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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020060
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】防振装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20240206BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20240206BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20240206BHJP
   F16F 1/38 20060101ALI20240206BHJP
   F16F 1/387 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
F16F15/04 A
B60K5/12 J
F16F15/08 W
F16F1/38 F
F16F1/387 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122943
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000201869
【氏名又は名称】倉敷化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板野 佑次
(72)【発明者】
【氏名】松本 大輝
(72)【発明者】
【氏名】石原 康平
【テーマコード(参考)】
3D235
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
3D235AA01
3D235BB20
3D235BB23
3D235CC01
3D235CC12
3D235EE04
3D235EE09
3D235HH51
3J048AA01
3J048CB05
3J048CB09
3J048EA01
3J048EA08
3J059AA04
3J059AD03
3J059EA14
3J059GA07
3J059GA28
(57)【要約】
【課題】防振装置における弾性部材のばね特性のばらつきに起因する振動体の位置ずれを抑制する。
【解決手段】防振装置1は、エンジン3に連結される圧入体10と、車体2に連結され且つ圧入体10が圧入される被圧入体20と、を備える。圧入体10は、エンジン3に連結される第1剛性部材11と、被圧入体20に圧入される第2剛性部材12と、第1剛性部材11と第2剛性部材12とを連結する弾性部材13と、を有する。本製造方法では、被圧入体20に対する第2剛性部材12の圧入量Lは、第1剛性部材11に所定荷重Fを与えたときの第1剛性部材11と被圧入体20との相対位置(ストッパクリアランスC)が所定範囲Rに収まるように、設定される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体に連結される挿入体と、
支持体に連結され且つ前記挿入体が挿入される被挿入体と、を備え、
前記挿入体は、
前記振動体に連結される第1剛性部材と、
前記被挿入体に挿入される第2剛性部材と、
前記第1剛性部材と前記第2剛性部材とを連結する弾性部材と、を有する、防振装置の製造方法であって、
前記被挿入体に対する前記第2剛性部材の挿入量は、前記第1剛性部材に所定荷重を与えたときの前記第1剛性部材と前記被挿入体との相対位置が所定範囲に収まるように、設定される、防振装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の防振装置の製造方法であって、
前記第1剛性部材又は前記弾性部材には、ストッパが連結されており、
前記被挿入体に対する前記第2剛性部材の挿入量は、前記第1剛性部材又は前記振動体と前記被挿入体との距離から前記ストッパの幅を除いたストッパクリアランスが所定範囲に収まるように、設定される、防振装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の防振装置の製造方法であって、
前記相対位置は、前記弾性部材のばね特性に基づいて、算出される、防振装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の防振装置の製造方法であって、
