(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020557
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】改変フィブロイン
(51)【国際特許分類】
C07K 14/435 20060101AFI20240206BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240206BHJP
【FI】
C07K14/435
C12N15/12 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023200611
(22)【出願日】2023-11-28
(62)【分割の表示】P 2019001813の分割
【原出願日】2019-01-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、内閣府、革新的研究開発推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】森田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】安部 佑之介
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩之
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 翔太
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 哲郎
(57)【要約】
【課題】ギ酸等のカルボン酸に接触させることによるエステル結合の形成が低減された改変フィブロインを提供すること。
【解決手段】1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加することによりアミノ酸配列を改変した改変フィブロインであって、改変後の遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数が、改変前の遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数を基準として、少なくとも20%減少している、改変フィブロイン。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加することによりアミノ酸配列を改変した改変フィブロインであって、
改変後の遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数が、改変前の遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数を基準として、少なくとも20%減少している、改変フィブロイン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変フィブロインに関する。より具体的には、本発明は、遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基の含有量が低減された改変フィブロインに関する。
【背景技術】
【0002】
フィブロインは繊維状タンパク質の一種である。フィブロインには、グリシン残基、アラニン残基、セリン残基、チロシン残基等の側鎖の小さいアミノ酸残基が90%にも及ぶ高い比率で含まれる。フィブロインとして、昆虫及びクモ類が産生する糸を構成するタンパク質(絹タンパク質、ホーネットシルクタンパク質、スパイダーシルクタンパク質)等が知られている。
【0003】
絹タンパク質は、優れた機械的特性、吸湿特性及び消臭特性を有し、衣服原料として広く用いられている素材である。また絹糸は免疫寛容な天然繊維であり、生体親和性が高いため手術用縫合糸等の用途にも用いられている。
【0004】
改変フィブロインを含む組成物も種々製造されている。例えば、改変フィブロインを含む組成物の一例として、クモ糸タンパク質フィルム(例えば、特許文献1)、タンパク質繊維などが知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/103799号
【特許文献2】国際公開第2013/065651号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
改変フィブロインを含む組成物の製造に際して、タンパク質溶液(例えば、ドープ液)の調製等の過程でギ酸等のカルボン酸が(例えば、溶媒として)使用されることがある。本発明者らは、ギ酸等のカルボン酸を使用して製造された改変フィブロインを含む組成物は、大気中に放置したときに異臭が発生するという問題があることを見出した。本発明者らはまた、ギ酸等のカルボン酸を使用して製造された改変フィブロインを含む組成物は、タンパク質中の水酸基とカルボン酸との脱水縮合反応により、エステル基が形成されていることを見い出した。このようにして得られた改変フィブロインを含む組成物は、タンパク質表面又は内部に微量に残留したギ酸等のカルボン酸を触媒として、タンパク質に付加されたエステル基の加水分解が進行し、カルボン酸が遊離することがあり、遊離したカルボン酸が、異臭等の原因となっていた。本発明は、このような本発明者らが新規に見出した課題を解決しようとするものである。
【0007】
すなわち、本発明は、ギ酸等のカルボン酸に接触させることによるエステル結合の形成が低減された改変フィブロインを提供することを目的とする。本発明はまた、改変フィブロインにおけるギ酸等のカルボン酸に接触させることによるエステル結合の形成を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、改変フィブロインのアミノ酸配列中における遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基の含有量を低減することで、上記目的を達成できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0009】
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加することによりアミノ酸配列を改変した改変フィブロインであって、
改変後の遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数が、改変前の遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数を基準として、少なくとも20%減少している、改変フィブロイン。
[2]
遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率が、改変前を基準として、少なくとも6%減少している、[1]に記載の改変フィブロイン。
[3]
式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含み、
遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率が22%以下である、改変フィブロイン。
[式1及び式2中、(A)nモチーフは4~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の改変フィブロインをコードする核酸。
[5]
[4]に記載の核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸。
[式1及び式2中、(A)nモチーフは4~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[6]
[4]に記載の核酸と90%以上の配列同一性を有し、かつ式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸。
[式1及び式2中、(A)nモチーフは4~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[7]
[4]~[6]のいずれかに記載の核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクター。
[8]
プラスミドベクター又はウイルスベクターである、[7]に記載の発現ベクター。
[9]
[7]又は[8]に記載の発現ベクターで形質転換された宿主。
[10]
原核生物である、[9]に記載の宿主。
[11]
前記原核生物が、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属からなる群より選択される属に属する微生物である、[10]に記載の宿主。
[12]
真核生物である、請求項9に記載の宿主。
[13]
前記真核生物が、酵母、糸状真菌又は昆虫細胞である、[12]に記載の宿主。
[14]
[1]~[3]のいずれかに記載の改変フィブロインを含む、人造改変フィブロイン組成物。
[15]
タンパク質粉末である、[14]に記載の人造改変フィブロイン組成物。
[16]
ドープ液である、[14]に記載の人造改変フィブロイン組成物。
[17]
繊維である、[14]に記載の人造改変フィブロイン組成物。
[18]
フィルムである、[14]に記載の人造改変フィブロイン組成物。
[19]
改変フィブロインの製造方法であって、
改変フィブロインをコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させる工程を含み、
前記改変フィブロインが、[1]~[3]のいずれかに記載の改変フィブロインである、製造方法。
[20]
改変フィブロインを含む人造改変フィブロイン組成物の製造方法であって、
改変フィブロインを用意する工程を含み、
前記改変フィブロインが、[1]~[3]のいずれかに記載の改変フィブロインである、製造方法。
[21]
前記改変フィブロインをカルボン酸と接触させる工程を更に含む、[19]又は[20]に記載の製造方法。
[22]
前記改変フィブロイン及びカルボン酸を含有する改変フィブロイン溶解液を調整する工程を更に含む、[20]に記載の製造方法。
[23]
改変フィブロインとカルボン酸とのエステル結合の形成を低減する方法であって、
1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加することにより、フィブロインタンパク質のアミノ酸配列を改変する工程を含み、
改変後の改変フィブロインにおける遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数が、改変前のフィブロインタンパク質における遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数を基準として、少なくとも20%減少している、方法。
[24]
改変後の改変フィブロインにおける遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率が、改変前のフィブロインタンパク質における遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率を基準として、少なくとも6%減少している、[23]に記載の方法。
[25]
[1]~[3]のいずれかに記載の改変フィブロインを含み、
繊維、糸、フィルム、発泡体、粒体、ナノフィブリル、ゲル及び樹脂からなる群から選択される、製品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ギ酸等のカルボン酸に接触させることによるエステル結合の形成が低減された改変フィブロインを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】改変フィブロインで形成したフィルムの赤外吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
