(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020173
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】付加製造プロセスに使用するための水性バインダ溶液
(51)【国際特許分類】
B22F 10/14 20210101AFI20240206BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240206BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240206BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
B22F10/14
B33Y70/00
B33Y10/00
B28B1/30
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023123544
(22)【出願日】2023-07-28
(31)【優先権主張番号】17/876,028
(32)【優先日】2022-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナタラジャン、アルンクマール
(72)【発明者】
【氏名】アルバーツ、ウィリアム シー.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】浸透時間を短縮し、感熱紙によるプリンタヘッドチェックを可能にする、バインダ溶液を提供する。
【解決手段】付加製造に使用するための水性バインダ溶液であって、熱可塑性バインダと、4重量%以上20重量%以下の非水溶媒(100℃以上175℃以下の沸点を有する)と、水とを含む、水性バインダ溶液である。前期熱可塑性バインダは、5,000g/mol~15,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖と、10,000g/mol~50,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖及び1,000g/mol~5,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖のうちの少なくとも一方とを含む。付加製造プロセスのプリントヘッドを監視する方法は、感熱紙上に水性バインダ溶液を塗布することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加製造に使用するための水性バインダ溶液(206)であって、
熱可塑性バインダ(216)であって、
5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖(220)と、
10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖(222)及び1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖のうちの少なくとも一方と、を含み、
前記第1のポリマー鎖(220)は、前記第2のポリマー鎖(222)及び前記第3のポリマー鎖の各々とは異なり、前記第2のポリマー鎖(222)は、前記第3のポリマー鎖とは異なる、熱可塑性バインダ(216)と、
100℃以上175℃以下の沸点を有し、前記水性バインダ溶液(206)の総重量を基準として4重量%以上20重量%以下の非水溶媒と、
水と、
を含む水性バインダ溶液(206)。
【請求項2】
前記非水溶媒が、前記水性バインダ溶液(206)の総重量を基準として6重量%以上18重量%未満の量で前記水性バインダ溶液(206)中に存在する、請求項1に記載の水性バインダ溶液(206)。
【請求項3】
前記非水溶媒が、2-メトキシエタノール、ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、2-ブトキシエタノール、及びジ(プロピレングリコール)ジメチルエーテルのうちの少なくとも1種を含む、請求項1又は請求項2に記載の水性バインダ溶液(206)。
【請求項4】
前記第1のポリマー鎖(220)が、ポリビニルピロリドン(PVP)及びポリビニルアルコール(PVA)の少なくとも一方を含む、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の水性バインダ溶液(206)。
【請求項5】
前記第1のポリマー鎖(220)が、前記水性バインダ溶液(206)の総重量を基準として5重量%以上20重量%以下の量で存在する、請求項4に記載の水性バインダ溶液(206)。
【請求項6】
前記熱可塑性バインダ(216)が、前記第2のポリマー鎖(222)を、前記水性バインダ溶液(206)の総重量を基準として0.5重量%以上7重量%以下の量で含む、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の水性バインダ溶液(206)。
【請求項7】
前記熱可塑性バインダ(216)が、前記第3のポリマー鎖を、前記水性バインダ溶液(206)の総重量を基準として0.1重量%以上5重量%以下の量で含む、請求項6に記載の水性バインダ溶液(206)。
【請求項8】
付加製造プロセスのプリントヘッド(208)を監視する方法(300)であって、
感熱紙(400)を作業面(204)上に配置することと、
前記感熱紙(400)上に水性バインダ溶液(206)を塗布することと、
を含み、
前記水性バインダ溶液(206)は、100℃以上175℃以下の沸点を有し、前記水性バインダ溶液(206)の総重量を基準として4重量%以上20重量%以下の非水溶媒と、熱可塑性バインダ(216)と、を含み、
前記熱可塑性バインダ(216)は、
5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖(220)と、
10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖(222)及び1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖のうちの少なくとも一方と、を含み、
前記第1のポリマー鎖(220)は、前記第2のポリマー鎖(222)及び前記第3のポリマー鎖の各々とは異なり、
前記第2のポリマー鎖(222)は、前記第3のポリマー鎖とは異なる、
方法(300)。
【請求項9】
前記非水溶媒が、2-メトキシエタノール、ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、2-ブトキシエタノール、及びジ(プロピレングリコール)ジメチルエーテルのうちの少なくとも1種を含む、請求項8に記載の方法(300)。
【請求項10】
前記第1のポリマー鎖(220)が、ポリビニルピロリドン(PVP)及びポリビニルアルコール(PVA)の少なくとも一方を含む、請求項8又は請求項9に記載の方法(300)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は付加製造(additive manufacturing)に関し、より詳細には、付加製造プロセスで使用されるバインダに関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造は、3Dプリンティングとしても知られ、材料を1層ずつ積層して三次元部品を形成するプロセスである。バインダ噴射法(binder jetting)は、粉末の粒子を結合して三次元部品を形成するためにバインダを用いることを基本とした付加製造技術である。特に、バインダはプリントヘッドから造形容積内の粉末の連続した層上に噴射され、ここで粉末の層とバインダとが互いに接着してグリーン体部品(green body part)を形成する。いくつかの用途では、グリーン体部品が最終用途に適している。他の用途では、グリーン体部品を完成した三次元部品に変換するために、バインダの除去や粉末の焼結などの後続の処理が必要となる場合がある。
【発明の概要】
【0003】
従来のバインダ溶液は、粉末の層に浸透(wick)するのに比較的長い時間を必要とする場合があり、これは、後続の粉末の層を造形容積内に堆積させることが可能となるまでに必要な時間を増加させる可能性がある。浸透時間が長くなると、付加製造装置のスループットが低下し、ひいては生産性が低下する。しかしながら、改善された浸透時間を達成したいくつかのバインダ溶液は、プリントヘッドチェックの間、感熱紙上にパターンを形成しない可能性がある。
【0004】
したがって、浸透時間を短縮し、かつ感熱紙を用いたプリントヘッドチェックを可能にする、代替的なバインダ溶液が必要とされている。
【0005】
