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特開2024-2042ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊および作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002042
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊および作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20231228BHJP
【FI】
C12N5/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100992
(22)【出願日】2022-06-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「大学発新産業創出プログラム社会還元加速プログラム(SCORE)大学推進型」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】藤里 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】古賀野 悟士
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC14
4B065AC15
4B065BA30
4B065BC41
4B065BC47
4B065CA24
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】培養細胞塊から分泌される生理活性物質を保持することを提供する。
【解決手段】培養細胞塊を、生理活性物質を通過させずおよび/またはゲル膜に保持する機能を有し、かつ前記培養細胞塊に対する栄養素は透過可能な機能を有するゲル膜で覆うことにより、ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊を作製しうる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養細胞塊がゲル膜に覆われており、
前記ゲル膜は、前記培養細胞塊から分泌される生理活性物質をゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に保持する機能を有し、かつ前記培養細胞塊に対する栄養素は透過可能な機能を有する特徴とする、ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊。
【請求項2】
ゲル膜が、アルギン酸塩、アガロース、カラギーナン、ペクチン、キシログルカン、ジェランガム、セルロース、ゼラチン、デンプン、寒天、グリコーゲン、ヘパリン、フィブリン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールおよびポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)からなる群から選択されるいずれかを主成分とするゲル膜である、請求項1に記載のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊。
【請求項3】
培養細胞塊が骨格筋、内臓筋、心筋および括約筋からなる群から選択されるいずれかである、請求項1に記載のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊。
【請求項4】
培養細胞塊が非ヒト由来培養細胞塊である、請求項1または2に記載のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊。
【請求項5】
生理活性物質がホルモンである、請求項1または2に記載のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊。
【請求項6】
ホルモンがマイオカインである、請求項5に記載のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊。
【請求項7】
マイオカインがIL-6、IL-8、IL-15、SPARC、Irisin、BDNF、FGF-21、LIF、Fst/Fstl-1、ミオスタチン、デコリン、PGC-1およびオンコスタチンMからなる群から選択される1種または複数種である、請求項6に記載のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊。
【請求項8】
培養細胞塊をゲル膜で覆う工程を含む、ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊の作製方法であり、前記ゲル膜は、前記培養細胞塊から分泌される生理活性物質をゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に保持する機能、かつ前記培養細胞塊に対する栄養素は透過可能な機能を有することを特徴とする、作製方法。
【請求項9】
以下の1)および2)の工程を含む、請求項8に記載の作製方法:
1)培養細胞塊を電気的刺激または機械的刺激を行う工程;
2)培養細胞塊をゲル膜で覆う工程。
【請求項10】
前記1)の工程の電気的刺激が電圧および周波数を与えることによる電気的刺激である、請求項9に記載の作製方法。
【請求項11】
前記2)の工程の培養細胞塊をゲル膜で覆う工程が、前記培養細胞塊をゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬した後、ゲル膜形成成分が浸漬した培養細胞塊を金属イオンを含む溶液にさらに浸漬する工程である、請求項9に記載の作製方法。
【請求項12】
前記2)の工程の培養細胞塊をゲル膜で覆う工程が、前記培養細胞塊を、加熱融解処理したゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬した後、前記溶液の温度を一定に保つ工程である、請求項9に記載の作製方法。
【請求項13】