〔改変フィブロイン〕
本発明に係る改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0014】
本明細書において「改変フィブロイン」とは、そのアミノ酸配列が天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインを意味する。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」は、そのアミノ酸配列が自然に存在する昆虫又はクモ類等が産生するフィブロインと同一であるフィブロインを意味する。天然由来のフィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
【0015】
天然由来のフィブロインとしては、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0016】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、スズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0017】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、AAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0018】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
【0019】
クモ類が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major angu11ate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major anpullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0020】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0021】
「改変フィブロイン」は、本発明で特定されるアミノ酸配列を有するものであれば、天然由来のフィブロインに依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的にアミノ酸配列を設計したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。なお、改変フィブロインのアミノ酸配列を改変したものも、そのアミノ酸配列が天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるものであれば、改変フィブロインに含まれる。
【0022】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)nモチーフは4~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10~300の整数を示す。mは、20~300の整数であることが好ましく、30~300の整数であることがより好ましい。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0023】
(A)nモチーフは、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上であればよいが、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されることが好ましい。アラニン残基のみで構成されるとは、(A)nモチーフが、(Ala)k(Alaはアラニン残基を示し、kは4~27の整数、好ましくは4~20の整数、より好ましくは4~16の整数を示す。)で表されるアミノ酸配列を有することを意味する。
【0024】
一実施形態に係る改変フィブロインは、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加することによりアミノ酸配列を改変した改変フィブロインであって、OH減少率が少なくとも20%である。ここで、OH減少率とは、改変前のフィブロインタンパク質における遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数を基準とした、改変後の改変フィブロインにおける遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数の割合を示し、下記式で算出される。
OH減少率(%)={1-(改変後の改変フィブロインにおける遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数/改変前のフィブロインタンパク質における遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数)}×100
なお、改変前のフィブロインタンパク質には、天然由来のフィブロイン及び改変フィブロインが含まれる。
【0025】
遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基としては、例えば、セリン残基(S)、スレオニン残基(T)、チロシン残基(Y)等の側鎖に遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基が挙げられる。
【0026】
本実施形態に係る改変フィブロインは、改変後の遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数が、改変前の遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数を基準として、少なくとも20%減少しているものであればよい(すなわち、OH減少率が20%以上)。これにより、ギ酸等のカルボン酸に接触させることによるエステル結合の形成が低減される。また、異臭の発生が低減される、又は異臭が発生しにくくなる。
【0027】
本実施形態に係る改変フィブロインのOH減少率は、25%以上であってもよく、35%以上であってもよく、45%以上であってもよく、55%以上であってもよく、65%以上であってもよく、75%以上であってもよく、85%以上であってもよく、95%以上であってもよく、100%であってもよい。これにより、本発明による効果をより一層顕著に奏することができる。
【0028】
本実施形態に係る改変フィブロインは、改変後の改変フィブロインにおける遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率が、改変前のフィブロインタンパク質における遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率を基準として、少なくとも6%減少していることが好ましく、少なくとも6.5%減少していることがより好ましく、少なくとも7%減少していることが更に好ましい。これにより、本発明による効果をより一層顕著に奏することができる。
【0029】
本明細書において、「遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率」は、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基の総数をxとし、フィブロインのアミノ酸残基の総数をyとしたときに、x/y×100%で算出される値である。
【0030】
一実施形態に係る改変フィブロインは、遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率が22%以下である改変フィブロインである。遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率は、20%以下であってもよく、18%以下であってもよく、16%以下であってもよく、14%以下であってもよく、12%以下であってもよく、10%以下であってもよく、8%以下であってもよく、6%以下であってもよく、4%以下であってもよく、2%以下であってもよく、0%であってもよい。これにより、ギ酸等のカルボン酸に接触させることによるエステル結合の形成が低減される。また、異臭が発生しにくくなる。
【0031】
一実施形態に係る改変フィブロインは、セリン残基、スレオニン残基及びチロシン残基含有率が22%以下である改変フィブロインである。セリン残基、スレオニン残基及びチロシン残基含有率は、20%以下であってもよく、18%以下であってもよく、16%以下であってもよく、14%以下であってもよく、12%以下であってもよく、10%以下であってもよく、8%以下であってもよく、6%以下であってもよく、4%以下であってもよく、2%以下であってもよく、0%であってもよい。これにより、ギ酸等のカルボン酸に接触させることによるエステル結合の形成が低減される。また、異臭が発生しにくくなる。
【0032】
本明細書において、「セリン残基、スレオニン残基及びチロシン残基含有率」は、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、セリン残基の総数をaとし、スレオニン残基の総数をbとし、チロシン残基の総数をcとし、フィブロインのアミノ酸残基の総数をyとしたときに、(a+b+c)/y×100%で算出される値である。
【0033】
本発明に係る改変フィブロインの分子量は、特に限定されないが、例えば、10kDa以上700kDa以下であってよい。本発明に係る改変フィブロインの分子量は、例えば、20kDa以上、30kDa以上、40kDa以上、50kDa以上、60kDa以上、70kDa以上、80kDa以上、90kDa以上、又は100kDa以上であってよく、600kDa以下、500kDa以下、400kDa以下、300kDa以下、又は200kDa以下であってよい。
【0034】
本発明に係る改変フィブロインのより具体的な例として、(i)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号10又は配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(ii)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号10又は配列番号11で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0035】
配列番号1で示されるアミノ酸配列(Met-PRT918)は、配列番号9で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1083)中のGTGAをGPGAに置換し、GTGSをGPGSに置換し、GLGVをGPGVに置換し、GTGIをGPGIに置換し、GLYをGPYに置換し、GTSをGPSに置換したものである。
【0036】
配列番号2で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1104)は、配列番号25で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)のセリン残基(S)の大部分をアラニン残基(A)又はグリシン残基(G)で置換したものである。配列番号25で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)は、配列番号26で示されるアミノ酸配列(Met-PRT380)から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号26で示されるアミノ酸配列(Met-PRT380)は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号27(Met-PRT313)で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。