本明細書に開示される種々の態様は、熱可塑性バインダと、100℃以上175℃以下の沸点を有し、4重量%以上20重量%以下の非水溶媒と、水と、を含む水性バインダ溶液を提供することによって、これらのニーズを満たす。熱可塑性バインダは、第1のポリマー鎖(polymer strand)と、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖のうちの少なくとも一方とを含む。種々の態様において、第1のポリマー鎖は5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有し、第2のポリマー鎖は10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量を有し、第3のポリマー鎖は1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量を有する。第1のポリマー鎖は、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖の各々とは異なり、第2のポリマー鎖は、第3のポリマー鎖とは異なる。この配合物は、粉末層中に速やかに浸透する一方で、従来のバインダ溶液に比べて短い硬化時間と、プリントヘッドチェック中に感熱紙をパターン化する能力とのバランスも有している。その他の特徴及び利点について、以下でより詳細に説明する。
【0006】
第1の態様A1によれば、付加製造に使用するための水性バインダ溶液は、5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖と、10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖及び1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖のうちの少なくとも一方(ここで、第1のポリマー鎖は第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖の各々とは異なり、第2のポリマー鎖は第3のポリマー鎖とは異なる)と、非水性バインダ溶液の総重量に基づいて4重量パーセント(重量%)以上20重量%以下の非水溶媒(100℃以上175℃以下の沸点を有する)と、水と、を含む。
【0007】
第2の態様A2は、第1の態様A1に係る水性バインダ溶液を含み、非水溶媒は、水性バインダ溶液の総重量を基準として6重量%以上18重量%未満の量で水性バインダ溶液中に存在する。
【0008】
第3の態様A3は、第1の態様A1に係る水性バインダ溶液を含み、非水溶媒は、2-メトキシエタノール、ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、2-ブトキシエタノール、及びジ(プロピレングリコール)ジメチルエーテルのうちの少なくとも1種を含む。
【0009】
第4の態様A4は、第1の態様A1に係る水性バインダ溶液を含み、第1のポリマー鎖は、ポリビニルピロリドン(PVP)及びポリビニルアルコール(PVA)の少なくとも一方を含む。
【0010】
第5の態様A5は、第4の態様A4に係る水性バインダ溶液を含み、第1のポリマー鎖は、水性バインダ溶液の総重量を基準として5重量%以上20重量%以下の量で存在する。
【0011】
第6の態様A6は、第1の態様A1に係る水性バインダ溶液を含み、熱可塑性バインダは、水性バインダ溶液の総重量を基準として0. 5重量%以上7重量%以下の量で第2のポリマー鎖を含む。
【0012】
第7の態様A7は、第6の態様A6に係る水性バインダ溶液を含み、熱可塑性バインダは、第3のポリマー鎖を、水性バインダ溶液の総重量を基準として0. 1重量%以上5重量%以下の量で含む。
【0013】
第8の態様A8は、第1の態様A1に係る水性バインダ溶液を含み、第2のポリマー鎖は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、ポリビニルメチルエーテル無水マレイン酸(PVME-MA)、及びそれらの誘導体のうちの少なくとも1種を含む。
【0014】
第9の態様A9は、第1の態様A1に係る水性バインダ溶液を含み、第3のポリマー鎖は、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、及びそれらの誘導体のうちの少なくとも1種を含む。
【0015】
第10の態様A10は、第1の態様A1に係る水性バインダ溶液を含み、水性バインダ溶液は、水性バインダ溶液の総重量を基準として0. 1重量%以上2重量%以下の界面活性剤をさらに含む。
【0016】
第11の態様A11は、第1の態様A1に係る水性バインダ溶液を含み、水性バインダ溶液中に存在するポリマーの総重量は、水性バインダ溶液の総重量を基準として5重量%以上20重量%以下である。
【0017】
第12の態様A12によれば、付加製造プロセスのプリントヘッドを監視する方法は、感熱紙を作業面上に配置することと、感熱紙上に水性バインダ溶液を塗布することと、を含むことができ、水性バインダ溶液は、水性バインダ溶液の総重量を基準として4重量%以上20重量%以下の非水溶媒であって100℃以上175℃以下の沸点を有する非水溶媒と、熱可塑性バインダと、を含む。熱可塑性バインダは、5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖と、10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖及び1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖のうちの少なくとも一方と、を含み、第1のポリマー鎖は第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖の各々とは異なり、第2のポリマー鎖は第3のポリマー鎖とは異なる。
【0018】
第13の態様A13は、第12の態様A12に係る方法を含み、非水溶媒は、水性バインダ溶液の総重量を基準として6重量%以上18重量%未満の量で水性バインダ溶液中に存在する。
【0019】
第14の態様A14は、第12の態様A12に係る方法を含み、非水溶媒は、2-メトキシエタノール、ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、2-ブトキシエタノール、及びジ(プロピレングリコール)ジメチルエーテルのうちの少なくとも1種を含む。
【0020】
第15の態様A15は、第12の態様A12に係る方法を含み、第1のポリマー鎖は、ポリビニルピロリドン(PVP)及びポリビニルアルコール(PVA)の少なくとも一方を含む。
【0021】
第16の態様A16は、第15の態様A15に係る方法を含み、第1のポリマー鎖は、水性バインダ溶液の総重量を基準として5重量%以上20重量%以下の量で存在する。
【0022】
第17の態様A17は、第12の態様A12に係る方法を含み、熱可塑性バインダは、水性バインダ溶液の総重量を基準として0. 5重量%以上7重量%以下の量で第2のポリマー鎖を含む。
【0023】
第18の態様A18は、第17の態様A17に係る方法を含み、熱可塑性バインダは、水性バインダ溶液の総重量を基準として0. 1重量%以上5重量%以下の量で第3のポリマー鎖を含む。
【0024】
第19の態様A19は、第12の態様A12に係る方法を含み、水性バインダ溶液中に存在するポリマーの総重量は、水性バインダ溶液の総重量を基準として5重量%以上20重量%以下である。
【0025】
第20の態様A20によれば、付加製造の方法は、作業面上に粉末の層を堆積させることと、熱可塑性バインダと、100℃以上175℃以下の沸点を有し、水性バインダ溶液の総重量を基準として4重量%以上20重量%以下の非水溶媒とを含む水性バインダ溶液を、部品の構造を表すパターンで粉末の層に選択的に塗布すること(selectively depositing)であって、熱可塑性バインダは、5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖と、10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖及び1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖の少なくとも一方と、を含み、第1のポリマー鎖は第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖の各々とは異なり、第2のポリマー鎖は第3のポリマー鎖とは異なる、水性バインダ溶液を選択的に塗布することと、第1のポリマー鎖を、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖の少なくとも一方と結合させて、グリーン体部品を形成することと、を含む。
【0026】
本明細書に開示される態様のさらなる特徴及び利点は、以下の詳細な説明に記載され、一部はその詳細な説明から当業者には容易に明らかになるであろうし、又は以下の詳細な説明、特許請求の範囲、及び添付の図面を含む本明細書に記載され開示される態様を実施することによって理解されるであろう。
