(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020382
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】条件的活性型ポリペプチド
(51)【国際特許分類】
C12P 21/08 20060101AFI20240206BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240206BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240206BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240206BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240206BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240206BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20240206BHJP
C12N 9/00 20060101ALN20240206BHJP
C07K 14/00 20060101ALN20240206BHJP
C07K 14/52 20060101ALN20240206BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20240206BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240206BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20240206BHJP
C12N 7/00 20060101ALN20240206BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20240206BHJP
【FI】
C12P21/08
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P35/02
A61P29/00
A61P31/00
C07K16/00
C12N9/00
C07K14/00
C07K14/52
C07K14/705
C07K19/00
C07K16/46
C12N7/00
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023193435
(22)【出願日】2023-11-14
(62)【分割の表示】P 2022068158の分割
【原出願日】2016-08-31
(31)【優先権主張番号】62/249,907
(32)【優先日】2015-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2016/019242
(32)【優先日】2016-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520478172
【氏名又は名称】バイオアトラ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ショート ジェイ エム
(72)【発明者】
【氏名】チャング フウェイ ウェン
(72)【発明者】
【氏名】フレイ ガーハード
(57)【要約】 (修正有)
【課題】親抗体または抗原に結合する親抗体フラグメントから、条件依存的活性を有する抗体または抗原に結合する抗体フラグメントを製造する方法を提供する。
【解決手段】900a.m.u.未満の分子量及び第1のpHから最大4pH単位離れたpKaを有する少なくとも1つの種の存在下での第1のpHにおけるアッセイの活性の、同じ少なくとも1つの種の存在下での第2のpHにおけるアッセイの活性に対する比が少なくとも1.3である天然に存在しないポリペプチド又は単離ポリペプチド。当該の種は、前記第1のpH~前記第2のpHの間のpKaを有し、及び小分子であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
900a.m.u.未満の分子量及び第1のpHから最大0.5、1、2、3又は4pH単位離れたpKaを有する少なくとも1つの種の存在下での第1のpHにおけるアッセイの活性の、同じ少なくとも1つの種の存在下での第2のpHにおけるアッセイの活性に対する比が少なくとも1.3である天然に存在しないポリペプチド又は単離ポリペプチド。
【請求項2】
900a.m.u.未満の分子量を有する少なくとも1つの種の存在下での第1のpHにおけるアッセイの活性の、同じ少なくとも1つの種の存在下での第2のpHにおけるアッセイの活性に対する比が少なくとも1.3である天然に存在しないポリペプチド又は単離ポリペプチドであって、及び前記種が前記第1のpH~前記第2のpHの間のpKaを有する、ポリペプチド。
【請求項3】
ヒスチジン、ヒスタミン、水素付加アデノシン二リン酸、水素付加アデノシン三リン酸、クエン酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、乳酸塩、二硫化物、硫化水素、アンモニウム、リン酸二水素及びこれらの任意の組み合わせから選択される種の存在下での第1のpHにおけるアッセイの活性の、同じ種の存在下での第2のpHにおけるアッセイの活性に対する比が少なくとも1.3である天然に存在しないポリペプチド又は単離ポリペプチド。
【請求項4】
前記第1のpHにおける前記アッセイの前記活性の、前記第2のpHにおける前記アッセイの前記活性(activty)に対する前記比が、少なくとも1.5、又は少なくとも1.7、又は少なくとも2.0、又は少なくとも3.0、又は少なくとも4.0、又は少なくとも6.0、又は少なくとも8.0、又は少なくとも10.0、又は少なくとも20.0、又は少なくとも40.0、又は少なくとも60.0、又は少なくとも100.0である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記第1のpHが酸性pHであり、且つ前記第2のpHがアルカリ性pH又は中性pHである、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記第2のpHが、対象への前記ポリペプチドの投与部位における、又は対象の前記ポリペプチドの作用部位の組織又は器官における前記生理条件の正常範囲内にある正常生理的pHであり、及び前記第1のpHが、前記ポリペプチドの前記投与部位における、又は前記ポリペプチドの前記作用部位の前記組織又は器官における前記生理条件の前記正常範囲から逸脱した異常pHである、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記第1のpHが5.5~7.2の範囲、又は6.2~6.8の範囲である、請求項6に記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記第2のpHが7.2~7.6の範囲である、請求項6又は7に記載のポリペプチド。
【請求項9】
前記第1のpHが約6.0であり、且つ前記第2のpHが約7.4である、請求項6に記載のポリペプチド。
【請求項10】
親ポリペプチドから進化させた天然に存在しない変異ポリペプチドである、請求項1~9のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項11】
前記親ポリペプチドが野生型ポリペプチドである、請求項10に記載の変異ポリペプチド。
【請求項12】
前記親ポリペプチドが天然に存在しないポリペプチドである、請求項10に記載の変異ポリペプチド。
【請求項13】
前記親ポリペプチドと比較して少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の変異ポリペプチド。
【請求項14】
前記親ポリペプチドよりも高い割合の荷電アミノ酸残基を有する、請求項10~13のいずれか一項に記載の変異ポリペプチド。
【請求項15】
タンパク質又はタンパク質フラグメントである、請求項1~14のいずれか一項に記載のポリペプチド又は変異ポリペプチド。
【請求項16】
前記ポリペプチド又は変異ポリペプチドが、抗体、一本鎖抗体、及び抗体フラグメントから選択され、及び前記活性が抗原に対する結合活性である、請求項1~14のいずれか一項に記載のポリペプチド又は変異ポリペプチド。
【請求項17】
抗体のFc領域である、請求項16に記載のポリペプチド又は変異ポリペプチド。
【請求項18】
前記ポリペプチド又は変異ポリペプチドが酵素であり、及び前記活性が酵素活性である、請求項1~14のいずれか一項に記載のポリペプチド又は変異ポリペプチド。
【請求項19】
受容体、調節タンパク質、可溶性タンパク質、サイトカイン、及び受容体、調節タンパク質、可溶性タンパク質又はサイトカインのフラグメントから選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載のポリペプチド又は変異ポリペプチド。
【請求項20】
前記種が重炭酸塩である、請求項1~18のいずれか一項に記載のポリペプチド又は変異ポリペプチド。
【請求項21】
前記種が6.2より高いpKaを有する、請求項1~19のいずれか一項に記載のポリペプチド又は変異ポリペプチド。
【請求項22】
前記ポリペプチドが2つの機能ドメインを有し、及び前記活性が前記2つの機能ドメインのうちの一方の活性である、請求項1~21のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項23】
前記2つの機能ドメインの両方がpH依存的活性を有する、請求項22に記載のポリペプチド。
【請求項24】
二重特異性抗体である、請求項22又は23に記載のポリペプチド。
【請求項25】
請求項1~24のいずれか一項に記載のポリペプチドの有効量と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項26】
固形腫瘍、炎症関節、又は脳疾患若しくは障害の治療への、請求項1~24のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項27】
請求項1~24のいずれか一項に記載のポリペプチドを投与するステップを含む、固形腫瘍、炎症関節、又は脳疾患若しくは障害の治療方法。
【請求項28】
前記ポリペプチドが、前記ポリペプチドを含むT細胞のキメラ抗原受容体の一部として投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ポリペプチドが、ナノ粒子に連結されて投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記ポリペプチドが、前記ポリペプチドを含む抗体-薬物コンジュゲートとして投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
請求項1~24のいずれか一項に記載のポリペプチドを含むT細胞のキメラ抗原受容体。
【請求項32】
ナノ粒子に連結された請求項1~24のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項33】
請求項1~24のいずれか一項に記載のポリペプチドを含む抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項33】
請求項1~24のいずれか一項に記載のポリペプチドを含有する少なくとも1つの結合ドメインを含む二重特異性抗体。
【請求項34】
2つの異なる結合又は触媒ドメインを含有するキメラタンパク質であって、前記ドメインの一方又は両方が、請求項1~24のいずれか一項に記載のポリペプチドを含む、キメラタンパク質。
【請求項35】
請求項1~24のいずれか一項に記載のポリペプチドを含む腫瘍崩壊ウイルス。
【請求項36】
核酸にコンジュゲートされる、請求項1~24のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項37】
前記核酸が非共有結合的又は共有結合的にコンジュゲートされ、及び前記核酸が、少なくとも1つの非天然ヌクレオチドを含む核酸である、請求項36に記載のポリペプチド。
【請求項38】
前記少なくとも1つの種が、親水性相互作用、疎水性相互作用、又は共有結合性相互作用によって前記ポリペプチドと相互作用する、請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項39】
2つ以上の種を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項40】
親ポリペプチドから条件的活性型ポリペプチドを作製する方法であって、
(i)その活性部位外にある少なくとも1つの領域を突然変異させることにより前記親ポリペプチドを進化させる工程であって、それにより1つ以上の変異ポリペプチドを作製する工程;
(ii)前記1つ以上のポリペプチド及び前記親ポリペプチドを正常生理条件下の第1のアッセイに供して前記正常生理条件下での前記活性部位の活性を計測し、及び異常条件下の第2のアッセイに供して前記異常条件下での前記活性部位の活性を計測する工程であって、前記正常生理条件及び前記異常条件が同じ条件であるが異なる値を有する工程;
(iii)前記1つ以上の変異ポリペプチドから、(a)前記第1のアッセイにおける前記親ポリペプチドの同じ活性と比較した活性の低下、及び(b)前記第2のアッセイにおける前記親ポリペプチドの同じ活性と比較した前記活性の増加、の両方を呈する前記条件的活性型ポリペプチドを選択する工程
を含む方法。
【請求項41】
前記生理条件及び異常条件が、pH、温度、pH、浸透圧、重量オスモル濃度、酸化的ストレス、及び電解質濃度から選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記活性部位外の前記少なくとも1つの領域が、前記活性部位に隣接する領域である、請求項40又は41に記載の方法。
【請求項43】
前記活性部位外の前記少なくとも1つの領域が、前記活性部位から離れた領域である、請求項40又は41に記載の方法。
【請求項44】
前記親ポリペプチドが抗体の重鎖又は軽鎖であり、及び前記活性部位が前記親ポリペプチドの相補性決定領域である、請求項40~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記活性部位外の前記少なくとも1つの領域が前記親ポリペプチドのFc領域である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記進化工程が、前記Fc領域を別個の抗体の可変領域に置換して二重特異性抗体を形成することを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記進化工程が、前記Fc領域を別個の抗体の可変領域に置換して一本鎖抗体を形成することを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記活性部位外の前記少なくとも1つの領域が前記親ポリペプチドのフレームワーク領域である、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
前記活性部位外の前記少なくとも1つの領域が複数の領域であり、及び前記進化工程が、前記複数の領域を逐次的に進化させることを含む、請求項40~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記進化工程が、置換、挿入、欠失、又はこれらの組み合わせを含む、請求項40~48のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、所望の活性を有する改良されたポリペプチドを提供する分野に関する。具体的には、本開示は、親ポリペプチドから条件的活性型ポリペプチドを生成する方法に関し、この条件的活性型ポリペプチドは、特定の化合物又はイオン種の存在下である条件下において別の条件下よりも活性が高い。
【背景技術】
【0002】
タンパク質、特に酵素又は抗体を様々な条件において活性又は安定であるように種々の特性に関して進化させる方法について記載している文献は多数ある。例えば、酵素を高温で安定であるように進化させることが行われている。高温で酵素活性が向上する状況では、その向上の実質的な部分は、一般にQ10法則(酵素の場合には10℃の上昇につき代謝回転が二倍になると推定される)によって説明されるより高い速度論的活性によるものであり得る。
【0003】
加えて、その正常な動作条件でタンパク質を不安定化させる、ひいては正常な動作条件でタンパク質活性を低下させる天然の突然変異が存在する。例えば、より低温で活性であるが、しかし典型的にはその由来である野生型タンパク質と比較して低いレベルで活性である公知の温度突然変異体がある。
【0004】
条件的活性型のポリペプチド、例えば、ある条件では活性が低い又は事実上不活性であり、且つ別の条件では活性であるポリペプチドを生成することが望ましい。また、ある種の環境で活性化又は不活性化されるか、或いは時間の経過に伴い活性化又は不活性化されるポリペプチドを生成することも望ましい。温度以外にも、条件的活性となるようにポリペプチドを進化させ又は改良し得る他の条件として、pH、浸透圧、重量オスモル濃度、酸化的ストレス;及び電解質濃度が挙げられる。進化させる際には、ポリペプチドの活性に加え、化学的抵抗性、及びタンパク質分解抵抗性を含めた他の特性を改良することが望ましい場合も多い。
【0005】
タンパク質を進化させるための戦略はこれまで多数記載されている。例えば、米国特許出願公開第2005/0100985号明細書は、鋳型ポリヌクレオチドの元の各コドン位置を天然に存在する20アミノ酸をコードするコドンに置換することによって親の鋳型ポリヌクレオチドから一組の変異ポリヌクレオチドを作製する高速の且つ容易な方法を開示している。この方法は単純に飽和突然変異誘発と呼ばれ、他の突然変異誘発(mutagenisis)方法、例えば、2つ以上の関係のあるポリヌクレオチドを好適な宿主細胞に導入して組換え及び減少的再集合によりハイブリッドポリヌクレオチドを生成する方法と組み合わせて用いることができる。
【0006】
Giver et al.,“Directed evolution of a thermostable esterase,”Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.95,pp.12809-12813(1998)は、インビトロ進化を用いて中温性エステラーゼにおける安定性と活性との関係を調べた。6世代のランダム突然変異誘発、組換え、及びスクリーニングにより、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)p-ニトロベンジルエステラーゼが低温でのその触媒活性を損なうことなく有意に安定化した(>14℃のTmの増加)。この研究では、低温活性を維持しながらも熱安定性を増加させる突然変異が極めてまれであることが見出された。これらの2つの特性が逆相関したか、それとも全く相関しなかったかに関わらず、アミノ酸置換の蓄積による一方の改良は、典型的には他方の犠牲の上に得られた。
【0007】
親ポリペプチドがその通常の動作条件では不活性又は事実上不活性(50%、30%、又は10%未満の活性及び特に1%の活性)であるが、異常条件では同等の又はより良好なその活性を維持するように進化させるためには、不安定化させる突然変異が、その不安定効果を打ち消すことのない、活性を増加させる突然変異と共存することが必要であり得る。不安定化させる突然変異は、Q10などの標準法則によって予測される効果を上回ってポリペプチドの活性を低下させるであろうことが予想され、従って、例えばその正常な動作条件下では活性が低い又は不活性である一方で、異常条件では効率的に機能するポリペプチドを進化させることが可能になると、条件的活性型ポリペプチドが作り出される。
【0008】
このように、条件的活性型ポリペプチドは異常条件で親タンパク質と比較して活性が増加し、及び正常生理条件で親タンパク質と比較して活性が低下する。従って条件的活性型ポリペプチドは、治療用タンパク質として使用されるとき、好ましくは、腫瘍微小環境など、異常条件が存在する場所で作用する。このような優先的作用の結果として、条件的活性型ポリペプチドは、正常生理条件が存在する正常組織/器官に害を及ぼし難く、ひいては副作用を生じ難い可能性がある。これにより、条件的活性型ポリペプチドをより長期間の治療に、又はより高用量で使用することが可能になり、その療法のより高い有効性につながる。
【0009】
国際公開第2010/104821号パンフレット及び国際公開第2011/009058号パンフレットは、条件的活性型タンパク質を進化させてスクリーニングする方法を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特定の環境及び/又は特定の条件下で活性及び/又は選択性がより高い条件的活性型ポリペプチドが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施形態において、本開示は、900a.m.u.未満の分子量及び第1のpHから最大0.5、1、2又は4単位離れたpKaを有する少なくとも1つの種の存在下での第1のpHにおけるアッセイの活性の、同じ少なくとも1つの種の存在下での第2のpHにおけるアッセイの活性に対する比が少なくとも1.3である天然に存在しないポリペプチド又は単離ポリペプチドに関する。
【0012】
一実施形態において、本開示は、900a.m.u.未満の分子量を有する少なくとも1つの種の存在下での第1のpHにおけるアッセイの活性の、同じ少なくとも1つの種の存在下での第2のpHにおけるアッセイの活性に対する比が少なくとも1.3である天然に存在しないポリペプチド又は単離ポリペプチドに関し、及び前記種は前記第1のpH~前記第2のpHの間のpKaを有する。
【0013】
一実施形態において、本開示は、ヒスチジン、ヒスタミン、水素付加アデノシン二リン酸、水素付加アデノシン三リン酸、クエン酸イオン、重炭酸イオン、酢酸イオン、乳酸イオン、二硫化物イオン、硫化水素、アンモニウムイオン、リン酸二水素イオン及びこれらの任意の組み合わせから選択される種の存在下での第1のpHにおけるアッセイの活性の、同じ種の存在下での第2のpHにおけるアッセイの活性に対する比が少なくとも1.3である天然に存在しないポリペプチド又は単離ポリペプチドに関する。
【0014】
前述の実施形態のいずれかのポリペプチドは、第1のpHにおけるアッセイの活性の、第2のpHにおけるアッセイの活性に対する比が、少なくとも1.5、又は少なくとも1.7、又は少なくとも2.0、又は少なくとも3.0、又は少なくとも4.0、又は少なくとも6.0、又は少なくとも8.0、又は少なくとも10.0、又は少なくとも20.0、又は少なくとも40.0、又は少なくとも60.0、又は少なくとも100.0であり得る。前述の実施形態のいずれかのポリペプチドは、酸性pHである第1のpH及びアルカリ性pH又は中性pHである第2のpHでアッセイされ得る。第2のpHは、対象へのポリペプチドの投与部位における、又は対象のポリペプチドの作用部位の組織又は器官における生理条件の正常範囲内にある正常生理的pHであってもよく、及び第1のpHは、ポリペプチドの投与部位における、又はポリペプチドの作用部位の組織又は器官における生理条件の正常範囲から逸脱した異常pHであってもよい。
【0015】
第1のpHは5.5~7.2の範囲、又は6.2~6.8の範囲であってもよい。第2のpHは7.2~7.6の範囲であってもよい。第1のpHは約6.0であってもよく、及び第2のpHは約7.4であってもよい。
【0016】
前述の実施形態のいずれかのポリペプチドは、親ポリペプチドから進化させた天然に存在しない変異ポリペプチドであってもよい。前述の実施形態のいずれかの変異ポリペプチドは、天然に存在しないポリペプチドを含む野生型親ポリペプチドに由来してもよい。前述の実施形態のいずれかの変異ポリペプチドは、親ポリペプチドと比較して少なくとも1つのアミノ酸置換を含み得る。前述の実施形態のいずれかの変異ポリペプチドは、親ポリペプチドよりも高い割合の荷電アミノ酸残基を有し得る。
【0017】
前述の実施形態のいずれかのポリペプチド又は変異ポリペプチドは、タンパク質又はタンパク質フラグメントであってもよい。前述の実施形態のいずれかのポリペプチド又は変異ポリペプチドは、抗体、一本鎖抗体、及び抗体フラグメントから選択されてもよく、及び活性は、抗原に対する結合活性である。本ポリペプチド又は変異ポリペプチドは抗体のFc領域であってもよい。本ポリペプチド又は変異ポリペプチドは酵素であってもよく、及び活性は酵素活性であってもよい。本ポリペプチド又は変異ポリペプチドは、受容体、調節タンパク質、可溶性タンパク質、サイトカイン、及び受容体、調節タンパク質、可溶性タンパク質又はサイトカインのフラグメントから選択されてもよい。
【0018】
前述の実施形態のいずれかの種は、硫化水素、重炭酸イオン又は二硫化物イオンであってもよい。前述の実施形態のいずれかの種は、6.2より高いpKaを有してもよい。
【0019】
前述の実施形態のいずれかのポリペプチドは2つの機能ドメインを有してもよく、及び活性は、2つの機能ドメインのうちの一方の活性である。2つの機能ドメインの両方がpH依存的活性を有してもよい。本ポリペプチドは二重特異性抗体であってもよい。
【0020】
別の実施形態において、前述の実施形態のいずれかのポリペプチドは、固形腫瘍、炎症関節、又は脳疾患若しくは障害の治療に用いられ得る。
【0021】
別の実施形態において、本開示は、前述の実施形態のいずれかのポリペプチドを投与する工程を含む、固形腫瘍、炎症関節、又は脳疾患若しくは障害の治療方法に関する。本ポリペプチドは、本ポリペプチドを含むか又はナノ粒子に連結されたT細胞のキメラ抗原受容体の一部として、又は本ポリペプチドを含む抗体-薬物コンジュゲートとして投与されてもよい。
【0022】
別の実施形態において、本開示は、本ポリペプチドを含むT細胞のキメラ抗原受容体に関する。前述の実施形態の各々において、本ポリペプチドはナノ粒子に連結されていてもよい。
【0023】
別の実施形態において、本開示は、本ポリペプチドを含む抗体-薬物コンジュゲートに関する。
【0024】
別の実施形態において、本開示は、条件的活性型生物学的タンパク質と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0025】
別の態様(apsect)において、本開示は、親ポリペプチドから条件的活性型ポリペプチドを作製する方法を提供し、この方法は、
(i)その活性部位外にある少なくとも1つの領域を突然変異させることにより親ポリペプチドを進化させる工程であって、それにより1つ以上の変異ポリペプチドを作製する工程;
(ii)1つ以上のポリペプチド及び親ポリペプチドを正常生理条件下の第1のアッセイに供して正常生理条件下での活性部位の活性を計測し、及び異常条件下の第2のアッセイに供して異常条件下での活性部位の活性を計測する工程であって、正常生理条件と異常条件とが同じ条件であるが異なる値を有する、工程;及び
(iii)1つ以上の変異ポリペプチドから、(a)第1のアッセイにおける親ポリペプチドの同じ活性と比較した活性の低下、及び(b)第2のアッセイにおける親ポリペプチドの同じ活性と比較した活性の増加、の両方を呈する条件的活性型ポリペプチドを選択する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例9で作製した条件的活性型抗体及びpH7.4と比べたpH6.0でのそれらの選択性を示す。
【
図2】種々の緩衝溶液でアッセイした条件的活性型抗体の抗原への結合活性を示す。
【
図3】クレブス緩衝液の組成の変更が条件的活性型抗体の結合活性に及ぼす効果を示す。
【
図4】実施例12に記載されるとおり、3つの異なる条件的活性型抗体の結合活性がpH7.4で重炭酸塩の存在及び濃度に依存的であったことを示す。
【
図5】キメラ抗原受容体(CAR)の構造を示す図である。
【
図6】デオキシヘモグロビンにおける塩橋の形成を示す図であり、ここでは3つのアミノ酸残基が2つの塩橋を形成し、これらの塩橋がデオキシヘモグロビンのT四次構造を安定化させるため、酸素に対する親和性の低下につながる。
【
図7】種々の緩衝溶液中での条件的活性型抗体のRor2に対する活性を示す。
【
図8】種々の緩衝溶液中での条件的活性型抗体のAxlに対する活性を示す。
【
図9】10mMの二硫化物イオンを含むアッセイ溶液を使用して発見された条件的活性型抗体のAxlに対する活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
定義
本明細書に提供される例が容易に理解されるように、幾つかの高頻度で出現する方法及び/又は用語をここに定義するものとする。以下の用語の定義は米国特許第8,709,755 B2号明細書から参照によって援用される:「薬剤」、「曖昧な塩基要件」、「アミノ酸」、「増幅」、「キメラ特性」、「コグネイト」、「比較ウィンドウ」、「保存的アミノ酸置換」、「~に対応する」、「分解上有効な」、「定義された配列フレームワーク」、「定義された配列カーネル」、「消化」、「方向性ライゲーション」、「DNAシャフリング」、「薬物」又は「薬物分子」、「有効量」、「エピトープ」、「酵素」、「進化」又は「進化する」、「フラグメント」又は「誘導体」又は「類似体」、「全域単一アミノ酸置換」、「遺伝子」、「遺伝的不安定性」、「異種」、「同種」又は「同祖」、「産業上の利用」、「同一」又は「同一性」、「同一性範囲」、「単離された」、「単離核酸」、「リガンド」、「ライゲーション」、「リンカー」又は「スペーサー」、「微小環境」、「進化させる分子特性」、「突然変異」、「N,N,G/T」、「正常生理条件」又は「野生型動作条件」、「核酸分子」、「核酸分子」、「~をコードする核酸配列」又は「~のDNAコード配列」又は「~をコードするヌクレオチド配列」、「酵素(タンパク質)をコードする核酸」又は「酵素(タンパク質)をコードするDNA」又は「酵素(タンパク質)をコードするポリヌクレオチド」、「特異的核酸分子種」、「ワーキング核酸試料を核酸ライブラリにアセンブルする」、「核酸ライブラリ」、「構築物」、「オリゴヌクレオチド」(又は同義語として「オリゴ」)、「同種」、「作動可能に連結された」、「親ポリヌクレオチドセット」、「患者」又は「対象」、「生理条件」、「集団」、「プロフォーム」、「擬似ランダム」、「準反復単位」、「ランダムペプチドライブラリ」、「ランダムペプチド配列」、「受容体」、「組換え」酵素、「合成」酵素、「関連ポリヌクレオチド」、「減少的再集合」、「参照配列」、「反復インデックス(RI)」、「制限部位」、「選択可能なポリヌクレオチド」、「配列同一性」、「類似性」、「特異的に結合する」、「特異的ハイブリダイゼーション」、「特異的ポリヌクレオチド」、「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」、「実質的に同一」、「実質的に純粋な酵素」、「実質的に純粋」、「処理する」、「可変セグメント」、及び「変異体」。
【0028】
測定量と関連して本明細書で使用される用語「約」は、測定を行い、測定の目的に相応の注意レベルと使用される測定機器の精度を行使する当業者によって期待される測定量における通常の変動に関連するものである。特に明記しない限り、「約」は、与えられた値の+/-10%の変動に関連する。
【0029】
用語「活性」は、本明細書で使用されるとき、反応の触媒及びパートナーとの結合を含め、タンパク質が果たし得る任意の機能を指す。酵素については、活性とは、酵素活性であり得る。抗体については、活性とは、抗体とその抗原との間の結合活性(即ち、結合活性)であり得る。受容体又はリガンドについては、活性とは、受容体とそのリガンドとの間の結合活性であり得る。
【0030】
用語「抗体」は、本明細書で使用されるとき、インタクトな免疫グロブリン分子、並びにFab、Fab’、(Fab’)2、Fv、及びSCAフラグメントなど、抗原のエピトープとの結合能を有する免疫グロブリン分子のフラグメントを指す。これらの抗体フラグメントは、その由来である抗体の抗原(例えばポリペプチド抗原)に選択的に結合する能力をいくらか保持しているものであり、当該技術分野において周知の方法を用いて作製することができ(例えば、Harlow and Lane,前掲を参照)、以下のとおり、さらに説明される。抗体は、イムノアフィニティークロマトグラフィーによる抗原の調製分量の単離に使用することができる。かかる抗体の他の様々な用途は、疾患(例えば新生物形成)の診断及び/又はステージ判定、並びに、例えば、新生物形成、自己免疫疾患、AIDS、心血管疾患、感染症などの疾患を治療するための治療適用である。キメラ抗体、ヒト様抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体が、ヒト患者への投与に特に有用である。
【0031】
Fabフラグメントは抗体分子の一価抗原結合フラグメントからなり、全抗体分子を酵素パパインで消化して、インタクトな軽鎖と重鎖の一部分とからなるフラグメントを生じさせることによって作製し得る。
【0032】
抗体分子のFab’フラグメントは、全抗体分子をペプシンで処理し、続いて還元して、インタクトな軽鎖と重鎖の一部分とからなる分子を生じさせることによって得ることができる。このように処理した抗体分子1つにつき2つのFab’フラグメントが得られる。
【0033】
抗体の(Fab’)2フラグメントは、続く還元なしに全抗体分子を酵素ペプシンで処理することによって得ることができる。(Fab’)2フラグメントは、2つのジスルフィド結合によって一体に保持された2つのFab’フラグメントの二量体である。
【0034】
Fvフラグメントは、2本の鎖として発現した軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域とを含む遺伝子操作されたフラグメントとして定義される。
【0035】
一本鎖抗体(「SCA」又はscFv)は、好適な可動性ポリペプチドリンカー(liner)によって連結された軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域とを含む遺伝子操作された単鎖分子であり、アミノ末端及び/又はカルボキシル末端に追加のアミノ酸配列を含み得る。例えば、一本鎖抗体は、コードポリヌクレオチドに連結するための繋留セグメントを含み得る。機能性の一本鎖抗体は、概して、軽鎖の可変領域のうち十分な部分と重鎖の可変領域のうち十分な領域とを含み、そのため特異的標的分子又はエピトープへの結合に関して完全長抗体の特性を保持している。
【0036】
用語「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」又は「ADCC」は、特定の細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)上に存在するFc受容体(FcR)に分泌免疫グロブリンが結合して、それによりこれらの細胞傷害性エフェクター細胞が抗原担持標的細胞に特異的に結合し、続いて細胞毒でそれらの標的細胞を死滅させることが可能となる細胞傷害の一形態を指す。標的細胞の表面に対するリガンド特異的高親和性IgG抗体は細胞傷害性細胞を刺激するもので、かかる死滅に必要である。標的細胞の溶解は細胞外であり、細胞間の直接接触を必要とし、補体は関与しない。
【0037】
任意の特定の抗体がADCCによる標的細胞の溶解を媒介する能力は、アッセイすることができる。ADCC活性を評価するには、免疫エフェクター細胞と併せて標的リガンドを提示する標的細胞に目的の抗体を加え、免疫エフェクター細胞が抗原抗体複合体によって活性化されると、標的細胞の細胞溶解が生じ得る。細胞溶解は、概して、溶解した細胞からの標識(例えば、放射性基質、蛍光色素又は天然細胞内タンパク質)の放出によって検出される。かかるアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。インビトロADCCアッセイの具体的な例は、Bruggemann et al,1987,J.Exp Med,vol.166,page 1351;Wilkinson et al,2001,J Immunol.Methods,vol.258,page 183;Patel et al,1995 J.Immunol.Methods,vol.184,page 29に記載されている。それに代えて又は加えて、目的の抗体のADCC活性は、Clynes et al.,1998,PNAS USA,vol.95,p.652に開示されるものなど、例えば動物モデルにおいて、インビボで評価してもよい。
【0038】
用語「抗原」又は「Ag」は、本明細書で使用されるとき、免疫応答を惹起する能力を有する分子として定義される。この免疫応答には、抗体産生、又は特異的免疫適格細胞の活性化の一方、又は両方が含まれ得る。当業者は、事実上全てのタンパク質又はペプチドを含めた任意の巨大分子が抗原として働き得ることを理解するであろう。抗原が生成され、合成されてもよく、又は生体試料に由来してもよいことは容易に明らかである。かかる生体試料としては、限定はされないが、組織試料、腫瘍試料、細胞又は生体液を挙げることができる。
【0039】
用語「アンチセンスRNA」は、本明細書で使用されるとき、第2のRNA分子と共にその第2のRNA分子との相補性又は部分的相補性によって二重鎖を形成する能力を有するRNA分子を指す。アンチセンスRNA分子は第2のRNA分子の翻訳領域又は非翻訳領域と相補的であり得る。アンチセンスRNAは第2のRNA分子と完全に相補的である必要はない。アンチセンスRNAは第2のRNA分子と同じ長さであっても、又はそうでなくてもよい;アンチセンスRNA分子は第2のRNA分子より長くても又は短くても、いずれであってもよい。第2のRNA分子がmRNAである場合、アンチセンスRNAの結合によってmRNAが機能性タンパク質産物に翻訳されることが完全に又は部分的に妨げられることになる。
【0040】
用語「バイオシミラー」又は「後発生物製剤」は、米国食品医薬品局(FDA)が公表している実用上の定義と一致する形で使用され、FDAはバイオシミラーを、基準製剤と(臨床的に不活性な成分は僅かに異なるものの)「高度に類似した」製剤と定義している。実際には、安全性、純度、及び効力の点で基準製剤とバイオシミラー製剤との間に臨床的に有意味な違いはないものとし得る(公衆衛生法(PHS)第262条)。バイオシミラーはまた、欧州医薬品庁(European Medicines Agency)のヒト用医薬品委員会(Committee for Medicinal Products for Human Use:CHMP)によって2012年5月30日に採択され、且つ欧州連合によって“Guideline on similar biological medicinal products containing monoclonal antibodies - non-clinical and clinical issues”(文書参照EMA/CHMP/BMWP/403543/2010)として発表された1つ以上のガイドラインを満たすものでもあり得る。例えば、「バイオシミラー抗体」は、典型的には別の企業によって作製される後発版の新薬抗体(基準抗体)を指す。バイオシミラー抗体と基準抗体との違いには、例えば抗体に他の生化学基、例えば、リン酸、様々な脂質及び炭水化物を付加することによるか;翻訳後のタンパク質分解切断によるか;アミノ酸の化学的性質を変化させること(例えばホルミル化)によるか;又は他の多くの機構による翻訳後修飾が含まれ得る。他の翻訳後修飾は、製造工程での操作の結果であり得る-例えば、製剤が還元糖に曝露して糖化が起こり得る。ある場合には、保存条件が、酸化、アミド分解、又は凝集などのある種の分解経路が起こることに関して許容的であり得る。これらの製剤に関する変種の全てがバイオシミラー抗体に含まれ得るとおり。
【0041】
用語「癌」及び「癌性」は、典型的には制御されない細胞成長/増殖によって特徴付けられる哺乳類における生理条件を指し、又はそれを記述する。「腫瘍」は1つ又はそれ以上の癌性細胞を含む。癌の例としては、限定はされないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病又はリンパ性悪性腫瘍が挙げられる。かかる癌のより詳細な例としては、有棘細胞癌(例えば、上皮有棘細胞癌)、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌(「NSCLC」)、肺腺癌及び肺扁平上皮癌を含む)、腹膜癌、肝細胞癌、胃癌(gastric cancer)又は胃癌(stomach cancer)(消化管癌を含む)、膵癌、膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、ヘパトーマ、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌又は子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌又は腎癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝癌、肛門癌、陰茎癌、並びに頭頸部癌が挙げられる。
【0042】
用語「キメラ抗原受容体」又は「CAR」又は「CARs」は、本明細書で使用されるとき、細胞傷害性細胞、例えばT細胞、NK細胞及びマクロファージに抗原特異性をグラフトする、操作された受容体を指す。本発明のCARは、少なくとも1つの抗原特異的標的領域(ASTR)、細胞外スペーサードメイン(ESD)、膜貫通ドメイン(TM)、1つ又はそれ以上の共刺激ドメイン(CSD)、及び細胞内シグナル伝達ドメイン(ISD)を含み得る。一部の実施形態において、ESD及び/又はCSDは任意選択である。一実施形態において、ASTRは二重特異性であり、2つの異なる抗原又はエピトープを認識することができる。ASTRが標的抗原に特異的に結合した後、ISDが細胞傷害性細胞の細胞内シグナル伝達を活性化する。例えば、ISDは、CARの抗原結合特性に依存して、MHCの制限を受けない形でT細胞特異性及び細胞傷害性を選択の標的に向け直すことができる。MHCの制限を受けない抗原認識により、CARを発現する細胞傷害性細胞が抗原プロセシングと独立した抗原認識能を得るため、従って主要な腫瘍エスケープ機構が回避される。さらに、T細胞で発現するとき、CARは有利には、内因性T細胞受容体(TCR)α鎖及びβ鎖と二量体化しない。
【0043】
用語「条件的活性型ポリペプチド」は、少なくとも1つの条件下で親ポリペプチドよりも活性が高く、且つ第2の条件下で親ポリペプチドよりも活性が低い、親ポリペプチドの変異体又は突然変異体を指し、或いは変異体又は突然変異体ポリペプチドが第1の条件下で第2の条件下より少なくとも1.3倍高い活性である、親ポリペプチドの変異体又は突然変異体を指す。この条件的活性型ポリペプチドは、1つ以上の選択された生体位置で活性を呈し、及び/又は生体の別の位置では活性の増加又は低下を呈し得る。例えば、一態様において、進化させた条件的活性型生物学的タンパク質は、体温では事実上不活性であるが、それより低い温度では活性である。条件的活性型ポリペプチドには、条件的活性型タンパク質、タンパク質フラグメント、抗体、抗体フラグメント、酵素、酵素フラグメント、受容体及び受容体のフラグメント、サイトカイン及びそのフラグメント、ホルモン及びそのフラグメント、リガンド及びそのフラグメント、調節タンパク質及びそのフラグメント、成長因子及びそのフラグメント、並びにタンパク質、例えば、ストレスタンパク質、ヴォールト関連タンパク質、ニューロンタンパク質、消化管タンパク質、成長因子、ミトコンドリアタンパク質、細胞質タンパク質、動物性タンパク質、構造タンパク質、植物性タンパク質及びこれらのタンパク質のいずれかのフラグメントが含まれる。本明細書に記載される条件的活性型ポリペプチドの各々は、好ましくは条件的活性型生物学的ポリペプチドである。
【0044】
用語「サイトカイン(cytokine)」又は「サイトカイン(cytokines)」は、本明細書で使用されるとき、免疫系の細胞を生じさせる/それに影響を及ぼす生体分子の一般的なクラスを指す。この定義には、限定はされないが、局所的に又は血液循環を通じて分泌部位から離れた他の位置で作用して個体の免疫応答を調節又は調整する生体分子が含まれることが意図される。例示的サイトカインとしては、限定はされないが、インターフェロン-α(IFN-α)、インターフェロン-β(IFN-β)、及びインターフェロン-γ(IFN-γ)、インターロイキン類(例えば、IL-1~IL-29、詳細には、IL-2、IL-5、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15及びIL-18)、腫瘍壊死因子(例えば、TNF-α及びTNF-β)、エリスロポエチン(EPO)、MIP3a、単球走化性タンパク質(MCP)-1、細胞内接着分子(ICAM)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)が挙げられる。
【0045】
