(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002050
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】アブレーション加工方法、レーザー加工装置およびアブレーション加工用マスク
(51)【国際特許分類】
B23K 26/351 20140101AFI20231228BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20231228BHJP
B23K 26/066 20140101ALI20231228BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B23K26/351
B23K26/073
B23K26/066
H05K3/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101009
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】船山 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】山賀 勝
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD04
4E168AD18
4E168CA06
4E168CB03
4E168CB23
4E168DA04
4E168DA25
4E168DA33
4E168EA19
4E168JB01
(57)【要約】
【課題】アブレーション加工において、ライン状の光を繰り返し走査させながら基板等に対して加工パターンを適切に形成可能なマスクのデザインおよびレーザー加工方法を提供する。
【解決手段】加工装置100において、マスクパターンP1~P4を形成したマスクMをマスクステージ40に載置し、ラインビーム形成部20の移動および角度切替ミラー26の角度の切り替えによって、ライン状の光LBを主走査方向(X方向)に走査させるとともに、ライン状の光LBの照射位置を副走査方向(Y方向)にシフトさせる。そして、マスクステージ40の移動によるマスクMの移動によって、ライン状の光LBの照射位置を、走査領域MR1~MR4の位置に合わせる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラインビーム形成光学系によって、レーザーから発振された光をライン状に整形し、アブレーション加工用のマスクへライン状の光を導き、
前記ライン状の光をオーバラップ走査させることによって、基板の加工領域をアブレーション加工するアブレーション加工方法であって、
単一のマスクに対し、前記ライン状の光の走査幅をもつ複数の帯状走査領域を、走査方向に互いに離間するように定め、前記加工領域のマスクパターンを前記複数の帯状走査領域に応じて分割した複数の分割マスクパターンを、前記単一のマスクに形成し、
前記ライン状の光を、前記複数の帯状走査領域で走査させることを特徴とするアブレーション加工方法。
【請求項2】
ラインビーム形成光学系によって、レーザーから発振された光をライン状に整形し、アブレーション加工用のマスクへライン状の光を導き、
前記ライン状の光をオーバラップ走査させることによって、基板の加工領域をアブレーション加工するアブレーション加工方法であって、
複数のマスクに対し、前記ライン状の光の走査幅をもつ複数の帯状走査領域を定め、前記加工領域のマスクパターンを前記複数の帯状走査領域に応じて分割した複数の分割マスクパターンを、前記複数のマスクに形成し、
前記複数のマスクを交換しながら、前記ライン状の光を、前記複数の帯状走査領域で走査させることを特徴とするアブレーション加工方法。
【請求項3】
前記ラインビーム形成光学系を走査方向に移動させることによって、前記ライン状の光を、マスクステージに載置されたマスクに対して走査方向に走査させ、
前記マスクステージの移動、または前記基板を載置した加工ステージと前記ラインビーム形成光学系の同期移動によって、前記ライン状の光の照射位置を、分割マスクパターンの帯状走査領域の走査開始位置に合わせることを特徴とする請求項1または2に記載のアブレーション加工方法。
【請求項4】
前記複数の分割マスクパターンの走査幅方向に沿った並び順に従って、前記ライン状の光をオーバラップ走査させることを特徴とする請求項1に記載のアブレーション加工方法。
【請求項5】
前記複数のマスクの中で少なくとも1つのマスクに対し、少なくとも2つの分割マスクパターンを形成し、
前記ライン状の光を、マスクごとに形成された分割マスクパターンの帯状走査領域を順に走査させることを特徴とする請求項2に記載のアブレーション加工方法。
【請求項6】
