(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020117
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】波力発電装置
(51)【国際特許分類】
F03B 13/20 20060101AFI20240206BHJP
【FI】
F03B13/20
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198127
(22)【出願日】2022-12-12
(62)【分割の表示】P 2022122691の分割
【原出願日】2022-08-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】596007577
【氏名又は名称】株式会社アントレックス
(71)【出願人】
【識別番号】593111738
【氏名又は名称】艫居 隆三
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】艫居 隆三
【テーマコード(参考)】
3H074
【Fターム(参考)】
3H074AA02
3H074AA12
3H074BB09
3H074BB10
3H074BB11
3H074CC03
(57)【要約】
【課題】波の力を利用して効率よく発電可能であり、且つ、海の岸から離れた領域に簡単に設置可能な波力発電装置を提供する。
【解決手段】海80の所定領域81の平均水面82Aと一緒に上下動する第1浮遊体15と、第1浮遊体に対して上下方向に相対移動可能に所定領域に浮かべられ、所定領域の水面82と一緒に上下動する第2浮遊体60と、第1浮遊体と第2浮遊体の上下方向の相対移動に連動して発電する発電機71、72と、を備え、第2浮遊体が上面が開放された内筒61A、61Bを備え、第1浮遊体が、内筒に対して上下方向に相対移動可能な外筒25A、25Bと、外筒と一緒に上下動し且つ開口部を介して外筒の上方から外筒の内部へ延びる支持部材と、支持部材によって支持され且つ第1浮遊体と第2浮遊体の上下方向の相対移動に連動して回転するギヤを有するギヤ機構と、を備え、発電機が、ギヤ機構の回転力を利用して発電する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海の所定領域に浮かべられ、前記所定領域の平均水面と一緒に上下動する第1浮遊体と、
前記第1浮遊体に対して上下方向に相対移動可能に前記所定領域に浮かべられ、前記所定領域の水面と一緒に上下動する第2浮遊体と、
前記第1浮遊体と前記第2浮遊体の上下方向の相対移動に連動して発電する発電機と、
を備え、
前記第2浮遊体が、上面が開放された内筒を備え、
前記第1浮遊体が、
前記内筒の外側に位置し、前記内筒に対して上下方向に相対移動可能であり、上面に開口部が形成された外筒と、
前記外筒と一緒に上下動し、且つ、前記開口部を介して前記外筒の上方から前記外筒の内部へ延びる支持部材と、
前記支持部材によって支持され且つ前記第1浮遊体と前記第2浮遊体の上下方向の相対移動に連動して回転する複数のギヤを有する、前記内筒の内部に位置するギヤ機構と、
を備え、
前記発電機が、前記ギヤ機構の回転力を利用して発電する波力発電装置。
【請求項2】
前記第1浮遊体が、前記所定領域の底から離れた位置に位置する錘を備える請求項1記載の波力発電装置。
【請求項3】
前記第1浮遊体が、
前記所定領域に浮かぶ浮遊物と、
錘と、
前記浮遊物と前記錘とを接続し可撓性を有する連結部材と、
を備え、
前記連結部材が緊張状態にあるときの前記第1浮遊体の重心が前記錘の一部に位置する請求項1又は請求項2に記載の波力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば海の波を利用して発電する波力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アンカーを利用して海底に設置された支持部と、支持部に支持され波の力により上下動する可動部と、可動部の動きに連動して発電する発電機と、を有する波力発電装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の波力発電装置は、アンカーを利用して支持部を海底に設置する。そのため波力発電装置の設置作業が容易ではない。
