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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020071
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】白金族化合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 55/00 20060101AFI20240206BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C01G55/00
B01J23/44 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122960
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】今仲 庸介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 潤和
(72)【発明者】
【氏名】大竹 真司
(72)【発明者】
【氏名】安西 俊
【テーマコード(参考)】
4G048
4G169
【Fターム(参考)】
4G048AA01
4G048AB02
4G048AC08
4G169AA09
4G169BA27C
4G169BB12C
4G169BC33C
4G169BC69C
4G169BC70C
4G169BC71C
4G169BC72B
4G169BC72C
4G169BC73C
4G169BC74C
4G169BC75C
4G169BE08C
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】均一系触媒として触媒活性が優れることが期待されるととともに、不均一系触媒の製造原料としても適する白金族化合物を提供すること。
【解決手段】白金族元素を含有する白金族化合物であって、白金族化合物は、金元素を含み、白金族元素の総和に対する金元素の含有量が、0.1ppm以上、200ppm以下である、白金族化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族元素を含有する白金族化合物であって、
前記白金族化合物は、金元素を含み、
前記白金族元素の総和に対する前記金元素の含有量が、0.1ppm以上、200ppm以下である、白金族化合物。
【請求項2】
前記白金族元素が、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、白金、およびイリジウムからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の白金族化合物。
【請求項3】
硝酸白金族化合物または酢酸白金族化合物である、請求項1に記載の白金族化合物。
【請求項4】
前記硝酸白金族化合物または前記酢酸白金族化合物が、粉末形態または溶液形態にある、請求項3に記載の白金族化合物。
【請求項5】
請求項1に記載の白金族化合物の製造方法であって、
白金族元素の金属単体または化合物と、前記白金族元素の重量に対して0.1ppm以上、200ppm以下の金単体または金化合物とを、酸性またはアルカリ性の溶媒に加えて白金族元素含有溶液を調製する工程を含む、製造方法。
【請求項6】
前記白金族元素が、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、白金、およびイリジウムからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒が硝酸であって、
前記白金族元素含有溶液中の前記白金族元素の濃度が0.1kg/L~10kg/Lである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
前記白金族元素含有溶液またはその乾燥物に酢酸を加える工程をさらに含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項9】
前記酢酸に対する前記白金族元素の濃度が50g/L~1kg/Lである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記白金族元素の金属単体が、純度99.9%以上であり、1kg以上である、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硝酸白金族化合物や酢酸白金族化合物に代表される白金族化合物は、均一系触媒や不均一系触媒の製造に用いられており、有機合成や排ガス浄化触媒に欠かせない有用な化合物である。
【0003】
硝酸パラジウムの工業的製造方法としては、例えば、特許文献1に示すように、固体状のパラジウム粉末を硝酸に溶解して製造する方法がある。
