(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020252
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】波長変換部材及びそれを用いた発光装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20240206BHJP
C03C 14/00 20060101ALI20240206BHJP
C03C 4/12 20060101ALI20240206BHJP
C03C 3/068 20060101ALI20240206BHJP
C03C 3/095 20060101ALI20240206BHJP
C03C 3/097 20060101ALI20240206BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20240206BHJP
【FI】
G02B5/20
C03C14/00
C03C4/12
C03C3/068
C03C3/095
C03C3/097
H01L33/50
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023185445
(22)【出願日】2023-10-30
(62)【分割の表示】P 2020516119の分割
【原出願日】2019-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2018084012
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古山 忠仁
(72)【発明者】
【氏名】福本 彰太郎
(57)【要約】
【課題】ガラスマトリクス中に蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材であって、発光効率に優れた波長変換部材を提供する。
【解決手段】ガラスマトリクス中に蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材であって、
ガラスマトリクスの屈折率(nd)が1.6以上、液相温度が1070℃以下であることを特徴とする波長変換部材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスマトリクス中に蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材であって、
ガラスマトリクスの屈折率(nd)が1.66以上、液相温度が1070℃以下であり、
ガラスマトリクスが、質量%で、B2O3 0%超、La2O3 0.1%以上であることを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
ガラスマトリクスが、質量%で、SiO2 1.6%以上であることを特徴とする請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
ガラスマトリクスが、質量%で、SiO2 1.6~50%、Al2O3 8%以下、B2O3 15%以下、MgO 10%以下、CaO 15%以下、SrO 15%以下、BaO 50%以下、ZnO 30%以下、ZrO2 10%以下、Nb2O5 5%以下、TiO2 15%以下、La2O3 25%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
ガラスマトリクスが、質量%で、SiO2 1.6~50%、Al2O3 0.1~8%、B2O3 0超~15%、MgO 0~10%、CaO 0~15%、SrO 0~15%、BaO 0.1~50%、ZnO 0~20%、ZrO2 0~10%、Nb2O5 0~5%、TiO2 2.1~15%、La2O3 0.1~15%を含有し、(TiO2+La2O3)/B2O3が0.5以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項5】
ガラスマトリクス中のLi2O+Na2O+K2Oの含有量が0~5%であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項6】
ガラスマトリクス中のSb2O3の含有量が0.2%未満であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項7】
蛍光体粉末が、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、酸化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体及びアルミン酸塩蛍光体から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項8】