【0005】
本発明は、波の力を利用して効率よく発電可能であり、且つ、海の岸から離れた領域に簡単に設置可能な波力発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の波力発電装置は、海の所定領域に浮かべられ、前記所定領域の平均水面と一緒に上下動する第1浮遊体と、前記第1浮遊体に対して上下方向に相対移動可能に前記所定領域に浮かべられ、前記所定領域の水面と一緒に上下動する第2浮遊体と、前記第1浮遊体と前記第2浮遊体の上下方向の相対移動に連動して発電する発電機と、を備え、前記第2浮遊体が、上面が開放された内筒を備え、前記第1浮遊体が、前記内筒の外側に位置し、前記内筒に対して上下方向に相対移動可能であり、上面に開口部が形成された外筒と、前記外筒と一緒に上下動し、且つ、前記開口部を介して前記外筒の上方から前記外筒の内部へ延びる支持部材と、前記支持部材によって支持され且つ前記第1浮遊体と前記第2浮遊体の上下方向の相対移動に連動して回転する複数のギヤを有する、前記内筒の内部に位置するギヤ機構と、を備え、前記発電機が、前記ギヤ機構の回転力を利用して発電する。
【0007】
海の所定領域に浮かんだ第1浮遊体が所定領域の平均水面と一緒に上下動する一方で、第2浮遊体が所定領域の水面と一緒に上下動する。即ち、第1浮遊体と第2浮遊体は、波の力により上下方向に相対移動する。さらに第1浮遊体と第2浮遊体の上下方向の相対移動に連動して発電機が発電する。
【0008】
このように第1浮遊体は所定領域の平均水面と一緒に上下動する一方で、第2浮遊体は所定領域の水面と一緒に上下動する。そのため、波が大きい場合も小さい場合も、波の力によって、第1浮遊体と第2浮遊体を確実に上下方向に相対移動させられる。従って、請求項1に記載の波力発電装置は、波の力を利用して効率よく発電可能である。
【0009】
さらに請求項1に記載の波力発電装置は、アンカーを利用して海底に設置されない。そのため請求項1に記載の波力発電装置は、アンカーを利用して海底に設置される場合と比べて、海の岸から離れた領域に設置するのが簡単である。
【0010】
なお「平均水面」とは、所定領域に含まれる全ての波の高さの平均値を通る仮想面のことである。また「第1浮遊体が所定領域の平均水面と一緒に上下動する」とは、第1浮遊体が所定領域の平均水面と完全に一緒に上下動すること、及び、第1浮遊体が所定領域の平均水面と実質的に一緒に上下動すること、の両方の意味を含む。同様に、「第2浮遊体が所定領域の水面と一緒に上下動する」とは、第2浮遊体が所定領域の水面と完全に一緒に上下動すること、及び、第2浮遊体が所定領域の水面と実質的に一緒に上下動すること、の両方の意味を含む。
【0011】
請求項2に記載の波力発電装置は、請求項1において、前記第1浮遊体が、前記所定領域の底から離れた位置に位置する錘を備える。
【0012】
請求項3に記載の波力発電装置は、請求項1又は請求項2において、前記第1浮遊体が、前記所定領域に浮かぶ浮遊物と、錘と、前記浮遊物と前記錘とを接続し可撓性を有する連結部材と、を備え、前記連結部材が緊張状態にあるときの前記第1浮遊体の重心が前記錘の一部に位置する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の波力発電装置は、波の力を利用して効率よく発電可能であり、且つ、海の岸から離れた領域に簡単に設置可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る波力発電装置の正面図である。
【
図2】波力発電装置の連結部材及び錘を省略して示す斜視図である。
【
図3】波によって内筒が外筒に対して上方へ相対移動したときの第2ギヤ、連結部材及び錘を省略して示す、
図2の3-3矢線に沿う模式的な断面図である。
【
