(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020416
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療におけるクエン酸第二鉄の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/295 20060101AFI20240206BHJP
A61K 31/194 20060101ALI20240206BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20240206BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240206BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240206BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240206BHJP
【FI】
A61K31/295
A61K31/194
A61P7/06
A61K9/20
A61K47/32
A61K47/34
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023194518
(22)【出願日】2023-11-15
(62)【分割の表示】P 2019543636の分割
【原出願日】2018-09-18
(31)【優先権主張番号】P 2017179533
(32)【優先日】2017-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(72)【発明者】
【氏名】松本 裕
(72)【発明者】
【氏名】有田 好城
(72)【発明者】
【氏名】三井 寛法
(72)【発明者】
【氏名】花木 巧二
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療剤を提供する。
【解決手段】有効成分としてクエン酸第二鉄を含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療剤。
【請求項2】
クエン酸第二鉄が第二鉄とクエン酸とのモル比が1:0.80~1:0.92であることを特徴とする、請求項1に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項3】
錠剤の形態である、請求項1又は2に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項4】
過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者が経血量に影響を与える他の薬剤の投与を受けている女性である、請求項1~3のいずれか一項に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項5】
経血量に影響を与える他の薬剤がホルモン療法剤又は止血剤である、請求項4に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項6】
クエン酸第二鉄を1日当たりの有効量として、500mg又は1000mg含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項7】
クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるヘモグロビン値改善剤。
【請求項8】
クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清鉄レベル改善剤。
【請求項9】
クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清フェリチン値改善剤。
【請求項10】
クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における総鉄結合能(TIBC)改善剤。
【請求項11】
クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるトランスフェリン飽和率(TSAT)改善剤。
【請求項12】
クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における平均赤血球容積(MCV)改善剤。
【請求項13】
クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるヘプシジン濃度改善剤。
【請求項14】
クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清可溶性トランスフェリン受容体濃度(sTfR)改善剤。
【請求項15】
クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるC末端FGF23値(cFGF23)改善剤。
【請求項16】
クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における全長FGF23値(iFGF23)改善剤。
【請求項17】
クエン酸第二鉄を1日当たりの有効量として、500mg又は1000mg含有する、請求項7~16のいずれか一項に記載の剤。
【請求項18】
クエン酸第二鉄及び製薬上許容される担体を含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
【請求項19】
クエン酸第二鉄がβ酸化水酸化鉄を実質的に含有せず、第二鉄とクエン酸とのモル比が1:0.80~1:0.92であることを特徴とする、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
製薬上許容される担体が、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及びポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーを含む、請求項18又は19に記載の組成物。
【請求項21】
過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者が経血量に影響を与える他の薬剤の投与を受けている女性である、請求項18~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
クエン酸第二鉄を1日当たりの有効量として、500mg又は1000mg含有する、請求項18~21のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療におけるクエン酸第二鉄の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄は生体内に多く存在する金属であり、その大部分は赤血球中のヘモグロビンの成分として使用され、全身への酸素の運搬に機能している。その他、鉄は全身の細胞の分裂や増殖、様々な代謝などに必要不可欠である。生体内において鉄は消化管から吸収され、主に肝臓で貯蔵されるが、能動的な排泄経路は存在しない。鉄不足(欠乏)となる主な原因は消化管からの吸収障害、摂取不足あるいは失血である。生体内の鉄量が減少すると、まず「貯蔵鉄の減少」に伴い、貯蔵鉄量と相関する血清フェリチン値が低下する。ついで「貧血のない鉄欠乏」(貯蔵鉄が枯渇しているが貧血は生じていない状態)となり、血清フェリチン値の低下に加えて血清鉄の低下と総鉄結合能(TIBC)の増加により、トランスフェリン飽和率(TSAT)が低下する。さらに、鉄欠乏が進行すると「鉄欠乏性貧血」が発症する(非特許文献1)。鉄欠乏性貧血では、動悸、息切れなどの貧血症状のほか、匙状爪、舌乳頭萎縮、口角炎及び嚥下困難などの組織鉄欠乏所見や異食症、並びに易疲労感などが認められ(非特許文献2)、患者のQuality of Life(QOL)を低下させている。
【0003】
既存の経口鉄剤は、胃切除後や鉄剤不応性鉄欠乏性貧血などの吸収障害を除く鉄欠乏性貧血に有効であるものの、副作用として、悪心・嘔吐、腹痛、下痢、便秘及び蕁麻疹などがある。消化器症状は患者の20~30%に発現し(非特許文献3)、一度でも強い副作用を経験すると患者の服薬アドヒアランスが著しく低下する(非特許文献4)。消化器症状の中でも悪心・嘔吐の発現率は高く、クエン酸第一鉄ナトリウムの承認時までの調査までにおける悪心・嘔吐の発現率は約13%に達している(非特許文献5)。一方、静注鉄剤は必要鉄量を確実に補給できる長所を有するものの、副作用として、頭痛、発熱、悪心及びショック症状などが生じることがある。特に医療現場ではショック症状が懸念されており、静注鉄剤のいくつかは、過敏症やショック症状を含む副作用報告の増加が確認され、自主回収の後に販売中止されている。また、注射行為に伴う侵襲性の問題も存在する。また、特に、過多月経患者においては、鉄補給とホルモン療法を併用する必要があるが、悪心・嘔吐を主とした消化器症状の副作用に起因する服薬アドヒアランスの低下があった場合、原因疾患の悪化や妊娠のリスク等も抱えることになるため、より注意が必要である。
過多月経を伴う婦人科疾患としては、主として、子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、双角子宮等が挙げられる。過多月経に伴う鉄欠乏性貧血は、時に重篤である場合もあり、過多月経患者がその原因疾患の治療薬(例、ホルモン配合剤等)と安全に併用し得る、より良い治療薬の開発が求められている。
【0004】
一方、最近、クエン酸第二鉄が慢性腎臓病(CKD)患者における鉄欠乏及び貧血の治療に有用であることが報告されている(特許文献1、2)。しかし、CKD以外の疾患に起因する鉄欠乏性貧血に対するクエン酸第二鉄の有効性については、確認されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2015-535209号公報
【特許文献2】国際公開第2016/141124号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bainton DF, Finch CA. Am. J. Med. 1964; 37: 62-70
【非特許文献2】Lee GR. Iron deficiency and iron deficiency anemia. In: Wintrobe’s Clinical Hematology 10 th ed., Lee GR, Foerster J, Lukens J, Paraskevas F, Greer JP, Rodgers GM eds., Williams and Wilkins, Baltimore; 1999: 979-1010
【非特許文献3】矢野尊啓,鉄剤不耐容・不能性の鉄欠乏性貧血,内科 2013; 112: 257-261
【非特許文献4】岡田定,鉄欠乏性貧血の治療指針,日本内科学会雑誌 2010; 99: 1220-1225
【非特許文献5】フェロミア(R)錠50 mg/フェロミア(R)顆粒8.3% 医薬品インタビューフォーム第8版 2014 年6月改訂
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような背景のもと、悪心・嘔吐を主とした消化器症状の副作用がより軽減され、服薬アドヒアランスを向上させる経口鉄剤は、特に、ホルモン療法との併用が予測される、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者のQOL 改善に寄与することが期待されることから、その開発が強く求められている。
