(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020274
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2感染の治療における置換アミノプロピオン酸化合物の使用
(51)【国際特許分類】
C07F 9/6561 20060101AFI20240206BHJP
A01N 57/16 20060101ALI20240206BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C07F9/6561 Z
A01N57/16 104C
A01P1/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023187635
(22)【出願日】2023-11-01
(62)【分割の表示】P 2020172950の分割
【原出願日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】202010071087.7
(32)【優先日】2020-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】519255447
【氏名又は名称】アカデミー オブ ミリタリー メディカル サイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】チョン ウー
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ ルイユアン
(72)【発明者】
【氏名】シアオ コンフー
(72)【発明者】
【氏名】フー チーホン
(72)【発明者】
【氏名】ワン マンリー
(72)【発明者】
【氏名】チャン レイコー
(72)【発明者】
【氏名】リー ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】リー ユエシアン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ レイ
(72)【発明者】
【氏名】ファン シーヨン
(72)【発明者】
【氏名】リー ソン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】SARS-CoV-2の感染により引き起こされる関連疾患の治療に用いることができる、SARS-CoV-2に対して抗ウイルス活性を有する薬を提供する。
【解決手段】SARS-CoV-2により引き起こされる疾患または感染の治療のための、式Iにより表される置換アミノプロピオン酸化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS-CoV-2阻害剤として用いられる、式Iにより表される化合物、
【化1】
その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物。
【請求項2】
細胞(例えば哺乳動物細胞)におけるSARS-CoV-2の複製または繁殖を阻害するために用いられる、式Iにより表される化合物、
【化2】
その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物。
【請求項3】
SARS-CoV-2により引き起こされる疾患または感染を治療するために用いられる、式Iにより表される化合物、
【化3】
その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物。
【請求項4】
前記SARS-CoV-2により引き起こされる疾患が呼吸器疾患である、請求項3に記載の式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物。
【請求項5】
前記SARS-CoV-2により引き起こされる疾患が、単純感染、肺炎、急性呼吸器感染症、重症急性呼吸器感染症(SARI)、低酸素性呼吸不全、急性呼吸窮迫症候群、敗血症または敗血症性ショックである、請求項3に記載の式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物。
【請求項6】
前記単純感染が熱、咳および/または咽頭痛である、請求項5に記載の式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物。
【請求項7】
SARS-CoV-2により引き起こされる疾患または感染を治療するために用いられる医薬組成物であって、式Iにより表される化合物、
【化4】
その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物を含む、医薬組成物。
【請求項8】
前記SARS-CoV-2により引き起こされる疾患が呼吸器疾患である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記SARS-CoV-2により引き起こされる疾患が、単純感染、肺炎、急性呼吸器感染症、重症急性呼吸器感染症(SARI)、低酸素性呼吸不全、急性呼吸窮迫症候群、敗血症または敗血症性ショックである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記単純感染が熱、咳および/または咽頭痛である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
