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特開2024-20128樹脂製容器の製造方法、及び樹脂製容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020128
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】樹脂製容器の製造方法、及び樹脂製容器
(51)【国際特許分類】
   B29C 49/64 20060101AFI20240206BHJP
   B29C 49/22 20060101ALI20240206BHJP
   B29C 49/06 20060101ALI20240206BHJP
   B29C 45/16 20060101ALI20240206BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
B29C49/64
B29C49/22
B29C49/06
B29C45/16
B65D1/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070842
(22)【出願日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2022122816
(32)【優先日】2022-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000160223
【氏名又は名称】吉田プラ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川越 幸奈
(72)【発明者】
【氏名】堀 裕美子
【テーマコード(参考)】
3E033
4F206
4F208
【Fターム(参考)】
3E033AA02
3E033BA18
3E033BA30
3E033BB04
3E033CA07
3E033CA11
3E033CA20
3E033DA03
3E033DB01
3E033DD01
3E033EA09
3E033FA03
3E033GA02
4F206AA21
4F206AA24
4F206AA50
4F206AB12
4F206AF14
4F206AF16
4F206AG07
4F206AH55
4F206AR12
4F206AR15
4F206JA06
4F206JB22
4F206JB28
4F206JF01
4F206JL02
4F206JW41
4F208AA21
4F208AA24
4F208AA50
4F208AF05
4F208AF14
4F208AG03
4F208AG07
4F208AG26
4F208AH55
4F208AR12
4F208LA02
4F208LA04
4F208LA08
4F208LB01
4F208LB22
4F208LB28
4F208LG03
4F208LG06
4F208LG13
4F208LG18
4F208LG28
4F208LH02
4F208LH03
4F208LH08
(57)【要約】
【課題】新規な質感を有して美観に優れた樹脂製容器の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレート(PET)を含む樹脂材料からなる有底筒状の樹脂製容器の製造方法であって、射出成形によりプリフォームを作製するプリフォーム作製ステップ(s1)と、プリフォームの少なくとも一部の領域におけるPETを結晶化させる結晶化ステップ(s2)と、プリフォームを延伸ブロー成形により樹脂製容器を成形するブロー成形ステップ(s4)と、を含み、プリフォーム作製ステップでは、PETを主原料としてアクリル系樹脂を含む樹脂材料を用い、ブロー成形ステップでは、樹脂製容器の表面に、結晶化ステップにより結晶化したPETからなる領域と、白色で、結晶化したPETからなる領域より光沢を有するパール調の領域とを混在させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)を含む樹脂材料からなる有底筒状の樹脂製容器の製造方法であって、
射出成形によりプリフォームを作製するプリフォーム作製ステップと、
前記プリフォームの少なくとも一部の領域における前記PETを結晶化させる結晶化ステップと、
前記プリフォームを延伸ブロー成形により樹脂製容器を成形するブロー成形ステップと、を含み、
前記プリフォーム作製ステップでは、前記PETを主原料としてアクリル系樹脂を含む樹脂材料を用い、
前記ブロー成形ステップでは、前記樹脂製容器の表面に、前記結晶化ステップにより結晶化したPETからなる領域と、白色で、前記結晶化したPETからなる領域より光沢を有するパール調の領域とを混在させる、
ことを特徴とする樹脂製容器の製造方法。
【請求項2】
前記PETは、石油由来のバージンPET、再生PET、及びバイオマスPETのいずれか一つ以上を含むものであり、
前記アクリル系樹脂は、石油由来のバージンアクリルと再生アクリルのいずれか、又は両方を含むものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂製容器の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂材料は、PETにポリメタクリル酸メチル樹脂を含み、当該樹脂材料に含まれている前記PETの質量割合は、90%以上99%以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂製容器の製造方法。
【請求項4】
前記プリフォーム作製ステップでは、射出成形により、領域に応じて厚さが異なる前記プリフォームを作製し、厚肉となる領域の前記PETを結晶化させる、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の樹脂製容器の製造方法。
【請求項5】
前記プリフォーム作製ステップでは、射出成形により肉厚に傾斜を有する前記プリフォームを作製することで、前記PETの結晶化度を前記肉厚に応じて段階的に変化させる、ことを特徴とする請求項4に記載の樹脂製容器の製造方法。
【請求項6】
