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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020085
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】系統安定化装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/24 20060101AFI20240206BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20240206BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
H02J3/24
H02J3/00 170
H02J3/38 120
H02J3/38 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122990
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 操
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 朋秀
(72)【発明者】
【氏名】石原 祐二
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA01
5G066AA03
5G066AD09
5G066HA06
5G066HB02
5G066HB06
(57)【要約】
【課題】電力系統の状態が大きく変化しても、電力系統の安定状態を維持することができる系統安定化装置を提供することである。
【解決手段】実施形態の系統安定化装置は、選定部と、電制推定モデル生成部と、電制機補正部と、第1段電制実行部と、安定度評価モデル生成部と、追加電制実行部と、を持つ。追加電制実行部は、事故発生後に、前記安定度評価モデル生成部で準備しておいたモデル定義情報と電力系統の計測値を用いて計算した位相角偏差の変遷と、判定基準に基づいて、発電機が脱調すると判定された場合に追加の電制機を選定し、遮断する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された周期で、発電機を有する電力系統の特性を表す系統情報を取得し、当該系統情報を用いて、前記電力系統の電力の潮流状態を表すシミュレーションモデルである系統モデルを作成し、当該系統モデルで所定の系統事故が発生した場合の過渡安定度を算出し、かつ当該過渡安定度の算出結果に基づいて、前記所定の系統事故毎に、前記発電機のうち電力の供給を遮断する第1電制機を選定する選定部と、
前記系統情報と、前記系統モデルにおける前記所定の系統事故毎の第1電制機候補と、の組合せである電制機情報に基づいて、前記系統情報から電制機を予測する回帰式を作成する電制推定モデル生成部と、
前記回帰式と、前記選定部により最後に取得された前記系統情報と、前記所定の系統事故が発生する直前の前記系統情報を用いて、電力系統の安定維持に必要な電制量を計算し、計算した電制量に基づいて、第1電制機に新たな電制機を追加する、または、第1電制機を変更する電制機補正部と、
系統事故発生時に、前記電制機補正部で追加、または、変更された第1電制機を遮断する指令を伝達する第1段電制実行部と、
事故発生前後の電力系統や発電機の計測値から発電機の脱調有無の判定に用いる位相角偏差の変遷を求めるためのモデル定義情報と、発電機の脱調有無の判定に用いる判定基準を、直前の過渡安定度計算結果から準備しておく安定度評価モデル生成部と、
事故発生後に、前記安定度評価モデル生成部で準備しておいたモデル定義情報と電力系統の計測値を用いて計算した位相角偏差の変遷と、判定基準に基づいて、発電機が脱調すると判定された場合に追加の電制機を選定し、遮断する追加電制実行部と、
を備える、
系統安定化装置。
【請求項2】
前記電制機補正部は、
前記回帰式と、前記所定の系統事故が発生する直前の前記系統情報とに基づいて、電力系統の安定維持に必要な電制量(A)を計算し、前記回帰式と、前記選定部により最後に取得された前記系統情報とに基づいて、電力系統の安定維持に必要な電制量(B)を計算し、電制量(A)と電制量(B)の大小関係および差分に基づいて、第1電制機に追加する、または、変更する、同期発電機を対象として電制機を選定する電制同期機決定部と、
前記回帰式と、前記所定の系統事故が発生する直前の前記系統情報から、電力系統の安定維持に必要な電制量を計算し、第1電制機の出力低下による電制量の不足分と、前記回帰式で計算した電制量に基づいて、第1電制機に追加する、再生可能エネルギー電源を対象として電制機を選定する電制再エネ決定部と、
を備える、
請求項1に記載の系統安定化装置。
【請求項3】
前記安定度評価モデル生成部は、
過渡安定度計算結果から、電力系統の発電機を不安定発電機群と安定発電機群に分け、不安定発電機群を1台の発電機に換算した不安定発電機群モデルの定義情報をまとめる不安定発電機モデル策定部と、
過渡安定度計算結果から、外部系統の安定発電機の有効電力総和を求める関数、および、安定発電機群を1台の発電機に換算した安定発電機群モデルの定義情報をまとめる安定発電機モデル策定部と、
過渡安定度計算結果から、安定判別に用いる位相角偏差の判定基準を作成する判定基準策定部と、