また、酢酸パラジウムの工業的製造方法としては、例えば、特許文献2に示すように、パラジウム粉末を硝酸の存在下、酢酸中で加熱処理して製造する方法がある。
【0004】
従来の製造方法により製造される酢酸パラジウムは、例えば、特許文献3に示すように、共役ジエン類からジオール類を製造する際の均一系触媒に用いられる。また、酢酸パラジウムは、不均一系触媒を製造する際の出発原料等にも用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-269768号公報
【特許文献2】特開昭61-47440号公報
【特許文献3】特開2003-238465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の製造方法により製造した白金族化合物を特許文献3に示すような均一系触媒に用いる場合、溶媒に溶解せずに均一系触媒として寄与しない部分があったり、副生物が増加することがあった。
また、白金族化合物を不均一系触媒の製造原料に用いる場合、白金族化合物を還元して白金族元素の粒子を担体に担持する際に、担持収率が低下したり、触媒活性が低下することがあった。
【0007】
よって、本発明は、均一系触媒として触媒活性が優れることが期待されるとともに、不均一系触媒の製造原料としても適する白金族化合物およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来の製造方法により製造した白金族化合物は理論品位を超える場合があった。白金族化合物が理論品位を超えた理由として、硝酸等の溶媒に溶解しなかった固形の原料(白金族元素の金属単体等)が生成物に含まれたり、原料を硝酸等の溶媒に溶解した後または生成物を得た後で、何らかの要因により分解/還元された白金族酸化物や白金族元素の金属単体等の析出物が生成物に含まれたためと判明した。
【0009】
本発明者らは、このような未溶解の原料や析出物(以下、「固形分」と称する)は、硝酸等の溶媒に対する原料(白金族元素の金属単体等)の溶解性不足と、溶解物や生成物の安定性とに起因して発生すると考え、鋭意検討した結果、原料と硝酸等の溶媒を含む溶液中に、金元素を微量含ませることで、固形分が少ない白金族化合物が得られるという知見を得た。即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0010】
[1] 白金族元素を含有する白金族化合物であって、前記白金族化合物は、金元素を含み、前記白金族元素の総和に対する前記金元素の含有量が、0.1ppm以上、200ppm以下である、白金族化合物。
[2] 前記白金族元素が、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、白金、およびイリジウムからなる群から選択される少なくとも一種である、[1]に記載の白金族化合物。
[3] 硝酸白金族化合物または酢酸白金族化合物である、[1]または[2]に記載の白金族化合物。
[4] 前記硝酸白金族化合物または前記酢酸白金族化合物が、粉末形態または溶液形態にある、[3]に記載の白金族化合物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の白金族化合物の製造方法であって、白金族元素の金属単体または化合物と、前記白金族元素の重量に対して0.1ppm以上、200ppm以下の金単体または金化合物とを、酸性またはアルカリ性の溶媒に加えて白金族元素含有溶液を調製する工程を含む、製造方法。
[6] 前記白金族元素が、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、白金、およびイリジウムからなる群から選択される少なくとも一種である、[5]に記載の製造方法。
[7] 前記溶媒が硝酸であって、前記白金族元素含有溶液中の前記白金族元素の濃度が0.1kg/L~10kg/Lである、[5]または[6]に記載の製造方法。
[8] 前記白金族元素含有溶液またはその乾燥物に酢酸を加える工程をさらに含む、[5]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9] 前記酢酸に対する前記白金族元素の濃度が50g/L~1kg/Lである、[8]に記載の製造方法。
[10] 前記白金族元素の金属単体が、純度99.9%以上であり、1kg以上である、[5]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の白金族化合物によれば、均一系触媒として利用する際に白金族元素あたりの触媒活性が向上して触媒性能の安定を期待できるとともに、不均一系触媒の製造原料として利用する際にも担持収率の向上や触媒活性の向上を期待できる。
また、本発明の白金族化合物の製造方法によれば、固形分が少ない白金族化合物を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0013】
[定義]
