(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002021
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】イオン化装置及びイオン化方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/16 20060101AFI20231228BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20231228BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
H01J49/16 500
G01N27/62 G
H01J49/04 770
H01J49/04 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100956
(22)【出願日】2022-06-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り https://www.an.shimadzu.co.jp/lcms/lcms2050/index.htm、令和4年3月3日 〔刊行物等〕 https://www.shimadzu.com/news/6fy4g2cuyh3-l0_p.html、https://www.shimadzu.com/an/products/liquid-chromatograph-mass-spectrometry/single-quadrupole-lc-ms/lcms-2050/index.html、令和4年6月1日 〔刊行物等〕 https://nowevents.online/shimadzu-massspec/、令和4年6月1日 〔刊行物等〕 島津サイエンス西日本株式会社、令和4年6月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯 圭祐
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041GA17
2G041GA20
2G041GA27
(57)【要約】
【課題】イオン化プローブから噴霧される液体試料に対して加熱ガス供給機構からガスを吹き付けて脱溶媒を促進することにより試料に成分をイオン化するイオン化装置において加熱ガス供給機構の汚染を防止する。
【解決手段】イオン導入口113が設けられた隔壁で分析室12、13、14と隔てられたイオン化室11に配置されるイオン化装置において、液体試料を噴霧するイオン化プローブ111と、ガス供給源と該ガス供給源から供給されるガスを加熱するための加熱部とを有しイオン化プローブ111から液体試料が噴霧される方向と交差する方向に加熱部1122を通過したガスを吹き付ける加熱ガス供給機構112と、イオン化プローブ111に液体試料が導入されている間、使用者による操作の有無に関わらず加熱ガス供給機構112からガスを吹き付け続けるように加熱ガス供給機構112を制御する制御部32とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン導入口が設けられた隔壁によって分析室と隔てられたイオン化室に配置されるイオン化装置であって、
液体試料を噴霧するイオン化プローブと、
ガス供給源と、該ガス供給源から供給されるガスを加熱するための加熱部とを有し、前記イオン化プローブから前記液体試料が噴霧される方向と交差する方向に前記ガスを吹き付ける加熱ガス供給機構と、
前記イオン化プローブから前記液体試料が噴霧されている間、使用者による操作の有無に関わらず前記加熱ガス供給機構から前記ガスを吹き付け続けるように該加熱ガス供給機構の動作を制御する制御部と
を備えるイオン化装置。
【請求項2】
前記加熱ガス供給機構は、前記ガス供給源から供給されるガスを前記加熱部により加熱して吹き付ける加熱動作と、前記ガス供給源から供給されるガスを前記加熱部により加熱することなく吹き付ける非加熱動作を実行可能である、請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項3】
前記イオン化プローブは、前記液体試料を噴霧するためのネブライザガスを供給するネブライザガス供給部を備え、
前記制御部は、前記ネブライザガス供給機構の動作と同期させて前記加熱ガス供給機構の動作を制御する、請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記液体試料の測定が実行されている測定時間帯に所定の測定時流量で前記加熱ガス供給機構から前記ガスを吹き付け、前記液体試料の測定が実行されていない待機時間帯に前記測定時流量よりも低い待機時流量で前記加熱ガス供給機構から前記ガスを吹き付ける、請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項5】
さらに、
前記イオン導入口に流入するイオン流と対向する方向にガスを吹き付ける乾燥ガス供給機構
を備える、請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記乾燥ガス供給機構から前記ガスが吹き付けられている場合に所定の第1流量で前記加熱ガス供給機構から前記ガスを吹き付け、前記乾燥ガス供給機構から前記ガスが吹き付けられていない場合に前記第1流量よりも低い第2流量で前記加熱ガス供給機構から前記ガスを吹き付ける、請求項5に記載のイオン化装置。
【請求項7】
イオン導入口が設けられた隔壁によって分析室と隔てられたイオン化室において液体試料をイオン化する方法であって、
イオン化プローブに前記液体試料を導入して噴霧する工程と、
