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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020570
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】脂質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/13 20060101AFI20240206BHJP
   C12P 7/64 20220101ALI20240206BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20240206BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20240206BHJP
【FI】
C12N1/13
C12P7/64 ZNA
C12N15/54
C12N15/60
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201062
(22)【出願日】2023-11-28
(62)【分割の表示】P 2018159659の分割
【原出願日】2018-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100230857
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 悠也
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 達郎
(57)【要約】
【課題】脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させる、脂質の製造方法を提供する。
【解決手段】トランスケトラーゼ及びフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼの発現を促進させ、藻類の光合成能を向上させる方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスケトラーゼ及びフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼの発現を促進させ、藻類の光合成能を向上させる方法。
【請求項2】
トランスケトラーゼ及びフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼの発現を促進させた藻類を培養し、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させる、脂質の製造方法。
【請求項3】
トランスケトラーゼ及びフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼの発現を促進させることにより、藻類の細胞内で生産される脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させる、脂質の生産性を向上させる方法。
【請求項4】
トランスケトラーゼ及びフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼの発現を促進し、藻類の細胞内で生産される脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させることで、脂質の脂肪酸組成を改変させる方法。
【請求項5】
前記トランスケトラーゼが下記タンパク質(A)又は(B)であり、前記フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼが下記タンパク質(C)又は(D)である、請求項1~4記載の方法。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつトランスケトラーゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項6】
前記藻類において、下記タンパク質(E)又は(F)の発現を促進させた、請求項1~5記載の方法。
(E)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつリボース-5-リン酸イソメラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項7】
前記藻類において、アシル-ACPチオエステラーゼ、アシル-CoAシンテターゼ、アシル基転移酵素から選ばれる少なくとも1個以上のタンパク質の発現を促進させた、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記藻類が、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類である、請求項1~7のいずれか1項の方法。
【請求項9】
トランスケトラーゼ及びフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼの発現が促進されている、藻類の形質転換体。
【請求項10】
前記トランスケトラーゼが下記タンパク質(A)又は(B)であり、前記フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼが下記タンパク質(C)又は(D)である、請求項9記載の形質転換体。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつトランスケトラーゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項11】
前記藻類において、リボース-5-リン酸イソメラーゼ、アシル-ACPチオエステラーゼ、アシル-CoAシンテターゼ、アシル基転移酵素から選ばれる少なくとも1個以上のタンパク質の発現を促進させた、請求項9又は10に記載の形質転換体。
【請求項12】
前記藻類が、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類である、請求項9~11のいずれか1項記載の形質転換体。
【請求項13】
トランスケトラーゼ及びフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼの発現、並びにアシル-ACPチオエステラーゼ、アシル-CoAシンテターゼ、及びアシル基転移酵素から選ばれる少なくとも1個以上のタンパク質の発現を促進させ、藻類の光合成能を向上させる方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質の製造方法に関する。また本発明は、当該方法に用いる形質転換体に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸は脂質の主要構成成分の1種であり、生体内においてグリセリンとのエステル結合により生成するトリアシルグリセロール(以下、単に「TAG」ともいう)等の脂質を構成する。また、多くの動植物において脂肪酸はエネルギー源として貯蔵され利用される物質でもある。動植物内に蓄えられた脂肪酸や脂質は、食用又は工業用として広く利用されている。
例えば、炭素原子数12~18前後の高級脂肪酸を還元して得られる高級アルコールの誘導体は、界面活性剤として用いられている。アルキル硫酸エステル塩やアルキルベンゼンスルホン酸塩等は陰イオン性界面活性剤として利用されている。また、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルやアルキルポリグリコシド等は非イオン性界面活性剤として利用されている。そしてこれらの界面活性剤は、いずれも洗浄剤又は殺菌剤に利用されている。同じく高級アルコールの誘導体としてアルキルアミン塩やモノ又はジアルキル4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤は、繊維処理剤や毛髪リンス剤又は殺菌剤に日常的に利用されている。また、ベンザルコニウム型4級アンモニウム塩は殺菌剤や防腐剤に日常的に利用されている。さらに、植物由来の油脂はバイオディーゼル燃料の原料としても利用されている。
このように脂肪酸や脂質の利用は多岐にわたる。そのため、植物等において生体内での脂肪酸や脂質の生産性を向上させる試みが行われている。さらに、脂肪酸の用途や有用性はその炭素原子数に依存するため、脂肪酸の炭素原子数、即ち鎖長を制御する試みも行われている。
【0003】
近年、持続可能な社会の実現に向けて再生可能エネルギーに関する研究が推し進められている。特に光合成微生物は、二酸化炭素の削減効果に加えて、穀物と競合しないバイオ燃料生物として期待されている。
特に近年、バイオ燃料生産に有用であるとして、藻類が注目を集めている。藻類は、バイオディーゼル燃料として利用可能な脂質を光合成によって生産でき、しかも食料と競合しないことから、次世代のバイオマス資源として注目されている。また、藻類は、植物に比べ、高い脂質生産・蓄積能力を有するとの報告もある。
【0004】
植物や光合成微生物などの藻類は、カルビン回路(以下、「CBB回路」ともいう)を通して光合成による炭酸固定を行うことが知られている。CBB回路は13段階の反応からなり、反応1サイクル毎に1分子のCOが固定される。得られた光合成産物は生物の構成成分としてだけでなく、エネルギー源としても利用される。そのため、CBB回路を強化して植物や藻類などの光合成能を高めることで、生産されるバイオマスを制御する試みも行われている。
例えば、CBB回路に関与する酵素のうち、リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase、以下、「RuBisCO」ともいう)、セドヘプツロース-1,7-ビスホスファターゼ(sedoheptulose 1,7-bisphosphate、以下、「SBP」ともいう)、フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ(fructose 1,6-bisphosphate aldolase、以下、「FBA」ともいう)、又はトランスケトラーゼ(transketolase、以下、「TK」ともいう)の発現をそれぞれ単独で植物やシアノバクテリアで促進させた形質転換株では、光合成能が増加することや、バイオマスが増大することが知られている(非特許文献1及び2参照)。また、RuBisCO、フルクトース-1,6/セドヘプツロース-1,7-ビスホスファターゼ(FBP/SBP)、FBA、又はTKの発現と、pyruvate decarboxylase(PDC)及びalcohol dehydrogenase(ADH)の発現をシアノバクテリアの細胞内で促進させることにより、アルコール生産能が向上し、さらにバイオマスが増大することが知られている(非特許文献3)。
一方で、CBB回路強化による光合成能の制御と脂肪酸合成の関わりについては知見が得られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Liang F. and Lindblad P., Metab Eng. 2016 Nov;38:56-64
【非特許文献2】Driever S.M. et al., Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2017 Sep 26;372(1730)
【非特許文献3】Liang F. et al., Metab Eng. 2018 Mar;46:51-59
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させる、脂質の製造方法を提供することを課題とする。
また本発明は、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させた形質転換体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。
本発明者はまず、ナンノクロロプシス・オセアニカ(Nannochloropsis oceanica)の全遺伝子の配列情報を基に、葉緑体で機能すると推測されるCBB回路遺伝子を同定した。そして、このCBB回路遺伝子の中でも、TKとFBAの発現を藻類の細胞内で促進させることで、生産される脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性が有意に向上することを見出した。
本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
本発明は、TK及びFBAの発現を促進させた藻類を培養し、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させる、脂質の製造方法に関する。
また本発明は、TK及びFBAの発現が促進されている、藻類の形質転換体に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の形質転換体では複数のCBB回路遺伝子の発現が促進され、結果として脂質の生産量を増大させることができる。よって本発明の脂質の製造方法によれば、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させることができる。
また本発明の形質転換体は、複数のCBB回路遺伝子の発現が促進されており、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書における「脂質」は、中性脂質(TAG等)、ろう、セラミド等の単純脂質;リン脂質、糖脂質、スルホ脂質等の複合脂質;及びこれらの脂質から誘導される、脂肪酸(遊離脂肪酸)、アルコール類、炭化水素類等の誘導脂質を包含するものである。
一般に誘導脂質に分類される脂肪酸は、脂肪酸そのものを指し、「遊離脂肪酸」を意味する。本発明では単純脂質及び複合脂質分子中の脂肪酸部分を「脂肪酸残基」と表記する。そして、特に断りのない限り、「脂肪酸」は「遊離脂肪酸」と、塩又はエステル化合物等に含まれる「脂肪酸残基」の総称として用いる。
また本明細書において、「脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質」は、「遊離脂肪酸」と「当該脂肪酸残基を有する脂質」を総称して用いる。更に本明細書において、「脂肪酸組成」とは、前記遊離脂肪酸と脂肪酸残基とを合計した全脂肪酸(総脂肪酸)の重量に対する各脂肪酸の重量の割合を意味する。脂肪酸の重量(生産量)や脂肪酸組成は、実施例で用いた方法により測定できる。
さらに本明細書において、脂肪酸や、脂肪酸を構成するアシル基の表記において「Cx:y」とあるのは、炭素原子数がxであり二重結合の数がyであることを表す。「Cx」は炭素原子数xの脂肪酸やアシル基を表す。
【0011】
本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,vol.227,p.1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
また本明細書において「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell.,Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられる。例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8~16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
さらに明細書において、遺伝子の「上流」とは、翻訳開始点からの位置ではなく、対象として捉えている遺伝子又は領域の5'側に続く領域を示す。一方、遺伝子の「下流」とは、対象として捉えている遺伝子又は領域の3'側に続く領域を示す。
【0012】
本明細書においてTKとは、CBB回路において、フルクトース-6-リン酸とグリセルアルデヒド-3-リン酸から、エリスロース-4-リン酸及びキシルロース-5-リン酸を生成する反応、並びにセドヘプツロース-7-リン酸とグリセルアルデヒド-3-リン酸から、キシルロース-5-リン酸及びリボース-5-リン酸を生成する反応を触媒するタンパク質(酵素)を意味する。そして本明細書において「トランスケトラーゼ活性(以下、「TK活性」ともいう)」とは、ケトースのケトール基をアルドースのアルデヒド基に転位する活性を意味する。
【0013】
本発明のタンパク質がTK活性を有することは、例えば、Plant Physiol. (1989) 90, 814-819記載の方法等で確認することができる。具体的には、目的のタンパク質を含有する溶液を常法により用意し、フルクトース-6-リン酸及びグリセルアルデヒド-3-リン酸と混和し、エリスロース-4-リン酸及びキシルロース-5-リン酸が生成されること、あるいはセドヘプツロース-7-リン酸及びグリセルアルデヒド-3-リン酸と混和し、キシルロース-5-リン酸及びリボース-5-リン酸が生成されること、を分析することで、確かめることができる。
【0014】
本発明で利用するTKは、TK活性を示すタンパク質(酵素)であれば特に制限はない。本発明における好ましいTKとしては、下記タンパク質(A)又は(B)が挙げられる。

(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつTK活性を有するタンパク質。
【0015】
配列番号1のアミノ酸配列からなる前記タンパク質(A)は、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類であるナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株由来のTKである。本発明の配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質(前記タンパク質(A))はTK活性を有する。
【0016】
一般に、酵素タンパク質をコードしているアミノ酸配列は、必ずしも全領域の配列が保存されていなければ酵素活性を示さないというものではなく、アミノ酸配列が変化しても酵素活性に影響を与えない領域も存在することが知られている。このような酵素活性に必須でない領域においては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加といった変異が導入されても酵素本来の活性を維持することができる。本発明においても、このようにTK活性が保持され、かつ前記タンパク質(A)のアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。