培養細胞塊から分泌される生理活性物質をゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に保持する方法であって、前記培養細胞塊を、ゲル膜で覆う工程を含み、前記ゲル膜で覆う工程が、前記培養細胞塊をゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬した後、ゲル膜形成成分が浸漬した培養細胞塊を金属イオンを含む溶液にさらに浸漬する工程であり、
前記ゲル膜は前記培養細胞塊に対する栄養素は透過可能な機能を有することを特徴とする、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊に関し、さらには該培養細胞塊を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な人口増加に伴い食糧需要は逼迫することが予想される。特に、畜産物需要量の伸びは大きいが、家畜の消化管内発酵および糞尿等の温室効果ガスの排出による地球温暖化が問題となる。また動物愛護の観点から肉食を忌避する消費者も増加している。このような食糧需要の高まりと、畜産物の問題点を解決するために、食肉の代替肉の開発が進んでいる。代替肉は、例えば培養肉、植物性代替肉等が挙げられ、2040年には60%が代替肉となり、そのうち半数は培養肉となると予想される。
【0003】
培養肉はウシ、ブタ等の動物の細胞を体外で組織培養にすることによって得られるが、特に動物の筋組織を三次元培養して得られる培食肉が注目されている。しかしながら、大部分は安価な挽肉相当を対象としており、本来の筋組織とは形状および物性、栄養価が異なる。
【0004】
近年、骨格筋が運動すると分泌される生理活性物質である「マイオカイン」が注目されている。マイオカインはすでに数百種存在すると言われており、筋肉自身はもちろん血管、脂肪、皮膚、肝臓、腎臓、骨、脳、消化器官、免疫系器官など他臓器の生理機能に影響を与えると考えられている。例えばマイオカインの1種であるインターロイキン6(IL-6)またはSecreted Protein Acidic and Rich in Cystein(SPARC)には、抗がん作用があることが報告されている。また脳由来神経栄養因子(Brain-derived nurotrophic factor:BDNF)は脳の認知機能、うつ症状等に関与することが報告されている。非特許文献1には、培養肉に使用される細胞およびマイオカインの生物学的効果が記載されている。
【0005】
本発明者らは培養筋組織を作製することに成功した(非特許文献2)。しかしながら、該培養筋組織を培養肉として利用する場合、培養筋組織から分泌されるマイオカインが培養液へと漏出されてしまう。このため、培養筋組織から分泌されるマイオカインの培養液への漏出をできるだけ防止する必要があると考えられる。
【0006】
一般に生体外で作製した培養細胞塊からは様々な生理活性物質が分泌される。分泌された生理活性物質は、培養液中へと漏出・拡散し、培養細胞塊内に留まらない。培養液中に分泌された生理活性物質から特定の生理活性物質のみを回収する場合はアフィニティカラム等を用いた精製方法、全物質を回収する場合は真空蒸発や限界濾過等の濃縮方法が用いられる。しかしながら、培養細胞塊を培養肉として使用し、培養細胞塊から分泌される生理活性物質および培養細胞塊を同時に利用したい場合は、これら精製・濃縮方法が使用できない等の問題点があった。
【0007】
細胞をマイクロカプセル内に封入することは知られており、例えば特許文献1には細胞を架橋化複合官能性ポリマーマトリックスの層を含んでなる安定化マイクロカプセル組成物およびその調製方法が開示されている。しかしながら、該マイクロカプセルは細胞から分泌される生理活性物質をマイクロカプセルの外側に分泌することを目的としており、マイクロカプセルの内側に該細胞から分泌される生理活性物質を保持することについては一切記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平11-501514号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Sibhghatulla Shaikh et.al, Foods 2021, 10, 2318
【非特許文献2】生体医工学 46(6):690-697, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
培養細胞塊と培養細胞塊から分泌される生理活性物質を同時に利用する場合、該生理活性物質は培養液へと漏出または拡散し、培養細胞塊内に留まることができない。従って本発明は、生理活性物質を保持することを課題とする。さらには、培養細胞塊から分泌される生理活性物質が保持された培養細胞塊を作製する方法および該培養細胞塊から分泌される生理活性物質を保持する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、培養細胞塊を、生理活性物質を通過させずおよび/またはゲル膜に保持する機能を有し、かつ前記培養細胞塊に対する栄養素は透過可能な機能を有するゲル膜で覆うことに注目した。さらに検討を重ねた結果、培養細胞塊から分泌される生理活性物質が、ゲル膜に覆われた内側および/またはゲル膜に保持するゲル膜で覆われた培養細胞塊を作製することに成功し、上記課題を達成しうることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明は以下よりなる。
1.培養細胞塊がゲル膜に覆われており、
前記ゲル膜は、前記培養細胞塊から分泌される生理活性物質をゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に保持する機能を有し、かつ前記培養細胞塊に対する栄養素は透過可能な機能を有する特徴とする、ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊。
2.ゲル膜が、アルギン酸塩、アガロース、カラギーナン、ペクチン、キシログルカン、ジェランガム、セルロース、ゼラチン、デンプン 、寒天、グリコーゲン、ヘパリン、フィブリン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールおよびポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)からなる群から選択されるいずれかを主成分とするゲル膜である、前項1に記載のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊。