過渡安定度計算の過程で得られる、系統計算に必要な電制直前の情報を用いて、過渡安定度計算を実施することなく、第1電制機の遮断で生じる、一機無限大母線モデル換算の有効電力変化量を、第1電制機となり得る全組合せについて求める出力変化モデル策定部と、
を備える、
請求項1又は請求項2に記載の系統安定化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、系統安定化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
落雷等によって短絡や地絡といった系統事故と呼ばれる状況が電力系統において発生した場合、当該電力系統内の発電機は、脱調と呼ばれる不安定な状態になることがある。脱調を放置すると、電力系統全体が不安定な状態に陥ることがある。この場合に、電力系統内の発電機の一部を電制機として、当該電制機からの電力の供給を遮断することにより、電力系統の大部分の安定運用を維持する系統安定化装置が知られている。
【0003】
系統安定化装置は、予め設定された周期で、電力系統に関する系統情報を取得する。系統安定化装置は、当該系統情報を用いて、電力系統の電力の潮流状態を表すシミュレーションモデルである系統モデルにおいて系統事故が発生した場合の過渡安定度を算出する。系統安定化装置は、当該過渡安定度の算出結果に基づいて、発電機の脱調の有無を判定する。発電機の脱調が発生する場合、系統安定化装置は、電力系統を安定な状態に維持するために必要な電制機を選定する。そして、系統安定化装置は、系統事故が発生した場合、当該選定した電制機からの電力の供給を遮断することにより、電力系統を安定な状態に維持する(非特許文献1)。
【0004】
ところで、必要な電制機を選定する周期の間に、電力系統の状態が大きく変化した場合がある。非特許文献1の方法で予め選定しておいた電制機では、電力系統を安定な状態に維持できない、即ち、電制機を増やす必要が生じる可能性がある。電力系統を安定にするための改善策として、より短い周期で必要な電制量を計算して、予め選定しておいた電制機に必要な電制機を、事故発生前に追加・変更しておく方法が知られている(特許文献1、2)。また、事故発生後の計測情報に基づき安定な状態を維持することが困難と判定した場合に新たな電制機を選定して、非特許文献1の方法で予め選定しておいた電制機の遮断後に、新たな電制機を遮断する方法が知られている(特許文献3)。
【0005】
電力系統の様々な状態変化に対応するため、前述した、事故発生前に必要な電制機を追加・変更しておく方法と、予め選定しておいた電制機の遮断後に、新たな電制機を遮断する方法とを組合せることが考えられる。しかしながら、再エネを対象として電制機を追加・変更しておく特許文献1と、同期発電機を対象として電制機を追加・変更しておく特許文献2とを単純に組合せると、双方で必要な追加・変更を実施してしまい、結果として電制機が過剰になる課題がある。
特許文献3の新たな電制機を遮断する方法では、電制機が追加・変更されることを前提としていないため、追加・変更前の電制機で評価して、新たな電制機を過剰に選定して遮断する課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-69214号公報
【特許文献2】特許第7002989号公報
【特許文献3】特開2022-38125号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“付録2 脱調未然防止リレーシステム事例”、2000年10月、電気学会技術報告、第801号、p.153-154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、電力系統の状態が大きく変化しても、電力系統の安定状態を維持することができる系統安定化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の系統安定化装置は、選定部と、電制推定モデル生成部と、電制機補正部と、第1段電制実行部と、安定度評価モデル生成部と、追加電制実行部と、を持つ。選定部は、予め設定された周期で、発電機を有する電力系統の特性を表す系統情報を取得し、当該系統情報を用いて、前記電力系統の電力の潮流状態を表すシミュレーションモデルである系統モデルを作成し、当該系統モデルで所定の系統事故が発生した場合の過渡安定度を算出し、かつ当該過渡安定度の算出結果に基づいて、前記所定の系統事故毎に、前記発電機のうち電力の供給を遮断する第1電制機を選定する。電制推定モデル生成部は、前記系統情報と、前記系統モデルにおける前記所定の系統事故毎の第1電制機候補と、の組合せである電制機情報に基づいて、前記系統情報から電制機を予測する回帰式を作成する。電制機補正部は、前記回帰式と、前記選定部により最後に取得された前記系統情報と、前記所定の系統事故が発生する直前の前記系統情報を用いて、電力系統の安定維持に必要な電制量を計算し、計算した電制量に基づいて、第1電制機に新たな電制機を追加する、または、第1電制機を変更する。第1段電制実行部は、系統事故発生時に、前記電制機補正部で追加、または、変更された第1電制機を遮断する指令を伝達する。安定度評価モデル生成部は、事故発生前後の電力系統や発電機の計測値から発電機の脱調有無の判定に用いる位相角偏差の変遷を求めるためのモデル定義情報と、発電機の脱調有無の判定に用いる判定基準を、直前の過渡安定度計算結果から準備しておく。追加電制実行部は、事故発生後に、前記安定度評価モデル生成部で準備しておいたモデル定義情報と電力系統の計測値を用いて計算した位相角偏差の変遷と、判定基準に基づいて、発電機が脱調すると判定された場合に追加の電制機を選定し、遮断する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の系統安定化装置の構成を示す図。