図4】波によって内筒が外筒に対して下方へ相対移動したときの連結部材及び錘を省略して示す、
図3と同様の断面図である。
【
図5】支持部材、第1支持軸、第2支持軸及び第3支持軸の斜視図である。
【
図6】第1支持軸、第2支持軸及び第3支持軸、第1ギヤ、第2ギヤ、第3ギヤ、第4ギヤ及びワンウェイギヤの模式的な平面図である。
【
図7】変形例に係る波力発電装置の要部の
図3と同じ位置で切断したときの模式的な正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態に係る波力発電装置10について添付図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、図中に適宜示された矢印FRを前方とし、矢印UPを上方とし、矢印LHを左方とする。
【0016】
図1及び
図2に示されるように波力発電装置10は、第1浮遊体15、第2浮遊体60、第1回転軸68、第2回転軸69、第1発電機(発電機)71及び第2発電機(発電機)72を備える。
【0017】
第1浮遊体15は、固定部材(浮遊物)17、フロート22、外筒25A、25B、支持部材30、軸受33、動力発生機構35、連結部材53及び錘55を備える。
【0018】
固定部材17は、左右方向に沿って延びる長方形の枠体18と、前後方向に沿って延びる2本の棒状部材19と、を備える。各棒状部材19の一部が枠体18の中間部の下面に固定されている。
【0019】
固定部材17には複数のフロート22が固定されている。各フロート22は中空体であり、各フロート22の内部空間は空気によって満たされている。
【0020】
枠体18の内側には2つの外筒25A、25Bが設けられている。外筒25A、25Bは、上部26と、上部26の外周部から下方に延びる筒状部27と、を備える。上部26は円形であり、筒状部27は上部26の中心軸を中心とする円筒形状である。さらに上部26の中心部には開口部28が設けられている。筒状部27の外周面の一部が枠体18の内面に固定されている。
【0021】
略U字形をなす支持部材30は、略水平な第1構成部31と、第1構成部31の両端から下方に延びる一対の第2構成部32と、を備える。各第2構成部32の下端部が枠体18の上面に固定され且つ各第2構成部32の下部が筒状部27の外周面に固定されている。第1構成部31は上部26より上方に位置する。左右の第1構成部31の上面には、互いに同軸をなす軸受33がそれぞれ固定されている。
【0022】
図2及び
図5に示されたように左右の支持部材30(
図3、
図4では図示省略)は、左右の第1構成部31から下方に延びる垂直部34Aと、垂直部34Aの下端から前方及び後方に延びる第1水平部34Bと、第1水平部34Bの両端部及び中央部から左方及び右方に延びる3本の第2水平部34Cと、各第2水平部34Cの両端から下方に延びる支持部34Dと、を備える。
【0023】
支持部材30には、
図3及び
図4に示された動力発生機構35が支持されている。動力発生機構35は、第1支持軸40、第2支持軸41、第3支持軸42、第1ギヤ44、第2ギヤ45、第3ギヤ46、第4ギヤ47及びワンウェイギヤ48、49を備える。
【0024】
後部の第2水平部34Cに支持された一対の支持部34Dに第1支持軸40の両端が回転可能に支持され、中央部の第2水平部34Cに支持された一対の支持部34Dに第2支持軸41の両端が回転可能に支持され、前部の第2水平部34Cに支持された一対の支持部34Dに第3支持軸42の両端が回転可能に支持されている。第1支持軸40、第2支持軸41及び第3支持軸42は左右方向に沿って直線的に延びている。
【0025】
さらに
図3、
図4及び
図6に示されたように、第1支持軸40には第1ギヤ44が固定され、第2支持軸41には第2ギヤ45及び第3ギヤ46が回転可能に支持され、第3支持軸42には第4ギヤ47が固定されている。第1ギヤ44と第2ギヤ45は互いに噛み合っており、第3ギヤ46と第4ギヤ47は互いに噛み合っている。さらに第2支持軸41と第2ギヤ45の間にはワンウェイギヤ48が設けられ、第2支持軸41と第3ギヤ46の間にはワンウェイギヤ49が設けられている。
