(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020031
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】積層型圧電素子
(51)【国際特許分類】
H10N 30/053 20230101AFI20240206BHJP
H10N 30/50 20230101ALI20240206BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240206BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240206BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240206BHJP
H10N 30/067 20230101ALI20240206BHJP
H10N 30/093 20230101ALI20240206BHJP
H10N 30/097 20230101ALI20240206BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
H01L41/273
H01L41/083
H01L41/09
H01L41/113
H01L41/18 101J
H01L41/187
H01L41/297
H01L41/39
H01L41/43
C04B35/495
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122886
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】後藤 隆幸
(57)【要約】 (修正有)
【課題】構成成分に鉛を含まず、銀の含有割合の多い内部電極との一体焼成により製造できると共に、長寿命と優れた圧電特性とが両立された積層型圧電素子を提供する。
【解決手段】積層型圧電素子100は、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩を主成分とし、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属元素と銀とを含有し、前記主成分100モルに対して、0.1モル以上2.0モルのリチウム及び1.5モル以上4.0モル以下のケイ素を、前記ケイ素に対する前記リチウムのモル比Li/Siが0.025以上0.40未満となる量で含有し、複数の圧電セラミックス層10並びに複数の圧電セラミックス層10の間に配置され、銀の含有量が80質量%以上である金属で形成された内部電極20を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩を主成分とし、
カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属元素と銀とを含有し、
前記主成分100モル%に対して、0.1モル%以上2.0モル%以下のリチウム及び1.5モル%以上4.0モル%以下のケイ素を、前記ケイ素に対する前記リチウムのモル比Li/Siが0.025以上0.40未満となる量で含有し、
Cu-Kα線を用いたエックス線回折測定を行った際の10.00°≦2θ≦50.00°における最強回折線強度をImax、26.50°≦2θ≦27.50°における最強回折線強度をIL2S、27.50°≦2θ≦29.00°における回折線強度の平均値をIBGとしたときに、R1=(IL2S-IBG)/(Imax-IBG)×100≧0.20を満たす
複数の圧電セラミックス層、並びに
前記複数の圧電セラミックス層の間に配置され、
銀の含有量が80質量%以上である金属で形成された
内部電極
を備える積層型圧電素子。
【請求項2】
前記アルカリニオブ酸塩が以下の組成式で表される、請求項1に記載の積層型圧電素子。
(AguM2v(K1-w-xNawLix)1-u-v)a(SbyTazNb1-y-z)O3 …(1)
(ただし、式中のM2は、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属を示す。また、式中のu、v、w、x、y、z及びaはそれぞれ、0.005<u≦0.05、0.002<v≦0.05、0.007<u+v≦0.1、0≦w≦1、0.02<x≦0.1、0.02<w+x≦1、0≦y≦0.1、0≦z≦0.4、1<a≦1.1で表される各不等式を満たす数値である。)
【請求項3】
前記圧電セラミックス層が、Cu-Kα線を用いたエックス線回折測定を行った際の25.70°≦2θ≦26.00°における最強回折線強度をIL3Nとしたときに、R2=(IL3N-IBG)/(Imax-IBG)×100≦0.55を満たす、請求項1又は2に記載の積層型圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、圧電性を有するセラミックス(圧電セラミックス)を一対の電極で挟み込んだ構造の電子部品である。ここで、圧電性とは、電気エネルギーと機械エネルギーとを相互に変換可能な性質である。
【0003】
圧電素子は、前述した圧電セラミックスの性質を利用して、一対の電極間に印加された電圧を、圧力や振動といった機械エネルギーに変換することで、他の物体を動かしたり、自身を動作させたりすることができる。他方、圧電素子は、振動や圧力といった機械エネルギーを電気エネルギーに変換し、当該電気エネルギーを一対の電極間の電圧として取り出すこともできる。
【0004】
圧電素子の構造としては、圧電セラミックスの表面にのみ電極を形成したものの他、積層型圧電素子と呼ばれる、複数の圧電セラミックス層と内部電極層とを交互に積層したものが知られている。積層型圧電素子は、圧電セラミックス層の積層方向に大きな変位が得られるため、例えばアクチュエータ等に利用可能である。積層型圧電素子は、典型的には、圧電セラミックス層と内部電極層とを同時に焼成することにより製造される。
【0005】