3.培養細胞塊が骨格筋、内臓筋、心筋および括約筋からなる群から選択されるいずれかである、前項1に記載のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊。
4.培養細胞塊が非ヒト由来培養細胞塊である、前項1または2に記載のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊。
5.生理活性物質がホルモンである、前項1または2に記載のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊。
6.ホルモンがマイオカインである、前項5に記載のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊。
7.マイオカインがIL-6、IL-8、IL-15、SPARC、Irisin、BDNF、FGF-21、LIF、Fst/Fstl-1、ミオスタチン、デコリン、PGC-1およびオンコスタチンMからなる群から選択される1種または複数種である、前項6に記載のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊。
8.培養細胞塊をゲル膜で覆う工程を含む、ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊の作製方法であり、前記ゲル膜は、前記培養細胞塊から分泌される生理活性物質をゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に保持する機能、かつ前記培養細胞塊に対する栄養素は透過可能な機能を有することを特徴とする、作製方法。
9.以下の1)および2)の工程を含む、前項8に記載の作製方法:
1)培養細胞塊を電気的刺激または機械的刺激を行う工程;
2)培養細胞塊をゲル膜で覆う工程。
10.前記1)の工程の電気的刺激が電圧および周波数を与えることによる電気的刺激である、前項9に記載の作製方法。
11.前記2)の工程の培養細胞塊をゲル膜で覆う工程が、前記培養細胞塊をゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬した後、ゲル膜形成成分が浸漬した培養細胞塊を金属イオンを含む溶液にさらに浸漬する工程である、前項9に記載の作製方法。
12.前記2)の工程の培養細胞塊をゲル膜で覆う工程が、前記培養細胞塊を、加熱融解処理したゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬した後、前記溶液の温度を一定に保つ工程である、前項9に記載の作製方法。
13.培養細胞塊から分泌される生理活性物質をゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に保持する方法であって、前記培養細胞塊を、ゲル膜で覆う工程を含み、前記ゲル膜で覆う工程が、前記培養細胞塊をゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬した後、ゲル膜形成成分が浸漬した培養細胞塊を金属イオンを含む溶液にさらに浸漬する工程であり、
前記ゲル膜は前記培養細胞塊に対する栄養素は透過可能な機能を有することを特徴とする、
方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊によれば、培養細胞塊から分泌される生理活性物質をゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に保持することができ、かつ前記培養細胞塊に対する栄養素はゲル膜を透過可能とすることができる。これにより培養細胞塊および該培養細胞塊から分泌される生理活性物質を同時に利用することが可能となり、医薬品やサプリメント、食品等に応用することができる。また該培養細胞塊の作製方法によれば、該培養細胞塊は培養肉としても利用できる点で優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊の概略図である。
図2図2Aは三次元培養骨格筋の作製における概略図である。図2Bは培養プロトコルを示す(参考例1)。
図3】作製された三次元培養骨格筋である(参考例1)。
図4】三次元培養骨格筋をアルギン酸カルシウム膜で覆う工程を示した図である(実施例1)。
図5】三次元培養骨格筋をアルギン酸カルシウム膜で覆う時に使用する足場である(実施例1)。
図6】アルギン酸カルシウム膜に覆われてなる三次元培養骨格筋またはアルギン酸カルシウム膜に覆われていない三次元培養骨格筋をマイクロチューブに加えた後、ホモジナイザーですり潰す工程を示す図である(実施例2)。
図7】アルギン酸カルシウム膜に覆われてなる三次元培養骨格筋またはアルギン酸カルシウム膜に覆われていない三次元培養骨格筋のIL-6の測定結果を示す図である(実施例2)
図8】アルギン酸カルシウム膜のIL-6透過実験を示す図である(実施例3)。
図9】アルギン酸カルシウム膜のIL-6透過実験の結果を示す図である(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、培養細胞塊がゲル膜に覆われており、前記ゲル膜は、前記培養細胞塊から分泌される生理活性物質をゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に保持する機能を有し、かつ前記培養細胞塊に対する栄養素は透過可能な機能を有することを特徴とする、ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊に関する。
【0016】
(ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊)