SARS-CoV-2阻害剤として用いられる医薬組成物であって、式Iにより表される化合物、
【化5】
その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物を含む医薬組成物。
【請求項12】
細胞(例えば哺乳動物細胞)中でのSARS-CoV-2の複製または繁殖を阻害するために用いられる医薬組成物であって、式Iにより表される化合物、
【化6】
その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物を含む医薬組成物。
【請求項13】
前記医薬組成物が薬学上許容される担体または賦形剤を更に含む、請求項7~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記医薬組成物が固形製剤、注射剤、外用剤、スプレー剤、液体製剤、または複合製剤である、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記SARS-CoV-2により引き起こされる疾患がCOVID-19である、請求項3に記載の化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物、または請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記哺乳動物が、ウシ亜科、ウマ科、ヤギ科、イノシシ科、イヌ科、ネコ科、げっ歯類、霊長類、例えばヒト、ネコ、イヌまたはブタである、請求項2に記載の化合物、幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物、または請求項12に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、SARS-CoV-2感染を治療するための、下記式Iにより表される置換アミノプロピオン酸化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物、および/または水和物、並びに前記化合物を含む医薬組成物の使用に関する。
【0002】
【背景技術】
【0003】
本出願は、2020年1月21日出願の中国特許出願第202010071087.7号に基づき、それからの優先権の利益を主張する。その出願の開示は全内容が参照として本明細書中に援用される。
【0004】
レムデシビル(GS-5734)としても知られる(2S)-2-〔〔〔(2R,3S,4R,5R)-5-(4-アミノピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-5-シアノ-3,4-ジヒドロキシオキソラン-2-イル〕メトキシ-フェノキシホスホリル〕アミノ〕プロピオン酸2-エチルブチルは、ウイルスRNAポリメラーゼ阻害剤であり、生体内(in vivo)でのその活性型は、親化合物のヌクレオシド三リン酸(NTP)化形である。エボラウイルス感染の臨床治療用のこの薬用化合物の第III相臨床試験は現在終了しており、エボラウイルス感染に対して優れた治療効果を示している。
【0005】
レムデシビルは、EBOVや他のフィロウイルスの様々な変異体に対して抗ウイルス活性を持つことが細胞ベースのアッセイにおいて示されている。エボラウイルスに感染したアカゲザルモデルでは、ウイルス曝露後3日目に治療を開始した場合でも(6体の処置動物のうち2体で全身性ウイルスRNAが検出された)、1日当たり10 mg/kgのGS-5734の連続12日間に渡る静脈内投与は、EBOVの複製を有意に阻害することができ、EBOV感染動物の100%が死から保護され、臨床徴候と病態生理学的マーカーを改善することができた。GS-5734は、エボラウイルスに加えて、二パウイルス、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、マールブルグウイルス等のようなウイルスに対しても広域スペクトル抗ウイルス活性を有する。
【0006】
2019新型コロナウイルス(2019-nCoV)は、今までヒトに見いだされたことのない新型のコロナウイルス株である。2020年2月11日に、国際ウイルス分類委員会(ICTV)は、2019新型コロナウイルス(2019-nCoV)が重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)であると発表した。同日、世界保健機構(WHO)は、このウイルスにより引き起こされる疾患の正式名称をCOVIDとすると発表した。SARS-CoV-2ウイルス感染の症状は、主に肺炎であるが、病気の重篤度に従って単純感染、軽度肺炎、重度肺炎、急性呼吸窮迫症候群、敗血症、敗血症性ショックなどに分類される。単純感染患者は、熱、咳、咽頭痛、鼻づまり、疲労、頭痛、筋肉痛または不快感のような非敗血症症状を呈し、高齢者や免疫不全の者は非定型の症状を有することがある。軽度の肺炎患者は主に咳、呼吸困難、多呼吸を呈する。重度の肺炎は青少年、成人または子供に見受けられ、その主症状には、呼吸頻度の増加、重篤な呼吸不全または呼吸困難、中心性チアノーゼ、眠気、意識不明またはけいれん、息切れ等がある。急性呼吸窮迫症候群の肺画像は、浸出、肺葉滲出または無気肺により完全には説明できない両側性のすりガラス陰影であるか、または肺腫瘤像であり、その主症状は肺水腫である。敗血症患者はしばしば致死性の臓器機能不全を有し、大部分の重症患者は敗血症性ショックを呈し、死亡確率が高い。