こうした圧電素子を構成する圧電セラミックスとしては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3、PZT)及びその固溶体を主成分とするものが広く用いられている。PZT系の圧電セラミックスは、高いキュリー温度を有することから、これを用いた圧電素子は、高温環境下でも使用することができる。また、PZT系の圧電セラミックスは、高い電気機械結合係数を有することから、これを用いた圧電素子は、電気的エネルギーと機械的エネルギーとを効率良く変換できる。さらに、PZT系の圧電セラミックスは、適切な組成を選択することにより、1000℃を下回る温度で焼成できるため、圧電素子の製造コストを低減することができる。特に、前述した積層型圧電素子では、圧電セラミックスと同時焼成される内部電極に、銀の含有割合の多い、換言すれば白金やパラジウム等の高価な材料の含有割合の少ない、低融点の材料が使用できるようになることが、大きなコスト低減効果を生む。
【0006】
しかし、PZT系の圧電セラミックスは、有害物質である鉛を含むことが問題視されており、これに代わる、鉛を含まない圧電磁器組成物が求められている。
【0007】
現在まで、鉛を含まない圧電セラミックスとして、アルカリニオブ酸((Li,Na,K)NbO3)系、チタン酸ビスマスナトリウム((Bi0.5Na0.5)TiO3、BNT)系、ビスマス層状化合物系及びタングステンブロンズ系等の種々の組成を有するものが報告されている。これらのうち、アルカリニオブ酸系の圧電セラミックスは、キュリー温度が高く、電気機械結合係数も比較的大きいことから、PZT系に代わるものとして注目されている(特許文献1)。
【0008】
このアルカリニオブ酸系の圧電セラミックスを低温焼成化して、銀の含有割合の多い内部電極との一体焼成を可能とし、積層型圧電素子の製造コストを削減する試みがなされている。
【0009】
例えば、特許文献2には、アルカリニオブ酸系の圧電セラミックスの組成を、アルカリ土類金属と銀とを含有するものとすることで、銀の含有量が50質量%以上の内部電極との一体焼成を可能とする技術思想が開示されている。そして、引用文献2では、Ag0.7Pd0.3の内部電極を具備し、高い電気抵抗率を示すと共に、電圧を印可した際に大きな変位量を示す積層型圧電素子が報告されている。
【0010】
また、特許文献3には、アルカリニオブ酸系の圧電セラミックスの組成を、銀及び特定量のカルシウム又はバリウムを含有するものとして、圧電セラミックス層を、長径が10nm以下の銀偏析領域を内包する焼結粒子を含むものとすることで、銀の含有量が80質量%以上である金属で形成された内部電極との一体焼成を可能とする技術思想が開示されている。そして、引用文献3では、組成式がLi0.064Na0.52K0.42NbO3となるアルカリニオブ酸塩100mol%に対して、0.5mol%のBaCO3、0.4mol%のLiCO3、2.0mol%のSiO2及び0.5mol%のMnOを添加して得られた圧電セラミックス層、並びにAg0.9Pd0.1の内部電極を有する積層型圧電素子が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2007/094115号
【特許文献2】特開2017-163055号公報
【特許文献3】特開2021-158249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献2には、上述のアルカリニオブ酸系の圧電セラミックスに、焼結性の向上に寄与する成分であるLi2O及びSiO2や、電気抵抗の向上に寄与する成分であるMnOを含有させてもよい旨の記載がある。しかし、これらの成分の含有量によっては、導電性を有するLi3NbO4や、アルカリニオブ酸塩に比べて電気抵抗率の低いマンガン酸リチウムが圧電セラミックス中に多量に生成し、素子の使用中に電気的絶縁性の低下が起こることで、素子の寿命が短くなる場合があることが判明した。
【0013】
特許文献3にて報告されている積層型圧電素子は、長寿命で圧電特性にも優れたものである。しかし、長寿命と優れた圧電特性とをより高いレベルで実現した積層型圧電素子が求められている。
【0014】
そこで本発明は、構成成分に鉛を含まず、銀の含有割合の多い内部電極との一体焼成により製造できると共に、長寿命と優れた圧電特性とが両立された積層型圧電素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、前記課題を解決するために種々の検討を行ったところ、積層型圧電素子を製造する際に、アルカリニオブ酸塩に対してリチウム及びケイ素を特定の割合で添加して、圧電セラミックス層を、所定量のLi2SiO3を含むものとすることで、当該課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の一側面は、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩を主成分とし、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属元素と銀とを含有し、前記主成分100モルに対して、0.1モル以上2.0モルのリチウム及び1.5モル以上4.0モル以下のケイ素を、前記ケイ素に対する前記リチウムのモル比Li/Siが0.025以上0.40未満となる量で含有し、Cu-Kα線を用いたエックス線回折測定を行った際の10.00°≦2θ≦50.00°における最強回折線強度をImax、26.50°≦2θ≦27.50°における最強回折線強度をIL2S、27.50°≦2θ≦29.00°における回折線強度の平均値をIBGとしたときに、R1=(IL2S-IBG)/(Imax-IBG)×100≧0.20を満たす複数の圧電セラミックス層、並びに前記複数の圧電セラミックス層の間に配置され、銀の含有量が80質量%以上である金属で形成された内部電極層を備える積層型圧電素子である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、構成成分に鉛を含まず、銀の含有割合の多い内部電極との一体焼成により製造できると共に、長寿命と優れた圧電特性とが両立された積層型圧電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一側面に係る積層型圧電素子の構造を示す断面図(X-Z面)