前記振動体は、エンジン又はモータであり、
前記支持体は、車体である、防振装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の防振装置の製造方法であって、
前記振動体は、互いに異なる箇所に配置される複数の前記防振装置によって、前記支持体に対して支持される、防振装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の防振装置の製造方法であって、
前記相対位置が所定範囲にあるか否かを、前記被挿入体に対して前記第2剛性部材を挿入した後に、前記挿入量に基づいて、判定する、防振装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、防振装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に係る圧入連結部材の製造方法では、被圧入材(被挿入体)に対する圧入材(挿入体)の圧入長(挿入量)を、圧入体及び被圧入体の圧入荷重に対する圧入方向への変形量/歪み量に基づいて、制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-277122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンから車体への振動伝達を抑制する防振装置が知られている。この種の防振装置は、エンジンに連結される挿入体と、車体に連結され且つ挿入体が挿入(例えば圧入)される被挿入体と、を備える。挿入体には、例えばゴムからなる弾性部材が、含まれている。
【0005】
エンジンは、通常、互いに異なる箇所に配置された複数の防振装置によって、車体に対して支持される。防振装置における弾性部材の弾性変形によって、エンジンから車体への振動伝達が抑制される。
【0006】
従来、防振装置における被挿入体に対する挿入体の挿入量は、ユーザからの寸法要求や弾性部材のばね特性(例えば、ばね定数)のカタログ値に基づいて、一律に設定されていた。
【0007】
しかしながら、防振装置における弾性部材のばね特性は、たとえカタログ値が同じであっても、厳密には防振装置毎に微妙にばらつく。すなわち、防振装置でエンジンを支持した場合の弾性部材の変位量は、防振装置毎にばらつく。
【0008】
被挿入体に対する挿入体の挿入量を一律に設定したのでは、被挿入体に対する挿入体及び(挿入体が連結される)エンジンの相対位置が防振装置毎にばらついてしまうので、(被挿入体が連結される)車体に対するエンジンの相対位置も防振装置毎にばらついてしまう。
【0009】
このため、互いに異なる箇所に配置された複数の防振装置によってエンジンを車体に対して支持する場合には、被挿入体に対する挿入体の相対位置の防振装置毎のばらつきに起因して、エンジンが傾いてしまうことがある。
【0010】
また、1つの防振装置によってエンジンを車体に対して支持する場合であっても、上記相対位置の防振装置毎のばらつきに起因して、車体に対するエンジンの相対位置が車両毎にばらついてしまい、不都合となり得る。
【0011】
しかしながら、特許文献1に係る方法では、防振装置における弾性部材のばね特性を考慮しておらず、ばね特性の防振装置毎のばらつきに起因したエンジンの位置ずれを抑制できない。
【0012】
挿入体がエンジン以外の振動体に連結される場合や、被挿入体が車体以外の支持体に連結される場合も同様である。また、挿入体が被挿入体に対して圧入以外の態様で挿入される場合も同様である。
【0013】
本開示は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、防振装置における弾性部材のばね特性のばらつきに起因する振動体の位置ずれを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示に係る防振装置の製造方法は、振動体に連結される挿入体と、支持体に連結され且つ前記挿入体が挿入される被挿入体と、を備え、前記挿入体は、前記振動体に連結される第1剛性部材と、前記被挿入体に挿入される第2剛性部材と、前記第1剛性部材と前記第2剛性部材とを連結する弾性部材と、を有する、防振装置の製造方法であって、前記被挿入体に対する前記第2剛性部材の挿入量は、前記第1剛性部材に所定荷重を与えたときの前記第1剛性部材と前記被挿入体との相対位置が所定範囲に収まるように、設定される。
【0015】