前記結晶化ステップでは、作製した前記プリフォームを加熱して当該加熱した領域のPETを結晶化させる、ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の樹脂製容器の製造方法。
【請求項7】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)を含む樹脂材料からなる有底筒状の樹脂製容器の製造方法であって、
射出成形を含む工程によりプリフォームを作製するプリフォーム作製ステップと、
前記プリフォームを延伸ブロー成形により樹脂製容器を成形するブロー成形ステップと、を含み、
前記プリフォーム作製ステップでは、
PETを主原料としてアクリル系樹脂を含む樹脂材料を射出成形することで、単層のプリフォームを成形する第1ステップと、
前記プリフォームの内面側又は外面側に、PETからなる樹脂材料を射出成形することで、前記第1ステップにより作製した前記プリフォームに、当該PETからなる内層又は外層を積層して二層構造のプリフォームを成形する第2ステップと、を実行し、
前記ブロー成形ステップでは、前記単層のプリフォームに対応する領域に結晶化したPETからなる領域を形成するとともに、前記第2ステップにより積層した内層又は外層に対応する領域に、白色で、前記結晶化したPETからなる領域より光沢を有するパール調の領域を形成する、
ことを特徴とする樹脂製容器の製造方法。
【請求項8】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)を含む樹脂材料からなる有底筒状の樹脂製容器の製造方法であって、
射出成形を含む工程によりプリフォームを作製するプリフォーム作製ステップと、
前記プリフォームを延伸ブロー成形により樹脂製容器を成形するブロー成形ステップと、を含み、
前記プリフォーム作製ステップでは、
PETからなる樹脂材料を射出成形することで、単層のプリフォームを成形する第1ステップと、
PETを主原料としてアクリル系樹脂を含む樹脂材料を射出成形することで、前記プリフォームの内面側又は外面側に、前記第1ステップにより作製した前記プリフォームに、当該PETからなる内層又は外層を積層して二層構造のプリフォームを成形する第2ステップと、を実行し、
前記ブロー成形ステップでは、前記内層又は前記外層に対応する領域に結晶化したPETからなる領域を形成するとともに、前記単層のプリ-フォームに対応する領域に、白色で、前記結晶化したPETからなる領域より光沢を有するパール調の領域を形成する、
ことを特徴とする樹脂製容器の製造方法。
【請求項9】
前記PETは、石油由来のバージンPET、再生PET、及びバイオマスPETのいずれか一つ以上を含むものであり、
前記アクリル系樹脂は、石油由来のバージンアクリルと再生アクリルのいずれか、又は両方を含むものである、
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の樹脂製容器の製造方法。
【請求項10】
前記結晶化したPETで形成された領域を有する前記プリフォームを射出成形するための樹脂材料は、PETにポリメタクリル酸メチル樹脂を含み、当該樹脂材料に含まれている前記PETの質量割合は、90%以上99%以下である、ことを特徴とする請求項7又は8に記載の樹脂製容器の製造方法。
【請求項11】
先端に開口を有する樹脂製容器であって、
ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)を主成分としてアクリル樹脂を含み、
結晶化したPETと、白色で、前記結晶化したPETからなる領域に対して光沢を有する領域とが混在し、
前記結晶化したPETが存在する領域は、他の領域に対して厚肉に形成されている、
ことを特徴とする樹脂製容器。
【請求項12】
肉厚に傾斜を有する領域が形成され、当該肉厚に傾斜を有する領域では、肉厚が増加するのに伴って前記PETの結晶化度が徐々に高くなっている、ことを特徴とする請求項11に記載の樹脂製容器。
【請求項13】
先端に開口を有する樹脂製容器であって、
厚さ方向に、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)からなる第1の層と、PETを主成分としてアクリル樹脂を含む第2の層とが積層された二層構造を有し、
前記第1の層には、結晶化したPETからなる領域を有し、
前記第2の層には、白色で、前記結晶化したPETからなる領域よりも光沢を有するパール調に成形されている、
ことを特徴とする樹脂製容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製容器の製造方法、及び樹脂製容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と言うことがある。)は、耐熱性、耐寒性、耐薬品性があり、強度にも優れるという特性を有している。また、そのため、PETは、飲料や化粧料の容器としてよく用いられている。
【0003】
ところで、化粧料容器等の樹脂製容器には、上述した機能的な特性に加え、美観に関わる特性に優れていることも必要となる。そして、樹脂製容器の美観を左右する要因として、容器表面における光の反射具合、透明感、触感、色味等の「質感」がある。例えば、PETを主原料とした容器には、所謂「パール調」と呼ばれる質感を有するものがある。パール調は、白色で滑らかで光沢がある質感で、このパール調を呈する化粧料容器としては、例えば、以下の特許文献1に記載されている化粧品用瓶がある。
【0004】
特許文献1に記載された化粧料用瓶は、PETにアクリル系樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂(以下、「PMMA」と言うことがある。))を含有させた樹脂材料を原料として延伸ブロー成形されたものである。そして、特許文献1に記載の化粧料用瓶は、製造時におけるPETとアクリル系樹脂との混合比や延伸ブロー成形時の温度や全延伸倍率が調整されて、立体的流れ模様を有し、かつパール状表面光沢を有するものとなっている。
【0005】