【
図2】本発明の一側面に係る積層型圧電素子の構造を示す断面図(Y-Z面)
【
図3】ペロブスカイト型構造の単位格子モデルを示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。
【0020】
[積層型圧電素子]
本発明の一側面に係る積層型圧電素子100(以下、単に「本側面」と記載することがある。)は、
図1及び
図2にその断面図を模式的に示すように、圧電セラミックス層10、該圧電セラミックス層10の間に配置された内部電極20及び該内部電極20を1層おきに電気的に接続する接続導体30を備える。なお、
図1及び
図2に示される内部電極20及び
図1に示される接続導体30のうち、同じアルファベット(「a」又は「b」)が付されたものは、同一極性(「+」又は「-」)を有するものを意味する。また、
図1に示される積層型圧電素子100では、その表面に接続導体30が形成されているが、接続導体30は、積層型圧電素子100の内部に、圧電セラミックス層10を貫通して形成されていてもよい。
【0021】
本側面には、
図2に示すように、Y軸方向両側面と内部電極20との間に位置するサイドマージン部40、及びZ軸方向上下面に位置するカバー部50が形成されていてもよい。また、本側面は、接続導体30と駆動回路とを電気的に接続する端子電極(図示せず)が表面に形成されたものであってもよく、表面に形成された接続導体30が、端子電極を兼ねるものであってもよい。
【0022】
以下、積層型圧電素子100を構成する各部分について詳述する。
【0023】
(圧電セラミックス層)
圧電セラミックス層10は、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩を主成分とする。
【0024】
主成分であるアルカリニオブ酸塩は、構成元素として、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)及びカリウム(K)からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属元素、並びにニオブ(Nb)を含有する、ペロブスカイト型構造を有する酸化物である。ここで、ペロブスカイト型構造は、
図3に示すように、単位格子の頂点に位置するAサイト、単位格子の面心に位置するOサイト、及び前記Oサイトを頂点とする八面体内に位置するBサイトを有する結晶構造である。本実施形態におけるアルカリニオブ酸塩では、アルカリ金属イオンがAサイトに、ニオブイオンがBサイトに、酸化物イオンがOサイトに、それぞれ位置する。この他に、各サイトには、前述した以外の種々のイオンを含んでいてもよい。
【0025】
ここで、圧電セラミックス層10が、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩を主成分とすることの確認は、以下の手順で行う。
まず、積層型圧電素子100の表面に露出させた圧電セラミックス層10、又は積層型圧電素子100を粉砕して得た粉末について、Cu-Kα線を用いたエックス線回折(XRD)装置で回折線プロファイルを測定する。積層型圧電素子100の表面に圧電セラミックス層10を露出させる方法は特に限定されず、圧電素子を切断ないし研磨する方法等を採用できる。また、積層型圧電素子100の粉砕手段も特に限定されず、ハンドミル(乳鉢・乳棒)等を利用できる。
次いで、得られた回折線プロファイル中の、ペロブスカイト型構造由来のプロファイルにおける最強回折線強度に対する、他の構造由来の回折プロファイルにおける最強回折線強度の割合が10%以下となったことをもって、圧電セラミックス層10がペロブスカイト型構造を有する化合物を主成分とするものと判定する。このとき、積層型圧電素子100を粉砕した粉末についてXRD測定を行った場合には、内部電極20を構成する金属のピークも検出されるため、これを除外した上で、前述した回折線強度の比較を行う。
次いで、ペロブスカイト型構造を有する化合物を主成分とすると判定された圧電セラミックス層10又はこれから調製した粉末について、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析、イオンクロマトグラフィー装置ないしは、蛍光X線(XRF)分析装置によって、含有する各元素の比率を測定する。測定の結果、モル%(又は原子%)で表したアルカリ金属元素の合計含有量及びニオブの含有量の両者が、他の元素の含有量よりも多くなったことをもって、主成分であるペロブスカイト構造を有する化合物がアルカリニオブ酸塩であると判定する。
【0026】
圧電セラミックス層10は、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属元素と、銀(Ag)とを含有する。これにより、圧電セラミックス層10が、焼結粒子径の小さい緻密なものとなり、優れた圧電性を発現する。圧電セラミックス層10中のアルカリ土類金属元素及び銀の含有量は限定されないが、積層型圧電素子を圧電性に優れたものとする点からは、アルカリ土類金属元素については、主成分であるアルカリニオブ酸塩のBサイト中の元素(実際にはイオン状態であることが多い)の含有量を100モル%としたときに0.2モル%を超えることが好ましく、0.3モル%以上であることがより好ましく、0.5モル%以上であることがさらに好ましい。また、同様の理由から、銀については、前記Bサイト中の元素100モル%に対して0.5モル%を超えることが好ましく、0.7モル%以上とすることがより好ましく、1.0モル%以上とすることがさらに好ましい。他方、圧電セラミックス層10の電気的絶縁性をさらに向上させて、高電界下での使用を可能にすると共に、素子寿命を長くする点からは、前記アルカリ土類金属元素の合計含有量は、5.0モル%以下とすることが好ましく、3.0モル%以下とすることがより好ましく、1.0モル%以下とすることがさらに好ましい。また、同様の理由により、前記銀の含有量は、5.0モル%以下とすることが好ましく、4.0モル%以下とすることがより好ましく、3.0モル%以下とすることがさらに好ましい。また、前述した各理由から、前記アルカリ土類金属元素の合計含有量及び前記銀の含有量については、前記Bサイト中の元素100モル%に対して、アルカリ土類金属元素の合計含有量が0.2モル%を超え5.0モル%以下であり、銀の含有量が0.5モル%を超え5.0モル%以下であることが好ましく、アルカリ土類金属元素の合計含有量が0.3モル%以上3.0モル%以下であり、銀の含有量が0.7モル%以上4.0モル%以下であることがより好ましく、アルカリ土類金属元素の合計含有量が0.5モル%以上1.0モル%以下であり、銀の含有量が1.0モル%以上3.0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