【0008】
本発明の目的は、消化器症状等の副作用が少なく、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者において、ホルモン療法等との併用も安全に行える、鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる状況下、クエン酸第二鉄が、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療に有用であり、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における他の薬剤(ホルモン療法剤、止血剤等)との併用においても、薬効の低下や副作用を生じさせることなく、安全に使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療剤。
[2]クエン酸第二鉄を過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者に有効量投与することを特徴とする、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療方法。
[3]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療に使用するためのクエン酸第二鉄。
[4]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療剤を製造するためのクエン酸第二鉄の使用。
[5]クエン酸第二鉄が第二鉄とクエン酸とのモル比が1:0.80~1:0.92であることを特徴とする、上記[1]に記載の予防及び/又は治療剤。
[6]クエン酸第二鉄が第二鉄とクエン酸とのモル比が1:0.80~1:0.92であることを特徴とする、上記[2]に記載の予防及び/又は治療方法。
[7]クエン酸第二鉄が第二鉄とクエン酸とのモル比が1:0.80~1:0.92であることを特徴とする、上記[3]に記載のクエン酸第二鉄。
[8]クエン酸第二鉄が第二鉄とクエン酸とのモル比が1:0.80~1:0.92であることを特徴とする、上記[4]に記載の使用。
[9]クエン酸第二鉄が20~45m2/gの比表面積を有することを特徴とする、上記[5]に記載の予防及び/又は治療剤。
[10]クエン酸第二鉄が20~45m2/gの比表面積を有することを特徴とする、上記[6]に記載の予防及び/又は治療方法。
[11]クエン酸第二鉄が20~45m2/gの比表面積を有することを特徴とする、上記[7]に記載のクエン酸第二鉄。
[12]クエン酸第二鉄が20~45m2/gの比表面積を有することを特徴とする、上記[8]に記載の使用。
[13]錠剤の形態である、上記[1]、[5]及び[9]のいずれかに記載の予防及び/又は治療剤。
[14]クエン酸第二鉄を錠剤の形態で投与する、上記[2]、[6]及び[10]のいずれかに記載の予防及び/又は治療方法。
[15]錠剤の形態である、上記[3]、[7]及び[11]のいずれかに記載のクエン酸第二鉄。
[16]クエン酸第二鉄が錠剤の形態である、上記[4]、[8]及び[12]のいずれかに記載の使用。
[17]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者が経血量に影響を与える他の薬剤の投与を受けている女性である、上記[1]、[5]、[9]及び[13]のいずれかに記載の予防及び/又は治療剤。
[18]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者が経血量に影響を与える他の薬剤の投与を受けている女性である、上記[2]、[6]、[10]及び[14]のいずれかに記載の予防及び/又は治療方法。
[19]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者が経血量に影響を与える他の薬剤の投与を受けている女性である、上記[3]、[7]、[11]及び[15]のいずれかに記載のクエン酸第二鉄。
[20]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者が経血量に影響を与える他の薬剤の投与を受けている女性である、上記[4]、[8]、[12]及び[16]のいずれかに記載の使用。
[21]経血量に影響を与える他の薬剤がホルモン療法剤又は止血剤である、上記[17]に記載の予防及び/又は治療剤。
[22]経血量に影響を与える他の薬剤がホルモン療法剤又は止血剤である、上記[18]に記載の予防及び/又は治療方法。
[23]経血量に影響を与える他の薬剤がホルモン療法剤又は止血剤である、上記[19]に記載のクエン酸第二鉄。
[24]経血量に影響を与える他の薬剤がホルモン療法剤又は止血剤である、上記[20]に記載の使用。
[25]クエン酸第二鉄を1日当たりの有効量として、500mg又は1000mg含有する、上記[1]、[5]、[9]、[13]、[17]及び[21]のいずれかに記載の予防及び/又は治療剤。
[26]クエン酸第二鉄の投与量が、500mg/日又は1000mg/日である、上記[2]、[6]、[10]、[14]、[18]及び[22]のいずれかに記載の予防及び/又は治療方法。
[27]クエン酸第二鉄の使用量が、500mg/日又は1000mg/日である、上記[3]、[7]、[11]、[15]、[19]及び[23]のいずれかに記載のクエン酸第二鉄。
[28]クエン酸第二鉄の使用量が、500mg/日又は1000mg/日である、上記[4]、[8]、[12]、[16]、[20]及び[24]のいずれかに記載の使用。
[29]クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるヘモグロビン値改善剤。
[30]クエン酸第二鉄を過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者に有効量投与することを特徴とする、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるヘモグロビン値改善方法。
[31]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるヘモグロビン値改善に使用するためのクエン酸第二鉄。
[32]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるヘモグロビン値改善剤を製造するためのクエン酸第二鉄の使用。
[33]クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清鉄レベル改善剤。
[34]クエン酸第二鉄を過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者に有効量投与することを特徴とする、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清鉄レベル改善方法。
[35]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清鉄レベル改善に使用するためのクエン酸第二鉄。
[36]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清鉄レベル改善剤を製造するためのクエン酸第二鉄の使用。
[37]クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清フェリチン値改善剤。
[38]クエン酸第二鉄を過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者に有効量投与することを特徴とする、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清フェリチン値改善方法。
[39]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清フェリチン値改善に使用するためのクエン酸第二鉄。
[40]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清フェリチン値改善剤を製造するためのクエン酸第二鉄の使用。
[41]クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における総鉄結合能(TIBC)改善剤。
[42]クエン酸第二鉄を過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者に有効量投与することを特徴とする、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における総鉄結合能(TIBC)改善方法。
[43]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における総鉄結合能(TIBC)改善に使用するためのクエン酸第二鉄。
[44]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における総鉄結合能(TIBC)改善剤を製造するためのクエン酸第二鉄の使用。
[45]クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるトランスフェリン飽和率(TSAT)改善剤。
[46]クエン酸第二鉄を過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者に有効量投与することを特徴とする、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるトランスフェリン飽和率(TSAT)改善方法。
[47]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるトランスフェリン飽和率(TSAT)改善に使用するためのクエン酸第二鉄。
[48]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるトランスフェリン飽和率(TSAT)改善剤を製造するためのクエン酸第二鉄の使用。
[49]クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における平均赤血球容積(MCV)改善剤。
[50]クエン酸第二鉄を過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者に有効量投与することを特徴とする、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における平均赤血球容積(MCV)改善方法。
[51]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における平均赤血球容積(MCV)改善に使用するためのクエン酸第二鉄。
[52]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における平均赤血球容積(MCV)改善剤を製造するためのクエン酸第二鉄の使用。
[53]クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるヘプシジン濃度改善剤。
[54]クエン酸第二鉄を過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者に有効量投与することを特徴とする、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるヘプシジン濃度改善方法。