本発明のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊の概略を図1に示す。ここで、「ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊」とは、培養細胞塊をゲル膜で覆うことにより作製した培養細胞塊を意味する。本発明の「ゲル膜」としては、例えば多糖類および合成高分子等が挙げられ、具体的にはアルギン酸塩、アガロース、カラギーナン、ペクチン、キシログルカン、ジェランガム、セルロース、ゼラチン、デンプン、寒天、グリコーゲン、ヘパリン、フィブリン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)等からなる群から選択されるいずれか主成分とするゲル膜である。ゲル膜はアルギン酸塩が好ましく、アルギン酸塩としては、例えばアルギン酸カルシウム、アルギン酸マグネシウム、アルギン酸バリウム、アルギン酸ストロンチウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム等が挙げられる。ゲル膜は上記成分のうち1種でもよいし複数種を組み合わせてもよい。
【0017】
本明細書において、ゲル膜は培養細胞塊から分泌される生理活性物質をゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に保持する機能を有し、かつ前記培養細胞塊に対する栄養素は透過可能な機能を有することを特徴とする。本明細書において「ゲル膜」とは、例えばゲル膜がアルギン酸カルシウムの場合、アルギン酸とカルシウムにより架橋形成された網目構造部分を意味する。「ゲル膜で覆われた内側」とは、文言通りゲル膜で覆われた内側を意味し、例えばアルギン酸とカルシウムにより架橋形成された網目構造部分で囲まれた内側を意味する。培養細胞塊から分泌される生理活性物質がゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に保持される期間は、例えば12~72時間が挙げられ、特に24~48時間であることが好ましい。
【0018】
本明細書において「生理活性物質」は、培養細胞塊から分泌される生理活性物質であれば特に限定されないが、ホルモンが好ましい。本明細書において「ホルモン」はマイオカイン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、バソプレシン、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、黄体形成ホルモン、ソマトスタチン、ろ胞刺激ホルモン、プロラクチン、メラトニン、オキシトシン、カルシトニン、チロキシン、パラトルモン、ガストリン、インスリン、グルカゴン、セクレチン、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド、アドレナリン、アンドロゲン、プロゲステロン、エストロゲン等が挙げられ、マイオカインが好ましい。ここでマイオカインは筋肉から分泌されるホルモンの総称である。本明細書において「マイオカイン」は、例えばインターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、インターロイキン15(IL-15)、Secreted Protein Acidic and Rich in Cystein(SPARC)、イリシン(Irisin)、脳由来神経栄養因子(Brain-derived nurotrophic factor:BDNF)、Fibroblast Growth Factor(FGF-21)、Leukemia Inhibitor Factor(LIF)、Follistatin / Follistatin-like 1(Fst/Fstl-1)、ミオスタチン、デコリン、PGC-1、オンコスタチンM等が挙げられ、特にIL-6が好ましい。心筋から分泌されるホルモンとしては、例えばANP(ナトリウム利尿ホルモン)、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)等が挙げられる。
【0019】
本明細書において「栄養素」とは、培養細胞塊が生存するために必要な栄養素をいう。必要な栄養素として、例えば糖類、ビタミン類、アミノ酸等が挙げられる。本明細書において「栄養素が透過可能な機能」とは、栄養素がゲル膜の内側から網目構造部分の網目の中を透過しゲル膜の外側へ、およびゲル膜の外側から網目構造部分の網目の中を透過しゲル膜の内側へ透過しうることである。さらに本発明におけるゲル膜は酸素を透過可能な機能を有することを特徴とするが、培養細胞塊から放出される不要な物質、例えば二酸化炭素等はゲル膜の外側へ透過され、排出されることが好ましい。本発明のゲル膜は上述したように、グルコース等の栄養素および酸素等の分子量が低い物質は透過可能な機能を有するが、生理活性物質等の高分子の物質をゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に保持する機能を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の培養細胞塊自身が運動する場合、ゲル膜が培養細胞塊の運動変形耐性を有することが好ましい。本明細書において、培養細胞塊自身の運動とは収縮運動等が挙げられる。
【0021】
(培養細胞塊)
本発明の培養細胞塊は生理活性物質を分泌する。本明細書において生理活性物質を分泌する培養細胞塊は単に培養細胞塊という場合もある。本明細書において「培養細胞塊」は、細胞の集合体であればよく、二次元培養細胞塊または三次元培養細胞塊であってもよい。培養細胞塊としては、例えば組織、コロニー、オルガノイド、スフェロイド等が挙げられる。本発明の培養細胞塊を構成する細胞としては、例えば骨格筋、内臓筋、心筋、括約筋、肝臓、胃、腸、膵臓、腎臓、肺、血管、心臓、皮膚、脾臓、精巣、卵巣等由来の細胞が挙げられる。本発明の培養細胞塊としては、上述した細胞同士が集合した組織であることが好ましく、例えば骨格筋、内臓筋、心筋または括約筋等由来の細胞が各々集合した、骨格筋、内臓筋、心筋または括約筋が挙げられる。本発明の培養細胞塊としては、細胞同士が集合し一方向に配向した組織がさらに好ましく、例えば骨格筋が挙げられる。ここで「骨格筋、内臓筋、心筋または括約筋由来の細胞」とは骨格筋、内臓筋、心筋または括約筋に各々関与するあらゆる細胞をいい、例えば骨格筋細胞、内臓筋細胞、心筋細胞、括約筋細胞、筋芽細胞、筋管細胞等が挙げられる。本発明における培養細胞塊を構成する細胞は1種であってもよいし、複数種であってもよい。本発明の培養細胞塊は非ヒト由来培養細胞塊であることが好ましい。ここで「非ヒト」とは非ヒト動物であれば特に限定されないが、脊椎動物であってもよく無脊椎動物であってもよい。脊椎動物としては、例えば哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類等が挙げられる。哺乳類としては、例えばウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、サル、ネコ、マウス等が挙げられる。鳥類としては、例えばニワトリ、カモ、ダチョウ等が挙げられる。両生類としては、例えばカエル、イモリ等が挙げられる。爬虫類としては、例えばワニ、トカゲ、カメ等が挙げられる。魚類としては、例えばマグロ、サケ、タイ、イワシ、アジ等が挙げられる。無脊椎動物としては、例えば昆虫、甲殻類、軟体動物、原生動物等が挙げられる。本発明の培養細胞塊は、培養肉として利用することもでき、係る場合、非ヒトはウシ、ブタ、ニワトリ等が好ましい。