また、PETを主原料としつつ、パール調とは異なる質感を有する樹脂製容器としては、例えば、結晶性PETを用いたものがある。結晶性PETは、パール調と同様に白色の色味を有するものの、表面の光沢や触感は磨りガラス状で、所謂「つや消しの」、「マット調」、「シックな」等と表現される質感を有し、滑らかで光沢のあるパール調とは異なる美観を有している。そして、この結晶性PETからなる樹脂成形品としては、以下の特許文献2に記載されている多層容器がある。特許文献2に記載の多層容器は、内層体の胴部が結晶性PETからなる。そして、特許文献2には、PETを射出成形して得た成形品は、急速冷却すると透明になり、これを大気中で徐冷させるか、あるいは一旦急速冷却して透明にしたものを高温度により表面を再加熱すると結晶化による白化現象が発生することが記載されている。また、特許文献2には、再加熱による高温度(表面温度)とはガラス転移点と結晶化温度の間の70℃~200℃であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭54-133969号公報
【特許文献2】実開昭58-112949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PETを主原料として延伸ブロー成形された樹脂製容器は、添加物の含有率や成形時の温度など延伸ブロー成形法によりによりパール調や結晶性PETからなる白色を呈したものとすることができる。そして、これらの容器は、容器全体がパール調や結晶性PETとなっているか、あるいは特許文献1に記載の化粧料用瓶や特許文献2に記載の多層容器の内層体のように、白色に呈する領域と透明な領域とが混在しているものである。
【0008】
しかしながら、特許文献1や2等に記載の従来の樹脂製容器は、PET本来の透明な領域を除けば、パール調の領域、あるいは結晶性PETからなる領域のいずれかの質感を有したものとなっている。そのため、人はもちろん、様々な物に対しても他とは異なる多様性が求められる現代においては、従来の樹脂製容器の質感は単調であると言える。
【0009】
そこで本発明は、従来とは異なる新規な質感を有して美観に優れた樹脂製容器の製造方法、及び樹脂製容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、 PETを含む樹脂材料からなる有底筒状の樹脂製容器の製造方法であって、
射出成形によりプリフォームを作製するプリフォーム作製ステップと、
前記プリフォームの少なくとも一部の領域における前記PETを結晶化させる結晶化ステップと、
前記プリフォームを延伸ブロー成形により樹脂製容器を成形するブロー成形ステップと、を含み、
前記プリフォーム作製ステップでは、前記PETを主原料としてアクリル系樹脂を含む樹脂材料を用い、
前記ブロー成形ステップでは、前記樹脂製容器の表面に、前記結晶化ステップにより結晶化したPETからなる領域と、白色で、前記結晶化したPETからなる領域より光沢を有するパール調の領域とを混在させる、
ことを特徴とする樹脂製容器の製造方法としている。
【0011】
前記プリフォーム作製ステップでは、射出成形により、領域に応じて厚さが異なる前記プリフォームを作製し、厚肉となる領域の前記PETを結晶化させてもよい。
【0012】
前記プリフォーム作製ステップでは、射出成形により肉厚に傾斜を有する前記プリフォームを作製することで、前記PETの結晶化度を前記肉厚に応じて段階的に変化させる樹脂製容器の製造方法とすることもできる。
【0013】
前記結晶化ステップでは、作製した前記プリフォームを加熱して当該加熱した領域のPETを結晶化させることとしてもよい。
【0014】
また、本発明のその他の態様は、PETを含む樹脂材料からなる有底筒状の樹脂製容器の製造方法であって、
射出成形を含む工程によりプリフォームを作製するプリフォーム作製ステップと、
前記プリフォームを延伸ブロー成形により樹脂製容器を成形するブロー成形ステップと、を含み、
前記プリフォーム作製ステップでは、
PETを主原料としてアクリル系樹脂を含む樹脂材料を射出成形することで、単層のプリフォームを成形する第1ステップと、
前記プリフォームの内面側又は外面側に、PETからなる樹脂材料を射出成形することで、前記第1ステップにより作製した前記プリフォームに、当該PETからなる内層又は外層を積層して二層構造のプリフォームを成形する第2ステップと、を実行し、
前記ブロー成形ステップでは、前記単層のプリフォームに対応する領域に結晶化したPETからなる領域を形成するとともに、前記第2ステップにより積層した内層又は外層に対応する領域に、白色で、前記結晶化したPETからなる領域より光沢を有するパール調の領域を形成する、
ことを特徴とする樹脂製容器の製造方法とすることもできる。
【0015】
あるいは、PETを含む樹脂材料からなる有底筒状の樹脂製容器の製造方法であって、
射出成形を含む工程によりプリフォームを作製するプリフォーム作製ステップと、
前記プリフォームを延伸ブロー成形により樹脂製容器を成形するブロー成形ステップと、を含み、
前記プリフォーム作製ステップでは、
PETからなる樹脂材料を射出成形することで、単層のプリフォームを成形する第1ステップと、
PETを主原料としてアクリル系樹脂を含む樹脂材料を射出成形することで、前記プリフォームの内面側又は外面側に、前記第1ステップにより作製した前記プリフォームに、当該PETからなる内層又は外層を積層して二層構造のプリフォームを成形する第2ステップと、を実行し、
前記ブロー成形ステップでは、前記内層又は前記外層に対応する領域に結晶化したPETからなる領域を形成するとともに、前記単層のプリ-フォームに対応する領域に、白色で、前記結晶化したPETからなる領域より光沢を有するパール調の領域を形成する、
ことを特徴とする樹脂製容器の製造方法とすることもできる。
【0016】
上記したいずれかの樹脂製容器の製造方法は、前記PETが、石油由来のバージンPET、再生PET、及びバイオマスPETのいずれか一つ以上を含むものであり、前記アクリル系樹脂が、石油由来のバージンアクリルと再生アクリルのいずれか、又は両方を含むものである樹脂製容器の製造方法であってもよい。
【0017】
上記したいずれかの樹脂製容器の製造方法において、前記結晶化したPETで形成された領域を有する前記プリフォームを射出成形するための樹脂材料は、PETにポリメタクリル酸メチル樹脂を含み、当該樹脂材料に含まれている前記PETの質量割合を、90%以上99%以下とすることとしてもよい。
【0018】
本願発明の態様には、先端に開口を有する樹脂製容器も含まれており、当該樹脂製容器は、