図3及び
図4に示されたように波力発電装置10を左側から見たときに、ワンウェイギヤ48は、第2ギヤ45が第2支持軸41に対して反時計方向A1に相対回転するのを規制し、時計方向A2に相対回転するのを許容する。波力発電装置10を左側から見たときに、ワンウェイギヤ49は、第3ギヤ46が第2支持軸41に対して反時計方向A1に相対回転するのを規制し、時計方向A2に相対回転するのを許容する。さらに
図6に示されたように、第2支持軸41の長手方向の中央部にはプーリ41Aが固定され、プーリ41Aに
図1~
図4に示された環状ベルト51が掛けまわされている。ゴム製である環状ベルト51の内面には多数のV字溝が、環状ベルト51の延長方向に並べて形成されており、一部のV字溝がプーリ41Aと噛み合っている。さらに
図3及び
図4に示されたように、環状ベルト51の上部は、対応する外筒25A、25Bの開口部28を通って上部26より上方に位置する。第1支持軸40、第2支持軸41(プーリ41A)、第3支持軸42、第1ギヤ44、第2ギヤ45、第3ギヤ46、第4ギヤ47及びワンウェイギヤ48、49はギヤ機構50の構成要素であり、これらは例えば金属製である。
【0026】
さらに
図1に示されたように、固定部材17には、複数本の連結部材53の上端部がそれぞれ固定され、各連結部材53の下端部に錘55が固定されている。連結部材53は紐やワイヤーのような可撓性を有する材料により構成されている。各連結部材53が直線状態(緊張状態)にあるときの固定部材17と錘55との間の上下方向は距離DL(
図1参照)である。小型の波力発電装置10が海80で使用される場合、距離DLは例えば1m~5mに設定され、大型の波力発電装置10が海80で使用される場合、距離DLは例えば3m~20mに設定される。また小型の波力発電装置10に設けられる錘55の質量は、例えば3kg~50kgであり、大型の波力発電装置10に設けられる錘55の質量は、例えば100kg~500kgである。各連結部材53が直線状態(緊張状態)にあるときの第1浮遊体15全体の重心は錘55の一部に位置する。また、第1浮遊体15全体の比重は、海水の比重より小さい第1比重である。
【0027】
波力発電装置10は左右一対の第2浮遊体60を備える。
図3及び
図4に示されるように、左側の第2浮遊体60は内筒61A、ラック65及びピストンリング66を備える。同様に、右側の第2浮遊体60は内筒61B、ラック65及びピストンリング66を備える。内筒61A、61Bは、底部62と、底部62の外周部から上方に延びる筒状部63と、を備える。底部62は円形であり、筒状部63は底部62の中心軸を中心とする円筒形状である。筒状部63の外径は筒状部27の内径より小さい。さらに筒状部63の内周面には、上下方向に沿って延びる一対のラック65が設けられている。各ラック65の筒状部63における周方向位置は、互いに略180°ずれている。
【0028】
図3及び
図4に示されるように、内筒61A、61Bは対応する外筒25A、25Bの下端開口から外筒25A、25Bの内部に挿入されている。なお、図示は省略されているが、外筒25Aと内筒61Aとの間には、内筒61Aの上端が外筒25Aの下端より下方へ移動するのを規制し、且つ、内筒61Aの上端が外筒25Aの上部26に接触するのを規制するストッパ機構が設けられている。外筒25Bと内筒61Bとの間にも同様のストッパ機構が設けられている。
【0029】
さらに筒状部27の内周面と筒状部63の外周面との間には環状のクリアランスが形成されており、筒状部63の外周面に固定された複数のピストンリング66が筒状部27の内周面とスライド可能に接触している。そのため、内筒61A、61Bは対応する外筒25A、25Bに対して上下方向に相対移動可能である。さらにピストンリング66によって、外筒25A、25Bの下端と内筒61A、61Bの筒状部63との間から上記クリアランスに進入した海水が、内筒61A、61Bの上縁部を乗り越えて、外筒25A、25B及び内筒61A、61Bの内部空間に進入することが防止されている。さらに内筒61A、61Bの一対のラック65に、対応するギヤ機構50の第1ギヤ44と第4ギヤ47がそれぞれ噛み合う。