挿入体における弾性部材のばね特性(例えば、ばね定数)は、防振装置毎にばらつく。ここで、挿入体の第1剛性部材に所定荷重を与えたときの第1剛性部材と被挿入体との相対位置は、弾性部材のばね特性に依存する。
【0016】
被挿入体に対する第2剛性部材の挿入量を一律に設定したのでは、弾性部材のばね特性のばらつきに起因して、被挿入体に対する第1剛性部材の相対位置が防振装置毎にばらついてしまうので、支持体に対する振動体の相対位置も防振装置毎にばらついてしまう。
【0017】
かかる構成によれば、被挿入体に対する第2剛性部材の挿入量を、第1剛性部材に所定荷重を与えたときの第1剛性部材と被挿入体との相対位置が所定範囲に収まるように、設定する。
【0018】
すなわち、弾性部材のばね特性のばらつきに起因する、被挿入体に対する第1剛性部材の相対位置のばらつきを、被挿入体に対する第2剛性部材の挿入量を防振装置毎に調整することによって、吸収する。これにより、支持体に対する振動体の相対位置が防振装置毎にばらつくことを、抑制することができる。
【0019】
以上、防振装置における弾性部材のばね特性のばらつきに起因して、振動体が支持体に対して位置ずれすることを、抑制することができる。
【0020】
一実施形態によれば、前記第1剛性部材又は前記弾性部材には、ストッパが連結されており、前記被挿入体に対する前記第2剛性部材の挿入量は、前記第1剛性部材又は前記振動体と前記被挿入体との距離から前記ストッパの幅を除いたストッパクリアランスが所定範囲に収まるように、設定される。
【0021】
ストッパクリアランスは、防振装置の防振性能に影響する。このため、ストッパクリアランスが防振装置毎にばらつくことは、なるべく避けたい。かかる構成によれば、被挿入体に対する第2剛性部材の挿入量を防振装置毎に調整することによって、ストッパクリアランスが防振装置毎にばらつくことを抑制することができる。これにより、防振性能が防振装置毎にばらつくことを、抑制することができる。
【0022】
一実施形態によれば、前記相対位置は、前記弾性部材のばね特性に基づいて、算出される。
【0023】
第1剛性部材に所定荷重を与えたときの弾性部材の変位量は、弾性部材のばね特性に依存する。かかる構成によれば、第1剛性部材に所定荷重を与えたときの第1剛性部材と被挿入体との相対位置を、弾性部材のばね特性と変位量との依存関係を利用することによって、都度実験しなくても、簡単に算出することができる。
【0024】
一実施形態では、前記被挿入体は、筒部を含み、前記第2剛性部材は、前記筒部の内部に挿入される。
【0025】
かかる構成によれば、第2剛性部材を、被挿入体に対して簡単に挿入することができる。
【0026】
一実施形態では、前記弾性部材は、ゴムである。
【0027】
ゴムのばね特性は、ばらつきやすい。このため、弾性部材としてゴムを適用した場合、被挿入体に対する第1剛性部材の相対位置は、特にばらつきやすい。そこで、被挿入体に対する第2剛性部材の挿入量を防振装置毎に調整することによって、被挿入体に対する第1剛性部材の相対位置のばらつきを吸収することは、特に有効である。
【0028】
一実施形態によれば、前記振動体は、エンジン又はモータであり、前記支持体は、車体である。
【0029】
かかる構成によれば、車体に対するエンジン又はモータの相対位置が防振装置毎にばらつくことを、抑制することができる。これにより、車体に対してエンジン又はモータを適切な寸法でレイアウトする上で有利になる。
【0030】
一実施形態では、前記振動体は、互いに異なる箇所に配置される複数の前記防振装置によって、前記支持体に対して支持される。
【0031】
かかる構成によれば、複数の防振装置における弾性部材のばね特性のばらつきに起因して、振動体が支持体に対して傾くことを、抑制することができる。
【0032】
一実施形態では、前記第2剛性部材は、前記被挿入体に圧入される。
【0033】
かかる構成によれば、被挿入体に対する第2剛性部材の挿入量を、簡単に調整することができる。
【0034】
一実施形態では、前記相対位置が所定範囲にあるか否かを、前記被挿入体に対して前記第2剛性部材を挿入した後に、前記挿入量に基づいて、判定する。
【0035】
被挿入体に対する第1剛性部材の相対位置と被挿入体に対する第2剛性部材の挿入量とは、互いに比例関係にある。このため、挿入量に基づくことによって、相対位置が所定範囲にあるか否かを、簡単に判定することができる。
【発明の効果】
【0036】
