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特開2024-20392特定の遺伝子のCPGメチル化変化を利用した肝癌診断用組成物およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020392
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】特定の遺伝子のCPGメチル化変化を利用した肝癌診断用組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20240206BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALI20240206BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20240206BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
C12Q1/6837 Z
C12Q1/6844 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023193944
(22)【出願日】2023-11-14
(62)【分割の表示】P 2022522772の分割
【原出願日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】10-2019-0127218
(32)【優先日】2019-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】515288362
【氏名又は名称】ジェンキュリクス インク
【氏名又は名称原語表記】GENCURIX INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョ、サン レ
(72)【発明者】
【氏名】ムン、ユン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ハン、チン イル
(57)【要約】      (修正有)
【課題】特定の遺伝子のCPGメチル化変化を利用した肝癌診断用組成物およびその使用を提供する。
【解決手段】本発明は、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを検出することにより肝癌を診断することができる組成物、キット、核酸チップおよび方法に関することであり、肝癌を正確かつ迅速に診断することができるだけでなく、早期に診断することもできる。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PAK1遺伝子のCpG部位メチル化レベルを測定するための製剤を含む肝癌診断用組成物。
【請求項2】
前記組成物が、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを測定する製剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記CpG部位が遺伝子の転写開始部位から+/-2000塩基(2kb)の間に位置することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを測定するための製剤が、非メチル化サイトシンまたはメチル化サイトシン塩基を変形させる化合物;前記遺伝子のCpG部位のメチル化された配列に特異的なプライマー;及び、非メチル化配列に特異的なプライマーからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のうち何れか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記非メチル化サイトシン塩基を変形させる化合物はビサルファイト(bisulfite)又はその塩であり、及び、前記メチル化サイトシン塩基を変形させる化合物はTetタンパク質であることを特徴とする、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
PAK1遺伝子のCpG部位を含む断片を増幅するためのプライマー対を含む、肝癌診断用キット。
【請求項7】
前記キットが、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位を含む断片を増幅するためのプライマー対をさらに含む、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
PAK1遺伝子のCpG部位を含む断片とハイブリダイゼーションができるプローブが固定されている、肝癌診断用核酸チップ。
【請求項9】
前記拡散チップが、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位を含む断片とハイブリダイゼーションができるプローブがさらに固定されている、請求項8に記載の肝癌診断用核酸チップ。
【請求項10】
肝癌診断用製剤を調製するためのPAK1遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを測定する製剤の使用。
【請求項11】
前記CpG部位のメチル化レベルを測定するための製剤が、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを測定する製剤をさらに含む、請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを検出することにより肝癌を診断することができる組成物、キット、核酸チップおよび方法に関することである。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2019年10月14日に出願された大韓民国特許出願第10-2019-0127218号を優先権として主張し、前記明細書全文は本出願の参考文献である。
【0003】