本明細書で使用されるとき、用語「電解質」は、電荷を帯びた血液中又は他の体液中のミネラルを定義して使用される。例えば、一態様において、正常生理条件と異常条件とは異なる値の「電解質濃度」であり得る。例示的電解質としては、限定はされないが、イオン化カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、塩化物、クエン酸塩、乳酸塩、重炭酸塩、及びリン酸塩が挙げられる。
【0046】
用語「完全長抗体」は、抗原結合可変領域(VH又はVL)並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメインCH1、CH2及びCH3を含む抗体を指す。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えばヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体であってもよい。完全長抗体は、その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて異なる「クラス」に割り当てられ得る。完全長抗体の主要なクラスは5つあり:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM、これらのうちの幾つかは「サブクラス」(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2にさらに分かれ得る。異なる抗体クラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0047】
用語「成長因子」は、本明細書で使用されるとき、細胞の分化を生じさせる能力を有するポリペプチド分子を指す。成長因子の例としては、限定はされないが、上皮成長因子(EGF)、形質転換成長因子-α(TGFα)、形質転換成長因子-β(TGF-β)、ヒト内皮細胞成長因子(ECGF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、骨形成タンパク質(BMP)、神経成長因子(NGF)、血管内皮成長因子(NEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、インスリン様成長因子(IGF)、軟骨由来形態形成タンパク質(CDMP)、及び血小板由来成長因子(PDGF)が挙げられる。
【0048】
用語「ホルモン」は、本明細書で使用されるとき、メディエーターとして同定されることが多い物質を指し、典型的には生物のある部分の細胞又は腺によって放出されて、その生物の他の部分へのメッセンジャーとして働くものである。例示的ホルモンには、血流中に直接放出される内分泌ホルモン、及び管路中に直接分泌され、及び管路からそれらが血流中に、又は細胞から細胞に、パラ分泌シグナル伝達として知られる過程で拡散によって流れ込む外分泌ホルモン(又はエクトホルモン)が含まれる。脊椎動物ホルモンは、3つの化学的クラス:ペプチドホルモン、脂質及びリン脂質由来ホルモン、及びモノアミンに分類することができる。ペプチドホルモンはポリペプチド鎖からなる。ペプチドホルモンの例としては、インスリン及び成長ホルモンが挙げられる。脂質及びリン脂質由来ホルモンは、リノール酸及びアラキドン酸などの脂質並びにリン脂質に由来する。主要なクラスは、コレステロール及びエイコサノイドに由来するステロイドホルモンである。ステロイドホルモンの例はテストステロン及びコルチゾールである。モノアミンは、芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ酵素の作用によってフェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンなどの芳香族から得られる。モノアミンの例はチロキシン及びアドレナリンである。
【0049】
用語「免疫調節薬」は、本明細書で使用されるとき、免疫系に対する作用が、免疫応答に関わる少なくとも1つの経路の活性の即時の又は遅延した増強又は低下をもたらす薬剤を指す。かかる応答は自然免疫系又は適応免疫系又は両方の一部として天然に存在するものか、又は人工的に惹起されるものであり得る。免疫調節薬(immunomobulator)の例としては、サイトカイン、幹細胞成長因子、リンホトキシン、例えば腫瘍壊死因子(TNF)、及び造血因子、例えばインターロイキン類(例えば、インターロイキン-1(IL-1)、IL-2、IL-3、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、及びIL-21)、コロニー刺激因子(例えば、顆粒球-コロニー刺激因子(G-CSF)及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF))、インターフェロン類(例えば、インターフェロン-α、-β及び-γ)、「S1因子」と呼ばれる幹細胞成長因子、エリスロポエチン及びトロンボポエチンが挙げられる。好適な免疫調節薬部分の例としては、IL-2、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、IL-21、インターフェロン類、TNF(例えばTNF-α)などが挙げられる。
【0050】
「個体」又は「対象」は哺乳類である。哺乳類としては、限定はされないが、家畜化された動物(例えば、雌ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)が挙げられる。
【0051】
用語「ライブラリ」は、本明細書で使用されるとき、単一のプールとしてのタンパク質のコレクションを指す。ライブラリはDNA組換え技術を用いて作成し得る。例えば、cDNA又は任意の他のタンパク質コードDNAのコレクションを発現ベクターに挿入してタンパク質ライブラリを作成し得る。また、cDNA又はタンパク質コードDNAのコレクションをファージゲノムに挿入して野生型タンパク質のバクテリオファージディスプレイライブラリも作成し得る。cDNAのコレクションは、Sambrook et al.(Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)によって開示される方法によるなどして、特定の細胞集団又は組織試料から作製し得る。特定の細胞型由来のcDNAコレクションはまた、Stratagene(登録商標)などの供給業者から市販もされている。本明細書で使用されるとおりの野生型タンパク質のライブラリは、生物学的試料のコレクションではない。
【0052】
用語「リガンド」は、本明細書で使用されるとき、1つ以上の結合部位において特定の受容体によって認識され且つその受容体に特異的に結合する分子を指す。リガンドの例としては、限定はされないが、細胞膜受容体のアゴニスト及びアンタゴニスト、毒素及び毒液、ウイルスエピトープ、ホルモン、ホルモン受容体ペプチド、酵素、酵素基質、補因子、薬物(例えばアヘン製剤、ステロイド等)、レクチン、糖類、ポリヌクレオチド、核酸、オリゴ糖類、タンパク質、及びモノクローナル抗体が挙げられる。典型的には、リガンドは2つの構造部分:リガンドのその受容体への結合に関与する第1の部分及びかかる結合に関与しない第2の部分を含む。
【0053】
用語「受容体」は、本明細書で使用されるとき、所与のリガンドに親和性を有する分子を指す。受容体は天然に存在する分子又は合成分子であり得る。受容体は、改変されていない状態で、又は他の種との凝集体として用いられてもよい。受容体は、結合メンバーと直接、或いは特異的結合物質を介して、共有結合的又は非共有結合的に結合することができる。受容体の例としては、限定はされないが、特定の抗原決定基(ウイルス、細胞、又は他の材料などにあるもの)との反応性を示すモノクローナル抗体を含めた抗体及び抗血清、細胞膜受容体、複合糖質及び糖タンパク質、酵素、及びホルモン受容体が挙げられる。リガンドのその受容体への結合は、特異的分子認識を介したリガンドとその受容体分子との組み合わせによる複合体の形成を示し、これは当業者に公知の種々のリガンド受容体結合アッセイによって検出することができる。
【0054】
用語「マイクロRNA」又は「miRNA」は、本明細書で使用されるとき、miRNA遺伝子からのプロセシングされていない又はプロセシングされたRNA転写物を指す。プロセシングされていないマイクロRNA遺伝子転写物は、典型的には約70~100ヌクレオチド長のRNA転写物を含む。転写されたマイクロRNAは、RNアーゼ(例えば、ダイサー、アルゴノート、又はRNアーゼIII)による消化によってプロセシングを受けて、活性な19~25ヌクレオチドのRNA分子になり得る。この活性な19~25ヌクレオチドのRNA分子は、「プロセシングされた」マイクロRNA遺伝子転写物又は「成熟」マイクロRNAとも称される。
【0055】
用語「多重特異性抗体」は、本明細書で使用されるとき、少なくとも2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体である。例示的な多重特異性抗体はBBB-Rと脳抗原との両方に結合し得る。多重特異性抗体は完全長抗体又は抗体フラグメント(例えばF(ab’)2二重特異性抗体)として調製することができる。2つ、3つ又はそれ以上(例えば4つ)の機能性抗原結合部位を含む操作された抗体もまた企図される(例えば、米国特許出願公開第2002/0004587 A1号明細書を参照)。
【0056】
用語「ナノ粒子」は、本明細書で使用されるとき、サイズがナノメートル(nm)単位であって、最大直線寸法が約1000nm未満又は約500nm未満、又は約200nm未満、又は約100nm未満、又は約50nm未満の顕微鏡的粒子を指す。本明細書で使用されるとき、直線寸法とは、ナノ粒子上の任意の2点間を直線で計測したときの距離を指す。本発明のナノ粒子は、その形状及びサイズが結合相互作用を可能にする限り、不規則形状、長円形状、紡錘形状、ロッド形状、円盤形状、パンケーキ形状、円柱形状、赤血球様形状、球形状又は略球形状であってもよい。本発明のナノ粒子は、好ましくは生体適合性材料(ポリマー又は脂質)で作られる。
【0057】
用語「自然発生」は、本明細書で使用されるとき、対象が自然において見られるという事実に関連して適用されるものである。例えば、自然において原料から分離され得る有機体(ウイルスを含む)に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチド配列で、実験室内で人によって意図的に修飾されたのではないものは自然発生である。より大きいポリペプチドから切り出されたポリペプチドは天然に存在するポリペプチドではなく、なぜなら、切り出されたポリペプチドの末端基は、それらの末端基がもはや隣接ポリペプチドに結合しなくなることに起因して切り出された形態ではそのより大きい天然に存在するポリペプチドのものと異なるであろうためである。一般に、天然に存在するという用語は、その種に典型的であり得るものなど、非病的な(罹患していない)個体に存在するとおりの物体を指す。
【0058】
用語「親ポリペプチド」及び「親タンパク質」は、本明細書で使用されるとき、本発明の方法を用いて条件的活性型ポリペプチド又はタンパク質を作製するため進化させ得るポリペプチド又はタンパク質を指す。親ポリペプチドタンパク質は、天然に存在しないタンパク質を含む野生型タンパク質であり得る。例えば、治療用ポリペプチド若しくはタンパク質又は突然変異体若しくは変異体ポリペプチド若しくはタンパク質を親ポリペプチド又はタンパク質として使用し得る。親ポリペプチド及びタンパク質の例としては、抗体、抗体フラグメント、酵素、酵素フラグメント、サイトカイン及びそのフラグメント、ホルモン及びそのフラグメント、リガンド及びそのフラグメント、受容体及びそのフラグメント、調節タンパク質及びそのフラグメント、並びに成長因子及びそのフラグメントが挙げられる。
【0059】
用語「pH依存的」は、本明細書で使用されるとき、異なるpH値で異なる特性又は活性を有するポリペプチドを指す。
【0060】
用語「ポリペプチド」は、本明細書で使用されるとき、単量体がアミノ酸であって、ペプチド又はジスルフィド結合によって一緒につながったポリマーを指す。ポリペプチドは、完全長の天然に存在するアミノ酸鎖又はフラグメント、その突然変異体又は変異体、例えば、結合相互作用において対象となるアミノ酸鎖の選択領域であり得る。ポリペプチドはまた、合成アミノ酸鎖、又は天然に存在するアミノ酸鎖若しくはそのフラグメントと合成アミノ酸鎖との組み合わせであってもよい。フラグメントは、完全長タンパク質の一部であるアミノ酸配列を指し、典型的には約8~約500アミノ酸長、好ましくは約8~約300アミノ酸、より好ましくは約8~約200アミノ酸、さらにより好ましくは約10~約50又は100アミノ酸長である。加えて、天然に存在するアミノ酸以外のアミノ酸、例えば、β-アラニン、フェニルグリシン及びホモアルギニンが、タンパク質に含まれ得る。一般に見られる非遺伝子コードアミノ酸もまた、ポリペプチドに含まれ得る。アミノ酸は、D型光学異性体又はL型光学異性体のいずれかであり得る。特定の文脈での使用にはD型異性体が好ましく、以下に詳述する。加えて、他のペプチドミメティクスもまた、例えばポリペプチドのリンカー配列において有用である(Spatola,1983,Chemistry and Biochemistry of Amino Acids.Peptides and Proteins,Weinstein,ed.,Marcel Dekker,New York,p.267を参照)。一般に、用語「タンパク質」は、共有結合性又は非共有結合性の結合によって一体に保持された2個又は数個のポリペプチド鎖を含む構造を包含すること以外には、何ら用語「ポリペプチド」との大きな違いを伝えようと意図するものではない。
【0061】
用語「組換え抗体」は、本明細書で使用されるとき、抗体をコードする核酸を含む宿主細胞によって発現される抗体(例えばキメラ、ヒト化、又はヒト抗体又はそれらの抗原結合フラグメント)を指す。組換え抗体を産生する「宿主細胞」の例としては、以下が挙げられる:(1)哺乳類細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、COS、骨髄腫細胞(Y0及びNS0細胞を含む)、ベビーハムスター腎臓(BHK)、Hela及びVero細胞;(2)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21及びTn5;(3)植物細胞、例えばタバコ属(Nicotiana)に属する植物(例えばニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum));(4)酵母細胞、例えば、サッカロミセス属(Saccharomyces)に属するもの(例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))又はアスペルギルス属(Aspergillus)に属するもの(例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger));(5)細菌細胞、例えば大腸菌(Escherichia coli)細胞又は枯草菌(Bacillus subtilis)細胞等。
【0062】
用語「調節タンパク質」は、本明細書で使用されるとき、別のポリペプチド又はRNA分子の活性を増加又は減少させる;別のポリペプチド又はRNA分子の存在量を増加又は減少させる;別のポリペプチド又はRNA分子と他のポリペプチド、DNA又はRNA分子、又は任意の他の結合基質との間の相互作用を変化させる;及び/又は別のポリペプチド又はRNA分子の細胞位置を変化させる任意のタンパク質を指す。調節タンパク質は、遺伝子の転写速度を増加又は減少させる場合、それは、遺伝子のプロモーター又はエンハンサー領域に効果を及ぼす転写因子と称されることが多い。転写因子の例としては、哺乳類転写因子、例えば、NFkB、NF1、サイクリックAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)、MyoDl、ホメオボックス転写因子、Spl、癌遺伝子及びjun、Mep-1、GATA-1、Isl-1、LFB1、NFAT、Pit-1、OCA-B、Oct-1及びOct-2、酵母A/α、cErb-A、myc、mad及びmax、p53、mdml、及びLatchman,1998,Eukaryotic Transcription Factors,3rd.Ed.,Academic Press:New Yorkに記載されるとおりの他のものが挙げられる。結合特異性を提供する、融合タンパク質の少なくともDNA結合モチーフが小分子調節因子結合部位に融合した、これら又は他の転写因子の融合タンパク質誘導体もまた使用し得る。
【0063】
用語「低分子干渉RNA」又は「siRNA」は、本明細書で使用されるとき、siRNAと配列相同性を共有するmRNA分子と相互作用してその破壊を生じさせることのできるRNA又はRNA様分子を指す(Elbashir et al.,Genes Dev,vol.15,pp.188-200,2001)。siRNAはRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)として知られるリボ核タンパク質複合体に組み込まれ得ると考えられる。RISCはsiRNA配列を用いて、組み込まれたsiRNA鎖と少なくとも部分的に相補的なmRNA分子を同定し、次にこれらの標的mRNA分子を切断し、又はその翻訳を阻害する。典型的なsiRNAは、各鎖が約19~約28ヌクレオチド(即ち、約19、20、21、22、23、24、25、26、27、又は28ヌクレオチド)の二本鎖核酸分子である。siRNAはまた一本鎖RNAであってもよく、但し二本鎖siRNAと比べると効率が低い。一本鎖siRNAは約19~約49ヌクレオチドの長さを有する。一本鎖siRNAは5’リン酸を有するか、又は5’位置においてインサイチュー若しくはインビボでリン酸化される。一本鎖siRNAは化学的に又はインビトロ転写によって合成し、発現ベクター又は発現カセットから内因的に発現させることができる。5’リン酸基はキナーゼを介して付加されてもよく、又はRNAのヌクレアーゼ切断の結果であってもよい。
【0064】
用語「小分子」は、典型的には900a.m.u.未満、又はより好ましくは500a.m.u.未満又はより好ましくは200a.m.u.未満又はさらにより好ましくは100a.m.u.未満の分子量を有する分子又はイオンを指す。本発明のアッセイ及び環境において、小分子は多くの場合に、主としてアッセイ又は環境のpHに依存して、分子と分子の脱プロトン化イオンとの混合物として存在し得る。
【0065】
用語「治療用タンパク質」は、本明細書で使用されるとき、例えば研究者又は臨床医によって探究されている組織、システム、動物又はヒトの生物学的又は医学的応答を生じさせるため哺乳類に投与することのできる任意のタンパク質及び/又はポリペプチドを指す。治療用タンパク質は、2つ以上の生物学的又は医学的応答を生じさせ得る。治療用タンパク質の例としては、抗体、酵素、ホルモン、サイトカイン、調節タンパク質、及びこれらのフラグメントが挙げられる。
【0066】
用語「治療有効量」は、本明細書で使用されるとき、かかる量の投与を受けていない対応する対象と比較したときに、限定はされないが、疾患、障害、若しくは副作用の治癒、予防、若しくは改善、又は疾患若しくは障害の進行速度の低下をもたらす任意の量を意味する。この用語にはまた、その範囲内に、正常な生理学的機能を増強するのに有効な量並びに第2の医薬品の治療効果を増強又は補助する生理学的機能を患者に生じさせるのに有効な量も含まれる。
【0067】
用語「腫瘍微小環境」は、本明細書で使用されるとき、固形腫瘍内及びその周囲の、腫瘍細胞の成長及び転移を支援する微小環境を指す。腫瘍微小環境には、新生物形質転換を促進し、腫瘍成長及び浸潤を支援し、腫瘍を宿主免疫から保護し、治療抵抗性を発達させ、及び潜伏転移が育つニッチを提供することのできる周囲血管、免疫細胞、線維芽細胞、他の細胞、可溶性因子、シグナル伝達分子、細胞外マトリックス、及び機械的キューが含まれる。腫瘍とその周囲微小環境とは緊密に関係し、常に相互作用している。腫瘍は、細胞外シグナルを放出し、腫瘍血管新生を促進し、及び末梢性免疫寛容を誘導することによってその微小環境に影響を与えることができ、一方、微小環境中の免疫細胞は癌性細胞の成長及び進化に影響を及ぼすことができる。Swarts et al.“Tumor Microenvironment Complexity:Emerging Roles in Cancer Therapy,”Cancer Res,vol.,72,pages2473-2480,2012;Weber et al.,“The tumor microenvironment,”Surgical Oncology,vol.21,pages172-177,2012;Blagosklonny,“Antiangiogenic therapy and tumor progression,”Cancer Cell,vol.5,pages13-17,2004;Siemann,“Tumor microenvironment,”Wiley,2010;及びBagley,“The tumor microenvironment,”Springer,2010を参照のこと。
【0068】
本明細書で使用されるとき、用語「野生型」とは、ポリヌクレオチドがいかなる突然変異も含まないことを意味する。「野生型(wild type)タンパク質」、「野生型(wild-type)タンパク質」、「野生型(wild-type)生物学的タンパク質」、又は「野生型(wild type)生物学的タンパク質」は、天然に見られる活性レベルで活性であり得るとともに天然に見られるアミノ酸配列を含み得る、自然から単離することのできるタンパク質を指し得る。用語「親分子」及び「標的タンパク質」もまた、野生型タンパク質を包含する。
【0069】
詳細な説明
A.pH依存的条件的活性型ポリペプチド
一態様において、本発明は、活性が所望されるpHの0.5、1、2又は4単位の範囲内にあるpKaを有する種の存在下でpH依存的活性を有する条件的活性型ポリペプチドに関する。別の態様において、本発明は、約4~約10、又は約4.5~約9.5又は約5~約9、又は約5.5~約8、又は約6.0~約7.0のpKaを有する種の存在下でpH依存的活性を有する条件的活性型ポリペプチドに関する。別の態様において、本発明は、ヒスチジン、ヒスタミン、水素付加アデノシン二リン酸、水素付加アデノシン三リン酸、クエン酸イオン、重炭酸イオン、酢酸イオン、乳酸イオン、二硫化物イオン、硫化水素、アンモニウムイオン、リン酸二水素イオン及びこれらの任意の組み合わせから選択される種の存在下でpH依存的活性を有する条件的活性型ポリペプチドに関する。
【0070】
条件的活性型ポリペプチドの活性に大きい影響を有するアッセイ媒体中に存在する種は、少なくとも2つのイオン化状態:非荷電状態又は低荷電状態と荷電又は高荷電状態とを有する種である傾向がある。結果として、条件的活性型ポリペプチドの活性に影響を与える種のpKaは、その種がポリペプチドの特定の活性に対して及び/又は特定のpHで有し得る影響の程度を決定する役割を果たし得る。
【0071】
pH依存的条件的活性型ポリペプチドは、第1のpHにおいて第2の異なるpHにおけるよりも活性が高い(両方の活性とも、上記に列挙した種のうちの1つ以上の存在下におけるアッセイで計測される)。条件的活性型ポリペプチドのpH依存性を決定するには、ポリペプチドの同じ活性を同じアッセイ媒体中で2つの異なるpH値においてアッセイする。
【0072】
同じアッセイ媒体中での第1のpHにおける活性の第2のpHにおける同じ活性に対する比は、pH依存的条件的活性型ポリペプチドの選択性と称することができる。pH依存的条件的活性型ポリペプチドは、少なくとも約1.3、又は少なくとも約1.5、又は少なくとも約1.7、又は少なくとも約2.0、又は少なくとも約3.0、又は少なくとも約4.0、又は少なくとも約6.0、又は少なくとも約8.0、又は少なくとも約10.0、又は少なくとも約20.0、又は少なくとも約40.0、又は少なくとも約60.0、又は少なくとも約100.0の選択性を有する。
【0073】
pH依存的条件的活性型ポリペプチドが、その条件的活性型(conditially active)ポリペプチドの由来である親ポリペプチドのアミノ酸残基と比較して増加した数(又は割合)の荷電アミノ酸残基を含むことが観察されている。3つの正電荷アミノ酸残基:リジン、アルギニン及びヒスチジン;及び2つの負電荷アミノ酸残基:アスパラギン酸及びグルタミン酸がある。これらの荷電アミノ酸残基は、pH依存的条件的活性型ポリペプチドの由来である親ポリペプチドと比較してpH依存的条件的活性型ポリペプチドに過剰に存在する。結果として、pH依存的条件的活性型ポリペプチドは、荷電アミノ酸残基の数が増加しているため、アッセイ媒体中の荷電種と相互作用する可能性が高くなる。これが、ひいては条件的活性型ポリペプチドの活性に影響する。
【0074】
また、pH依存的条件的活性型ポリペプチドが、典型的にはアッセイ媒体中の異なる種の存在下で異なる活性を有することも観察されている。少なくとも2つのイオン化状態:非荷電又は低荷電状態と荷電又は高荷電状態とを有する種は特定のpHでpKa値に依存して解離の程度が大きくなり、それにより条件的活性型ポリペプチドに存在する荷電アミノ酸残基と相互作用する可能性が増加し得る。この要因を用いて条件的活性型ポリペプチドの選択性及び/又はpH依存的活性を増強し得る。
【0075】
条件的活性型ポリペプチド上の電荷の性質は、条件的活性型ポリペプチドの活性に影響を与えるのに好適な種の決定に用いられる一つの要因であり得る。一部の実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは親ポリペプチドと比較してより多くの正電荷アミノ酸残基:リジン、アルギニン及びヒスチジンを有し得る。従って条件的活性型ポリペプチドは、活性が所望される環境に存在する特定の種と所望のレベルの相互作用を有するように、及び/又は活性の低下が所望される環境に存在する特定の種と所望のレベルの相互作用を有するように選択することができる。同様に、条件的活性型ポリペプチドは親ポリペプチドと比較してより多くの負電荷アミノ酸残基:アスパラギン酸及びグルタミン酸を有し得る。
【0076】
pH依存的条件的活性型ポリペプチド上の荷電アミノ酸残基の位置もまた、活性に影響を与え得る。例えば、条件的活性型ポリペプチドの結合部位への荷電アミノ酸残基の近接性を用いてポリペプチドの活性に影響を与え得る。
【0077】
一部の実施形態において、荷電環境種が条件的活性型ポリペプチドと相互作用すると、pH依存的条件的活性型ポリペプチドの活性が遮断又は妨害され得る。例えば、荷電環境種と相互作用する荷電アミノ酸は、条件的活性型ポリペプチドの結合部位に対してアロステリック効果を示し得る。
【0078】
他の実施形態において、荷電環境種が条件的活性型ポリペプチドと相互作用すると、ポリペプチド上の異なる部分間、特に荷電又は極性部分間に塩橋が形成され得る場合があり得る。塩橋の形成はポリペプチド構造を安定化させることが知られている(Donald,et al.,“Salt Bridges:Geometrically Specific,Designable Interactions,”Proteins,79(3):898-915,2011;Hendsch,et al.,“Do salt bridges stabilize proteins? A continuum electrostatic analysis,”Protein Science,3:211-226,1994)。塩橋は、通常「ブリージング(breathing)」と呼ばれる軽微な構造変動を起こすタンパク質構造を安定化させ又は固定することができる(Parak,“Proteins in action:the physics of structural fluctuations and conformational changes,”Curr Opin Struct Biol.,13(5):552-557,2003)。タンパク質構造の「ブリージング」は、この構造ゆらぎによって条件的活性型タンパク質がそのパートナーを効率的に認識してそれに結合することが可能になるため、タンパク質機能及びそのパートナーとのその結合に重要である(Karplus,et al.,“Molecular dynamics and protein functions,”PNAS,vol.102,pp.6679-6685,2015)。塩橋の形成により、恐らくは塩橋がパートナーの結合部位への到達を直接阻止し得るため、条件的活性型ポリペプチド上の結合部位、特に結合ポケットにそのパートナーが到達しにくくなり得る。結合部位から離れた塩橋であっても、アロステリック効果により結合部位のコンホメーションが変化して結合が阻害され得る。従って、塩橋が条件的活性型ポリペプチドの構造を安定化させた(固定した)後、ポリペプチドはそのパートナーとの結合の点で低活性になり、活性の低下がもたらされ得る。
【0079】
ポリペプチド及びその構造が塩橋によってどのように安定化するかの一つの公知の例は、ヘモグロビンである。構造的及び化学的研究から、塩橋には少なくとも2組の化学基:ヒスチジンβ146及びα122(これらはpH7に近いpKa値を有する)のアミノ末端及び側鎖が関与していることが明らかになっている。デオキシヘモグロビンでは、β146の末端カルボキシレート基が、他方のαβ二量体のαサブユニットにおけるリジン残基と塩橋を形成する。この相互作用によってヒスチジンβ146の側鎖が同じ鎖の負電荷アスパラギン酸94との塩橋に関与し得る位置に固定されるが、但しヒスチジン残基のイミダゾール基がプロトン化されていることが条件である(
図6)。高いpHでは、ヒスチジンβ146の側鎖はプロトン化されておらず、塩橋は形成されない。しかしながら、pHが下がるにつれヒスチジンβ146の側鎖がプロトン化されるようになり、ヒスチジンβ146とアスパラギン酸β94との間に塩橋が形成され、それがデオキシヘモグロビンの四次構造を安定化させることにより、活発に代謝している組織(pHがより低い)で酸素が放出される傾向が高まることにつながる。ヘモグロビンは酸素に対してpH依存的結合活性を示し、ここでは低pHで、塩橋の形成に起因して酸素に対する結合活性が低下する。他方で、高pHでは、塩橋がないため酸素に対する結合活性は増加する。
【0080】
同様に、重炭酸塩などの小分子は、条件的活性型ポリペプチドのそのパートナーへの結合活性を条件的活性型ポリペプチドにおける塩橋の形成によって低下させ得る。例えば、6.4のそのpKaより低いpHでは、重炭酸塩はプロトン化され、従って荷電していない。非荷電重炭酸塩は塩橋を形成することができず、そのため条件的活性型ポリペプチドのそのパートナーとの結合にほとんど効果を有しない。従って、条件的活性型ポリペプチドは低pHでそのパートナーとの高い結合活性を有する。他方で、重炭酸塩のpKaより高いpHでは、重炭酸塩はプロトンを失うことによりイオン化され、そのため負電荷になる。負電荷重炭酸塩は条件的活性型ポリペプチド上の正電荷部分又は極性部分の間に塩橋を形成し、条件的活性型ポリペプチドの構造が安定化することになる。これにより条件的活性型ポリペプチドのそのパートナーとの結合が遮断され又は低下し得る。従って条件的活性型ポリペプチドは高pHで低い活性を有する。このように条件的活性型ポリペプチドは重炭酸塩の存在下では、高pHと比べて低pHで結合活性が高い条件的活性型活性を有する。
【0081】
アッセイ媒体に重炭酸塩などの種が存在しないとき、条件的活性型ポリペプチドはその条件的活性を失い得る。これは、条件的活性型ポリペプチド上にこのポリペプチドの構造を安定化させる(固定する)塩橋がないことが原因である可能性が高い。従って、パートナーはいかなるpHでも条件的活性型ポリペプチド上の結合部位に同様に到達することができ、第1のpHと第2のpHとで同程度の活性を生じることになる。
【0082】
他の実施形態において、小分子又はイオンと条件的活性型ポリペプチドとの間の相互作用により、ポリペプチドの構造がその活性を増加させる形で変化し得る。例えば、構造が変化すると、結合親和性に要求される結合部位の位置、立体障害又は結合エネルギーが変化することによって条件的活性型ポリペプチドの結合親和性が向上し得る。そのような場合、活性が所望されるところのpHで条件的活性型ポリペプチドに結合する小分子を選択することが望ましい場合もある。
【0083】
塩橋(イオン結合)は化合物及びイオンが条件的活性型ポリペプチドの活性に影響を及ぼす最も強力且つ最も一般的な形であるが、かかる化合物及びイオンと条件的活性型ポリペプチドとの間の他の相互作用もまた、条件的活性型ポリペプチドの構造の安定化(固定)に寄与し得ることが理解されるべきである。そのような他の相互作用としては、水素結合、疎水性相互作用、及びファンデルワールス相互作用が挙げられる。
【0084】
一部の実施形態において、好適な化合物又はイオンを選択するため、条件的活性型ポリペプチドが、それを進化させる元になった親ポリペプチドと比較され、条件的活性型ポリペプチドがより高い割合の負電荷アミノ酸残基又は正電荷アミノ酸残基を有するかどうかが決定される。次に、それぞれ第2のpHで好適な電荷を有する化合物が、条件的活性型ポリペプチドの活性(activty)に影響を与えるように選択され得る。例えば、条件的活性型ポリペプチドが親ポリペプチドよりも高い割合の正電荷アミノ酸残基を有するとき、好適な小分子は典型的には、第2のpHで条件的活性型ポリペプチドと相互作用するように負電荷でなければならない。他方で、条件的活性型ポリペプチドが親ポリペプチドよりも高い割合の負電荷アミノ酸残基を有するとき、好適な小分子は典型的には、第2のpHで条件的活性型ポリペプチドと相互作用するように正電荷でなければならない。
【0085】
他の実施形態において、条件的活性型ポリペプチドの活性は、小分子又はイオンと条件的活性型ポリペプチドの結合パートナーである標的ポリペプチドとの相互作用によって制御される。この場合、目標が小分子又はイオンと標的ポリペプチドとの間に相互作用を作り出すことである点を除き、上記の考察と同じ原理を同様に適用可能である。標的ポリペプチドは、例えば、条件的活性型抗体に対する抗原、又は条件的活性型受容体に対するリガンドであり得る。
【0086】
好適な小分子は、第1のpHにおける非荷電又は低荷電状態から第2のpHにおける荷電又は高荷電状態に移行する任意の無機又は有機分子であってもよい。従って、小分子は、典型的には第1のpH~第2のpHの間のpKaを有しなければならない。例えば、重炭酸塩は6.4のpKaを有する。従って、pH7.4など、より高いpHでは、負電荷重炭酸塩が条件的活性型ポリペプチドの荷電アミノ酸残基に結合して活性を低下させ得る。他方で、pH6.0など、より低いpHでは、低荷電重炭酸塩は条件的活性型ポリペプチドに同じ分量で結合せず、条件的活性型ポリペプチドのより高い活性が可能となり得る。
【0087】
二硫化物はpKa7.05を有する。従って、pH7.4など、より高いpHでは、より多くの負電荷二硫化物が条件的活性型ポリペプチドの正電荷アミノ酸残基に結合し、その活性を低下させ得る。他方で、pH6.2~6.8など、より低いpHでは、低荷電硫化水素/二硫化物は条件的活性型ポリペプチドに同じレベルで結合せず、そのため条件的活性型ポリペプチドのより高い活性が可能となる。
【0088】
本発明での使用には、第1~第2pHの間のpKaを有する小分子が好ましい。好ましい種は、二硫化物、硫化水素、ヒスチジン、ヒスタミン、クエン酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、及び乳酸塩から選択される。これらの小分子の各々が、6.2~7.0の間のpKaを有する。さらに、トリシン(pKa8.05)及びビシン(pKa8.26)などの他の小分子もまた使用し得る。他の好適な小分子については、本願の原理を用いたテキストブック、例えば、CRC Handbook of Chemistry and Physics,96th Edition,by CRC press,2015;Chemical Properties Handbook,McGraw-Hill Education,1998を参照し得る。
【0089】
アッセイ媒体又は環境中の小分子の濃度は、好ましくは対象における小分子の生理的濃度であるか又はそれに近いものである。例えば、重炭酸塩の(ヒト血清中における)生理的濃度は15~30mMの範囲である。従って、アッセイ媒体中の重炭酸塩の濃度は10mM~40mM、又は15mM~30mM、又は20mM~25mM、又は約20mMであってもよい。二硫化物の生理的濃度もまた低い。アッセイ媒体中の二硫化物の濃度は3~500nM、又は5~200nM、又は10~100nM、又は10~50nMであってもよい。
【0090】
本発明では、条件的活性型ポリペプチドは、環境中における特定の種の正常生理的濃度が目的のpH範囲における条件的活性型ポリペプチドの活性に有意な効果を及ぼし得るような濃度で選択及び利用される。従って、多くの療法的治療では、血流を介した療法的治療の送達を条件的活性型ポリペプチドの活性化を最小限に抑え又は防止しつつ可能にするため、血液又はヒト血清の約pH7.2~7.4で条件的活性型ポリペプチドが低い活性を有することが有利であり得る。結果として、かかる治療には、血流pHで条件的活性型ポリペプチドの活性に有意な効果を及ぼすのに十分な量のイオン化された小分子が確保されるように、pH7.2~7.4未満のpKaを有する小分子を選択することが有利となり得る。同時に、小分子のpKaは、小分子がプロトン化して条件的活性型ポリペプチド上の結合部位が空くことによる条件的活性型ポリペプチドの活性化を確実にするため条件的活性型ポリペプチドの活性が望ましいpH以上でなければならない。
【0091】
小分子は、立体障害を最小限に抑えることにより標的ポリペプチド又は条件的活性型ポリペプチド上の小さいポケットへの最大限の到達が確保されるように、好ましくは低分子量及び/又は比較的小型のコンホメーションを有する。このため、小分子は、典型的には900a.m.u.未満、又はより好ましくは500a.m.u.未満又はより好ましくは200a.m.u.未満又はさらにより好ましくは100a.m.u.未満の分子量を有する。例えば、硫化水素、二硫化物及び重炭酸塩は全て、以下の実施例13及び実施例14に示すとおり、標的ポリペプチド又は条件的活性型ポリペプチド上のポケットへの到達をもたらす低分子量及び小型構造を有する。
【0092】
小分子は、アッセイ又は環境中に実質的に同じ濃度、例えば重炭酸塩について約20μMで存在し得る。一部の実施形態において、小分子は異なる環境において異なる濃度で存在することもあり、従ってアッセイでこれを模擬することが望ましい場合もある。例えば、二硫化物は腫瘍微小環境中においてヒト血清中よりも高い濃度を有する。従って、一つのアッセイが酸性pH及びより高濃度の二硫化物の腫瘍微小環境を模擬し得る一方、第2のアッセイが中性又は弱塩基性pH及びより低濃度の二硫化物のヒト血清を模擬し得る。酸性pHは6.0~6.8の範囲であってもよく、一方、中性又は弱塩基性pHは約7.4であってもよい。第1のアッセイのより高い二硫化物は30μMであってもよく、一方、第2の緩衝液のより低い二硫化物は10μM以下、又は5μMであってもよい。
【0093】
一部の実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは、2つ以上の異なる小分子、例えば重炭酸塩とヒスチジンとの組み合わせが存在するときpH依存的である。
【0094】
小分子が存在しないとき、条件的活性型ポリペプチドはそのpH依存性を失い得る。従って、小分子の非存在下では、条件的活性型ポリペプチドは小分子の非存在下における第1のpHと第2のpHとの間で同様の活性を有し得る。
【0095】
一部の実施形態において、第1のpHは酸性pHであり、一方、第2のpHは塩基性又は中性pHである。他の実施形態において、第1のpHは塩基性pHであり、一方、第2のpHは酸性又は中性pHである。例えば、第1のpHは、約5.5~7.2、又は約6.0~7.0、又は約6.2~6.8の範囲のpHであってもよい。第2のpHは、約7.0~7.8、又は約7.2~7.6の範囲のpHであってもよい。
【0096】
酸性pHで活性がより高く、且つ塩基性又は中性pHで活性がより低い条件的活性型ポリペプチドは、pHが約5.5~7.2、又は約6.2~6.8で酸性である腫瘍微小環境を標的化することができる。
【0097】
他の実施形態において、pH依存的ポリペプチドがより高活性となる第1のpHは、滑液など、例えば7.6~7.9の塩基性pHであってもよい(Jebens et al.,“On the viscosity and pH of synovial fluid and pH of blood,”Journal of Bone and Joint Surgery,vol.41 B,pp.388-400,1959を参照のこと)。第2のpHは、条件的活性型ポリペプチドがより低活性である約7.2~7.6の血液のpHであってもよい。これらの条件的活性型ポリペプチドは、関節疾患、特に関節の炎症を標的化するのに好適であり得る。
【0098】
他の実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは脳を標的化するように設計され得る。血液脳関門の両側にはpHの差があり、脳側のpHは血液pHよりも約0.2pH単位低い。従って、条件的活性型ポリペプチドがより高活性である脳の第1のpHは約7.0~7.2(脳pH)であってもよく、一方、第2のpHは約7.4(血液pH)であってもよい。
【0099】
条件的活性型ポリペプチドは、酵素、サイトカイン、受容体、特に細胞受容体、調節性ポリペプチド、可溶性ポリペプチド、抗体、又はホルモンであってもよい。
【0100】
条件的活性型ポリペプチドは親ポリペプチドのフラグメントであってもよい。例えば、条件的活性型ポリペプチドは、抗体フラグメント、一本鎖抗体、酵素のフラグメント、受容体のフラグメント、サイトカインのフラグメント、又はホルモンのフラグメントであってもよい。抗体フラグメントは抗体のFcフラグメントであってもよい。
【0101】
Fcフラグメントは、第1のpHにおける補体との結合活性が第2のpHにおける同じ補体との結合活性よりも高い条件的活性型Fcフラグメントを生成するための親ポリペプチドとして使用し得る。Fcフラグメントの補体との結合を用いて抗体依存的細胞媒介性細胞傷害をもたらすことができる。第1のpHは、腫瘍微小環境のpHなど、5.5~7.2又は6.2~6.8の範囲の酸性であってもよく、一方、第2のpHは7.2~7.6の範囲である。第1のpHは、pHが典型的には約4.0であるリソソームのpHと異なる。さらに、リソソームは、Fcフラグメントが任意の他のポリペプチドと同じく分解の標的となる場所である。リソソームには補体がなく、リソソームを介して細胞媒介性細胞傷害が生じることはない。
【0102】
条件的活性型ポリペプチドは2つの機能ドメインを有してもよく、その機能ドメインの少なくとも一方、好ましくは両方がpH依存的活性を有し得る。これらの2つの機能ドメインを同時に進化させて選択を行うことにより、同じ変異ポリペプチドに両方の機能ドメインを同定し得る。或いは、これらの2つの機能ドメインは独立して進化させて選択し、pH依存的活性を別個に同定してもよい。2つの機能ドメインが同じ変異ポリペプチドにない場合、別個に同定された機能ドメインの両方を有するキメラポリペプチドとしてそれらを融合してもよい。
【0103】
一態様において、条件的活性型ポリペプチドは、いずれもタンパク質などの因子の存在下で、第1のpHにおいて親ポリペプチドと比較して活性の増加を示し、及び第2のpHにおいて親ポリペプチドと比較して活性の低下を示す。タンパク質は、血液、ヒト血清、又は生体の微小環境、例えば、腫瘍微小環境、炎症部位等に存在するタンパク質であってもよい。一つの好適なタンパク質はアルブミン、特にウシアルブミン又はヒトアルブミンなどの哺乳類アルブミンであり得る。
【0104】
一態様において、アルブミンなどのタンパク質は、進化工程によって作製される変異ポリペプチドからの条件的活性型ポリペプチドのスクリーニング及び選択に使用されるアッセイ溶液中に存在する。別の態様において、アルブミンなどのタンパク質を含むアッセイ溶液はまた、同じ又は異なる条件下での選択された条件的活性型ポリペプチドの活性に関する試験にも使用される。
【0105】
B.条件的活性型ポリペプチドの操作
条件的活性型ポリペプチドは、本明細書に記載される1つ以上のタンパク質操作技法によって操作し得る。タンパク質操作技法の非限定的な例としては、核酸への条件的活性型ポリペプチドのコンジュゲーション、ナノ粒子への条件的活性型ポリペプチドのコンジュゲーション、キメラ抗原受容体における条件的活性型ポリペプチドの操作、及びマスキングされた条件的活性型ポリペプチドの操作が挙げられる。
【0106】
本発明の条件的活性型ポリペプチドは、リンカーを介して核酸分子、例えばDNA又はRNA分子にコンジュゲートし得る。この条件的活性型ポリペプチドは、その条件が存在しない他の位置と比べて条件的活性型ポリペプチドが高活性である条件を有する対象の標的位置に核酸分子を送達する助けとなり得る。例えば、条件的活性型ポリペプチドは、ヒト血清などの他の位置における条件と比べて腫瘍微小環境(microenvironemnt)における条件下でその抗原に対する結合活性がより高い条件的活性型抗体であり得る。この効果を用いると、核酸分子を条件的活性型ポリペプチドにコンジュゲートして、且つそのコンジュゲートを対象に投与することにより、核酸分子を腫瘍微小環境に送達することができる。