PETを主成分としてアクリル樹脂を含み、
結晶化したPETと、白色で、前記結晶化したPETからなる領域に対して光沢を有する領域とが混在し、
前記結晶化したPETが存在する領域は、他の領域に対して厚肉に形成されている、
ことを特徴とする樹脂製容器としている。
【0019】
肉厚に傾斜を有する領域が形成され、当該肉厚に傾斜を有する領域では、肉厚が増加するのに伴って前記PETの結晶化度が徐々に高くなっている樹脂製容器とすることもできる。
【0020】
厚さ方向に、PETからなる第1の層と、PETを主成分としてアクリル樹脂を含む第2の層とが積層された二層構造を有し、
前記第1の層には、結晶化したPETからなる領域を有し、
前記第2の層には、白色で、前記結晶化したPETからなる領域よりも光沢を有するパール調に成形されている、
ことを特徴とする樹脂製容器としてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来とは異なる新規な質感を有して美観に優れた樹脂製容器の製造方法、及び樹脂製容器が提供される。なお、その他の効果については以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A】第1の実施例に係る製造方法で作製可能な樹脂製容器を示す図である。
図1B】第1及び第2の実施例に係る製造方法で作製可能な樹脂製容器を示す図である。
図1C】第3の実施例に係る製造方法で作製可能な樹脂製容器を示す図である。
図2】第1の実施例に係る樹脂製容器の製造方法の手順を示す図である。
図3】第1の実施例に係る樹脂製容器の製造方法において、樹脂製容器の製造過程で成形されるプリフォームを示す図である。
図4】第1の実施例に係る樹脂製容器の製造方法によって作製した樹脂製容器を示す写真である。
図5】PETの結晶化条件を調べるためのサンプルの外観図である。
図6】上記サンプルにおけるPETの結晶化の状態を示す写真である。
図7】第2の実施例に係る樹脂製容器の製造方法の手順を示す図である。
図8】第3の実施例に係る樹脂製容器の製造方法の手順を示す図である。
図9】第3の実施例に係る樹脂製容器の製造方法において、樹脂製容器の製造過程で成形される二層構造のプリフォームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施例について、添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一又は類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。ある図面において符号を付した部分について、不要であれば他の図面ではその部分に符号を付さない場合もある。
【0024】
===実施例===
実施例に係る樹脂製容器の製造方法では、有底筒状の一体的な樹脂製容器において、パール調の質感を有する領域と結晶性PETからなる領域とが混在する新規な質感を有する容器を作製することができる。図1A図1Cに実施例に係る製造方法で作製される樹脂製容器(以下、「容器」)(1a~1c)を例示した。図1A図1Cでは、容器(1a~1c)の一部破断斜視図が示されており、断面が斜線のハッチングで示されている。
【0025】
図1A図1Cに例示した容器(1a~1c)は、同じ外観形状を有し、外周に雄ねじ21が形成された円筒状の首部2と、首部2に対して拡径された有底円筒状の容器本体3とからなる。ここで、円筒軸100方向を上下方向とするとともに、底部4を下方とすると、容器本体3は、底部4と側壁となる胴部5とで構成され、首部2の下端は、肩部6を介して胴部5の上端に連続している。そして、各容器(1a~1c)は、いずれも、パール調の領域11と結晶性PETからなる領域12とが混在する容器本体3を有する。
【0026】
図1Aに例示した容器1aでは、容器本体3の上端側がパール調となるように成形されており、下方に向かって底部4に至る途上を基点12aとして、当該基点12aから下方に向かって徐々にPETの結晶化度が増加していく領域12cがある。そして、この領域12cの下端12bではほぼ完全にPETが結晶化し、その完全に結晶化した状態が底部4まで至っている。
【0027】
図1Aでは、パール調の質感を有する領域11が網点のハッチングで示されている。なお、実際のパール調の質感を有する領域11は、白色で光沢を有している。また、結晶化度が徐々に増加していく領域12cは、結晶化度とともに上方から下方に向けて徐々に肉厚が増加している。そして、この結晶化度が徐々に増加していく領域12cでは、上方から下方に向けて、光沢のあるパール調の質感がマット調となるように徐々に白濁していくように変化している。図中では、この領域12cを結晶化度の増加に伴って濃色となるようにグラデーション表示で示し、完全に結晶化している領域12dをメッシュのハッチングで示している。
【0028】
図1Bに示した容器1bは、容器本体3に、結晶性PETからなる領域12と、パール調の領域11とが境界を有して混在している。図1Bに示した容器1bでは、容器本体3の上端から下方に向かってパール調に成形された円環状の領域11と、結晶性PETからなる円環状の領域12とが順次現れるストライプ状に形成されている。なお、図中では、パール調の領域11を網点のハッチングで示し、結晶性PETからなる領域12をメッシュのハッチングで示している。
【0029】
図1Cに示した容器1cは、パール調の質感を有する領域11と、結晶性PETからなる領域12とが厚さ方向に積層された2層構造となる容器本体3を有している。図示した例では、容器本体3の外面側の層(以下、「外層体8」と言うことがある。)がパール調の質感を有する層で、内面側の層(以下、「内層体7」ということがある。)が結晶性PETで形成されて、胴部5を外方からみると、パール調の表面から裏面側の白濁した内面が透けて見える。なお、図中では、パール調の領域11を網点のハッチングで示し、結晶性PETからなる領域12をメッシュのハッチングで示している。
【0030】
以下に、図1A図1Cのそれぞれに示した容器(1a~1c)の製造方法として、第1~第3の実施例を挙げる。
【0031】
===第1の実施例===
<容器の製造手順>
【0032】