基板の加工領域に対し、レーザー加工装置のラインビーム形成光学系によって形成されるライン状の光の走査幅に応じて定められる複数の帯状走査領域に、前記加工領域のマスクパターンを前記帯状走査領域に応じて分割させた複数の分割マスクパターンを形成した単一のアブレーション加工用マスクであって、
前記複数の分割マスクパターンが、走査方向に沿って互いに離れていることを特徴とするアブレーション加工用マスク。
【請求項7】
前記複数の分割マスクパターンが、千鳥状に形成されていることを特徴とする請求項6に記載のアブレーション加工用マスク。
【請求項8】
基板の加工領域に対し、レーザー加工装置のラインビーム形成光学系によって形成されるライン状の光の走査幅に応じて定められる複数の帯状走査領域に、前記加工領域のマスクパターンを前記帯状走査領域に応じて分割させた複数の分割マスクパターンを形成した複数のアブレーション加工用マスクであって、
走査幅方向に隣り合う分割マスクパターンが、異なるマスクに形成されていることを特徴とする複数のアブレーション加工用マスク。
【請求項9】
各マスクにおいて、最初に走査される分割マスクパターンのマスク基準位置からの距離が等しいことを特徴とする請求項8に記載のアブレーション加工用マスク。
【請求項10】
レーザーから発振された光をライン状に整形するラインビーム形成光学系と、
前記ラインビーム形成光学系を移動させることによって、前記ライン状の光を走査方向に走査させる走査部と、
加工領域が定められる基板を載置可能な加工ステージを移動させる加工ステージ移動部と、
前記ライン状の光の走査幅を有し、互いに離れている複数の帯状走査領域に対し、前記加工領域のマスクパターンを分割した複数の分割マスクパターンが形成される1つまたは複数のマスクを載置可能なマスクステージを移動させるマスク移動部とを備え、
前記ライン状の光を、前記複数の帯状走査領域で順次走査させることが可能であることを特徴とするレーザー加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外レーザー光など高エネルギー密度の光を用いて基板などをアブレーション加工し、パターンを形成するレーザー加工装置および加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板などに対してパターンを高精度に形成する方法として、アブレーション加工が知られている。そこでは、エキシマレーザーなどの高エネルギー密度のレーザーをマスクに照射し、基板などに投影させる。マスクパターンに合わせて材料表面が瞬間的に除去されることによって、積層型基板などに対し、ビアや配線用の溝などを形成することができる。
【0003】
アブレーション加工用のレーザー加工装置では、レーザーから発振された光をライン状に整形する。例えば、固定させたレーザービームに対し、ビア、溝などに応じたパターンを形成したマスクと、基板を搭載したステージを同期移動させることによって、マスクパターンを基板に描画する(例えば、特許文献1参照)。あるいは、ライン状ビームを形成する光学系をマスクに対して走査方向に移動させることによって、加工パターンを基板に形成する(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-244361号公報
【特許文献2】特開2021-49560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マスクにおけるパターンサイズは、基板に定められた加工領域のサイズ、レーザービームのエネルギー密度、投影光学系の縮小倍率といった光学系の特性などに従って定められる。そのため、ライン状の光の幅を超えたサイズのマスクパターンに対しては、ライン状の光を複数回走査させることによって、基板の加工領域に対する加工処理が行われる。
【0006】
この場合、ライン状のビーム間のつなぎ部分に対する照射位置のずれなどによって、フルエンス(単位面積当たりの光強度)不足に起因する加工不良を防ぐため、オーバラップさせながらライン状の光を走査させる必要がある。
【0007】
しかしながら、オーバラップ部分に対し、フルエンスの大きさと照射回数とを調整して総フルエンスが等しくなるように調整しても、ビアや溝といったパターンの形状は、オーバラップ領域と非オーバラップ領域との間で相違する場合がある。
【0008】
したがって、アブレーション加工において、ライン状の光を繰り返し走査させながら基板等に対して加工パターンを適切に形成可能なマスクのデザインおよびレーザー加工方法を提供することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、ライン状の光をオーバラップ走査させるアブレーション加工方法、また、そのような加工方法に使用可能なアブレーション加工用マスク、レーザー加工装置などに対して技術的方向が向けられている。
【0010】