【0007】
現在のところ、SARS-CoV-2ウイルス感染は病院において主に支持療法により処置されており、抗ウイルス薬は入手できない。
【発明の概要】
【0008】
本願発明の概念
本願発明の目的は、SARS-CoV-2の感染により引き起こされる関連疾患の治療に用いることができる、SARS-CoV-2に対して抗ウイルス活性を有する薬を発見することである。創造的研究を通して、式Iにより表される化合物がSARS-CoV-2の複製を阻害する機能を有し、かつSARS-CoV-2により引き起こされる疾患の治療において潜在的に優れた治療効果を有することが、本発明によって見いだされた。
【0009】
本願発明は、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩および/または溶媒和物もしくは水和物に関する:
【0010】
【0011】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載の式Iにより表される化合物の薬学的に許容される塩には、無機または有機酸塩と、無機または有機塩基塩が含まれる。本願発明は、上記塩類の全ての形態に関し、その例としては限定されないが、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、リチウム塩、メグルミン塩、塩酸塩、臭化水素塩、ヨウ化水素塩、硝酸塩、硫酸塩、硫化水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、シュウ酸塩、ピバル酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、ピクリン酸塩、アスパラギン酸塩、グルコン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、エンボン酸塩などが挙げられる。
【0012】
式Iにより表される化合物は、細胞中でのSARS-CoV-2ウイルス複製を阻害することができ、かつ細胞培養物中のSARS-CoV-2ウイルスの核酸負荷量(load)を減少させることができる。
【0013】
創造的発明研究の後、本出願の発明者らは、式Iにより表される化合物の細胞中での新規特徴、すなわち、式Iにより表される化合物が、SARS-CoV-2により感染した細胞におけるウイルス核酸負荷量をマイクロモル濃度レベルで減少させることができることを発見した。
【0014】
本願発明は、SARS-CoV-2により引き起こされる疾患または感染〔例えば呼吸器疾患、例えば単純感染(例えば熱、咳および咽頭痛)、肺炎、急性呼吸器感染症、重症急性呼吸器症候群(SARI)、低酸素性呼吸不全、急性呼吸窮迫症候群、敗血症および敗血症性ショックなど〕を治療するための医薬の製造における、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物の使用にも関する。
【0015】
【0016】
本願発明は、SARS-CoV-2阻害剤としての医薬の製造における、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物の使用にも関する。
【0017】
本願発明は、細胞(例えば哺乳類細胞)中でのSARS-CoV-2の複製または繁殖を阻害するための医薬の製造における、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物の使用にも関する。
【0018】
本願発明は、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物を含む医薬組成物にも関する。
【0019】
好ましくは、医薬組成物は、薬学上許容される担体(キャリア)または賦形剤を更に含む。具体的には、医薬組成物は固形製剤、注射剤、外用剤、スプレー剤、液体製剤、または複合製剤である。
【0020】
幾つかの実施形態では、医薬組成物は、有効量の式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物を含む。
【0021】
本願発明は、呼吸器疾患、例えば限定されないが、単純感染(例えば熱、咳および咽頭痛)、肺炎、急性呼吸器感染症、重症急性呼吸器感染症(SARI)、低酸素性呼吸不全、急性呼吸窮迫症候群、敗血症および敗血症性ショック等を治療するための医薬の製造における、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物を含む医薬組成物の、または式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物の使用にも関する。
【0022】
