(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002053
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】多孔質構造体、空力音低減用の多孔質構造体、多孔質構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/386 20170101AFI20231228BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20231228BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231228BHJP
B22F 10/38 20210101ALI20231228BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20231228BHJP
C22C 1/08 20060101ALI20231228BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20231228BHJP
B22F 10/47 20210101ALN20231228BHJP
【FI】
B29C64/386
B33Y80/00
B33Y10/00
B22F10/38
C22C33/02 101
C22C1/08 F
G10K11/16 110
B22F10/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101017
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高石 武久
(72)【発明者】
【氏名】深谷 和貴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 靖
(72)【発明者】
【氏名】下田 啓司
【テーマコード(参考)】
4F213
4K018
5D061
【Fターム(参考)】
4F213AE06
4F213AG15
4F213AH17
4F213AH30
4F213AH31
4F213WA25
4F213WB01
4K018AA33
4K018BA17
4K018KA22
5D061CC01
(57)【要約】
【課題】空力音の低減に適した構造を有する構造体を容易に作成することができる技術等を提供すること。
【解決手段】 本技術に係る多孔質構造体は、数値流体力学に用いられるメッシュ構造体作成用のソフトウェアに基づいて、対応する条件での空力音の低減に適した構造を有する多孔質構造体のデータが作成され、作成された前記データに基づいて3次元プリンタにより作成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値流体力学に用いられるメッシュ構造体作成用のソフトウェアに基づいて、対応する条件での空力音の低減に適した構造を有する多孔質構造体のデータが作成され、作成された前記データに基づいて3次元プリンタにより作成される
多孔質構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質構造体であって、
前記多孔質構造体は、6面体要素を構成要素としたメッシュにより構成される
多孔質構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の多孔質構造体であって、
前記6面体要素は、4面体要素が複数の6面体要素に分割されて構成される
多孔質構造体。
【請求項4】
請求項3に記載の多孔質構造体であって、
前記4面体要素が複数の6面体要素に分割されるとき、前記4面体要素における4つの3角形それぞれについて、前記3角形を構成する3本の柱要素における3つの第1の点と、前記3角形の内部の1つの第2の点とを結ぶ3本の柱要素が追加される
多孔質構造体。
【請求項5】
請求項4に記載の多孔質構造体であって、
前記4面体要素が複数の6面体要素に分割されるとき、前記4面体要素における前記4つの3角形の内部の4つの前記第2の点と、前記4面体要素の内部の1つの第3の点とを結ぶ4本の柱要素がさらに追加される
多孔質構造体。
【請求項6】
請求項1に記載の多孔質構造体であって、
前記多孔質構造体は、前記前記多孔質構造体が取り付けられる物体の形状に合わせて作成される
多孔質構造体。
【請求項7】