圧電セラミックス層10中に含まれるアルカリ土類金属元素及び銀は、主成分であるアルカリニオブ酸塩のAサイトに固溶し得る。また、圧電セラミックス層10がTaやSbを含む場合、これらの元素はアルカリニオブ酸塩のBサイトに固溶し得る。こうした元素がアルカリニオブ酸塩に固溶している場合には、該各元素が固溶したアルカリニオブ酸塩が、圧電セラミックス層10の主成分となる。
【0028】
前記主成分は、優れた圧電特性を発現させる点、及び高電界下で使用した際に長寿命の素子を得る点からは、下記組成式(1)で表されるものであることが好ましい。
(AguM2v(K1-w-xNawLix)1-u-v)a(SbyTazNb1-y-z)O3
…(1)
ただし、式中のM2は、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を示す。また、u、v、w、x、y、z及びaはそれぞれ、0.005<u≦0.05、0.002<v≦0.05、0.007<u+v≦0.1、0≦w≦1、0.02<x≦0.1、0.02<w+x≦1、0≦y≦0.1、0≦z≦0.4、1<a≦1.1で表される各不等式を満たす数値である。
【0029】
ここで、アルカリニオブ酸塩が上記組成式(1)で表されるものであることは、以下の手順で確認する。
まず、上述した手順により、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩を主成分とすることを確認した圧電セラミックス層10又はこれから調製した粉末について、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析、イオンクロマトグラフィー装置ないしは、蛍光X線(XRF)分析装置によって、銀(Ag)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、アンチモン(Sb)、タンタル(Ta)及びニオブ(Nb)の含有量を測定する。ただし、測定対象を圧電セラミックス層10から調製した粉末とする場合には、内部電極に含まれる銀の影響を除くために、内部電極の成分を含まない粉末を用いる。
次いで、アンチモン、タンタル及びニオブの合計モル数を算出し、これに対する前記各元素のモル数の割合を算出する。
そして、得られた前記各元素の割合が上記組成式(1)の範囲内となったことをもって、アルカリニオブ酸塩が上記組成式(1)で表されるものと判定する。
【0030】
圧電セラミックス層10は、上述した主成分100モル%に対して、0.1モル%以上2.0モル%以下のリチウム、及び1.5モル%以上4.0モル%以下のケイ素を、前記ケイ素に対する前記リチウムのモル比Li/Siが0.025以上0.40未満となる量で含有する。これにより、後述する内部電極20の耐熱温度以下での焼成によっても、積層型圧電素子100が長寿命と優れた圧電特性とを両立したものとなる。積層型圧電素子100の長寿命と優れた圧電特性とをより高いレベルで実現する点からは、前記リチウムの含有量は、上述した主成分100モル%に対して0.2モル%以上1.8モル%以下が好ましく、0.3モル%以上1.5モル%以下がより好ましく、0.4モル%以上1.2モル%以下がさらに好ましい。また、同様の理由から、前記ケイ素の含有量は、上述した主成分100モル%に対して1.8モル%以上3.9モル%以下が好ましく、2.0モル%以上3.8モル%以下がより好ましく、2.2モル%以上3.7モル%以下がさらに好ましい。さらに、同様の理由から、前記Li/Siは、0.05以上0.38以下が好ましく、0.08以上0.36以下がより好ましく、0.10以上0.34以下であることがさらに好ましい。なお、Liは上述した主成分の構成元素でもあるが、ここで説明されるLiの量には、該主成分中のLiは含まれない。圧電セラミックス層10に含まれる、前記主成分を構成しないLiの量は、前述したアルカリニオブ酸塩の組成式の決定方法において、組成分析の結果得られたLiの総量からアルカリニオブ酸塩中に固溶し得るLi量を除いた残部として算出される。
【0031】
圧電セラミックス層10は、Cu-Kα線を用いたエックス線回折測定を行った際の10.00°≦2θ≦50.00°における最強回折線強度をImax、26.50°≦2θ≦27.50°における最強回折線強度をIL2S、27.50°≦2θ≦29.00°における回折線強度の平均値をIBGとしたときに、R1=(IL2S-IBG)/(Imax-IBG)×100≧0.20を満たす。これにより、積層型圧電素子100が、長寿命と優れた圧電特性とを両立したものとなる。前記Imaxは、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩を主成分とする圧電セラミックス層10では、主成分であるアルカリニオブ酸塩のメインピーク強度に相当する。また、前記IL2SはLi2SiO3のメインピーク強度に相当し、前記IBGはバックグラウンドのエックス線強度に相当する。このため、前記R1の値が大きいことは、主成分に対するLi2SiO3の割合が高いことを意味する。このように、主成分に対して一定割合以上のLi2SiO3を含むことが、積層型圧電素子100の長寿命化と圧電特性の向上とに寄与するものと推定される。積層型圧電素子100の長寿命と優れた圧電特性とをより高いレベルで実現する点からは、前記R1の値は0.23以上であることが好ましく、0.24以上であることがより好ましく、0.25以上であることがより好ましい。前記R1の上限値は、上述したリチウム及びケイ素の含有量において得られるものであれば特に限定されないが、0.60以下であることが好ましく、0.50以下であることがより好ましく、0.40以下であることがさらに好ましい。前述した理由から、前記R1の値は、0.23以上0.60以下であることが好ましく、0.24以上0.50以下であることがより好ましく、0.25以上0.50以下であることがさらに好ましい。