【0017】
アミノ酸配列に変異を導入する方法としては、例えば、アミノ酸配列をコードする塩基配列に変異を導入する方法が挙げられる。変異を導入する方法としては、部位特異的な変異導入法が挙げられる。具体的な部位特異的変異の導入方法としては、Splicing overlap extension(SOE)PCR(Horton et al.,Gene 77,61-68,1989)を利用した方法、ODA法(Hashimoto-Gotoh et al.,Gene,152,271-276,1995)、Kunkel法(Kunkel,T. A.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1985,82,488)等が挙げられる。また、Site-Directed Mutagenesis System Mutan-SuperExpress Kmキット(タカラバイオ社)、Transformer TM Site-Directed Mutagenesisキット(Clontech社)、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社)等の市販のキットを利用することもできる。また、ランダムな遺伝子変異を与えた後、適当な方法により酵素活性の評価及び遺伝子解析を行うことにより目的遺伝子を取得することもできる。
【0018】
前記タンパク質(B)において、TK活性の点から、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、91%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0019】
また、前記タンパク質(B)として、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上289個以下、好ましくは1個以上253個以下、より好ましくは1個以上216個以下、より好ましくは1個以上180個以下、より好ましくは1個以上144個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上72個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上57個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上36個以下、より好ましくは1個以上21個以下、より好ましくは1個以上14個以下、さらに好ましくは1個以上7個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されており、かつTK活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0020】
また、本発明で使用するTKは、前記タンパク質(A)又は(B)のアミノ酸配列に、タンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。さらに、本発明で使用するTKは、前記タンパク質(A)又は(B)のアミノ酸配列のうちのN末端側の領域に存在すると推測される葉緑体移行シグナル配列を、宿主内で機能する他の葉緑体移行シグナル配列に変更したアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。ChloroP(www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)を用いた局在予測では、配列番号1の1位~63位のアミノ酸配列が葉緑体移行シグナル配列であると予測され、実際、配列番号1の1位~100位のアミノ酸配列をレポータータンパク質のN末端に付加させることで、レポータータンパク質を葉緑体に局在化させられることが本発明者により確認されている。
【0021】
前記タンパク質(A)又は(B)は、通常の化学的手法、遺伝子工学的手法等により得ることができる。例えば、ナンノクロロプシス等、ゲノム上にTK遺伝子を有する藻類から単離、精製等することで天然物由来のタンパク質を取得することができる。また、配列番号1で表されるアミノ酸の配列情報をもとに人工的に化学合成することで、前記タンパク質(A)又は(B)を得ることができる。あるいは、遺伝子組み換え技術により、組換えタンパク質として前記タンパク質(A)又は(B)を作製してもよい。
また本発明で用いるTKは、1種でもよいし、2種以上のTKを組合せて用いてもよい。
ナンノクロロプシス・オセアニカ等の藻類は、私的又は公的な研究所等の保存機関より入手することができる。例えば、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株は、国立環境研究所(NIES)から入手することができる。
【0022】
本発明において、TKをコードする遺伝子を用いて、後述の方法に従いTKの発現を促進することが好ましい。
本発明で用いることができるTKをコードする遺伝子(好ましくは、前記タンパク質(A)又は(B)をコードする遺伝子(以下、「TK遺伝子」ともいう))の具体例として、下記DNA(a)又は(b)からなる遺伝子が挙げられる。

(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつTK活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0023】
配列番号2で表される塩基配列からなる前記DNA(a)は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子であり、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株由来のTK遺伝子である。
【0024】
前記DNA(b)において、TK活性の点から、前記DNA(a)の塩基配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、91%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0025】
また前記DNA(b)として、配列番号2で表される塩基配列において、1又は複数個(例えば1個以上868個以下、好ましくは1個以上760個以下、より好ましくは1個以上651個以下、より好ましくは1個以上543個以下、より好ましくは1個以上434個以下、より好ましくは1個以上325個以下、より好ましくは1個以上217個以下、より好ましくは1個以上195個以下、より好ましくは1個以上173個以下、より好ましくは1個以上152個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上43個以下、さらに好ましくは1個以上21個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつTK活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も好ましい。
さらに前記DNA(b)として、前記DNA(a)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつTK活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も好ましい。
【0026】
変異としては、塩基の欠失、置換、付加、又は挿入が挙げられる。塩基配列に変異を導入する方法としては、例えば、部位特異的な変異導入法が挙げられる。具体的な部位特異的変異の導入方法としては、SOE-PCRを利用した方法、ODA法、Kunkel法等が挙げられる。また、Site-Directed Mutagenesis System Mutan-SuperExpress Kmキット(タカラバイオ社)、Transformer TM Site-Directed Mutagenesisキット(Clontech社)、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社)等の市販のキットを利用することもできる。また、ランダムな遺伝子変異を与えた後、適当な方法により酵素活性の評価及び遺伝子解析を行うことにより目的遺伝子を取得することもできる。
【0027】
また、本発明で使用するTK遺伝子は、前記DNA(a)又は(b)の塩基配列にタンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等をコードするDNAが付加された塩基配列からなる遺伝子であってもよい。さらに、本発明で使用するTK遺伝子は、前記DNA(a)又は(b)の塩基配列のうちの5’側の領域に存在すると推測される葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列を、宿主内で機能する他の葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列に変更した塩基配列からなるDNAであってもよい。ChloroP(www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)を用いた局在予測では、配列番号2の1位~189位の塩基配列が葉緑体移行シグナル配列をコードしていると予測され、実際、配列番号2の1位~300位の塩基配列を、レポータータンパク質をコードする塩基配列の5’末端に付加させることで、レポータータンパク質を葉緑体に局在化させられることが本発明者により確認されている。
【0028】
前記DNA(a)又は(b)は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列又は配列番号2で表される塩基配列に基づいて、TK遺伝子を人工的に合成できる。TK遺伝子の合成は、例えば、インビトロジェン社等のサービスを利用することができる。また、ナンノクロロプシス等、ゲノム上にTK遺伝子を有する藻類のゲノムからクローニングによって取得することもできる。例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook, David W. Russell, Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)]記載の方法等により行うことができる。また、使用する宿主の種類に応じて、配列番号2で表される塩基配列の一部を最適化してもよい。例えば、Thermo Fisher Scientific社のGeneArt人工遺伝子合成サービスを利用することができる。
また本発明で用いるTK遺伝子は、1種でもよいし、2種以上のTK遺伝子を組合せて用いてもよい。
【0029】
本明細書においてFBAとは、CBB回路において、グリセルアルデヒド-3-リン酸とジヒドロキシアセトンリン酸から、フルクトース-1,6-ビスリン酸を生成する反応、並びにエリスロース-4-リン酸とジヒドロキシアセトンリン酸から、セドヘプツロース-1,7-ビスリン酸を生成する反応を触媒するタンパク質(酵素)を意味する。そして本明細書において「フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性(以下、「FBA活性」ともいう)」とは、グリセルアルデヒド-3-リン酸とジヒドロキシアセトンリン酸とを縮合する活性、もしくはエリスロース-4-リン酸とジヒドロキシアセトンリン酸とを縮合する活性を意味する。
【0030】
本発明のタンパク質がFBA活性を有することは、例えば、Plant Physiol. (1989) 90, 814-819記載の方法等で確認することができる。具体的には、目的のタンパク質を含有する溶液を常法により用意し、グリセルアルデヒド-3-リン酸及びジヒドロキシアセトンリン酸と混和し、フルクトース-1,6-ビスリン酸が生成されること、あるいはエリスロース-4-リン酸及びジヒドロキシアセトンリン酸から、セドヘプツロース-1,7-ビスリン酸が生成されること、を分析することで、確かめることができる。
【0031】
本発明で利用するFBAは、FBA活性を示すタンパク質(酵素)であれば特に制限はない。本発明における好ましいFBAとしては、下記タンパク質(C)又は(D)が挙げられる。

(C)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつFBA活性を有するタンパク質。
【0032】
配列番号3のアミノ酸配列からなる前記タンパク質(C)は、ナンノクロロプシス属に属する藻類であるナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株由来のFBAである。本発明の配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク質(前記タンパク質(C))はFBA活性を有する。
【0033】
本発明で利用するFBAとして、前記TKと同様、FBA活性が保持され、かつ前記タンパク質(C)のアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。FBAのアミノ酸配列に変異を導入する方法としては、前述の方法等が挙げられる。
【0034】
前記タンパク質(D)において、FBA活性の点から、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、91%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0035】
また、前記タンパク質(D)として、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上152個以下、好ましくは1個以上133個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上95個以下、より好ましくは1個以上76個以下、より好ましくは1個以上57個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上26個以下、より好ましくは1個以上19個以下、より好ましくは1個以上11個以下、より好ましくは1個以上7個以下、さらに好ましくは1個以上3個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されており、かつFBA活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0036】
また、本発明で使用するFBAは、前記タンパク質(C)又は(D)のアミノ酸配列に、タンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。さらに、本発明で使用するFBAは、前記タンパク質(C)又は(D)のアミノ酸配列のうちのN末端側の領域に存在すると推測される葉緑体移行シグナル配列を、宿主内で機能する他の葉緑体移行シグナル配列に変更したアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。ChloroP(www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)を用いた局在予測では、配列番号3の1位~20位、あるいは1位~26位のアミノ酸配列が葉緑体移行シグナル配列であると予測され、実際、配列番号3の1位~100位のアミノ酸配列をレポータータンパク質のN末端に付加させることで、レポータータンパク質を葉緑体に局在化させられることが本発明者により確認されている。
【0037】
前記タンパク質(C)又は(D)は、通常の化学的手法、遺伝子工学的手法等により得ることができる。例えば、ナンノクロロプシス等、ゲノム上にFBA遺伝子を有する藻類から単離、精製等することで天然物由来のタンパク質を取得することができる。また、配列番号3で表されるアミノ酸配列情報をもとに人工的に化学合成することで、前記タンパク質(C)又は(D)を得ることができる。あるいは、遺伝子組み換え技術により、組換えタンパク質として前記タンパク質(C)又は(D)を作製してもよい。
また本発明で用いるFBAは、1種でもよいし、2種以上のFBAを組合せて用いてもよい。
【0038】
本発明において、FBAをコードする遺伝子を用いて、後述の方法に従いFBAの発現を促進することが好ましい。
本発明で用いることができるFBAをコードする遺伝子(好ましくは、前記タンパク質(C)又は(D)をコードする遺伝子(以下、「FBA遺伝子」ともいう))の具体例として、下記DNA(c)又は(d)からなる遺伝子が挙げられる。

(c)配列番号4で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつFBA活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0039】
配列番号4で表される塩基配列からなる前記DNA(c)は、配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子であり、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株由来のFBA遺伝子である。
【0040】
前記DNA(d)において、FBA活性の点から、前記DNA(c)の塩基配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、91%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0041】
また前記DNA(d)として、配列番号4で表される塩基配列において、1又は複数個(例えば1個以上459個以下、好ましくは1個以上402個以下、より好ましくは1個以上344個以下、より好ましくは1個以上287個以下、より好ましくは1個以上229個以下、より好ましくは1個以上172個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上103個以下、より好ましくは1個以上91個以下、より好ましくは1個以上80個以下、より好ましくは1個以上57個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上22個以下、さらに好ましくは1個以上11個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつFBA活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も好ましい。