【0022】
(培養細胞塊の作製方法)
これらの培養細胞塊は自体公知の方法または今後開発されるあらゆる方法により、細胞を培養して作製することができる。また培養細胞塊は市販のものであってもよく、生体から単離して調製したものであってもよい。培養方法は例えば組織培養、コロニー培養、オルガノイド培養、スフェロイド培養等が挙げられる。培養する環境は自体公知の環境であればよく、特に制限されるものではないが、一般的には細胞を37±0.5℃、5±1%CO2条件下で培養することができる。細胞の培養期間は、細胞が生存可能であれば特に制限されないが、例えば1~60日間培養することができる。培養の途中で、適宜培地交換を行うことができ、また必要に応じて継代培養することもできる。本発明の培養細胞塊を得るため、細胞を培養用足場基材(スキャフォールド、Scaffold)を利用して培養してもよい。培養用足場基材はコラーゲン、ハイドロゲル、ラミニン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン等が挙げられる。本発明の培養細胞塊が骨格筋である場合、骨格筋由来の細胞から作製することできる。具体的には培養した筋芽細胞を例えばトリプシン、コラゲナーゼ等を用いてディッシュから剥離する。剥離した筋芽細胞とコラーゲンゲル溶液を懸濁し、懸濁したゲルをゲル化した後に増殖培地にて培養し、さらに分化培地で培養することで、骨格筋由来の細胞から構成される培養細胞塊を作製することができる。筋芽細胞とコラーゲンゲル溶液を懸濁するときの細胞濃度は、特に限定されないが例えば1.0×106~1.0×108cells/mL、好ましくは1.0×107cells/mLが挙げられる。増殖培地として、例えばDMEMにウシ胎児血清および抗生物質を含ませて使用することができる。分化培地として、例えばDMEMにウマ血清および抗生物質を含ませて使用することができる。また本発明の培養細胞塊は人工腱を用いて作製することが好ましい。本発明の培養細胞塊は、具体的には参考例1に示す方法で作製することができる。
【0023】
(ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊の作製方法)
本発明は、培養細胞塊をゲル膜で覆う工程を含む、ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊の作製方法にも及ぶ。具体的には以下の1)および2)の工程を含むことにより作製することができる。なお工程1)および工程2)の順序は特に制限はなく、どの工程から行ってもよい。
【0024】
1)培養細胞塊を電気的刺激または機械的刺激を行う工程、
2)培養細胞塊をゲル膜で覆う工程。
【0025】
上記1)の工程の「電気的刺激」は、電圧および周波数を与えることによる電気的刺激が好ましい。電気的刺激は培養細胞塊に直接与えてもよいし、培養用足場基材、培養液等を介して与えてもよい。ここで電気的刺激は「電気刺激装置」を用いて行うことができ、電気刺激装置とは例えば外部から与えられた信号を受けて応答するものでよく、自発的に信号を発するものであってもよい。前者の場合、電気刺激装置には、電気的刺激の信号源であるファクションジェネレータと高速電力増幅器を用いることができ、培養液に信号を印加することで培養細胞塊に電気的刺激を与えることができる。電気的刺激装置は例えば定格容量50mNの荷重センサ(LVS-5G, 共和電業)と微動ステージにより作製することもできる。電気的刺激装置としては、例えばシーペース・システム(C-Pace EM、オレンジサイエンス社)等が挙げられる。電気的刺激の条件は細胞死および培養液の電気分解による毒性を引き起こさない限り特に限定されないが、電圧は例えば0.5V~50Vであることが好ましく、周波数は例えば0.5~100Hzであることが好ましい。電気的刺激は例えば間隔を開けて与えてもよいし、連続して与えてもよい。培養細胞塊に電気的刺激を与える期間は特に限定されないが、3日~7日が好ましい。
【0026】
上記1)の工程の「機械的刺激」とは、機械的または物理的な刺激を与えることをいう。例えば機械的刺激は培養細胞塊、培養用足場基材等を一軸方向に伸展または収縮させることが挙げられる。伸縮方向の変位は正弦波状、短形波状、三角波状、のこぎり波状等が挙げられる。また、機械的刺激の発生源は手動または振動発生装置等による機械的なものに限定されず、スピーカー等からの音波、熱、電磁気力、電磁波等を用いることによっても伸展または収縮することができる。機械的刺激を与えるための装置としては、例えば培養細胞伸展システム(オレンジサイエンス社)等が挙げられる。培養細胞塊に機械的刺激を与える期間は特に限定されないが、3日~7日が好ましい。
【0027】
電気的刺激または機械的刺激以外に培養細胞塊の培養条件を変えることにより、培養細胞塊に刺激を与えてもよい。例えば培養温度を高くする温熱刺激、培養酸素濃度を低くする低酸素刺激等が挙げられる。温熱刺激の温度として例えば38~40℃、低酸素刺激のO2濃度として例えば2~15%が挙げられる。このように培養細胞塊の電気的刺激、機械的刺激、培養条件を変える等の刺激を与えることで培養細胞塊から生理活性物質が多く分泌されると考えらえる。
【0028】