【0032】
圧電セラミックス層10は、Cu-Kα線を用いたエックス線回折測定を行った際の25.70°≦2θ≦26.00°における最強回折線強度をIL3Nとしたときに、これと前述したImax及びIBGとの間に、R2=(IL3N-IBG)/(Imax-IBG)×100≦0.55の関係が成り立つものであることが好ましい。これにより、積層型圧電素子100が、長寿命と優れた圧電特性とをより高いレベルで両立したものとなる。前記IL3Nは、Li3NbO4のメインピーク強度に相当し、前記R2の値は、主成分であるアルカリニオブ酸塩に対するLi3NbO4の割合に対応している。このため、前記R2の値が小さいことは、主成分に対するLi3NbO4の割合が低いことを意味する。Li3NbO4は導電性を有する化合物であるため、その割合が低いことが、積層型圧電素子100の長寿命化と圧電特性の向上とに寄与するものと推定される。積層型圧電素子100の寿命をさらに延ばし、かつさらに優れた圧電特性を得る点から、前記R2の値は0.40以下であることがより好ましく、0.20以下であることがさらに好ましい。前記R2の下限値は低いほど好ましいが、汎用のエックス線回折装置を用いた測定では、前記IL3Nがピークとして認識されない場合でも、0.05程度の値にはなる。
【0033】
前述した各最強回折線強度を得るためのエックス線回折測定は、上述した、圧電セラミックス層10がペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩を主成分とするものであるかを確認する際に行うエックス線回折測定と同様の方法で行うことができる。
【0034】
圧電セラミックス層10は、上述した各成分に加えて、マンガン(Mn)を含有してもよい。これにより、圧電セラミックス層10の電気的絶縁性が向上し、長寿命の積層型圧電素子100が得られる。マンガンの含有量は特に限定されないが、優れた電気的絶縁性を得る点からは、主成分であるアルカリニオブ酸塩を100モル%としたときに0.2モル%以上とすることが好ましく、0.3モル%以上とすることがより好ましく、0.5モル%以上とすることがさらに好ましい。他方、圧電セラミックス層10を圧電特性に優れるものとする点からは、マンガンの含有量は、前記主成分100モル%に対して2.0モル%以下とすることが好ましく、1.5モル%以下とすることがより好ましく、1.0モル%以下とすることがさらに好ましい。また、前述した理由から、マンガンの含有量は、前記主成分100モル%に対して、0.2モル%以上2.0モル%以下とすることが好ましく、0.3モル%以上1.5モル%以下とすることがより好ましく、0.5モル%以上1.0モル%以下とすることがさらに好ましい。
【0035】
これらの成分の他、圧電セラミックス層10は、必要に応じて、第一遷移元素であるSc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選択される少なくとも1つを含んでもよい。これらの元素を適当な量で含むことで、積層型圧電素子100の焼成温度の調整や、粒成長の制御や、高電界における長寿命化が可能である。
【0036】
また、圧電セラミックス層10は、必要に応じて、第二遷移元素であるY、Zr、Mo、Ru、Rh及びPdから選択される少なくとも1つを含んでもよい。これらの元素を適当な量で含むことで、積層型圧電素子100の焼成温度の調整や、粒成長の制御や、高電界における長寿命化が可能である。
【0037】
さらに、圧電セラミックス層10は、必要に応じて、第三遷移元素であるLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、W、Re、Os、Ir、Pt及びAuから選択される少なくとも1つを含んでもよい。これらの元素を適当な量で含むことで、積層型圧電素子100の焼成温度の調整や、粒成長の制御や、高電界における長寿命化が可能である。
【0038】
勿論、本実施形態においては、圧電セラミックス層10に、前述の第一遷移元素、第二遷移元素、及び第三遷移元素のうちの複数種類を含有させることもできる。
【0039】
(内部電極)
内部電極20は、銀の含有量が80質量%以上である金属で形成される。銀の含有量を80質量%以上とすることで、白金やパラジウム等の高価な金属の使用量を減らして素子の製造コストを抑えることができる。また、導電性に優れる銀の割合が増加することから、内部電極20の電気抵抗率が減少し、圧電素子として使用する際の電気的損失が低減される。銀の含有量が80質量%以上の金属としては、銀-パラジウム合金及び銀が例示される。内部電極20を構成する金属中の銀の含有量は、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0040】
内部電極20における銀の含有量は、各種測定機器を用いて内部電極20の元素分析を行い、検出された全元素に対する銀の質量割合を算出することで確認できる。使用する測定機器としては、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)又は透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)に装着したエネルギー分散型X線分光器(Energy Dispersive X-ray Spectrometer、EDS)又は波長分散型X線分光器(Wavelength Dispersive X-ray Spectrometer、WDS)、電子線マイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer、EPMA)及びレーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)等が例示される。
