(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020229
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】PVM-MAコポリマー及び遊離フッ化物イオンの供給源を含む歯磨剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20240206BHJP
A61K 8/21 20060101ALI20240206BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/21
A61Q11/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023181552
(22)【出願日】2023-10-23
(62)【分割の表示】P 2021500037の分割
【原出願日】2019-07-03
(31)【優先権主張番号】1811065.0
(32)【優先日】2018-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】315010950
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン コンシューマー ヘルスケア(ユーケー) アイピー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カーン,シャザダ ヤサール
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本来の歯のエナメル質を強化及び保護し、それによって酸の負荷から保護する歯磨剤組成物を提供する。
【解決手段】遊離フッ化物イオンの供給源、及び組成物の0.1重量%から0.5重量%未満までの、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸又はマレイン酸のコポリマーを含む歯磨剤組成物であって、6.0~7.5のスラリーpHを有し、マロン酸、グルタル酸、酒石酸、乳酸及びそれらの混合物からなる群から選択されるカルボン酸又はそのアルカリ金属塩を含まない、歯磨剤組成物を記載する。組成物は歯へのフッ化物取込みを高めて、酸性の負荷からの保護を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離フッ化物イオンの供給源、及び組成物の0.1重量%から2重量%未満までの、メチルビニルエーテル(MVE)と無水マレイン酸又はマレイン酸のコポリマーを含む歯磨剤組成物であって、6.0~7.5のスラリーpHを有し、マロン酸、グルタル酸、酒石酸、乳酸及びそれらの混合物からなる群から選択されるカルボン酸又はそのアルカリ金属塩を含まない、歯磨剤組成物。
【請求項2】
遊離フッ化物イオンの供給源がアルカリ金属フッ化物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アルカリ金属フッ化物が、組成物の0.05重量%~0.5重量%の量で存在するフッ化ナトリウムである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
6.2~7.2のスラリーpHを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
pH調整剤を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
pH調整剤が水酸化ナトリウムである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
コポリマーがMVEとマレイン酸のコポリマーである、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
コポリマーがMVEとマレイン酸の1:1コポリマーである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
コポリマーが100,000~2,000,000の範囲の分子量を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
コポリマーが組成物の0.25重量%の量で使用されている、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
減感剤をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
歯牙浸食から歯を保護することに使用するための、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
齲歯から歯を保護することに使用するための、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本来の歯のエナメル質を強化及び保護し、それによって酸の負荷から保護する歯磨剤組成物に関する。本発明による組成物は、遊離フッ化物イオンの供給源、及び少量の、典型的には組成物の0.1重量%から2重量%未満までの、例えば、0.1重量%から0.5重量%未満までの範囲の、メチルビニルエーテル(MVE)と無水マレイン酸又はマレイン酸のコポリマーを含み、6.0~7.5のスラリーpHを有する。組成物は、特定のカルボン酸又はそのアルカリ金属塩を含まない。特に、本発明による組成物は、マロン酸、グルタル酸、酒石酸及び乳酸並びにそれらの混合物のリストから選択されるカルボン酸又はそのアルカリ金属塩を含まない。
【背景技術】
【0002】
歯の無機質は、カルシウムヒドロキシアパタイト、Ca10(PO4)6(OH)2で主に構成され、これは、アニオン、例えば炭酸イオン又はフッ化物イオン、及びカチオン、例えば亜鉛又はマグネシウムで部分的に置換されていてもよい。歯の無機質はまた、非アパタイト無機質相、例えばリン酸八カルシウム及び炭酸カルシウムを含有してもよい。
【0003】
虫歯は、齲歯の結果として生じ得、これは、食事由来の糖の代謝によって生成した、細菌性の酸、例えば乳酸が表面下の脱石灰化を引き起こし、糖への曝露の間に十分に再石灰化せず、進行性の組織損失及びついには空洞形成をもたらす多因子病である。プラークバイオフィルムの存在は、齲歯の前提条件であり、酸産生菌、例えばストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)は、糖(すなわち、容易に発酵し得る炭水化物、例えばスクロース)のレベルが長期間高い場合、病原となることがある。