図2】実施形態の系統安定化装置の第1段電制機選定部の構成を示す図。
図3】実施形態の系統安定化装置の電制機補正部の構成を示す図。
図4】実施形態の系統安定化装置の安定度評価モデル生成部の構成を示す図。
図5】実施形態の系統安定化装置の電制同期機決定部の処理内容を説明する図。
図6】実施形態の系統安定化装置の電制再エネ決定部の処理内容を説明する図。
図7】実施形態の系統安定化装置の過渡安定度計算の処理内容を説明する図。
図8】実施形態の系統安定化装置の電制時出力変化計算部の処理内容を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の系統安定化装置を、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は実施形態に関わる電力供給システムの構成を示す図である。図1のように、電力供給システムは、電力系統1と、伝送系10と、系統安定化装置20を備える。電力系統1は、情報端末11-1、11-2、11-3、11-4、11-5、制御端末12-1、12-2、母線2-1、2-2、2-3、2-4、2-5、送電線3-1、3-2、3-3、3-4、3-5、変圧器4-1、4-2、4-3、4-4、発電機5-1、5-2、5-3、5-4および遮断器6-1、6-2、6-3、6-4を備える。以下の説明では、母線2-1、2-2、2-3、2-4、2-5、2-6を区別する必要が無い場合には、母線2と記載する。また、送電線3-1、3-2、3-3、3-4、3-5を区別する必要が無い場合には、送電線3と記載する。
【0013】
発電機5-1、5-2、5-3、5-4は、太陽光や風力等の再生可能エネルギーまたは化石燃料等の枯渇性エネルギーによって電力を発電する。発電機5-1、5-2、5-3、5-4は、発電した電力を、送電線3および母線2を介して、需要家に供給する。以下の説明では、発電機5-1、5-2、5-3、5-4を区別する必要が無い場合には、発電機5と記載する。また、太陽光や風力等の非同期連系の発電機を再エネ電源と記載し、火力・水力・原子力等の同期連系の発電機を同期発電機と記載する。
【0014】
変圧器4-1は、発電機5-1により発電される電力の電圧を所定電圧に変圧する。変圧器4-2は、発電機5-2により発電される電力の電圧を所定電圧に変圧する。変圧器4-3は、発電機5-3により発電される電力の電圧を所定電圧に変圧する。変圧器4-4は、発電機5-4により発電される電力の電圧を所定電圧に変圧する。以下の説明では、変圧器4-1、4-2、4-3、4-4を区別する必要が無い場合には、変圧器4と記載する。
【0015】
遮断器6-1は、発電機5-1により発電される電力の需要家への供給を遮断する。遮断器6-2は、発電機5-2により発電される電力の需要家への供給を遮断する。遮断器6-3は、発電機5-3により発電される電力の需要家への供給を遮断する。遮断器6-4は、発電機5-4により発電される電力の需要家への供給を遮断する。以下の説明では、遮断器6-1、6-2、6-3、6-4を区別する必要が無い場合には、遮断器6と記載する。
【0016】
情報端末11-1は、発電機5から母線2-1を介して需要家に電力を供給する電力系統1の特性を表す情報(以下、系統情報と言う)を計測する。具体的には、情報端末11-1は、電気情報と、系統情報とを計測する。電気情報は、母線2-1に接続される送電線3-1、3-2、3-5により供給される電力等に関する情報である。系統情報は、当該送電線3-1等の接続情報である。情報端末11-2は、発電機5から母線2-2を介して需要家に電力を供給する電力系統1の特性を表す系統情報を計測する。具体的には、情報端末11-2は、母線2-2に接続される送電線3-1、3-3の電気情報と当該送電線3-1、3-3の接続情報とを含む系統情報を計測する。情報端末11-3は、発電機5から母線2-3を介して需要家に電力を供給する電力系統1の特性を表す系統情報を計測する。具体的には、情報端末11-3は、母線2-3に接続される送電線3-2、3-4の電気情報と当該送電線3-2、3-4の接続情報とを含む系統情報を計測する。情報端末11-4は、発電機5から母線2-4を介して需要家に電力を供給する電力系統1に関する系統情報を計測する。具体的には、情報端末11-4は、母線2-4に接続される送電線3-3、遮断器6-1、6-2の電気情報と当該送電線3-3、遮断器6-1、6-2の接続情報とを含む系統情報を計測する。情報端末11-5は、発電機5から母線2-5を介して需要家に電力を供給する電力系統1に関する系統情報を計測する。具体的には、情報端末11-5は、母線2-5に接続される送電線3-4、遮断器6-3、6-4の電気情報と当該送電線3-4、遮断器6-3、6-4の接続情報とを含む系統情報を計測する。
【0017】
ここで、系統情報が含む電気情報は、送電線3や変圧器4の有効電力と無効電力、発電機5の有効電力と無効電力、母線2に印加される母線電圧などに関する情報である。また、系統情報が含む接続情報は、送電線3と変圧器4の接続状態などに関する情報である。以下の説明では、情報端末11-1、11-2、11-3、11-4を区別する必要が無い場合には、通信端末11と記載する。