本願発明は、SARS-CoV-2により引き起こされる疾患または感染、例えば呼吸器疾患〔例えば単純感染(例えば熱、咳および咽頭痛)、肺炎、急性呼吸器感染症、重症急性呼吸器感染症(SARI)、低酸素性呼吸不全および急性呼吸窮迫症候群、敗血症および敗血症性ショック等〕を治療するための医薬の製造における、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物を含む医薬組成物の使用にも関する。
【0023】
本願発明は、SARS-CoV-2阻害剤としての医薬の製造における、式Iの化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物を含む医薬組成物の使用にも関する
【0024】
本願発明は、細胞中でのSARS-CoV-2の複製または繁殖を阻害するための医薬の製造における、式Iの化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物を含む医薬組成物の使用にも関する。
【0025】
本願発明は、細胞(例えば哺乳動物細胞)中でのSARS-CoV-2の複製または繁殖を阻害するための医薬の製造における、式Iの化合物、その薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物を含む医薬組成物の使用にも関する。
【0026】
本願発明は、必要とする哺乳類における疾患の治療および/または予防方法、または必要とする哺乳類におけるSARS-CoV-2の複製または繁殖を阻害する方法にも関し、その方法は、式Iの化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物を含む医薬組成物の、または式Iの化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物の、治療および/または予防有効量を、前記必要とする哺乳類に投与することを含み、ここで前記疾患には、SARS-CoV-2により引き起こされる疾患、例えばSARS-CoV-2により引き起こされるウイルス感染性疾患〔例えば呼吸器疾患、例えば単純感染(例えば熱、咳および咽頭痛等)、肺炎、急性呼吸器感染症、重症急性呼吸器感染症(SARI)、低酸素性呼吸不全、急性呼吸窮迫症候群、敗血症および敗血症性ショック等を含む〕が含まれる。
【0027】
本願発明は、SARS-CoV-2により引き起こされる疾患または感染〔例えば呼吸器疾患(例えば熱、咳および咽頭痛等のような単純感染)、肺炎、急性呼吸器感染症、重症急性呼吸器感染症(SARI)、低酸素性呼吸不全、急性呼吸窮迫症候群、敗血症および敗血症性ショック等を含む〕を治療するために用いられる、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物に関する。
【0028】
本願発明は、SARS-CoV-2阻害剤として用いられる、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物にも関する。
【0029】
本願発明は、細胞(例えば哺乳類細胞)におけるSARS-CoV-2の複製または繁殖を阻害するために用いられる、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物にも関する。
【0030】
本願発明は、SARS-CoV-2により引き起こされる疾患または感染、例えば呼吸器疾患〔例えば単純感染(例えば熱、咳および咽頭痛等)、肺炎、急性呼吸器感染症、重症急性呼吸器感染症(SARI)、低酸素性呼吸不全、急性呼吸窮迫症候群、敗血症および敗血症性ショック等を含む〕を治療するのに用いられる、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物を含む医薬組成物にも関する。
【0031】
本願発明は、SARS-CoV-2阻害剤として用いられる、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物を含む医薬組成物にも関する。
【0032】
本願発明は、細胞(例えば哺乳動物細胞)におけるSARS-CoV-2の複製または繁殖を阻害するために用いられる、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物を含む医薬組成物にも関する。
【0033】
幾つかの実施形態では、本願明細書に記載のSARS-CoV-2により引き起こされる疾患としては、限定されないが、呼吸器疾患、例えば単純感染(例えば熱、咳および咽頭痛等)、肺炎、急性呼吸器感染症、重症急性呼吸器感染症(SARI)、低酸素性呼吸不全および急性呼吸窮迫症候群、敗血症および敗血症性ショックが挙げられる。
【0034】
本明細書に記載のSARS-CoV-2により引き起こされる疾患は、COVID-19である。
【0035】
本願において、「2019新型コロナウイルス(2019-nCoV)」という用語の正式名称は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である。
【0036】
本願において、「2019新型コロナウイルス(2019-nCoV)により引き起こされる疾患」の正式名称はCOVID-19である。
【0037】