さらに前記DNA(d)として、前記DNA(c)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFBA活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も好ましい。
FBAの塩基配列に変異を導入する方法としては、前述の方法等が挙げられる。
【0042】
また、本発明で用いるFBA遺伝子は、前記DNA(c)又は(d)の塩基配列にタンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等をコードするDNAが付加された塩基配列からなる遺伝子であってもよい。さらに、本発明で使用するFBA遺伝子は、前記DNA(c)又は(d)の塩基配列のうちの5’側の領域に存在すると推測される葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列を、宿主内で機能する他の葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列に変更した塩基配列からなるDNAであってもよい。ChloroP(www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)を用いた局在予測では、配列番号4の1位~60位、あるいは1位~78位の塩基配列が葉緑体移行シグナル配列をコードしていると予測され、実際、配列番号4の1位~300位の塩基配列を、レポータータンパク質をコードする塩基配列の5’末端に付加させることで、レポータータンパク質を葉緑体に局在化させられることが本発明者により確認されている。
【0043】
前記DNA(c)又は(d)は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号3で表されるアミノ酸配列又は配列番号4で表される塩基配列に基づいて、FBA遺伝子を人工的に合成できる。FBA遺伝子の合成は、例えば、インビトロジェン社等のサービスを利用することができる。また、ナンノクロロプシス等、ゲノム上にFBA遺伝子を有する藻類のゲノムからクローニングによって取得することもできる。例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook, David W. Russell, Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)]記載の方法等により行うことができる。また、使用する宿主の種類に応じて、配列番号4で表される塩基配列の一部を最適化してもよい。例えば、Thermo Fisher Scientific社のGeneArt人工遺伝子合成サービスを利用することができる。
また本発明で用いるFBA遺伝子は、1種でもよいし、2種以上のFBA遺伝子を組合せて用いてもよい。
【0044】
本発明で用いる藻類では、前記タンパク質TK及びFBAに加えて、リボース-5-リン酸イソメラーゼ(以下、「RPI」ともいう)の発現も促進されていることが好ましい。本明細書においてRPIとは、リボース-5-リン酸をリブロース-5-リン酸に変換する反応を触媒するタンパク質(酵素)を意味する。そして本明細書において、「リボース-5-リン酸イソメラーゼ活性(以下、「RPI活性」ともいう)」とは、アルドースのアルデヒド基をケト基に変換する活性を意味する。
RPIの発現も促進されることで、脂質の製造に用いる形質転換体の光合成能、特に脂質(好ましくは脂肪酸)の生産性を一層向上させることができる。
【0045】
本発明で利用することができるRPIは、RPI活性を示すタンパク質(酵素)であれば特に制限はない。本発明における好ましいRPIとしては、下記タンパク質(E)又は(F)が挙げられる。

(E)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつRPI活性を有するタンパク質。
【0046】
本発明のタンパク質がRPI活性を有することは、例えば、The Plant Journal (2006) 48, 606-618記載の方法等で確認することができる。具体的には、目的のタンパク質を含有する溶液を常法により用意し、リボース-5-リン酸と混和してリブロース-5-リン酸が生成されること、を分析することで、確かめることができる。
【0047】
配列番号7のアミノ酸配列からなる前記タンパク質(E)は、ナンノクロロプシス属に属する藻類であるナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株由来のRPIである。本発明の配列番号7のアミノ酸配列からなるタンパク質(前記タンパク質(E))はRPI活性を有する。
【0048】
本発明で利用することができるRPIとして、前記TK及びFBAと同様、RPI活性が保持され、かつ前記タンパク質(E)のアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。
RPIのアミノ酸配列に変異を導入する方法としては、前述の方法等が挙げられる。
【0049】
前記タンパク質(F)において、RPI活性の点から、前記タンパク質(E)のアミノ酸配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、91%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0050】
また、前記タンパク質(F)として、前記タンパク質(E)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上112個以下、好ましくは1個以上98個以下、より好ましくは1個以上84個以下、より好ましくは1個以上70個以下、より好ましくは1個以上56個以下、より好ましくは1個以上42個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上22個以下、より好ましくは1個以上19個以下、より好ましくは1個以上14個以下、より好ましくは1個以上8個以下、より好ましくは1個以上5個以下、さらに好ましくは1個又は2個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されており、かつRPI活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0051】
また、本発明で使用するRPIは、前記タンパク質(E)又は(F)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。さらに、本発明で使用するRPIは、前記タンパク質(E)又は(F)のアミノ酸配列のうちのN末端側の領域に存在すると推測される葉緑体移行シグナル配列を、宿主内で機能する他の葉緑体移行シグナル配列に変更したアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。ChloroP(www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)を用いた局在予測では、配列番号7の1位~49位のアミノ酸配列が葉緑体移行シグナル配列であると予測され、実際、配列番号7の1位~100位のアミノ酸配列をレポータータンパク質のN末端に付加させることで、レポータータンパク質を葉緑体に局在化させられることが本発明者により確認されている。
【0052】
前記タンパク質(E)又は(F)は、通常の化学的手法、遺伝子工学的手法等により得ることができる。例えば、ナンノクロロプシス等、ゲノム上にRPI遺伝子を有する藻類から単離、精製等することで天然物由来のタンパク質を取得することができる。また、配列番号7で表されるアミノ酸の配列情報をもとに人工的に化学合成することで、前記タンパク質(E)又は(F)を得ることができる。あるいは、遺伝子組み換え技術により、組換えタンパク質として前記タンパク質(E)又は(F)を作製してもよい。
また本発明で用いるRPIは、1種でもよいし、2種以上のRPIを組合せて用いてもよい。
【0053】
本発明において、RPIをコードする遺伝子を用いて、後述の方法に従いRPIの発現を促進することが好ましい。
本発明で用いることができるRPIをコードする遺伝子(好ましくは、前記タンパク質(E)又は(F)をコードする遺伝子(以下、「RPI遺伝子」ともいう))の具体例として、下記DNA(e)又は(f)からなる遺伝子が挙げられる。

(e)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA。
(f)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつRPI活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0054】
配列番号8で表される塩基配列からなる前記DNA(e)は、配列番号7のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子であり、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株由来のRPI遺伝子である。
【0055】
前記DNA(f)において、RPI活性の点から、前記DNA(e)の塩基配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、91%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0056】
また前記DNA(f)として、配列番号8で表される塩基配列において、1又は複数個(例えば1個以上339個以下、好ましくは1個以上297個以下、より好ましくは1個以上254個以下、より好ましくは1個以上212個以下、より好ましくは1個以上169個以下、より好ましくは1個以上127個以下、より好ましくは1個以上84個以下、より好ましくは1個以上76個以下、より好ましくは1個以上67個以下、より好ましくは1個以上59個以下、より好ましくは1個以上42個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上16個以下、さらに好ましくは1個以上8個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつRPI活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も好ましい。
さらに前記DNA(f)として、前記DNA(e)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつRPI活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も好ましい。
RPIの塩基配列に変異を導入する方法としては、前述の方法等が挙げられる。
【0057】
また、本発明で用いるRPI遺伝子は、前記DNA(e)又は(f)の塩基配列にタンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等をコードするDNAが付加された塩基配列からなる遺伝子であってもよい。さらに、本発明で使用するRPI遺伝子は、前記DNA(e)又は(f)の塩基配列のうちの5’側の領域に存在すると推測される葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列を、宿主内で機能する他の葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列に変更した塩基配列からなるDNAであってもよい。ChloroP(www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)を用いた局在予測では、配列番号8の1位~147位の塩基配列が葉緑体移行シグナル配列をコードしていると予測され、実際、配列番号8の1位~300位の塩基配列を、レポータータンパク質をコードする塩基配列の5’末端に付加させることで、レポータータンパク質を葉緑体に局在化させられることが本発明者により確認されている。
【0058】
前記DNA(e)又は(f)は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号7で表されるアミノ酸配列又は配列番号8で表される塩基配列に基づいて、RPI遺伝子を人工的に合成できる。RPI遺伝子の合成は、例えば、インビトロジェン社等のサービスを利用することができる。また、ナンノクロロプシス等、ゲノム上にRPI遺伝子を有する藻類のゲノムからクローニングによって取得することもできる。例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook, David W. Russell, Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)]記載の方法等により行うことができる。また、使用する宿主の種類に応じて、配列番号8で表される塩基配列の一部を最適化してもよい。例えば、Thermo Fisher Scientific社のGeneArt人工遺伝子合成サービスを利用することができる。
また本発明で用いるRPI遺伝子は、1種でもよいし、2種以上のRPI遺伝子を組合せて用いてもよい。
【0059】
本発明の形質転換体は、前記遺伝子をそれぞれ常法により前記宿主に導入することで得ることができる。具体的には、前記遺伝子を宿主細胞中で発現させることのできる組換えベクターや遺伝子発現カセットを調製し、これを宿主細胞に導入して宿主細胞を形質転換させることにより作製できる。本発明の形質転換体において、当該遺伝子の発現が促進されていることが好ましい。
【0060】
また、本発明の形質転換体は、前記遺伝子をゲノム上に有する宿主において、常法により当該遺伝子の発現調節領域を改変して、当該遺伝子の発現を促進させることで得ることができる。具体的には、当該宿主のゲノム上に存在する前記遺伝子の上流に位置するプロモーター配列を、より高いプロモーター活性を示すものに置換すること等で作製できる。
【0061】
また本発明の形質転換体は、光合成能の向上及び脂質生産性向上の観点から、TK及びFBAに加えて、脂肪酸合成経路やTAG合成経路に関わる少なくとも1個以上のタンパク質の発現が促進されていることも好ましい。脂肪酸合成経路やTAG合成経路に関わるタンパク質としては、アセチル-CoAカルボキシラーゼ(以下、「ACC」ともいう)、アシルキャリアープロテイン(以下、「ACP」ともいう)、ホロ-ACPシンターゼ(ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ)、ACP-マロニルトランスフェラーゼ(以下、「MAT」ともいう)、β-ケトアシル-ACPシンターゼ(以下「KAS」ともいう)、β-ケトアシル-ACPレダクターゼ(以下、「KAR」ともいう)、ヒドロキシアシル-ACPデヒドラターゼ(以下、「HD」ともいう)、エノイル-ACPレダクターゼ(以下、「KAR」ともいう)、アシル-ACPチオエステラーゼ(以下、「TE」ともいう)、アシル-CoAシンテターゼ(以下、「ACS」ともいう)、又はグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(以下、「G3PDH」ともいう)、グリセロール3リン酸アシルトランスフェラーゼ(以下、「GPAT」ともいう)、リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(以下、「LPAAT」ともいう)、及びジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(以下、「DGAT」ともいう)等のアシル基転移酵素(以下、「ATともいう」)、ホスファチジン酸ホスファターゼ(以下、「PAP」ともいう)、等が挙げられる。
光合成能の向上及び脂質生産性向上の観点から、TK及びFBAに加えて、ACC、ACP、KAS、TE、ACS、及びATから選ばれる1個以上のタンパク質の発現が促進されていることが好ましく、TE、ACS、及びATから選ばれる1個以上のタンパク質の発現が促進されていることがより好ましく、TE、ACS、及びDGATから選ばれる1個以上のタンパク質の発現が促進されていることがさらに好ましい。さらに、光合成能の向上及び脂質生産性向上の観点から、DGATの発現が促進されていることが好ましく、ACSかつDGATの発現が促進されていることがより好ましく、TE、ACS、かつDGATの発現が促進されていることがさらにより好ましい。
【0062】
本発明で用いることができるTEは特に限定されず、アシル-ACPチオエステラーゼ活性(以下、「TE活性」ともいう)を有するタンパク質であればよい。ここで「TE活性」とは、アシル-ACPのチオエステル結合を加水分解する活性をいう。
TEは、KAS等の脂肪酸合成酵素によって合成されたアシル-ACPのチオエステル結合を加水分解し、遊離の脂肪酸を生成する酵素である。TEの作用によってACP上での脂肪酸合成が終了し、切り出された脂肪酸は多価不飽和脂肪酸の合成やTAG等の合成に供される。
そのため、前記TK及びFBAに加えてTEの発現を促進することで、脂質の製造に用いる形質転換体の脂質の生産性、特に脂肪酸の生産性を一層向上させることができる。
【0063】
TEは、基質であるアシル-ACPを構成するアシル基(脂肪酸残基)の炭素原子数や不飽和結合数によって異なる反応性を示すことが知られている。よってTEは、生体内での脂肪酸組成を決定する重要なファクターであると考えられている。また、TEをコードする遺伝子を元来有していない宿主を用いる場合、TEをコードする遺伝子(以下、「TE遺伝子」ともいう)の発現を促進させることが好ましい。また、中鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するTE遺伝子の発現を促進させることにより、脂肪酸の生産性が向上する。このような遺伝子を導入することで、脂肪酸の生産性を一層向上させることができる。