ガス供給源と、該ガス供給源から供給されるガスを加熱するための加熱部とを有し、前記イオン化プローブとは別に設けられた加熱ガス供給機構から、使用者による操作の有無に関わらず前記イオン化プローブから前記液体試料が噴霧される方向と交差する方向に前記ガスを吹き付け続ける工程と
を含むイオン化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料をイオン化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料に含まれる目的成分を測定するために、液体クロマトグラフ質量分析装置が用いられている。液体クロマトグラフ質量分析装置を用いた目的成分の測定では、液体クロマトグラフに液体試料を導入し、該液体クロマトグラフのカラムで目的成分を分離したあと、質量分析装置に導入する。質量分析装置では、例えばエレクトロスプレーイオン化(ESI: ElectroSpray Ionization)源により液体試料に含まれる目的成分をイオン化し、生成したイオンを質量電荷比に応じて分離し検出する。
【0003】
ESI源は、液体試料が流通するキャピラリと、該キャピラリの外周に設けられたネブライザガス流路を有するESIプローブを備えている。ESIプローブでは、キャピラリ内を流通する液体試料を帯電させてESIプローブの先端まで輸送し、該先端でネブライザガスを吹き付けることにより、液体試料を帯電液滴としてイオン化室内に噴霧する。イオン化室内に噴霧された帯電液滴は、溶媒の蒸発(脱溶媒)に伴い表面電場が増加して電荷同士の反発によって分裂するという過程を繰り返して微細化し、最終的にイオン化する。イオン化室で生成されたイオンは、略大気圧であるイオン化室と、その後段に位置する真空室である質量分析室の圧力差により、イオン化室と質量分析室の隔壁に設けられたイオン導入口から質量分析室に引き込まれる。特許文献1及び2には、こうしたイオン化の過程で脱溶媒を促進するために、ESIプローブに加えて、該ESIプローブから噴霧される帯電液滴に対して加熱ガスを吹き付ける、加熱ガス供給機構を備えたイオン化装置が記載されている。こうしたイオン化装置では、使用者が、液体試料の特性に応じて適宜、加熱ガスを吹き付けるタイミングを設定することにより、イオン化しづらい試料成分の脱溶媒を促進してイオン化効率を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5412208号明細書
【特許文献2】米国特許第6759650号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ESIプローブから液体試料が噴霧されると、イオン化室内に気流が発生する。引用文献1及び2に記載のイオン化装置では、ESIプローブから液体試料を噴霧するタイミングや加熱ガス供給機構から加熱ガスを吹き付けるタイミングは使用者が自由に設定することができるが、ESIプローブから噴霧される帯電液滴に対して、ESIプローブとは別に設けられた加熱ガス供給機構から該帯電液滴が噴霧される方向と交差する方向にガスを吹き付ける(ESIプローブから帯電液滴を噴霧する中心軸と、加熱ガス供給機構からガスを吹き付ける中心軸が別軸である)構成のイオン化装置では、ESIプローブから液体試料が噴霧されている間に、加熱ガス供給機構からの加熱ガスの吹き付けが行われない時間帯があると、イオン化室内で生じた気流によって液体試料の帯電液滴等の一部が加熱ガス供給機構の内部に進入する。その結果、加熱ガス供給機構の内部が汚染されてしまうという問題があった。ここでは液体試料をESI法でイオン化する場合を例に説明したが、他のイオン化法(APCI法など)によりイオン化する場合にも上記同様の問題があった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、イオン化プローブから噴霧される液体試料に対して、該イオン化プローブとは別に設けられた加熱ガス供給機構からガスを吹き付けて脱溶媒を促進することにより該液体試料に含まれる成分をイオン化するイオン化装置において、加熱ガス供給機構が汚染されることを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明は、イオン導入口が設けられた隔壁によって分析室と隔てられたイオン化室に配置されるイオン化装置であって、
液体試料を噴霧するイオン化プローブと、
ガス供給源と、該ガス供給源から供給されるガスを加熱するための加熱部とを有し、前記イオン化プローブから前記液体試料が噴霧される方向と交差する方向に前記ガスを吹き付ける加熱ガス供給機構と、
前記イオン化プローブから前記液体試料が噴霧されている間、使用者による操作の有無に関わらず前記加熱ガス供給機構から前記ガスを吹き付け続けるように該加熱ガス供給機構の動作を制御する制御部と
を備える。
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明の別の態様は、イオン導入口が設けられた隔壁によって分析室と隔てられたイオン化室において液体試料をイオン化する方法であって、
イオン化プローブに前記液体試料を導入して噴霧する工程と、
ガス供給源と、該ガス供給源から供給されるガスを加熱するための加熱部とを有し、前記イオン化プローブとは別に設けられた加熱ガス供給機構から、使用者による操作の有無に関わらず前記イオン化プローブから前記液体試料が噴霧される方向と交差する方向に前記ガスを吹き付け続ける工程と