【0018】
制御端末12-1は、遮断器6-1、6-2を制御して、発電機5-1、5-2からの電力の供給の遮断を制御する。また、制御端末12-2は、遮断器6-3、6-4を制御して、発電機5-3、5-4からの電力の供給の遮断を制御する。以下の説明では、制御端末12-1、12-2を区別する必要が無い場合には、制御端末12-1、12-2を制御端末12と記載する。
【0019】
電力系統1において、系統情報が得られない送電線3-5から左側の範囲を外部系統と称する。系統情報が得られる送電線3-5から右側の範囲を内部系統と称する。外部系統にも、母線2や送電線3、変圧器4、発電機5などが複数存在する。
【0020】
伝送系10は、専用通信回線やインターネット等の通信ネットワークを含む。伝送系10は、情報端末11と系統安定化装置20との間、および、制御端末12と系統安定化装置20との間で、系統情報等の各種情報を伝送する。
【0021】
系統安定化装置20は、伝送系10を介して、情報端末11から、系統情報等の各種情報を取得する。系統安定化装置20は、当該取得した各種情報に基づいて、電力系統1が有する発電機5のうち、電力系統1による電力供給の安定性維持に必要な電制機を決定する。ここで、電制機は、電力の供給を遮断する発電機5である。
【0022】
系統安定化装置20は、第1段電制機選定部30と、電制推定モデル生成部40と、電制機補正部50と、第1段電制実行部60と、安定度評価モデル生成部70と、追加電制実行部80とを備える。これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現され、或いは各種記憶装置における記憶領域を含む。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。
【0023】
第1段電制機選定部30の構成を、図2を参照しつつ説明する。
第1段電制機選定部30は、基本系統記憶部31と、系統情報収集部32と、系統モデル作成部33と、安定度計算部34と、安定化指標変化量算出部35と、再エネグループ決定部36と、電制機選定部37と、計算結果収集部38と、計算結果記憶部39とを備える。
基本系統記憶部31は、対象電力系統の構成や送電線、発電機の定数などを保存する。基本系統記憶部31によって保存される情報は、構成情報である。
系統情報収集部32は、伝送系10を介して情報端末11で計測された有効電力などの系統情報を収集する。
系統モデル作成部33は、基本系統記憶部31の基本系統の情報と系統情報収集部32の系統情報を収集し、系統モデルを作成する。
安定度計算部34は、系統モデル作成部33で作成された系統モデルを用いて過渡安定度計算を実施する。安定化指標変化量算出部35は、安定度計算部34の計算結果を収集し、安定化指標を算出する。安定化指標変化量算出部35は、電制によって、電力を供給する電力系統1における複数の発電機5から供給される電力の供給を削減した場合の、同期安定性の安定化指標の変化量を算出する。
再エネグループ決定部36は、安定化指標変化量算出部35の処理結果を収集し、安定化指標変化量算出部35により算出された安定化指標の変化量に基づき、複数の発電機5をグループ化(グループに分類)する。
電制機選定部37は、安定度計算部34の計算結果と安定化指標変化量算出部35の処理結果を収集し、電制機を選定する。
計算結果収集部38は、安定度計算部34の計算結果と電制機選定部37の処理結果を収集する。
計算結果記憶部39は、計算結果収集部38でまとめられた対象電力系統の情報や電制機選定結果などを記憶する。
【0024】
電制機補正部50の構成を、図3を参照しつつ説明する。
電制機補正部50は、電制同期機決定部51と、電制再エネ決定部52とを備える。
電制同期機決定部51は、伝送系10を介して得た系統情報と第1段電制機選定部30の処理結果と電制推定モデル生成部40の処理結果を収集し、同期発電機を決定する。
電制再エネ決定部52は、伝送系10を介して得た系統情報と第1段電制機選定部30の処理結果と電制推定モデル生成部40の処理結果を収集し、再エネ電源を決定する。
【0025】
安定度評価モデル生成部70の構成を、図4を参照しつつ説明する。
安定度評価モデル生成部70は、判定基準策定部71と、出力変化モデル策定部72と、安定側系統モデル策定部73と、不安定側系統モデル策定部75とを備える。
安定度評価モデル生成部70は、第1段電制機選定部30の処理結果を収集する。
【0026】
電制推定モデル生成部40は、計算結果記憶部39に保存されている系統モデルの情報と電制機選定結果を用いて、電制量を求める推定モデルを作成する。
【0027】
追加電制実行部80は、電力系統で事故が発生した後に動作する機能部である。追加電制実行部80は、電力系統で事故が発生した場合において、第1電制機による電制を実行した後に追加の電制を行うか否かを、安定度評価モデル生成部70により生成された関数等を用いて判定する。追加電制実行部80は、追加の電制が必要な場合には、その対象とする電制機を選択する。
【0028】
(作用)
ここでは、系統安定化装置20に含まれる各要素の作用について説明する。