【0037】
配列番号3で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1105)は、配列番号1で示されるアミノ酸配列(Met-PRT918)のセリン残基(S)をアラニン残基(A)又はグリシン残基(G)で置換したものである。
【0038】
配列番号4で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1103)は、配列番号25で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)のチロシン残基(Y)をフェニルアラニン残基(F)に置換し、かつセリン残基(S)の大部分をアラニン残基(A)又はグリシン残基(G)で置換したものである。
【0039】
配列番号5で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1107)は、配列番号1で示されるアミノ酸配列(Met-PRT918)のセリン残基(S)をアラニン残基(A)、バリン残基(V)、ロイシン残基(L)又はイソロイシン残基(I)で置換したものである。
【0040】
配列番号6で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1146)は、配列番号1で示されるアミノ酸配列(Met-PRT918)のチロシン残基(Y)を欠失し、かつセリン残基(S)をアラニン残基(A)又はグリシン残基(G)で置換したものである。
【0041】
配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1147)は、配列番号1で示されるアミノ酸配列(Met-PRT918)のチロシン残基(Y)をフェニルアラニン残基(F)に置換し、かつセリン残基(S)をアラニン残基(A)又はグリシン残基(G)で置換したものである。
【0042】
配列番号8で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1148)は、配列番号1で示されるアミノ酸配列(Met-PRT918)のチロシン残基(Y)をロイシン残基(L)に置換し、かつセリン残基(S)をアラニン残基(A)又はグリシン残基(G)で置換したものである。
【0043】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(Met-PRT826)は、配列番号11で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1127)のスレオニン残基(T)をセリン残基(S)に置換し、更にVFをQQに置換し、イソロイシン残基(I)をグルタミン残基(Q)に置換したものである。配列番号10で示されるアミノ酸配列(Met-PRT826)はまた、配列番号9で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1083)中のGTGAをGPGAに置換し、GTGSをGPGSに置換し、GLGVをGPGVに置換し、GTGIをGPGIに置換し、GLYをGPYに置換し、GTSをGPSに置換し、VFをQQに置換し、イソロイシン残基(I)をグルタミン残基(Q)に置換したものである。
【0044】
配列番号11で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1127)は、配列番号9で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1083)中のGTGAをGPGAに置換し、GTGSをGPGSに置換し、GLGVをGPGVに置換し、GTGIをGPGIに置換し、GLYをGPYに置換し、GTSをGPSに置換したうえで、セリン残基(S)をスレオニン残基(T)に置換したものである。
【0045】
(i)の改変フィブロインは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号10又は配列番号11で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0046】
(ii)の改変フィブロインは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号10又は配列番号11で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0047】
(ii)の改変フィブロインは、遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率が22%以下であることが好ましい。また、(ii)の改変フィブロインは、セリン残基、スレオニン残基及びチロシン残基含有率が22%以下であることが好ましい。
【0048】
上述の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0049】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0050】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0051】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0052】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0053】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(iii)配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号21若しくは配列番号22で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号21若しくは配列番号22で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0054】
配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号21又は配列番号22で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号10又は配列番号11で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含む)を付加したアミノ酸配列を有する。
【0055】
(iii)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号21又は配列番号22で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0056】
(iii)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号21又は配列番号22で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(iii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0057】
(iii)の改変フィブロインは、遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率が22%以下であることが好ましい。また、(iii)の改変フィブロインは、セリン残基、スレオニン残基及びチロシン残基含有率が22%以下であることが好ましい。
【0058】
上述の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0059】
〔核酸〕
本発明に係る核酸は、本発明に係る改変フィブロインをコードする。核酸の具体例として、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号10又は配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又はこれらのアミノ酸配列のN末端及びC末端のいずれか一方若しくは両方に配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列(タグ配列)を結合させた改変フィブロイン等をコードする核酸が挙げられる。
【0060】
一実施形態に係る核酸は、本発明に係る改変フィブロインをコードする核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸である。当該核酸によりコードされる改変フィブロインは、遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率が22%以下であることが好ましい。また、当該核酸によりコードされる改変フィブロインは、セリン残基、スレオニン残基及びチロシン残基含有率が22%以下であることが好ましい。
【0061】
「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。低ストリンジェントな条件とは、少なくとも85%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、42℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。中ストリンジェントな条件とは、少なくとも90%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、50℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、少なくとも95%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、60℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0062】
他の実施形態に係る核酸は、本発明に係る改変フィブロインをコードする核酸と90%以上の配列同一性を有し、かつ式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸である。当該核酸によりコードされる改変フィブロインは、遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率が22%以下であることが好ましい。また、当該核酸によりコードされる改変フィブロインは、セリン残基、スレオニン残基及びチロシン残基含有率が22%以下であることが好ましい。
【0063】
〔宿主及び発現ベクター〕
本発明に係る発現ベクターは、本発明に係る核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する。調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【0064】
本発明に係る宿主は、本発明に係る発現ベクターで形質転換されたものである。宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0065】
発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、本発明に係る核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0066】