【0004】
プラークバイオフィルムの存在しない状態でさえ、歯の硬組織の損失が酸浸食及び/又は物理的な歯の摩耗の結果として生じる場合があり、これらのプロセスは相乗的に作用すると考えられる。歯の硬組織の酸への曝露は脱石灰化の原因となり、表面軟化及び無機質密度の低下をもたらす場合がある。この軟化した無機質は、物理的接触からの摩耗に脆弱である。通常の生理学的条件の下で、部分的に脱石灰化した組織は、唾液の再石灰化効果によって自己修復する。唾液は、カルシウム及びリン酸塩に関して過飽和していて、健康的な個体においては、唾液の分泌は、酸の負荷を洗い流し、無機質の堆積のために平衡を改変するようにpHを上げる役目をする。
【0005】
歯牙浸食(すなわち酸浸食又は酸摩耗)は、歯の表面の脱石灰化、及び細菌起源でない酸によって究極的には完全溶解を伴う表面現象である。酸は、最も一般的には、食事起源、例えば果物若しくは炭酸飲料からのクエン酸、コーラ飲料からのリン酸、及び酢酸、例えばビネグレット由来のものである。歯牙浸食はまた、無意図的応答、例えば胃食道からの逆流によって、又は過食症の罹患者に見受けられ得るような誘発された応答によって口腔に入り得る、胃によって生成される塩酸(HCl)との接触の繰り返しが原因となることがある。
【0006】
歯の摩耗(すなわち物理的な歯の摩耗)は、摩擦及び/又は擦過が原因となる。歯の表面が互いにこすれる場合、2体摩耗の形で摩擦が生じる。多くの場合の劇的な例は、歯ぎしりにまつわる対象において観察されるものであり、加わる力が大きい睡眠中の歯の摩砕癖であり、特に咬合面で加速される摩耗を特徴とする。典型的には3体摩耗の結果、擦過が生じ、最も一般的な例は、練り歯磨剤を用いてブラシをかけることに付随する。完全に石灰化したエナメル質の場合には、市販の練り歯磨剤が原因となる摩耗のレベルは最小で、臨床的にほとんど又は全く重大ではない。しかしながら、浸食の負荷に曝露されてエナメル質が脱石灰化され、軟化した場合、エナメル質は摩耗により影響されやすくなる。エナメル質は象牙質とのその接合部が最も薄く、健康な場合、ちょうど歯肉縁の下に位置する。しかし、歯肉退縮(特に高齢化に関連する)は、エナメル質-象牙質接合部を露出させることがあり、この領域のエナメル質の摩耗は象牙質を露出させ、下記のように過敏症を引き起こすことがある。
【0007】
象牙質は、通常、生体内で位置に応じて、すなわち歯冠と歯根でそれぞれ、エナメル質又はセメント質で覆われた生体の組織である。象牙質はエナメル質よりはるかに高い有機含有量を有し、その構造は、象牙質-エナメル質又は象牙質-セメント質接合部の表面から歯髄界面に流れる液体で満たされた細管の存在を特徴とする。象牙質はエナメル質よりはるかに柔らかく、結果的に、摩耗により影響されやすい。露出した象牙質を有する対象は、高擦過性の練り歯磨剤の使用を回避するべきである。浸食の負荷による象牙質の軟化は、やはり、摩耗への組織の感受性を増加させる。象牙質過敏症の起源は、露出した細管中の流体の流れの変化に関係があり(流体力学理論)、歯髄界面に接近して位置すると思われる機械受容器の刺激をもたらすことが広く受け入れられている。象牙質は、一般にスミア層(象牙質自体に由来する無機質及びタンパク質で主に構成された閉塞性の混合物、しかしまた唾液からの有機成分も含有する)で覆われているのですべての露出した象牙質が過敏だとは限らない。経時的に、細管の管腔は、石灰化組織で完全に閉塞されるようになり得る。また、歯髄の外傷又は化学的刺激に応じた修復象牙質の形成は文書による十分な裏づけがある。それにもかかわらず、浸食の負荷は、スミア層及び細管「栓」を取り除き、歯液流動を解放して、外部刺激、例えば熱さ、冷たさ及び圧迫に象牙質をはるかに強く影響されやすくすることがある。先に示したように、浸食の負荷によってもまた、象牙質表面は摩耗にはるかに影響されやすくなり得る。さらに、露出した細管の直径が増すにつれて、象牙質過敏症は悪化し、歯髄界面の方向に進むにつれて細管直径が増すので、進行性の象牙質摩耗は、特に象牙質摩耗が迅速である場合、過敏症の増大に帰着する場合がある。
【0008】
したがって、浸食及び/又は酸を媒介とした歯の摩耗は、象牙質過敏症の発生において主要な原因論的な要因である。
【0009】
食事由来の酸の摂取増加、及び決められた食事時間からの逸脱が、先進国の集団において歯牙浸食及び歯の摩耗の発生の上昇と関係していると主張されている。このことを考慮すると、歯牙浸食及び歯の摩耗を予防するのを支援することができ、齲歯から保護することができる口腔ケア組成物は有利である。
【0010】
口腔ケア組成物は、歯の再石灰化を促進し、歯の硬組織の耐酸性を増加させるフッ化物イオンの供給源をしばしば含有する。効果的であるためには、フッ化物イオンは、処置される歯の硬組織への取込みに対して利用可能でなければならない。
【0011】
実質的に中性pHに製剤化されたフッ化物含有歯磨剤の使用は、当業界で再石灰化及び歯の強化について記載されている。WO2006/1000071(Glaxo Group Ltd)は、種々の成分の中でも、フッ化物イオン供給源を含み、範囲6.5~7.5のpHを有する歯磨剤組成物を開示している。そのような組成物は、食事由来の酸の負荷から歯を保護する際に使用されるSENSODYNE Pronamel練り歯磨剤として商品化されている。
【0012】
口腔ケア組成物中でのメチルビニルエーテル及びマレイン酸に基づくコポリマーの使用は、当業界で公知である。US 4,485,090は、ポリマー状アニオン性膜形成材料、例えば「Gantrez AN」を含む歯磨剤組成物を開示している。US 4,485,090によると、この材料はそれ自体が歯の表面に付着し、歯に存在するカルシウムと複合体を形成することにより実質的に連続的な障壁をそこに形成する。形成された障壁は、先に適用される治療剤(例えば歯のフッ化物処置)の溶離を実質的に低減し、それによってそのような剤の有効性を延長すると記載されている。US 4,485,090によると、その中の発明の組成物は、溶離の所望の低減及びその結果としての齲食及びプラークの制御を達成するために周期的な適用(例えば1日1回)のみを必要とする。
【0013】