[55]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるヘプシジン濃度改善に使用するためのクエン酸第二鉄。
[56]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるヘプシジン濃度改善剤を製造するためのクエン酸第二鉄の使用。
[57]クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清可溶性トランスフェリン受容体濃度(sTfR)改善剤。
[58]クエン酸第二鉄を過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者に有効量投与することを特徴とする、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清可溶性トランスフェリン受容体濃度(sTfR)改善方法。
[59]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清可溶性トランスフェリン受容体濃度(sTfR)改善に使用するためのクエン酸第二鉄。
[60]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における血清可溶性トランスフェリン受容体濃度(sTfR)改善剤を製造するためのクエン酸第二鉄の使用。
[61]クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるC末端FGF23値(cFGF23)改善剤。
[62]クエン酸第二鉄を過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者に有効量投与することを特徴とする、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるC末端FGF23値(cFGF23)改善方法。
[63]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるC末端FGF23値(cFGF23)改善に使用するためのクエン酸第二鉄。
[64]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるC末端FGF23値(cFGF23)改善剤を製造するためのクエン酸第二鉄の使用。
[65]クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における全長FGF23値(iFGF23)改善剤。
[66]クエン酸第二鉄を過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者に有効量投与することを特徴とする、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における全長FGF23値(iFGF23)改善方法。
[67]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における全長FGF23値(iFGF23)改善に使用するためのクエン酸第二鉄。
[68]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における全長FGF23値(iFGF23)改善剤を製造するためのクエン酸第二鉄の使用。
[69]クエン酸第二鉄を1日当たりの有効量として、500mg又は1000mg含有する、上記[29]、[33]、[37]、[41]、[45]、[49]、[53]、[57]、[61]及び[65]のいずれかに記載の剤。
[70]クエン酸第二鉄の投与量が、500mg/日又は1000mg/日である、上記[30]、[34]、[38]、[42]、[46]、[50]、[54]、[58]、[62]及び[66]のいずれかに記載の改善方法。
[71]クエン酸第二鉄の使用量が、500mg/日又は1000mg/日である、上記[31]、[35]、[39]、[43]、[47]、[51]、[55]、[59]、[63]及び[67]のいずれかに記載のクエン酸第二鉄。
[72]クエン酸第二鉄の使用量が、500mg/日又は1000mg/日である、上記[32]、[36]、[40]、[44]、[48]、[52]、[56]、[60]、[64]及び[68]のいずれかに記載のクエン酸第二鉄の使用。
[73]クエン酸第二鉄及び製薬上許容される担体を含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
[74]クエン酸第二鉄が第二鉄とクエン酸とのモル比が1:0.80~1:0.92であることを特徴とする、上記[73]に記載の組成物。
[75]クエン酸第二鉄が20~45m2/gの比表面積を有することを特徴とする、上記[74]に記載の組成物。
[76]製薬上許容される担体が、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及びポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーを含む、上記[73]~[75]のいずれかに記載の組成物。
[77]過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者が経血量に影響を与える他の薬剤の投与を受けている女性である、上記[73]~[76]のいずれかに記載の組成物。
[78]経血量に影響を与える他の薬剤がホルモン療法剤又は止血剤である、上記[77]に記載の組成物。
[79]クエン酸第二鉄を1日当たりの有効量として、500mg又は1000mg含有する、上記[73]~[78]のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患(例、子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、双角子宮等)を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療に有効な医薬を提供することができる。また、本発明によれば、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるヘモグロビン値改善剤、血清鉄レベル改善剤、血清フェリチン値改善剤、総鉄結合能(TIBC)改善剤、トランスフェリン飽和率(TSAT)改善剤、平均赤血球容積(MCV)改善剤、ヘプシジン濃度(ヘプシジン-25)改善剤、血清可溶性トランスフェリン受容体濃度(sTfR)改善剤、C末端FGF23値(cFGF23)改善剤、及び全長FGF23値(iFGF23)改善剤も提供することができる。本発明のクエン酸第二鉄を有効成分として含有する医薬は、過多月経を伴う婦人科疾患(過多月経の原疾患)である子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、双角子宮等の治療のための他の薬剤等(特に、経血量に影響を与えるホルモン療法剤、止血剤等)と組み合わせても、副作用の発現や薬効の低下を生じさせることなく、安全に使用することが期待できるので、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療に特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において使用する定義は以下のとおりである。
【0013】
1.クエン酸第二鉄
本発明において、医薬有効成分として用いられる「クエン酸第二鉄」は、含水物であってもよく、無水物であってもよい。「クエン酸第二鉄」の形態は、特に限定されない。
【0014】
本発明に用いられるクエン酸第二鉄は、自体公知の方法で製造することが可能であり、例えば、国際公開第2012/099139号の実施例に記載された方法、又はこれに準じた方法により製造することができる。
【0015】
本発明に用いられるクエン酸第二鉄の一態様は、β酸化水酸化鉄を実質的に含有しない高純度クエン酸第二鉄である。前記高純度クエン酸第二鉄は、その総重量に対してβ酸化水酸化鉄の含有量が、好ましくは6重量%未満の範囲であり、より好ましくは2.5 重量%以下の範囲であり、特に好ましくは、1.0 重量%以下の範囲であり、とりわけ好ましくは、0~1 重量%の範囲である。本明細書において、「β酸化水酸化鉄を実質的に含有しない」は、β酸化水酸化鉄の含有量が上記の範囲であることを意味し、「高純度クエン酸第二鉄」は、β酸化水酸化鉄の含有量が上記の範囲であるクエン酸第二鉄を意味する。クエン酸第二鉄中のβ酸化水酸化鉄の含有量は、限定するものではないが、例えば、粉末X線回折法により算出することができる。
【0016】
また、本発明に用いられるクエン酸第二鉄の一態様は、第二鉄(Fe(III))とクエン酸との錯体であって、その一態様は分子式Fe・x(C6H8O7)・y(H2O)で表される錯体で表されるクエン酸第二鉄水和物である。上記の分子式において、xは、好ましくは0.75~1.10の範囲であり、より好ましくは0.78~0.95の範囲であり、特に好ましくは、0.80~0.92の範囲であり、とりわけ好ましくは、0.81~0.91の範囲である。別の態様として、xは好ましくは0.75~1.15の範囲であり、より好ましくは0.80~1.10の範囲である。yは、好ましくは1.8~3.2の範囲であり、より好ましくは2.4~3.1の範囲であり、特に好ましくは、2.7~3.1の範囲である。また、第二鉄とクエン酸とのモル比は、好ましくは1:0.75~1:1.10の範囲であり、より好ましくは1:0.78~1:0.95の範囲であり、特に好ましくは、1:0.80~1:0.92の範囲であり、とりわけ好ましくは、1:0.81~1:0.91の範囲である。別の態様として、第二鉄とクエン酸とのモル比は好ましくは1:0.75~1:1.15の範囲であり、より好ましくは1:0.80~1:1.10の範囲である。第二鉄と水とのモル比は、好ましくは1: 1.8~1: 3.2の範囲であり、より好ましくは1: 2.4~1: 3.1の範囲であり、特に好ましくは1:2.7~1:3.1の範囲である。
【0017】
本発明に用いられるクエン酸第二鉄の一態様として、比表面積が例えば20 m2/g以上であり、好ましくは20~45 m2/gの範囲であり、より好ましくは20~40 m2/gの範囲である。なお、比表面積は、限定するものではないが、例えば、窒素ガス吸着法(相対圧:0.05-0.3)によるBET表面積の測定法により測定することができる。
【0018】
本発明に用いられるクエン酸第二鉄の一態様は、非晶質の形態であり、好ましくは非晶質の粉末の形態である。
【0019】
また、本発明に用いられるクエン酸第二鉄の一態様は、第15改正日本薬局方溶出試験法パドル法で第15改正日本薬局方溶出試験第1液を試験液とし、回転数を100回/分とする溶出試験において、溶出時間が15分における溶出率が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、とりわけ好ましくは95%以上である。
【0020】
上記の特徴を有することにより、本発明に用いられるクエン酸第二鉄は優れた溶出特性を発揮することが可能となる。
【0021】
2.クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療剤、或いはクエン酸第二鉄及び製薬上許容される担体を含有する、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血を予防及び/又は治療するための医薬組成物