まず、図2を参照しつつ、第1段電制機選択部30の作用を説明する。第1段電制機選定部30では、系統事故が発生した際に遮断すべき電制機を選定する。以下の説明で記載の事前計算は、この一連の処理を指す。電制機には同期発電機と再エネ電源が含まれる。
【0029】
系統情報収集部32は、1分などの一定周期で伝送系10を介して計測端末11から電力系統の様々な箇所の電圧や有効電力、無効電力といった状態量を収集する。
【0030】
系統モデル作成部33は、系統情報収集部32で集められた電力系統の各種状態量と基本系統記憶部31に保存された電力系統の構成や送電線等の定数を組合せる。系統モデル作成部33は、電力系統の過渡安定度計算に必要な系統モデルを構築する。
【0031】
安定度計算部34は、系統モデル作成部33で構築された系統モデルを使って、予め設定されている種々の想定事故が発生した場合の過渡安定度計算を実行する。安定度計算部34は、発電機が脱調しないか脱調するかを判別する、即ち、電力系統が安定か不安定かを判別する。
【0032】
安定化指標変化量算出部35と再エネグループ決定部36は、安定化効果の近い再エネ電源を同一グループにまとめて、グループ単位で電制の候補とする。
具体的に、安定化指標変化量算出部35は、電力を供給する電力系統1における複数の発電機5から供給される電力の供給を削減した場合の、同期安定性の安定化指標の変化量を算出する。最初に、安定化指標変化量算出部35は、電力系統1の系統構成(トポロジー)と発電機5の運転停止状態に基づき潮流断面の分類を行う。
安定化指標変化量算出部35は、上記により潮流断面を分類した後、再エネグループ決定部36による複数の発電機5のグループ化に用いられる安定化指標変化量の算出を、電力系統1の潮流断面の分類ごとに行う。安定化指標変化量は、再生可能エネルギー発電装置6の出力電力の減少または停止による安定化効果を示す指標である。
【0033】
電制機選定部37は、安定度計算部34の結果が不安定の場合、脱調する発電機および再エネ電源グループの中から電制機を選定する。一例として、電制機選定部37は、電制なしの過渡安定度計算結果で最初に脱調した発電機、2番目に脱調した発電機を対象に、電制候補の同期発電機または再エネ電源グループを遮断した過渡安定度計算の結果から、遮断前後の有効電力変化量を求める。電制機選定部37は、変化量の多い電制候補を電制機に選定する。
【0034】
計算結果収集部38は、安定度計算部34で用いた系統モデルと、安定度計算部34の計算結果と、電制機選定部37の電制機選定結果とを関連づけて一つのデータセットとして保持する。
【0035】
計算結果記憶部39は、計算結果収取部38でまとめられた系統モデルと計算結果を、1年などの長期にわたり保存する。
【0036】
電制推定モデル生成部40は、計算結果記憶部39に保存された過去の系統モデルや過渡安定度計算結果、電制機選定結果などから、電制量を求めるための推定モデルを作成する。推定モデルの一例は、ブランチ相差角を入力として電制量を得る線形回帰式である。ブランチ相差角は送電線や変圧器の有効電力とそのリアクタンスの積で概算する方法で求められる。電制推定モデル生成部40は、特許文献2に記載の回帰式生成部30と同様であってよい。
【0037】
電制機補正部50は、電制推定モデル生成部40で作成された電制量を求める回帰式と、計算結果記憶部39の保存情報と、伝送系10から得られる系統情報を使う。電制機補正部50は、第1段電制機選定部30の処理周期より短い周期で電制量を求める。電制機補正部50は、必要に応じて、第1段電制機選定部30で選定した電制機に、別の電制機を追加したり、第1段電制機選定部30で選定した電制機を変更したりする。
【0038】
電制機補正部50の一つの構成要素である電制同期機決定部51について説明する。
電制同期機決定部51は、同期発電機を電制候補として、必要に応じて電制機を追加・変更して第1段電制実行部60に結果を伝達する。具体的な処理内容を図5で説明する。
【0039】
ステップS101では、伝送系10から得た系統情報に基づき、電制推定モデル生成部40で作成された回帰式の中から、最新の系統状態に対応する回帰式Aと、事前計算時の系統状態に対応する回帰式Bを選び出す。選び出す方法は特許文献2と同様である。
【0040】
ステップS102では、回帰式Aと最新の系統情報を使って、最新の系統状態において必要な電制量を計算する。この計算結果を電制量Aとする。
【0041】
ステップS103では、回帰式Bと事前計算時の系統情報を使って、事前計算時の系統状態において必要な電制量を計算する。この計算結果を電制量Bとする。
【0042】
ステップS104では、電制量Aと電制量Bの大きさを比較する。電制量Aが電制量Bより大きい場合はステップS105に進む。電制量Aが電制量B以下の場合は電制機を追加・変更せずに終了する。
【0043】
ステップS105では、電制量の増加分が電制量Aと電制量Bの差分以上となるように電制機を追加・変更する。例えば、電制量Aと電制量Bの差分以上に有効電力が大きく、かつ、最少の発電機を、予め設定しておいた電制候補の中から選定して、第1段電制機選定部30で選定していた電制機に加える。
【0044】
以上により、事前計算時の系統状態で必要な電制量より、最新の系統状態で必要な電制量が多く、第1段電制機選定部30で選定した電制機より多くの電制量が必要な場合にのみ、電制量を増やすように電制機が加えられる。
【0045】
電制機補正部50の一つの構成要素である電制再エネ決定部52について説明する。