請求項1に記載の多孔質構造体であって、
前記多孔質構造体は、前記多孔質構造体を物体に取り付けるための取り付け座を含む
多孔質構造体。
【請求項8】
請求項3に記載の多孔質構造体であって、
前記ソフトウェアにおいて、4面体要素が構成単位となる多孔質構造体の前段階データが生成され、前記前段階データにおける4面体要素が複数の6面体要素に分割されて、6面体要素が構成要素となる前記多孔質構造体のデータが生成される
多孔質構造体。
【請求項9】
請求項8に記載の多孔質構造体であって、
前記ソフトウェアにおいて、前記4面体要素が複数の6面体要素に分割されるとき、前記4面体要素における4つの3角形それぞれについて、前記3角形を構成する3本の柱要素における3つの第1の点と、前記3角形の内部の1つの第2の点とを結ぶ3本の柱要素が追加される
多孔質構造体。
【請求項10】
請求項9に記載の多孔質構造体であって、
前記ソフトウェアにおいて、前記4面体要素が複数の6面体要素に分割されるとき、前記4面体要素における前記4つの3角形の内部の4つの前記第2の点と、前記4面体要素の内部の1つの第3の点とを結ぶ4本の柱要素がさらに追加される
多孔質構造体。
【請求項11】
請求項1に記載の多孔質構造体であって、
前記ソフトウェアは、MEGG3Dである
多孔質構造体。
【請求項12】
請求項1に記載の多孔質構造体であって、
前記多孔質構造体は、前記航空機に用いられる
多孔質構造体。
【請求項13】
6面体要素が構成要素とされたメッシュにより構成される多孔質構造体であって、
前記6面体要素は、4面体要素が複数の6面体要素に分割されて構成される
空力音低減用の多孔質構造体。
【請求項14】
数値流体力学に用いられるメッシュ構造体作成用のソフトウェアに基づいて、対応する条件での空力音の低減に適した構造を有する多孔質構造体のデータを作成し、
作成された前記データに基づいて3次元プリンタにより多孔質構造体を作成する
多孔質構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、空力音の低減のための多孔質構造体等の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、空力音の低減のための構造体が物体の表面等に取り付けられることが知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、鉄道車両、自動車、航空機等における各部分に多孔質体を取り付けることで、空力音を低減することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような分野において、空力音の低減に適した構造を有する構造体を容易に作成することができる技術等が求められている。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、空力音の低減に適した構造を有する構造体を容易に作成することができる技術等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術に係る多孔質構造体は、数値流体力学に用いられるメッシュ構造体作成用のソフトウェアに基づいて、対応する条件での空力音の低減に適した構造を有する多孔質構造体のデータが作成され、作成された前記データに基づいて3次元プリンタにより作成される。
【0008】
これにより、空力音の低減に適した構造を有する多孔質構造体を容易に作成することができる。
【0009】
上記多孔質構造体は、6面体要素を構成要素としたメッシュにより構成されてもよい。
【0010】
上記多孔質構造体において、前記6面体要素は、4面体要素が複数の6面体要素に分割されて構成されてもよい。
【0011】
上記多孔質構造体において、前記4面体要素が複数の6面体要素に分割されるとき、前記4面体要素における4つの3角形それぞれについて、前記3角形を構成する3本の柱要素における3つの第1の点と、前記3角形の内部の1つの第2の点とを結ぶ3本の柱要素が追加されてもよい。
【0012】
上記多孔質構造体において、前記4面体要素が複数の6面体要素に分割されるとき、前記4面体要素における前記4つの3角形の内部の4つの前記第2の点と、前記4面体要素の内部の1つの第3の点とを結ぶ4本の柱要素がさらに追加されてもよい。
【0013】
上記多孔質構造体は、前記前記多孔質構造体が取り付けられる物体の形状に合わせて作成されてもよい。