【0027】
前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明の両方が、特許請求される態様の性質及び特徴を理解するための概要又はフレームワークを提供することを意図する態様を提示することを理解されたい。添付の図面は、さらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する。図面は、本開示の種々の態様を示すものであり、本明細書と共にその原理及び動作を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本明細書に示され、説明される1つ以上の態様による、水性バインダ溶液を使用する付加製造により部品を製造する例示的な方法のフローチャートである。
【
図2】
図2は、
図1の方法に従って部品を製造するために使用される付加製造装置の一態様のブロック図である。
【
図3】
図3は、本明細書に示され、説明される1つ以上の態様による、水性バインダ溶液を使用する付加製造プロセスのプリントヘッドを監視する例示的な方法のフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図3の方法に従ってプリントヘッドを監視するために使用される
図2に示す付加製造装置のブロック図である。
【
図5】
図5は、本明細書に示され、説明される1つ以上の態様による、感熱紙上に塗布された比較例の水性バインダ溶液の写真である。
【
図6】
図6は、本明細書に示され、説明される1つ以上の態様による、感熱紙上に塗布された実施例の水性バインダ溶液の写真である。
【
図7】
図7は、本明細書に示され、説明される1つ以上の態様による、感熱紙上に塗布された実施例の水性バインダ溶液の写真である。
【
図8】
図8は、本明細書に示され、説明される1つ以上の態様による、感熱紙上に塗布された実施例の水性バインダ溶液の写真である。
【
図9】
図9は、感熱紙上に塗布された比較例の水性バインダ溶液の写真である。
【
図10】
図10は、本明細書に示され、説明される1つ以上の態様による、感熱紙上に塗布された実施例の水性バインダ溶液の写真である。
【
図11】
図11は、本明細書に示され、説明される1つ以上の態様による、感熱紙上に塗布された実施例の水性バインダ溶液の写真である。
【
図12】
図12は、本明細書に示され、説明される1つ以上の態様による、感熱紙上に塗布された実施例の水性バインダ溶液の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、付加製造プロセスで使用するための水性バインダ溶液の種々の態様について詳細に説明する。特に、水性バインダ溶液の種々の態様は、熱可塑性バインダと、4重量%以上20重量%以下の非水溶媒(100℃以上175℃以下の沸点を有する)と、水とを含む。本明細書では、水性バインダ溶液の種々の態様について、添付の図面を具体的に参照しながら説明する。
【0030】
本明細書では、範囲は、「約(およそ)」1つの特定の値から、又は「約(およそ)」別の特定の値までとして表すことができる。そのような範囲が表現される場合、別の態様には、1つの特定の値から、又は他の特定の値までを含む。同様に、例えば先行詞「約」の使用によって値が近似値として表現される場合、特定の値は別の態様を形成することが理解されよう。各範囲の端点(上端及び下端)は、他方の端点との関係においても重要であり、かつ他方の端点から独立した意味においても重要であることが理解されよう。
【0031】
本明細書で使用される方向用語(例えば、上、下、右、左、前、後、上、下)は、描かれた図を基準としてのみ使用されるものであり、絶対的な方向を意味することを意図するものではない。
【0032】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上そうでないことが明確に示されない限り、複数の指示対象(referents)を含む。したがって、例えば、「a」を付した構成要素への言及は、文脈上そうでないことが明確に示されない限り、そのような構成要素を2つ以上有する態様を含む。
【0033】
本明細書に記載の「重量パーセント」又は「重量%(wt%)」という用語は、特に断りのない限り、水性バインダ溶液の総量(すなわち、重量)を基準にした水性バインダ溶液の成分の重量分率を指す。
【0034】
本明細書に記載の「沸点」という用語は、特に断りのない限り、1気圧における成分の沸点を指す。
【0035】
本明細書で使用される「非共有結合」とは、第1官能基及び第2官能基が相互作用又は結合などの弱い非共有結合力を介して互いに相互作用し、熱可塑性ポリマー鎖をリンクするか、又は他の方法で結合することを意味する。本明細書で使用するとき、「弱い非共有結合力」という用語は、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力などを示すことを意図している。
【0036】
本明細書で使用される「グリーン体金属部品」及び「グリーン体部品」という語句は、化学バインダを除去するための熱処理を受けていない部品を示す。本明細書で使用される「ブラウン体金属部品」及び「ブラウン体部品」という語句は、化学バインダを除去するために熱処理を受けた部品を示す。本明細書で使用される「金属部品」は、金属材料を有する部品を意味する。金属部品の文脈で種々の態様が説明されているが、本明細書に記載のバインダ溶液は、ポリマー部品及びセラミック部品を含むがこれらに限定されない多種多様な部品に適用可能である。
【0037】
本明細書で使用される「水性(water-based)」という語句は、体積比で水を主な液体として含むが、1種以上の他の液体を含んでいてもよい混合物、溶液、懸濁液、分散液などを含む。したがって、種々のバインダ溶液に使用される溶媒は、大部分が水である。いくつかの態様では、水はバインダ溶液の少なくとも約50体積%の濃度で存在し、特定の態様では水は少なくとも約75体積%の濃度で存在する。本明細書で使用される「水」という用語は、別段の指定がない限り、純水(deionized water)、蒸留水、及び水道水を含む。いくつかの態様では、水は、ASTM D1193のタイプIV以上のグレードの水である。
【0038】
多くのバインダ噴射法による付加製造プロセスでは、化学バインダ(例えば、ポリマー接着剤)を使用して粉末の層を互いに結合して三次元物体を形成する。化学バインダは、例えば、製造される部品の層を表すパターンで粉末床上に選択的に塗布されるポリマー接着剤であってもよい。
【0039】
比較的多量(例えば、20重量%を超える)の非水溶媒を含む従来のバインダ溶液は、粉末の層に浸透するのに比較的長い時間を必要とする場合があり、これは、後続の粉末の層を造形容積内に堆積させることが可能となるまでに必要な時間を増加させる可能性がある。浸透時間が長くなると、付加製造装置のスループットが低下し、ひいては生産性が低下する。
【0040】
浸透時間を短縮するために、非水溶媒の一部を水で置き換えることができる。しかしながら、非水溶媒の量を比較的少量(例えば、4重量%未満)に減少させると、感熱紙上にパターンを形成しない溶液になる可能性がある。
【0041】
上述のように、本明細書に記載の水性バインダ溶液は、熱可塑性バインダ、4重量%以上20重量%以下の非水溶媒(100℃以上175℃以下の沸点を有する)、及び水を含む。非水溶媒を20重量%以下とすることにより、水性バインダ溶液が、従来のバインダ溶液と比較して、相対的に短い浸透時間を有することを確実にする。非水溶媒を4重量%以上とすることにより、水性バインダ溶液が感熱紙上にパターンを形成することを確実にし、これは、散発的な噴出が部品品質の低下をもたらし得るので、プリントヘッドの健全性を監視するために重要である。これらの利点及び追加の利点については、以下でより詳細に説明する。
【0042】
種々の態様では、熱可塑性バインダは、第1のポリマー鎖と、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖のうちの少なくとも一方と、を含むことができる。本明細書で使用される「ポリマー鎖」という用語は、ポリマー骨格(主鎖)及びその上にグラフトされた官能基を含む。いくつかの態様では、熱可塑性バインダは、酸素(O2)の存在を必要とせずに(例えば、真空、不活性又は還元性雰囲気中で)、一般に非常に低い炭化物収率(char yield)で分解する熱可塑性バインダである。したがって、いくつかの態様では、熱可塑性バインダは、焼結中に部品からきれいにかつ容易に除去することができ、熱可塑性バインダと、印刷された金属部品の熱処理中に生成され得る分解生成物(これらに限定される訳ではないが、金属酸化物及び炭化物を含む)とを実質的に含まない圧密化部品(consolidated part)を生成し得る。
【0043】