幾つかの実施形態において、哺乳動物は、ウシ亜科、ウマ科、ヤギ科、イノシシ科、イヌ科、ネコ科、げっ歯類、霊長類を含み、ここで好ましい哺乳動物は、ヒト、ネコ、イヌまたはブタである。
【0038】
本願明細書に記載の医薬組成物は、種々の投与経路に従って様々な剤形に調製することができる。
【0039】
本願によれば、医薬組成物は、次の経路のいずれか1つ:経口投与、噴霧吸入、直腸投与、経鼻投与、口腔投与、膣内投与、局所投与、非経口投与、例えば皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、クモ膜下、脳室内、胸骨内および頭蓋内注射または注入、あるいは外植片リザーバーを用いる投与により投与することができ、ここで好ましい投与経路は経口、腹腔内または静脈内である。
【0040】
経口投与する場合、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物は、経口投与可能な製剤の形、例えば限定されないが、錠剤、カプセル剤、水性液剤または水性懸濁液剤の形に調製することができる。錠剤に用いられる担体(キャリア)は、一般に、ラクトースおよびコーンスターチを含み、ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤を添加することもできる。カプセル剤に用いられる希釈剤には通常ラクトースと乾燥コーンスターチが含まれる。水性懸濁液剤は通常、有効成分を適当な乳化剤および適当な懸濁化剤と混合することにより使用される。必要であれば、前記経口製剤に甘味剤、風味剤または着色剤を添加することもできる。
【0041】
直腸投与する場合、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物は、薬物を適当な非刺激性の賦形剤と混合することにより調製される坐剤の形に製剤化することができる。賦形剤は室温では固体状態であるが、直腸温度で融解して薬物を放出する。そのような賦形剤としてはカカオバター、蜜蝋(ミツロウ)およびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0042】
局所投与する場合、特に容易に接近できる罹患表面または臓器、例えば眼、皮膚または下部腸管の神経学的疾患の治療のために局所投与される場合、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物は、異なる罹患表面または臓器に従って様々な局所製剤形に調製することができる。具体的な教示は次の通りである:
【0043】
眼に局所投与する場合、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物は、微粉化された懸濁液または溶液のような剤形に製剤化することができ、その場合に用いられる担体は、一定のpHを有する等張無菌食塩水であり、そして塩化ベンジルアルコキシドのような保存剤を添加してもしなくてもよい。加えて、眼に投与する場合、化合物はワセリン軟膏のような軟膏の形に調剤することもできる。
【0044】
皮膚に局所投与する場合、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物は、軟膏、ローションまたはクリームのような適当な剤形に調剤することができ、その場合、有効成分は1つ以上の担体中に懸濁または溶解される。軟膏用の担体としては、限定されないが、次のものが挙げられる:鉱油、軽油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、乳化ろう、および水。ローションやクリーム用の担体としては、限定されないが、次のものが挙げられる:鉱油、ソルビタンモノステアレート、Tween(登録商標)60、セチルエステルワックス、ヘキサデセニルアリールアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコールおよび水。
【0045】
下部腸管に局所投与する場合、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物は、上述した直腸坐剤または適当な浣腸剤のような剤形に製剤することができ、加えて、局所経皮パッチを使用することもできる。
【0046】
式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物は、無菌注射剤、例えば注射用水溶液もしくは油性懸濁液、または無菌注射剤の剤形において投与することができ、ここで使用可能な担体と溶剤としては、水、リンゲル液、および等張食塩水が挙げられる。さらに、モノグリセリドまたはジグリセリドのような無菌不揮発性油も溶剤または懸濁媒として使用することができる。
【0047】
上記様々な剤形の薬物は、製剤分野における常法に従って製造することができる。
【0048】
本願において、「治療有効量」または「予防有効量」という用語は、患者の疾患を治療または予防するのに十分であるが、適正な医学判断の中で重篤な副作用を避けるのに十分に低い量(適正なベネフィット/リスク比)を指す。化合物の治療有効量は、選択される特定化合物(例えば化合物の効能、有効性および半減期を考慮して選択される)、選択される投与経路、処置される疾患、処置される疾患の重篤度、患者の年齢、サイズ、体重および健康状態、薬歴、治療期間、現行療法の性質、所望の治療効果などのような様々な要因に従って変化するだろうが、それは当業者により日常的に決定することが可能である。