本発明のクエン酸第二鉄を有効成分として含有する、予防及び/又は治療剤、或いは医薬組成物は、in vivoにおいて、鉄欠乏性貧血を有するヒト及び非ヒト動物のいずれの個体に対しても適用することができる。ヒトに適用する場合、予防及び/又は治療剤、或いは医薬組成物を以下で説明する製剤の形態として提供することができる。非ヒト動物に適用する場合、対象となる非ヒト動物は、限定するものではないが、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ又はサルであることが好ましい。
【0022】
上記の対象(患者又は被験体)に本発明の予防及び/又は治療剤、或いは医薬組成物を適用することにより、鉄欠乏性貧血を予防及び/又は治療(改善)することが可能となる。それ故、本発明は、上記の患者又は被験体に本発明の予防及び/又は治療剤、或いは医薬組成物を投与することを含む、鉄欠乏性貧血を予防及び/又は治療(改善)する方法も提供する。
【0023】
本発明の予防及び/又は治療剤、或いは医薬組成物は、対象を限定するものではないが、特に、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血を予防及び/又は治療(改善)するために好適に使用することができる。鉄欠乏性貧血は、血液中のヘモグロビン濃度が減少している状態であり、また、生体内の貯蔵鉄の減少により血清フェリチン値の低下に加えて血清鉄の低下と総鉄結合能(TIBC)の増加によりトランスフェリン飽和率(TSAT)も低下している状態である。それ故、本発明は、クエン酸第二鉄を有効成分として含有する、ヘモグロビン値改善剤、血清鉄レベル改善剤、血清フェリチン値改善剤、総鉄結合能(TIBC)改善剤又はトランスフェリン飽和率(TSAT)改善剤も提供する。
【0024】
本発明の予防及び/又は治療剤、或いは医薬組成物を使用することにより、鉄欠乏性貧血を予防及び/又は治療(改善)することができる。なお、本明細書において、「鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療」とは、例えば、血液中のヘモグロビン濃度を12 g/dL以上の範囲まで増加させ、血清鉄レベルを増加させ、総鉄結合能(TIBC)を360 μg/dL未満の範囲まで低下させ、トランスフェリン飽和率(TSAT)を16%以上の範囲まで増加させ、及び/又は血清フェリチン値を12 ng/mL以上の範囲まで増加させることを意味するが、これらに限定されない。
【0025】
本発明のクエン酸第二鉄を有効成分として含有する、予防及び/又は治療剤、或いは医薬組成物は、該予防及び/又は治療剤、或いは医薬組成物自体を単独で被験体に投与してもよいが、クエン酸第二鉄と1種以上の製薬上許容される担体、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、保存剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物、又は当業者に公知の他の材料、及び場合により他の薬物とを共に含む医薬(例えば製剤)として提供することもできる。
【0026】
また、本発明は、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血を予防及び/又は治療(改善)するための医薬の製造における、クエン酸第二鉄の使用も提供する。
【0027】
本明細書において、「製薬上許容される」は、健全な医学的判断の範囲内で、妥当な利益/危険比に相応する、過度の毒性、刺激、アレルギー反応又は合併症を起こさない、被験体(例えば、ヒト)の組織と接触させて使用するのに適した化合物、材料、組成物、及び/又は剤形を意味する。それぞれの担体等の添加剤は、製剤の他の成分と共存可能であるという意味でも「許容される」ものでなければならない。
【0028】
本発明のクエン酸第二鉄を有効成分として含有する、予防及び/又は治療剤、或いは医薬組成物(「本発明の製剤」ともいう。)は、単位投薬形態として適宜提供することができ、製薬技術分野において周知の任意の方法により調製し得る。このような方法は、クエン酸第二鉄と1種以上の副成分(例えば、担体等の添加剤)とを混合する工程を含む。一般的には、製剤は、活性化合物と微細に粉砕された固体の担体若しくは液体の担体又はその両方とを均一かつ緊密に混合し、次いで必要な場合には生成物を成形することにより調製される。
【0029】
本発明の製剤の形態(剤形)としては、限定するものではないが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤、シロップ剤、乳剤又は懸濁剤等の経口剤を挙げることができる。中でも、錠剤が好ましい。
【0030】
錠剤は、場合により1種以上の上記の副成分を加えて、通常の手段、例えば圧縮又は成形により製造することができる。圧縮錠剤は、クエン酸第二鉄を、場合により賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、保存剤、抗酸化剤、着色剤及び甘味剤からなる群より選択される1種以上の製薬上許容される担体と混合して、好適な機械で圧縮することにより調製し得る。錠剤は、場合によりコーティング又は切込みを施してもよく、また、例えば、製剤中に含まれるクエン酸第二鉄の徐放又は制御放出を提供するように製剤してもよい。錠剤は、場合により、胃以外の消化管の部分で放出されるように、腸溶コーティングを施してもよい。
【0031】
本発明の製剤(錠剤)において用いられる「賦形剤」としては、例えば、微結晶セルロース(セオラス(グレード:PH-101、PH-102、PH-301、PH-302、KG-802、KG-1000、旭化成ケミカルズ製)、VIVAPUR(グレード:101、102、105、301、302、JRS Pharma製)、Emcocel(グレード:50M、90M、JRS Pharma製))、乳糖、部分α化デンプン(例、Starch 1500G(日本カラコン製)、PCS(旭化成ケミカルズ製))、白糖、D-マンニトール、D-ソルビトール、トウモロコシデンプン、デキストリン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、アラビアゴム等が挙げられる。
【0032】
本発明の製剤(錠剤)において用いられる「崩壊剤」としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(例、L-HPC(グレード:LH-11、LH-21、LH-22、LH-31、LH-32、LH-B1、信越化学工業製))、クロスポビドン(例、Kollidon(グレード:CL、CL-F、CL-SF、CL-M、BASF製)、Polyplasdone(グレード:XL、XL-10、INF-10、ISP製))、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム等が挙げられる。
【0033】
本発明の製剤(錠剤)において用いられる「結合剤」としては、例えば、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー(例、Kollicoat IR(BASF製))、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体(例、POVACOAT Type:F(大同化成工業製))、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルピロリドン、白糖、デキストリン、デンプン、アルファー化デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム等が挙げられる。
【0034】
本発明の製剤(錠剤)において用いられる「流動化剤」としては、例えば、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム(例、ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業製、日局、植物性)、ステアリン酸マグネシウム(日東化成工業製)、ステアリン酸マグネシウム(Mallinckrodt製))等が挙げられる。
【0035】
本発明の製剤(錠剤)において用いられる「滑沢剤」としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム(例、ステアリン酸カルシウム(太平化学産業製、日局、植物性)、ステアリン酸カルシウム(日東化成工業製)、ステアリン酸カルシウム(Mallinckrodt製))、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、タルク等が挙げられる。
【0036】
本発明の製剤(錠剤)において用いられる「保存剤」としては、例えば、パラオキシ安息香酸エチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸等が挙げられる。
【0037】
本発明の製剤(錠剤)において用いられる「抗酸化剤」としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0038】
本発明の製剤(錠剤)において用いられる「着色剤」としては、例えば、食用色素(例:食用赤色2号若しくは3号、食用黄色4号若しくは5号等)、β-カロテン等が挙げられる。
【0039】
本発明の製剤(錠剤)において用いられる「甘味剤」としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム等が挙げられる。
【0040】
本発明の製剤(錠剤)において用いられる「コーティング剤」としては、例えば、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。コーティング剤は、必要に応じて、マクロゴール類(例、マクロゴール6000)、トリアセチン等の可塑剤、酸化チタン等の遮光剤、タルク等の付着防止剤など他の添加剤と混合してコーティングに使用しても良い。また、必要に応じてマクロゴール類あるいはトリアセチン等の可塑剤、酸化チタン等の遮光剤など他の添加剤と組み合わせたオパドライII(カラコン社製)などのプレミックスコーティング剤を使用しても良い。
【0041】
本発明の製剤(錠剤)は、製薬上許容される担体として、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及びポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーを含むものが好ましく、これらに加え、更に、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びクロスポビドンを含むものがより好ましい。
【0042】
本発明の製剤(錠剤)は、無水物換算のクエン酸第二鉄が、クエン酸第二鉄中の水分を除いた素錠100質量部に対して、好ましくは70質量部~90質量部、さらに好ましくは70質量部~85質量部、特に好ましくは70質量部~80質量部の比で含まれる。
別の態様としては、本発明の製剤(錠剤)は、無水物換算のクエン酸第二鉄が、クエン酸第二鉄中の水分を除いた素錠100質量部に対して、好ましくは70質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上、特に好ましくは85質量部以上の比で含まれてもよい。
ここで、本明細書において、「素錠」とは、錠剤がコーティング錠である場合は、コーティング前の素錠を意味し、錠剤がコーティングされない場合は、錠剤そのものを意味する。
本発明の製剤として、クエン酸第二鉄を高含有量で含む錠剤を提供することができ、その結果、錠剤を小型化すること及び/又は服用する個数を減少させることができ、服用コンプライアンスを向上できる。