【0107】
一部の実施形態において、核酸分子は、標的位置における遺伝子の発現を調節する薬剤であってもよい。異常な遺伝子発現は多くの疾患と関連付けられる。従って異常な遺伝子発現を修正することは、これらの疾患の制御又はさらにはその治癒に寄与し得る。例えば、異常な遺伝子発現は大多数の癌細胞の特徴であり、癌細胞では、多くの癌遺伝子など、一部の遺伝子の発現レベルが上昇している(例えば、乳癌細胞では上皮成長因子受容体2(HER2)が過剰発現する)。癌遺伝子の構成的に上昇した発現の選択的阻害は、癌細胞の増殖を阻害する機会をもたらす。
【0108】
遺伝子発現を阻害し得る核酸分子としては、アンチセンスRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA、オリゴDNA、及び核酸塩基を連結する非荷電アキラルポリアミド骨格を有するオリゴヌクレオチド模倣体が挙げられる(Pooga et al.,Curr Cancer Drug Targets,1(3):231-9,2001;Pandey et al.,Expert Opin Biol Ther.,9(8):975-89,2009)。
【0109】
アンチセンスRNAは、mRNAの特異的相補領域に塩基対合によって結合してmRNAの発現を配列特異的に阻害することのできる短いRNA分子である。アンチセンスRNAには、アンチセンスRNAとの結合部位でmRNAを切断するか、又は翻訳若しくはその他のmRNAプロセシング及びタンパク質合成における工程を物理的に遮断することのできるRNアーゼHが含まれ得る。
【0110】
低分子干渉RNA(siRNA)は、典型的には、翻訳を遮断しようとするmRNA配列とその配列の少なくとも一部分が相補的である短い二本鎖RNAセグメントである。siRNAは、クロマチンリモデリング、タンパク質翻訳の阻害、又は直接的なmRNA分解を用いた遺伝子サイレンシングの転写後機構によって機能し、これは真核細胞に遍在する(Caplen,“Gene therapy progress and prospects.Downregulating gene expression:the impact of RNA interference,”Gene Ther.,11(16):1241-1248,2004)及びBertrand et al.,“Comparison of antisense oligonucleotides and siRNAs in cell culture and in vivo,”Biochem Biophys Res Commun.,296(4):1000-1004,2002。
【0111】
特に、RISCを通じて、siRNAは、そのsiRNAと相同性を有するmRNAの配列特異的分解の強力なカスケードを開始させることができる(Fire et al.,“Potent and specific genetic interference by double-stranded RNA in Caenorhabditis elegans,”Nature 391:806-811,1998)。siRNAが細胞に導入されると、それはダイサーと呼ばれるRNアーゼIII酵素によってプロセシングされ、ダイサーによって長いsiRNAが切断されて、対称な2~3ヌクレオチドの3’オーバーハング並びに5’リン酸基及び3’ヒドロキシル基を有する短い21~23ヌクレオチドの二重鎖になる(Tuschl et al.,“Targeted mRNA degradation by double-stranded RNA in vitro,”Genes Dev.13:3191-3197,1999;Hamilton and Baulcombe,“A species of small antisense RNA in posttranscriptional gene silencing in plants,”Science,286:950-952,1999。従って有効なsiRNAは、siRNA媒介性サイレンシングを惹起するmRNAとの対合に、連続相補配列の小さいセグメントを必要とするに過ぎない(Jackson and Linsley,“Noise amidst the silence:off-target effects of siRNAs?”Trends Genet.,20:521-524,2004)。siRNAはゲノムに組み込まれず、従ってプラスミド又はウイルス媒体と比べて高い安全性を提供する。
【0112】
マイクロRNA(miRNA)は、天然に存在する21~25ヌクレオチド長の小さい非コードRNA分子のクラスである。マイクロRNAは、マイクロRNAが作用するmRNA分子と部分的に相補的である。マイクロRNAの主な機能は、翻訳抑制、mRNA切断、及び脱アデニル化によって遺伝子発現を低下させることである。miRNA種、配列データ、アノテーション、及び標的予測の中央オンラインリポジトリは、miRBaseと呼ばれ、英国のサンガー・インスティテュート(Sanger Institute)が管理している。マイクロRNA遺伝子がRNAポリメラーゼIIによって転写されると、5’キャップ及びポリAテールを有するプリmiRNAが産生される。核内で、RNアーゼIII酵素Drosha及び二本鎖RNA Pasha/DGCR8からなるマイクロプロセッサー複合体によってプリmiRNAがプロセシングされ、プレmiRNAが生成される。これらのプレmiRNAはカリオフェリンエクスポーチン(Exp5)及びRan-GTP複合体によって細胞質に輸送され、そこでRan GTPアーゼがExp5と結合してプレmiRNAと核ヘテロ三量体を形成する。これらのプレmiRNAがRNアーゼIII酵素ダイサーによってさらにプロセシングされると、成熟マイクロRNAが生成される。
【0113】
条件的活性型ポリペプチドによって送達し得る別のクラスの核酸は、核酸塩基が連結する非荷電アキラルポリアミド骨格を含むオリゴヌクレオチド模倣体である。このオリゴヌクレオチド模倣体はペプチド核酸(PNA)と呼ばれることが多い。より具体的には、PNAは、N-(2-アミノエチル)グリシンポリアミドがリン酸-リボース環骨格に置き換わり、且つメチレンカルボニルリンカーが天然並びに非天然核酸塩基をN-(2-アミノエチル)グリシンの中心アミンに結合しているDNA類似体である。骨格構造の極端な変化にも関わらず、PNAはワトソン・クリック塩基対合則に従うDNA及びmRNAへの配列特異的結合能を有する。
【0114】
PNAは天然核酸よりも高い親和性で相補DNA/RNAに結合し、これは一部には、骨格に負電荷がなく、結果的に電荷間の斥力が低下すること、並びに幾何学的要因が有利であることに起因する。PNAとDNA/mRNAとの複合体は生体液中で極めて安定しており、DNA又はmRNAと特異的にハイブリダイズすることによる標的遺伝子の転写及び翻訳の阻害につながる。概して、PNAは周知の固相ペプチド合成プロトコルを用いて合成される。Kim et al.,J.Am.Chem.Soc.,115,6477-6481,1993;Hyrup et al.,J.Am.Chem.Soc.,116,7964-7970,1994;Egholm et al.,Nature,365,566-568,1993;Dueholm et al.,New J.Chem.,21,19-31,1997;Wittung et al.,J.Am.Chem.Soc.,118,7049-7054,1996;Leijon et al.,Biochemistry,33,9820-9825,1994、Orum et al.,BioTechniques,19,472-480,1995;Tomac et al.,J.Am.Chem.Soc.,118,5544-5552,1996を参照のこと)。強酸で処理すると脱プリン化し、及び水酸化アルカリ中で加水分解するDNAと対照的に、PNAは完全に酸安定性であり、弱塩基に対して十分に安定している。
【0115】
条件的活性型ポリペプチドによって送達し得る別のクラスの核酸は、オリゴDNAである。オリゴDNAは、細胞性血漿への侵入時にそのオリゴDNAと相補的な配列を含む遺伝子の発現を選択的に阻害することができるDNAの短い一本鎖セグメントである。アンチセンス適用については、オリゴDNAは標的mRNA又はmRNA前駆体と相互作用して二重鎖を形成し、その翻訳又はプロセシングを阻害して、結果的にタンパク質生合成を阻害する。抗原適用については、オリゴDNAは細胞核に侵入しなければならず、二本鎖ゲノムDNAと三重鎖を形成して遺伝子の転写を阻害し、ひいては産生されるmRNAが減り、産生されるタンパク質の遺伝子産物の減少につながる。
【0116】
条件的活性型ポリペプチドによって送達し得るさらなるクラスの核酸は、球状核酸(SNA、Zhang,J Am Chem Soc.,134(40):16488-16491,2012を参照のこと)である。SNAは、金属性、半導体性、又は絶縁性の無機又はポリマーコア材料の表面に共有結合的に取り付けられた、高密度に官能化され且つ高度に配向した核酸を含む。SNAはまた、ほぼ全体が核酸分子で構成された、コアの無い中空構造であってもよい。かかる球状核酸は、外因性核酸に対する対象の自然防御を回避する能力を有する。球状核酸は、その高密度に充填された高配向の核酸シェルから生じるユニークな特性を利用して核酸の保護及び効率的な送達を実現する。かかるシェルは高い局所塩濃度の領域を作り出し、これが立体阻害と組み合わさると、ヌクレアーゼ活性を低下させ、及び核酸を酵素分解から保護する働きをする。加えて、これらの球状核酸はスカベンジャータンパク質を天然細胞外環境からその表面に動員し、これによりエンドサイトーシスが促進される。
【0117】
細胞質への侵入後、球状核酸はアンチセンス経路又はsiRNA経路のいずれかによって標的遺伝子の発現を阻害することができる。結果的に、球状核酸はウイルスベクター及び他の多くの合成系と比べて、低毒性、低免疫原性、酵素分解耐性、及びより持続的な遺伝子ノックダウンを含めた幾つかの利点を提供する。条件的活性型ポリペプチド、特に条件的活性型抗体は、球状核酸を罹患組織又は炎症組織(例えば腫瘍及び炎症関節)などの標的位置に送達することができる。
【0118】
条件的活性型ポリペプチドはまた、リンカーを介してナノ粒子にコンジュゲートすることにより、その条件的活性型ポリペプチドがより高活性となる条件を有する標的位置へのナノ粒子の送達を助けることができる。ナノ粒子は、毒素、放射性薬剤又は他の治療剤の公知の媒体であり、これらはナノ粒子に封入される。
【0119】
ナノ粒子に封入される治療剤は、腫瘍細胞を脱分化させ、ひいては腫瘍細胞を逆転させて正常細胞に戻す可能性のあるタンパク質であってもよい(Friedmann-Morvinski and Verma,“Dedifferentiation and reprogramming:origins of cancer stem cells,”EMBO Reports,15(3):244-253,2014)。ナノ粒子を条件的活性型抗体に連結することにより、条件的活性型抗体が最も高活性な環境へと、連結されたナノ粒子及び封入された治療剤を選択的に送達し得る。
【0120】
本発明においては、異なる構成の幾つかのタイプのナノ粒子を使用し得る。ナノ粒子は、生体安定性ポリマー、生分解性ポリマー、フラーレン、脂質、又はこれらの組み合わせを含めた、様々な生体適合性材料で作られ得る。生体安定性ポリマーとは、インビボで分解しないポリマーを指す。生分解性ポリマーとは、患者への送達後に分解されることが可能なポリマーを指す。例えば、このポリマーが血液などの体液に曝露されると、ポリマーは体内で酵素によって徐々に吸収及び/又は排出され得る。様々な分解速度のナノ粒子を作製する方法が当業者に公知であり、例えば、米国特許第6,451,338号明細書、米国特許第6,168,804号明細書及び米国特許第6,258,378号明細書を参照されたい。
【0121】
本発明の例示的ナノ粒子には、リポソーム、ポリマーソーム及びポリマー粒子が含まれる。リポソームとは、典型的にはリン脂質で構成される二重層によって完全に囲まれたコンパートメントを指す。リポソームは、当業者に公知の標準的技法に従い調製することができる。一つの技法は、好適な脂質、例えばホスファチジルコリンを水性媒体中に懸濁し、続いてその混合物を音波処理することによるものである。別の技法は、エタノール-水中の脂質の溶液を、例えば撹拌エタノール-水溶液中に針を用いて脂質を注入することによって急速混合することによるものである。一部の実施形態において、リポソームはまた、それに加えて又は代えて、他の両親媒性物質、例えば、スフィンゴミエリン(shingomyelin)又はポリ(エチレングリコール)(PEG)を含有する脂質も含み得る。
【0122】
ポリマーソームは、修飾されることによりリポソームに類似した二重層構造を形成するジブロック又はトリブロック共重合体を含む。ブロック共重合体の長さ及び組成に応じて、ポリマーソームはリポソームよりも実質的にロバストであり得る。加えて、ブロック共重合体の各ブロックの化学を制御可能であるため、ポリマーソームの組成を所望の用途に適合するように調整することが可能である。例えば、ポリマーソームの膜厚さ、即ち二重層構造体の厚さは、ブロック共重合体中の個々のブロックの鎖長を変えることにより制御し得る。共重合体の各ブロックのガラス転移温度を調整すると、ポリマーソームの膜の流動性、従って透過性が影響を受け得る。共重合体の特性を変化させることにより、封入された薬剤の放出機構を修飾することさえできる。
【0123】
ポリマーソームは、(i)ブロック共重合体を有機溶媒中に溶解すること、(ii)得られた溶液をベッセル表面に塗布すること、及び次に(iii)溶媒を除去し、それによりベッセル壁に共重合体の薄膜を残すことを含むプロセスによって調製することができる。次に薄膜を水和させると、ポリマーソームが形成される。或いは、ブロック共重合体を溶媒中に溶解し、次に共重合体のブロックのうちの1つに対する弱溶媒を添加してもまた、ポリマーソームが作り出され得る。
【0124】
治療剤は、幾つかの技法を用いてポリマーソームに封入することができる。例えば、治療剤を水中に混合し、次にそれを用いて共重合体薄膜を再水和させてもよい。別の例は、予め形成したポリマーソームのコアに治療剤を浸透圧で押し込むことによるものであり、強制的負荷として知られるプロセスである。もう一つの例は、ダブルエマルション法を用いることによるものであり、これは比較的単分散度で且つ高い負荷効率のポリマーソームを生成し得る。ダブルエマルション法は、マイクロ流体技術を用いて有機溶媒層に囲まれた水滴を含むダブルエマルションを生成することを含む。次に、液滴中に小液滴が入った(droplet-in-a-drop)この構造体を連続水相中に分散させる。ブロック共重合体は有機溶媒中に溶解し、ダブルエマルションの同心円状の界面上に自己集合してプロトポリマーソームになる。最終的なポリマーソームは、プロトポリマーソーム(proto-polymersone)のシェルから有機溶媒を完全に蒸発させた後に形成される。この技法では、ポリマーソームのサイズを微調整することが可能である。加えて、プロセス全体を通じて内側の流体を外側の流体と完全に分離して保つことが可能なため、治療剤を極めて効率的に封入することが可能である。
【0125】
ポリマー粒子とは、リポソーム及びポリマーソームのシェル構造体と対照的に、固体又は多孔質の粒子を指す。ポリマー粒子の構造体の表面に治療剤を付着させる方法又はそれに生物活性剤を組み込む方法は当業者に公知である。
【0126】
本発明のナノ粒子の調製に使用し得るポリマーとしては、限定はされないが、ポリ(N-アセチルグルコサミン)(キチン)、キトサン、ポリ(3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリ(グリコール酸)、ポリ(グリコリド)、ポリ(L-乳酸)、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(D,L-乳酸)、ポリ(D,L-ラクチド)、ポリ(L-ラクチド-co-D,L-ラクチド)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(L-ラクチド-co-カプロラクトン)、ポリ(D,L-ラクチド-co-カプロラクトン)、ポリ(グリコリド-co-カプロラクトン)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリエステルアミド、ポリ(グリコール酸-co-トリメチレンカーボネート)、co-ポリ(エーテルエステル)類(例えばPEO/PLA)、ポリホスファゼン類、生体分子(フィブリン、フィブリン糊、フィブリノゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン及びヒアルロン酸、エラスチン及びヒアルロン酸など)、ポリウレタン類、シリコーン類、ポリエステル類、ポリオレフィン類、ポリイソブチレン及びエチレン-αオレフィン共重合体、ポリアクリレート類以外のアクリル系ポリマー及びコポリマー、ハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー(ポリ塩化ビニルなど)、ポリビニルエーテル類(ポリビニルメチルエーテルなど)、ハロゲン化ポリビニリデン類(ポリ塩化ビニリデンなど)、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン類、ポリビニル芳香族(ポリスチレンなど)、ポリビニルエステル類(ポリ酢酸ビニルなど)、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、ポリアミド類(ナイロン66及びポリカプロラクタムなど)、チロシン系ポリカーボネート類を含むポリカーボネート類、ポリオキシメチレン類、ポリイミド類、ポリエーテル類、ポリウレタン類、レーヨン、三酢酸レーヨン、セルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、セロファン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル類、及びカルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0127】
一部の実施形態において、ナノ粒子はまた、条件的活性型ポリペプチドに由来する選択性に加え、コーティングによる組織選択性も提供し得る。例えば、ナノ粒子を静電的に吸着したポリ(グルタミン酸)ベースのペプチドコーティングによって被覆して、コア粒子の外側の組成を変化させてもよい。アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)リガンドを含有する負電荷ポリグルタミン酸ベースのペプチドは、RGDの代わりにRDGを含有した配列をスクランブルしたコーティング粒子と比較して内皮細胞へのインビトロ遺伝子送達を増加させることができる。このペプチドは、3つの成分:一続きの、負電荷を提供するポリ(グルタミン酸)、ポリグリシンのリンカー、及び電荷が様々な、且つ粒子の生物物理学的特性及び組織選択性を変化させる可能性のある末端配列からなる。このコーティング並びに粒子それ自体は、それぞれそのアミド結合及びエステル結合によって生分解性である。Harris et al.(“Tissue-Specific Gene Delivery via Nanoparticle Coating,”Biomaterials,vol.31,pp.998-1006,2010)を参照のこと。
【0128】
T細胞は、哺乳類免疫系によって、外来抗原を有する物質又は細胞との闘いに用いられる。T細胞は固形腫瘍に遭遇すると、多くの場合に有効な応答を開始することができない。T細胞が腫瘍部位に到達した場合であっても、T細胞は、癌細胞が免疫系からエスケープすることを可能にする免疫抑制因子の集中攻撃に直面する。CAR-T技術は、遺伝子工学的方法を用いてT細胞にキメラ抗原受容体(CAR)を挿入することにより天然の循環T細胞を再プログラム化して高度に特異的なCAR-T細胞を作製するものであり、CAR-T細胞においてはCARが標的組織の表面上の抗原に特異的に結合することにより、操作されたCAR-T細胞を標的組織に導く。従って、CAR-T細胞は腫瘍細胞を特異的に標的化することができ、CAR-T細胞は天然の循環T細胞と比べてはるかに有効性が高いものとなる。CAR-T細胞はまた、炎症関節及び脳組織などの他の標的組織を標的化するように操作することもできる。
【0129】
本発明のCARは、少なくとも1つの抗原特異的標的領域(ASTR)、細胞外スペーサードメイン(ESD)、膜貫通ドメイン(TM)、1つ以上の共刺激ドメイン(CSD)、及び細胞内シグナル伝達ドメイン(ISD)を含む。
図5及びJensen et al.,“Design and implementation of adoptive therapy with chimeric antigen receptor-modified T cells,”Immunol Rev.,vol.257,pp.127-144,2014を参照されたい。ASTRが腫瘍又は他の標的組織上の標的抗原に特異的に結合した後、ISDがCAR-T細胞の細胞内シグナル伝達を活性化する。例えば、ISDは、抗体の抗原結合特性を利用して、CAR-T細胞特異性及び反応性をMHCの制限を受けない形で選択の標的(例えば、腫瘍細胞又は他の標的細胞)へと向け直させる。このMHCの制限を受けない抗原認識によってCAR-T細胞は腫瘍細胞を認識して抗原プロセシングを開始することが可能であり、従って免疫系の監視からの腫瘍エスケープの主要な機構を回避する。ある実施形態において、ESD及び/又はCSDは任意選択である。別の実施形態において、ASTRは二重特異性を有し、そのため2つの異なる抗原又はエピトープに特異的に結合することが可能である。
【0130】
本発明の条件的活性型ポリペプチドはASTR又はその一部分として操作してもよく、それによりCARが標的抗原への結合に関して血液又は異なる環境が存在する別の生体部位と比べて腫瘍微小環境又は滑液などの特定の環境でより高活性となる。かかるCARはT細胞を疾患部位に優先的に送達することができ、従ってT細胞が正常組織を攻撃することによって引き起こされる副作用が劇的に低下し得る。これにより、さらに高用量のT細胞を使用することが可能となって治療有効性が増加し、及び対象の治療への忍容性が向上する。
【0131】
これらのCARは、対象の体内にある期間が短い又は限られている必要がある新規治療薬の開発に特に有効である。有益な適用例としては、高投薬量での全身治療、並びに高濃度での局所治療が挙げられる。Maher,“Immunotherapy of Malignant Disease Using Chimeric Antigen Receptor Engrafted T Cells,”ISRN Oncology,vol.2012,article ID 278093,2012を参照のこと。
【0132】
ASTRは、腫瘍又は他の標的組織上の抗原に特異的に結合する条件的活性型ポリペプチド、例えば抗体、特に一本鎖抗体、又はそのフラグメントを含み得る。ASTRに好適なポリペプチドの一部の例としては、連結されたサイトカイン(これはサイトカイン受容体を担持する細胞の認識をもたらす)、アフィボディ、天然に存在する受容体由来のリガンド結合ドメイン、及び例えば腫瘍細胞上の受容体に対する可溶性タンパク質/ペプチドリガンドが挙げられる。事実上、所与の抗原と高親和性で結合する能力を有するほぼ全ての分子をASTRに使用することができる。
【0133】
一部の実施形態において、本発明のCARは、少なくとも2つの異なる抗原又は同じ抗原上の2つのエピトープを標的化する少なくとも2つのASTRを含む。一実施形態において、本CARは、少なくとも3つ又はそれ以上の異なる抗原又はエピトープを標的化する3つ以上のASTRを含む。CARに複数のASTRが存在するとき、ASTRはタンデムに配置されてもよく、且つリンカーペプチドによって隔てられていてもよい(
図5)。
【0134】
さらに別の実施形態において、ASTRはダイアボディを含む。ダイアボディでは、2つの可変領域が一緒になって折り畳まれるには短過ぎるためscFvの二量化を駆動するリンカーペプチドを伴いscFvが作成される。さらに短いリンカー(1又は2アミノ酸)は、三量体、いわゆるトリアボディ又はトリボディの形成につながる。テトラボディもまたASTRに使用し得る。
【0135】
CARによって標的化される抗原は、腫瘍、腺(例えば前立腺)過形成、疣贅、及び望ましくない脂肪組織など、除去の標的となる組織の細胞の表面上又は内部に存在する。表面抗原はCARのASTRによってより効率的に認識及び結合されるが、細胞内抗原もまたCARによって標的化され得る。一部の実施形態において、標的抗原は、好ましくは、癌、炎症性疾患、ニューロン障害、糖尿病、心血管疾患、又は感染性疾患に特異的である。標的抗原の例には、様々な免疫細胞、癌腫、肉腫、リンパ腫、白血病、胚細胞腫瘍、芽細胞腫、並びに様々な血液疾患、自己免疫疾患、及び/又は炎症性疾患に関連する細胞によって発現される抗原が含まれる。
【0136】
ASTRによって標的化され得る癌に特異的な抗原としては、4-IBB、5T4、腺癌抗原、αフェトプロテイン、BAFF、Bリンパ腫細胞、C242抗原、CA-125、炭酸脱水酵素9(CA-IX)、C-MET、CCR4、CD152、CD19、CD20、CD200、CD22、CD221、CD23(IgE受容体)、CD28、CD30(TNFRSF8)、CD33、CD4、CD40、CD44 v6、CD51、CD52、CD56、CD74、CD80、CEA、CTLA-4、DR5、EGFR、EpCAM、CD3、FAP、フィブロネクチンエクストラドメイン-B、葉酸受容体1、GD2、GD3ガングリオシド、糖タンパク質75、GPNMB、HER2/neu、HGF、ヒト散乱因子受容体キナーゼ、IGF-1受容体、IGF-I、IgG1、LI-CAM、IL-13、IL-6、インスリン様成長因子I受容体、インテグリンα5β1、インテグリンανβ3、MORAb-009、MS4A1、MUC1、ムチンCanAg、N-グリコリルノイラミン酸、NPC-1C、PDGF-R a、PDL192、ホスファチジルセリン、前立腺癌細胞、RANKL、RON、ROR1、SCH 900105、SDC1、SLAMF7、TAG-72、テネイシンC、TGFβ2、TGF-β、TRAIL-R1、TRAIL-R2、腫瘍抗原CTAA16.88、VEGF-A、VEGFR-1、VEGFR2又はビメンチンのうちの1つ以上が挙げられる。
【0137】
ASTRによって標的化され得る炎症性疾患に特異的な抗原としては、AOC3(VAP-1)、CAM-3001、CCL11(エオタキシン-1)、CD125、CD147(ベイシジン)、CD154(CD40L)、CD2、CD20、CD23(IgE受容体)、CD25(IL-2受容体のa鎖)、CD3、CD4、CD5、IFN-a、IFN-γ、IgE、IgE Fc領域、IL-1、IL-12、IL-23、IL-13、IL-17、IL-17A、IL-22、IL-4、IL-5、IL-5、IL-6、IL-6受容体、インテグリンa4、インテグリンα4β7、ラマ・グラマ(Lama glama)、LFA-1(CD11a)、MEDI-528、ミオスタチン、OX-40、rhuMAb β7、スクレロスシン(scleroscin)、SOST、TGFβ1、TNF-a又はVEGF-Aのうちの1つ以上が挙げられる。
【0138】
本発明のASTRによって標的化され得るニューロン障害に特異的な抗原としては、βアミロイド又はMABT5102Aのうちの1つ以上が挙げられる。本発明のASTRによって標的化され得る糖尿病に特異的な抗原としては、L-Iβ又はCD3のうちの1つ以上が挙げられる。本発明のASTRによって標的化され得る心血管疾患に特異的な抗原としては、C5、心臓ミオシン、CD41(インテグリンα-lib)、フィブリンII、β鎖、ITGB2(CD18)及びスフィンゴシン-1-リン酸のうちの1つ以上が挙げられる。
【0139】
本発明のASTRによって標的化され得る感染性疾患に特異的な抗原としては、炭疽毒素、CCR5、CD4、クランピング因子A、サイトメガロウイルス、サイトメガロウイルス糖タンパク質B、エンドトキシン、大腸菌(Escherichia coli)、B型肝炎表面抗原、B型肝炎ウイルス、HIV-1、Hsp90、インフルエンザA型ヘマグルチニン、リポタイコ酸、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、狂犬病ウイルス糖タンパク質、呼吸器合胞体ウイルス及びTNF-aのうちの1つ以上が挙げられる。
【0140】
標的抗原のさらなる例としては、癌細胞上に特異的な又は増幅された形で見られる表面タンパク質、例えばIL-14受容体、B細胞リンパ腫のCD19、CD20及びCD40、種々の癌のルイスY及びCEA抗原、乳癌及び結腸直腸癌のTag72抗原、肺癌のEGF-R、ヒト乳癌及び卵巣癌で増幅されることが多い葉酸結合タンパク質及びHER-2タンパク質、又はウイルスタンパク質、例えばHIVのgp120及びgp41エンベロープタンパク質、B型及びC型肝炎ウイルスからのエンベロープタンパク質、ヒトサイトメガロウイルスの糖タンパク質B及び他のエンベロープ糖タンパク質、並びにカポジ肉腫関連ヘルペスウイルスなどのオンコウイルスからのエンベロープタンパク質が挙げられる。他の潜在的な標的抗原としては、リガンドがHIV gp120エンベロープ糖タンパク質であるCD4、及び他のウイルス受容体、例えばヒトライノウイルスの受容体であるICAM、及びポリオウイルスの関連受容体分子が挙げられる。
【0141】
別の実施形態において、本CARは、NK細胞などの癌治療細胞が会合する抗原を標的化して、免疫エフェクター細胞として働くことによりそれらの癌治療細胞を活性化させ得る。この一例は、CD16A抗原を標的化してNK細胞を会合させることによりCD30発現悪性病変と闘わせるCARである。二重特異性四価AFM13抗体は、この効果を送達し得る抗体の例である。この種の実施形態のさらなる詳細については、例えば、Rothe,A.,et al.,“A phase 1 study of the bispecific anti-CD30/CD16A antibody construct AFM13 in patients with relapsed or refractory Hodgkin lymphoma,”Blood,25 June 2015,Vl.125,no.26,pp.4024-4031を参照することができる。
【0142】
一部の実施形態において、細胞外スペーサードメイン及び膜貫通ドメインはユビキチン化抵抗性であってもよく、これによりCAR-T細胞シグナル伝達を増強し、ひいては抗腫瘍活性を増大させることができる(Kunii et la.,“Enhanced function of redirected human t cells expressing linker for activation of t cells that is resistant to ubiquitylation,”Human Gene Therapy,vol.24,pp.27-37,2013)。この領域内で、細胞外スペーサードメインはCAR-T細胞の外側にあり、従って異なる条件に露出しており、潜在的に条件的ユビキチン化抵抗性をなすことができる。
【0143】
C.マスキングされた条件的活性型ポリペプチドの操作
本発明の条件的活性型ポリペプチド、特に条件的活性型抗体は、マスキング部分によってその条件的活性がマスキングされた、及び/又はそのコンジュゲート薬剤の活性がマスキングされたものであってもよい。マスキングされた活性は、マスキング部分が条件的活性型ポリペプチドから取り除かれるか又は切断されると利用可能になり得る。好適なマスキング技術については、例えば、Desnoyers et al.,“Tumor-Specific Activation of an EGFR-Targeting Probody Enhances Therapeutic Index,”Sci.Transl.Med.5,207ra144,2013に記載されている。
【0144】
一部の実施形態において、条件的活性型抗体は、条件的活性及び/又はそのコンジュゲート薬剤の活性をマスキングするマスキング部分と連結される。例えば、条件的活性型抗体がマスキング部分とカップリングされると、かかるカップリング又は修飾によって構造変化が生じてもよく、この構造変化は条件的活性型抗体がその抗原と特異的に結合する能力を低下させ又は阻害するものである。条件的活性型抗体が標的組織又は微小環境に到達すると、マスキング部分が標的組織又は微小環境に存在する酵素によって切断され、ひいてはマスキングされていた活性が放出される。例えば、酵素は、腫瘍微小環境で一般に活性なプロテアーゼであってもよく、これがマスキング部分を切断すると、腫瘍組織内において活性を有する条件的活性型抗体が放出され得る。
【0145】
一部の実施形態において、活性は、元の活性の約50%未満、又は元の活性の約30%未満、又は元の活性の約10%未満、又は元の活性の約5%未満、又は元の活性の約2%未満、又は元の活性の約1%未満、又は元の活性の約0.1%未満、又は元の活性の約0.01%未満となるようにマスキングされる。一部の実施形態では、例えば、送達に適切な時間を確保するため、マスキング効果は、インビボで又は標的移動インビトロ免疫吸収アッセイで計測したとき少なくとも2、4、6、8、12、28、24、30、36、48、60、72、84、96時間、又は5、10、15、30、45、60、90、120、150、180日、又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヵ月又はそれ以上続くように設計される。
【0146】
特定の実施形態において、マスキング部分は条件的活性型抗体の天然結合パートナー(抗原)と構造的に類似している。マスキング部分は条件的活性型抗体の天然結合パートナーが修飾されたものであってもよく、これは、条件的活性型抗体との結合の親和性及び/又はアビディティを少なくとも僅かに低下させるアミノ酸変化を含有する。一部の実施形態において、マスキング部分は条件的活性型抗体の天然結合パートナーとの相同性を含まないか、又は実質的に含まない。他の実施形態において、マスキング部分は条件的活性型抗体の天然結合パートナーと5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、又は80%以下の配列同一性を有する。
【0147】
マスキング部分は種々の異なる形態で提供され得る。特定の実施形態において、マスキング部分は条件的活性型抗体の既知の結合パートナーであってもよく、但し、マスキング部分が標的との所望の結合の妨げとなることを低減するため、マスキング部分は、マスキング部分の切断後に条件的活性型抗体の標的となる標的タンパク質よりも低い親和性及び/又はアビディティで条件的活性型抗体に結合するものとする。従って、マスキング部分は、好ましくは、マスキング部分の切断前は標的結合から条件的活性型抗体をマスキングするが、抗体からマスキング部分が切断された後になると、標的との活性分子の結合を実質的に若しくは大幅に妨げたり、又はそれに関して競合したりしないものである。具体的な実施形態において、条件的活性型抗体及びマスキング部分は、天然に存在する結合パートナーペアのアミノ酸配列を含まず、従って条件的活性型抗体及びマスキング部分の少なくとも一方が、天然に存在する結合パートナーのメンバーのアミノ酸配列を有しない。
【0148】
或いは、マスキング部分は条件的活性型抗体に特異的に結合するのでなく、むしろ立体障害などの非特異的相互作用によって条件的活性型抗体-標的結合を妨げ得る。例えば、マスキング部分は、抗体の構造又はコンホメーションによってマスキング部分が条件的活性型抗体を例えば電荷ベースの相互作用によってマスキングすることが可能となり、それによって条件的活性型抗体への標的の到達が妨げられるような位置にあり得る。
【0149】
一部の実施形態において、マスキング部分は条件的活性型抗体に共有結合性の結合によってカップリングされる。別の実施形態において、条件的活性型抗体は、マスキング部分を条件的活性型抗体のN末端に結合することにより、その標的との結合が阻止される。さらに別の実施形態において、条件的活性型抗体は、マスキング部分と条件的活性型抗体との間のシステイン間ジスルフィド架橋によってマスキング部分にカップリングされる。
【0150】
一部の実施形態において、条件的活性型抗体は切断可能部分(CM)とさらにカップリングされる。CMは酵素によって切断される能力を有し、又はCMは還元剤によって還元される能力を有し、又はCMは光分解される能力を有する。一実施形態において、CMのアミノ酸配列はマスキング部分とオーバーラップしているか、又はその範囲内に含まれ得る。別の実施形態において、CMは条件的活性型抗体とマスキング部分との間にある。CMの全て又は一部分が切断前の条件的活性型抗体のマスキングを促進し得ることに留意しなければならない。CMが切断されると、条件的活性型抗体はその抗原に対する結合の活性が高くなる。
【0151】
CMは、対象の治療部位に標的抗原と共存する酵素の基質であってもよい。それに代えて、又は加えて、CMは、ジスルフィド結合が還元される結果として切断可能なシステイン間ジスルフィド結合を有してもよい。CMはまた、光源によって活性化可能な光解離性基質であってもよい。
【0152】
条件的活性型抗体の所望の標的組織には、CMを切断する酵素が優先的に位置するはずであり、ここで条件的活性型抗体は、罹患組織又は腫瘍組織などの標的組織において示される条件(異常条件)でより高活性である。例えば、幾つもの癌、例えば固形腫瘍においてレベルが増加する既知のプロテアーゼがある。例えば、La Rocca et al,(2004)British J.of Cancer 90(7):1414-1421を参照のこと。かかる疾患の非限定的な例としては、あらゆる種類の癌(乳癌、肺癌、結腸直腸癌、前立腺癌、頭頸部癌、膵癌等)、関節リウマチ、クローン病、黒色腫、SLE、心血管損傷、虚血等が挙げられる。従って、腫瘍組織に存在するプロテアーゼ、特に非癌性組織と比較したとき腫瘍組織に高レベルで存在するプロテアーゼによって切断可能なペプチド基質を含む好適なCMが選択され得る。
【0153】
一部の実施形態において、CMは、レグマイン、プラスミン、TMPRSS-3/4、MMP-9、MTl-MMP、カテプシン、カスパーゼ、ヒト好中球エラスターゼ、β-セクレターゼ、uPA及びPSAから選択される酵素の基質であり得る。CMを切断する酵素は、非治療部位の組織(例えば健常組織)と比べて治療部位の標的組織(例えば罹患組織又は腫瘍組織;例えば療法的治療又は診断的治療の対象となるもの)に比較的高いレベルで存在する。従って、罹患組織又は腫瘍組織で活性がより高いものであり得る抗体の条件的活性に加えて、罹患組織又は腫瘍組織に示される酵素はCMを切断することができ、これが条件的活性型抗体の活性、又はコンジュゲート薬剤の活性をさらに増強する。修飾又は切断を受けていないCMは、条件的活性型抗体の活性の効率的な阻害又はマスキングを可能にすることができ、従って条件的活性型抗体は正常組織(正常生理条件)では活性が低い。正常組織での条件的活性型抗体の活性を抑制する二重の機構(条件的活性及びマスキング部分)により、重大な有害作用を引き起こすことなしにはるかに高い投薬量の条件的活性型抗体の使用を用いることが可能となる。
【0154】
一部の実施形態において、CMは、以下の表1に掲載する酵素(enzymers)から選択される酵素の基質であり得る。
【0155】
【0156】
それに代えて又は加えて、CMはシステインペアのジスルフィド結合を含んでもよく、従ってこれは、グルタチオン(GSH)、チオレドキシン、NADPH、フラビン、アスコルビン酸塩などを含めた、固形腫瘍の組織、又はその周囲に多量に存在し得る細胞性還元剤などの還元剤によって切断可能である。
【0157】
一部の実施形態において、条件的活性型抗体はCM及びマスキング部分の両方を含有する。条件的活性型抗体の活性は、酵素によってCMが切断されるとアンマスキングされる。一部の実施形態において、1つ以上のリンカー、例えば可動性リンカーを抗体、マスキング部分及びCMの間に挿入して可動性を付与することが望ましい場合もある。例えば、マスキング部分及び/又はCMは、所望の可動性を付与するのに十分な数の残基(例えば、Gly、Ser、Asp、Asn、特にGly及びSer、特にGly)を含有しないこともある。そのため、1つ以上のアミノ酸を導入して可動性リンカーを提供することが有益であり得る。例えば、マスキングされた条件的活性型抗体は以下の構造を有し得る(ここで以下の式は、N末端からC末端への方向又はC末端からN末端への方向のいずれかのアミノ酸配列を表す):
(MM)-L1-(CM)-(AB)
(MM)-(CM)-L1-(AB)
(MM)-L1-(CM)-L2-(AB)
シクロ[L1-(MM)-L2-(CM)-L3-(AB)]
式中、MMはマスキング部分であり、ABは条件的活性型抗体であり;L1、L2、及びL3は各々独立して、且つ任意選択で存在又は非存在を表し、少なくとも1つの可動性アミノ酸(例えば、Gly)を含む同じ又は異なる可動性リンカーであり;及びシクロは、存在する場合、構造のN末端及びC末端の両方又はその近傍のシステインペアの間にジスルフィド結合が存在するため構造全体が環状構造の形態である。
【0158】
本発明での使用に好適なリンカーは、概して、マスキング部分に可動性を付与して条件的活性型抗体の活性の阻害を促進するものである。かかるリンカーは、概して可動性リンカーと称される。好適なリンカーは容易に選択することができ、1アミノ酸(例えばGly)~20アミノ酸、2アミノ酸~15アミノ酸、3アミノ酸~12アミノ酸、例えば、4アミノ酸~10アミノ酸、5アミノ酸~9アミノ酸、6アミノ酸~8アミノ酸、又は7アミノ酸~8アミノ酸など、好適な種々の長さのいずれであってもよく、1、2、3、4、5、6、又は7アミノ酸であり得る。
【0159】
例示的可動性リンカーとしては、グリシンポリマー(G)n、グリシン-セリンポリマー(例えば、(GS)n、(GSGGS)n及び(GGGS)n[式中、nは少なくとも1の整数である]を含む、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、及び当該技術分野において公知の他の可動性リンカーが挙げられる。例示的可動性リンカーとしては、限定はされないが、Gly-Gly-Ser-Gly、Gly-Gly-Ser-Gly-Gly、Gly-Ser-Gly-Ser-Gly、Gly-Ser-Gly-Gly-Gly、Gly-Gly-Gly-Ser-Gly、Gly-Ser-Ser-Ser-Glyなどが挙げられる。
【0160】
条件的活性型抗体の活性のマスキングに用いられる技法の幾つかが、国際公開第2010081173A2号パンフレットに記載されている。
【0161】
本開示は、野生型ポリペプチド又は治療用ポリペプチドなどの親ポリペプチドから条件的活性型ポリペプチドを調製する方法を提供する。本方法は、親ポリペプチドをコードするDNAを1つ以上の進化技法を用いて進化させて変異DNAを作成する工程;変異DNAを発現させて変異ポリペプチドを得る工程;変異ポリペプチド及び親ポリペプチドを第1の条件下でのアッセイ及び第2の条件下でのアッセイに供する工程;及び変異ポリペプチドから、(a)親ポリペプチドと比較した第1の条件でのアッセイにおける活性の低下、及び(b)親ポリペプチドと比較した第2の条件下でのアッセイにおける活性の増加、の両方を呈する条件的活性型ポリペプチドを選択する工程を含む。第1の条件下でのアッセイ及び第2の条件下でのアッセイは、無機化合物、イオン及び有機分子から選択される少なくとも1つの構成成分を含有するアッセイ溶液中で実施される。一部の実施形態において、第1の条件は正常生理条件であり、及び第2の条件は異常条件である。
【0162】
条件的活性型ポリペプチドは第1の条件又は正常生理条件では可逆的又は不可逆的に不活性化されるが、第2の条件又は異常条件では第1の条件又は正常生理条件と同じ又は等価なレベルで活性である。これらの条件的活性型生物学的ポリペプチド及びこれらのポリペプチドの作製方法は、米国特許第8,709,755 B2号明細書に記載されている。条件的活性型生物学的ポリペプチドは、宿主体内で短期間又は限られた期間だけ活性である新規治療薬の開発に特に価値がある。宿主に有害であるが、限定された活性が、所望の治療を実行するのに必要である、投与される治療薬の拡張された作用において、これは特に価値がある。有益な適用の実施例は、高濃度においての局所的治療と同様に、高投与量での局所的又は全身的治療を含む。第1の条件又は正常生理的条件下での不活性化は、投与の組み合わせ及びポリペプチドの不活性化の割合によって決定されることがある。この条件に基づいた不活性化は、触媒活性が比較的短い期間において実質的に負の影響を引き起こすとき、酵素治療において特に重要である。
【0163】
本開示はまた、親ポリペプチドを操作し又は進化させることにより、時間の経過に伴い可逆的又は不可逆的に活性化又は不活性化されるか、又は生体の特定の器官(腫瘍微小環境、滑液、膀胱又は腎臓など)を含め、生体のある種の微小環境中にあるときに限り活性化又は不活性化される条件的活性型ポリペプチドを生成する方法にも関する。一部の実施形態において、本条件的活性型ポリペプチドは、本明細書に記載されるとおりの1つ以上の標的タンパク質(抗原)に対する抗体又は抗体フラグメントである。
【0164】