US2004/0146466(Baigら)は、ポリマー状無機質表面活性剤、金属イオン、例えば第一スズ、亜鉛及びそれらの組合せを含む口腔組成物の使用によって浸食に対して歯を処置し保護する方法を開示している。記載のポリマー状無機質表面活性剤は、ポリアクリレート、並びに無水マレイン酸又はマレイン酸及びメチルビニルエーテルのコポリマー(例えばGantrez)を含む合成アニオンポリマーを含む。ポリマー状無機質表面活性剤の有効量は、口腔組成物全体の、約1重量%~約35重量%、好ましくは約2重量%~約30重量%、より好ましくは約5重量%~約25重量%、最も好ましくは約6重量%~約20重量%の範囲と記載されている。
【0014】
WO2007/069429(Lion Corporation)は、(A)0.3~1.2質量%の、式Mn+2PnO3n+1 (式中、MはNa又はKを表わし、nは整数2又は3である)によって表わされる、少なくとも1種の線形水溶性ポリリン酸塩、(B)0.1質量%~2.0質量%のメチルビニルエーテル/無水マレイン酸コポリマー(25℃及びpH7.0で5~1000mPa.sの粘度を有する2.0質量%水溶液)、(C)0.6~2.0質量%のラウリル硫酸塩、及び(D)0.2~1.0質量%のベタイン型両性界面活性剤を含有し、質量構成比(C)/(D)が1~4の範囲の練り歯磨剤組成物を開示している。そのような組成物は、口腔粘膜への刺激を低くし、使用中好ましい泡立ちを与え、そのうえ、歯の表面への着色の付着の予防に優れた効果があると記載されている。
【0015】
WO2011/094499(Colgate-Palmolive Company)は、メチルビニルエーテル及び無水マレイン酸のコポリマー、例えばGantrez、及び酸性のpHでより可溶性になる金属化合物又は塩を含む抗浸食口腔ケア製剤を開示している。WO2011/094499によると、粘膜付着性ポリマー、例えばGantrezは、成分の0.01~20重量%、好ましくは0.1~10重量%、及び最も好ましくは0.5~7重量%の範囲の量で経口的に許容される媒体に組み込まれてもよい。WO2011/094499に例示された「低ポリマー製剤」及び「高ポリマー製剤」は、Gantrezをそれぞれ0.5重量%及び2.0重量%含む。
【0016】
Ashland Speciality Chemicalsによって公開されたTechnical Information Sheet、Bulletin VC-862Aは、2%のGantrez S-97ポリマーを含有する練り歯磨剤を用いてエナメル質の前処置をした後、インビトロ試験でエナメル質の優れた耐酸浸食が観察され、Gantrezの存在は、酸浸食の低減において観察された改善の主要な理由であると考えられたことを報告した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
一態様において、本発明は、0.1重量%から2重量%未満まで、例えば0.1重量%から0.5重量%未満までの範囲の少量の、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸又はマレイン酸のコポリマーを、遊離のフッ化物イオンの供給源を含む歯磨剤組成物に有利に組み込むことができるという発見に基づいている。特に、特定の少量のコポリマー(0.2重量%~0.3重量%、本明細書において約0.25重量%によって例示される)は、フッ化物取込みにおいてかなりの改善を与える(例えばコポリマーを含有しない製剤と比較して)が、同時に著しく多く(すなわち、2又は4倍多く)のコポリマーを含む組成物を用いて達成されたものと同じようにエナメル質溶解性の低減をもたらすことが観察された。
【0018】
一態様において、本発明は、遊離フッ化物イオンの供給源、及び組成物の0.1重量%から2重量%未満までの、例えば0.1重量%から0.5重量%未満までの、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸又はマレイン酸のコポリマーを含む歯磨剤組成物であって、6.0~7.5のスラリーpHを有し、マロン酸、グルタル酸、酒石酸、乳酸及びそれらの混合物からなる群から選択されるカルボン酸又はそのアルカリ金属塩を含まない、歯磨剤組成物を提供する。
【0019】
そのような組成物は、歯牙浸食から歯を保護することに役に立つ。そのような組成物は、また齲歯から歯を保護することに役に立つ。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】PVM/MA(pH6.2)のEFUに対する効果を示す図である。
【
図2】PVM/MA(pH6.2)のESRに対する効果を示す図である。
【
図4】ヒトエナメル質の歯磨剤を用いる処置、続いて浸食負荷の後の組織損失データを示す図である。
【
図5】ヒトエナメル質の歯磨剤を用いる処置、続いて浸食負荷の後のエナメル質表面粗さデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による組成物は、遊離フッ化物イオンの供給源を含む。「遊離フッ化物イオンの供給源」という用語は、フッ化物イオンを含有する化合物を意味する。遊離フッ化物イオンの供給源は、アルカリ金属モノフルオロリン酸塩、例えばモノフルオロリン酸ナトリウムではない。遊離フッ化物イオンの供給源の適切な例は、アルカリ金属フッ化物、例えばフッ化ナトリウム又はフッ化カリウム、多価金属イオンフッ化物塩、例えばフッ化第一スズ、又はフッ化物とカチオン性有機イオンの塩、例えばフッ化アンモニウム若しくはビス-(ヒドロキシエチル)アミノ-プロピル-N-ヒドロキシエチルオクタデシルアミン-ジヒドロフルオリド、(アミンフッ化物)又はその混合物を含む。適切には、遊離フッ化物イオンの供給源は、25~5000ppm、好ましくは100~1500ppmのフッ化物イオンを与える量で使用される。一実施形態において、遊離フッ化物イオンの供給源はフッ化第一スズである。一実施形態において、遊離フッ化物イオンの供給源は、アルカリ金属フッ化物、例えばフッ化ナトリウムである。適切には、組成物は、フッ化ナトリウムを0.05重量%~0.5重量%、例えば0.1重量%(450ppmのフッ化物イオンと等しい)、0.205重量%(927ppmのフッ化物イオンと等しい)、0.2542重量%(1150ppmのフッ化物イオンと等しい)又は0.3152重量%(1426ppmのフッ化物イオンと等しい)含む。
【0022】