蛍光体粉末を0.01~70体積%含有することを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項9】
ガラス粉末と蛍光体粉末を含む混合物の焼結体からなることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の波長変換部材、及び、
波長変換部材に励起光を照射する光源、
を備えてなることを特徴とする発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザーダイオード(LD:Laser Diode)等の発する光の波長を別の波長に変換する波長変換部材及びそれを用いた発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光ランプや白熱灯に変わる次世代の発光装置として、低消費電力、小型軽量、容易な光量調節という観点から、LEDやLD等の励起光源を用いた発光装置に対する注目が高まってきている。そのような次世代発光装置の一例として、例えば特許文献1には、青色光を出射するLED上に、LEDからの光の一部を吸収して黄色光に変換する波長変換部材が配置された発光装置が開示されている。この発光装置は、LEDから出射された青色光と、波長変換部材から出射された黄色光との合成光である白色光を発する。
【0003】
波長変換部材としては、従来、樹脂マトリクス中に蛍光体粉末を分散させたものが用いられている。しかしながら、当該波長変換部材を用いた場合、励起光源からの光により樹脂が劣化し、発光装置の輝度が低くなりやすいという問題がある。特に、励起光源が発する熱や高エネルギーの短波長(青色~紫外)光によってモールド樹脂が劣化し、変色や変形を起こすという問題がある。
【0004】
そこで、樹脂マトリクスに代えてガラスマトリクス中に蛍光体粉末を分散固定した、完全無機固体からなる波長変換部材が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。当該波長変換部材は、母材となるガラスがLEDの熱や照射光により劣化しにくく、変色や変形といった問題が生じにくいという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-208815号公報
【特許文献2】特開2003-258308号公報
【特許文献3】特許第4895541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
波長変換部材の発光効率を高めるためには、波長変換部材で発生する蛍光を効率良く外部に取り出すことが重要である。そのために、波長変換部材の厚みを薄くし蛍光体粉末の濃度を高めることでガラスマトリクス起因の吸収損失を軽減させることが知られているが、蛍光体粉末の混合濃度を高めると、励起光や蛍光の内部散乱が大きくなり、発光効率が低下する傾向がある。また、熱に弱い蛍光体粉末を封止するためにガラスマトリクスの軟化点を低温化した場合においても、励起光や蛍光の内部散乱が大きくなり、発光効率が低下する傾向がある。
【0007】
以上に鑑み、本発明はガラスマトリクス中に蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材であって、発光効率に優れた波長変換部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の波長変換部材は、ガラスマトリクス中に蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材であって、ガラスマトリクスの屈折率(nd)が1.6以上、液相温度が1070℃以下であることを特徴とする。波長変換部材に使用される蛍光体粉末は一般的に屈折率が高いものが多く、蛍光体粉末の混合濃度を高めると、ガラスマトリクスとの屈折率差に起因する内部散乱が多くなり、発光効率が低下する傾向がある。そこで、ガラスマトリクスの屈折率を上記の通り高くすることにより、蛍光体粉末との屈折率差が小さくなり、内部散乱を低減することができる。また、ガラスマトリクスの軟化点を低温化すると焼成時に失透しやすく、析出結晶(失透物)とガラスマトリクスの屈折率差による散乱によって発光効率が低下する傾向がある。本発明では、ガラスマトリクスの液相温度を上記の通り低く(液相粘度を高くする)することにより、焼成時の失透を抑制でき、内部散乱を低減することができる。以上により、発光効率に優れた波長変換部材とすることが可能となる。
【0009】