「無水物換算量」とは、クエン酸第二鉄の固形物に対応する量である。具体的にはクエン酸第二鉄をカールフィッシャー法により水分を測定し、かかる水分を除いた固形物分のクエン酸第二鉄量をいう。
【0043】
本発明の製剤(錠剤)の好適な具体例としては、限定されないが、例えば、国際公開第2012/005340号、特開2012-31166号公報等の実施例及び製剤例に記載されたものが挙げられる。
【0044】
本発明の製剤を、鉄欠乏性貧血の治療又は改善に使用する場合、クエン酸第二鉄の適切な投与量は、患者により異なる。一般に、投与量は、実質的に有害な副作用を起こさずに所望の効果を達成する血中濃度を、作用の部位において達成するように選択される。ここで、選択される投与レベルは、限定するものではないが、例えば、クエン酸第二鉄の投与経路、投与の時間、排出速度、治療の継続期間、組み合わせて使用される他の薬物、並びに患者の年齢、性別、体重、病態、全般的健康状態、及び既往歴を含む種々の因子に依存する。
【0045】
in vivo投与は、全治療過程を通して、一回の投与で、連続的に、又は断続的に(例えば、適切な間隔をあけて分割投与で)行うことができる。1回又は複数回の投与は、治療する医師により選択される用量レベル及びパターンで実施することができる。例えば、成人患者に経口投与する場合、クエン酸第二鉄の好適な用量は、1日あたり、無水物換算量として、通常約0.25~8 gの範囲であり、好ましくは約0.25~3 gの範囲であり、より好ましくは約0.25~2 gの範囲であり、特に好ましくは約0.5~1.5 gの範囲である。1日あたりの好適な用量としては、無水物換算量として、0.25g、0.5g、0.75g、1.0g、1.25g及び1.5gが具体的に挙げられる。上記の量を1回又は複数回に分けて、食前、食間、食後、または食事と共に投与することができる。中でも、食後の投与が好ましく、食直後の投与が特に好ましい。
【0046】
本発明において、「治療」とは、疾患もしくは症状の治癒又は改善、或いは症状の抑制を意味し、「予防」を含む。「予防」とは、疾患又は症状の発現を未然に防ぐことを意味する。
【0047】
3.過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者
本発明の医薬(予防及び/又は治療剤、並びに医薬組成物)の投与対象である「過多月経患者」とは、過多月経に伴う失血により鉄欠乏性貧血の症状を呈している患者(女性)を意味する。また、「過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者」とは、前記過多月経患者とは別に、過多月経を伴う疾患である、子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、双角子宮等の婦人科疾患に罹患している患者を意味する。過多月経患者の多くは、過多月経を伴う婦人科疾患を有しているので、本発明における「過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者」の多くは、原疾患である子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、双角子宮等の疾患や症状を治療及び/又は軽減するための他の薬剤(例、ホルモン療法剤、止血剤等)を併用している。
【0048】
前記他の薬剤としては、例えば、子宮筋腫治療薬、子宮内膜症治療薬、子宮腺筋症治療薬、子宮内膜ポリープ治療薬、双角子宮治療薬、月経困難症治療薬等のホルモン療法剤、鎮痛薬、止血剤等が挙げられる。具体的には、ホルモン療法剤としては、例えば、GnRHアゴニスト、LHRH誘導体、GnRHアンタゴニスト、LHRHアンタゴニスト、卵胞ホルモン製剤、黄体ホルモン製剤、卵胞ホルモン・黄体ホルモン混合製剤(例、ノルエチステロン・エチニルエストラジオール、レボノルゲストレル・エチニルエストラジオール、デソゲストレル・エチニルエストラジオール、ドロスピレノン・エチニルエストラジオール等)、ダナゾール等が挙げられる。鎮痛剤としては、例えば、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、ロキソプロフェンナトリウム等のNSAIDs等が挙げられる。止血剤としては、例えば、トラネキサム酸、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム水和物、止血作用のある漢方薬(例えば、きゅう帰膠艾湯等)等が挙げられる。
【0049】
本発明において、「ホルモン療法」とは、各種症状に対してホルモン剤、あるいはホルモンの分泌を促進または抑制する薬剤(本明細書中では、これらを総称して「ホルモン療法剤」という。)を用いる治療法を意味する。ホルモン療法としては、例えば、ゲスターゲン療法、カウフマン療法(エストロゲン・ゲスターゲン周期療法)、ピルを用いる治療法等が挙げられ、使用されるホルモン療法剤としては、例えば、前記したものが挙げられる。
【0050】
4.鉄パラメータ
健常者は、通常、約4~5gの鉄をその体内に貯蔵している。この鉄のうちの約2.5gは、血液を通じて酸素を運ぶヘモグロビンに含まれる。残りの約1.5~2.5gの鉄の大部分は、全ての細胞に存在する鉄結合複合体に含まれるが、これは、骨髄並びに肝臓及び脾臓などの臓器に、より高度に濃縮されている。体の全鉄含有量のうち、約400mgが、酸素貯蔵(ミオグロビン)又はエネルギーを生産するレドックス反応を行うこと(シトクロムタンパク質)などの細胞過程に鉄を使用するタンパク質に利用される。貯蔵鉄に加えて、通常、約3~4mgの少量の鉄が、トランスフェリンと呼ばれるタンパク質に結合した血液血漿を通じて循環する。その毒性のために、遊離の可溶性第一鉄(鉄(II)又はFe2+)は、通常、体内では低濃度で維持される。
【0051】
過多月経による多量の出血により、体内の貯蔵鉄がまず枯渇する。体によって利用される鉄の大部分は、ヘモグロビンに必要とされるので、鉄欠乏性貧血は、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者の主な臨床症状である。
【0052】
過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者が健康を維持するのに十分な鉄貯蔵を有するかどうかを決定するために測定することができる全身鉄状態のいくつかのマーカーがある。これらのマーカーは、循環鉄貯蔵、鉄結合複合体に貯蔵される鉄、又はその両方に関するものであり得、一般に、鉄パラメータとも呼ばれる。鉄パラメータとしては、例えば、総鉄結合能(TIBC)、トランスフェリン飽和率(TSAT)、血清鉄レベル、肝臓鉄レベル、脾臓鉄レベル、血清フェリチン値、ヘプシジン、血清可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)等を挙げることができる。これらのうち、総鉄結合能(TIBC)、トランスフェリン飽和度(TSAT)及び血清鉄レベルは、一般に、循環鉄貯蔵として知られている。肝臓鉄レベル、脾臓鉄レベル及び血清フェリチン値は、一般に、貯蔵鉄又は鉄結合複合体に貯蔵される鉄と呼ばれる。上記鉄パラメータのうち、総鉄結合能(TIBC)、トランスフェリン飽和率(TSAT)、血清鉄レベル、血清フェリチン値、ヘプシジン、血清可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)等を調べることにより、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者が、鉄欠乏性貧血状態にあるかどうかを診断することができる。
【0053】
5.血中ヘモグロビン値(Hb)
血中ヘモグロビン値(Hb)とは、一定量の血液中に含まれるヘモグロビンの重量を意味する。血中ヘモグロビン値(Hb)の基準値(正常値)は、男性が13.1~16.6g/dL、女性が12.1~14.6g/dLであり、血中ヘモグロビン値(Hb)が12g/dL未満であれば、鉄欠乏性貧血状態であることが疑われる。しかし、鉄欠乏性貧血かどうかについては、血中ヘモグロビン値(Hb)のみからは診断することが出来ず、後述する総鉄結合能(TIBC)、トランスフェリン飽和率(TSAT) 、血清鉄レベル、血清フェリチン値等の複数の項目の測定結果から総合的に判断する。
【0054】
6.総鉄結合能(TIBC)
総鉄結合能(TIBC)は、鉄をタンパク質トランスフェリンと結合させる血液の能力の尺度である。TIBCは、通常、血液試料を採取し、該試料が担持することができる鉄の最大量を測定することにより測定される。したがって、TIBCは、血液中で鉄を輸送するタンパク質であるトランスフェリンを間接的に測定するものである。総鉄結合能(TIBC)の基準値(正常値)は、男性が250~385μg/dL、女性が260~420μg/dLである。過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者が、出血により鉄が不足すると、体内では鉄の不足を解消しようと消化管からの鉄の吸収を亢進させたり、鉄を効率よく運べるように血液中のトランスフェリンの量を増して鉄欠乏状態を解消させようとする。そのため、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者が鉄欠乏性貧血状態にある時はTIBC値が高い値を示すようになる。TIBC値が360μg/dL以上であれば、鉄欠乏性貧血であることが疑われるが、他のパラメータの測定結果との組み合わせにより診断される。
【0055】
7.トランスフェリン飽和率(TSAT)
貯蔵鉄に加えて、通常、約3~4mgの少量の鉄が、トランスフェリンと呼ばれるタンパク質に結合した血液血漿を通じて循環する。したがって、血清鉄レベルは、タンパク質のトランスフェリンに結合している、血液中に循環している鉄の量によって表すことができる。トランスフェリンは、1個又は2個の第二鉄(鉄(III)又はFe3+)イオンに結合することができる、肝臓によって産生される糖タンパク質である。これは、最も一般的かつ動的な血液中の鉄の担体であり、したがって、全身で使用するための貯蔵鉄を輸送する身体能力の必須構成要素である。トランスフェリン飽和率(TSAT)は、百分率として測定され、血清鉄と総鉄結合能(TIBC)の比に100を乗じたものとして計算される。この値は、鉄に結合することができるトランスフェリンの総量に対して、どのくらいの血清鉄が実際に結合しているかを示す。TSATの基準値(正常値)は、男性が約15~50%、女性が12~45%(30%前後)である。過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者が鉄欠乏性貧血状態にある時は、トランスフェリンによって結合されることができる鉄の量が減少するので、TSAT値は、通常、顕著に低下する。TSAT値が16%以下であれば、鉄欠乏性貧血であることが疑われるが、他のパラメータの測定結果との組み合わせにより診断される。
【0056】
8.血清鉄レベル
血清鉄レベルは、タンパク質のトランスフェリンに結合している、血液中に循環している鉄の量(すなわち、血清中に含まれる鉄分の量)によって表すことができる。血清鉄レベルの基準値(正常値)は、男性が60~210μg/dL、女性が50~170μg/dLである。過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者が鉄欠乏性貧血状態にある時は、血清鉄レベルが顕著に低下する。
【0057】
9.血清フェリチン値