本発明による組成物は、弱酸性、中性、又は弱アルカリ性であり、すなわち、6.0~7.5、例えばpH6.1~7.4、6.2~7.3又は6.2~7.2の範囲のスラリーpHを有する。一実施形態において、組成物は約6.2のpHを有する。さらなる実施形態において、組成物は約7.0のpHを有する。言及されるpHは、歯磨剤組成物を、組成物と水との1:3重量比の水を用いてスラリー化した場合に測定されたものである。適切には、スラリーは、1部の歯磨剤組成物と3部の蒸留水の重量比で、水で歯磨剤組成物をスラリー化することにより調製される。pHは標準pH計を使用して求められる。
【0023】
適切には、本発明の歯磨剤組成物は、組成物のpHを所望のpHに調節するためのpH調整剤を含む。適切なpH調整剤は、アルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム、又は無機酸、例えば塩酸又は硫酸を含む。一実施形態において、pH調整剤は、水酸化ナトリウム、例えば10.2%の水酸化ナトリウム溶液である。pH調整剤は、組成物の0.005重量%~5重量%の量、例えば組成物の0.01重量%~2重量%又は0.02重量%~1重量%の量で使用されてもよい。
【0024】
本発明による組成物は、メチルビニルエーテル(MVE)と無水マレイン酸又はマレイン酸のコポリマーである表面保護剤を含む。一実施形態において、表面保護剤はMVEとマレイン酸のコポリマーである。一般に、コポリマーは、MVE及び無水マレイン酸又はマレイン酸の交互の単位を含む線状コポリマーである。一実施形態において、コポリマーは、1:4~4:1の比のMVE:無水マレイン酸又はマレイン酸、例えば1:1の比のMVE:無水マレイン酸又はマレイン酸(すなわち、MVEの含有量が約50モル%であり、無水マレイン酸又はマレイン酸の含有量が約50モル%である)を含む。一実施形態において、コポリマーは、無水物が、例えば共重合の後、完全に又は部分的に加水分解されて対応する酸を与える、MVEと無水マレイン酸のコポリマーの酸形態である。一実施形態において、コポリマーは、100,000~2,000,000、例えば、500,000~1,900,000又は1,000,000~1,800,000の範囲の分子量を有する。適切には、本発明で使用されるコポリマーは、商品名GANTREZ(登録商標)、例えばGANTREZ(登録商標)S-97 HSU溶液(Mw 1,500,000)、GANTREZ(登録商標)S-97 BF(Mw 1,200,000)、GANTREZ(登録商標)S-96(Mw 700,000)及びGANTREZ(登録商標)S-95(Mw 150,000)の下で市販されており、それらはすべてMVEとマレイン酸のコポリマーである。一実施形態において、コポリマーは、1,200,000又は1,500,000のおよその分子量を有する、MVEとマレイン酸のコポリマーであるGANTREZ(登録商標)S-97である。
【0025】
GANTREZ(登録商標)S-97は、固体(粉末)の形態で又は液体、例えば水溶液、例えばGANTREZ(登録商標)S-97 HSU溶液として用意されてもよい。一実施形態において、コポリマーは、以下の構造、及び以下に示された性質を有するGANTREZ(登録商標)ポリマーを含む。
【0026】
【化1】
pKa
1=3.5、pKa
2=6.5を有する二塩基酸
【0027】
【0028】
適切には、コポリマーの流動学的性質は、塩及び塩基の添加によって修正することができる。GANTREZ(登録商標)コポリマーは、Ashland Speciality Chemicals、Bound Brook、N.J. 08805、USA及びInternational Specialty Products、Wayne、NJ、USA.を含む様々な供給源から市販されている。
【0029】
組成物が、酸の攻撃からエナメル質を保護するために歯のエナメル質の表面を覆って遮蔽又は障壁を与えるように意図された表面保護剤(すなわち、上記に規定される本発明において使用されるコポリマー)を含む場合、高いフッ素添加の効果を達成する歯磨剤組成物を提供することは難問である。これは、典型的にはフッ素添加を起こす剤による歯の表面部位の表面被覆のためである。有利なことに、本発明において、コポリマーは、歯のエナメル質へのフッ化物の送達の際に不利な影響を与えることなく、フッ化物イオンの供給源と組み合わせられる。一実施形態において、フッ化物取込みは、コポリマーの存在下で有意に高められる。理論に束縛されるものではないが、ポリマーは、エナメル質によるフッ化物取込みを促進する働きをすることができ、及び/又は、歯の表面でのフッ化物の接触を延長する働きをすることができ、フルオロアパタイトの形成及び再石灰化を促進することを可能にする。有利なことに、本発明による組成物は、酸攻撃からエナメル質表面を保護し、結果的に、歯の表面の脱石灰化を阻害する効果的な物理的障壁のみでなく、また、フッ化物の作用によって、酸損傷を受けたエナメル質表面の効果的な再石灰化を提供しようとする。
【0030】
コポリマーは、組成物の0.1重量%から2重量%未満までの量、例えば組成物の0.1重量%から1.5重量%未満まで、又は組成物の0.1重量%~1重量%、又は組成物の0.1重量%から1重量%未満までの量で使用される。一実施形態において、コポリマーは、組成物の0.1重量%~0.5重量%の量、又は組成物の0.1重量%から0.5重量%未満まで、例えば組成物の0.15重量%~0.4重量%、又は0.2重量%~0.3重量%の量で使用される。一実施形態において、コポリマーは組成物の約0.25重量%の量で使用される。驚いたことに、本明細書において報告されるインビトロ試験で、そのような特定の少量のコポリマーが使用される場合、著しい改善が脱石灰化の阻害及びフッ化物の取込みに関して観察され得ることが見出された。一実施形態において、コポリマーは組成物の約0.25重量%の量で使用され、組成物は6.0~7.5、例えば約6.2のスラリーpHを有する。一実施形態において、コポリマーは組成物の約0.25重量%の量で使用され、組成物は約7.0のスラリーpHを有する。
【0031】
一実施形態において、本発明の組成物は第一スズイオン及び/又は亜鉛イオンを含まない。例えば、一実施形態において、本発明の組成物は、少なくとも0.001%の第一スズイオン、及び場合によって約0.001%~約4%の亜鉛イオンを含む、約0.001%~約5%の金属イオンを含まない。一実施形態において、本発明による組成物は、WO 2011/094499に開示されるように酸性のpHで、より可溶性になるカルシウム及び亜鉛の塩又は化合物を含まない。一実施形態において、組成物はカルシウム若しくは亜鉛の化合物又はその塩を含まない。