本発明の波長変換部材は、ガラスマトリクスが、質量%で、SiO2 25~50%、Al2O3 0.1~8%、B2O3 0超~15%、MgO 0~10%、CaO 0~15%、SrO 0~15%、BaO 0.1~50%、ZnO 0~20%、ZrO2 0~10%、Nb2O5 0~5%、TiO2 2.1~15%、La2O3 0.1~15%を含有し、(TiO2+La2O3)/B2O3が0.5以上であることが好ましい。当該構成によれば、上述した所望の特性を有する波長変換部材が得やすくなる。具体的には、ガラスマトリクスがTiO2及びLa2O3を上記所定量含有することで屈折率を高めることができる。また、TiO2、La2O3及びB2O3の含有量を上記の通り最適化することで耐失透性に優れたガラスとすることが可能となる。なお、「(TiO2+La2O3)/B2O3」はTiO2とLa2O3の合量をB2O3の含有量で除した値を意味する。
【0010】
本発明の波長変換部材は、ガラスマトリクス中のLi2O+Na2O+K2Oの含有量が0~5%であることが好ましい。このようにすれば、ガラスマトリクスの耐失透性を向上させることができる。なお、「Li2O+Na2O+K2O」はLi2O、Na2O及びK2Oの合量を意味する。
【0011】
本発明の波長変換部材は、ガラスマトリクス中のSb2O3の含有量が0.2%未満であることが好ましい。
【0012】
本発明の波長変換部材は、蛍光体粉末が、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、酸化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体及びアルミン酸塩蛍光体から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0013】
本発明の波長変換部材は、蛍光体粉末を0.01~70体積%含有することが好ましい。
【0014】
本発明の波長変換部材は、ガラス粉末と蛍光体粉末を含む混合物の焼結体からなることが好ましい。このようにすれば、蛍光体粉末をガラスマトリクス中に均一に分散しやすくなり、波長変換部材から発せられる光が均質になりやすくなる。
【0015】
本発明の発光装置は、上記の波長変換部材、及び、波長変換部材に励起光を照射する光源、を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガラスマトリクス中に蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材であって、発光効率に優れた波長変換部材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る発光装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の波長変換部材は、ガラスマトリクス中に蛍光体粉末が分散してなるものである。
【0019】
ガラスマトリクスの屈折率(nd)は1.6以上であり、1.64以上、1.65以上、1.67以上、1.68以上、1.69以上、特に1.7以上であることが好ましい。ガラスマトリクスの屈折率が低すぎると、ガラスマトリクスと蛍光体粉末の屈折率差に起因する内部散乱が大きくなり、波長変換部材の発光効率が低下する傾向がある。一方、ガラスマトリクスの屈折率が高すぎると、むしろガラスマトリクスと蛍光体粉末の屈折率差に起因する内部散乱が大きくなるおそれがあるため、ガラスマトリクスの屈折率は2.2以下、2.1以下、2以下、特に1.9以下であることが好ましい。なお、屈折率を高めるためには、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO)やZrO2、Nb2O5、TiO2、La2O3等の成分を含有させればよい。あるいは、屈折率を低下させる傾向があるSiO2、Al2O3、B2O3等の成分の含有量の上限を規制すればよい。
【0020】
ガラスマトリクスの液相温度(TL)は1070℃以下であり、1060℃以下、1040℃以下、1020℃以下、1000℃以下、980℃以下、960℃以下、特に940℃以下であることが好ましい。液相温度が高すぎると焼成時に失透しやすくなり、析出結晶とガラスマトリクスの屈折率差による散乱によって発光効率が低下する傾向がある。なお、液相温度の下限は特に限定されないが、現実的には700℃以上、さらには800℃以上である。なお、液相温度を低下させるためには、Al2O3、B2O3、ZnO、ZrO2等を含有させればよい。また(TiO2+La2O3)/B2O3を適宜調整すればよい。
【0021】
ガラスマトリクスの組成は上記特性を有するよう選択することが好ましく、例えば、質量%で、SiO2 25~50%、Al2O3 0.1~8%、B2O3 0超~15%、MgO 0~10%、CaO 0~15%、SrO 0~15%、BaO 0.1~50%、ZnO 0~20%、ZrO2 0~10%、Nb2O5 0~5%、TiO2 2.1~15%、La2O3 0.1~15%を含有し、(TiO2+La2O3)/B2O3が0.5以上であるものが挙げられる。ガラス組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0022】