を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るイオン化装置及びイオン化方法では、イオン化プローブとは別に設けられた加熱ガス供給機構から、イオン化プローブから液体試料が噴霧される方向と交差する方向にガスを吹き付ける。即ち、イオン化プローブから帯電液滴を噴霧する中心軸と、加熱ガス供給機構からのガス吹き付ける中心軸が別軸である。そして、イオン化プローブから液体試料が噴霧されている間、使用者による操作の有無に関わらず加熱ガス供給機構からガスを吹き付け続けるように加熱ガス供給機構の動作を制御する。つまり、液体試料の噴霧が開始されると同時又はそれよりも前の時点から自動的に加熱ガス供給機構によるガスの吹き付けを開始し、液体試料の噴霧が終了すると同時又はそれよりも後の時点まで加熱ガス供給機構によるガスの吹き付けを継続する。そのため、加熱ガス供給機構から噴き出すガス流によって、液体試料が加熱ガス供給機構の内部に進入して汚染されるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係るイオン化装置の一実施形態を含む液体クロマトグラフ質量分析装置の要部構成図。
【
図2】本実施形態のイオン化室に配置される各部の構成を説明する図。
【
図3】本実施形態のイオン化装置のESIプローブの先端部の拡大図。
【
図4】本発明に係るイオン化方法の一実施形態のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るイオン化装置の実施形態について、以下、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態のイオン化装置を備えた液体クロマトグラフ質量分析装置100の概略構成図である。
【0012】
本実施形態の液体クロマトグラフ質量分析装置100は、大別して、液体クロマトグラフ2、質量分析装置1、及びこれらの各部を制御する制御・処理部3を備えている。
【0013】
質量分析装置1は、略大気圧であるイオン化室11と、図示しない真空ポンプにより内部が排気される真空チャンバを備えている。真空チャンバの内部は、第1中間真空室12、第2中間真空室13、及び分析室14に分離されており、この順に真空度が高くなる差動排気系の構成を有している。イオン化室11と第1中間真空室12は両者を隔てる隔壁に設けられた脱溶媒管113で連通している。第1中間真空室12と第2中間真空室13は、両者を隔てる隔壁に設けられたスキマー122の頂部の開口で連通している。第2中間真空室13と分析室14は、両者を隔てる隔壁に設けられた開口で連通している。
【0014】
イオン化室11には、エレクトロスプレーイオン化(ESI)プローブ111、加熱ガス供給機構112、及び乾燥ガス供給機構114が配置されている。ESIプローブ111には、液体試料が直接、あるいは液体クロマトグラフのカラムで成分分離された後の液体試料が導入される。
【0015】
加熱ガス供給機構112は、ガス供給源1121、ヒータ1122(本発明における加熱部に相当)、加熱ガス供給プローブ1123、及び温度測定部1124を備えている(
図2参照。
図1には加熱ガス供給プローブ1123のみを図示)。加熱ガス供給プローブ1123は、ESIプローブ111の先端から所定距離離間した位置で、ESIプローブ111から噴霧される帯電液滴に対して加熱ガスを所定の流量(例えば1.0~30.0L/min)で吹き付けるように配置されている。この流量は、例えばガス供給源1121に設けられた流量調整部によって調整される。加熱ガスとしては、例えば乾燥空気や窒素ガスが用いられる。ヒータ1122への通電は測定制御部33(後記)によって制御される。また、ヒータ1122への通電を行わずガスを通過させることもできる。例えば、目的成分が熱により分解したり変性したりしやすいものである場合には、ヒータ1122への通電を行わず、常温のガスを吹き付ける。ヒータ1122に通電してガスを加熱する場合には、測定制御部33は、温度測定部1124により測定されるガスの温度を目標温度(例えば400℃)に近づけるようにフィードバック制御を行う。
【0016】
乾燥ガス供給機構114は、ガス供給源1141、加熱ブロック1142、及び乾燥ガス供給管1143を備えている(
図2参照。
図1には加熱ブロック1142と乾燥ガス供給管1143のみを図示)。乾燥ガス供給管1143は、脱溶媒管113を取り囲むように該脱溶媒管113と同軸に配置されており、該脱溶媒管113に流入するイオン流に対して乾燥ガスを吹き付けるように構成されている。乾燥ガスの流量も、例えばガス供給源1141に設けられた流量調整部によって調整される。乾燥ガスとしても、例えば乾燥空気や窒素ガスが用いられる。本実施形態では、ガス供給源1121とガス供給源1141を個別に設けているが、1つのガス供給源から分岐流路を設けるなどして加熱ガス供給機構112と乾燥ガス供給機構114のそれぞれにガスを供給してもよい。
【0017】
ESIプローブ111は、
図3に先端部の部分拡大図で示すように、液体試料が流通するキャピラリ1111と、該キャピラリ1111の外側に設けられたネブライザガス流路1112、該ネブライザガス流路1112にネブライザガスを供給するネブライザガス供給機構1113を備えている。ESIプローブ111では、キャピラリ1111内を流通する液体試料を所定の電圧(ESI電圧。典型的には5.0kV以下の適宜の大きさの正電圧又は負電圧)により帯電させてESIプローブ111の先端まで輸送し、該先端でネブライザガス(例えば窒素ガス)を所定の流量(例えば0.5~5.0L/min)で吹き付けることにより、液体試料を帯電液滴としてイオン化室11内に噴霧する。この流量は、例えばガス供給源1121に設けられた流量調整部によって調整される。
【0018】
イオン化室11内に噴霧された帯電液滴は、溶媒の蒸発(脱溶媒)に伴い表面電場が増加して電荷同士の反発によって分裂するという過程を繰り返して微細化し、最終的にイオン化する。また、加熱ガス供給プローブ1123から加熱ガスが帯電液滴に吹き付けられることによって帯電液滴の脱溶媒が促進される。
【0019】