電制再エネ決定部52は、再エネ電源を電制候補として、必要に応じて電制機を追加して第1段電制実行部60に結果を伝達する。具体的な処理内容を図6で説明する。
【0046】
ステップS201では、第1段電制機選定部30で選定された電制機に再エネ電源が含まれているか否かを判定する。選定された電制機に再エネ電源が含まれる場合はステップS202に進む。選定された電制機に再エネ電源が含まれない場合は電制機を追加せずに処理を終了する。
【0047】
ステップS202では、第1段電制機選定部30で電制機に選定された再エネ電源の総出力が、天候の変化などによって出力が低下し、第1段電制機選定部30で必要としていた電制量より小さくなっているか否かを判定する。選定された再エネ電源の総出力が電制量よりも小さい場合はステップS203に進む。選定された再エネ電源の総出力が電制量よりも小さくない場合は電制機を追加せずに処理を終了する。
【0048】
ステップS203では、伝送系10から得た系統情報に基づき、電制候補の再エネグループ毎に、電制推定モデル生成部40で作成された回帰式の中から、最新の系統状態に対応する回帰式を選び出す。選び出す方法は特許文献2と同様である。
【0049】
ステップS204では、ステップS203で選び出した回帰式と、最新の系統情報を使って、電制候補の再エネグループ毎に電制量を計算する。このとき、第1段電制機選定部30で選ばれていた再エネグループの電制量も回帰式で計算する。第1段電制機選定部30で選ばれていた再エネグループの回帰式による電制量を電制量0、電制機候補の再エネグループの回帰式による電制量を電制量1、電制量2として説明する。ここでは説明の簡素化のため、必要により追加する電制機候補の再エネグループを2ヶ所としているが、3ヶ所以上でもよい。
【0050】
ステップS205では、電制量1と電制量2を比較して、小さい方の再エネグループを電制機の再エネグループに選定する。以下では、電制量1が電制量2より小さいものとして説明する。
【0051】
ステップS206では、(1)式で計算した必要電制量が、電制量1の再エネグループで得られるように、当該再エネグループの中から再エネ電源を選定して電制機に加える。電制量不足分は、第1段電制機選定部30で系統状態の安定維持に必要としていた電制量、即ち、期待していた電制量と、第1段電制機選定部30で選ばれていた再エネグループの総出力、即ち、遮断される実質的な電制量との差分である。電制量1の再エネグループの総出力が(1)式の必要電制量未満の場合は、必要電制量が確保できないため、その不足分が電制量2の再エネグループで得られるよう、同様の処理を行う。
【0052】
【数1】
【0053】
以上により、第1段電制機選定部30で再エネグループが電制機に選定されていて、かつ、その再エネグループの出力が低下して、期待していた電制量に満たない場合は、他の再エネグループの再エネ電源を電制機に加えることにより、期待通りの効果となるようにする。
【0054】
次に、図7を参照し、安定度計算部34の処理内容を説明する。
【0055】
ステップS301では、系統モデル作成部33で作成した系統モデルを用いて初期潮流を計算する。以降の各ステップにおいても、この系統モデルに基づく処理が行われる。
【0056】
ステップS302では、ステップS301の潮流計算結果に基づき、発電機5等の初期値を設定する。
【0057】
ステップS303では、系統構成に基づき、アドミタンス行列(以降、Y行列[Y]と称する)を生成する。
【0058】
ステップS304では、Y行列の逆行列[Y]-1を計算する。
【0059】
ステップS305では、系統事故や電制機の反映などにより系統構成に変化があるか否かを判定する。系統構成に変化がある場合はステップS306に進む。系統構成に変化がない場合はステップS308に進む。
【0060】
ステップS306では、系統構成の変更に基づき、Y行列[Y]を変更する。
【0061】
ステップS307では、変更したY行列の逆行列[Y]-1を計算する。
【0062】
ステップS308では、初期状態、または、1時間刻みΔT前の発電機5等の状態に基づき、注入電流[I]を計算する。
【0063】
ステップS309では、Y行列の逆行列[Y]-1と注入電流[I]からノード電圧[V]を計算する。
【0064】
ステップS310では、TendがTよりも大きいか否かを判定する。TendがTよりも大きい場合はステップS311に進む。TendがTよりも大きくない場合は終了する。Tendは、予め決められた時間(サイクル)が経過した場合に処理を終了することを定めた基準値であり、シミュレーションの終了時間である。Tは、図7に示すフローチャートの開始時点でゼロに設定されている。
【0065】
ステップS311では、計算されたノード電圧[V]に基づき、発電機5等の状態を計算する。
【0066】
ステップS312では、TにΔTを加算してTの値を更新し、ステップS305に進む。
以上により、過渡安定度計算が行われる。
【0067】
第1段電制実行部60は、必要により電制機補正部50で追加・変更された、想定事故条件毎の電制機選定結果と、伝送系10から得られる事故発生の情報に基づき、発生した事故に対応する電制機を抽出し、電制機を遮断するための制御信号を出力する。制御信号を受信した制御端末12は対応する発電機を系統から遮断する。
【0068】
安定度評価モデル生成部70は、追加電制実行部80で必要な定数等を計算する。