【0041】
(接続導体)
接続導体30は、内部電極20を1層おきに電気的に接続する。接続導体30の材質としては、これが積層型圧電素子100の表面に形成される場合には、導電性が高く、後述する分極条件下及び素子の使用環境下で物理的及び化学的に安定なものであれば特に限定されない。一例として、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びニッケル(Ni)、並びにこれらの合金等が挙げられる。他方、接続導体30が積層型圧電素子100の内部に、圧電セラミックス層10を貫通して形成される場合には、上述した内部電極20と同様に、銀の含有量が80質量%以上の金属とすることが好ましい。
【0042】
(サイドマージン部及びカバー部)
サイドマージン部40及びカバー部50は、圧電セラミックス層10及び内部電極20を保護する保護部として機能する。
【0043】
サイドマージン部40及びカバー部50は、積層型圧電素子100の焼成時の収縮率や、積層型圧電素子100内における内部応力の緩和等の観点から、圧電セラミックス層10と同様に、アルカリニオブ酸塩を主成分とする焼結体で形成されていることが好ましい。しかし、サイドマージン部40及びカバー部50を形成する材料は、高い絶縁性を有する材料であれば、アルカリニオブ酸塩を主成分とするものでなくともよい。
【0044】
(端子電極)
端子電極は、接続導体30と駆動回路とを電気的に接続する機能を有する。また、これが圧電セラミックス層10上に形成される場合には、これに電圧を印可する機能も有する。端子電極30の材質は、導電性が高く、分極条件下及び圧電素子の使用環境下で物理的及び化学的に安定なものであれば特に限定されない。一例として、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びニッケル(Ni)、並びにこれらの合金等が挙げられる。
【0045】
[積層型圧電セラミックスの製造方法]
本側面に係る積層型圧電素子は、例えば、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末と、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素、リチウム並びにケイ素の各元素を所定量含有する1種又は複数種の粉末と、バインダとを含む生シートを準備すること、銀の含有量が80質量%以上の金属を含む内部電極前駆体を前記生シート上に配置すること、前記金属ペーストが印刷された生シートを所定の枚数積層し、圧着して生成形体を得ること、該生成形体からバインダを除去した後、焼成して積層型圧電セラミックスを得ること、該積層型圧電セラミックスの、内部電極が露出する表面に導体ペーストを塗布した後焼き付けて、接続導体及び端子電極を形成すること、並びに該端子電極間に高電圧を印可して、圧電セラミックス層の分極処理を行うこと、を経て製造される。以下、各操作について詳述する。
【0046】
(アルカリニオブ酸塩粉末の準備)
ペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末は、例えば、リチウム、ナトリウム及びカリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ金属元素を含む化合物の粉末、並びにニオブを含む化合物の粉末を、所期の比率で混合し、焼成(仮焼成)することで得られる。最終生成物である圧電セラミックスの特性を所期のものとするために、アルカリ金属及びニオブ以外の元素を含む化合物を配合してもよい。
【0047】
原料として使用する化合物の一例としては、リチウム化合物としての炭酸リチウム(Li2CO3)及びフッ化リチウム(LiF)、ナトリウム化合物としての炭酸ナトリウム(Na2CO3)及び炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、カリウム化合物としての炭酸カリウム(K2CO3)及び炭酸水素カリウム(KHCO3)、並びにニオブ化合物としての五酸化ニオブ(Nb2O5)が挙げられる。また、任意成分ではあるものの、よく使用される化合物としては、タンタル化合物としての五酸化タンタル(Ta2O5)や、アンチモン化合物としての三酸化アンチモン(Sb2O3)等が挙げられる。
【0048】
原料粉末を混合する方法は、不純物の混入を抑えつつ各粉末が均一に混合されるものであれば特に限定されず、乾式混合、湿式混合のいずれを採用してもよい。混合方法としてボールミルを用いた湿式混合を採用する場合には、例えば、部分安定化ジルコニア(PSZ)ボールを用い、エタノール等の有機溶媒を分散媒とするボールミルによって8時間から60時間程度撹拌した後、有機溶媒を揮発乾燥すればよい。
【0049】
原料混合粉末の仮焼成条件は、前述の各化合物粉末が反応して所期のアルカリニオブ酸塩が得られるものであれば特に限定されない。一例として、大気中、700℃から1000℃の温度で、1時間から10時間焼成することが挙げられる。仮焼成後の粉末は、そのまま圧電セラミックスの製造に供してもよいが、ボールミルやスタンプミル等によって解砕することが、後述するアルカリ土類金属化合物及び有機結合剤との混合性を高める点や、均一なスラリーを経て平滑な生シートが得られる点で好ましい。
【0050】
なお、アルカリニオブ酸塩粉末として市販のものが利用できる場合は、前述した原料粉末の混合及び仮焼成を行わず、この粉末に対して以後の操作を行ってもよい。
【0051】
(生シートの作製)
アルカリニオブ酸塩の粉末と、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素、リチウム並びにケイ素の各元素を所定量含有する1種又は複数種の粉末と、バインダとを含む生シートは、例えば、前述したアルカリニオブ酸塩の粉末に、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素、リチウム並びにケイ素の各元素を所定量含有する1種又は複数種の粉末を添加して得た混合粉末を、バインダ及び分散媒と混合してスラリーを調製し、該スラリーをシート状に成形することで得られる。