細菌等の原核生物を宿主として用いる場合は、本発明に係る発現ベクターは、原核生物中で自立複製が可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、本発明に係る核酸及び転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0067】
原核生物としては、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する微生物を挙げることができる。
【0068】
エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ BL21(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ BL21(DE3)(ライフテクノロジーズ社)、エシェリヒア・コリ BLR(DE3)(メルクミリポア社)、エシェリヒア・コリ DH1、エシェリヒア・コリ GI698、エシェリヒア・コリ HB101、エシェリヒア・コリ JM109、エシェリヒア・コリ K5(ATCC 23506)、エシェリヒア・コリ KY3276、エシェリヒア・コリ MC1000、エシェリヒア・コリ MG1655(ATCC 47076)、エシェリヒア・コリ No.49、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ TB1、エシェリヒア・コリ Tuner(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ Tuner(DE3) (ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ W1485、エシェリヒア・コリ W3110(ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli) XL1-Blue、エシェリヒア・コリ XL2-Blue等を挙げることができる。
【0069】
ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ、ブレビバチルス・ボルステレンシス、ブレビバチルス・セントロポラスブレビバチルス・フォルモサス、ブレビバチルス・インボカツス、ブレビバチルス・ラチロスポラス、ブレビバチルス・リムノフィルス、ブレビバチルス・パラブレビス、ブレビバチルス・レウスゼリ、ブレビバチルス・サーモルバー、ブレビバチルス・ブレビス47(FERM BP-1223)、ブレビバチルス・ブレビス47K(FERM BP-2308)、ブレビバチルス・ブレビス47-5(FERM BP-1664)、ブレビバチルス・ブレビス47-5Q(JCM8975)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31(FERM BP-1087)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31-S(FERM BP-6623)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31-OK(FERM BP-4573)、ブレビバチルス・チョウシネンシスSP3株(Takara社製)等を挙げることができる。
【0070】
セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス(Serratia liquefacience)ATCC14460、セラチア・エントモフィラ(Serratia entomophila)、セラチア・フィカリア(Serratia ficaria)、セラチア・フォンティコーラ(Serratia fonticola)、セラチア・グリメシ(Serratia grimesii)、セラチア・プロテアマキュランス(Serratia proteamaculans)、セラチア・オドリフェラ(Serratia odorifera)、セラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)、セラチア・ルビダエ(Serratia rubidaea)等を挙げることができる。
【0071】
バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)等を挙げることができる。
【0072】
ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム ATCC15354等を挙げることができる。
【0073】
ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ATCC14020、ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067)ATCC13826,ATCC14067、ブレビバクテリウム・インマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)ATCC14068、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869)ATCC13665,ATCC13869、ブレビバクテリウム・ロゼウムATCC13825、ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)ATCC14066、ブレビバクテリウム・チオゲニタリスATCC19240、ブレビバクテリウム・アルバムATCC15111、ブレビバクテリウム・セリヌムATCC15112等を挙げることができる。
【0074】
コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)ATCC6871,ATCC6872、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC14067、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)ATCC13870、コリネバクテリウム・アセトグルタミカムATCC15806、コリネバクテリウム・アルカノリティカムATCC21511、コリネバクテリウム・カルナエATCC15991、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13020,ATCC13032,ATCC13060、コリネバクテリウム・リリウムATCC15990、コリネバクテリウム・メラセコーラATCC17965、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネスAJ12340(FERMBP-1539)、コリネバクテリウム・ハーキュリスATCC13868等を挙げることができる。
【0075】
シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・ブラシカセラム(Pseudomonas brassicacearum)、シュードモナス・フルバ(Pseudomonas fulva)、及びシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)D-0110等を挙げることができる。
【0076】
上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110 (1972)〕、プロトプラスト法(特開昭63-248394号公報)、又はGene,17,107(1982)やMolecular & General Genetics,168,111(1979)に記載の方法等を挙げることができる。
【0077】
ブレビバチルス属に属する微生物の形質転換は、例えば、Takahashiらの方法(J.Bacteriol.,1983,156:1130-1134)や、Takagiらの方法(Agric.Biol.Chem.,1989,53:3099-3100)、又はOkamotoらの方法(Biosci.Biotechnol.Biochem.,1997,61:202-203)により実施することができる。
【0078】
本発明に係る核酸を導入するベクター(以下、単に「ベクター」という。)としては、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社より市販)、pKK233-2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX-1(Promega社製)、pQE-8(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58-110600号公報)、pKYP200〔Agric.Biol.Chem.,48,669(1984)〕、pLSA1〔Agric.Biol.Chem.,53,277(1989)〕、pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,4306(1985)〕、pBluescript II SK(-)(Stratagene社製)、pTrs30〔Escherichiacoli JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調製〕、pTrs32〔Escherichia coli JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調製〕、pGHA2〔Escherichia coli IGHA2(FERM B-400)より調製、特開昭60-221091号公報〕、pGKA2〔Escherichia coli IGKA2(FERM BP-6798)より調製、特開昭60-221091号公報〕、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pEG400〔J.Bacteriol.,172,2392(1990)〕、pGEX(Pharmacia社製)、pETシステム(Novagen社製)等を挙げることができる。
【0079】
宿主としてEscherichia coliを用いる場合は、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold等を好適なベクターとして挙げることができる。
【0080】
ブレビバチルス属に属する微生物に好適なベクターの具体例として、枯草菌ベクターとして公知であるpUB110、又はpHY500(特開平2-31682号公報)、pNY700(特開平4-278091号公報)、pHY4831(J.Bacteriol.,1987,1239-1245)、pNU200(鵜高重三、日本農芸化学会誌1987,61:669-676)、pNU100(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1989,30:75-80)、pNU211(J.Biochem.,1992,112:488-491)、pNU211R2L5(特開平7-170984号公報)、pNH301(Appl.Environ.Microbiol.,1992,58:525-531)、pNH326、pNH400(J.Bacteriol.,1995,177:745-749)、pHT210(特開平6-133782号公報)、pHT110R2L5(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1994,42:358-363)、又は大腸菌とブレビバチルス属に属する微生物とのシャトルベクターであるpNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0081】