第1の実施例に係る製造方法では、図1A図1Bに示した容器(1a、1b)を製造することができる。ここでは、図1Aに示した容器1aの製造手順を挙げる。第1の実施例に係る製造方法は、周知の「インジェクションブロー方式」である。すなわち射出成形工程と延伸ブロー成形工程とを経て容器1aを作製する。また、第1の実施例に係る製造方法は、射出成形により成形したプリフォームを冷却させた後に、そのプリフォームに対して延伸ブロー成形工程を行う、所謂「コールドパリソン方式」でもある。
【0033】
図2に第1の実施例に係る製造方法の手順を示した。また図3に、容器1aの起源となるプリフォーム30の断面形状を示した。図3に示したように、プリフォーム30は、周囲に雄ねじ31が形成された首部32と試験管状の本体部33とで構成され、この本体部33が延伸ブロー成形されることで容器1aにおける容器本体3となる。本体部33は、首部32の下端に連続する円筒状の領域(以下、「円筒部34」と言うことがある。)を経て下方に凸となる半球状の底部35に至る。そして、プリフォーム30の円筒部34は容器1aの胴部5に対応し、この円筒部34に、肉厚が傾斜する領域36が形成され、プリフォーム30は、当該領域36の下端の厚さを維持して底部35の上端に連続している。
【0034】
図2に示したように、第1の実施例に係る製造方法では、まず、金型内に溶融樹脂を射出する工程(s1)と、その後の冷却工程(s2)とより図3に示したプリフォーム30を作製する。次いで、延伸ブロー成形を可能とするためにプリフォーム30を加熱するとともに(s3)、そのプリフォーム30を延伸ブロー成形により容器1aを成形する(s4)。
【0035】
具体的には、射出工程(s1)では、例えば、PETを99wt%、アクリル系樹脂であるPMMA(例えば、60N,LP-1:旭化成株式会社製)を1wt%含む樹脂材料を用いてプリフォーム30を射出成形する。なお、PETには再生PETを用いた。再生PETは、リサイクル資源として回収された成形品(ペットボトル等)を再び他の成形品の原料としてペレットの状態に加工されたものであり(例えば、NA-BT7906:協栄産業株式会社製、R100:SKケミカル株式会社製)、所謂「エコ材料」と呼ばれるものである。
【0036】
第1の実施例において、プリフォーム30の成形用金型は、肉厚が傾斜する領域36を形成するためのキャビティを有し、このような金型内に上記の樹脂材料からなる280℃の溶融樹脂を射出した後(s1)、射出成形された溶融樹脂を冷却する(s2)。
【0037】
溶融樹脂の冷却方法としては、冷却用の媒体(水、油)を、金型に設けられた流路に導入することで金型を所定の温度(例えば25℃)に冷却するとともに、溶融樹脂を型内で所定時間(例えば、120秒)維持することで、溶融樹脂を所定の温度(例えば、PETのガラス転移点である70℃)まで急速冷却する方法(急冷)、及び冷却された金型内に溶融樹脂を所定時間(例えば、15秒)維持し、溶融樹脂が固化してプリフォーム30として取り出し可能な状態になったならば、金型を開いてプリフォーム30を大気中で所定時間(例えば、720秒)放熱させてプリフォーム30を徐々に冷却する方法(徐冷)がある。そして、第1の実施例に係る製造方法では、溶融樹脂を冷却する過程で所定の肉厚以上となる領域のPETを結晶化させる。
【0038】
第1の実施例に係る容器の製造方法では、肉厚が傾斜する領域36に、肉厚の増加に伴って徐々に結晶化度が大きくなるようなプリフォーム30を成形する。例えば、原材料として再生PETとPMMAとを、PET:PMMA=99:1の質量比で混合した樹脂材料を用いるとともに、溶融樹脂を急冷してプリフォーム30を成形した場合、約3mmの厚さとなる領域で結晶化が認められ、4mm以上の肉厚となる領域では、ほぼ完全に結晶化する。なお、結晶性PETが存在する領域は、白濁した領域として目視により確認することができ、結晶化度が低い領域では、白味掛かった透明な領域に白濁する点が分散するように混在し、結晶化度が高い領域では、透明な部位がなく領域全体が白濁している。
【0039】
次に、上述したように一部が結晶性PETで形成されたプリフォームを、その後の延伸ブロー成形工程s3において変形可能な状態にまで加熱する(s3)。加熱温度としては、80℃~160℃程度である。そして、延伸ブロー工程(s4)では、プリフォーム30を所定の延伸倍率(例えば、1.1倍以上)でブロー成形する。それによって、プリフォーム30においてPETが結晶化した領域が容器1aにおいてもそのまま維持されるとともに、結晶化していない領域が白色で光沢を有する「パール調」の質感となるように成形される。
【0040】
図4に、第1の実施例により作製した容器1aの写真を示した。なお、図4では、円筒軸100を含む面で容器1aを切断したときの状態が示されており、断面における容器1aの内面を鎖線で示した。そして、この断面形状によって示されているように、容器1aは、胴部5の厚さが一律ではなく、上方から下方に向けて肉厚が厚くなる領域(以下、「傾斜領域51(12c)」と言うことがある。)を経て底部4に至っている。
【0041】
図1Aにも示したように、傾斜領域51(12c)は、プリフォーム30の円筒部34において肉厚が傾斜する領域36に対応する領域であり、上方から下方に向けてPETの結晶化度が徐々に高くなっていく領域12cとなる。そして、容器1aにおいて、胴部5の上端からこの傾斜領域51(12c)の上端12aまでがパール調の質感を有する領域11となっている。傾斜領域51(12c)の上端12aから底部4までの領域54は、結晶性PETが存在する領域12である。傾斜領域51(12c)では、上端12aから下端12bに向かって徐々に光沢がなくなっていき、傾斜領域51(12c)の下端12bから底部4までの領域53では、全て白濁した結晶性PETで形成されている領域12dとなる。
【0042】
このように、第1の実施例に係る製造方法では、容器1aにおける結晶性PETからなる領域12を、プリフォームの肉厚を調整することで制御している。したがって、第1の実施例に係る製造方法は、図1Bに示した容器1bの作製にも適用することができる。
【0043】