【0064】
本発明で用いることができるTEは、通常のTEや、それらと機能的に均等なタンパク質から、宿主の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、ナンノクロロプシス・オセアニカ由来のTE(配列番号13、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号14)等が挙げられる。また、これと機能的に均等なタンパク質として、前記TEのアミノ酸配列との同一性が50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上)のアミノ酸配列からなり、かつTE活性を有するタンパク質も用いることができる。
【0065】
タンパク質がTE活性を有することは、例えば、大腸菌等の宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にTE遺伝子を連結したDNAを脂肪酸分解系が欠損した宿主細胞へ導入し、導入したTE遺伝子が発現する条件で培養して、宿主細胞又は培養液中の脂肪酸組成の変化をガスクロマトグラフィー解析等の方法を用いて分析することにより、確認することができる。
また、大腸菌等の宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にTE遺伝子を連結したDNAを宿主細胞へ導入し、導入したTE遺伝子が発現する条件で細胞を培養した後、細胞の破砕液に対し、Yuanらの方法(Yuan L.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1995,vol.92(23),p.10639-10643)によって調製した各種アシル-ACPを基質とした反応を行うことにより、TE活性を測定することができる。
【0066】
本発明で用いることができるATは特に限定されず、アシルトランスフェラーゼ活性(以下、「AT活性」ともいう)を有するタンパク質であればよい。ここで「AT活性」とは、グリセロール3リン酸、リゾホスファチジン酸、ジアシルグリセロールなどのグリセロール化合物のアシル化を触媒する活性を意味する。
ATは、グリセロール3リン酸、リゾホスファチジン酸、ジアシルグリセロールなどのグリセロール化合物のアシル化を触媒するタンパク質である。遊離脂肪酸にCoAが結合した脂肪酸アシルCoA、又はアシルACPは、各種ATによってグリセロール骨格へと取り込まれ、グリセロール1分子に対して脂肪酸3分子がエステル結合してなるTAGとして蓄積される。
そのため、前記TK及びFBAに加えてATの発現を促進することで、脂質の製造に用いる形質転換体の脂質の生産性、特に脂肪酸の生産性を一層向上させることができる。
【0067】
ATは、基質である脂肪酸アシルCoA又は脂肪酸アシルACPを構成するアシル基(脂肪酸残基)の炭素原子数や不飽和結合数によって異なる反応特異性を示す複数のATが存在していることが知られている。よってATは、生体内での脂肪酸組成を決定する重要なファクターであると考えられている。また、AT遺伝子を元来有していない宿主を用いる場合、AT遺伝子の発現を促進させることが好ましい。また、中鎖脂肪酸アシルCoA又は中鎖脂肪酸アシルACPに対する基質特異性を有するAT遺伝子の発現を促進することにより、中鎖脂肪酸の生産性が向上する。このような遺伝子を導入することで、脂肪酸の生産性を一層向上させることができる。
【0068】
本発明で用いることができるATは、通常のATや、それらと機能的に均等なタンパク質から、宿主の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、ナンノクロロプシス・オセアニカ由来のDGAT(配列番号9、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号10;又は配列番号138、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号139)等が挙げられる。また、これと機能的に均等なタンパク質として、前記DGATのアミノ酸配列との同一性が50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上)のアミノ酸配列からなり、かつAT活性を有するタンパク質も用いることができる。
【0069】
本発明で用いることができるACSは、アシルCoAシンテターゼ活性(以下、「ACS活性」ともいう)を有するタンパク質であればよい。ここで「ACS活性」とは、遊離脂肪酸とCoAを結合させてアシル-CoAを生成する活性を意味する。
ACSは、生合成された脂肪酸(遊離脂肪酸)にCoAを付加し、アシル-CoAの生成に関与するタンパク質である。
そのため、前記TK及びFBAに加えてACSの発現を促進することで、脂質の製造に用いる形質転換体の脂質の生産性、特に脂肪酸の生産性を一層向上させることができる。
【0070】
本発明で用いることができるACSは、通常のACSや、それらと機能的に均等なタンパク質から、宿主の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、ナンノクロロプシス・オセアニカ由来のlong chain acyl-CoA synthetase(以下、単に「LACS」ともいう)(配列番号11、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号12)等が挙げられる。また、これらと機能的に均等なタンパク質として、前記ナンノクロロプシス・オセアニカ由来のLACSのアミノ酸配列との同一性が50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上)のアミノ酸配列からなり、かつACS活性を有するタンパク質も用いることができる。
【0071】
前述のTE、DGAT及びLACSのアミノ酸配列情報、並びにこれらをコードする遺伝子の配列情報等は、例えば、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information, NCBI)などから入手することができる。
また、RPI遺伝子、TE遺伝子、AT遺伝子、ACS遺伝子の発現を促進させた形質転換体は、常法により作製できる。例えば、後述のTK遺伝子及びFBA遺伝子の発現を促進させる方法と同様、前記各種遺伝子を宿主に導入する方法、前記各種遺伝子をゲノム上に有する宿主において当該遺伝子の発現調節領域を改変する方法、などにより形質転換体を作製することができる。
【0072】
各種宿主に導入する遺伝子は、使用する宿主におけるコドン使用頻度にあわせてコドンを至適化されることが好ましい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database(www.kazusa.or.jp/codon/)などから入手可能である。
【0073】
なお本明細書において、目的のタンパク質、若しくはこれをコードする遺伝子の発現を促進させたものを「形質転換体」ともいい、目的のタンパク質、若しくはこれをコードする遺伝子の発現を促進させていないものを「宿主」又は「野生株」ともいう。
【0074】
本発明で用いる形質転換体は、宿主自体に比べ光合成能に優れ、脂肪酸及びこれを構成成分とする脂質の生産性が有意に向上する。またその結果、当該形質転換体では、脂質中の脂肪酸組成が改変される。そのため、当該形質転換体を用いた本発明は、特定の炭素原子数の脂質、特に脂肪酸及びこれを構成成分とする脂質、好ましくは炭素原子数が12以上20以下の脂肪酸及びこれを構成成分とする脂質、より好ましくは炭素原子数が14以上18以下の脂肪酸及びこれを構成成分とする脂質、より好ましくは炭素原子数が16の脂肪酸及びこれを構成成分とする脂質、さらに好ましくは炭素原子数が16の飽和脂肪酸(パルミチン酸)及びこれを構成成分とする脂質、の生産に好適に用いることができる。さらに、後述の実施例でも示すように、本発明で用いる形質転換体は、各脂肪酸量の総和(総脂肪酸量)も向上している。
なお、本明細書において「光合成能」とは、光合成産物の生産効率を示し、光合成産物の生産量(乾燥重量、濁度、有機炭素量、酸素発生量等)あるいは二酸化炭素の消費量を測定することで確認することができる。また、宿主や形質転換体の脂肪酸及び脂質の生産性については、実施例で用いた方法により測定することができる。
【0075】
本発明の形質転換体の作製方法について説明する。しかし本発明は、これに制限するものではない。
【0076】
形質転換体の宿主としては通常用いられるものより適宜選択することができる。本発明で用いることができる宿主としては、微生物(光合成細菌、及び微細藻類を含む藻類など)、植物体、及び植物細胞が挙げられる。製造効率及び得られた脂質の利用性の点から、宿主は微生物であることが好ましく、藻類であることがより好ましく、微細藻類であることがさらに好ましい。
【0077】
前記微細藻類としては原核生物(シアノバクテリア)、真核生物(真核藻類)が挙げられ、脂質生産性の観点から、真核藻類であることがより好ましい。宿主として真核藻類を用いる場合には、TK、FBA、及びRPIは葉緑体内に局在することが好ましい。当該タンパク質を葉緑体内に局在させる方法としては、宿主内で機能する葉緑体移行シグナルを含む当該タンパク質をコードする遺伝子を核ゲノムに導入する方法、葉緑体移行シグナルを含まない当該タンパク質をコードする遺伝子を葉緑体ゲノムに導入する方法等が挙げられる。
真核藻類としては、遺伝子組換え手法が確立している観点から、クラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類、クロレラ(Chlorella)属の藻類、ファエオダクティラム(Phaeodactylum)属の藻類、又は真正眼点藻綱に属する藻類が好ましく、真正眼点藻綱に属する藻類がより好ましい。真正眼点藻綱に属する藻類の具体例としては、ナンノクロロプシス属の藻類、モノドプシス(Monodopsis)属の藻類、ビスケリア(Vischeria)属の藻類、クロロボトリス(Chlorobotrys)属の藻類、ゴニオクロリス(Goniochloris)等が挙げられる。なかでも、脂質生産性の観点から、ナンノクロロプシス属の藻類が好ましい。ナンノクロロプシス属の藻類の具体例としては、ナンノクロロプシス・オセアニカ、ナンノクロロプシス・オキュラータ(Nannochloropsis oculata)、ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)、ナンノクロロプシス・サリナ(Nannochloropsis salina)、ナンノクロロプシス・リムネティカ(Nannochloropsis limnetica)、ナンノクロロプシス・グラニュラータ(Nannochloropsis granulata)、ナンノクロロプシス・エスピー(Nannochloropsis sp.)等が挙げられる。なかでも、脂質生産性の観点から、ナンノクロロプシス・オセアニカ、又はナンノクロロプシス・ガディタナが好ましく、ナンノクロロプシス・オセアニカがより好ましい。
【0078】
遺伝子発現用プラスミド又は遺伝子発現カセットの母体となるベクター(プラスミド)としては、目的のタンパク質をコードする遺伝子を宿主に導入することができ、宿主細胞内で目的の遺伝子を発現させることができるベクターであればよい。例えば、使用する宿主の種類に応じたプロモーターやターミネーター等の発現調節領域を有するベクターであって、複製開始点や選択マーカー等を有するベクターを用いることができる。また、プラスミド等の染色体外で自立増殖・複製するベクターであってもよいし、染色体内に組み込まれるベクターであってもよい。
【0079】
本発明で好ましく用いることができる発現用ベクターとしては、微生物を宿主とする場合には、例えば、pBluescript(pBS) II SK(-)(Stratagene社製)、pSTV系ベクター(タカラバイオ社製)、pUC系ベクター(宝酒造社製)、pET系ベクター(タカラバイオ社製)、pGEX系ベクター(GEヘルスケア社製)、pCold系ベクター(タカラバイオ社製)、pHY300PLK(タカラバイオ社製)、pUB110(1986, Plasmid 15(2), p. 93-103)、pBR322(タカラバイオ社製)、pRS403(ストラタジーン社製)、及びpMW218/219(ニッポンジーン社製)が挙げられる。
藻類又は微細藻類を宿主とする場合には、例えば、pUC18(タカラバイオ社製)、pUC19(タカラバイオ社製)、P66(Chlamydomonas Center)、P-322(Chlamydomonas Center)、pPha-T1(Journal of Basic Microbiology, 2011, vol. 51, p. 666-672参照)、又はpJET1(コスモ・バイオ社製)が挙げられる。特に、宿主がナンノクロロプシス属に属する藻類の場合は、pUC18、pPha-T1、又はpJET1が好ましく用いられる。また、宿主がナンノクロロプシス属に属する藻類の場合には、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2011, vol. 108(52)の記載の方法を参考にして、目的の遺伝子、プロモーター及びターミネーターからなるDNA断片(遺伝子発現カセット)を用いて宿主を形質転換することもできる。
【0080】
また、前記発現ベクターに組み込んだ目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を調整するプロモーターの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができるプロモーターとしては、lacプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、T7プロモーター、SpoVGプロモーター、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加によって誘導可能な誘導体に関するプロモーター、RubisCOオペロン(rbc)、PSI反応中心タンパク質(psaA及びpsaB)、PSIIのD1タンパク質(psbA)、c-phycocyanin βサブユニット(cpcB)、カリフラワーモザイルウイルス35SRNAプロモーター、ハウスキーピング遺伝子プロモーター(例えば、チューブリンプロモーター、アクチンプロモーター、ユビキチンプロモーター等)、西洋アブラナ又はアブラナ由来Napin遺伝子プロモーター、植物由来RubisCOプロモーター、ナンノクロロプシス属由来のビオラキサンチン/クロロフィルa結合タンパク質遺伝子のプロモーター(VCP1プロモーター、VCP2プロモーター)(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2011, vol. 108(52))、ナンノクロロプシス属由来のオレオシン様タンパクLDSP(lipid droplet surface protein)遺伝子のプロモーター(LDSPプロモーター)(PLOS Genetics, 2012; 8(11): e1003064. doi: 10. 1371)、ナンノクロロプシス属由来のグルタミン合成酵素遺伝子のプロモーター(GSプロモーター)、及びナンノクロロプシス属由来のアンモニウムトランスポーター遺伝子のプロモーター(AMTプロモーター)が挙げられる。本発明で宿主としてナンノクロロプシスを用いる場合には、チューブリンプロモーター、ヒートショックプロテインプロモーター、ビオラキサンチン/クロロフィルa結合タンパク質遺伝子のプロモーター(VCP1プロモーター、VCP2プロモーター)、ナンノクロロプシス属由来のオレオシン様タンパクLDSP遺伝子のプロモーター、ACP遺伝子のプロモーター(ACPプロモーター)、デサチュラーゼ遺伝子のプロモーター、AT遺伝子のプロモーター(ATプロモーター)、GSプロモーター、及びAMTプロモーターを好ましく用いることができる。また、ナンノクロロプシスは一般に栄養(特に窒素)欠乏条件や強光条件において効率的に脂質を生産することが知られるため、これらの条件下で強く発現するプロモーターを用いることがより好ましい。栄養欠乏条件や強光条件において強く発現するという観点から、脂肪酸合成経路やTAG合成経路に関わる遺伝子のプロモーターや窒素同化に関わる遺伝子のプロモーターが好ましく、LDSP遺伝子のプロモーター、ACPプロモーター、デサチュラーゼ遺伝子のプロモーター、ATプロモーター、GSプロモーター、及びAMTプロモーターがより好ましく、LDSP遺伝子のプロモーター、GSプロモーター、及びAMTプロモーターがさらに好ましい。
また、目的のタンパク質をコードする遺伝子が組み込まれたことを確認するための選択マーカーの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができる選択マーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子、ビアラフォス耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、パロモマイシン耐性遺伝子、ゲンタマイシン耐性遺伝子、及びハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。さらに、栄養要求性に関連する遺伝子の欠損等を選択マーカー遺伝子として使用することもできる。
【0081】
目的のタンパク質をコードする遺伝子の前記ベクターへの導入は、制限酵素処理やライゲーション等の常法により行うことができる。
また、形質転換方法は、使用する宿主の種類に応じて常法より適宜選択することができる。例えば、カルシウムイオンを用いる形質転換方法、一般的なコンピテントセル形質転換方法、プロトプラスト形質転換法、エレクトロポレーション法、LP形質転換方法、アグロバクテリウムを用いた方法、パーティクルガン法等が挙げられる。宿主としてナンノクロロプシス属の藻類を用いる場合、Randor Radakovits, et al.,Nature Communications,DOI:10.1038/ncomms1688,2012等に記載のエレクトロポレーション法を用いて形質転換を行うこともできる。さらに、宿主として真核藻類、特にナンノクロロプシス属の藻類を用いる場合には、国特許出願公開第103834640号、あるいはQinhua Gan, et al., Frontiers in Plant Science, DOI: 10.3389/fpls.2018.00439等に記載の方法を用いて、葉緑体ゲノムに遺伝子を導入することもできる。