本発明の一態様であるアブレーション加工方法は、ラインビーム形成光学系によって、レーザーから発振された光をライン状に整形し、アブレーション加工用のマスクへライン状の光を導き、ライン状の光をオーバラップ走査させることによって、基板の加工領域をアブレーション加工する。
【0011】
ここで、「ライン状の光をオーバラップ走査させる」とは、走査幅方向(副走査方向)から見たときに、走査幅方向に沿って隣り合う走査領域同士が一部重複する走査を表す。実際に、マスク状におけるライン状の光の走査領域が部分的に重なり合っているか否かは関係しない。
【0012】
本発明の一態様であるアブレーション加工方法では、単一のマスクに基づく加工を行う。すなわち、単一のマスクに対し、ライン状の光の走査幅をもつ複数の帯状走査領域を、走査方向(主走査方向)に互いに離間するように定め、加工領域のマスクパターンを複数の帯状走査領域に応じて分割したマスクパターン(ここでは、複数の分割マスクパターンという)を、単一のマスクに形成する。そして、ライン状の光を、複数の帯状走査領域で走査させる。
【0013】
ここで、「複数の帯状走査領域を、走査方向に互いに離間する」とは、走査幅方向に関して隣り合う帯状走査領域が、走査幅方向に沿って一部重なり合う部分がないように、所定の距離間隔だけ走査方向に沿って離れている、すなわち、一方の帯状走査領域端部と、他方の帯状走査領域端部との間で走査方向に所定のスペースが存在する。
【0014】
一方、本発明の別の態様であるアブレーション加工方法では、複数のマスクに基づく加工を行う。すなわち、複数のマスクに対し、ライン状の光の走査幅をもつ複数の帯状走査領域を定め、加工領域のマスクパターンを複数の帯状走査領域に応じて分割した複数の分割マスクパターンを、複数のマスクに形成する。そして、複数のマスクを交換しながら、ライン状の光を、複数の帯状走査領域で走査させる。
【0015】
複数のマスクに対して複数の分割マスクパターンを形成する構成については、様々であり、マスクの数、マスクに形成する分割マスクパターンの数も任意である。例えば、1つのマスクごとに1つの分割マスクパターンを形成することが可能である。一方、複数のマスクの中で少なくとも1つのマスクに対し、少なくとも2つの分割マスクパターンを形成する構成も可能である。例えば、分割マスクパターンの形成数(例えば4つ)に合わせて複数(例えば2つ)のマスクを用意し、マスクごとに同数(例えば2つ)の分割マスクパターンを形成することが可能である。
【0016】
ライン状の光を複数の帯状走査領域で走査させる構成は、レーザー加工装置の構成などに従って定めればよい。例えば、ラインビーム形成光学系を走査方向に移動させることによって、ライン状の光を、マスクステージに載置されたマスクに対して走査方向(主走査方向)に走査させることができる。あるいは、マスクステージの移動によって、ライン状の光を分割マスクパターンの帯状領域に沿って走査させることも可能である。
【0017】
一方、複数の分割マスクパターンの帯状走査領域に対して次の走査対象となる帯状走査領域へ移動させる構成に関しては、マスクステージの移動によって実現することができる。あるいは、基板を載置した加工ステージとラインビーム形成光学系の同期移動によって実現することができる。これにより、ライン状の光の照射位置を、分割マスクパターンの帯状走査領域の走査開始位置に合わせるように移動させる。
【0018】
例えば、主走査方向に沿った分割マスクパターンの帯状領域に対する走査を、ラインビーム形成光学系の移動により実行し、走査順である分割マスクパターンから次の分割マスクパターンへのライン状の光の照射位置の位置合わせに関しては、マスクステージの走査方向の移動と、ラインビーム形成光学系の副走査方向の移動によって行う。
【0019】
複数の分割マスクパターンの走査順および走査方法に関しては、単一のマスクを利用する場合、複数のマスクを利用する場合それぞれに応じて定めることが可能であり、あるいは、同じように定めることも可能である。例えば、単一のマスクの場合、複数の分割マスクパターンの走査幅方向に沿った並び順に従って、ライン状の光をオーバラップ走査させる。
【0020】
複数のマスクを利用する場合、ライン状の光を、マスクごとに形成された分割マスクパターンの帯状走査領域を順に走査させることが可能である。例えば、複数のマスクそれぞれに所定数の分割マスクパターンが形成されている場合、ライン状の光を、各マスクに形成された分割マスクパターンの帯状走査領域に対して順次走査させる、すなわち、1つのマスクに形成された分割マスクパターンの帯状走査領域に対する走査の終了後、次のマスクに対する走査を行うようにすることが可能である。
【0021】
以上説明したアブレーション加工方法に対し、本発明では、単一のマスクとして構成されるアブレーション加工用マスクを提供することができる。本発明の一態様であるアブレーション加工用マスクは、基板の加工領域に対し、レーザー加工装置のラインビーム形成光学系によって形成されるライン状の光の走査幅に応じて定められる複数の帯状走査領域に、加工領域のマスクパターンを帯状走査領域に応じて分割させた複数の分割マスクパターンを形成した単一のアブレーション加工用マスクであって、複数の分割マスクパターンが、走査方向に沿って互いに離れている。