肝癌は世界的に発症率の高い一種の癌である。韓国における肝癌死亡率は、人口10万人当たり23人で非常に高い方であり、韓国人の総死亡率の約10%は肝炎、肝硬変及び肝癌に関連がある。肝癌は発生初期の知覚症状がないため、早期診断が難しい。通常的に、ほとんどの肝癌は適切な治療をすることができない進行性癌腫であり、進行の状態で発見されるため、治療が非常に制限的であり、予後も極めて悪い。肝癌は診断の当時における癌の進行状態によって予後が大きく変わるため、肝癌患者の早期発見は肝癌患者の生存率を高めるのに非常に重要である。
【0004】
一方、エピジェネティクスは、DNAの塩基配列が変化しない状態で行われる遺伝子の発現調節を研究する分野である。エピジェネティクスは、DNAメチル化、miRNAまたはヒストンのアセチル化、メチル化、リン酸化およびユビキチン化などのエピジェネティックな変異による遺伝子の発現調節を研究する。
二重DNAメチル化が最も多くの研究ができているエピジェネティックな変異である。エピジェネティックな変異は、遺伝子機能の変異および腫瘍細胞への変化をもたらし得る。よって、DNAメチル化は、細胞内疾患調節遺伝子の発現(または抑制および誘導)に関連しており、最近、DNAメチル化測定による癌診断方法が提示されている。特に、前癌段階の組織においても癌特異的メチル化現象があらかじめ発生することもあるため、癌特異的メチル化の検出は癌の診断に利用される可能性が高い。
【0005】
よって、肝癌のリスク予測が可能である効果的な肝癌特異的メチル化マーカーの開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、本発明者らは、肝癌において特定の遺伝子CpG部位が過メチル化された状態であることを見出し、前記メチル化レベルを検出することにより肝癌を診断することができる組成物、キット、核酸チップ及び方法を開発して本発明を完成した。
【0007】
よって、本発明の目的は、特定の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを測定する製剤を含む肝癌診断用組成物を提供することである。
【0008】
また、本発明の他の目的は、特定の遺伝子のCpG部位を含む断片を増幅するためのPCRプライマー対と前記プライマー対によって増幅されたPCR産物をパイロシーケンスするためのシーケンシングプライマー(sequencing primer)を含有する肝癌診断用キットを提供することである。
【0009】
また、本発明のさらに他の目的は、特定の遺伝子のCpG部位を含む断片と、厳しい条件下でハイブリダイゼーションができるプローブが固定されている肝癌診断用核酸チップを提供することである。
【0010】
また、本発明のさらに他の目的は、それぞれ異なる試料から特定の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを測定し比較することを含む肝癌診断方法を提供することである。
【0011】
また、本発明のさらに他の目的は、肝癌診断用製剤を製造するための遺伝子CpG部位のメチル化レベルを測定する製剤の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを測定する製剤を含む肝癌診断用組成物を提供する。
【0013】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位を含む断片を増幅するためのプライマー対を含む肝癌診断用キットを提供する。
【0014】
また、本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位を含む断片とハイブリダイゼーションができるプローブが固定されている肝癌診断用核酸チップを提供する。
【0015】
また、本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、肝臓癌の発生が疑われる患者の試料からFAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを測定する段階;及び
前記測定されたメチル化レベルを正常対照試料の前記の同一の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルと比較する段階;を含む、肝癌の診断方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、さらに他の目的を達成するために、肝癌診断用製剤を製造するためのFAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを測定する製剤の使用が提供される。
【0017】
他の定義がない限り、本明細書において使用されるすべての技術的用語および科学的用語は、当業者らによって通常に理解できる同一の意味を有する。以下の参考文献は、本発明の明細書において使用された複数の用語らの一般的な定義を有する技術(skill)の1つを提供する:Singleton et al.DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOTY(2th ed. 1994);THE CAMBRIDGE DICTIONARY OF SCIENCE AN
D TECHNOLOGY(Walkered.、1988);及びHale&Marham、THE
HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY.
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明は、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを測定する薬剤を含む肝癌診断用組成物を提供する。
【0020】
本発明において、「メチル化」とは、DNAを構成する塩基にメチル基が付着することを意味する。好ましくは、本発明におけるメチル化の有無は、特定の遺伝子の特定のCpG部位のサイトシンで起こるメチル化の有無を意味する。メチル化が起こった場合、それによって転写因子の結合が妨げられ、特定の遺伝子の発現が抑制され、逆に、非メチル化または低メチル化が起こると、特定の遺伝子の発現が増加する。