本開示によれば、防振装置における弾性部材のばね特性のばらつきに起因する振動体の位置ずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、本実施形態に係る防振装置の斜視図である。
図2図2は、防振装置の縦断面図である。
図3図3は、弾性部材における変位量とばね定数との関係を表すグラフである。
図4図4は、複数の弾性部材のうちのばね定数が中間値の弾性部材を基準にした場合の図3相当図である。
図5図5は、任意の防振装置についてのエンジンの撓み量と第1剛性部材が受ける荷重との関係を表すグラフである。
図6図6は、複数の防振装置についての図5相当図である。
図7図7は、比較例に係る防振装置の図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物あるいはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0039】
(防振装置の構造)
図1は、本実施形態に係る防振装置1の斜視図である。防振装置1は、車両に適用される。防振装置1は、振動体としてのエンジン3を、支持体としての車体2に対して支持する。防振装置1は、エンジン3から車体2への振動伝達を抑制する。防振装置1は、例えば、液封エンジンマウントである。
【0040】
エンジン3は、互いに異なる箇所に配置された複数(本例では2つ)の防振装置1によって、車体2に対して支持される。2つの防振装置1は、車幅方向に離間されて、エンジン3のクランク軸Oの両側に配置されている。防振装置1は、エンジン3を、斜め下側から支持している。
【0041】
図2は、防振装置1の縦断面図である。防振装置1は、挿入体としての圧入体10と、被挿入体としての被圧入体20と、ストッパ30と、を備える。圧入体10は、エンジン3に連結される。被圧入体20は、車体2に連結される。圧入体10は、被圧入体20に圧入(挿入)される。
【0042】
圧入体10は、第1剛性部材11と、第2剛性部材12と、弾性部材13と、蓋部材14と、を有する。第1剛性部材11は、上側に位置する。第2剛性部材12は、下側に位置する。弾性部材13は、両者の中間に位置する。
【0043】
第1剛性部材11は、金属で形成されている。第1剛性部材11には、スタッドボルト4が、上側から下方へ差し込まれている。ここで、エンジン3は、エンジン本体3aと、エンジンブラケット3bと、で構成されている。エンジン本体3aは、エンジンブラケット3b上に載置されている。
【0044】
第1剛性部材11は、スタッドボルト4を介して、エンジン3のエンジンブラケット3bに着脱可能に連結されている。エンジンブラケット3bは、スタッドボルト4の延在方向(軸方向)に対して交差する方向に、延びている。
【0045】
第2剛性部材12は、圧入リングで構成されている。第2剛性部材12は、金属で形成されている。
【0046】
弾性部材13は、第1剛性部材11と第2剛性部材12との間に、配置されている。弾性部材13は、第1剛性部材11と第2剛性部材12とを、連結する。弾性部材13は、ゴムである。
【0047】
弾性部材13は、上辺よりも下辺が大きな略円錐台状の下側部分13aと、下側部分13aよりも上側に配置された略円柱状の上側部分13bと、で構成されている。上側部分13bの外径は、下側部分13aの外径よりも小さい。
【0048】
弾性部材13における下側部分13aの下面には下側凹部13cが形成されている。下側部分13aの下端部には、リング状の第2剛性部材12が設けられている。第2剛性部材12の内周部には、蓋部材14が嵌まり込んでいる。下側凹部13cは、蓋部材14で下側から覆われている。弾性部材13の内部において、上側部分13bの全体及び下側部分13aの上端部に亘って、上側凹部13dが形成されている。
【0049】
ここで、第1剛性部材11は、下側部分11aと、上側部分11bと、を含む。第1剛性部材11の下側部分11aは、弾性部材13の上側凹部13dに、収容されている。第1剛性部材11の上側部分11bは、弾性部材13よりも上方に突出している。第1剛性部材11は、インナーコアとも呼ばれる。
【0050】
弾性部材13は、第1剛性部材11及び第2剛性部材12と共に、加硫一体形成されている。なお、第1剛性部材11及び第2剛性部材12は、完全剛体である必要はなく、弾性部材13よりも変形しにくければよい。弾性部材13は、第1剛性部材11及び第2剛性部材12よりも変形しやすければよい。
【0051】