そして、第1の実施例に係る容器の製造方法により作製される容器(1a、1b)は、一体的な成形品の表面に、パール調の質感を有する領域11と結晶性PETからなる領域12とが混在する新規な質感を有するものとなる。また、第1の実施例に係る製造方法によれば、プリフォーム30に傾斜領域51(12c)を設けることで、パール調から結晶性PETからなる白濁した状態まで階調的に変化する独特な質感を有する容器1aを作製することもできる。
【0044】
さらに、延伸ブロー成形時(s4)に容器(1a、1b)の肉厚を制御することが難しいことから、第1の実施例に係る製造方法では、肉厚を精密に制御できる射出成形によってプリフォーム30を成形し、その肉厚に応じた結晶化度をプリフォーム30の段階で制御している。すなわち、第1の実施例に係る製造方法では、容器(1a、1b)の任意の領域におけるPETを高い精度で結晶化させることができる。なお、肉厚が厚い領域が結晶化するメカニズムとしては、射出成形後の溶融樹脂が冷却していく際に、厚い部分が放熱し難く、PETが結晶化する温度を維持している期間が長くなるためと考えることができる。
【0045】
<PETの結晶化条件>
上述したように、第1の実施例に係る容器の製造方法では、プリフォームの肉厚を制御することで容器の一部を結晶性PETで形成することができる。ところで、実施例に係る方法で製造される容器の主原料であるPETはペレットとして供給され、そのペレットには、その由来に応じ、上述した再生PETの他に、バージンPET、バイオマスPET等がある。バージンPETは、石油由来のモノエチレングリコール(MEG)を粗原料として製造されたものである(例えば、PIFG-10,EFG70:株式会社ベルポリエステルプロダクツ製)。バイオマスPETは、MEGやテレフタル酸(TPA)を植物性原料に置換したものであり、植物由来の材料(さとうきびの搾りかす(モラセス)等)を精製して製造したものを、MEGやTPAとして用いたものである(例えば、BF3067B,N1B:インドラマ・ベンチャーズ製)。
【0046】
このように、PETには由来が異なる複数の種類が存在している。そこで、種類が異なるPETを用いつつ、PETを結晶化させるための条件について検討した。具体的には、それぞれがPETの由来や冷却方法が異なる所定形状の射出成形品をサンプルとして作製した。図5にサンプルの外観形状を示した。サンプルは、厚さが1mm~10mmまで1mm刻みで段階的に変化する階段状の成形品で、サンプル毎にPETの由来と冷却方法の組み合わせが異なっている。そして、各サンプルにおいてPETが結晶化する厚さを調べた。
【0047】
以下の表1に、各サンプルおけるPETの結晶化条件を示した。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示したように、PETの由来や冷却方法により、結晶化する厚さが異なっている。そして、バージンPETを用いたサンプル1では、1~10mmの厚さでは、PETが結晶化した領域がなく、バージンPETを急冷により結晶化させるためには少なくとも10mmよりも大きな厚さが必要となる。バージンPETを用いつつ冷却方法を徐冷にしたサンプル2では、7mmの厚さで結晶化した領域が見られたものの、10mmの厚さでも完全に結晶化しなかった。
【0050】
表1において、再生PETを用いるとともに急冷によって成形したサンプル3は、結晶化する厚さが3mm~4mmと表記されているが、これは、階段状の成形品において、厚さが3mmの領域では一部が結晶化し、厚さが4mmの領域で全領域が結晶化していたことを示している。サンプル4~6についても、同様に、階段状のサンプルにおいて、領域の一部が結晶化したときの厚さと、全領域が結晶化した厚さとが数値範囲で示されている。図6に、作製したサンプル1~6の写真を示した。図6では各サンプルにおいて結晶化した領域が白線の枠で示されている。なお、図6に示したx、yの各方向と、図5に示したx、yの各方向とは同じである。
【0051】
表1、及び図6に示したように、同じ種類のPETでは、冷却方法が急冷よりも徐冷の方が結晶化しやすかった。これは、徐冷による冷却方法の方が、急冷よりもPETの結晶化温度領域に留まっている時間が長がったためと思われる。
【0052】
また、PETの種類に関しては、バージンPETに対し、再生PETやバイオマスPETの方が結晶化しやすいことが解った。なお、再生PETがバージンPETに対して結晶化し易い理由としては、再生PETでは、過去に成形品として成形された際の熱履歴が残っていたことが考えられる。一つの仮説としては、物質の結晶化は、物質を構成する分子が規則的に配列することであることから、再生PETは、過去に結晶化していなくても、高温の溶融状態から冷却されて成形品となるまでに結晶化する温度に一度は晒されていることになる。すなわち、再生PETは、過去に分子の配列がランダムな溶融状態から規則的な分子配列の状態に遷移したことがある。そのため、再生PETは、バージンPETと比較して、溶融状態から冷却される過程で、より結晶化し易いように分子配列が遷移すると考えることができる。
【0053】
いずれにしても、事実として、バージンPETを結晶化させるためには、再生PETやバイオマスPETよりもより厚さが必要であることが確認できた。そして、第1の実施例に係る樹脂製容器の製造方法によれば、上述したPETの種類による結晶化の難易度を利用することで、製品仕様として肉厚が規定されている容器であっても、PETの種類や冷却方法を適切に選択することで、任意の領域を結晶性PETで形成することができる。
【0054】
===第2の実施例===
<容器の製造手順>
【0055】
第2の実施例に係る容器の製造方法は、第1の実施例と同様に、「インジェクションブロー方式」であり、「コールドパリソン方式」である。しかし、第1の実施例とはPETを結晶化させるための手順が異なる。図7に第2の実施例に係る製造方法の手順を示した。第2の実施例に係る容器の製造方法では、第1の実施例と同様に、まずPETを主原料としてPMMAを含む樹脂材料を用い、この樹脂材料を射出工程(s11)とその後の冷却工程(s12)とによりプリフォームに作製する。なお、第2の実施例では、表1の結果などに基づき、冷却工程(s12)においてPETが結晶化しないように、PETの種類(例えば、再生PET)、プリフォームの肉厚(例えば、3mm)、及び冷却方法(例えば、急冷)が選択される。
【0056】