イオン化室11で生成されたイオンは、その後段に位置する第1中間真空室12の圧力差により、脱溶媒管113から第1中間真空室12に引き込まれる。脱溶媒管113の周囲には乾燥ガス供給管1143が設けられており、該乾燥ガス供給管1143には、ガス供給源1141から供給され隔壁の一部を構成する加熱ブロック1142によって加熱された乾燥ガスが供給される。脱溶媒管113に流入するイオン流に対し、該乾燥ガス供給管1143から供給される乾燥ガスが該イオン流と対向する方向から吹き付けられることにより、イオン流の脱溶媒が促進される。脱溶媒管113も加熱ブロック1142により所定の温度(例えば300℃)に加熱されており、この脱溶媒管113を通過する間にも脱溶媒が促進される。加熱ブロック1142は図示しない加熱部(ヒータへの通電等)により加熱される。
【0020】
第1中間真空室12には、複数のロッド状の電極で構成されたイオンガイド121が配置されている。脱溶媒管113を通じて導入されたイオンは、イオンガイド121によってイオン光軸(イオンの飛行方向の中心軸)Cの近傍に収束され、スキマー122の頂部の開口を通じて第2中間真空室13に進入する。
【0021】
第2中間真空室13には、複数のロッド状の電極で構成されたイオンガイド131が配置されている。スキマー122の頂部の開口を通じて導入されたイオンは、イオンガイド131によってイオン光軸Cの近傍に収束され、第2中間真空室13と分析室14を隔てる隔壁に設けられた開口を通じて分析室14に進入する。
【0022】
分析室14には、前段四重極マスフィルタ141、コリジョンセル142、後段四重極マスフィルタ144、及びイオン検出器145が配置されている。前段四重極マスフィルタ141及び後段四重極マスフィルタ144はいずれも、メインロッドと、該メインロッドの前段に位置するプレロッドと、該メインロッドの後段に位置するポストロッドで構成されている。コリジョンセル142には、該コリジョンセル142内のイオンをイオン光軸Cの近傍に収束させる多重極ロッド電極143が配置されている。また、コリジョンセル142には、窒素ガス等の不活性ガスを衝突誘起解離(CID)ガスとして導入するCIDガス導入部が設けられている。
【0023】
分析室14に進入したイオンのうち、所定の質量電荷比を有するイオンが前段四重極マスフィルタ141によってプリカーサイオンとして選別され、コリジョンセル142に進入する。コリジョンセル142の内部では、CIDガスとの衝突によってプリカーサイオンが開裂してプロダクトイオンが生成される。コリジョンセル142で生成されたイオンは、後段四重極マスフィルタ144で質量分離され、イオン検出器145で検出される。イオン検出器145からの出力信号は、制御・処理部3に送信され記憶部31(後記)に保存される。
【0024】
制御・処理部3は、記憶部31を備えている。記憶部31には、各種化合物の測定条件や解析パラメータなどの情報を収録した化合物データベース(化合物DB)311が保存されている。本実施形態では、化合物データベース311に、各化合物の測定時に使用する加熱ガス供給機構112の動作パラメータ(加熱ガスの温度、流量など)の情報も収録されている。
【0025】
制御・処理部3は、さらに、機能ブロックとして測定条件設定部32、測定制御部33(本発明における制御部に相当)、及び加熱ガス供給機構動作設定部34を備えている。制御・処理部3の実体は一般的なコンピュータであり、予めインストールされた専用のソフトウェアをプロセッサで実行することによりこれらの機能ブロックが具現化される。制御・処理部3には、マウスやキーボードなどからなる入力部4と、液晶ディスプレイなどで構成される表示部5が接続されている。
【0026】
加熱ガス供給機構動作設定部34は、ESIプローブ111から液体試料や移動相が噴霧されている時間帯に加熱ガス供給機構112からのガスの吹き付け動作を停止する測定条件の設定の可否を設定するものである。加熱ガス供給機構動作設定部34には予め決められた者のみがアクセス可能(例えば、装置の管理者などの特定の者が予め決められたIDとパスワードでログインした場合にのみアクセス可能)でおり、分析作業者などの一般の使用者がアクセスすることができないようになっている。本実施形態では、上記予め決められた者が加熱ガス供給機構動作設定部34の設定を変更した例外的な場合を除いて、液体試料の噴霧中に加熱ガス供給機構112からガスを吹き付ける動作を停止する測定条件の設定を受け付けないようになっている。
【0027】
本実施形態の質量分析装置1は、イオン化室11における加熱ガス供給機構112の配置と動作に特徴を有している。以下、イオン化室11の構成を説明する。
図2は、質量分析装置1のイオン化室11近傍の拡大図である。
【0028】
ESIプローブ111は、その噴霧軸(ESIプローブ111から噴霧される帯電液滴の進行方向の中心軸)と、脱溶媒管113の中心軸が、交点Xにおいて直交するように配置されている。本実施形態では、最も好ましい態様として、ESIプローブ111の噴霧軸が鉛直方向に、脱溶媒管113の中心軸が水平方向になるように構成されている。また、加熱ガス供給プローブ1123は、該加熱ガス供給プローブ1123の吹き付け方向(加熱ガスの進行方向の中心軸)とESIプローブ111の噴霧軸が成す角度θが60度以上80度以下となるように配置されている。角度θの範囲は本件出願人が先の出願(PCT/JP2021/030953)において行った検討の結果に基づいている。角度θが60度以上であることにより、ESIプローブ111の先端と加熱ガス供給プローブ1123が物理的に干渉することがなく両者の配置が容易になる。また、角度θが80度以下であることにより、加熱ガスがESIプローブ111の先端部に吹き付けられて該ESIプローブ111内で液体試料が沸騰する可能性を低減することができる。イオン化室11と第1中間真空室12の隔壁に設けられたキャピラリである脱溶媒管113は、該隔壁の一部を構成する加熱ブロック1142により所定の温度に加熱されている。
【0029】