フェリチンは、鉄と結合して肝臓や脾臓・骨髄などの全身に貯蔵鉄として存在する。血清中の鉄が減少してくると、フェリチンはトランスフェリンに鉄を供給し、多くなると、トランスフェリンから鉄をもらい貯蔵する。血清フェリチン値は、貯蔵鉄量とよく相関することが知られているため(血清フェリチン1ng/mlが、貯蔵鉄8~10mgに相当する)、血清フェリチン値の変化を調べることにより生体内の貯蔵鉄の減少・増加を観測することができる。血清フェリチン値の基準値(正常値)は、男性が20~250ng/mL 、女性が5~120ng/mLである。過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者が鉄欠乏性貧血状態にある時は、血清フェリチン値が顕著に低下する。血清フェリチン値が12ng/ mL未満であれば、鉄欠乏性貧血であることが疑われるが、他のパラメータの測定結果との組み合わせにより診断される。
【0058】
10.平均赤血球容積(MCV)
MCVは、血中に含まれる赤血球の大きさを表す。MCV値が低くなると、全身への酸素の運搬力が不足することにより息切れやめまいなどの貧血症状(小球性貧血)を起こしやすくなる。MCVの基準値(正常値)は、男性が82.7~101.6fL、女性が79~100fLである。MCV 値が80 fL未満であれば、鉄欠乏性貧血が疑われるが、他のパラメータの測定結果との組み合わせにより診断される。
【0059】
11.ヘプシジン(ヘプシジン-25)
ヘプシジンは、鉄過剰に応答して分泌され、鉄欠乏状態では濃度が低下する。それ故、ヘプシジン-25値の上昇は、鉄欠乏性貧血治療の指標となる。ヘプシジン-25値の上昇は、感染防御や炎症組織の保護に寄与することがわかっている。
【0060】
12.血清可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)
トランスフェリン受容体は、血清中の鉄輸送蛋白であるトランスフェリンと結合し細胞内への鉄の取り込みに必須の膜蛋白であるといわれているが、一部は血清中に遊離する。その大部分は、赤血球造血の中心である赤芽球より遊離し、赤芽球造血の総量を知るうえで血清可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)濃度が臨床的に有用である。貧血における造血能の回復徴候を調べる際に有用である。鉄欠乏性貧血患者ではsTfRが上昇するが、慢性疾患による貧血の場合は、正常値であるため、sTfRの低下は、鉄欠乏性貧血の治療の指標となる。
【0061】
13.線維芽細胞増殖因子(FGF)23(C末端FGF23(cFGF23)、全長FGF23(iFGF23))
FGF23は、主に骨細胞により産生され、Klotho-FGF受容体複合体に結合することにより、リンと1,25-水酸化ビタミンD濃度を低下させるなどの作用を発揮するホルモンである。鉄欠乏状態では、FGF23の転写が亢進され、FGF23の分解も亢進されると考えられており、鉄欠乏状態の改善時には、cFGF23の低下が観測される。FGF23の上昇は、心不全のリスク上昇に寄与することが知られており、cFGF23値の低下は心不全リスクの低下に寄与することが期待される。
【0062】
14.過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の診断基準
日本鉄バイオサイエンス学会治療指針作成委員会編,鉄剤の適正使用による貧血治療指針改訂[第3版],2015年には、下記表1に示される鉄欠乏性貧血の診断基準が記載されている。本明細書においても、表1の診断基準に従い、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者を診断し、鉄欠乏性貧血状態にある被験対象者を選定した。
【0063】
【0064】
後述する実施例において示されるように、本発明の製剤は、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療に有効であることが確認された。具体的には、本発明の製剤の投与により、投与量の多少に依らず、鉄欠乏性貧血状態にある過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者のヘモグロビン値、血清鉄レベル、血清フェリチン値、総鉄結合能(TIBC)及びトランスフェリン飽和率(TSAT)がいずれも改善された。また、過多月経を伴う婦人科疾患である子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、双角子宮等の治療のための他の薬剤等(特に、経血量に影響を与えるホルモン療法剤、止血剤等)と併用した場合でも、副作用の発現や薬効の低下を生じさせることなく、安全に使用することができることが確認された。
【実施例0065】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
鉄欠乏性貧血患者に対するクエン酸第二鉄(開発コード:JTT-751)の7週間投与試験(第II相臨床試験)
【0067】
(治験デザイン)
本試験は、3期の多施設安全性及び有効性臨床試験であった。第一の期間は、前観察期(第-40日目~第-1日目)であり、第二の期間は、投与期(第1日目~第48日目)(有効性及び安全性評価期間)であり、第三の期間は、後観察期(第49日目~第63日目)(有効性及び安全性評価期間)であった。安全性評価及び有効性評価は、多施設共同、プラセボ対照、ランダム割付、二重盲検、並行群間比較試験により行われた。
【0068】
観察開始日は、被験者から同意を文書により取得後,治験薬投与開始前日(Week 0)の39 日前から14 日前まで(第-40日目~第-15日目)に設定される。観察開始日に被験者選択のための以下の調査(表2)を実施し適格性を確認する。
【0069】
【0070】
Week 0とは、治験薬投与開始前日(第-1日目)の観察日名称をいう。Week 0 に下表3の項目を調査する。
【0071】
【0072】
また、観察開始日及び以後の観察日は、この日を基準とする。なお、Week 0 の翌日を治験薬投与開始日とし、第1日目とする。
【0073】
Week 3とは、3週後(第21日目)の観察日名称をいう。Week 3 に下表4の項目を調査する。
【0074】
【0075】
Week 7とは、7週後(第49日目)の観察日名称をいう。Week 7 に下表5の項目を調査する。
【0076】
【0077】
F-up Visitとは、Week 0 の9 週後(第63日目)の観察日名称をいう。Week 0 の9 週後 に下表6の項目を調査する。
【0078】
【0079】
(試料採取)
被験者から血液及び尿を採取し、有効性の調査、安全性の調査及びその他の調査に供する。なお、試料採取及び検体処理の手順については「検体処理の手順書」に従う。また、被験者の選択基準及び中止基準の確認のため、「Hb 値の簡易測定に関する手順書」に従い、指先より微量の採血を実施する。
【0080】
(対象被験者)
鉄欠乏性貧血患者
【0081】
(選択基準)
観察開始日の最初の検査を実施する前に治験参加予定者より文書で同意を取得する。以下の基準を満たす患者を対象とする。
(1) 同意取得時の満年齢が20 歳以上65 歳未満の外来通院が可能な日本人患者
(2) 観察開始日及びWeek 0 のHb 値(治験実施医療機関にてHemoCue(R) Hb 201 DM アナライザを用いて測定)がともに7.0 g/dL 以上11.0 g/dL 未満で、その差が1.0 g/dL 以下の患者
(3) 観察開始日のTIBC が360 μg/dL 以上あるいは血清フェリチン値が12 ng/mL 未満の患者
【0082】
(除外基準)
(1) 鉄欠乏以外が主たる原因である貧血を有すると治験責任医師又は治験分担医師が判断した患者(観察開始日の平均赤血球容積(MCV) が85 fL 以上など)
(2) 観察開始日の血清リン濃度が2.5 mg/dL 未満の患者
(3) 鉄欠乏の原因となる出血病巣を有している場合、Week 0 前8 週以内の、出血量に明らかな影響を及ぼす治療が一定でない患者(卵胞・黄体ホルモン配合剤を服用中の患者の場合、Week0 前直近2 サイクル分の服用パターンが一定でない患者など)
(4) 閉経前の女性患者の場合、Week 0 前直近2 回の月経周期のいずれかが25 日以上35 日以下ではない患者
(5) 肝機能障害を有する患者(観察開始日のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)又はアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)が100 IU/L 以上など)、又はC 型慢性肝炎を合併する患者
(6) 急性の消化性潰瘍、慢性潰瘍性大腸炎、限局性腸炎等の胃腸疾患(慢性胃炎は除く)を合併する患者
(7) 発作性夜間血色素尿症を合併する患者
(8) 鉄含有製剤に対して過敏症の既往がある患者
(9) 胃もしくは十二指腸切除(ポリープ切除等の内視鏡的切除術は除く)の既往がある患者
(10) 悪性腫瘍(血液悪性腫瘍を含む)を合併する患者又は観察開始日前5 年以内に既往がある患者
(11) 脳、肝、腎、心、肺、消化器、血液、内分泌系、代謝系及び精神系などに重篤な合併症を有する患者
(12) 観察開始日前4 週以内に静注鉄剤の投与を受けた患者
(13) 観察開始日前12 週以内に輸血あるいは献血をした患者
(14) 観察開始日前12 週以内に赤血球造血刺激因子製剤、タンパク同化ホルモン、エナント酸テストステロン、メピチオスタンの投与を受けた患者
(15) アナフィラキシーショック等の重篤な薬剤アレルギーの既往がある患者
(16) 薬物依存症又はアルコール依存症の既往あるいは合併のある患者
(17) 観察開始日前12 週以内に、他の治験薬(又は試験薬)の投与又は治験機器(又は試験機器)の施行を受けた患者、あるいは介入を伴う臨床研究(通常の診療を超える医療行為であって、研究目的で実施するもの)に参加し処置を受けた患者
(18) 過去に、治験においてJTT-751 の投与を受けたことのある患者、あるいはリオナ(登録商標)錠250 mgによる治療を受けたことのある患者
(19)妊娠中、授乳中又は妊娠している可能性(観察開始日の妊娠検査又はWeek 0の問診で治験責任医師又は治験分担医師が妊娠している可能性を否定できない場合)のある患者、あるいは同意取得からWeek 0 の9 週後又は中止後検査まで適切な方法で避妊することに同意が得られなかった妊娠可能な患者。男性患者の場合、治験薬投与開始後からWeek 0 の9 週後又は中止後検査まで適切な方法で避妊することに同意が得られなかった患者
(20) その他、治験責任医師又は治験分担医師が被験者として不適切と判断した患者
【0083】
(治験薬)
クエン酸第二鉄(開発コード:JTT-751)は、錠剤(カプレット)の形態で投与され、各錠剤は、クエン酸第二鉄として、250mgを含有する。
【0084】
(治験薬の投与量・投与方法・投与期間)
JTT-751 錠の投与量はクエン酸第二鉄として、それぞれ0 mg/日(プラセボ)、250 mg/日、500 mg/日、1000 mg/日又は1500 mg/日とする。
JTT-751 錠250 mg もしくはJTT-751 錠プラセボを1 日3 回(1 回2 錠)、毎食直後に経口投与する。各投与群における投与時期ごとの使用製剤及び使用錠数を下表7に示す。
【0085】
【0086】
治験薬を投与する期間は、Week 0 の来院翌日からWeek 7 の来院前日までの7週間とする。ただし、Week 3 の規定来院日は服用しないものとする。
【0087】
(併用禁止薬)
観察開始日よりWeek 0 の9 週後又は中止時検査の調査終了時まで、以下の薬剤の使用を禁止する。
(1) 経口鉄剤及び静注鉄剤
(2) 赤血球造血刺激因子製剤
(3) タンパク同化ホルモン、エナント酸テストステロン、メピチオスタン
(4) 経口鉄剤の吸収改善を目的とした医薬品
(5) 高リン血症の治療を目的とした医薬品