【0022】
単一のマスクに対して形成される分割マスクパターンの形成位置は、上述した「走査方向に沿って互いに離れている」構成を満たす範囲で、様々に設定することが可能である。例えば、複数の分割マスクパターンは、千鳥状に形成可能であり、例えば、走査方向(主走査方向)およびまたは走査幅方向(副走査方向)に関して規則的、等間隔で並ぶように形成することができる。
【0023】
また、本発明では、複数のマスクとして構成されるアブレーション加工用マスクを提供することができる。本発明の一態様であるアブレーション加工用マスクは、基板の加工領域に対し、レーザー加工装置のラインビーム形成光学系によって形成されるライン状の光の走査幅に応じて定められる複数の帯状走査領域に、加工領域のマスクパターンを帯状走査領域に応じて分割させた複数の分割マスクパターンを形成した複数のアブレーション加工用マスクであって、走査幅方向に隣り合う分割マスクパターンが、異なるマスクに形成されている。
【0024】
複数のマスク間の形状、サイズなどは様々であり、例えば、同一形状、サイズに定めることが可能であり、異なる形状、サイズにすることも可能である。各マスクにおいて、最初に走査される分割マスクパターンのマスク基準位置(例えば、マスクの一方の縁、四隅など)からの距離が等しくなるように構成することができる。
【0025】
なお、単一のマスクまたは複数のマスクで構成されるアブレーション加工用マスクでは、上述したオーバラップ走査に関係なく、本発明の技術的課題を解決することが可能である。
【0026】
本発明では、上述したアブレーション加工方法を実現するレーザー加工装置を提供することができる。本発明の一態様であるレーザー加工装置は、レーザーから発振された光をライン状に整形するラインビーム形成光学系と、ラインビーム形成光学系を移動させることによって、ライン状の光を走査方向に走査させる走査部と、加工領域が定められる基板を載置可能な加工ステージを移動させる加工ステージ移動部と、ライン状の光の走査幅を有し、互いに離れている複数の帯状走査領域に対し、加工領域のマスクパターンを分割した複数の分割マスクパターンが形成される1つまたは複数のマスクを載置可能なマスクステージを移動させるマスク移動部とを備え、ライン状の光を、複数の帯状走査領域で順次走査させることが可能である。
【0027】
ライン状の光を、走査を終了した分割マスクパターンの帯状走査領域から次の走査対象となる帯状走査領域へ移動させる構成に関しては、様々な構成が可能である。例えば、マスク移動部が、マスクステージを移動させることにより、ライン状の光の走査位置を、順次分割マスクパターンの帯状走査領域の走査開始位置に合わせることができる。あるいは、加工ステージ移動部および走査部が、それぞれ加工ステージとラインビーム形成光学系を同期移動させることによって、ライン状の光の照射位置を、各分割マスクパターンの帯状走査領域の走査開始位置に合わせることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、アブレーション加工において、ライン状の光を繰り返し走査させながら基板等に対してパターンを適切に形成可能なマスクのデザインおよびレーザー加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】第1の実施形態であるレーザー加工装置の概略的構成図である。
【
図2】レーザー加工装置の概略的ブロック図である。
【
図3】第1の実施形態におけるアブレーション加工用のマスクを示した図である。
【
図4】基板Wの加工領域AR全体に対応した一塊のマスクパターンを示した図である。
【
図5】第2の実施形態であるレーザー加工装置のアブレーション加工用のマスクを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0031】
図1は、第1の実施形態であるレーザー加工装置の概略的構成図である。
図2は、レーザー加工装置の概略的ブロック図である。
【0032】
レーザー加工装置100は、アブレーション加工によって基板Wにパターンを形成することが可能な加工装置であり、ラインビーム形成部20、投影光学系30、マスクステージ40、加工ステージ50とを備える。ラインビーム形成部20、マスクステージ40、加工ステージ50は、図示しない装置本体に装備され、装置本体に対して移動可能である。マスクM、基板Wは、それぞれマスクステージ40、加工ステージ50に搭載される。基板Wは、ここではプリント基板などの樹脂基板によって構成されている。
【0033】