本明細書中、特に断りがない限り、用語は以下の意味で使用する。
「白金族元素」とは、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、白金、イリジウムの総称をいう。
「硝酸白金族化合物」とは、白金族化合物に硝酸が最も多く配位した化合物をいう。
「酢酸白金族化合物」とは、白金族化合物に酢酸が最も多く配位した化合物をいう。
【0014】
[白金族化合物]
白金族化合物は、白金族元素を含有する。ここで、「白金族元素を含有する」とは、白金族元素が白金族化合物の構成元素であることをいう。例えば、白金族元素がパラジウムである場合、白金族化合物は、酢酸パラジウムや硝酸パラジウムなどのパラジウム化合物である。
【0015】
白金族元素は、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、白金、およびイリジウムからなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、白金、またはイリジウムがより好ましく、パラジウムがさらに好ましい。
【0016】
白金族化合物の具体例としては、硝酸白金、硝酸パラジウム、硝酸ロジウム、硝酸ルテニウム、ニトロシル硝酸ルテニウム、硝酸イリジウム等の硝酸白金族化合物;酢酸パラジウム、酢酸ロジウム等の酢酸白金族化合物;硫酸パラジウム、硫酸ロジウム、硫酸ルテニウム等の硫酸白金族化合物等が挙げられる。
【0017】
白金族化合物は、硝酸白金族化合物または酢酸白金族化合物が好ましく、粉末形態もしくは溶液形態の硝酸白金族化合物または酢酸白金族化合物がより好ましく、硝酸白金、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸ロジウム、硝酸ルテニウム、ニトロシル硝酸ルテニウム、または硝酸イリジウムがさらに好ましく、硝酸パラジウムまたは酢酸パラジウムが特に好ましい。
【0018】
白金族化合物は、金元素を含む。ここで、「金元素を含む」とは、金元素が白金族化合物を構成する元素としてではなく、微量成分として白金族化合物に含まれることをいう。したがって、白金族化合物は、金元素との組成物や混合物ともいえる。
金元素は、金単体であってもよく、金化合物(例えば、AuCl等の金属塩)であってもよい。
【0019】
白金族元素の総和に対する金元素の含有量は、0.1ppm以上、200ppm以下であり、0.3ppm以上、150ppm以下が好ましく、0.5ppm以上、100ppm以下がより好ましく、1.0ppm以上、75ppm以下がさらに好ましい。
白金族元素の総和に対する金元素の含有量が200ppm以下であると、例えば、白金族化合物を均一系触媒として用いる場合に、金元素の関与が疑われる副生物を低減し、単位量あたりの触媒活性を確保できる。金元素の含有量が0.1ppm以上であると、例えば、白金族化合物を不均一系触媒の製造原料として用いる場合に、担体に担持する際に何らかの要因により生成する白金族酸化物の量を低減して、担持収率や触媒活性の低下を抑制できる。
【0020】
白金族化合物における白金族元素と金元素の含有率は、THERMO Jarrell Ash社製の「CID-DCA AURORA」を用いた発光分光法により測定した値である。
【0021】
白金族化合物の固形分の含有率は、通常2.5質量%未満であり、1.5質量%未満が好ましく、1.0質量%未満がより好ましく、0.5質量%未満がさらに好ましい。
固形分は、溶媒への溶解性や反応性が白金族化合物と異なるため、均一系触媒の性能低下に繋がる不要な成分である。白金族化合物の固形分の含有率が2.5質量%未満であると、均一系触媒として利用する際に白金族元素あたりの触媒活性が向上して触媒性能の安定を期待できる。また、不均一系触媒の製造原料として利用する際にも担持収率の向上や触媒活性の向上を期待できる。
【0022】
固形分の含有率は、次のように算出する。白金族化合物を溶解する溶媒に白金族化合物を加え室温で一定時間撹拌した後、吸引濾過する。濾紙上に残った固形分を回収し、必要に応じて乾燥し、固形分の質量を測定する。固形分の質量を溶解に用いた白金族化合物の質量で除した後、100倍することで固形分の含有率を算出する。例えば、白金族化合物が酢酸パラジウムである場合、固形分の含有率は白金族化合物を溶解する溶媒としてテトラヒドロフランを50mL、酢酸パラジウムを1g用いて算出する。
【0023】
「白金族化合物を溶解する溶媒」とは、一定量の白金族化合物を溶かすのに必要な量が10mL未満となる溶媒をいう。ここで、「一定量の白金族化合物」とは、白金族化合物が固体の場合は1gの白金族化合物、白金族化合物が液体の場合は1mLの白金族化合物をいう。
【0024】
[白金族化合物の製造方法]
白金族化合物の製造方法は、[白金族化合物]に記載の白金族化合物を製造する方法であり、白金族元素の金属単体または化合物と、白金族元素の重量に対して0.1ppm以上、200ppm以下の金単体または金化合物とを、酸性またはアルカリ性の溶媒に加えて白金族元素含有溶液を調製する工程を含む。