プロモーターとしては、宿主細胞中で機能するものであれば制限されない。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、T7プロモーター等の大腸菌又はファージ等に由来するプロモーターを挙げることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrp×2)、tacプロモーター、lacT7プロモーター、let Iプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
【0082】
リボソーム結合配列であるシャイン-ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6~18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。本発明に係る発現ベクターにおいて、本発明に係る核酸の発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
【0083】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母、糸状真菌(カビ等)及び昆虫細胞を挙げることができる。
【0084】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、シワニオミセス(Schwanniomyces)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属、ヤロウィア属及びハンゼヌラ属等に属する酵母を挙げることができる。より具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullulans)、シワニオマイセス・アルビウス(Schwanniomyces alluvius)、シワニオマイセス・オシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・ポリモルファ(Pichia polymorpha)、ピキア・スチピチス(Pichia stipitis)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等を挙げることができる。
【0085】
酵母を宿主細胞として用いる場合の発現ベクターは通常、複製起点(宿主における増幅が必要である場合)及び大腸菌中でのベクターの増殖のための選抜マーカー、酵母における組換えタンパク質発現のためのプロモーター及びターミネーター、並びに酵母のための選抜マーカーを含むことが好ましい。
【0086】
発現ベクターが非組込みベクターの場合、さらに自己複製配列(ARS)を含むことが好ましい。これにより細胞内における発現ベクターの安定性を向上させることができる(Myers、A.M.、et al.(1986)Gene 45:299-310)。
【0087】
酵母を宿主として用いる場合のベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)、YIp、pHS19、pHS15、pA0804、pHIL3Ol、pHIL-S1、pPIC9K、pPICZα、pGAPZα、pPICZ B等を挙げることができる。
【0088】
プロモーターとしては、酵母中で発現できるものであれば制限されない。例えば、ヘキソースキナーゼ等の解糖系の遺伝子のプロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal 1プロモーター、gal 10プロモーター、ヒートショックポリペプチドプロモーター、MFα1 プロモーター、CUP 1プロモーター、pGAPプロモーター、pGCW14プロモーター、AOX1プロモーター、MOXプロモーター等を挙げることができる。
【0089】
酵母への発現ベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法(Methods Enzymol.,194,182(1990))、スフェロプラスト法(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,4889(1984))、酢酸リチウム法(J.Bacteriol.,153,163(1983))、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法等を挙げることができる。
【0090】
糸状真菌としては、例えば、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ウスチラーゴ(Ustilago)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ノイロスポラ(Neurospora)属、フザリウム(Fusarium)属、フミコーラ(Humicola)属、ペニシリウム(Penicillium)属、マイセリオフトラ(Myceliophtora)属、ボトリティス(Botryts)属、マグナポルサ(Magnaporthe)属、ムコア(Mucor)属、メタリチウム(Metarhizium)属、モナスカス(Monascus)属、リゾプス(Rhizopus)属、及びリゾムコア属に属する菌等を挙げることができる。
【0091】
糸状真菌の具体例として、アクレモニウム・アラバメンゼ(Acremonium alabamense)、アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)、アスペルギルス・アクレアツス(アキュレータス)(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・サケ(Aspergillus sake)、アスペルギルス・ゾジエ(ソーヤ)(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・テュビゲンシス(Aspergillus tubigensis)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・パラシチクス(Aspergillus parasiticus)、アスペルギルス・フィクム(フィキュウム)(Aspergillus ficuum)、アスペルギルス・フェニクス(Aspergillus phoeicus)、アスペルギルス・フォエチズス(フェチダス)(Aspergillus foetidus)、アスペルギルス・フラーブス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・ヤポニクス(ジャポニカス)(Aspergillus japonicus)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、トリコデルマ・ハージアヌム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reseei)、クリソスポリウム・ルクノエンス(Chrysosporium lucknowense)、サーモアスクス(Thermoascus)、スポロトリクム(Sporotrichum)、スポロトリクム・セルロフィルム(Sporotrichum cellulophilum)、タラロマイセス(Talaromyces)、チエラビア・テレストリス(Thielavia terrestris)、チラビア(Thielavia)、ノイロスポラ・クラザ(Neurospora crassa)、フザリウム・オキシスポーラス(Fusarium oxysporus)、フザリウム・グラミネルム(Fusarium graminearum)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)、ペニシリウム・クリゾゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)、ペニシリウム・カネセンス(Penicillium canescens)、ペニシリウム・エメルソニ(Penicillium emersonii)、ペニシリウム・フニクロスム(Penicillium funiculosum)、ペニシリウム・グリゼオロゼウム(Penicillium griseoroseum)、ペニシリウム・パープロゲナム(Penicillium purpurogenum)、ペニシリウム・ロケフォルチ(Penicillium roqueforti)、マイセリオフトラ・サーモフィルム(Myceliophtaora thermophilum)、ムコア・アンビグス(Mucor ambiguus)、ムコア・シイルシネロイデェス(Mucor circinelloides)、ムコア・フラギリス(Mucor fragilis)、ムコア・ヘマリス(Mucor hiemalis)、ムコア・イナエクイスポラス(Mucor inaequisporus)、ムコア・オブロンジエリプティカス(Mucor oblongiellipticus)、ムコア・ラセモサス(Mucor racemosus)、ムコア・レクルバス(Mucor recurvus)、ムコア・サトゥルニナス(Mocor saturninus)、ムコア・サブティリススミウス(Mocor subtilissmus)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、ファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、リゾムコア・ミーヘイ(Rhizomucor miehei)、リゾムコア・プシルス(Rhizomucor pusillus)、リゾプス・アルヒザス(Rhizopus arrhizus)等を挙げることができる。
【0092】
宿主が糸状真菌である場合のプロモーターとしては、解糖系に関する遺伝子、構成的発現に関する遺伝子、加水分解に関する酵素遺伝子等いずれであってもよく、具体的にはamyB、glaA、agdA、glaB、TEF1、xynF1tannasegene、No.8AN、gpdA、pgkA、enoA、melO、sodM、catA、catB等を挙げることができる。
【0093】
糸状真菌への発現ベクターの導入は、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、Cohenらの方法(塩化カルシウム法)[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,69:2110(1972)]、プロトプラスト法[Mol.Gen.Genet.,168:111(1979)]、コンピテント法[J.Mol.Biol.,56:209(1971)]、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0094】
昆虫細胞として、例えば、鱗翅類の昆虫細胞が挙げられ、より具体的には、Sf9、及びSf21等のスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来の昆虫細胞、並びに、High 5等のイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来の昆虫細胞等が挙げられる。
【0095】
昆虫細胞を宿主として用いる場合のベクターとしては、例えば、夜盗蛾科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等のバキュロウイルス(Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company,New York(1992))を挙げることができる。