(6) 国内未承認薬及び他の治験薬(又は試験薬)
【0088】
(併用禁止療法)
観察開始日よりWeek 0 の9 週後又は中止時検査の調査終了時まで、以下の療法の施行を禁止する。
(1) 鉄欠乏の原因となる出血病巣に対する外科的療法
(2) 輸血
(3) 献血
(4) 鉄補給あるいは鉄吸収改善を主目的としたサプリメント
(5) 国内未承認医療機器及び治験機器(又は試験機器)
【0089】
(併用制限薬)
(1) 併用禁止薬として規定するものを除き、観察開始日よりWeek 0 の9 週後又は中止時検査の調査終了時まで、観察開始日以前から投与していた薬剤の使用は可能とするが、原則として、新たに開始あるいは中止せず、用法用量を変更しないこととする。ただし、急性疾患又は有害事象の処置等を目的として使用する場合はその限りではない。なお、経血量に明らかな影響を及ぼす薬剤(卵胞・黄体ホルモン配合剤、黄体ホルモン製剤、黄体ホルモン放出システム、GnRHアゴニスト製剤及びダナゾール製剤等)については、新たな開始、中止並びに用法用量の変更を不可とする。
(2) 治験薬の投与期間中、以下の薬剤は投与間隔を可能な限り空けるなど、同時に服用させないように注意する。
1) 甲状腺ホルモン製剤(レボチロキシン等)
2) キノロン系抗菌剤(シプロフロキサシン等)
3) テトラサイクリン系抗生物質(テトラサイクリン等)
4) セフジニル
5) 抗パーキンソン病治療薬(ベンセラジド、レボドパ等)
6) エルトロンボパグ オラミン
7) 制酸剤(水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム等)
【0090】
(有効性に関する評価項目)
(1) 主要評価項目
投与終了時におけるWeek 0 からの血中ヘモグロビン(Hb)値の変化量
(2) 副次評価項目
1) 各観察日における赤血球関連検査値及びWeek 0 からの変化量
2) 各観察日における鉄関連検査値及びWeek 0 からの変化量
3) 各観察日におけるHb 値の目標値(女性;12.0 g/dL 以上、男性;13.0 g/dL 以上)への到達率
4) 各観察日におけるWeek 0 からのHb 値の改善が1.0 g/dL 以上の達成率及び2.0 g/dL 以上の達成率
5) Week 0 から各観察日までのHb 値の1 日平均変化量
【0091】
(安全性に関する評価項目)
(1) 有害事象、副作用(自覚症状、他覚所見)
(2) バイタルサイン(血圧、脈拍数、体重、体温)
(3) 標準12 誘導心電図
(4) 臨床検査(血液学的検査、血液生化学的検査、血液凝固系検査、尿検査)
【0092】
(有害事象)
有害事象とは、治験薬が投与された被験者に生じたあらゆる好ましくない医療上のできごとであり、必ずしも当該治験薬の投与との因果関係が明らかなもののみを示すものではない。すなわち、有害事象とは、治験薬が投与された際に起こる、あらゆる好ましくないあるいは意図しない徴候(臨床検査値の異常を含む)、症状、又は病気のことであり、当該治験薬との因果関係の有無は問わない。治験責任医師又は治験分担医師は、以下に該当する自覚症状、他覚所見、臨床検査、バイタルサイン及び標準12 誘導心電図における変化を有害事象とみなす。
(1) 自覚症状及び他覚所見において、治験薬投与開始前と比べて、治験薬投与開始時からWeek 0 の9 週後又は中止後検査終了時までの間に「新たな異常の発現」が認められた場合。
(2) 治験薬投与開始前から認められていた被験者の症状(合併症など)の増悪に伴い、治験薬投与開始時からWeek 0 の9 週後又は中止後検査終了時までの間に、新たな医療上のできごと(併用薬剤の追加・増量等)が発生したもの、あるいは必要とされた場合、若しくは治験責任医師又は治験分担医師がこれらの症状の増悪を医学的に悪化であると判断した場合。
(3) 臨床検査、バイタルサイン及び標準12 誘導心電図において、治験薬投与開始時からWeek 0 の9 週後又は中止後検査終了時までの間に新たに認められた異常、又は治験薬投与開始前から認められていた異常の増悪について、治験責任医師又は治験分担医師が臨床上問題であると判断した場合。
有害事象の調査期間は、治験薬投与開始後からWeek 0 の9 週後又は中止後検査終了時までとする。
有害事象の重症度は以下の基準を参考にして、3 段階(グレード1、グレード2、グレード3をそれぞれ軽度、中等度、高度に読み替える)で判定する。
<参考基準>
軽 度:日常生活動作に支障なし
中等度:日常生活動作を低下させた、あるいは影響を及ぼした
高 度:日常生活動作を不能にした、あるいは死亡した
【0093】
(統計解析)
(1) 有効性解析対象集団
有効性解析対象集団として、最大の解析集団(FAS:Full Analysis Set)及び治験実施計画に適合した症例より構成される解析対象集団(PPS:Per Protocol Set)を設定する。なお、経口鉄剤によって、Hb 値が増加し始めるのは投与1~2 週後であることから、治験薬の投与が1 週間未満の症例はFAS 解析対象集団から除外することとした。
1) FAS
治験薬が1 週間以上投与され、有効性に関する調査が少なくとも1 回実施された症例
2) PPS
治験実施計画に適合し、治験薬の服薬率が75%以上で、有効性評価に関してWeek 7 の評価(Week 7 に該当する観察日に行った中止時の評価を含む)がなされた症例
(2) 安全性解析対象集団
安全性解析対象集団とは、治験薬が投与され、安全性に関する調査が1 回以上実施された症例を意味する。
(3) 算出項目に関する取り扱い
検査値の変化量、変化率の算出、及び変化に関する解析(臨床検査値異常値など)を実施する場合の基準値をベースライン値(Baseline)とする。ベースライン値は、治験薬投与開始前かつWeek 0 に最も近い時点で測定された検査値とする。
(4) 解析方法
1) 有意水準
有効性の調査項目に関する検定の有意水準を両側5%とする。投与群間の不均衡を検討する際には両側15%程度を目安とし、多重性の調整は行わない。
2) 記述統計量の算出方法
計数値に対しては、度数集計を実施し例数及び百分率を算出する。計量値に対しては、例数(N)、平均値(Mean)、標準偏差(SD)、中央値(Median)、最小値(Min)、最大値(Max)を算出する。
3) 被験者数の内訳
PPS、FAS 及び安全性解析対象集団別に同意取得例数、割付例、未割付例、投与例、未投与例、投与完了例、投与未完了例、治験完了例、治験未完了例、治験未完了の理由の度数集計を投与群別に行い、被験者数の内訳を確認する。また、中止症例については、中止症例一覧表を作成し、中止内容の検討を行う。
4) 被験者背景
解析対象集団をPPS、FAS 及び安全性解析対象集団とする。
計量値(満年齢、身長、体重、血圧、脈拍数、体温)について記述統計量を投与群別に算出する。計数値(性別、閉経の有無(女性の場合)、過去の鉄剤投与経験の有無及び投与経路、既往歴の有無、合併症の有無、原疾患)については度数集計を投与群別に行う。
なお、被験者背景項目における投与群間の不均衡を確認するため、計量値に対して分散分析、計数値及びカテゴリ変数に対しては、カテゴリ数が2つの場合はFisher’s exact 検定、カテゴリ数が3つ以上の場合はカイ2 乗検定を行う。
5) 有効性
FAS 及びPPS を対象に、有効性評価項目のベースライン値について、投与群別に記述統計量を算出する。また有効性評価項目ごとにカテゴリを作成し、度数集計を行う。また部分集団解析にて層別を行う計量値についても、部分集団解析で用いるカテゴリに対して度数集計を行う。ただし、部分集団解析の詳細については、統計解析計画書に定める。
なお、有効性評価項目のベースラインにおける投与群間の不均衡を確認するため、計量値に対して分散分析、計数値及びカテゴリ変数に対しては、カテゴリ数が2つの場合はFisher’s exact 検定、カテゴリ数が3つ以上の場合はカイ2 乗検定を行う。FAS を対象に、各観察日における検査値及び変化量の記述統計量を投与群別に算出する。
各投与群における平均値を、プラセボ群(μ1)、250 mg 群(μ2)、500 mg 群(μ3)、1000 mg群(μ4)、1500 mg 群(μ5)とする。用量反応性が単調増加であることを仮定し、以下に示した仮説に対してWilliams の検定(有意水準片側2.5%)を行い、プラセボ群より効果のある最低用量を決定する(主要解析)。
(仮説)
包括的帰無仮説:各群の平均値(μ)が等しいH0:μ1=μ2=μ3=μ4=μ5
対立仮説:プラセボ群の平均値より、少なくとも1500 mg 群の平均値が大きいH1:μ1 ≦μ2 ≦ μ3 ≦ μ4 ≦ μ5(ただし、少なくとも1 つの“≦”は“<”)
6) 安全性
解析対象集団を安全性解析対象集団として、試験治療下で発現した有害事象及び副作用の集計及び評価を行う。MedDRA 読替え後の基本語(PT)と器官別大分類(SOC)を用いて有害事象及び副作用の発現例数(発現率)を主な指標として安全性の評価を行う。
バイタルサイン、標準12 誘導心電図、臨床検査計量値は記述統計量を算出し、計数値は分類値を度数集計する。また、検査値が得られないような項目の場合、治験責任医師の所見などに基づき、安全性の検討を行う。
検査値の異常値の検討治験依頼者が定めた「臨床検査項目等に関する異常値についての基準」に抵触する異常値について、投与群別に発現例数(発現率)を算出する。
7) その他の調査
服薬状況については、解析対象集団をFAS、PPS 及び安全性解析対象集団として、投与群別に各時点における服薬率を算出し、度数集計を行う。安全性解析対象集団を対象として、治験薬が投与された症例数、期間及び用量について度数集計を行い、安全性解析集団の曝露状況について検討を行う。期間については、休薬期間を除いた実曝露期間とする。
月経状況については、治験期間中における月経過多の回数について、投与群別に度数集計を行う。また、治験期間中における月経期間について、投与群別に記述統計量を算出する。
【0094】
(有効性に関する評価)
血中ヘモグロビン値(Hb)、血清鉄レベル、血清フェリチン値、総鉄結合能(TIBC)及びトランスフェリン飽和率(TSAT)、及び平均赤血球容積(MCV)の検査は、それぞれ、観察開始日、Week 0、Week 3、Week 7、投与終了時及びWeek 0 の9 週後の診察時に行われ、ヘプシジン濃度(ヘプシジン-25)、及び血清可溶性トランスフェリン受容体濃度(sTfR)の検査は、それぞれ、Week 0、Week 3、Week 7及び投与終了時に行われ、C末端FGF23値(cFGF23)、及び全長FGF23値(iFGF23)の検査は、それぞれ、Week 0、Week 7及び投与終了時に行われた。以下に、JTT-751 錠の投与による血中ヘモグロビン値(Hb)及び各パラメータの変化について、検査(測定)結果に基づき説明する。ただし、以下は、上記の鉄欠乏性貧血患者についての第II相臨床試験の結果のうち、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者についての結果についてである。
【0095】
(血中ヘモグロビン値(Hb))
クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)の投与終了時におけるベースラインからの血中ヘモグロビン値(Hb)の変化量及びWilliams検定結果を、表8に示した。
【0096】
【0097】
表8の結果によれば、クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)投与群の血中ヘモグロビン値は、投与量の多少に関わらず、プラセボ投与群と比較して有意に増加することが確認され、また、JTT-751 錠投与群では、血中ヘモグロビン値が基準値付近(又は基準値以上)まで改善された。さらに、クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)の投与量増加に伴い血中ヘモグロビン値が増加することも確認された。