【0032】
本発明の組成物は、好適な製剤化剤、例えば口腔ケア組成物技術においてそのような目的に対して通常使用されるものから選択される歯科用研磨剤、界面活性剤、増粘剤、湿潤剤、香味剤、甘味剤、不透明化剤又は着色剤、防腐剤及び水を含有していてもよい。
【0033】
適切な歯科用研磨剤の例は、シリカ研磨剤、例えばHuber、Degussa、Ineos及びRhodiaによって以下の商品名、Zeodent、Sident、Sorbosil又はTixosilの下でそれぞれ市販されているものを含む。シリカ研磨剤は、歯の擦過を促進しないで歯磨剤によって歯の適切な清浄化を保証するのに十分な量で存在しなければならない。
【0034】
シリカ研磨剤は、一般に組成物全体の15重量%までの量で、例えば、組成物全体の2重量%~10重量%、及び好ましくは少なくとも5重量%、例えば5重量%~7重量%、特に6重量%の量で存在する。シリカ研磨剤のレベルを低減することは、歯磨剤の研磨性を下げることだけでなく、フッ化物イオンとの研磨剤の何らかの相互作用をも最小限にし、それによって遊離フッ化物イオンの利用可能性を増すという利点を有する。
【0035】
本発明で使用される適切な界面活性剤は、両性界面活性剤、例えば、長鎖アルキルベタイン、例えばAlbright & Wilsonによって商品名「Empigen BB」の下で市販されている製品、好ましくは長鎖アルキルアミドアルキルベタイン、例えばコカミドプロピルベタイン、又は低イオン性界面活性剤、例えばCrodaによって商品名Adinol CTの下で市販されているヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、又はその混合物を含む。両性界面活性剤は、単一界面活性剤として単独で使用することができ、又は、低イオン性界面活性剤と組み合わせることができる。適切には、界面活性剤は、C10~18アルキル硫酸塩界面活性剤、例えば一般に口腔組成物に使用されるラウリル硫酸ナトリウムではない。
【0036】
適切には、界面活性剤は、組成物全体の0.1重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~5重量%、及びより好ましくは0.5重量%~1.5重量%の範囲で存在する。
【0037】
適切な増粘剤は、例えば、非イオン性増粘剤、例えば、(C1-6)アルキルセルロースエーテル、例えばメチルセルロース;ヒドロキシ(C1-6)アルキルセルロースエーテル、例えばヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース;(C2-6)アルキレンオキシド修飾(C1-6)アルキルセルロースエーテル、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース;及びそれらの混合物を含む。他の増粘剤、例えば天然及び合成ゴム又はゴム様材料、例えばトチャカ、キサンタンガム、トラガカントゴム、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デンプン及び増粘シリカも使用されてもよい。好ましくは、増粘剤は増粘シリカ及びキサンタンガムの混合物である。
【0038】
有利なことに、増粘剤は、組成物全体の0.1重量%~30重量%、好ましくは1重量%~20重量%、より好ましくは5重量%~15重量%の範囲で存在する。
【0039】
本発明の組成物で使用される適切な湿潤剤は例えば、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、プロピレングリコール若しくはポリエチレングリコール、又はその混合物を含み、組成物全体の10重量%~80重量%、好ましくは20重量%~60重量%、より好ましくは25重量%~50重量%の範囲で存在してもよい。
【0040】
好ましい不透明化剤は、二酸化チタンであり、組成物全体の0.05重量%~2重量%、好ましくは0.075重量%~0.2重量%、例えば0.1重量%の範囲で存在してもよい。この量は、組成物の外観を高める。
【0041】
本発明の組成物において使用されてもよい香味剤は、様々な香味アルデヒド、エステル、アルコール、及び同様の材料、並びにメントール、カルボン及びアネトール、並びにその混合物を含む。精油の例は、スペアミント、ペパーミント、ウィンターグリーン、サッサフラス、クローブ、セージ、ユーカリ、マジョラム、シナモン、レモン、ライム、グレープフルーツ及びオレンジを含む。適切には、香味剤は、組成物の0.01重量%~4重量%、例えば0.1重量%~3重量%又は0.5重量%~2重量%の範囲の量で使用されてもよい。
【0042】
本発明の組成物において使用されてもよい甘味剤は、例えば、スクロース、グルコース、サッカリン、スクラロース、デキストロース、レブロース、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、フルクトース、マルトース、キシリトール、サッカリン塩(例えばサッカリンナトリウム)アセスルファム及びそれらの混合物を含む。一実施形態において、サッカリンナトリウムが甘味剤として使用される。適切には、甘味剤は、組成物の0.005重量%~10重量%、例えば0.01重量%~3重量%又は0.1重量%~1重量%の範囲の量で使用されてもよい。
【0043】
本発明の歯磨剤組成物は水性組成物である。水は、歯磨剤組成物の残部を構成することができる。一実施形態において、組成物は、5重量%~80重量%、例えば10重量%~60重量%、15重量%~40重量%又は20重量%~35重量%の水を含む。水のこの量は、添加される遊離水、及び歯磨剤組成物の他の成分、例えばソルビトールとともに導入される量を含む。
【0044】
本発明の歯磨剤組成物は典型的には練り歯磨剤又はゲル剤の形態で製剤化される。
【0045】
追加の口腔ケア有効成分が本発明の組成物中に含まれてもよい。
【0046】
本発明の組成物は、象牙質過敏症に効果がある減感剤をさらに含んでもよい。減感剤の例は、例えばWO 02/15809に記載のような、細管遮断薬又は神経減感剤及びその混合物を含む。
【0047】