【0082】
目的遺伝子断片が導入された形質転換体の選択は、選択マーカー等を利用することで行うことができる。例えば、薬剤耐性遺伝子が、形質転換時に目的DNA断片とともに宿主細胞中に導入された結果、形質転換体が獲得する薬剤耐性を指標に行うことができる。また、ゲノムを鋳型としたPCR法等によって、目的DNA断片の導入を確認することもできる。
【0083】
前記遺伝子をゲノム上に有する宿主において、当該遺伝子の発現調節領域を改変して、当該遺伝子の発現を促進させる方法について説明する。
「発現調節領域」とは、プロモーター、ターミネーター、及び非翻訳領域を示し、これらの配列は一般に隣接する遺伝子の発現量(転写量、翻訳量)の調節に関与している。ゲノム上に前記TK遺伝子を有する宿主においては、当該遺伝子の発現調節領域を改変して当該遺伝子の発現を促進させることで、脂肪酸の生産性を向上させることができる。
【0084】
発現調節領域の改変方法としては、例えばプロモーターの入れ替えが挙げられる。ゲノム上に前記遺伝子を有する宿主において、当該遺伝子のプロモーターを、より転写活性の高いプロモーターに入れ替えることで、当該遺伝子の発現を促進させることができる。
前記宿主としては、前述した生物種のうち、ゲノム上に前記遺伝子を有するものを好適に用いることができる。
【0085】
プロモーターの入れ替えに用いるプロモーターとしては特に限定されず、前記遺伝子のプロモーターよりも転写活性が高く、脂肪酸の生産に適したものから適宜選択することができる。
宿主としてナンノクロロプシスを用いる場合には、チューブリンプロモーター、ヒートショックプロテインプロモーター、ビオラキサンチン/クロロフィルa結合タンパク質遺伝子のプロモーター(VCP1プロモーター、VCP2プロモーター)、ナンノクロロプシス属由来のオレオシン様タンパクLDSP遺伝子のプロモーター、ACPプロモーター、デサチュラーゼ遺伝子のプロモーター、ATプロモーター、GSプロモーター、及びAMTプロモーターを好ましく用いることができる。脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性向上の観点から、脂肪酸合成経路やTAG合成経路に関わる遺伝子のプロモーターや窒素同化に関わる遺伝子のプロモーターが好ましく、LDSP遺伝子のプロモーター、ACPプロモーター、デサチュラーゼ遺伝子のプロモーター、ATプロモーター、GSプロモーター、及びAMTプロモーターがより好ましく、LDSP遺伝子のプロモーター、GSプロモーター、及びAMTプロモーターがさらに好ましい。
【0086】
前述のプロモーターの改変は、相同組換えなどの常法に従い行うことができる。具体的には、標的とするプロモーターの上流、下流領域を含み、標的プロモーターに代えて別のプロモーターを含む直鎖状のDNA断片を構築し、これを宿主細胞に取り込ませ、宿主ゲノムの標的プロモーターの上流側と下流側とで2回交差の相同組換えを起こす。その結果、ゲノム上の標的プロモーターが別のプロモーター断片と置換され、プロモーターを改変することができる。
このような相同組換えによる標的プロモーターの改変方法は、例えば、Methods in molecular biology,1995, vol. 47, p. 291-302等の文献を参考に行うことができる。特に、宿主がナンノクロロプシス属に属する藻類の場合、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2011, vol. 108(52)等の文献を参考にして、相同組換え法によりゲノム中の特定の領域を改変することができる。
【0087】
本発明の形質転換体は、光合成能、並びに脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性が、前記TK及びFBA等の発現が促進されていない宿主と比較して向上している。したがって、本発明の形質転換体を適切な条件で培養し、次いで得られた培養物から脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を回収すれば、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を効率よく製造することができる。
ここで「培養物」とは培養した後の培養液及び形質転換体をいう。
【0088】
本発明の形質転換体の培養条件は、形質転換体の宿主に応じて適宜選択することができ、その宿主に対して通常用いられる培養条件を使用できる。また脂肪酸の生産効率の点から、培地中に、例えば脂肪酸生合成系に関与する前駆物質としてグリセロール、酢酸、又はグルコース等を添加してもよい。
【0089】
宿主として藻類を用いる場合、培地は天然海水又は人工海水をベースにしたものを使用してもよいし、市販の培養培地を使用してもよい。具体的な培地としては、f/2培地、ESM培地、ダイゴIMK培地、L1培地、MNK培地、等を挙げることができる。なかでも、脂質の生産性向上及び栄養成分濃度の観点から、f/2培地、ESM培地、又はダイゴIMK培地が好ましく、f/2培地、又はダイゴIMK培地がより好ましく、f/2培地がさらに好ましい。藻類の生育促進、脂肪酸の生産性向上のため、培地に、窒素源、リン源、金属塩、ビタミン類、微量金属等を適宜添加することができる。
培地に接種する形質転換体の量は適宜選択することができ、生育性の点から培地当り1~50%(vol/vol)が好ましく、1~10%(vol/vol)がより好ましい。培養温度は、藻類の増殖に悪影響を与えない範囲であれば特に制限されないが、通常、5~40℃の範囲である。藻類の生育促進、脂肪酸の生産性向上、及び生産コストの低減の観点から、好ましくは10~35℃であり、より好ましくは15~30℃である。
また藻類の培養は、光合成ができるよう光照射下で行うことが好ましい。光照射は、光合成が可能な条件であればよく、人工光でも太陽光でもよい。光照射時の光強度としては、藻類の生育促進、脂肪酸の生産性向上の観点から、好ましくは1~4,000μmol/m2/sの範囲、より好ましくは10~2,500μmol/m2/sの範囲、より好ましくは100~2,500μmol/m2/sの範囲、より好ましくは200~2,500μmol/m2/sの範囲、より好ましくは250~2,500μmol/m2/sの範囲、より好ましくは300~2,500μmol/m2/sの範囲である。また、光照射の間隔は、特に制限されないが、前記と同様の観点から、明暗周期で行うことが好ましく、24時間のうち明期が好ましくは8~24時間、より好ましくは10~18時間、さらに好ましくは12時間である。
また藻類の培養は、光合成ができるように二酸化炭素を含む気体の存在下、又は炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩を含む培地で行うことが好ましい。気体中の二酸化炭素の濃度は特に限定されないが、生育促進、脂肪酸の生産性向上の観点から0.03(大気条件と同程度)~10%が好ましく、より好ましくは0.05~5%、さらに好ましくは0.1~3%、よりさらに好ましくは0.3~1%である。炭酸塩の濃度は特に限定されないが、例えば炭酸水素ナトリウムを用いる場合、生育促進、脂肪酸の生産性向上の観点から0.01~5質量%が好ましく、より好ましくは0.05~2質量%、さらに好ましくは0.1~1質量%である。
培養時間は特に限定されず、脂質を高濃度に蓄積する藻体が高い濃度で増殖できるように、長期間(例えば150日程度)行なってもよい。藻類の生育促進、脂肪酸の生産性向上、及び生産コストの低減の観点から、培養期間は、好ましくは3~90日間、より好ましくは7~30日間、さらに好ましくは14~21日間である。なお、培養は、通気攪拌培養、振とう培養又は静置培養のいずれでもよく、通気性の向上の観点から、通気撹拌培養が好ましい。
【0090】
培養物から脂質を採取する方法としては、常法から適宜選択することができる。例えば、前述の培養物から、ろ過、遠心分離、細胞の破砕、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、クロロホルム/メタノール抽出法、ヘキサン抽出法、又はエタノール抽出法等により脂質成分を単離、回収することができる。より大規模な培養を行った場合は、培養物より油分を圧搾又は抽出により回収後、脱ガム、脱酸、脱色、脱蝋、脱臭等の一般的な精製を行い、脂質を得ることができる。このように脂質成分を単離した後、単離した脂質を加水分解することで脂肪酸を得ることができる。脂質成分から脂肪酸を単離する方法としては、例えば、アルカリ溶液中で70℃程度の高温で処理をする方法、リパーゼ処理をする方法、又は高圧熱水を用いて分解する方法等が挙げられる。
【0091】
本発明の製造方法において製造される脂質は、その利用性の点から、脂肪酸又は脂肪酸化合物を含んでいることが好ましく、脂肪酸又は脂肪酸エステル化合物を含んでいることがさらに好ましい。
脂質中に含まれる脂肪酸又は脂肪酸エステル化合物は、界面活性剤等への利用性の観点から、脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物が好ましく、炭素原子数が12以上20以下の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物がより好ましく、炭素原子数が14以上18以下の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物がさらに好ましく、炭素原子数が16の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物がさらに好ましく、炭素原子数が16の飽和脂肪酸(パルミチン酸)又はその脂肪酸エステル化合物がさらに好ましい。
脂肪酸エステル化合物は、生産性の点から、単純脂質又は複合脂質が好ましく、単純脂質がさらに好ましく、TAGがさらにより好ましい。
【0092】
本発明の製造方法により得られる脂肪酸は、食用として用いる他、可塑剤、化粧品等の乳化剤、石鹸や洗剤等の洗浄剤、繊維処理剤、毛髪リンス剤、又は殺菌剤や防腐剤として利用することができる。
【0093】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下のタンパク質、遺伝子、形質転換体、方法を開示する。
【0094】
<1>TK及びFBAの発現、又はTK遺伝子及びFBA遺伝子の発現を促進させ、藻類の光合成能を向上させる方法。
<2>TK及びFBAの発現、又はTK遺伝子及びFBA遺伝子の発現を促進させた藻類を培養し、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させる、脂質の製造方法。
<3>藻類において、TK及びFBAの発現、又はTK遺伝子及びFBA遺伝子の発現を促進させることにより、藻類の細胞内で生産される脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させる、脂質生産性の向上方法。
<4>藻類において、TK及びFBAの発現、又はTK遺伝子及びFBA遺伝子の発現を促進し、藻類の細胞内で生産される脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の脂肪酸の組成を改変する、脂肪酸組成の改変方法。
<5>生産される全脂肪酸に占める炭素原子数が12以上20以下の脂肪酸、好ましくは炭素原子数が14以上18以下の脂肪酸、より好ましくは炭素原子数が16の脂肪酸、さらに好ましくは炭素原子数が16の飽和脂肪酸(パルミチン酸)、の割合を増加させる、前記<4>項記載の方法。
【0095】
<6>TK遺伝子及びFBA遺伝子の発現を前記藻類の細胞内で促進させ、TK及びFBAの発現を促進させる、前記<1>~<5>のいずれか1項記載の方法。
<7>TK遺伝子及びFBA遺伝子を前記藻類に導入し、導入したTK遺伝子及びFBA遺伝子の発現を促進させる、前記<1>~<6>のいずれか1項記載の方法。
【0096】
<8>前記TKが下記タンパク質(A)又は(B)である、前記<1>~<7>のいずれか1項記載の方法。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつTK活性を有するタンパク質。
<9>前記タンパク質(B)が、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上289個以下、より好ましくは1個以上253個以下、より好ましくは1個以上216個以下、より好ましくは1個以上180個以下、より好ましくは1個以上144個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上72個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上57個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上36個以下、より好ましくは1個以上21個以下、より好ましくは1個以上14個以下、さらに好ましくは1個以上7個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつTK活性を有するタンパク質である、前記<8>項に記載の方法。
<10>前記TK遺伝子が、下記DNA(a)又は(b)からなる遺伝子である、前記<1>~<9>のいずれか1項記載の方法。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつTK活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<11>前記DNA(b)が、前記DNA(a)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上868個以下、好ましくは1個以上760個以下、より好ましくは1個以上651個以下、より好ましくは1個以上543個以下、より好ましくは1個以上434個以下、より好ましくは1個以上325個以下、より好ましくは1個以上217個以下、より好ましくは1個以上195個以下、より好ましくは1個以上173個以下、より好ましくは1個以上152個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上43個以下、さらに好ましくは1個以上21個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつTK活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<10>記載の方法。
【0097】
<12>前記FBAが下記タンパク質(C)又は(D)である、前記<1>~<11>のいずれか1項記載の方法。
(C)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつFBA活性を有するタンパク質。
<13>前記タンパク質(D)が、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上152個以下、より好ましくは1個以上133個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上95個以下、より好ましくは1個以上76個以下、より好ましくは1個以上57個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上26個以下、より好ましくは1個以上19個以下、より好ましくは1個以上11個以下、より好ましくは1個以上7個以下、さらに好ましくは1個以上3個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつFBA活性を有するタンパク質である、前記<12>項に記載の方法。
<14>前記FBA遺伝子が、下記DNA(c)又は(d)からなる遺伝子である、前記<1>~<13>のいずれか1項記載の方法。
(c)配列番号4で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつFBA活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<15>前記DNA(d)が、前記DNA(c)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上459個以下、より好ましくは1個以上402個以下、より好ましくは1個以上344個以下、より好ましくは1個以上287個以下、より好ましくは1個以上229個以下、より好ましくは1個以上172個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上103個以下、より好ましくは1個以上91個以下、より好ましくは1個以上80個以下、より好ましくは1個以上57個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上22個以下、さらに好ましくは1個以上11個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつFBA活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<14>項記載の方法。
【0098】
<16>前記藻類において、RPI遺伝子の発現を前記藻類の細胞内で促進させ、RPIの発現を促進させる、前記<1>~<15>のいずれか1項記載の方法。
<17>RPI遺伝子を前記藻類に導入し、導入したRPI遺伝子の発現を促進させる、前記<1>~<16>のいずれか1項記載の方法。
<18>前記RPIが下記タンパク質(E)又は(F)である、前記<16>又は<17>項に記載の方法。
(E)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上のアミノ酸配列からなり、かつRPI活性を有するタンパク質。