上記2)の工程において「ゲル膜で覆う工程」は、例えば液中硬化被覆法等が挙げられ、具体的には培養細胞塊をゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬した後、ゲル膜形成成分が浸漬した培養細胞塊を金属イオンを含む溶液にさらに浸漬する工程であることが好ましい。本発明の「ゲル膜形成成分」としては、例えばアルギン酸塩、アガロース、カラギーナン、ペクチン、キシログルカン、ジェランガム、セルロース、ゼラチン、デンプン、寒天、グリコーゲン、ヘパリン、フィブリン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)等が挙げられ、好ましくはアルギン酸塩である。アルギン酸塩としては、例えばアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸マグネシウム、アルギン酸バリウム、アルギン酸ストロンチウム等が挙げられる。ゲル膜形成成分の分子量は例えば1万~500万が好ましい。ゲル膜形成成分が例えばアルギン酸塩の場合、アルギン酸塩の分子量は5万~500万が好ましく、さらに100万~400万が好ましい。アルギン酸塩の粘度は80~600 cPが好ましく、さらに300~600 cPが好ましい。ゲル膜形成成分は、上記挙げられた成分のうち1種でもよいし、複数種を組み合わせてもよく、ゲル膜形成成分以外を含んでもよく、例えば生理活性物質を含んでもよい。ゲル膜形成成分を含む溶液中のゲル膜形成成分の濃度として、例えば0.5~10 質量%(wt%)が挙げられる。ゲル膜を溶解する溶媒として水系溶媒であればよく、例えば精製水、生理食塩水、Tris緩衝液、リン酸緩衝液等が挙げられ、水系溶媒のpHについては例えばpH 5~10が一般的である。本発明の「金属イオン」としては、例えばカルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、ストロンチウムイオン、亜鉛イオン等が挙げられ、特にカルシウムイオンが好ましい。本発明の「金属イオンを含む溶液」としては、金属イオンを含む水溶液が好ましく、例えば塩化カルシウム水溶液、炭酸カルシウム水溶液、グルコン酸カルシウム水溶液等が挙げられ、好ましくは塩化カルシウム水溶液である。
【0029】
本発明の「培養細胞塊をゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬した」は培養細胞塊を固定具等により固定することによりゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬してもよく、培養細胞塊をそのままゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬してもよい。本明細書において「固定具」とは培養細胞塊を固定可能なものであれば特に限定されないが、例えばキルシュナー鋼線等が挙げられる。キルシュナー鋼線は例えばポリカーボネート板に固定されていてもよい。本明細書において「ゲル膜形成成分が浸漬した培養細胞塊」とは、培養細胞塊がゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬したものであれば特に限定されず、培養細胞塊をゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬した後に、培養細胞塊とゲル膜形成成分を含む溶液とを懸濁したものでもよい。本発明の「金属イオンを含む溶液に浸漬する工程」は、ゲル膜形成成分が浸漬した培養細胞塊を固定具等により固定することにより金属イオンを含む溶液に浸漬してもよく、培養細胞塊をそのままゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬してもよく、培養細胞塊とゲル膜形成成分を含む溶液を例えば注射器等を用いて金属イオンを含む溶液に浸漬してもよい。ここで、培養細胞塊をゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬する時間およびゲル膜形成成分が浸漬した培養細胞塊を金属イオンを含む溶液に浸漬する時間は、ゲル膜が形成可能な時間であれば特に限定されないが、例えば10秒~10分、好ましく30秒~2分とすることができる。
【0030】
本発明の作製方法において、ゲル膜形成成分および金属イオンの濃度を変化させることにより、ゲル膜の網目構造部分の大きさを変更可能とし、生理活性物質をゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に保持する機能を有し、かつ培養細胞塊に対する栄養素は透過可能な機能を有することを特徴とするゲル膜を作製することができる。ゲル膜形成成分を含む溶液がアルギン酸ナトリウム水溶液の場合、アルギン酸ナトリウムの濃度は例えば0.5~5 質量%(wt%)、好ましくは0.5~2 質量%(wt%)とすることができる。金属イオンを含む溶液が塩化カルシウム水溶液である場合、塩化カルシウムの濃度は例えば0.1~20 質量%(wt%)、好ましくは0.5~2 質量%(wt%)とすることができる。
【0031】
上記2)の工程において、ゲル膜形成成分が、例えばアガロース、寒天、カラギーナン、ゼラチン等の場合の培養細胞塊をゲル膜で覆う工程は、前記培養細胞塊を、加熱融解処理したゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬した後、前記溶液の温度を一定に保つ工程であることが好ましい。具体的には、例えば予めゲル膜成分を含む溶液を加熱融解処理し、加熱融解処理したゲル膜形成成分を含む溶液に培養細胞塊を浸漬し、温度を一定に保つことで細胞培養塊をゲル膜で覆うことができる。加熱融解処理の温度は例えば60~90℃が挙げられる。温度を一定に保つ温度は例えば0~37℃が挙げられる。
【0032】
また、これら工程のあとに作製された、ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊を培養することが好ましい。培養することで、培養細胞塊から分泌される十分な量の生理活性物質をゲル膜に覆われた内側および/またはゲル膜に保持することができる。培養温度は例えば4~37.5℃、好ましくは15~37.5℃、より好ましくは30~37.5℃とすることができる。培養期間は、例えば4~144時間、好ましくは4~72時間培養することができる。また必要に応じて継代培養してもよい。培地としては、培養細胞塊を培養するために通常用いられる培地であれば特に限定はなく、例えばDMEM、MEM、RPMI-1640等挙げられ、これら培地にウマ血清および抗生物質を含ませて使用してもよい。細胞培養塊の培養は上記1)、2)の工程の前後に行ってもよい。
【0033】