本条件的活性型ポリペプチドは、pH依存的活性を有する単離ポリペプチドであってもよく、ここで第1のpHにおける活性は、ヒスチジン、ヒスタミン、水素付加アデノシン二リン酸、水素付加アデノシン三リン酸、クエン酸イオン、重炭酸イオン、酢酸イオン、乳酸イオン、二硫化物イオン、硫化水素、アンモニウムイオン、リン酸二水素イオン及びこれらの任意の組み合わせから選択される種の存在下で第2のpHにおける活性の少なくとも約1.3倍である。同じ活性が、小分子の非存在下ではpH依存的でない。一部の実施形態において、第2の(seoncd)pHにおける同じ活性の少なくとも約1.5、又は少なくとも約1.7、又は少なくとも約2.0、又は少なくとも約3.0、又は少なくとも約4.0、又は少なくとも約6.0、又は少なくとも約8.0、又は少なくとも約10.0、又は少なくとも約20.0、又は少なくとも約40.0、又は少なくとも約60.0、又は少なくとも約100.0倍である第1のpHにおける活性。第1のpHは約5.5~7.2、又は約6.2~6.8の範囲の異常pHであってもよく、一方、第2のpHは約7.2~7.6の範囲の正常生理的pHであってもよい。
【0165】
D.親ポリペプチド
親ポリペプチドは、天然に存在しないポリペプチドを含めた野生型ポリペプチド、野生型ポリペプチドに由来する変異ポリペプチド、例えば、治療用ポリペプチド、異なる野生型ポリペプチドに由来するキメラポリペプチド、又はさらには合成ポリペプチドであり得る。親ポリペプチドは、抗体、酵素、サイトカイン、調節タンパク質、ホルモン、受容体、リガンド、バイオシミラー、免疫調節薬、成長因子、及びこれらのポリペプチドのフラグメントから選択され得る。
【0166】
好適な野生型ポリペプチド並びに条件的活性型ポリペプチドの作製に向けてそれらを進化させ及び選択し得る方法についての説明は、米国特許第8,709,755 B2号明細書に記載されている。
【0167】
一部の実施形態において、親ポリペプチドは、バクテリオファージディスプレイライブラリなど、野生型ポリペプチド又は変異ポリペプチドのライブラリから選択され得る。かかる実施形態では、バクテリオファージライブラリにおいて、特に表面ディスプレイ技術によって多数の候補ポリペプチドを発現させる。ライブラリからの候補ポリペプチドは、好適な親ポリペプチドに関してスクリーニングされる。典型的なバクテリオファージライブラリは、細菌宿主において数千又はさらには数百万もの候補ポリペプチドを発現するバクテリオファージを含み得る。一実施形態において、バクテリオファージライブラリは複数のバクテリオファージを含み得る。
【0168】
バクテリオファージライブラリの構築には、典型的には繊維状大腸菌ファージM13などの繊維状バクテリオファージが、候補ポリペプチドをコードするオリゴヌクレオチドをバクテリオファージコートタンパク質のうちの1つのコード配列に挿入することによって遺伝子修飾される。続いてバクテリオファージのコートタンパク質が候補ポリペプチドと共に発現すると、バクテリオファージ粒子の表面上に候補ポリペプチドが提示される。次に、提示された候補ポリペプチドを好適な親ポリペプチドに関してスクリーニングし得る。
【0169】
好適な親ポリペプチドに関してスクリーニングする一つの一般的な技法は、所望の候補ポリペプチドを含むバクテリオファージ粒子を支持体上に固定化することによるものである。支持体は、望ましい候補ポリペプチドと結合し得る「ベイト」で被覆されたプラスチックプレートであり得る。未結合のバクテリオファージ粒子をプレートから洗い流し得る。プレートに(望ましい候補と共に)結合しているバクテリオファージ粒子を洗浄によって溶出させ、溶出したバクテリオファージ粒子を細菌で増幅する。次に、選択されたバクテリオファージ粒子の候補ポリペプチドをコードする配列をシーケンシングによって決定し得る。候補ポリペプチドとベイトとの間の関係は、例えば、リガンド-受容体又は抗原-抗体の関係であり得る。
【0170】
好適な親ポリペプチドに関してスクリーニングする別の一般的な技術は、候補ポリペプチドが呈する所望の酵素活性に関する個々のバクテリオファージクローンの酵素アッセイを用いることによるものである。比酵素活性に応じて、当業者は、所望のレベルの酵素活性を有する親ポリペプチドをスクリーニングする適切なアッセイを設計することができる。
【0171】
一部の実施形態において、バクテリオファージライブラリは、各バクテリオファージクローンがアレイ上の特定の位置を占めるようなアレイとして提供される。かかるアレイは固体支持体、例えば、膜、寒天プレート又はマイクロタイタープレート上に提供されてもよく、マイクロタイタープレートの場合、ライブラリの各バクテリオファージクローンは固体支持体上の特定の所定位置でそれに配置され又は付着する。寒天プレートの場合、好ましくはかかるプレートは細菌成長培地を含んで細菌の成長を補助する。アレイが膜上、例えば、ニトロセルロース又はナイロン膜上に提供される場合、細菌培養物は膜上に加えられ、その膜が栄養成長培地に浸漬される。加えて、バクテリオファージクローンはまたビーズ上に提供されてもよく、この場合単一のバクテリオファージクローンを単一のビーズに付着させることができる。或いはバクテリオファージクローンは各々が光ファイバーの端部に提供されてもよく、この場合、ファイバーを使用して光源からの紫外線放射が光学的に伝達される。
【0172】
典型的なバクテリオファージライブラリには106~1010個のバクテリオファージが含まれることもあり、その各々が、異なるポリペプチドを担持するコートタンパク質(例えばファージM13の場合gp3又はgp8)によって区別される。バクテリオファージライブラリの細菌宿主は、例えば、サルモネラ属(Salmonella)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、赤痢菌属(Shigella)、リステリア属(Listeria)、カンピロバクター属(Campylobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、エルシニア属(Yersinia)、シュードモナス属(Pseudomonas)及び大腸菌属(Escherichia)を含む細菌属から選択され得る。
【0173】
候補ポリペプチドをコードするオリゴヌクレオチドは、野生型ポリペプチドをコードするcDNAのコレクションであり得る。好適な親ポリペプチドを発現し得る生物学的試料からcDNAを合成する方法は公知である。転写物を介して生理活性を示す任意の遺伝情報をcDNAとして収集し得る。cDNAの作製時には、完全長cDNAを合成することが不可欠である。完全長cDNAの合成に用い得る方法は幾つかある。例えば、好適な方法としては、5’キャップ部位の標識に酵母又はHela細胞のキャップ結合タンパク質を利用する方法(I.Edery et al.,“An Efficient Strategy To Isolate Full-length cDNAs Based on a mRNA Cap Retention Procedure(CAPture)”,Mol.Cell.Biol.,vol.15,pages 3363-3371,1995);及び5’キャップを有しない不完全cDNAのリン酸をアルカリホスファターゼを用いて取り除き、次に全cDNAをタバコモザイクウイルスのデキャッピング酵素で処理すると完全長cDNAのみがリン酸を有するようになる方法(K.Maruyama et al.,“Oligo-capping:a simple method to replace the cap structure of eukaryotic mRNAs with oligoribonucleotides”,Gene,vol.138,pages 171-174,1995及びS.Kato et al.,“Construction of a human full-length cDNA bank”,Gene,vol.150,pages 243-250,1995)が挙げられる。
【0174】
親ポリペプチドが抗体である実施形態において、候補抗体のライブラリは、ある生物の完全な抗体レパートリーに由来する組換え抗体を用いて作製し得る。レパートリーを表す遺伝情報が完全抗体の大規模コレクションとしてアセンブルされ、これを、所望の抗原結合活性及び/又は1つ以上の他の機能的特性を有する好適な親抗体に関してスクリーニングし得る。一部の実施形態では、抗原で免疫した動物由来のB細胞、例えば、免疫したヒト、マウス、又はウサギなどを単離する。単離したB細胞からmRNAを回収してcDNAに変換し、次に塩基配列決定する。軽鎖をコードする最も頻度の高いcDNAフラグメント及び重鎖をコードする最も頻度の高いcDNAフラグメントをアセンブルして抗体にする。一実施形態では、軽鎖をコードする100個の最も頻度の高いcDNAフラグメント及び重鎖をコードする100個の最も頻度の高いcDNAフラグメントをアセンブルして候補抗体を作製する。別の実施形態において、最も頻度の高いcDNAフラグメントは重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域をコードするのみであり、アセンブルされて、抗体は可変領域のみを含有し、定常領域は含有しない抗体フラグメントを作製する。
【0175】
一部の実施形態において、IgG重鎖の可変領域をコードするcDNAフラグメントがIgK又はIgK軽鎖の最も頻度の高い可変領域とアセンブルされる。アセンブルされた抗体は、IgG由来の重鎖可変領域とIgK由来の軽鎖可変領域又はIgKとを含有する。
【0176】
次に、アセンブルした抗体をコードするcDNAを、好ましくはプレートベースのフォーマットでクローニングして発現させる。発現した抗体の結合活性はビーズベースのELISA分析で分析してもよく、好適な親抗体はELISA分析に基づき選択し得る。アセンブルした抗体をコードするcDNAはまた、バクテリオファージディスプレイライブラリで発現させてもよく、次にはこれを本明細書に開示される技法のいずれか一つによって1つ以上の望ましい親抗体に関してスクリーニングし得る。
【0177】
親ポリペプチドが抗体である実施形態において、親抗体は好ましくは、それを条件的活性型抗体に進化させることを容易にする少なくとも1つの特定の特性を有する。特定の実施形態において、親抗体は、正常生理条件下及び異常条件下の両方で類似した結合活性及び/又は特性を有し得る。かかる実施形態において、親抗体は、正常生理条件下及び異常条件下の両方で最も類似した結合活性及び/又は最も類似した1つ以上の特性の組み合わせを有することに基づき選択される。例えば、正常生理条件及び異常条件がそれぞれpH7.4及びpH6.0である場合、pH7.4及び6.0での類似性が低い結合活性を有する抗体よりも、pH7.4及び6.0で最も類似した結合活性を有する親抗体が選択され得る。
【0178】
E.条件的活性型ポリペプチドの同定
親ポリペプチドの選択後、その親ポリペプチドをコードするDNAを好適な突然変異誘発技法を用いて進化させて変異DNAを作製し、次にこれを発現させることにより、条件的活性型ポリペプチドを同定するためスクリーニングにかける変異タンパク質を作製し得る。一部の実施形態において、進化させるのは最小限であってよく、例えばごく少数の突然変異のみを親ポリペプチドに導入して、所望の条件的活性を有する変異ポリペプチドを作製する。例えば、好適な条件的活性型ポリペプチドの作製には、各部位に約20個未満の変化、場合により約18個未満の変化をコンプリヘンシブ・ポジショナル・エボリューション(comprehensive positional evolution:CPE)によって導入することで十分であり得る。コンプリヘンシブ・ポジショナル・シンテシス(comprehensive positional synthesis:CPS)については、望ましい条件的活性型ポリペプチドの作製に、親ポリペプチドにおける約6個未満のアップ突然変異、又は約5個未満のアップ突然変異、又は約4個未満のアップ突然変異、又は約3個未満のアップ突然変異、又は約2個未満のアップ突然変異の組み合わせが十分であり得る。
【0179】
一部の実施形態において、候補ポリペプチドのライブラリ(例えばバクテリオファージライブラリ及び/又は組換え抗体ライブラリ)が十分に大きい場合、進化及び発現工程は不要であり得る。かかる大規模ライブラリは、条件的活性型特性を有する(両方ともに基準ポリペプチドとの比較において、正常生理条件下のアッセイで低い活性及び異常条件下のアッセイで高い活性の両方を有する、又は異常条件下のアッセイと比べて正常生理条件下のアッセイでより低い活性を有する)候補ポリペプチドを含有し得る。これらの実施形態では、ライブラリ中の候補ポリペプチドを選択工程に供することにより、異常条件下でのアッセイにおける同じポリペプチドと比べて正常生理条件下でのアッセイで活性が低い条件的活性型ポリペプチドが発見される。一実施形態において、ライブラリ中の候補ポリペプチドが、参照ポリペプチドと共に、正常生理条件下でのアッセイ及び異常条件下でのアッセイに個別に供される。ライブラリから選択される条件的活性型ポリペプチドは、両方ともに参照ポリペプチドとの比較において、正常生理条件下でより低い活性を呈し、且つ異常条件下で同じポリペプチドのより高い活性を呈するものである。この実施形態では、ライブラリが十分に大きいため、条件的活性型特性を備えた候補ポリペプチドがライブラリに既に存在する。条件的活性型ポリペプチドを発見するために親ポリペプチドを進化させる必要はない。
【0180】
一部の実施形態において、参照ポリペプチドは、正常生理条件下及び異常条件下の両方で類似した又は同じ活性を有する点で条件的活性型ではないものであり得る。参照ポリペプチドは、ライブラリ中の候補ポリペプチドと同種のポリペプチド、例えば、同種の酵素、サイトカイン、調節タンパク質、抗体、ホルモン又は機能ペプチドである。参照ポリペプチドはまた、同種の組織プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、レニン、ヒアルロニダーゼ、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、サブスタンスP(SP)、ニューロペプチドY(NPY)、血管作動性腸管ペプチド(VTP)、バソプレシン又はアンジオスタチンであってもよい。例えば、ライブラリに、ある抗原に対する候補抗体が多数含まれる場合、参照ポリペプチドは、正常生理条件及び異常条件の両方でその抗原との同じ又は類似した結合活性を有する同じ抗原に対する抗体である。
【0181】
従って、一実施形態において、ライブラリ中の候補ポリペプチドが、参照ポリペプチドと共に、正常生理条件下でのアッセイ及び異常条件下でのアッセイに個別に供される。ライブラリから、(a)参照ポリペプチドとの比較で正常生理条件下における活性の低下、及び(b)参照ポリペプチドとの比較で異常条件下における活性の増加、の両方を呈する条件的活性型ポリペプチドが選択される。
【0182】
F.条件的活性型ポリペプチドの生成方法
親ポリペプチドをコードするDNAを1つ以上の突然変異誘発技法を用いて進化させることにより変異DNAを作成する;この変異DNAを発現させて変異ポリペプチドを作製する;及び変異ポリペプチドを、正常生理条件であり得る第1の条件下のスクリーニングアッセイ、及び異常条件であり得る第2の条件下のスクリーニングアッセイに供する。条件的活性型ポリペプチドは、(a)親ポリペプチドと比較した第1の条件におけるアッセイの活性の低下、及び(b)親ポリペプチドと比較した第2の条件下におけるアッセイの活性の増加、の両方を呈する変異ポリペプチドから選択される。条件的活性型ポリペプチドについての第1の条件又は正常生理条件における活性の低下は可逆的又は不可逆的であってもよい。
【0183】
一部の実施形態において、進化させるポリペプチドは、野生型ポリペプチドのフラグメント、治療用ポリペプチドのフラグメント、又は抗体フラグメントであってもよい。一部の他の実施形態において、親ポリペプチドは、突然変異誘発プロセスによって生成された変異ポリペプチドから選択されるポリペプチドであってもよく、ここでこのポリペプチドは、高い結合活性、高い発現レベル又はヒト化などの所望の特性を有することに関して選択される。選択されたポリペプチドは、本明細書に開示される方法で進化させる親ポリペプチドとして用いられ得る。
【0184】
親ポリペプチドをコードするDNAからの変異DNAの生成方法については、米国特許第8,709,755 B2号明細書に記載されている。
【0185】
親ポリペプチドをコードするDNAを進化させることによる変異DNAの作製は、点突然変異(置換、挿入、及び/又は欠失)、又はDNA内の大きいセグメントの突然変異を用いて行い得る。一部の態様において、進化工程が親ポリペプチドの活性部位を変化させることはなく、代わりに活性部位を取り囲む領域のうちの1つ以上、及び/又は活性部位から離れた1つ以上の領域を変化させるのみである。
【0186】
一態様において、進化工程は、親完全長抗体を一本鎖抗体に変換することを含む。この場合、活性部位、即ち可変領域、特にCDRが親抗体と比べていかなる突然変異も有しないものであり得るとしても、その活性部位が存在するコンテクストは定常領域の除去によって変化している。一例において、親完全長抗体はIgG抗体であり、変異抗体は、それに由来する一本鎖抗体である。
【0187】
一部の態様において、一本鎖抗体は、各々が異なるエピトープに結合する2本のアームを有する二重特異性抗体である。一方のアーム上の突然変異は他方のアームの活性に影響を及ぼし得る。従って、進化工程は、二重特異性抗体である親ポリペプチドの一方のアームのみを突然変異させることを含み得る。一例において、欠失によってアームを短くするか、又は挿入によってアームを長くすることにより、一方のアームの長さを進化させてもよい。或いは、進化工程は、二重特異性抗体の両方のアームを同じ進化工程又は逐次的な進化工程で、任意選択で各工程後にスクリーニングを伴い進化させてもよい。
【0188】
さらに別の態様において、親ポリペプチドは抗体又は抗体フラグメントである。進化工程はFc領域を突然変異させるものであり得る。Fc領域の突然変異は、置換、挿入、及び/又は欠失であってもよい。Fc領域はFc領域のフラグメントの欠失によって短くしてもよく、又はFc領域へのフラグメントの挿入によって長くしてもよい。
【0189】
さらに別の態様において、親ポリペプチドは、フレームワーク領域によって分断化された複数の相補性決定領域を含む。かかる親ポリペプチドは、例えば、抗体、軽鎖又は重鎖の可変領域であってもよい。特定の実施形態において、進化工程はフレームワーク領域のみ又は相補性決定領域とフレームワーク領域との組み合わせを突然変異させるものであり得る。フレームワーク領域及び相補性決定領域の進化は、一段階又は複数の逐次段階で、任意選択で各工程後にスクリーニングを伴い行い得る。
【0190】
さらに別の態様において、親ポリペプチドはその活性部位以外に幾つかの領域を有する。これらの幾つかの領域は、複数の進化工程で順次、任意選択で進化工程のうちの1つ以上の後にスクリーニングを伴い突然変異させてもよい。例えば、進化工程は、ポリペプチドの領域のうちの一つを進化させ、続いて条件的活性型ポリペプチドに関してスクリーニングし;次にポリペプチドの領域のうちのもう一つを進化させ、続いて条件的活性型ポリペプチドに関してスクリーニングし;及び次にポリペプチドのさらに別の領域を進化させ、条件的活性型ポリペプチドに関してスクリーニングするさらに別の工程が続くものであってもよい。
【0191】
状況によっては、活性部位以外の親ポリペプチド及び/又は突然変異条件的活性型ポリペプチドの1つ以上の領域(例えば周囲領域又は遠隔領域)の進化により、活性部位の活性が変化し得る。活性部位よりむしろ周囲領域又は遠隔領域を突然変異させることにより、状況によっては、特定の条件で変異ポリペプチドの活性部位が親ポリペプチドの活性部位よりも高活性又は低活性になり得る。他の実施形態において、活性部位を含む領域以外の親ポリペプチド又は変異ポリペプチドの1つ以上の領域を進化させることにより改良した場合に所望の条件的活性又は選択性が実現する。
【0192】
一部の態様において、活性部位を含有する領域以外の親ポリペプチドの領域を進化させることにより得られた条件的活性型ポリペプチドは、少なくとも2、又は少なくとも3、又は少なくとも5の選択性を生じ得る。
【0193】
生成された変異DNAを発現させて変異ポリペプチドを作製する好適な方法が、米国特許第8,709,755 B2号明細書に記載されている。
【0194】
条件的活性型ポリペプチドを選択するための変異ポリペプチドのスクリーニング方法が、米国特許第8,709,755 B2号明細書に記載されている。
【0195】
条件的活性型ポリペプチドをスクリーニング及び選択するためのアッセイ条件
スクリーニング工程で用いるアッセイの第1の条件及び第2の条件、又は正常生理条件及び異常条件は、温度、pH、浸透圧、重量オスモル濃度、酸化的ストレス、電解質濃度、並びに2つ以上のかかる条件の組み合わせから選択される条件を用いて行い得る。例えば、温度の正常生理条件は37.0℃の正常ヒト体温であってもよく、一方、温度の異常条件は37.0℃の温度と異なる温度、例えば正常生理的温度よりも1~2℃高いものであり得る腫瘍微小環境における温度であってもよい。別の例において、正常生理条件及び異常条件はまた、7.2~7.8、又は7.2~7.6の範囲の正常生理的pH及び腫瘍微小環境に存在する5.5~7.2、6~7、又は6.2~6.8の範囲などの異常pHであってもよい。
【0196】
第1の条件下及び第2の条件下、又は正常生理条件下及び異常条件下の両方のアッセイとも、アッセイ媒体中で実施し得る。アッセイ媒体は、例えば緩衝液並びに他の成分を含有し得る溶液であり得る。アッセイ媒体に用いることのできる一般的な緩衝液としては、クエン酸ナトリウムなどのクエン酸塩緩衝液、リン酸緩衝液、クレブス緩衝液などの重炭酸塩緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液、ハンクス緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液等が挙げられる。アッセイに好適な当業者に公知の他の緩衝液が用いられてもよい。これらの緩衝液は、血漿又はリンパ液など、ヒト又は動物の体液の組成の特性又は成分を模擬するために用いられ得る。
【0197】
本発明の方法において有用なアッセイ溶液は、無機化合物、イオン及び有機分子から選択される少なくとも1つの構成成分、好ましくはヒト又は動物などの哺乳類の体液中に一般に見出されるものを含有し得る。かかる構成成分の例としては、栄養構成成分及び代謝産物、並びに体液中に見出され得る任意の他の構成成分が挙げられる。本発明は、この構成成分が緩衝液系の一部であっても、又はそうでなくてもよいことを企図する。例えば、アッセイ溶液は、重炭酸イオンを加えたPBS緩衝液であってもよく、ここで重炭酸塩はPBS緩衝液の一部ではない。或いは、重炭酸イオンはクレブス緩衝液の一成分である。
【0198】
構成成分が両方のアッセイ溶液(第1及び第2の条件用の)に実質的に同じ濃度で存在し、一方、これらの2つのアッセイ溶液は、pH、温度、電解質濃度、又は浸透圧など、他の点で異なってもよい。従って、構成成分は、第1及び第2の条件、又は正常生理条件及び異常条件の2つの条件間の違いでなく、むしろ定数として用いられる。
【0199】
一部の実施形態において、構成成分は両方のアッセイ溶液に、その構成成分の哺乳類、特にヒトにおける正常生理的濃度に近い又はそれと同じ濃度で存在する。
【0200】
無機化合物又はイオンは、ホウ酸、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸二アンモニウム、硫酸マグネシウム、リン酸一アンモニウム、リン酸一カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸銅、硫酸鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウム、カルシウムキレート、銅キレート、鉄キレート、マンガンキレート及び亜鉛キレート、モリブデン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、重炭酸カリウム、硝酸カリウム、塩酸、二酸化炭素、硫酸、リン酸、炭酸、尿酸、塩化水素、尿素、リンイオン、硫酸イオン、塩化物イオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン及び銅イオンのうちの1つ以上から選択され得る。
【0201】
無機化合物の一部の正常生理的濃度の例としては、2~7.0mg/dLの濃度範囲の尿酸、8.2~11.6mg/dLの濃度範囲のカルシウムイオン、355~381mg/dLの濃度範囲の塩化物イオン、0.028~0.210mg/dLの濃度範囲の鉄イオン、12.1~25.4mg/dLの濃度範囲のカリウムイオン、300~330mg/dLの濃度範囲のナトリウムイオン、15~30mMの濃度範囲の炭酸、約80μMのクエン酸イオン、0.05~2.6mMの範囲のヒスチジンイオン、0.3~1μMの範囲のヒスタミン、1~20μMの範囲のHAPTイオン(水素付加アデノシン三リン酸)、及び1~20μMの範囲のHADPイオンが挙げられる。
【0202】
一部の実施形態において、第1の条件及び第2の条件、又は正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在するイオンは、水酸化物イオン、ハロゲン化物イオン(塩化物、臭化物、ヨウ化物)、オキシハロゲン化物イオン、硫酸イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、重硫酸イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、スルホン酸イオン、オキシハロゲン化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、過硫酸イオン、モノ過硫酸イオン、ホウ酸イオン、アンモニウムイオン、又は有機イオン、例えばカルボン酸イオン、フェノラートイオン、スルホン酸イオン(硫酸メチルなどの有機硫酸塩)、バナジウム酸イオン、タングステン酸イオン、ホウ酸イオン、有機ボロン酸イオン、クエン酸イオン、シュウ酸イオン、酢酸イオン、五ホウ酸イオン、ヒスチジンイオン、及びフェノラートイオンから選択される。
【0203】
第1の条件及び第2の条件、又は正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、例えば、ヒスチジン、アラニン、イソロイシン、アルギニン、ロイシン、アスパラギン、リジン、アスパラギン酸、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニン、グルタミン、トリプトファン、グリシン、バリン、ピロリシン、プロリン、セレノシステイン、セリン、チロシンなどのアミノ酸及びこれらの混合物から選択され得る。
【0204】
アミノ酸の一部の正常生理的濃度の例としては、3.97±0.70mg/dLのアラニン、2.34±0.62mg/dLのアルギニン、3.41±1.39mg/dLのグルタミン酸、5.78±1.55mg/dLのグルタミン、1.77±0.26mg/dLのグリシン、1.42±0.18mg/dLのヒスチジン、1.60±0.31mg/dLのイソロイシン、1.91±0.34mg/dLのロイシン、2.95±0.42mg/dLのリジン、0.85±0.46mg/dLのメチオニン、1.38±0.32mg/dLのフェニルアラニン、2.02±6.45mg/dLのスレオニン、1.08±0.21mg/dLのトリプトファン、1.48±0.37mg/dLのチロシン及び2.83±0.34mg/dLのバリンが挙げられる。
【0205】
第1の条件及び第2の条件、又は正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、クレアチン、クレアチニン、グアニジノ酢酸、尿酸、アラントイン、アデノシン、尿素、アンモニア及びコリンなどの非タンパク質窒素含有化合物から選択され得る。これらの化合物の一部の正常生理的濃度の例としては、1.07±0.76mg/dLのクレアチン、0.9~1.65mg/dLのクレアチニン、0.26±0.24mg/dLのグアニジノ酢酸、4.0±2.9mg/dLの尿酸、0.3~0.6mg/dLのアラントイン、1.09±0.385mg/dLのアデノシン、尿素27.1±4.5mg/dL及び0.3~1.5mg/dLのコリンが挙げられる。
【0206】
第1の条件及び第2の条件、又は正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、クエン酸、α-ケトグルタル酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、乳酸、ピルビン酸、α-ケトン酸、酢酸、及び揮発性脂肪酸などの有機酸から選択され得る。これらの有機酸の一部の正常生理的濃度の例としては、2.5±1.9mg/dLのクエン酸、0.8mg/dLのα-ケトグルタル酸、0.5mg/dLのコハク酸、0.46±0.24mg/dLのリンゴ酸、0.8~2.8mg/dLのアセト酢酸、0.5±0.3mg/dLのβ-ヒドロキシ酪酸、8~17mg/dLの乳酸、1.0±0.77mg/dLのピルビン酸、0.6~2.1mg/dLのa-ケトン酸、1.8mg/dLの揮発性脂肪酸が挙げられる。
【0207】
第1の条件及び第2の条件、又は正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、グルコース、ペントース、ヘキソース、キシロース、リボース、マンノース及びガラクトースなどの糖類(炭水化物)、並びに、ラクトース、GlcNAcβ1-3Gal、Galα1-4Gal、Manα1-2Man、GalNAcβ1-3Gal及びO-、N-、C-、又はS-グリコシドを含めた二糖類から選択され得る。これらの糖類の一部の正常生理的濃度の例としては、83±4mg/dLのグルコース、102±73mg/dLの多糖類(ヘキソースとして)、77±63mg/dLのグルコサミン、0.4~1.4mg/dLのヘキスロン酸塩(グルクロン酸として)及び2.55±0.37mg/dLのペントースが挙げられる。
【0208】
第1の条件及び第2の条件、又は正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、コレステロール、レシチン、セファリン、スフィンゴミエリン及び胆汁酸などの脂肪又はその誘導体から選択され得る。これらの化合物の一部の正常生理的濃度の例としては、40~70mg/dLの遊離コレステロール、100~200mg/dLのレシチン、0~30mg/dLのセファリン、10~30mg/dLのスフィンゴミエリン及び02.~0.3mg/dLの胆汁酸(コール酸として)が挙げられる。
【0209】
第1の条件及び第2の条件、又は正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、フィブリノゲン、抗血友病グロブリン、免疫γ-グロブリン、免疫オイグロブリン、同種凝集素、β-偽グロブリン、糖タンパク質、リポタンパク質及びアルブミンなどのタンパク質から選択され得る。例えば、哺乳類血清アルブミンの正常生理的濃度は3.5~5.0g/dLである。一実施形態において、アルブミンはウシ血清アルブミンである。
【0210】
第1の条件及び第2の条件、又は正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、ビタミンA、カロチン、ビタミンE、アスコルビン酸、チアミン、イノシトール、葉酸、ビオチン、パントテン酸、リボフラビンなどのビタミン類から選択され得る。これらのビタミン類の一部の正常生理的濃度の例としては、0.019~0.036mg/dLのビタミンA、0.90~1.59mg/dLのビタミンE、0.42~0.76mg/dLのイノシトール、0.00162~0.00195mg/dLの葉酸及びビオチン0.00095~0.00166mg/dLが挙げられる。
【0211】
アッセイ溶液中(第1の条件下及び第2の条件下、又は正常生理条件下及び異常条件下の両方のアッセイ)の無機化合物、イオン、又は有機分子の濃度は、ヒト又は動物血清中のその無機化合物、イオン、又は有機分子の正常生理的濃度の範囲内であり得る。しかしながら、生理的正常範囲外の濃度もまた用いられ得る。例えば、ヒト血清中におけるマグネシウムイオンの正常範囲は1.7~2.2mg/dL、及びカルシウムは8.5~10.2mg/dLである。アッセイ溶液中のマグネシウムイオン濃度は約0.17mg/dL~約11mg/dLであってもよい。アッセイ溶液中のカルシウムイオン濃度は約0.85mg/dL~約51mg/dLであってもよい。一般則として、アッセイ溶液中の無機化合物、イオン、又は有機分子の濃度は、ヒト血清中のその無機化合物、イオン、又は有機分子の正常生理的濃度の5%、又は10%、又は20%、又は30%、又は40%、又は50%、又は60%、又は70%、又は80%もの低さであるか、又はヒト血清中のその無機化合物、イオン、又は有機分子の正常生理的濃度の1.5倍、又は2倍、又は3倍、又は4倍又は5倍、又は7倍又は9倍又は10倍又はさらには20倍もの高さであってもよい。アッセイ溶液の種々の構成成分を、それぞれの正常生理的濃度と異なる濃度レベルで使用し得る。
【0212】
第1の条件下及び第2の条件下、又は正常生理条件下及び異常条件下でのアッセイを用いて変異ポリペプチドの活性を計測する。アッセイ中、変異ポリペプチド及びその結合パートナーの両方がアッセイ溶液中に存在する。変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の関係は、例えば、抗体-抗原、リガンド-受容体、酵素-基質、又はホルモン-受容体であり得る。変異ポリペプチドがその活性を発現するには、変異ポリペプチドがその結合パートナーと接触してそれに結合することが可能でなければならない。次には変異ポリペプチドとその結合パートナーとの結合後に変異ポリペプチドのその結合パートナーに対する活性が発現し、それを計測する。
【0213】
一部の実施形態において、アッセイで用いられるイオンは、スクリーニングする変異ポリペプチドとその結合パートナー、特に荷電アミノ酸残基を含むものとの間の架橋の形成において機能し得る。従ってイオンは、変異ポリペプチド及びその結合パートナーの両方との水素結合及び/又はイオン結合による結合能を有し得る。これは、巨大分子(変異ポリペプチド又はその結合パートナー)には到達し難いこともある部位にイオンが到達可能であることにより、変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助し得る。場合によっては、アッセイ溶液中のイオンは、変異ポリペプチド及びその結合パートナーが互いに結合する可能性を増加させ得る。さらに、イオンは、それに加えて又は代えて、大型分子(変異ポリペプチド又はその結合パートナー)に結合することによって変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助し得る。この結合は、結合パートナーとの結合を促進する特定のコンホメーションに大型分子のコンホメーションを変化させ、及び/又は大型分子をそのようなコンホメーションに保持し得る。
【0214】
イオンが変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を、恐らくは変異ポリペプチド及びその結合パートナーとのイオン結合の形成によって補助し得ることが観察されている。従って、イオンのない同じアッセイと比較してスクリーニングがはるかに効率的となり得るとともに、より多くのヒット(候補条件的活性型ポリペプチド)を同定することができる。好適なイオンは、マグネシウムイオン、硫酸イオン、重硫酸イオン、炭酸イオン、クエン酸イオン、HAPTイオン、HADPイオン、重炭酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、過硫酸イオン、モノ過硫酸イオン、ホウ酸イオン、乳酸イオン、クエン酸イオン、ヒスチジンイオン、ヒスタミンイオン、及びアンモニウムイオンから選択され得る。
【0215】
イオンは、そのイオンのpKaに近いpHで変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助するよう機能することが分かっている。かかるイオンは、好ましくは変異ポリペプチドのサイズと比べて比較的小さい。
【0216】
一実施形態において、異常条件が正常生理条件下における正常生理的pHと異なるpHである場合、候補条件的活性型ポリペプチドのヒット数を増加させるのに好適なイオンは、アッセイで試験する異常pHに近いpKaを有するイオンから選択され得る。例えば、イオンのpKaは、異常pHから最大2pH単位離れていてもよく、異常pHから最大1pH単位離れていてもよく、異常pHから最大0.8pH単位離れていてもよく、異常pHから最大0.6pH単位離れていてもよく、異常pHから最大0.5pH単位離れていてもよく、異常pHから最大0.4pH単位離れていてもよく、異常pHから最大0.3pH単位離れていてもよく、異常pHから最大0.2pH単位離れていてもよく、又は異常pHから最大0.1pH単位離れていてもよい。
【0217】
本発明において有用なイオンの例示的pKa(このpKaは温度が異なるとごく僅かに変わり得る)は、以下のとおりである:アンモニウムイオンはpKaが約9.24であり、リン酸二水素はpKaが約7.2であり、酢酸はpKaが約4.76であり、ヒスチジンはpKaが約6.04であり、重炭酸イオンはpKaが約6.4であり、クエン酸塩はpKaが6.4であり、乳酸イオンはpKaが約3.86であり、ヒスタミンはpKaが約6.9であり、HATPはpKaが6.95であり(HATP3-⇔ATP4-+H+)、及びHADPはpKaが6.88である(HADP3-⇔ADP4-+H+)。
【0218】
一実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは二硫化物の存在下でアッセイ及び選択される。二硫化物はpKaが7.05である。一部の実施形態では、正常生理条件に相当するアッセイと異常生理条件に相当するアッセイとに異なる二硫化物濃度が用いられ得る。或いは、正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ媒体は二硫化物濃度がほぼ同じで、また特定の条件の値が何らか異なるものであり、例えばこのアッセイは異なるpHで行われ得る。アッセイで用いられる二硫化物濃度は1mM~100mMであり得る。好ましくは、アッセイ媒体は、2~500nM、又は3~200nM、又は5~100nMの二硫化物濃度を有する。一部の態様において、二硫化物濃度は1mM~20mM、又は2mM~10mMであり得る。二硫化物の存在下で行われるアッセイは公知である。
【0219】
特定の実施形態において、異常条件のpH(即ち異常pH)が分かると、候補条件的活性型ポリペプチドのヒットを増加させるのに好適なイオンが、異常pHの又はそれに近いpKaを有するイオンから選択されてもよく、例えば、候補イオンは、異常pHから最大4pH単位離れた、異常pHから最大3pH単位離れた、異常pHから最大2pH単位離れた、異常pHから最大1pH単位離れた、異常pHから最大0.8pH単位離れた、異常pHから最大0.6pH単位離れた、異常pHから最大0.5pH単位離れた、異常pHから最大0.4pH単位離れた、異常pHから最大0.3pH単位離れた、異常pHから最大0.2pH単位離れた、又は異常pHから最大0.1pH単位離れたpKaを有し得る。
【0220】
前述のとおり、イオンは、変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助するのに、そのイオンのpKaの又はそれに近いpHで最も有効である。例えば、pH7.2~7.6のアッセイ溶液では、重炭酸イオン(pKaが約6.4である)は、変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助するのにあまり有効でないことが分かっている。アッセイ溶液のpHを6.7、さらには約6.0にまで低下させるに従い、重炭酸イオンは、変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合の補助に次第に有効となる。結果として、pH6.0のアッセイであれば、pH7.2~7.6のアッセイと比較してより多くのヒットが同定され得る。同様に、ヒスチジンは、pH7.4では、変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助するのにあまり有効でない。アッセイ溶液のpHを6.7、さらには約6.0にまで低下させるに従い、ヒスチジンは変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合の補助に次第に有効となり、また、例えば約6.2~6.4の範囲のpHでは、より多くのヒットを同定することも可能になる。
【0221】
本発明では、意外にも、正常生理条件のアッセイ溶液のpH(即ち、正常生理的pH)と異常条件のアッセイ溶液のpH(即ち、異常pH)とが異なる場合、正常生理的pHと異常pHとのほぼ中点からほぼ異常pHに至る範囲のpKaを有するイオンが、スクリーニングする変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を大幅に補助し得ることが見出された。結果として、このスクリーニングアッセイは、異常条件で活性が高いヒット又は候補条件的ポリペプチドをより多く見付けるのに、はるかに効率的である。
【0222】
一部の実施形態では、pKaはさらには異常pHから少なくとも1pH単位離れていてもよい。異常pHが酸性pHである場合、好適なイオンのpKaは、(異常pH-1)から異常pHと正常生理的pHとの中点に至るまでの範囲であり得る。異常pHが塩基性pHである場合、好適なイオンのpKaは、(異常pH+1)から異常pHと正常生理的pHとの中点に至るまでの範囲であり得る。イオンは、本願に記載されるものから選択され得る。しかしながら、本願に明示的に記載されていないさらに多くのイオンもまた用いることができる。スクリーニングアッセイの異常pH及び正常生理的pHが選択されると、当業者は、本発明の指針を用いて、異常条件で高い活性を有するヒットをより多く同定する点でスクリーニングの効率を増加させるのに好適なpKaを有する任意のイオンを選択し得ることが理解される。
【0223】
例えば、ある例示的スクリーニングについて異常pHが8.4であり、正常生理的pHが7.4である場合、約7.9(中点)~9.4(即ち、8.4+1)の範囲のpKaを有する任意のイオンをスクリーニングに用い得る。この範囲のpKaを有する幾つかのイオンとしては、トリシン(pKa 8.05)、ヒドラジン(pKa 8.1)、ビシン(pKa 8.26)、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(4-ブタンスルホン酸)(pKa 8.3)、N-トリス[ヒドロキシメチル]メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(pKa 8.4)、タウリン(pKa 9.06)に由来するイオンが挙げられる。別の例では、ある例示的スクリーニングについて異常pHが6であり、正常生理的pHが7.4である場合、約5(即ち、6-1)~6.7(中点)の範囲のpKaを有する任意のイオンをスクリーニングに用い得る。この範囲のpKaを有する幾つかのイオンとしては、リンゴ酸塩(pKa 5.13)、ピリジン(pKa 5.23)、ピペラジン(pKa 5.33)、カコジル酸塩(pKa 6.27)、コハク酸塩(pKa 5.64)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(pKa 6.10)、クエン酸塩(pKa 6.4)、ヒスチジン(pKa 6.04)及びビス-トリス(6.46)に由来するイオンが挙げられる。当業者は、膨大な数の化学マニュアル及びテキストを参考にして、無機化学化合物及び有機化学化合物の両方を含め、その範囲内にあるpKaを有するイオンに変換し得る既知の化学化合物を同定することが可能であろう。好適なpKaを有する化学化合物の中では、より小さい分子量のものが好ましいこともある。
【0224】
従って、本発明では、予想外にも、最終的に同定される条件的活性型ポリペプチドの作製が正しいポリペプチド変異体の生成に依存するのみならず、アッセイ溶液中における好適なpKaのイオンの使用にも依存することが見出された。イオンは大規模ライブラリからの高活性の変異体の効率的な選択を促進し得るため、本発明では、変異ポリペプチドの大規模ライブラリの(例えば、CPE及びCPSによる)生成に加えて、アッセイ溶液中に使用する好適なイオン(適切なpKaを有するもの)を見付けることに労力を注ぐべきであると考えられる。さらに、好適なイオンがない場合、スクリーニングの効率が低く、高活性の変異体が見付かる可能性が低下することが考えられる。結果的に、好適なイオンなしに同じ数の高活性の変異体を得るためには、複数回のスクリーニングラウンドが必要となり得る。
【0225】
アッセイ溶液中のイオンはアッセイ溶液の構成成分からインサイチューで形成されてもよく、又はアッセイ溶液に直接含められてもよい。例えば、空気からCO2をアッセイ溶液に溶解させて炭酸イオン及び重炭酸イオンを提供してもよい。別の例では、リン酸二水素ナトリウムをアッセイ溶液に添加してリン酸二水素イオンを提供してもよい。