適切な細管遮断薬は、ストロンチウム塩、例えば塩化ストロンチウム、酢酸ストロンチウム又は硝酸ストロンチウムを含む。適切には、ストロンチウム塩は、一般に組成物の5重量%~15重量%の量で使用される。
【0048】
一実施形態において、細管遮断薬は生体活性ガラスである。適切には、生体活性ガラスは、45重量%の二酸化ケイ素、24.5重量%の酸化ナトリウム、6重量%の酸化リン及び24.5重量%の酸化カルシウムからなる。そのような1種の生体活性ガラスは、45S5 BIOGLASSとしても知られる商品名、NOVAMINの下で市販されている。適切には、生体活性ガラスは、一般に組成物の1重量%~10重量%の量で使用される。
【0049】
一実施形態において、細管遮断薬はフッ化第一スズである。フッ化第一スズは、加水分解及び酸化反応によって不溶性金属塩を形成し、象牙質細管中及び象牙質表面で析出して象牙質過敏症を効果的に軽減する。フッ化第一スズはまた、齲食及びプラーク/歯肉炎からの保護を達成することができるフッ化物の供給源を与えるために使用されてもよい。
【0050】
適切な神経減感剤は、カリウム塩、例えばクエン酸カリウム、塩化カリウム、重炭酸カリウム、グルコン酸カリウム、及び特に硝酸カリウムを含む。感度を減じる量のカリウム塩は、一般に組成物全体の2~8重量%の間にあり、例えば、5重量%の硝酸カリウムを使用することができる。
【0051】
本発明の組成物は、例えば、ポリリン酸塩から選択される美白剤、例えば、トリポリリン酸ナトリウム(STP)を含んでもよく、及び/又は、存在する任意の追加のシリカ研磨剤は、高度な清浄性を有していてもよい。STPは、組成物全体の2重量%~15重量%、例えば5重量%~10重量%の量で存在してもよい。
【0052】
本発明の組成物は、通常当業界で使用されるような、アルミニウム-プラスチック積層チューブ又はプラスチックポンプに格納し分注するのに適している。
【0053】
本発明の組成物は、都合のよい任意の順序で好適な相対量の成分を混合すること、及びpHを調節して所望の値を得ることによって調製されてもよい。
【0054】
本発明による例示的な歯磨剤組成物は次のもの:0.05%~0.5%の量の遊離フッ化物イオンの供給源、例えばフッ化ナトリウム、0.1%から0.5%未満までの量のMVEと無水マレイン酸又はマレイン酸のコポリマー、例えばGANTREZ(登録商標)S-97を含み、組成物は6.0~7.5のスラリーpHを有する。
【0055】
本発明は歯牙浸食から歯を保護することに使用するための上文に規定される組成物を提供する。本発明はさらに、齲歯から歯を保護することに使用するための上文に規定される組成物を提供する。
【0056】
本発明は、歯の表面の歯牙浸食の処置及び/又は阻害に使用するための上文に規定される組成物を提供する。本発明は、歯の表面の齲蝕の処置及び/又は阻害に使用するための上文に規定される組成物を提供する。
【0057】
本発明は、また有効量の上文に規定される組成物をそれを必要とする個体に適用することを含む、歯牙浸食から歯を保護する方法を提供する。本発明は、また、有効量の上文に規定される組成物をそれを必要とする個体に適用することを含む、齲歯から歯を保護する方法を提供する。
【0058】
本発明は、歯の表面を上文に規定される組成物と接触させることを含む、歯の表面の歯牙浸食を処置及び/又は阻害する方法を提供する。
【0059】
本発明は、歯の表面を上文に規定される組成物と接触させることを含む、歯の表面の齲歯を処置及び/又は阻害する方法を提供する。本発明は、以下の実施例によってさらに説明される。
【実施例0060】
[実施例1]
下記(表1を参照)の歯磨剤組成物製剤F15~F21を調製した。
【0061】
【0062】
[実施例2]
エナメル質フッ化物取込み(EFU)
この実施例は、表1に記載の歯磨剤組成物(F15~F21)について行ったエナメル質フッ化物取込み試験を説明する。
【0063】
方法
EFUテスト手順は、米国食品医薬品局(FDA)試験手順に記載の手順40を基準にした。本件において、ヒドロキシアパタイトで50%飽和した0.2%w/vポリアクリル酸(Carbopol 907)を含有する0.1M乳酸pH5.0を使用して、初期病変を形成した。
【0064】
健康な上側中央のウシ門歯の、付着した軟質組織をすべて清浄した。流水下で中空コアのダイヤモンドドリルビットを使用して、各歯から直径3mmのエナメル質のコアを調製した。メタクリル酸メチルを使用して、プレキシグラスロッドの端部に試験片を埋め込み、600番砂粒耐水サンドペーパー(600 grit wet/dry paper)、次いで微細ガンマアルミナを用いて研磨した。試験では1つの群当たり12の試験片を使用した。
【0065】
連続的にかき混ぜながら1M過塩素酸(HCl04)溶液0.5mlへ15秒間浸漬することによって、各エナメル質試験片をエッチングした。
【0066】
フッ化物電極の使用によりこの溶液のフッ化物含有量を求めて、エナメル質試験片のバックグラウンドのフッ化物含有量を求めた。
【0067】
試験片をもう一度砕き、上に記載のように研磨した。0.1M乳酸/0.2%Carbopol 907溶液へ37℃で24時間浸漬することによって、初期病変を各エナメル質試験片に形成した。これらの試験片を水ですすぎ、使用するまで湿度の高い環境に保管した。
【0068】
30分間一定の撹拌(350rpm)をしながら、試験片を、割り当てた1重量部の歯磨剤及び3重量部の蒸留水のスラリーの上澄み25mlに浸漬した。処置後、試験片は水を用いてすすいだ。上記のようにエッチングすることにより各試験片からエナメル質の1つの層を除去した。エッチング溶液を、フッ化物(イオン特異性電極)及びカルシウムについて分析した。次いで、後処置値から各試験片の前処置フッ化物(固有)レベルを差し引いて試験処置によるエナメル質フッ化物の変化を求めた。
【0069】
統計的分析
一元配置分散分析モデルを用いて個々の平均値の統計的分析を行なった。スチューデント・ニューマン・クールズ検定によって、差異の有意性を分析した。
【0070】
【0071】
【0072】
5%の有意水準で、すべてのフッ化物含有製剤は、フッ化物を含まない偽薬より統計的に有意に高かった。0.25%のPVM/MAコポリマーを含有する製剤(製剤19)は、試験した他のすべての製剤より統計的に有意に優れていた。他の製剤間に有意差はなかった。
【0073】
結論
フッ化物含有製剤はすべてフッ化物を含まない偽薬より優れていた。
【0074】