安定度評価モデル生成部70においては、特許文献3に記載の安定度評価モデル生成部40と同様の手法が用いられる。ただし、出力変化モデル策定部72の処理内容は、特許文献3の記載とは異なる。
具体的に、特許文献3では、第1段電制機選定部30で選定された第1段電制機が変更されることはない。このため、第1段電制機に選定された電制機を遮断する条件の過渡安定度計算結果から、追加電制実行部80で必要となる、一機無限大母線モデルに換算した電制時の有効電力出力変化量を計算しておけばよい。
これに対し、本実施形態では、電制機補正部50で第1段電制機が変更される場合がある。このため、第1段電制機になり得る発電機の全パターンについて、一機無限大母線モデルに換算した電制時の有効電力出力変化量を計算する必要がある。図8を参照しつつ、電制時の出力変化量の計算方法を説明する。
図8は、実施形態の系統安定化装置20の電制時出力変化計算部73の処理内容を説明する図である。
【0069】
一機無限大母線モデルに換算した電制時の有効電力出力変化量を計算する最も単純な方法は、電制機補正部50の処理で最終的に第1段電制機となる可能性がある発電機の全組合せの過渡安定度計算を行うことであるが、計算時間が長くなることから、短時間で計算できる方法を考案したものである。
【0070】
安定度計算部34で実施される過渡安定度計算では、10ミリ秒などの計算時間刻みで、同期発電機等の内部状態の計算、電力系統の電圧・電流等の計算を反復することで、10~20秒程度の同期発電機や電力系統の振る舞いを得る。電制時出力変化計算部73は、過渡安定度計算の過程で得られる、電制直前のアドミタンス行列(Y行列)の逆行列と同期発電機の内部電圧を用いて、10ミリ秒といった計算時間刻みの反復計算を行わずに、一機無限大母線モデルに換算した電制時の有効電力出力変化量を計算する。
【0071】
ステップS401では、過渡安定度計算結果から電制直前のY行列の逆行列と、注入電流ベクトルと、ノード電圧と、発電機有効電力と、発電機内部電圧を取得する。Y行列の逆行列と、注入電流ベクトルと、ノード電圧の間には(2)式の関係がある。ここで、[V]はノード電圧のベクトル、[Y]はY行列、[I]は注入電流ベクトルである。
【0072】
【数2】
【0073】
ステップS402では、ステップS401で得た各発電機の有効電力を不安定群と安定群の2機モデルに換算する。
【0074】
ステップS403では、ステップS402の結果を用いて、一機無限大母線モデルに換算した電制時の有効電力出力変化量の計算に必要となる、一機無限大母線モデルに換算した電制直前の有効電力出力を計算する。
【0075】
ステップS404では、第1段電制機になり得る発電機の全組合せのうち一つを設定する。
【0076】
ステップS405では、ステップS404で設定された電制対象に対応する注入電流をゼロに変更する。これは、電制対象の発電機から電力系統1への注入電流が電制後はゼロになることに基づく。
【0077】
ステップS406では、前述の(2)式で各ノードの電圧を計算する。
【0078】
ステップS407では、電制対象以外の各発電機の有効電力を(3)式で計算する。発電機端子電圧VにはステップS406で新たに計算された値を用い、発電機内部電圧EにはステップS401で取得した電制直前の値を用いる。Xは発電機内部インピーダンスであり、過渡安定度計算の過程で設定されるものを用いる。
【0079】
【数3】
【0080】
ステップS408では、ステップS407で求めた発電機有効電力を不安定群と安定群の2機モデルに換算する。
【0081】
ステップS409では、不安定群と安定群の2機モデルにおける電制時の有効電力変化量を計算する。
【0082】
ステップS410では、電制時の有効電力変化量の分担比を安定群について求める。
【0083】
ステップS411では、ステップS410で求めた分担比を使って、電制直後の不安定群と安定群の2機モデルの有効電力を計算する。
【0084】
ステップS412では、ステップS411で求めた2機モデルの有効電力を一機無限大母線モデルの有効電力に換算する。
【0085】
ステップS413では、一機無限大母線モデルにおける電制時の有効電力変化量を計算する。この計算値を、ステップS404で設定した、第1段電制機になり得る発電機組合せの一つにおける有効電力変化量として保存する。
【0086】
ステップS414では、第1段電制機になり得る発電機組合せのすべてが計算されたか否かを判定する。すべてが計算されていれば処理を終了する。すべてが計算されていなければステップS415に進む。
【0087】
ステップS415では、電制直前の注入電流をセットして、電制時の有効電力変化量を求める前の状態に戻した上で、ステップS404に戻る。
【0088】
ステップS404では、第1段電制機になり得る発電機組合せのうち、次の候補を設定する。
【0089】
ステップS405以降では、前述と同様にして設定された電制対象に対応する電制時の有効電力変化量を計算する。
【0090】
以上の繰り返し処理によって、第1段電制機になり得る全発電機組合せにおける、一機無限大母線モデル換算の電制時の有効電力変化量が計算される。
【0091】
この方法であれば、過渡安定度計算で同様の計算結果を得る場合に比べて、初期状態から電制発生までの数百ミリ秒のシミュレーションと、電制を模擬する場合に必要となるY行列の逆行列の再計算が不要となる。
【0092】