装置本体傍に設置されるレーザー10は、高エネルギー密度のレーザー光を発振する。ここでは、波長248nmのKrFエキシマレーザー光をパルス照射するエキシマレーザーが適用されている。レーザー10から発振されたレーザー光は、図示しない光軸調整用の補正光学系を経由して、ラインビーム形成部20へ導かれる。レーザー10は、レーザー加工装置100の一部として構成してもよく、あるいは別装置として構成してもよい。
【0034】
ラインビーム形成部20は、レンズアレイ24、レーザー光シリンドリカルレンズなどを含むラインビーム形成光学系25、角度切替ミラー26などの光学系を備えている。レンズアレイ24は、入射したレーザー光の強度分布を調整する。ラインビーム形成光学系25は、入射したレーザー光のビーム光束をライン状の光LBに整形する。例えば、ライン状の光LBとして、長手方向が26mm、幅方向が0.1mmの矩形状の光に整形することが可能である。
【0035】
ラインビーム形成部20は、ラインビーム形成光学系25などの光学系をそのケーシング20Kに収容し、ケーシング20Kは走査機構60によって支持されている。走査機構60は、ラインビーム形成部20を、主走査方向(X方向)に沿って定められた速度で移動させることが可能であり、ライン状の光LBを、マスクMに対して走査方向である主走査方向(X方向)に相対移動させることが可能である。
【0036】
ラインビーム形成部20に設けられた角度切替ミラー26は、その角度(位置)を切り替えることによって、マスクM上におけるライン状の光LBの照射位置を、副走査方向(Y方向)に沿ってシフトさせる、すなわち、走査エリアを切り替えることが可能である。ここでは、角度切替ミラー26は、レンズアレイ24とラインビーム形成光学系25の間の共役位置に設けられている。
【0037】
マスクステージ40は、マスクMを支持するとともに、主走査方向(X方向)およびライン状の光LBの走査幅方向となる副走査方向(Y方向)へ移動させ、また回転させることが可能である。マスクステージ移動機構70は、不図示の位置検出用エンコーダから出力される信号に基づいて、マスクステージ40を駆動する。
【0038】
投影光学系30は、マスクMの表面と基板Wの表面に焦点をもつ結像光学系であり、マスクMに形成されたマスクパターン部分を透過した光(パターン光)を基板Wに投影する。ここでは、投影光学系30が縮小投影光学系として構成され、例えば0.5倍の投影倍率に定められる。
【0039】
加工ステージ50は、基板Wを真空吸着などによって固定するとともに、基板Wを主走査方向(X方向、副走査方向(Y方向)へ移動させ、また回転させることが可能である。加工ステージ移動機構80は、不図示の位置検出用エンコーダから出力される信号に基づいて、加工ステージ50を駆動する。加工ステージ50の傍には、基板Wに設けられたアライメントマークを撮像するアライメントカメラ(図示せず)が設置されている。
【0040】
樹脂基板である基板Wには、エポキシ樹脂などの基材に銅配線層が形成され、その上に絶縁層が形成されている。エキシマレーザー10から高エネルギー密度のエキシマレーザー光を照射することによって、基板Wに対してアブレーションが生じ、マスクMに形成されているマスクパターンに応じたパターン(以下、加工パターンという)WAが形成される。加工パターンWAとしては、貫通ビア、非貫通ビア、あるいは配線パターン用の溝(トレンチ)などが形成可能である。
【0041】
走査機構60がラインビーム形成部20を主走査方向(X方向)に移動させるのに伴い、主走査方向(X方向)に垂直であって副走査方向(Y方向)に平行なライン状の光LBが、マスクM(マスクステージ40)、投影光学系30、基板W(加工ステージ50)に対して相対移動する。これにより、マスクステージ40、加工ステージ50にそれぞれ搭載されたマスクM、基板Wが走査される。ここでは、基板Wに繰り返し形成されるパターンWAに応じたマスクパターンが、マスクMに形成されている。
【0042】
加工パターンWAの形成される加工領域ARおよび投影光学系30の投影倍率に応じてマスクMに形成されたマスクパターンは、ライン状の光LBの幅を超えるエリアサイズを有する。本実施形態では、角度切替ミラー26によってライン状の光LBの照射位置を切り替えながら、主走査方向(X方向)に沿った走査を繰り返し行うことにより、加工領域AR全体に対する加工パターンWAが形成される。
【0043】
後述するように、加工ステージ50は、加工領域に加工パターンWAが形成される度に、主走査方向(X方向)、副走査方向(Y方向)に沿ってステップ移動し、基板W全体に渡ってアブレーション加工処理が行われる。アブレーション加工によって加工パターンが基板Wに形成された後、銅などの導体が充填される。なお、基板W全体に渡るパターンを描画するマスクパターンを、マスクMに形成してもよい。
【0044】