<19>前記タンパク質(F)が、前記タンパク質(E)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上112個以下、より好ましくは1個以上98個以下、より好ましくは1個以上84個以下、より好ましくは1個以上70個以下、より好ましくは1個以上56個以下、より好ましくは1個以上42個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上22個以下、より好ましくは1個以上19個以下、より好ましくは1個以上14個以下、より好ましくは1個以上8個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつRPI活性を有するタンパク質である、前記<18>項に記載の方法。
<20>前記RPI遺伝子が、下記DNA(e)又は(f)である、前記<16>~<19>のいずれか1項記載の方法。
(e)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA。
(f)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつRPI活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<21>前記DNA(f)が、前記DNA(e)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上339個以下、好ましくは1個以上297個以下、より好ましくは1個以上254個以下、より好ましくは1個以上212個以下、より好ましくは1個以上169個以下、より好ましくは1個以上127個以下、より好ましくは1個以上84個以下、より好ましくは1個以上76個以下、より好ましくは1個以上67個以下、より好ましくは1個以上59個以下、より好ましくは1個以上42個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上16個以下、さらに好ましくは1個以上8個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつRPI活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<20>項記載の方法。
【0099】
<22>前記藻類において、脂肪酸合成経路又はTAG合成経路に関わる少なくとも1個以上のタンパク質の発現を促進させた、前記<1>~<21>のいずれか1項記載の方法。
<23>前記脂肪酸合成経路又はTAG合成経路に関わる少なくとも1個以上のタンパク質が、ACC、ACP、ホロ-ACPシンターゼ(ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ)、MAT、KAS、KAR、HD、KAR、TE、ACS、G3PDH、AT(GPAT、LPAAT、及びDGAT等)、並びにPAPからなる群より選ばれるいずれか1個以上のタンパク質、好ましくはACC、ACP、KAS、TE、ACS、並びにAT(GPAT、LPAAT、及びDGAT等)からなる群より選ばれる1個以上のタンパク質、より好ましくはTE、ACS、並びにAT(GPAT、LPAAT、及びDGAT等)からなる群より選ばれる1個以上のタンパク質、さらに好ましくTE、ACS、及びDGATからなる群より選ばれる1個以上のタンパク質、である、前記<22>項記載の方法。
<24>前記藻類において、DGAT、好ましくはACS及びDGAT、より好ましくはTE、ACS、及びDGATの発現が促進されている、前記<1>~<23>のいずれか1項記載の方法。
<25>前記TEが、下記(G)又は(H)である、前記<23>又は<24>項記載の方法。
(G)配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(H)前記タンパク質(G)のアミノ酸配列と同一性が50%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、のアミノ酸配列からなり、かつTE活性を有するタンパク質。
<26>前記ACSが、下記(I)又は(J)である、前記<23>~<25>のいずれか1項記載の方法。
(I)配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(J)前記タンパク質(I)のアミノ酸配列と同一性が50%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、のアミノ酸配列からなり、かつACS活性を有するタンパク質。
<27>前記ATが、下記(K)~(N)からなる群より選ばれるいずれか1つのATである、前記<23>~<26>のいずれか1項記載の方法。
(K)配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(L)前記タンパク質(K)のアミノ酸配列と同一性が50%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、のアミノ酸配列からなり、かつAT活性を有するタンパク質。
(M)配列番号138で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(N)前記タンパク質(M)のアミノ酸配列と同一性が50%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、のアミノ酸配列からなり、かつAT活性を有するタンパク質。
【0100】
<28>前記藻類が、真核藻類であり、好ましくは真正眼点藻綱に属する藻類である、前記<1>~<27>のいずれか1項記載の方法。
<29>前記真正眼点藻綱に属する藻類が、ナンノクロロプシス属に属する藻類である、前記<28>項記載の方法。
<30>前記ナンノクロロプシス属に属する藻類が、ナンノクロロプシス・オセアニカ、ナンノクロロプシス・オキュラータ、ナンノクロロプシス・ガディタナ、ナンノクロロプシス・サリナ、ナンノクロロプシス・リムネティカ、ナンノクロロプシス・グラニュラータ、ナンノクロロプシス・エスピー、からなる群より選ばれる少なくとも1つの藻類である、前記<29>項記載の方法。
<31>前記脂質が、脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、好ましくは炭素原子数が12以上20以下の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数が14以上18以下の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、さらに好ましくは炭素原子数が16の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、特に好ましくは炭素原子数が16の飽和脂肪酸(パルミチン酸)又はその脂肪酸エステル化合物を、含む、前記<2>~<30>のいずれか1項記載の方法。
<32>前記遺伝子の発現が、栄養欠乏条件や強光条件において強く発現するプロモーター、より好ましくは脂肪酸合成経路やTAG合成経路に関わる遺伝子のプロモーター又は窒素同化に関わる遺伝子のプロモーター、より好ましくはLDSP遺伝子のプロモーター、ACPプロモーター、デサチュラーゼ遺伝子のプロモーター、ATプロモーター、GSプロモーター、又はAMTプロモーター、さらにより好ましくはLDSP遺伝子のプロモーター、GSプロモーター、又はAMTプロモーターによって促進されている、前記<1>~<31>のいずれか1項記載の方法。
<33>前記藻類を、光強度が1~4,000μmol/m2/sの範囲、好ましくは10~2,500μmol/m2/sの範囲、より好ましくは100~2,500μmol/m2/sの範囲、より好ましくは200~2,500μmol/m2/sの範囲、より好ましくは250~2,500μmol/m2/sの範囲、より好ましくは300~2,500μmol/m2/sの範囲、の条件で培養する、前記<1>~<32>のいずれか1項記載の方法。
<34>窒素源及びリン源の濃度を増強したf/2培地を用いて前記藻類を培養する、前記<1>~<33>のいずれか1項記載の方法。
【0101】
<35>TK及びFBAの発現、又はTK遺伝子及びFBA遺伝子の発現が促進されている、藻類の形質転換体。
<36>TK遺伝子及びFBA遺伝子の発現が前記藻類の細胞内で促進され、TK及びFBAの発現が促進されている、前記<35>項記載の形質転換体。
<37>TK遺伝子及びFBA遺伝子を含有する組換えベクター、又はTK遺伝子及びFBA遺伝子を含有する組換えカセットを含んでなる、前記<35>又は<36>項記載の形質転換体。
<38>TK遺伝子及びFBA遺伝子を含有する組換えベクター、又はTK遺伝子及びFBA遺伝子を含有する組換えカセットを、藻類に導入する、形質転換体の作製方法。
<39>前記TKが前記<8>又は<9>項で規定するタンパク質である、前記<35>又は<36>項記載の形質転換体。
<40>前記TK遺伝子が前記<10>又は<11>項で規定するDNAである、前記<35>~<38>のいずれか1項記載の形質転換体、又は形質転換体の作製方法。
<41>前記FBAが前記<12>又は<13>項で規定するタンパク質である、前記<35>~<40>のいずれか1項記載の形質転換体、又は形質転換体の作製方法。
<42>前記FBA遺伝子が前記<14>又は<15>項で規定するDNAである、前記<35>~<40>のいずれか1項記載の形質転換体、又は形質転換体の作製方法。
<43>RPIの発現、又はRPI遺伝子の発現が促進されている、前記<35>~<37>、及び<39>~<42>のいずれか1項記載の形質転換体。
<44>RPI遺伝子の発現が前記藻類の細胞内で促進され、RPIの発現が促進されている、前記<35>~<37>、及び<39>~<43>のいずれか1項記載の形質転換体。
<45>RPI遺伝子を含有する組換えベクター、又はRPI遺伝子を含有する組換えカセットを含んでなる、前記<35>~<37>、及び<39>~<44>のいずれか1項記載の形質転換体。
<46>RPI遺伝子を含有する組換えベクター、又はRPI遺伝子を含有する組換えカセットを、藻類に導入する、前記<38>~<42>のいずれか1項記載の形質転換体の作製方法。
<47>前記RPIが前記<18>又は<19>項で規定するタンパク質である、前記<43>~<46>のいずれか1項記載の形質転換体、又は形質転換体の作製方法。
<48>前記RPI遺伝子が前記<20>又は<21>項で規定するDNAである、前記<43>~<46>のいずれか1項記載の形質転換体、又は形質転換体の作製方法。
【0102】
<49>前記藻類において、脂肪酸合成経路又はTAG合成経路に関わる少なくとも1個以上のタンパク質の発現を促進させた、前記<35>~<37>、<39>~<45>、<47>、及び<48>のいずれか1項記載の形質転換体。
<50>前記脂肪酸合成経路又はTAG合成経路に関わる少なくとも1個以上のタンパク質が、ACC、ACP、ホロ-ACPシンターゼ(ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ)、MAT、KAS、KAR、HD、KAR、TE、ACS、G3PDH、AT(GPAT、LPAAT、及びDGAT等)、並びにPAPからなる群より選ばれるいずれか1個以上のタンパク質、好ましくはACC、ACP、KAS、TE、ACS、並びにAT(GPAT、LPAAT、及びDGAT等)からなる群より選ばれる1個以上のタンパク質、より好ましくはTE、ACS、並びにAT(GPAT、LPAAT、及びDGAT等)からなる群より選ばれる1個以上のタンパク質、さらに好ましくTE、ACS、及びDGATからなる群より選ばれる1個以上のタンパク質、である、前記<49>項記載の形質転換体。
<51>前記藻類において、DGAT、好ましくはACS及びDGAT、より好ましくはTE、ACS、及びDGATの発現が促進されている、前記<35>~<37>、<39>~<45>、及び<47>~<50>のいずれか1項記載の形質転換体。
<52>前記<49>又は<50>項で規定するタンパク質をコードする遺伝子を含有する組換えベクター、又は前記<49>又は<50>項で規定するタンパク質をコードする遺伝子を含有する組換えカセットを含んでなる、前記<35>~<37>、<39>~<45>、及び<47>~<51>のいずれか1項記載の形質転換体。
<53>前記<52>項で規定する組換えベクター、又は組換えカセットを、藻類に導入する、形質転換体の作製方法。
<54>前記DGATが前記<27>項で規定するタンパク質である、前記<50>~<53>のいずれか1項記載の形質転換体、又は形質転換体の作製方法。
<55>前記ACSが前記<26>項で規定するタンパク質である、前記<50>~<54>のいずれか1項記載の形質転換体、又は形質転換体の作製方法。
<56>前記TEが前記<25>項で規定するタンパク質である、前記<50>~<55>のいずれか1項記載の形質転換体、又は形質転換体の作製方法。
<57>前記遺伝子の発現が、栄養欠乏条件や強光条件において強く発現するプロモーター、より好ましくは脂肪酸合成経路やTAG合成経路に関わる遺伝子のプロモーター又は窒素同化に関わる遺伝子のプロモーター、より好ましくはLDSP遺伝子のプロモーター、ACPプロモーター、デサチュラーゼ遺伝子のプロモーター、ATプロモーター、GSプロモーター、又はAMTプロモーター、さらにより好ましくはLDSP遺伝子のプロモーター、GSプロモーター、又はAMTプロモーターによって促進されている、前記<35>~<56>のいずれか1項記載の形質転換体、又は形質転換体の作製方法。
【0103】
<58>前記藻類が、真核藻類であり、好ましくは真正眼点藻綱に属する藻類である、前記<35>~<57>のいずれか1項記載の形質転換体、又は形質転換体の作製方法。
<59>前記真正眼点藻綱に属する藻類が、ナンノクロロプシス属に属する藻類である、前記<58>項記載の形質転換体、又は形質転換体の作製方法。
<60>前記ナンノクロロプシス属に属する藻類が、ナンノクロロプシス・オセアニカ、ナンノクロロプシス・オキュラータ、ナンノクロロプシス・ガディタナ、ナンノクロロプシス・サリナ、ナンノクロロプシス・リムネティカ、ナンノクロロプシス・グラニュラータ、ナンノクロロプシス・エスピー、からなる群より選ばれる少なくとも1つの藻類である、前記<59>項記載の形質転換体、又は形質転換体の作製方法。
【0104】
<61>脂質を製造するための、前記<35>~<60>のいずれか1項記載の形質転換体、その作製方法により作製された形質転換体、タンパク質、遺伝子、又は組換えベクターの使用。
<62>前記脂質が、脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、好ましくは炭素原子数が12以上20以下の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数が14以上18以下の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数が16の脂肪酸又はその脂肪酸エステル化合物、より好ましくは炭素原子数が16の飽和脂肪酸(パルミチン酸)又はその脂肪酸エステル化合物を、含む、前記<61>項記載の使用。
【0105】
<63>CBB回路に関わるタンパク質、又はこれをコードする遺伝子の発現を促進させ、藻類の光合成能を向上させる方法。
<64>前記CBB回路に関わるタンパク質が、TK及びFBA、より好ましくはTK、FBA及びRPI、さらにより好ましくは前記<8>又は<9>項で規定するTK、前記<12>又は<13>項で規定するFBA、及び前記<18>又は<19>項で規定するRPIである、前記<63>記載の方法。
<65>脂肪酸合成経路及びTAG合成経路に関わる少なくとも1個以上のタンパク質、又はこれをコードする遺伝子の発現を促進させる、前記<63>又は<64>項記載の方法。
<66>前記脂肪酸合成経路又はTAG合成経路に関わる少なくとも1個以上のタンパク質が、ACC、ACP、ホロ-ACPシンターゼ(ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ)、MAT、KAS、KAR、HD、KAR、TE、ACS、G3PDH、AT(GPAT、LPAAT、及びDGAT等)、並びにPAPからなる群より選ばれるいずれか1個以上のタンパク質、好ましくはACC、ACP、KAS、TE、ACS、並びにAT(GPAT、LPAAT、及びDGAT等)からなる群より選ばれる1個以上のタンパク質、より好ましくはTE、ACS、並びにAT(GPAT、LPAAT、及びDGAT等)からなる群より選ばれる1個以上のタンパク質、さらに好ましくTE、ACS、及びDGATからなる群より選ばれる1個以上のタンパク質、さらに好ましくはDGAT、さらに好ましくはACS及びDGAT、よりさらに好ましくはTE、ACS、及びDGAT、よりさらに好ましくは前記<25>項で規定するTE、前記<26>項で規定するACS、及び前記<27>項で規定するDGAT、である、前記<65>項記載の方法。
【実施例0106】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。ここで、本実施例で用いたプライマーの塩基配列を表1及び表2に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
ナンノクロロプシス・オセアニカ由来の推定CBB回路遺伝子の探索、局在解析
ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株のRNAシーケンスデータをもとに、RubisCOを除くCBB回路遺伝子の探索を行った。その結果、合計28個の遺伝子が候補として抽出された。各遺伝子のアミノ酸配列及び塩基配列を配列番号1~8、及び73~120に示す。このうち、トランスケトラーゼ1(TK1;配列番号1、2)、フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ2(FBA2;配列番号3、4)、フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ4(FBA4;配列番号5、6)、RPI(配列番号7、8)、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK1;配列番号73、74)、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ1(GAPDH1;配列番号79、80)、トリオースリン酸イソメラーゼ2(TPI2;配列番号91、92)、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ2(FBP2;配列番号99、100)、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ3(FBP3;配列番号101、102)、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ4(FBP4;配列番号103、104)、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ5(FBP5;配列番号105、106)、セドヘプツロース-1,7-ビスホスファターゼ1(SBP1;配列番号107、108)、リブロース-5-リン酸エピメラーゼ(RPE1;配列番号113、114)、ホスホリブロキナーゼ(PRK;配列番号119、120)、が葉緑体局在タンパクであると示唆され、葉緑体内に存在するCBB回路を構成する酵素であると考えられた。