なお、ステップS410で有効電力変化量の分担比を計算するなどの複雑な方法とし、ステップS408で得られた不安定群と安定群の電制直後の有効電力を一機無限大母線モデルに換算して直接使用していない。この理由は、ステップS407で得られる発電機有効電力に誤差が含まれるためである。
【0093】
電制対象の発電機に対応する注入電流は、電制後はゼロとなるのが正しい。その考えに基づき、ステップS405では、電制対象の発電機に対応する注入電流をゼロにしているが、ステップS406で計算されるノード電圧に含まれる、電制対象の発電機の端子電圧は注入電流ゼロとする値にはならない。
【0094】
発電機の注入電流は(4)式で計算される。ここで、Iは注入電流、Eは発電機内部電圧、Vは発電機端子電圧、Xは発電機内部インピーダンスであり、すべて複素数である。
【0095】
【数4】
【0096】
電制後の正確な状態を計算するには、(4)式におけるIがゼロ、即ち、EとVの差が許容範囲内となるまで、電制対象の発電機の注入電流をゼロとし、ノード電圧を計算する処理ステップを反復する必要がある。
【0097】
計算完了に要する時間の増加が許容できるのであれば、ノード電圧を計算する処理ステップである、ステップS405とステップS406を反復して正確な電制後の状態を計算し、正確な発電機有効電力を計算することもできる。
【0098】
その場合、ステップS409、ステップS410、ステップS411の処理ステップは不要となり、ステップS408で得られた不安定群と安定群の発電機有効電力から、ステップS412で一機無限大母線モデルの発電機有効電力を計算すればよい。
【0099】
追加電制実行部80は、伝送系10から得られる発電機の計測情報と、安定度評価モデル生成部70で得た定数等と、電制機補正部50で決定した第1段電制機に基づき、第1段電制機が遮断された場合に安定となるか、不安定となるか否かを判別する。追加電制実行部80は、不安定となる場合には追加の電制機を選定の上、対象を遮断するための制御信号を送信する。特許文献3の記載と異なる点は、電制機補正部50で決定された電制機を第1段電制機としている点である。
【0100】
(効果)
本実施形態によれば、電制機補正部50において、最新の系統状態で増加させるべき電制量を同期発電機に割り振り、第1段電制機選定部30で再エネグループが電制機に選定されていて、かつ、再エネの出力低下で期待した電制量が不足する場合、その不足分を他の再エネグループで補填するという、役割分担を明確にすることができる。これにより、同期発電機を対象とした電制機の補正の仕組みと、再エネを対象とした電制機の補正の仕組みを単純に組合せた場合で生じる、過剰な電制量増加を回避することができる。
【0101】
また、安定度評価モデル生成部70において、電制時の有効電力変化量を求めるために、過渡安定度計算よりも計算量の少ない方法を用いることで、計算時間が大幅に長くなることや計算機の増強を回避することができる。
【0102】
次に、特許文献1、2、3と本実施形態を比較し、本実施形態の効果を説明する。
特許文献1、2においては、電制量の抑制ができるが、想定外への対応力が課題であった。特許文献3においては、実際の事象に合わせた電制量を求めているが、電制量が多めになる課題があった。
具体的に、特許文献1、2では、系統状態の変化に応じて事前に電制量を増やしておく(事前に電制内容を決定しておく)。このため、系統事故発生から電制(発電機遮断)までの時間が最短となって電制量を少なくできるという利点がある。一般論として、事故発生から電制までの時間が長いほど、安定化に必要な電制量は多くなる。一方、事前計算(シミュレーション)の結果から構築した回帰式を用いるため、事前計算で想定していない条件や、想定がずれていた影響を反映させることは困難である。
【0103】
一方、特許文献3では、事故発生後の計測情報(発電機有効電力など)を使うため、実態に即した判定を下すことができるという利点がある。しかしながら、事故発生後の一定時間の計測情報を用いて安定判別に必要な演算を実施し、さらに、必要な電制量を求めている。このため、予め電制内容を決定している特許文献1、2より電制が遅くなり、電制量が多くなる。
【0104】
上述した特許文献1、2、3に対し、本実施形態では、特許文献1、2、3の長所を有している。電力系統の状態変化に応じた電制量の増加では、増加量を抑制しつつ、想定ずれにより電制量の増加分が足りなった場合にも対応することができる。
【0105】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、第1段電制機選定部30と、電制推定モデル生成部40と、電制機補正部50と、第1段電制実行部60と、安定度評価モデル生成部70と、追加電制実行部80と、を持つことにより、電力系統の状態が大きく変化しても、電力系統の安定状態を維持することができる。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0107】
1…電力系統、2…母線、3…送電線、4…変圧器、5…発電機、6…遮断器、10…伝送系、11…情報端末、12…制御端末、20…系統安定化装置、30…第1段電制機選定部、40…電制推定モデル生成部、50…電制機補正部、60…第1段電制実行部、70…安定度評価モデル生成部、80…追加電制実行部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8