(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020140
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】鋼の連続鋳造方法及び冷却水供給設備
(51)【国際特許分類】
B22D 11/055 20060101AFI20240206BHJP
B22D 11/22 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
B22D11/055 B
B22D11/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101423
(22)【出願日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2022122667
(32)【優先日】2022-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】後藤 ひかる
(72)【発明者】
【氏名】古米 孝平
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004AC02
4E004MA01
(57)【要約】
【課題】高温下での冷却用物質の安定性と安全性が確保され、且つ、鋳型からの抜熱量を増加できる鋼の連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】連続鋳造設備を用いた鋼の連続鋳造方法であって、前記連続鋳造設備の鋳型の冷却水路に直径が0.1mm以下である気泡を含む冷却水を供給する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造設備を用いる鋼の連続鋳造方法であって、
前記連続鋳造設備の鋳型の冷却水路に直径が0.1mm以下である気泡を含む冷却水を供給する、鋼の連続鋳造方法。
【請求項2】
前記冷却水に含まれる気泡の個数密度は1億個/L以上である、請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項3】
連続鋳造設備の鋳型に冷却水を供給する冷却水供給設備であって、
前記鋳型に冷却水を供給する冷却水搬送装置と、
前記冷却水に直径が0.1mm以下である気泡を注入する気泡発生装置と、
を有する、冷却水供給設備。
【請求項4】
前記気泡発生装置は、前記冷却水に1億個/L以上の気泡を注入する、請求項3に記載の冷却水供給設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造方法及び連続鋳造設備の鋳型に冷却水を供給する冷却水供給設備に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、鋳型内の冷却は、溶鋼から抜熱し凝固シェルを形成するために重要である。近年、鋼の高速鋳造化による生産量増大の観点から、鋳型内でのより強い抜熱が求められている。
【0003】
溶鋼の抜熱時に熱抵抗となるのは凝固シェル、モールドフラックス、エアギャップ及び冷却水である。このうち、凝固シェルによる熱抵抗は不可避なものであり、モールドフラックスとエアギャップについては材料や鋳型種類に左右される。しかしながら、冷却水は水単一の成分であり、性質変化による改善は見込めない。この問題の解決策として、特許文献1には鋳型内の流路を調整することにより、抜熱量を調整することが開示されている。特許文献1によると、高さ方向に異なる位置に設けた複数の冷却水供給口から冷却水を鋳型に供給し、冷却水の流量を増加させることで抜熱量を向上できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、冷却水は流量の上昇にしたがって、配管の圧損により熱伝達係数の向上は飽和するという問題がある。すなわち冷却水の流量の上昇による抜熱量の向上には限界がある。より強抜熱を行うには従来の抜熱への取り組みに加えて、新たな手法を模索する必要がある。
【0006】
熱伝達係数向上の観点から考えれば水以外の高熱伝導物質を連続鋳造用鋳型の冷媒とすればよい。しかしながら、連続鋳造用の鋳型は溶鋼に接するため非常に高温となるので、冷媒として用いる冷却用物質の性質が変化し、安定性及び安全性が確保できなくなるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、その目的とするところは、高温下での冷却用物質の安定性と安全性が確保され、且つ、鋳型からの抜熱量を増加できる鋼の連続鋳造方法及び鋳型からの抜熱量を増加できる冷却水を供給する冷却水供給設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1]連続鋳造設備を用いる鋼の連続鋳造方法であって、前記連続鋳造設備の鋳型の冷却水路に直径が0.1mm以下である気泡を含む冷却水を供給する、鋼の連続鋳造方法。