コントローラ90は、ラインビーム形成部20の角度切替ミラー26、走査機構60、マスクステージ移動機構70、加工ステージ移動機構80を制御し、アブレーション加工処理における制御、すなわち、マスクMの位置決め、基板Wの位置決め、ライン状の光LBの主走査方向(X方向))への移動および副走査方向(Y方向)に沿った照射位置の切り替えなどを実行する。
【0045】
本実施形態では、ライン状の光LBの走査として、主走査方向(X方向)、副走査方向(Y方向)に沿ってオーバラップ走査を行う。一方、マスクパターンは、基板Wの一塊としての加工領域ARに対応した一塊のパターンとして構成されるのではなく、複数のマスクパターンが、互いに離れた位置に形成された構成となっている。そして、それらを総合させたパターンが、加工領域AR全体に対するパターンとして構成される。以下、これに関して詳述する。
【0046】
図3は、アブレーション加工用のマスクMに形成されたマスクパターンを示した図である。
図4は、基板Wの加工領域AR全体に対応させた一塊のマスクパターンを示した図である。
【0047】
マスクMには、KrFエキシマレーザー光を透過する基材(例えば石英ガラス)に対し、KrFエキシマレーザー光を遮断する遮光膜(例えばAl膜)がマスクパターン以外の部分に形成されている。ここでは、加工パターンとして貫通ビアを形成するマスクパターン(黒丸部分参照)が、マスクMに形成されている。
【0048】
図3に示すように、マスクMには、複数(ここでは4つ)のマスクパターン(以下、分割マスクパターンという)P1~P4が、主走査方向(X方向)、副走査方向(Y方向)に関して互いに離れた位置に形成されている。分割マスクパターンP1~P4は、それぞれ矩形状の帯状走査領域に含まれている。
【0049】
図4では、一塊の加工領域ARに合わせて一塊のパターンとして構成される(仮想の)マスクパターンP0を示している。一体的な一塊のマスクパターンP0を構成した場合、そのマスクパターンP0の含まれるパターン領域MRの形状およびサイズは、加工領域ARの形状およびサイズ、そして投影光学系30の縮小倍率などに従う。
【0050】
ラインビーム形成光学系25によって形成されるライン状の光LBは、上述したように、その走査幅LWが複数回の走査を必要とする長さに定められている。これは、加工対象(ここでは基板Wの樹脂層)のアブレーション閾値を超えるのに十分なフルエンスを得るために走査幅を縮小し、単位面積当たりのエネルギー密度を大きくするなどの理由に基づいている。
【0051】
ライン状の光LBの走査幅LWは、ライン状の光LBがマスクパターンP0をオーバラップ走査するように定められている。マスクパターンP0のパターン領域MRを副走査方向(Y方向)に沿って複数分割し、その1つの幅を走査幅LWとして定めるのではなく、オーバラップ領域OLを設けるように、走査幅LWが定められている。ここでのライン状の光LBは、加工領域ARに対して4回に分けてオーバラップ走査を必要とする走査幅Lをもつ。
【0052】
図3に示す分割マスクパターンP1~P4は、
図4に示すライン状の光LBの走査幅LWに応じた帯状の走査領域M1~M4を、走査順に従い、主走査方向(X方向)に沿って互いに離間するように定めることによって、分割形成されたパターンである。したがって、分割マスクパターンP1~P4(帯状の走査領域MR1~MR4)は、主走査方向(X方向)に沿って互いに平行である。走査領域M1~M4に応じたパターン領域MR1~MR4は、マスクパターンP0の主走査方向(X方向)に沿った長手方向長さLLをそれぞれ有する。
【0053】
図3に示す帯状の走査領域M1~M4に設けられるオーバラップ領域OL1、OL2、OL3に従い、分割マスクパターンP1~P4の帯状の走査領域MR1~MR4においても、副走査方向(Y方向)に沿って位置的に重複する領域OG1、OG2、OG3が設けられる。ここでは、領域として重畳部分がなくても、副走査方向(Y方向)に関して位置的に重複する領域OG1~OG3を、オーバラップ領域という。
【0054】
分割マスクパターンP1~P4は、帯状の走査領域MR1~MR4に従い、マスクパターンP0を分割し、配分することによって形成される。そのため、隣り合う走査領域付近に形成される一部パターンが両方の走査領域に形成されていることはなく、いずれか一方の走査領域に振り分けられている。
【0055】
このように、分割マスクパターンP1~P4は、加工領域ARに合わせて一塊のパターンとして構成される(仮想の)マスクパターンP0に対し、オーバラップ走査させた場合に規定される帯状の走査領域M1~M4を、走査順の前後で主走査方向(X方向)にオフセット配置した離散的なパターンとして、形成されている。
【0056】
また、隣り合う分割マスクパターンの走査領域の主走査方向(X方向)に沿った距離間隔は、ここでは同じ距離間隔となるように定められている。分割マスクパターンP1と分割マスクパターンP2のオフセット距離間隔D1は、分割マスクパターンP3と分割マスクパターンP4のオフセット距離間隔D2と等しい。言い換えれば、4つの分割マスクパターンP1~P4は、主走査方向(X方向)に関して互いに距離間隔dだけ離れている。