【0049】
その上、式Iにより表される化合物、その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物の特定の用量および使用方法は、異なる患者ごとに、多数の要因、例えば患者の年齢、体重、性別、自然の健康状態、栄養状態、薬物の活性強度、投与時間、代謝速度、疾患の重篤度、および医師の主観的判断に依存する。ここでは、0.001~1000 mg/kg体重/日の用量を使用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】
図1は、レムデシビルが、SARS-CoV-2に感染したVero E6細胞におけるウイルス核酸負荷量を効率的に減少させることができることを示す。
図1中、(a)は、レムデシビルが、SARS-CoV-2ウイルスにより感染させてから48時間後の細胞においてウイルスRNA負荷量を減少させることができることを示す。縦座標はサンプル中のウイルスRNAのコピー数であり、そして横座標は薬物濃度である。(b)は、試験細胞を試験濃度のレムデシビルにより処置した場合に、細胞毒性が全く観察されないことを示す。縦座標はビヒクル対照群(細胞のみ、薬物なし)に対する細胞生存率(%)であり、横座標は薬物濃度である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
次の実施例は、本願の例示的な好ましい実施形態であり、本願のいかなる限定も構成するものではない。
実施例1:SARS-CoV-2ウイルスにより感染した細胞のウイルス核酸負荷量の低減におけるレムデシベルの実験
(1) ウイルス感染細胞の薬剤処置
Vero E6細胞(ATCCから購入、カタログ番号1586)を24ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベートし、次いでウイルス感染を行った。具体的には、SARS-CoV-2(2019-nCoV)ウイルス(Wuhan Institute of Virology, Chinese Academy of Sciencesより提供されたnCoV-2019BetaCoV/Wuhan/WIV04/2019株)を2%細胞維持溶液(処方:FBS(Gibco社より購入、カタログ番号16000044)をMEM(Gibco社より購入、製品番号10370021)に2%の容量比で添加し、それにより2%細胞維持溶液を得た)で対応する濃度に希釈し、次いで各ウェルが100TCID50のウイルス負荷量を含むように24ウェルプレートに添加した。次に、レムデシビル(MedChemExpress社より購入、カタログ番号HY-104077)を2%細胞維持溶液で対応する濃度に希釈し、それを対応するウェルに最終薬物濃度がそれぞれ100 μM, 33 μM, 11 μM, 3.7 μM, 1.23μM, 0.41μM, 0.14μMになるように添加し、次いでプレートを37℃、5%CO2インキュベーター中に置き、48時間連続培養し、そして賦形剤対照群の細胞には、試験薬を何も添加せずに2%細胞維持溶液のみを添加した。
【0052】
(2) RNA抽出
RNA抽出キットをQiagen社(カタログ番号74106)から購入した。下記のRNA抽出工程に必要とされる消耗品(スピンカラム、RNアーゼフリーの2 mLコレクションチューブなど)と試薬類(RLT、RW1、RPE、RNase-free water(RNアーゼ不含有の水)、など)は、全てキットの部品であった。次の抽出工程は全てキットの使用説明書により推奨される通りであった。
【0053】
1) 試験プレートから100μLの上清を取り、ヌクレアーゼフリーのEPチューブに添加し、次いでバッファーRLT 350μLを添加し、ピペッティング(ピペットで液体を上下に移動させて混合すること)によりそれを完全に溶解し、遠心分離して上清を取った。
2) ステップ1)で得られた上清に同容の70%エタノールを添加し、十分混合した。
3) ステップ2)で得られた混合溶液をRNアーゼフリーのスピンカラムに移し、12000 rpmで15秒間遠心分離し、廃液を捨てた。
4) 700μLのバッファーRW1をスピンカラムに加え、次いで12000 rpmで15秒間の遠心分離を行ってスピンカラムを洗浄し、廃液を捨てた。
5) 500μLのバッファーRPEをスピンカラムに加え、次いで12000 rpmで15秒間の遠心分離を行ってスピンカラムを洗浄し、廃液を捨てた。
6) 500μLのバッファーRPEをスピンカラムに加え、次いで12000 rpmで2分間の遠心分離を行ってスピンカラムを洗浄し、廃液を捨てた。
7) スピンカラムを新しいRNアーゼフリーの2 mLコレクションチューブ中に入れ、そして12000 rpmで1分間の遠心分離を行ってスピンカラムを乾燥させ、次いでスピンカラム全体をステップ8)の1.5 mLコレクションチューブに移した。