また、加熱ガス供給プローブ1123からのガスの吹き付け方向の中心軸上に、加熱ブロック1142の上部(脱溶媒管113よりも上方に位置する部分)が位置するように、加熱ガス供給プローブ1123と加熱ブロック1142が配置されている。即ち、加熱ガス供給プローブ1123から供給される加熱ガスは、ESIプローブ111の先端と、該ESIプローブ111の噴霧軸と脱溶媒管113の中心軸の交点Xとの間の位置(ESIプローブ111の先端からの距離Lの位置)で、帯電液滴に対して吹き付けられる。この距離Lは、例えば2.5mm以上10mm以下に設定される。距離Lの範囲も同様に、本件出願人が先の出願(PCT/JP2021/030953)において行った検討の結果に基づいている。距離Lを2.5mm以上とすることにより、ESIプローブ111の先端と加熱ガス供給プローブ1123の先端が近接して放電が起こる可能性を低減することができる。また、距離Lを10mm以下とすることにより、広く用いられているESIプローブ111の先端の高さと脱溶媒管113の中心軸の高さの差が10.5mmである一般的なイオン化装置において、脱溶媒管113の中心軸よりも上方の位置で帯電液滴に加熱ガスを吹き付けて脱溶媒を促進し、イオンの測定感度を高めることができる。
【0030】
本実施形態では、ESIプローブ111の先端から噴霧される帯電液滴が脱溶媒管113に到達するまでの間に加熱ガスが吹き付けられるため、帯電液滴が液滴の状態のままで脱溶媒管113から分析室14(第1中間真空室12、第2中間真空室13、及び分析室14)に進入することが抑制される。また、このような位置に加熱ガスを供給することにより、液体試料から生成されるイオン以外のもの(イオン化室11内に存在する不所望の中性分子やイオン)が脱溶媒管113を通じて分析室14に進入することも抑制される。これにより、分析室側の各室の汚染が抑制され、質量分析装置1の堅牢性が向上する。
【0031】
次に、
図4のフローチャートを参照して、本実施形態の液体クロマトグラフ質量分析装置100を用いた液体試料の測定例を説明する。
【0032】
使用者が液体試料の測定を指示すると、測定条件設定部32は、化合物データベース311に収録されている化合物の一覧を表示部5の画面に表示する。使用者が表示された一覧から測定対象の化合物(目的成分)を選択すると、測定条件設定部32は、化合物データベース311から、当該化合物の測定条件及び解析パラメータ並びに加熱ガス供給機構112の動作パラメータを読み出し、それらを表示部5の画面に表示する。使用者は、必要に応じて測定条件等に変更を加えた後、測定条件等を決定する(ステップ1)。使用者により測定条件等が決定されると、測定条件設定部32は、試料の測定及び解析を実行するためのバッチファイルを作成して記憶部31に保存する。
【0033】
上記の通り、使用者が設定する測定条件には、加熱ガス供給機構112の動作パラメータが含まれる。しかし、加熱ガス供給機構動作設定部34において、ESIプローブ111から液体試料や移動相が噴霧されている時間帯に加熱ガス供給機構112からのガスの吹き付け動作を停止する測定条件の設定を認める例外的な設定がなされていない限り、ESIプローブ111から液体試料や移動相が噴霧されている時間帯にガスの吹き付け動作を停止するような測定条件を設定することはできないようになっている。あるいは、使用者が、ESIプローブ111から液体試料や移動相が噴霧されている時間帯にガスの吹き付け動作を停止するような測定条件を設定した場合、その設定に関わらず、測定条件設定部32が、直前の時間帯の動作パラメータ(加熱ガスの温度、流量など)を自動的に適用し、測定条件を上書き設定するようにしてもよい。
【0034】
バッチファイルが作成された後に使用者が測定開始を指示すると、測定制御部33は、そのバッチファイルを実行し、液体クロマトグラフ質量分析装置100の各部の動作を制御して液体試料に含まれる目的成分を測定する。
【0035】
測定開始時には、まず、真空チャンバ内の第1中間真空室12、第2中間真空室13、及び分析室14をそれぞれ所定の真空度まで排気する。また、加熱ガス供給機構112のヒータ1122への通電を開始するとともにガス供給源1121から所定の流量(例えば5L/min)でガスを供給する(ステップ2)。ヒータ1122への通電を開始した後、該ヒータ1122を通過したガスの温度を温度測定部1124で測定し、その温度が所定の温度(例えば400℃)で安定するようにヒータ1122に送給する電力量が調整される。ヒータ1122で加熱されたガスはイオン化室11内に吹き付けられる。さらに、乾燥ガス供給機構114でもガス供給源1141からガス(乾燥ガス)を供給し、乾燥ガス供給管1143からイオン化室11内に吹き付ける(ステップ3)。加熱ガスの吹き付けを、乾燥ガスの吹き付けと同時又はそれよりも先に開始することで、乾燥ガスの吹き付けによって生じる気流によってイオン化室11内に存在する不所望の物質が加熱ガス供給機構112の内部に進入することを防止する。
【0036】
真空チャンバ内の各室が所定の真空度まで排気され、加熱ガス供給機構112においてガスが所定の温度に達すると、測定制御部33は、予め液体クロマトグラフ2(又は液体クロマトグラフ2に接続されたオートサンプラ)にセットされた液体試料をインジェクタから注入する。液体クロマトグラフ2に投入された液体試料は移動相の流れに乗ってカラムに導入され、カラム内で各成分が分離される。
【0037】
液体クロマトグラフ2のカラムで分離された液体試料中の各種成分は移動相とともに順次、ESIプローブ111に導入され(ステップ4)、帯電液滴としてイオン化室11に噴霧される(ステップ5)。この帯電液滴には、加熱ガス供給プローブ1123から加熱ガスが吹き付けられ(ステップ6)、それによって脱溶媒が促進される。また、帯電液滴から生成されたイオン流は、イオン化室11と第1中間真空室12の圧力差によって脱溶媒管113を通じて第1中間真空室12に引き込まれる。このとき、乾燥ガス供給管1143からイオン流に対向する乾燥ガス流が吹き付けられ(ステップ7)、また、加熱された脱溶媒管113をイオン流が通過することによって、さらに脱溶媒が促進される。