【0226】
アッセイ溶液中におけるこの構成成分の濃度は(第1の又は正常生理条件下のアッセイ及び第2の又は異常条件下のアッセイの両方について)、ヒトなどの哺乳類の天然に存在する体液中で典型的に見られる同じ構成成分の濃度と同じ又は実質的に同じであってもよい。他の実施形態において、構成成分の濃度は、特に変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助するように機能し得るイオンである構成成分の場合にはより高くてもよく、これは、かかるイオンの濃度が高いほど変異ポリペプチド及びその結合パートナーとのイオン結合が形成され、事実上結合が促進されて、より多くのヒット又は候補条件的活性型ポリペプチドが見付かる可能性が高まり得ることが観察されているためである。
【0227】
一部の実施形態において、アッセイ溶液中のイオン濃度は、特に正常生理的濃度を超える濃度が用いられる場合に、アッセイを用いてより多くのヒットが見付かる可能性と正の相関があり得る。例えば、ヒト血清は約15~30mMの重炭酸イオン濃度を有する。一例において、アッセイ溶液中の重炭酸イオン濃度を3mMから10mM、20mM、30mM、50mM及び100mMに増加させたとき、重炭酸塩濃度が増加する毎にアッセイにおけるヒットの数もまた増加した。これを踏まえると、アッセイ溶液には、約3mM~約200mM、又は約5mM~約150mM又は約5mM~約100mM、又は約10mM~約100mM又は約20mM~約100mM又は約25mM~約100mM又は約30mM~約100mM又は約35mM~約100mM又は約40mM~約100mM又は約50mM~約100mMの範囲の重炭酸塩濃度を用いることができる。
【0228】
別の実施形態において、アッセイ溶液中のクエン酸塩濃度は、約30μM~約120μM、又は約40μM~約110μM、又は約50μM~約110μM、又は約60μM~約100μM、又は約μM~約90μM、又は約μMであり得る。
【0229】
一実施形態において、正常生理条件は7.2~7.6の範囲の正常生理的pHであり、異常条件は5.5~7.2、6~7、又は6.2~6.8の範囲の異常pHである。正常生理条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は正常生理的pH及び50mMの重炭酸イオンを有する。異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は異常pH及び50mMの重炭酸イオンを有する。重炭酸イオンのpKaは約6.4であるため、重炭酸イオンは、pH pf6.0~6.4、例えばpH6.0又は6.2の異常pHで変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助することができる。
【0230】
さらに別の実施形態において、正常生理条件は7.2~7.6の範囲の正常生理的pHであり、及び異常条件は5.5~7.2、6~7、又は6.2~6.8の範囲の異常pHである。正常生理条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は正常生理的pH及び80μMのクエン酸イオンを有する。異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は異常pH及び80μMのクエン酸イオンを有する。クエン酸イオンはpKaが6.4であるため、クエン酸イオンは、pH6.0~6.4の異常条件のアッセイ溶液中で変異ポリペプチドと結合パートナーとの間の結合を有効に補助することができる。従って、pH6.0~6.4の条件下でより高い結合活性を有し且つ7.2~7.8のpH条件下でより低い活性を有する候補条件的活性型ポリペプチドがより多く同定され得る。酢酸塩、ヒスチジン、重炭酸塩、HATP及びHADPを含めた他のイオンも同様に機能し、こうしたイオンを含有するアッセイ溶液によって、イオンのpKa前後のpHでより高い結合活性を有し且つイオンのpKaと異なるpH(例えば正常生理的pH)でより低い結合活性を有する変異ポリペプチドを有効にスクリーニングすることが可能となる。
【0231】
さらに別の実施形態において、正常生理条件は37℃の正常生理的温度であり、異常条件は38~39℃の異常温度(一部の腫瘍微小環境における温度)である。正常生理条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は正常生理的温度及び20mMの重炭酸イオンを有する。異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は異常温度及び20mMの重炭酸イオンを有する。
【0232】
さらに別の実施形態において、正常生理条件は正常ヒト血清中の電解質の特定の濃度であり、異常条件は、動物又はヒトにおいて異なる位置に存在し得るか又はヒト血清中の正常生理的電解質濃度を変化させる動物又はヒトの状態によって生じ得る異なる異常な濃度である同じ電解質の濃度である。
【0233】
変異ポリペプチド及び/又はその結合パートナーの間の結合にはまた、幾つもの他の方法で影響を与えることができる。典型的には、この影響は、アッセイ溶液に1つ以上の追加的な構成成分を含めることによって及ぼされ得る。これらの追加的な構成成分は、変異ポリペプチド、結合パートナーのいずれか一方又は両方と相互作用するように設計され得る。加えて、これらの追加的な構成成分は、2つ以上の相互作用の組み合わせ並びに2つ以上のタイプの相互作用の組み合わせを用いて結合に影響を与え得る。
【0234】
一実施形態において、目的の結合相互作用は抗体と抗原との間である。この実施形態では、1つ以上の追加的な構成成分をアッセイ溶液に含めることにより、抗体、抗原又は両方に影響を及ぼし得る。このようにして、所望の結合相互作用を増強し得る。
【0235】
変異ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとイオン結合を形成して変異ポリペプチドと結合パートナーとの間の結合を補助し得るイオンに加え、本発明はまた、変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助するために利用し得る他の構成成分も含む。一実施形態では、変異ポリペプチド及び/又はその結合パートナーと水素結合を形成し得る分子を利用し得る。別の実施形態では、変異ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとの疎水性相互作用能を有する分子を使用し得る。さらに別の実施形態では、変異ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとのファンデルワールス相互作用能を有する分子が企図される。
【0236】
本明細書で使用されるとき、用語「水素結合」は、炭素、窒素、酸素、硫黄、塩素、又はフッ素などの電気陰性原子に共有結合的に結合した水素(水素結合供与体)と、窒素、酸素、硫黄、塩素、又はフッ素などの電子供与原子の非共有電子対(水素結合受容体)との間の比較的弱い非共有結合性の相互作用を指す。
【0237】
変異ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとの水素結合形成能を有する構成成分には、極性結合を伴う有機分子並びに無機分子が含まれる。変異ポリペプチド及び/又は変異ポリペプチドの結合パートナーは、典型的には、水素結合を形成し得るアミノ酸を含有する。好適なアミノ酸は、水素結合形成能を有する極性基を備えた側鎖を有する。好適なアミノ酸の非限定的な例としては、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、アルギニン(Arg) アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、リジン(Lys)、ヒスチジン(His)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、チロシン(Tyr)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、及びトリプトファン(Trp)が挙げられる。
【0238】
これらのアミノ酸は水素供与体及び水素受容体の両方として機能し得る。例えば、Ser、Thr、及びTyrに見られ得るような-OH基の酸素原子、Glu及びAspに見られ得るような-C=O基の酸素原子、Cys及びMetに見られ得るような-SH基又は-SC-の硫黄原子、Lys及びArgに見られ得るような-NH3
+基の窒素原子、並びにTrp、His及びArgに見られ得るような-NH-基の窒素原子は、全て水素受容体として機能し得る。また、このリスト中の基で水素原子を含むもの(例えば-OH、-SH、NH3
+及び-NH-)は水素供与体としても機能し得る。
【0239】
一部の実施形態では、変異ポリペプチド及び/又はその結合パートナーの骨格もまた、1つ以上の水素結合の形成に関与し得る。例えば、骨格は、ペプチド結合にあるように、-(C=O)-NH-の反復構造を有し得る。この構造の酸素及び窒素原子が水素受容体として機能し得る一方、水素原子が水素結合に関与し得る。
【0240】
水素結合に用いられ得る水素又は酸素原子が関わる少なくとも1つの極性結合を有する無機化合物としては、例えば、H2O、NH3、H2O2、ヒドラジン、炭酸塩、硫酸塩及びリン酸塩を挙げることができる。アルコール類;フェノール類;チオール類;脂肪族アミン類、アミド類;エポキシド類、カルボン酸類;ケトン類、アルデヒド類、エーテル類、エステル類、有機塩化物、及び有機フッ素などの有機化合物。水素結合を形成し得る化合物は、例えば、“The Nature of the Chemical Bond,”Linus Pauling,Cornell University Press,1940,pages 284~334で考察されているものなど、化学文献において周知である。
【0241】
一部の実施形態において、アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、1-ヘキサノール、2-オクタノール、l-デカノール、シクロヘキサノール、及び高級アルコール類;ジオール類、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ジエチレングリコール、及びポリアルキレングリコール類を挙げることができる。好適なフェノール類としては、ヒドロキノン、レソルシノール、カテコール、フェノール、o-、m-、及びp-クレゾール、チモール、α及びβ-ナフトール、ピロガロール、グアヤコール、及びフロログルシノールが挙げられる。好適なチオール類としては、メタンチオール、エタンチオール、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、ブタンチオール、tert-ブチルメルカプタン、ペンタンチオール類、ヘキサンチオール、チオフェノール、ジメルカプトコハク酸、2-メルカプトエタノール、及び2-メルカプトインドールが挙げられる。好適なアミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、アニリン、ジメチルアミン及びメチルエチルアミン、トリメチルアミン、アジリジン、ピペリジン、N-メチルピペリジン、ベンジジン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、o-、m-、及びp-トルイジン及びN-フェニルピペリジンが挙げられる。好適なアミド類としては、エタンアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルメトキシアセトアミド及びN-メチル-N-p-シアノエチルホルムアミドが挙げられる。エポキシド類としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、スチレンオキシド、エポキシドグリシドール、シクロヘキセンオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド又はエチルベンゼンヒドロペルオキシド、イソブチレンオキシド、及び1,2-エポキシオクタンを挙げることができる。カルボン酸類としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、サリチル酸、安息香酸、酢酸、ラウリン酸、アジピン酸、乳酸、クエン酸、アクリル酸、グリシン、ヘキサヒドロ安息香酸、o-、m-、及びp-トルイル酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、及びパラアミノ安息香酸を挙げることができる。ケトン類としては、アセトン、3-プロパノン、ブタノン、ペンタノン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、エチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルtert-ブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルヘキシルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、ホロン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、及びアセトフェノンを挙げることができる。アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、イソブチルアルデヒド(sobutyraldehyde)、バレルアルデヒド、オクトアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、シクロヘキサノン、サリチルアルデヒド、及びフルフラールを挙げることができる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酪酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸メチルイソアミル、酢酸メトキシブチル、酢酸ヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸アミル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸アミル、アセト酢酸メチル、及びアセト酢酸エチルが挙げられる。本発明で用い得るエーテル類としては、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、及びジメトキシエタンが挙げられる。エーテル類は、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン、及びジオキサンなど、環状であってもよい。
【0242】
有機塩化物としては、クロロホルム、ペンタクロロエタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、四塩化炭素、テトラクロロメタン、テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、及び二塩化エチレンが挙げられる。有機フッ素としては、フルオロメタン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、ジフルオロプロパン、トリフルオロプロパン、テトラフルオロプロパン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、及びヘプタフルオロプロパンを挙げることができる。
【0243】
水素結合は結合の強度によって、強い、中程度の、又は弱い水素結合に分類することができる(Jeffrey,George A.;An introduction to hydrogen bonding,Oxford University Press,1997)。強い水素結合は、2.2~2.5Åの供与体-受容体距離及び14~40kcal/molの範囲のエネルギーを有する。中程度の水素結合は、2.5~3.2Åの供与体-受容体距離及び4~15kcal/molの範囲のエネルギーを有する。弱い水素結合は、3.2~4.0Åの供与体-受容体距離及び<4kcal/molの範囲のエネルギーを有する。水素結合の幾つかの例は、エネルギーレベルと共に、F-H・・・:F(38.6kcal/mol)、O-H・・・:N(6.9kcal/mol)、O-H・・・:O(5.0kcal/mol)、N-H・・・:N(3.1kcal/mol)及びN-H・・・:O(1.9kcal/mol)である。さらに詳しくは、Perrin et al.“Strong”hydrogen bonds in chemistry and biology,Annual Review of Physical Chemistry,vol.48,pages 511-544,1997;Guthrie,“Short strong hydrogen bonds:can they explain enzymic catalysis?”Chemistry & Biology March 1996,3:163-170を参照のこと。
【0244】
一部の実施形態において、本発明に用いられる構成成分は変異ポリペプチド及び/又はその結合パートナーと強い水素結合を形成することができる。これらの構成成分は、高い電気陰性度の原子を有する傾向がある。最も高い電気陰性度を有することが知られる原子は、順にF>O>Cl>Nである。従って、本発明は好ましくは、水素結合の形成において、フッ素、ヒドロキシル基又はカルボニル基を含む有機化合物を使用する。一実施形態では、強い水素結合を形成するため本発明において有機フッ素を使用し得る。
【0245】
別の実施形態において、変異ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとの疎水性相互作用能を有する構成成分が利用される。かかる構成成分には、疎水基を有する有機化合物が含まれる。
【0246】
本明細書で使用されるとき、用語「疎水性相互作用」は、疎水性化合物又は化合物の疎水性領域と別の疎水性化合物又は他の化合物の疎水性領域との間の可逆的引力相互作用を指す。この種の相互作用については、“Hydrophobic Interactions,”A.Ben-Nairn(1980),Plenum Press,New Yorkに記載されている。
【0247】
疎水性材料は、その非極性の性質のため、水分子の反発力を受ける。水溶液中の比較的非極性の分子又は基が水よりむしろ他の非極性分子と会合するとき、それは「疎水性相互作用」と呼ばれる。
【0248】
変異ポリペプチド及びその結合パートナーは、典型的には、疎水性相互作用能を有するアミノ酸を含む。これらのアミノ酸は、典型的には、疎水性相互作用能を有する非極性基を有する少なくとも1つの側鎖を有することによって特徴付けられ得る。疎水性アミノ酸としては、例えば、アラニン(Ala)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、フェニルアラニン(Phe)、バリン(Val)、プロリン(Pro)、グリシン(Gly)、程度は小さいが、メチオニン(Met)、及びトリプトファン(Trp)が挙げられる。
【0249】
変異ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとの疎水性相互作用能を有する構成成分には、疎水性分子又は少なくとも1つの疎水性部分を含有する分子である有機化合物が含まれる。一部の実施形態において、これらの疎水性構成成分は、芳香族炭化水素、置換芳香族炭化水素、多環芳香族炭化水素、芳香族又は非芳香族複素環、シクロアルカン類、アルカン類、アルケン類、及びアルキン類から選択される炭化水素であり得る。疎水基には、芳香族基、アルキル、シクロアルキル、アルケニル及びアルキニル基が含まれ得る。用語「アルキル」、「アルケニル」及び「アルキニル」は、本明細書で使用されるとき、直鎖アルケニル/アルキニル基、分枝鎖アルケニル/アルキニル基、シクロアルケニル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、及びシクロアルキル置換アルケニル/アルキニル基を含めた、1~30個の炭素原子を有する不飽和脂肪族基を指す。かかる炭化水素部分はまた、1つ以上の炭素原子上で置換されていてもよい。
【0250】
疎水性相互作用の強度は、互いに相互作用し得る利用可能な「疎水性物質」の量に基づくことが理解され得る。従って、疎水性相互作用は、例えば、疎水性相互作用に関わる分子中の疎水性部分の量及び/又は「疎水性」の性質を増加させることにより調整し得る。例えば、疎水性部分(その本来の形態では炭化水素鎖を含み得る)を修飾して、その炭素骨格の炭素の1つに疎水性側鎖を付加することによってその疎水性(その部分が関与する疎水性相互作用の強度を増加させる能力)を増加させることができる。本発明の好ましい実施形態において、これは、例えば様々なステロイド化合物及び/又はそれらの誘導体、例えばステロール系化合物、より詳細にはコレステロールを含めた様々な多環式化合物の付加を含み得る。一般に、側鎖は、直鎖、芳香族、脂肪族、環式、多環式、又は当業者によって企図されるとおりの他の任意の様々なタイプの疎水性側鎖であってよい。
【0251】
変異ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとのファンデルワールス相互作用能を有するタイプの構成成分は、必ずしもというわけではないが、通常は、極性部分を有する化合物である。本明細書で使用されるとき、「ファンデルワールス相互作用」は、双極子間相互作用及び/又は量子動力学の結果としての隣接する原子、部分、又は分子の変動する極性の相互関係によって生じる原子間、部分間、分子間、及び表面間の引力を指す。
【0252】
本発明におけるファンデルワールス相互作用は、変異ポリペプチド又は結合パートナーと構成成分との間の引力である。ファンデルワールス相互作用は3つの供給源から生じ得る。第一に、一部の分子/部分が、電気的には中性であっても、永久電気双極子であり得る。一部の分子/部分の構造における電子電荷分布の固定的な歪みのため、分子/部分の片側が常に幾らか正であり、反対側が幾らか負である。かかる永久双極子が互いに整列しようとする傾向により、正味の引力がもたらされる。これが2つの永久双極子の間の相互作用(ケーソム力)である。
【0253】
第二に、永久双極子である分子の存在は、他の隣接する極性又は非極性分子の電子電荷を一時的に歪ませ、それによってさらなる分極を誘起し得る。永久双極子が隣接する誘起双極子と相互作用することによって追加的な引力が生じる。これは永久双極子と対応する誘起双極子との間の相互作用であり、デバイ力と称され得る。第三に、関与する分子が永久双極子でないとしても(例えば有機液体ベンゼン)、分子における2つの瞬間的に誘起される双極子によって分子間に引き付ける力は存在する。これは2つの瞬間的に誘起される双極子間の相互作用であり、ロンドン分散力と称され得る。
【0254】
変異ポリペプチド及び/又は結合パートナーには、ファンデルワールス相互作用能を有するアミノ酸が多数ある。これらのアミノ酸は、グルタミン(Gln)、アスパラギン(Asn)、ヒスチジン(His)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、チロシン(Tyr)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、トリプトファン(Trp)を含め、極性側鎖を有し得る。これらのアミノ酸はまた、アラニン(Ala)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、フェニルアラニン(Phe)、バリン(Val)、プロリン(Pro)、グリシン(Gly)を含め、非極性基を有する側鎖も有し得る。
【0255】
変異ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとのファンデルワールス相互作用能を有する構成成分には、アッセイ溶液に可溶性の極性又は非極性無機化合物が含まれる。アッセイ溶液は概して水溶液であり、従ってこれらの極性又は非極性無機化合物は、好ましくは水に可溶性である。ファンデルワールス相互作用に好ましい材料は、双極子間相互作用能を有するような極性のものである。例えばAlF3は極性Al-F結合を有し、水に可溶性である(20℃で約0.67g/100ml水)。HgCl2は極性Hg-Cl結合を有し、20℃で7.4g/100mlで水に可溶性である。PrCl2は極性Pr-Cl結合を有し、20℃で約1g/100mlで水に可溶性である。
【0256】
ファンデルワールス相互作用能を有する好適な極性化合物としては、アルコール類、チオール類、ケトン類、アミン類、アミド類、エステル類、エーテル類、及びアルデヒド類が挙げられる。これらの化合物の好適な例は、水素結合に関連して上記に記載している。ファンデルワールス相互作用能を有する好適な非極性化合物としては、芳香族炭化水素、置換芳香族炭化水素、多環芳香族炭化水素、芳香族又は非芳香族複素環、シクロアルカン類、アルカン類、アルケン類、アルキン類が挙げられる。
【0257】
水素結合構成成分、疎水性構成成分及びファンデルワールス構成成分を利用して、幾つもの方法で変異ポリペプチドとその結合パートナーとの結合に影響を与えることができる。一実施形態では、水素結合、疎水性相互作用及び/又はファンデルワールス相互作用によって変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間に架橋が形成され得る。かかる架橋は変異ポリペプチドと結合パートナーとを互いに近接させて結合を促進し、及び/又は変異ポリペプチド及び/又は結合パートナーを互いに対して結合を促進するような位置に置き得る。
【0258】
別の実施形態において、水素結合及び/又は疎水性相互作用は、例えば、結合可能性が増加する形でポリペプチド及び結合パートナーを互いに集合又は会合させることにより、変異ポリペプチドがその結合パートナーに結合する可能性を増加させ得る。従って、これらの相互作用のうちの1つ以上を単独で又は組み合わせて用いることで、例えば、結合部位が互いのより近くに引き寄せられるようにするか、又は分子の非結合部分を互いに離して配置し、それによって結合部位を互いのより近くに位置させることにより、変異ポリペプチド及び結合パートナーを互いにより近接して集合させ、又は変異ポリペプチド及び結合パートナーを結合が促進される形で配置し得る。
【0259】
なおも別の実施形態において、水素結合及び/又は疎水性相互作用は変異ポリペプチド及び/又はその結合パートナーのコンホメーションに影響を与えて、変異ポリペプチドとその結合パートナーとの結合の一層の助けとなるコンホメーションをもたらし得る。具体的には、変異ポリペプチド及び/又は結合パートナーのアミノ酸の1つ以上との結合又は相互作用により、変異ポリペプチド又は結合パートナーにおける変異ポリペプチド/結合パートナー結合反応に有利な1つ以上のコンホメーション変化が生じ得る。
【0260】
本発明は2つのアッセイペアを実施し、1つは、正常生理条件における変異ポリペプチドの由来となった元の親ポリペプチドと比較したときの正常生理条件でのアッセイにおける変異ポリペプチドの活性の低下を求めるものであり、及び第2のアッセイは、異常条件における変異ポリペプチドの由来となった元の親ポリペプチドと比較したときの異常条件下でのアッセイにおける変異ポリペプチドの活性の増加を求めるものである。
【0261】
本発明のアッセイペアで用いられる条件は、温度、pH、浸透圧、重量オスモル濃度、酸化的ストレス、電解質濃度及びアッセイ溶液又は媒体の任意の他の構成成分の濃度から選択され得る。従って、アッセイ媒体の特定の構成成分は、アッセイの両方のペアにおいて実質的に同じ濃度で用いられ得る。そのような場合、構成成分は典型的には、血清、腫瘍微小環境、滑液環境、神経環境又は投与ポイントで直面し得るか、投与された治療が通過し得るか、若しくは治療ポイントで直面し得る任意の他の環境など、ヒト又は動物における特定の環境を模擬する目的で存在する。これらの環境を模擬する1つ以上の構成成分の選択の重要な一側面は、それによってアッセイペアを用いて実施される選択プロセスの結果が向上し得ることである。例えば、特定の環境を模擬することにより、選択過程において当該環境の特定の構成成分が変異ポリペプチドに及ぼす様々な効果を評価することが可能となる。特定の環境の構成成分は、例えば、変異ポリペプチドを変化させ、又はそれと結合し、変異ポリペプチドの活性を阻害し、変異ポリペプチドを不活性化するなどし得る。
【0262】
一部の実施形態において、アッセイ溶液の1つ以上の構成成分は、好ましくは、二硫化物、硫化水素、ヒスチジン、ヒスタミン、クエン酸塩、重炭酸塩、乳酸塩、及び酢酸塩などの小化合物である。一実施形態において、小分子構成成分は、好ましくはアッセイ溶液中に約100μm~約100mM、又はより好ましくは約0.5~約50mM、又は約1~約10mMの濃度で存在する。
【0263】
アッセイ溶液中の構成成分の濃度は、ヒトなどの哺乳類の天然に存在する体液中に典型的に見られる同じ構成成分の濃度と同じ又は実質的に同じであってもよい。これは、体液中の構成成分の正常生理的濃度と称することができる。他の実施形態において、アッセイ溶液中の特定の構成成分の濃度は、ヒトなどの哺乳類の天然に存在する体液中に典型的に見られる同じ構成成分の濃度より低くてもよく、又はそれより高くてもよい。
【0264】
別の実施形態において、構成成分は、アッセイペアの各々で実質的に異なる濃度で存在し得る。そのような場合、正常生理条件下のアッセイ用のアッセイ溶液と異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液とを区別する条件であるのは構成成分の濃度であるため、構成成分の存在、非存在又は濃度が、アッセイされる条件となる。従って、本発明の方法のこの実施形態によって作製される条件的活性型ポリペプチドは、構成成分の濃度に少なくとも部分的に依存する活性に関して選択され得る。
【0265】
一部の実施形態において、構成成分はアッセイ溶液の一方のペアに存在し、しかしアッセイ溶液の他方のペアには全く存在しなくてもよい。例えば、異常条件のアッセイ溶液中の乳酸塩濃度が、腫瘍微小環境の乳酸塩濃度を模擬するレベルに設定されてもよい。乳酸塩は、正常生理条件のアッセイ溶液のペアには存在しなくてもよい。
【0266】
一実施形態において、正常生理条件は正常生理条件を代表する第1の乳酸塩濃度であり、異常条件は、体内の特定の位置に存在する異常条件を代表する第2の乳酸塩濃度である。
【0267】
別の例において、腫瘍微小環境に見られ得るようにグルコースが存在しないことを模擬するため、異常条件のアッセイ溶液中にグルコースが存在しなくてもよく、一方、正常生理条件のアッセイ溶液のペアにおいては、グルコースは血漿グルコース濃度を模擬するレベルに設定されてもよい。この特徴を用いると、条件的活性型ポリペプチドを輸送中には不活性又は最小限の活性で位置又は環境に優先的に送達し、異常条件のアッセイ溶液中の構成成分の濃度が存在する環境に到達したときに条件的活性型ポリペプチドを活性化させることができる。
【0268】
例えば、腫瘍微小環境は典型的には、ヒト血清と比較して低いグルコース濃度及び高い乳酸塩濃度の両方を有する。グルコースの正常生理的濃度は血清中で約2.5mM~約10mMの範囲である。他方で、腫瘍微小環境ではグルコース濃度は0.05mM~0.5mMの範囲で典型的には極めて低い。一実施形態において、正常生理条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は約2.5mM~約10mMの範囲のグルコース濃度を有し、異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は約0.05mM~約0.5mMの範囲のグルコース濃度を有する。このように作製された条件的活性型ポリペプチドは、低グルコース環境(腫瘍微小環境中)では高グルコース環境(正常組織又は血液中)よりも高い活性を有する。この条件的活性型ポリペプチドは腫瘍微小環境において機能性であるが、血流を通過中は低い活性を有し得る。
【0269】
血清中の乳酸塩の正常生理的濃度は約1mM~約2mMの範囲である。他方で、腫瘍微小環境では乳酸塩濃度は典型的には10mM~20mMの範囲である。一実施形態において、正常生理条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は約1mM~約2mMの範囲の乳酸塩濃度を有し、異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は約10mM~約20mMの範囲の乳酸塩濃度を有する。このように作製された条件的活性型ポリペプチドは、高乳酸塩濃度環境(腫瘍微小環境中)では低乳酸塩環境(正常組織又は血液中)よりも高い活性を有する。従ってこの条件的活性型ポリペプチドは腫瘍微小環境において機能性であるが、血流を通過中は低い活性を有し得る。
【0270】
同様に、筋肉痛では乳酸塩の濃度が正常より高い(異常である)ことが知られている。従って、筋肉痛環境で活性となり得る変異ポリペプチドを探すとき、異常条件のアッセイペアはより高い濃度の乳酸塩の存在下で実施して筋肉痛環境を模擬することができ、一方、正常生理条件のアッセイペアは、より低い濃度の乳酸塩で、又は乳酸塩の非存在下で実施することができる。このようにして、筋肉痛環境において乳酸塩濃度の増加に伴い活性が向上する変異ポリペプチドを選択することができる。かかる条件的活性型ポリペプチドは、例えば抗炎症剤として有用であり得る。
【0271】
別の実施形態において、アッセイ溶液の両方のペアに2つ以上の構成成分を使用し得る。このタイプのアッセイでは、条件的活性型ポリペプチドは、上記に記載した2つのタイプのアッセイの両方の特徴を用いて選択し得る。或いは、2つ以上の構成成分を用いて条件的活性型ポリペプチドの選択性を増加させることができる。例えば、腫瘍微小環境に戻ると、異常条件のアッセイペアは、高乳酸塩濃度及び低グルコース濃度の両方を備えるアッセイ媒体で実施することができ、一方、対応する正常生理条件のアッセイペアは、比較的低い乳酸塩濃度及び比較的高いグルコース濃度の両方を備えるアッセイ媒体で実施することができる。
【0272】
本発明は、無機化合物、イオン、及び有機分子から選択される各構成成分を単独で又は組み合わせで用いて、構成成分のある濃度において同じ構成成分の異なる濃度と比べて活性が高い条件的活性型ポリペプチドを選択し得ることを企図する。
【0273】
正常環境(正常生理条件)と異常環境(異常条件)とを区別する条件として1つ以上の代謝産物の異なる濃度に頼るアッセイは、血漿中よりも腫瘍微小環境中で活性が高い条件的活性型ポリペプチドの選択に特に好適となることができ、なぜなら腫瘍微小環境は典型的には、血漿中の同じ代謝産物の濃度と比較して異なる濃度を有する代謝産物を数多く有するためである。
【0274】
Kinoshita et al.,“Absolute Concentrations of Metabolites in Human Brain Tumors Using In Vitro Proton Magnetic Resonance Spectroscopy,”NMR IN BIOMEDICINE,vol.10,pp.2-12,1997は、正常脳及び脳腫瘍における代謝産物を比較した。このグループは、N-アセチルアスパラギン酸が正常脳では5000~6000μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では僅か300~400μM、星状細胞腫では1500~2000μM、及び未分化星状細胞腫では600~1500μMであることを発見した。さらに、イノシトールは正常脳では1500~2000μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では2500~4000μM、星状細胞腫では2700~4500μM、及び未分化星状細胞腫では3800~5800μMである。ホスホリルエタノールアミンは正常脳では900~1200μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では2000~2800μM、星状細胞腫では1170~1370μM、及び未分化星状細胞腫では1500~2500μMである。グリシンは正常脳では600~1100μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では4500~5500μM、星状細胞腫では750~1100μM、及び未分化星状細胞腫では1900~3500μMである。アラニンは正常脳では700~1150μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では2900~3600μM、星状細胞腫では800~1200μM、及び未分化星状細胞腫では300~700μMである。これらの代謝産物はまた、血中で異なる濃度を有することもあり、例えば、N-アセチルアスパラギン酸は血中で約85000μMの濃度を有し;イノシトールは血中で約21700μMの濃度を有し;グリシンは血中で約220~400μMの濃度を有し;アラニンは血中で約220~300μMの濃度を有する。
【0275】
従って、これらの代謝産物は、少なくともN-アセチルアスパラギン酸、イノシトール、グリシン及びアラニンを含め、脳腫瘍で活性であるが血中又は正常脳組織では活性でない条件的活性型ポリペプチドを選択するためアッセイ溶液中において異なる濃度で使用し得る。例えば、膠芽腫の腫瘍微小環境で活性であるが、血中又は正常脳組織では活性でないか又は少なくとも活性が低い条件的活性型ポリペプチドを選択するため、N-アセチルアスパラギン酸が85000μMの濃度のアッセイ溶液を正常生理条件下のアッセイペアに用いてもよく、N-アセチルアスパラギン酸が350μMの濃度のアッセイ溶液を異常条件下のアッセイペアに用いてもよい。
【0276】
Mayers et al.,“Elevated circulating branched chain amino acids are an early event in pancreatic adenocarcinoma development,”Nature Medicine,vol.20,pp.1193-1198,2014は、膵臓の患者の診断前血漿中における分枝鎖アミノ酸を含む種々の異なる代謝産物の濃度を調べた。膵腫瘍患者には、膵癌を有しないヒトの血中における同じ代謝産物の濃度と比べて血流中に異なる濃度で存在する幾つかの代謝産物があることが分かった。Mayersらはまた、膵癌患者が正常対象と比較してその血漿中に分枝アミノ酸の有意な上昇を有することも見出した。高濃度で存在する分枝アミノ酸には、イソロイシン、ロイシン及びバリンが含まれる(Mayersらの表1)。正常な健常ヒトと比べて膵癌患者の血漿中で有意に異なる濃度で存在するMayersの
図1に示される他の代謝産物がある。これらの代謝産物には、少なくともアセチルグリシン、グリシン、フェニルアラニン、チロシン、2-アミノアジピン酸、タウロデオキシコール酸塩/タウロケノデオキシコール酸塩、アコニット酸塩、イソクエン酸塩、乳酸塩、a-グリセロリン酸塩及び尿酸塩が含まれる。従って、特定の代謝産物が膵癌患者と正常な健常患者との血漿中において異なる濃度で存在するという知見に基づけば、膵癌の腫瘍微小環境もまたこれらの代謝産物に関して健常患者の膵臓微小環境に存在し得るものと異なる濃度を有するであろうことを予測し得る。
【0277】
従って、一実施形態において、これらの代謝産物の1つ以上が、正常生理条件のアッセイ溶液中に、健常人の血漿中におけるこれらの代謝産物の濃度(即ち、それらの代謝産物の正常生理的濃度)を近似する量で用いられ得る。例えば、健常人の血漿中における既知の正常生理的濃度は、イソロイシンについて約1.60±0.31mg/dL、ロイシンについて約1.91±0.34mg/dL、及びバリンについて約2.83±0.34mg/dLである。正常生理条件のアッセイ溶液は、これらの分枝アミノ酸の1つ以上のこれらの範囲内の正常生理的濃度を有し得る。異常条件のアッセイ溶液は、対応する分枝アミノ酸の健常人における正常生理的濃度よりも約5倍、又は約10倍、又は約20倍、又は約50倍、又は約70倍、又は約100倍、又は約150倍、又は約200倍、又は約500倍高い濃度の同じ分枝アミノ酸を有し得る。これは、Mayersらによって見出された血漿中に見られるこれらの分枝アミノ酸のより高い濃度は腫瘍微小環境から生じて血流中で希釈されるため、Mayersらの知見に基づけば膵腫瘍微小環境でこれらの分枝アミノ酸の濃度が有意に上昇していると予想され得ることを反映したものであり得る。同様に、異常条件下でのアッセイは、特定の代謝産物の濃度が正常な個体と比べて癌患者で有意に低かったとしても、膵癌患者の血中の他の代謝産物の濃度を反映するものであってよい。このようにして、スクリーニングが実際の環境を模擬し、それによって当該の特定の環境について最も高い活性の変異体が選択されることを確実にし得る。
【0278】
一部の他の実施形態において、正常生理条件のアッセイ溶液は、膵癌患者の血漿中の濃度を模擬してこれらの患者の実際の血漿環境を模擬する濃度の1つ以上の分枝アミノ酸を含み得る。かかる実施形態において、異常条件のアッセイ溶液は、膵癌患者の血漿中における対応する分枝アミノ酸の濃度よりも約2倍、又は約3倍、又は約4倍、又は約5倍、又は約7倍、又は約8倍、又は約10倍、又は約15倍、又は約20倍、又は約50倍高い濃度の同じ分枝アミノ酸を有して、これらのより高い濃度が腫瘍微小環境で起こり、血流中の濃度が腫瘍微小環境の実際の濃度の希釈に相当するという事実を反映し得る。同様に、他の代謝産物もまた、正常生理条件と異常条件とのアッセイ溶液中で異なる濃度を有してもよく、血流に関して収集されたデータから予想される実際の違いを反映し得る。場合によっては、膵臓の患者の血流中に特定の代謝産物の欠損が認められることもあり、その場合、計測された血流中濃度を反映する濃度を正常生理条件のアッセイに用いることができ、さらに低い濃度を異常条件のアッセイに用いて、前記代謝産物が腫瘍微小環境で消費されるものと見込まれるという予想を考慮に入れることができる。このようにアッセイ溶液を用いて選択された条件的活性型ポリペプチドは、膵癌患者の血漿中と比べて膵癌微小環境で活性がより高いものとなり得る。
【0279】
一部の実施形態では、本発明に膵癌患者の血漿全体を使用し得る。例えば、一実施形態において、正常生理条件下及び異常条件下のアッセイの一方又は両方についてアッセイ溶液に膵癌患者の血漿の1つ以上の構成成分の模擬を用い得る。例示的実施形態において、正常生理条件のアッセイ溶液は7.2~7.6の範囲のpHを有し、且つ30wt.%の膵癌患者の血漿が添加され、異常条件のアッセイ溶液は6.2~6.8の範囲のpHを有し、且つ30wt.%の膵癌患者の血漿が添加される。この実施形態において、膵癌患者の血漿は、(1)条件的活性型ポリペプチドがpH7.2~7.6の血中で活性化されないよう確実にすること、及び(2)また、条件的活性型ポリペプチドが膵癌患者の血中に見られるこの代謝産物組成の存在下であっても腫瘍微小環境でpH5.5~7.2、6~7、又は6.2~6.8によって活性化され得るよう確実にすることの両方のために存在する。これにより、治療が膵癌患者に合わせて調整されることになる。
【0280】
別の例示的実施形態において、正常生理条件のアッセイ溶液は7.2~7.6の範囲のpHを有し、且つ30wt.%の膵癌患者の血漿が添加され、異常条件のアッセイ溶液は5.5~7.2又は6.2~6.8の範囲のpHを有し、且つ膵癌患者の血漿は一切添加されない。
【0281】
上記で考察した幾つかのタイプのアッセイの各々において、無機化合物、イオン、及び有機分子から選択される同じ構成成分を使用し得る。例えば、乳酸塩の場合、乳酸塩は、正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液のペアにおいて実質的に同じ濃度で使用し得る。正常生理条件と異常条件とは、次には1つ以上の他の側面、例えば、温度、pH、別の構成成分の濃度等が異なることになる。異なる実施形態において、乳酸塩は正常生理条件と異常条件とを区別する因子の一つとして使用してもよく、それにより、乳酸塩が正常生理条件(非腫瘍微小環境)と比べて異常な腫瘍微小環境でより高い濃度であることを反映し得る。
【0282】
一部の実施形態において、正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液に2つ以上の構成成分が実質的に同じ濃度で添加される。例えば、クエン酸塩及びウシ血清アルブミン(BSA)の両方がこれらのアッセイ溶液に添加される。両方のアッセイ溶液においてクエン酸塩濃度は約80μMであってもよく、BSA濃度は約10~20%であってもよい。より具体的には、正常生理条件下のアッセイペア用のアッセイ溶液は7.2~7.6の範囲のpHを有し、クエン酸塩が約80μMの濃度及びBSAが濃度約10~20%であってもよい。異常条件下のアッセイペア用のアッセイ溶液は6.2~6.8の範囲のpHを有し、クエン酸塩が約80μMの濃度及びBSAが濃度約10~20%であってもよい。
【0283】