[2]前記冷却水に含まれる気泡の個数密度は1億個/L以上である、[1]に記載の鋼の連続鋳造方法。
[3]連続鋳造設備の鋳型に冷却水を供給する冷却水供給設備であって、前記鋳型に冷却水を供給する冷却水搬送装置と、前記冷却水に直径が0.1mm以下である気泡を注入する気泡発生装置と、を有する、冷却水供給設備。
[4]前記気泡発生装置は、前記冷却水に1億個/L以上の気泡を注入する、[3]に記載の冷却水供給設備。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鋳型を冷却する冷却水に直径が0.1mm以下である気泡を含めることで冷却水の熱伝達係数が向上し、冷却水による鋳型からの抜熱量を増加させることができる。これにより、従来よりも短時間で必要な凝固シェル厚が確保できるようになるので、高速鋳造によるブレイクアウトの危険性を減少させることができる。さらに、空気を含む冷却水が冷媒となるので、鋼の連続鋳造を実施する高温下でも安定性及び安全性が確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法が実施できる連続鋳造設備の一例を示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、鋳型の一部と冷却水供給設備を示す断面模式図である。
【
図3】
図3は、冷却水供給設備の他の例を示す断面模式図である。
【
図4】
図4は、冷却水供給設備の他の例を示す断面模式図である。
【
図5】
図5は、冷却水の熱伝達係数を確認した実験装置の模式図である。
【
図6】
図6は、冷却水に含まれる気泡の個数密度ごとに、気泡の直径と冷却水の熱伝達係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を本発明の実施形態を通じて説明する。以下の実施形態は、本発明の好適な一例を示すものであり、これらの実施形態によって何ら限定されるものではない。
【0012】
図1は、本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法が実施できる連続鋳造設備の一例を示す断面模式図である。連続鋳造設備10は、鋳型12と、鋳型12の上方に設置されるタンディッシュ14と、鋳型12の下方に複数並べて配置される鋳片支持ロール16とを有する。図示を省略してあるが、タンディッシュ14の上方には、溶鋼18を収容する取鍋が設置され、取鍋の底部からタンディッシュ14に溶鋼18が注入される。タンディッシュ14の底部には、浸漬ノズル20が設置され、当該浸漬ノズル20を介して溶鋼18が鋳型12に注入される。鋳型12には冷却水路が形成されており、冷却水供給設備22から冷却水路に冷却水が供給される。溶鋼18は、鋳型12の内面から抜熱されて凝固し、凝固シェル24が形成される。これにより、凝固シェル24を外殻とし、溶鋼18からなる未凝固層26を内部に有する鋳片28が形成される。
【0013】
鋳造方向に隣り合う鋳片支持ロール16の間隙には、スプレーノズル(図示せず)が配置された二次冷却帯30が、鋳型12の直下から鋳造方向に沿って複数設置されている。二次冷却帯30のスプレーノズルから噴出される冷却水によって、鋳片28は、引き抜かれながら冷却される。鋳片28が、鋳片支持ロール16で搬送されて、複数の二次冷却帯30を通過している間に、凝固シェル24が適切に冷却されて未凝固層26の凝固が進み、鋳片28の凝固が完了する。
【0014】
鋳造方向下流には、鋳片28を引き続き搬送するための搬送ロール17が複数設置されている。搬送ロール17の上方には、鋳片28を切断するための鋳片切断機32が配置されている。凝固完了後の鋳片28は、鋳片切断機32によって、所定の長さの鋳片28aに切断される。
【0015】
図2は、鋳型12の一部と冷却水供給設備22を示す断面模式図である。鋳型12は、鋳造される鋳片28の形状に応じて略角筒状となるように設けられた4枚の鋳型銅板40と、当該鋳型銅板40の外側に設けられた4枚のバックプレート50とを有する。鋳型銅板40は、銅合金等からなり、背面に鋳造方向に延在するスリット42が、幅方向に並ぶように複数設けられている。
【0016】
バックプレート50には、冷却水供給口52と、冷却水排出口54とが形成されている。4枚のバックプレート50は、ボルト等の締結手段によって4枚の鋳型銅板40のそれぞれに固定される。鋳型銅板40とバックプレート50が固定されることで、冷却水路56が形成される。
【0017】
冷却水供給設備22は、循環水槽60と、気泡発生装置62と、冷却水搬送装置64とを有する。鋳型12の冷却に使用された冷却水は不図示のクーリングタワー等によって冷却された後、再び、鋳型12の冷却に使用される。気泡発生装置62は、クーリングタワー等によって冷却された冷却水に直径が0.1mm以下である気泡を注入する。当該気泡を含む冷却水は、循環水槽60に貯留される。気泡発生装置62は、例えば、加圧溶解式気泡発生装置である。冷却水搬送装置64は、循環水槽60内の冷却水を鋳型12の冷却水路56に供給する。これにより、直径が0.1mm以下である気泡を含む冷却水が冷却水路56に供給される。冷却水搬送装置64は、例えば、ポンプである。