【0038】
液体試料の測定が終了すると(ステップ8)、測定制御部33は、液体クロマトグラフ2における移動相の供給を停止する。続いて、乾燥ガス供給機構114のガス供給源1141からのガスの供給を停止する(ステップ9)。これと同時に(又はガス供給源1141からのガスの供給停止よりも後に)加熱ガス供給機構112のガス供給源1121からのガスの供給を停止する(ステップ10)。加熱ガスの吹き付けを、乾燥ガスの吹き付けと同時又はそれよりも後に停止することで、乾燥ガスの吹き付けによって生じる気流によってイオン化室11内に存在する不所望の物質が加熱ガス供給機構112の内部に進入することを防止する。
【0039】
このように、本実施形態の液体クロマトグラフ質量分析装置100では、液体クロマトグラフ2から移動相や液体試料がESIプローブ111に導入されるよりも前に加熱ガス供給プローブ1123から加熱ガスの供給を開始し、ESIプローブ111に移動相や液体試料が導入されている間、常に加熱ガスを供給し続ける。
【0040】
ESIプローブ111から液体試料中の各種成分を移動相とともに噴霧すると、イオン化室11内に気流が発生する。また、乾燥ガス供給機構114からも、イオン流と対向する方向に乾燥ガスが吹き付けられる。本実施形態のように、ESIプローブ111から噴霧される帯電液滴に対して、ESIプローブ111とは別に設けられた加熱ガス供給機構112から該帯電液滴が噴霧される方向と交差する方向にガスを吹き付ける(ESIプローブ111から帯電液滴を噴霧する中心軸と、加熱ガス供給機構112からガスを吹き付ける中心軸が別軸である)構成のイオン化装置では、加熱ガス供給プローブ1123からのガスの吹き付けを行わないと、イオン化室11内で生じた気流によって液体試料中の成分や移動相の帯電液滴の一部が加熱ガス供給機構112の内部に進入し、それによって該加熱ガス供給機構112の内部が汚染される可能性がある。先の測定時に加熱ガス供給機構112の内部に進入した液体試料中の成分が加熱ガスとともに次の測定の液体試料に吹き付けられるとコンタミネーションが生じる。また、そうしたコンタミネーションを防止するには加熱ガス供給機構112を測定毎に洗浄しなければならず手間と時間がかかる。本実施形態では、測定制御部33が、ESIプローブ111に液体試料が導入されている間、加熱ガス供給プローブ1123から常に加熱ガスを吹き付け続けるため、このガス流によって液体試料中の成分や移動相が加熱ガス供給機構112の内部に進入するのを防止することができる。
【0041】
上記測定例では、測定制御部33が、液体試料の測定開始及び終了と同期させて加熱ガス供給機構112を動作させ、液体試料及び移動相がESIプローブ111に導入される前に加熱ガス供給プローブ1123からイオン化室に加熱ガスを吹き付けるようにしたが、他の動作形態を採ることもできる。例えば、ESIプローブ111においてネブライザガス供給機構1113によるネブライザガスの供給の開始及び終了と同時に加熱ガス供給機構112のガス供給源1121からのガスの供給を開始及び終了させることもできる。ネブライザガスは、ESIプローブ111に導入される液体試料や移動相をイオン化室11に噴霧するために使用するものであるため、これと同期させて加熱ガス供給プローブ1123からガスを吹き付けることで、加熱ガス供給機構112の内部に液体試料中の成分等が進入するのを確実に防止することができる。即ち、少なくともESIプローブ111から液体試料が噴霧されている間、加熱ガス供給機構112からガスを吹き付け続けることができる限りにおいて、任意の方法を採ることができる。
【0042】
上記の測定例では1つの液体試料のみを測定したが、オートサンプラに複数の液体試料をセットしておき、それらを順に測定する場合もある。そうした測定では、液体試料の測定間に待機時間が設けられる場合がある。例えば、液体クロマトグラフ2でグラジエント分析を行う場合、1つの液体試料の測定を開始した後、液体クロマトグラフ2で移動相を平衡化する。このように、液体試料の測定間で、ESIプローブ111に液体試料等が導入されない時間帯(待機時間帯)が存在する場合には、その間、加熱ガス供給プローブ1123からイオン化室11への加熱ガスの吹き付けを一時的に停止したり、あるいは加熱ガスの流量を測定時流量から待機時流量(測定時流量>待機時流量)に低下させたりしてもよい。もちろん、測定時間帯と待機時間帯の両方に、加熱ガス供給プローブ1123から同流量のガスをイオン化室11に吹き付けるようにしてもよい。
【0043】
また、上記の測定例では、加熱ガス供給機構112において、ガス供給源1121から供給されるガスをヒータ1122で所定の温度に加熱して加熱ガス供給プローブ1123からイオン化室11に吹き付けたが、ヒータ1122に通電せず、ガス供給源1121から供給されるガスを加熱することなくイオン化室11に吹き付けるようにしてもよい。例えば、目的成分が熱により分解したり変性したりしやすいものである場合に非加熱のガスを吹き付けるようにするとよい。また、そうした目的成分を測定する際には、加熱ブロック1142への通電も行わず、非加熱の乾燥ガスをイオン流に吹き付け、該イオン流を非加熱の脱溶媒管に導入するとよい。
【0044】