【0096】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、例えばカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company, New York(1992)、Bio/Technology,6,47(1988)等に記載された方法によって、ポリペプチドを発現することができる。すなわち、組換え遺伝子導入ベクター及びバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルス(発現ベクター)を得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、ポリペプチドを発現させることができる。該方法において用いられる遺伝子導入ベクターとしては、例えば、pVL1392、pVL1393、pBlueBacIII(ともにInvitorogen社製)等を挙げることができる。
【0097】
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターとバキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法(特開平2-227075号公報)、リポフェクション法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,7413(1987))等を挙げることができる。
【0098】
本発明に係る組換えベクターは、形質転換体選択のための選択マーカー遺伝子をさらに含有していることが好ましい。例えば、大腸菌においては、選択マーカー遺伝子としては、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の各種薬剤に対する耐性遺伝子を用いることができる。栄養要求性に関与する遺伝子変異を相補できる劣性の選択マーカーも使用できる。酵母においては、選択マーカー遺伝子として、ジェネティシンに対する耐性遺伝子を用いることができ、栄養要求性に関与する遺伝子変異を相補する遺伝子、LEU2、URA3、TRP1、HIS3等の選択マーカーも使用できる。糸状真菌においては、選択マーカー遺伝子として、niaD(Biosci.Biotechnol.Biochem.,59,1795-1797(1995))、argB(Enzyme Microbiol Technol,6,386-389,(1984)),sC(Gene,84,329-334,(1989))、ptrA(BiosciBiotechnol Biochem,64,1416-1421,(2000))、pyrG(BiochemBiophys Res Commun,112,284-289,(1983)),amdS(Gene,26,205-221,(1983))、オーレオバシジン耐性遺伝子(Mol Gen Genet,261,290-296,(1999))、ベノミル耐性遺伝子(Proc Natl Acad Sci USA,83,4869-4873,(1986))及びハイグロマイシン耐性遺伝子(Gene,57,21-26,(1987))からなる群より選ばれるマーカー遺伝子、ロイシン要求性相補遺伝子等が挙げられる。また、宿主が栄養要求性変異株の場合には、選択マーカー遺伝子として当該栄養要求性を相補する野生型遺伝子を用いることもできる。
【0099】
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主の選択は、本発明に係る核酸に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション及びコロニーハイブリダイゼーション等で行うことができる。当該プローブとしては、本発明に係る核酸の配列情報に基づき、PCR法によって増幅した部分DNA断片をラジオアイソトープ又はジゴキシゲニンで修飾したものを用いることができる。
【0100】
〔改変フィブロインの製造方法〕
本発明に係る改変フィブロインは、本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主により、本発明に係る核酸を発現させる工程を含む方法により、製造することができる。発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。酵母、動物細胞、昆虫細胞により発現させた場合には、糖又は糖鎖が付加されたポリペプチドとして改変フィブロインを得ることができる。
【0101】
本発明に係る改変フィブロインは、例えば、本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に本発明に係る改変フィブロインを生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。本発明に係る宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0102】
本発明に係る宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、本発明に係る宿主の培養培地として、該宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、該宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0103】
炭素源としては、該宿主が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。
【0104】
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。
【0105】
無機塩としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0106】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0107】
また、培養中必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0108】
昆虫細胞の培養培地としては、一般に使用されているTNM-FH培地(Pharmingen社製)、Sf-900 II SFM培地(Life Technologies社製)、ExCell400、ExCell405(いずれもJRH Biosciences社製)、Grace’s Insect Medium(Nature,195,788(1962))等を用いることができる。
【0109】
昆虫細胞の培養は、例えば、培養培地のpH6~7、培養温度25~30℃等の条件下で、培養時間1~5日間とすることができる。また、培養中必要に応じて、ゲンタマイシン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。
【0110】
宿主が植物細胞の場合、形質転換された植物細胞をそのまま培養してもよく、また植物の器官に分化させて培養することができる。該植物細胞を培養する培地としては、一般に使用されているムラシゲ・アンド・スクーグ(MS)培地、ホワイト(White)培地、又はこれらの培地にオーキシン、サイトカイニン等、植物ホルモンを添加した培地等を用いることができる。
【0111】
動物細胞の培養は、例えば、培養培地のpH5~9、培養温度20~40℃等の条件下で、培養時間3~60日間とすることができる。また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ハイグロマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0112】
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主を用いて改変フィブロインを生産する方法としては、該改変フィブロインを宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、及び宿主細胞外膜上に生産させる方法がある。使用する宿主細胞、及び生産させる改変フィブロインの構造を変えることにより、これらの各方法を選択することができる。
【0113】
例えば、改変フィブロインが宿主細胞内又は宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法(J.Biol.Chem.,264,17619(1989))、ロウらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990))、又は特開平5-336963号公報、国際公開第94/23021号等に記載の方法を準用することにより、改変フィブロインを宿主細胞外に積極的に分泌させるように変更させることができる。すなわち、遺伝子組換えの手法を用いて、改変フィブロインの活性部位を含むポリペプチドにシグナルペプチドを付加した形で発現させることにより、改変フィブロインを宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
【0114】
本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主により生産された改変フィブロインは、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法で単離及び精製することができる。例えば、改変フィブロインが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0115】
上記クロマトグラフィーとしては、フェニル-トヨパール(東ソー)、DEAE-トヨパール(東ソー)、セファデックスG-150(ファルマシアバイオテク)を用いたカラムクロマトグラフィーが好ましく用いられる。
【0116】
また、改変フィブロインが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として改変フィブロインの不溶体を回収する。回収した改変フィブロインの不溶体は蛋白質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により改変フィブロインの精製標品を得ることができる。
【0117】
改変フィブロイン、又は改変フィブロインに糖鎖の付加された誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清から改変フィブロイン又はその誘導体を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0118】
本発明に係る改変フィブロインは、ギ酸等のカルボン酸に接触させることによるエステル結合の形成が低減されており、またこれにより、大気中に放置しても、異臭の発生が低減されている、又は異臭が発生しにくい。したがって、本実施形態に係る改変フィブロインの製造方法は、改変フィブロインをギ酸等のカルボン酸と接触させる工程を含んでいても問題ない。
【0119】
〔人造改変フィブロイン組成物〕
本実施形態に係る人造改変フィブロイン組成物は、本発明に係る改変フィブロインを少なくとも含むものである。
【0120】
人造改変フィブロイン組成物における、改変フィブロインの含有量は、人造改変フィブロイン組成物全量を基準として、30~100質量%であってよく、35~100質量%であるのが好ましく、40~100質量%であるのがより好ましい。
【0121】
本実施形態に係る人造改変フィブロイン組成物は、その形態、用途等に応じて、更に他の添加剤を含むものであってもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、レベリング剤、架橋剤、結晶核剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、フィラー、及び合成樹脂が挙げられる。添加剤の含有量は、改変フィブロインの全量100質量部に対して、50質量部以下であってよい。