【0014】
上記多孔質構造体は、前記多孔質構造体を物体に取り付けるための取り付け座を含んでいてもよい。
【0015】
上記多孔質構造体において、前記ソフトウェアにおいて、4面体要素が構成単位となる多孔質構造体の前段階データが生成され、前記前段階データにおける4面体要素が複数の6面体要素に分割されて、6面体要素が構成要素となる前記多孔質構造体のデータが生成されてもよい。
【0016】
上記多孔質構造体において、前記ソフトウェアにおいて、前記4面体要素が複数の6面体要素に分割されるとき、前記4面体要素における4つの3角形それぞれについて、前記3角形を構成する3本の柱要素における3つの第1の点と、前記3角形の内部の1つの第2の点とを結ぶ3本の柱要素が追加されてもよい。
【0017】
上記多孔質構造体において、前記ソフトウェアにおいて、前記4面体要素が複数の6面体要素に分割されるとき、前記4面体要素における前記4つの3角形の内部の4つの前記第2の点と、前記4面体要素の内部の1つの第3の点とを結ぶ4本の柱要素がさらに追加されてもよい。
【0018】
上記多孔質構造体において、前記ソフトウェアは、MEGG3Dであってもよい。
【0019】
上記多孔質構造体は、前記航空機に用いられてもよい。
【0020】
本技術に係る空力音低減用の多孔質構造体は、6面体要素が構成要素とされたメッシュにより構成される多孔質構造体であって、前記6面体要素は、4面体要素が複数の6面体要素に分割されて構成される。
【0021】
本技術に係る多孔質構造体の製造方法は、数値流体力学に用いられるメッシュ構造体作成用のソフトウェアに基づいて、対応する条件での空力音の低減に適した構造を有する多孔質構造体のデータを作成し、
作成された前記データに基づいて3次元プリンタにより多孔質構造体を作成する。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本技術によれば、空力音の低減に適した構造を有する多孔質構造体を容易に作成することができる技術等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】MEGG3Dにおいて、4面体要素が6面体要素に分割されるときの様子を示す図である。
【
図3】3次元プリンタにより生成された多孔質構造体を示す図である。
【
図4】多孔質構造体が、金属により構成された場合の一例を示す斜視図である。
【
図5】多孔質構造体が、金属により構成された場合の一例を示す上面図である。
【
図7】6面体要素における柱要素の長さの分布を示す図である。
【
図8】多孔質構造体が航空機に取り付けられたときの様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本技術に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0025】
≪第1実施形態≫
<多孔質構造体10の製造方法>
まず、本技術の第1実施形態に係る多孔質構造体10の製造方法について説明する。
図1は、多孔質構造体10の製造方法を示す図である。
【0026】
図1に示すように、まず、作成したい多孔質構造体10(立体モデル)のボディの形状(外形)のデータが作成される(
図1の上段の左側)。ここでの例では、一方向に長い円柱(不図示)に取り付けられる多孔質構造体10として、所定の厚さを有する円筒状の多孔質構造体10が例示されている。
【0027】
多孔質構造体10の形状については、どのような形状であっても構わない。なお、本実施形態では、後述のように3次元プリンタが用いられているので、多孔質構造体10の形状については、典型的にはどのような形状であっても対応可能であり、また、所望の形状を容易に作成可能である。
【0028】
多孔質構造体10のボディの形状(外形)のデータが作成されると、次に、このデータが、MEGG3Dに対してSTL(Stereolithography)出力される。MEGG3Dは、JAXA(Japan Aerospace Exploration Agency:登録商標)によって開発された、数値流体力学(Computational Fluid Dynamics:CFD)に用いられるメッシュ構造体(柱要素が結合されてメッシュとされた構造体)作成用のソフトウェアである。数値流体力学に用いられるメッシュ構造体作成用のソフトウェアとしては、MEGG3Dに限られず、他のソフトウェアが用いられてもよい。