哺乳動物細胞のゲノムDNAには、A、C、GおよびTに加え、サイトシンリングの5番目の炭素にメチル基が付着された5-メチルサイトシン(5-メチルシトシン、5-mC)という5番目の塩基が存在する。5-メチルシトシンのメチル化はCpGと呼ばれるCGジヌクレオチド(5’-mCG-3’)のCでのみ起こり、CpGのメチル化はaluまたはトランスポゾンとゲノムの反復配列が発現されることを抑制する。また、前記CpGの5-mCが自然に脱アミノ化してチミン(T)になりやすいので、CpGは、哺乳動物細胞においてほとんどの厚生遺伝学的変化が頻繁に起こる部位である。
【0021】
本発明において、用語「メチル化レベルの測定」とは、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを測定することであり、ビサルファイト処理による検出法またはビサルファイト非依存性検出法により測定することができる。メチル化レベルの測定は、メチル化特異的PCR、例えば、メチル化特異的PCR(methylation-specific polymerasechain reaction,MSP)、リアルタイム・メチル化特異的PCR(real time methylation-specific polymerase chain reaction)、メチル化DNA特異的結合タンパク質を用いたPCR、または定量PCRなどにより測定することができる。また、パイロシーケンシングおよびビサルファイトシーケンシングのような自動塩基分析にて測定することができるが、これに限定されるものではない。また、ビサルファイト非依存性検出法として、TETタンパク質(ten-eleven translocation protein)を用いた検出法を利用して測定することができる(Nature Biotechnology, volume 37, pages 424-429 (2019)を参照)。前記TETタンパク質はDNAに作用する酵素であり、塩基の化学的変化に関与し、ビサルファイトを処理する場合、メチル化されたCを除く全てのCがT塩基に変わるのとは異なり、Tetタンパク質はメチル化されたCのみがTに変わり、より効率的な検出が可能である。
【0022】
好ましくは、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位とは、前記遺伝子のDNA上に存在するCpG部位を意味する。前記遺伝子のDNAは、前記遺伝子が発現するのに必要であり、互いに作動可能に連結されている一連の構成単位を全て含む概念であり、例えば、プロモーター領域、タンパク質コーディング領域(open reading frame、ORF)及びターミネーター領域を含む。よって、FAM
110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36及びVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位は、該当遺伝子のプロモーター領域、タンパク質コーディング領域またはターミネータ領域などに存在してもよい。
【0023】
好ましくは、本発明において、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36及びVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを測定することは、下記の表1に記載の遺伝子のCpG部位のサイトシンのメチル化レベルを測定することを意味してもよい。
【0024】
【表1】
【0025】
本発明において、前記FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36及びVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位は遺伝子の転写開始部位(トランスポート開始サイト(transcription start site,TSS)から+/-2000塩基(2kb)の間に位置することを特徴とする。
【0026】
本発明において、ヒトゲノム染色体部位の塩基配列は、The February 2009 Human reference sequence(GRCh37)に従って表現したが、前記ヒトゲノム染色体部位の具体的な配列は、ゲノム配列の研究結果が更新されるにつれてその表現が多少変更されることもあり、このような変更によって、本発明の前記ヒトゲノム染色体部位の表現が異なることもある。よって、本発明のThe February 2009 Human reference sequence(GRCh37)に従って発現されたヒトゲノム染色体部位は、本発明の出願日の以後、ヒト標準塩基配列(human reference sequence)が更新され、前記ヒトゲノム染色体部位の表現が今のことと異なるように変更されるとしても、本発明の範囲が前記変更されたヒトゲノム染色体部位に及ぼすことは自明である。このような変更内容は、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者であれば誰でも容易に知ることができ
る事項である。
【0027】
本発明において、前記CpG部位のメチル化レベルを測定する製剤は、サイトシン塩基を修飾する化合物またはメチル化感受性制限酵素、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のメチル化された対立形質の配列に特異的なプライマー、および非メチル化された対立形質の配列に特異的なプライマーを含んでもよい。
【0028】
前記シトシン塩基を変形させる化合物とは、非メチル化サイトシンまたはメチル化サイトシンを変形させる化合物であり、非メチル化サイトシンを変形させるビサルファイトまたはその塩、好ましくは、ナトリウムビサルファイトであるか、またはメチル化サイトシンを変形させるTETタンパク質であってもよいが、これらに限定されない。このようなサイトシン塩基を変形させてCpG部位がメチル化されるかされないかを検出する方法は、当該業界に広く公知となっている(WO01/26536;US2003/0148326A1)。