一実施形態では、血清が正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液に実質的に同じ濃度で添加され得る。血清は多数の無機化合物、イオン、有機分子(ポリペプチドを含む)を有するため、アッセイ溶液は、これらの2つのアッセイ溶液間で実質的に同じ濃度で存在する無機化合物、イオン、有機分子から選択される構成成分を複数且つ多数有し得る。アッセイ溶液は、5~30vol.%、又は7~25vol.%、又は10~20vol.%、又は10~15vol.%の血清を有し得る。一部の他の実施形態では、正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液が血清を含まない。血清は、ヒト血清、ウシ血清、又は任意の他の哺乳類由来の血清であってもよい。一部の他の実施形態では、アッセイ溶液は血清を含まない。
【0284】
正常生理条件及び異常条件のアッセイ溶液は異なるpHを有し得る。かかるアッセイ溶液のpHは、重炭酸塩を使用して緩衝液中のCO2及びO2レベルを用いて調整し得る。
【0285】
一部の他の実施形態において、2つ以上の構成成分のうちの少なくとも一方が、正常生理条件と異常条件とのアッセイ溶液に異なる濃度で添加される。例えば、乳酸塩及びウシ血清アルブミン(BSA)の両方がアッセイ溶液に添加される。乳酸塩濃度は正常生理条件と異常条件とのアッセイ溶液間で異なり得る一方、BSAは両方のアッセイ溶液で同じ濃度を有し得る。乳酸塩は異常条件のアッセイ溶液で30~50mg/dLの範囲の濃度及び正常生理条件のアッセイ溶液で8~15mg/dLの範囲の濃度を有してもよい。他方で、BSAは、約10~20%など、両方のアッセイ溶液で同じ濃度を有する。これらのアッセイ溶液を用いることによってこのように選択された条件的活性型ポリペプチドは、BSAの存在下で8~15mg/dLの低乳酸塩濃度と比べて30~50mg/dLの高乳酸塩濃度でより高活性である。
【0286】
一部の実施形態において、アッセイ溶液は、活性が2つ以上の条件に依存する条件的活性型ポリペプチドを選択するように設計されてもよい。一例示的実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは、pH及び乳酸塩の両方に依存する活性を有し得る。かかる条件的活性型ポリペプチドを選択するためのアッセイ溶液は、正常生理条件について、pHが7.2~7.6、乳酸塩が8~15mg/dLの範囲の濃度のアッセイ溶液であり得る。異常条件のアッセイ溶液は、pHが6.2~6.8、乳酸塩が30~50mg/dLの範囲の濃度であり得る。任意選択で正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液が、変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助して、ひいては候補生物学的活性ポリペプチドのヒット数を増加させるイオンもまた含み得る。
【0287】
さらに別の例示的実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは、pH、グルコース及び乳酸塩に依存する活性を有し得る。かかる条件的活性型ポリペプチドを選択するためのアッセイ溶液は、正常生理条件について、pHが7.2~7.6、グルコースが2.5~10mMの範囲の濃度、乳酸塩が8~15mg/dLの範囲の濃度のアッセイ溶液であり得る。異常条件のアッセイ溶液は、pHが6.2~6.8、グルコースが0.05~0.5mMの範囲の濃度、乳酸塩が30~50mg/dLの範囲の濃度であり得る。任意選択で正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液が、変異ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助して、ひいてはpH6.2~6.8で結合パートナーに結合する候補生物学的活性ポリペプチドの数を増加させるイオンもまた含み得る。かかるアッセイ溶液を用いて選択された条件的活性型ポリペプチドは、pH7.2~7.6、グルコース濃度2.5~10mM及び乳酸塩濃度8~15mg/dLの環境と比べてpH6.2~6.8、グルコース濃度0.05~0.5mM及び乳酸塩濃度30~50mg/dLの環境でより高活性である。
【0288】
無機化合物、イオン、及び有機分子から選択される2つ以上の構成成分は、選択された条件的活性型ポリペプチドを送達することになる位置/部位(即ち、標的部位)の環境を模擬する異常条件のアッセイ溶液を作り出すためものである。一部の実施形態において、標的部位の環境にある少なくとも3つの構成成分がアッセイ溶液に添加されてもよく、又は標的部位の環境にある少なくとも4つの構成成分がアッセイ溶液に添加されてもよく、又は標的部位の環境にある少なくとも5つの構成成分がアッセイ溶液に添加されてもよく、又は標的部位の環境にある少なくとも6つの構成成分がアッセイ溶液に添加されてもよい。
【0289】
一実施形態において、標的部位(条件的活性型ポリペプチドがより高活性となり得るところ)から採取された体液が異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液として直接使用されてもよい。例えば、対象、好ましくは治療を必要としている関節疾患を有する対象から滑液が採取されてもよい。採取された滑液は、任意選択で希釈され、条件的活性型ポリペプチドを選択するため異常条件のアッセイペアにおけるアッセイ溶液として用いられ得る。採取された滑液を、任意選択で希釈して、異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液、及び正常生理条件下のアッセイ用のヒト血漿を模擬するアッセイ溶液として用いることにより、選択される条件的活性型ポリペプチド(例えば、TNF-α)は関節において他の位置又は器官におけるよりも高活性となり得る。例えば、炎症関節(関節炎など)を有する対象はTNF-αで治療し得る。しかしながら、TNF-αは典型的には、他の組織及び器官に損傷を与える重度の副作用を有する。滑液では活性が高いが血中では活性でないか又は活性が低い条件的活性型TNF-αは、体の他の部分に対するTNF-αの副作用を低減し又は潜在的に取り除きながらもTNF-αの活性を関節に送達し得る。
【0290】
複数の条件に依存した活性を有する条件的活性型ポリペプチドの開発により、対象の体内の標的部位に対する条件的活性型ポリペプチドの選択性の向上がもたらされることになる。理想的には、条件のうちの一部のみが存在する他の位置では、条件的活性型ポリペプチドは活性でないか、又は少なくとも活性が大幅に低い。一実施形態において、pH6.2~6.8、グルコース濃度0.05~0.5mM及び乳酸塩濃度30~50mg/dLで活性な条件的活性型ポリペプチドは、腫瘍微小環境にはこれらの条件が全て存在するため、腫瘍微小環境に特異的に送達することができる。他の組織又は器官はこれらの条件のうちの1つ又は2つしか存在せず、3つ全ては有しないものであり得るため、この条件的活性型ポリペプチドを他の組織又は器官で完全に活性化させるには不十分である。例えば、運動後の筋肉は6.2~6.8の範囲の低pHを有し得る。しかしながら、それは別のアッセイ条件を有しないものであり得る。従って運動後の筋肉では条件的活性型ポリペプチドは活性でないか、又は少なくとも活性が低い。
【0291】
一部の実施形態において、条件的活性型ポリペプチドの活性が、条件的活性型ポリペプチドの選択に用いた条件に本当に依存することを確認する工程が行われ得る。例えば、条件的活性型ポリペプチドは、3つの条件:pH6.2~6.8、グルコース濃度0.05~0.5mM及び乳酸塩濃度30~50mg/dLに依存するように選択される。選択された条件的活性型ポリペプチドは、次にこれらの3つの条件の各々で個別に、及び3つの条件のペアを含む環境で試験され、これらの試験条件又は環境で条件的活性型ポリペプチドが活性でない又は活性が低いことが確認され得る。
【0292】
一部の実施形態において、血清のある種の構成成分がアッセイ媒体から意図的に最小限に抑えられ、又は除外される。例えば、抗体のスクリーニング時、抗体と結合するか又は抗体を吸着する血清の構成成分をアッセイ媒体中では最小限に抑え、又はそこから除外することができる。かかる結合した抗体は偽陽性を生じ、それによって、条件的活性型ではない、むしろ種々の異なる条件下で単に血清中に存在する構成成分に結合するに過ぎない結合変異抗体が含まれることになり得る。従って、アッセイ中の変異体と潜在的に結合し得る構成成分が最小限に抑えられ又は除外されるようなアッセイ構成成分の慎重な選択を用いることにより、所望の結合パートナー以外のアッセイ中の構成成分に結合するために条件的活性に関して誤って陽性と同定され得る非機能性変異体の数を低減することができる。例えば、ヒト血清中の構成成分と結合する傾向のある変異ポリペプチドをスクリーニングする一部の実施形態では、ヒト血清の構成成分に結合する変異ポリペプチドによって生じる偽陽性の可能性を低減し又は排除するため、アッセイ溶液中にBSAを使用し得る。同じ目標を達成するため詳細な例において他の類似の置き換えもまた行うことができる。
【0293】
一部の実施形態において、アッセイ条件は、細胞膜の内側、細胞膜上又は細胞膜の外側など、細胞膜近傍の環境、又は関節の環境を模擬する。細胞膜環境におけるスクリーニング時の結合活性に影響を及ぼし得る幾つかの要因としては、受容体の発現、インターナリゼーション、抗体薬物複合体(ADC)力価等が挙げられる。
【0294】
アッセイのフォーマットは当業者に公知の任意の好適なアッセイであってよい。例としては、ELISA、酵素活性アッセイ、インビトロ(臓器等)での実組織スクリーニング、組織スライド、全動物、細胞株及び3Dシステムの使用が挙げられる。例えば、好適な細胞ベースのアッセイについては国際公開第2013/040445号パンフレットに記載されており、組織ベースのアッセイについては米国特許第7,993,271号明細書に記載されており、全動物ベースのスクリーニング方法については米国特許出願公開第2010/0263599号明細書に記載されており、3Dシステムベースのスクリーニング方法については米国特許出願公開第2011/0143960号明細書に記載されている。
【0295】
一部の実施形態において、進化工程により、上記で考察した条件的活性特性に加えて他の所望の特性を同時に有し得る変異ポリペプチドを作製し得る。進化させ得る好適な他の所望の特性としては、結合活性、発現、ヒト化等を挙げることができる。従って、本発明を用いて、これらの他の所望の特性のうちの少なくとも1つ以上もまた向上した条件的活性型ポリペプチドを作製し得る。
【0296】
一部の実施形態において、本発明は条件的活性型ポリペプチドを作製する。選択された条件的活性型ポリペプチドは、例えば第2の進化工程において、本明細書に開示される突然変異誘発技法のうちの1つを用いてさらに変異させることができ、それにより結合活性、発現、ヒト化など、選択された条件的活性型ポリペプチドの別の特性を向上させ得る。この第2の進化工程の後、条件的活性及び向上させた特性の両方に関して変異ポリペプチドをスクリーニングし得る。
【0297】
一部の実施形態において、親ポリペプチドを進化させて変異ポリペプチドを作製した後、第1の条件的活性型ポリペプチドが選択され、これは(a)正常生理条件下でのアッセイにおける親ポリペプチドと比較した第1の活性の低下、及び(b)異常条件下でのアッセイにおける親ポリペプチドと比較した第1の活性の増加、の両方を呈する。次に第1の条件的活性型ポリペプチドが1つ以上の追加的な進化、発現及び選択工程にさらに供され、(1)(a)正常生理条件下でのアッセイにおける親ポリペプチドと比較した第2の活性の低下、及び(b)異常条件下でのアッセイにおける親ポリペプチドと比較した第2の活性の増加、の両方を呈するか、又は(2)第1の条件的活性型ポリペプチド及び/又は親ポリペプチドと比較して、異常条件での第1の活性と正常生理条件での第1の活性とのより大きい比を呈する少なくとも第2の条件的活性型ポリペプチドが選択され得る。第2の条件的活性型ポリペプチドは親ポリペプチドと比較して異常条件下でより高い第1の活性及び第2の活性、並びに親ポリペプチドと比較して正常生理条件下でより低い第1の活性及び第2の活性の両方を有し得ることに留意されたい。
【0298】
特定の実施形態において、本発明は、異常条件(又は第2の条件)での活性と正常生理条件(又は第1の条件)での活性との活性比が大きい(例えば、異常条件と正常生理条件との間での選択性がより大きい)条件的活性型ポリペプチドを作製することを目標とする。異常条件(又は第2の条件)での活性と正常生理条件(又は第1の条件)での活性との比、即ち選択性は、少なくとも約2:1、又は少なくとも約3:1、又は少なくとも約4:1、又は少なくとも約5:1、又は少なくとも約6:1、又は少なくとも約7:1、又は少なくとも約8:1、又は少なくとも約9:1、又は少なくとも約10:1、又は少なくとも約11:1、又は少なくとも約12:1、又は少なくとも約13:1、又は少なくとも約14:1、又は少なくとも約15:1、又は少なくとも約16:1、又は少なくとも約17:1、又は少なくとも約18:1、又は少なくとも約19:1、又は少なくとも約20:1、又は少なくとも約30:1、又は少なくとも約40:1、又は少なくとも約50:1、又は少なくとも約60:1、又は少なくとも約70:1、又は少なくとも約80:1、又は少なくとも約90:1、又は少なくとも約100:1であり得る。
【0299】
一実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは抗体であり、これは、異常条件での活性と正常生理条件での活性との比が少なくとも約5:1、又は少なくとも約6:1、又は少なくとも約7:1、又は少なくとも約8:1、又は少なくとも約9:1、又は少なくとも約10:1、又は少なくとも約15:1、又は少なくとも約20:1、又は少なくとも約40:1、又は少なくとも約80:1であり得る。一実施形態において、条件的活性型ポリペプチドを用いて腫瘍部位が標的化され、ここで条件的活性型ポリペプチドは腫瘍部位(腫瘍微小環境中)で活性であり、且つ非腫瘍部位(正常生理条件)では活性が大幅に低いか又は不活性である。
【0300】
一実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは、本明細書の他の部分に開示するものなど、別の薬剤とコンジュゲートされることが意図される抗体である。この条件的活性型抗体は、異常条件での活性と正常生理条件での活性との比がより高いものであり得る。例えば、別の薬剤とコンジュゲートされる条件的活性型抗体は、異常条件での活性と正常生理条件での活性との比が少なくとも約10:1、又は少なくとも約11:1、又は少なくとも約12:1、又は少なくとも約13:1、又は少なくとも約14:1、又は少なくとも約15:1、又は少なくとも約16:1、又は少なくとも約17:1、又は少なくとも約18:1、又は少なくとも約19:1、又は少なくとも約20:1であり得る。これは、コンジュゲートする薬剤が例えば毒性又は放射性である場合に、かかるコンジュゲート薬剤は疾患又は治療部位(異常条件が存在するところ)に集中させることが望ましいため、特に重要であり得る。
【0301】
G.条件的活性型ポリペプチドの作製
可逆的又は不可逆的活性を有する選択の条件的活性型ポリペプチドは、治療、診断、研究及び関連する目的で作製されることもあり、及び/又は1つ以上の追加の進化及び選択サイクルに供され得る。
【0302】
条件的活性型ポリペプチドは、ポリペプチド発現細胞産生宿主又は生物を用いて作製し得る。作製プロセスをより効率的にするため、条件的活性型ポリペプチドをコードするDNAを細胞産生宿主又は生物に対するコドン最適化にかけることができる。コドン最適化についてはこれまでに記載があり、例えば、Narum et al.,"Codon optimization of gene fragments encoding Plasmodium falciparum merzoite proteins enhances DNA vaccine protein expression and immunogenicity in mice".Infect.Immun.2001 December,69(12):7250-3には、マウス系におけるコドン最適化が記載される。Outchkourov et al.,"Optimization of the expression of Equistatin in Pichia pastoris,protein expression and purification",Protein Expr.Purif.2002 February;24(1):18-24 には、酵母系におけるコドン最適化が記載される。Feng et al.,"High level expression and mutagenesis of recombinant human phosphatidylcholine transfer protein using a synthetic gene:evidence for a C-terminal membrane binding domain"Biochemistry 2000 Dec.19,39(50):15399-409 には、大腸菌(E.coli)におけるコドン最適化が記載される。Humphreys et al.,"High-level periplasmic expression in Escherichia coli using a eukaryotic signal peptide:importance of codon usage at the 5'end of the coding sequence",Protein Expr.Purif.2000 Nov.20(2):252-64には、大腸菌(E.coli)においてコドンの使用がどのようにタンパク質分泌に影響するかが記載される。
【0303】
細胞産生宿主は、CHO、HEK293、IM9、DS-I、THP-I、Hep G2、COS、NIH 3T3、C33a、A549、A375、SK-MEL-28、DU 145、PC-3、HCT 116、Mia PACA-2、ACHN、ジャーカット、MMl、Ovcar 3、HT 1080、Panc-1、U266、769P、BT-474、Caco-2、HCC 1954、MDA-MB-468、LnCAP、NRK-49F、及びSP2/0細胞株;及びマウス脾細胞及びウサギPBMCからなる群のうちの1つから選択される哺乳類系であってもよい。一実施形態において、哺乳類系はCHO又はHEK293細胞株から選択される。具体的な一態様において、哺乳類系はCHO-S細胞株である。別の実施形態において、哺乳類系はHEK293細胞株である。
【0304】
一部の実施形態において、細胞産生宿主は、酵母細胞系、例えばS.セレビシエ(S.cerevisiae)酵母細胞又はピキア属(picchia)酵母細胞である。一部の実施形態において、細胞産生宿主は大腸菌(E.coli)などの原核細胞である(Owens RJ and Young RJ,J.Immunol.Meth.,vol.168,p.149,1994;Johnson S and Bird RE,Methods Enzymol.,vol.203,p.88,1991)。条件的活性型ポリペプチドはまた、植物においても作製し得る(Firek et al.Plant MoI.Biol.,vol.23,p.861,1993)。
【0305】
条件的活性型ポリペプチドはまた、当該技術分野において周知の化学的方法を用いた合成方法によっても作製し得る。例えば、Caruthers,“New chemical methods for synthesizing polynucleotides,”Nucleic Acids Res.Symp.Ser.215-223,1980;Horn,“Synthesis of oligonucleotides on cellulose.Part II:design and synthetic strategy to the synthesis of 22 oligodeoxynucleotides coding for Gastric Inhibitory Polypeptide(GIP)1”,Nucleic Acids Res.Symp.Ser.225-232,1980;Banga,A.K.,Therapeutic Peptides and Proteins,Formulation,Processing and Delivery Systems Technomic Publishing Co.,Lancaster,Pa,1995を参照のこと。例えば、ペプチド合成は様々な固相技法を用いて実施することができ(例えば、Roberge“A strategy for a convergent synthesis of N-linked glycopeptides on a solid support”,Science 269:202,1995;Merrifield “Concept and early development of solid-phase peptide synthesis”,Methods Enzymol.289:3-13,1997を参照のこと)、例えばABI 43 IAペプチドシンセサイザー(Perkin Elmer)を製造者が提供する指示に従い使用して自動合成を達成してもよい。
【0306】
固相化学的ペプチド合成方法は1960年代初頭から当該技術分野において公知となっており(Merrifield,R.B.,“Solid-phase synthesis I.The synthesis of a tetrapeptide”,J.Am.Chem.Soc,85:2149-2154,1963)(また、Stewart,J.M.and Young,J.D.,Solid Phase Peptide Synthesis,2nd Ed.,Pierce Chemical Co.,Rockford,111.,pp.11-12も参照のこと))、近年では市販の実験室ペプチド設計及び合成キット(Cambridge Research Biochemicals)に用いられている。かかる市販の実験室キットは、概して、H.M.Geysen et al.,“Use of peptide synthesis to probe viral antigens for epitopes to a resolution of a single amino acid,”Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81:3998,1984の教示を利用しており、全てが単一のプレートに結合した多数の「ロッド」又は「ピン」の先端におけるペプチドの合成を提供する。かかるシステムを利用する際は、ロッド又はピンのプレートを逆さにして対応するウェル又はリザーバーの第2のプレートに挿入し、この第2のプレートには、適切なアミノ酸をピン又はロッドの先端に取り付け又は固定するための溶液が入っている。このようなプロセス工程、すなわちロッド及びピンの先端を逆さにして適切な溶液に挿入することを繰り返すことにより、アミノ酸が構築されて所望のペプチドになる。加えて、多くの利用可能なFMOCペプチド合成システムが利用可能である。例えば、ポリペプチド又はフラグメントのアセンブリは、Applied Biosystems,Inc.のModel 431 A(商標)自動ペプチドシンセサイザーを使用して固体支持体上で行うことができる。かかる装置は、直接合成か、或いは他の公知の技法を用いてカップリングし得る一連のフラグメントの合成かのいずれかによる本開示のペプチドの容易な入手をもたらす。
【0307】
条件的活性型ポリペプチドはまた、グリコシル化することもできる。グリコシル化は、化学的に、或いは細胞生合成機構によって翻訳後に加えることができ、ここで細胞生合成機構は、既知のグリコシル化モチーフ(これは配列にとって天然であってもよく、又はペプチドとして加えられるか、若しくは核酸コード配列に加えられてもよい)の利用を取り入れるものである。グリコシル化はO結合型又はN結合型であり得る。
【0308】
条件的活性型ポリペプチドには、あらゆる「模倣体」及び「ペプチド模倣体」の形態が含まれる。用語「模倣体」及び「ペプチド模倣体」は、本開示のポリペプチドと実質的に同じ構造的及び/又は機能的特性を有する合成の化学的化合物を指す。模倣体は、完全に合成非天然アミノ酸類似体で構成されてもよく、又は部分的に天然のペプチドアミノ酸と部分的に非天然のアミノ酸類似体とのキメラ分子である。模倣体はまた、置換が模倣体の構造及び/又は活性も実質的に変化させるものでない限り、任意の量の天然アミノ酸保存的置換を組み込むことができる。保存された変異体である本開示のポリペプチドと同じく、模倣体が本開示の範囲内にあるかどうか、すなわち、その構造及び/又は機能が実質的に改変されないことは、ルーチンの実験によって決定されることになる。
【0309】
本開示のポリペプチド模倣体組成物は、非天然構造成分の任意の組み合わせを含有し得る。代替的な態様において、本開示の模倣体組成物は、以下の3つの構造基:a)天然アミド結合(「ペプチド結合」)連結以外の残基連結基;b)天然に存在するアミノ酸残基の代わりの非天然残基;又はc)二次構造の模倣を誘導する、すなわちそれにより二次構造、例えばβターン、γターン、βシート、αヘリックスコンホメーションなどを誘導し又は安定化させる残基のうちの1つ又は全てを含む。例えば、本開示のポリペプチドは、その残基の全て又は一部が天然のペプチド結合以外の化学的手段によってつなぎ合わされるとき、模倣体として特徴付けることができる。個々のペプチド模倣体残基は、ペプチド結合、他の化学結合又はカップリング手段、例えば、グルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、二官能性マレイミド、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又はN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)などによってつなぎ合わされ得る。従来のアミド結合(「ペプチド結合」)連結の代わりとなり得る連結基としては、例えば、ケトメチレン(例えば、-(C=O)-NH-に対する-C(C=O)CH2-)、アミノメチレン(CH2-NH)、エチレン、オレフィン(CH=CH)、エーテル(CH2O)、チオエーテル(CH2S)、テトラゾール(CN4--)、チアゾール、レトロアミド、チオアミド、又はエステルが挙げられる(例えば、Spatola(1983),Chemistry and Biochemistry of Amino Acids,Peptides and Proteins,Vol.7,pp 267-357,“Peptide Backbone Modifications,”Marcell Dekker,N.Y.を参照のこと)。
【0310】
本開示のポリペプチドはまた、天然に存在するアミノ酸残基の代わりに全て又は一部の非天然残基を含有することによっても模倣体として特徴付けることができる。非天然残基については、科学文献及び特許文献に十分な記載がなされている;天然アミノ酸残基の模倣体として有用な幾つかの例示的な非天然組成物及び指針は、以下に記載する。芳香族アミノ酸の模倣体は、例えば、D-又はL-ナフィルアラニン(naphylalanine);D-又はL-フェニルグリシン;D-又はL-2チエネイルアラニン(thieneylalanine);D-又はL-1,-2、3-、又は4-ピレネイルアラニン(pyreneylalanine);D-又はL-3チエネイルアラニン(thieneylalanine);D-又はL-(2-ピリジニル)-アラニン;D-又はL-(3-ピリジニル)-アラニン;D-又はL-(2-ピラジニル)-アラニン;D-又はL-(4-イソプロピル)-フェニルグリシン;D-(トリフルオロメチル)-フェニルグリシン;D-(トリフルオロメチル)-フェニルアラニン;D-p-フルオロ-フェニルアラニン;D-又はL-p-ビフェニルフェニルアラニン;D-又はL-p-メトキシ-ビフェニルフェニルアラニン;D-又はL-2-インドール(アルキル)アラニン;及びD-又はL-アルキルアニン類(alkylanines)[ここで、アルキルは、置換又は非置換メチル、エチル、プロピル、ヘキシル、ブチル、ペンチル、イソプロピル、イソブチル、sec-イソチル(isotyl)、イソ-ペンチル、又は非酸性アミノ酸であってもよい]による置換によって作成することができる。非天然アミノ酸の芳香環としては、例えば、チアゾリル、チオフェニル、ピラゾリル、ベンズイミダゾリル、ナフチル、フラニル、ピロリル、及びピリジル芳香環が挙げられる。
【0311】
酸性アミノ酸の模倣体は、例えば、負電荷を維持する一方での非カルボキシル化アミノ酸;(ホスホノ)アラニン;硫酸化スレオニンによる置換によって作成することができる。カルボキシル側基(例えば、アスパルチル又はグルタミル)も、カルボジイミド(R’~N-C-N-R’)、例えば、1-シクロヘキシル-3(2-モルホリニル-(4-エチル)カルボジイミド又はl-エチル-3(4-アゾニア-4,4-ジメトールペンチル)カルボジイミドとの反応によって選択的に修飾することができる。アスパルチル又はグルタミルはまた、アンモニウムイオンとの反応によってアスパラギニル及びグルタミニル残基に変換することもできる。塩基性アミノ酸の模倣体は、例えば、(リジン及びアルギニンに加えて)アミノ酸オルニチン、シトルリン、又は(グアニジノ)酢酸、又は(グアニジノ)アルキル酢酸(ここで、アルキルは、上記に定義される)による置換によって作成することができる。ニトリル誘導体(例えば、COOHの代わりにCN部分を含む)は、アスパラギン又はグルタミンを置換することができる。アスパラギニル及びグルタミニル残基は、対応するアスパルチル又はグルタミル残基に対して脱アミノ化することができる。アルギニン残基模倣体は、アルギニルと、例えば1つ以上の従来の試薬、例えばフェニルグリオキサール、2,3-ブタンジオン、1,2-シクロ-ヘキサンジオン、又はニンヒドリンとの、好ましくはアルカリ性条件下での反応によって作成することができる。チロシン残基模倣体は、チロシルと、例えば芳香族ジアゾニウム化合物又はテトラニトロメタンとの反応によって作成することができる。N-アセチルイミジゾール(acetylimidizol)及びテトラニトロメタンを使用して、それぞれO-アセチルチロシル種及び3-ニトロ誘導体を形成することができる。システイン残基模倣体は、システイニル残基と、例えば2-クロロ酢酸又はクロロアセトアミドなどのα-ハロ酢酸及び対応するアミン類との反応によって;カルボキシメチル又はカルボキシアミドメチル誘導体を得て作成することができる。システイン残基模倣体はまた、システイニル残基と、例えばブロモ-トリフルオロアセトン、α-ブロモ-β-(5-イミドゾイル(imidozoyl))プロピオン酸;クロロアセチルリン酸塩、N-アルキルマレイミド類、3-ニトロ-2-ピリジルジスルフィド;メチル2-ピリジルジスルフィド;p-クロロメルクリ安息香酸塩;2-クロロメルクリ-4ニトロフェノール;又はクロロ-7-ニトロベンゾ-オキサ-1,3-ジアゾールとの反応によって作成することもできる。リジン模倣体は、リシニルと、例えばコハク酸又は他のカルボン酸無水物との反応によって作成することができる(及びアミノ末端残基を改変することができる)。リジン及び他のα-アミノ含有残基模倣体はまた、イミドエステル、例えば、メチルピコリンイミデート、ピリドキサールリン酸、ピリドキサール、クロロボロヒドリド、トリニトロベンゼンスルホン酸、O-メチルイソウレア、2,4、ペンタンジオンとの反応、及びグリオキシル酸塩とのトランスアミダーゼ触媒反応によって作成することもできる。メチオニンの模倣体は、例えばメチオニンスルホキシドとの反応によって作成することができる。プロリンの模倣体には、例えば、ピペコリン酸、チアゾリジンカルボン酸、3-又は4-ヒドロキシプロリン、デヒドロプロリン、3-又は4-メチルプロリン、又は3,3,-ジメチルプロリンが含まれる。ヒスチジン残基模倣体は、ヒスチジルと、例えばジエチルプロカーボネート又はパラブロモフェナシルブロミドとの反応によって作成することができる。他の模倣体としては、例えば、プロリン及びリジンのヒドロキシル化;セリル又はスレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化;リジン、アルギニン及びヒスチジンのα-アミノ基のメチル化;N末端アミンのアセチル化;主鎖アミド残基のメチル化又はN-メチルアミノ酸による置換;又はC末端カルボキシル基のアミド化によって作成されるものが挙げられる。
【0312】
本開示のポリペプチドの残基、例えばアミノ酸はまた、逆のキラリティーのアミノ酸(又はペプチド模倣体残基)によって置換されてもよい。従って、L-配置(化学的実体の構造に応じてR又はSとも称することができる)で天然に存在する任意のアミノ酸は、D-アミノ酸と称されるが、R型又はS型とも称することができる同じ化学構造タイプの、しかし逆のキラリティーのペプチド模倣体のアミノ酸で置換することができる。
【0313】
本開示はまた、翻訳後プロセシング(例えばリン酸化、アシル化等)などの天然の過程によるか、或いは化学修飾技術による条件的活性型ポリペプチドの修飾方法を提供する。修飾は、ペプチド主鎖、アミノ酸側鎖及びアミン又はカルボキシル末端を含むポリペプチドのどこに行われてもよい。同じタイプの修飾が、所与のポリペチドの幾つかの部位に同じ又は様々な程度で存在し得ることは理解されるであろう。また、所与のポリペチドが多くの種類の修飾を有することができる。修飾には、アセチル化、アシル化、PEG化、ADPリボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質又は脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋性環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、システインの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、γ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、ペグ化、タンパク質分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイレーション(selenoylation)、硫酸化、及びアルギニル化等のトランスファーRNA媒介性のタンパク質へのアミノ酸付加が含まれる。Creighton,T.E.,a s-Structure and Molecular Properties 2nd Ed.,W.H.Freeman and Company,New York(1993);Posttranslational Covalent Modification of Proteins,B.C.Johnson,Ed.,Academic Press,New York,pp.1-12(1983)を参照のこと。
【0314】
H.条件的活性型抗体の操作
本発明の条件的活性型抗体は、本明細書に記載される1つ以上の抗体操作技法によって操作し得る。抗体操作技法の非限定的な例としては、抗体コンジュゲーション、多重特異性抗体の操作、免疫エフェクター細胞表面抗原と標的抗原とに対する二重特異性条件的活性型抗体の操作、抗体のFc領域の操作が挙げられる。
【0315】
条件的活性型抗体のコンジュゲーションに好適な方法については、国際公開第2015/175375号パンフレットに記載されている。一実施形態において、本明細書に開示されるコンジュゲーションに用いられる条件的活性型抗体は、好ましくは、異常条件における活性と正常生理条件における活性との比が少なくとも約10:1、又は少なくとも約12:1、又は少なくとも約14:1、又は少なくとも約16:1、又は少なくとも約18:1、又は少なくとも約20:1、又は少なくとも約22:1、又は少なくとも約24:1、又は少なくとも約26:1である。
【0316】
一部の実施形態において、条件的活性型抗体はこの抗体のFc領域上にコンジュゲートされ得る。上記に記載したコンジュゲート分子、化合物又は薬物が、米国特許第8,362,210号明細書に記載されるように、Fc領域にコンジュゲートされ得る。例えば、Fc領域は、条件的活性型抗体が優先的な活性を示す部位に送達されるサイトカイン又は毒素にコンジュゲートされ得る。ポリペプチドを抗体のFc領域にコンジュゲートする方法は、当該技術分野において公知である。例えば、米国特許第5,336,603号明細書、同第5,622,929号明細書、同第5,359,046号明細書、同第5,349,053号明細書、同第5,447,851号明細書、同第5,723,125号明細書、同第5,783,181号明細書、同第5,908,626号明細書、同第5,844,095号明細書、及び同第5,112,946号明細書;欧州特許第307,434号明細書;欧州特許第367,166号明細書;欧州特許第394,827号明細書;国際公開第91/06570号パンフレット、国際公開第96/04388号パンフレット、国際公開第96/22024号パンフレット、国際公開第97/34631号パンフレット、及び国際公開第99/04813号パンフレット;Ashkenazi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.88,pages 10535-10539,1991;Traunecker et al.,Nature,vol.331,pages 84-86,1988;Zheng et al.,J.Immunol.,vol.154,pages 5590-5600,1995;及びViI et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.89,pages 11337-11341,1992を参照のこと。
【0317】
一部の実施形態において、条件的活性型抗体は、1つが条件的活性型抗体と反応し且つ1つがコンジュゲート薬剤と反応する少なくとも2つの反応基を有する中間リンカーを介してコンジュゲート薬剤に共有結合的に付加され得る。リンカー(任意の適合性有機化合物を含み得る)は、条件的活性型抗体又はコンジュゲート薬剤との反応が条件的活性型抗体の反応性及び/又は選択性に悪影響を与えないように選択することができる。さらに、コンジュゲート薬剤へのリンカーの付加がコンジュゲート薬剤の活性を破壊してはならない。最大3:1、又は4:1、又は5:1、又は6:1の、コンジュゲートされる抗癌剤の分子と条件的活性型ポリペプチド分子との比。一例において抗癌剤と条件的活性型ポリペプチドとの比は約4:1である。
【0318】
酸化型条件的活性型抗体に好適なリンカーとしては、第一級アミン、第二級アミン、ヒドラジン、ヒドラジド、ヒドロキシルアミン、フェニルヒドラジン、セミカルバジド及びチオセミカルバジド基から選択される基を含有するものが挙げられる。還元型条件的活性型抗体に好適なリンカーとしては、還元型条件的活性型抗体のスルフヒドリル基との反応能を有する特定の反応基を有するものが挙げられる。かかる反応基としては、限定はされないが、反応性ハロアルキル基(例えばハロアセチル基を含む)、p-安息香酸水銀基及びマイケル型付加反応能を有する基(例えば、マレイミド類及びMitra and Lawton,J.Amer.Chem.Soc.Vol.101,pages 3097-3110,1979によって記載されるタイプの基を含む)が挙げられる。
【0319】
多重特異性条件的活性型抗体の操作に好適な方法については、国際公開第2015/175375号パンフレットに記載されている。
【0320】
条件的活性型抗体は、免疫エフェクター細胞表面抗原と標的抗原とに対する二重特異性条件的活性型抗体が生成されるように操作し得る。本発明の二重特異性条件的活性型抗体は、標的抗原が存在する疾患部位に免疫エフェクター細胞を誘引することができる。二重特異性条件的活性型抗体は、2つの異なる抗原:免疫エフェクター細胞表面抗原及び標的抗原に特異的に結合することのできる抗体である。二重特異性抗体は、一方のアームが免疫エフェクター細胞表面抗原に結合し、且つ他方のアームが標的抗原に結合する2本のアームを含む完全長抗体であってもよい。二重特異性抗体は、重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)のみを含む抗体フラグメントであってもよい。一実施形態において、抗体フラグメントは、一方が免疫エフェクター細胞表面抗原に結合するためのものであり、且つ他方のアームが標的抗原に結合する少なくとも2つのVHVL単位を含む。別の実施形態において、抗体フラグメントは、一方が免疫エフェクター細胞表面抗原に結合するためのものであり、且つ他方のアームが標的抗原に結合する少なくとも2つのシングル可変ドメイン(VH又はVL)を含む。一部の実施形態において、二重特異性条件的活性型抗体は、一方が免疫エフェクター細胞表面抗原に結合し、且つ他方が標的抗原に結合する2つのscFvを含む。
【0321】
誘引される免疫エフェクター細胞は、免疫エフェクター細胞と罹患細胞又は罹患組織上の標的抗原との両方に対するその結合活性により、標的抗原を含有する罹患細胞又は罹患組織に免疫エフェクター細胞を誘引し得る。免疫エフェクター細胞は罹患細胞又は罹患組織を抑制し又はさらには破壊する能力を有するため、次には誘引された免疫エフェクター細胞が罹患細胞又は罹患組織を攻撃し、そのようにして疾患の治癒を助け得る。例えば、免疫エフェクター細胞は腫瘍細胞又は感染細胞を破壊することができる。免疫エフェクター細胞としては、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞及びT細胞が挙げられる。
【0322】
二重特異性条件的活性型抗体は、各一つずつが免疫エフェクター細胞表面抗原及び標的抗原に対する2つの結合活性を有する。一実施形態では、両方の結合活性が条件的であり、つまり、免疫エフェクター細胞表面抗原及び標的抗原に対する二重特異性条件的活性型抗体の結合活性は正常生理条件下で野生型抗体の結合活性よりも低く、且つ異常条件下で野生型抗体よりも高いということになる。一実施形態では、2つの結合活性のうちの一方のみが条件的であり、つまり、免疫エフェクター細胞表面抗原に対する二重特異性条件的活性型抗体の結合活性又は標的抗原に対する二重特異性条件的活性型抗体の結合活性のいずれか一方が条件的であるということになる。この場合、免疫エフェクター細胞表面抗原に対する二重特異性条件的活性型抗体の結合活性又は標的抗原に対する二重特異性条件的活性型抗体の結合活性の一方は、正常生理条件下で野生型抗体の対応する活性よりも低く、且つ異常条件下で野生型抗体の対応する活性よりも高い。
【0323】
二重特異性条件的活性型抗体の2本のアーム(例えば、2つのVHVL単位又は2つのscFv)は、従来の方法を用いてつなぎ合わされ得る。当該分野で周知のとおり、完全な抗原結合部位を含有する最小限の抗体フラグメントは、非共有結合的に会合した1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメイン(VH及びVL)の二量体を有する。この構成は、各可変ドメインの3つの相補性決定領域(CDR)が相互作用してVH-VL二量体の表面上の抗原結合部位を画定する天然抗体に見られるものと一致する。集合的には、6つのCDRが抗体に抗原結合特異性を付与する。CDRに隣接するフレームワーク(FR)が、ヒト及びマウスと同程度に多様な種の天然免疫グロブリンにおいて本質的に保存されている三次構造を有する。これらのFRは、CDRをそれらの適切な向きに保持する働きをする。定常ドメインは結合機能に必要ないが、VH-VL相互作用の安定化に役立ち得る。シングル可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを含む半分のFv)であっても、抗原を認識して結合する能力を有するが、通常は結合部位全体と比べると親和性が低い(Painter et al.,“Contributions of heavy and light chains of rabbit immunoglobulin G to antibody activity.I.Binding studies on isolated heavy and light chains,”Biochemistry,vol.11 pages 1327-1337,1972)。従って、二重特異性条件的活性型抗体の結合部位の前記ドメインは、異なる免疫グロブリンのVH-VL、VH-VH又はVL-VLドメインのペアとして構築し得る。
【0324】
一部の実施形態において、二重特異性条件的活性型抗体は、組換えDNA技法を用いて連続ポリペプチド鎖として、例えば連続ポリペプチド鎖を構築するため二重特異性条件的活性型抗体をコードする核酸分子を発現させるような方法で構築し得る(例えば、Mack et al.,“A small bispecific antibody construct expressed as a functional single-chain molecule with high tumor cell cytotoxicity,”Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.92,pages 7021-7025,2005を参照)。ポリペプチド鎖内でのVH及びVLドメインの順序は、抗原結合部位が適切に折り畳まれて免疫エフェクター細胞表面抗原に対する1つの結合部位と標的抗原に対する1つの結合部位とを形成し得るようにVH及びVLドメインが配置される限り、本発明において重要ではない。