SiO2はガラスネットワークを形成する成分である。SiO2の含有量が少なくなると、ガラス網目構造を形成し難くなってガラス化が困難になる傾向がある。また、耐薬品性が低下する傾向がある。波長変換部材は加工後に酸洗浄を行うことがあるが、ガラスマトリクスの耐薬品性が低いと、変質して発光効率が低下するおそれがある。よって、SiO2の含有量は25%以上、特に30%以上であることが好ましい。一方、SiO2の含有量が多くなると、屈折率が低下したり、溶融性が悪化し易くなる。よって、SiO2の含有量は50%以下、48%以下、45%以下、特に40%以下であることが好ましい。
【0023】
Al2O3はガラス組成の成分バランスを安定にして、耐失透性の向上に寄与する成分である。ただし、その含有量が多すぎると、液相温度が上昇して溶融時や焼成時に失透し易くなる。また屈折率が低下し易くなる。よって、Al2O3の含有量は8%以下、6%以下、特に5%以下であることが好ましい。一方、上記効果を得るため、Al2O3の含有量は0.1%以上、0.5%以上、特に1%以上であることが好ましい。
【0024】
B2O3は液相温度を低下させて耐失透性を高める成分である。ただし、その含有量が多すぎると、屈折率が低下し易くなる。また歪点が低下し易くなる。ガラスマトリクスの歪点が低下するとガラスの耐熱性が低下し、励起光を照射した際の熱により波長変換部材が軟化変形するおそれがある。よって、B2O3の含有量は15%以下、10%以下、特に8%以下であることが好ましい。一方、上記効果を得るためには、B2O3の含有量は0%超、1%以上、2%以上、特に5%以上であることが好ましい。
【0025】
MgOは屈折率を高める成分である。また、溶融性を改善する効果がある。ただし、その含有量が多すぎると、ガラス組成のバランスを欠いて、耐失透性が低下したり、分相し易くなる。よって、MgOの含有量は10%以下、8%以下、6%以下、3%であることが好ましい。なお、上記効果を得るためには、MgOの含有量を0.1%以上、特に0.5%以上とすることが好ましい。
【0026】
CaOは屈折率を高める成分である。また、溶融性を改善する効果がある。ただし、その含有量が多すぎると、ガラス組成のバランスを欠いて、耐失透性が低下し易くなる。よって、CaOの含有量は15%以下、特に10%以下であることが好ましい。なお、上記効果を得るためには、CaOの含有量は1%以上、2%以上、3%以上、特に5%以上であることが好ましい。
【0027】
SrOは屈折率を高める成分である。また、溶融性を改善する効果がある。ただし、その含有量が多すぎると、ガラス組成のバランスを欠いて、耐失透性が低下し易くなる。よって、SrOの含有量は15%以下、12%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、特に6%以下であることが好ましい。なお、上記効果を得るためには、SrOの含有量は0.5%以上、1%以上、2%以上、3%以上、特に3.5%以上であることが好ましい。
【0028】
BaOはアルカリ土類金属酸化物の中で、屈折率を高める効果が高い成分である。ただし、その含有量が多すぎると、ガラス組成のバランスを欠いて、耐失透性が低下し易くなる。よって、BaOの含有量は50%以下、40%以下、35%以下、特に30%以下であることが好ましい。なお、上記効果を得るため、BaOの含有量は0.1%以上、10%以上、20%以上、22%以上、特に25%以上であることが好ましい。
【0029】
ZnOは耐失透性を向上させる成分である。ただし、その含有量が多すぎると、ガラス組成のバランスを欠いて、耐失透性と耐薬品性が低下し易くなる。従って、ZnO含有量は30%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、2%以下が好ましく、実質的に含有しないことがより好ましい。なお、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原料として意図的に含有させないことを意味し、不可避的不純物の混入を排除するものではない。客観的には、該当する成分の含有量が0.1%未満であることを意味する。
【0030】
ZrO2は屈折率を高めたり、耐失透性や耐薬品性を高める成分である。ただし、その含有量が多すぎると、耐失透性が低下し易くなる。よって、ZrO2の含有量は10%以下、8%以下、5%以下、特に3%以下であることが好ましい。なお下限は特に限定されず、0%でも良いが、上記効果を得るためには、ZrO2の含有量は0.1%以上、1%以上、特に2%以上であることが好ましい。
【0031】