また、前記メチル化感受性制限酵素とは、CpG部位のメチル化を特異的に検出することができる制限酵素であり、制限酵素の認識部位としてCGを含有する制限酵素であってもよい。例えば、SmaI、SacII、EagI、HpaII、MspI、BssHII、BstUI、NotIなどがあり、これらに限定されない。前記制限酵素認識部位のCにおけるメチル化または非メチル化によって制限酵素による切断の有無が異なり、これをPCRまたはサザンブロット分析により検出することができるようになる。前記制限酵素以外の他のメチル化感受性制限酵素は当該業界によく知られている。
前記プライマーは、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のメチル化された対立形質の配列に特異的なプライマー、及び非メチル化された対立形質の配列に特異的なプライマーを含めることができる。
本発明において、用語「プライマー」とは、短い遊離の3’末端水酸化基を有する核酸配列で相補的なテンプレートと塩基対を形成することができ、テンプレート鎖コピーのための開始点として機能する短い核酸配列を意味する。プライマーは、適切な緩衝溶液および温度において、重合反応(すなわち、DNA重合酵素または逆転写酵素)のための試薬および異なる4つのヌクレオシド三リン酸の存在下でDNA合成を開始することができる。また、プライマーは、7個~50個のヌクレオチド配列を有するセンスおよびアンチセンス核酸として、DNA合成の開始点として作用するプライマーの基本的性質を変化させない追加的特徴を組み込んでもよい。
本発明のプライマーは、メチル化の有無を分析する対象となる特定のCpG部位の配列に応じて好ましくデザインすることができ、より好ましくは、メチル化されてビサルファイトにより変形されなかったサイトシンを特異的に増幅することができるプライマー対、メチル化されず、ビサルファイトにより変形されたサイトシンを特異的に増幅できるプライマー対、メチル化されてTet系のタンパク質によって変形されたサイトシンを特異的に増幅することができるプライマー対、およびメチル化されなかったことにより、Tet系のタンパク質によって変形されなかったサイトシンを特異的に増幅することができるプライマー対からなる群から選択されるいずれか1つ以上でもよい。
【0029】
よって、本発明は、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位を含む断片を増幅するためのプライマー対を含む肝癌診断用キットを提供する。
【0030】
前記組成物及びキットには、前記製剤のほかにも、重合酵素アガロース、電気泳動に必要な緩衝溶液等が追加的に含まれてもよい。
【0031】
また、本発明は、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位を含む断片とハイブリダイゼーションをすることができるプローブが固定されている肝癌診断用核酸チップを提供する。
【0032】
本発明における用語「核酸」とは、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドを意味するか、またはそれらの断片、一本鎖または二本鎖のゲノム起源または合成起源のDNAまたはRNA、センス、またはアンチセンス鎖のゲノム起源または合成起源のDNAまたはRNA、PNA(ペプチド核酸、peptide nucleic acid)、または天然起源または合成起源のDNA量またはRNA量の物質を意味する。核酸がRNAである場合、デオキシヌクレオチドのA、G、CおよびTの代わりに、それぞれリボヌクレオチドA、G、CおよびUに置換されることは、当該分野の通常の知識を有する者に自明である。
【0033】
メチル化は、遺伝子の調節部位の外郭から始まって内部に進行するため、調節部位の外郭でメチル化を検出することで、細胞形質転換に関与する遺伝子を早期診断することができる。
よって、前記メチル化遺伝子マーカーを用いて肝癌を形成する可能性のある細胞の早期診断が可能である。癌細胞でメチル化されると確認された遺伝子が臨床的または形態学的に正常に見える細胞においてメチル化されると、前記正常に見える細胞は癌化が進行しているものである。よって、正常に見える細胞における肝癌特異的遺伝子のメチル化を確認することにより、肝癌を早期診断することができる。
【0034】
また、本発明は、肝癌の発生が疑われる患者の試料からFAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを測定する段階;及び
前記測定されたメチル化レベルを正常対照試料の前記同一の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルと比較する段階;を含む、肝癌の診断方法を提供する。
【0035】
前記メチル化レベルを測定する方法はPCR、メチル化特異的PCR(methylation specific PCR)、リアルタイムメチル化特異的PCR(real
time methylation specific PCR)、メチル化DNA特異的結合タンパク質を用いたPCR、メチル化感受性制限酵素を使用したメチル化の有無測定、定量PCR、DNAチップ、パイロシーケンシングおよびビサルファイトシーケンシングからなる群から選択されてもよいが、これらに限定されない。
【0036】
具体的には、メチル化特異的PCRの方法は、試料DNAを重亜硫酸塩処理した後、PCRを行うプライマーをCpGジヌクレオチドのメチル化の有無によって異なる種類のプライマーをデザインして使用する方法である。プライマー結合部位がメチル化されている場合、メチル化されたプライマーによりPCRが進行し、メチル化されていない場合、正常プライマーによってPCRが進行される。つまり、試料DNAを重亜硫酸塩処理した後、2種類のプライマーを同時に用いてPCRを行った後、結果を比較する方法である。
【0037】
リアルタイムメチル化特異的PCRは、メチル化特異的PCR方法をリアルタイム測定方法に切り替えたことであり、ゲノムDNAを重亜硫酸塩処理した後、メチル化された場
合に該当するPCRプライマーをデザインし、これらのプライマーを利用してリアルタイムPCRを行うことである。この場合、増幅された塩基配列と相補的なTanManプローブを用いて検出する方法と、Sybergreenを使用して検出する2種類の方法がある。よって、リアルタイムメチル化特異的PCRは、メチル化されたDNAのみを選択的に定量分析することができる。この場合、体外メチル化DNA(in vitro methylated DNA)サンプルを用いて標準曲線を作成し、標準化のために塩基配列内に5’-CpG-3’配列のない遺伝子を陰性対照群にて一緒に増幅し、メチル化度を定量分析する方法である。