被圧入体20は、筒部21と、複数の車体ブラケット22と、を含む。筒部21は、円筒状である。圧入体10における第2剛性部材12は、被圧入体20における筒部21の内部21aに、圧入装置(図示せず)によって、下側から上方へ圧入される(内嵌される)。このとき、第2剛性部材12の外周部は、筒部21の内周部21dに当接する。
【0052】
弾性部材13の上端部13eは、筒部21の上端部21bよりも上方に突出している。蓋部材14の略全体及び第2剛性部材12の下端部12aは、筒部21の下端部21cよりも下方に突出している。
【0053】
複数の車体ブラケット22は、筒部21の外周部21eに設けられている。被圧入体20は、複数の車体ブラケット22において、ボルト等によって、車体2に連結されている。
【0054】
被圧入体20の筒部21と圧入体10の弾性部材13とは、共通軸心X1を有する。スタッドボルト4(及び第1剛性部材11の上側部分11b)の軸心X2は、共通軸心X1に対して傾斜している。
【0055】
ストッパ30は、第1剛性部材11の上側部分11bに連結されている。ストッパ30は、共通軸心X1に直交するように、外周側に延びている。ストッパ30は、エンジン3のエンジンブラケット3bと、被圧入体20との間に配置されている。
【0056】
ここで、エンジン3におけるエンジンブラケット3bの下面3cと被圧入体20の上端部21bとの距離Aからストッパ30の上下の幅Bを除いた値を、ストッパクリアランスCとする。ストッパクリアランスCは、エンジン3におけるエンジンブラケット3bの下面3cと被圧入体20の上端部21bとの相対位置を表すための、1つの指標である。ストッパクリアランスCは、ストッパ30の可動距離でもある。
【0057】
(弾性部材における変位量とばね定数)
図3は、弾性部材13における変位量(mm)δとばね特性としてのばね定数K(N/mm)との関係を表すグラフである。変位量δは、第1剛性部材11に所定荷重Fを上側から下方へ与えたときの、弾性部材13の自然長からの撓み量(縮み量)である。ばね定数Kは、静ばね定数や動ばね定数であり、公知の静ばね特性試験や動ばね特性試験によって測定される。
【0058】
ばね定数Kの異なる複数の弾性部材13を用意して、第1剛性部材11に所定荷重Fを与えたときの各弾性部材13の変位量δをそれぞれ測定する。各弾性部材13における変位量δとばね定数Kとをプロットして線形補完することによって、図3のグラフが得られる。
【0059】
図3より、ばね定数Kの小さい(柔らかい)ほど変位量δが大きく、ばね定数Kの大きい(硬い)ほど変位量δが小さいことが分かる。
【0060】
なお、図4は、複数の弾性部材13のうちのばね定数Kが中央値(図3,4のM参照)の弾性部材13を基準(ゼロ点)にした場合の図3相当図である。
【0061】
(ばね定数Kのばらつきの影響)
図2に戻って、被圧入体20に対する圧入体10の第2剛性部材12の圧入量(挿入量、ストローク)Lが、弾性部材13のばね定数Kに関係なく、一定であると仮定する。この場合、第1剛性部材11に所定荷重Fを与えたときの弾性部材13の変位量δは、弾性部材13のばね定数Kのばらつきに起因して、ばらついてしまう。
【0062】
このため、第1剛性部材11に所定荷重Fを与えたときの、第1剛性部材11と被圧入体20との相対位置も、弾性部材13のばね定数Kのばらつきに起因して、ばらついてしまう。したがって、第1剛性部材11に所定荷重Fを与えたときの、エンジン3と車体2との相対位置も、弾性部材13のばね定数Kのばらつきに起因して、ばらついてしまう。
【0063】
さらには、第1剛性部材11に所定荷重Fを与えたときの、ストッパクリアランスCも、弾性部材13のばね定数Kのばらつきに起因して、ばらついてしまう。
【0064】
例えば、弾性部材13のばね定数Kが小さい場合、弾性部材13の変位量δが大きくなるので、第1剛性部材11(エンジン3)は、被圧入体20側(車体2側:下側)へ大きく変位する(ストッパクリアランスCは、小さくなる)。
【0065】
弾性部材13のばね定数Kが大きい場合、弾性部材13の変位量δが小さくなるので、第1剛性部材11(エンジン3)は、被圧入体20側(車体2側:下側)へ小さく変位する(ストッパクリアランスCは、大きくなる)。
【0066】
なお、圧入量Lは、例えば、被圧入体20における筒部21の下端部21cから圧入体10における第2剛性部材12の(外周部の)上端部12bまでの距離である。また、圧入量Lは、被圧入体20における筒部21の下端部21cから、圧入体10における第1剛性部材11に連結されたストッパ30の下面までの、距離としてもよい。所定荷重Fは、エンジン3から第1剛性部材11に与えられる荷重に相当することが好ましい。弾性部材13の弾性力は、変位量δまで縮んだ位置において、所定荷重Fと吊り合う。