第1のポリマー鎖は、少なくとも第1の官能基を含み得る。第1の熱可塑性ポリマー鎖の官能基は、これに限定されるものではないが例示として、水素結合ドナー、水素結合アクセプタ、負に荷電した基、及び正に荷電した基のうちの少なくとも1つを含み得る。例えば、様々の態様において、第1の官能基は、ポリマー鎖の骨格(例えば、ビニル骨格、アミド骨格、アクリル骨格など)に組み込まれ得るか、又は骨格にグラフトされ得ると共に、第1の官能基は、ヒドロキシル基、カルボキシレート基、アミン、チオール、アミド、又は、第1のポリマー鎖と第2若しくは第3のポリマー鎖との弱い非共有結合(例えば、水素結合)を可能にする他の適切な官能基から選択され得る。
【0044】
種々の態様では、第1のポリマー鎖は、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、及びこれらの誘導体のうちの少なくとも1つなどのポリマーを含み得るが、これらには限定されない。いくつかの態様では、第1のポリマー鎖は、5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw又は重量平均)を有し得る。例えば、第1のポリマー鎖は、5,000g/mol以上15,000g/mol以下、5,000g/mol以上12,500g/mol以下、7,000g/mol以上15,000g/mol以下、7,000g/mol以上12,500g/mol以下、9,000g/mol以上15,000g/mol以下、又は9,000g/mol以上12,500g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有し得るし、これらの間の任意の範囲及び部分範囲を含み得る。
【0045】
第1のポリマー鎖は、バインダ溶液中に、水性バインダ溶液の総重量を基準として、5重量%以上20重量%以下、5重量%以上18重量%以下、5重量%以上16重量%以下、5重量%以上14重量%以下、5重量%以上12重量%以下、7重量%以上20重量%以下、7重量%以上18重量%以下、7重量%以上16重量%以下、7重量%以上14重量%以下、7重量%以上12重量%以下、9重量%以上20重量%以下、9重量%以上18重量%以下、9重量%以上16重量%以下、9重量%以上14重量%以下、9重量%以上12重量%以下の量で含まれ得るし、これらの間の任意の範囲及び部分範囲を含み得る。
【0046】
熱可塑性バインダは、第1のポリマー鎖に加えて、第2のポリマー鎖、第3のポリマー鎖、又は第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖を含むことができる。第2のポリマー鎖は、少なくとも第2の官能基を含み得る。第2の熱可塑性ポリマー鎖の官能基は、これに限定されるものではないが例示として、水素結合ドナー、水素結合アクセプタ、負に荷電した基、及び正に荷電した基のうちの少なくとも1つを含み得る。いくつかの態様では、第2のポリマー鎖の第2の官能基が、熱可塑性バインダの第1のポリマー鎖の官能基を補完して、第1のポリマー鎖と第2のポリマー鎖との非共有結合を促進することができる。例えば、種々の態様において、第2の官能基は、ポリマー鎖の骨格(例えば、ビニル骨格、アミド骨格、アクリル骨格など)に組み込まれ得るか、又は骨格にグラフトされ得ると共に、第2の官能基は、ヒドロキシル基、カルボキシレート基、アミン、チオール、アミド、又は、第1のポリマー鎖と第2のポリマー鎖との弱い非共有結合(例えば、水素結合)を可能にする他の適切な官能基から選択され得る。
【0047】
種々の態様では、第2のポリマー鎖は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアミド、ポリアクリルアミド(PAAm)、ポリビニルメチルエーテル無水マレイン酸(PVME-MA)、及びこれらの誘導体のうちの少なくとも1つなどのポリマーを含み得るが、これらには限定されない。いくつかの態様では、第2のポリマー鎖は、10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw又は重量平均)を有し得る。例えば、第2のポリマー鎖は、10,000g/mol以上50,000g/mol以下、10,000g/mol以上30,000g/mol以下、10,000g/mol以上25,000g/mol以下、10,000g/mol以上23,000g/mol以下、13,000g/mol以上50,000g/mol以下、13,000g/mol以上30,000g/mol以下、13,000g/mol以上25,000g/mol以下、13,000g/mol以上23,000g/mol以下、23,000g/mol以上50,000g/mol以下、23,000g/mol以上30,000g/mol以下、23,000g/mol以上25,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有し得るし、これらの間の任意の範囲及び部分範囲を含み得る。
【0048】
それが存在する場合、第2のポリマー鎖は、バインダ溶液中に、水性バインダ溶液の総重量を基準として、0.5重量%以上7重量%以下、0.5重量%以上6重量%以下、0.5重量%以上5重量%以下、1重量%以上7重量%以下、1重量%以上6重量%以下、1重量%以上5重量%以下、2重量%以上7重量%以下、2重量%以上6重量%以下、2重量%以上5重量%以下、3重量%以上7重量%以下、3重量%以上6重量%以下、又は3重量%以上5重量%以下の量で含まれ得るし、これらの間の任意の範囲及び部分範囲を含み得る。
【0049】
第3のポリマー鎖は、第1のポリマー鎖の第1の官能基及び第2のポリマー鎖の第2の官能基とは異なる少なくとも第3の官能基を含み得る。第3の熱可塑性ポリマー鎖の官能基は、これに限定されるものではないが例示として、水素結合ドナー、水素結合アクセプタ、負に荷電した基、及び正に荷電した基のうちの少なくとも1つを含み得る。いくつかの態様では、第2のポリマー鎖の第2の官能基及び第3のポリマー鎖の第3の官能基はそれぞれ、熱可塑性バインダの第1のポリマー鎖の第1の官能基を補完して、第1のポリマー鎖と第2のポリマー鎖と第3のポリマー鎖との非共有結合を促進することができる。例えば、種々の態様において、第3の官能基は、ヒドロキシル基、カルボキシレート基、アミン、チオール、アミド、又は、第1のポリマー鎖と第3のポリマー鎖との弱い非共有結合を可能にする他の適切な官能基から選択され得る。
【0050】
種々の態様では、第3のポリマー鎖は、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMAA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、及びこれらの誘導体のうちの少なくとも1つなどのポリマーを含み得るが、これらには限定されない。いくつかの態様では、第3のポリマー鎖は、1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw又は重量平均)を有し得る。例えば、第2のポリマー鎖は、1,000g/mol以上5,000g/mol以下、1,500g/mol以上3,000g/mol以下、又は1,500g/mol以上2,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有し得るし、これらの間の任意の範囲及び部分範囲を含み得る。
【0051】
いくつかの態様では、第3のポリマー鎖として選択される特定のポリマーは、第1のポリマー鎖として選択される特定のポリマーと、それが存在する場合には第2のポリマー鎖として選択される特定のポリマーと、に応じて異なり得る。例えば、第1のポリマー鎖はPVPであり得、第2のポリマー鎖はPVAであり得、第3のポリマー鎖はPAAであり得る。それらの官能基が互いに非共有結合を形成することができるならば、他のポリマーの組み合わせを使用してもよい。例えば、いくつかの態様では、官能基の1つは水素供与体であり、他方の官能基は水素受容体である。
【0052】
それが存在する場合、第3のポリマー鎖は、バインダ溶液中に、水性バインダ溶液の総重量を基準として、0.1重量%以上5重量%以下、0.1重量%以上3重量%以下、0.1重量%以上2重量%以下、0.5重量%以上5重量%以下、0.5重量%以上3重量%以下、0.5重量%以上2重量%以下、1重量%以上5重量%以下、1重量%以上3重量%以下、1重量%以上2重量%以下の量で含まれ得るし、これらの間の任意の範囲及び部分範囲を含み得る。
【0053】