【0030】
第2浮遊体60の比重は、海水の比重より小さく且つ第1比重より小さい第2比重である。
【0031】
図2に示されたように、左側の支持部材30に設けられた軸受33によって左右方向に延びる第1回転軸68が回転可能に支持され、右側の支持部材30に設けられた軸受33によって左右方向に延びる第2回転軸69が回転可能に支持されている。第1回転軸68及び第2回転軸69は互いに同軸をなす。さらに第1回転軸68と第2回転軸69の対向する端部同士が、回転接続機能(図示省略)によって相対回転可能に接続されている。さらに図示は省略されているが、第1回転軸68の左端部及び第2回転軸69の右端部には、それぞれプーリが設けられている。
【0032】
左側の環状ベルト51の一部のV字溝が第1回転軸68のプーリと噛み合っており、右側の環状ベルト51の一部のV字溝が第2回転軸69のプーリと噛み合っている。
【0033】
さらに固定部材17に固定され且つ固定部材17から上方に延びる発電機支持部材(図示省略)によって、
図1及び
図2に示された第1発電機71及び第2発電機72が支持されている。さらに第1回転軸68が第1発電機71を回転可能に貫通し、第2回転軸69が第2発電機72を回転可能に貫通している。波力発電装置10を左側から見たときに、第1回転軸68が反時計方向B1(
図2参照)に回転するとき、第1発電機71は第1回転軸68の回転力を利用して発電する。第2回転軸69が反時計方向B1に回転するとき、第2発電機72は第2回転軸69の回転力を利用して発電する。なお、第1回転軸68が時計方向に回転するとき第1発電機71は発電せず、第2回転軸69が時計方向に回転するとき第2発電機72は発電しない。
【0034】
次に、実施形態の作用及び効果を説明する。
【0035】
例えば波力発電装置10は、
図1、
図3及び
図4に示されるように海80の岸(図示省略)から遠く離れた所定領域81に設置される。上述のように第1浮遊体15の比重は海水の比重より小さい第1比重である。そのため波力発電装置10を所定領域81に設置すると、第1浮遊体15は所定領域81に対して浮かぶ。より詳細には、各フロート22が発生する浮力によって、固定部材17、フロート22、外筒25A、25B、支持部材30、及び動力発生機構35が所定領域81に対して浮かぶ。一方、錘55は海80の底80Bより上方の海中に位置し、各連結部材53が緊張状態(直線状態)になる。重心を含み且つ重量が大きい錘55が水面82より下方の流体(海水)の影響を受ける。錘55の周囲の流体(海水)の動きは、波83(水面82)の動きより小さくなり易い。そして海80の底80Bから上方に離れ且つ動きが小さい流体の影響を受ける錘55が、緊張状態にある連結部材53を介して固定部材17に力を及ぼすため、固定部材17及び外筒25A、25Bは実質的に平均水面82Aと一緒に上下動する。この錘55の働きにより、平均水面82Aと錘55の下面との間の上下方向の距離Dpが、波83の高さに拘わらず略一定に維持される。本明細書において「平均水面」とは、その領域(所定領域81)に含まれる全ての波83の高さの平均値を通る仮想面のことである。
【0036】
また、第2浮遊体60の比重は海水の比重より小さい第2比重である。そのため第2浮遊体60も所定領域81に対して浮かぶ。第2浮遊体60は水面82と一緒に上下動する。
【0037】
ここで
図3及び
図4に示されるように、所定領域81に所定の大きさの波83が発生している場合を想定する。このとき外筒25A、25Bは平均水面82Aと一緒に上下動する一方で、内筒61A、61Bは水面82と一緒に移動する。そのため、波83の影響により、対をなす外筒25A、25B及び内筒61A、61Bが上下方向に相対移動する。なお外筒25A、25Bは平均水面82Aと一緒に上下動し且つ固定部材17によって連結されているので、外筒25A、25Bはほぼ同じ態様で上下動する。一方、内筒61Aと内筒61Bは、所定の時刻においてほぼ同じ動きをする場合がある。例えば、内筒61Aと内筒61Bが同時に同じ速さで上昇する場合がある。また、内筒61Aと内筒61Bが所定の時刻において全く異なる動きをする場合がある。例えば、内筒61Aが上昇する一方で、内筒61Bが下降する場合がある。