本発明は、培養細胞塊から分泌される生理活性物質をゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に保持する方法であって、前記培養細胞塊を、ゲル膜で覆う工程を含み、前記ゲル膜で覆う工程が、前記培養細胞塊をゲル膜形成成分を含む溶液に浸漬した後、ゲル膜形成成分が浸漬した培養細胞塊を金属イオンを含む溶液にさらに浸漬する工程であり、前記ゲル膜は前記培養細胞塊に対する栄養素は透過可能な機能を有することを特徴とする、方法にも及ぶ。係る方法により、ゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に保持された生理活性物質を収集し、収集した生理活性物質を有効成分とする医薬品、サプリメント、食品等にも応用することができる。ゲル膜に覆われた内側およびゲル膜に保持された生理活性物質を収集する方法は特に限定されず、自体公知の方法または今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。
【実施例0034】
以下、実施例により発明を具体的に示すが、本発明はこれらの実施例等により限定されるものではない。
【0035】
(参考例1)三次元培養骨格筋の作製
本参考例ではゲル膜に覆われてなる培養細胞塊に用いる三次元培養骨格筋を作製した。
【0036】
(1)細胞培養
マウス横紋筋由来株化細胞C2C12を使用した。増殖培地(Growth Medium)としてDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium,high glucose,pyruvate,以下DMEM)(11995-065,Gibco)に10%ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum,以下FBS)(10270-106,Gibco)および1%抗生物質(161-23181,富士フィルム和光純薬株式会社)を加えたもの、分化培地(Differentiation Medium)としてDMEMに7%ウマ血清(Horse Serum,以下HS)(SH30074.03,HyClone)および1%抗生物質を加えたものを用いた。
【0037】
(2)細胞解凍
セルバンカー(BLC-1S,ZENOAQ)に濃度1.0×106cells/mLで凍結保存されているC2C12細胞を37℃の恒温槽(SBAC-31A,株式会社島津理化)で解凍した。解凍後、10mLの増殖培地が入った15mL遠沈管でC2C12細胞を混合し、遠心分離機(EX-126,株式会社トミー精工)で4℃、1000rpm、3分間遠心分離を行った。遠心分離後、上清を吸引除去し、増殖培地により再懸濁し、直径100mmのコラーゲンコートディッシュ(4020-010,IWAKI)に播種した。C2C12細胞はサブコンフルエントになるまで37℃、CO2濃度5%、湿度100%のインキュベーター内で培養した。
【0038】
(3)細胞継代
C2C12細胞解凍から数日後、ディッシュ内のC2C12細胞がサブコンフルエント状態であることを確認し継代を行った。ディッシュ内の増殖培地を吸引し、リン酸緩衝生理食塩水(Dulbecco's Phosphate Buffered Saline,045-29795,富士フィルム和光純薬株式会社,以下PBS)で洗浄した後、Trypsin-EDTA solution 0.25%(201-16945,富士フィルム和光純薬株式会社,以下Trypsin)を入れてインキュベーター内で1分間静置し、細胞をディッシュから剥がした。その後、ディッシュにTrypsinと同量以上の増殖培地を入れ、Trypsinを失活させた。この溶液を遠心分離機で4℃、1000rpm、3分間遠心分離を行い、上清を吸引除去し、新しい増殖培地で懸濁し、細胞懸濁液を作製した。懸濁液を50μL取り,同量の0.4%w/v%トリパンブルー溶液(207-17081,和光純薬工業株式会社)を入れ混合し、ヘモサイトメーターを用いて細胞数を4回カウントした。細胞懸濁液をコラーゲンコートディッシュに播種し、インキュベーター内で参考例1の(2)の条件下で培養した。
【0039】
(4)人工腱作製
三次元培養骨格筋の作製において、食用ブタ大動脈(東京芝浦臓器株式会社)の細胞を除去し、エラスターゼ処理および、エラスターゼを失活させた無細胞生体由来組織を人工腱として使用した(特許5050197号参照)。具体的な作製方法について示す。食用ブタ大動脈の表皮をピンセットとはさみを用いて剥離し、1~2cm程度の大きさに切り分けた。液体窒素によって表皮剥離後の組織を凍結し、凍結乾燥機(FDU-1200,EYELA東京理化器械株式会社)を用いて24時間凍結乾燥した。その後、各組織の重さを測定し、滅菌処理のため、VACUUM DRYING OVEN(VR-320,ADVANTEC)を用いて120℃、真空中で24時間熱架橋処理を行った。その後、ブタ膵臓由来エラスターゼ(058-05361,富士フィルム和光純薬株式会社)0.57U/mL、塩化カルシウム(020-46625,キシダ化学株式会社)0.01M、NaN3(U2487,シグマアルドリッチジャパン株式会社)0.02%、Tris(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)(37190.01,SERVA)0.01Mの濃度でエラスターゼ溶液を作製し、フィルター滅菌を施した。ブタ大動脈をエラスターゼ溶液に浸し、ELECTRIC DRYING OVEN(FS-420,ADVANTEC東洋株式会社)で37℃、72時間振とうさせ、脱エラスチン処理した。エラスポール(丸石製薬株式会社)100mgに生理食塩水を10mL加え粉末を溶かした後、この溶液2.5mLに対してpH8,0.01M Tris Buffer 50mLを加えエラスポール溶液を作製した。エラスポール溶液に脱エラスチン処理したブタ大動脈を4℃で72時間浸し、エラスターゼを失活性させた。その後、80%エタノールに72時間浸し、リン脂質を除去しPBSで洗浄し、使用まで4℃下で保存した。
【0040】
(5)三次元培養骨格筋の作製