【0029】
MEGG3Dは、多孔質構造体10が取り付けられる箇所での各種の条件下(例えば、航空機20での飛行速度、高度等)において、数値流体力学で解析された流体の流れの情報に基づき、空力音の低減に適した多孔質構造体10のデータを作成可能とされている。
【0030】
MEGG3Dにおいては、まず、多孔質構造体10のボディの形状(外形)に合わせて、
4面体要素2(後述の
図2も参照)が構成要素となる多孔質構造体10の前段階データが生成される(
図1の上段の中央)。
【0031】
この前段階データにおける各4面体要素2の形状については、数値流体力学における流体の流れや、空力音の低減が考慮されて、ランダム性が持たされている。各4面体要素2は、正4面体である必要はなく、また、不均一かつ不規則である。
【0032】
次に、MEGG3Dにおいて、前段階データにおける4面体要素2が複数(4つ)の6面体要素3(後述の
図2も参照)に分割されて、6面体要素3が構成要素となる多孔質構造体10のデータが生成される(
図1の上段の右側)。
【0033】
このデータにおける各6面体要素3の形状についても、4面体要素2と同様に、数値流体力学における流体の流れや、空力音の低減が考慮されて、ランダム性が持たされている。各6面体要素3は、正6面体である必要はなく、また、不均一かつ不規則である。
【0034】
図2は、MEGG3Dにおいて、4面体要素2が6面体要素3に分割されるときの様子を示す図である。
【0035】
図2に示すように、MEGG3Dにおいて、4面体要素2が複数(4つ)の6面体要素3に分割されるとき、まず、4面体要素2における4つの3角形のそれぞれについて、3角形を構成する3本の柱要素1における3つの第1の点(黒丸参照)が決定される。なお、第1の点により、3本の柱要素1は、それぞれ2つの柱要素1に分割される。
【0036】
第1の点は、3角形における各柱要素1の中点付近の点であるが、上記ランダム性が持たされているので、正確に中点の位置とはされていない。互いに隣接する3角形において、1本の柱要素1は共通しており、その柱要素1について、1つの第1の点が決定される。従って、1つの4面体要素2について、第1の点の数は、合計で6つである(4×3/2)。
【0037】
次に、4面体要素2を構成する4つの3角形それぞれについて、3角形の内部の1つの第2の点(白丸参照)が決定される。第2の点は、3角形における中心付近の点であるが、上記ランダム性が持たされているので、正確に中心の位置とはされていない。1つの4面体要素2について、第2の点の数は、合計で4つである。
【0038】
次に、4面体要素2を構成する4つの3角形それぞれについて、3つの第1の点(黒丸参照)と、1つの第2の点(白丸参照)とを結ぶ3本の柱要素1が決定され、この柱要素1が4面体を構成する柱要素1に追加される。このとき追加される柱要素1の数は、合計で12本である(4×3)。
【0039】
次に、4面体要素2の内部の1つの第3の点(2重丸参照)が決定される。第3の点は、4面体における中心付近の点であるが、上記ランダム性が持たされているので、正確に中心の位置とはされていない。次に、4つの第2の点(白丸参照)と、1つの第3の点を結ぶ4本の柱要素1がさらに追加される。
【0040】
このようにして、MEGG3Dにおいて、1つの4面体要素2が4つの6面体要素3に分割される。
【0041】
なお、本明細書中において、柱要素1との用語は、明示した場合を除き、6面体要素3を構成する各辺を構成する柱成分との意味で使用される。
【0042】
MEGG3Dで作成された、6面体要素3による多孔質構造体10のデータにおける、各柱要素1の始点1a及び終点1bの座標情報は、テキスト情報として、CAD(Computer Aided Design)ソフトウェア(例えば、CATIA(Computer graphics Aided Three dimensional Interactive Application):登録商標)に出力される(
図1の下段の右側)。
【0043】
なお、CADソフトフェアにおける各柱要素1の始点1a及び終点1bの座標情報を、表計算ソフトウェア(例えば、エクセル(登録商標))に出力させ、リンクさせることもできる。この場合、表計算ソフトウェア上で始点1a及び終点1bの座標情報を更新することで、6面体要素3の形状を部分的に変更し、部分的に空隙率を手動で調整して最適化することも可能である。
【0044】