【0038】
なお、外筒25A、25Bが平均水面82Aと一緒に上下動するとは、外筒25A、25Bが平均水面82Aと完全に一緒に上下動すること、及び、外筒25A、25Bが平均水面82Aと実質的に一緒に上下動すること、の両方の意味を含む。同様に、内筒61A、61Bが水面82と一緒に上下動するとは、内筒61A、61Bが水面82と完全に一緒に上下動すること、及び、内筒61A、61Bが水面82と実質的に一緒に上下動すること、の両方の意味を含む。
【0039】
上述のように内筒61A、61Bの一対のラック65に、対応する動力発生機構35の第1ギヤ44と第4ギヤ47が噛み合う。従って、例えば、
図3に示されたように、波83の影響により、内筒61Aが外筒25Aに対して上方に相対移動すると、左側のラック65と噛み合う第1ギヤ44が
図3の時計方向に回転する。さらに第1ギヤ44と噛み合っている第2ギヤ45が反時計方向A1に回転する。このときワンウェイギヤ48は、第2ギヤ45が第2支持軸41に対して反時計方向A1に相対回転するのを規制する。一方、右側のラック65と噛み合う第4ギヤ47が
図3の反時計方向に回転する。さらに第4ギヤ47と噛み合っている第3ギヤ46(
図4参照。
図3では図示省略)が時計方向A2に回転する。このときワンウェイギヤ49は、第3ギヤ46が第2支持軸41に対して時計方向A2に相対回転するのを許容する。従って、第3ギヤ46から第2支持軸41に時計方向A2の回転力が及ばない。そのため第2支持軸41は第2ギヤ45と一緒に反時計方向A1に回転する。そのため環状ベルト51が
図3の反時計方向B1に回転するので、第1回転軸68も反時計方向B1に回転する。従って、第1発電機71が発電する。
【0040】
一方、
図4に示されたように、波83の影響により、内筒61Aが外筒25Aに対して下方に相対移動すると、左側のラック65と噛み合う第1ギヤ44が
図4の反時計方向に回転する。さらに第1ギヤ44と噛み合っている第2ギヤ45(
図3参照。
図4では図示省略)が時計方向A2に回転する。このときワンウェイギヤ48は、第2ギヤ45が第2支持軸41に対して時計方向A2に相対回転するのを許容する。従って、第2ギヤ45から第2支持軸41に時計方向A2の回転力は及ばない。一方、右側のラック65と噛み合う第4ギヤ47が
図4の時計方向に回転する。さらに第4ギヤ47と噛み合っている第3ギヤ46が反時計方向A1に回転する。このときワンウェイギヤ49は、第3ギヤ46が第2支持軸41に対して反時計方向A1に相対回転するのを規制する。そのため第2支持軸41は第3ギヤ46と一緒に反時計方向A1に回転する。そのため環状ベルト51が
図4の反時計方向B1に回転するので、第1回転軸68も反時計方向B1に回転する。従って、第1発電機71が発電する。
【0041】
なお、詳細な説明は省略するが、波83の影響を受けた内筒61B及び外筒25Bは、内筒61A及び外筒25Aと同様に上下方向に相対移動する。その結果、第2回転軸69が反時計方向B1に回転し、第2発電機72が発電する。
【0042】
このように本実施形態では、波83の影響により、内筒61Aが外筒25Aに対して上方に相対移動する場合も下方に相対移動する場合も、第1回転軸68が反時計方向B1に回転し第1発電機71が発電する。同様に、波83の影響により、内筒61Bが外筒25Bに対して上方に相対移動する場合も下方に相対移動する場合も、第2回転軸69が反時計方向B1に回転し第2発電機72が発電する。さらに、外筒25A、25Bは平均水面82Aと一緒に上下動する一方で、内筒61A、61Bは水面82と一緒に上下動する。そのため、波83が大きい場合も小さい場合も、波83の力によって外筒25A、25Bと内筒61A、61Bを確実に上下方向に相対移動させられる。従って、第1発電機71及び第2発電機72は、波83の力を利用して効率よく発電可能である。