【0057】
このような離散的に分割マスクパターンP1~P4を形成したマスクMに対し、アブレーション加工を行う。このとき、マスクMの間欠的な移動を伴いながら、オーバラップ走査を行う。オーバラップ走査では、ライン状の光LBを、分割マスクパターンP1~P4(帯状の走査領域MR11~MR4)を、この順で走査する。
【0058】
各走査領域に対するライン状の光LBの主走査方向(X方向)に沿った走査は、上述したように、ラインビーム形成光学系25(ラインビーム形成部20)の移動によって実行される。分割マスクパターンP1~P4は、副走査方向(Y方向)に沿って繋がっておらず、オフセット配置されているため、ライン状の光LBの照射領域を重ねた走査は行われない。
【0059】
副走査方向(Y方向)に沿ったライン状の光LBの照射位置のシフトは、上述したように、角度切替ミラー26の位置制御によって行われる。このときのライン状の光LBのシフト量、すなわちミラー角度変更量は、オーバラップ領域OG1~OG3を考慮して定められる。
【0060】
一方、ライン状の光LBの照射位置を単に副走査方向(Y方向)に沿ってシフトさせても、分割マスクパターンP1~P4が互いに離間しているため、次の走査領域の位置を、ライン状の光LBのシフト位置に合わせる必要がある。そのため、1つの走査領域に対する走査が終了すると、マスクステージ40の移動によってマスクMを移動させ、マスクMを次の走査領域の走査開始位置に位置決めする。
【0061】
具体的には、マスクMが、1つの分割マスクパターンを走査する度に、+X方向または-X方向に沿って距離Dだけ間欠的に移動する。例えば、分割マスクパターンP1(帯状の走査領域MR1)に対する走査によって、ライン状の光LBの照射位置が端部LP1(
図3参照)に達すると、角度切替ミラー26によってライン状の光LBの照射位置を副走査方向(Y方向)へシフトさせるとともに、マスクMを-X方向に沿って距離Dだけ移動させる。
【0062】
これにより、ライン状の光LBの照射位置は、帯状の走査領域MR2の走査開始位置に移動する。分割マスクパターンP2から分割マスクパターンP3、分割マスクパターンP3から分割マスクパターンP4のライン状の光LBの移動についても、同様にマスクMを移動させる。ラインビーム形成部20によってライン状の光LBを折り返しオーバラップ走査させながら、マスクステージ40の移動によってマスクMを間欠的に移動させることで、基板Wの加工領域ARに加工パターンWAが形成される。
【0063】
このように本実施形態によれば、分割マスクパターンP1~P4を形成したマスクMをマスクステージ40に載置し、ラインビーム形成部20の移動および角度切替ミラー26の角度の切り替えによって、ライン状の光LBを主走査方向(X方向)に走査させるとともに、ライン状の光LBの照射位置を副走査方向(Y方向)にシフトさせる。
【0064】
そして、マスクステージ40の移動によるマスクMの移動によって、ライン状の光LBの照射位置を、走査領域MR1~MR4の位置に合わせる。その結果、基板Wにおいて、加工処理領域が繋がって、加工領域ARに加工パターンが形成される。
【0065】
このようなアブレーション加工処理を行うことにより、フルエンス不足のビーム照射による加工不足(加工不良)の発生を抑えるとともに、異なる加工領域部分で加工パターンに相違が生じるのを抑えることができる。
【0066】
すなわち、分割マスクパターンP1~P4の周囲の遮光膜形成部分により、ライン状の光LBは遮光される。そのため、基板Wにおける加工領域ARの端部は、分割マスクパターンP1~P4の形成される帯状の走査領域M1~M4の位置に従って定められる。
【0067】
ここで、分割マスクパターンP1~P4の形成位置は、ライン状の光LBの焦点位置に相当する。そのため、精度よくライン状の光LBを遮光することができる。すなわち、基板Wの加工領域ARの走査領域MR1~MR4にオーバラップ部分OG1~OG3(
図4のOL1~OL3に相当)において、精度よく加工パターンを形成することができる。
【0068】
一方、分割マスクパターンP1~P4は、帯状の走査領域MR1~MR4に応じてマスクパターンP0(
図4)を分割し、いずれかの走査領域に振り分けたパターンとして構成されている。そのため、ライン状の光LBが同じパターンを重複して走査することがない。
【0069】
また、複数の分割マスクパターンP1~P4が、副走査方向(Y方向)に沿って互いの距離間隔が等しくなるように千鳥状に形成されており、互いの距離間隔dが等しい。副走査方向(Y方向)に関しては、分割マスクパターンP1~P4はオフセット配置されていない。したがって、マスクMの移動は主走査方向(X方向)だけで済み、加工領域ARの加工繋目部分においても精度よくパターンを形成することができる。
【0070】
次に、