【0110】
比較例1 ナンノクロロプシス・オセアニカ由来CBB回路遺伝子、またはシネココッカス・エロンガタス(Synechococcus elongatus)由来FBP/SBP遺伝子発現プラスミドの作製、ナンノクロロプシスへの形質転換、および形質転換体による脂質の製造
(1)ゼオシン耐性遺伝子発現用プラスミドの構築
ゼオシン耐性遺伝子(配列番号15)、及び文献(Randor Radakovits, et al., Nature Communications, DOI:10.1038/ncomms1688, 2012)記載のナンノクロロプシス・ガディタナCCMP526株由来チューブリンプロモーター配列(配列番号18)を人工合成した。合成したDNA断片を鋳型として、表1に示す配列番号26及び配列番号27のプライマー対、配列番号32及び配列番号33のプライマー対を用いてPCRを行い、ゼオシン耐性遺伝子及びチューブリンプロモーター配列をそれぞれ増幅した。また、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株のゲノムを鋳型として、表1に示す配列番号34及び配列番号35のプライマー対を用いてPCRを行い、ヒートショックプロテインターミネーター配列(配列番号19)を増幅した。さらに、プラスミドベクターpUC19(タカラバイオ社製)を鋳型として、表1に示す配列番号36及び配列番号37のプライマー対を用いたPCRを行い、プラスミドベクターpUC19を増幅した。
これら4つの増幅断片をそれぞれ制限酵素DpnI(東洋紡株式会社製)にて処理し、High Pure PCR Product Purification Kit(Roche Applied Science社製)を用いて精製した。その後、得られた4つの断片をIn-Fusion HD Cloning Kit(Clontech社製)を用いて融合し、ゼオシン耐性遺伝子発現用プラスミドを構築した。なお、本発現プラスミドは、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター配列の順に連結したインサート配列とpUC19ベクター配列からなる。
【0111】
(2)ナンノクロロプシス・オセアニカ由来CBB回路遺伝子の取得、及びCBB回路遺伝子発現用プラスミドの構築
ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株の全RNAを抽出し、SuperScript(商標) III First-Strand Synthesis SuperMix for qRT-PCR(invitrogen社製)を用いて逆転写を行ってcDNAを得た。このcDNAを鋳型として、表1又は表2に示す配列番号57及び配列番号58のプライマー対、配列番号59及び配列番号60のプライマー対、配列番号61及び配列番号62のプライマー対、配列番号126及び配列番号127のプライマー対、配列番号128及び配列番号129のプライマー対、配列番号130及び配列番号131のプライマー対、配列番号132及び配列番号133のプライマー対、配列番号134及び配列番号135のプライマー対、をそれぞれ用いたPCR反応により、配列番号2の塩基配列からなるTK1遺伝子断片、配列番号4の塩基配列からなるFBA2遺伝子断片、配列番号8の塩基配列からなるRPI遺伝子断片、配列番号74の塩基配列からなるホスホグリセリン酸キナーゼ1遺伝子(以下、「PGK1遺伝子」ともいう)断片、配列番号100の塩基配列からなるフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ2遺伝子(以下、「FBP2遺伝子」ともいう)断片、配列番号106の塩基配列からなるフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ5遺伝子(以下、「FBP5遺伝子」ともいう)断片、配列番号108の塩基配列からなるセドヘプツロース-1,7-ビスホスファターゼ1遺伝子(以下、「SBP1遺伝子」ともいう)断片、配列番号120の塩基配列からなるホスホリブロキナーゼ遺伝子(以下、「PRK遺伝子」ともいう)断片、をそれぞれ取得した。
また、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株のゲノムを鋳型として、表1に示す配列番号38及び配列番号39のプライマー対、配列番号40及び配列番号41のプライマー対を用いたPCRを行い、LDSPプロモーター断片(配列番号20)およびVCP1ターミネーター断片(配列番号21)を取得した。
さらに、前記(1)で作製したゼオシン耐性遺伝子発現プラスミドを鋳型として、表1に示す配列番号42及び配列番号37のプライマー対を用いたPCRを行い、ゼオシン耐性遺伝子発現カセット(チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター配列)及びpUC19配列からなる断片を増幅した。
【0112】
各CBB回路遺伝子断片と、LDSPプロモーター断片、VCP1ターミネーター断片、ゼオシン耐性遺伝子発現カセット及びpUC19配列からなる断片、を前記(1)と同様の方法にて融合し、TK1遺伝子発現用プラスミド、FBA2遺伝子発現用プラスミド、RPI遺伝子発現用プラスミド、PGK1遺伝子発現用プラスミド、FBP2遺伝子発現用プラスミド、FBP5遺伝子発現用プラスミド、SBP1遺伝子発現用プラスミド、PRK遺伝子発現用プラスミド、をそれぞれ構築した。なお、本発現プラスミドはLDSPプロモーター配列、各CBB回路遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター配列の順で連結したインサート配列とpUC19ベクター配列からなる。
【0113】
(3)シネココッカス・エロンガタス由来bifunctional fructose-1,6-bisphosphatase/sedoheptulose-1,7-bisphosphatase遺伝子(以下、「SeFBP/SBP遺伝子」ともいう)の取得、及びSeFBP/SBP遺伝子発現用プラスミドの構築
シネココッカス・エロンガタスPCC7942株のゲノムを鋳型とし、表2に示す配列番号136及び配列番号137のプライマー対を用いたPCRを行い、SeFBP/SBP遺伝子(配列番号122、対応するアミノ酸配列:配列番号121;ファーストメチオニンをバリンに置換している)を含むDNA断片を増幅した。また、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株のゲノムを鋳型として、表2に示す配列番号124及び配列番号125のプライマー対を用いたPCRを行い、VCP1の葉緑体移行シグナル断片(配列番号123)を取得した。さらに前記TK1遺伝子発現用プラスミドを鋳型とし、表1に示す配列番号40及び配列番号39のプライマー対を用いたPCRを行い、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター、pUC19ベクター、LDSPプロモーター配列からなる断片を増幅した。
これら3個の断片を前記(1)と同様の方法にて融合し、SeFBP/SBP遺伝子発現用プラスミドを構築した。なお、本発現プラスミドはLDSPプロモーター配列、VCP1葉緑体移行シグナル、SeFBP/SBP遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター配列の順で連結したインサート配列とpUC19ベクター配列からなる。
【0114】
(4)CBB回路遺伝子発現カセットのナンノクロロプシスへの導入、形質転換体の培養、培養液中の脂質の抽出、及び構成脂肪酸の分析
前記(2)及び(3)にて作製した各CBB回路遺伝子発現用プラスミドをそれぞれ鋳型として、表1に示す配列番号53及び配列番号56のプライマー対を用いたPCRを行い、各CBB回路遺伝子発現カセット(LDSPプロモーター配列、各CBB回路遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター配列からなるDNA断片)をそれぞれ増幅した。
増幅した断片を、High Pure PCR Product Purification Kit(Roche Applied Science社製)を用いて精製した。なお、精製の際の溶出には、キットに含まれる溶出バッファーではなく、滅菌水を用いた。
約10細胞のナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株を、384mMのソルビトール溶液で洗浄して塩を除去し、形質転換の宿主細胞として用いた。上記で増幅した各CBB回路遺伝子発現カセット約500ngをそれぞれ宿主細胞に混和し、50μF、500Ω、2,200v/2mmの条件でエレクトロポレーションを行った。f/2液体培地(NaNO75mg、NaHPO・2HO 6mg、ビタミンB12 0.5μg、ビオチン 0.5μg、チアミン 100μg、NaSiO・9HO 10mg、NaEDTA・2HO 4.4mg、FeCl・6HO 3.16mg、CoSO・7HO 12μg、ZnSO・7HO 21μg、MnCl・4HO 180μg、CuSO・5HO 7μg、NaMoO・2HO 7μg/人工海水1L)にて24時間回復培養を行った後に、2μg/mLのゼオシン含有f/2寒天培地に塗布し、25℃、0.3%CO雰囲気下、12h/12h明暗条件にて2~3週間培養した。得られたコロニーの中から、各CBB回路遺伝子発現カセットを含むものをPCR法によりそれぞれ選抜した。選抜した株を、f/2培地の窒素濃度を15倍、リン濃度を5倍に増強した培地(以下、「N15P5培地」ともいう)20mLに播種し、25℃、0.3%CO雰囲気下、12h/12h明暗条件にて2週間振盪培養した。
この培養液2mLを、f/2培地の窒素濃度を5倍、リン濃度を5倍に増強した培地(以下、「N5P5培地」ともいう)18mLに植継ぎ、25℃、0.3%CO雰囲気下、光強度約100μmol/m2/s、12h/12h明暗条件にて5日間振盪培養し、前々培養液とした。96穴プレート及びInfinite M200 PRO (TECAN社)を用いて750nmにおける濁度(以下、「OD750」ともいう)を測定した。18mLのN5P5培地に対し、OD750が終濃度0.1になるように前々培養液を播種し、同条件にて5日間培養し、前培養液とした。同様にしてOD750が終濃度0.1になるように前培養液をN5P5培地18mLに播種し、同条件にて本培養を行った。なお、陰性対照として、野生株であるナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株についても同様に実験を行った。野生株についてN=2~4で、各CBB回路遺伝子導入株については独立した3~4ラインについて培養を行った。
【0115】
(5)ナンノクロロプシス培養液中の脂質の抽出及び構成脂肪酸の分析
本培養開始後、経時的にサンプリングを行い、以下の方法にて脂質抽出を行った。
培養液0.25mLに、内部標準として1mg/mLのGlyceryl triheptadecanoate(SIGMA社製)クロロホルム溶液を50μL添加後、0.5mLのクロロホルム及び1mLのメタノールを培養液に添加して激しく攪拌後10分間放置した。その後さらに、0.5mLのクロロホルム及び0.5mLの1.5%KClを添加して攪拌後、3,000rpmにて5分間遠心分離を行い、パスツールピペットにてクロロホルム層(下層)を回収した。得られたクロロホルム層に窒素ガスを吹き付けて乾固し、50μLのクロロホルムに再溶解した。0.5mLの14%三フッ化ホウ素溶液(SIGMA社製)を添加し撹拌した後に、80℃にて30分間恒温した。その後、ヘキサン0.5mL、飽和食塩水0.5mLを添加し激しく撹拌し、室温にて10分間放置後、上層であるヘキサン層を回収して脂肪酸エステルを得た。
【0116】
得られた脂肪酸エステルをガスクロマトグラフィー解析に供した。測定条件を以下に示す。
<ガスクロマトグラフィー条件>
分析装置:7890A (Agilent technology)
キャピラリーカラム:DB-1 MS 30m×200μm×0.25μm(J&W Scientific)
移動相:高純度ヘリウム
オーブン温度:150℃ 保持 0.5分 →150~220℃(40℃/min昇温)→220~320℃(20℃/min 昇温)→320℃ 保持 2分(ポストラン 2分)
注入口温度:300℃
注入方法:スプリット注入(スプリット比:75:1)
注入量:1μL
洗浄バイアル:メタノール・クロロホルム
検出方法:FID
検出器温度:300℃
【0117】
また、脂肪酸メチルエステルの同定は、各種脂肪酸メチルエステル標品を同条件にてガスクロマトグラフィーに供し、そのリテンションタイムを比較することにより行った。また、必要に応じてガスクロマトグラフ質量分析解析による同定を行った。
ガスクロマトグラフィー解析により得られた波形データのピーク面積より、各脂肪酸のメチルエステル量を定量した。各ピーク面積を、内部標準由来のC17脂肪酸メチルエステルのピーク面積と比較することで試料間の補正を行い、培養液1リットルあたりの各脂肪酸量を算出した。さらに、各脂肪酸量の総和を総脂肪酸量とし、総脂肪酸量に占める各脂肪酸量の重量割合を算出した。なお、本実施例でいう「総脂肪酸量」とは、C12:0量、C14:0量、C16:1量、C16:0量、C18:n量、C20:n量の合計を意味し、「Cx:n」は、炭素原子数がxで、二重結合数が0~5の脂肪酸の総和を示す。
【0118】
結果を表3~7に示す。なお、以下の表において野生株は「WT」と記載し、形質転換体は導入した各CBB回路遺伝子の名称で記載した。総脂肪酸量(表中の「TFA yield」)は独立ラインの平均値±標準偏差の形式で表示した。また、表に記載の日数は培養日数を示す。
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
【表5】
【0122】
【表6】
【0123】
【表7】
【0124】
表3~7から明らかなように、ナンノクロロプシスにおいて1種類のCBB回路遺伝子の発現を促進した形質転換体では、脂肪酸の生産性の大幅な向上は見られなかった。TK1遺伝子の発現を促進した形質転換体(表3「TK1」)では生産性がわずかに向上する傾向が見られたものの、大幅な向上には至らなかった。
いくつかの植物や藻類において、SBP遺伝子の発現を促進することで光合成活性や生育等が増加することが知られているが(非特許文献1、2)、ナンノクロロプシスにおいてナンノクロロプシス由来SBPの発現を促進した形質転換体(表6「SBP1」)では脂肪酸の生産性が大幅に低下していた。この形質転換体では生育(細胞数、濁度)も低下していた。また、シアノバクテリア由来のbifunctional FBP/SBP遺伝子を導入することで、いくつかの植物やシアノバクテリアの光合成活性・生育等が向上するという知見も存在するが(非特許文献3)、ナンノクロロプシスにおいてはSeFBP/SBP遺伝子(ナンノクロロプシス内で機能する葉緑体移行シグナル配列と連結)を導入しても脂肪酸生産性の向上は見られなかった(表7「SeFBP/SBP」)。
【0125】
実施例1 複数種類のCBB回路遺伝子をナンノクロロプシスに導入した形質転換体の作製、及び形質転換体による脂質の生産
(1)複数のCBB回路遺伝子の発現用プラスミドの構築
比較例1で構築したFBA2遺伝子発現用プラスミド、TK1遺伝子発現用プラスミドをそれぞれ鋳型として、表1に示す配列番号47及び配列番号37のプライマー対、また表2に示す配列番号63及び配列番号64のプライマー対を用いてPCRを行った。また、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株のゲノムを鋳型として、表1に示す配列番号43及び配列番号44のプライマー対、配列番号45及び配列番号46のプライマー対を用いたPCRを行い、GSプロモーター断片(配列番号22)およびLDSPターミネーター断片(配列番号23)を取得した。これら4個の断片を、比較例1と同様の方法にて融合し、TK1遺伝子及びFBA2遺伝子発現用プラスミドを構築した。なお、本発現プラスミドはGSプロモーター配列、TK1遺伝子、LDSPターミネーター配列、LDSPプロモーター配列、FBA2遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター配列の順で連結したインサート配列とpUC19ベクター配列からなる。
得られたTK1遺伝子及びFBA2遺伝子発現用プラスミド、及び比較例1で構築したRPI遺伝子発現用プラスミドをそれぞれ鋳型として、表1に示す配列番号52及び配列番号37のプライマー対、また表2に示す配列番号65及び配列番号66のプライマー対、を用いてPCRを行った。また、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株のゲノムを鋳型として、表1に示す配列番号48及び配列番号49のプライマー対、配列番号50及び配列番号51のプライマー対を用いたPCRを行い、AMTプロモーター断片(配列番号24)およびΔ9デサチュラーゼ(Δ9DES)ターミネーター断片(配列番号25)を取得した。
【0126】
これら4個の断片を、比較例1と同様の方法にて融合し、RPI遺伝子、TK1遺伝子及びFBA2遺伝子発現用プラスミドを構築した。なお、本発現プラスミドはAMTプロモーター配列、RPI遺伝子、Δ9DESターミネーター、GSプロモーター配列、TK1遺伝子、LDSPターミネーター配列、LDSPプロモーター配列、FBA2遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター配列の順で連結したインサート配列とpUC19ベクター配列からなる。