【0067】
(防振装置の製造方法)
次に、本実施形態に係る防振装置1の製造方法について、図2を参照しながら、説明する。本実施形態では、被圧入体20に対する圧入体10の第2剛性部材12の圧入量Lは、第1剛性部材11に所定荷重Fを与えたときの、第1剛性部材11と被圧入体20との相対位置が所定範囲に収まるように、設定される。
【0068】
なお、第1剛性部材11と被圧入体20との相対位置と、第1剛性部材11と車体2との相対位置と、エンジン3と被圧入体20との相対位置と、エンジン3と車体2との相対位置とは、互いに実質的に同義である。
【0069】
弾性部材13のばね定数Kが小さくて、第1剛性部材11が下方へ大きく変位する場合、被圧入体20に対する圧入体10の第2剛性部材12の圧入量Lを大きくして、第2剛性部材12を上側に大きく位置付ける。
【0070】
反対に、弾性部材13のばね定数Kが大きくて、第1剛性部材11が下方へ小さく変位する場合、被圧入体20に対する圧入体10の第2剛性部材12の圧入量Lを小さくして、第2剛性部材12をなるべく上側に位置付けない。
【0071】
上記相対位置の指標として、ストッパクリアランスCを用いるとよい。すなわち、被圧入体20に対する圧入体10の第2剛性部材12の圧入量Lは、第1剛性部材11に所定荷重Fを与えたときのストッパクリアランスCが所定範囲に収まるように、設定される。
【0072】
第1剛性部材11に所定荷重Fを与えたときのストッパクリアランス(相対位置)Cは、弾性部材13のばね定数(ばね特性)Kに基づいて、算出される。具体的には、先ず、弾性部材13のばね定数Kに基づいて、弾性部材13の変位量δが得られる(図3,4参照)。次に、弾性部材13の変位量δ及び各構成要素の寸法に基づいて、ストッパクリアランスCが得られる。
【0073】
ストッパクリアランスCの所定範囲は、適宜設定され得る。ストッパクリアランスCの所定範囲は、例えば、「基準値±α」のような形式で表される。ストッパクリアランスCの所定範囲は、例えば、5mm±1mmである。
【0074】
図5は、任意の防振装置1についてのエンジン3の撓み量D(mm)と第1剛性部材11が受ける荷重E(N)との関係を表すグラフである。車両の走行中、エンジン3は、車体2に対して上下に振動して、車体2に対して上下に撓むことがある。
【0075】
例えば、エンジン3(エンジン本体3a及びエンジンブラケット3b)が下方に撓むとき、第1剛性部材11は、スタッドボルト4を介して、エンジン3から下方への荷重を受ける。エンジン3から第1剛性部材11に与えられた荷重は、弾性部材13に与えられる。
【0076】
弾性部材13が下方への荷重を受けると、弾性部材13は、釣合位置(変位量δ)から、さらに縮む。図5に示すように、エンジン3の下方への撓み量Dが大きくなるに従って、弾性部材13の受ける下方への荷重E(=弾性部材13の弾性力)は線形的に大きくなる(フックの法則)。
【0077】
一方、エンジン3の撓み量D(弾性部材13の釣合位置からの変位量)がある閾値を越えると、ストッパ30は、エンジン3におけるエンジンブラケット3bの下面3c及び被圧入体20における筒部21の上端部21bに、当接する。このため、エンジン3から第1剛性部材11に与えられる下方への荷重をいくら大きくしても、エンジン3は、これ以上撓まなくなる。
【0078】
第1剛性部材11に所定荷重Fを与えたときの弾性部材13の釣合位置(変位量δ)を基準として、ストッパ30によりエンジン3の撓み量Dが規制される距離が、ストッパクリアランスCである。図5に示すように、ストッパクリアランスCは、所定範囲Rに収められている。本例では、所定範囲Rは、Smm±tmmである。
【0079】
弾性部材13のばね定数Kが小さいと、ストッパクリアランスCは、小さくなる(グラフが左に移動する)。弾性部材13のばね定数Kが大きいと、ストッパクリアランスCは、大きくなる(グラフが右に移動する)。
【0080】
仮にストッパクリアランスCが所定範囲Rを逸脱すると見込まれる場合、被圧入体20に対する圧入体10の第2剛性部材12の圧入量Lを調整することによって、ストッパクリアランスCを、所定範囲Rに収める。
【0081】