図5を用いて、第2の実施形態であるレーザー加工装置について説明する。第2の実施形態では、複数のマスクに分割マスクパターンが形成されている。
【0071】
図5は、第2の実施形態におけるアブレーション加工用のマスクを示した図である。分割マスクパターンP1~P4は、2つのマスクMA、MBに分かれて形成されている。具体的には、副走査方向(Y方向)に沿って隣り合う帯状領域に形成される分割マスクパターンが、異なるマスクに形成されている。
【0072】
マスクMA、MBの形状、サイズは、ここでは等しい。分割マスクパターンP1~P4の副走査方向(Y方向)に沿った形成位置は、第1の実施形態と同じオーバラップ領域OG1~OG4をもつように定められている。また、分割マスクパターンP1、P2の主走査方向(X方向)に沿った形成位置は、マスクMA、MBの基準位置(ここではマスク端辺)から分割マスクパターンP1、P2の距離A、A’が等しくなるように定められている。
【0073】
第2の実施形態では、このような2つのマスクMA、MBを用意し、マスクMA、MBを交換しながらアブレーション加工を行う。まず、マスクMAをマスクステージ40に搭載すると、分割マスクパターンP1の帯状の走査領域MR1を走査する。そして、マスクMAを移動させることにより、ライン状の光LBの照射位置を、走査終了位置LP1から、分割マスクパターンP3の帯状の走査領域MR1の走査開始位置LP2へ移動させる。
【0074】
分割マスクパターンP1、P3に対するライン状の光LBの走査が終了すると、マスクMAからマスクMBに交換する。そして、マスクMBの分割マスクパターンP1、P3の帯状の走査領域MR2、MR4に対してライン状の光LBを走査する。各走査領域に対する加工が繋がり、加工領域AR全体に加工パターンWAが形成される。これは、加工領域ARを複数に分割して規定される走査領域(分割加工領域)を、マスクごとにまとめて順に走査することを表す。
【0075】
このように、第2の実施形態によれば、分割マスクパターンP1~P4を、第1の実施形態のように単一のマスクではなく、2つのマスクMA、MBに分けて形成する。これにより、マスクの小型化およびコスト低減を図ることができる。
【0076】
また、各マスクに形成された分割マスクパターンに対し、それら帯状の走査領域に沿った走査をすべて行った後、次のマスクに交換して同様の走査を行う。これにより、一回のマスク交換によって、加工領域ARに対し加工パターンを形成することが可能であり、2枚のマスク使用による加工処理のスループット低下を抑えることができる。
【0077】
さらに、各マスクにおいて最初に走査される分割マスクパターンP1、P2の主走査方向(X方向)に沿った形成位置が、マスクMA、MBにおいて基準位置から等しい。そのため、マスク交換後、マスク位置調整することなく、直ちに走査することができる。
【0078】
なお、マスク交換に関しては、作業者が行ってもよく、自動制御によってマスク交換してもよい。自働制御によるマスク交換の場合、それぞれフレームに固定した複数のマスクを用意して棚状の収納部に配置し、自動搬送機構によって順次必要なマスクを取り出し、マスクステージ40に搭載、取り出すように構成すればよい。
【0079】
マスクステージ40の上方にシャッタ機構を設け、ライン状の光Mの幅(Y方向長さ)を調整することで、マスクMの照射領域サイズを変更できるように構成してもよい。また、加工領域ARに基づくマスクパターンP0のサイズ、形状などに従って、ライン状の光LBの走査幅(副走査方向(Y方向)に沿った長さ)および分割パターン数、オーバラップ領域の大きさなどを定めることが可能である。第2の実施形態においては、パターン分割数等に応じて、使用するマスクの枚数を定めてもよい。
【0080】
第1、第2の実施形態では、マスクの間欠的移動によって、ライン状の光LBを帯状の走査領域MR1~MR4に合わせる構成であるが、ラインビーム形成部20および加工ステージ50の主走査方向(X方向)に沿った同期移動によって、同様に走査位置合わせを行ってもよい。この場合、投影光学系30の縮小倍率などに従って、ラインビーム形成部20および加工ステージ50の移動量が定められる。
【0081】
さらに、マスクステージ40の移動のみ、あるいは、マスクステージ40と加工ステージ50との協働的な移動によって、ライン状の光LBのオーバラップ走査を行うことも可能である。この場合、ラインビーム形成部20の主走査方向(X方向)に沿った移動、および副走査方向(Y方向)に沿った照射位置シフトを行う必要がないため、簡易なレーザー加工装置によっても、第1、第2の実施形態で示したようなマスクを適用することにより、同様の適切な加工パターン形成を実現することができる。
【符号の説明】
【0082】
10 レーザー
20 ラインビーム形成部
25 ラインビーム形成光学系
26 角度切替ミラー
30 投影光学系
40 マスクステージ
50 加工ステージ
100 レーザー加工装置
M マスク
W 基板