【0018】
鋳型12内で冷却水は非常に狭い冷却スリット(冷却水路56)内を7m/sec以上の高速で流されることに特徴があり、冷却スリット面近傍のみで強制対流沸騰が生じるので、冷却水の流速が速くなると冷却能力が向上する関係にある。しかしながら、冷却水中に直径が0.1mm以下の気泡が含まれる場合には、冷却面で沸騰現象により生じた気泡がその後のバルクの冷却水による冷却により消滅せずに核沸騰領域に発展するので、非常に大きな冷却能力を発揮できるようになる。一般的に鋼材の冷却に用いられるような開放された空間での冷却と比較して、閉空間においては気泡存在による核沸騰による冷却能力向上効果を享受することは困難であるが、直径が0.1mm以下の気泡を含む冷却水による鋳型冷却では冷却水路56内に存在する気泡が消滅せずに残存することになり、冷却能力の向上効果が著しくなる。
【0019】
図3は、冷却水供給設備の他の例を示す断面模式図である。気泡発生装置62が加圧溶解式気泡発生装置である場合、
図3に示すように、当該気泡発生装置62を循環水槽60内に設けてもよい。気泡発生装置62は、直径が0.1mm以下である気泡を循環水槽60内に貯留された冷却水に注入する。冷却水搬送装置64は、循環水槽60内の冷却水を鋳型12の冷却水路56に供給する。これにより、直径が0.1mm以下である気泡を含む冷却水が冷却水路56に供給される。
【0020】
なお、
図2、3には気泡発生装置62が加圧溶解式気泡発生装置である例を示したが、これに限らない。気泡発生装置62として、気泡発生方式の異なる種々のマイクロバブル発生装置やウルトラファイルバブル発生装置を用いてよい。
【0021】
図4は、冷却水供給設備の他の例を示す断面模式図である。気泡発生装置62としてループ式マイクロバブル発生装置を用いる場合、当該気泡発生装置62は、クーリングタワー等によって冷却された冷却水が搬送される給水管の先端に設けられる。このように、気泡発生装置62は、当該装置の気泡発生方式に対応させて、給水設備22における種々の位置に設けられてよい。
【0022】
次に、冷却水に含まれる気泡の直径及び個数密度と、冷却水の熱伝達係数との関係を確認した実験について説明する。
図5は、冷却水の熱伝達係数を確認した実験装置の模式図である。
図5に示すように、実験では、銅板72と冷却水路74を含む水冷銅板70の銅板72をCガスバーナ76で加熱した。そして、冷却水路74に直径及び個数密度を変えた気泡を含む冷却水を通水し、銅板72内の2つの位置d
1及びd
2の温度T
1及びT
2と、冷却水温度T
Wとを測定し、下記(1)式を用いて冷却水の熱伝達係数を算出した。なお、冷却水に注入した気泡の直径と個数密度は粒子トラッキング法にて測定した。
【0023】
【数1】
上記(1)式において、qは熱流束(W/m
2)であり、T
1は位置d
1の温度(K)であり、T
2は位置d
2の温度(K)であり、T
Wは冷却水温(K)であり、d
12は、位置d
1と位置d
2との距離(m)であり、d
2Wは、位置d
2と冷却水路74との距離(m)であり、λ
Cuは銅の熱伝導率(W/(m×K))であり、h
Wは冷却水の熱伝達係数(W/(m
2×K))である。
【0024】
図6は、冷却水に含まれる気泡の個数密度ごとに、気泡の直径と冷却水の熱伝達係数との関係を示すグラフである。
図6の横軸は気泡の直径(×10
-6m)であり、縦軸は冷却水の熱伝達係数比率(-)である。冷却水の熱伝達係数比率は、気泡を含めていない18℃の冷却水の熱伝達係数を1.00として、各条件の熱伝達係数を示した比率であり、各条件の熱伝達係数を、気泡を含めていない18℃の冷却水の熱伝達係数で除して算出した。なお、(-)は無次元であることを意味する。
【0025】
図6に示すように、直径が0.1mm以下である気泡を含む冷却水の熱伝達係数は、気泡を含まない冷却水の熱伝達係数よりも高くなった。直径が0.1mm以下である気泡は、銅板72と冷却水路74との境界に形成される温度境界層を撹拌し、当該温度境界層を減少させる効果があると考えられる。この温度境界層の減少により、冷却水の熱伝達係数が高くなったものと考えられる。
【0026】
一方、直径が1mmである気泡を含む冷却水の熱伝達係数比率を測定したところ、熱伝達係数比率は1.00になり、熱伝達係数は気泡を含まない冷却水と変わらなかった。このように、気泡の直径が0.1mmを超える大きな気泡は、冷却水から浮上分離して消失してしまうため、温度境界層を撹拌する効果が得られず、このため、気泡を含まない冷却水の熱伝達係数と変わらない結果になったものと考えられる。この結果から、冷却水の熱伝達係数を高めるには、冷却水に直径が0.1mm以下の気泡を含めることが必要であることがわかる。なお、