【0325】
免疫エフェクター細胞表面抗原及び標的抗原に対する二重特異性条件的活性型抗体の生成においては、多重特異性条件的活性型抗体の操作に関して本明細書に記載される技法の一部を用い得る。
【0326】
シングルポリペプチド鎖として構成された二重特異性抗体は公知であり、国際公開第99/54440号パンフレット、Mack,J.Immunol.(1997),158,3965-3970、Mack,PNAS,(1995),92,7021-7025、Kufer,Cancer Immunol.Immunother.,(1997),45,193-197、Loffler,Blood,(2000),95,6,2098-2103、Bruhl,J.Immunol.,(2001),166,2420-2426に記載されている。二重特異性抗体に特に好ましい構成は、VH及びVL領域がリンカードメインによって互いに連結されているポリペプチド構築物である。シングルポリペプチド鎖におけるVH及びVL領域の順序は重要ではない。一実施形態において、シングルポリペプチド鎖は、VH1-リンカードメイン-VL1-リンカードメイン-VH2-リンカードメイン-VL2として構成される。別の実施形態において、シングルポリペプチド鎖は、VL1-リンカードメイン-VH1-リンカードメイン-VL2-リンカードメイン-VH2として構成される。別の実施形態において、シングルポリペプチド鎖は、VH1-リンカードメイン-VH2-リンカードメイン-VL1-リンカードメイン-VL2として構成される。別の実施形態において、シングルポリペプチド鎖は、VH1-リンカードメイン-VL2-リンカードメイン-VL1-リンカードメイン-VH2として構成される。シングルポリペプチド鎖は、各々が免疫エフェクター細胞表面抗原又は標的抗原との結合能を有する2本のアームに折り畳まれ得る。
【0327】
二重特異性条件的活性型抗体のリンカードメインは、これらのVH及びVLドメイン間の分子間会合を可能にするのに十分な長さのペプチドフラグメントである。この目的に好適なリンカーの設計については、先行技術、例えば、欧州特許第623 679 B1号明細書、米国特許第5,258,498号明細書、欧州特許第573 551 B1号明細書及び米国特許第5,525,491号明細書に記載されている。リンカードメインは、好ましくは、グリシン、セリン及び/又はグリシン/セリンから選択される1~25アミノ酸の親水性可動性リンカーである。一実施形態において、リンカードメインは配列(Gly4Ser)3の15アミノ酸リンカーである。
【0328】
追加的なリンカードメインは、オリゴマー形成ドメインを含む。オリゴマー形成ドメインは、その2つ又は数個のVH及びVLドメインの組み合わせが折り畳まれて、免疫エフェクター細胞表面抗原又は標的抗原との結合能を各々有する2本のアームになるのを促進することができる。オリゴマー形成ドメインの非限定的な例には、ロイシンジッパー(jun-fos、GCN4、E/EBPなど;Kostelny,J.Immunol.148(1992),1547-1553;Zeng,Proc.Natl.Acad.Sci.94(1997),3673-3678、Williams,Genes Dev.5(1991),1553-1563;Suter,“Phage Display of Peptides and Proteins”,Chapter 11,(1996),Academic Press)、定常ドメインCH1及びCLなどの抗体由来オリゴマー形成ドメイン(Mueller,FEBS Letters 422(1998),259-264)及び/又はGCN4-LIなどの四量体化ドメイン(Zerangue,Proc.Natl.Acad.Sci.97(2000),3591-3595)が含まれる。
【0329】
一部の実施形態では、ノブ・イン・ホール技術を用いてシングルポリペプチド鎖二重特異性条件的抗体の折り畳みを安定化させてもよい。ノブ・イン・ホール技術については、Ridgwayら(“‘Knobs-into-holes’engineering of antibody CH3 domains for heavy chain heterodimerization,”Protein Eng.1996 Jul;9(7):617-21)によって記載されている。この手法は、隣接するaヘリックス間のアミノ酸側鎖のパッキングに用いられており、ここではaヘリックスの残基の側鎖が、円筒形の表面上にホールと交互に間隔を置いて配置されたノブとして表され、これらのホールには隣接するaヘリックスのノブが嵌まり得る(O’Shea et al.,(1991)Science,254,539-544)。
【0330】
免疫エフェクター細胞表面抗原は、1つ又はあるクラスの免疫エフェクター細胞に特異的であるはずである。多くの免疫エフェクター細胞に対する表面抗原が既知である。ナチュラルキラー細胞は、CD56、CD8、CD16、KIRファミリー受容体、NKp46、NKp30、CD244(2B4)、CD161、CD2、CD7、CD3、及びキラー細胞免疫グロブリン様受容体を含めた表面抗原を有する(Angelis et al.,“Expansion of CD56-negative,CD16-positive,KIR-expressing natural killer cells after T cell-depleted haploidentical hematopoietic stem cell transplantation,”Acta Haematol.2011;126(1):13-20;Dalle et al.,“Characterization of Cord Blood Natural Killer Cells:Implications for Transplantation and Neonatal Infections,”Pediatric Research(2005)57,649-655;Agarwal et al.,“Roles and Mechanism of Natural Killer Cells in Clinical and Experimental Transplantation,”Expert Rev Clin Immunol.2008;4(1):79-91)
【0331】
マクロファージは、CD11b、F4/80、CD68、CSF1R、MAC2、CD11c、LY6G、LY6C、IL-4Rα、CD163、CD14、CD11b、F4/80(マウス)/EMR1(ヒト)、CD68及びMAC-1/MAC-3、PECAM-1(CD31)、CD62、CD64、CD45、Ym1、CD206、CD45RO、25F9、S100A8/A9、及びPM-2Kを含めた表面抗原を有する(Murray et al.,“Protective and pathogenic functions of macrophage subsets,”Nature Reviews Immunology,11,723-737;Taylor et al.,“Macrophage receptors and immune recognition,”Annu Rev Immunol 2005;23:901-44;Pilling,et al.,“Identification of Markers that Distinguish Monocyte-Derived Fibrocytes from Monocytes,Macrophages,and Fibroblasts,”PLoS ONE 4(10):e7475.doi:10.1371/journal.pone.0007475,2009)。
【0332】
リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞は、T3、T4 T11、T8、TII、Leu7、Leu11を含めた表面抗原を有する(Ferrini et al.,“Surface markers of human lymphokine-activated killer cells and their precursors,”Int J Cancer.1987 Jan 15;39(1):18-24;Bagnasco et al.,“Glycoproteic nature of surface molecules of effector cells with lymphokine-activated killer(LAK)activity,”Int J Cancer.1987 Jun 15;39(6):703-7;Kaufmann et al.,“Interleukin 2 induces human acute lymphocytic leukemia cells to manifest lymphokine-activated-killer(LAK)cytotoxicity,”The Journal of Immunology,August 1,1987,vol.139 no.3 977-982)。
【0333】
T細胞、特に細胞傷害性T細胞は、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、T58、CD27、CD45、CD84、CD25、CD127、及びCD196(CCR6)、CD197(CCR7)、CD62L、CD69、TCR、T10、T11、及びCD45ROを含めた表面抗原を有する(Ledbetter et al.,“Enhanced transmembrane signalling activity of monoclonal antibody heteroconjugates suggests molecular interactions between receptors on the T cell surface,”Mol Immunol.1989 Feb;26(2):137-45;Jondal et al.,“SURFACE MARKERS ON HUMAN T AND B LYMPHOCYTES,”JOURNAL OF EXPERIMENTAL MEDICINE,VOLUME 136,1972,207-215;Mingari et al.,“Surface markers of human T lymphocytes,”Ric Clin Lab.1982 Jul-Sep;12(3):439-448)。
【0334】
二重特異性条件的活性型抗体は、免疫エフェクター細胞との結合後、標的抗原が好ましくは表面上に存在する細胞又は組織へと免疫エフェクター細胞を導くことができる。二重特異性条件的活性型抗体(免疫エフェクター細胞を有する)が標的抗原に結合すると、免疫エフェクター細胞が罹患細胞又は罹患組織を攻撃し得る。ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、LAK細胞、T細胞(細胞傷害性)などの免疫エフェクター細胞は、いずれも、罹患細胞又は組織を死滅させ及び/又は破壊する能力、例えば腫瘍組織を破壊する能力を有する。
【0335】
罹患細胞又は罹患組織は、癌、炎症性疾患、神経障害、糖尿病、心血管疾患、又は感染症から選択され得る。標的抗原の例としては、様々な免疫細胞、癌腫、肉腫、リンパ腫、白血病、胚細胞腫瘍、芽細胞腫、並びに様々な血液疾患、自己免疫疾患、及び/又は炎症性疾患に関連する細胞が発現する抗原が挙げられる。
【0336】
二重特異性条件的活性型抗体が標的とし得る癌に特異的な標的抗原としては、4-IBB、5T4、腺癌抗原、αフェトプロテイン、BAFF、B-リンパ腫細胞、C242抗原、CA-125、炭酸脱水酵素9(CA-IX)、C-MET、CCR4、CD152、CD19、CD20、CD200、CD22、CD221、CD23(IgE受容体)、CD28、CD30(TNFRSF8)、CD33、CD4、CD40、CD44 v6、CD51、CD52、CD56、CD74、CD80、CEA、CNT0888、CTLA-4、DR5、EGFR、EpCAM、CD3、FAP、フィブロネクチンエクストラドメイン-B、葉酸受容体1、GD2、GD3ガングリオシド、糖タンパク質75、GPNMB、HER2/neu、HGF、ヒト散乱因子受容体キナーゼ、IGF-1受容体、IGF-I、IgGl、LI-CAM、IL-13、IL-6、インスリン様成長因子I受容体、インテグリンα5β1、インテグリンανβ3、MORAb-009、MS4A1、MUC1、ムチンCanAg、N-グリコリルノイラミン酸、NPC-1C、PDGF-R a、PDL192、ホスファチジルセリン、前立腺癌細胞、RANKL、RON、ROR1、SCH 900105、SDC1、SLAMF7、TAG-72、テネイシンC、TGFβ2、TGF-β、TRAIL-R1、TRAIL-R2、腫瘍抗原CTAA16.88、VEGF-A、VEGFR-1、VEGFR2又はビメンチンのうちの1つ以上が挙げられる。
【0337】
本発明の遺伝子操作された細胞傷害性細胞又は医薬組成物で治療される癌の種類としては、癌腫、芽細胞腫、及び肉腫、及びある種の白血病又はリンパ性悪性腫瘍、良性及び悪性腫瘍、及び悪性病変、例えば、肉腫、癌腫、及び黒色腫が挙げられる。癌は非固形腫瘍(血液腫瘍など)又は固形腫瘍であってもよい。成人腫瘍/癌及び小児腫瘍/癌もまた含まれる。
【0338】
血液癌は、血液又は骨髄の癌である。血液癌(又は血行性癌)の例としては、白血病、例えば、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄球性白血病、急性骨髄性白血病並びに骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性及び赤白血病など)、慢性白血病(慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病、及び慢性リンパ性白血病など)、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無痛性型及び高悪性度型)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、ヘアリー細胞白血病及び骨髄形成異常が挙げられる。
【0339】
固形腫瘍は、通常は嚢胞又は液体領域を含まない異常な組織塊である。固形腫瘍は良性又は悪性であり得る。固形腫瘍の異なるタイプは、それを形成する細胞のタイプ(肉腫、癌腫、及びリンパ腫など)にちなんで命名される。治療し得る固形腫瘍の例としては、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、及び他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、リンパ性悪性腫瘍、膵癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、褐色細胞腫、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、セミノーマ、膀胱癌、黒色腫、及びCNS腫瘍(神経膠腫(脳幹神経膠腫及び混合性神経膠腫など)、膠芽腫(多形性膠芽腫としても知られる)、星状細胞腫、CNSリンパ腫、胚細胞腫、髄芽腫、シュワン腫、頭蓋咽頭腫(craniopharyogioma)、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫(menangioma)、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫及び脳転移など)を含めた肉腫及び癌腫が挙げられる。
【0340】
二重特異性条件的活性型抗体が標的とし得る炎症性疾患に特異的な標的抗原としては、AOC3(VAP-1)、CAM-3001、CCL11(エオタキシン-1)、CD125、CD147(ベイシジン)、CD154(CD40L)、CD2、CD20、CD23(IgE受容体)、CD25(IL-2受容体の鎖)、CD3、CD4、CD5、IFN-a、IFN-γ、IgE、IgE Fc領域、IL-1、IL-12、IL-23、IL-13、IL-17、IL-17A、IL-22、IL-4、IL-5、IL-5、IL-6、IL-6受容体、インテグリンa4、インテグリンα4β7、ラマ・グラマ(Lama glama)、LFA-1(CD11a)、MEDI-528、ミオスタチン、OX-40、rhuMAb β7、スクレロスシン(scleroscin)、SOST、TGFβ1、TNF-a又はVEGF-Aのうちの1つ以上が挙げられる。
【0341】
本発明の二重特異性条件的活性型抗体が標的とし得る神経障害に特異的な標的抗原としては、βアミロイド又はMABT5102Aのうちの1つ以上が挙げられる。本発明の二重特異性条件的活性型抗体が標的とし得る糖尿病に特異的な抗原としては、L-Ιβ又はCD3のうちの1つ以上が挙げられる。本発明の二重特異性条件的活性型抗体が標的とし得る心血管疾患に特異的な抗原としては、C5、心臓ミオシン、CD41(インテグリンα-lib)、フィブリンII、β鎖、ITGB2(CD18)及びスフィンゴシン-1-リン酸のうちの1つ以上が挙げられる。
【0342】
本発明の二重特異性条件的活性型抗体が標的とし得る感染症に特異的な標的抗原としては、炭疽毒素、CCR5、CD4、クランピング因子A、サイトメガロウイルス、サイトメガロウイルス糖タンパク質B、エンドトキシン、大腸菌(Escherichia coli)、B型肝炎表面抗原、B型肝炎ウイルス、HIV-1、Hsp90、インフルエンザA型赤血球凝集素、リポタイコ酸、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、狂犬病ウイルス糖タンパク質、呼吸器合胞体ウイルス及びTNF-aのうちの1つ以上が挙げられる。
【0343】
標的抗原のさらなる例としては、癌細胞に特異的な又は増幅された形で見られる表面タンパク質、例えば、B細胞リンパ腫についてのIL-14受容体、CD19、CD20及びCD40、種々の癌腫についてのLewis Y及びCEA抗原、乳癌及び結腸直腸癌についてのTag72抗原、肺癌についてのEGF-R、ヒト乳癌及び卵巣癌で増幅されることの多い葉酸結合タンパク質及びHER-2タンパク質、又はウイルスタンパク質、例えばHIVのgp120及びgp41エンベロープタンパク質、B型及びC型肝炎ウイルス由来のエンベロープタンパク質、ヒトサイトメガロウイルスの糖タンパク質B及び他のエンベロープ糖タンパク質、及びカポジ肉腫関連ヘルペスウイルスなどのオンコウイルス由来のエンベロープタンパク質が挙げられる。他の潜在的標的抗原としてはCD4(リガンドはHIV gp120エンベロープ糖タンパク質である)、及び他のウイルス受容体、例えばヒトライノウイルスに対する受容体であるICAM、及びポリオウイルスに対する関連する受容体分子が挙げられる。
【0344】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、初めに細胞表面上の2つの鍵分子、CD4及び共受容体に結合しない限りヒト細胞に侵入できない。最初に認識される共受容体はCCR5であり、ウイルスのライフサイクルにおいて後に別のケモカイン受容体CXCR4がHIV-1に対する共受容体になる(D’Souza,Nature Med.2,1293(1996);Premack,Nature Med.2,1174;Fauci,Nature 384,529(1996))。性的接触によるウイルス感染のほとんどを引き起こすHIV-1株は、Mトロピックウイルスと呼ばれる。これらのHIV-1株(非合胞体誘導(NSI)初代ウイルスとしても知られる)は初代CD4+ T細胞及びマクロファージで複製し、その共受容体としてケモカイン受容体CCR5(及び、頻度は低いがCCR3)を用いることができる。Tトロピックウイルス(時に合胞体誘導(SI)初代ウイルスと呼ばれる)もまた初代CD4+ T細胞で複製することができるが、加えてインビトロで樹立CD4+ T細胞株を感染させることができ、これをケモカイン受容体CXCR4(フーシン)を介して行う。これらのTトロピック株の多くはCXCR4に加えてCCR5を用いることができ、一部は、少なくとも特定のインビトロ条件下で、CCR5を介してマクロファージに侵入することができる(D’Souza,Nature Med.2,1293(1996);Premack,Nature Med.2,1174;Fauci,Nature 384,529(1996))。HIVの性感染の約90%にMトロピックHIV-1株が関与するとされているため、CCR5が患者におけるこのウイルスの優勢な共受容体である。
【0345】
標的細胞上の共受容体分子の数及びアイデンティティ、並びにHIV-1株が異なる共受容体を介して細胞に侵入するものと思われる能力は、疾患進行の決定因子のように見える。ホジキン病患者に由来するリンパ節のT細胞及びB細胞においてもCCR3及びCCR5の高発現が観察された。I型糖尿病は、T細胞媒介性自己免疫疾患であると考えられている。関連する動物モデルにおいて、膵臓におけるCCR5受容体の発現がI型糖尿病の進行と関連付けられた(Cameron(2000)J.Immunol.165,1102-1110)。一実施形態において、二重特異性条件的活性型抗体は標的抗原としてCCR5に結合し、これを用いて宿主細胞のHIV感染を抑制し得るとともに他の疾患の進行を減速させ得る。
【0346】
(ヒト)CCR5に特異的に結合する幾つかの抗体が当該技術分野において公知であり、MC-1(Mack(1998)J.Exp.Med.187,1215-1224又はMC-5(Blanpain,(2002)Mol.Biol.Cell.13:723-37、Segerer(1999)Kidney Int.56:52-64、Kraft(2001)Biol.Chem.14;276:34408-18)が含まれる。従って、二重特異性条件的活性型抗体は、例えば、CCR5、好ましくはヒトCCR5に特異的な抗体のVL及びVHドメイン(即ちIg由来の第2ドメイン)、並びにT細胞上のCD3抗原に特異的な抗体のVH及びVLドメインを含むことが好ましい。
【0347】
別の実施形態において、本発明は、標的抗原としてのCD19及びT細胞上のCD3に対する二重特異性条件的活性型抗体を提供する。CD19は、極めて有用な医学的標的であることが分かっている。CD19は、プロB細胞から成熟B細胞までの全B細胞系統で発現するとともに全てのリンパ腫細胞上で一様に発現し、幹細胞には存在しない(Haagen,Clin Exp Immunol 90(1992),368-75;Uckun,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85(1988),8603-7)。CD19に対する抗体と追加的な免疫調節抗体との両方を用いる併用療法が、B細胞悪性病変(国際公開第02/04021号パンフレット、米国特許出願公開第2002006404号明細書、米国特許出願公開第2002028178号明細書)及び自己免疫疾患(国際公開第02/22212号パンフレット、米国特許出願公開第2002058029号明細書)の治療向けに開示されている。国際公開第00/67795号パンフレットは、緩徐進行型及び侵襲性の強い形態のB細胞リンパ腫、並びに急性型及び慢性型のリンパ性白血病の治療に向けたCD19に対する抗体の使用を開示している。国際公開第02/80987号パンフレットは、B細胞非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫又はB細胞白血病(例えばB細胞急性リンパ性白血病(B-ALL)、(例えばヘアリー細胞リンパ腫)、B細胞前駆体急性リンパ性白血病(プレB-ALL)、B細胞慢性リンパ性白血病(B-CLL))などの疾患の治療に向けた抗原CD19に対する抗体に基づいた免疫毒素の治療的利用を開示している。
【0348】
さらなる実施形態において、本発明は、標的抗原としてのCD20及びT細胞上のCD3に対する二重特異性条件的活性型抗体を提供する。CD20は、Bリンパ球上に存在する細胞表面タンパク質の一つである。CD20抗原は、B細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)の90%超に見られるものを含め、正常な及び悪性のプレBリンパ球及び成熟Bリンパ球に見られる。この抗原は、造血幹細胞、活性化Bリンパ球(形質細胞)及び正常組織には存在しない。ほとんどがマウス起源である幾つかの抗体が記載されている:1F5(Press et al.,1987,Blood 69/2,584-591)、2B8/C2B8、2H7、1H4(Liu et al.,1987,J Immunol.139,3521-3526;Anderson et al.,1998,米国特許第5,736,137号明細書;Haisma et al.,1998,Blood 92,184-190;Shan et al.,1999,J.Immunol.162,6589-6595)。
【0349】
キャリアータンパク質に連結されたscFvをコードするDNAによるワクチン接種を用いた形質細胞悪性病変治療の免疫療法ストラテジーにおいてCD20が記載されており(Treon et al.,2000,Semin Oncol 27(5),598)、CD20抗体(IDEC-C2B8)を用いた免疫療法治療が非ホジキンB細胞リンパ腫の治療において有効であることが示されている。
【0350】
一部の実施形態において、二重特異性条件的活性型抗体は、ポリヌクレオチド分子によってコードされるシングルポリペプチド鎖である。ポリヌクレオチドは、例えば、DNA、cDNA、RNA又は合成的に作製されたDNA若しくはRNA又はそれらのポリヌクレオチドのいずれかを単独或いは組み合わせで含む組換えによって作製されたキメラ核酸分子であってもよい。ポリヌクレオチドは、プラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージを含めたベクター、例えば発現ベクター、又は遺伝子操作において従来用いられている任意の発現系の一部であり得る。ベクターは、好適な宿主細胞における好適な条件下でのベクターの選択を可能にするマーカー遺伝子などのさらなる遺伝子を含んでもよい。
【0351】
一態様において、ポリヌクレオチドは、原核細胞又は真核細胞における発現を可能にする発現制御配列に作動可能に連結されている。哺乳類細胞へのポリヌクレオチド又はベクターの送達には、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、又はウシパピローマウイルスなどのウイルスに由来する発現ベクターが用いられ得る。本発明のポリヌクレオチドを含有するベクターは周知の方法によって宿主細胞に移すことができ、方法は細胞宿主のタイプに応じて変わる。例えば、原核細胞には塩化カルシウムトランスフェクションが良く利用される一方、他の細胞宿主にはリン酸カルシウム処理又は電気穿孔が用いられ得る。
【0352】
別の態様において、条件的活性型ポリペプチドを操作して二重特異性条件的活性型ポリペプチドを作製し得る。二重特異性条件的活性型ポリペプチドの操作方法は、国際公開第2015/175375号パンフレットに記載されるとおりの二重特異性条件的活性型抗体の操作方法と同様である。例えば、二重特異性条件的活性型ポリペプチドは2つの活性部位を有し、各々が条件的活性を有する、即ち、正常生理条件下で親部位よりも活性が低く、異常条件下で親部位よりも活性が高いものであり得る。これらの2つの条件的活性型部位は、独立して進化させてスクリーニングし、続いて2つの活性部位をリンカーで同じ二重特異性条件的活性型ポリペプチドに連結してもよい。一態様において、二重特異性条件的活性型抗体に使用し得るリンカーは、条件的活性型ポリペプチドの2つの条件的活性型部位を連結することによる二重特異性条件的活性型ポリペプチドの生成に好適な公知のリンカーである。
【0353】
条件的活性型抗体のFc領域の操作に好適な方法については、国際公開第2015/175375号パンフレットに記載されている。
【0354】
条件的活性型ウイルス粒子の操作に好適な方法については、国際公開第2015/175375号パンフレットに記載されている。
【0355】
一部の態様において、条件的活性型ポリペプチドは、国際公開第2015/175375号パンフレットに記載される方法を用いて、腫瘍崩壊ウイルスであるウイルス粒子に挿入されてもよい。腫瘍崩壊ウイルスは、腫瘍細胞と接触するとそれらの腫瘍細胞を死滅させる能力を有するウイルスである。腫瘍崩壊ウイルスに挿入される条件的活性型ポリペプチドは、腫瘍微小環境で活性がより高く、対象の他の部位で活性がより低いものであり得る。例えば、条件的活性型ポリペプチドは、腫瘍微小環境に存在するpH又は他の条件(例えばpH6.2~6.8)で活性がより高く、正常生理条件など、対象の別の部位に存在するpH又は他の条件(例えばpH7.2~7.6)で活性がより低いものであり得る。腫瘍崩壊ウイルスに挿入される条件的活性型ポリペプチドを使用すると、腫瘍への腫瘍崩壊ウイルスの送達を促進することができ、腫瘍において腫瘍崩壊ウイルスは腫瘍細胞を標的化して死滅させ得る。
【0356】
目的の腫瘍崩壊ウイルスとしては、アデノウイルス;単純ヘルペスウイルス1型;ワクシニアウイルス;パルボウイルス;レオウイルス;ニューカッスル病ウイルスなどが挙げられる。ワクシニアウイルスが特に興味深い。
【0357】
一態様において、腫瘍崩壊ウイルスは、パラミクソウイルス、レオウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、及びセムリキ森林ウイルスからなる群から選択される。さらなる態様において、パラミクソウイルスは、ニューカッスル病ウイルス(NDV)、麻疹ウイルス、及びムンプスウイルスからなる群から選択される。別の態様において、NDVは、MTH68/H、PV-701、及び73-Tからなる群から選択される株由来である。
【0358】
別の態様において、腫瘍崩壊ウイルスは、ヘルペスウイルス、レオウイルス、E1B欠失アデノウイルス、水疱性口内炎ウイルス、及びポックスウイルスから選択される。これらの腫瘍崩壊ウイルスは腫瘍細胞を破壊するのみならず、破壊された腫瘍細胞から抗原を放出させて、それにより免疫応答を惹起する潜在的能力も有する。
【0359】
腫瘍崩壊ウイルスの具体的な例としては、限定なしに、アデノウイルス(例えばΔ-24、Δ-24-RGD、ICOVIR-5、ICOVIR-7、Onyx-015、ColoAd1、H101、AD5/3-D24-GMCSF)、レオウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV;OncoVEX GMCSF)、ニューカッスル病ウイルス、麻疹ウイルス、レトロウイルス(例えばインフルエンザウイルス)、ポックスウイルス(例えばコペンハーゲン株、ウエスタンリザーブ株、ワイス株を含むワクシニアウイルス)、粘液腫ウイルス、ラブドウイルス(例えば水疱性口内炎ウイルス(VSV))、ピコルナウイルス(例えばセニカ・バレーウイルス;SW-001)、コクサッキーウイルス、及びパルボウイルスが挙げられる。
【0360】
一態様において、腫瘍崩壊ウイルスは、その57種のヒト血清型(HAdV-1~57)のいずれかのメンバーを含むアデノウイルスである。一実施形態において、アデノウイルスはAd5血清型である。或いは、アデノウイルスは、Ad5成分を含んでも又は含まなくてもよいハイブリッド血清型であってもよい。好適なアデノウイルスの非限定的な例としては、Δ-24、Δ-24-RGD、ICOVIR-5、ICOVIR-7、ONYX-015、ColoAd1、H101、及びAD5/3-D24-GMCSFが挙げられる。ONYX-015は、E1B-55K及びE3B領域に欠失を有して癌選択性が増強されたウイルス血清型Ad2とAd5とのハイブリッドである。H101は、Onyx-015の修飾されたバージョンである。ICOVIR-5及びICOVIR-7はE1AのRb結合部位欠失及びE2FプロモーターによるE1Aプロモーターの置換を含む。Colo Ad 1はキメラAddl lp/Ad3血清型である。AD5/3-D24-GMCSF(CGTG-102)は、GM-CSFをコードする血清型5/3カプシド修飾アデノウイルスである(Ad5カプシドタンパク質ノブが血清型3由来のノブドメインに置換されている)。
【0361】
特に好ましい一実施形態において、腫瘍崩壊ウイルスはΔ-24又はΔ-24-RGDアデノウイルスである。Δ-24については、米国特許出願公開第2003/0138405 A1号明細書及び米国特許出願公開第2006/0147420 A1号明細書に記載されている。Δ-24アデノウイルスはアデノウイルス5型(Ad-5)に由来し、E1A遺伝子のCR2部分内に24塩基対の欠失を含む。Δ-24-RGDは、繊維状ノブタンパク質のHIループへのRGD-4C配列(ανβ3及びανβ5インテグリンに強力に結合する)の挿入をさらに含む(Pasqualini R.et al.,Nat Biotechnol.,15:542-546,1997)。
【0362】
腫瘍崩壊アデノウイルスはまた、腫瘍崩壊アデノウイルスが癌を治療する能力を改善するためさらに修飾されてもよい。腫瘍崩壊アデノウイルスのかかる修飾については、Jiang et al.(Curr.Gene Ther.2009 Oct 9(5):422-427)によって記載されており、また米国特許出願公開第2006/0147420 A1号明細書も参照のこと。
【0363】
条件的活性型ポリペプチドを含む腫瘍崩壊ウイルスは、局所投与又は全身投与し得る。例えば、限定なしに、腫瘍崩壊ウイルスは、血管内(動脈内又は静脈内)、腫瘍内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、経口的、非経口的、鼻腔内、気管内、経皮的、脊髄内、眼内、又は頭蓋内に投与することができる。
【0364】
腫瘍崩壊ウイルスは単回投与又は複数回投与で投与し得る。ウイルスは、少なくとも1×105プラーク形成単位(PFU)、少なくとも5×105PFU、少なくとも1×106PFU、少なくとも5×106又は少なくとも5×106PFU、1×107、少なくとも1×107PFU、少なくとも1×108又は少なくとも1×108PFU、少なくとも1×108PFU、少なくとも5×108PFU、少なくとも1×109又は少なくとも1×109PFU、少なくとも5×109又は少なくとも5×109PFU、少なくとも1×1010PFU又は少なくとも1×1010PFU、少なくとも5×1010又は少なくとも5×1010PFU、少なくとも1×1011PFU又は少なくとも1×l011PFU、少なくとも1×1012PFU、又は少なくとも1×1013PFUの投薬量で投与し得る。例えば、腫瘍崩壊ウイルスは、約107~1013PFU、約108~1013PFU、約109~1012PFU、又は約108~1012PFUの投薬量で投与し得る。
【0365】
特定の態様において、腫瘍崩壊ウイルスで治療される癌としては、任意の固形腫瘍、例えば、肺癌、卵巣癌、乳癌、頸部癌、膵癌、胃癌、結腸癌、皮膚癌、喉頭癌、膀胱癌、及び前立腺癌が挙げられる。一態様において、癌は中枢神経系の癌である。癌は、神経上皮腫瘍、例えば、星細胞系腫瘍(例えば、星状細胞腫、未分化星状細胞腫、膠芽腫、神経膠肉腫、毛様細胞性星状細胞腫、巨細胞性星状細胞腫、多形黄色星状細胞腫)、乏突起膠腫、上衣腫、乏突起星細胞腫、海綿芽細胞腫、星状芽細胞腫、脈絡叢乳頭腫(choroid plexus papiloma)、脈絡叢癌、神経節細胞腫、神経節膠腫、神経細胞腫、神経上皮腫瘍、神経芽細胞腫、松果体部腫瘍(松果体細胞腫、松果体芽細胞腫、又は混合型松果体細胞腫/松果体芽細胞腫(pineobastoma)など)、髄上皮腫、髄芽腫、神経芽細胞腫又は神経節芽細胞腫、網膜芽細胞腫、又は上衣芽細胞腫であり得る。癌は、中枢神経系新生物、例えば、トルコ鞍部腫瘍(下垂体腺腫、下垂体癌、又は頭蓋咽頭腫など)、造血器腫瘍(原発性悪性リンパ腫、形質細胞腫、又は顆粒球性肉腫など)、胚細胞腫瘍(胚細胞腫、胚性癌腫、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、奇形腫又は混合型胚細胞腫瘍など)、髄膜腫、間葉系腫瘍、黒色細胞腫、又は頭蓋若しくは脊髄神経腫瘍(シュワン腫、又は神経線維腫など)であり得る。癌は、低悪性度神経膠腫(例えば、上衣腫、星状細胞腫、乏突起膠腫又は混合性神経膠腫)又は高悪性度(悪性)神経膠腫(例えば多形性膠芽腫)であり得る。癌は、原発性又は転移性脳腫瘍であり得る。条件的活性型ポリペプチド、又は条件的活性型ポリペプチドから操作された生成物は、医薬組成物中に使用し得る。一部の好適な医薬組成物が、米国特許第8,709,755 B2号明細書に記載されている。
【0366】
医薬組成物は、癌腫、芽細胞腫、及び肉腫、及びある種の白血病又はリンパ性悪性腫瘍、良性及び悪性腫瘍、及び悪性病変、例えば、肉腫、癌腫、及び黒色腫を含めた、各種の癌の治療に用いることができる。癌は、非固形腫瘍(血液腫瘍など)又は固形腫瘍であり得る。成人腫瘍/癌及び小児腫瘍/癌もまた含まれる。
【0367】
血液癌は、血液又は骨髄の癌である。血液癌(又は血行性癌)の例としては、白血病、例えば、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄球性白血病、急性骨髄性白血病並びに骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性及び赤白血病など)、慢性白血病(慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病、及び慢性リンパ性白血病など)、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無痛性型及び高悪性度型)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、ヘアリー細胞白血病及び骨髄形成異常が挙げられる。
【0368】
固形腫瘍は、通常は嚢胞又は液体領域を含まない異常な組織塊である。固形腫瘍は良性又は悪性であり得る。固形腫瘍の異なるタイプは、それを形成する細胞のタイプにちなんで命名される(肉腫、癌腫、及びリンパ腫など)。治療し得る固形腫瘍の例としては、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、及び他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、リンパ性悪性腫瘍、膵癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、褐色細胞腫、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、セミノーマ、膀胱癌、黒色腫、及びCNS腫瘍(神経膠腫(脳幹神経膠腫及び混合性神経膠腫など)、膠芽腫(多形性膠芽腫としても知られる)、星状細胞腫、CNSリンパ腫、胚細胞腫、髄芽腫、シュワン腫、頭蓋咽頭腫(craniopharyogioma)、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫(menangioma)、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫及び脳転移など)を含めた肉腫及び癌腫が挙げられる。
【0369】
条件的活性型ポリペプチド、又は条件的活性型ポリペプチドから操作された生成物を含む医薬組成物は、公知の医薬組成物調製方法によって製剤化することができる。かかる方法において、条件的活性型ポリペプチドは、典型的には、薬学的に許容可能な担体を含有する混合物、溶液又は組成物と組み合わされる。
【0370】
薬学的に許容可能な担体は、レシピエント患者によって忍容され得る材料である。滅菌リン酸緩衝生理食塩水は、薬学的に許容可能な担体の一例である。他の好適な薬学的に許容可能な担体が当業者に周知である(例えば、Gennaro(ed.),Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Company,19th ed.1995)を参照のこと)。製剤は、1つ以上の賦形剤、保存剤、可溶化剤、緩衝剤、バイアル表面上のタンパク質損失を防ぐアルブミン等をさらに含み得る。
【0371】
医薬組成物の形態、投与経路、投薬量及びレジメンは、必然的に、治療する病態、病気の重症度、患者の年齢、体重、及び性別等に依存する。これらの事項が、好適な医薬組成物を製剤化するため当業者によって考慮され得る。本発明の医薬組成物は、局所、経口、非経口、鼻腔内、静脈内、筋肉内、皮下又は眼内投与用などに製剤化され得る。
【0372】
好ましくは、医薬組成物は、注入可能な製剤用に薬学的に許容可能な媒体を含有する。このような媒体は、詳細には等張性滅菌生理食塩水(リン酸一ナトリウム又は二ナトリウム、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウム又はマグネシウムなど又はかかる塩の混合物)、又は例えば滅菌水又は生理食塩水を添加すると注射用溶液を再構成することが可能な、乾燥した、特にフリーズドライの組成物であってもよい。
【0373】
一部の実施形態において、組成物における液体の浸透圧を調整又は維持するため、時に「安定剤」として知られる等張化剤が存在する。タンパク質及び抗体などの大型の荷電生体分子と共に使用する場合、等張化剤は、アミノ酸側鎖の荷電基と相互作用して、それにより分子間及び分子内相互作用の可能性を低下させることができるため、「安定剤」と呼ばれることが多い。等張化剤は、重量基準で医薬組成物の0.1%~25%、好ましくは1~5%の任意の量で存在し得る。好ましい等張化剤としては、多価糖アルコール類、好ましくは三価又はそれより高級な糖アルコール類、例えば、グリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール及びマンニトールが挙げられる。
【0374】
追加の賦形剤には、以下:(1)増量剤、(2)溶解促進剤、(3)安定剤及び(4)及び変性又は容器壁への付着を防ぐ薬剤のうちの1つ以上として働くことのできる薬剤が含まれる。かかる賦形剤としては、多価糖アルコール類(上記に列挙される);アミノ酸、例えば、アラニン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、リジン、オルニチン、ロイシン、2-フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニン等;有機糖類又は糖アルコール類、例えば、スクロース、ラクトース、ラクチトール、トレハロース、スタキオース、マンノース、ソルボース、キシロース、リボース、リビトール、ミオイニシトーズ(myoinisitose)、ミオイニシトール(myoinisitol)、ガラクトース、ガラクチトール、グリセロール、シクリトール類(例えば、イノシトール)、ポリエチレングリコール;硫黄含有還元剤、例えば、尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α-モノチオグリセロール及びチオ硫酸ナトリウム;低分子量タンパク質、例えば、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン又は他の免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;単糖類(例えば、キシロース、マンノース、フルクトース、グルコース;二糖類(例えば、ラクトース、マルトース、スクロース);三糖類、例えば、ラフィノース;及び多糖類、例えば、デキストリン又はデキストランを挙げることができる。
【0375】
非イオン性界面活性剤又はデタージェント(「湿潤剤」としても知られる)を用いると、治療剤を可溶化する助けとなるとともに撹拌誘発性の凝集から治療用タンパク質を保護することができ、これはまた、活性治療用タンパク質又は抗体の変性を引き起こすことなく製剤を剪断表面応力に曝露することも可能にする。非イオン性界面活性剤は、約0.05mg/ml~約1.0mg/ml、好ましくは約0.07mg/ml~約0.2mg/mlの濃度範囲で存在し得る。
【0376】
好適な非イオン性界面活性剤としては、ポリソルベート類(20、40、60、65、80等)、ポロキサマー(polyoxamer)(184、188等)、PLURONIC(登録商標)ポリオール類、TRITON(登録商標)、ポリオキシエチレンソルビタンモノエーテル類(TWEEN(登録商標)-20、TWEEN(登録商標)-80等)、ラウロマクロゴール400、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、50及び60、モノステアリン酸グリセロール、スクロース脂肪酸エステル、メチルセルロース(methyl celluose)及びカルボキシメチルセルロースが挙げられる。使用し得るアニオン性デタージェントとしては、ラウリル硫酸ナトリウム、ジオクチル(dioctyle)スルホコハク酸ナトリウム及びジオクチルスルホン酸ナトリウムが挙げられる。カチオン性デタージェントとしては、塩化ベンザルコニウム又は塩化ベンゼトニウムが挙げられる。
【0377】
投与に用いる用量は、様々なパラメータに応じて、及び詳細には、用いる投与方法、関連する病理学、或いは所望の治療期間に応じて適合させることができる。医薬組成物を調製するには、有効量の条件的活性型ポリペプチド、又は条件的活性型ポリペプチドからさらに操作された生成物を薬学的に許容可能な担体又は水性媒体中に溶解し又は分散させ得る。