上述のように、いくつかの態様では、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖の一方又は両方が、バインダ溶液中に含まれ得る。例えば、バインダ溶液は、第1のポリマー鎖及び第2のポリマー鎖を含み得、第1のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖を含み得、又は第1のポリマー鎖、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖を含み得る。さらに、種々の態様において、第1のポリマー鎖は、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖の各々とは異なり、第2のポリマー鎖は、第3のポリマー鎖とは異なることを理解されたい。各々のポリマー鎖として選択される特定のポリマーは、他のポリマー鎖として選択される特定のポリマー(複数可)に応じて異なり得る。いくつかの態様では、バインダ溶液は、第1のポリマー鎖としてPVPを、第2のポリマー鎖としてPVAを含み得る。いくつかの態様では、バインダ溶液は、第1のポリマー鎖としてPVPを、第3のポリマー鎖としてPAAを含み得る。いくつかの態様では、バインダ溶液は、第1のポリマー鎖としてPVPを、第2のポリマー鎖としてPVAを、かつ第3のポリマー鎖としてPAAを含み得る。他のポリマー鎖の組み合わせも可能であり、想定されている。
【0054】
いくつかの態様では、熱可塑性バインダのポリマー(例えば、第1のポリマー鎖、第2のポリマー鎖、又は第3のポリマー鎖)は、水性バインダ溶液の総重量を基準として、5重量%以上20重量%以下の総重量で含まれ得る。例えば、ポリマーの総重量は、水性バインダ溶液の総重量を基準にして、5重量%以上20重量%以下、5重量%以上19重量%以下、5重量%以上18重量%以下、10重量%以上20重量%以下、10重量%以上19重量%以下、10重量%以上18重量%以下、12重量%以上20重量%以下、12重量%以上19重量%以下、12重量%以上18重量%以下であってよい。
【0055】
第1のポリマー鎖と第2のポリマー鎖若しくは第3のポリマー鎖とは、第1のポリマー鎖と第2のポリマー鎖若しくは第3のポリマー鎖との間の適切な程度の結合を可能にして、印刷後の処理中の取り扱いに適したグリーン体強度を有するグリーン体部品をもたらすような量で、バインダ溶液中に含まれ得る。加えて、ポリマー鎖は、バインダ溶液が約1センチポアズ(cP)~約40cPの粘度(レオメータによる粘度)を有するような量で含有されていてもよい。いくつかの態様では、バインダ溶液は、2cPから40cPまで、2cPから35cPまで、2cPから30cPまで、2cPから25cPまで、2cPから20cPまで、2cPから15cPまで、2cPから12cPまで、4cPから40cPまで、4cPから35cPまで、4cPから30cPまで、4cPから25cPまで、4cPから20cPまで、4cPから15cPまで、4cPから12cPまで、6cPから40cPまで、6cPから35cPまで、6cPから30cPまで、6cPから25cPまで、6cPから20cPまで、6cPから15cPまで、6cPから12cPまで、8cPから40cPまで、8cPから35cPまで、8cPから30cPまで、8cPから25cPまで、8cPから20cPまで、8cPから15cPまで、8cPから12cPまでの粘度を有し得るし、これらの間の任意の範囲及び部分範囲を含み得る。
【0056】
バインダ溶液は、熱可塑性バインダに加えて、バインダ媒体を含む。バインダ媒体は、例えば、少なくとも1種の水と、1種以上の非水溶媒とを含み得る。いくつかの態様では、水性バインダ溶液は、1気圧で100℃より高く175℃以下の沸点を有する非水溶媒を含み得る。非水溶媒は一般に、粉末材料、熱可塑性バインダ、又は水性バインダ溶液中に含まれ得る他の添加剤と反応しないように、非反応性(例えば、不活性)であり得る。いくつかの態様では、非水溶媒は、ポリマー鎖のための溶媒であることに加えて、湿潤剤として作用することができ、バインダ媒体中の水の蒸発を遅らせ、その結果、堆積の信頼性を維持し得ると共に、印刷中のフラッシュ硬化(flash curing)のリスクを低減し得る。非水溶媒は、これに限定されるものではないが例示として、2-メトキシエタノール、ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、2-ブトキシエタノール、及びジ(プロピレングリコール)ジメチルエーテルのうちの少なくとも1つであってもよい。種々の態様において、非水溶媒は、2-ブトキシエタノール及びジ(プロピレングリコール)ジメチルエーテルのうちの少なくとも1つであってもよい。特定の非水溶媒は、熱可塑性バインダのポリマー鎖、及び水性バインダ溶液中に含まれ得る任意の他の添加剤に少なくとも部分的に基づいて選択され得る。
【0057】
100℃を超える沸点を有する非水溶媒の使用を制限することにより、水性バインダ溶液の蒸気圧を増加させると共に、水性バインダ溶液の粘度及び浸透特性を維持しながら、必要な硬化エネルギーを低減することができると考えられる。しかしながら、175℃を超える沸点を有する溶媒は一般に、後硬化時間(post-curing time)を最大で50%まで増加させることが分かつた。したがって、種々の態様では、非水溶媒は、100℃より高く175℃以下、125℃より高く175℃以下、150℃より高く175℃以下、又は165℃より高く175℃以下の沸点を有し得るし、これらの間の任意の範囲及び部分範囲を含み得る。さらに、いくつかの態様では、水性バインダ溶液は、1気圧において200℃より高い沸点、195℃より高い沸点、190℃より高い沸点、185℃より高い沸点、180℃より高い沸点、又は175℃より高い沸点を有する溶媒を含まない。
【0058】
非水溶媒の量を(例えば、20重量%以下に)制限することにより、水性バインダ溶液が、従来のバインダ溶液と比較して相対的に短い浸透時間を有することが保証される。しかしながら、非水溶媒は、感熱紙上にパターンを形成する量(例えば、4重量%以上)で含まれるべきであり、プリントヘッドの健全性を監視することを可能にする。したがって、いくつかの態様において、非水溶媒は、水性バインダ溶液中に、水性バインダ溶液の総重量を基準にして4重量%以上20重量%以下の量で含まれ得る。例えば、非水溶媒は、水性バインダ溶液中に、4重量%以上20重量%以下、4重量%以上18重量%以下、4重量%以上16重量%以下、4重量%以上14重量%以下、4重量%以上12重量%以下、6重量%以上20重量%以下、6重量%以上18重量%以下、6重量%以上16重量%以下、6重量%以上14重量%以下、6重量%以上12重量%以下、8重量%以上20重量%以下、8重量%以上18重量%以下、8重量%以上16重量%以下、8重量%以上14重量%以下、8重量%以上12重量%以下、10重量%以上20重量%以下、10重量%以上18重量%以下、10重量%以上16重量%以下、10重量%以上14重量%以下、10重量%以上12重量%以下の量で含まれ得るし、これらの間の任意の範囲及び部分範囲を含み得る。
【0059】
いくつかの態様では、非水溶媒は、2-ブトキシエタノール及びジ(プロピレングリコール)ジメチルエーテルのうちの少なくとも一方を含むことができると共に、非水溶媒は、水性バインダ溶液中に、水性バインダ溶液の総重量を基準にして、4重量%以上20重量%以下、4重量%以上18重量%以下、4重量%以上16重量%以下、4重量%以上14重量%以下、又は4重量%以上12重量%以下の量で含まれ得る。
【0060】
いくつかの態様では、非水溶媒は、2-メトキシエタノール及び2-エトキシエタノールのうちの少なくとも一方を含むことができると共に、非水溶媒は、水性バインダ溶液中に、水性バインダ溶液の総重量を基準にして、10重量%以上20重量%以下、10重量%以上18重量%以下、10重量%以上16重量%以下、10重量%以上14重量%以下、又は10重量%以上12重量%以下の量で含まれ得る。
【0061】
いくつかの態様では、水性バインダ溶液は、任意選択で、熱可塑性バインダの粉末材料への塗布を促進し、粉末材料の濡れ性を改善し、水性バインダ溶液の表面張力を改良し得る添加剤などの、1種以上の添加剤を含み得る。任意の添加剤としては、界面活性剤、希釈剤、粘度調整剤、分散剤、安定剤、染料若しくは他の着色剤、又は当該技術分野で公知であり、使用されている他の添加剤が挙げられる。いくつかの態様では、水性バインダ溶液は、少なくとも1種の界面活性剤を含む。
【0062】
いくつかの態様では、界面活性剤は、濡れ速度を改善し、熱可塑性バインダと粉末との間の相互作用を媒介する。水性バインダ溶液中での使用に適した界面活性剤は、熱可塑性バインダ又は粉末材料の特性に応じて、イオン性(例えば、双イオン性、カチオン性、又はアニオン性)界面活性剤、又は非イオン性界面活性剤を含むことができる。種々の態様において、界面活性剤は、2-[4-(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)フェノキシ]エタノール(例えば、ダウ ケミカル社から入手可能な「TRITON(登録商標)X-100」)、ポリオキシエチレン(80)ソルビタンモノオレエート(例えば、クローダアメリカ社から入手可能な「TWEEN(登録商標)80」)、ポリオキシエチレン-23-ラウリルエーテル(例えば、クローダ アメリカ社から入手可能な「BRIJ(登録商標)L23」)、アルキレンオキシド共重合体(例えば、クローダ アドバンスド マテリアル社から入手可能な「HYPERMER(登録商標)KD2」)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)、及び臭化ドデシルトリメチルアンモニウム(DTAB)、ポリプロポキシ第4級アンモニウムクロライド(例えば、エボニック インダストリーズ社から入手可能な「VARIQUAT(登録商標)CC42NS」)のうちの少なくとも1つであり得る。