図6に示すように、気泡の直径が小さくなるほど冷却水の熱伝達係数が高くなるので、冷却水の熱伝達係数を高めるという観点においては、冷却水に含める気泡の直径の下限を定めなくてよい。
【0027】
また、気泡の個数密度に着目すると、冷却水に含める気泡の個数密度を1000万個/L以上にすることで、冷却水の熱伝達係数は高くなった。さらに、気泡の個数密度を1億個/L以上にすることで、冷却水の熱伝達係数は顕著に高くなった。この結果から冷却水に直径が0.1mm以下である気泡を1000万個/L以上含めることが好ましく、直径が0.1mm以下である気泡を1億個/L以上含めることがより好ましいことが確認された。
【0028】
再び、
図2を参照する。冷却水搬送装置64によって、直径が0.1mm以下である気泡を含む循環水槽60内の冷却水が鋳型12の冷却水路56に供給される。上述したように、鋳型12を冷却する冷却水に直径が0.1mm以下である気泡を含めることで冷却水の熱伝達係数が高くなるので、当該冷却水で鋳型12を冷却することで鋳型12からの抜熱量が増加する。このように鋳型12からの抜熱量を増やすことができれば、従来よりも短時間で必要な凝固シェル24の厚みが確保できるようになるので、本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法の実施により、高速鋳造によるブレイクアウトの危険性を減少させることができる。さらに、空気を含む冷却水が冷媒となるので、鋼の連続鋳造を実施する高温下においても、従来同様の安定性及び安全性が確保できる。
【0029】
なお、本実施形態では、冷却水供給設備22が循環水槽60を有する例を用いて説明したが、冷却水供給設備22は循環水槽60を有さなくてもよい。この場合に気泡発生装置62は、冷却水路56に供給される冷却水の供給経路において直径が0.1mm以下である気泡を冷却水に注入すればよい。
【実施例0030】
以下、本発明の実施例を説明する。中炭素鋼(化学成分、C:0.08~0.17質量%、Si:0.10~0.30質量%、Mn:0.50~1.20質量%、P:0.010~0.030質量%、S:0.005~0.015質量%、Al:0.020~0.040質量%)の試験鋳造を鋳造速度2.6m/minの条件で実施した。冷却水に含める気泡の直径及び個数密度を変えて試験鋳造(発明例1~24)を行い、連続鋳造時の鋳型内の熱電対温度、鋳型内冷却水温度変化を測定し、上記(1)式を用いて冷却水の熱伝達係数を算出した。また、冷却水に含めた気泡の直径及び個数密度は、粒子トラッキング法で確認した。発明例1~24における冷却水の熱伝達係数比率を下記表1に示す。表1に示した熱伝達係数比率も、気泡を含めていない18℃の冷却水の熱伝達係数を1として、発明例1~24の熱伝達係数を示した比率であり、発明例1~24の熱伝達係数を、気泡を含めていない18℃の冷却水の熱伝達係数で除して算出した。
【0031】
【0032】
表1に示すように、直径が0.1mm以下である気泡を含ませた全ての発明例において、熱伝達係数比率が1.00より大きくなった。この結果から、冷却水に直径が0.1mm以下である気泡を含めることで、冷却水に気泡を含めていない従来例よりも、冷却水の熱伝達係数を向上できることが確認された。特に、冷却水に含める気泡の個数密度を1億個/L以上にすることで、冷却水の熱伝達係数比率は顕著に大きくなった。この結果から、冷却水に直径が0.1mm以下である気泡を1億個/L以上含めることで、さらに冷却水の熱伝達係数を向上できることが確認された。
【0033】
冷却水中の気泡の個数密度が高くなるほど冷却水の熱伝達係数は向上する。これは、冷却水中の気泡の個数密度が高くなると、鋳型の冷却水スリット中の鋳型加熱面の温度境界層を撹拌する能力が高くなり、当該温度境界層が減少することで冷却水の熱伝達係数が大きくなったものと推定される。気泡の個数密度を1億個/L以上にすることで冷却水の熱伝達係数が顕著に大きくなったのはこの効果が得られたものと考えられ、したがって、冷却水中に気泡をより高密度で注入することが好ましいことがわかる。
【0034】
一方、比較例として、直径が1mmである気泡を含ませた冷却水を用いて同じ試験鋳造を行ったところ、冷却水の熱伝達係数比率は1.00となり、冷却水に気泡を含めていない従来例と熱伝達係数は変わらなかった。この結果から、冷却水に含ませる気泡の直径は0.1mm以下が必要であることが確認された。
【0035】
このように、鋳型を冷却する冷却水に直径が0.1mm以下である気泡を含めることで、冷却水の熱伝達係数を向上できることが確認された。そして、当該冷却水で鋳型を冷却することで鋳型からの抜熱量を増やすことができ、従来よりも短時間で必要な凝固シェル厚が確保できるようになるので、高速鋳造によるブレイクアウトの危険性を減少できることがわかる。