【0038】
メチル化感受性制限酵素を用いてメチル化の有無を測定する方法において、メチル化感受性制限酵素はCpGジヌクレオチドを作用部位とし、この部位がメチル化された場合は、酵素として作用することができない。よって、試料DNAをメチル化感受性制限酵素で処理した後、酵素標的部位を含むようにPCRで増幅すると、メチル化された場合は制限酵素が作用せずにPCR増幅されるが、メチル化されていない正常部位は制限酵素による切断によってPCRが増幅されないので、特定のDNA部位のメチル化の有無を測定することができる。
【0039】
メチル化DNA特異的結合タンパク質を用いたPCRまたはDNAチップ法は、メチル化DNAのみに特異的に結合するタンパク質をDNAに混合すると、メチル化DNAのみに特異的にタンパク質が結合するため、メチル化DNAのみを選択的に分離することができる。ゲノムDNAをメチル化DNA特異的結合タンパク質と混ぜた後、メチル化されたDNAのみを選択的に分離する。これらの分離されたDNAをイントロン部位に該当するPCRプライマーを用いて増幅した後、アガロース電気泳動でメチル化の有無を測定する方法である。また、定量PCR法でもメチル化の有無を測定することができ、メチル化DNA特異的結合タンパク質で分離したメチル化DNAは、蛍光色素で標識し、相補的なプローブが集積されたDNAチップにハイブリダイゼーションすることによりメチル化の有無を測定することができる。ここで、メチル化DNA特異的結合タンパク質はMBD2btに限定されない。
【0040】
また、重亜硫酸塩で処理されたDNAのパイロシーケンシングは、以下の原理に基づく。CpGジヌクレオチド部位にメチル化が発生すると、5-メチルシトシン(5-mC)が形成される。この変形された塩基は重亜硫酸塩処理した場合にウラシルに変化する。試料から抽出したDNAを重亜硫酸塩処理する場合、CpGジヌクレオチドがメチル化された場合、シトシンとして保存され、残りのメチル化されていないシトシンはウラシルに変化する。重亜硫酸塩処理されたDNAの配列分析は、好ましくは、パイロシーケンシング法を用いて行うことができる。パイロシーケンシングの詳細な説明は先行文献に知られている。[Ronaghi et al,Science 1998 Jul 17, 281(5375),363-365;Ronaghi et al, Analytical Biochemistry 1996 Nov 1,242(1),84-9;Ronaghi et al. Analytical Biochemistry 2000 Nov 15, 286(2):282-288;Nyr,P.Methods mol Biology 2007,373,114]。
【0041】
一方、Tetタンパク質を用いたビサルファイト非依存性検出法として、Tetタンパク質を用いてメチル化されたCのみがTに変換してメチル化部位の塩基を検出することもできる(LIU,Yibin,et al.,Nature Biotechnology volume 37,pages 424-429(2019)を参照)。
CpGジヌクレオチド部位においてメチル化が発生し、シトシンが5-メチルシトシン(5-mC)が形成された場合、Tet(ten-eleven translocation)タンパク質を処理する場合、CpGジヌクレオチドがメチル化されていると、ウ
ラシルに変化し、メチル化されていないシトシンは保存される。Tet処理されたDNAの配列分析は、パイロシーケンシング法のみに限定されず、メチル化感受性PCR(MSP)、マイクロアレイ(microarray)、次世代シーケンシング(next generation sequencing、NGS)などの方法を用いて分析することができる。
【0042】
好ましくは、本発明の肝癌診断方法は、a)個体から試料を収得する段階と、b)試料中のゲノムDNAを収得する段階と、c)収得したゲノムDNAをメチル化されてないシトシン塩基を変形する化合物を処理する段階と、d)前記処理されたDNAを、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上のCpG部位を増幅することができるプライマーを用いてPCRにより増幅することによってPCR産物を得る段階と、e)前記PCR産物のメチル化度を測定する段階とを含むことを特徴とする方法によって行われてもよい。
【0043】
前記b)段階のゲノムDNAの収得は、当該業界において通常に用いられるフェノール/クロロホルム抽出法、SDS抽出法(Tai et al.,Plant Mol.Biol.Reporter.8:297-303,1990)、CTAB分離法(Cetyl Trimethyl Ammonium Bromide;Murray et al.、Nuc.Res.、4321-4325、1980)または商業的に販売のDNA抽出キットを用いて行うことができる。
【0044】
本発明において、用語「試料」とは、遂行される分析の種類に応じて、個々人、体液、細胞株、組織培養などから得られる全ての生物学的体液を含む幅広い範囲の体液を意味する。哺乳動物から体液および組織生検を獲得する方法は通常に広く知られており、本発明において、前記試料は、好ましくは、組織、細胞、血液、血漿、血清、糞便および小便を含む人体由来物質からなる群から選択されてもよい。癌組織の異常なメチレーションの変化は、細胞、全血、血清、血漿、唾液、喀痰、脳脊髄液または尿のような生物学的試料から得られたゲノムDNAのメチレーションの変化と相当な類似性を示すため、本発明のマーカーを用いる場合、肝癌の発生予測に対して、血液や体液などによる簡単な診断が可能であるという利点がある。
【0045】
また、本発明は、肝癌診断用製剤を調製するためのFAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子CpG部位のメチル化を測定する製剤の使用を提供する。
【発明の効果】
【0046】