【0122】
本実施形態に係る人造改変フィブロイン組成物は、粉末状、ペースト状、液状(例えば、懸濁液、溶液)のいずれの形態であってもよい。また、本実施形態に係る人造改変フィブロイン組成物は、原料組成物(例えば、タンパク質粉末、ドープ液)の形態の他、当該人造改変フィブロイン組成物を含む、又は当該人造改変フィブロイン組成物からなる成形体(例えば、繊維、糸、フィルム、発泡体、粒体、モールド成形体)の形態であってもよい。
【0123】
(ドープ液)
本実施形態に係る人造改変フィブロイン組成物は、ドープ液の形態であってもよい。本実施形態に係るドープ液は、改変フィブロインと、溶媒とを少なくとも含む。本実施形態に係るドープ液は、更に溶解促進剤を含むものであってもよい。本実施形態に係るドープ液はまた、更に改変フィブロイン以外のタンパク質を含むものであってもよい。
【0124】
溶媒としては、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフルオロアセトン(HFA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ギ酸、並びに尿素、グアニジン、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、臭化リチウム、塩化カルシウム及びチオシアン酸リチウム等を含む水溶液等を挙げることができる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0125】
ドープ液における改変フィブロインの含有量は、ドープ液の全質量を基準として、15質量%以上、30質量%以上、40質量%以上又は50質量%以上であってよい。改変フィブロインの含有量は、ドープ液の製造効率の観点から、ドープ液の全質量を基準として、70質量%以下、65質量%以下、又は60質量%以下であってよい。
【0126】
溶解促進剤としては、例えば、以下に示すルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩が挙げられる。ルイス塩基としては、例えば、オキソ酸イオン(硝酸イオン、過塩素酸イオン等)、金属オキソ酸イオン(過マンガン酸イオン等)、ハロゲン化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン等が挙げられる。ルイス酸としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオン、アンモニウムイオン等の多原子イオン、錯イオン等が挙げられる。ルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩の具体例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びチオシアン酸リチウム等のリチウム塩、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、及びチオシアン酸カルシウム等のカルシウム塩、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硝酸鉄、過塩素酸鉄、及びチオシアン酸鉄等の鉄塩、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、及びチオシアン酸アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、及びチオシアン酸カリウム等のカリウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びチオシアン酸ナトリウム等のナトリウム塩、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、及びチオシアン酸亜鉛等の亜鉛塩、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、及びチオシアン酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、硝酸バリウム、過塩素酸バリウム、及びチオシアン酸バリウム等のバリウム塩、並びに塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム、及びチオシアン酸ストロンチウム等のストロンチウム塩が挙げられる。
【0127】
溶解促進剤の含有量は、改変フィブロインの全量100質量部に対して、1.0質量部以上、5.0質量部以上、9.0質量部以上、15質量部以上又は20.0質量部以上であってよい。溶解促進剤の含有量は、改変フィブロインの全量100質量部に対して、40質量部以下、35質量部以下又は30質量部以下であってよい。
【0128】
本実施形態に係るドープ液の製造時に、30~90℃に加温してもよい。使用する溶媒、改変フィブロインの種類等に応じて溶解可能な温度を適時設定すればよい。溶解を促進するために振盪、撹拌してもよい。
【0129】
本実施形態に係るドープ液の粘度は、ドープ液の用途等に応じて適宜設定してよい。例えば、本実施形態に係るドープ液を紡糸原液として使用する場合、その粘度は、紡糸方法に応じて適宜設定してよく、例えば、35℃において100~15,000cP(センチポイズ)、40℃において100~30,000cP(センチポイズ)等に設定すればよい。紡糸原液の粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定することができる。
【0130】
(タンパク質繊維)
本実施形態に係る人造改変フィブロイン組成物は、タンパク質繊維の形態であってよい。タンパク質繊維は、例えば、フィブロインの紡糸に通常使用されている方法で上述したドープ液(紡糸液)を紡糸することにより、得ることができる。
【0131】
紡糸方法としては、本発明に係る改変フィブロインを紡糸できる方法であれば特に制限されず、例えば、乾式紡糸、溶融紡糸、湿式紡糸等を挙げることができる。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸を挙げることができる。
【0132】
湿式紡糸では、ドープ液を紡糸口金(ノズル)から凝固液(凝固液槽)の中に押出して、凝固液中で改変フィブロインを固めることにより糸の形状の未延伸糸を得ることができる。凝固液としては、脱溶媒できる溶液であればよく、例えば、メタノール、エタノール及び2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール、並びにアセトン等を挙げることができる。凝固液には、適宜水を加えてもよい。凝固液の温度は、0~30℃であることが好ましい。紡糸口金として、直径0.1~0.6mmのノズルを有するシリンジポンプを使用する場合、押し出し速度は1ホール当たり、0.2~6.0ml/時間が好ましく、1.4~4.0ml/時間であることがより好ましい。凝固液槽の長さは、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200~500mmである。未延伸糸の引き取り速度は、例えば、1~20m/分であってよく、1~3m/分であることが好ましい。滞留時間は、例えば、0.01~3分であってよく、0.05~0.15分であることが好ましい。また、凝固液中で延伸(前延伸)をしてもよい。低級アルコールの蒸発を抑えるため凝固液を低温に維持し、未延伸糸の状態で引き取ってもよい。凝固液槽は多段設けてもよく、また延伸は必要に応じて、各段、又は特定の段で行ってもよい。
【0133】
上記の方法で得られた未延伸糸(又は前延伸糸)は、延伸工程を経て延伸糸とすることができる。延伸方法としては、湿熱延伸、乾熱延伸等をあげることができる。
【0134】
湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、スチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、50~90℃であってよく、75~85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1~10倍延伸することができ、2~8倍延伸することが好ましい。
【0135】
乾熱延伸は、電気管状炉、乾熱板等を使用して行うことができる。温度としては、例えば、140℃~270℃であってよく、160℃~230℃が好ましい。乾熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、0.5~8倍延伸することができ、1~4倍延伸することが好ましい。
【0136】
湿熱延伸及び乾熱延伸はそれぞれ単独で行ってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行ってもよい。すなわち、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸行い、二段目延伸を湿熱延伸行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
【0137】
延伸工程における最終的な延伸倍率は、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、例えば、5~20倍であり、6~11倍であることが好ましい。
【0138】
タンパク質繊維は、延伸した後、タンパク質繊維内のポリペプチド分子間で化学的に架橋させてもよい。架橋させることができる官能基は、例えば、アミノ基、カルボキシル基、チオール基及びヒドロキシ基等が挙げられる。例えば、ポリペプチドに含まれるリジン側鎖のアミノ基は、グルタミン酸又はアスパラギン酸側鎖のカルボキシル基と脱水縮合によりアミド結合で架橋できる。真空加熱下で脱水縮合反応を行なうことにより架橋してもよいし、カルボジイミド等の脱水縮合剤により架橋させてもよい。
【0139】
ポリペプチド分子間の架橋は、カルボジイミド、グルタルアルデヒド等の架橋剤を用いて行ってもよく、トランスグルタミナーゼ等の酵素を用いて行ってもよい。カルボジイミドは、一般式R1N=C=NR2(但し、R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基、シクロアルキル基を含む有機基を示す。)で示される化合物である。カルボジイミドの具体例として、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)等が挙げられる。これらの中でも、EDC及びDICはポリペプチド分子間のアミド結合形成能が高く、架橋反応し易いことから好ましい。
【0140】
架橋処理は、タンパク質繊維に架橋剤を付与して真空加熱乾燥で架橋するのが好ましい。架橋剤は純品をタンパク質繊維に付与してもよいし、炭素数1~5の低級アルコール及び緩衝液等で0.005~10質量%の濃度に希釈したものをタンパク質繊維に付与してもよい。架橋処理は、温度20~45℃で3~42時間行うのが好ましい。架橋処理により、タンパク質繊維に更に高い応力(強度)を付与することができる。
【0141】
(フィルム)
本実施形態に係る人造改変フィブロイン組成物は、フィルムの形態であってよい。フィルムは、例えば、上述したドープ液を基材表面にキャスト成形し、乾燥及び/又は脱溶媒することにより得ることができる。
【0142】
ドープ溶液の粘度は15~80cP(センチポアズ)であることが好ましく、20~70cPであることがより好ましい。
【0143】
ドープ溶液を100質量%としたとき、本発明に係る改変フィブロインの濃度は3~50質量%であることが好ましく、3.5~35質量%であることがより好ましく、4.2~15.8質量%であることがさらに好ましい。