Nb2O5は屈折率を高める成分である。ただし、その含有量が多すぎると、耐失透性が低下したり、可視光透過率が低下易くなる。また、原料コストが高騰しやすくなる。よって、Nb2O5の含有量は5%以下、3%以下、1%以下が好ましく、実質的に含有しないことがより好ましい。
【0032】
TiO2は屈折率を高める成分であり、また耐薬品性を高める成分である。ただし、その含有量が多すぎると、耐失透性が低下し易くなる。よって、TiO2の含有量は15%以下、13%以下、特に11%以下であることが好ましい。なお、上記効果を得るためには、TiO2の含有量は1%以上、2.1%以上、3%以上、特に5%以上であることが好ましい。
【0033】
La2O3は屈折率と耐薬品性を高める成分である。ただし、その含有量が多すぎると、耐失透性が低下し易くなる。よって、La2O3の含有量は25%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、特に10%以下であることが好ましい。なお、上記効果を得るためには、La2O3含有量は0.1%以上、1%以上、2.5%以上、3%以上、5%以上、特に7%以上であることが好ましい。
【0034】
(TiO2+La2O3)/B2O3を適宜調整することにより、耐失透性と耐薬品性を両立させることができる。(TiO2+La2O3)/B2O3は0.5以上、1以上、特に1.5以上であることが好ましい。(TiO2+La2O3)/B2O3が小さすぎると、耐薬品性が低下しやすくなる。また、屈折率が低下しやすくなる。なお、(TiO2+La2O3)/B2O3の上限は特に限定されないが、その値が大きすぎると、液相粘度が低下して失透傾向が強まる傾向があるため、6以下、4以下、3.5以下、特に3以下が好ましい。
【0035】
Li2O、Na2O及びK2Oは失透傾向を強める成分である。そのため、また、Li2O+Na2O+K2Oの含有量は5%以下、3%以下、1%以下が好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。なお、Li2O、Na2O及びK2Oの各成分の含有量は各々5%以下、3%以下、1%以下が好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0036】
Sb2O3は清澄剤として機能する成分であるが、環境負荷物質であるため、その含有量は0.2%未満が好ましく、特に実質的に含有しないことがより好ましい。
【0037】
なお清澄剤として、Sb2O3以外にもAs2O3、CeO2、SnO2、F、Cl及びSO3の群から選択された一種以上を合量で0~3%添加することができる。但し、As2O3及びF、特にAs2O3は環境的観点からその使用を極力控えることが好ましく、実質的に含有しないことが好ましい。環境的観点からは、清澄剤としてSnO2、SO3またはClを使用することが好ましい。SnO2の含有量は0~1%、0.01~0.5%、特に0.05~0.4%であることが好ましい。また、SnO2+SO3+Clの含有量は0~1%、0.001~1%、0.01~0.5%、特に0.01~0.3%であることが好ましい。ここで、「SnO2+SO3+Cl」は、SnO2、SO3、及びClの合量を指す。
【0038】
PbOは屈折率を高める成分であるが、環境的観点から、実質的に含有しないことが好ましい。
【0039】
Ta2O5、Gd2O3、Y2O3、Yb2O3は屈折率を高める成分であるが、稀少原料であるため原料コストの高騰に繋がる。よって、その含有量は各々5%以下、3%以下、1%以下、特に実質的に含有しないことが好ましい。
【0040】
WO3は屈折率を高める成分であるが、ガラス成形時等に失透ブツを著しく析出させたり、特に短波長領域の可視光透過率が低下しやすくなる。よって、その含有量は5%以下、3%以下、1%以下、特に実質的に含有しないことが好ましい。
【0041】
TeO2はガラス化範囲を大幅に広げて、失透ブツの析出を顕著に抑え、屈折率を高める成分である。しかし、稀少原料であるため原料コストの高騰に繋がる。よって、その含有量は5%以下、3%以下、1%以下、特に実質的に含有しないことが好ましい。
【0042】
Bi2O3は屈折率を高める成分であるが可視光透過率を低下させやすい。また稀少原料であるため原料コストの高騰に繋がる。よって、実質的に含有しないことが好ましい。
【0043】
GeO2はガラス化の安定性を高めたり屈折率を上昇させる効果がある。しかし、稀少原料であるため原料コストの高騰に繋がる。よって、実質的に含有しないことが好ましい。
【0044】
HfO2は屈折率を高める成分であるが、稀少原料であるため原料コストの高騰に繋がる。よって、実質的に含有しないことが好ましい。
【0045】
なお、ガラスマトリクスの歪点は600℃以上、特に620℃以上であることが好ましい。ガラスの歪点が高いほど耐熱性が高くなるため好ましい。
【0046】