【0063】
バインダ溶液中に界面活性剤を含有させることにより、バインダ溶液の表面張力が低下し、これによりバインダ溶液による粉末材料の濡れ性が向上する可能性があると考えられる。したがって、いくつかの態様では、界面活性剤は、バインダ溶液中に、バインダ溶液の総重量を基準にして、0.1重量%以上かつ2重量%以下、0.1重量%以上かつ1重量%以下、0.25重量%以上かつ2重量%以下、又は0.25重量%以上かつ1重量%以下の量で含まれ得るし、その中に含まれる任意の範囲及び部分範囲を含み得る。
【0064】
種々の態様において、バインダ媒体は水を含んでもよいし、水は、種々の態様において、溶液の残部(balance)を構成し得る。種々の態様において、水は、バインダ溶液の総重量を基準にして、70重量%以上、75重量%以上、80重量%以上、又は85重量%以上の量で存在し得る。
【0065】
さらに、種々の態様では、本明細書に記載の水性バインダ溶液を使用して形成されたグリーン体部品は、x方向及びy方向の各印刷方向において、10MPa以上のグリーン体強度を示し得る。本明細書で使用される「x方向」とは、x軸に沿った最大の寸法(例えば、長さ)を有する部分を指し、「y方向」とはy軸に沿った最大の寸法(例えば、長さ)を有する部分を指す。本明細書で使用される「x軸」とは、特に指定しない限り、
図2に示すように、グリーン体部品が製造される造形プレートに対してプリントヘッドが移動する方向である。本明細書で使用される「y軸」とは、グリーン体部品の各層がx-y平面内に位置するように、x軸に垂直な方向(
図2に示す)である。「z軸」は、
図2に示すように、x-y平面に垂直な軸であり、層はz軸に沿って互いに積層される。例えば、グリーン体部品は、3点曲げ試験に従って測定して、10MPa以上かつ25MPa以下、10MPa以上かつ20MPa以下、12MPa以上かつ25MPa以下、又は12MPa以上かつ20MPa以下のグリーン体強度を示し得る。
【0066】
図1は、本明細書に記載の水性バインダ溶液を用いて、付加製造によって物品を製造するための方法100の一態様を示すブロック図である。方法100の態様の説明を容易にするために、方法100を実行するために使用され得る付加製造装置200の一態様を示すブロック図である
図2を参照する。
【0067】
図1に示すように、方法100は、部品を製造するために使用される粉末材料202の層を堆積させることから始まる(ブロック102)。種々の態様では、粉末材料202の層を、付加製造装置の作業面204上に堆積させる。粉末材料は、ニッケル合金、コバルト合金、コバルトクロム合金、鋳造合金、チタン合金、アルミニウム系材料、タングステン、ステンレス鋼などの金属粉末とすることができる。特定の態様に応じて、他の粉末材料が使用されてもよい。
【0068】
次に、方法100は、水性バインダ溶液206を、部品の構造を表すパターンで粉末材料202の層に選択的に塗布することを続ける(ブロック104)。バインダ溶液206は、例えば、本明細書に記載のバインダ溶液の種々の態様のうちのいずれか1つであってもよい。種々の態様では、バインダ溶液206は、印刷される部品の層の表現を含むCAD設計に基づいてコントローラ210によって動作されるプリントヘッド208を使用して選択的に印刷されてもよい。
【0069】
種々の態様では、プリントヘッド208を制御するためのコントローラ210は、分散制御システム、又は、汎用コンピュータ若しくは特定用途向けデバイスを採用する任意の適切なデバイスを含むことができる。コントローラ210は一般に、プリントヘッド208の動作を制御するための1つ以上の命令を記憶するメモリ212を含むことができる。いくつかの態様では、メモリ212は、製造される部品の構造を表すCAD設計を記憶することができる。いくつかの態様では、CAD設計は歪み補償を含む場合があり、したがって、CAD設計は最終的な所望の部品の幾何学的形状と正確に一致しない場合がある。さらに、コントローラ210は、少なくとも1つのプロセッサ214(たとえば、マイクロプロセッサ)を含むことができ、メモリ212は、本明細書で説明する動作を制御するためにプロセッサ214によって実行可能な命令をまとめて記憶する1つ以上の有形で非一時的な機械可読媒体を含むことができる。
【0070】
バインダ溶液206が粉末材料202の層に選択的に塗布された後、バインダ溶液206中の熱可塑性バインダ216が、粉末粒子の外表面を少なくとも部分的に被覆し、それによってバインダ被覆粒子218を生成する。後述するように、熱可塑性バインダ216は、粉末材料202の層に印刷されたバインダ溶液206のパターンに従ってバインダ被覆粒子218を結合して、グリーン体部品の層を形成する。
【0071】
方法100は、所望の数の層が印刷されるまで、粉末材料の層を堆積させる工程(ブロック102)と、バインダ溶液206を粉末材料の層に選択的に塗布する工程(ブロック104)とを繰り返して、層毎に部品を造形し続けることができる。バインダ溶液206の熱可塑性バインダ216は、連続する各層を結合し、印刷後の処理(例えば、搬送、検査、又は粉末除去(depowdering))中にグリーン体部品の構造の一体性が維持されるように、グリーン体部品にある程度の強度(例えば、グリーン体強度)を提供する。すなわち、バインダ溶液206の熱可塑性バインダ216によって提供されるグリーン体強度は、層内の粉末材料202の粒子間の結合を維持し、グリーン体部品の処理中及び印刷後の処理中に層の剥離を妨げる(例えば、抵抗する、又は防止する)。
【0072】
種々の態様では、方法100は、熱可塑性バインダを硬化させることを続ける(ブロック106)。例えば、上述したように、バインダ溶液206は、熱可塑性バインダ216と少なくとも1つの溶媒との混合物であってもよい。種々の態様では、熱可塑性バインダ216の第1のポリマー鎖220及び第2のポリマー鎖222は、それぞれ、第1のポリマー鎖の第1の官能基と、第2のポリマー鎖の第2の官能基との間の相互作用を介して互いに結合されていてもよい。
図1に示す態様は、第1のポリマー鎖220及び第2のポリマー鎖222を参照しているが、他のポリマー鎖(例えば、第3のポリマー鎖)も、それが存在する場合、熱可塑性バインダ216中の他のポリマー鎖と相互作用することができる。
【0073】
バインダ溶液206中の溶媒の一部は、バインダ溶液206の塗布(例えば、印刷)中に蒸発させ得るが、一定量の溶媒が粉末材料202の層内に残留する可能性がある。したがって、いくつかの態様では、バインダ溶液206は、溶媒を蒸発させ、印刷された層の効率的な結合を可能にし、それによってグリーン体部品を形成するのに適した温度で熱硬化させることができる。熱は、赤外線(IR)ランプ又は加熱プレートを使用してグリーン体部品に加えられてもよく、又はグリーン体部品をオーブン内に配置することによって加えられてもよい。
【0074】
未結合粒子(例えば、バインダ溶液206によって結合されていない粉末材料)は、ブロック106の硬化工程の前又は後に粉末層から除去されて、バインダ除去(debinding)及び焼結などの後処理工程のためのグリーン体部品を作製することができる。
【0075】
図1に示す態様では、方法100は、熱可塑性バインダの一部分をグリーン体部品から除去(例えば、バインダ除去)して、ブラウン体部品を生成することを含む(ブロック108)。種々の態様では、バインダがグリーン体部品に強度(例えば、グリーン体強度)を提供し、焼結前に得られるブラウン体部品の取り扱い強度を改善するために、熱可塑性バインダの一部(すなわち、全部より少ない部分)だけが、グリーン体部品のバインダ除去中に除去される。
【0076】
ブロック108におけるバインダ除去の間、グリーン体部品は、熱可塑性バインダ216のポリマー鎖の一部を切断するために加熱される。例えば、グリーン体部品は、約600℃以下、又は約450℃以下の温度に加熱されてもよい。いくつかの態様では、グリーン体部品は250℃~450℃の温度に加熱される。加熱は、例えば、酸素を含まない環境(例えば、真空、不活性雰囲気、又は両方の組み合わせ)で、又はセラミック部品の焼結の場合は空気中で行うことができる。バインダ除去が不活性雰囲気中で行われる態様では、アルゴン、窒素、又は別の実質的に不活性なガスを使用することができる。いくつかの態様では、最終的な圧密化部品を作製するために、バインダ除去工程が焼結工程と組み合わされてもよい。
【0077】