次に、CADソフトフェアにおいて、各柱要素1の一体化処理が(和処理)が実行される(
図1の下段の中央)。つまり、この時点では、各柱要素1が重なっているだけであるので、各柱要素1を一体化させるための一体化処理が実行される。この一体化処理により、柱要素1のボディが重なる部分が排除され、CAD上では、各柱要素1の交差部分に谷線(黒の矢印で示されている)が発生する。なお、一体化処理は、1本の柱要素1ずつ行われるため、マクロでの自動処理が可能である。
【0045】
この一体化処理により、最終的に3次元プリンタに出力されるSTLデータの容量の削減が可能となり、また、3次元プリンタによるエラーも防止される。
【0046】
次に、CADソフトフェアにおいて、多孔質構造体10以外の部分が追加される(
図1の下段の左側)。ここでの例では、多孔質構造体10以外の部分として、多孔質構造体10の下側の土台11と、その土台11及び多孔質構造体10を繋ぐ複数の柱12とが追加されたときの様子が示されている。なお、多孔質構造体10に対して、多孔質構造体10を物体に取り付けるための取り付け座(不図示)等が設けられていてもよい。
【0047】
次に、CADソフトフェアにおいて生成された多孔質構造体10のデータ(6面体要素3が構成要素とされる多孔質構造体10と、それ以外の部分11、12とを含むデータ)が、3次元プリンタに対してSTL出力される。そして、3次元プリンタは、入力されたデータに基づき、多孔質構造体10(多孔質構造体10を含む造形物)を3次元造形する。
【0048】
図3は、3次元プリンタにより生成された多孔質構造体10を示す図である。
図3に示すように、まず、3次元プリンタにより生成された、多孔質構造体10を含む造形物から、多孔質構造体10の下側の土台11及び複数の柱12が除去されて多孔質構造体10が製造される。
【0049】
なお、
図3では、多孔質構造体10が樹脂により構成された場合の一例が示されている。
図4は、多孔質構造体10が、金属(SUS)により構成された場合の一例を示す斜視図である(柱要素1の径0.2mm)。また、
図5は、多孔質構造体10が、金属(SUS)により構成された場合の一例を示す上面図である(柱要素の径0.2mm)。
【0050】
<多孔質構造体10の構成>
次に、多孔質構造体10の構成について説明する。
【0051】
本技術に係る多孔質構造体10は、上述のような製造方法により製造される。従って、本技術に係る多孔質構造体10は、数値流体力学に用いられるメッシュ構造体作成用のソフトウェアに基づいて、対応する条件(例えば、航空機20の飛行速度、高度等)での空力音の低減に適した構造を有する多孔質構造体10のデータが作成され、作成された前記データに基づいて3次元プリンタにより作成される。
【0052】
また、多孔質構造体10は、6面体要素3を構成要素としたメッシュにより構成される。また、各6面体要素3は、4面体要素2が複数(4つ)の6面体要素3に分割されて構成される。
【0053】
4面体要素2が6面体要素3に分割されるとき、4面体要素2を構成する6本の柱要素1に対して、以下に示す柱要素1が追加される。なお、4面体要素2を構成する6本の柱要素は、第1の点により、それぞれ2つの柱要素1に分割される。
【0054】
つまり、4面体要素2が6面体要素3に分割されるとき、4面体要素2における4つの3角形それぞれについて、3角形を構成する3本の柱要素1における3つの第1の点(
図2の黒丸参照)と、3角形の内部の1つの第2の点(
図2の白丸参照)とを結ぶ3本の柱要素1が追加される(合計で12本の柱要素1)。
【0055】
また、4面体要素2が6面体要素3に分割されるとき、さらに、4面体要素2における4つの3角形の内部の4つの第2の点(
図2の白丸参照)と、4面体要素2の内部の1つの第3の点(
図2の2重丸参照)とを結ぶ4本の柱要素1が追加される。
【0056】
多孔質構造体10の材料は、樹脂や金属などの各種の材料を用いることができる。多孔質構造体10は、全て同じ材料により構成されていてもよいし、部分的に異なる材料により構成されていてもよい。
【0057】
【0058】
この多孔質構造体10においては、空隙率が83%とされた。ここで、空隙率は、高い方が空力音の低減効果が高いことが知られており、典型的には、空隙率は、80%以上等とされる。なお、同一体積おいて、n面体要素の数が同じである場合、n面体要素における「n」の値が高い方が、空隙率が高い。
【0059】