本発明の波長変換部材は、例えばガラス粉末と蛍光体粉末を含む混合物の焼結体からなる。ガラス粉末の粒度は、例えば、最大粒子径Dmaxが200μm以下(特に150μm以下、さらには105μm以下)、かつ、平均粒子径D50が0.1μm以上(特に1μm以上、さらには2μm以上)であることが好ましい。ガラス粉末の最大粒子径Dmaxが大きすぎると、蛍光体粉末の分散状態に劣り、発光色にムラが生じやすくなる。また、平均粒子径D50が小さすぎると、波長変換部材内部で励起光が過剰に散乱して発光効率が低下しやすくなる。
【0047】
なお、本発明において、最大粒子径Dmax及び平均粒子径D50はレーザー回折法により測定した値を指す。
【0048】
本発明において使用可能な蛍光体粉末としては、一般に市場で入手できるものであれば特に限定されない。例えば、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、酸化物蛍光体(YAG蛍光体等のガーネット系蛍光体を含む)、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体(ハロリン酸塩化物等)及びアルミン酸塩蛍光体等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、二種以上を混合して使用してもよい。これらの蛍光体粉末のうち、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体及び酸化物蛍光体は耐熱性が高く、焼成時に比較的劣化しにくいため好ましい。なお、窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体は、近紫外~青の励起光を緑~赤という幅広い波長領域に変換し、しかも発光強度も比較的高いという特徴を有している。そのため、窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体は、特に白色LED素子用波長変換部材に用いられる蛍光体粉末として有効である。
【0049】
上記蛍光体粉末としては、波長300~500nmに励起帯を有し波長380~780nmに発光ピークを有するもの、特に青色(波長440~480nm)、緑色(波長500~540nm)、黄色(波長540~595nm)、赤色(波長600~700nm)に発光するものが挙げられる。なお、励起光や発光の波長域に合わせて、複数の蛍光体粉末を混合して用いてもよい。例えば、紫外域の励起光を照射して白色光を得る場合は、青色、緑色、黄色、赤色の蛍光を発する蛍光体粉末を混合して使用すればよい。
【0050】
ガラス粉末及び蛍光体粉末を含む混合物(波長変換材料)を、ガラス粉末の軟化点付近で焼成することにより波長変換部材を得ることができる。焼成は減圧雰囲気中で行うことが好ましい。具体的には、1.013×105Pa未満、1000Pa以下、特に400Pa以下の減圧雰囲気下で焼成を行うことが好ましい。それにより、波長変換部材中に残存する気泡の量を少なくすることができる。その結果、波長変換部材内の気泡による散乱因子を少なくすることができ、発光効率を向上させることができる。なお、焼成工程全体を減圧雰囲気中で行ってもよいし、例えば昇温工程のみを減圧雰囲気中で行い、その前後の保持工程や降温工程を、減圧雰囲気ではない雰囲気(例えば大気圧下)で行ってもよい。
【0051】
波長変換部材の発光効率(lm/W)は、蛍光体粉末の種類や含有量、粒径、さらには波長変換部材の厚み等によって変化する。蛍光体粉末の含有量と波長変換部材の厚みは、発光効率が最適になるように適宜調整すればよい。蛍光体粉末の含有量が多くなりすぎると、焼結しにくくなったり、気孔率が大きくなって、励起光が効率良く蛍光体粉末に照射されにくくなったり、波長変換部材の機械強度が低下しやすくなる等の問題が生じる。一方、蛍光体粉末の含有量が少なすぎると、所望の色度や発光強度を得ることが困難になる。このような観点から、本発明の波長変換部材における蛍光体粉末の含有量は、体積%で、好ましくは0.01~70%、より好ましくは2~50%、さらに好ましくは3~30%の範囲で調整される。
【0052】
なお、波長変換部材において発生した蛍光を、励起光入射側へ反射させ、主に蛍光のみを外部に取り出すことを目的とした反射型の波長変換部材においては、上記の限りではなく、発光強度が最大になるように、蛍光体粉末の含有量を多くする(例えば、体積%で30~80%、さらには40~75%)ことができる。
【0053】
本発明の波長変換部材には、ガラス及び蛍光体粉末以外にも、放熱性向上等を目的として、例えばアルミナやマグネシア等のフィラーを合量で50質量%まで含有していてもよい。フィラーの平均粒子径D50は0.1~50μmが好ましく、0.3~30μmがより好ましく、0.5~20μmがさらに好ましく、1~10μmが特に好ましい。フィラーの平均粒子径D50が大きすぎると、波長変換部材における分散性が低下し、出射光の色ムラが生じやすくなる。一方、フィラーの平均粒子径D50が小さすぎると、フィラー粒子同士の接触が減ったり、フィラー粒子同士の距離が大きくなるため、放熱性向上の効果が十分に得にくい。
