】
(実施例2)
開繊液の調製時のシリカ粒子の使用量を「405重量部」から「337.5重量部」に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、繊維強化複合材を作製した。
【0123】
(実施例3)
開繊液の調製時のシリカ粒子の使用量を「405重量部」から「216重量部」に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、繊維強化複合材を作製した。
【0124】
(実施例4)
開繊液の調製時のシリカ粒子の使用量を「405重量部」から「108重量部」に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、繊維強化複合材を作製した。
【0125】
(実施例5)
開繊液の調製時のシリカ粒子の使用量を「405重量部」から「13.5重量部」に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、繊維強化複合材を作製した。
【0126】
(比較例1)
開繊液の調製時のシリカ粒子の使用量を「405重量部」から「4重量部」に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、繊維強化複合材を作製した。
【0127】
(比較例2)
シリカ粒子を用いなかったこと、すなわち、開繊されていない繊維束を用いたこと以外は実施例1と同様にして、繊維強化複合材を作製した。
【0128】
(評価)
(1)電子顕微鏡による撮影
得られた繊維強化複合材に含まれる繊維束は、第1の方向に配向した第1の繊維を有する。繊維強化複合材を切削し、上記第1の方向とは直交する第2の方向に沿う上記繊維強化複合材の断面Xを露出させたサンプルX(縦11mm×横9mm×厚み5mm)を作製した。なお、断面Xは、繊維強化複合材の厚み方向の中央の位置における断面である。
【0129】
日本電子社製「クロスセクションポリッシャ」を用いて、サンプルXの断面Xの表面研磨を行った。次いで、走査型電子顕微鏡(日本電子社製「JCM-7000 NeoScope」、測定倍率500倍)を用いて、得られたサンプルXにおける上記断面Xを撮影した。
【0130】
(2)第1の繊維の繊維径の平均値A
上記断面Xの電子顕微鏡写真から、画像解析ソフト(三谷商事社製「WinROOF」)を用いて、上記第1の方向に配向している第1の繊維の繊維径をそれぞれ算出し、第1の繊維の繊維径の平均値Aを求めた。なお、上記平均値Aは、400本以上の第1の繊維から算出した。
【0131】
(3)第1の繊維間の距離の平均値B
上記断面Xの電子顕微鏡写真から、画像解析ソフト(三谷商事社製「WinROOF」)を用いて、上記第1の方向に配向している第1の繊維間の距離をそれぞれ算出し、第1の繊維間の距離の平均値Bを求めた。なお、上記平均値Bは、400本以上の第1の繊維から算出した。
【0132】
(4)比(平均値B/平均値A)
上記第1の繊維の繊維径の平均値Aと上記第1の繊維間の距離の平均値Bとから、上記平均値Aに対する、上記平均値Bの比(平均値B/平均値A)を算出した。
【0133】
(5)第1の繊維の本数割合N
上記断面Xの電子顕微鏡写真から、画像解析ソフト(三谷商事社製「WinROOF」)を用いて、上記第1の方向に配向している第1の繊維間の距離をそれぞれ算出した。上記断面Xの電子顕微鏡写真において、第1の繊維の全本数に対する、第1の繊維間の距離が0.5μm以上である第1の繊維の本数割合Nを、下記式(N)にて算出した。なお、上記本数割合Nは、400本以上の第1の繊維から算出した。
【0134】
本数割合N(%)=N1/N2×100 ・・・(N)
【0135】
N1:断面Xの電子顕微鏡写真において観察される第1の繊維間の距離が0.5μm以上である第1の繊維の本数
N2:断面Xの電子顕微鏡写真において観察される第1の繊維の全本数
【0136】
(6)フィラーの分散度P
画像解析ソフト(三谷商事社製「WinROOF」)を用いて、上記断面Xの電子顕微鏡写真を、1辺の長さが上記平均値Aの1.4倍である複数の正方形の領域(U)に分割した。フィラーの分散度Pを下記式(P)にて算出した。なお、上記分散度Pは、400本以上の第1の繊維が存在する断面Xから算出した。
【0137】
分散度P=P1/P2 ・・・(P)
【0138】
P1:フィラーが含まれる正方形の領域(U)の数
P2:正方形の領域(U)の総数
【0139】
(7)繊維強化複合材の圧縮強度
得られた繊維強化複合材の圧縮強度を、ASTMD6641に準拠して測定した。繊維強化複合材の積層構成は、[(0,90)/(45,-45)/(0,90)/(45,-45)/(0,90)/(45,-45)/(-45,45)/(90,0)/(-45,45)/(90,0)/(-45,45)/(90,0)]とした。圧縮強度を以下の基準で評価した。
【0140】
<繊維強化複合材の圧縮強度の判定基準>
〇〇〇:圧縮強度が380MPa以上
〇〇:圧縮強度が350MPa以上380MPa未満
○:圧縮強度が225MPa以上350MPa未満
×:圧縮強度が225MPa未満
【0141】
構成及び結果を下記の表1に示す。なお、
図5は、実施例1で作製した繊維強化複合材の断面Xの電子顕微鏡写真である。
図6は、実施例2で作製した繊維強化複合材の断面Xの電子顕微鏡写真である。
図7は、実施例3で作製した繊維強化複合材の断面Xの電子顕微鏡写真である。
図8は、実施例4で作製した繊維強化複合材の断面Xの電子顕微鏡写真である。
図9は、実施例5で作製した繊維強化複合材の断面Xの電子顕微鏡写真である。
図10は、比較例1で作製した繊維強化複合材の断面Xの電子顕微鏡写真である。
図5~10では、画像解析ソフトを用いて画像処理した後の写真が示されている。
【0142】
上述の実施例ではフィラーを含む繊維強化複合材を用いて評価したが、フィラーを含まない場合であっても上記比(平均値B/平均値A)が0.09以上である繊維強化複合材では、同様の効果が得られる。
【0143】
【符号の説明】
【0144】
1,1A…第1の繊維
2,2A…マトリックス樹脂
3…フィラー
5,5A…繊維強化複合材
11,12,13,14…第1の繊維
31,32,33,34…フィラー
A1,A2,A3,A4…繊維径
B1,B2,B3,B4…距離
U1,U2,U3,U4,U5,U6,U7,U8,U9…領域(1辺の長さが上記第1の繊維の繊維径の平均値Aの1.4倍である正方形の領域)