【0144】
ドープ溶液調製時に、30~60℃に加温して行ってもよい。溶解を促進するために振盪、撹拌してもよい。
【0145】
基材は、樹脂基板、ガラス基板、金属基板等であってよい。基材は、キャスト成形後のフィルムを容易に剥離できる観点から、好ましくは樹脂基板である。樹脂基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、又はこれらのフィルム表面にシリコーン化合物を固定化させた剥離フィルムであってよい。基材は、HFIP、DMSO溶媒等に対して安定であり、ドープ溶液を安定してキャスト成形でき、成形後のフィルムを容易に剥離できる観点から、PETフィルム又はPETフィルム表面にシリコーン化合物を固定化させた剥離フィルムであることがより好ましい。
【0146】
具体的な手順を説明すると、まずドープ液を基材表面に流延し、アプリケーター、ナイフコーター、バーコーター等の膜厚制御手段を使用して、所定の厚さ(例えば、乾燥及び/又は脱溶媒後の厚さで1~1000μm)の濡れ膜を作製する。
【0147】
乾燥及び/又は脱溶媒は、乾式又は湿式で行うことができる。乾式で行う方法としては、真空乾燥、熱風乾燥、風乾等を挙げることができる。湿式で行う方法としては、キャストフィルムを脱溶媒液(凝固液とも言う)に浸漬して溶媒を脱離する方法等を挙げることができる。脱溶媒液として、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール等のアルコール液、水とアルコールとの混合液等を挙げることができる。脱溶媒液(凝固液)の温度は0~90℃であることが好ましい。
【0148】
乾燥及び/又は脱溶媒後の未延伸フィルムは、水中で1軸延伸又は2軸延伸することができる。2軸延伸は、逐次延伸でも同時2軸延伸でもよい。2段以上の多段延伸をしてもよい。延伸倍率は、縦、横ともに、好ましくは1.01~6倍、より好ましくは1.05~4倍である。この範囲であると応力-歪のバランスがとりやすい。水中延伸は、20~90℃の水温で行われることが好ましい。延伸後のフィルムは、50~200℃の乾熱で5~600秒間熱固定することが好ましい。この熱固定により、常温における寸法安定性が得られる。なお、1軸延伸したフィルムは1軸配向フィルムとなり、2軸延伸したフィルムは2軸配向フィルムとなる。
【0149】
〔人造改変フィブロイン組成物の製造方法〕
本発明に係る人造改変フィブロイン組成物は、本発明に係る改変フィブロインを用意する工程を含む方法により、製造することができる。本発明に係る人造改変フィブロイン組成物の製造方法は、本発明に係る改変フィブロイン及びカルボン酸を含有する改変フィブロイン溶解液(例えば、ドープ液)を調整する工程を更に含むものであってもよい。
【0150】
本発明に係る改変フィブロインは、ギ酸等のカルボン酸に接触させることによるエステル結合の形成が低減されており、またこれにより、大気中に放置しても、異臭の発生が低減されている、又は異臭が発生しにくい。したがって、本実施形態に係る人造改変フィブロイン組成物の製造方法は、改変フィブロインをギ酸等のカルボン酸と接触させる工程を含んでいても問題ない。
【0151】
〔改変フィブロインとカルボン酸とのエステル結合の形成を低減する方法〕
本実施形態に係る改変フィブロインとカルボン酸とのエステル結合の形成を低減する方法は、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加することにより、フィブロインタンパク質のアミノ酸配列を改変する工程を含み、改変後の改変フィブロインにおける遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数が、改変前のフィブロインタンパク質における遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数を基準として、少なくとも20%減少しているものである。
【0152】
アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0153】
本実施形態に係る方法におけるフィブロインタンパク質の改変は、改変フィブロインの実施形態として説明した好ましい態様となるように実施することができる。
【0154】
〔製品〕
本発明に係るタンパク質繊維は、繊維(長繊維、短繊維、マルチフィラメント、又はモノフィラメント等)又は糸(紡績糸、撚糸、仮撚糸、加工糸、混繊糸、混紡糸等)として、織物、編物、組み物、不織布等に応用できる。また、ロープ、手術用縫合糸、電気部品用の可撓性止め具、さらには移植用生理活性材料(例えば、人工靭帯及び大動脈バンド)等の高強度用途にも応用できる。
【0155】
また、本発明に係る人造改変フィブロイン組成物は、繊維及びフィルム以外にも、発泡体、粒体(球体又は非球体等)、ナノフィブリル、ゲル(ヒドロゲル等)、樹脂及びその等価物にも応用でき、これらは、特開2009-505668号公報、特許第5678283号公報、特許第4638735号公報等に記載の方法に準じて製造することができる。
【実施例0156】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0157】
〔改変フィブロインの製造〕
(1)発現ベクターの作製
配列番号12、14、16及び20~22で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(それぞれ、PRT918、PRT1105、PRT1107、PRT1083、PRT826及びPRT1127)を設計した。
【0158】
(実施例1)
配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT918)は、配列番号20で示されるアミノ酸配列(PRT1083)中のGTGAをGPGAに置換し、GTGSをGPGSに置換し、GLGVをGPGVに置換し、GTGIをGPGIに置換し、GLYをGPYに置換し、GTSをGPSに置換したものである。
【0159】
(実施例2)
配列番号22で示されるアミノ酸配列(PRT1127)は、配列番号20で示されるアミノ酸配列(PRT1083)中のGTGAをGPGAに置換し、GTGSをGPGSに置換し、GLGVをGPGVに置換し、GTGIをGPGIに置換し、GLYをGPYに置換し、GTSをGPSに置換したうえで、セリン残基(S)をスレオニン残基(T)に置換したものである。
【0160】
(実施例3)
配列番号14で示されるアミノ酸配列(PRT1105)は、配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT918)のセリン残基(S)をアラニン残基(A)又はグリシン残基(G)で置換したものである。
【0161】
(実施例4)
配列番号16で示されるアミノ酸配列(PRT1107)は、配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT918)のセリン残基(S)をアラニン残基(A)、バリン残基(V)、ロイシン残基(L)又はイソロイシン残基(I)で置換したものである。
【0162】
(比較例1)
配列番号21で示されるアミノ酸配列(PRT826)は、配列番号22で示されるアミノ酸配列(PRT1127)のスレオニン残基(T)をセリン残基(S)に置換し、更にVFをQQに置換し、イソロイシン残基(I)をグルタミン残基(Q)に置換したものである。
【0163】
配列番号12、14、16及び20~22で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロインのセリン残基含有率(S残基含有率)、スレオニン残基含有率(T残基含有率)、チロシン残基含有率(Y残基含有率)、遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率(遊離OH基を有するアミノ酸残基含有率)、並びに改変前の遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数を基準とした、改変後の遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基数の減少率(OH減少率)は、表1に示すとおりである。
【表1】
【0164】
設計した改変フィブロインをコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。この核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0165】
(2)タンパク質の製造
得られた発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表2)にOD
600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD
600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【表2】
【0166】
当該シード培養液を500mLの生産培地(表3)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【0167】
【0168】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、改変フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする改変フィブロインサイズのバンドの出現により、目的とする改変フィブロインの発現を確認した。
【0169】
(3)タンパク質の精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収することにより、改変フィブロイン(PRT918、PRT1105、PRT1107、PRT1083、PRT826及びPRT1127)を得た。
【0170】
〔タンパク質フィルムの製造及び評価〕
(1)タンパク質フィルムの製造
得られた改変フィブロインの乾燥粉末をギ酸に添加し、40℃で1時間加温して溶解させ、ドープ液を得た(ドープ液中のタンパク質濃度:26質量%)。
【0171】
得られたドープ液をスライドガラスに0.5mm程度の厚みで塗布し、アセトンと水に順に浸漬させ(それぞれ15分間)、固化及び洗浄を行った。その後、一晩自然乾燥させた後にスライドガラスからフィルムを剥離し、サンプルを得た。フィルムの膜厚は、約0.5~1.0mmであった。
【0172】
(2)タンパク質フィルムの評価
以下の測定装置を用いて、製造したフィルムサンプルの赤外吸収スペクトルを測定することで、フィルムサンプル内におけるギ酸エステルの生成の程度を評価した。
測定装置:Nicolet iS50 FT-IR(製造元:Thermo Fisher Scientific株式会社)
【0173】
ギ酸エステルの生成の程度は、吸光度比P1/P2を算出して評価した。吸光度比P1/P2が小さい程、ギ酸エステルが少ないことを意味する。
P1:1725cm-1(エステルのC=Oに基づくピーク)のピーク高さ
P2:1445cm-1(タンパク質のアミドIIIに基づくピーク)のピーク高さ
【0174】
結果を
図1及び表1に示す。
図1に示すとおり、遊離ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基含有率を低減させることで(例えば、OH減少率20%以上)、ギ酸エステル吸収領域(1715~1730cm
-1)におけるピークが低減した(実施例1~4)。一方、遊離ヒドロキシル基を有しないアミノ酸残基を置換しても、ギ酸エステル吸収領域(1715~1730cm
-1)におけるピークに大きな変化は見られなかった(比較例1)。