(3)で培養したC2C12細胞のコンフルエントに達したディッシュ内の増殖培地を吸引し、PBSで洗浄した後、Trypsinを入れインキュベーター内で1分間静置し、細胞を剥がした。増殖培地をTrypsinと同量入れ、4℃、1000rpm、3分間遠心分離をし、上澄みを吸引除去した。ディッシュに増殖培地を入れ、C2C12細胞を懸濁し50μLを取り出した。細胞懸濁液に同量の0.4%w/v%トリパンブルー溶液と混合し、ヘモサイトメーターを用いて細胞数を4回カウントした。Cellmatrix Type1-A(新田ゼラチン)、10×MEMハンクス溶液(新田ゼラチン)、再構成用緩衝液(新田ゼラチン)を8:1:1の割合になるように50mL遠沈管内で混合し、コラーゲンゲル溶液とした。常温によるゲル化を防ぐため、混合作業は氷冷内で行った。細胞カウント後、懸濁液を4℃、1000rpm、3分間遠心分離し、上澄みを吸引除去後、1.0×107cells/mLの濃度になるようにコラーゲンゲルと懸濁した。懸濁したゲルをポリカーボネート板に直径0.7mmのキルシュナー鋼線で固定した人工腱の間に100μL播種し(図2A)、37℃、5%CO2、湿度100%のインキュベーターで30分間静置した。ゲル化させたのち、増殖培地を5mL加え2日間培養した。その後、分化培地に変え、2日毎に培地交換を行い12日間培養した(図2B)。図3には作製した三次元培養骨格筋を示す。
【0041】
(実施例1)ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊の作製
本実施例では、アルギン酸ナトリウム水溶液および塩化カルシウム水溶液を液中で反応させる液中硬化被膜法によりゲル化させ、培養細胞塊としての三次元培養骨格筋をアルギン酸カルシウム膜で覆った。
【0042】
アルギン酸ナトリウム80~120(196-13325,富士フィルム和光純薬株式会社)またはアルギン酸ナトリウム300~400(192-09995,富士フィルム和光純薬株式会社)、および塩化カルシウム(038-19735,富士フィルム和光純薬株式会社)を各々1wt%の水溶液に調製後、分化培地で12日間培養した三次元培養骨格筋をアルギン酸カルシウム水溶液、塩化カルシウム水溶液の順に数十秒程度添加することで、三次元培養骨格筋の周りをアルギン酸カルシウム膜で覆った(図4)。各水溶液に三次元培養骨格筋を添加する際は、通常よりキルシュナー鋼線が3倍程長い足場を作製し使用した(図5)。
【0043】
(実施例2)ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊のIL-6測定
本実施例では、アルギン酸カルシウム膜に覆われてなる三次元培養骨格筋とアルギン酸カルシウム膜に覆われていない三次元培養骨格筋を分化培地で2日培養した後のIL-6を測定した。本実施例では、アルギン酸ナトリウム80~120でアルギン酸カルシウム膜を形成したゲル膜に覆われてなる三次元培養骨格筋をGEL1、アルギン酸ナトリウム300~400でアルギン酸カルシウム膜を形成したゲル膜に覆われてなる三次元培養骨格筋をGEL2、アルギン酸カルシウム膜に覆われていない三次元培養骨格筋をCONと表記する。
【0044】
マイクロチューブ(WATSON)にPBSを500μL添加した。次に、PBSで洗浄したアルギン酸カルシウム膜に覆われてなる三次元培養骨格筋またはアルギン酸カルシウム膜に覆われていない三次元培養骨格筋を、マイクロチューブに加えた後、ホモジナイザーですり潰すことで懸濁液を作製した(図6)。懸濁液を遠心分離を4℃、1000 rpm、1分間行い、上澄み5mLを採取した。採取した上澄みをPBSで10倍に希釈しMouse IL-6 Assay Kit(株式会社 免疫生物研究所)に従い試料を96wellディッシュに添加した。i Mark(BIO RAD)にて波長450nmで吸光度を測定した。吸光度測定後、試料付属の検体より検量線を作製し吸光度から濃度換算を行なった。
【0045】
CON、GEL1、GEL2の培養筋内のIL-6の結果を示す。培養筋内のIL-6は、GEL1はCONと同様の結果だったが、GEL2はCONと比べ約1.8倍のIL-6をゲル膜内に閉じ込めたことが示された(図7)。なお図7に示す培養筋内のIL-6濃度は、GEL1またはGEL2では、アルギン酸カルシウム膜、アルギン酸カルシウム膜でコーティングされた内側、および三次元培養骨格筋内のIL-6濃度を示し、CONでは、三次元培養骨格筋内のIL-6濃度を示した。
【0046】
(実施例3)IL-6透過実験
本実施例では、アルギン酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液を反応させて作製したアルギン酸カルシウム膜がIL-6をゲル膜内に保持するか検討を行なった。
【0047】
マルチウェルプレート(NuncTMpolycarbonate Cell Culture Inserts in Multi-Well Plates(Thermo Fisher Scientific))に分化培地を8mL加えた。セルカルチャーインサートの下部にアルギン酸カルシウム膜を形成させ、分化培地とIL-6を混合させた溶液を2mL添加し、温度37℃、CO2濃度5%、0h,24h,4h,8h,24hの条件と時間で実験を行い、さらに0h,24h,4h,8h,24hのセルカルチャーインサート内とマルチウェルプレート内の溶液を200μLずつ採取した。透過実験終了後、実施例2と同手法によりIL-6を測定しIL-6がアルギン酸カルシウム膜を透過したか調べた(図8)。本実施では、アルギン酸ナトリウム80~120で形成したゲル膜をGEL1、アルギン酸ナトリウム300~400で形成したゲル膜をGEL2と表記する。
【0048】
IL-6透過実験の結果を示す。結果で示す上はセルカルチャーインサート内のIL-6濃度を、下はマルチウェルプレート内のIL-6濃度を表している。GEL1もGEL2も24時間後にセルカルチャーインサート内とマルチウェルプレート内のIL-6濃度が同じになった。このことからアルギン酸カルシウム膜はIL-6を24時間保持することが示された(図9)。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上詳述したように、ゲル膜に覆われてなる培養細胞塊によれば、ゲル膜で覆われた内側および/またはゲル膜に培養細胞塊から分泌された生理活性物質を保持することが可能である。これにより、培養細胞塊から分泌される生理活性物質および培養細胞塊を同時に利用することができ、本来の筋組織と栄養価の近い培養肉として使用することができ、産業上の利用可能性が優れている。さらに本発明のゲル膜に覆われてなる培養細胞塊は医薬品やサプリメント、食品等に応用することが期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9