0.25%のポリマーの使用は、EFUに対して驚くほど有利であったことを示唆する証拠があった。
【0075】
[実施例3]
エナメル質溶解性低減試験
表1の上記の歯磨剤組成物製剤15~21を調製し、下記のようにESRを求めた。表3及び
図2に結果を示す。
【0076】
歯の調製
3本の健康なヒト臼歯をエナメル質表面のみが露出するようにワックス中に置き、次いで、清浄し、研磨した。それぞれ3本の歯の12組を試験のために用意した。
【0077】
乳酸塩緩衝液の調製
pH4.5に緩衝した0.1M乳酸溶液を調製した。
【0078】
脱保護
歯の表面を、0.1M乳酸塩緩衝液中室温で1時間を2期エッチングし、次いで、水を用いてよくすすいだ。
【0079】
前処置エッチング
インキュベーター中で予備加熱(37℃)した歯の組及び乳酸塩緩衝液を使用して、試験を行なった。酸で前処置した歯の組は、溶融ワックスを用いてアクリル棒の端部に載せた。各容器蓋に小さな穴を空けて歯の組を載せたプラスチック棒を収容した。0.1M乳酸緩衝液の40ml部分を各容器に入れた。第1の歯の組の棒を蓋の穴に押し込み、第1の容器中に置き、エナメル質表面がすべて乳酸溶液へ浸漬するように調節した。緩衝した乳酸塩溶液への15分間の撹拌した曝露の後、容器から歯の組を取り出し、水中ですすいだ。乳酸塩緩衝液を保持し、リンについて分析した。次いで、処置工程のために37℃の水浴中に歯の組を戻した。
【0080】
処置
歯の組をすべて同時に処置した(各製品につき1つ)。各容器に予備加熱した歯磨剤スラリーの30mlの部分を添加し、次いで、歯を歯磨剤スラリー中に浸漬し、5分間撹拌した。他の歯磨剤スラリーと同様の方法で他の歯の組を処置した。処置の終わりに、歯の組を取り出し、水を用いてよくすすいだ。
【0081】
後処置
第2の乳酸曝露は、歯磨剤処置した試料について前処置エッチングと同じ方法によって行い、リンについて処置溶液を分析した。Klett-Summerson Photelectric Colorimeterを使用して、リンについて前処置及び後処置溶液を分析した。
【0082】
歯の組はもう一度エッチングし、各歯の組を各歯磨剤を用いて処置するために、手順をさらなる回数繰り返した。処置順序の変動を保証するためにラテン方格法で処置を割り付けた。
【0083】
E.S.R.の計算
エナメル質溶解性低減のパーセントを、前及び後酸性溶液中のリンの量の差を前酸性溶液中のリンの量で割り100を掛けて計算した。
【0084】
結果
【0085】
【0086】
フッ化物含有歯磨剤はすべてフッ化物を含まない偽薬より統計的に優れたESR値を与えた。PVM/MAコポリマー含有量に対して明瞭な用量応答が、0%から0.25%の間で観察された。およそ15%のESRの増加が、0.25%PVM/MAコポリマーの存在により観察された。0.25%を超えると、少なくとも1%までのPVM/MAコポリマーで、それ以上のESRの増加は観察されなかった。
【0087】
結論
0.25%までのPVM/MAコポリマーの添加は、エナメル質溶解性低減において著しい増加をもたらした。より高レベルのコポリマーの添加についてそれ以上の増加は認められなかった。
【0088】
[実施例4]
歯磨剤処置後の初期病変における無機質損失を定量する、横断マイクロラジオグラフィー(TMR)試験
本発明による歯磨剤組成物、以下の表4に記載の製剤22~24をこの試験に使用するために調製した。さらに、2種の市販されている対照製剤、Sensodyne Pronamel及びColgate Totalを含めた。以下に詳述するTMR試験を行い、結果を
図3及び表5に示した。本モデルは、Featherstoneら[1986]によって記載されたpH循環モデルの変形である。
【0089】
Featherstone JDB, O'Reilly MM、Shariati M、Brugler S. Enhancement of remineralization in vitro and in vivo。In: Leach SA、ed.Factors Relating to Demineralisation and Remineralisation of the Teeth、23 34ページ(IRL Press Ltd、Oxford、1986
【0090】
【0091】
方法
試験片調製
ヒト永久歯からエナメル質試験片を得た。Buehler Isometの低速のこぎりを使用して、4×4mm試験片に歯冠を切断した。試料調製プロセス中、チモールに歯を保管した。試験片を摩砕し、研磨設備Struers Rotopol 31/Rotoforce 4(Struers Inc.、 Cleveland、Pa.、 USA)を使用して研磨して、平らな平行平面の象牙質及びエナメル質表面を作った。試験片の象牙質側を500番砂粒炭化ケイ素摩砕紙を用いて均一な厚さに平らに摩砕した。試験片のエナメル質側を1,200、2,400及び4,000番砂粒紙を使用して連続的に摩砕した。次いで、試験片は1μmのダイヤモンド研磨懸濁液を研磨布で使用し、試験片にわたってエナメル質表面に最低限2×4mmの高度研磨面ができるまで研磨した。得られた試験片は1.7~2.2mmの厚さ範囲であった。試験の使用から除外する、エナメル質表面の割れ目、低石灰化(白い斑点)領域又は他の欠陥について20倍の倍率でNikon SMZ 1500実体顕微鏡の下で試験片を評価した。耐酸性カラーマニュキュア液(Sally Hansen Advanced Hard As Nails Nail Polish、USA)を使用し、寸法がおよそ1.7×4mmの実験窓を試験片に作り、どちらかの側に健康なエナメル質(参照)領域を残した。使用するまで調製した試験片を4℃で100%の相対湿度で保管した。合計135の試験片がこの試験のために必要とされた。
【0092】
マイクロラジオグラフィー
pH循環試験の完了後に、およそ厚さ100μmの部分を、病変を作った後(病変基準線)、試験片の1つの側から、病変窓及び健康なエナメル質(対照標準)領域にわたってSilverstone-Taylor Hard Tissue Microtome (Scientific Fabrications Laboratories、USA)を使用して切断した。この部分を、高解像度ガラスプレートType I A (Microchrome Technology Inc.、 San Jose、CA)にアルミニウム階段楔とともに載せ、20kV及び30mAで42cmの距離をおいて65分間エックス線写真を撮った。フィルムを3分間Kodak d-19現像液で現像し、45秒間停止浴(Kodak 146-4247)中に入れ、次いで、3分間定着した(Kodak 146-4106)。次いで、脱イオン水中で15分間プレートをすべてすすぎ、風乾した。TMRソフトウェアv.3.0.0.11と組み合わせてZeiss EOM顕微鏡を用いてマイクロラジオグラフを検査した。健康なエナメル質は87%v/vの無機質であると見なされた。