【0127】
得られたRPI遺伝子、TK1遺伝子及びFBA2遺伝子発現用プラスミドを鋳型として、表1に示す配列番号54及び配列番号56のプライマー対、配列番号55及び配列番号56のプライマー対を用いたPCRをそれぞれ行い、「TK1遺伝子及びFBA2遺伝子発現用カセット」及び「RPI遺伝子、TK1遺伝子及びFBA2遺伝子発現用カセット」をそれぞれ取得した。
得られた増幅断片を比較例1と同様の方法にて精製し、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株にエレクトロポレーションにより導入した。比較例1と同様の方法にて形質転換体の選抜を行った。
【0128】
(2)形質転換体による脂肪酸の生産、脂質の抽出及び構成脂肪酸の分析
選抜した株を、比較例1と同様の方法で前々培養、前培養、本培養に供した。また、光強度を約300μmol/m2/sにした強光条件でも同様に培養を行った(前培養から強光条件で培養)。なお、陰性対照として、野生株及び比較例1で作製したTK1遺伝子導入株、FBA2遺伝子導入株についても同様の実験を行った。野生株はN=2で、形質転換体は独立した4ラインについて培養を行った。
【0129】
得られた培養液を用いて、比較例1と同様の方法にて脂質の抽出及び構成脂肪酸の分析を行った。通常の光条件での総脂肪酸量を表8に、強光条件での総脂肪酸量を表9に示す。また、通常の光条件での培養21日目における脂肪酸組成を表10に、強光条件での培養21日目における脂肪酸組成を表11に示す。脂肪酸組成(表中「FA composition」)は総脂肪酸の重量に対する各脂肪酸種の重量比で示した。「Cx:y」は、炭素原子数がxで二重結合数がyの脂肪酸を表す。また「Cx:n」は、炭素原子数がxで、二重結合数が0~5の脂肪酸の総和を示す。さらに、通常の光条件でのOD750を表12に、強光条件でのOD750を表13に示す。

【0130】
【表8】
【0131】
【表9】
【0132】
【表10】
【0133】
【表11】
【0134】
【表12】
【0135】
【表13】
【0136】
表8から明らかなように、TK1遺伝子及びFBA2遺伝子を導入した形質転換体(表8「TK1-FBA2」)(以下、「TK1-FBA2株」ともいう)は野生株やFBA2遺伝子導入株(表中「FBA2」)、TK1遺伝子導入株(表中「TK1」)と比較して、脂肪酸生産性が大幅に向上していた。また、表9から明らかなように、強光条件においては、FBA2遺伝子導入株やTK1遺伝子導入株は野生株よりも低い生産性を示すにも拘らず、TK1-FBA2株は野生株よりも非常に高い生産性を示した。さらに、強光条件において、RPI遺伝子、TK1遺伝子及びFBA2遺伝子を導入した形質転換体(表9「RPI-TK1-FBA2」)(以下、「RPI-TK1-FBA2株」ともいう)は、より一層生産性が向上していた。
表10及び表11から明らかなように、TK1-FBA2株及びRPI-TK1-FBA2株は、野生株やFBA2遺伝子導入株、TK1遺伝子導入株と比較して、C16:0脂肪酸の割合が有意に向上していた。
表12及び表13から明らかなように、TK1-FBA2株及びRPI-TK1-FBA2株は、野生株やFBA2遺伝子導入株、TK1遺伝子導入株と比較してOD750が増加する傾向が見られた。微細藻類において、培養液の濁度(OD750)は藻体の乾燥重量に相関することが知られることから、TK1-FBA2株及びRPI-TK1-FBA2株は、野生株やFBA2遺伝子導入株、TK1遺伝子導入株と比較して乾燥重量が増加していると推測され、光合成能が向上していると考えられた。
【0137】
これらの結果より、ナンノクロロプシスにおいてTK1及びFBA2の発現を促進することで光合成活性を向上させ、また脂肪酸の生産量を向上させられることが示唆された。さらに、RPIの発現も促進することで、(特に強光条件において)向上効果がさらに増加することが示唆された。
【0138】
実施例2 CBB回路遺伝子及びTAG合成経路遺伝子を導入したナンノクロロプシスの形質転換体の作製、及び形質転換体による脂質の生産、脂質の抽出及び脂肪酸の解析
(1)TAG合成経路遺伝子導入株の作製、脂質の解析
比較例1で調製したナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株のcDNAを鋳型として、表2に示す配列番号67及び配列番号68のプライマー対、配列番号69及び配列番号70のプライマー対、配列番号71及び配列番号72のプライマー対を用いたPCRを行い、DGAT遺伝子(配列番号10)、LACS遺伝子(配列番号12)、TE遺伝子(配列番号14)断片をそれぞれ増幅した。比較例1及び実施例1と同様の方法にて、DGAT遺伝子及びLACS遺伝子発現用プラスミド、並びにTE遺伝子発現用プラスミド、をそれぞれ構築した。なお、DGAT遺伝子及びLACS遺伝子発現用プラスミドはGSプロモーター配列、DGAT遺伝子、LDSPターミネーター配列、LDSPプロモーター配列、LACS遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター配列の順で連結したインサート配列とpUC19ベクター配列からなり、TE遺伝子発現用プラスミドはLDSPプロモーター配列、TE遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター配列の順で連結したインサート配列とpUC19ベクター配列からなる。
構築したTE遺伝子発現用プラスミドを鋳型として、表1に示す配列番号33及び配列番号34のプライマー対を用いてPCRを行った。また、パロモマイシン耐性遺伝子(配列番号16)を人工合成した。合成したパロモマイシン耐性遺伝子のDNA断片を鋳型として、表1に示す配列番号28及び配列番号29のプライマー対を用いてPCRを行った。これら2つの断片を比較例1と同様の方法にて融合し、TE遺伝子発現用プラスミド(パロモマイシン耐性)を構築した。なお、本発現用プラスミドはLDSPプロモーター配列、TE遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、パロモマイシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター配列の順で連結したインサート配列とpUC19ベクター配列からなる。
【0139】
DGAT遺伝子及びLACS遺伝子発現用プラスミドを鋳型として、表1に示す配列番号54及び配列番号56のプライマー対を用いたPCRを行い、「DGAT遺伝子及びLACS遺伝子発現用カセット」を取得した。
得られた増幅断片を比較例1と同様の方法にて精製し、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株にエレクトロポレーションにより導入した。比較例1と同様の方法にて形質転換体の選抜を行った。
【0140】
TE遺伝子発現用プラスミド(パロモマイシン耐性)を鋳型として、表1に示す配列番号53及び配列番号56のプライマー対を用いたPCRを行い、「TE遺伝子発現用カセット」を取得した。
得られた増幅断片を比較例1と同様の方法にて精製し、DGAT遺伝子及びLACS2遺伝子導入株(以下、「DGAT-LACS株」ともいう)にエレクトロポレーションにより導入した。比較例1と同様の方法にて回復培養を行った後、2μg/mLのゼオシン及び100μg/mLのパロモマイシン含有f/2寒天培地に塗布し、25℃、0.3%CO雰囲気下、12h/12h明暗条件にて2~3週間培養した。比較例1と同様の方法にて形質転換体の選抜を行い、培養・脂質の解析を行った。
【0141】
結果を表14及び表15に示す。なお、野生株についてはN=1で、DGAT-LACS株についてはN=2で、TE遺伝子、DGAT遺伝子及びLACS遺伝子導入株(以下、「TE on DGAT-LACS株」ともいう)については独立6ラインについて評価を行った。
【0142】
【表14】
【0143】
【表15】
【0144】
表14から明らかなように、DGAT-LACS株及びTE on DGAT-LACS株は野生株と比較して脂肪酸の生産性が向上していた。また、表15から明らかなように、DGAT-LACS株及びTE on DGAT-LACS株は野生株と比較してC16:0脂肪酸の割合が増加していた。
【0145】
(2)CBB回路遺伝子及びTAG合成経路遺伝子導入株の作製、脂質の解析
実施例1で構築したRPI遺伝子、TK1遺伝子及びFBA2遺伝子発現用プラスミドを鋳型として、表1に示す配列番号33及び配列番号34のプライマー対を用いてPCRを行った。また、ハイグロマイシン耐性遺伝子(配列番号17)を人工合成した。合成したハイグロマイシン耐性遺伝子のDNA断片を鋳型として、表1に示す配列番号30及び配列番号31のプライマー対を用いてPCRを行った。これら2つの断片を比較例1と同様の方法にて融合し、RPI遺伝子、TK1遺伝子及びFBA2遺伝子発現用プラスミド(ハイグロマイシン耐性)を構築した。なお、本発現用プラスミドは、AMTプロモーター配列、RPI遺伝子、Δ9DESターミネーター、GSプロモーター配列、TK1遺伝子、LDSPターミネーター配列、LDSPプロモーター配列、FBA2遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター配列の順で連結したインサート配列とpUC19ベクター配列からなる。
【0146】
得られたRPI遺伝子、TK1遺伝子及びFBA2遺伝子発現用プラスミド(ハイグロマイシン耐性)を鋳型として、表1に示す配列番号53及び配列番号56のプライマー対、配列番号54及び配列番号56のプライマー対、配列番号55及び配列番号56のプライマー対を用いたPCRをそれぞれ行い、「FBA2遺伝子発現用カセット(ハイグロマイシン耐性)」「TK1遺伝子及びFBA2遺伝子発現用カセット(ハイグロマイシン耐性)」及び「RPI遺伝子、TK1遺伝子及びFBA2遺伝子発現用カセット(ハイグロマイシン耐性)」をそれぞれ取得した。
得られた増幅断片を比較例1と同様の方法にて精製し、TE on DGAT-LACS株に、精製した断片をエレクトロポレーションにより導入した。比較例1と同様の方法にて回復培養を行った後、500μg/mLのハイグロマイシン含有f/2寒天培地に塗布し、25℃、0.3%CO雰囲気下、12h/12h明暗条件にて2~3週間培養した。比較例1と同様の方法にて形質転換体の選抜を行った。
【0147】
選抜した株を、実施例1と同様の方法にて培養した(通常の光条件及び強光条件)。培養液を経時的にサンプリングし、比較例1と同様の方法にて脂質の抽出・解析を行った。通常の光条件における総脂肪酸量の結果を表16に、強光条件における総脂肪酸量の結果を表17に、通常の光条件における脂肪酸組成の結果を表18に、強光条件における脂肪酸組成の結果を表19にそれぞれ示す。なお、野生株及びTE on DGAT-LACS株についてはN=2で、CBB回路遺伝子及びTAG合成経路遺伝子導入株については独立した4ラインについて培養を行った。
【0148】
【表16】
【0149】
【表17】
【0150】
【表18】
【0151】
【表19】
【0152】
表16、17から明らかなように、TAG合成経路遺伝子に加えてFBA2遺伝子のみを導入した株(表中「FBA2 on TE on DGAT-LACS」)では脂肪酸生産性の向上が見られず、強光条件ではむしろ低下することが分かった。しかし、TAG合成経路遺伝子に加えてFBA2遺伝子及びTK1遺伝子を導入した株(表中「TK1-FBA2 on TE on DGAT-LACS」)は、野生株及びTE on DGAT-LACS株と比較して脂肪酸生産性が大幅に向上していた。TK1遺伝子、FBA2遺伝子に加えさらにRPI遺伝子を導入した株(表中「RPI-TK1-FBA2 on TE on DGAT-LACS」)では、強光条件における生産性がより一層向上していた。
また、表18、19から明らかなように、TK1-FBA2 on TE on DGAT-LACS株やRPI-TK1-FBA2 on TE on DGAT-LACS株は、野生株及びTE on DGAT-LACS株と比較してC16:0脂肪酸の割合が有意に増加していた。
これらの結果から、TAG合成経路遺伝子に加え、TK1遺伝子及びFBA2遺伝子の発現を促進することで光合成活性がさらに向上し、脂肪酸の生産量をより一層向上することが示唆された。また、RPI遺伝子の発現も促進することで、(特に強光条件において)向上効果がさらに増加することが示唆された。
【0153】
以上のように、TKとFBAの発現を促進させることで、光合成能が向上しており、かつ脂質の生産性が向上した形質転換体が得ることができる。よって、この形質転換体を用いることで、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させる、脂質の製造方法を提供することができる。
【配列表】
2024020570000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2023-12-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類由来のトランスケトラーゼ及びフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをそれぞれコードする遺伝子を含有する組換えベクター、又は当該遺伝子を含有する組換えカセットを含んでなる、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類の形質転換体。
【請求項2】
前記トランスケトラーゼが下記タンパク質(A)又は(B)であり、前記フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼが下記タンパク質(C)又は(D)である、請求項記載の形質転換体。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつトランスケトラーゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項3】
前記藻類の形質転換体において、リボース-5-リン酸イソメラーゼ、アシル-ACPチオエステラーゼ、アシル-CoAシンテターゼ、アシル基転移酵素から選ばれる少なくとも1個以上のタンパク質をコードする遺伝子の発現促進されている、請求項1又は2に記載の形質転換体。
【請求項4】
前記各遺伝子の発現用プロモーターが、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属由来のオレオシン様タンパク遺伝子のプロモーター、アシルキャリアープロテイン遺伝子のプロモーター、デサチュラーゼ遺伝子のプロモーター、アシル基転移酵素遺伝子のプロモーター、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属由来のグルタミン合成酵素遺伝子のプロモーター、又はナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属由来のアンモニウムトランスポーター遺伝子のプロモーターである、請求項1~3のいずれか1項に記載の形質転換体。
【請求項5】
ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類に、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類由来のトランスケトラーゼ及びフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをそれぞれコードする遺伝子を導入して形質転換体を得ることを含む、形質転換体の製造方法。
【請求項6】
ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類に、前記トランスケトラーゼ及び前記フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをそれぞれコードする遺伝子を含有する組換えベクター、又は前記トランスケトラーゼ及び前記フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをそれぞれコードする遺伝子を含有する組換えカセットを導入することを含む、請求項5記載の形質転換体の製造方法。
【請求項7】
前記トランスケトラーゼが下記タンパク質(A)又は(B)であり、前記フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼが下記タンパク質(C)又は(D)である、請求項5又は6記載の形質転換体の製造方法。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつトランスケトラーゼ活性を有するタンパク質。
(C)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項8】
前記形質転換体に、さらにリボース-5-リン酸イソメラーゼ遺伝子、アシル-ACPチオエステラーゼ遺伝子、アシル-CoAシンテターゼ遺伝子、アシル基転移酵素遺伝子から選ばれる少なくとも1個以上のタンパク質をコードする遺伝子を含有する組換えベクター、又は当該タンパク質をコードする遺伝子を含有する組換えカセットを導入することを含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の形質転換体の製造方法。
【請求項9】
前記各遺伝子の発現用プロモーターとして、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属由来のオレオシン様タンパク遺伝子のプロモーター、アシルキャリアープロテイン遺伝子のプロモーター、デサチュラーゼ遺伝子のプロモーター、アシル基転移酵素遺伝子のプロモーター、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属由来のグルタミン合成酵素遺伝子のプロモーター、又はナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属由来のアンモニウムトランスポーター遺伝子のプロモーターを用いる、請求項5~8のいずれか1項に記載の形質転換体の製造方法。