4面体要素2においては、「n」の値が低く、空隙率を高めることが困難である(4面体要素2及び6面体要素3では、10%~20%の空隙率の差がある)。また、5面体要素、7面体要素、8面体要素・・等により多孔質構造体10を構成することも想定されるが、これらについては、形状が複雑であり、このような多面体要素を含む多孔質構造体10を計算から求めることが困難である。
【0060】
そこで、本実施形態では、6面体要素3を採用することとしている。6面体要素3であれば、空隙率を比較的に高い値とすることができ、また、4面体要素2を複数(4つ)に分割することで形成することもできるので、容易に作成可能である。
【0061】
また、
図6に示す例では、多孔質構造体10の材料として樹脂(Vitra-413: DWS社(登録商標)による樹脂の型番)が用いられた。また、多孔質構造体10の外径は、45mmとされ、内径は、25mmされ、厚さは、10mmとされた。また、6面体要素3を構成する柱要素1の直径は、0.5mmとされ、目標とされる柱要素1の長さは、2mmとされた。なお、土台11上に形成された柱12は、その直径が0.4mmとされた。
【0062】
ここで、長さ25mm(1インチ)におけるセルの数(n面体要素の数)の範囲が11~16程度であると、空力音の低減効果が高いことが知られている。従って、この例では、目標とされる柱要素1の長さが、2mm(≒25.4mm/13セル)とされている。なお、上述のように、多孔質構造体10における各6面体要素3は、ランダム性を有しており、また、不均一である。従って、6面体要素3を構成する柱要素1の長さには、分布が存在する。
【0063】
図7は、6面体要素3における柱要素1の長さの分布を示す図である。
図7において、横軸は、柱要素1の長さの範囲を示しており、縦軸は、その範囲に含まれる長さを有する柱要素1の数を示している。ここでの例では、多孔質構造体10に含まれる柱要素1の数は、合計で約6000本とされた。また、柱要素1の平均値は、1.97mmとされ、また、中央値は1、72mmとされた。
【0064】
図7から、柱要素1の長さは、目標長さ(2mm)付近を中心として分布していることが分かる。
【0065】
図8は、多孔質構造体10が航空機20に取り付けられたときの様子を示す図である。
図8に示すように、多孔質構造体10(例えば、金属製)は、航空機20の脚扉21の内面に取り付けられる。この多孔質構造体10が製造されるとき、まず、脚扉21が開いているタイミング(離着陸時)での航空機20の飛行速度、飛行高度などの条件から、気流が解析される。そして、MEGG3Dにより、その条件での空力音の低減効果に適したランダム性を持つ6面体要素3が計算され、これにより、多孔質構造体10が製造される。
【0066】
この多孔質構造体10を航空機20の脚扉21の内面に取り付けることで、脚22や脚扉21による空力音を低減することができる。
【0067】
ここでの例では、多孔質構造体10が取り付けられる対象物の例として、航空機20を例に挙げたが、対象物は、航空機20に限られない。例えば、対象物は、自動車や鉄道車両等であってもよい。典型的には、多孔質構造体10が取り付けられる対象物は、空力音が問題となる対象物であればどのような物体であってもよい。また、多孔質構造体10が取り付けられる箇所についても、どのような箇所であってもよい。
【0068】
<作用等>
次に、本実施形態に係る多孔質構造体10における作用等について説明する。ここでの説明では、まず、本実施形態と比較される比較例について説明する。
【0069】
[第1の比較例]
第1の比較例では、金属製の既製品(セルメット(登録商標:富山住友電工製))が多孔質構造体10として用いられる場合が想定される(上記特許文献1の段落[0055]における実施例4参照)。
【0070】
この金属製の既製品(セルメット)が多孔質構造体10として用いられる場合、鋭利な骨格構造が表面に飛び出しているため、扱いが困難であるといった問題がある。また、多孔質構造体10が取り付けられる物体の形状に合わせて、多孔質構造体10を取り付けることが困難であるといった問題がある。さらに、物体の取り付け方法が難しいといった問題がある。
【0071】
[第2比較例]
図9は、第2比較例を示す図である。第2の比較例では、日本積層造形社(登録商標)において提案されている、3次元プリンタによるラティス構造が、多孔質構造体10として用いられる場合が想定される。
【0072】