また、上記の測定例では、乾燥ガス供給機構114を使用したが、乾燥ガス供給機構114を使用しなくてもよい(あるいは乾燥ガス供給機構114を備えつつ、それを動作させずに測定してもよい)。その場合、乾燥ガスを吹き付ける場合に比べてイオン流をイオン化室11内に押し戻す気流が発生しにくくなる。従って、乾燥ガスをイオン流に吹き付けることなく測定する場合には、乾燥ガスをイオン流に吹き付ける場合よりも加熱ガス供給プローブ1123からイオン化室11に吹き付けるガスの流量を低減してもよい。例えば、測定制御部33が、乾燥ガス供給機構114からガスが吹き付けられている場合に所定の第1流量で加熱ガス供給機構112からガスを吹き付け、乾燥ガス供給機構114かガスが吹き付けられていない場合には第1流量よりも低い第2流量で加熱ガス供給機構112からガスを吹き付けるようにすればよい。
【0045】
上記実施形態及び測定例はいずれも一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
【0046】
上記実施形態では、使用者に、加熱ガス供給機構112の動作パラメータ(加熱ガスの温度、流量など)を含む測定条件を設定させる構成としたが、使用者に加熱ガス供給機構112の動作パラメータを設定させないようにしてもよい。その場合には、例えば、測定条件設定部32が、使用者により設定された測定条件によって決まる、ESIプローブ111から液体試料や移動相が噴霧される時間帯に合わせて、予め決められた動作パラメータで加熱ガス供給機構112を動作させるような測定条件を自動的に設定するように構成すればよい。また、上記実施形態では加熱ガス供給機構動作設定部34を備える構成としたが、これも任意である。上記実施形態において必須の要件は、ESIプローブ111から液体試料や移動相が噴霧されている間、使用者による操作の有無に関わらず加熱ガス供給機構112からガス(加熱ガス又は非加熱のガス)を吹き付け続けることであって、その要件が満たされる限りにおいて適宜の構成を採ることができる。
【0047】
液体クロマトグラフ質量分析装置100としたが、液体クロマトグラフを備えることなく、液体試料を直接ESIプローブに導入する質量分析装置においても上記同様の構成を採ることができる。その場合には、液体試料がESIプローブから噴霧されている間、加熱ガス供給プローブ1123からイオン化室にガスを吹き付け続けるようにすればよい。
【0048】
上記実施形態では、ESIプローブ111を備えたイオン化室11を有するイオン化装置(ESI源)としたが、ESIプローブ111に代えて、液体試料を噴霧するイオン化プローブと大気圧化学イオン化(APCI: Atmospheric pressure chemical ionization)用のコロナニードルを備えたイオン化装置(APCI源)においても上記同様の構成を採ることができる。あるいは、ESIプローブとAPCI用のコロナニードルを備えたイオン化装置(いわゆるデュアルイオン化装置)においても上記同様の構成を採ることができる。また、上記実施形態では、ESIプローブ111から液体試料を噴霧する方向と、脱溶媒管113の中心軸が直交するように両者を配置(直交配置)したが、これは好ましい一態様であって、それ以外の配置においても本発明を適用することができる。さらに、加熱ガス供給機構はイオン化プローブとは別に設けられるものであって、該イオン化プローブから液体試料が噴霧される方向と交差する方向にガスを吹き付ける(イオン化プローブから帯電液滴を噴霧する中心軸と、加熱ガス供給機構からガスを吹き付ける中心軸が別軸である)ものであればよく、上記実施形態で示した好ましい一態様の配置以外にも適宜の配置を採ることができる。
【0049】
上記実施形態では生成したイオンを質量分析する構成としたが、イオンの移動度測定等、他の測定を行う装置においても上記実施形態と同様のイオン化装置を用いることができる。さらに、質量分析を行う場合についても、上記実施形態の三連四重極型以外の様々な構成の質量分析部(シングル四重極型、イオントラップ型、飛行時間型等)を用いることができる。
【0050】
[態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0051】
(第1項)
本発明の一態様は、イオン導入口が設けられた隔壁によって分析室と隔てられたイオン化室に配置されるイオン化装置であって、
液体試料を噴霧するイオン化プローブと、
ガス供給源と、該ガス供給源から供給されるガスを加熱するための加熱部とを有し、前記イオン化プローブから前記液体試料が噴霧される方向と交差する方向に前記ガスを吹き付ける加熱ガス供給機構と、
前記イオン化プローブから前記液体試料が噴霧されている間、使用者による操作の有無に関わらず前記加熱ガス供給機構から前記ガスを吹き付け続けるように該加熱ガス供給機構の動作を制御する制御部と
を備える。
(第7項)
本発明の別の一態様は、イオン導入口が設けられた隔壁によって分析室と隔てられたイオン化室において液体試料をイオン化する方法であって、
イオン化プローブに前記液体試料を導入して噴霧する工程と、
ガス供給源と、該ガス供給源から供給されるガスを加熱するための加熱部とを有し、前記イオン化プローブとは別に設けられた加熱ガス供給機構から、使用者による操作の有無に関わらず前記イオン化プローブから前記液体試料が噴霧される方向と交差する方向に前記ガスを吹き付け続ける工程と
を含む。
【0052】
イオン化室内でイオン化プローブから液体試料が噴霧されると、イオン化室内に気流が発生する。従来のイオン化装置では、ESIプローブから液体試料を噴霧するタイミングや加熱ガス供給機構から加熱ガスを吹き付けるタイミングは使用者が適宜に設定することができるが、ESIプローブから噴霧される帯電液滴に対して、ESIプローブとは別に設けられた加熱ガス供給機構から該帯電液滴が噴霧される方向と交差する方向にガスを吹き付ける(ESIプローブから帯電液滴を噴霧する中心軸と、加熱ガス供給機構からガスを吹き付ける中心軸が別軸である)構成のイオン化装置では、液体試料がイオン化プローブから噴霧されている間に加熱ガス供給機構によるガスの吹き付けを行われないと、イオン化室内で生じた気流によって液体試料の帯電液滴の一部が加熱ガス供給機構の内部に進入し、それによって該加熱ガス供給機構の内部が汚染されてしまう。先の測定時に加熱ガス供給機構の内部に進入した液体試料がガスとともに次の測定の液体試料に吹き付けられるとコンタミネーションが生じる。また、そうしたコンタミネーションを防止するには加熱ガス供給機構を測定毎に洗浄しなければならず手間と時間がかかる。