図6は、複数の防振装置1についての図5相当図である。複数の防振装置1を製造する場合、各防振装置1について、被圧入体20に対する圧入体10の第2剛性部材12の圧入量Lをそれぞれ別個に調整することによって、全ての防振装置1のストッパクリアランスCを、所定範囲Rに収める。
【0082】
被圧入体20に対して第2剛性部材12を圧入した後に、ストッパクリアランス(相対位置)Cが所定範囲Rにあるか否かを、被圧入体20に対する第2剛性部材12の圧入量Lに基づいて、判定してもよい。
【0083】
ストッパクリアランス(相対位置)Cと圧入量Lとが比例関係にあることは、図2より明らかである。この関係を利用すれば、ストッパクリアランスCが所定範囲Rに収まるべき圧入量Lの範囲は、容易に決定される。
【0084】
なお、圧入量Lは、圧入装置における設定圧入量によって、判定されてもよい。また、圧入量Lは、被圧入体20における筒部21の下端部21cに対する圧入体10の第2剛性部材12の突出量H(被圧入体20における筒部21の下端部21cと第2剛性部材12の下端部12aとの距離)によって、判定されてもよい。
【0085】
(作用効果)
圧入体10における弾性部材13のばね定数(ばね特性)Kは、防振装置1毎にばらつく。ここで、圧入体10の第1剛性部材11に所定荷重F(例えばエンジン3からの荷重に相当)を与えたときの第1剛性部材11と被圧入体20との相対位置(例えばストッパクリアランスC)は、弾性部材13のばね定数Kに依存する。
【0086】
被圧入体20に対する第2剛性部材12の圧入量(挿入量)Lを一律に設定したのでは、弾性部材13のばね定数Kのばらつきに起因して、被圧入体20に対する第1剛性部材11の相対位置が防振装置1毎にばらついてしまう。このため、車体2に対するエンジン3の相対位置も防振装置1毎にばらついてしまう。
【0087】
本実施形態によれば、被圧入体20に対する第2剛性部材12の圧入量Lを、第1剛性部材11に所定荷重Fを与えたときの第1剛性部材11と被圧入体20との相対位置に基づいて、所定範囲R(図5,6参照)に収まるように設定する。
【0088】
すなわち、弾性部材13のばね定数Kのばらつきに起因する、被圧入体20に対する第1剛性部材11の相対位置のばらつきを、被圧入体20に対する第2剛性部材12の圧入量Lを防振装置1毎に調整することによって、吸収する。これにより、車体(支持体)2に対するエンジン(振動体)3の相対位置が防振装置1毎にばらつくことを、抑制することができる。
【0089】
以上、防振装置1における弾性部材13のばね定数Kのばらつきに起因して、エンジン3が車体2に対して位置ずれすることを、抑制することができる。
【0090】
ストッパクリアランスCは、防振装置1の防振性能に影響する。このため、ストッパクリアランスCが防振装置1毎にばらつくことは、なるべく避けたい。
【0091】
本実施形態によれば、被圧入体20に対する第2剛性部材12の圧入量Lを防振装置1毎に調整することによって、ストッパクリアランスCが防振装置1毎にばらつくことを抑制することができる。これにより、防振性能が防振装置1毎にばらつくことを、抑制することができる。
【0092】
第1剛性部材11に所定荷重Fを与えたときの弾性部材13の変位量δは、弾性部材13のばね定数(ばね特性)Kに依存する。本実施形態によれば、第1剛性部材11に所定荷重Fを与えたときの第1剛性部材11と被圧入体20との相対位置を、弾性部材13のばね定数Kと変位量δとの依存関係を利用することによって、都度実験しなくても、簡単に算出することができる。
【0093】
第2剛性部材12を、被圧入体20の筒部21の内部21aに対して、簡単に圧入することができる。
【0094】
ゴムのばね定数(ばね特性)Kは、ばらつきやすい。このため、弾性部材13としてゴムを適用した場合、被圧入体20に対する第1剛性部材11の相対位置は、特にばらつきやすい。そこで、被圧入体20に対する第2剛性部材12の圧入量Lを防振装置1毎に調整することによって、被圧入体20に対する第1剛性部材11の相対位置のばらつきを吸収することは、特に有効である。
【0095】
車体2に対するエンジン3の相対位置が防振装置1毎にばらつくことを抑制することによって、車体2に対してエンジン3を適切な寸法でレイアウトする上で有利になる。
【0096】
図7は、比較例に係る防振装置1’の図1相当図である。この防振装置1’では、被圧入体20に対する第2剛性部材12の圧入量Lを一律に設定している。このため、互いに異なる箇所に配置された複数の防振装置1’における弾性部材13のばね定数Kのばらつきに起因して、エンジン3が車体2に対して傾いてしまう。