上述したように、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位の過メチル化は、肝癌において特異的に示されるため、本発明による組成物、キット、チップまたは方法を用いて肝癌を正確かつ迅速に診断することができ、さらに早期に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1図1は、総33種の癌タイプにおけるFAM110A遺伝子のメチル化情報を確認した結果である。
図2図2は、総33種の癌型におけるFAR1遺伝子のメチル化情報を確認した結果である。
図3図3は、総33種の癌タイプにおけるVIM遺伝子のメチル化情報を確認した結果である。
図4図4は、総33種の癌型におけるLDHB遺伝子のメチル化情報を確認した結果である。
図5図5は、総33種の癌型におけるLIPE遺伝子のメチル化情報を確認した結果である。
図6図6は、総33種の癌型におけるINAFM1遺伝子のメチル化情報を確認した結果である。
図7図7は、総33種の癌型におけるATL1遺伝子のメチル化情報を確認した結果である。
図8図8は、総33種の癌型におけるCELF6遺伝子のメチル化情報を確認した結果である。
図9図9は、総33種の癌型におけるMTHFD2遺伝子のメチル化情報を確認した結果である。
図10図10は、総33種の癌型におけるPAK1遺伝子のメチル化情報を確認した結果である。
図11図11は、総33種の癌型におけるNXPE3遺伝子のメチル化情報を確認した結果である。
図12図12は、総33種の癌タイプにおけるSLC25A36遺伝子のメチル化情報を確認した結果である。
図13図13は、総33種の癌型におけるVANGL2遺伝子のメチル化情報を確認した結果である。
図14図14は、本発明により選別された総14種類の遺伝子における肝細胞癌の診断精度を確認した結果である。
図15図15は、腫瘍組織(tumor)細胞株群と非腫瘍組織(others)細胞株群の間のメチル化の差異を確認した結果である。
図16図16a及び図16bは、肝癌組織及び正常周辺組織におけるFAR1、PAK1、ATL1、LIPE遺伝子のメチル化度をqMSPした後、ΔCt+10値にて提示した結果である。
図17図17は比較例であり、GRASP遺伝子のメチル化情報を確認した結果である。
【実施例0048】
以下、本発明の理解を補うために好ましい実施例を提示する。しかしながら、以下の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものであり、これによって本発明の内容が限定されるものではない。
【0049】
実施例1:肝細胞癌特異的メチル化遺伝子の選別
肝細胞癌に特異的に見られるメチル化遺伝子を選別するために、3つの大規模メチレーションマイクロアレイチップ(methylation microarray chip)のデータを用いて大腸直腸癌患者の癌手術から得られた癌組織と正常組織の大規模メチル化の比較研究を行った(表2を参照)。当該研究において使用された腫瘍組織(tumor tissue)は肝細胞癌の癌組織を意味し、非腫瘍組織(non-tumor
tissue)は正常肝組織を含む癌組織以外の組織を意味する。
【0050】
【表2】
【0051】
肝細胞癌特異的メチル化遺伝子選択のために、各組織からDNAを抽出し、Infinium Human Methylation 450 Beadchip microarrayを用いて遺伝子部位のメチル化度を確認した。
各組織から抽出されたDNAは、ビサルファイト処理によって変換される。これにより、DNA部位のメチル化の有無に応じてサイトシン塩基の変形が行われる。当該マイクロアレイ実験に使用されるプローブは、遺伝子のメチル化部位のサイトシン塩基の変形を確認するために、メチル化、非メチル化(unmethylation)に特異的にデザインされた。
当該マイクロアレイ実験は、それぞれの遺伝子のメチル化部位を示す約45万個(450k)のプローブを介して遺伝子のメチル化度を測定し、試験によって導出された各プローブの結果はβ値にて示される。β値は0から1までの値を有し、1に近いほど当該遺伝部位のメチル化度が高いと判断した。
腫瘍群と非腫瘍群の間の差別的メチル化部位(differentially methylated regions,DMRs)を確認するために、経験ベイズt検定(empirical Bayes t-test)であるリンマ(Linear models for Microarray Data、Limma)法を用いた群同士の統計的に有意なメチル化の差を示す遺伝子部位を確認した。
Limma法は、群同士の差異を確認する複数のメチル化統計分析法の中で最も異常値(outliner)により少ない影響を受けることが知られている。よって、一部のサンプルの異常な測定値より影響を少なく受け、癌特異的マーカーを見出すのに適した方法である。本実験においては、Limma法により導出された補正型p値(adjusted p-value)値が少ないほど、両群の間に有意なメチル化差があると判断した。
特に、腫瘍特異的メチル化部位の探索をするために、腫瘍群と非腫瘍群の間に有意なβ値の差がある遺伝子部位のうち、非腫瘍より腫瘍組織にてより高いメチル化を部位をがん特異的バイオマーカー候補に選定した。
その結果、3つのデータセット(dataset)のそれぞれにおけるlimma分析の結果、非腫瘍群に比べて腫瘍群同士の比較時に有意に低いp値を有し、群間β値が0.2以上の大きな差を示す遺伝子部位を腫瘍特異的過メチル化部位(hypermethyalted regions)として選別した。これにより、約45万個の遺伝部位のうち、全てのデータセットが共通的に腫瘍特異的過メチル化を示す1,777個の遺伝部位をバイオマーカー候補として選別した。
【0052】
実施例2:肝細胞癌特異的過メチル化遺伝子の選別
前記実施例1で確認した1,777個のバイオマーカーの遺伝部位において、肝細胞癌以外の腫瘍における各該当部位のメチル化度を確認して比較し、バイオマーカーのうち肝癌特異的な遺伝部位を見出した。癌遺伝子公共データベースであるTCGA(The Cancer Genome Atlas)のDNA methyaltion 450k
arrayの実験結果を分析した結果、33種類の癌タイプ(cancer type)に該当する遺伝部位のメチル化情報を確認することができた。このうち肝細胞癌(hepatocellular cancer, liver cancerと名付ける)およびその他の32種類の癌に対比肝癌で有意に高いβ値を示す遺伝部位を確認した結果、