【0098】
クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)投与群及びプラセボ投与群、それぞれの観察開始日、Week 0、Week 3、Week 7、投与終了時及びWeek 0 の9 週後の診察時における血中ヘモグロビン値(Hb)の推移を、表9~11に示した。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
表9~11の結果によれば、プラセボ投与群では、血中ヘモグロビン値の経時的な変化は観測されなかったが、JTT-751 錠投与群では、Week 0、Week 3及びWeek 7と、JTT-751 錠が継続的に投与されるに従い、血中ヘモグロビン値も増加を示した。また、Week 0 の9週後(投与終了2週間後)においても、血中ヘモグロビン値の減少は見られなかった。
【0103】
(血清鉄レベル)
クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)投与群及びプラセボ投与群、それぞれのWeek 0、Week 3、Week 7、投与終了時及びWeek 0 の9 週後の診察時における血清鉄レベルの推移を、表12~13に示した。
【0104】
【0105】
【0106】
表12~13の結果によれば、プラセボ投与群では、血清鉄レベルの経時的な変化は観測されなかったが、JTT-751 錠投与群では、Week 0、Week 3及びWeek 7と、JTT-751 錠が継続的に投与されるに従い、血清鉄レベルも正常値である50μg/dL程度まで増加を示した。JTT-751 錠1000mg投与群及びJTT-751 錠1500mg投与群では、血清鉄レベルWeek 3の時点で正常値まで改善された。
【0107】
(血清フェリチン値)
クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)投与群及びプラセボ投与群、それぞれのWeek 0、Week 3、Week 7、投与終了時及びWeek 0 の9 週後の診察時における血清フェリチン値の推移を、表14~15に示した。
【0108】
【0109】
【0110】
表14~15の結果によれば、プラセボ投与群では、血清フェリチン値の経時的な変化は観測されなかったが、JTT-751 錠投与群では、Week 0~Week 3において、JTT-751 錠が継続的に投与されるに従い、血清フェリチン値も正常値である12~30ng/mL程度まで増加を示した。
【0111】
(総鉄結合能(TIBC))
クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)投与群及びプラセボ投与群、それぞれのWeek 0、Week 3、Week 7、投与終了時及びWeek 0 の9 週後の診察時における総鉄結合能(TIBC)のベースライン(Week 0時点の値)からの推移を、表16~17に示した。
【0112】
【0113】
【0114】
表16~17の結果によれば、プラセボ投与群では、総鉄結合能(TIBC)の経時的な変化は観測されなかったが、JTT-751 錠投与群では、Week 0、Week 3及びWeek 7と、JTT-751 錠が継続的に投与されるに従い、総鉄結合能(TIBC)も減少を示した。
【0115】
(トランスフェリン飽和率(TSAT))
クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)投与群及びプラセボ投与群、それぞれのWeek 0、Week 3、Week 7、投与終了時及びWeek 0 の9 週後の診察時におけるトランスフェリン飽和率(TSAT)のベースライン(Week 0時点の値)からの推移を、表18~19に示した。
【0116】
【0117】
【0118】
表18~19の結果によれば、プラセボ投与群では、トランスフェリン飽和率(TSAT)の経時的な変化は観測されなかったが、JTT-751 錠投与群では、Week 0、Week 3及びWeek 7と、JTT-751 錠が継続的に投与されるに従い、トランスフェリン飽和率(TSAT)も増加(最大で17%程度の増加)を示した。
【0119】
(平均赤血球容積値(MCV))
クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)投与群及びプラセボ投与群、それぞれの観察開始日、Week 0、Week 3、Week 7、投与終了時及びWeek 0 の9 週後の診察時における平均赤血球容積値(MCV)の推移を、表20に示した。
【0120】
【0121】
表20の結果によれば、プラセボ投与群では、平均赤血球容積値(MCV)の経時的な変化は観測されなかったが、JTT-751 錠投与群では、Week 0、Week 3及びWeek 7と、JTT-751 錠が継続的に投与されるに従い、平均赤血球容積値(MCV)が増加し、投与終了時には正常値付近の値を示した。
【0122】
(ヘプシジン濃度(ヘプシジン-25))
クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)投与群及びプラセボ投与群、それぞれのWeek 0、Week 3、Week 7及び投与終了時におけるヘプシジン-25濃度の推移を、表21に示した。
【0123】
【0124】
表21の結果によれば、プラセボ投与群では、ヘプシジン-25濃度の経時的な変化は観測されなかったが、JTT-751 錠投与群では、Week 0、Week 3及びWeek 7と、JTT-751 錠が継続的に投与されるに従い、ヘプシジン-25濃度は増加を示した。
【0125】
(血清可溶性トランスフェリン受容体濃度(sTfR))
クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)投与群及びプラセボ投与群、それぞれのWeek 0、Week 3、Week 7及び投与終了時における血清可溶性トランスフェリン受容体濃度(sTfR)の推移を、表22に示した。
【0126】
【0127】
表22の結果によれば、プラセボ投与群では、血清可溶性トランスフェリン受容体濃度(sTfR)の経時的な変化は観測されなかったが、JTT-751 錠投与群では、Week 0、Week 3及びWeek 7と、JTT-751 錠が継続的に投与されるに従い、血清可溶性トランスフェリン受容体濃度(sTfR)は減少を示した。
【0128】
(C末端FGF23値(cFGF23))
クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)投与群及びプラセボ投与群、それぞれのWeek 0、Week 7及び投与終了時におけるC末端FGF23値(cFGF23)の推移を、表23に示した。
【0129】
【0130】
表23の結果によれば、プラセボ投与群では、C末端FGF23値(cFGF23)の経時的な変化は観測されなかったが、JTT-751 錠投与群では、JTT-751 錠が継続的に投与されるに従い、C末端FGF23値(cFGF23)は減少を示した。
【0131】
(全長FGF23値(iFGF23))
クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)投与群及びプラセボ投与群、それぞれのWeek 0、Week 7及び投与終了時における全長FGF23値(iFGF23)の推移を、表24に示した。
【0132】
【0133】
表24の結果によれば、プラセボ投与群では、全長FGF23値(iFGF23)の経時的な変化は観測されなかったが、JTT-751 錠1000mg投与群及び1500mg投与群では、 JTT-751 錠が継続的に投与されるに従い、全長FGF23値(iFGF23)は減少を示し、改善した。
【0134】
以上の結果から、クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)投与群においては、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療において、重要な役割を担う血中ヘモグロビン値(Hb)、鉄パラメータ及びその他のパラメータ(血清鉄レベル、血清フェリチン値、総鉄結合能(TIBC)、トランスフェリン飽和率(TSAT)、平均赤血球容積(MCV)、ヘプシジン濃度(ヘプシジン-25)、血清可溶性トランスフェリン受容体濃度(sTfR)、C末端FGF23値(cFGF23)、及び全長FGF23値(iFGF23))について顕著な改善傾向を示すことが確認された。
【0135】
(安全性に関する評価)
上記臨床試験の被験者は、いずれも鉄欠乏性貧血患者である。特に、過多月経を伴う婦人科疾患(子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、双角子宮等)を有する患者の場合には、当該原疾患の治療のための他の薬剤等(特に、経血量に影響を与える薬剤)と併用する必要があった。上記臨床試験のJTT-751 錠投与群においては、経血量に影響を与える薬剤である、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム(止血剤)、ノルエチステロン・エチニルエストラジオール(低用量ピル、月経困難症治療薬)、トランサミン(止血剤)、レボノルゲストレル・エチニルエストラジオール(経口避妊薬)、デソゲストレル・エチニルエストラジオール(経口避妊薬)、又はドロスピレノン・エチニルエストラジオール(月経困難症治療薬)が実際に併用されたが、併用による有害事象は一切報告されなかった。
【0136】
以上の結果によれば、クエン酸第二鉄(JTT-751 錠)は、経血量に影響を与える薬剤との併用においても、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者に対し安全に投与することが可能であり、且つ薬効の低下を生じさせることなく、各種鉄パラメータ、血中ヘモグロビン(Hb)、平均赤血球容積(MCV)およびC末端FGF23(cFGF23)の数値レベルを顕著に改善できることが確認された。
本発明によれば、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療に有効な医薬を提供することができる。また、本発明によれば、過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者におけるヘモグロビン値改善剤、血清鉄レベル改善剤、血清フェリチン値改善剤、総鉄結合能(TIBC)改善剤、トランスフェリン飽和率(TSAT)改善剤、平均赤血球容積(MCV)改善剤、ヘプシジン濃度(ヘプシジン-25)改善剤、血清可溶性トランスフェリン受容体濃度(sTfR)改善剤、C末端FGF23値(cFGF23)改善剤、及び全長FGF23値(iFGF23)改善剤も提供することができる。本発明のクエン酸第二鉄を有効成分として含有する医薬は、過多月経を引き起こす原疾患である子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、双角子宮等の治療のための他の薬剤等(特に、経血量に影響を与えるホルモン療法剤、止血剤等)と併用しても、副作用の発現や薬効の低下を生じさせることなく、安全に使用することができるので、原疾患の悪化や妊娠等のリスクを伴うため服薬アドヒアランスが重要な過多月経患者及び/又は過多月経を伴う婦人科疾患を有する患者における鉄欠乏性貧血の予防及び/又は治療に特に有用である。