【0097】
本実施形態では、被圧入体20に対する第2剛性部材12の圧入量Lを防振装置1毎に調整することによって、エンジン3が車体2に対して傾くことを抑制することができる(図1参照)。
【0098】
挿入態様として圧入を適用することによって、被挿入体20に対する挿入体10の第2剛性部材12の挿入量Lを、簡単に調整することができる。
【0099】
上述したように、被圧入体20に対する第1剛性部材11の相対位置(例えばストッパクリアランスC)と被圧入体20に対する第2剛性部材12の圧入量Lとは、互いに比例関係にある。このため、圧入量Lに基づくことによって、相対位置(ストッパクリアランスC)が所定範囲Rにあるか否かを、簡単に判定することができる。
【0100】
複数の防振装置1同士を比較したとき、第1剛性部材11に所定荷重Fを与えたときの第1剛性部材11と被圧入体20との相対位置(ストッパクリアランスC)が略一致している(例えば差異が5mm以内)にもかかわらず、被圧入体20に対する第2剛性部材12の圧入量Lが異なる(例えば差異が1mm以上)場合、本実施形態に係る製造方法を適用したことが推認される。
【0101】
(その他の実施形態)
以上、本開示を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【0102】
防振装置1は、液封エンジンマウントに限らず、ソリッドタイプのマウントや、懸架装置に用いられるサスリンクブッシュ等にも、適用され得る。すなわち、本開示に係る方法は、圧入工程を含む、あらゆる防振装置1の製造方法に、適用され得る。
【0103】
振動体3は、エンジンに限定されず、例えばモータ等でもよい。また、支持体2は、車体に限定されず、例えばフロアでもよい。防振装置1は、例えば、フロアに載置されたコンプレッサ等にも適用され得る。
【0104】
挿入態様は、圧入に限定されず、例えば、ねじ込み等でもよい。挿入体10におけるリング状の第2剛性部材12を、軸状の被挿入体20に対して挿入してもよい(外嵌)。
【0105】
挿入体10の第2剛性部材12を、被挿入体20に対して、上側から下方へ挿入してもよい。この場合、弾性部材13のばね定数Kが小さいほど挿入量を小さくするとともに、弾性部材13のばね定数Kが大きいほど挿入量を大きくすればよい。
【0106】
所定荷重Fは、振動体3の荷重に相当しなくてもよく、製造者が適宜設定すればよい。防振装置1は、横向きに配置されてもよい。ばね特性Kは、ばね定数に限定されず、例えば、熱膨張率やポアソン比等でもよい。弾性部材13は、ゴムに限定されず、例えば、コイルばねやダイヤフラム等でもよい。弾性部材13は、2以上の部材から構成されてもよい。
【0107】
第1剛性部材11は、金属に限定されず、例えば樹脂等でもよい。第1剛性部材11は、2以上の部材から構成されてもよい。第2剛性部材12についても、同様である。
【0108】
ストッパ30は、弾性部材13に連結されてもよい。ストッパクリアランスCは、第1剛性部材11と被圧入体20との距離からストッパの幅を除いた値でもよい。スタッドボルト4は、第1剛性部材11に属してもよいし、振動体3に属してもよい。
【0109】
本実施形態では、挿入体10の第1剛性部材11と被挿入体20との相対位置として、ストッパクリアランスCを用いたが、これに限定されない。第1剛性部材11と被挿入体20との単純な距離を、相対位置として用いてもよい。また、振動体3と支持体2との相対位置(距離)を用いてもよい(第1剛性部材11と被挿入体20との相対位置に実質的に相当するため)。同様に、第1剛性部材11と支持体2との相対位置や、振動体3と被圧入体20との相対位置を、用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本開示は、防振装置の製造方法に適用できるので、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0111】
A 距離
B 幅
C ストッパクリアランス(相対位置)
δ 変位量
K ばね定数(ばね特性)
F 所定荷重
L 圧入量(挿入量)
H 突出量
R 所定範囲
1 防振装置
2 車体(支持体)
3 エンジン(振動体)
10 圧入体(挿入体)
11 第1剛性部材
12 第2剛性部材
13 弾性部材
20 被圧入体(被挿入体)
21 筒部
22 車体ブラケット
30 ストッパ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7