【0043】
さらに波力発電装置10は、アンカーを利用して海80の底80Bに設置されない。そのためアンカーを利用して底80Bに設置される波力発電装置と比べて、本実施形態の波力発電装置10は海80の岸から離れた所定領域81に設置するのが簡単である。
【0044】
さらに第1浮遊体15が外筒25A、25Bより下方に位置し且つ底80Bから上方に離れた位置に位置する錘55を備え、連結部材53が緊張状態にあるときに第1浮遊体15全体の重心が錘55の一部に位置する。従って、第1浮遊体15が錘55を備えない場合と比べて、第1浮遊体15全体の重心をより下方に位置させることが可能になる。即ち、第1浮遊体15の重心の周辺の部位が海水から受ける力を、錘55を備えない場合よりも小さくできる。そのため、錘55を備えない場合と比べて、本実施形態の外筒25A、25Bは平均水面82Aと一緒に上下動し易い。
【0045】
さらに波力発電装置10が外筒25A、25Bを連結する枠体18を備える。そのため、枠体18を具備しない場合と比べて、外筒25A、25Bの軸線は鉛直方向と平行になり易い。即ち、枠体18を具備しない場合と比べて、外筒25A、25B及び内筒61A、61Bは波83の力によって効率よく上下方向に相対移動できる。従って、枠体18を具備しない場合と比べて、波力発電装置10は効率よく発電できる。
【0046】
さらに連結部材53が可撓性を有する。そのため連結部材53を金属棒によって構成した場合に比べて、非使用状態にある波力発電装置10の全長を小さくできる。例えば、波力発電装置10を所定領域81へ運ぶための船(図示省略)の甲板上に置かれた波力発電装置10の連結部材53を折り畳むことにより、波力発電装置10の全長を、連結部材53を金属棒によって構成した場合と比べて小さくできる。
【0047】
例えば、支持部材30を省略し且つ内筒61A、61Bの筒状部63に6個の上下方向に延びる長孔からなる貫通孔を設けた上で、第1支持軸40、第2支持軸41、第3支持軸42の両端部がこれらの各貫通孔をそれぞれ貫通し且つ第1支持軸40、第2支持軸41、第3支持軸42の両端部が筒状部27の内周面によってそれぞれ支持されるように、波力発電装置を構成することが可能である。このような構造の波力発電装置も、波83の力によって、外筒25A、25Bと内筒61A、61Bを上下方向に相対移動させることが可能である。しかしながらこの場合は、外筒25A、25Bの下端と内筒61A、61Bの筒状部63との間から上記クリアランスに進入した海水が、これらの貫通孔を通って内筒61A、61Bの内部空間に進入し易い。即ち、海水がギヤ機構50に付着し易い。通常、ギヤ機構50の各構成部材は金属によって構成される。そのため海水がギヤ機構50の各構成部材に付着すると、各構成部材が錆びてしまい、ギヤ機構50の動作が不円滑になる。
【0048】
これに対して本実施形態では、外筒25A、25B及び内筒61A、61Bの内部空間に位置するギヤ機構50が、支持部材30によって上方から支持されている。換言すると、内筒61A、61Bの筒状部63に貫通孔を設けることなく、ギヤ機構50を外筒25A、25B及び内筒61A、61Bの内部空間に位置させている。そのため、本実施形態の波力発電装置10の外筒25A、25Bの下端と内筒61A、61Bの筒状部63との間から上記クリアランスに海水が進入しても、この海水がギヤ機構50に付着するおそれは小さい。
【0049】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
【0050】
支持部材30の形状が、実施形態の形状と異なっていてもよい。
【0051】
可撓性を具備しない部材により連結部材53を構成してもよい。例えば、金属棒を連結部材53として利用してもよい。
【0052】
枠体18に3つ以上の外筒25A、25Bを固定し、各外筒25A、25Bの内周側に内筒61A、61Bを位置させてもよい。
【0053】