そして、第2の実施例では、成形済みのプリフォームを再び加熱することで、プリフォームを構成するPETの一部を結晶化させ(s13)、その上で、延伸ブロー成形工程(s15)のための加熱工程(s14)とブロー成形工程(s15)とによって容器を作製する。ブロー成形工程(s15)では、第1の実施例と同様に、プリフォームにおいてPETが結晶化していない領域をパール調の質感に変質させる。このように、第2の実施例では、延伸ブロー工程(s15)のための加熱工程(s14)に先だって行われる再加熱工程(s13)により、プリフォームの一部を結晶性PETに変質させている。
【0057】
なお、再加熱工程(s13)では、プリフォームにおいて、結晶化させたい領域を他の領域よりも高い温度で加熱する。なお、図1Bに示した容器1bのように、胴部5に円環状のパール調の領域11と結晶性PETからなる領域12とを設ける場合には、例えば、プリフォームにおいて、後に容器1bの胴部5となる領域に円環状のヒーターを用いる等して、所定の円環状領域を所定の温度で所定時間加熱すればよい。そして、PETにバージンPETを用いた場合では、加熱部分の温度が195℃となるように40秒以上加熱する。
【0058】
このように、第2の実施例に係る製造方法により作製される容器は、第1の実施例の方法で作製された容器と同様に、パール調の質感を有する領域と結晶性PETからなる領域とが混在する新規な質感を有するものとなる。しかし、第1の実施例とは異なり、プリフォームにおいて、結晶化させる領域の肉厚を厚くする必要がないため、プリフォーム用の成形金型を別途用意する必要がない。そのため、金型に掛かるコストを低減させることができる。さらに、加熱する領域を適宜に変更することで、同じプリフォームを起源とした容器であっても、異なる位置に結晶性PETからなる領域を自在に形成することができ、図案や文字などの複雑な輪郭を有する加飾を結晶性PETで形成することもできる。
【0059】
<PETの結晶化条件>
第1の実施例と同様に、第2の実施例に係る容器の製造方法においても、種類が異なるPETを用いて容器を作製することが考えられる。そこで、再加熱の条件とPETの結晶化との関係を調べた。ここでは、バージンPETのみの樹脂材料と、バージンPETと再生PETが1:1の質量比で含まれている樹脂材料の2種類を用いて肉厚が一律に3mmのプリフォームを複数作製した。次いで、各プリフォームの表面の所定の領域を加熱領域として、再加熱工程(s13)に用いるヒーターの出力と加熱時間とを変えてその加熱領域を加熱した。そして、加熱時間の経過後における加熱領域の表面温度を測定するとともに、加熱領域における結晶化の有無を調べた。
【0060】
以下の表2に、再加熱の条件と結晶化との関係を示した。
【0061】
【表2】
【0062】
表2において、サンプル7、9は、加熱時間を40秒としてヒーターの出力を変えたときに加熱領域のほぼ全域にわたってPETが結晶化したときの表面温度を示している。サンプル8、10は、ヒーターの出力、温度を固定したときに、加熱領域のほぼ全域にわたってPETが結晶化したときの時間を示している。すなわち、各サンプルの結晶化条件は、結晶化のための必須条件である。例えば、サンプル7の結晶化条件は、バージンPETを用いて厚さ3mmのプリフォームを、40秒で表面温度が195℃になるまで加熱することを示している。
【0063】
そして、表2に示した結果より、バージンPETのみの樹脂材料に対し、再生PETを含む樹脂材料の方が低い温度、あるいは短時間で結晶化することが解った。なお、バージンPETと再生PETとの質量比が1:1とは異なる樹脂材料や、バイオマスPETを用いた場合であっても、上述したように、結晶化に要する加熱時間と加熱時間経過後のプリフォームの表面温度とを調べることで、結晶化のための再加熱条件を規定することができる。
【0064】
===第3の実施例===
第3の実施例に係る製造方法では、図1Cに示した容器1cを作製することができる。上述したように、図1Cに示した容器1cは、パール調の質感を有する外層体8と、結晶性PETからなる内層体7とからなる2層構造を有する。そして、第3の実施例に係る容器の製造方法では、パール調となる領域11を有する層を、PETにPMMAを添加した樹脂原料を用いて形成し、結晶性PETからなる領域12を有する層を、PETを用いて形成している。
【0065】
図8に第3の実施例に係る製造方法による容器の作製手順を示した。図8では、図1cに示した、パール調となる領域11を有する外層体8と、結晶性PETから領域12を有する内層体7とを有する容器1cを作製する手順が示されている。図9に、容器1cの起源となるプリフォーム40の縦断面図を示した。以下に、図8図9を参照しつつ、第3の実施例に係る容器の製造方法の手順について説明する。
【0066】
第3の実施例に係る容器の製造方法では、まず、PETを結晶化させない条件でプリフォーム41を射出成形する(s21)。例えば、再生PETからなる厚さ3mmのプリフォーム41を、溶融樹脂の射出とその後の急冷とによって作製する。
【0067】
次に、再生PETからなるプリフォーム(以下、「内側プリフォーム41」と言うことがある。)を内型とし、その本体部(以下、「内側本体部42」と言うことがある。)の外表面に、後に外層体8となる部分(以下、「外側本体部43」と言うことがある。)を射出成形により形成する(s22)。このとき、PETとPMMAとが所定の質量比で含まれる樹脂材料(例えば、再生PET:PMMA=99:1)を用いる。そして、この樹脂材料を射出成形し、所定の厚さ(例えば、0.5mm)の外側本体部43を内側プリフォーム41の内側本体部42に積層させ、二層構造のプリフォーム40を作製する。なお内側プリフォーム41の内側本体部42は、外側本体部43を射出成形する際の熱により再加熱され結晶化する。
【0068】
次いで、二層構造のプリフォーム40を第1、第2の実施例と同様の方法で延伸ブロー成形する。すなわち、二層構造のプリフォーム40を延伸ブロー成形に必要な温度にまで加熱したうえで、そのプリフォーム40を延伸ブロー成形(s23、s24)する。それによって、図1Cに示した、胴部5がパール調の質感を有する外層体8と、結晶性PETからなる内層体7とが積層された容器1cが作製される。
【0069】