【0093】
試験可変項
報告した可変項はすべて、以下のように要約される:
ΔZ - 病変体積(病変深さとその深さにわたる無機質損失の積)
L - 病変深さ(83%無機質、すなわち健康なエナメル質の95%の無機質含有量)
SZmax - 病変表面領域での最大無機質密度
【0094】
試験片無作為化
試験片をn=24の5つの処置群に無作為化した(内部対照用 n=18)。
【0095】
処置群当たり1ストッパー当たり6試験片を有する4つのストッパー(内部対照用3)に、試験片を割り当てた。
【0096】
pH循環相(15処置日)
1重量部の歯磨剤を磁気撹拌機を用いてビーカー中で3重量部の脱イオン水と混合することにより、練り歯磨剤スラリーを調製した(例えば8gの練り歯磨剤+24gの脱イオン水)。各処置の直前に各部分群のための新鮮なスラリーを調製した。処置品はすべて350rpmで撹拌した。
【0097】
すべての処置方式で以下の組成を有する脱石灰化溶液を使用した。(各周期で更新した):
化合物 mM
酢酸 75
CaCl2 × 2H2O 2.0
KH2PO4 2.0
(KOHを用いてpHを4.4に調節した)
【0098】
すべての処置方式で以下の組成を有するpH7の再石灰化溶液を使用した:
化合物 mM
CaCl2 × 2H2O 1.5
KH2PO4 0.9
KCl 130
HEPES 20
【0099】
循環処置計画は、15処置日の間毎日繰り返す以下のpH循環方式からなっていた。
pH循環方式:
1分の処置
6時間の脱石灰化溶液(37℃)
1分の処置
16時間の再石灰化溶液(37℃)
【0100】
試験片は、再石灰化溶液中に終夜残した。試験片は、週末及び公休日の間はpH循環しなかった。明ける前の日、試験片を、第2の処置後、1時間再石灰化溶液に曝露した。次いで、試験片を脱イオン水の流水ですすぎ、次のpH循環日までおよそ4℃及び100%相対湿度で保管し、次いで上に概説したようにpH循環を始めた。
【0101】
試験製品による各処置後、又は脱石灰化溶液への曝露の後、試験片を脱イオン水の流水ですすいだ。次いで、再石灰化溶液に試験片をすべて戻した。
【0102】
データ管理及び統計的分析
各試験片について試験可変項ΔZ、L及びSZmaxを計算した。要因として試験製品を含めた分散分析を使用して、試験可変項を分析した。主要な評価項目はΔZである。統計的検定はすべて、α=0.05の名義有意水準で両側検定した。
【0103】
結果及び結論
図3及び表5に示すデータは、ΔZの値は0.25%のGantrezを含有する製剤22でより低いことを示す。ΔZのこの値は、2種の市販対照練り歯磨剤のそれより統計的に低く、より高い百分率のgantrezを含有する製剤のいずれよりも方向として低い。ΔZのこのより低い値は、実験の終わりには、より高い無機質含有量のより浅い病変を表わし、実験時に実行した酸性負荷に対する製剤22による大きなエナメル質保護を示す。
【0104】
【0105】
[実施例5]
白色光干渉分析(エナメル質保護)
この試験の目的は、食事由来の酸によって続いて起こる浸食への、歯磨剤製剤を用いてヒトエナメル質をインビトロ処置する効果をモニターし、定量することであった。
【0106】
白色光干渉法の技法は表面トポグラフィーの迅速な視覚化を提供することができる。粗さパラメーターの判定は非接触様式で実行することができ、ナノメートル尺度の高さ分解能が入手できる。
【0107】
方法
25のヒトエナメル質試験片を平らに研磨し、その表面領域に耐酸性テープを使用して貼った。次いで、試験片を5つの処置群(各群についてn=5)に分割し、手でブラシを2分間かけ、以下の歯磨剤スラリー(脱イオン水中1:3重量%)製剤22、製剤23、製剤24、製剤25又は製剤26の1つへ浸漬した。製剤22~24は、上の表4に記載の通りであり、製剤25及び26は以下の表5で詳述する。次いで、試料を脱イオン水で1分間洗った。歯磨剤で処置した後、1%のクエン酸中pH3.8で、かき混ぜずに5分間試験片を懸濁した。脱イオン水で試験片を洗浄し、風乾し、次いで、白色光干渉計を使用して分析した。
【0108】
ADE PhaseShift MicroXAM White Light Interferometerを使用して試験片の表面トポグラフィーを調べた。各試験片について複数の領域(687μm x 511μm及び215μm x 160μmの大きさ)からデータを得た。テープの覆いを除去した後、バルク組織損失を評価するために追加の測定を行った。>95%の信頼水準に対して両側不等分散スチューデントt検定を使用して統計的分析を実行した。
【0109】
【0110】
【0111】
結果
物質的損失[ステップ高さ]分析:
処置群についての物質的損失は以下の傾向に従った:
[最大ステップ]製剤26>25≧23≧24>22[最小ステップ]。
製剤22についてのステップ高さの長所は、他のすべての製剤と比較して95%の信頼水準で統計的に有意である。
【0112】
表面粗さ(Sa)分析:
処置群について表面粗さは以下の傾向に従った:
[最大のSa]製剤26>25≧23≧24>22[最小のSa]
製剤22で処置したエナメル質のより低い表面粗さは、他のすべての製剤と比較して、95%の信頼水準で統計的に有意である。
【0113】
結論
上記のデータは、0.25%のGantrezを含有する歯磨剤(製剤22)を用いる前処置は、浸食負荷に対する最も大きな保護を提供することを示す。最も低い保護は、最多のGantrezを含有する歯磨剤(2%、製剤26)を用いる前処置によって提供される。
遊離フッ化物イオンの供給源、及び組成物の0.1重量%から2重量%未満までの、メチルビニルエーテル(MVE)と無水マレイン酸又はマレイン酸のコポリマーを含む歯磨剤組成物であって、6.0~7.5のスラリーpHを有し、マロン酸、グルタル酸、酒石酸、乳酸及びそれらの混合物からなる群から選択されるカルボン酸又はそのアルカリ金属塩を含まない、歯磨剤組成物。