【0053】
第1項に係るイオン化装置及び第7項に係るイオン化方法では、イオン化プローブから液体試料が噴霧されている間、使用者による操作の有無に関わらず加熱ガス供給機構からガスを吹き付け続けるように該イオン化プローブ及び該加熱ガス供給機構の動作を制御する。つまり、液体試料の噴霧が開始されると同時又はそれよりも前の時点から自動的に加熱ガス供給機構によるガスの吹き付けを開始し、液体試料の噴霧が終了すると同時又はそれよりも後の時点まで加熱ガス供給機構によるガスの吹き付けを継続する。そのため、加熱ガス供給機構から噴き出すガス流によって、液体試料が加熱ガス供給機構の内部に進入するのを防止することができる。
【0054】
(第2項)
第2項に係るイオン化装置は、第1項に係るイオン化装置において
前記加熱ガス供給機構は、前記ガス供給源から供給されるガスを前記加熱部により加熱して吹き付ける加熱動作と、前記ガス供給源から供給されるガスを前記加熱部により加熱することなく吹き付ける非加熱動作を実行可能である。
【0055】
第2項に係るイオン化装置では、測定対象の目的成分が熱によって分解したり変性したりしやすい場合でも、加熱ガス供給機構を非加熱動作することによって、加熱ガス供給機構の内部に液体試料が進入して汚染されるのを防止し、かつ、帯電液滴の脱溶媒も促進することができる。
【0056】
(第3項)
第3項に係るイオン化装置は、第1項又は第2項に係るイオン化装置において、
前記イオン化プローブは、前記液体試料を噴霧するためのネブライザガスを供給するネブライザガス供給機構を備え、
前記制御部は、前記ネブライザガス供給機構の動作と同期させて前記加熱ガス供給機構の動作を制御する。
【0057】
第3項に係るイオン化装置では、ESIプローブにおいて液体試料を噴霧するためのネブライザガスを供給するネブライザガス機構の動作と同期させ、ネブライザガスによって液体試料が噴霧されている間、加熱ガス供給機構を動作させてガスを吹き付け続けるため、噴霧された液体試料が加熱ガス供給機構の内部に進入して汚染されるのを確実に防止することができる。
【0058】
(第4項)
第4項に係るイオン化装置は、第1項から第3項のいずれかに係るイオン化装置において、
前記制御部は、前記液体試料の測定が実行されている測定時間帯に所定の測定時流量で前記加熱ガス供給機構から前記ガスを吹き付け、前記液体試料の測定が実行されていない待機時間帯に前記測定時流量よりも低い待機時流量で前記加熱ガス供給機構から前記ガスを吹き付ける。
【0059】
第4項に係るイオン化装置では、液体試料の測定が実行されていない待機時間帯に加熱ガス供給機構から吹き付けるガスの流量を低減することでガスの使用量を抑えることができる。なお、液体試料の測定が実行されていない待機時間帯にESIプローブから何も噴霧されない場合や、ESIプローブから噴霧される液体が加熱ガス供給機構を汚染するものでない場合には、待機時流量をゼロに(即ち、ガスの吹き付けを停止)してもよい。
【0060】
(第5項)
第5項に係るイオン化装置は、第1項から第4項のいずれかに係るイオン化装置において、さらに、
前記イオン導入口に流入するイオン流と対向する方向にガスを吹き付ける乾燥ガス供給機構
を備える。
【0061】
第5項に係るイオン化装置では、乾燥ガスを吹き付けることによってイオン導入口に導入されるイオン流の脱溶媒をさらに促進することができる。
【0062】
(第6項)
第6項に係るイオン化装置は、第5項に係るイオン化装置において、
前記制御部は、前記乾燥ガス供給機構から前記ガスが吹き付けられている場合に所定の第1流量で前記加熱ガス供給機構から前記ガスを吹き付け、前記乾燥ガス供給機構から前記ガスが吹き付けられていない場合に前記第1流量よりも低い第2流量で前記加熱ガス供給機構から前記ガスを吹き付ける。
【0063】
第6項に係るイオン化装置において、乾燥ガス供給機構からガスが吹き付けられていない場合は、ガスが吹き付けられている場合に比べて液体試料の帯電液滴が加熱ガス供給機構の内部に進入しにくい。乾燥ガス供給機構からガスが吹き付けられていない場合に加熱ガス供給機構から吹き付けるガスの流量を低減することでガスの使用量を抑えることができる。
【符号の説明】
【0064】
100…液体クロマトグラフ質量分析装置
1…質量分析装置
11…イオン化室
111…ESIプローブ
1111…キャピラリ
1112…ネブライザガス流路
1113…ネブライザガス供給機構
112…加熱ガス供給機構
1121…ガス供給源
1122…ヒータ
1123…加熱ガス供給プローブ
1124…温度測定部
113…脱溶媒管
114…乾燥ガス供給機構
1141…ガス供給源
1142…加熱ブロック
1143…乾燥ガス供給管
12…第1中間真空室
121…イオンガイド
122…スキマー
13…第2中間真空室
131…イオンガイド
14…分析室
141…前段四重極マスフィルタ
142…コリジョンセル
143…多重極ロッド電極
144…後段四重極マスフィルタ
145…イオン検出器
2…液体クロマトグラフ
3…制御・処理部
31…記憶部
311…化合物データベース
32…測定条件設定部
33…測定制御部
34…加熱ガス供給機構動作設定部
4…入力部
5…表示部
C…イオン光軸
X…ESIプローブの噴霧軸とイオン導入口の中心軸の交点
L…ESIプローブの先端から、ESIプローブの噴霧軸と加熱ガス供給プローブの吹き付け方向の交点までの距離
θ…ESIプローブの噴霧軸と加熱ガス供給プローブの吹き付け方向が成す角度