図9に示すように、第2比較例では、まず、基本単位となる格子形状が作成され、この格子形状が立体的に並べられることで、直方体の造形物のデータが作成される(
図9左側)。次に、最終的な造形物の形状を示す、任意の造形物の形状データが作成される(例えば、球体:
図9の中央)。
【0073】
次に、これらの2つのデータが重ね合わされる作業が変換ソフトウェア上で行われる。そして、そのデータが3次元プリンタに出力されて、3次元プリンタにより造形物31が造形される(
図9右側)。
【0074】
この造形物31が多孔質構造体10として用いられる場合、曲面の表面部分が欠落しているので、表面に鋭利な骨格構造が飛び出し、扱いにくいといった問題がある。
【0075】
[第3比較例]
図10は、第3比較例を示す図である。第3の比較例では、第2比較例と同様に、日本積層造形社において提案されている、3次元プリンタによるラティス構造が、多孔質構造体10として用いられる場合が想定される。
【0076】
第3比較例では、STLデータの3角形の境界線が利用されて、境界線のみが造形されて造形物32が造形される。第3比較例では、造形物32は、表面のみの構造体であり、構造体の内部に構造を作ることができないといった問題がある。また、表面において3角形の格子形状しか作ることができないといった問題がある。
【0077】
[第4比較例]
第4比較例では、3次元プリンタ用のデザインソフトウェアが用いられて作成されたラティス構造が、多孔質構造体として用いられる場合が想定される。第4比較例では、例えば、予め用意されたパターンの関数がベースにされて、目的とする造形物の密度や厚さ等のパラメータが制御されることで、デザインソフトウェア上でラティス構造が自動生成される。
【0078】
第4比較例では、目的とする形状(曲線などを含む立体的な形状)に沿ったラティス構造を作成することができるが、空力音の低減に適した構造を作成することができないといった問題がある。
【0079】
[本実施形態]
本実施形態に係る多孔質構造体10は、数値流体力学に用いられるメッシュ構造体作成用のソフトウェアに基づいて、対応する条件での空力音の低減に適した構造を有する多孔質構造体10のデータが作成され、作成された前記データに基づいて3次元プリンタにより作成される。
【0080】
従って、本実施形態では、空力音の低減に適した構造を有する多孔質構造体10を容易に作成することができる。さらに、本実施形態では、鋭利な骨格構造が表面に飛び出すようなこともなく、扱いが容易となる。
【0081】
また、本実施形態では、多孔質構造体10が3次元プリンタにより作成されるので、多孔質構造体10が取り付けられる物体の形状に合わせて、多孔質構造体10を容易に作成することができる。これにより、多孔質構造体10が取り付けられる物体の形状が複雑な形状であっても、多孔質構造体10を物体に容易に取り付けることができる。また、例えば、多孔質構造体10に取り付け座を埋め込んだ状態で、3次元造形を行うことで、物体への取り付けをさらに容易とすることができる。
【0082】
また、多孔質構造体10において空隙率を部分的に調整することもでき、この場合、空力音の低減効果を最適化することができる。
【0083】
また、本実施形態に係る多孔質構造体10は、6面体要素3を構成要素としたメッシュにより構成される。このように、6面体要素3を構成要素とすることで、空隙率を空力音の低減に適した高い値とすることができる。
【0084】
また、本実施形態に係る多孔質構造体10では、4面体要素2が複数の6面体要素3に分割されて構成される。このように、4面体要素2を複数の6面体要素3に分割することで、6面体要素3による多孔質構造体10を容易に作成可能である。
【0085】
また、本実施形態に係る多孔質構造体10は、4面体要素2における4つの3角形それぞれについて、3角形を構成する3本の柱要素1における3つの第1の点と、3角形の内部の1つの第2の点とを結ぶ3本の柱要素1を含む(合計で12本の柱要素1)。さらに、本実施形態に係る多孔質構造体10は、4面体要素2における4つの3角形の内部の4つの第2の点と、4面体要素2の内部の1つの第3の点とを結ぶ4本の柱要素1を含む。
【0086】
これにより、4面体要素2を含む構造から6面体要素3を含む構造へと適切に変換された多孔質構造体10を得ることができる。
【符号の説明】
【0087】
1…柱要素
2…4面体要素
3…6面体要素
10…多孔質構造体