また、枠体18に内筒61A、61Bを固定し、外筒25A、25Bを枠体18及び内筒61A、61Bに対して上下方向に相対移動可能としてもよい。この場合は波力発電装置10に、外筒25A、25Bと内筒61A、61Bの上下方向の相対移動に連動して駆動力を発生し、この駆動力を第1回転軸68及び第2回転軸69に伝達する動力発生機構(図示省略)を設ける。この動力発生機構は、例えば枠体18に支持された支持部材(図示省略)によって支持される。
【0054】
動力発生機構35は、上記のものとは別の構造であってもよい。
【0055】
ワンウェイギヤ48、49の代わりに、ワンウェイクラッチ又はワンウェイベアリングを用いてもよい。
【0056】
図3に仮想線で示した蓋部材57を上部26の上面に設けてもよい。この蓋部材57は、例えばゴムによって構成される。さらに蓋部材57には、環状ベルト51の上下方向に延びる前後一対の2つの部位がそれぞれスライド可能に貫通する2つの貫通孔58及び垂直部34Aが貫通する貫通孔が設けられている。この変形例によれば、海水が、上部26の上方から開口部28を介して外筒25A、25B及び内筒61A、61Bの内部空間に進入するおそれがより小さくなる。
【0057】
例えば、
図7及び
図8に示された変形例の態様で波力発電装置10Aが実施されてもよい。
【0058】
波力発電装置10Aは、プーリ41A及び環状部材51を具備しない。波力発電装置10Aの外筒25A、25Bの上部26には、開口部28の代わりに、開口部28より小径の第1軸用貫通孔29及び第1軸用貫通孔29と略同径の第2軸用貫通孔(図示省略)が設けられている。第1回転軸68の左端部には第1ベベルギヤ85が固定され、第2回転軸69の右端部にも第1ベベルギヤ85(図示省略)が固定されている。さらに外筒25A、25Bの上部26の上面には第1軸用貫通孔29と同軸をなす筒状支持部材86の下端が固定されている。筒状支持部材86は、船舶のプロペラ軸を支持する船尾管と同じ構造である。各筒状支持部材86の内部を、上下方向に延び且つ筒状支持部材86より上下寸法が大きい回転軸87が貫通しており、各筒状支持部材86が対応する回転軸87を回転可能に支持している。回転軸87の上端部には第2ベベルギヤ88が固定され、回転軸87の下端部には第3ベベルギヤ89が固定されている。第1回転軸68及び第2回転軸69と回転軸87は互いに直交する。即ち、第1ベベルギヤ85の軸線と第2ベベルギヤ88の軸線は互いに直交する。さらに第1ベベルギヤ85と第2ベベルギヤ88が互いに噛み合っている。一方、第2ベベルギヤ88及び第3ベベルギヤ89は互いに同軸である。さらに第2支持軸41の中間部には、第2支持軸41と同軸をなす第4ベベルギヤ90が固定されている。第3ベベルギヤ89の軸線と第4ベベルギヤ90の軸線は互いに直交する。さらに第3ベベルギヤ89と第4ベベルギヤ90が互いに噛み合っている。
【0059】
さらに上部26に設けられた第2軸用貫通孔を垂直部34Aが貫通している。さらに上部26の上面に設けられたゴム製の蓋部材(図示省略)に設けられた貫通孔を垂直部34Aが貫通している。
【0060】
上述のように内筒61Aが外筒25Aに対して上方又は下方に相対移動すると、第2支持軸41が反時計方向A1に回転する。そのため、内筒61Aが外筒25Aに対して上方又は下方に相対移動すると第4ベベルギヤ90が反時計方向A1に回転する。そのため第3ベベルギヤ89、回転軸87及び第2ベベルギヤ88が一方向に回転し且つ第2ベベルギヤ88と噛み合っている第1ベベルギヤ85が反時計方向B1に回転するので、第1回転軸68及び第2回転軸69が反時計方向B1に回転する。そのため第1発電機71及び第2発電機72が発電する。
【0061】
この
図7及び
図8の変形例の波力発電装置10Aによれば、海水が、上部26の上方から外筒25A、25B及び内筒61A、61Bの内部空間に進入するおそれが小さくなる。
【符号の説明】
【0062】
10 波力発電装置
15 第1浮遊体
17 固定部材(浮遊物)
25A 25B 外筒
28 開口部
30 支持部材
53 連結部材
55 錘
60 第2浮遊体
61A、61B 内筒
65 ラック
71 第1発電機(発電機)
72 第2発電機(発電機)
80 海
81 所定領域
82A 平均水面