1,777個の遺伝部位のうち42個の遺伝部位に肝癌特異的メチル化が発生したことが確認できた。
【0053】
前記遺伝子に対する腫瘍組織(tumor tissue、肝細胞癌の癌組織)および非腫瘍組織(non-tumor tissue、正常肝組織を含む癌組織以外の組織)に対する前記マイクロアレイ実験による遺伝子のメチル化度は、図15と同様である。メチル化度は、試験により導出された各プローブの結果をβ値で示し、β値は0から1までの値を有し、1に近いほど該当遺伝部位のメチル化度が高いと判断した。
【0054】
一方、肝癌の腫瘍組織と非腫瘍組織の比較時にメチル化の差が観察される遺伝部位の場合、肝癌以外の他の癌に対してもメチル化が発生することができる。すなわち、肝癌特異的メチル化が確認されていないことである。
【0055】
例えば、GRASP(ホスホイノシチド1関連足場タンパク質のための一般的受容体、general receptor for phosphoinositides 1
associated scaffold protein)遺伝子の場合、前記実施例1で確認した1,777個の遺伝部位のうち、最も大きい腫瘍組織と非腫瘍組織の間のメチル化の差が確認された部位の1つであったが、図16に示すように、肝癌において高いメチル化が現れると同時に、前立腺がん、直腸がん、胃がんなどをはじめとする様々な癌腫でも高いメチル化が発生することを確認した。
【0056】
前記33種類の癌は以下のとおりである。急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia)、副腎皮質癌(Adrenocortical cancer)、胆道癌(Bile Duct cancer)、乳癌(Breast cancer)、子宮頸癌(Cervical Cancer)、大腸癌(Colon cancer)、子宮内膜がん(Endometrioid Cancer)、食道がん(Esophageal Cancer)、膠芽腫(Glioblastoma)、頭頸部がん(Head and neck cancer)、腎臓嫌色素性がん(Kidney chromophobe)、腎細胞がん(Kidney Clear cell carcinoma)、腎乳頭様細胞癌(Kidney Papillary cell carcinoma)、巨大B細胞リンパ腫(Large B-cell lymphoma)、肝癌(Liver cancer)、低等級膠腫(Lower Grade Glioma)、肺腺癌(Lung adenocarcinoma)、黒色腫(Melanoma)、中皮腫(Mesothelioma)、眼の黒色腫(Ocular melanomas)、卵巣癌(Ovarian cancer)、膵臓癌(Pancreatic cancer)、茶色細胞腫瘍&副腎結節腫(Pheochromocytoma&paraganglioma)、前立腺癌(Prostate cancer)、直腸癌(Rectal cancer)、肉腫(Sarcoma)、胃癌(Stomach cancer)、精巣癌(Testicular cancer)、胸腺腫(Thymoma)、甲状腺癌(Thyroid cancer)、子宮肉腫(Uterine carcinosarcoma)。
【0057】
これらの遺伝子部位のうち、偽遺伝子(pseudogene)ではなく、該当部位がCpG島(CpG island)部位に存在し、遺伝子の転写開始部位(TSS)から+/-2000塩基(2kb)の間に選別された遺伝部位にあり、常染色体に存在する場合は、肝細胞癌特異的過メチル化遺伝子で選別した。その結果、以下の表3に示したように、総13個の遺伝子が選択された(図1図13参照)。
【0058】
【表3】
【0059】
特に、FAR1(図2)、LIPE(図5)、MTHFD2(図10)、NXPE3(図12)の場合、他の癌腫対比肝癌(Liver cancer)に対して明確な特異的過メチル化を示した。
【0060】
実施例3:細胞株における選別遺伝子の肝癌特異性の確認
選別された13個の遺伝子が他の癌と区別される肝癌特異的メチル化を示すかを確認するために、公共データベースを活用し、大きく14個の組織に由来の1,022個の癌細胞株(cancer cell lines)におけるメチル化パターンを分析した。当該データは、各細胞株から抽出したDNAを標準化した製造社のメチル化分析試験過程に従ってInfinium Human Methylation 450 Beadchip microarray実験を行った。
【0061】
遂行した実験の結果値は、前記実施例1のように、約45万個のプローブを介して遺伝子メチル化度を測定し、各プローブのメチル化値はβ値として示される。β値は0から1までの値を有し、1に近いほど該当遺伝部位のメチル化度が高いと判断する。
前記14個の組織は以下のとおりである。呼吸消化管(aerodigestive
tract)、血液、骨、乳房、消化器系(digestive system)、腎臓、肺、神経系、膵臓、皮膚、軟組織、甲状腺、泌尿生殖器系(urogenital system)、その他の組織。
【0062】
選別された14個の遺伝子の肝臓癌特異的メチル化を確認するために、1,022個の細胞株に由来のメチェル化データは、大きく肝癌細胞株群(n=19)と非肝癌細胞株群(n=1,003)に分類した。
【0063】
分類された両群間の差別的なメチル化部位(DMRs)を確認するために経験ベイズt検定であるリンマ(Limma)法を用い、群間の統計的に有意なメチル化の差異を示す遺伝子部位を確認した。
【0064】
【表4】
【0065】
特に、先に実際の患者検体において他の癌対比肝癌に対して明らかな特異的過メチル化を示したFAR1、LIPE、MTHFD2、NXPE3の場合、細胞株を用いた分析においても、他の癌細胞株に比べて肝癌細胞株でも確実に低い補正型p値を有するため、肝癌特異的であることが確認できる。他にも、LDHB、PAK1のような遺伝子が他の細胞株対比肝癌の細胞株において明らかなメチル化を示すことが確認できた。
【0066】
実施例4:肝癌診断マーカー候補の診断性能評価