種々の態様によれば、ブロック108のバインダ除去工程は、熱可塑性バインダ216の約95%より多くを除去するのに有効であり得る。例えば、熱可塑性バインダの総量の95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上が、バインダ除去中に除去される。いくつかの態様では、ブラウン体部品に残留する熱可塑性バインダ216の部分は、バインダ除去工程の前に存在した熱可塑性バインダの量の5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、又は1%以下である。いくつかの態様では、ブラウン体部品に残留する熱可塑性バインダ216の部分は、バインダ除去工程の前に存在しかつ焼結処理後の段階(例えば、ステンレス鋼、ニッケル合金などについてブロック110に従って説明されるように、600℃を超えて、より高い焼結温度に至る)で除去される熱可塑性バインダの量の0.05%から2%まで、又は0.1%から1%までの範囲である。
【0078】
ブロック108におけるバインダ除去に続いて、方法100は、ブラウン体部品を焼結して圧密化部品を形成することを続ける(ブロック110)。焼結の間、熱可塑性バインダの残りの部分(例えば、バインダ除去の間に形成されたオリゴマー)は、ブラウン体部品から除去されてもよく、金属粉末の粒子は圧密化されて圧密化部品を形成することができる。冷却後に、圧密化部品が例えば機械での使用に適したものとなり得るように、焼結によりブラウン体部品に強度及び一体性が付与される。
【0079】
いくつかの態様では、焼結は、熱可塑性バインダの残部が除去される予備焼結工程と、金属粉末粒子が圧密化される焼結工程とを含む2段階プロセスに従って実施されてもよい。いくつかの態様では、焼結は単一工程として実施されてもよい。焼結中、ブラウン体部品は、500℃より高い温度、800℃より高い温度、又は1000℃より高い温度に加熱されてもよい。いくつかの態様では、熱は、特定の態様に応じて、ブラウン体部品を炉内に配置することによって、又はブラウン体部品をレーザビーム、電子ビーム、又は別の適切なエネルギー源などの集中エネルギー源に曝露することによって加えられてもよい。
【0080】
本明細書で説明されるように、散発的な噴射は部品品質の低下に繋がる可能性があるので、プリントヘッドの健全性を監視することは重要である。
図3は、本明細書に記載の水性バインダ溶液を使用して付加製造プロセスのプリントヘッドを監視するための方法300の態様を示すブロック図である。方法300の態様の説明を容易にするために、方法300を実行するために使用され得る
図1に示される付加製造装置200を示すブロック図である
図4を参照する。
【0081】
図3に示すように、方法300は、積層造形装置200の作業面204上に感熱紙400を配置することから始まる(ブロック302)。感熱紙400は、特定の溶液と接触すると色が変化する顕色剤化合物を含有する材料で被覆されている。方法300において使用され得る適切な感熱紙の市販例としては、Gorilla Supply(登録商標)感熱紙、POS感熱紙、Methdic感熱紙、Alliance Supply感熱紙が挙げられる。
【0082】
次に、方法300は、ブロック304で、感熱紙400上に水性バインダ溶液206を塗布することを続ける。バインダ溶液206は、例えば、本明細書に記載のバインダ溶液の種々の態様のうちのいずれか1つであってもよい。いくつかの態様では、バインダ溶液206は、プリントヘッドの健全性(例えば、ノズルの清浄度)の評価を可能にする設計に基づいてコントローラ410によって動作されるプリントヘッド208を使用して選択的に印刷されてもよい。
【0083】
方法300は、ブロック306で、バインダ溶液206を感熱紙400上で室温において一定時間(例えば、10分間)乾燥させることを続ける。
【0084】
方法300は、ブロック308で、プリントヘッド208の健全性を判定するために感熱紙を評価することを続ける。例えば、散発的パターン、又は意図された設計と整合しないパターンは、さらに評価される必要があり得るプリントヘッド問題(例えば、ノズル詰まり)を示す場合がある。一般に、プリントヘッドには、数回のクリーニングサイクルが与えられ、ロバストな噴射及び本来のパターン形成を可能にする。
【0085】
本明細書で説明される種々の態様が方法100及び300を参照して説明されるが、本明細書で説明される水性バインダ溶液の態様は、当業者によって知られ、使用されている種々の方法と共に使用され得ることを理解されたい。特に、硬化及び焼結は、多数の異なる方法、多数の異なる工程、及び多数の異なる場所で達成され得る。
【実施例0086】
以下の実施例は、種々の態様を説明するために提供されるが、特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。特に指定しない限り、すべての部及びパーセンテージは重量によるものである。おおよその物性、特性、パラメータ等が、種々の実施例、比較例、並びに実施例及び比較例で使用した材料に関して以下に提供される。
【0087】
6つの実施例の水性バインダ溶液(サンプル1~6)及び2つの比較例の水性バインダ溶液(比較サンプルA及びB)が、水及び少なくとも1つの追加の共溶媒中で1つ以上のポリマー鎖の形態の熱可塑性バインダを混合することによって調製された。すべての配合物(比較サンプルA及びBとサンプル1~6)は、主な溶媒として水を含んでいた。比較サンプルA及びサンプル1~3は、非水溶媒である2-ブトキシエタノールを含み、2-ブトキシエタノールは、1気圧における171℃の沸点、及び0. 8mmHgの蒸気圧を有している。比較サンプルB及びサンプル4~6は、非水溶媒であるジ(プロピレングリコール)ジメチルエーテル(DPGDME)を含み、DPGDMEは、1気圧における175℃の沸点、及び0. 6mmHgの蒸気圧を有している。すべての配合物(比較サンプルA及びBとサンプル1~6)は、第1のポリマー鎖としてポリビニルピロリドン(PVP)を含み、第2のポリマー鎖としてポリ(ビニルアルコール)(PVA)を含み、第3のポリマー鎖としてポリ(アクリル酸)(PAA)を含んでいた。また、すべての配合物(比較サンプルA及びBとサンプル1~6)は、界面活性剤であるトリトン-X(Triton-X)と、KD-2とを含んでいた。比較サンプルA及びBとサンプル1~6の各々についての配合を、以下の表1に示す。
【0088】
【表1】
浸透速度を評価するために、Praxair Truform 316-L00の粉末をペトリ皿に堆積させ、AutoTapタップ密度分析器を使用して、粉末を含むペトリ皿を表面から約0. 5~1インチの位置で332回繰り返しタップダウンすることによって、サンプルを調製した。各サンプルについて、3滴のバインダ溶液の20μLの液滴が、粉末床上に分注され、ビデオを用いて観察されるか、又はストップウォッチを用いて時間が計測された。液滴の浸透時間は、バインダ溶液が最初に接触してから、光沢が消失するまで計測された。浸透時間(秒)を表1に報告する。
【0089】
円形のシリコーン型(4cm×0.45cm)に金属粉末を充填し、バインダを加えてウェットブロックを作製することによって、グリーン体サンプルを調製した。サンプルを、通常のオーブン中で200℃又は170℃で1時間硬化させた。冷却後、サンプルブロックを型から取り出し、さらなる研究に使用した。インストロン社製の3点試験機を用いて、グリーン体強度を測定した。グリーン体強度を表1に報告する。
【0090】
表1に示すように、それぞれ4重量%、6重量%、及び8重量%の2-ブトキシエタノールを含むサンプル1~3は、2重量%の2-ブトキシエタノールを含む比較サンプルAと比較して同程度の浸透時間を有していた。それぞれ4重量%、6重量%、及び8重量%のDPGDMEを含むサンプル4~6は、2重量%のDPGDMEを含む比較サンプルBと比較して同程度の浸透時間を有していた。
【0091】
ここで、
図5~
図12を参照すると、40μLの比較サンプルA及びB(CA及びCBとして示される)と、サンプル1~6(S1~S6として示される)とを、毛細管に引き込み、「X」パターンで感熱紙上に塗布して、10分間乾燥させた。図示するように、サンプル1~6の、それぞれ4重量%、6重量%、又は8重量%の非水溶媒を有する配合物は、感熱パターン上にパターンを形成した。比較サンプルA及びBは、感熱紙を濡らしただけであり、感熱紙上にパターンを形成しなかつた。
【0092】
表1及び
図5~
図12によって例示されるように、4重量%~20重量%の非水溶媒を含む水性バインダ溶液は、4重量%未満の非水溶媒を含む水性バインダ溶液と比較して同等の浸透時間を有し、感熱紙上にパターンを形成する。
【0093】
本開示の態様の追加の態様は、以下の付記の主題によって提供される。
【0094】
(付記1)
付加製造に使用するための水性バインダ溶液であって、
5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖と、
10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖及び1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖の少なくとも一方と、