【0054】
フィラーとガラスマトリクスの屈折率(nd)の差は、絶対値で1.0以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましく、0.3以下が特に好ましい。このようにすれば、フィラーとガラスマトリクスの屈折率差による内部散乱を抑制することができ、発光強度の低下を抑制できる。
【0055】
本発明の波長変換部材の形状は特に制限されず、例えば、板状、柱状、半球状、球状、半球ドーム状等、それ自身が特定の形状を有する部材だけでなく、ガラス基板やセラミック基板等の基材表面に形成された膜状の焼結体等も含まれる。
【0056】
図1に、本発明の発光装置の一実施形態を示す。
図1に示すように、発光装置1は波長変換部材2及び光源3を備えてなる。光源3は、波長変換部材2に対して励起光を照射する。波長変換部材2に入射した励起光L1は、別の波長の光L2に変換され、光源3とは反対側から出射する。この際、波長変換後の光L2と、波長変換されずに透過した励起光L1との合成光を出射させるようにしてもよい。
【実施例0057】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
表1~3は実施例(試料No.1~23)及び比較例(試料No.24~26)を示している。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
(1)ガラス粉末の作製
まず、表1~3に記載のガラス組成になるように原料を調合して原料バッチを得た。得られた原料バッチをガラス溶融炉に供給して1300~1500℃で溶融した。次に、一対の冷却ローラー間に流し出すことによりフィルム状に成形した。得られたフィルム状のガラスをボールミルで乾式粉砕して、平均粒子径D50が6~9μmのガラス粉末を得た。また、溶融ガラスの一部をカーボン板の上に流し出して平板状に成形した後、所定のアニール処理を行うことによりバルク状ガラスを得た。
【0063】
バルク状ガラスについて、下記の方法により屈折率(nd)、液相温度(TL)、歪点(Ts)の各特性を評価した。結果を表1~3に示す。
【0064】
屈折率は、島津製作所製の屈折率測定器KPR-2000を用いて、Heランプのd線(波長587.6nm)での測定値を採用した。
【0065】
歪点は、ASTM C336-71に準じて測定した。
【0066】
液相温度は、バルク状ガラスをメノウ乳鉢で解砕して得られたガラス粉末を標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、かつ50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。
【0067】
(2)波長変換部材の作製
表1~3に記載の通り、各ガラス粉末に蛍光体粉末を所定量で混合して混合粉末を得た。混合粉末を金型で加圧成型して直径1cmの円柱状予備成型体を作製した。この予備成型体を表に記載の温度で焼成することにより波長変換部材を得た。
【0068】
得られた波長変換部材について耐薬品性と光束値を評価した。結果を表1~3に示す。
【0069】
耐薬品性は次のようにして評価した。波長変換部材を10mm×50mm×0.7mmのサイズに加工し、粒径1μmダイヤモンド砥粒で鏡面研磨し、50℃のエッチング液(関東化学製ITO-06N)中に15分間浸漬した。焼結体を水洗後、YAG蛍光体粉末とガラスマトリクスの間に生じた段差を、小坂研究所製サーフコーダーET4000にて測定し、その値を耐薬品性として評価した。蛍光体粉末とガラスマトリクスとの段差がない(つまりガラスマトリクスの浸食がない)場合には「-」と記載した。
【0070】
光束値は次のようにして測定した。波長変換部材を直径8mm、厚さ0.2mmの円盤状に加工した。光源や大気との屈折率差による表面反射の影響を低減するため、表面に誘電体多層膜の反射防止膜を施した。投入電流1000mAで通電した励起波長460nmのLEDチップの光源上に波長変換部材を設置し、積分球内で、試料上面から発せられる光のエネルギー分布スペクトルを測定した。次に、得られたスペクトルに標準比視感度を掛け合わせて全光束を計算した。
【0071】
実施例であるNo.1~23の波長変換部材は、ガラスマトリクスの屈折率が1.66以上と高く、液相温度が1048℃以下と低いため、光束値が188(lm)以上と高くなった。特にNo.1~22の波長変換部材は耐薬品性にも優れていた。一方、比較例であるNo.24の波長変換部材は液相温度が1075℃と高く、また比較例であるNo.25、26の波長変換部材は屈折率が1.56以下と低いため、光束値が175(lm)以下と低くなった。