選別された遺伝子の肝細胞癌における診断マーカーとしての有用性を確認するために、メチル化度による肝細胞癌診断の精度を評価した。
【0067】
診断の精度を評価するには、感度(sensitivity)と特異度(specificity)を使用する。連続する診断検査測定値の可能な切断値(cut-off value)に対する感度と特異度の値の計算を通じて切断値による感度と特異度の変化を提示するROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を示すことができる。診断の精度は、ROC曲線下面積(area under
the ROC curve、AUC)によって測定することができる。AUC値は0.5から1の間の値を有し、その値が大きいほど診断精度が高いと評価する。AUC値が
1の場合、診断結果は完全に正確な検査であることを意味するが、0.5の場合は無作為結果と同じであると判断する。
【0068】
選別された遺伝子を用いた非腫瘍組織と腫瘍組織の間のメチル化度による癌分類精度を収集したメチレーションデータセットを用いて分析した結果、図14に示したように、全ての選択された遺伝子は0.860以上のAUC値を有し、高い診断精度を示し、選択された遺伝子が肝細胞癌の診断に有用であることを確認した。
【0069】
実施例5:選別された遺伝子の肝癌組織qMSP基盤のメチル化の測定
選別された13個の遺伝子のうち、非腫瘍組織と腫瘍組織の間のメチル化度の差が大きく、腫瘍組織の平均的メチル化数値が高いFAR1、PAK1、ATL1、LIPEの4つの遺伝子に対して癌組織を用いた追加の検証試験を遂行した。選別された4つの遺伝子の肝癌特異的メチル化を癌組織で確認するために、メチル化特異的PCR(quantitative methylation specific PCR,qMSP)技法を用いて癌組織と非癌組織の間のメチル化の差を測定した。このために、癌2期から4期まで各病期ごとに5人ずつ、総15名の肝癌患者癌組織と癌周辺組織対からゲノムDNAを分離し、ビサルファイト処理した後、一般化したqMSP実験方法に従ってFAR1、PAK1、ATL1、LIPEのそれぞれを特異的遺伝部位の増幅およびメチル化度を観察した。
【0070】
また、ビサルファイトに変換した遺伝部位に特異的に結合して増幅し、当該部位の増幅された値を標準化するためにメチル化と関係ないACTB遺伝子を内部標準として使用した。
前記ビサルファイトに変換されたDNAをPCRで増幅させたメチル化レベルは、内部標準として使用したACTBのCt(Cycle of threshold)値で補正した値であるΔCt+10で示す。ΔCt+10は以下のように定義する。
ΔCt+10=(ACTB遺伝子のCt値-検出対象遺伝子のCt値)+10
【0071】
図16a及び16Bに示したように、FAR1、ATL1、PAK1、LIPEの各遺伝子のメチル化は、癌周辺正常組織と比較し、大腸癌組織における病期にかかわらず相対的に高いΔCt+10値を示し、肝癌においてFAR1、ATL1、PAK1、LIPEという4つの遺伝子が過メチル化(hypermethylation)されたことが確認できた。これは、選別されたFAR1、ATL1、PAK1、LIPE遺伝子のメチル化が肝癌の診断、特に早期診断のバイオマーカーとして効果的であることを実際に示した結果である。
このような結果から、選別された遺伝子が肝癌の診断にも利用できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
上述したように、FAM110A、FAR1、VIM、LDHB、LIPE、INAFM1、ATL1、CELF6、MTHFD2、PAK1、NXPE3、SLC25A36およびVANGL2からなる群から選択されたいずれか1つ以上の遺伝子のCpG部位の過メチル化は、肝癌において特異的に示されるので、本発明による組成物、キット、チップまたは方法を利用し、肝癌を正確かつ迅速に診断することができるだけでなく、早期に診断することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0073】
【特許文献1】国際公開第01/26536号
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0148326 A1号明細書
【非特許文献】
【0074】
【非特許文献1】Singleton et al.DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOTY(2th ed. 1994)
【非特許文献2】THE CAMBRIDGE DICTIONARY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY(Walkered.、1988)
【非特許文献3】Hale&Marham、THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY
【非特許文献4】Nature Biotechnology, volume 37, pages 424-429 (2019)
【非特許文献5】Ronaghi et al,Science 1998 Jul 17, 281(5375),363-365
【非特許文献6】Ronaghi et al, Analytical Biochemistry 1996 Nov 1,242(1),84-9
【非特許文献7】Ronaghi et al. Analytical Biochemistry 2000 Nov 15, 286(2):282-288
【非特許文献8】Nyr,P.Methods mol Biology 2007,373,114
【非特許文献9】LIU,Yibin,et al.,Nature Biotechnology volume 37,pages 424-429(2019)
【非特許文献10】Tai et al.,Plant Mol.Biol.Reporter.8:297-303,1990
【非特許文献11】Cetyl Trimethyl Ammonium Bromide;Murray et al.、Nuc.Res.、4321-4325、1980
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