【0052】
アルカリ土類金属元素を含有する粉末としては、カルシウムを含むものとして炭酸カルシウム(CaCO3)、メタケイ酸カルシウム(CaSiO3)及びオルトケイ酸カルシウム(Ca2SiO4)が、ストロンチウムを含むものとして炭酸ストロンチウム(SrCO3)が、バリウムを含むものとして炭酸バリウム(BaCO3)が、それぞれ例示される。
【0053】
リチウムを含有する粉末としては、炭酸リチウム(Li2CO3)、フッ化リチウム(LiF)、メタケイ酸リチウム(Li2SiO3)及びオルトケイ酸リチウム(Li4SiO4)が例示される。
【0054】
ケイ素を含有する粉末としては、前述したメタケイ酸リチウム(Li2SiO3)及びオルトケイ酸リチウム(Li4SiO4)の他、二酸化ケイ素(SiO2)が例示される。
【0055】
バインダとしては、後述する生シートの形状を保持できると共に、焼成ないしこれに先立つバインダ除去処理により、炭素等を残存させることなく揮発するものを用いる。使用できるバインダの例としては、ポリビニルアルコール系、ポリビニルブチラール系、セルロース系、ウレタン系及び酢酸ビニル系のものが挙げられる。バインダの使用量も特に限定されないが、後工程で除去されるものであるため、所期の成形性・保形性が得られる範囲内で極力少なくすることが、原料コストを低減する点で好ましい。
【0056】
分散媒としては、仮焼粉末及びバインダの凝集を生じることがなく、後述する生シート成形後に揮発等により容易に除去できるものを用いる。使用できる分散媒の例としては、水及びアルコール系溶媒等が挙げられる。
【0057】
スラリーには、分散剤、可塑剤及び増粘剤等のスラリーの性状を調節する成分を添加してもよい。
【0058】
上記混合粉末を、バインダ及び分散媒と混合する方法は、不純物の混入を防ぎつつ各成分が均一に混合されるものであれば特に限定されない。一例として、ボールミル混合が挙げられる。
【0059】
調製されたスラリーをシート状に成形して生シートを得る方法としては、ドクターブレード法等の慣用されている方法を採用できる。
【0060】
(内部電極前駆体の配置)
生シート上への内部電極前駆体の配置は、例えば、銀の含有量が80質量%以上の金属を含む内部電極用ペーストを、生シート上に印刷することで実施できる。内部電極用ペーストには、焼成後の圧電セラミックス層への付着強度を向上させるため、ガラスフリットや、生シート中に含まれるアルカリニオブ酸塩粉末と同様の組成を有する粉末を添加してもよい。
【0061】
生シート上に内部電極用ペーストを印刷する際には、積層型圧電素子とした際にサイドマージン部となるスペースを空けて印刷してもよい。
【0062】
(生成形体の作製)
生成形体は、例えば、内部電極前駆体を配置した生シートを所定の枚数積層し、該生シート同士を圧着して得られる。積層及び圧着は、慣用されている方法で行えばよく、積層した生シート同士を加熱しながら積層方向にプレスし、バインダの作用で熱圧着する方法等を採用できる。
【0063】
積層及び圧着に際しては、積層方向の両端部に、積層型圧電素子とした際にカバー部となる生シートを追加してもよい。この場合、追加する生シートは、内部電極前駆体を配置した生シートと同一の組成であっても、これとは異なる組成であってもよい。焼成時の収縮率を揃える観点からは、追加する生シートの組成は、前述の内部電極前駆体を配置した生シートと同一又は類似の組成であることが好ましい。
【0064】
(積層型圧電セラミックスの作製)
積層型圧電セラミックスは、前述の生成形体を焼成することで得られる。焼成に先立って、生成形体からバインダを除去してもよい。この場合、バインダの除去と焼成とは同じ焼成装置を用いて連続して行ってもよい。バインダの除去及び焼成の条件は、バインダの揮発温度及び含有量、並びにアルカリニオブ酸塩の焼結性及び内部電極用ペーストに含まれる金属の耐熱性等を考慮して適宜設定すればよい。バインダを除去する条件の例としては、大気雰囲気中、300℃から500℃の温度で5時間から20時間が挙げられる。また、焼成条件の例としては、大気雰囲気中、800℃から1100℃で1時間から5時間が挙げられる。1つの生成形体から複数の積層型圧電セラミックスを得る場合には、焼成に先立って生成形体を幾つかのブロックに分割してもよい。
【0065】
前述の焼成により、前記生シートからアルカリニオブ酸塩を主成分とする焼結体層が生成すると同時に、前記内部電極前駆体から内部電極が生成する。その際に、内部電極から焼結体層に銀が拡散し、焼結体層が銀を含有するものとなる。そして、この銀と、生シートの作製時に添加したアルカリ土類金属元素との相互作用により、得られる焼結体層が、微細な焼結粒子で形成された緻密なものとなる。
【0066】
また、前述の焼成により、前記生シートの作製時に添加したリチウム及びケイ素、並びにアルカリニオブ酸塩の成分であるリチウムが反応し、Li2SiO3が生成する。
【0067】
(接続導体及び端子電極の形成)
接続導体及び端子電極は、例えば、得られた積層型圧電セラミックスの表面に、導体ペーストを塗布した後焼き付けることで形成できる。
【0068】
(分極処理)
分極処理は、前述の端子電極間に高電圧を印加することで実施する。分極処理の条件は、積層型圧電セラミックスに亀裂等の損傷を生じることなく、各圧電セラミックス層中の自発分極の向きを揃えられるものであれば特に限定されない。一例として、100℃から150℃の温度にて、2kV/mmから6kV/mmの電界を印加することが挙げられる。