8) ステップ7)で乾燥したスピンカラムを新しい1.5 mLコレクションチューブに入れ、30μLのRNase-free waterを添加し、12000 rpmで2分間遠心分離し、対応するRNAを含む得られた溶出液に、RNアーゼ阻害剤(NEBから購入、カタログ番号M0314L)を添加し、そしてナノドロップ(Nano Drop(商標);Thermo Scientific社より購入、Nano Drop One)で測定して各RNA濃度を決定した。
【0054】
(3) RNA逆転写
本実験では、逆転写キット(TaKaRa Company社製のgDNA Eraserを含むPrimeScriptTM RT 試薬キット、カタログ番号RR047Q)をRNA逆転写に使用した。次のステップに従って実施した。
【0055】
(i) gRNAの除去:各実験群よりRNAサンプルを回収し、その1μgを取り、逆転写にかけた。まず、2μLの5×gDNA Eraser バッファーを各実験群のRNAサンプルに添加し、反応系にRNase-free waterを補足して10μLにし、十分混合し、42℃の湯浴中で2分間インキュベートし、サンプル中に存在しうるgRNAを除去した。
(ii) 逆転写:(i)で得られたサンプルに適当な量の酵素、プライマーミックスおよび反応バッファーを添加し、RNase-free waterを補足して20μLの容量にし、37℃の湯浴中で15分間反応させ、次いで85℃の湯浴中に5秒間入れ、転写によってcDNAを得た。
【0056】
(4) リアルタイムPCR
蛍光定量PCRを用いて、元のウイルス溶液の1mLあたりのコピー数を求めた。
【0057】
反応系はTB Green(登録商標)Premix(TaKaRa製、カタログ番号RR820A)を使って混合し、増幅反応と読取りは、StepOne Plus リアルタイムPCR装置(ABIブランド)を用いて実施した。元のウイルス溶液1mL当たりに含まれるコピー数を算出した。ステップは次の通りであった:
(i) 標準品:プラスミドpMT-RBD(このプラスミドはWuhan Institute of Virology, Chinese Academy of Sciencesにより提供された)を5×108コピー数/μL、5×107コピー数/μL、5×106コピー数/μL、5×105コピー数/μL、5×104コピー数/μL、5×103コピー数/μL、5×102コピー数/μLに希釈した。2μLの標準物質またはcDNA鋳型をqPCR反応用に採取した。
【0058】
(ii) 本実験に使用したプライマーの配列は次の通りであった(全て5′→3′方向):
【0059】
RBD-qF: CAATGGTTTAACAGGCACAGG
RBD-qR: CTCAAGTGTCTGTGGATCACG
【0060】
(iii) 反応手順は次の通りであった:
予備変性:95℃で5分;
サイクルパラメータ:95℃で15秒、54℃で15秒、72℃で30秒を合計40サイクル。
【0061】
(5)試験薬の細胞毒性試験
薬物の細胞毒性の検出は、CCK-8キット(Beoytime社製)を使って実施した。特定のステップは次の通りであった:
(i) 1×104個のVero E6(ATCC)細胞を96ウェルプレート中に播種し、37℃で8時間インキュベートした。
(ii) 薬物を適当な濃度の母液になるようにDMSOで希釈し、次いで2%FBS(Gibco社より購入、カタログ番号16000044)を含むMEM培地(Gibco社より購入、カタログ番号10370021)により、薬物処置の場合と同じ濃度に希釈した。96ウェルプレート中の元の培地を捨て、100μLの薬物含有MEM培地を細胞に加え、そして各濃度について3通りの複製ウェルを作製した。ビヒクル対照(薬物を添加せずにDMSOと培地を細胞ウェルに添加したもの)およびブランク対照(細胞を添加せずにDMSOと培地をウェルに添加したもの)を準備した。薬物を添加した後、細胞を37℃で48時間培養した。
(iii) 20μLのCCK-8溶液(Beoytime社製)を試験すべきウェルに添加し、気泡が生じないように穏やかに混合し、37℃で2時間連続インキュベートした。OD450をマイクロプレートリーダー(Molecular Device社製、モデル:SupectraMax(商標)M5)上で読み取り、そして細胞の生存率を計算した:
【0062】
【0063】
ここでAはマイクロプレートリーダーの読みである。
(6) 実験結果
【0064】
ウイルス繁殖阻害実験の結果は、100μM、33μM、11.1μMおよび3.7μMの濃度の試験化合物が、感染細胞上清においてSARS-CoV-2ウイルスゲノムの複製を効果的に阻害しうることを示した(表1および
図1)。
【0065】
【0066】
細胞毒性試験結果は、試験化合物(レムデシビル)の処置が全ての試験濃度で細胞生存率を変化させないこと、すなわち、試験化合物が全ての濃度で細胞に対する毒性効果を持たないことを示した(表2および
図1)。
【0067】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-11-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS-CoV-2阻害剤として用いられる、式Iにより表される化合物、
【化1】
その幾何異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物および/または水和物。
組成物。
【外国語明細書】