【0025】
金単体または金化合物は、白金族元素の金属単体または化合物の溶解を促進させる触媒等として機能する。したがって、白金族元素含有溶液中の未溶解の白金族元素の金属単体または化合物の量を低減したり、何らかの要因により分解/還元されて析出する白金族酸化物や白金族元素の金属単体等の析出量を低減できると考えられる。よって、白金族化合物の製造方法は、固形分が少ない白金族化合物を製造できる。
【0026】
白金族元素の重量に対する金単体または金化合物の添加量は、0.1ppm以上、200ppm以下であり、0.3ppm以上、150ppm以下が好ましく、0.5ppm以上、100ppm以下がより好ましく、1.0ppm以上、75ppm以下がさらに好ましい。
白金族元素の重量に対する金元素の含有量が0.1ppm以上であると、白金族元素の金属単体または化合物の溶解を促進でき、固形分が少ない白金族化合物を製造できる。金元素の含有量が200ppm以下であると、製造した白金族化合物には金元素が過度に含まれないため、白金族化合物を均一系触媒として用いる場合には金元素の関与が疑われる副生物を低減し、単位量あたりの触媒活性に優れる白金族化合物を製造できる。
【0027】
白金族化合物の製造方法の一実施形態としては、硝酸を溶媒に用いる。硝酸は、濃度30%以上の硝酸が好ましく、濃度60~70%程度の濃硝酸がより好ましい。硝酸を溶媒に用いることで、硝酸白金族化合物を製造できる。
硝酸を溶媒に用いる場合、硝酸溶液中の白金族元素の濃度は、0.1kg/L~10kg/Lが好ましく、0.3kg/L~7kg/Lがより好ましく、0.5kg/L~5kg/Lがさらに好ましい。
【0028】
白金族化合物の製造方法の他の実施形態としては、白金族元素含有溶液またはその乾燥物に酢酸を加える工程をさらに含む。酢酸は、濃度90%以上の酢酸が好ましく、氷酢酸を用いてもよい。白金族元素含有溶液またはその乾燥物に酢酸を加えた後、通常は昇温して加熱条件下で撹拌する。加熱温度は、白金族元素含有溶液や酢酸の濃度に応じて適宜設定することができ、沸騰温度が好ましい。撹拌時間は、おおよそ3時間程度である。このように白金族元素含有溶液またはその乾燥物に酢酸を加えることで、酢酸白金族化合物を製造できる。
白金族元素含有溶液またはその乾燥物に酢酸を加える場合、酢酸に対する白金族元素の濃度は、50g/L~1kg/Lが好ましく、55g/L~0.5kg/Lがより好ましく、60g/L~0.3kg/Lがさらに好ましい。
【0029】
白金族化合物の製造方法のさらに他の実施形態としては、白金族元素の金属単体を用いる。白金族元素の金属単体は、純度99.9%以上の白金族元素の金属単体を1kg以上用いることが好ましい。高純度の白金族元素の金属単体を用いる場合、金単体または金化合物が白金族元素の金属単体の溶解を促進させる触媒等として十分機能し、固形分の含有率をさらに低減できる。白金族元素の金属単体を多量に用いる場合、金単体または金化合物の添加量の調整が容易である。
【0030】
白金族元素の金属単体または化合物、金単体または金化合物、および酸性またはアルカリ性の溶媒を適切に選択して、場合により、酢酸を加えることにより、種々の白金族化合物を製造できる。具体的な白金族化合物の製造方法の一例を以下に説明するが、これに限定されるものではない。
【0031】
(硝酸パラジウム)
硝酸パラジウムは、硝酸に対し、パラジウム単体と、金化合物であるAuClとを加えて撹拌することで製造できる。硝酸の濃度は60~70%程度が好ましい。パラジウム単体の純度は99.9%以上が好ましい。
(酢酸パラジウム)
酢酸パラジウムは、上記で得られた硝酸パラジウムの硝酸溶液またはその乾燥物に酢酸を加えた後で昇温し、沸騰温度で撹拌することで製造できる。酢酸の濃度は90%以上が好ましく、氷酢酸を用いてもよい。製造した酢酸パラジウムを、濾過、洗浄、乾燥した後、さらに氷酢酸中で反応させてもよい。このようにパラジウム化合物と酢酸を2回以上に分けて反応させることにより、パラジウム化合物の配位子の置換を十分に行うことができる。
(硫酸パラジウム)
硫酸パラジウムは、硝酸と硫酸の混酸に対し、パラジウム単体と、金単体とを加えて110℃~150℃の温度で撹拌して脱硝した後、冷却して析出する固体を濾別し、希硫酸と有機溶媒で洗浄することで製造できる。パラジウム単体の純度は99.9%以上が好ましい。洗浄に用いる有機溶媒は脱水溶媒を用いることが好ましい。
【0032】
(硝酸白金)
硝酸白金は、硝酸に対し、水酸化白金酸と、金単体とを加えて60℃以下の温度で撹拌することで製造できる。硝酸の濃度は30%以上が好ましく、60~70%がより好ましい。水酸化白金酸は、複数回に分けて硝酸に加えてもよい。水酸化白金酸としては、例えば、特開2019-167264号に記載の、ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムを含有するアルカリ性の水溶液に酸を添加して中和して得られるものを用いてもよい。