【0378】
注射用途に好適な医薬製剤としては、滅菌水溶液又は分散液;ゴマ油、ピーナッツ油又はプロピレングリコール水溶液などの担体;及び滅菌注射用溶液又は分散液の即時調合用の滅菌粉末が挙げられる。いずれの場合にも、製剤は無菌でなければならず、及び易注射針通過性が存在する程度に流動性でなければならない。製剤は製造及び保管条件下で安定していなければならず、及び細菌及び真菌などの微生物の汚染作用から保護されていなければならない。
【0379】
遊離塩基又は薬理学的に許容可能な塩としての条件的活性型ポリペプチドの溶液は、界面活性剤と好適に混合した水中に調製することができる。分散液はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びこれらの混合物中及び油中に調製することもできる。通常の保管及び使用条件下では、これらの調製物には、微生物の成長を防ぐ保存剤が含まれる。
【0380】
条件的活性型ポリペプチド及び条件的活性型ポリペプチドから操作された生成物は、塩形態の組成物に製剤化することができる。薬学的に許容可能な塩としては、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と共に形成される)及び、例えば塩酸又はリン酸などの無機酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸と共に形成されるものが挙げられる。遊離カルボキシル基と共に形成される塩はまた、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、又は水酸化第二鉄などの無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基からも誘導することができる。
【0381】
担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、これらの好適な混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒であってもよい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用、分散液の場合には必要な粒度の維持、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物作用の防止は、様々な抗細菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば糖又は塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物中に使用することによってもたらし得る。
【0382】
滅菌注射用溶液は、適切な溶媒中に必要な量の条件的活性型ポリペプチドを、必要に応じて上記に列挙される他の成分のうちの1つ以上と共に配合し、続いてろ過滅菌することにより調製される。概して、分散液は、基礎分散媒及び上記に列挙されるものからの他の必要な成分を含有する滅菌媒体中に様々な滅菌活性成分を配合することにより調製される。滅菌注射用溶液の調製用の滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、予め滅菌ろ過されたその溶液から活性成分+任意の追加の所望の成分の粉末を得る真空乾燥及び凍結乾燥技法である。
【0383】
直接の注射用のより高濃度の又は高度に濃縮された溶液の調製もまた企図され、ここでは溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を使用することにより、極めて急速な透過がもたらされ、小さい腫瘍範囲に高濃度の活性薬剤が送達されることが想定される。
【0384】
製剤化されると、溶液は、投薬製剤と適合性のある形で、且つ治療上有効であるような量で投与され得る。製剤は、上記に記載した注射用溶液のタイプなど、種々の剤形で容易に投与されるが、薬物放出カプセルなどもまた用いることができる。
【0385】
水溶液中での非経口投与について、例えば、溶液は必要に応じて好適に緩衝されなければならず、及び初めに希釈液が十分な生理食塩水又はグルコースで等張性にされる。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に特に好適である。これに関連して、利用し得る滅菌水性媒体は、本開示を踏まえて当業者には公知であり得る。例えば、ある投薬量が1mlの等張性NaCl溶液に溶解され、及び1000mlの皮下点滴液に添加されるか、又は提案される注入部位に注射されるかのいずれかであり得る(例えば、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”15th Edition,pages 1035-1038 and 1570-1580を参照)。治療下の対象の病態に応じて投薬量の幾らかの変動は必然的に起こり得る。いずれにしろ、投与責任者が個々の対象に適切な用量を決定することになる。
【0386】
条件的活性型ポリペプチド及び条件的活性型ポリペプチドから操作された生成物は、用量当たり約0.0001~10.0ミリグラム、又は約0.001~5ミリグラム、又は約0.001~1ミリグラム、又は約0.001~0.1ミリグラム、又は約0.1~1.0又はさらには約10ミリグラムを送達するように治療用混合物中に製剤化し得る。複数回用量もまた、選択された時間間隔で投与し得る。
【0387】
静脈内又は筋肉内注射など、非経口投与用に製剤化される化合物に加えて、他の薬学的に許容可能な形態としては、例えば錠剤又は他の経口投与用固体;時間放出カプセル;及び現在用いられている任意の他の形態が挙げられる。
【0388】
特定の実施形態において、条件的活性型ポリペプチド、又は条件的活性型ポリペプチドからさらに操作された生成物を宿主細胞に導入するための、リポソーム及び/又はナノ粒子の使用が企図される。リポソーム及び/又はナノ粒子の形成及び使用は当業者に公知である。
【0389】
ナノカプセルは、概して化合物を安定した且つ再現可能な方法で捕捉し得る。細胞内ポリマーの過負荷に起因する副作用を回避するため、かかる超微粒子(約0.1μmのサイズ)は概してインビボで分解可能なポリマーを使用して設計される。このような要件に合致する生分解性ポリアルキルシアノアクリレートナノ粒子が、本発明における使用に企図される。
【0390】
リポソームは、水性媒体中に分散させると自然に多重膜の同心状二重層小胞(多層小胞(MLV)とも称される)を形成するリン脂質から形成される。MLVは、概して25nm~4μmの直径を有する。MLVを音波処理すると、コアに水溶液を含有する200~500Åの範囲の直径の小さい単層小胞(SUV)が形成される。リポソームの物理特性は、pH、イオン強度及び二価カチオンの存在に依存する。
【0391】
本明細書に記載されるとおりの条件的活性型ポリペプチド、又は条件的活性型ポリペプチドから操作された生成物を含有する医薬製剤は、1つ以上の任意選択の薬学的に許容可能な担体(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980))と混合することにより、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で調製される。薬学的に許容可能な担体としては、限定はされないが、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンを含めた抗酸化剤;保存剤(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン類;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、及びその他の、グルコース、マンノース、又はデキストリン類を含めた炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体);及び/又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0392】
本明細書における例示的な薬学的に許容可能な担体としては、間質液(insterstitial)薬物分散剤、例えば可溶性中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えば、ヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えばrHuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International,Inc.)がさらに挙げられる。rHuPH20を含め、特定の例示的なsHASEGP及び使用方法については、米国特許出願公開第2005/0260186号明細書及び同第2006/0104968号明細書に記載されている。一態様において、sHASEGPはコンドロイチナーゼなどの1つ以上の追加のグリコサミノグリカナーゼと組み合わされる。
【0393】
例示的凍結乾燥抗体製剤が、米国特許第6,267,958号明細書に記載されている水性抗体製剤としては、米国特許第6,171,586号明細書及び国際公開第2006/044908号パンフレットに記載されるものが挙げられ、後者の製剤は酢酸ヒスチジン緩衝液を含む。
【0394】
本明細書における製剤はまた、治療下の詳細な適応の必要に応じて2つ以上の活性成分も含有し得る。好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない補完的活性を有する成分が単一の製剤中に組み合わされ得る。例えば、本発明の条件的活性型抗体、抗体フラグメント又はイムノコンジュゲートに加え、EGFRアンタゴニスト(エルロチニブなど)、抗血管新生剤(抗VEGF抗体であってもよいVEGFアンタゴニストなど)又は化学療法剤(タキソイド又は白金剤など)を提供することが望ましい場合もある。かかる活性成分は、使用目的に有効な量で組み合わせで好適に存在する。
【0395】
活性成分は、例えばコアセルベーション技法によるか、又は界面重合によって調製されたマイクロカプセルに封入されてもよい。例えば、コロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)中又はマクロエマルション中のそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ(メチルメタクリレート)(poly-(methylmethacylate))マイクロカプセルを利用し得る。かかる技法は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に開示されている。
【0396】
徐放製剤もまた調製し得る。徐放製剤の好適な例としては、抗体又は抗体フラグメントを含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスであって、付形された物品、例えばフィルム、又はマイクロカプセルの形態であってもよいマトリックスが挙げられる。
【0397】
一部の実施形態において、条件的活性型ポリペプチド、又は条件的活性型ポリペプチドから操作された生成物を使用して、記載される障害の治療、予防及び/又は診断に有用な材料を含有する製品を作製し得る。この製品は、容器と、容器上にある又は容器に関連付けられたラベル又は添付文書とを含む。好適な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグ等が挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチックなど、種々の材料で形成され得る。容器は、単独で又は別の組成物との組み合わせで病態の治療、予防及び/又は診断に有効な組成物を保持し、滅菌アクセスポートを有し得る(例えば容器は、皮下注射針で貫通可能な栓を有する静脈注射用溶液バッグ又はバイアルであってもよい)。組成物中の少なくとも1つの活性薬剤は、本発明の条件的活性型ポリペプチド、又は条件的活性型ポリペプチドからさらに操作された生成物である。ラベル又は添付文書は、その組成物が選択の病態の治療に用いられるものであることを指示する。さらに、製品は、(a)中に組成物が入った第1の容器(ここで組成物は条件的活性型ポリペプチド、又は条件的活性型ポリペプチドから操作された生成物を含む);及び(b)中に組成物が入った第2の容器(ここで組成物はさらなる細胞傷害性又はその他の治療剤を含む)を含み得る。本発明のこの実施形態における製品は、その組成物を特定の病態の治療に使用し得ることを指示する添付文書をさらに含み得る。それに代えて、又は加えて、本製品は、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液及びデキストロース溶液などの薬学的に許容可能な緩衝液を含む第2の(又は第3の)容器をさらに含み得る。さらに製品は、他の緩衝液、希釈剤、フィルタ、針、及びシリンジを含め、商業的な及び使用者の観点から望ましい他の材料を含み得る。
【0398】
本製品は、任意選択で、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内(intrarticular)、気管支内、腹腔内、嚢内、軟骨内、洞内、腔内、小脳内(intracelebellar)、脳室内、結腸内、頸管内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸膜内、前立腺内、肺内、直腸内、腎臓内、網膜内、脊髄内、滑液嚢内、胸腔内、子宮内、膀胱内、ボーラス、腟、直腸、頬側、舌下、鼻腔内、又は経皮送達装置又はシステムの構成要素としての容器を含み得る。
【0399】
条件的活性型ポリペプチド、又は条件的活性型ポリペプチドから操作された生成物は医療器具に含まれてもよく、ここで器具は、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内(intrarticular)、気管支内、腹腔内、嚢内、軟骨内、洞内、腔内、小脳内(intracelebellar)、脳室内、結腸内、頸管内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸膜内、前立腺内、肺内、直腸内、腎臓内、網膜内、脊髄内、滑液嚢内、胸腔内、子宮内、膀胱内、ボーラス、腟、直腸、頬側、舌下、鼻腔内、又は経皮から選択される少なくとも1つの方法によって条件的活性型ポリペプチド、又は条件的活性型ポリペプチドからさらに操作された生成物を接触させる又は投与するのに好適である。
【0400】
一部のさらなる実施形態において、条件的活性型ポリペプチド、又は条件的活性型ポリペプチドから操作された生成物は、キットにおいて第1の容器に凍結乾燥形態で含まれてもよく、及び任意選択の第2の容器が、滅菌水、滅菌緩衝用水、又は水性希釈剤中の少なくとも1つの保存剤であって、フェノール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-クレゾール、クロロクレゾール、ベンジルアルコール、亜硝酸フェニル水銀、フェノキシエタノール、ホルムアルデヒド、クロロブタノール、塩化マグネシウム、アルキルパラベン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム及びチメロサール、又はこれらの混合物からなる群から選択されるものを含む。一態様において、このキットにおいては、第1の容器内の条件的活性型ポリペプチド、又は条件的活性型ポリペプチドから操作された生成物の濃縮物が第2の容器の内容物で約0.1mg/ml~約500mg/mlの濃度で再構成される。別の態様において、第2の容器には等張化剤がさらに含まれる。別の態様において、第2の容器には生理学的に許容可能な緩衝液がさらに含まれる。一態様において、本開示は、親タンパク質が媒介する少なくとも1つの病態を治療する方法であって、それを必要としている患者に、キットに提供され且つ投与前に再構成される製剤を投与する工程を含む方法を提供する。
【0401】
以下の実施例は本開示の例示であり、限定ではない。当業者には明らかな、現場で通常直面する種々の条件及びパラメータの他の好適な変更及び適合が、本開示の範囲内にある。
【実施例0402】
条件的活性型ポリペプチドの作製に関する実施例1~5は、米国特許第8,709,755 B2号明細書(本明細書によって参照により本明細書に援用される)に記載されている。
【0403】
実施例6:抗体の軽鎖又は重鎖を進化させる
抗体F1-10F10の重鎖及び軽鎖をCPEを用いて別個に進化させた。軽鎖変異体をスクリーニングすると、条件的活性を有する26個の軽鎖変異体が見付かり、この場合、変異体は、pH6.0では野生型と比べて活性がより高く、且つ変異体はpH7.4で野生型と比べて活性が低かった。26個の軽鎖変異体は、軽鎖の8つの異なる位置にその突然変異を有した。それらの8つの位置のうちの3つは、26個の軽鎖変異体のうちの6個以上に見られた。これらの3つの位置を、軽鎖におけるホットスポットと見なした。重鎖変異体をスクリーニングすると、条件的活性を有する28個の重鎖変異体が見付かった。これらの28個の重鎖変異体は、重鎖の8つの異なる位置にその突然変異を有した。それらの8つの位置のうちの3つは、28個の重鎖変異体のうちの6個以上に見られた。これらの3つの位置を、重鎖におけるホットスポットと見なした。軽鎖変異体及び重鎖変異体の条件的活性は、ELISA分析によって確認した。
【0404】
この例で生成された最良の条件的活性型抗体は、pH7.4でのその活性に対するpH6.0でのその活性が17倍の差であった。加えて、条件的活性型抗体の多くが、7.4の正常生理的pHと6.0の異常pHとの間のpHで可逆の活性を有した。興味深いことに、ELISA分析によって5.0~7.4のpH範囲で条件的活性型抗体の活性を試験したとき、この例で生成された条件的活性型抗体のほとんどが約5.5~6.5のpHで最適な結合活性を呈した。
【0405】
この例で生成された条件的活性型抗体の活性はまた、全細胞を使用したFACS(蛍光活性化細胞選別)分析によっても確認し、ここではCHO細胞を使用して、pH6.0及びpH7.4で抗体の抗原を発現させた。条件的活性型抗体をCHO細胞に加えることにより、結合活性を計測した。FACS分析により、pH7.4と比べたpH6.0での条件的活性型抗体の選択性に関するELISA分析の結果に一般的な傾向が確認された。
【0406】
実施例7:特殊緩衝液中における条件的活性型抗体の選択
本発明における進化させる工程によって生成した変異体抗体を、7.4の正常生理的pHでの分析及び6.0の異常なpHでの分析に供した。両方の分析とも、ヒト血清に見られる重炭酸塩を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液を使用して実施した。溶液中の重炭酸塩の濃度は、ヒト血清中の典型的な重炭酸塩濃度、すなわち生理的濃度であった。重炭酸塩を含有しない同じPBS溶液を使用して、比較試験を行った。
【0407】
この例における変異抗体又は条件的活性型抗体の結合活性を計測するアッセイはELISAアッセイであり、これは以下のとおり実施した:
1.ELISA前日:PBSで1ug/mlの100ulの抗体Ab-A ECD hisタグ(2.08mg/ml)抗原によってウェルをコーティングした。
3.抗体Ab-A-His抗原でコーティングした96ウェルプレートから緩衝溶液を振り払い、ペーパータオルで拭き取って乾燥させた。
4.プレートを緩衝液N又はPBSで3回洗浄した、
5.プレートを200ulの指定緩衝液によって室温で1時間ブロックした、
6.選択されたCPE/CPS変異体及び野生型タンパク質をレイアウトに従い指定緩衝溶液中に75ng/mlに希釈した。緩衝溶液のpHは6.0又は7.4のいずれかに設定した(以下、「当該指定緩衝溶液」)、
6.緩衝液を振り払い、100ulの75ng/ml試料をプレートレイアウトに従い各ウェルに加えた、
7.プレートを室温で1時間インキュベートした、
8.96ウェルプレートから緩衝液を振り払い、ペーパータオルで拭き取った、
9.プレートをレイアウトに従い200ulの指定緩衝溶液で合計3回洗浄した、
10.抗Flag HRPを指定緩衝溶液中に1:5000希釈で調製し、レイアウトに従い各ウェルに100ulの抗Flagセイヨウワサビ過酸化物(HRP)を加えた、
11.プレートを室温で1時間インキュベートした、
13.プレートを200ulの指定緩衝溶液で合計3回洗浄した、
14.プレートを50ulの3,3’,5,5;-テトラメチルベンジジン(TMB)で1.5分間発色させた。
【0408】
重炭酸塩を含有するPBS緩衝溶液における分析は、条件的活性型抗体の選択に関して有意に高い成功率をもたらしたことが分かった。加えて、重炭酸塩を含有するPBS緩衝溶液を使用して選択された条件的活性型抗体は、pH7.4での活性に対するpH6.0でのその活性の比がはるかに高い傾向があり、従って有意に高い選択性をもたらした。
【0409】
さらに、選択された条件的活性型抗体(重炭酸塩を含むPBS緩衝溶液を使用)を、重炭酸塩を含まないPBS緩衝溶液中で試験したとき、pH7.0と比べたpH6.0での条件的活性型抗体の選択性は有意に低下したことが確認された。しかしながら、このPBS緩衝溶液に生理的量の重炭酸塩を添加すると、同じ条件的活性型抗体の選択性が回復した。
【0410】
別の分析において、選択された条件的活性型抗体を、重炭酸塩を添加したクレブス緩衝溶液で試験した。pH7.4での活性に対するpH6.0での活性のより高い比が、重炭酸塩を添加したこのクレブス緩衝溶液においても観察された。これは、少なくとも部分的には、クレブス緩衝溶液中の重炭酸塩の存在に起因した可能性があるものと思われる。
【0411】
PBS緩衝溶液中で重炭酸塩濃度をその生理的濃度未満の濃度に低下させると、7.4の正常な生理的pHにおける条件的活性型抗体の活性が増加したことが観察された。pH7.4での条件的活性型抗体の活性の増加は、PBS緩衝溶液中の重炭酸塩濃度の低下に関係することが観察された。
【0412】
野生型抗体は、pH7.4で分析したとき、条件的活性型抗体について試験したPBS緩衝溶液中の同じ重炭酸塩濃度のいずれにおいてもその活性が同じままであったため、PBS緩衝溶液中の重炭酸塩量の違いによる影響は受けなかった。
【0413】
実施例8:異なる緩衝液における条件的活性型抗体の選択
本発明に係る進化させる工程によって生成した変異体抗体を、正常な生理的pH(7.4)でのELISA分析及び異常なpH(6.0)でのELISA分析に供した。いずれのELISA分析も、ウシ血清アルブミン(BSA)含有クレブス緩衝液ベースの緩衝液、並びに重炭酸塩及びBSA含有PBS緩衝液ベースの緩衝液を含む種々の緩衝液を使用して実施した。
【0414】
ELISAアッセイは以下のとおり実施した:
1.ELISA前日:コーティング緩衝液(炭酸塩-重炭酸塩緩衝液)で1ug/mlの100ulの抗体Ab-A ECD hisタグ(2.08mg/ml)抗原によってウェルをコーティングした。
2.抗体Ab-A-His抗原でコーティングした96ウェルプレートから緩衝溶液を振り払い、ペーパータオルで拭き取って乾燥させた。
3.プレートを200ulの20種の緩衝液で3回洗浄した。
4.プレートを200ulの20種の緩衝液によって室温で1時間ブロックした。
5.変異体及びキメラをレイアウトに従い20種の緩衝液中75ng/mlに希釈した。
6.緩衝液を振り払い、100ulの希釈試料をプレートレイアウトに従い各ウェルに加えた。
7.プレートを室温で1時間インキュベートした。
8.96ウェルプレートから緩衝液を振り払い、ペーパータオルを使用してプレートを拭き取って乾燥させた。
9.プレートを200ulの20種の緩衝液で合計3回洗浄した。
10.抗flag IgG HRPを20種の緩衝液中に1:5000希釈で調製した。各ウェルに100μlの抗flag IgG HRP溶液を加えた。
11.プレートを室温で1時間インキュベートした。
12.プレートを200ulの20種の緩衝液で合計3回洗浄した。
13.プレートを50ul 3,3’,5,5;-テトラメチルベンジジンで30秒間発色させた。
【0415】
重炭酸塩含有PBS緩衝溶液中での分析を用いて選択された条件的活性型抗体は、重炭酸塩を含まないPBS緩衝溶液中での分析を用いて選択されたものとの比較において、pH7.4での活性に対するpH6.0での活性の比がはるかに高かった。加えて、重炭酸塩が添加されたクレブス緩衝溶液も、重炭酸塩を含まないPBS緩衝溶液中での分析と比較したとき、pH7.4での活性に対するpH6.0での活性の比がより高かった。望ましい条件的活性型抗体の選択に重炭酸塩が重要であるものと思われる。
【0416】
実施例9:種々の緩衝液中における条件的活性型抗体の選択
この例では、pH6.0で野生型抗体よりも活性が高く、且つpH7.4で野生型抗体よりも活性が低い、ある抗原に対する条件的活性型抗体をスクリーニングした。スクリーニング工程は以下の表2及び表3の緩衝液を使用して実施した。表2の緩衝液はクレブス緩衝液をベースとし、表2の第1列に示されるとおりの追加的な構成成分を加えたものであった。
【0417】
【0418】
追加的な構成成分を含むPBS緩衝液をベースとする一部のアッセイ緩衝液を以下の表3に示した。表2及び表3の緩衝液中の構成成分は1リットルの緩衝液中に加えられたグラム単位の量で提供されることに留意されたい。しかしヒト血清の濃度は緩衝液の10wt.%である。
【0419】
【0420】
これらのアッセイ緩衝液によるELISAアッセイを用いてスクリーニングを実施した。ELISAアッセイは実施例7~8に記載されるとおり実施した。10種のアッセイ緩衝液の各々に対して選択された条件的活性型抗体を以下の表4に示した。OD 450吸光度はELISAアッセイの結合活性と逆相関する。
【0421】
【0422】
緩衝液8及び9を用いて、選択された条件的活性型抗体の一部の選択性を確認し、
図1に示すとおり、それらがpH7.4と比べてpH6.0で実に所望の選択性を有することが分かった。異なる緩衝液を用いると、条件的活性型抗体の選択性に影響が及んだことに留意されたい。
【0423】
実施例10:種々の緩衝液中における条件的活性型抗体の活性
それぞれ2つのモノクローナル抗体(親抗体としてのmAb 048-01及びmAb 048-02)から進化させた条件的活性型抗体の活性を2つの異なる緩衝液で計測した(
図2)。これらの2つの緩衝液はリン酸緩衝液(条件IV)及びクレブス緩衝液(条件I)であった。mAb 048-01からは6つの条件的活性型抗体:CAB Hit 048-01、CAB Hit 048-02、CAB Hit 048-03、CAB Hit 048-04、CAB Hit 048-05、及びCAB Hit 048-06を進化させた。mAb 048-02からは3つの条件的活性型抗体:CAB Hit 048-07、CAB Hit 048-08、及びCAB Hit 048-09を進化させた。
【0424】
この試験から、条件的活性型抗体の選択性(pH6.0におけるアッセイの活性の、pH/7.4におけるアッセイの活性に対する比)がアッセイに使用した緩衝液の影響を受けたことが示された。野生型mAb 048-02から進化させた条件的活性型抗体は、リン酸緩衝液と比べてクレブス緩衝液中で有意に高い選択性を示した(
図2)。
【0425】
実施例11:条件的活性型抗体の選択性及び重炭酸塩
実施例10では、リン酸緩衝液中(条件IV)よりもクレブス緩衝液中(条件I)で条件的活性型抗体のより高い選択性が観察された。このことから、実施例10で観察されたこのより高い選択性に最も大きい寄与をなしたクレブス緩衝液中の構成成分を同定することになった。クレブス緩衝液から様々な構成成分を一つずつ抜いて得られる緩衝液中で1つの条件的活性型抗体の選択性を再試験した(
図3、左側のバー群)。完全なクレブス緩衝液を使用したとき、条件的活性型抗体の選択性は高く、約8のpH6.0/7.4活性比である。構成成分A~Fを各々クレブス緩衝液から抜いたとき、条件的活性型抗体の選択性が失われることはなかったが、構成成分C及びDの各々を抜いたとき条件的活性型抗体は選択性が低くなった。しかしながら、クレブス緩衝液から構成成分G(重炭酸塩)を抜いたとき、条件的活性型抗体の選択性は完全に失われた。
図3を参照。これは、重炭酸塩がクレブス緩衝液中における条件的活性型抗体の高い選択性に少なくとも部分的に(partically)関与していることを示している。
【0426】
次に、重炭酸塩を有しないリン酸緩衝液中(条件IV)で同じ条件的活性型抗体の選択性を計測し、リン酸緩衝液中では条件的活性型抗体の選択性が完全に失われたことが観察された。リン酸緩衝液に重炭酸塩を添加すると、条件的活性型抗体の選択性はクレブス緩衝液で観察されるレベルに回復した。これにより、この条件的活性型抗体の選択性には重炭酸塩が必要であることが確認された。
【0427】
実施例12:重炭酸塩はpH7.4における結合を抑制する
本例では、3つの条件的活性型抗体(CAB Hit A、CAB Hit B、及びCAB Hit C)について、0~生理的重炭酸塩濃度(約20mM、
図4)の範囲の異なる濃度の重炭酸塩を有する緩衝液中でpH7.4における結合活性を計測した。重炭酸塩の濃度が0から生理的濃度に増加するに従い、pH7.4における3つ全ての条件的活性型抗体の結合活性が用量依存的に低下したことが観察された(
図4)。他方で、野生型抗体の結合活性は重炭酸塩の影響を受けなかった。この試験から、重炭酸塩の存在下での条件的活性型抗体の選択性が、少なくとも一部には、重炭酸塩との相互作用に起因する条件的活性型抗体のpH7.4における結合活性の喪失による可能性が高いことが示された。
【0428】
実施例13:種々の緩衝液中における条件的活性型抗体のROR2に対する活性
重炭酸ナトリウムを含有するアッセイ溶液を用いて選択した(実施例9に記載されるとおり)ROR2に対する条件的活性型抗体を種々の緩衝液で試験した:CAB-Pは、6.0又は7.4のpHで使用した標準リン酸生理食塩緩衝液(PBS緩衝液)であった;CAB-PSBは、15mMの重炭酸ナトリウムを補足したpH6.0又は7.4のPBS緩衝液であった;及びCAB-PSSは、10mMの硫化ナトリウム九水和物を補足したpH6.0又は7.4のPBS緩衝液であった。
【0429】
これらの条件的活性型抗体の活性は、以下のELISAプロトコルに従い計測した:
1.ELISA前日:プレートを4℃のPBS中100ulの1ug/ml抗原によって一晩コーティングする。
2.プレートをプレートレイアウトに従い200ulのCAB-P、CAB-PSB、又はCAB-PSS緩衝液で2回洗浄する。
3.プレートをプレートレイアウト(palte layout)に従い200ulのCAB-P、CAB-PSB、又はCAB-PSS緩衝液によって室温で1時間ブロックする。
4.抗体試料及び陽性対照をプレートレイアウトに指示されるとおりCAB-P、CAB-PSB、又はCAB-PSS緩衝液に希釈する。
5.96ウェルプレートからブロッキング緩衝液を振り払い、ペーパータオルで拭き取って乾燥させる。
6.プレートレイアウトに従い100ulの希釈抗体試料、陽性対照又は陰性対照を各ウェルに加える。
6.プレートを室温で1時間インキュベートする。
7.プレートレイアウト(palte layout)に従いCAB-P、CAB-PSB、又はCAB-PSS緩衝液中に二次抗体を調製する。
8.96ウェルプレートから緩衝液を振り払い、ペーパータオルで拭き取って乾燥させる。
9.プレートをプレートレイアウトに従い200ulのCAB-P、CAB-PSB、又はCAB-PSS緩衝液によって合計3回洗浄する。
10.プレートレイアウトに従いCAB-P、CAB-PSB、又はCAB-PSS緩衝液中の希釈二次抗体を各ウェルに加える。
11.プレートを室温で1時間インキュベートする。
12.96ウェルプレートから緩衝液を振り払い、ペーパータオルで拭き取って乾燥させる。
13.プレートをCAB-P、CAB-PSB、又はCAB-PSS緩衝液によって合計3回洗浄する。
14.3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質を室温に至らせる。
15.プレートから緩衝液を振り払い、ペーパータオルで拭き取って乾燥させる。
16.50ulのTMB基質を加える。
17.50ul 1N HClで発色を停止させる。発色時間は3分であった。
18.プレートリーダーを使用してOD450nmで読み取る。
【0430】
ROR2に対するこれらの条件的活性型抗体の活性を
図7に示す。条件的活性型抗体は、CAB-PSB緩衝液中でpH7.4よりもpH6.0において高い活性、即ちpH7.4と比べたpH6.0における選択性を示した。この選択性は幾つかの条件的活性型抗体についてCAB-P緩衝液中で失われ、又は大幅に低下した。しかしこの選択性はまた、CAB-PSS緩衝液中でもpH7.4と比べてpH6.0で観察された。逆に、野生型抗体はいずれの緩衝液でも比較的最小限の選択性を示したか、又は選択性を示さなかった。
【0431】
本例は、試験した条件的活性型抗体のROR2に対する条件的結合の媒介に関して二硫化物が重炭酸塩と同様の機能を有することを実証している。
【0432】
実施例14:種々の緩衝液中における条件的活性型抗体のAxlに対する活性
重炭酸ナトリウムを含有するアッセイ溶液を用いて選択した(実施例9に記載されるとおり)Axlに対する条件的活性型抗体を種々の緩衝液:CAB-P、CAB-PSB、及びCAB-PSS(実施例13に記載されるとおり)で試験した。これらの条件的活性型抗体のAxlに対する活性を、実施例13に記載されるものと同じELISAプロトコルを用いて計測した。これは
図8に示す。条件的活性型抗体は、CAB-PSB緩衝液中でpH7.4よりもpH6.0において高い活性、即ちpH7.4と比べたpH6.0における選択性を示した。この選択性はこれらの条件的活性型抗体についてCAB-P緩衝液中で失われ、又は大幅に低下した。選択性はまた、CAB-PSS緩衝液中でもpH7.4と比べてpH6.0で観察された。逆に、野生型抗体はいずれの緩衝液でも本質的に選択性を示さなかった。
【0433】
本例もまた、試験した条件的活性型抗体のAxlに対する条件的結合の媒介に関して二硫化物が重炭酸塩と同様の機能を有したことを実証している。
【0434】
実施例15:二硫化物イオンを含むアッセイ溶液中におけるAxlに対する条件的活性型抗体の生成
この例で使用したアッセイ溶液は以下のとおり作製した:
CAB-PSB緩衝液pH6.0(1%BSA含有)
1.15mMの最終濃度である1.26g/L重炭酸ナトリウム(Sigma S5761)をPBS-Cellgroに添加する
2.BSAを1%の最終濃度(1リットル中)となるように添加する(MP、カタログ番号0218054991)
3.撹拌1N HClを使用してpHを6.0に調整する
4.4℃で保存する。使用前にpHを再度確認する。必要に応じてpHを1N HClで調整する
CAB-PSB緩衝液pH7.4(1%BSA含有)
1.15mMの最終濃度である1.26g/L重炭酸ナトリウム(Sigma S5761)をPBS-Cellgroに添加する
2.BSAを1%の最終濃度(1リットル中)となるように添加する(MP、カタログ番号0218054991)
3.撹拌1N HClを使用してpHを7.4に調整する
4.4℃で保存する。使用前にpHを再度確認する。必要に応じてpHを1N HClで調整する
10mMの二硫化物を含むCAB-PSS緩衝液pH6.0(1%BSA含有)
1.10mMの最終濃度である2.4g/L硫化ナトリウム九水和物(Na2S・9H2O)(ACROS、番号424425000)をPBS-Cellgroに添加する
2.BSAを1%の最終濃度(1リットル中)となるように添加する(MP、カタログ番号0218054991)
3.撹拌1N HClを使用してpHを6.0に調整する
4.4℃で保存する。使用前にpHを再度確認する。必要に応じてpHを1N HClで調整する
10mMの二硫化物を含むCAB-PSS緩衝液pH7.4(1%BSA含有)
1.10mMの最終濃度である2.4g/L硫化ナトリウム九水和物(Na2S・9H2O)(ACROS、番号424425000)をPBS-Cellgroに添加する
2.BSAを1%の最終濃度(1リットル中)となるように添加する(MP、カタログ番号0218054991)
3.撹拌1N HClを使用してpHを7.4に調整する
4.4℃で保存する。使用前にpHを再度確認する。必要に応じてpHを1N HClで調整する
1mMの二硫化物を含むCAB-PSS緩衝液pH6.0(1%BSA含有)
1.1/10倍希釈のBioAtla CAB-PSS緩衝液pH6.0(1%BSA含有)10M、これは1mMの最終濃度である
2.撹拌1N HClを使用してpHを6.0に調整する
3.4℃で保存する。使用前にpHを再度確認する。必要に応じてpHを1N HClで調整する
1mMの二硫化物を含むCAB-PSS緩衝液pH7.4(1%BSA含有)
1.1/10倍希釈のBioAtla CAB-PSS緩衝液pH7.4(1%BSA含有)10M、これは1mMの最終濃度である
2.撹拌1N HClを使用してpHを7.4に調整する
3.4℃で保存する。使用前にpHを再度確認する。必要に応じてpHを1N HClで調整する
CAB-P緩衝液pH6.0(1%BSA含有)
1.BSAを1%の最終濃度(1リットル中)となるようにPBS-Cellgroに添加する
2.撹拌1N HClを使用してpHを6.0に調整する
3.4℃で保存する。使用前にpHを再度確認する。必要に応じてpHを1N HClで調整する
CAB-P緩衝液pH7.4(1%BSA含有)
1.BSAを1%の最終濃度(1リットル中)となるようにPBS-Cellgroに添加する
2.撹拌1N HClを使用してpHを7.4に調整する
3.4℃で保存する。使用前にpHを再度確認する。必要に応じてpHを1N HClで調整する
【0435】
本発明の方法をAxlに対する野生型抗体に対して実施することにより、前出の実施例に記載されるものと同様のプロトコルを用いて変異抗体を作製した。10mM二硫化物イオンを含有するpH6.0又はpH7.4のアッセイ溶液を使用して変異抗体をアッセイし、条件的活性型抗体を選択した。選択された条件的活性型抗体(BAP063.1-CAB1-8)を
図9に示す。
【0436】
選択された条件的活性型抗体は、10mMの二硫化物濃度を有するアッセイでアッセイしたとき、Axlに対してpH7.4よりもpH6.0において高い結合活性を有した。しかしながら、僅か1mMの二硫化物濃度のアッセイ溶液では、選択された条件的活性型抗体の1つを除く全てについて、pH6.0とpH7.4との間の活性の差が大幅に小さくなった。
図9を参照。
【0437】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるとき、文脈上特に明確に指示されない限り、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」には複数形の参照が含まれることに留意しなければならない。さらに、用語「1つの(a)」(又は「1つの(an)」)、「1つ以上」、及び「少なくとも1つ」は、本明細書では同義的に用いられ得る。用語「~を含む(comprising)」、「~を含む(including)」、「~を有する(having)」、及び「~で構成される(constructed from)」も同義的に用いられ得る。
【0438】
特に指示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される、分子量、百分率、比、反応条件など、成分、特性の量を表す全ての数値は、全ての例において、用語「約」が存在するか否かに関わらず、用語「約」によって修飾されているものと理解されるべきである。従って、反する旨が示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲に示される数値パラメータは近似であり、本開示によって達成しようとする所望の特性に応じて変わり得る。最低限でも、且つ特許請求の範囲への均等論の適用を限定しようとすることなしに、各数値パラメータは、少なくとも、報告される有効桁の数字を踏まえて、且つ通常の丸め法を適用することによって解釈されなければならない。本開示の広い範囲を示す数値の範囲及びパラメータは近似であるにも関わらず、具体的な例に示される数値は可能な限り正確に報告される。しかしながら、いずれの数値も、そのそれぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的にもたらされる特定の誤差を本質的に含む。
【0439】
本明細書に開示される各成分、化合物、置換基又はパラメータは、単独での使用、又は本明細書に開示される他のあらゆる成分、化合物、置換基又はパラメータの1つ以上と組み合わせた使用について開示されるものと解釈されるべきであることが理解されなければならない。
【0440】
また、本明細書に開示される各成分、化合物、置換基又はパラメータの各量/値又は量/値の範囲は、本明細書に開示される任意の他の1つ又は複数の成分、1つ又は複数の化合物、1つ又は複数の置換基又は1つ又は複数のパラメータについて開示される各量/値又は量/値の範囲との組み合わせでも開示されるものと解釈されるべきであること、従って、本明細書に開示される2つ以上の成分、化合物、置換基又はパラメータの量/値又は量/値の範囲の任意の組み合わせも本記載の目的上、互いに組み合わせて開示されることも理解されなければならない。
【0441】
さらに、本明細書に開示される範囲の各々は、同じ有効桁数を有する開示される範囲内にある具体的な各値の開示として解釈されるべきであることが理解される。従って、1~4の範囲は、値1、2、3及び4の明示的な開示と解釈されるべきである。さらに、本明細書に開示される各範囲の各下限は、同じ成分、化合物、置換基又はパラメータについての本明細書に開示される各範囲の各上限及び各範囲内にある具体的な各値と組み合わせて開示されるものと解釈されるべきであることが理解される。従って、この開示は、各範囲の各下限を各範囲の各上限又は各範囲内の具体的な各値と組み合わせることによるか、又は各範囲の各上限を各範囲内の具体的な各値と組み合わせることによって得られる全ての範囲の開示と解釈されるべきである。
【0442】
さらに、説明又は例に開示される成分、化合物、置換基又はパラメータの具体的な量/値は、範囲下限又は上限のいずれかの開示として解釈されるべきであり、従って本出願の他の場所に開示される同じ成分、化合物、置換基若しくはパラメータの任意の他の範囲下限若しくは上限、又は具体的な量/値との組み合わせで、成分、化合物、置換基又はパラメータの範囲を形成することができる。
【0443】
本明細書で言及される文献は全て、本明細書によって全体として、又はそれらが具体的に頼りとされた開示を提供する代わりに参照により援用される。本出願人らは、開示されるいかなる実施形態も公衆に提供する意図はなく、及び任意の開示される変形例又は代替例が字義的に特許請求の範囲に含まれないこともあり得る程度まで、それらは均等論の下で本明細書の一部と見なされる。
【0444】
しかしながら、前述の説明に本発明の数値的な特徴及び利点が本発明の構造及び機能の詳細と共に示されているとしても、本開示は例示的なものに過ぎず、詳細、特に要素の形状、サイズ及び配置の点で、添付の特許請求の範囲を表現している用語の広義の一般的な意味によって示される最大限の範囲まで本発明の原理の範囲内で変更形態をなし得ることが理解されるべきである。
親抗体または抗原に結合する親抗体フラグメントから、条件依存的活性を有する抗体または抗原に結合する抗体フラグメントを製造する方法であって、前記条件依存的活性が、5.5から7.2の範囲内の第1のpHと、7.2から7.6の範囲内の第2のpHの両方に依存し、そのpHで活性が測定され、100a.m.u.未満の分子量および第1のpHから最大1pH単位離れたpKaを有する分子またはイオンの存在に依存し、前記方法が、
(i) 少なくとも1つのアミノ酸を変異させることにより、親抗体または親抗体フラグメントを進化させ、1つ以上の変異抗体または変異抗体フラグメントを作製すること、
(ii)1つ以上の変異抗体または変異抗体フラグメントを、分子またはイオンの存在下における第1のpHの下での1つ以上の変異抗体または変異抗体フラグメントの結合に関する第1のアッセイと、第2のpHの下で、対象内の環境における分子またはイオンの生理的濃度またはそれに近い濃度の同じ分子またはイオンの存在下での1つ以上の変異抗体または変異抗体フラグメントの結合に関する第2のアッセイに供すること、
(iii)1つ以上の変異抗体または抗体フラグメントを、分子またはイオンの非存在下における第1のpH下での1つ以上の変異抗体または変異抗体フラグメントの結合に関する第3のアッセイ、および分子またはイオンの非存在下における第2のpH下での1つ以上の変異抗体または変異抗体フラグメントの結合に関する第4のアッセイに供すること、
(iv)第1のアッセイにおける抗原に対する結合と第2のアッセイにおける抗原に対する結合の比が少なくとも3.0であり、第3のアッセイにおける抗原に対する結合と第4のアッセイにおける抗原に対する結合の比が3.0未満である変異抗体または変異抗体フラグメントを選択することにより、1つ以上の条件的活性型抗体または抗体フラグメントを得ること
を含み、
変異抗体または変異抗体フラグメントは、親抗体または親抗体フラグメントよりも荷電アミノ酸残基の割合が高い、方法。