【実施例0069】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末として、組成式Li0.06Na0.52K0.42NbO3で表される仮焼粉を準備した。この仮焼粉100モル%に対し、0.6モル%のBaCO3、0.4モル%のLi2CO3、2.5モル%のSiO2、及び0.8モル%のMnO、並びにポリビニルブチラール系のバインダをそれぞれ添加して、湿式ボールミル混合した。得られた混合スラリーをドクターブレードにて成形し、厚さ80μmの生シートを得た。この生シート上に、Ag-Pd合金ペースト(Ag/Pd質量比=9/1)をスクリーン印刷し、電極パターンを形成した後、該生シートを11層積層し、加熱しながら50MPa程度の圧力で加圧することで圧着して積層体を得た。この積層体を個片化した後、大気中で脱バインダ処理を行い、これに引き続いて大気中、970℃で2時間の焼成を行って、焼成体(積層型圧電セラミックス)を得た。この焼成体の表面にAgを含む導電性ペーストを塗布し、600℃まで昇温して焼き付けることで、一対の接続導体及び端子電極を形成した。最後に、100℃の恒温槽中で、前記一対の端子電極間に3.0kV/mmの電界を3分間印加して分極処理を行い、実施例1に係る積層型圧電素子を得た。
【0071】
(実施例2及び3)
仮焼粉100モル%に対するLi2CO3及びSiO2の添加量をそれぞれ、0.55モル%のLi2CO3及び3.5モル%のSiO2(実施例2)、並びに0.2モル%のLi2CO3及び2.5モル%のSiO2(実施例3)としたこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例2及び3に係る積層型圧電素子をそれぞれ得た。
【0072】
(比較例1)
仮焼粉100モル%に対するLi2CO3及びSiO2の添加量を、0.65モル%のLi2CO3及び1.3モル%のSiO2とし、焼成温度を990℃としたこと以外は実施例1と同様の方法で、比較例1に係る積層型圧電素子を得た。
【0073】
(比較例2から4)
仮焼粉100モル%に対するLi2CO3及びSiO2の添加量をそれぞれ、0.65モル%のLi2CO3及び0.8モル%のSiO2(比較例2)、Li2CO3を添加せず2.5モル%のSiO2のみ添加(比較例3)、並びに1.0モル%のLi2CO3及び2.5モル%のSiO2(比較例4)としたこと以外は比較例1と同様の方法で、比較例2から4に係る積層型圧電素子をそれぞれ得た。
【0074】
上述した各実施例及び比較例における、仮焼粉に対するリチウム及びケイ素のモル百分率、並びに焼成温度を、表1にそれぞれ示す。
【0075】
<評価>
[R1及びR2の算出]
各実施例及び比較例において、接続導体及び端子電極を形成する前の焼成体を内部電極ごと粉砕して粉末とし、該粉末について、Cu-Kα線を用いたエックス線回折測定を行った。測定は、加速電圧を40kV、電流値を40mAとし、10°≦2θ≦50°の範囲を、0.02°間隔で、スキャンスピードを2°/minとして行った。測定の結果、実施例に係る各焼成体、並びに比較例1、3及び4に係る各焼成体から調製した粉末においては、主成分であるアルカリニオブ酸塩のピークの他に、26.50°≦2θ≦27.50°の範囲内にピークが確認された。これに対し、比較例2に係る焼成体から調製した粉末においては、前記ピークは確認されなかった。また、実施例1、並びに比較例1、2及び4に係る各焼成体から調製した粉末においては、25.70°≦2θ≦26.00°の範囲内にもピークが確認されたのに対し、実施例2及び3、並びに比較例3に係る各焼成体から調製した粉末においては、前記ピークは確認されなかった。測定結果から、上述した計算式に基づいて、R1及びR2を算出した。各焼成体について得られたR1及びR2の値を、表1にそれぞれ示す。
【0076】
[圧電セラミックス層内の元素分布測定]
各実施例において、接続導体及び端子電極を形成する前の焼成体を、圧電セラミックス層及び内部電極に垂直な面で切断し、露出した断面の圧電セラミックス層について、ToF-SIMSにより元素分布を測定した。その結果、リチウムが高濃度で検出された位置では、ケイ素濃度も高くなっていることが確認された。この結果と、前述したエックス線回折測定の結果とから、各実施例に係る焼成体においては、圧電セラミックス層中にLi2SiO3が存在するといえる。
【0077】
[電気的絶縁性の経時変化(平均寿命)の測定]
得られた各積層型圧電素子を100℃の恒温槽内に配置し、外部電極間に8kV/mmの直流電界を印加して、外部電極間に流れる電流値が1mA以上となるまでの時間を測定した。そして、この時間の10個の素子についての平均値を、平均寿命とした。各素子について得られた平均寿命を、比較例1に係る積層型圧電素子の平均寿命を100としたときの比として表1に示す。
【0078】
[圧電特性の評価]
得られた各積層型圧電素子の圧電特性を、変位性能d*
33(pm/V)により評価した。まず、積層型圧電セラミックスに100Hz程度で最大電界6kV/mmとなる単極性の三角波を打ち込み、その際の積層型圧電素子の変位量を、レーザードップラー変位計にて測定した。そして、得られた積層型圧電素子の変位量を、圧電セラミックス層の厚さ(電極間距離)及び最大電界から算出される最大電圧、並びに積層型圧電素子を構成する圧電セラミックス層の層数で割ることで、1層の圧電セラミックス層における単位電圧あたりの変位性能d*
33を算出した。各素子について得られた変位性能d*
33を、比較例1に係る積層型圧電素子の変位性能d*
33を100としたときの比として表1に示す。
【0079】
【0080】
以上の結果から、アルカリニオブ酸塩を主成分とする圧電セラミックス層を、アルカリ土類金属元素及び銀を含有すると共に、リチウム及びケイ素を特定の量で含有し、かつ所定量のLi2SiO3を含むものとすることで、低温での焼成によっても長寿命と優れた圧電特性とが両立された積層型圧電素子が得られるといえる。
本発明によれば、アルカリニオブ酸塩を主成分とする圧電セラミックスを用いた、長寿命と優れた圧電特定とが両立された積層型圧電素子を、低コストで提供できる。このような積層型圧電素子は、構成成分に鉛を含まない上、長期にわたって使用することができるため、そのライフサイクルにおいて環境への負荷を低減できる点で有用である。また、前記積層型圧電素子は、内部電極中の銀の含有割合が高いため、その電気抵抗率が低くなり、使用時の電気的損失を低減できる点でも有用である。