【0033】
(硫酸ロジウム)
硫酸ロジウムは、硫酸に対し、ロジウムブラック等のロジウム単体と、金単体とを加えて260℃~330℃の温度で撹拌して製造できる。硫酸の濃度は98%以上が好ましい。本反応は熱濃硫酸を使用することから、石英製のるつぼ等を用いる必要がある。
(水酸化ロジウム)
水酸化ロジウムは、水酸化カリウム等のアルカリ性溶媒に対し、塩化ロジウムと、金化合物であるAuClとを加えて撹拌して製造できる。また、上記で得られた硫酸ロジウムの溶液に、水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水等のアルカリ性の溶媒を加えても製造できる。
(硝酸ロジウム)
硝酸ロジウムは、硝酸に対し、上記で得られた水酸化ロジウムと、金化合物であるAuClとを加えて撹拌することで製造できる。硝酸の濃度は60~70%程度が好ましい。撹拌は硝酸の液量が25~75容量%になるまで70~100℃の温度で加熱して行ってもよい。
(酢酸ロジウム)
酢酸ロジウムは、上記で得られた水酸化ロジウムに、酢酸を加えた後で昇温し、沸騰温度で撹拌することで製造できる。酢酸の濃度は90%以上が好ましく、氷酢酸を用いてもよい。
【0034】
(硝酸ルテニウム)
硝酸ルテニウムは、硝酸に対し、水酸化ルテニウムと、金化合物であるAuClとを加えて80℃~95℃の温度で撹拌することで製造できる。硝酸の濃度は45%以上が好ましく、60~70%がより好ましい。水酸化ルテニウムは、塩化ルテニウム溶液にアンモニア水を加えて得られるものを用いてもよい。
(ニトロシル硝酸ルテニウム)
ニトロシル硝酸ルテニウムは、硝酸に対し、四酸化ルテニウムと、金化合物であるAuClとを加えて撹拌することで製造できる。硝酸の濃度は45%以上が好ましく、60~70%がより好ましい。
(硫酸ルテニウム)
硫酸ルテニウムは、硝酸に対し、硫化ルテニウムと、金化合物であるAuClとを加えて撹拌して製造できる。硝酸の濃度は60~70%程度が好ましい。硫化ルテニウムは、塩化ルテニウム溶液に硫化水素を加えることで、沈殿物として得ることができる。
【0035】
(硝酸イリジウム)
硝酸イリジウムは、硝酸に対し、水酸化イリジウムと、金化合物であるAuClとを加えて80~90℃の温度で撹拌することで製造できる。硝酸の濃度は60~70%が好ましい。水酸化イリジウムは、塩化イリジウム溶液に、酸化剤を加えて加熱した後、水酸化ナトリウム等のアルカリ性の溶媒を用いてpH11程度に調整し、80℃で加熱して得ることができる。
【実施例0036】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0037】
[白金族元素の含有量と金元素の含有量]:THERMO Jarrell Ash社製の「CID-DCA AURORA」を用いた発光分光法により測定した値である。
【0038】
[固形分の含有率(%)]:テトラヒドロフラン(以下、「THF」と略記する)50mLに約1gの製造した酢酸パラジウムの粉末を加えて室温で一定時間撹拌した後、吸引濾過した。濾紙上に残った固形分を回収して質量を測定した。固形分の質量を酢酸パラジウムの粉末の重量で除した後、100倍することで固形分の含有率を算出した。酢酸パラジウムはTHFに溶解するため、固形分は酢酸パラジウム以外の物質である。
【0039】
<実施例1>
純度99.9%以上の固体のパラジウムの金属単体(数kg以上)に対し、パラジウム1kgあたり1Lの濃硝酸(濃度:60%)を添加した。このパラジウム硝酸溶液に対し、パラジウムの重量に対する添加量が52ppmとなるように金を添加した。その後、原料の固体のパラジウムが溶解するまで撹拌保持して硝酸パラジウム溶液を製造した。
次に、硝酸パラジウム溶液に対し、パラジウム1kgあたり15Lの酢酸(濃度:90%)を添加した後、昇温して3時間沸騰状態を保持した。その後、室温まで冷却して生じた固形分を濾過、洗浄、粉砕、乾燥し、酢酸パラジウムの粉末を得た。
【0040】
<実施例2>
パラジウムの重量に対する金の添加量を3ppmに変更した以外は実施例1と同様の方法で酢酸パラジウムを得た。
【0041】
<比較例1>
金を添加しなかった以外は実施例1と同様の方法で酢酸パラジウムを得た。
【0042】
実施例1および2、比較例1で得られた酢酸パラジウムについて、パラジウムに対する金の含有量と、固形分の含有率とを測定した。結果を下記表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
比較例1から、硝酸パラジウムの製造の際に金を添加しなかった場合、酢酸パラジウム粉末中に酢酸パラジウム以外の固形分が2.67%含まれていた。これに対し、硝酸パラジウムの製造の際に金を添加した実施例1および2では、酢酸パラジウム粉末中の固形分の含有率が、それぞれ0.49%、0.22%と大きく減少した。