なお、内側プリフォーム41は、厚さや原材料として用いるPETの種類を変えるなどして、外側本体部43を成形する前に結晶化させておくこともできる。また、内層体7の一部を結晶性PETで構成したい場合には、例えば、表1や表2に示した結晶化条件に基づいて、内側プリフォーム41の一部を結晶化させておき、外側本体部43を成形する際の溶融樹脂と内側本体部42との接触時間を制御することで、内層体7において結晶化していない領域が、外側本体部43を成形するときの熱で結晶化されないようにすることもできる。もちろん、表1や表2に示したPETの結晶化条件に基づいて、PETとPMMAからなる樹脂材料を用いてパール調の内層体7を成形するとともに、パール調の領域11が結晶化しないように、外層体8のみ結晶性PETで構成することもできる。
【0070】
このように、第3の実施例に係る製造方法によれば、厚さ方向で質感が異なる容器を作製することができる。
【0071】
===アクリル系樹脂の添加量===
実施例に係る容器の製造方法では、PETにアクリル系樹脂を添加した樹脂材料を用いて射出成形したプリフォームを延伸ブロー成形することで、プリフォームの段階で得た結晶性PETからなる領域を残存させつつ、他の領域をパール調に変質させている。アクリル系樹脂は、樹脂材料をパール調に変質させるための添加剤として機能し、アクリル系樹脂の添加量が多いほど、樹脂材料はパール調に変質し易くなる。しかし、その一方で、延伸ブロー成形によりパール系の質感が優勢なり過ぎると、完成後の容器において、プリフォームの段階で形成した結晶性PETの領域が判別しにくくなる可能性もある。そこで、結晶性PETの領域とパール調の領域とを混在させることができる、PETとアクリル系樹脂との質量比の数値範囲を調べた。
【0072】
ここでは、PETとPMMAの質量比が異なる樹脂材料からなる容器を、第2の実施例に係る容器の製造方法により作製し、その容器を成形する際の樹脂材料として、PETとアクリル系樹脂との質量比が、PET:PMMA=99:1、97.5:2.5、及び90:10となるものを用いた。なお、プリフォームは、PETとして再生PETあるいはバージンPETを含み、図3に示した第2の実施例に係る製造方法の手順における、プリフォームの作製工程(s11)と同様の手順で、肉厚が3mmとなるように作製した。次いで、プリフォームの表面温度を195℃とした状態で40秒間加熱して結晶性PETからなる領域を形成し、その上で延伸ブロー成形により容器を作製した。
【0073】
そして、PETとPMMAとの質量比が異なる樹脂材料を用いつつ、図7に示した手順で容器を作製したところ、PET:PMMA=90:10の樹脂材料を用いた容器では、パール調が優勢的な質感となり、僅かではあるが、他の樹脂材料を用いた容器よりも結晶化した領域の判別がし難くなっていた。なお、PETの比率を下げれば、高強度を特徴とするPETの特性が低下することから、当然、容器の強度も低下する。したがって、PETとPMMAとの質量比は、美観や強度などを鑑みて適宜に設定すればよい。現実的には、PETとPMMAとの合計質量を100とした場合、PETの質量を90以上99以下とすればよい。
【0074】
===その他の実施例===
第1あるいは第2の実施例に係る樹脂製容器の製造方法の応用例としては、例えば、PETからなる樹脂材料のみを用いることで、透明な領域と結晶性PETの領域とが混在する容器を作製することができる。
【0075】
上記実施例において用いたアクリル系樹脂はバージン材であるが、アクリル系樹脂についても再生材(例えば、リアペットN:緑川化成工業株式会社製)を用いてもよい。PETとアクリル系樹脂の双方に再生材を用いれば、脱炭素化社会に向け、容器の製造過程における環境負荷を低減させることができる。なお、アクリル系樹脂は、パール調の質感を得るためにPETに添加されるものであり、パール調の質感は、結晶性PETのように、分子配列に起因するものではない。実際に行った事前の検討でも、バージン材と再生材とでは、PETに対する添加割合や製造手順が同じであれば、パール調の質感に差異はなかった。
【0076】
上記各実施例において用いるPETは、バージンPET、再生PET、バイオマスPETのいずれか一つ以上が含まれていればよい。アクリル系樹脂についてもバージン材と再生材の少なくとも一方が含まれていればよい。
【0077】
第1と第2の実施例に係る容器の製造方法を組み合わせてもよい。例えば、第1と第2の実施例を組み合わせれば、プリフォームにおいて肉厚に傾斜を有する領域のPETを肉厚に応じて段階的に結晶化させるとともに、任意の領域を再加熱して肉厚が薄い領域のPETを結晶化させることができる。
【0078】
図7に示した第2の実施例に係る容器の製造方法において、PETを結晶化させるための再加熱工程(s13)とブロー成形前の加熱工程(s14)とを同時に行ってもよい。この場合、再加熱工程(s13)を省略し、ブロー成形前の加熱工程(s14)の温度をPETが結晶化する温度にして容器本体3の全体を結晶性PETで形成することができる。あるいは、容器本体3の一部をPETが結晶化する温度で加熱し、その他の領域をPETが結晶化する温度以下でブロー成形に必要な温度で加熱してもよい。いずれにしても、プリフォームの一部あるいは全部をPETが結晶化する温度以上で再加熱することで再加熱した領域のPETを結晶化させればよい。
【0079】
PETを結晶化させるための再加熱工程(s13)とブロー成形のための加熱工程(s14)の二つの加熱工程を連続して行ってもよい。この場合、温度によってPETの結晶化を制御できるので、これら二つの加熱工程のいずれかを先に実行すればよい。
【0080】
図1A図1Cに、実施例に係る製造方法によって作製される容器(1a~1c)の例を示したが、当然のことながら、実施例に係る容器は、延伸ブロー成形法で作製できるものであれば、外観形状はどのようなものであってもよい。
【符号の説明】
【0081】
1a~1c 樹脂製容器、2 容器の首部、3 容器本体、4 底部、
5 胴部、6 内層体、7 外層体、11 パール調の領域、
12 結晶性PETからなる領域、30,40 プリフォーム、
32 プリフォームの首部、33 プリフォームの本体部、
34 プリフォームの円筒部、41 内側プリフォーム、42 内側本体部、
43 外側本体部、51 傾斜領域
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9