100°以上175℃以下の沸点を有し、前記水性バインダ溶液の総重量を基準として4重量%以上20重量%以下の非水溶媒と、
水と、を含み、
前記第1のポリマー鎖は、前記第2のポリマー鎖及び前記第3のポリマー鎖の各々とは異なり、前記第2のポリマー鎖は、前記第3のポリマー鎖とは異なる、
水性バインダ溶液。
【0095】
(付記2)
前記非水溶媒が、前記水性バインダ溶液の総重量を基準として6重量%以上18重量%未満の量で前記水性バインダ溶液中に存在する、付記1に記載の水性バインダ溶液。
【0096】
(付記3)
前記非水溶媒が、2-メトキシエタノール、ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、2-ブトキシエタノール、及びジ(プロピレングリコール)ジメチルエーテルのうちの少なくとも1種を含む、付記1又は付記2に記載の水性バインダ溶液。
【0097】
(付記4)
前記第1のポリマー鎖が、ポリビニルピロリドン(PVP)及びポリビニルアルコール(PVA)の少なくとも一方を含む、付記1~付記3のいずれかに記載の水性バインダ溶液。
【0098】
(付記5)
前記第1のポリマー鎖が、前記水性バインダ溶液の総重量を基準として5重量%以上20重量%以下の量で存在する、付記1~付記4のいずれかに記載の水性バインダ溶液。
【0099】
(付記6)
前記熱可塑性バインダが、前記第2のポリマー鎖を、前記水性バインダ溶液の総重量を基準として0.5重量%以上7重量%以下の量で含む、付記1~付記5のいずれかに記載の水性バインダ溶液。
【0100】
(付記7)
前記熱可塑性バインダが、前記第3のポリマー鎖を、前記水性バインダ溶液の総重量を基準として0.1重量%以上5重量%以下の量で含む、付記1~付記6のいずれかに記載の水性バインダ溶液。
【0101】
(付記8)
前記第2のポリマー鎖が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、ポリビニルメチルエーテル無水マレイン酸(PVME-MA)、及びそれらの誘導体のうちの少なくとも1種を含む、付記1~付記7のいずれかに記載の水性バインダ溶液。
【0102】
(付記9)
前記第3のポリマー鎖が、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、及びそれらの誘導体を含む、付記1~付記8のいずれかに記載の水性バインダ溶液。
【0103】
(付記10)
前記水性バインダ溶液が、前記水性バインダ溶液の総重量を基準として0. 1重量%以上2重量%以下の界面活性剤をさらに含む、付記1~付記9のいずれかに記載の水性バインダ溶液。
【0104】
(付記11)
前記水性バインダ溶液中に存在するポリマーの総重量が、前記水性バインダ溶液の総重量を基準として5重量%以上20重量%以下である、付記1~付記10のいずれかに記載の水性バインダ溶液。
【0105】
(付記12)
付加製造プロセスのプリントヘッドを監視する方法であって、
感熱紙を作業面上に配置することと、
前記感熱紙上に水性バインダ溶液を塗布することと、を含み、
前記水性バインダ溶液は、100°以上175℃以下の沸点を有し、前記水性バインダ溶液の総重量を基準として4重量%以上20重量%以下の非水溶媒と、熱可塑性バインダと、を含み、
前記熱可塑性バインダは、
5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖と、
10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖及び1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖の少なくとも一方と、を含み、
前記第1のポリマー鎖は、前記第2のポリマー鎖及び前記第3のポリマー鎖の各々とは異なり、前記第2のポリマー鎖は、前記第3のポリマー鎖とは異なる、
方法。
【0106】
(付記13)
前記非水溶媒が、前記水性バインダ溶液中に、前記水性バインダ溶液の総重量を基準として6重量%以上18重量%未満の量で存在する、付記12に記載の方法。
【0107】
(付記14)
前記非水溶媒が、2-メトキシエタノール、ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、2-ブトキシエタノール、及びジ(プロピレングリコール)ジメチルエーテルのうちの少なくとも1種を含む、付記12又は付記13に記載の方法。
【0108】
(付記15)
前記第1のポリマー鎖が、ポリビニルピロリドン(PVP)及びポリビニルアルコール(PVA)の少なくとも一方を含む、付記12~付記14のいずれかに記載の方法。
【0109】
(付記16)
前記第1のポリマー鎖が、前記水性バインダ溶液の総重量を基準として5重量%以上20重量%以下の量で存在する、付記12~付記15のいずれかに記載の方法。
【0110】
(付記17)
前記熱可塑性バインダが、前記第2のポリマー鎖を、前記水性バインダ溶液の総重量を基準として0.5重量%以上7重量%以下の量で含む、付記12~付記16のいずれかに記載の方法。
【0111】
(付記18)
前記熱可塑性バインダが、前記第3のポリマー鎖を、前記水性バインダ溶液の総重量を基準として0.1重量%以上5重量%以下の量で含む、付記12~付記17のいずれかに記載の方法。
【0112】
(付記19)
前記水性バインダ溶液中に存在するポリマーの総重量が、前記水性バインダ溶液の総重量を基準として5重量%以上20重量%以下である、付記12~付記18のいずれかに記載の方法。
【0113】
(付記20)
付加製造の方法であって、
作業面上に粉末の層を堆積させることと、
熱可塑性バインダと、100℃以上175℃以下の沸点を有し、水性バインダ溶液の総重量を基準として4重量%以上20重量%以下の非水溶媒と、を含む水性バインダ溶液を、部品の構造を表すパターンで前記粉末の層に選択的に塗布することであって、
前記熱可塑性バインダが、
5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖と、
10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖及び1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖の少なくとも一方と、
100°以上175℃以下の沸点を有し、前記水性バインダ溶液の総重量を基準として4重量%以上20重量%以下の非水溶媒と、
水と、を含み、
前記第1のポリマー鎖は、前記第2のポリマー鎖及び前記第3のポリマー鎖の各々とは異なり、前記第2のポリマー鎖は、前記第3のポリマー鎖とは異なる、前記水性バインダ溶液を選択的に塗布することと、
前記第1のポリマー鎖を、前記第2のポリマー鎖及び前記第3のポリマー鎖の少なくとも一方と結合させて、グリーン体部品を形成することと、を含む方法。
【0114】
本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本開示の態様に様々な修正及び変形を行うことが可能であることが、当業者には明らかであろう。したがって、本開示は、それらが添付の特許請求の範囲及びそれらの均等物の範囲内に入ることを条件として、そのような修正及び変形を包含することが意図される。
前記非水溶媒が、前記水性バインダ溶液(206)の総重量を基準として6重量%以上18重量%未満の量で前記水性バインダ溶液(206)中に存在する、請求項1に記載の水性バインダ溶液(206)。
前記非水溶媒が、2-メトキシエタノール、ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、2-ブトキシエタノール、及びジ(プロピレングリコール)ジメチルエーテルのうちの少なくとも1種を含む、請求項1又は請求項2に記載の水性バインダ溶液(206)。
前記第1のポリマー鎖(220)が、前記水性バインダ溶液(206)の総重量を基準として5重量%以上20重量%以下の量で存在する、請求項4に記載の水性バインダ溶液(206)。
前記熱可塑性バインダ(216)が、前記第2のポリマー鎖(222)を、前記水性バインダ溶液(206)の総重量を基準として0.5重量%以上7重量%以下の量で含む、請求項1に記載の水性バインダ溶液(206)。
前記熱可塑性バインダ(216)が、前記第3のポリマー鎖を、前記水性バインダ溶液(206)の総重量を基準として0.1重量%以上5重量%以下の量で含む、請求項6に記載の水性バインダ溶液(206)。
前記非水溶媒が、2-メトキシエタノール、ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、2-ブトキシエタノール、及びジ(プロピレングリコール)ジメチルエーテルのうちの少なくとも1種を含む、請求項8に記載の方法(300)。
前記第1のポリマー鎖(220)が、ポリビニルピロリドン(PVP)及びポリビニルアルコール(PVA)の少なくとも一方を含む、請求項8又は請求項9に記載の方法(300)。